説明

ガス検出装置

【課題】ヒータへの通電開始後に電源出力電圧が変動した場合であっても、ヒータへの供給電力量に誤差が生じ難く、ガス検出精度の低下を抑制できるガス検出装置を提供する。
【解決手段】ガス検出装置150は、PWM制御の1周期のうちヒータへの通電時間帯(電圧印加実行時間Ton)において、複数回にわたりバッテリ電圧VBを検出し、検出したバッテリ電圧VBに基づいてヒータ4に供給した供給済み電力量ΣWiを演算している。つまり、ガス検出装置150は、ヒータ4への通電開始後にバッテリ電圧VBが変動した場合でも、ヒータ4に対して実際に供給された電力量を判定できることから、ヒータ4への供給電力量を精度良く目標電力量に近づけることができる。ガス検出装置150は、ヒータ4によるガスセンサ素子の温度制御が良好となり、温度変動によるガスセンサ素子の活性化状態の変化を抑制でき、ガス検出精度の低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定ガスの濃度に応じてセンサ抵抗値が変化するガスセンサ素子と、電源装置から供給される電力により発熱してガスセンサ素子を加熱するヒータと、センサ抵抗値に基づき測定対象ガスにおける特定ガスの濃度変化を判定するガス検知判定手段と、を有するガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特定ガスの濃度に応じてセンサ抵抗値が変化するガスセンサ素子と、電源装置から供給される電力により発熱してガスセンサ素子を加熱するヒータと、センサ抵抗値に基づき測定対象ガスにおける特定ガスの濃度変化を判定するガス検知判定手段と、を有するガス検出装置が知られている。
【0003】
そして、このようなガス検出装置としては、たとえば、電源装置(バッテリ)からヒータへの印加電圧をPWM制御(Pulse Width Modulation control)して、ヒータへの供給電力量を目標電力量に設定することで、ガスセンサ素子を目標温度(活性化温度)まで加熱する構成のガス検出装置が提案されている(特許文献1)。
【0004】
なお、ガス検出装置においては、電源装置から出力される電源出力電圧値が一定値であることを前提としてPWM制御を行い、ヒータへの供給電力量が目標電力量となるようにDuty比率を制御するものがある。しかし、このような構成のガス検出装置においては、電源出力電圧が変動した場合には、ヒータへの供給電力量に誤差が生じてしまい、実際のヒータへの供給電力量が目標電力量とは異なる値となることがある。
【0005】
これに対して、特許文献1に記載のガス検出装置では、電源出力電圧を検出して、電源出力電圧の変動に応じてPWM制御におけるDuty比率を制御することにより、電源出力電圧が変動した場合であっても、ヒータへの供給電力量に誤差が生じるのを抑制するように構成されている。
【特許文献1】特開2002−156350号公報(請求項8など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のガス検出装置においては、電源出力電圧の変動に応じてDuty比率を制御する構成ではあるものの、電源出力電圧の検出時期がヒータへの通電開始前であることから、ヒータへの通電を開始した後に電源出力電圧が変動した場合には、ヒータへの供給電力量に誤差が生じる虞がある。
【0007】
つまり、上記従来のガス検出装置は、ヒータへの通電開始前に検出した電源出力電圧値に基づいてPWM制御のDuty比率を設定し、ヒータへの供給電力量を目標電力量に制御する構成(処理)である。そして、ヒータへの通電開始後に電源出力電圧が変動した場合、Duty比率は変動前の電源出力電圧に基づいて定められた値であり、変動後の電源出力電圧に基づいて定められた値ではないため、ヒータへの供給電力量が目標電力量から離れてしまい、ヒータへの供給電力量に誤差が生じてしまう。
【0008】
なお、上記従来のガス検出装置では、PWMの1周期毎であってヒータへの通電開始前に電源出力電圧の検出を行うものであるが、電源出力電圧の検出をPWMの複数周期(例えば、3周期)毎に実施して、上記の処理を簡易的に行うこともできる。しかし、この場合には、より電源出力電圧の変動が生じ易くなるため、ヒータへの供給電力量に誤差が生じ易い傾向となる。
【0009】
このようにヒータへの供給電力量が目標電力量とは異なる値になると、ガスセンサ素子の温度が目標温度(活性化温度)から離れてしまい、ガスセンサ素子の活性化状態に変化が生じることになる。これにより、特定ガスの濃度とセンサ抵抗値との相関関係にも変化が生じてしまい、特定ガス濃度が一定であるにもかかわらずセンサ抵抗値が変動するなどの現象が発生して、ガス検出精度が低下する虞がある。
【0010】
そこで、本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、ヒータへの通電開始後に電源出力電圧が変動した場合であっても、ヒータへの供給電力量に誤差が生じ難く、ガス検出精度の低下を抑制できるガス検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、特定ガスの濃度に応じてセンサ抵抗値が変化するガスセンサ素子と、電源装置からの電力供給により発熱してガスセンサ素子を加熱するヒータと、センサ抵抗値の変化に基づき測定対象ガスにおける特定ガスの濃度変化を判定するガス検知判定手段と、を有するガス検出装置であって、ヒータへの印加電圧のPWM制御により電源装置からヒータへの供給電力量を制御する供給電力制御手段と、PWM制御の1周期のうちヒータへの通電時間帯において、電源装置から出力される電源出力電圧を複数回にわたり検出する電源出力電圧検出手段と、PWM制御の1周期毎に、ヒータへの通電開始後にヒータに供給された供給済み電力量を、電源出力電圧検出手段により検出された電源出力電圧に基づいて演算する供給済み電力演算手段と、を備えており、供給電力制御手段は、ガスセンサ素子を活性化温度に加熱するための目標電力量をヒータに対して供給するにあたり、PWM制御の1周期毎に、ヒータへの通電開始後、供給済み電力演算手段により演算される供給済み電力量が目標電力量以上であるか否かを判断し、供給済み電力量が目標電力量以上になると、ヒータへの通電を停止すること、を特徴とするガス検出装置である。
【0012】
このガス検出装置は、PWM制御の1周期のうちヒータへの通電時間帯において、複数回にわたり電源出力電圧を検出し、検出した電源出力電圧に基づいてヒータに供給した供給済み電力量を演算する構成を有する。このため、このガス検出装置は、ヒータへの電圧印加中に電源出力電圧が変動した場合でも、実際にヒータへ供給した供給済み電力量を、変動する電源出力電圧に基づいて精度良く演算することができる。
【0013】
そして、このガス検出装置は、ヒータへの通電開始後に電源出力電圧が変動した場合でも、上記したようにヒータに対して実際に供給された供給済み電力量を演算できることから、この供給済み電力量が目標電力量以上になったときにヒータへの通電を停止することで、ヒータへの供給電力量を精度良く目標電力量に近づけられ、ヒータへの供給電力量の誤差を小さくすることができる。この結果、ヒータによるガスセンサ素子の温度制御における制御精度が向上し、温度変動によるガスセンサ素子の活性化状態の変化を抑制でき、特定ガス濃度が一定であるにもかかわらずセンサ抵抗値が変動するなどの現象が発生するのを防止できることから、ガス検出精度が低下するのを抑制できる。
【0014】
よって、本発明によれば、ヒータへの通電開始後に電源出力電圧が変動した場合でも、ヒータへの供給電力量に誤差が生じ難く、ヒータによるガスセンサ素子の温度制御における制御精度を向上できることから、ガス検出精度の低下を抑制することができる。
【0015】
なお、供給電力制御手段で用いる目標電力量は、ガス検出素子を活性化温度まで加熱するためにヒータへ供給すべき電力量である。そして、この目標電力量は、ガス検出素子の活性化温度およびヒータの電気抵抗値などの構成部品条件に基づき予め定められた固定値としてもよく、あるいは、構成部品条件を基本として外気温などの変動条件を考慮して定められる変動値としてもよい。
【0016】
次に、上述のガス検出装置においては、請求項2に記載のように、PWM制御の1周期毎に、ヒータへの通電開始時期から通電停止時期までの供給済み電力量から当該周期の目標電力量を減算した過剰供給電力量を演算する過剰供給電力量演算手段と、予め定められた基本目標電力量から前回周期の過剰供給電力量を差し引いた補正後目標電力量を目標電力量として演算する補正後目標電力量演算手段と、を備え、供給電力制御手段は、ヒータへの通電開始後、供給済み電力演算手段により演算される供給済み電力量と、補正後目標電力量演算手段により演算された補正後目標電力量とを比較し、供給済み電力量が補正後目標電力量以上になると、ヒータへの通電を停止するように、構成することができる。
【0017】
このガス検出装置においては、PWM制御の1周期毎に、実際にヒータへ供給した供給済み電力量(ヒータへの通電開始時期から通電停止時期までの供給済み電力量)のうち当該周期の目標電力量を差し引いた過剰供給電力量を演算し、基本目標電力量から過剰供給電力量を差し引いた補正後目標電力量を新たな目標電力量として演算する。
【0018】
そして、供給電力制御手段は、ヒータへの通電開始後、供給済み電力演算手段により演算される供給済み電力量が前回周期の過剰供給電力量を用いて演算された補正後目標電力量以上になると、ヒータへの通電を停止する。つまり、供給電力制御手段は、PWM制御の1周期でヒータに供給する目標電力量として、補正後目標電力量演算手段で演算された補正後目標電力量を用いる。
【0019】
すなわち、このガス検出装置は、ある周期において、実際にヒータへ供給した電力量が目標電力量を上回って過剰供給電力量が生じた場合でも、その次の周期において補正後目標電力量(過剰供給電力量を考慮して定められる電力量)を用いてヒータ制御を行う。
【0020】
これにより、このように構成されたガス検出装置は、今回周期でのヒータへの供給電力量を前回周期での過剰供給電力量に相当する分だけ低減でき、前回周期および今回周期での供給電力量の平均値を基本目標電力量に近づけることができ、ヒータへの供給電力量の誤差をより一層小さくすることができる。
【0021】
よって、本発明によれば、実際にヒータへ供給した電力量が基本目標電力量を上回って過剰供給電力量が生じた場合であっても、複数の周期における平均値としての供給電力量の誤差をより一層小さくすることができ、ガスセンサ素子の温度制御における制御精度をさらに向上できる。
【0022】
なお、基本目標電力量は、ガス検出素子を活性化温度まで加熱するにあたりヒータへ供給すべき電力量であって、ガス検出素子の活性化温度およびヒータの電気抵抗値などの構成部品条件に基づき予め定めておくことができる。
【0023】
次に、上述のガス検出装置においては、請求項3に記載のように、供給済み電力演算手段は、ヒータへの通電時間帯のうち、電源出力電圧検出手段による電源出力電圧の検出時期を境界として分割される単位時間帯毎に、当該単位時間帯においてヒータに供給された単位時間供給電力量を演算する単位供給電力量演算手段を備えており、供給電力制御手段は、PWM制御の1周期毎に、ヒータへの通電開始前において、当該周期でヒータに供給すべき電力量の残量を表す供給電力残量変数の初期値として目標電力量を設定する供給電力残量変数初期設定手段と、ヒータへの通電開始後、電源出力電圧検出手段により電源出力電圧が検出されると、当該電圧検出時期を終期とする単位時間帯における単位時間供給電力量と、当該電圧検出時期に設定されている供給電力残量変数とを比較し、単位時間供給電力量が供給電力残量変数よりも小さいか否かを判定する変数判定手段と、変数判定手段において肯定判定された場合に、供給電力残量変数から単位時間供給電力量を減算した値を供給電力残量変数に再設定する供給電力残量変数再設定手段と、変数判定手段において否定判定された場合に、供給済み電力量が目標電力量以上であると判定して、ヒータへの通電を停止するヒータ通電停止手段と、を備えるように構成することができる。
【0024】
このガス検出装置は、ヒータへの通電時間帯のうち電源出力電圧の検出時期を境界として分割される単位時間帯毎に、ヒータに供給された単位時間供給電力量を演算しており、電源出力電圧が検出されると、当該検出時期を終期とする単位時間帯における単位時間供給電力量が供給電力残量変数よりも小さいか否かを判定する。
【0025】
そして、変数判定手段において肯定判定された場合(単位時間供給電力量が供給電力残量変数よりも小さい場合)には、供給電力残量変数再設定手段が、供給電力残量変数から単位時間供給電力量を減算した値を供給電力残量変数に再設定する。また、変数判定手段において否定判定された場合(単位時間供給電力量が供給電力残量変数以上である場合)には、ヒータ通電停止手段にて、供給済み電力量が目標電力量以上に到達したと判定して、ヒータへの通電を停止する。
【0026】
なお、供給電力残量変数は、PWM制御の1周期毎に、ヒータへの通電開始前において、供給電力残量変数初期設定手段により初期値が設定される。この初期値は、目標電力量であって、ガス検出素子を活性化温度まで加熱するにあたり、PWM制御の1周期においてヒータへ供給すべき電力量である。
【0027】
つまり、このガス検出装置は、PWM制御の1周期でヒータへ供給すべき電力量を供給電力残量変数の初期値として設定し、電源出力電圧が検出される毎に供給電力残量変数から単位時間供給電力量を減算していき、単位時間供給電力量が供給電力残量変数以上になると、ヒータへの通電を停止する構成である。
【0028】
換言すれば、このガス検出装置は、ヒータへの通電開始後、単位時間供給電力量の積算値が供給電力残量変数の初期値以上になると、ヒータへの通電を停止する構成であり、このようにして供給電力量を制御することで、ガス検出素子を活性化温度まで加熱するために必要な電力量をヒータへの供給することができる。
【0029】
そして、単位時間供給電力量は、ヒータへの通電時間帯のうち電源出力電圧の検出時期を境界として分割される単位時間帯において、実際にヒータに供給された電力量であることから、ヒータへの通電開始後に電源出力電圧が変動した場合でも、ヒータに対して実際に供給された電力量に応じた値となる。
【0030】
つまり、このガス検出装置は、ヒータへの通電開始後に電源出力電圧が変動した場合でも、ヒータに対して実際に供給された電力量を判定できることから、ヒータへの供給電力量を精度良く目標電力量に制御できると共にヒータへの供給電力量の誤差を小さくすることができ、ヒータによるガスセンサ素子の温度制御における制御精度を向上できる。
【0031】
なお、供給電力残量変数は、当該周期でヒータに対して供給すべき電力量の残量を表す変数として利用することもできる。
次に、上述のうち過剰供給電力量演算手段および補正後目標電力量演算手段を備えるガス検出装置においては、請求項4に記載のように、供給済み電力演算手段は、ヒータへの通電時間帯のうち、電源出力電圧検出手段による電源出力電圧の検出時期を境界として分割される単位時間帯毎に、当該単位時間帯においてヒータに供給された単位時間供給電力量を演算する単位供給電力量演算手段を備えており、供給電力制御手段は、PWM制御の1周期毎に、ヒータへの通電開始前において、当該周期でヒータに供給すべき電力量の残量を表す供給電力残量変数の初期値として目標電力量を設定する供給電力残量変数初期設定手段と、ヒータへの通電開始後、電源出力電圧検出手段により電源出力電圧が検出されると、当該電圧検出時期を終期とする単位時間帯における単位時間供給電力量と、当該電圧検出時期に設定されている供給電力残量変数とを比較し、単位時間供給電力量が供給電力残量変数よりも小さいか否かを判定する変数判定手段と、変数判定手段において肯定判定された場合に、供給電力残量変数から単位時間供給電力量を減算した値を供給電力残量変数に再設定する供給電力残量変数再設定手段と、変数判定手段において否定判定された場合に、供給済み電力量が目標電力量以上であると判定して、ヒータへの通電を停止するヒータ通電停止手段と、を備え、過剰供給電力量演算手段は、変数判定手段において否定判定された場合に、単位時間供給電力量から供給電力残量変数の値を差し引いた値を過剰供給電力量として演算するように、構成することができる。
【0032】
このガス検出装置は、単位時間供給電力量が逐次減ぜられる供給電力残量変数以上になると、変数判定手段において否定判定されて、ヒータへの通電を停止する。このとき(変数判定手段において否定判定される時)の単位時間供給電力量と供給電力残量変数との差分値は、実際にヒータへ供給した電力量のうち目標電力量(または補正後目標電力量)を超過した電力量(過剰供給電力量)に相当する。
【0033】
このため、変数判定手段において否定判定された場合に、過剰供給電力量演算手段が、単位時間供給電力量から供給電力残量変数の値を差し引いた値を過剰供給電力量として演算することで、実際にヒータへ供給した電力量のうち目標電力量(または補正後目標電力量)を超過した電力量(過剰供給電力量)を得ることができる。
【0034】
そして、供給電力制御手段は、前回周期の過剰供給電力量を用いて演算された新たな目標電力としての補正後目標電力量を用いてヒータへの供給電力量を制御する。
これにより、このガス検出装置は、前回周期および今回周期での供給電力量の平均値を基本目標電力量に近づけることができ、ヒータへの供給電力量の誤差をより一層小さくすることができる。
【0035】
よって、本発明によれば、実際にヒータへ供給した電力量が基本目標電力量を上回って過剰供給電力量が生じた場合であっても、複数の周期における平均値としての供給電力量の誤差をより一層小さくすることができ、ガスセンサ素子の温度制御における制御精度をさらに向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の実施形態として、本発明が適用されたガス検出装置を備える車両用外気導入制御システムについて、図面と共に説明する。
まず、図1に、本発明が適用されたガス検出装置に備えられる一体型ガスセンサ素子10の概略構成図を示す。図1に示すように、一体型ガスセンサ素子10は、還元性ガス用ガスセンサ素子2、酸化性ガス用ガスセンサ素子3およびヒータ4が、単一のセラミック基板1に形成されて構成されている。
【0037】
このうち、還元性ガス用ガスセンサ素子2(以下、単にG素子2ともいう)は、SnO2 を主成分とする酸化物半導体からなる抵抗体であり、主としてCO、HC(ハイドロカーボン)等の還元性ガスに反応してその抵抗値(以下、Gセンサ抵抗値Rgともいう)が変化する性質を有している。また、酸化性ガス用ガスセンサ素子3(以下、単にD素子3ともいう)は、WO3 を主成分とする酸化物半導体からなる抵抗体であり、主としてNOx等の酸化性ガスに反応してその抵抗値(以下、Dセンサ抵抗値Rdともいう)が変化する性質を有している。
【0038】
なお、G素子2およびD素子3は、常温ではガスに反応することはなく、200[℃]以上の活性化温度になることで、それぞれ還元性ガスあるいは酸化性ガスに反応する活性化状態となる。そして、活性化状態となったG素子2は、還元性ガスの濃度の上昇に伴いGセンサ抵抗値Rgが低下する方向に変化することから、Gセンサ抵抗値Rgの変化に基づいて還元性ガスの濃度変化を検出することができる。また、活性化状態となったD素子3は、酸化性ガスの濃度の上昇に伴いDセンサ抵抗値Rdが上昇する方向に変化することから、Dセンサ抵抗値Rdの変化に基づいて酸化性ガスの濃度変化を検出することができる。
【0039】
また、ヒータ4は、セラミック基板1に形成された抵抗配線からなり、所定の電圧が印加されると発熱するよう構成されており、G素子2およびD素子3を活性化温度以上の目標温度に加熱・維持して活性化状態とするために備えられている。なお、ヒータ4は、少なくともG素子2およびD素子3が活性化温度以上まで加熱できるように、抵抗値などの特性が選択されて構成されている。
【0040】
そして、図1に示す一体型ガスセンサ素子10においては、D素子端子5が後述するマイクロコンピュータ101(後述する図2参照)の第2AD変換入力端子103に接続され、G素子端子6が後述するマイクロコンピュータ101(図2参照)の第1AD変換入力端子102に接続され、ヒータ端子7が後述する電源装置191(図2参照)の正極に接続され、基準端子8が後述する電源装置191(図2参照)の負極と同電位のグランドに接続される。
【0041】
次に、図2に、本発明が適用されたガス検出装置150を備える車両用外気導入制御システム100の構成を表す構成図を示す。なお、車両用外気導入制御システム100は、ガス検出装置150により外気中に含まれる酸化性ガス濃度および還元性ガス濃度の変化を検出し、その検出結果に基づいて外気導入用フラップ174(以下、単に、フラップ174ともいう)を開閉制御するものである。
【0042】
そして、車両用外気導入制御システム100は、定電圧(定格電圧12[V]。以下、バッテリ電圧VBともいう)を出力する電源装置191(以下、単にバッテリ191ともいう)と、マイクロコンピュータ101(以下、マイコン101ともいう)と、G素子2におけるGセンサ抵抗値Rgの変化に応じた電圧を出力するG素子回路110と、D素子3におけるDセンサ抵抗値Rdの変化に応じた電圧を出力するD素子回路120と、G素子2およびD素子3を活性化温度に加熱・維持するためのヒータ4と、ヒータ4の通電制御を行うヒータ回路131と、駆動電圧Vcc(5[V])を供給するレギュレータ回路140と、フラップ174を制御する電子制御アセンブリ160と、を備えて構成されている。
【0043】
なお、車両用外気導入制御システム100のうち、電源装置191、G素子回路110、D素子回路120、ヒータ4、ヒータ回路131およびマイコン101がガス検出装置150を構成している。
【0044】
電源装置191は、バッテリ電圧VBを出力する電圧出力部192と、アノードが電圧出力部192の負極と同電位のグランドに接続されると共にカソードが電圧出力部192の正極に接続されたツェナーダイオード193を備えて構成されており、出力可能な最大出力電圧が40[V]に制限されている。つまり、40[V]を超えるサージ電圧が、電源装置191から装置各部に至る電力供給経路に発生する場合には、ツェナーダイオード193がツェナー降伏して、電力供給経路の電圧値を40[V]以下に制限している。
【0045】
電子制御アセンブリ160は、外気導入用フラップ174を制御するものである。なお、外気導入用フラップ174は、自動車室内に繋がるダクト171に二股状に接続された内気取り入れ用ダクト172と外気取り入れ用ダクト173とを切り替えるために備えられている。つまり、外気導入用フラップ174は、自動車に備えられる空調システムのうち車室内につながるダクト171に設けられており、車室内への送風の循環状態を外気導入あるいは内気循環に切り替えるために備えられている。
【0046】
また、電子制御アセンブリ160は、フラップ制御回路161と、アクチュエータ162を備えて構成されている。このうち、フラップ制御回路161は、マイコン101の出力端子106(OUT端子106)に接続されており、出力端子106からのアセンブリ制御信号(フラップ開閉信号Sf)に従いアクチュエータ162を駆動して、フラップ174を回動することで、内気取り入れ用ダクト172および外気取り入れ用ダクト173のいずれかをダクト171に接続する。なお、ダクト171の内部には、空気を車室内側に向けて圧送するファン175が備えられている。
【0047】
そして、例えば、フラップ174が、図2において実線で示すように、外気取り入れ用ダクト173を塞ぐ位置に配置されると、外気の室内への進入が阻止されてダクト171は内気取り入れ用ダクト172と連通して、車室内の空気を循環させる内気循環状態となる。反対に、フラップ174が、図2において破線で示すように、内気取り入れ用ダクト172を塞ぐ位置に配置されると、ダクト171は外気取り入れ用ダクト173と連通して、車室外の空気を車室内に取り入れる外気導入状態となる。
【0048】
次に、マイコン101は、詳細は図示しないが、公知の構成を有し、演算を行うマイクロプロセッサ、プログラムやデータを一時記憶するRAM、プログラムやデータを保持するROM、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路などを含んで構成されている。なお、A/D変換回路は、第1AD変換入力端子102、第2AD変換入力端子103、第3AD変換入力端子104から入力されるアナログ信号を、マイクロプロセッサなどで使用可能なデジタル信号に変換する。また、マイコン101は、ヒータ回路131に対してパルス指令信号Shを出力するPWM端子105を備えている。
【0049】
さらに、レギュレータ回路140は、レギュレータ141によって、バッテリ電圧VBの変動に拘わらず、常に一定の駆動電圧Vcc(5[V])を出力するよう構成されており、マイコン101、G素子回路110、D素子回路120等に対して駆動電圧Vccを出力することで、電力供給を行う。なお、マイコン101は、受電端子107(Vcc端子)にて駆動電圧Vccを受電する。
【0050】
また、G素子回路110は、G素子2と抵抗値Raの第1抵抗111とで駆動電圧Vccを抵抗分圧する回路であり、G素子2と第1抵抗111との分圧点(以下、動作点Pgともいう)が、マイコン101の第1AD変換入力端子102に接続されている。そして、動作点Pgの電位(以下、G素子電圧Vgともいう)は、Gセンサ抵抗値Rgの変化に応じて値が変化しており、具体的には、還元性ガス(CO、HCなど)の濃度が上昇すると、G素子電圧Vgは低下する。
【0051】
同様に、D素子回路120は、D素子3と抵抗値Rbの第2抵抗121とで駆動電圧Vccを抵抗分圧する回路であり、D素子3と第2抵抗121との分圧点(以下、動作点Pdともいう)が、マイコン101の第2AD変換入力端子103に接続されている。そして、動作点Pdの電位(以下、D素子電圧Vdともいう)は、Dセンサ抵抗値Rdの変化に応じて値が変化しており、具体的には、酸化性ガス(NOxなど)の濃度が上昇すると、D素子電圧Vdは上昇する。
【0052】
そして、マイコン101は、後述するガス検知判定処理(S140)を実行することで、第1AD変換入力端子102および第2AD変換入力端子103に入力されたG素子電圧VgおよびD素子電圧Vdの変化に応じて、還元性ガスや酸化性ガスの濃度変化を検出する。また、マイコン101は、還元性ガスや酸化性ガスの濃度変化についての検出結果に基づき、フラップ開閉信号Sfを電子制御アセンブリ160に対して出力し、ダクト171の内部に備えられるフラップ174の切り替え制御処理を行う。
【0053】
また、ヒータ回路131は スイッチング回路132と、電圧検出回路180とを備えて構成されている。
このうち、電圧検出回路180は、抵抗181,182およびコンデンサ183を備えており、バッテリ191からヒータ4への印加電圧値(換言すれば、バッテリ電圧VB)を分圧し、その分圧した分圧バッテリ電圧VEをマイコン101の第3AD変換入力端子104に入力するよう構成されている。つまり、電圧検出回路180は、ヒータ4への印加電圧を、マイコン101の第3AD変換入力端子104に入力可能な電圧レベルに変換して、マイコン101に対して出力するよう構成されている。
【0054】
また、スイッチング回路132は、マイコン101からのパルス指令信号Shに基づき、ヒータ4への電力供給経路を通電状態あるいは遮断状態に切り替え可能に構成されている。つまり、スイッチング回路132は、マイコン101からのパルス指令信号Shが抵抗134を通じてトランジスタ135のベースに入力されるよう構成されており、トランジスタ135は、パルス指令信号Shの状態に応じてオン状態(通電状態)またはオフ状態(遮断状態)に設定される。なお、抵抗136は、バイアス抵抗である。このようなトランジスタ135の状態変化により、抵抗137および抵抗138の接続点に接続するpチャネルMOSFET133のゲート電位が変化して、MOSFET133は、パルス指令信号Shの状態に応じてオン状態(通電状態)またはオフ状態(遮断状態)に設定される。
【0055】
つまり、スイッチング回路132は、マイコン101からのパルス指令信号Shに応じて、ヒータ4への通電・遮断を切り替えることで、ヒータ4への印加電圧をPWM制御するよう構成されている。
【0056】
次に、マイコン101において実行される通常ルーチン処理について、図3に示すフローチャートを用いて説明する。
なお、通常ルーチン処理は、車両用外気導入制御システム100が起動されると共に処理が開始され、車両用外気導入制御システム100が停止するまで処理を継続する。
【0057】
通常ルーチン処理が開始されると、まず、S110(Sはステップを表す)では、RAM動作の初期化などを含む初期設定処理を行う。
なお、S110での初期設定処理には、ガス検知待機時間カウンタ更新処理を起動する処理やヒータ制御割り込み処理を起動する処理などが含まれている。ガス検知待機時間カウンタ更新処理は、次のS120での判定処理に用いるガス検知待機時間カウンタを経過時間に応じた値に更新する処理を行う。ヒータ制御割り込み処理の処理内容については、後述する。
【0058】
次のS120では、ガス検知待機時間が経過したか否かを判定しており、肯定判定する場合にはS130に移行し、否定判定する場合には同ステップを繰り返し実行することで、ガス検知待機時間が経過するまで待機する。
【0059】
なお、ガス検知待機時間が経過したか否かの判定方法としては種々の方法があるが、本実施形態では、ガス検知待機時間カウンタと待機時間基準値とを比較し、ガス検知待機時間カウンタが待機時間基準値以上になると肯定判定し、ガス検知待機時間カウンタが待機時間基準値未満であるときには否定判定する。待機時間基準値は、予め定められた定数とすることができ、本実施形態では、待機時間基準値として「0.1[sec]」が設定されている。
【0060】
次のS130では、ガス検知待機時間カウンタをリセットする処理を実行する。
続くS140では、ガス検知判定処理を実行する。
ガス検知判定処理では、G素子2にて検出する還元性ガスのガス検出処理、およびD素子3にて検出する酸化性ガスのガス検出処理をそれぞれ実行して、検出結果に応じたフラップ開閉信号Sfを出力する処理を実行する。
【0061】
なお、ガス検知判定処理としては、公知の手法(処理)を用いて行うことができるため詳細な説明は省略するが、本実施形態では、特開2005−308451号公報にて本願出願人が開示したガス検知判定処理を実行した。
【0062】
S140の処理が終了すると、再びS120に移行する。
つまり、通常ルーチン処理では、定期的に(換言すれば、S120で肯定判定される毎に)ガス検知判定処理(S140での処理)を実行することで、外気中に含まれる酸化性ガス濃度および還元性ガス濃度の変化を検出し、その検出結果に基づいて外気導入用フラップ174を開閉制御するためのフラップ開閉信号Sfを出力する処理を実行する。
【0063】
次に、ヒータ制御割り込み処理の処理内容について説明する。ヒータ制御割り込み処理の処理内容を表すフローチャートを図4に示す。
なお、ヒータ制御割り込み処理は、予め定められた一定周期(実行周期TB)毎に繰り返し実行される。本実施形態では、ヒータ制御割り込み処理の実行周期TBが「PWM制御における1周期の1/128」に設定されている。なお、本実施形態におけるPWM制御の1周期(実行周期TA)は、1/30[sec]に設定されている。
【0064】
ヒータ制御割り込み処理が開始されると、S310では、ヒータに対して電圧印加を開始するタイミングであるか否かを判定しており、肯定判定する場合にはS320に移行し、否定判定する場合にはS350に移行する。
【0065】
ヒータに対する電圧印加開始タイミングであるか否かの判定方法としては種々の方法があるが、本実施形態では、ヒータ電圧印加開始判定カウンタと印加開始判定基準値とを比較して、ヒータに対する電圧印加開始タイミングであるか否かを判定する。具体的には、ヒータ電圧印加開始判定カウンタが印加開始判定基準値以上であるときに肯定判定し、ヒータ電圧印加開始判定カウンタが印加開始判定基準値未満であるときに否定判定する。
【0066】
なお、印加開始判定基準値は、PWM制御の1周期(実行周期TA)に相当する値が予め定められており、本実施形態では、印加開始判定基準値として「1/30[sec]に相当する値」が設定されている。
【0067】
また、ヒータ電圧印加開始判定カウンタは、時間経過の判定に用いるカウンタであり、PWM制御の1周期を判定する用途に用いられる他に、バッテリ電圧の検出タイミングを判定する用途などにも用いられる。そして、ヒータ電圧印加開始判定カウンタは、通常ルーチン処理でのS110にてヒータ制御割り込み処理が起動される前に初期化(ゼロクリア)されており、単位時間が経過する毎にS350での処理によりインクリメント(加算)され、S310で肯定判定されてS340に移行するとゼロクリアされる。
【0068】
S310で肯定判定されてS320に移行すると、S320では、PWM制御における今回の周期(換言すれば、今回のヒータ電圧印加期間)においてヒータに供給する目標電力を設定する処理を実行する。具体的には、基本目標電力量Wから前回周期における過剰供給電力量AWを差し引いた値を、供給電力残量変数SW(n)の初期値SW(0)として設定する。このようにして設定される供給電力残量変数SW(n)の初期値SW(0)は、以下の説明において「補正後目標電力量SW(0)」ともいう。
【0069】
なお、基本目標電力量Wは、G素子2およびD素子3を活性化温度まで加熱するためにヒータ4へ供給すべき電力量であって、G素子2およびD素子3の活性化温度およびヒータ4の電気抵抗値などの各種条件に基づき予め定められた固定値である。本実施形態では、基本目標電力量Wは、マイコン101の記憶部(ROM、RAMなど)に記憶されており、S320では、記憶部から基本目標電力量Wを読み込み、供給電力残量変数SW(n)の初期値SW(0)(補正後目標電力量SW(0))を設定する際に利用する。
【0070】
また、過剰供給電力量AWは、S110にてヒータ制御割り込み処理が起動される前に初期値(例えば、0[W])が設定されており、S320の初回実行時には、この初期値が用いられ、S320の第2回目以降の実行時には、後述するS420で更新された値が用いられる。
【0071】
次のS330では、ヒータへの電圧印加制御を開始する処理を実行する。
具体的には、PWM端子105からヒータ回路131に対してハイレベルのパルス指令信号Shを出力することで、ヒータ回路131によるヒータ4への電圧印加を開始する処理を実行する。また、S330では、マイコン101の各種制御処理に利用される内部フラグの1つであるヒータ制御フラグFhをセット状態に設定する。なお、ヒータ制御フラグFhは、ヒータへの電圧印加制御中であるか否かを示す状態フラグであり、ヒータ電圧印加制御中である場合にはセット状態に設定され、ヒータ電圧印加制御中ではない場合にはリセット状態に設定される。
【0072】
ここで、本実施形態のガス検出装置150によるヒータ制御に関して、PWM制御の実行周期TAおよびバッテリ電圧検出処理(換言すれば、ヒータ制御割り込み処理)の実行周期TBについて説明する。
【0073】
ヒータへの印加電圧波形を表した説明図を図5に示す。なお、図5では、上側に3周期分のパルス波形を示し、下側に第1回周期における電圧印加時の拡大波形を示す。
図5の上側に示すように、ヒータ制御に関するPWM制御の実行周期TAは、隣接する開始時期どうしの時間間隔(例えば、第1回周期の開始時期ts1と第2回周期の開始時期ts2との時間間隔)に等しく、この実行周期TAは、電圧印加実行時間Tonと電圧印加停止時間Toffとに分けることができる。
【0074】
パルス波形のうち開始時刻ts1、ts2,ts3は、PWM制御における1周期の開始時期であるとともにヒータへの電圧印加開始時期であり、ヒータ制御割り込み処理におけるS330の実行時期にそれぞれ相当している。そして、隣接する開始時刻どうしの時間間隔(換言すれば、PWM制御の実行周期TA)は、S310で用いられる印加開始判定基準値により定められる。
【0075】
また、図5の下側に示すように、電圧印加実行時間Tonは、バッテリ電圧検出時期tVnを境界として複数の単位時間帯に分割することができ、隣接するバッテリ電圧検出時期tVnどうしの時間間隔は、ヒータ制御割り込み処理の実行周期TBに相当する。
【0076】
図4のフローチャートに戻り、次のS340では、ヒータ電圧印加開始判定カウンタをクリア(ゼロクリア)する。
また、S310で否定判定されてS350に移行すると、S350では、ヒータ電圧印加開始判定カウンタをインクリメント(1加算)する処理を実行する。
【0077】
なお、前述したように、このヒータ制御割り込み処理は一定周期(実行周期TB)毎に実行されることから、S310での否定判定が繰り返される間は、S350でのヒータ電圧印加開始判定カウンタのインクリメント処理は一定周期(実行周期TB)毎に繰り返し実行される。そして、PWM制御における1周期の開始時期(換言すれば、ヒータ電圧印加開始タイミング)になると、S310で肯定判定されて、ヒータ電圧印加開始判定カウンタがクリアされる(S340)。
【0078】
このため、PWM制御における制御周期(実行周期TA)に関して、今回周期のヒータ電圧印加開始時期から次回周期のヒータ電圧印加開始時期に至るまでの間においては、ヒータ電圧印加開始判定カウンタに基づいてヒータへの電圧印加開始時期からの概略経過時間を判定することができる。具体的には、ヒータ制御割り込み処理の実行周期TBとヒータ電圧印加開始判定カウンタとを乗算して得られる値が、ヒータへの電圧印加開始時期からの概略経過時間に相当する。
【0079】
次のS360では、ヒータ電圧印加制御中であるか否かを判定しており、肯定判定する場合にはS370に移行し、否定判定する場合には再びS310に移行する。なお、S360では、ヒータ制御フラグFhの状態(セット状態またはリセット状態)に基づき、ヒータ4への電圧印加制御中であるか否かを判定する。
【0080】
S360で肯定判定されてS370に移行すると、S370では、バッテリ191から出力されるバッテリ電圧VBを検出する処理を実行する。
具体的には、第3AD変換入力端子104に入力される分圧バッテリ電圧VEのA/D変換値を取得し、分圧バッテリ電圧VEと電圧検出回路180の抵抗分圧値とに基づいてバッテリ電圧VBを算出することで、バッテリ電圧VBの検出を行う。そして、検出したバッテリ電圧VBの値をバッテリ電圧変数V(n)に代入して保存する。
【0081】
なお、バッテリ電圧変数V(n)の引数nは、PWM制御での今回の周期におけるバッテリ電圧の検出回数に応じて定められる値であり、本実施形態ではヒータ電圧印加開始判定カウンタの数値が設定される。例えば、第1回目のバッテリ電圧検出時期には、ヒータ電圧印加開始判定カウンタが1であることから引数nにはn=1が設定され、第2回目のバッテリ電圧検出時期には、同様にして、引数nにはn=2が設定される。
【0082】
また、前述したように、このヒータ制御割り込み処理は一定周期毎に実行されていることから、S310での否定判定が繰り返されるとともにS360での肯定判定が繰り返される間は、S370でのバッテリ電圧の検出処理は、ヒータ制御割り込み処理の実行周期TBに応じた一定周期毎に実行される。
【0083】
次のS380では、実行周期TBで繰り返し実行されるヒータ制御割り込み処理のうち、今回(例えば、第n回目)に検出したバッテリ電圧VB(換言すれば、バッテリ電圧変数V(n))に応じたヒータへの供給電力量を演算する処理を実行する。換言すれば、S380では、ヒータ4への通電時間帯(電圧印加時間帯)のうちバッテリ電圧VBの検出時期を境界として分割される複数の単位時間帯のうち、第n回目の単位時間帯においてヒータ4に供給された単位時間供給電力量W(n)を演算する処理を実行する。
【0084】
なお、図5の下側に示す説明図のうち、時刻tV1,tV2,・・・,tVnがバッテリ電圧の検出時期に相当し、これらの検出時期を境界として分割される分割領域が単位時間帯に相当する。
【0085】
本実施形態では、バッテリ電圧と単位時間供給電力量との相関関係を示すマップデータを用いて、バッテリ電圧変数V(n)に応じた単位時間供給電力量W(n)を演算する処理を実行する。バッテリ電圧VBと単位時間供給電力量との相関関係を示すマップデータは、シミュレーション値あるいは実測値などに基づき予め定められており、マイコン101の記憶部(ROMなど)に記憶されている。
【0086】
なお、図5の下側に示す説明図のうち、時刻tV1,tV2,・・・,tVnで分割される各分割領域の面積が単位時間供給電力量W(n)に比例した値となる。
次のS390では、バッテリ電圧の前回検出時における供給電力残量変数SW(n−1)と、バッテリ電圧の今回検出時における単位時間供給電力量W(n)とを比較して、供給電力残量変数SW(n−1)が単位時間供給電力量W(n)よりも大きいか否かを判断しており、肯定判定する場合にはS400に移行し、否定判定する場合にはS410に移行する。
【0087】
なお、バッテリ電圧の前回検出時における供給電力残量変数SW(n−1)は、前回のヒータ制御割り込み処理でのS400において値が代入されている。また、バッテリ電圧の今回検出時における単位時間供給電力量W(n)は、今回のヒータ制御割り込み処理におけるS380で演算された値である。
【0088】
S390で肯定判定されてS400に移行すると、S400では、前回検出時の供給電力残量変数SW(n−1)から今回検出時の単位時間供給電力量W(n)を減算した値を、今回検出時の供給電力残量変数SW(n)に代入する処理を実行する。
【0089】
つまり、S400では、このあとさらにヒータに対して供給するべき電力量の残量を演算するとともに、演算結果を今回検出時の供給電力残量変数SW(n)に代入して保存する処理を行う。
【0090】
また、S390で否定判定されてS410に移行すると、S410では、ヒータへの電圧印加制御を停止する処理を実行する。
具体的には、PWM端子105からヒータ回路131に対してローレベルのパルス指令信号Shを出力することで、ヒータ回路131によるヒータ4への電圧印加を停止する処理を実行する。また、S410では、ヒータ制御フラグFhをリセット状態に設定する。
【0091】
ここで、図5の上側に示すパルス波形のうち時刻te1、te2,te3は、ヒータへの電圧印加停止時期であり、ヒータ制御割り込み処理におけるS410の実行時期にそれぞれ相当している。なお、電圧印加開始時期ts1と電圧印加停止時期te1との時間差は、電圧印加実行時間Tonであり、また、実行周期TAのうち電圧印加実行時間Tonの占める比率が、PWM制御のDuty比率となる。
【0092】
さらに、電圧印加実行時間Tonは、ヒータへの供給済み電力量ΣWi(=W(1)+W(2)+・・・+W(n))に応じた値となる。なお、ヒータへの供給済み電力量ΣWiは、バッテリ電圧検出時期のうち第1回目から第n回目までの単位時間供給電力量W(i)(i=1〜n)の総和である。
【0093】
なお、図5の下側に示すように、電圧印加実行時間Tonは、バッテリ電圧検出時期tVnを境界として複数の単位時間帯に分割することができ、各単位時間帯においてヒータに供給された単位時間供給電力量W(i)(i=1〜n)の総和が、電圧印加実行時間Tonにおいてヒータに供給された供給電力量(ヒータへの供給済み電力量ΣWi)に相当する。
【0094】
図5に示すように、パルス波形の面積が供給電力量に応じた大きさとなることから、各単位時間帯における単位時間供給電力量W(n)は、単位時間帯の継続時間(換言すれば、実行周期TB)とヒータへの印加電圧に基づいて演算することができる。
【0095】
図4のフローチャートに戻り、次のS420では、バッテリ電圧の今回検出時における単位時間供給電力量W(n)からバッテリ電圧の前回検出時における供給電力残量変数SW(n−1)を減算した値を、過剰供給電力量AWに代入する処理を実行する。
【0096】
なお、供給電力残量変数SW(n)は、初期値SW(0)(補正後目標電力量SW(0))が設定された後(S320)、バッテリ電圧VBが検出される毎(S370)に、検出されたバッテリ電圧(バッテリ電圧変数V(n))に基づき演算される単位時間供給電力量W(n)だけ減算される(S400)。そして、S400での減算処理は、前回検出時の供給電力残量変数SW(n−1)が今回検出時の単位時間供給電力量W(n)以下になるまで(S390で否定判定されるまで)繰り返し実行される。
【0097】
そして、S340、S400、S420の処理が終了するか、S360で否定判定されると、ヒータ制御割り込み処理が終了する。さらに、ヒータ制御割り込み処理は、上述したように、一定周期(実行周期)毎に繰り返し実行される。
【0098】
ここで、過剰供給電力量AWについて説明する。
図6に、PWM制御における第1回周期から第3回周期までにおける、供給済み電力量ΣWi、補正後目標電力量SW(0)、過剰供給電力量AW、基本目標電力量Wの相関関係を表した説明図を示す。
【0099】
まず、第1回周期は、初回のヒータ制御であり、前回周期での過剰供給電力量AWとして初期値(0[W])が設定されることから(S110)、補正後目標電力量SW(0)として基本目標電力量Wに等しい値が設定される。
【0100】
そして、第1回周期においてヒータに供給される供給済み電力量ΣWi(=W(1)+W(2)+・・・+W(n))は、バッテリ電圧検出時期(図5での時刻tVn)毎に積算されていき、供給済み電力量ΣWiが補正後目標電力量SW(0)以上になると、第1回周期でヒータへ供給すべき電力の供給が完了して、ヒータへの電圧印加が停止される。
【0101】
つまり、供給済み電力量ΣWiが補正後目標電力量SW(0)以上になるときには、供給電力残量変数SW(n−1)が単位時間供給電力量W(n)以下となり、S390で否定判定されて、ヒータへの電圧印加が停止される(S410)。
【0102】
ここで、「バッテリ電圧検出時期のうち第1回目から第n回目までにおけるヒータへの供給済み電力量ΣWi(=W(1)+W(2)+・・・+W(n))」は、実際にヒータに供給された電力量であり、この値から補正後目標電力量SW(0)を差し引いた値は、目標値を超えてヒータに供給された電力量(過剰供給電力量AW)に相当する。なお、図6では、第1回周期における過剰供給電力量AWを「AW1」として、第2回周期における過剰供給電力量AWを「AW2」として、第3回周期における過剰供給電力量AWを「AW3」として表している。
【0103】
また、図6の第1回周期に示すように、「バッテリ電圧検出時期のうち第1回目から第n−1回目までにおけるヒータへの供給済み電力量ΣWi(=W(1)+W(2)+・・・+W(n−1))」と「前回検出時の供給電力残量変数SW(n−1)」との合計値は、「補正後目標電力量SW(0)」に等しくなる。
【0104】
さらに、図6に示すように、バッテリ電圧検出時期のうち今回検出時の単位時間供給電力量W(n)から前回検出時の供給電力残量変数SW(n−1)を減算して得られる値は、補正後目標電力量SW(0)を超えてヒータに供給された電力量(過剰供給電力量AW)に相当する。
【0105】
これらのことから、S420において今回検出時の単位時間供給電力量W(n)から前回検出時の供給電力残量変数SW(n−1)を減算して得られる値は、PWM制御の今回周期において、「供給電力残量変数SW(n)の初期値SW(0)」から「供給済み電力量ΣWi(i=1〜n)」を減算して得られる過剰供給電力量AWに等しくなる。
【0106】
なお、S420での過剰供給電力量AWの演算方法としては、上記方法の他に、例えば、「バッテリ電圧検出時期のうち第1回目から第n回目までにおけるヒータへの供給済み電力量ΣWi」を算出して、供給済み電力量ΣWiから補正後目標電力量SW(0)を減算する方法を採ることも可能である。
【0107】
ところで、各単位時間帯における単位時間供給電力量W(n)は、単位時間帯の継続時間(換言すれば、実行周期TB)とヒータへの印加電圧に基づいて演算できるが、このうち、単位時間帯の継続時間は、ヒータ制御割り込み処理の実行周期TBに相当しており一定値であるが、ヒータへの印加電圧は、ノイズなどの要因によって変動する場合がある。
【0108】
これに対して、本実施形態では、ヒータ制御割り込み処理のS380において、検出したバッテリ電圧VBを用いて単位時間供給電力量W(n)を演算することから、ヒータへの印加電圧(換言すれば、バッテリ電圧VB)が変動した場合であっても、変動する電圧値に応じて単位時間帯にヒータ4へ供給された電力量を検出できる。
【0109】
よって、本実施形態のガス検出装置150によれば、ヒータ4への通電開始後にバッテリ電圧VBが変動した場合でも、ヒータ4への供給電力量に誤差が生じ難く、ヒータ4によるガスセンサ素子(G素子2、D素子3)の温度制御においてガスセンサ素子の温度が目標温度から離れるのを抑制できる。このため、ガス検出装置150は、ガスセンサ素子の温度制御における制御精度を向上できることから、温度変動によるガスセンサ素子の活性化状態の変化を抑制でき、ガス検出精度の低下を抑制することができる。
【0110】
次に、PWM制御での制御周期で過剰供給電力量AWが生じた場合に、PWM制御における次回周期での目標電力量の補正について説明する。
まず、S390で否定判定される場合において、供給済み電力量ΣWiが補正後目標電力量SW(0)に一致する場合には、ヒータへの供給電力量が目標値と等しい値に制御されたことになるが、供給済み電力量ΣWiが補正後目標電力量SW(0)よりも大きくなる場合には、ヒータへの供給電力量が目標値よりも過剰に供給されたことになる。このような場合においては、ヒータに供給された供給済み電力量ΣWiから補正後目標電力量SW(0)を差し引いた値が過剰供給電力量AWとなる。なお、上述したように、図6では、第1回周期における過剰供給電力量をAW1として表している。
【0111】
このような過剰な電力供給が生じる場合には、ヒータへの供給電力量が目標値から逸脱することになるが、前回周期の過剰供給電力量AWを用いて次回周期での目標電力量を補正することで、ヒータへの供給電力量が目標値から逸脱するのを抑制することができる。
【0112】
例えば、図6に示すように、第2回周期における目標電力量の補正に関しては、基本目標電力量Wから第1回周期の過剰供給電力量AW1を減算した値(=W−AW1)を演算して、演算結果を第2回周期における補正後目標電力量SW(0)として設定する(S320)。同様に、第3回周期における目標電力量の補正に関しては、基本目標電力量Wから第2回周期の過剰供給電力量AW2を減算した値(=W−AW2)を演算して、演算結果を第3回周期における補正後目標電力量SW(0)として設定する(S320)。
【0113】
本実施形態のガス検出装置は、このようにして目標電力量を補正することで、ある周期において供給済み電力量ΣWiが補正後目標電力量SW(0)を超えてしまい過剰供給電力量AWが生じても、次回周期での目標電力量を過剰供給電力量AWを用いて補正できるため、1周期あたりの供給電力量の平均値を基本目標電力量Wに近づけることができる。これにより、本実施形態のガス検出装置は、ヒータへの供給電力量が目標値から逸脱するのを抑制することができる。
【0114】
次に、本実施形態のガス検出装置150を用いて、バッテリ電圧の変動が生じた場合のヒータ制御精度(換言すれば、ガスセンサ素子の温度制御精度)への影響を評価した実験結果について説明する。
【0115】
実験は、測定対象ガスにおける特定ガス濃度を一定に維持した条件下で、バッテリ電圧VBを変動させた場合に、ガスセンサ素子の抵抗値が変化するか否かを判定することで、評価を行った。
【0116】
実験では、電源装置191(定格出力12[V])の出力電圧(バッテリ電圧VB)を方形波(パルス波)とすることで、バッテリ電圧VBを強制的に変動させた。このときの方形波は、電圧値をローレベル電圧(10.5[V])とハイレベル電圧(13.5[V])とに交互に切り替えることで発生させたものであり、さらに、切替周期を1[Hz]〜100[Hz]の間で変動させて発生させた波形である。なお、方形波は、300秒にわたり発生させた。
【0117】
また、比較例として、従来構成のガス検出装置を用いて実験を実施しており、従来構成では、ヒータ制御におけるバッテリ電圧の検出タイミングがPWM制御の3周期に1回の割合となるように設定されている。また、比較例における電源装置(定格出力12[V])の出力電圧(バッテリ電圧VB)は、本実施形態のガス検出装置150と同様の条件で強制的に変動させた。
【0118】
図7に従来構成のガス検出装置における実験結果を示し、図8に本実施形態のガス検出装置150における実験結果を示す。
なお、図7および図8では、G素子2の抵抗値(G素子信号)およびD素子3の抵抗値(D素子信号)に相当する信号を、マイコン内センサ信号として表している。
【0119】
また、両構成のガス検出装置でのガス検知判定処理は、上述したように、特開2005−308451号公報にて開示された処理にて実行している。
図7に示すように、従来構成のガス検出装置においては、測定対象ガスにおける特定ガス濃度が一定であるにもかかわらず、G素子信号およびD素子信号はいずれも変動しており、G素子信号およびD素子信号に基づき判断される特定ガス濃度の判定値(図7では出力レベルとして記載)が変動していることが判る。
【0120】
つまり、従来構成のガス検出装置においては、バッテリ電圧VBが短期間の繰り返し変動を生じた場合には、ヒータ制御が不安定となりガスセンサ素子の温度が変動してしまい、特定ガス濃度が変化していないにも拘わらず、センサ検出信号(本実施形態では、センサ素子の抵抗値に応じた信号)が変動してしまい、特定ガス濃度の判定精度が低下することがわかる。
【0121】
これに対して、本実施形態のガス検出装置150は、図8に示すように、バッテリ電圧VBが短期間の繰り返し変動を生じた場合であっても、G素子信号およびD素子信号はいずれもほぼ一定値を示している。このため、ガス検出装置150においては、バッテリ電圧VBが変動した場合であっても、G素子信号およびD素子信号に基づき判断される特定ガス濃度の判定結果は変化していない(図示省略)。
【0122】
以上説明したように、本実施形態のガス検出装置150は、PWM制御の1周期のうちヒータへの通電時間帯(電圧印加実行時間Ton)において、複数回にわたりバッテリ電圧VBを検出し、検出したバッテリ電圧VBに基づいてヒータ4に供給した供給済み電力量ΣWiを演算している。このため、ガス検出装置150は、ヒータ4への電圧印加中にバッテリ電圧VBが変動した場合でも、実際にヒータ4へ供給した供給済み電力量ΣWiを変動するバッテリ電圧VBに基づいて判定可能に構成されている。
【0123】
つまり、ガス検出装置150は、ヒータ4への通電開始後にバッテリ電圧VBが変動した場合でも、ヒータ4に対して実際に供給された電力量を判定できることから、ヒータ4への供給電力量を精度良く目標電力量に近づけることができる。このため、ガス検出装置150は、ヒータ4への供給電力量の誤差を小さくできることから、ヒータ4によるガスセンサ素子(G素子2、D素子3)の温度制御における制御精度を向上でき、ガスセンサ素子の温度制御が良好となる。
【0124】
このことから、ガス検出装置150は、温度変動によるガスセンサ素子の活性化状態の変化を抑制でき、特定ガス濃度が一定であるにもかかわらずセンサ抵抗値が変動するなどの現象が発生するのを防止できる。
【0125】
よって、ガス検出装置150は、ヒータ4への通電開始後にバッテリ電圧VBが変動した場合でも、ヒータ4への供給電力量に誤差が生じ難く、ヒータ4によるガスセンサ素子の温度制御における制御精度を向上できることから、温度変動によるガスセンサ素子の活性化状態の変化を抑制でき、ガス検出精度の低下を抑制することができる。
【0126】
なお、ガス検出装置150は、ヒータ制御割り込み処理を実行することで、ヒータ4への通電時間帯のうちバッテリ電圧VBの検出時期を境界として分割される単位時間帯毎に、ヒータ4に供給された単位時間供給電力量W(n)を演算している(S380)。
【0127】
また、ヒータ制御割り込み処理では、バッテリ電圧VBが検出されると(S370)、当該検出時期を終期とする単位時間帯における単位時間供給電力量W(n)が供給電力残量変数SW(n−1)よりも小さいか否かを判定する(S390)。
【0128】
そして、S390において肯定判定された場合(単位時間供給電力量W(n)が供給電力残量変数SW(n−1)よりも小さい場合)には、S400において、供給電力残量変数SW(n−1)から単位時間供給電力量W(n)を減算した値を供給電力残量変数SW(n)に再設定する。また、S390において否定判定された場合(単位時間供給電力量W(n)が供給電力残量変数SW(n−1)以上である場合)には、供給済み電力量が目標電力量以上に到達したと判定して、S410にて、ヒータへの通電を停止する。
【0129】
なお、供給電力残量変数SW(n)は、PWM制御の1周期毎に、ヒータ4への通電開始前において、S320での処理により初期値SW(0)が設定される。この初期値SW(0)は、目標電力量であって、ガス検出素子を活性化温度まで加熱するにあたり、PWM制御の1周期においてヒータ4へ供給すべき電力量である。
【0130】
つまり、ガス検出装置150は、PWM制御の1周期でヒータへ供給すべき電力量を供給電力残量変数SW(n)の初期値SW(0)として設定し、バッテリ電圧VBが検出される毎に供給電力残量変数SW(n−1)から単位時間供給電力量W(n)を減算していき、単位時間供給電力量W(n)が供給電力残量変数SW(n−1)以上になると、ヒータ4への通電を停止する構成である。
【0131】
なお、単位時間供給電力量W(n)は、ヒータ4への通電時間帯(電圧印加実行時間Ton)のうちバッテリ電圧VBの検出時期を境界として分割される単位時間帯において、実際にヒータに供給された電力量であることから、ヒータ4への通電開始後にバッテリ電圧VBが変動した場合でも、ヒータ4に対して実際に供給された電力量に応じた値となる。
【0132】
また、ガス検出装置150は、単位時間供給電力量W(n)が供給電力残量変数SW(n−1)以上になると、S390において否定判定されて、ヒータへの通電を停止するが、このときの単位時間供給電力量W(n)と供給電力残量変数SW(n−1)との差分値は、実際にヒータ4へ供給した供給済み電力量ΣWiのうち補正後目標電力量SW(0)を超過した過剰供給電力量AWに相当する。
【0133】
このため、S390において否定判定された場合に、S420において、単位時間供給電力量W(n)から供給電力残量変数SW(n−1)の値を差し引いた値を過剰供給電力量AWとして演算することで、実際にヒータ4へ供給した供給済み電力量ΣWiのうち補正後目標電力量SW(0)を超過した過剰供給電力量AWを得ることができる。
【0134】
そして、ヒータ制御割り込み処理では、前回周期の過剰供給電力量AWを用いて演算された補正後目標電力量SW(0)を用いてヒータ4への供給電力量を制御する。
これにより、ガス検出装置150は、前回周期および今回周期での供給電力量の平均値を基本目標電力量Wに近づけることができ、ヒータ4への供給電力量の誤差をより一層小さくすることができる。
【0135】
よって、ガス検出装置150によれば、実際にヒータ4へ供給した電力量が目標電力量を上回って過剰供給電力量AWが生じた場合であっても、複数の周期における平均値としての供給電力量の誤差をより一層小さくすることができ、ガスセンサ素子の温度制御における制御精度をさらに向上できる。
【0136】
なお、本実施形態においては、G素子2およびD素子3が特許請求の範囲に記載のガスセンサ素子に相当し、S140を実行するマイコン101がガス検知判定手段に相当している。
【0137】
また、ヒータ制御割り込み処理を実行するマイコン101が供給電力制御手段に相当し、バッテリ電圧VBが電源出力電圧に相当し、S370を実行するマイコン101および電圧検出回路180が電源出力電圧検出手段に相当し、S380およびS400を実行するマイコン101が供給済み電力演算手段に相当している。
【0138】
さらに、S420を実行するマイコン101が過剰供給電力量演算手段に相当し、S320を実行するマイコン101が補正後目標電力量演算手段に相当し、S380を実行するマイコン101が単位供給電力量演算手段に相当している。
【0139】
また、S320を実行するマイコン101が供給電力残量変数初期設定手段と、S390を実行するマイコン101が変数判定手段に相当し、S400を実行するマイコン101が供給電力残量変数再設定手段に相当し、S410を実行するマイコン101がヒータ通電停止手段に相当している。
【0140】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
例えば、上記の実施形態では、ヒータ制御割り込み処理の実行周期TBが「PWM制御における1周期の1/128」に設定されているが、実行周期TBは、上記数値に限定されることはなく、バッテリ電圧の変動が生じた場合でもヒータへの供給電力量を適切に目標値に制御できる範囲内で設定すればよい。例えば、実行周期TBを「PWM制御における1周期の1/100」以下に設定することで、バッテリ電圧の変動を適切に検出でき、バッテリ電圧の変動に応じてヒータへの供給電力量を適切に制御することができる。
【0141】
また、ヒータへの供給電力量、ヒータへの印加電圧、電源装置の定格出力電圧などは、上記実施形態の数値に限られることはなく、用途などに応じて他の数値を設定することも可能である。
【0142】
さらに、ヒータへの供給電力量(基本目標電力量W)は、一定値に限られることはなく、外部条件(周囲温度など)の変化に応じて設定される可変値としてもよい。
また、ガス検出装置の用途は、車両用外気導入制御システムに限られることはなく、他の用途(例えば、排気ガス制御、空燃比制御など)に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】ガス検出装置に備えられる一体型ガスセンサ素子の概略構成図である。
【図2】ガス検出装置を備える車両用外気導入制御システムの構成を表す構成図である。
【図3】通常ルーチン処理の処理内容を表すフローチャートである。
【図4】ヒータ制御割り込み処理の処理内容を表すフローチャートである。
【図5】ヒータへの印加電圧波形を表した説明図であって、上側が3周期分のパルス波形であり、下側が第1回周期における電圧印加時の拡大波形である。
【図6】PWM制御における第1回周期から第3回周期までにおける、供給済み電力量ΣWi、補正後目標電力量SW(0)、過剰供給電力量AW、基本目標電力量Wの相関関係を表した説明図である。
【図7】従来構成のガス検出装置における実験結果である。
【図8】本実施形態のガス検出装置における実験結果である。
【符号の説明】
【0144】
1…セラミック基板、2…還元性ガス用ガスセンサ素子(G素子)、3…酸化性ガス用ガスセンサ素子(D素子)、4…ヒータ、10…一体型ガスセンサ素子、100…車両用外気導入制御システム、101…マイクロコンピュータ(マイコン)、110…G素子回路、120…D素子回路、131…ヒータ回路、132…スイッチング回路、140…レギュレータ回路、150…ガス検出装置、160…電子制御アセンブリ、174…外気導入用フラップ、180…電圧検出回路、191…電源装置(バッテリ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定ガスの濃度に応じてセンサ抵抗値が変化するガスセンサ素子と、
電源装置からの電力供給により発熱して前記ガスセンサ素子を加熱するヒータと、
前記センサ抵抗値の変化に基づき測定対象ガスにおける前記特定ガスの濃度変化を判定するガス検知判定手段と、
を有するガス検出装置であって、
前記ヒータへの印加電圧のPWM制御により前記電源装置から前記ヒータへの供給電力量を制御する供給電力制御手段と、
前記PWM制御の1周期のうち前記ヒータへの通電時間帯において、前記電源装置から出力される電源出力電圧を複数回にわたり検出する電源出力電圧検出手段と、
前記PWM制御の1周期毎に、前記ヒータへの通電開始後に前記ヒータに供給された供給済み電力量を、前記電源出力電圧検出手段により検出された前記電源出力電圧に基づいて演算する供給済み電力演算手段と、
を備えており、
前記供給電力制御手段は、前記ガスセンサ素子を活性化温度に加熱するための目標電力量を前記ヒータに対して供給するにあたり、前記PWM制御の1周期毎に、前記ヒータへの通電開始後、前記供給済み電力演算手段により演算される前記供給済み電力量が前記目標電力量以上であるか否かを判断し、前記供給済み電力量が前記目標電力量以上になると、前記ヒータへの通電を停止すること、
を特徴とするガス検出装置。
【請求項2】
前記PWM制御の1周期毎に、前記ヒータへの通電開始時期から通電停止時期までの前記供給済み電力量から当該周期の目標電力量を減算した過剰供給電力量を演算する過剰供給電力量演算手段と、
予め定められた基本目標電力量から前回周期の前記過剰供給電力量を差し引いた補正後目標電力量を前記目標電力量として演算する補正後目標電力量演算手段と、
を備え、
前記供給電力制御手段は、前記ヒータへの通電開始後、前記供給済み電力演算手段により演算される前記供給済み電力量と、前記補正後目標電力量演算手段により演算された前記補正後目標電力量とを比較し、前記供給済み電力量が前記補正後目標電力量以上になると、前記ヒータへの通電を停止すること、
を特徴とする請求項1に記載のガス検出装置。
【請求項3】
前記供給済み電力演算手段は、前記ヒータへの通電時間帯のうち、前記電源出力電圧検出手段による前記電源出力電圧の検出時期を境界として分割される単位時間帯毎に、当該単位時間帯において前記ヒータに供給された単位時間供給電力量を演算する単位供給電力量演算手段を備えており、
前記供給電力制御手段は、
前記PWM制御の1周期毎に、前記ヒータへの通電開始前において、当該周期で前記ヒータに供給すべき電力量の残量を表す供給電力残量変数の初期値として前記目標電力量を設定する供給電力残量変数初期設定手段と、
前記ヒータへの通電開始後、前記電源出力電圧検出手段により前記電源出力電圧が検出されると、当該電圧検出時期を終期とする前記単位時間帯における前記単位時間供給電力量と、当該電圧検出時期に設定されている前記供給電力残量変数とを比較し、前記単位時間供給電力量が前記供給電力残量変数よりも小さいか否かを判定する変数判定手段と、
前記変数判定手段において肯定判定された場合に、前記供給電力残量変数から前記単位時間供給電力量を減算した値を前記供給電力残量変数に再設定する供給電力残量変数再設定手段と、
前記変数判定手段において否定判定された場合に、前記供給済み電力量が前記目標電力量以上であると判定して、前記ヒータへの通電を停止するヒータ通電停止手段と、
を備えること、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス検出装置。
【請求項4】
前記供給済み電力演算手段は、前記ヒータへの通電時間帯のうち、前記電源出力電圧検出手段による前記電源出力電圧の検出時期を境界として分割される単位時間帯毎に、当該単位時間帯において前記ヒータに供給された単位時間供給電力量を演算する単位供給電力量演算手段を備えており、
前記供給電力制御手段は、
前記PWM制御の1周期毎に、前記ヒータへの通電開始前において、当該周期で前記ヒータに供給すべき電力量の残量を表す供給電力残量変数の初期値として前記目標電力量を設定する供給電力残量変数初期設定手段と、
前記ヒータへの通電開始後、前記電源出力電圧検出手段により前記電源出力電圧が検出されると、当該電圧検出時期を終期とする前記単位時間帯における前記単位時間供給電力量と、当該電圧検出時期に設定されている前記供給電力残量変数とを比較し、前記単位時間供給電力量が前記供給電力残量変数よりも小さいか否かを判定する変数判定手段と、
前記変数判定手段において肯定判定された場合に、前記供給電力残量変数から前記単位時間供給電力量を減算した値を前記供給電力残量変数に再設定する供給電力残量変数再設定手段と、
前記変数判定手段において否定判定された場合に、前記供給済み電力量が前記目標電力量以上であると判定して、前記ヒータへの通電を停止するヒータ通電停止手段と、
を備え、
前記過剰供給電力量演算手段は、前記変数判定手段において否定判定された場合に、前記単位時間供給電力量から前記供給電力残量変数の値を差し引いた値を前記過剰供給電力量として演算すること、
を特徴とする請求項2に記載のガス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−309751(P2007−309751A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138043(P2006−138043)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】