説明

ガス拡散層基材の裁断方法

【課題】固体高分子電解質型燃料電池に用いられるガス拡散層の作成に当たって、カーボン繊維で形成されたガス拡散層基材を裁断する際に、遊離繊維の発生を抑制する。
【解決手段】カーボン繊維で形成されたガス拡散層基材20を裁断してガス拡散層を作製する際に使用する裁断刃として、先端の断面形状が曲線形状の裁断刃10とし、かつ該裁断刃10の先端の曲線形状が半径0.3μm〜0.5μmの略円弧状のものを用いて、ガス拡散層基材20を裁断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質型燃料電池に用いられるガス拡散層を作製するためのガス拡散層基材の裁断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガスとしての水素と酸化ガスとしての酸素との電気化学反応によって発電する装置である。なお、以下では、燃料ガスや酸化ガスを、特に区別することなく単に「反応ガス」あるいは「ガス」と呼ぶ場合もある。燃料電池は、通常、燃料電池セルを、セパレータを介して複数個積層して構成される。1つの燃料電池セルは、プロトン(H+)伝導性を有する固体高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」とも呼ぶ)の両面に触媒電極層(以下、単に「触媒層」とも呼ぶ)およびガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)を接合した構造体により構成される場合が多い。なお、この構造体は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)、あるいは、膜電極ガス拡散層接合体(MEGA:Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)と呼ばれる。
【0003】
ガス拡散層は、通常、カーボンペーパーやカーボンクロスなどのカーボン繊維で形成されたガス拡散層基材に切断刃(裁断刃)の先端を差し込んで切断(裁断)することにより作製される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−258097号公報
【特許文献2】特開2005−149803号公報
【特許文献3】特開2010−161039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法によりガス拡散層を作製した場合、作製したガス拡散層の裁断面に突起上の繊維(以下、「遊離繊維」と呼ぶ)が発生する場合がある。この遊離繊維が発生したガス拡散層を用いて作製したMEAでは、触媒電極層や電解質膜に遊離繊維が突き刺さって微小短絡が発生することにより、リーク電流が発生する場合がある。このリーク電流は遊離繊維の突き刺さりが深いほど大きくなる傾向にある。そのため、リーク電流が大きいMEAを用いた燃料電池セルは、リーク電流が小さいMEAを用いた燃料電池セルに比べて、発電性能の低下を招く。また、発電中においてガスのクロスオーバーがより早く増加する傾向にあり、リーク電流が0.4mA/cm2以上では、燃料電池の耐用年数として十分な長さを確保することができないこともわかっている。
【0006】
そこで、本発明は、カーボン繊維で形成されたガス拡散層基材を裁断してガス拡散層を作製する際に、遊離繊維の発生を抑制することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
カーボン繊維で形成されたガス拡散層基材を裁断してガス拡散層を作製するための裁断方法であって、
先端の断面形状が曲線形状の裁断刃を用いて、前記ガス拡散層基材を裁断する、裁断方法。
適用例1の裁断方法によれば、裁断面のカーボン繊維の引っ掛かりを抑制することができるので、裁断面から突起したカーボン繊維(遊離繊維)の発生を抑制することが可能である。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載の裁断方法であって、
前記裁断刃の曲線形状は半径が0.3μm〜0.5μmの略円弧状である、裁断方法。
この場合には、遊離繊維の発生の抑制の効果が高い。
【0010】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ガス拡散層を作製するための裁断方法だけでなく、この裁断方法を含む膜電極接合体の製造方法、この膜電極接合体の製造方法を含む燃料電池の製造方法等の種々の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態としてのガス拡散層基材の裁断方法を示す説明図である。
【図2】第2実施形態としてのガス拡散層基材の裁断方法を示す説明図である。
【図3】実施形態の裁断方法による実施例のガス拡散層を用いた膜電極接合体と比較例の裁断方法によるガス拡散層を用いた膜電極接合体のリーク電流について比較して示す表である。
【図4】実施形態の裁断方法によるガス拡散層の裁断面および比較例の裁断方法によるガス拡散層の裁断面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態及び実施例を以下の順序で説明する。
A.第1実施形態:
B.第2実施形態:
C.実施例:
D.変形例:
【0013】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態としてのガス拡散層基材の裁断方法を示す説明図である。本実施形態の裁断方法は、図1(A)に示すように、カーボンペーパーやカーボンクロス等のカーボン繊維で形成されたガス拡散層基材20を、裁断刃10を用いて押し切る裁断方法である。具体的には、裁断刃10として、図1(B)に示すように、先端(刃先)の断面形状として半径が0.3μm〜0.5μmの略円弧形状を有するものを用い、裁断刃10の中心線(一点鎖線で示す)がガス拡散層基材20の面に対して垂直となるようにし、図1(A)に示すように押し切るものである。なお、先端の断面形状を半径が0.3μm〜0.5μmの曲線形状とするには、裁断刃の刃先を研ぐ際に、砥石の面に対して裁断刃の中心線が垂直となるように当てて研げばよい。
【0014】
B.第2実施形態:
図2は、第2実施形態としてのガス拡散層基材の裁断方法を示す説明図である。本実施形態の裁断方法は、図2に示すように、ガス拡散層基材20を、裁断刃10Aを用いて引き切る裁断方法である。具体的には、裁断刃10Aとして、第1実施形態で用いた裁断刃10と同様に、先端(刃先)の断面形状として半径が0.3μm〜0.5μmの略円弧状を有するものを用い、裁断刃10Aの中心線(一点鎖線で示す)がガス拡散層基材20の面に対して垂直となるようにして、図2に示すように引き切るものである。
【0015】
C.実施例:
図3は、実施形態の裁断方法による実施例のガス拡散層を用いた膜電極接合体と比較例の裁断方法によるガス拡散層を用いた膜電極接合体のリーク電流について比較して示す表である。また、図4は、実施形態の裁断方法によるガス拡散層の裁断面および比較例の裁断方法によるガス拡散層の裁断面を示す説明図である。実施例1は第1実施形態の裁断方法によるガス拡散層を用いた例であり、実施例2は第2実施形態の裁断方法によるガス拡散層を用いた例である。また比較例1は、第1実施形態とは異なる先端形状の裁断刃を用いて、第1実施形態と同様に押し切りした場合のガス拡散層を用いた例である。比較例2は、第2実施形態とは異なる先端形状(刃先形状)の裁断刃を用いて、第2実施形態と同様に引き切りした場合のガス拡散層を用いた例である。
【0016】
<実施例1>
実施例1は、まず、第1実施形態の裁断方法を用いて、ガス拡散層基材を裁断してガス拡散層を作製した。そして、固体高分子電解質膜の両面に触媒電極層が接合された触媒被覆膜(CCM:Catalyst Coated Membrane)を用意し、用意したCCMの両面に作製したガス拡散層を接合させて実施例1の膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を作製した。CCMは、例えば、電解質膜の一方の面にカソード側の触媒層用ペーストを塗布し、他方の面にアノード側の触媒層用ペーストを塗布することによって作製したものを用いることができる。触媒層用ペーストは、触媒担持カーボンおよび触媒混合電解質を混合することにより作製される。電解質膜としては、Dupon社製のNafion NR211を用いた。触媒混合電解質としては、Dupon社製のNafion DE2020を用いた。カソード側の触媒担持カーボンとしては、田中貴金属工業社製のTEC35E51を用い、アノード側の触媒担持カーボンとしては、田中貴金属工業社製のTEC10E30Eを用いた。
【0017】
<実施例2>
実施例2は、まず、第2実施形態の裁断方法を用いて、ガス拡散層基材を裁断してガス拡散層を作製した。そして、実施例1と同じCCMを用意し、用意したCCMの両面に作製したガス拡散層を接合させて実施例2のMEAを作製した。
【0018】
<比較例1>
比較例1は、まず、先端の断面形状として半径が0.2μm未満の裁断刃を用いて、第1実施形態と同様の裁断方法で、ガス拡散層基材を裁断してガス拡散層を作製した。そして、実施例1と同じCCMを用意し、用意したCCMの両面に作製したガス拡散層を接合させて比較例1のMEAを作製した。なお、先端の断面形状として半径が0.2μm未満の裁断刃は、通常刃先を研ぐ場合と同様に、すなわち、砥石の面に対する裁断刃の中心線の角度が直角よりも小さくなるように当てて研いだ。
【0019】
<比較例2>
比較例2は、比較例1と同様の裁断刃を用い、第2実施形態と同様の裁断方法で、ガス拡散層基材を裁断してガス拡散層を作製した。そして、実施例1と同じCCMを用意し、用意したCCMの両面に作製したガス拡散層を接合させて比較例2のMEAを作製した。
【0020】
比較例1および比較例2で用いたガス拡散層の裁断面は、図4(C)および図4(D)に示すように遊離繊維が飛び出している。このため、これらのガス拡散層を用いたMEAのリーク電流は図3に示すように0.54mA/cm2および0.58mA/cm2となっており、0.4mA/cm2よりも大きく、耐用年数として十分な長さを確保できない。
【0021】
一方、実施例1および実施例2で用いたガス拡散層の裁断面は、図4(A)および図4(B)に示すように遊離繊維が飛び出していない。このため、これらのガス拡散層を用いたMEAのリーク電流は図3に示すように0.1mA/cm2および0.09mA/cm2と小さく、耐用年数の面で有効であることがわかる。従って、上記第1実施形態および第2実施形態の裁断方法によれば、ガス拡散層基材を裁断してガス拡散層を作製する際に、遊離繊維の発生を抑制することが可能であり、耐用年数を確保する点で有効である。
【0022】
D.変形例:
なお、上記実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0023】
裁断刃の先端の断面形状は、単一の半径を有する曲線形状に限定されるものではなく、0.3μm〜0.5μmの範囲の複数の半径の略円弧形状がなめらかに組み合わされた形状であってもよい。
【0024】
裁断刃の先端(刃先)以外の形状については、特に規定するものではなく、平坦な形状であっても、蛤刃のような曲面形状であってもよい。
【符号の説明】
【0025】
10…裁断刃
10A…裁断刃
20…ガス拡散層基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン繊維で形成されたガス拡散層基材を裁断してガス拡散層を作製するための裁断方法であって、
先端の断面形状が曲線形状の裁断刃を用いて、前記ガス拡散層基材を裁断する、裁断方法。
【請求項2】
請求項1記載の裁断方法であって、
前記裁断刃の曲線形状は半径が0.3μm〜0.5μmの略円弧状である、裁断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−226897(P2012−226897A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91902(P2011−91902)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】