説明

ガス検知器校正装置

【課題】 ガス検知器のコラム密度測定値を短時間でより正確に校正する。
【解決手段】 ガス検知器校正装置1は、雰囲気中にガス吸収線に周波数安定化されたレーザ光を出射し、且つレーザ光の反射光を受光して雰囲気中のコラム密度を測定するガス検知器3の校正を行うもので、校正用ガスセル6、反射手段27、パージ手段4を具備する。校正用ガスセル6は、校正されるべきガス検知器3が置かれる位置からガス検知器3が発生するレーザ光の光軸線C−Cに沿って所定の長さL以上離れて配置され、光軸線C−Cに対してそれぞれ傾斜して備えられてレーザ光を透過させる一対の透過窓21と周壁とで画成され、内部に所定濃度の被検知ガスが充填される。反射手段27は、一対の透過窓21の一方から他方を通して校正用ガスセル6を透過したレーザ光を反射させる。パージ手段4は、ガス検知器3と校正用ガスセル6との間の光路から被検知ガスを排除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の測定雰囲気のガス濃度を検知するガス検知器を校正するためのガス検知器校正装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタン、二酸化炭素、アセチレン、アンモニア等の気体には、分子の回転や構成原子間の振動等に応じて特定波長の光を吸収する吸収帯があることは既に知られている。そして、この吸収帯を利用したガス検知器としては様々なものが提案されている。例えば下記特許文献1に開示されるガス検知器を具備したガス濃度測定装置では、光源部の半導体レーザにより周波数変調されたレーザ光を測定対象のガスが存在する大気中の測定雰囲気に向けて出射し、このレーザ光の出射に伴って測定雰囲気中を通過した透過光を受光部のフォト検出器で受光し、この受光信号から測定雰囲気中のガス濃度を測定している。
【0003】
ここで、受光部の出力信号から検出される変調周波数の基本波敏感検波信号(以下、1f信号と略称する)には、強度変調に起因する大きなオフセットが生じる。このため、特に微小なガス濃度を高感度で測定するには、1f信号に比べてオフセットのかなり小さい2倍波位相敏感検波信号(以下、2f信号と略称する)が用いられる。
【0004】
実際にガス濃度を測定するにあたっては、測定ガス吸収線に合わせた波長の測定光が測定雰囲気中を通ると、測定対象ガスにより測定光が吸収され、濃度に応じた強度で変調周波数の2倍の周波数の強度変化、すなわち2fが生成される。この2fと元の変調周波数1fの強度変化の比率2f/1fの値は、ガス濃度に比例するので、この値に係数をかければガス濃度になる。
【0005】
ところで、この種のガス検知器は、密閉された空間ではなく、大気中の測定雰囲気に周波数変調されたレーザ光を通し、測定雰囲気中で吸収されたレーザ光を受光してガス濃度の検知を行う構成である。そして、例えば測定対象ガスがメタンガスの場合、大気中には2ppm程度のメタンガスを含有しており、その値も環境によって変化する。このため、実際にガス検知器が検知したガス濃度が正確な値を示すものか否かの判断が困難であった。従って、より正確なガス濃度の検知を行うためにはガス検知器を定期的に校正する必要があった。
【0006】
そこで、従来、ガス検知器を校正する場合には、例えば熱収縮の小さいガラス円筒管に所定のガスを封入したガスセルと、校正対象となるガス検知器とを所定距離だけ離して設置する。そして、ガス検知器にてガスセルのガス濃度を測定し、この測定値によってガス検知器の校正を行っていた。
【特許文献1】特開2001−235418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のガス検知器の校正方法では、ガスセルとガス検知装置との両者の距離や向き、大気の状態等、バラツキの影響で検知結果が安定しにくく、また、ガスセルに封入されているガス濃度自体にもバラツキがあり、正確な校正を行うことが困難であった。このため、より正確なガス検知器の校正を行うことができる装置の提供が望まれていた。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、正確なガス濃度係数が得られ、ガス検知器をより正確に校正することができるガス検知器校正装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に記載された請求項1のガス検知器校正装置は、ガス吸収線に周波数安定化されたレーザ光を雰囲気中に出射し、且つ該レーザ光の反射光を受光して前記雰囲気中のガス濃度を測定するガス検知器3の校正を行うためのガス検知器校正装置1であって、
校正されるべきガス検知器が置かれる位置から該ガス検知器が発生するレーザ光の光軸線C−Cに沿って所定の長さL以上離れて配置され、前記光軸線に対してそれぞれ傾斜して備えられてレーザ光を透過させる一対の透過窓21と周壁とで画成され、内部に所定濃度の被検知ガスが充填される校正用ガスセル6と、
前記一対の透過窓の一方から他方を通して前記校正用ガスセルを透過したレーザ光を反射させる反射手段27と、
前記ガス検知器と前記校正用ガスセルとの間の光路から被検知ガスを排除するパージ手段4とを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2のガス検知器校正装置は、請求項1記載のガス検知器校正装置において、
前記パージ手段4は、両端に前記ガス検知器3と前記校正用ガスセル6とが着脱可能に前記ガス検知器と前記校正用ガスセルとを結ぶ測定光の光軸を囲むように形成される筒型管状をなし、内部を所定のガス状態で保持することを特徴とする。
【0011】
請求項3のガス検知器校正装置は、請求項1記載のガス検知器校正装置において、
前記校正用ガスセル6は、前記一対の透過窓21の表面に反射防止膜が形成され、該一対の透過窓が前記レーザ光の光軸に対して所定角度θ傾斜し、かつ所定間隔L1をおいて配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4のガス検知器校正装置は、請求項1〜3のいずれかに記載のガス検知器校正装置において、
前記反射手段27と、
前記反射手段と前記ガス検知器3との間のレーザ光の光路長Lを微小に増減するように前記反射手段を駆動する駆動手段28とを含む光路長増減手段7を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項5のガス検知器校正装置は、請求項4記載のガス検知器校正装置において、
前記反射手段27は、反射面27aが光軸線C−Cに対して所定角度傾斜して配置されており、
前記駆動手段28は、前記反射手段を所定の回転速度で回転駆動することを特徴とする。
【0014】
請求項6のガス検知器校正装置は、請求項4記載のガス検知器校正装置において、
前記駆動手段28は、前記反射手段27を光軸線C−C方向に微動駆動することを特徴とする。
【0015】
請求項7のガス検知器校正装置は、請求項1〜6のいずれかに記載のガス検知器校正装置において、
前記反射手段27の反射面27aが乱反射面をなすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガス検知器校正装置によれば、ガスコラム密度PLの確定した系を構築しているので、この確定したガスコラム密度PLから未確定のガス濃度係数Cを確定して取得することができる。そして、この確定したガス濃度係数Cをガス検知器3のガス濃度係数パラメータとしてガス検知器3に設定しておけば、ガス検出時にこの設定されたガス濃度係数を使用して検出コラム密度を算出することで校正されたガス濃度を得ることができる。その結果、従来に比べ、ガス検知器のガス濃度測定値を短時間で正確に校正することができる。
【0017】
請求項2のガス検知器校正装置によれば、パージ管5内の気圧が外部よりも高く保たれるため、外部から余計なガスが進入するのを防ぐことができる。
【0018】
請求項3のガス検知器校正装置によれば、レーザ光が透過窓21を通過する際のレーザ光の反射やレーザ光の干渉による影響を防ぐことができる。
【0019】
請求項4〜6のガス検知器校正装置によれば、ガス検知器3の投受光面と反射板27の反射面27aとの間の距離Lを微小に変化させ、ガス検知器3と反射板27との間でレーザ光が共振することなく、レーザ光の干渉を防ぐことができる。
【0020】
請求項7のガス検知器校正装置によれば、校正用ガスセル6を透過してきたレーザ光を乱反射させて再び校正用ガスセル6に反射させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら具体的に説明する。図1は本発明に係るガス検知器校正装置の全体構成を示す概略図であって、校正対象のガス検知器が取り付けられた状態を示す図、図2は図1のガス検知器校正装置の校正用標準ガスセルの外観図、図3は校正用標準ガスセルの断面図である。
【0022】
本例のガス検知器校正装置は、特に、密閉された空間ではなく、例えばメタンガスなどの測定対象ガスを含む大気を測定雰囲気とし、この測定雰囲気である大気中にガス吸収線に周波数安定化されたレーザ光を出射し、測定雰囲気中で吸収されたレーザ光の反射光を受光して測定雰囲気中に含まれる測定対象ガスのガス濃度を測定するガス検知器の校正を行う場合に適している。
【0023】
図1に示すように、ガス検知器校正装置1は、校正対象となるガス検知器3、パージ手段4の構成部品であるパージ管5、校正用ガスセル6、光路長増減手段としての反射機構7が本体をなす基台2上に載置される。以下、基台2、パージ手段4、校正用ガスセル6、反射機構7の各構成について図面を参照しながら説明する。
【0024】
まず、基台2は、詳細には図示しないが、ガス検知器3、パージ管5、校正用ガスセル6、反射機構7を支持するための例えば複数の支持部材2aを有し、この支持部材2aがレール状のガイド部材2bに対して移動可能に設けられている。図1の例では、校正用ガスセル6が基台2の右側に設置され、パージ管5の左端にガス検知器3が装着され、パージ管5の右端に校正用ガスセル6が装着された状態で支持部材2aに支持される。また、校正用ガスセル6の右側に所定距離をおいて反射機構7が支持部材2aに支持される。これにより、図1において左からガス検知器3、パージ管5、校正用ガスセル6、反射機構7の順に各部品が基台2上に位置決め配置される。校正用ガスセル6は、制御ボックス8上に配置されている。制御ボックス8内には、後述する駆動手段28の動作を制御する制御器が収納されている。
【0025】
次に、パージ手段4は、両端にガス検知器3と校正用ガスセル6とが着脱可能にガス検知器3と校正用ガスセル6とを結ぶレーザ光(測定光)の光軸C−C(図1の破線)を囲むように形成される筒型管状をなし、内部をパージガスによる所定のガス状態に保持している。
【0026】
さらに説明すると、パージ手段4は、図1に示すように、筒状のパージ管5と、このパージ管5にパイプ11を介して接続されたパージガスボンベ12を備えて構成される。パージ管5は、例えばアクリルやガラス等により筒状に形成され、両端開口の一方にガス検知器3が挿入装着され、他方に校正用ガスセル6が挿入装着される。パージガスボンベ12は、パージガスとして、例えば安価な窒素ガス(標準ガスを含まない)が封入されている。また、パージガスボンベ12は、パイプ11との間を開栓、閉栓するバルブ12aを有している。
【0027】
パージ手段4は、バルブ12aを開栓することにより、パージガスボンベ12内の窒素ガスをパージ管5にパイプ11を介して供給し、パージ管5内をパージガスによるガス状態に保持している。この際、パージ管5の両端にはガス検知器3と校正用ガスセル6とが挿入により装着されており、これらの装着部分に隙間があってもパージ管5内のパージガスがその隙間から抜け、パージ管5内の気圧が外部よりも高く保たれるため、外部から余計なガスが進入するのを防ぐことができる。これにより、パージ管5は、両端にガス検知器3と校正用ガスセル6が挿入保持できる形状であればよく、パージ管5自身を簡単に製作することができる。
【0028】
なお、パージ管5の両端開口の内径は、挿入装着されるガス検知器3の投受光部の外径および校正用ガスセルの外径に応じて適宜決定される。
【0029】
また、パージ管5は、内面を例えば黒の艶消し面に形成して反射抑制面とすることができる。これにより、パージ管5内をレーザ光が通過するときにパージ管5の内面が鏡面となって反射するのを抑制することができる。
【0030】
次に、校正用ガスセル6は、図3に示すように、ガス雰囲気長L1が例えば100mm、内径L2が例えば80mm以上で形成される。校正用ガスセル6は、例えばアルミニウム等の金属や熱収縮の小さいガラス等からなる筒状部材をセル本体6aとしている。図2および図3に示すように、セル本体6aの上部には、それぞれにバルブ13a,14aを有する中空状の2つの継手13,14が取り付けられている。これら2つの継手13,14は、基端部13b,14bがセル本体6aの内部に連通している。また、継手13の先端部13cは、図1に示すように、パイプ15を介して真空ポンプ16に接続されている。さらに、継手14の先端部14cは、パイプ17を介して標準ガスボンベ18に接続されている。
【0031】
真空ポンプ16は、標準ガスボンベ18までのパイプ17の経路内を含め、校正用ガスセル6のセル本体6a内を真空にしている。標準ガスボンベ18には、予め正確に校正されたメタンガスが標準ガスとして封入されている。図1の例では、標準ガスボンベ18が3本で構成され、1000ppm、2000ppm、5000ppmのメタンガスが封入されている。また、標準ガスボンベ18には、それぞれパイプ17との間を開栓、閉栓するバルブ18aが設けられている。これら標準ガスボンベ18に充填された標準ガスは、いずれか一つのバルブ18aを開栓することにより、校正用ガスセル6のセル本体6aにパイプ17を介して供給される。
【0032】
また、セル本体6aの開口両端6b,6bには、レーザ光が透過することができるように、透過窓としての一対のガラス窓21,21が取り付けられている。各ガラス窓21は、例えば材質がBK7からなるウエッジガラスで形成されている。また、各ガラス窓21は、中心軸(ガス検知器3の光軸線)C−Cに対して所定角度θ(例えば10°前後)傾斜して開口両端6bに取り付けられる。また、各ガラス窓21の表面には、反射防止膜22として、例えば1.65μm波長用のARコーティングが施されている。さらに、開口両端6bにおける各ガラス窓21の外側には、内部を密閉するための例えばシリコンゴム等からなるガスケット23が配置される。これら一対のガラス窓21とガスケット23とは、固定手段24によって固定される。
【0033】
本例において、固定手段24は、開口両端6bにネジが形成されたネジ部24aと、ネジ部24aに締着されるように外周にネジが形成された環状のナット24bとで構成される。そして、ガラス窓21とガスケット23は、セル本体6aの開口両端6bに外部から装着された後、環状のナット24bをネジ部24aに締着することで固定される。
【0034】
さらに、セル本体6aには、内部の圧力を例えば0気圧から2気圧の範囲内で検出する圧力検出手段としての圧力センサ25が設けられている。なお、本例では、校正用ガスセル6の内気圧が通常1気圧に設定される。また、基台2には、圧力センサ25からの検出信号による圧力値を表示する表示手段としてのデジタル表示器26が設けられている。これにより、ユーザは、デジタル表示器26に表示された値を目視で確認することにより、校正用セル6の内部圧力を容易に認識することができる。
【0035】
なお、本例では、セル本体6aに圧力センサ25を設ける構成について図示したが、アナログ表示機能を有するメーター式の圧力計をセル本体6aに設けても良い。この場合、基台2に設けられる表示手段26としてのデジタル表示器が不要になる。
【0036】
このように構成される校正用ガスセル6は、一対の透過窓21とセル本体6aの周壁によって画成された空間内に所定濃度の標準ガス(被検知ガス)が充填されるようになっている。そして、この校正用ガスセル6は、校正されるべきガス検知器3が置かれる位置からガス検知器3が発生するレーザ光の光軸線C−Cに沿って所定の長さL0(例えば1000mm)以上離れて基台2上に配置される。
【0037】
次に、光路長増減手段としての反射機構7は、反射手段としての反射板27と、反射板27をレーザ光の光軸線C−C方向に微動させる駆動手段28とを備えて構成される。この反射板27は、一対のガラス窓21の一方から他方を通して校正用ガスセル6を透過したレーザ光を、再び校正用ガスセル6方向に反射させている。また、図1における反射板27は、反射面27aがレーザ光の光軸線C−Cに対して所定角度(例えば10°前後)傾斜している。さらに、反射板27は、駆動手段28によって回転可能に設けられ、回転中心が光軸線C−Cから微小にずれて位置している。
【0038】
駆動手段28は、反射板27を所定速度(例えば600rpm)で回転駆動している。この駆動手段28は、例えば各種モータ、アクチュエータ、バイブレータ等で構成することができる。そして、光軸線C−Cに対して傾斜した反射板27を駆動手段28により所定速度で回転させることでレーザ光の照射位置が変わる。これにより、ガス検知器3の投受光面と反射板27の反射面27aとの間の距離Lが微小に変わり、ガス検知器3と反射板27との間でレーザ光が共振することなく、レーザ光の干渉を防ぐことができる。
【0039】
なお、図1の例の反射機構7では、反射板27を光軸線C−Cに対して所定角度傾斜させ、駆動手段28により反射板27を回転させる構成としたが、この構成に限定されるものではない。例えば反射板27の反射面27aを光軸線C−Cに対して垂直に配置し、反射板27を駆動手段28によって光軸線C−C方向に微小移動させ、ガス検知器3と反射板27との間の距離Lを微小に増減させる構成とすることもできる。その際の反射板27の移動量は、光の位相が揃わないように、使用するレーザ光の波長と異なる距離、レーザ光より若干大きければ良い。例えば使用するレーザ光の波長が1〜3μmであれば、反射板27の移動量は5〜100μmとなる。
【0040】
また、反射板27の反射面27aは、例えば微小な凹凸面からなる乱反射面とすることができる。これにより、校正用ガスセル6を透過してきたレーザ光を乱反射させて再び校正用ガスセル6に反射させることができる。さらに、反射手段は、上記反射板27に限定されるものではなく、校正用ガスセル6のガラス窓21と対面する側に平坦な反射面27aを有する構成であれば、板状でなくても良い。
【0041】
次に、本例のガス検知器校正装置1の校正原理について説明する。
ガス検出器3のガス検出方法は、ガス測定レーザ光を出射し、測定対象から反射した微弱なレーザ光を受光し、受光信号を分析して光路中のガスコラム密度を検出している。
【0042】
今、分圧Pの測定ガスが測定光路に存在し、測定光路長をLとすると、Ir=IR(exp(−αPL))…数式1と表すことができる。なお、数式1において、Ir:受光レーザ光強度、I:出射レーザ光強度、R:測定光の減衰量、α:測定ガスの吸収係数、P:測定ガスの分圧、L:測定光路長である。
【0043】
出射レーザ光強度Iを、I=I0 +I1 cos(2πft+φ)…数式2(なお、I0 :バイアスレーザ光強度、I1 :変調レーザ光強度、f:変調周波数、φ:変調位相)、出射レーザ光周波数ωを、ω=ω0 +ω1 cos(2πft+φ’)…数式3(なお、ω:出射レーザ光波長、ω0 :バイアスレーザ光波長、ω1 :変調レーザ光波長半幅、f:変調周波数、φ’:変調位相)とすると、αPL、ω1 /Δωが1より十分小さな値を取るとき数式1をフーリエ展開して検出1f強度、検出2f強度を求めると、I1f=RI1 cos(2πft+φ1 )…数式4、I2f=RI0 α0 PL(ω1 /Δω)2 cos(4πft+2φ1 ’)/2…数式5と表すことができる。
【0044】
なお、数式4において、I1f:検出1f強度、R:測定光の減衰量、I1 :変調レーザ光強度、f:変調周波数、φ1 :検出位相である。また、数式5において、I2f:検出2f強度、R:測定光の減衰量、I0 :バイアスレーザ光強度、α0 :測定ガス吸収線中心の吸収係数、P:測定ガスの分圧、L:測定光路長、ω1 :変調レーザ光波長半幅、Δω:測定ガス吸収線半値半幅、f:変調周波数、φ1 ’:検出位相である。
【0045】
ここで、検出2f強度と検出1f強度の比を求めると、|I2f|/|I1f|=(I0 /I1 )(ω1 /Δω)2 α0 PL/2…数式6となるが、ここでガス濃度換算係数Cを導入し、C=((I0 /I1 )(ω1 /Δω)2 α0 /2)-1…数式7としてガスコラム密度PLの大きさを求めると、PL=C*(|I2f|/|I1f|)…数式8となる。
【0046】
なお、数式6において、I2f/I1f:検出2f強度と検出1f強度の比、I0 :バイアスレーザ光強度、I1 :変調レーザ光強度、ω1 :変調レーザ光波長半幅、Δω:測定ガス吸収線半値半幅、α0 :測定ガス吸収線中心の吸収係数、P:測定ガスの分圧、L:測定光路長である。
【0047】
このように、ガスコラム密度PLは、測定ガス濃度と測定距離の積と定義されるので、確定した測定距離と正確な濃度のガスがあればガス濃度係数Cは精密に確定できる。従って、正確なガスコラム密度を求めるためには、ガス濃度係数Cを精密に測定し、設定すればよいことになる。
【0048】
そこで、本例のガス検知器校正装置1では、上述した校正原理に基づき、ガス濃度係数Cを精密に測定するため、ガスコラム密度PLの確定した系が構築してあり、この確定したガスコラム密度PLから未確定ガス濃度係数Cを確定する。
【0049】
本例のガス検知器校正装置1に備えている校正用ガスセル6は、測定光路長L1が100mmに設定されている。また、1000ppm、2000ppm、5000ppmの標準ガスが用意してあり、また正確に1気圧の標準ガスを校正用ガスセル6に充填できるようになっている。
【0050】
そして、1000ppmの標準ガスを充填すれば、ガスコラム密度PL=1000ppm×0.1m=100ppm・mとなり、100ppm・mのコラム密度が校正装置1に設定される。同様に2000ppmの標準ガスであれば200ppm・m、5000ppmの標準ガスであれば500ppm・mのコラム密度が設定される。
【0051】
本例のガス検知器校正装置では、校正対象のガス検知器3を装着し、上記3種類のコラム密度で|2f|/|1f|値をガス検知器3で測定する。そして、測定した|2f|/|1f|値とコラム密度PLを用いて、ガス濃度係数Cを取得する。この取得したガス濃度係数Cをガス検知器3のガス濃度係数パラメータとしてガス検知器3にパソコン等から設定する。これにより、ガス検知器3は、ガス検出時にこの設定されたガス濃度係数を使用して検出コラム密度を算出すれば、校正されたコラム密度を得ることができる。
【0052】
以下、本例のガス検知器校正装置1を用いたガス濃度係数Cの取得方法について、その手順に沿って具体的に説明する。
【0053】
(1)校正対象となるガス検知器3の投受光部をパージ管5に挿入してガス検知器3を基台2上に位置決め載置する。
(2)反射板27を駆動手段28により規定の速度で回転させる。
(3)パージガスボンベ12のバルブ12aを開けてパージ管5内にパージガスを流す。これにより、パージ管5内をパージガスのみで満たす。
(4)校正用ガスセル6、標準ガスボンベ18の全てのバルブ13c,14c,18aを閉める。
(5)校正用ガスセル6の標準ガスボンベ18につながっているバルブ14cを開ける。
(6)校正用ガスセル6の真空ポンプ16につながっているバルブ13cを開ける。
(7)真空ポンプ16を動作させ、校正用ガスセル6内を真空にする。
(8)校正用ガスセル6の真空ポンプ16につながっているバルブ13cを閉める。
(9)1000ppmの標準ガスボンベ18のバルブ18aを開ける。
(10)標準ガスが校正用ガスセル6内に1気圧になるまで標準ガスを入れる。
(11)標準ガスボンベ18のバルブ18aを閉める。
(12)校正用ガスセル6の標準ガスボンベ18につながっているバルブ14cを閉める。
(13)(3)〜(12)の作業を複数回繰り返す。この作業は、前回のガスを真空ポンプ16の動作により排除し、前回の残留ガスの影響による測定誤差を無くすために行われる。
(14)校正対象となるガス検知器3により|2f|/|1f|値(ガス濃度)を測定し、記録する。
(15)1000ppmの標準ガスボンベ18を2000ppmの標準ガスボンベ18に取り替え、(3)〜(14)の作業を複数回繰り返す。
(16)2000ppmの標準ガスボンベ18を5000ppmの標準ガスボンベ18に取り替え、(3)〜(14)の作業を複数回繰り返す。
(17)駆動手段28による反射板27の回転を止める。
(18)全てのガスボンベ12,18のバルブ12a,18aを閉める。
(19)校正用ガスセル6のバルブ13c,14cを開ける。
(20)校正対象となるガス検知器3を基台2から取りはずす。
【0054】
このように、本例のガス検知器校正装置では、ガスコラム密度PLの確定した系を構築しているので、この確定したガスコラム密度PLから未確定ガス濃度係数Cを確定することができる。すなわち、本例のガス検知器校正装置1の基台2に校正対象のガス検知器3を装着し、100ppm・m、200ppm・m、500ppm・mの3種類のコラム密度で|2f|/|1f|値をガス検知器3で測定する。そして、測定した|2f|/|1f|値とコラム密度PLを用いて、数式8からガス濃度係数Cを取得することができる。これにより、取得したガス濃度係数Cをガス検知器3のガス濃度係数パラメータとしてガス検知器3に設定しておけば、ガス検出時にこの設定されたガス濃度係数を使用して検出コラム密度を算出することで校正されたガス濃度を得ることができる。これにより、従来に比べ、ガス検知器のガス濃度測定値を短時間で正確に校正することができる。
【0055】
なお、本例のガス検知器校正装置では、比例関係にあるガス濃度と電圧(|2f|/|1f|値)のオフセット量が補正できるように、標準ガスとして1000ppm、2000ppm、5000ppmの3種類の濃度を用意したが、少なくとも2種類の濃度の標準ガスを用意すれば良い。
【0056】
本例のガス検知器校正装置において、パージ手段4は、両端にガス検知器3と校正用ガスセル6とが着脱可能にガス検知器3と校正用ガスセル6とを結ぶ測定光の光軸C−Cを囲むように形成される筒型管状をなし、内部を所定のガス状態で保持する構成である。これにより、パージ管5内の気圧が外部よりも高く保たれるため、外部から余計なガスが進入するのを防ぐことができる。
【0057】
また、校正用ガスセル6は、一対の透過窓21の表面に反射防止膜が形成され、一対の透過窓21がレーザ光の光軸C−Cに対して所定角度θ傾斜し、かつ所定間隔L1をおいて配置される構成なので、レーザ光が透過窓21を通過する際のレーザ光の反射やレーザ光の干渉による影響を防ぐことができる。
【0058】
さらに、光路長増減手段としての反射機構7は、反射手段としての反射板27と、反射板27とガス検知器3との間のレーザ光の光路長Lを微小に増減するように反射板27を駆動する駆動手段28とを含む構成である。具体的には、反射面27aが光軸線C−Cに対して所定角度傾斜して配置された反射手段27を駆動手段28により所定の回転速度で回転駆動する構成、反射板27を駆動手段28により光軸線C−C方向に微動駆動する構成である。これにより、ガス検知器3の投受光面と反射板27の反射面27aとの間の距離Lを微小に変化させ、ガス検知器3と反射板27との間でレーザ光が共振することなく、レーザ光の干渉を防ぐことができる。
【0059】
また、本例のガス検知器校正装置において、反射手段27の反射面27aが乱反射面をなす構成なので、校正用ガスセル6を透過してきたレーザ光を乱反射させて再び校正用ガスセル6に反射させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係るガス検知器校正装置の全体構成を示す概略図であって、校正対象のガス検知器が取り付けられた状態を示す図である。
【図2】図1のガス検知器校正装置の校正用標準ガスセルの外観図である。
【図3】校正用標準ガスセルの断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 ガス検知器校正装置
2 基台
2a 支持部材
2b ガイド部材
3 ガス検知器
4 パージ手段
5 パージ管
6 校正用ガスセル
6a セル本体
6b 両端
7 反射機構(光路長増減手段)
8 制御ボックス
11 パイプ
12 パージガスボンベ
12a バルブ
13,14 継手
13a,14a バルブ
13b,14b 基端部
13c,14c 先端部
15 パイプ
16 真空ポンプ
17 パイプ
18 標準ガスボンベ
21 ガラス窓(透過窓)
22 反射防止膜
23 ガスケット
24 固定手段
24a ネジ部
24b ナット部
25 圧力検出手段
26 表示手段
27 反射板(反射手段)
27a 反射面
28 駆動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス吸収線に周波数安定化されたレーザ光を雰囲気中に出射し、且つ該レーザ光の反射光を受光して前記雰囲気中のガス濃度を測定するガス検知器(3)の校正を行うためのガス検知器校正装置(1)であって、
校正されるべきガス検知器が置かれる位置から該ガス検知器が発生するレーザ光の光軸線(C−C)に沿って所定の長さ(L)以上離れて配置され、前記光軸線に対してそれぞれ傾斜して備えられてレーザ光を透過させる一対の透過窓(21)と周壁とで画成され、内部に所定濃度の被検知ガスが充填される校正用ガスセル(6)と、
前記一対の透過窓の一方から他方を通して前記校正用ガスセルを透過したレーザ光を反射させる反射手段(27)と、
前記ガス検知器と前記校正用ガスセルとの間の光路から被検知ガスを排除するパージ手段(4)とを備えたことを特徴とするガス検知器校正装置。
【請求項2】
前記パージ手段(4)は、両端に前記ガス検知器(3)と前記校正用ガスセル(6)とが着脱可能に前記ガス検知器と前記校正用ガスセルとを結ぶ測定光の光軸を囲むように形成される筒型管状をなし、内部を所定のガス状態で保持することを特徴とする請求項1記載のガス検知器校正装置。
【請求項3】
前記校正用ガスセル(6)は、前記一対の透過窓(21)の表面に反射防止膜が形成され、該一対の透過窓が前記レーザ光の光軸に対して所定角度(θ)傾斜し、かつ所定間隔(L1)をおいて配置されていることを特徴とする請求項1記載のガス検知器校正装置。
【請求項4】
前記反射手段(27)と、
前記反射手段と前記ガス検知器(3)との間のレーザ光の光路長(L)を微小に増減するように前記反射手段を駆動する駆動手段(28)とを含む光路長増減手段(7)を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガス検知器校正装置。
【請求項5】
前記反射手段(27)は、反射面(27a)が光軸線(C−C)に対して所定角度傾斜して配置されており、
前記駆動手段(28)は、前記反射手段を所定の回転速度で回転駆動することを特徴とする請求項4記載のガス検知器校正装置。
【請求項6】
前記駆動手段(28)は、前記反射手段(27)を光軸線(C−C)方向に微動駆動することを特徴とする請求項4記載のガス検知器校正装置。
【請求項7】
前記反射手段(27)の反射面(27a)が乱反射面をなすことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のガス検知器校正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−84342(P2006−84342A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270032(P2004−270032)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】