説明

ガス検知体ホルダ

【課題】 UV耐性に優れ、空気の滞留に起因した退色むらや発色むらを回避することができるガス検知体ホルダを提供する。
【解決手段】 ホルダ本体11と、このホルダ本体11の上側開口部と下側開口部にそれぞれ取付けた上部構造体12と下部構造体13とでガス検知体ホルダ10を構成する。ホルダ本体11の内部にガス状大気汚染物質を検知するガス検知体3を収納し、外周面にUVカットフィルム4を貼り付ける。ガス検知体ホルダ10の上部と下部に温度差を生じさせ、この温度差によって試料空気5を下部構造体13よりホルダ本体11内に導き、上部構造体12より外部に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境リスクが高いガス状の大気汚染物質、特に、光化学オキシダントの主成分を構成するオゾンや物質の燃焼に伴って発生する二酸化窒素の環境中濃度を個人や家庭レベルで検知するためのオゾン検知体や二酸化窒素検知体等からなるガス検知体を、太陽光照射下の屋外で利用可能にしたガス検知体ホルダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ろ紙、多孔質ガラス等の小型の多孔体に検知対象ガス(例えば、オゾン)と選択的に反応して退色する有機色素を含浸させたものをガス検知体とすることで、個人が持ち運びできる超小型のガス検知用の蓄積型センサが開発されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0003】
また、多孔質ガラス等の小型の多孔体に検知対象ガス(例えば二酸化窒素)と選択的に反応して発色する有機色素を含浸させたものをガス検知体とすることで、個人が持ち運びできる超小型のガス検知用の蓄積型センサが開発されている(例えば、特許文献6、7参照)。
【0004】
これらのガス濃度測定に用いられる蓄積型センサのうち、特にシート状のガス検知体は、主に1日間のガスヘの個人被爆量を検知するものであり、オゾン殺菌等でオゾンガスを利用する特殊作業従事者の曝露量評価を想定している。このシート状ガス検知体は、平均労働時間8時間で労働基準に定められた蓄積濃度量(濃度基準×時間)で退色するように設計されている。
【0005】
しかし、ガス状大気汚染物質(オゾン)の曝露によるリスクは、屋内環境におけるよりも日照の強い屋外環境下の方が著しいと考えられ、ガス(オゾン)検知体の紫外線(以下、UVと略称する)を含む太陽光照射下の屋外での利用が強く要請されていた。
【0006】
被測定対象ガス(オゾンあるいは二酸化窒素)との選択的な反応により退色(あるいは発色)する有機系色素は、日照に含まれる紫外線に対しても退色(あるいは発色)反応を示すため、試薬を含浸させたろ紙あるいは多孔質ガラスそのものを太陽光の照射下の屋外に持ち出した場合、被測定対象ガス(オゾンあるいは二酸化窒素)への曝露に起因する吸光度変化(特定波長における吸光度減少は退色として、あるいは吸光度増加は発色として出現)のみを検知することができなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは、図14(a)、(b)に示すような耐UV型のガス検知体バッチ1を考案した。このガス検知体バッチ1は、台紙2上にシート状のガス検知体3を貼り付け、このガス検知体3の上方をUV成分をカットする機能をもつUVカットフィルム4によって覆ったものである。このガス検知体バッチ1では、ガス検知体3とUVカットフィルム4との間に、ガス検知体3と試料空気5との接触を可能にするために1〜5mmの間隔dを設定している。なお、符号6で示すものは退色(あるいは発色)の色具合から目視により、検知したガスの濃度を換算し指示するとともに使用上の注意事項を表示したカラーチャートである。
【0008】
ここで、図14に示すガス検知体バッチ1においては、検知される試料空気5は、ガス検知体3の上面を覆うUVカットフィルム4の対向する2辺と台紙2との間に設けられた開口部7より導入され、ガス検知体3内の有機色素と選択的に反応してガス検知体3を退色(あるいは発色)させるはずであった。
【0009】
しかるに、実験結果によると、図14(b)に破線で示すように、ガス検知体3の開口部7に近い側縁部付近と中央部とではガス(オゾンあるいは二酸化窒素)による退色(あるいは発色)8が不均一になり、幅方向中央の両端部に退色または発色しない不変部分9が残ることが判明した。
【0010】
この原因は、空気5の粘性により、ガス検知体3の表面に境界層領域が形成され、UVカットフィルム4の中央部では、ほとんど試料空気5の置換が起こらないためと考えられる。
【0011】
他方、開口部7の近傍では、境界層の厚さがきわめて薄く、試料空気5がガス検知体3の表面に到達するため、ガス検知体3の表面に垂直な方向からの被検出対象ガス分子が充分供給され、退色(あるいは発色)反応が起きたためと考えられる。
【0012】
【特許文献1】特開2004−144729号公報
【特許文献2】特願2004−234430号公報
【特許文献3】特願2004−320387号公報
【特許文献4】特願2005−017977号公報
【特許文献5】特願2005−074635号公報
【特許文献6】特開平09−274032号公報
【特許文献7】特開2000−081426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記した従来の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、UVによって退色(あるいは発色)する有機色素を多孔質ガラスないしろ紙等のセルロース系を含む多孔質体に含浸させて被測定対象ガス(オゾンあるいは二酸化窒素)を検知するという上記原理を利用したガス検知体を、UV成分を含む日照の強い屋外においても、UVによる妨害効果(UVにより有機色素が分解され、UVが無い場合に想定される被測定対象ガスとの選択的反応を妨害する効果)を無くすことができ、また空気の滞留に起因した退色むらあるいは発色むらを回避することができるようにしたガス検知体ホルダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、第1の発明は、主に太陽光の照射下の屋外環境にて使用するホルダーであって、ガス状の大気汚染物質をその表面に吸着し選択的に反応することによって発色あるいは退色していく有機系色素を含浸させた多孔体よりなり前記大気汚染物質を検知するガス検知体を内蔵したガス検知体ホルダにおいて、上部および下部が開口し可視光に対して透明な筒体に形成されたホルダ本体と、このホルダ本体の周面に設けられ前記ガス検知体を紫外線から保護するUVカットフィルムと、前記ホルダ本体の上側開口部に設けられ前記ホルダ本体内の空気を外部に排出する上部構造体と、前記ホルダ本体の下側開口部に設けられ外気を前記ホルダ本体内に導く下部構造体とを備えたものである。
【0015】
第2の発明は、前記上部構造体が上方に向かって広がる漏斗状の開口部を有するものである。
【0016】
第3の発明は、前記上部構造体の開口部に熱放散フィンを設けたものである。
【0017】
第4の発明は、前記上部構造体に冷却液タンクを設けたものである。
【0018】
第5の発明は、前記上部構造体に物質の相変化に伴う吸熱を利用した冷却体を設けたものである。
【0019】
第6の発明は、前記下部構造体を下方に向かって広がる形状に形成したものである。
【0020】
第7の発明は、前記下部構造体が透明材料からなり、少なくとも下端部側が黒く着色されているものである。
【0021】
第8の発明は、前記下部構造体に物質の酸化熱を利用した発熱体を設けたものである。
【0022】
第9の発明は、前記ホルダ本体を内管と外管とからなる2重管で構成し、内管の外面と外管の内面のいずれか一方にガス検知体を設け、内管と外管との間に形成された環状隙間を空気の流通路としたものである。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明においては、UVカットフィルムによってガス検知体を覆いUVから保護している。したがって、太陽光が直接照射される屋外環境であっても、最も懸念される濃度誤差要因であるUV照射による色素の退色効果に起因したガス検知濃度値の誤差因子を取り除くことができる。
試料空気は下部構造体に入ると、対流によってホルダ本体内を通って上部構造体から外部に排出されるので、ホルダ本体内に滞留せず、滞留に起因した退色むらあるいは発色むらを回避することができる。
【0024】
第2の発明においては、上部構造体に上方に向かって広がる漏斗状の開口部を設けているので、ホルダ内の試料空気を外部に良好に排出する。
【0025】
第3の発明においては、上部構造体の開口部に設けた放熱フィンによって熱を放散させるようにしているので、上部構造体の温度を下部構造体よりも低温に保つことができる。このため、ホルダ本体内に上昇気流を発生させることができ、試料空気の換気特性(ホルダ内部の下から上への試料空気の流れ)を高めることができる。温度差が保持される限り、上昇気流によりガス検知体表面には常に試料空気が供給されるので、ガス検知体の空気の滞留に起因した退色むらあるいは発色むらが回避される。
【0026】
第4の発明においては、上部構造に冷却タンクを設けているので、上部構造体と下部構造体との間の温度差を長時間にわたって維持することができ、ホルダ本体内に上昇気流を発生させることができる。したがって、試料空気の換気特性を高めることができ、ガス検知体の空気の滞留に起因した退色むらや発色むらが起きるようなことがない。
【0027】
第5の発明においては、上部構造体に冷却体を設けているので、上部構造体と下部構造体との間の温度差を長時間にわたって維持することができ、ホルダ本体内に上昇気流を発生させることができる。したがって、試料空気の換気特性を高めることができ、ガス検知体の空気の滞留に起因した退色むらや発色むらが起きるようなことがない。
【0028】
第6の発明においては、下部構造体を下方に向かって広がる形状に形成しているので、表面積が広くて太陽光の熱を多く受け、試料空気の換気特性を高めることができる。したがって、ガス検知体の空気の滞留に起因した退色むらや発色むらが起きるようなことがない。
【0029】
第7の発明においては、下部構造体を黒色に着色しているので、この黒色部分が太陽光に照射されている間、太陽光を吸収して高温状態となり、周辺の空気を加熱する。このため、加熱された空気は膨張して熱対流を起こして上昇気流となりホルダ本体内を通り上部構造体から外部に排出され、試料空気の換気特性を高める。したがって、ガス検知体の空気の滞留に起因した退色むらや発色むらが起きるようなことがない。
【0030】
第8の発明においては、下部構造体に設けた物質の酸化熱を利用した発熱体を設けているので、上部構造体と下部構造体との間の温度差を長時間にわたって維持することができる。したがって、ホルダ本体内に上昇気流を発生させることができ、試料空気の換気特性を高めることができる。
【0031】
第9の発明においては、ホルダ本体を2重管構造とし、その内管と外管との間を試料空気の流通路としているので、通路の断面積が小さくなり、上昇気流の流速を速くすることができ、試料空気の換気特性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態を示すガス検知体ホルダの外観斜視図、図2は同ホルダの断面図、図3は上部構造体と下部構造体を取り外したホルダ本体の斜視図である。なお、従来技術で説明した構成部品と同一のものについては同一符号をもって示す。これらの図において、全体を符号10で示すガス検知体ホルダは、ガス状大気汚染物質(例えば、オゾンあるいは二酸化窒素)を検知するシート状のガス検知体3を内蔵するホルダ本体11と、このホルダ本体11の上側開口部14aに設けられた中空体からなる上部構造体12と、ホルダ本体11の下側開口部14bに設けられた同じく中空体からなる下部構造体13とで構成されている。上部構造体12と下部構造体13は、それぞれホルダ本体11に対して着脱可能に取付けられており、ガス検知体3の取付けや取出しを容易にしている。
【0033】
前記ホルダ本体11は、可視光に対して透明なプラスチックまたはガラスによって両端が開放する円筒状に形成されており、内部にはガス状の大気汚染物質(例えば、オゾンあるいは二酸化窒素)を検知するシート状のガス検知体3が収納されている。また、その外周面には前記ガス検知体3をUVから保護するUVカットフィルム4とカラーチャート6が貼り付けられている。
【0034】
ガス検知体3のホルダ本体11内への収納方法としては、ガス検知体3が紙等のシート状である場合には、図1に示すように筒状に弾性変形させ、シート母材自体の弾性によってホルダ本体11の内周面に密着させて収納する。一方、ガス検知体3が多孔質ガラスを母材としている場合には、図3に示すようにホルダ本体11の内周面に軸線方向に形成した2つの溝15にガス検知体3の両側縁部を差し込むことによって収納する。
【0035】
このように、ガス検知体3をホルダ本体11内に収納してUVカットフィルム4によりUVから保護すれば、太陽光に含まれるUVが直接ガス検知体3の有機色素に到達して被検知ガスによる選択的な化学反応と干渉しないようにすることができる。
【0036】
ガス検知体3をUVカットフィルム4が被覆されたホルダ本体11内に収容する場合、ホルダ本体11内への試料空気5の換気特性を良好にし滞留を防止することが必須となる。
【0037】
そこで、本発明においては、上記した通りホルダ本体11の上側開口部14aと下側開口部14bに上部構造体12と下部構造体13を取付け、これら構造体によってホルダ10内部を試料空気5が下から上に向かって流れるようにしている。
【0038】
前記上部構造体12は、プラスチック、金属等によって一体に形成されるもので、内面に雌ねじ16が形成された下方に開放する円筒状のキャップ部12Aと、このキャップ部12Aの上面中央に上方に向かって拡径するように一体に突設された漏斗状の開口部12Bとからなり、前記雌ねじ16を前記ホルダ本体11の上端側外周面に形成した雄ねじ17に螺合することにより前記キャップ部12Aがホルダ本体11の上側開口部14aに取付けられている。また、キャップ部12Aの外周面には、一対のフック18が一体に突設されており、これらのフック18にはガス検知体ホルダ10を吊り下げるための紐が挿通されるようになっている。前記開口部12Bは、上下両端が開放し前記キャップ部12Aの内部に連通している。
【0039】
前記下部構造体13は、可視光に対して透明なプラスチック、好ましくは導電性を有するプラスチックによって両端が開放し下方に向かって広がる截頭円錐形(スカート形状)に形成され、下端側の内周面が黒色に着色されている。なお、20は黒色の着色部、21は非着色部(透明部)である。そして、下部構造体13は、前記ホルダ本体11の下側開口部14bに接続環22を介して取付けられている。接続環22は、加熱された下部構造体13の高い表面温度が熱伝導によりホルダ本体11に伝わらないようにするために、熱伝導特性の低い材料、好ましくは断熱材によって製作されている。また、接続環22の外周面の上下端部には、ホルダ本体11の雌ねじ23と下部構造体13の雌ねじ24が螺合する雄ねじ25,26がそれぞれ形成されている。
【0040】
下部構造体13に関しては、太陽熱の吸収が着色部20において持続する限り、非着色部21と比較して温度が高い状態に保持される。
【0041】
下部構造体13の下端側の内周面に黒色の着色部20を設けておくと、直射日光に照射されている間、着色部20が太陽熱を吸収するため下部構造体13の温度を非着色部21との比較において高くし、ホルダ下部の試料空気5を加熱する。このため、加熱された試料空気5は熱膨張して浮力により上昇気流となって下部構造体13、ホルダ本体11および上部構造体12内を上昇し、上部構造体12の上側開口部から外部に排出される。着色部20が形成される範囲は、下部構造体13の下側の2/3程度である。
【0042】
空気に対しては、動粘性係数ν=1.501×10−5(m2−1 )(20℃)、温度伝導率K=0.2216×10−4(m2−1)、体積膨張係数α=3.41×10−3(℃−1)であるから、ホルダ本体11の大きさとして高さd=5cmを仮定して、臨界Rayleigh 数として管壁と空気間に摩擦がある場合の値1708を取ったとしても、熱対流が起こるための温度差は、△T=0.1℃程度である。すなわち、次式(1)
【0043】
【数1】

【0044】
で必要な温度差は高々0.1℃である。
【0045】
太陽光により照射され、下部構造体13が上部構造体12よりも上記(1)式が示す臨界温度以上の温度差を生じれば熱対流が発生する。末広がり型の下部構造体13の周辺部で加熱された試料空気5は、この熱対流により下部構造体13内を上昇して集められ円筒形状のホルダ本体11内に導入される。ホルダ本体11の内部にはガス検知体3が、このホルダ本体11の軸線と平行に収納されているので、このガス検知体3を取り囲むように試料空気5が流れ、ガス検知体3の周辺の空気を換気する。
【0046】
ここで、下部構造体13の黒く着色された部分20が太陽光により照射された場合の表面温度について考察する。
地球大気層の外縁において太陽光線に垂直な面に入射する単位面積・単位時間当たりの放射強度の値(太陽定数S)は約1.37(kW/m2)である。このうち、雲等による反射により約30%が失われ、オゾン層や、大気中の水蒸気等により約20%が吸収されるものの、残り約50%は地表に達する。そこで、地表面で太陽光に垂直な面が受ける日射強度は約664W/m2と概算される。
【0047】
外気温25℃の中に設置され、太陽からの輻射エネルギとして地表日射強度(S0 =)664(W/m2)を受けている板(簡単のため太陽光に対して垂直に置かれているとする)の輻射平衡温度を求めると、対流による熱伝達が起こっていない初期状態においては、太陽から吸収される正味のエネルギが周囲との長波長による輻射熱交換が釣り合っていることから、吸収率をα(表1参照)、Stefan-Boltmann係数をσ(=5.67×10−8(W/m2・K4)として、次式が成り立つ。
【0048】
【数2】

【0049】
【表1】

【0050】
下部構造体13の黒く着色されている部分20の表面に対して、表1よりαsun=0.96、α25℃=0.95を用いて計算すると、T=374.8(K)=102(℃)となる。
【0051】
勿論、黒く着色された部分20が、常に太陽光に対して垂直ではないので、表面温度102℃というのは最大値と考えてよい。参考のため、白く着色されている場合を想定すると、表1よりαsun=0.12、α25℃=0.9を用いて、T
=311K=38.7℃となり、予測どおり、太陽光に対しては、白色面の方が黒色面よりも低温であることが確認できる。
【0052】
本実施の形態の場合、下部構造体13の下端部20は黒色に着色され、これより上方部分21(ホルダ本体11も含めて)は透明であるので、黒く着色された部分20が、非着色部21に比較して高温となることに違いはない。そして、その温度差が0.1℃以上あれば、熱対流が起こる。
【0053】
次に、発生した自然対流により、黒く着色された部分20の温度がどの程度変化するかを考察する。対流熱伝達は一括してニュートンの冷却の法則により、次式(3)で与えられる。
【0054】
【数3】

【0055】
ここで、対流による熱の移動速度q(W)は、表面温度(T表面)と流体温度(T)との全体の温度差と伝熱面積Aにそれぞれ比例し、その比例係数h(W/m2)は垂直方向への対流による熱伝達率である。
【0056】
したがって、熱対流がある場合のエネルギ収支式は、次式(4)となる。
【0057】
【数4】

【0058】
対流する空気の温度(T )は、外気温25℃よりも、式(1)により0.1℃以上高い温度であるが、ここではほぼ等しいとして近似すると、表面温度(T表面)を求める(4)式で未知数は、垂直方向への対流による熱伝達率hとなる。
【0059】
問題を簡単にするため、地表日射強度(So=)664W/m2を受けている黒く着色された垂直に設置された板が、裏面を断熱され、外気温25℃の空気の下で、自由対流により放熱している際の表面温度(T表面)を求める。
【0060】
板からの熱伝達は等熱流速であると仮定する。さらに、求める表面温度(T表面)が判らないので、膜温度(Tf )と空気の物性値を適当に仮定する。自然対流の垂直方向への熱伝導率は略ho=10(W/m2・℃)であるから、近似的に、表面温度と流体温度の差△T(=T表面−T )の概算値として、△T=So・αsun /ho=664・0.96/10=64℃を得る。このときの膜温度は、Tf=64/2+25=57℃である。57℃における空気の物性値は、動粘性率ν=18.73×10−6(m2/s)、体積膨張率β=1/Tf=3.03×10−3℃、熱伝導率κ=0.02851(W/m・℃)、プラントル数Pr=0.701を用いて、系の特性長さをx=5×10−2(m)、Nuをヌセルト数として、修正グラスホフ数Grを求めると、次式(5)となる。
【0061】
【数5】

【0062】
この範囲の流れは層流であることが判る。したがって、層流域では、局所熱伝達率は、次式(6)となる。
【0063】
【数6】

【0064】
そして、式(6)を逆に解いて次式(7)を得る。
【0065】
【数7】

【0066】
この局所熱伝達率(hx)の値は、Tfを推定するのに用いた近似値ho(=10(W/m2・℃)よりも大きいので、△Tを再計算すると、△T=So・αsun/hx=664・096/12.5=51.0℃を得る。よって修正された膜温度は、Tf=51/2+25=50.5≒51℃である。51℃における空気の物性値は、動粘性率ν=18.12×10−6(m2/s)、体積膨張率β=1/Tf=3.08×10−3(℃−1)、熱伝導率κ=0.02806(W/m・℃)、プラントル数Pr=0.703を用いて、修正グラスホフ数はGrx=1.31×107となるので、局所熱伝達率は、hx=12.519(W/m2・℃)で、先に求めた値にほぼ収束している。これ以上繰返し計算を行っても精度は向上しない。よって、この新しい収束値を用いた温度差は、△T(=T表面−T)=So・αsun/hx=664・0.96/12.5=51.0℃である。
【0067】
したがって、垂直方向の熱対流がある場合でも、黒く着色された部分20の平均表面温度は、T表面=51+25=76℃となる。勿論、黒く着色された部分20が、常に太陽光に対して垂直に位置しているわけではないので、この表面温度76℃という値は、熱対流がある場合の最大値と考えてよい。
【0068】
いずれにせよ、地表日射強度によってもたらされる着色部分20の表面温度が、式(1)で与えられる臨界温度以上になり得ることが明らかとなった。
【0069】
このようにして、本発明の第1の実施の形態では、図14に示すガス検知体3の上方をUVカットフィルム4で覆った場合に生じたような試料空気5の滞留を、熱対流によって回避するようにしているので、試料空気5の滞留に起因するガス検知体3の退色むら(あるいは発色むら)8(図14(b)参照)を無くすことができる。また、いうまでもなくUVカットフィルム4を備えているので太陽光中のUVがガス検知体3へ直接到達するようなことはない。
【0070】
上記した第1の実施の形態では、ホルダ本体11の形状として、加工の容易な円筒形状を想定して説明したが、これに何ら限定されるものではない。例えば、図4に示す第2の実施の形態におけるガス検知体ホルダ30のように、ホルダ本体31をnを3以上の整数として、n角形の筒状体であってもよいし、さらに、多角形以外の任意の断面形状の筒体、例えば中心線と直交する断面形状が楕円形の筒状体であってもよいことは云うまでもない。なお、図4では、ホルダ本体31をn=4の角筒形に形成した例を示している。このため、上部構造体32の筒部32Aを角筒形に形成し、開口部32Bを上方に向かって広がる逆截頭角錐形(逆台形)とし、下部構造体33を下方に向かって広がる截頭角錐形(台形)としている。そして、上部構造体32と下部構造体33をホルダ本体11に対して嵌合、接着によって取付けている。その他の構造は第1の実施の形態と全く同一である。
【0071】
第1の実施の形態におけるガス検知体ホルダ10の場合、熱対流により下部で吸収した熱は、暖められた試料空気5が上昇することで、ホルダ本体11の内部上方へと移動する。
【0072】
ホルダ本体11の内部上方に到達した暖かい空気はホルダ本体11の上部を加熱する結果、太陽光に照射された当初に形成されたホルダ10の上部と下部との温度差は次第に小さくなっていく。そして最終的には、上部と下部の温度差がなくなった時点で熱対流による上昇気流は消失する。
【0073】
この上昇気流が持続するためには、ホルダ10の上部と下部との間に、温度差を維持させ続ける必要がある。
【0074】
温度差を維持し、結果として上昇気流をなくならないようにするための対策としては、例えば、(1)ホルダ上部の熱容量を大きくして多少の加熱では昇温しないようにする、(2)ホルダ上部の放熱特性を良くして加熱されても放熱により温度が上昇しないようにするなどの対策を講じることが好ましい。
【0075】
そこで、第3の実施の形態して、図5および図6に示すガス検知体ホルダ40においては、上部構造体42をキャップ部42Aと、上方に拡径する逆截頭円錐形の開口部42Bとで構成し、この開口部42の外周面に複数枚の放熱フィン45を周方向に等間隔をおいて一体に突設している。なお、ホルダ本体11と下部構造体13は第1の実施の形態と全く同一である。
【0076】
ホルダ40のデザイン性を考慮して、上部構造体42は鉄等の金属で一体に鋳造し、メッキしておくとよい。メッキするのは、太陽光照射下で、表面により太陽光を反射し、輻射熱の吸収による上部構造体42が昇温するのを抑制するためである。
【0077】
また、第4の実施の形態として、図7および図8に示すガス検知体ホルダ50においては、上部構造体52のホルダ本体11の上側開口部に取付けられるキャップ部52Aを冷却液55が注入される冷却液タンクとし、このタンク52Aの中央に前記ホルダ本体11の内部に連通する上方に拡径した逆截頭円錐形の開口部52Bを一体に設けている。冷却液タンク52Aの周面には冷却液55を注入するための注入口56が設けられており、この注入口56を栓57によって閉塞している。なお、その他の構造は第1の実施の形態と全く同一である。
【0078】
以上、第3、第4の実施の形態においても、太陽光照射により常時加熱が続く下部構造体13によって暖められた試料空気5は、熱対流により上昇してホルダ本体11および上部構造体42または52を通って開口部42Bまたは52Bより外部に排気される。すなわち、ホルダ本体11の内部には常時下部にて加熱された空気による上昇気流が発生しており、ホルダ内部の換気が行われるので滞留することはない。
【0079】
図9および図10は本発明の第5の実施の形態を示すガス検知体ホルダの外観斜視図および断面図である。
この実施の形態におけるガス検知体ホルダ60は、さらに積極的にホルダ上部と下部間の温度差を維持するために、上部構造体12に設けた漏斗状の開口部12Bの外周に冷却体61を設け、下部構造体13の外周に発熱体62を設けたものである。その他の構造は上記した第1の実施の形態と全く同一である。
【0080】
冷却体61としては、物質の相変化に伴う吸熱を利用した冷却体(例えば、「冷えピタ」、「熱さまシート」、いずれも商標名)が用いられる。このような冷却体61は、高含水性高分子基剤や水溶性高分子基剤からなるジェルの水分が蒸発する際に気化熱を奪うことにより冷却効果を発揮するものである。
【0081】
発熱体62としては、物質の酸化熱を利用した発熱体(例えば、鉄粉の酸化熱を利用した「ホカロン」、商標名)が用いられる。この場合、下部構造体13は、熱伝導をよくするために金属材料によって製作される。
【0082】
図11は本発明の第6の実施の形態を示すガス検知体ホルダの外観斜視図、図12(a)は同ホルダの断面図、(b)は上部押え用フィンの斜視図、(c)は下部押え用フィンの斜視図、図13は内管構造の構成図である。これらの図において、この実施の形態におけるガス検知体ホルダ70は、ホルダ本体71を外管72と内管(内管構造体ともいう)73とからなる二重管で構成している。
【0083】
外管72に関しては、図1〜図3に示したホルダ本体11と同一構造で構成し、その上端開口部に図1に示した上部構造体12を取付けたが、これに限らず図5に示した熱放散フィン付きの上部構造体42、図7に示した冷却液タンク52A付きの上部構造体52または図9に示した冷却体61を備えた上部構造体12を用いてもよい。
【0084】
いずれの場合にせよ、二重管構造の内管73の構造体に関しては、図13に示すように、断熱部材で構成された中空の内管本体73Aと、この内管本体73Aの上側に設けられた円錐形状の頭部をもつ内管用上部構造体73Bと、内管本体73Aの下部に設けられた逆截頭円錐形に形成された内管用下部構造体73Cとで略紡錘形状に構成されている。
【0085】
内管用上部構造体73Bは、金属材料で構成され、内部に物質の相変化に伴う吸熱を利用した冷却体61が充填され、その円錐形状の頭部には気化ガスを放散するために複数の小孔74が形成されている。
【0086】
他方、内管用下部構造体73Cも金属材料で構成されているが、内部には物質の酸化熱を利用した発熱体62が充填されている。そして、この内管用下部構造体73Cの底面には、酸素を吸入するために複数の小孔75が形成されている。
【0087】
このような紡錘形状の内管構造体73は、内管本体73Aと内管用上部構造体73Bが外管72内に挿入され、内管用下部構造体73Cが下部構造体13内に挿入され、図12(b)、(c)に示すような上部押え用フィン77と下部押え用フィン78によって保持される。
【0088】
このように内管構造体73を外管72に抑え用フィン77,78を介して収容すると、内管本体73A、内管用上部構造体73Bと外管72との間には環状の隙間80が形成されるため、この隙間80を試料空気5の流通路としている。
【0089】
このように本実施の形態においては、内管構造体73がその上部と下部にそれぞれ冷却体61と発熱体62を内蔵しているので、内管用下部構造体73Cに接触した試料空気5は暖められることにより上昇気流を形成し、外管72の下部構造体13により集められて外管72と内管構造体73との間に形成された環状の流通路80に導かれる。外管72の内面または内管73の外面のいずれか一方に付けられたガス検知体3は、導入された試料空気5中の被検出対象ガスと選択的に反応して退色(あるいは発色)する。
【0090】
内管構造体73と外管72の間の流通路80を上昇してきた試料空気5は、外管72の上部構造体12を暖めるが、内管構造体73の内管用上部構造体73B内に充填された冷却体61によって本ガス検知体ホルダ70の上部構造値A12と下部構造体13との間の温度差を長時間にわたって維持することができ、ホルダ本体71内部に上昇気流を発生させ続けることができる。したがって、使用空気5の換気特性を高めることができ、ガス検知体3の空気の滞留に起因した退色むらや発色むらがおきるようなことはない。
【0091】
このように本発明においては、UVカットフィルム4によってUVからガス検知体3を保護しているので、太陽光が直接照射される屋外環境での使用において、最も懸念される濃度誤差要因であるUV照射によるガス検知体3内の色素の退色(あるいは発色)効果に起因したガス検知濃度値の誤差因子を取り除くことができ、検知精度を向上させることができる。
【0092】
また、本発明においては、ホルダの下部を上部よりも高温になるように構成し、この温度差を利用して試料空気5を加熱することにより上昇気流を発生させるようにしているので、温度差が保持される限りこの上昇気流によってガス検知体3が必要とする試料空気の換気を充分に行うことができる。これにより、ガス検知体3の表面には常に試料空気が供給されるので、空気の滞留に起因した退色むらや発色むらの発生を未然に防止することができる。
【0093】
以上により、UV等の強い照射のある屋外にても、有機色素を含浸された多孔質体より構成された比色反応式ガス検知体によるガス検知が、UVによる干渉を受けることなく、またUVカットフィルム4の被覆に起因した試料空気の滞留を生じることなく可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す紫外線耐性を備えたガス検知体ホルダの外観斜視図である。
【図2】同ホルダの断面図である。
【図3】ホルダ本体の斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態を示すガス検知体ホルダの斜視図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態を示すガス検知体ホルダの斜視図である。
【図6】同ホルダの断面図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態を示すガス検知体ホルダの斜視図である。
【図8】同ホルダの断面図である。
【図9】本発明の第5の実施の形態を示すガス検知体ホルダの斜視図である。
【図10】同ホルダの断面図である。
【図11】本発明の第6の実施の形態を示すガス検知体ホルダの外観斜視図である。
【図12】(a)は同ホルダの断面図、(b)は上部押え用フィンの斜視図、(c)は下部押え用フィンの斜視図である。
【図13】内管構造の構成図である。
【図14】(a)はガス検知体バッチの従来例を示す斜視図、(b)は同ガス検知体の平面図である。
【符号の説明】
【0095】
3…ガス検知体、4…UVカットフィルム、10…ガス検知体ホルダ、11…ホルダ本体、12…上部構造体、12B…漏斗状の開口部、13…下部構造体、20…着色部分、42…上部構造体、45…熱放熱フィン、52…上部構造体、52A…冷却液タンク、61…冷却体、62…発熱体、72…外管、73…内管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主に太陽光の照射下の屋外環境にて使用するホルダーであって、ガス状の大気汚染物質をその表面に吸着し選択的に反応することによって発色あるいは退色していく有機系色素を含浸させた多孔体よりなり前記大気汚染物質を検知するガス検知体を内蔵したガス検知体ホルダにおいて、
上部および下部が開口し可視光に対して透明な筒体に形成されたホルダ本体と、このホルダ本体の周面に設けられ前記ガス検知体を紫外線から保護するUVカットフィルムと、前記ホルダ本体の上側開口部に設けられ前記ホルダ本体内の空気を外部に排出する上部構造体と、前記ホルダ本体の下側開口部に設けられ外気を前記ホルダ本体内に導く下部構造体とを備えたことを特徴とするガス検知体ホルダ。
【請求項2】
請求項1記載のガス検知体ホルダにおいて、
前記上部構造体は上方に向かって広がる漏斗状の開口部を有することを特徴とするガス検知体ホルダ。
【請求項3】
請求項2記載のガス検知体ホルダにおいて、
前記上部構造体の開口部に熱放散フィンを設けたことを特徴とするガス検知体ホルダ。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載のガス検知体ホルダにおいて、
前記上部構造体に冷却液タンクを設けたことを特徴とするガス検知体ホルダ。
【請求項5】
請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載のガス検知体ホルダにおいて、
前記上部構造体に物質の相変化に伴う吸熱を利用した冷却体を設けたことを特徴とするガス検知体ホルダ。
【請求項6】
請求項1記載のガス検知体ホルダにおいて、
前記下部構造体は、下方に向かって広がる形状に形成されていることを特徴とするガス検知体ホルダ。
【請求項7】
請求項1または6記載のガス検知体ホルダにおいて、
前記下部構造体は透明材料からなり、少なくとも下端部側が黒く着色されていることを特徴とするガス検知体ホルダ。
【請求項8】
請求項1,6,7のうちのいずれか1つに記載のガス検知体ホルダにおいて、
前記下部構造体に物質の酸化熱を利用した発熱体を設けたことを特徴とするガス検知体ホルダ。
【請求項9】
請求項1〜8のうちのいずれか1つに記載のガス検知体ホルダにおいて、
前記ホルダ本体を内管と外管とからなる2重管で構成し、内管の外面と外管の内面のいずれか一方にガス検知体を設け、内管と外管との間に形成された環状隙間を空気の流通路としたことを特徴とするガス検知体ホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−121064(P2007−121064A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312372(P2005−312372)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】