説明

ガス検出装置

【課題】連続したガス検出ができるとともに、検出対象ガスの濃度によらず接触燃焼式ガスセンサの劣化度合を正確に把握できるガス検出装置を提供する。
【解決手段】ガス検出装置1は、感応素子を備える接触燃焼式ガスセンサ15を有しており、感応素子の温度が検出対象ガスを燃焼する高温にされた後に、前記感応素子の温度を、互いに異なる複数の低温駆動時間の中から選択される1つの前記低温駆動時間にわたって、検出対象ガスを燃焼しない低温にして、続いて、高温駆動時間にわたって前記高温にする。そして、感応素子の温度が高温にされる毎に、接触燃焼式ガスセンサ15の出力を測定する。そして、互いに異なる低温駆動時間が選択されたそれぞれの場合に測定された複数の接触燃焼式ガスセンサ15の出力に基づいて、低温駆動時間に対する接触燃焼式ガスセンサ15の出力の傾きを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象ガスと感応する感応素子を備えた接触燃焼式ガスセンサを有するガス検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来知られている接触燃焼式ガスセンサは、例えば、感応素子と補償素子を有し、検出対象となるガスを感応素子の触媒作用により燃焼させ、この燃焼熱を白金コイル(即ち、白金ヒータ)の抵抗値変化として捉えるように構成されている。検出対象となるガスのうちトルエンや酢酸、エタノール等のように、極性が大きく吸着力の大きなガスは、低温駆動時に、ガス分子が感応素子の触媒表面に吸着し、高温駆動時に、吸着したガスが瞬時に燃焼すると共に接触燃焼反応も同時に起こるので、センサ出力は、短時間でピークに達しその後徐々に減少するピーク波形(山形波形)を生じる。一方、メタンや水素、一酸化炭素等の無極性または極性の小さいガスは、吸着力も小さいので上記のような現象は起こらず、センサ出力は、定常値で安定するまで徐々に増加していく。
【0003】
このように、トルエン等の特定種類のガスにおいて固有のピーク波形を呈することを利用して、接触燃焼式ガスセンサを用いてガス濃度の検出やガス種の分別などのガス検出を行うことができる。このような特定種類のガスの吸着現象を利用する接触燃焼式ガスセンサは、吸着燃焼式ガスセンサとも呼ばれている。このような接触燃焼式ガスセンサ(吸着燃焼式ガスセンサを含む)は、ガス濃度検出装置やガス種別検出装置などの種々のガス検出装置において用いられている。
【0004】
上述した接触燃焼式ガスセンサの感応素子は、検出対象ガスの燃焼する際に、その表面にカーボンやシリコンなどの被毒物質が付着するとともに経時的に堆積して、この付着量(即ち、被毒量)に応じてその出力が変化(即ち、経時変化)することが知られている。そして、このような経時変化を生じたセンサについて、濃度既知の標準ガスを供給してセンサ出力を校正する技術が、例えば、特許文献1などに開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、校正に際して、該標準ガスの導入のためにガス検出動作を一時的に止める必要があるので、標準ガス導入などの作業が繁雑であるとともに、連続してガス検出ができないという問題があった。そして、このような問題を解決するガス検出装置が、本発明者らによって特許文献2に開示されている。
【0006】
特許文献2において開示されたガス検出装置は、検出対象ガスの濃度がゼロガス状態と見なせる程度に低いときに計測したエアベース濃度を用いて、予め記憶されているエアベース濃度と経時量との関係、及び、経時量とセンサ感度との関係から、接触燃焼式ガスセンサの出力の補正を行って検出対象ガスの濃度を検出するものである。このガス検出装置によれば、ガス濃度検出途中に計測したエアベース濃度を予め記憶された各関係情報に当てはめることにより、センサ感度の経時変化を求めて補正を行うので、標準ガスが不要で且つ連続してガス濃度検出することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−172695号公報
【特許文献2】特開2008−267810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2に記載されたガス検出装置では、接触燃焼式ガスセンサの劣化度合の指標として、検出対象ガスの濃度がゼロガス状態と見なせる程度に低いときに計測したエアベース濃度計測値を用いて、接触燃焼式ガスセンサの出力を補正するので、高濃度の雰囲気では補正を行うためのエアベース濃度計測値を計測することができず、そのため、接触燃焼式ガスセンサの出力の補正を行うことができず、検出対象ガスの精度が低くなってしまうという問題があった。また、接触燃焼式ガスセンサの出力の補正は、例えば、予備計測などによって予め用意されたエアベース濃度計測値と経時量との関係情報、及び、該経時量とセンサ感度との関係情報、に、計測されたエアベース濃度計測値を当てはめて取得したセンサ感度に基づいて行われるが、この計測されたエアベース濃度計測値は、環境温度、環境湿度、又は、雰囲気の流動(外風)等の環境条件の変化などによって上記感応素子の温度が変動すると、その影響を受けて共に変動してしまい、そのため、このエアベース濃度計測値を上記関係情報に当てはめたときに、劣化度合に応じたセンサ感度を正確に取得することができず、接触燃焼式ガスセンサの出力の補正に誤差が生じて、検出対象ガスの検出精度が低くなってしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に係る問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、連続したガス検出ができるとともに、検出対象ガスの濃度によらず接触燃焼式ガスセンサの劣化度合を正確に把握できるガス検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、図1の基本構成図に示すように、検出対象ガスと感応する感応素子を備えるとともに、前記感応素子の温度が前記検出対象ガスを燃焼しない低温となる低温駆動制御及び前記感応素子の温度が前記検出対象ガスを燃焼する高温となる高温駆動制御が行われる、接触燃焼式ガスセンサ15、を有するガス検出装置1において、前記感応素子の温度が前記高温にされた後に、前記接触燃焼式ガスセンサ15に、予め定められた互いに異なる複数の低温駆動時間の中から選択される1つの前記低温駆動時間にわたって前記低温駆動制御を行い、続いて、予め定められた高温駆動時間にわたって前記高温駆動制御を行う駆動制御手段61aと、前記駆動制御手段61aによって前記高温駆動制御が行われる毎に、前記接触燃焼式ガスセンサ15の出力を測定する出力測定手段61bと、前記駆動制御手段61aにおいて互いに異なる前記低温駆動時間が選択されたそれぞれの場合に、前記出力測定手段61bによって測定された複数の前記接触燃焼式ガスセンサ15の出力に基づいて、前記低温駆動時間に対する前記出力の傾きを算出する傾き算出手段61cと、を有していることを特徴とするガス検出装置である。
【0011】
請求項1に記載された発明によれば、前記感応素子の温度が前記高温にされた後の前記接触燃焼式ガスセンサに対して、前記感応素子の温度を互いに異なる複数の低温駆動時間から選択された1つの低温駆動時間にわたり前記低温にして、続いて、前記感応素子の温度を高温駆動時間にわたり前記高温にする。そして、このとき感応素子の温度が高温にされる毎に前記接触燃焼式ガスセンサの出力を測定する。そして、互いに異なる低温駆動時間が選択されたそれぞれの場合において測定された複数の前記接触燃焼式ガスセンサ出力から、前記低温駆動時間に対する前記接触燃焼式ガスセンサの出力の傾きを算出する。
【0012】
前記低温駆動時間に対する前記接触燃焼式ガスセンサの出力の傾きは、検出対象ガスの濃度にかかわらず、前記感応素子の被毒量、即ち、劣化度合に応じて一定の値になるとともに、劣化度合に応じて絶対値が大きくなるものである。また、この傾きは、例えば、2つの前記出力の差分を、これら2つの前記出力のそれぞれに対応する低温駆動時間の差分で除することで算出されるが、これら2つの前記出力を、環境条件が変化しない程度の短い時間間隔(例えば、数m秒〜数秒程度)で測定するとともに、これら2つの前記出力の差分をとることで、環境条件に係る出力分を相殺して、感応素子の劣化度合に係る出力分のみを取り出すことができる。
【0013】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記駆動制御手段61aが、前記低温駆動制御及び該低温駆動制御に続く前記高温駆動制御からなる一連の駆動制御を、前記低温駆動時間が互いに異なるように順次変更しながら連続して複数回行うことを特徴とするものである。
【0014】
請求項2に記載された発明によれば、前記感応素子の温度を低温にした後高温にする一連の動作(駆動制御)を、前記低温駆動時間が互いに異なるように順次変更しながら連続して複数回行う。
【0015】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載された発明において、前記低温駆動時間の長さが、前記感応素子に前記検出対象ガスが吸着しない長さにされていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項3に記載された発明によれば、前記低温駆動時間の長さを、前記感応素子に前記検出対象ガスが吸着しない長さにして、前記低温駆動時間に対する前記出力の傾きを算出する。
【0017】
請求項4に記載された発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載された発明において、図1の基本構成図に示すように、前記接触燃焼式ガスセンサ15における前記低温駆動時間に対する前記出力の傾きと出力補正量との関係を示す補正情報を予め記憶する補正情報記憶手段64と、前記傾き算出手段61cによって算出された前記傾き及び前記補正情報記憶手段64に記憶された前記補正情報に基づいて、前記接触燃焼式ガスセンサ15の出力を補正する出力補正手段61dと、を有していることを特徴とするものである。
【0018】
請求項4に記載された発明によれば、前記接触燃焼式ガスセンサにおける前記低温駆動時間に対する前記出力の傾きと出力補正量との関係を示す補正情報が予め記憶されており、この補正情報と算出された前記低温駆動時間に対する前記出力の傾きとに基づいて、前記接触燃焼式ガスセンサの出力を補正する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載された発明によれば、前記感応素子の温度が前記高温にされた後の前記接触燃焼式ガスセンサに対して、前記感応素子の温度を互いに異なる複数の低温駆動時間から選択された1つの低温駆動時間にわたり前記低温にして、続いて、前記感応素子の温度を高温駆動時間にわたり前記高温にして、そして、このとき感応素子の温度が前記高温にされる毎に前記接触燃焼式ガスセンサの出力を測定して、そして、互いに異なる低温駆動時間が選択されたそれぞれの場合において測定された複数の前記接触燃焼式ガスセンサ出力から、前記低温駆動時間に対する前記接触燃焼式ガスセンサの出力の傾きを算出するので、この傾きは、検出対象ガスの濃度にかかわらず、前記感応素子の被毒量、即ち、劣化度合に応じて一定の値になるとともに、劣化度合に応じて絶対値が大きくなるものであり、また、環境条件に係る前記出力を含まず且つ感応素子の劣化度合に係る前記出力のみを含むものであり、そのため、この傾きを、前記感応素子の劣化度合を示す指標として用いることで、検出対象ガスの濃度にかかわらず、該劣化度合を正確に把握することができる。また、標準ガスを用いることなく劣化度合を把握することができるので、連続してガス検出ができる。
【0020】
請求項2に記載された発明によれば、前記感応素子の温度を低温にした後高温にする一連の駆動制御を、前記低温駆動時間が互いに異なるように順次変更しながら連続して複数回行うので、互いに異なる低温駆動時間が選択されたそれぞれの場合において行われる前記接触燃焼式ガスセンサ出力の測定の間隔を短くすることができ、そのため、環境条件の変化の影響をより受けにくくすることができる。
【0021】
請求項3に記載された発明によれば、前記低温駆動時間の長さを、前記感応素子に前記検出対象ガスが吸着しない長さにして、前記低温駆動時間に対する前記出力の傾きを算出するので、吸着性を有する検出対象ガスを検出する吸着燃焼式ガスセンサの劣化度合を正確に把握することができる。
【0022】
請求項4に記載された発明によれば、前記接触燃焼式ガスセンサにおける前記低温駆動時間に対する前記出力の傾きと出力補正量との関係を示す補正情報が予め記憶されており、この補正情報と算出された前記低温駆動時間に対する前記出力の傾きとに基づいて、前記接触燃焼式ガスセンサの出力を補正するので、高精度なガス検出ができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のガス検出装置の基本構成を示す図である。
【図2】本発明のガス検出装置の一実施形態であるガス濃度検出装置を示す構成図である。
【図3】(A)、(B)及び(C)は、それぞれ、図2のガス濃度検出装置が備える吸着燃焼式ガスセンサ回路のガスセンサユニットの平面図、背面図、及び、平面図におけるA−A線に沿う断面図である。
【図4】図2のガス濃度検出装置が備えるCPUが行うガス濃度検出処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】図2のガス濃度検出装置が備えるCPUが行うガス濃度検出処理での、接触燃焼式ガスセンサの駆動制御のイメージを示す図である。
【図6】ガス検出装置における吸着燃焼式ガスセンサの時間差吸着方式での駆動制御のイメージを示す図である。
【図7】時間差吸着方式での吸着燃焼出力電圧波形の一例を示すグラフである。
【図8】時間差吸着方式での接触燃焼出力電圧波形の一例を示すグラフである。
【図9】時間差吸着方式での吸着ピーク出力電圧波形の一例を示すグラフである。
【図10】時間差吸着方式が用いられるガス検出装置を示す構成図である。
【図11】非吸着時間に対する吸着ピーク積分値の変化を示すグラフである。
【図12】図11のグラフを、オフセットして並べかえたグラフである。
【図13】非吸着時間が長いときの、吸着燃焼式ガスセンサの感応素子及び補償素子の温度変化波形並びに吸着燃焼式ガスセンサの出力を模式的に示した図である。
【図14】非吸着時間が短いときの、吸着燃焼式ガスセンサの感応素子及び補償素子の温度変化波形並びに吸着燃焼式ガスセンサの出力を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、上記低温駆動時間に対する接触燃焼式ガスセンサの出力の傾きと、該接触燃焼式ガスセンサが備える感応素子の劣化度合と、の関係について、図6〜図14を参照して説明する。
【0025】
接触燃焼式ガスセンサは、検出対象ガスと感応する感応素子を備えている。そして、この感応素子の温度が、検出対象ガスが燃焼しない低温(吸着燃焼式の場合は、検出対象ガスが吸着する低温)、及び、検出対象ガスが燃焼する高温、になるように、接触燃焼式ガスセンサの駆動制御(即ち、通電や電圧供給)が行われる。このような駆動制御によって、感応素子の温度が上記高温にされると、感応素子が備える触媒による反応によって、検出対象ガスが燃焼する。そして、この検出対象ガスの燃焼熱で白金コイル(白金ヒータ)の抵抗値が変化して、この変化量に基づきガス濃度やガス種を検出する。
【0026】
このような接触燃焼式ガスセンサは、検出対象ガスの燃焼に際し、感応素子表面にカーボンやシリコンなどの被毒物質が付着、堆積することが一般的に知られている。そして、接触燃焼式ガスセンサは、温度変化に対する応答特性を向上させるために、熱容量が小さくなるように非常に微小に形成されているが、上記被毒物質の付着量(即ち、被毒量)に応じて熱容量が大きくなり、応答特性が悪化してしまう。
【0027】
ところで、接触燃焼式ガスセンサを吸着燃焼式ガスセンサとして使用した場合においては、時間差吸着方式という制御方式を用いてガス検出が行われる。この時間差吸着方式では、図6に示すように、(1)感応素子の温度が上記低温となる低温駆動電圧を、該感応素子に検出対象ガスが吸着する吸着時間b1にわたって供給し、続いて、感応素子の温度が上記高温となる高温駆動電圧を、該感応素子に吸着した検出対象ガスが燃焼する燃焼時間B1にわたって供給し、(2)このときの燃焼時間B1における吸着燃焼式ガスセンサの出力の積分値(吸着燃焼積分値Sb)を計測し、(3)続いて、上記低温駆動電圧を、該感応素子に検出対象ガスが吸着しない非吸着時間a1(低温駆動時間に相当、非吸着時間a1は吸着時間b1より短い)にわたって供給し、続いて、上記高温駆動電圧を、該感応素子に所定の燃焼時間A1(高温駆動時間に相当、燃焼時間B1と同じ長さ)にわたって供給し、(4)このときの燃焼時間A1における吸着燃焼式ガスセンサの出力の積分値(接触燃焼積分値Sa)を計測し、(5)吸着燃焼積分値Sbから接触燃焼積分値Saを差し引いた値(吸着ピーク積分値S)を算出して、(6)この吸着ピーク積分値Sと、予備計測などによって予め取得した吸着ピーク積分値Sと検出対象ガスの濃度との関係情報と、に基づいて、検出対象ガスの濃度を求める。なお、感応素子に検出対象ガスが吸着するためには、相応の時間が必要である。そして、上述した感応素子に検出対象ガスが吸着する吸着時間とは、感応素子に検出対象ガスが吸着するのに十分な長さの時間のことであり、また、感応素子に検出対象ガスが吸着しない非吸着時間とは、上記吸着時間に満たない、感応素子に検出対象ガスが吸着するのに不十分な長さの時間のことである。
【0028】
このように、時間差吸着方式は、検出対象ガスを吸着させたときの吸着燃焼出力(吸着燃焼積分値Sb)から検出対象ガスを吸着させないときの接触燃焼出力(接触燃焼積分値Sa)を差し引くので、吸着した検出対象ガスに係るピーク出力のみをとりだすことができ、そのため、検出対象ガスの吸着燃焼に係る特徴をより明確に得ることができる。図7に、燃焼時間B1における吸着燃焼式ガスセンサの出力(吸着燃焼出力電圧Vb)の一例を示し、図8に、燃焼時間A1における吸着燃焼式ガスセンサの出力(接触燃焼出力電圧Va)の一例を示し、図9に、吸着燃焼出力電圧Vbから接触燃焼出力電圧Vaを差し引いた値(吸着ピーク出力電圧Vb−Va)の一例を示す。吸着燃焼積分値Sb、接触燃焼積分値Sa、及び、吸着ピーク積分値S、はこれらグラフの面積を求めたものである。なお、時間差吸着方式の詳細については、特許文献2等を参照されたい。
【0029】
そして、本発明者らは、接触燃焼式ガスセンサの被毒による上記応答特性の変化に着目して、図10に示すガス濃度検出装置801において、被毒程度(劣化度合)の異なる吸着燃焼式ガスセンサを適用して、濃度の異なる一種類の検出対象ガス(ここではトルエンを用いた)について、上述した時間差吸着方式における非吸着時間a1の時間を5m秒〜500m秒の間で変化させたときの吸着ピーク積分値Sを測定した。
【0030】
図10のガス濃度検出装置801は、検出対象ガスと感応する感応素子811及び検出対象ガスと感応しない補償素子812を備える吸着燃焼式ガスセンサ815と、感応素子811及び該感応素子811と直列に接続された固定抵抗器814からなるセンサ回路部810、並びに、センサ回路部810と並列接続されるとともに、補償素子812及び該補償素子812と直列接続された固定抵抗器813からなるレファレンス回路部820、で構成されたブリッジ回路802と、感応素子811の温度が検出対象ガスを吸着する低温となる低温駆動電圧、及び、感応素子811の温度が感応素子811に吸着した検出対象ガスを燃焼させる高温となる高温駆動電圧、をブリッジ回路802に順次供給する電圧供給源805と、感応素子811及び固定抵抗器814間に生じる第1電圧V1と補償素子812及び固定抵抗器813間に生じる第2電圧V2とが入力されるように、センサ回路部810の中点とレファレンス回路部820の中点とに接続されて、これら第1電圧V1と第2電圧V2との電位差Vc(即ち、吸着燃焼式ガスセンサの出力)を所定の増幅率で増幅する計装アンプ806と、計装アンプ806で増幅された上記出力をアナログ値からデジタル値に変換するA/Dコンバータ807と、A/Dコンバータ807によってデジタル値に変換された上記出力の積分値を算出して、該積分値に基づいて検出対象ガスの濃度を検出する周知のマイクロコンピュータ(MPU)860と、を備えている。ブリッジ回路802は、検出対象ガスを含まない雰囲気中において高温駆動電圧を供給されたときに、各素子の温度変化が収束した定常状態で平衡(即ち、電位差Vcが0)となるように、固定抵抗器813、814の抵抗値が定められている。吸着燃焼式ガスセンサ815として、使用期間が1月の吸着燃焼式ガスセンサ(以下、ガスセンサPという)と、このガスセンサPをさらに5ヶ月使用して、使用期間を6月とした吸着燃焼式ガスセンサ(以下、ガスセンサQという)と、を用いている。ガスセンサPは、ほぼ未使用で被毒量が少ない吸着燃焼式ガスセンサである。ガスセンサQは、被毒量が多い吸着燃焼式ガスセンサである。
【0031】
図11に、図10のガス濃度検出装置801を用いて測定した、非吸着時間a1に対する吸着ピーク積分値Sのグラフを示す。このグラフによれば、各グラフは、非吸着時間a1が20m秒付近でピークとなり、その後、なだらかに低下して一定の値に収束する傾向にある。また、被毒量が少ない吸着燃焼式ガスセンサ(ガスセンサP)と、被毒量が多い吸着燃焼式ガスセンサ(ガスセンサQ)とでは、同一濃度の検出対象ガスに対する吸着ピーク積分値Sが大きくずれている。
【0032】
そして、図11の各グラフを、20m秒のときの値が0になるようにオフセットして並べ直したときのグラフを図12に示す。なお、図12には、図11に含まれていないグラフ(濃度0.3ppm、1.3ppm)を含めている。このグラフから、20m秒〜100m秒の間において、検出対象ガスの濃度にかかわらず、ガスセンサPのグラフの傾きが、それぞれほぼ同一となり、同様に、ガスセンサQのグラフの傾きも、それぞれほぼ同一となることが判明した。また、被毒量の多いガスセンサQのグラフの傾きの絶対値は、被毒量が少ないガスセンサPのグラフの傾きの絶対値より大きくなることが判明した。これら判明した結果について、以下に説明する。
【0033】
図13(a)は、被毒量が少ないガスセンサPにおいて、非吸着時間a1を比較的長いa1TLとしたときの感応素子及び補償素子の温度変化波形並びにガスセンサPの出力を模式的に示した図であり、図13(b)は、被毒量が多いガスセンサQにおいて、非吸着時間a1をa1TLとしたときの感応素子及び補償素子の温度変化波形並びにガスセンサQの出力を模式的に示した図である。また、図14(a)は、被毒量が少ないガスセンサPにおいて、非吸着時間a1を比較的短いa1TSとしたときの感応素子及び補償素子の温度変化波形並びにガスセンサPの出力を模式的に示した図であり、図14(b)は、被毒量が多いガスセンサQにおいて、非吸着時間a1をa1TSとしたときの感応素子及び補償素子の温度変化波形並びにガスセンサQの出力を模式的に示した図である。吸着燃焼式ガスセンサの出力を決定する白金コイル(白金ヒータ)の抵抗値は温度に応じて変化するので、これら温度変化波形は、接触燃焼式ガスセンサの感応素子及び補償素子の出力の変化とみなすことができる。なお、図13、図14では、検出対象ガスの濃度がゼロであり、補償素子の熱容量が、感応素子の熱容量より大きい場合について示している。
【0034】
図13(a)において、ガスセンサPにおける吸着燃焼積分値をSb(P)TL、接触燃焼積分値をSa(P)TL、とすると、吸着ピーク積分値S(P)TLは次の式によって求められる。
S(P)TL=Sb(P)TL−Sa(P)TL・・・(1)
【0035】
同様に、図14(a)において、ガスセンサPにおける吸着燃焼積分値をSb(P)TS、接触燃焼積分値をSa(P)TS、とすると、吸着ピーク積分値S(P)TSは次の式によって求められる。
S(P)TS=Sb(P)TS−Sa(P)TS・・・(2)
【0036】
そして、これらからガスセンサPにおける非吸着時間に対する吸着ピーク積分値S(P)の傾きK(P)を求めると
K(P)=(S(P)TL−S(P)TS)/(a1TL−a1TS
=((Sb(P)TL−Sa(P)TL)−(Sb(P)TS−Sa(P)TS))
/(a1TL−a1TS)・・・(3)
ここで、図13(a)、図14(a)において、それぞれの吸着時間b1及び燃焼時間B1の波形は同一であり、つまり、それぞれの吸着燃焼積分値は同一(Sb(P)TL=Sb(P)TS)である。これにより、上記K(P)は、以下の式で表される。
K(P)=(−Sa(P)TL+Sa(P)TS)/(a1TL−a1TS)・・・(4)
【0037】
また、同様にして、図13(b)、図14(b)から、ガスセンサQにおける非吸着時間に対する吸着ピーク積分値S(Q)の傾きK(Q)は、以下の式で表される。
K(Q)=(−Sa(Q)TL+Sa(Q)TS)/(a1TL−a1TS)・・・(5)
【0038】
これら式(4)、式(5)から、傾きK(P)及び傾きK(Q)は、非吸着時間に対する接触燃焼積分値の変化として表される。
【0039】
吸着燃焼式ガスセンサの感応素子は、非吸着時間a1を長くしたとき(a1=a1TL)、被毒量にかかわらず、燃焼時間B1において高温にされた感応素子の温度が、該非吸着時間a1内で、高温から低温に下がりきることができる(図13(a)、(b))。
【0040】
その一方で、吸着燃焼式ガスセンサの感応素子は、非吸着時間a1を短くしたとき(a1=a1TS)、被毒量が少なければ熱容量が小さいので、燃焼時間B1において高温にされた感応素子の温度が、該非吸着時間a1内で高温から低温に下がりきることができる(図14(a))が、被毒量が多いと熱容量が大きくなるので、燃焼時間B1において高温にされた感応素子の温度が、該非吸着時間a1内で高温から低温まで下がりきることができず、そのため、続く燃焼時間A1において、低温より高い温度から加熱が始まって、より早く高温に到達してしまい、これにより、接触燃焼積分値Saが、非吸着時間a1を長くしたときに比べて大きく変化する(図14(b))。つまり、非吸着時間a1を短くすると、被毒量に応じて接触燃焼積分値Saが変化する。
【0041】
上記より、被毒量の少ないガスセンサPでは、非吸着時間a1を短くしても、接触燃焼積分値Saは変化しない又は変化が小さいが、被毒量の多いガスセンサQでは、非吸着時間a1を短くすると、接触燃焼積分値Saが大きく変化する。このことから、被毒量の多いガスセンサQのグラフの傾きK(Q)の絶対値が、被毒量が少ないガスセンサPのグラフの傾きK(P)の絶対値より大きくなる。
【0042】
また、上記式(4)、式(5)から、傾きK(P)、K(Q)は、非吸着時間a1が長いとき(a1=a1TL)の接触燃焼積分値SaTLと、非吸着時間a1が短いとき(a1=a1TS)の接触燃焼積分値SaTSと、用いて算出される。ここで、接触燃焼積分値SaTLと接触燃焼積分値SaTSとにそれぞれ含まれる、検出対象ガスの濃度に応じた接触燃焼に係る出力の積分値は同じであるので、これら接触燃焼積分値SaTLと接触燃焼積分値SaTSとの差分を用いることにより、濃度に応じた接触燃焼に係る出力を相殺でき、被毒量に応じた出力のみ得ることができる。このことから、検出対象ガスの濃度にかかわらず、ガスセンサPのグラフの傾きがそれぞれほぼ同一となり、同様に、ガスセンサQのグラフの傾きもそれぞれほぼ同一となり、即ち、非吸着時間a1に対する吸着ピーク積分値Sのグラフの傾きは、検出対象ガスの濃度にかかわらず、被毒量に応じて一定の値となる。
【0043】
また、同様に、これら接触燃焼積分値SaTLと接触燃焼積分値SaTSとの差分を用いることにより、環境温度、環境湿度、又は、雰囲気の流動(外風)等の環境条件の変化などの影響を相殺でき、被毒量を正確に把握することができる。なお、上記は吸着燃焼式ガスセンサについて検討したものであるが、主に接触燃焼動作に係るものであるので、非吸着動作の接触燃焼式ガスセンサについても上記と同様である。また、感応素子のみからなる接触燃焼式ガスセンサについても上記と同様である。また、上記はトルエンを用いて検証を行ったものであるが、他のガス種についても原理的には上記と同様である。
【0044】
以上より、検出対象ガスの濃度及び環境条件の変化にかかわらず、非吸着時間に対する吸着ピーク積分値S(接触燃焼積分値Sa)のグラフの所定範囲における傾きから、接触燃焼式ガスセンサの感応素子における被毒量(即ち、劣化度合)が正確に得ることができる。
【0045】
次に、本発明に係るガス検出装置の一実施形態としてのガス濃度検出装置を、図2〜図5を参照して説明する。
【0046】
ガス濃度検出装置1は、図2に示すように、ブリッジ回路2と、電圧供給源5と、計装アンプ6と、A/Dコンバータ7と、マイクロコンピュータ60と、図示しない気体収容室と、図示しない表示装置と、を備えている。
【0047】
ブリッジ回路2は、第1固定抵抗器13と、第2固定抵抗器14と、吸着燃焼式ガスセンサとしてのガスセンサユニット15と、を備えている。このガスセンサユニット15は、感応素子11と補償素子12とを備えている。そして、第2固定抵抗器14と感応素子11とを互いに直列接続することでセンサ回路部10を構成し、第1固定抵抗器13と補償素子12とを互いに直列接続することでレファレンス回路部20を構成している。また、センサ回路部10とレファレンス回路部20とを互いに並列接続することでブリッジ回路2を構成している。ブリッジ回路2における第1固定抵抗器13と第2固定抵抗器14とを接続する信号線は、電圧供給源5に接続されている。ブリッジ回路2における感応素子11と補償素子12とを接続する信号線は接地点(GND)に接続されている。
【0048】
ガスセンサユニット15は、図3(A)〜(C)に示すように、所定厚さ(例えば、400μm程度)のシリコン(Si)ウェハ41上に、所定厚さ(例えば、600nm程度)の酸化シリコン(SiO2)膜48c、所定厚さ(例えば、250nm程度)の窒化シリコン(SiN)膜48b、および所定厚さ(例えば、30nm程度)の酸化ハフニウム(HfO2)膜48aの絶縁薄膜が順次成膜され、多層絶縁膜が形成されている。
【0049】
この多層絶縁膜上に、感応素子11として、所定厚さ(例えば、250nm程度)の第1のヒータとしての白金(Pt)ヒータ42(即ち、白金コイル)が形成されていると共に、この白金ヒータ42と熱的に接触するとともに、触媒物質として、例えば、検出対象ガスを吸着及び燃焼させるパラジウム(Pd)などの白金族を担持した酸化アルミニウム(Al23)からなる触媒層43が所定厚さ(例えば、1〜40μm程度)で形成されている。
【0050】
また、多層絶縁膜上には、補償素子12として、所定厚さ(例えば、250nm程度)の第2のヒータとしての白金(Pt)ヒータ44(即ち、白金コイル)と、この白金ヒータ44と熱的に接触する酸化アルミニウム(Al23)のみからなる非触媒層45が所定厚さ(例えば、1〜40μm程度)で形成されている。
【0051】
また、図3(C)に示すように、シリコンウェハ41を異方性エッチングして、感応素子11及び補償素子12に対応する位置に凹部46、47を形成し、それにより、上述の各絶縁薄膜による薄膜ダイヤフラムDsおよびDrが形成されている。
【0052】
感応素子11及び補償素子12は、検出対象ガスを含まない雰囲気中において、後述する電圧供給源5によって低温駆動電圧及び高温駆動電圧が供給されたのちにそれらの温度変化が収束した定常状態では、感応素子11の白金ヒータ42と補償素子12の白金ヒータ44とが同一の抵抗値となるように形成されている。
【0053】
また、感応素子11は触媒層43を備えているとともに、補償素子12は非触媒層45を備えている(即ち、触媒を備えていない)ので、電圧供給源5によってブリッジ回路2(センサ回路部10及びレファレンス回路部20)に所定の低温駆動電圧が供給されると、感応素子11では検出対象ガスが触媒層43に吸着され、その一方で、補償素子12では検出対象ガスが非触媒層45に吸着されず、そして、電圧供給源5によってブリッジ回路2に所定の高温駆動電圧が供給されると、感応素子11では触媒により検出対象ガスが燃焼し、その一方で、補償素子12では検出対象ガスが燃焼しない。即ち、感応素子11は検出対象ガスと感応し、補償素子12は検出対象ガスと感応しない。
【0054】
このため、感応素子11及び補償素子12は、検出対象ガスを含む雰囲気中において、電圧供給源5によって低温駆動電圧が供給されたのちに高温駆動電圧が供給されると、感応素子11に吸着した検出対象ガスが爆発的に燃焼する。すると、この燃焼エネルギーにより感応素子11の温度が補償素子12の温度より高くなり、感応素子11と補償素子12とのそれぞれに検出対象ガスの濃度に応じた温度差が生じて、この温度差によって感応素子11の白金ヒータ42と補償素子12の白金ヒータ44との抵抗値に差が生じる。そして、この抵抗値の差が、第2固定抵抗器14及び感応素子11間(即ち、センサ回路部10の中点)と第1固定抵抗器13及び補償素子12間(即ち、レファレンス回路部20の中点)との間、つまり、ブリッジ回路2における一対の中点間に、電位差として現れる。この一対の中点間の電位差を「中点電位差Vc」といい、この中点電位差Vcに基づいてガス濃度が検出される。この中点電位差Vcが、ガスセンサユニット15の出力となる。
【0055】
ガスセンサユニット15は、図示しない気体収容室内に設置されている。この気体収容室には、検出対象ガスの濃度を検出する雰囲気(被検ガス)が、後述するマイクロコンピュータ60の制御によって充填される。
【0056】
第1固定抵抗器13及び第2固定抵抗器14は、予め定められた固定値の電気抵抗を生じる周知の電子部品である。第1固定抵抗器13及び第2固定抵抗器14は、複数の固定抵抗器を直列、並列、または、直列及び並列に組み合わせて構成してもよく、或いは、ガス濃度測定時に抵抗値を固定して用いるものであれば、例えば、平衡調整のためなどに抵抗値を変更できる、可変抵抗器であってもよい。第1固定抵抗器13及び第2固定抵抗器14は、検出対象ガスを含まない雰囲気中において、これら第1固定抵抗器13、第2固定抵抗器14及びガスセンサユニット15で構成されたブリッジ回路2に電圧供給源5によって高温駆動電圧が供給されたときに、感応素子11の温度及び補償素子12の温度の変化が収束した定常状態で平衡となるように、即ち、一対の中点間に生じる中点電位差Vcが0となるように、それぞれの抵抗値が定められている。本実施形態においては、第1固定抵抗器13の抵抗値が200Ω、第2固定抵抗器14の抵抗値が200Ωに設定されている。
【0057】
感応素子11の抵抗値をRs、補償素子12の抵抗値をRr、第1固定抵抗器13の抵抗値をR1、第2固定抵抗器14の抵抗値をR2、ブリッジ回路2への供給電圧をVbrg、とすると、上記中点電位差Vcは、以下の式(6)で表される。
【0058】
Vc=((Rs/(R2+Rs))−(Rr/(R1+Rr)))×Vbrg・・(6)
【0059】
電圧供給源5は、ブリッジ回路2に所定の電圧を供給する電圧供給回路である。電圧供給源5は、後述するMPU60に接続されるとともに、該MPU60からの電圧制御信号に応じて、感応素子11の温度が検出対象ガスを吸着する低温(例えば、200度)となる低温駆動電圧、及び、感応素子11の温度が感応素子11に吸着した検出対象ガスを燃焼させる高温(例えば、400度)となる高温駆動電圧、などのパルス状の供給電圧Vbrgをブリッジ回路2に供給する。即ち、低温駆動制御として上記低温駆動電圧を供給し、高温駆動制御として上記高温駆動電圧を供給する。また、本実施形態では、電圧供給源によって電圧を供給して、接触燃焼式ガスセンサとしてのガスセンサユニット15を駆動するものであるが、これに限らず、例えば、電流源などによって感応素子の温度が低温又は高温になるような電流を通電して、ガスセンサユニット15を駆動するものであってもよい。
【0060】
計装アンプ6は、差動入力・シングルエンド出力の平衡入力アンプであり、同相信号除去比(CMRR)を大きくとれるという特徴を有する周知の増幅器である。計装アンプ6は、それぞれ高インピーダンスの一対の差動入力端子に入力された信号の電位差を、所定の増幅率で増幅して出力する。計装アンプ6の差動入力端子の一方(V+)には、センサ回路部10の第2固定抵抗器14及び感応素子11間(中点)の信号線が接続されており、他方(V−)には、レファレンス回路部20の第1固定抵抗器13及び補償素子12間(中点)の信号線が接続されている。つまり、計装アンプ6は、センサ回路部10の中点の電位(以下、「第1電圧V1」という)と、レファレンス回路部20の中点の電位(以下、「第2電圧V2」という)と、が入力されて、これら第1電圧V1と第2電圧V2の電位差(即ち、中点電位差Vc)を、所定の増幅率で増幅して出力端子から出力する。
【0061】
A/Dコンバータ7は、入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する周知のアナログ−デジタル変換器である。A/Dコンバータ7の入力部には、計装アンプ6において増幅された中点電位差Vcが入力される。また、A/Dコンバータ7の出力部は、MPU60に接続されており、デジタル信号に変換された中点電位差VcがMPU60に向けて出力される。
【0062】
マイクロコンピュータ(MPU)60は、周知のように、予め定めたプログラムに従って各種の処理や制御などを行う中央演算処理装置(CPU)61、CPU61のためのプログラムや各種パラメータを格納した読み出し専用のメモリであるROM62、各種データを格納するとともにCPU61の処理作業に必要な領域を有する読み出し書き込み自在のメモリであるRAM63、及び、電力供給が断たれた場合でも、格納された各種データの保持が可能であり、CPU61の処理作業に必要な各種格納エリアを有するEEPROM64等を備えている。
【0063】
ROM62には、CPU61を、駆動制御手段、出力測定手段、傾き算出手段、故障通知手段、出力補正手段等の各種手段として機能させるプログラムが予め記憶されている。CPU61は、ROM62に格納された各種プログラムを実行することにより、駆動制御手段、出力測定手段、傾き算出手段、故障通知手段、出力補正手段等の各種手段として機能する。
【0064】
RAM63には、吸着ピーク積分値算出回数n、吸着燃焼積分値Sb、接触燃焼積分値SaTS、接触燃焼積分値SaTL、吸着ピーク積分値STS、吸着ピーク積分値STLなどを格納する領域が設けられている。EEPROM64には、吸着時間b1、燃焼時間B1、非吸着時間a1TS、非吸着時間a1TL(a1TS<a1TL)、燃焼時間A1(A1=B1)、故障判定値F、補正情報J、濃度情報D、サンプリング間隔時間、低温駆動電圧値、高温駆動電圧値など、が予め記憶されている。EEPROM64に記憶された上記各種データは、検出対象ガスの種類などに応じて適宜書き換えられる。なお、EEPROM64は、請求項中の補正情報記憶手段に相当する。
【0065】
MPU60は、図示しない入出力ポートや各種インタフェース機能を備えた外部接続部をさらに備えている。MPU60は、この外部接続部を介して、A/Dコンバータ7及び電圧供給源5と接続されている。MPU60は、A/Dコンバータ7からデジタル信号に変換された中点電位差Vcを受信して、この中点電位差Vcに基づいて、ガス濃度を検出する。MPU60は、処理に応じて、例えば、所定の低温駆動時間(吸着時間b1、非吸着時間a1TS、a1TL)にわたって低温駆動電圧を供給(即ち、低温駆動制御)した後、所定の高温駆動時間(燃焼時間B1、燃焼時間A1)にわたって高温駆動電圧を供給(即ち、高温駆動制御)するように、電圧供給源5に向けて電圧制御信号を送信する。
【0066】
また、MPU60は、この外部接続部を介して、図示しない表示装置に接続されており、例えば、検出した検出対象ガスの濃度に関する情報を含む表示制御信号を、該表示装置に向けて送信する。また、MPU60は、この外部接続部を介して、ガスセンサユニット15の故障情報を含む表示制御信号を、該表示装置に向けて送信する。そして、表示装置は、この表示制御信号に応じた情報、即ち、検出対象ガスの濃度、又は、ガスセンサユニット15の故障通知メッセージ、などを表示する。また、MPU60は、この外部接続部を介して、ポンプなどを備えた気体収容室に接続されており、処理に応じて各種気体を該気体収容室に充填する。
【0067】
次に、上述したCPU61が実行する本発明に係る処理(ガス濃度検出処理)の一例を、図4に示すフローチャートを参照して、以下に説明する。
【0068】
ガス濃度検出装置1に電源が投入されると、CPU61は、気体収容室内に検出対象ガスの濃度を検出する雰囲気(被検ガス)を充填した後、その処理をステップS110に進める。
【0069】
ステップS110では、RAM63上に設けられた各種変数を初期化する(吸着ピーク積分値算出回数n=0、吸着燃焼積分値Sb=0、接触燃焼積分値SaTS=0、接触燃焼積分値SaTL=0)。そして、ステップS120に進む。
【0070】
ステップS120では、電圧供給源5に対して、ブリッジ回路2に低温駆動電圧を供給するための電圧制御信号を送信する。そして、ステップS130に進む。
【0071】
ステップS130では、ステップS120で電圧制御信号を送信してからEEPROM64に予め設定された吸着時間b1(例えば、60秒)が経過するまで待ち(S130でN)、そして、吸着時間b1が経過した後、ステップS140に進む(S130でY)。
【0072】
ステップS140では、電圧供給源5に対して、ブリッジ回路2に、高温駆動電圧を供給するための電圧制御信号を送信する。そして、ステップS150に進む。
【0073】
ステップS150では、計装アンプ6で増幅されるとともにA/Dコンバータ7でデジタル信号に変換された中点電位差Vcを取得して、この中点電位差VcをRAM63上に設けた吸着燃焼積分値Sbに積算する。その後、所定のサンプリング間隔時間(例えば、1m秒)が経過するまで待つ。そして、サンプリング間隔時間が経過した後、ステップS160に進む。
【0074】
ステップS160では、ステップS140で電圧制御信号を送信してからEEPROM64に予め設定された燃焼時間B1(例えば、400m秒)が経過するまで、ステップS150での吸着燃焼積分値Sbの積算を繰り返し(S160でN)、そして、燃焼時間B1が経過した後、ステップS170に進む(S160でY)。
【0075】
以下、ステップS170〜S230までのループ処理において、1回目のループ処理で、非吸着時間a1が短い(a1TS)ときの接触燃焼積分値SaTS及び吸着ピーク積分値STSを算出し、2回目のループ処理で、非吸着時間が長い(a1TL)ときの接触燃焼積分値SaTL及び吸着ピーク積分値STLを算出する。ステップS180、S200、S210、及び、S220では、ループ処理回数、即ち、吸着ピーク積分値算出回数nに応じた処理が行われる。
【0076】
ステップS170では、電圧供給源5に対して、ブリッジ回路2に低温駆動電圧を供給するための電圧制御信号を送信する。そして、ステップS180に進む。
【0077】
吸着ピーク積分値算出回数n=0(1回目のループ処理)のとき、ステップS180では、ステップS170で電圧制御信号を送信してからEEPROM64に予め設定された非吸着時間a1TS(例えば、20m秒)が経過するまで待ち(S180でN)、そして、非吸着時間a1TSが経過した後、ステップS190に進む(S180でY)。吸着ピーク積分値算出回数n=1(2回目のループ処理)のとき、ステップS180では、ステップS170で電圧制御信号を送信してからEEPROM64に予め設定された非吸着時間a1TL(例えば、100m秒)が経過するまで待ち(S180でN)、そして、非吸着時間a1TLが経過した後、ステップS180に進む(S180でY)。なお、非吸着時間a1TS、及び、非吸着時間a1TLの値は、ガス検出装置の構成や検出対象ガスの種類などに応じて、ガス濃度にかかわらず感応素子11の被毒量について傾きK(後述)が一定となる所定の範囲内になるように適宜定められる。
【0078】
ステップS190では、電圧供給源5に対して、ブリッジ回路2に、高温駆動電圧を供給するための電圧制御信号を送信する。そして、ステップS200に進む。
【0079】
吸着ピーク積分値算出回数n=0(1回目のループ処理)のとき、ステップS200では、計装アンプ6で増幅されるとともにA/Dコンバータ7でデジタル信号に変換された中点電位差Vcを取得して、この中点電位差VcをRAM63上に設けた接触燃焼積分値SaTSに積算する。その後、所定のサンプリング間隔時間(例えば、1m秒)が経過するまで待つ。そして、サンプリング間隔時間が経過した後、ステップT210に進む。吸着ピーク積分値算出回数n=1(2回目のループ処理)のとき、ステップS200では、計装アンプ6で増幅されるとともにA/Dコンバータ7でデジタル信号に変換された中点電位差Vcを取得して、この中点電位差VcをRAM63上に設けた接触燃焼積分値SaTLに積算する。その後、所定のサンプリング間隔時間(例えば、1m秒)が経過するまで待つ。そして、サンプリング間隔時間が経過した後、ステップT210に進む。
【0080】
吸着ピーク積分値算出回数n=0(1回目のループ処理)のとき、ステップS210では、ステップS190で電圧制御信号を送信してからEEPROM64に予め設定された燃焼時間A1(例えば、400m秒)が経過するまで、ステップS200での接触燃焼積分値SaTSの積算を繰り返し(S210でN)、そして、燃焼時間A1が経過した後、ステップS220に進む(S210でY)。吸着ピーク積分値算出回数n=1(2回目のループ処理)のとき、ステップS210では、ステップS190で電圧制御信号を送信してからEEPROM64に予め設定された燃焼時間A1(例えば、400m秒)が経過するまで、ステップS200での接触燃焼積分値SaTLの積算を繰り返し(S210でN)、そして、燃焼時間A1が経過した後、ステップS220に進む(S210でY)。
【0081】
吸着ピーク積分値算出回数n=0(1回目のループ処理)のとき、ステップS220では、吸着燃焼積分値Sbから接触燃焼積分値SaTSを差し引いた値をRAM63上に設けた吸着ピーク積分値STSに格納する。そして、吸着ピーク積分値算出回数nを1増加した後、ステップS230に進む。吸着ピーク積分値算出回数n=1(2回目のループ処理)のとき、ステップS220では、吸着燃焼積分値Sbから接触燃焼積分値SaTLを差し引いた値をRAM63上に設けた吸着ピーク積分値STLに格納する。そして、吸着ピーク積分値算出回数nを1増加した後、ステップS230に進む。
【0082】
ステップS230では、吸着ピーク積分値算出回数nが2でないとき、ステップS170に戻り、接触燃焼積分値Sa及び吸着燃焼積分値Sbの算出処理を再度行い(S230でN)、吸着ピーク積分値算出回数nが2のとき、ステップS240に進む(S230でY)。
【0083】
ステップS240では、非吸着時間a1に対する吸着ピーク積分値Sの傾きK(即ち、非吸着時間a1に対する接触燃焼積分値Saの傾きK)を算出する。具体的には、吸着ピーク積分値STSから吸着ピーク積分値STLを差し引いた差分値(実質的には、接触燃焼積分値SaTSから接触燃焼積分値SaTLを差し引いた差分値)を傾きKとしている。数学的には、傾きKは、吸着ピーク積分値STSから吸着ピーク積分値STLを差し引いた差分値ΔSを、非吸着時間a1TSから非吸着時間a1TLを差し引いた差分値Δa1で除して算出する必要があるが、傾きは単位時間当たりの変化量であるので、差分値Δa1を単位時間として、後述する故障判定値F及び補正情報Jにおいてもこの差分値Δa1を単位時間とすることで、ΔSを傾きKとみなすことができる。もちろん、ΔSをΔa1で除した値を傾きとして用いてもよい。そして、ステップS250に進む。
【0084】
ステップS250では、ステップS240で算出した傾きKと、予め設定された故障判定値Fとを比較して、傾きKが故障判定値F以上のとき(即ち、故障条件を満足するとき)、ガスセンサユニット15に故障が生じたものとしてステップS260に進み(S250でY)、傾きKが故障判定値F未満のとき、吸着燃焼式ガスセンサは故障がなく正常なものとしてステップS270に進む(S250でN)。
【0085】
ステップS260では、ガスセンサユニット15に故障が生じたことを示す故障情報を含む表示制御信号を生成して、表示装置に対して送信する。そして、本フローチャートを終了する。
【0086】
ステップS270では、吸着ピーク積分値STL(即ち、ガスセンサユニット15の出力)を補正する。具体的には、EEPROM64には、例えば、予備測定やシミュレーションなどによって予め取得された、傾きKと吸着ピーク積分値STLの補正量Hとの関係についての変換テーブルである、補正情報Jが格納されており、この補正情報JにステップS240で算出した傾きKを当てはめて得た補正量Hを、吸着ピーク積分値STLに加算する。または、補正情報Jを、傾きKに対する吸着ピーク積分値STLの補正係数Iとし、この補正係数Iを、吸着ピーク積分値STLに乗じる等して補正してもよい。そして、ステップS280に進む。
【0087】
ステップS280では、ステップS270で補正した吸着ピーク積分値STLを、EEPROM64上に予め格納された、予備測定やシミュレーションなどによって取得された吸着ピーク積分値STLとガス濃度の関係についての変換テーブルである濃度情報Dに当てはめて、被検ガス中の検出対象ガスのガス濃度を求め、このガス濃度についての情報を含む表示制御信号を生成して、表示装置に対して送信する。そして、本フローチャートの処理を終了する。
【0088】
上述したステップS170、S180、S190、S210が、請求項中の駆動制御手段に相当し、ステップS200が、請求項中の出力測定手段に相当し、ステップS240が、請求項中の傾き算出手段に相当し、ステップS250、S260が、故障通知手段に相当し、ステップS270が、請求項中の出力補正手段に相当する。
【0089】
次に、上述したガス濃度検出装置1における本発明に係る動作(作用)について説明する。
【0090】
ガス濃度検出装置1は、気体収容室内に被検ガスを充填した後、各種変数を初期化する(S110)。そして、ガスセンサユニット15に対して、吸着時間b1にわたって低温駆動制御を行い(S120、S130)、続いて、燃焼時間B1にわたって高温駆動制御を行う(S140、S160)。このとき、燃焼時間B1におけるガスセンサユニット15の出力を取得して吸着燃焼積分値Sbを算出する(S150)。
【0091】
そして、ガスセンサユニット15に対して、比較的短い非吸着時間a1TSにわたって低温駆動制御を行い(S170、S180)、続いて、燃焼時間A1にわたって高温駆動制御を行う(S190、S210)。このとき、燃焼時間A1におけるガスセンサユニット15の出力を取得して接触燃焼積分値SaTSを算出する(S200)。そして、吸着燃焼積分値Sbから接触燃焼積分値SaTSを差し引いて、吸着ピーク積分値STSを算出する(S220)。
【0092】
そして、上記吸着ピーク積分値STSの算出に続いて、ガスセンサユニット15に対して、比較的長い非吸着時間a1TLにわたって低温駆動制御を行い(S170、S180)、続いて、燃焼時間A1にわたって高温駆動制御を行う(S190、S210)。このとき、燃焼時間A1におけるガスセンサユニット15の出力を取得して接触燃焼積分値SaTLを算出する(S200)。そして、吸着燃焼積分値Sbから接触燃焼積分値SaTLを差し引いて、吸着ピーク積分値STLを算出する(S220)。
【0093】
そして、上記算出した吸着ピーク積分値STSと吸着ピーク積分値STLと(即ち、接触燃焼積分値SaTSと接触燃焼積分値SaTLと)から傾きKを算出する(S240)。そして、この傾きKに基づいて、ガスセンサユニット15の故障の有無を判定し、故障ありと判定すると(S250でY)、表示装置に故障の旨を表示し(S260)、故障なしと判定すると(S250でN)、吸着ピーク積分値STLを補正したのち(S270)、この補正した吸着ピーク積分値STLに基づいて、ガス濃度を求めて、表示装置に出力する(S280)。このようにして、ガス濃度検出装置1におけるガス濃度検出が行われる。図5に、上記ガス濃度検出処理でのガスセンサユニット15の駆動制御のイメージを示す。つまり、本実施形態では、非吸着時間a1にわたる低温駆動制御及び該低温駆動制御に続き燃焼時間A1にわたる高温駆動制御からなる一連の駆動制御を、非吸着時間a1が互いに異なるように順次変更しながら連続して2回行う。
【0094】
以上より、本実施形態によれば、感応素子11の温度が前記高温にされた後のガスセンサユニット15に対して、感応素子11の温度を互いに異なる複数の非吸着時間a1TS、a1TLから選択された1つの非吸着時間a1にわたり前記低温にして、続いて、感応素子11の温度を燃焼時間A1にわたり前記高温にする。そして、このときの感応素子11の温度が高温にされる毎に接触燃焼積分値SaTS、SaTL(即ち、ガスセンサユニット15の出力)を測定する。そして、互いに異なる非吸着時間a1TS、a1TLが選択されたそれぞれの場合において測定された複数の接触燃焼積分値SaTS、SaTLから、非吸着時間a1に対する接触燃焼積分値Saの傾きKを算出する。
【0095】
この傾きKは、検出対象ガスの濃度にかかわらず、感応素子11の被毒量、即ち、劣化度合に応じて一定の値になるとともに、劣化度合に応じて絶対値が大きくなるものである。また、この傾きKは、2つの接触燃焼積分値SaTS、SaTLの差分をとることで算出されるが、これら2つの接触燃焼積分値SaTS、SaTLは短い時間間隔(数m秒〜数百m秒)で測定されるものであり、そして、これら2つの接触燃焼積分値SaTS、SaTLの差分をとることで、環境条件に係る接触燃焼積分値を相殺して、感応素子11の劣化度合に係る接触燃焼積分値のみを取り出すことができる。
【0096】
また、感応素子11の温度を低温にした後高温にする一連の動作(駆動制御)を、非吸着時間a1が互いに異なるように順次変更しながら連続して複数回行う。
【0097】
また、非吸着時間a1の長さを、感応素子11に検出対象ガスが吸着しない長さ(非吸着時間a1TS、a1TL)にして、この非吸着時間a1に対する接触燃焼積分値Saの傾きKを算出する。
【0098】
また、ガスセンサユニット15における非吸着時間a1に対する接触燃焼積分値Saの傾きKと吸着ピーク積分値STLの補正量H(即ち、出力補正量)との関係を示す補正情報Jが予め記憶されており、この補正情報Jと算出された傾きKとに基づいて、吸着ピーク積分値STL(即ち、ガスセンサユニット15の出力)を補正する。
【0099】
また、算出された傾きKが予め定められた故障条件を満たすとき、ガスセンサユニット15の故障を通知する。
【0100】
以上より、本発明によれば、感応素子11の温度が前記高温にされた後のガスセンサユニット15に対して、感応素子11の温度を互いに異なる複数の非吸着時間a1TS、a1TLから選択された1つの非吸着時間a1にわたり前記低温にして、続いて、感応素子11の温度を燃焼時間A1にわたり前記高温にして、そして、このとき感応素子11の温度が高温にされる毎に接触燃焼積分値SaTS、SaTL(即ち、ガスセンサユニット15の出力)を測定して、そして、互いに異なる非吸着時間a1TS、a1TLが選択されたそれぞれの場合において測定された複数の接触燃焼積分値SaTS、SaTLから、非吸着時間a1に対する接触燃焼積分値Saの傾きKを算出するので、この傾きKは、検出対象ガスの濃度にかかわらず、感応素子11の被毒量、即ち、劣化度合に応じて一定の値になるとともに、劣化度合に応じて絶対値が大きくなるものであり、また、環境条件に係る接触燃焼積分値分を含まず且つ感応素子11の劣化度合に係る接触燃焼積分値分のみを含むものであり、そのため、この傾きKを、感応素子11の劣化度合を示す指標として用いることで、検出対象ガスの濃度にかかわらず、該劣化度合を正確に把握することができる。また、標準ガスを用いることなく劣化度合を把握することができるので、連続してガス検出ができる。
【0101】
また、感応素子11の温度を低温にした後高温にする一連の動作を、非吸着時間a1が互いに異なるように順次変更しながら連続して複数回行うので、互いに異なる非吸着時間a1TS、a1TLが選択されたそれぞれの場合において行われる接触燃焼積分値SaTS、SaTLの測定の間隔を短くすることができ、そのため、環境条件の変化の影響をより受けにくくすることができる。
【0102】
また、非吸着時間a1を、感応素子11に前記検出対象ガスが吸着しない長さ(非吸着時間a1TS、a1TL)にして、非吸着時間a1に対する接触燃焼積分値Saの傾きKを算出するので、吸着性を有する検出対象ガスを検出するガスセンサユニット15の劣化度合を正確に把握することができる。
【0103】
また、ガスセンサユニット15における傾きKと吸着ピーク積分値STLの補正量Hとの関係を示す補正情報Jが予め記憶されており、この補正情報Jと算出された傾きKとに基づいて、吸着ピーク積分値STLを補正するので、高精度なガス検出ができる。
【0104】
また、算出された傾きKが予め定められた故障条件を満たすとき、ガスセンサユニット15の故障を通知するので、ガスセンサユニット15の故障を検出して、故障したガスセンサユニット15が継続使用されることを防止できる。
【0105】
また、ガス濃度検出動作の都度、傾きKを算出して、この算出した傾きKを用いて吸着ピーク積分値STLを補正するので、一定周期毎に傾きKを算出するような構成に比べて、リアルタイムでガスセンサユニット15の劣化度合を把握でき、より高精度なガス濃度検出ができる。
【0106】
本実施形態においては、2つの非吸着時間a1TS、非吸着時間a1TLについて、吸着ピーク積分値STS、吸着ピーク積分値STLを求め、これら傾きKを算出するものであったが、これに限らず、3つ以上の互いに異なる複数の非吸着時間a1について、吸着ピーク積分値S(即ち、接触燃焼積分値Sa)を求め、最小二乗法などを用いてこれらの傾きKを算出するようにしてもよい。傾きKの算出に用いる接触燃焼積分値Saをより増やすことで、傾きKの精度を向上させることができる。
【0107】
また、本実施形態においては、1つの吸着燃焼積分値Sbを測定した後に、連続して2つの接触燃焼積分値SaTS、SaTLを測定して、これらから2つの吸着ピーク積分値STS、STL、を算出して、これら2つの吸着ピーク積分値STS、STLから傾きKを算出するものであったが、これに限られるものではない。例えば、図6に示す駆動制御を2回行い、1回目の駆動制御で、吸着燃焼積分値Sb1とそれに続く接触燃焼積分値Sa1とを算出して、これらから吸着ピーク積分値S1を算出し、そして、2回目の駆動制御で、吸着燃焼積分値Sb2とそれに続く接触燃焼積分値Sa2とを算出して、これらから吸着ピーク積分値S2を算出し、最後に、吸着ピーク積分値S1と吸着ピーク積分値S2とから傾きKを算出するなど、感応素子11の温度が前記高温にされた後に、前記接触燃焼式ガスセンサに、予め定められた互いに異なる複数の非吸着時間a1n(n=1、2、・・、k、・・、l、・・、n;k≠l)中から選択される1つの低温駆動時間a1k、及び、低温駆動時間a1lにわたって低温駆動制御を行い、続いて、予め定められた燃焼時間A1にわたって高温駆動制御を行い、そして、このとき高温駆動制御が行われる毎に、接触燃焼積分値Sak、Salを測定して、そして、互いに異なる非吸着時間a1k、a1lが選択されたそれぞれの場合に測定した、複数の接触燃焼積分値Sak、Salに基づいて、非吸着時間a1に対する接触燃焼積分値Saの傾きKを算出するものであれば、傾きKの算出方法は任意である。この場合、接触燃焼積分値Sak、及び、接触燃焼積分値Sal、の算出間隔が短いほど、環境条件の変化の影響を防ぐことができる。
【0108】
また、本実施形態においては、傾きKに基づいて故障を通知する機能(図4のフローチャートのステップS250、S260;故障通知手段)、及び、傾きKに基づいて吸着ピーク積分値Sを補正する機能(図4のフローチャートのステップS270;出力補正手段)、を共に備えるものであったが、これに限らず、どちらか一方の機能のみ備えるものであってもよく、または、これら機能に代えて、傾きKに基づいて、ガスセンサユニット15の劣化度合を通知する機能などを備えるものであってもよい。
【0109】
また、本実施形態においては、算出した傾きKに基づいて、ガスセンサユニット15の出力としての吸着ピーク積分値STLを補正するものであったが、これに限らず、算出した傾きKに基づいて、吸着ピーク積分値STSを補正してもよく、または、例えば、算出した傾きKに基づいて、計装アンプ6の出力オフセット機能などによりハードウェア的にガスセンサユニット15の出力を補正するなど、本発明の目的に反しない限り、その補正方法は任意である。
【0110】
また、本実施形態においては、補正情報JがEEPROM64に記憶されているものであったが、これに限らず、例えば、ROM62や、外部記憶装置(外付ハードディスク装置、CD−ROM等)に記憶されるなど、本発明の目的に反しない限り、補正情報Jを記憶する記憶手段は任意である。
【0111】
また、本実施形態では、吸着燃焼式ガスセンサとしてのガスセンサユニット15を備えるものであったが、これに限らず、非吸着燃焼を行う接触燃焼式ガスセンサを備えるものであってもよい。但し、この接触燃焼式ガスセンサの場合は、吸着燃焼しないので、吸着燃焼積分値Sbは算出せずに上記接触燃焼積分値Saのみ算出して、この接触燃焼積分値Saから傾きKを算出するようにする。
【0112】
また、本実施形態は検出対象ガスの濃度を検出するものであったが、これに限らず、本発明は、成分不明の被検ガスに含まれるガスの種別を検出するガス種別検出装置など、他の種類のガス検出装置に適用してもよい。
【0113】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 ガス濃度検出装置(ガス検出装置)
2 ブリッジ回路
5 電圧供給源
6 計装アンプ
11 感応素子
12 補償素子
15 ガスセンサユニット(吸着燃焼式ガスセンサ、接触燃焼式ガスセンサ)
60 MPU
61 CPU(駆動制御手段、出力測定手段、傾き算出手段、出力補正手段)
64 EEPROM(補正情報記憶手段)
a1 非吸着時間(低温駆動時間)
A1 燃焼時間(高温駆動時間)
b1 吸着時間
B1 燃焼時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象ガスと感応する感応素子を備えるとともに、前記感応素子の温度が前記検出対象ガスを燃焼しない低温となる低温駆動制御及び前記感応素子の温度が前記検出対象ガスを燃焼する高温となる高温駆動制御が行われる、接触燃焼式ガスセンサ、を有するガス検出装置において、
前記感応素子の温度が前記高温にされた後に、前記接触燃焼式ガスセンサに、予め定められた互いに異なる複数の低温駆動時間の中から選択される1つの前記低温駆動時間にわたって前記低温駆動制御を行い、続いて、予め定められた高温駆動時間にわたって前記高温駆動制御を行う駆動制御手段と、
前記駆動制御手段によって前記高温駆動制御が行われる毎に、前記接触燃焼式ガスセンサの出力を測定する出力測定手段と、
前記駆動制御手段において互いに異なる前記低温駆動時間が選択されたそれぞれの場合に、前記出力測定手段によって測定された複数の前記接触燃焼式ガスセンサの出力に基づいて、前記低温駆動時間に対する前記出力の傾きを算出する傾き算出手段と、を有している
ことを特徴とするガス検出装置。
【請求項2】
前記駆動制御手段が、前記低温駆動制御及び該低温駆動制御に続く前記高温駆動制御からなる一連の駆動制御を、前記低温駆動時間が互いに異なるように順次変更しながら連続して複数回行うことを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置。
【請求項3】
前記低温駆動時間の長さが、前記感応素子に前記検出対象ガスが吸着しない長さにされていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス検出装置。
【請求項4】
前記接触燃焼式ガスセンサにおける前記低温駆動時間に対する前記出力の傾きと出力補正量との関係を示す補正情報を予め記憶する補正情報記憶手段と、
前記傾き算出手段によって算出された前記傾き及び前記補正情報記憶手段に記憶された前記補正情報に基づいて、前記接触燃焼式ガスセンサの出力を補正する出力補正手段と、を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−145091(P2011−145091A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3997(P2010−3997)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】