説明

ガス拡散材料のための構造及びその製造方法

本発明は、ガス拡散電極及びガス拡散層のための改善された構造からなる(多孔度と疎水性のファイン勾配が、これらのコンポーネントで構築された膜電極アセンブリーの効率的なガス輸送、水除去及び全体的に高められた性能を促進する)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的用途のためのガス拡散電極及びガス拡散電極バッキングのようなガス拡散構造、並びに、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス拡散構造は、より一層、燃料電池及び電気分解装置のような電気化学用途において、特にセパレータ及び/又は電解質としてイオン交換膜を利用する用途において使用されている。ガス拡散構造(「ガスディフューザ」とも称される)は、通常、支持体として機能するウェブとその片側又は両側に塗布されたコーティング層からなる。コーティング層は幾つかの機能を有するが、その中で最も重要な機能は、水及びガス輸送のためのチャネルを提供すること及び電流を伝導することである。コーティング層、とりわけ最外層のものは、特にそれらがイオン交換膜と直接接触して使用される場合、電気化学反応を触媒する及び/又はイオン伝導を提供するといった付加的機能も有し得る。ほとんどの用途にとって、電流伝導層でコーティングされた多孔度電流伝導ウェブ(例えば、カーボンクロス、カーボンペーパー又は金属メッシュ)を有することが望ましい。水又はガス輸送のためのチャネルが、異なる疎水性及び多孔度により特徴付けられる分離チャネルであることも望ましい。
【0003】
当該分野において、ガスディフューザは、異なる特徴を有する2種の異なる層(内及び外コーティング層)を有利に備え得ることが知られている:例えば、US6,017,650は、膜燃料電池における使用のためのより親水性の触媒層でコーティングされた高疎水性ガスディフューザの使用を開示している。US6,103,077は、工業的コーティングマシーンを用いて、このようなタイプのガス拡散電極及び電極バッキングを自動製造するための方法を開示している。前述の文献において、コーティング層は、カーボン粒子及び疎水性バインダー(例えば、PTFE)の混合物によって構成されており、個々の特徴を有する拡散性及び触媒性層を得るための方法は、異なる相対量のカーボンとバインダー材料の使用及び/又はこの2層における2つの異なるタイプのカーボンの使用を包含する。また、異なる多孔度を有する2種の層を備えるガスディフューザが、当該分野において知られている:DE19840517は、例えば、異なる多孔度を有する2種のサブ構造からなる2層構造を開示している。驚くべきことに、より高い多孔度及びガス透過率を有する層が、膜と接触している層であり、一方、より低い多孔度及び透過性の層が、ウェブと接触している層である。実際、所望の多孔度勾配は膜と接触している層に低い透過性の構造を与えるはずである、という一般的理解が存在している(例えば、WO00/38261の触媒層に関して開示される)。このような場合、多孔度勾配は、ガスディフューザ構造において得られず、イオン交換膜と直接接触している非常に薄い触媒親水性層においてのみ得られるが、より低い多孔度形状が、膜電解質に連結されなければならないガス供給電極構造(gas−fed electrode structure)の側に望ましいという一般的理解は、当該分野において常識と考えられ得る。
【0004】
このようなタイプの2層ガス拡散構造は、ほとんどの用途において十分な性能を示す;しかしながら、先行技術のガス拡散構造が、十分な程度までガス及び水輸送要求を満足していない幾つかの重要な用途が存在する。
【0005】
特に重要な用途は、例えば、比較的高温(100℃に近い又は100℃より高い)で作動する膜燃料電池及び酸素減極される塩酸水電解装置(特に、高電流密度で作動する場合、又は、純粋な酸素の代わりに空気又は他の減損酸素含有混合物(depleted oxygen−containing mixtures)で減極される場合)が挙げられる。これらの場合、最適なガス輸送及び水マネージメントは、単純な2層ガス拡散構造を用いて達成されない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、先行技術の制限及び欠点を克服することを可能にする改善されたガス拡散構造、並びに、これを利用する電気化学セルを提供する目的を有する。
【0007】
他の局面において、本発明は、先行技術の制限及び欠点を克服するガス拡散構造を製造するための方法を提供する目的を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
最初の局面において、本発明は、ウェブに多層コーティングを備え、該コーティングが全厚みに渡って多孔度(porosity)と疎水性(hydrophobicity)のファイン勾配(fine gradient)を有している、ガスディフューザ(gas diffuser)に関する。ファイン勾配によって、関連パラメータの単調且つ実質的に規則的なバリエーションが意図される。
【0009】
他の局面において、本発明は、全厚みに渡って多孔度と疎水性のファイン勾配を有する多層コーティングが備えられたガスディフューザを備える、電気化学セル(例えば、膜燃料電池又は電解セル)に関する。
【0010】
最後の局面において、本発明は、全厚みに渡って多孔度と疎水性のファイン勾配を有する多層コーティングが備えられたガスディフューザを製造する方法に関する。
【0011】
これら及び他の局面は、以下の記載(その唯一の目的は、本発明の限定を構成することなく、本発明の代表的な実施形態を説明することである)を考慮し、当業者に明らかになるであろう。
【0012】
前述したとおり、先行技術のガス拡散電極は、いつも、2つの明確に異なる領域における2つの別々の機能を奏する二重構造として描かれている:触媒粒子上での三相反応の促進に向けられ、イオン及び電子伝導が提供される拡張されたインターフェイス及びそれゆえ顕著な親水性を必要とする、膜に接触している活性触媒領域、並びに、ガス拡散に向けられ且つ孔を通るガス輸送を促進するための強力な疎水特性を有する領域。本発明者らは、このガス拡散電極構造に渡って存在する(across)疎水性の急なステップの代わりに、ガスディフューザの全構造に渡って疎水性のファイン勾配を提供することが驚くほど有利であることを見出した。ガスディフューザ構造は、さらに、活性な又は触媒された外層を備えてもよい;しかしながら、最も好ましい実施形態において、触媒された層の物理的特性は、残りの構造との著しい不連続性をもたらさず、疎水性勾配がむしろ全構造に渡って確立され且つ活性化されたゾーンにも拡張している。さらに、本発明の十分な特性を利用するために、多孔度ファイン勾配は、支持ウェブに直接接触しているコーティング層により大きい孔及び触媒された部分を含み得る反対表面により小さい孔を有して全ガス拡散構造に渡って確立されてもよい。代替的実施形態において、本発明のガス拡散構造は、その厚みの方向において滑らかな多孔度と疎水性の勾配を有する触媒されていない部分、並びに、その厚みの方向において別個の多孔度と疎水性のファイン勾配を好ましくは有する重ね合わされた触媒部分を備える。以下の例において、複数のパス(passes)において、ウェブの片側をコーティングすることによって本発明のガスディフューザが得られ得ることが示されるであろう;しかしながら、支持ウェブを全構造内に埋め込む複数のパス(passes)においてウェブの両側をコーティングすることによって、疎水性と多孔度のファイン勾配を有するガス拡散構造を得ることもまた可能である。同時に存在する疎水性と多孔度のファイン勾配をウェブ上で達成する幾つかの可能な方法が存在するが、その全てが自動コーターを用いて行なわれる工業生産に適するものとは限らない。こういう理由で、幾つかの好ましい実施形態を、本発明を実施するベストモードを示しながら、以下に記載する。1つの好ましい実施形態において、本発明のガスディフューザは、カーボンとバインダー粒子を含有するコーティングが備えられている。カーボン粒子は、本質的に、構造に電気伝導性を与えるために使用される;他のタイプの電気伝導性粒子(例えば、金属粒子)が使用されてもよいことが理解されるであろう。バインダーは、コーティングに構造特性を付与するために使用され、且つ、コーティングの疎水性/親水性特性を変化させるためにも有利に使用され得る。ポリマーバインダーはこの用途に好ましく、特に、部分的にフッ素化された又は過フッ素化された(perfluorinated)バインダー(例えば、PTFE(疎水性特性を付与することができる))又はスルホン化されたパーフルオロカルボニックアシッド(例えば、Nafion(登録商標)(親水性を付与することができる))が好ましい。1つの好ましい実施形態において、疎水性と多孔度のファイン勾配は、バインダー粒子に対するカーボンの重量比が系統的に変化された多層コーティングを提供することによって、同時に達成される;それゆえ、本発明のガスディフューザは、変更可能な数の個々のコート(代表的に3〜8)で構成され得る。コートの数が多いほど、ファイン勾配構造の観点から、得られるディフューザが良好である。しかしながら、コートの数は、現実的な理由のために、及び、より重要なことには、ガス透過性の必要とされる特性を維持するために、制限されなければならない。別の好ましい実施形態において、疎水性と多孔度のファイン勾配は、2つの異なるタイプのカーボン(グラファイト又はアセチレンブラックのようなより疎水性のカーボンとカーボンブラックのようなより親水性のカーボン)間の重量比が系統的に変化された多層コーティングを提供することによって、同時に達成される。別の好ましい実施形態において、2つの異なるタイプのカーボン間の重量比、及び、バインダー粒子に対するカーボンの重量比の両方が系統的に変化される。別の好ましい実施形態において、疎水性と多孔度のファイン勾配は、2つの異なるタイプのバインダー(PTFEのような疎水性カーボン及びNafion(登録商標)のような親水性バインダー)間の重量比が系統的に変化された多層コーティングを提供することによって同時に達成される。同時に存在する疎水性と多孔度のファイン勾配を達成するためのこれらの異なる技術の全ては、幾つかの方法で組み合わされてもよい。前述した実施形態の各々において、最後のコートのカーボン粒子は、それに支持される触媒(例えば、一般的に親水性特性を付与する貴金属触媒)を含有してもよい(触媒されたカーボン)。これは、ガスディフューザにその厚みの方向において滑らかな疎水性と多孔度の勾配が与え、更に、頂部に位置する電極触媒層が与えられることに等しい(ここで、滑らかな疎水性と多孔度の勾配は、このような電極触媒層内にも拡がっている)。しかしながら、代替的実施形態において、別々の疎水性及び多孔度勾配が、本発明のガスディフューザの触媒されていない又は触媒されている部分に存在してもよい。あまり好ましくない実施形態において、疎水性と多孔度のファイン勾配は、ディフューザの触媒されていない部分のみに拡がり、上に重なる触媒部分は、ファイン勾配を全く有さないかも知れない。
【0013】
本発明の1つの好ましい実施形態において、各層におけるカーボンに対する疎水性バインダーの重量は、0.1〜2.3に含まれる;2つの異なるタイプのカーボンが使用される場合、該2つのタイプのカーボン間の重量比は、代表的に、1:9〜9:1に含まれる。しかしながら、2を超えるタイプのカーボンが、必要とされる疎水性と多孔度のファイン勾配を達成するよう本発明のガスディフューザの構築において使用されてもよい。
【0014】
この文脈において、用語「カーボン」は、一般的な意味を有し、且つ、純粋な炭素質の粒子(未触媒カーボン)であってもよいし、他の種(例えば、金属又は金属酸化物触媒)を支持する炭素質粒子(触媒カーボン)であってもよい。
【0015】
例えば、最後のコートは、少量の疎水性未触媒カーボン、より多量の第一親水性未触媒カーボンと、高表面積を特徴とする第二親水性触媒カーボンを含有し得る。
【0016】
同様に、電極層内の勾配は、異なる触媒カーボンを含有する異なる層をコーティングすることによって達成され得る(ここで、最後のコートは、先のコートよりも親水性の触媒カーボンを有する)。
【0017】
貴金属(特に、白金族の金属)は、ほとんどの用途のためのガス拡散電極構造において最も一般的な触媒である。貴金属は、元素型又は酸化型で、必要に応じて、他の金属又は金属酸化物(特に、遷移金属又は当該分野において知られている金属酸化物)との混合物で、存在し得る。
【0018】
本発明の方法に従って、疎水性と多孔度のファイン勾配を有するガスディフューザが、系統的に変化する組成を有する複数のコートでウェブ(好ましくは電流伝導ウェブ)をコーティングすることによって好適に製造される。
【0019】
系統的に変化が与えられることによって、あるコートと次のコートとの間の変化率が一定でない場合であっても、少なくとも1のパラメータ(例えば、バインダーに対するカーボンの比、又は、2種の異なるカーボン粒子間の比)が単調な様式(即ち、常に減少する又は常に増大する)で変化することが意図される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、幾つかの実施例を用いてさらに説明されるが、これは、本発明の範囲の限定として意図されない。
【0021】
実施例1
単一のワープ対フィル比(warp−to−fill ratio of unity)を有し、1インチ当たり約25〜50ヤーン、97−99%のカーボン含量、及び、10milsの平均厚さを有するカーボンクロスを、本実施例及び次の実施例の全てのガスディフューザのための支持ウェブとして選択した。適量のShawinigan アセチレンブラック(SAB)及びVulcan XC−72上の20%Pt触媒を、超音波ホーンを用いて、別々に分散させた。生じた分散物をPTFEの水性懸濁液と混合し、異なるカーボン/バインダー懸濁液を形成した(このうち4種は、SABとPTFE(60〜10重量%のPTFE含量を有する)からなり、残りの3種は、カーボンブラック上のPt(Vulcan XC−72上の20%Pt(以下、「20%Pt/C」と示す)とPTFE(50〜10重量%のPTFE含量を有する)からなる。7種の懸濁液を連続的に手でカーボンウェブに塗布し、各コートの後に周囲空気上での乾燥工程と最後に340℃で20分間の焼結を行った。各層の組成及び比負荷量(specific load)を以下の表に示す:
【0022】
【表1】

【0023】
さらに、得られたガス拡散電極を、複数のパス(pass)における5%水性アルコール溶液からの0.71mg/cmのNafion(登録商標)でコーティングし、周囲空気で最終的な乾燥を行なった。
【0024】
Nafionは、イオン交換膜の形態で及び水性アルコール懸濁液(「液体Nafion」)として、スルホン化された過フッ素化アイオノマー材料(ionomeric materials)のクラスを示す、DuPont,USAの登録商標である。
【0025】
得られたサンプルの多孔度は、100ミクロン厚の構造に渡って5回の測定を行なうキャピラリーフローポロメトリーによってチェックしたところ、平均フローポアは35μm(20μm深さでの値)から0.08μm(100μm深さ)まで実に規則的に減少していた(次の表に示される(ガス側が0μmであり、触媒側が100μmである)):
【0026】
【表2】

【0027】
上記サンプル(「EX1」)と表される)は、多孔度と疎水性のファイン勾配の第一セットを有する非触媒部分、並びに、多孔度と疎水性のファイン勾配の異なるセットを有する触媒部分を備える、手作業コーティングされたガス拡散電極の例である。
【0028】
比較例1(COUNTEREXAMPLE 1)
2種の懸濁液のみを塗布したこと以外は、上記実施例1に記載される方法に従った。実施例1の層2に使用した懸濁液(40%PTFE、60%SAB)の4つのコートを3.5mg/cmのカバレージに達するまで重ね;これらの上に60%カーボンブラックで支持された触媒(20%Pt/C)及び40%PTFEの懸濁液の3つのコートを0.39mgPt/cmの負荷量に達するまで塗布した。得られたガス拡散電極を先の実施例のように焼結し、複数のパス(pass)における5%水性アルコール溶液からの0.65mg/cmのNafionでさらにコーティングし、周囲空気で最終的な乾燥を行なった。
【0029】
得られたサンプルの多孔度を、80ミクロン厚の構造に渡って4回の測定を行なうキャピラリーフローポロメトリーによってチェックしたところ、平均フローポアは、活性化部分に一致して起こる著しい減少を伴って、非触媒部分内で一定の挙動を示した:
【0030】
【表3】

【0031】
このサンプル(「CE1」と表される)は、多孔度と疎水性のファイン勾配を有さない2層の手作業コーティングされたガス拡散電極の例である。
【0032】
実施例2
PTFEの相対量を50%に固定した一連のカーボン/PTFE懸濁液を塗布し、カーボン組成を系統的に変動させ、上記実施例1に記載の方法に従った。3種の異なるカーボン成分を使用した、即ち:実施例1と同様のSABカーボン;そのままのVulcan XC−72カーボンブラック;触媒されたVulcan XC−72(20%Pt/C)。各層の組成及び比負荷量を以下の表に示す:
【0033】
【表4】

【0034】
得られたガス拡散電極を、先の実施例のように焼結し、複数のパス(pass)における5%水性アルコール溶液からの0.73mg/cmのNafionでさらにコーティングし、周囲空気で最終的な乾燥を行なった。
【0035】
このサンプル(「EX2」と表される)は、触媒部分を含むその厚みの全体に渡って多孔度と疎水性のファイン勾配を有する手作業でコーティングされたガス拡散電極の例である。
【0036】
実施例3
以下の層を塗布し、上記実施例1に記載の方法を繰り返した:
【0037】
【表5】

【0038】
得られたガス拡散電極を、先の実施例のように焼結し、複数のパス(pass)における5%水性アルコール溶液からの0.73mg/cmのNafionでさらにコーティングし、周囲空気で最終的な乾燥を行なった。
【0039】
このサンプル(「EX3」と表される)は、触媒部分を含むその厚みの全体に渡って多孔度と疎水性のファイン勾配を有する手作業でコーティングされたガス拡散電極の別の例である。
【0040】
比較例2(COUNTEREXAMPLE 2)
グラビア自動コーティングを使用したこと及びVulcan XC−72上の30%Pt(以下、30%Pt/C)を触媒として選択したこと以外は、比較例1のものと同等の電極を調製した。
【0041】
カーボンクロスウェブを、US6,103,077の実施例57に開示されるような100rpmで回転する12.7mm直径、250mm長のグラビアヘッドで回転して通過させた(rolled past)。グラビアヘッドは、ミックスをピックアップ及び分配するのに役立つ、表面に渡る5.3セル/cmパターンを有した。第一に、ウェブを、2m/minの速度にて、1:1(重量)のSAB:PTFEミックスでコーティングした。幾つかのコートを、コート間で空気乾燥しながら、4mg/cmの負荷量に達するまで塗布した。次いで、Vulcan XC−72上の30%Pt(PTFEとの1:1混合物)の幾つかの層を、1m/minで、コート間で乾燥しながら、0.5mgPt/cmの最終負荷量に達するまで塗布した。最終的なアセンブリを340℃で20分間焼結させ、複数のパス(pass)における5%水性アルコール溶液からの0.68mg/cmのNafionでコーティングした。
【0042】
このサンプル(「CE2」と表される)は、多孔度と疎水性のファイン勾配を有さない機械コーティングされたガス拡散電極の例である。
【0043】
実施例4
比較例2の方法に従い且つ同様のグラビアコーティング装置を利用して、電極を調製した。以下の層を塗布した(ここで、層1は、ウェブの片側(裏側)にコーティングされ、残りの層は反対側にコーティングされた):
【0044】
【表6】

【0045】
層3を2つのコートにおいて塗布し、層4及び5を複数のコートにおいて塗布した。層4の塗布後、電極を2つの部分に切断し、その一方のみを層5でコーティングし、先の実施例と同様に焼結し、Nafionコーティングした(0.73mg/cm)。得られたサンプルの多孔度を、100ミクロン厚の構造に渡って5回の測定を行なうキャピラリーフローポロメトリーによってチェックしたところ、平均フローポアは、ガス側から触媒側まで実に規則的に減少していた。
【0046】
【表7】

【0047】
このサンプル(「EX4」と表される)は、触媒部分を含むその厚みの全体に渡って多孔度と疎水性のファイン勾配を備える機械コーティングされたガス拡散電極の例である。
【0048】
実施例5
層5でコーティングされていない実施例4の電極部分を、先の実施例と同様に、焼結し、Nafionコーティングした(0.68mg/cm)。よって、その最終組成は、以下の通りである:
【0049】
【表8】

【0050】
このサンプル(「EX5」と表される)は、触媒部分を含むその厚みの全体に渡って多孔度と疎水性のファイン勾配を備える機械コーティングされたガス拡散電極の例である。しかしながら、このような触媒部分は、先の実施例よりも薄く且つ単層からなり、その疎水性及び多孔度は、全構造の全体の疎水性及び多孔度勾配に従う。
【0051】
実施例6
3つの非触媒層、次いで2種の異なる触媒コートの塗布を繰り返して、実施例1に記載の方法を繰り返した。後者に、2種の異なる触媒カーボン、即ち、先の2つの例のVulcan XC−72上の30%Pt、及び、Vulcan XC−72上の30%Pt.Cr合金(Pt:Cr 1:1原子ベース)を使用した。PTFEを30%Pt/Cコートに対するバインダーとして使用し、一方、Nafion(登録商標)をPt.Cr合金に対して使用した。
【0052】
【表9】

【0053】
層#3を形成した後、5%水性アルコール溶液からの0.3mg/cmのNafion(登録商標)アイオノマーの最初の層を複数のパス(pass)で塗布した。
【0054】
層#3を塗布した後、得られたガス拡散電極を先の実施例と同様に焼結し、更に、複数のパス(pass)における5%水性アルコール溶液からの0.3mg/cmのNafionでコーティングし、周囲空気で最終的な乾燥を行なった。
【0055】
得られたサンプルの多孔度を、80ミクロン厚の構造に渡って4回の測定を行なうキャピラリーフローポロメトリーによってチェックしたところ、平均フローポアは、全厚み通して一定の挙動を示した:
【0056】
【表10】

【0057】
このサンプル(「EX6」と表される)は、触媒部分を含むその厚みの全体に渡って多孔度と疎水性のファイン勾配を有する手作業でコーティングされたガス拡散電極の例である。
【0058】
実施例7
上記の5つの実施例及び2つの比較例から得られた7つのサンプルを、水素及び空気の低圧下(1.5bar)にて100℃で作動する燃料電池において特徴付けした。各サンプルから2つの同じ電極を得、そのうち一方を陽極として、他方を陰極として使用した。2の固定されたセル電圧値(0.7及び0.5V)にて生成された電流密度を、2日間の安定した作動の後に記録し、以下の表に報告した:
【0059】
【表11】

【0060】
実施例1−5の電極は、それらがハンドメードであるか、それとも機械コーティングされたかという事実に関わらず、また、触媒としてカーボンブラック上の20%のPtが使用されたか、それとも30%のPtが使用されたかに関わらず、比較例のものよりも、首尾一貫して高められた性能を示した。また、3つの機械コーティングされたサンプルを、先ず水素及び空気の低圧下(1.5bar)にて、次いで「酸素ゲイン」データを得るために純粋な酸素を与えながら陰極をスイッチングした後に同様の圧力にて、70℃にて試験した。言い換えると、固定した電流密度にて、空気下及び酸素陰極供給下でセル電圧を測定し、各選択された電流密度にて、空気下で得られた電圧を酸素下で得られた電圧から差し引いた。このようなデータを以下の表に報告する:
【0061】
【表12】

【0062】
70℃での作動下において、方程式(2.303RT/nF)Log(pO[酸素]/pO[空気]は、純粋に熱力学的な条件に基づき、11.9mVの酸素ゲインを予測する。この値は、本質的に、酸素ゲインに期待される下限を固定する。実験的な酸素ゲインの大きさは、電極構造に起因し得る(ここで、酸素ゲインの減少は、マス輸送における改善を示す)。
【0063】
上記記載は、本発明を限定するよう理解されるべきではなく、本発明はその範囲から逸脱することなく異なる実施形態に従って実施され得、また、その範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ規定される。
【0064】
本願の図面及び特許請求の範囲において、用語「含む(comprise)」及び「含んでいる(comprising)」及び「含む(comprises)」のようなそのバリエーションは、他のエレメント又は更なるコンポーネントの存在を排除することを意図しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブとそれに塗布された少なくとも1つの多層コーティングを備え、該コーティングがその厚みに渡って確立された多孔度ファイン勾配と疎水性ファイン勾配を同時に有する、膜電気化学セルのためのガスディフューザ。
【請求項2】
前記多層コーティングが、カーボンとバインダー粒子を含有する個々の層を備える、請求項1に記載のガスディフューザ。
【請求項3】
前記カーボン粒子が、少なくとも1のより疎水性のカーボン、必要に応じて、アセチレンブラック又はグラファイトと、少なくとも1のより親水性のカーボン、必要に応じて、カーボンブラックを含有する、請求項1又は2に記載のガスディフューザ。
【請求項4】
少なくとも1のより親水性のカーボンが触媒されている、請求項3に記載のガス拡散電極。
【請求項5】
前記バインダー粒子が、必要に応じてフッ素化されたポリマー材料で作られている、請求項2〜4のいずれか一項に記載のガスディフューザ。
【請求項6】
前記多孔度ファイン勾配及び疎水性ファイン勾配が、両方とも、前記ウェブと接触している表面から反対表面への方向で単調に減少する、先の請求項のいずれか一項に記載のガスディフューザ。
【請求項7】
前記ファイン勾配が、カーボンに対するバインダーの異なる重量比及び/又は前記より疎水性のカーボンと前記より親水性のカーボンとの異なる重量比を有する個々の層を重ねることによって得られる、請求項3〜5のいずれか一項に記載のガスディフューザ。
【請求項8】
前記カーボンに対するバインダーの重量比が0.1〜2.3に包含される、請求項7に記載のガスディフューザ。
【請求項9】
前記より疎水性のカーボンと前記より親水性のカーボンとの重量比が、1:9〜9:1に包含される、請求項7又は8に記載のガスディフューザ。
【請求項10】
前記多層コーティングが3〜8の層を備える、先の請求項いずれか一項に記載のガスディフューザ。
【請求項11】
ウェブと反対の表面上に付加的な電極触媒層(electrocatalytic layer)を更に備える、先の請求項のいずれか一項に記載のガスディフューザ。
【請求項12】
前記多孔度ファイン勾配及び前記疎水性ファイン勾配が、前記電極触媒層内に拡がる、請求項11に記載のガスディフューザ。
【請求項13】
前記電極触媒層が、白金族の金属又は金属酸化物或いはその合金を含有する、請求項11に記載のガスディフューザ。
【請求項14】
先の請求項のいずれか一項に記載の少なくとも1つのガスディフューザを備える電気化学セル。
【請求項15】
膜燃料電池又は塩酸電解セルであることを特徴とする、請求項14に記載のセル。
【請求項16】
カーボンと疎水性バインダー粒子を含有する混合物の多層コートをウェブに塗布することを包含し、
カーボンに対する疎水性バインダーの重量比が、各々の連続するコートにおいて単調に増大している、
請求項1〜13のいずれか一項に記載のガスディフューザを製造するための方法。
【請求項17】
カーボンとバインダー粒子を含有する混合物の多層コートをウェブに塗布することを包含し、
前記カーボン粒子が、少なくとも1のより疎水性のカーボン、必要に応じてアセチレンブラック又はグラファイトと、少なくとも1のより親水性のカーボン、必要に応じてカーボンブラックを含有し、
前記より疎水性のカーボンと前記より親水性のカーボンとの重量比が、各々の連続するコートにおいて単調に減少している、
請求項1〜13のいずれか一項に記載のガスディフューザを製造する方法。
【請求項18】
少なくとも前記より親水性のカーボンが触媒されているカーボンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
カーボンとバインダー粒子を含有する混合物の多層コートをウェブに塗布することを包含し、
前記バインダー粒子が、少なくとも1の高疎水性バインダー、必要に応じて過フッ素化されたバインダーと、少なくとも1の高親水性バインダー、必要に応じてスルホン化されたパーフルオロカルボニックアシッド(perfluorocarbonic acid)を含有する、
請求項1〜13のいずれか一項に記載のガスディフューザを製造する方法。
【請求項20】
前記多層コートの塗布が、自動コーター、必要に応じてグラビアコーターを用いて行なわれる、請求項16に記載の方法。


【公表番号】特表2007−511876(P2007−511876A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538811(P2006−538811)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【国際出願番号】PCT/EP2004/012874
【国際公開番号】WO2005/048388
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(505118475)ペミアス ゲーエムベーハー (24)
【Fターム(参考)】