説明

ガス溶解洗浄水の製造装置及び製造方法

【課題】電子部品などの洗浄に用いる特定ガスを所定濃度に溶解したガス溶解洗浄水を、使用するガスの量を節減し、効率よく、安定かつ安全に供給することができるガス溶解洗浄水の製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】特定ガスを大気圧に対して加圧条件下で水に過飽和に溶解させる加圧溶解部と、特定ガスの過飽和分を除去する過飽和分除去部を有するガス溶解洗浄水の製造装置において、加圧溶解部の一次側に気体透過膜モジュールを備えた予備溶解部を有し、その気相室に特定ガスを給気するガス溶解洗浄水の製造装置、及び、貯留槽、水圧送ポンプ、異物を除去する浄化手段、加圧溶解部、過飽和分除去部を有する装置を用いるガス溶解洗浄水の製造方法において、加圧溶解部の一次側又は過飽和分除去部の二次側の溶存ガス濃度を測定し、その測定値に応じて、加圧溶解部に給気する特定ガスの流量又は圧力を調整し、所定濃度の特定ガス溶解水を発生させるガス溶解洗浄水の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス溶解洗浄水の製造装置及び製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、半導体用のシリコンウェハ、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板などの高度な清浄度を必要とする電子部品などの洗浄に用いる特定ガスを所定濃度に溶解したガス溶解洗浄水を、使用する特定ガスの量を節減し、効率よく、安定かつ安全に供給することができるガス溶解洗浄水の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、電子部品となる基板の洗浄は、RCA洗浄と呼ばれるウェット洗浄が主流であった。RCA洗浄は、硫酸と過酸化水素水の混合液(SPM)を120〜150℃に加熱して用いたり、アンモニアと過酸化水素水の混合液(APM)を60〜80℃に加温して用いたり、あるいは、塩酸と過酸化水素水の混合液(HPM)を60〜80℃に加温して用いたりする洗浄方法である。この洗浄方法を採用した場合の高濃度の薬液や洗浄剤の多大なコスト、それを濯ぐおびただしい量の純水、超純水のコスト、薬品蒸気を排気し、新たに清浄な空気を調製する空調コストなどを低減し、さらに水の大量使用、薬品の大量廃棄、排ガスの放出などの環境への負荷を低減するために、さまざまな簡略化の取り組みがなされ、成果を挙げてきた。その代表例が、水素などの特定ガスを溶解した洗浄水による超音波洗浄技術である。
【0003】
特定ガスを高濃度に溶解させることが、この新しい洗浄技術の要点となっている。さらに、安定して高い洗浄効果を保つためには、高濃度かつ使用の場での飽和濃度以下に溶存ガス濃度を制御することが必要である。また、水素を飽和濃度以上に溶解させた場合には、大気圧下に溶存水素が気泡化して系内に滞留する危険性が増すために、安全面でも飽和濃度以下に溶解することが望ましい。また、大量のガス溶解洗浄水が必要な洗浄工程において、節水を実現するためには、洗浄排水を循環利用することが求められる。洗浄排水中の異物の除去と溶存ガス濃度の調整により、循環システムを構築することが望ましい。このような技術ニーズに対し、原水である純水若しくは超純水に溶存するガス(主に窒素)を脱気処理により除去した後に、溶解させたいガスを飽和濃度以下の量だけ供給して溶解する技術が、本発明者らによって開発された。この方法の有用性が認識され、ウェット洗浄向けの新技術として広く普及してきた。
【0004】
例えば、洗浄用の水素含有超純水を、余剰が生じて廃棄することなく、使用水量が変動する場合にも、安定した溶存水素濃度の水素含有超純水をユースポイントに供給することができる水素含有超純水の供給装置として、水素含有超純水を用いる電子材料の洗浄工程において、ユースポイントで使われなかった余剰の水素含有超純水及び補給される超純水の混合水を保持する密閉式の水槽、水槽に保持された水を送水するポンプ、送水される水の溶存ガスを除去する脱気部、水素供給部から供給される水素を脱気後の水に溶解させる溶解部、フィルター及びユースポイントを経て水槽に戻る循環配管を有し、水素含有超純水を循環させながらユースポイントにおいて必要量の水素含有超純水を供給する水素含有超純水の供給装置が提案されている(特許文献1)。
【0005】
この装置によれば、高濃度かつ飽和濃度以下の特定ガスを溶解したガス溶解洗浄水を効率よく製造することができる。しかし、この装置では、原水である純水、超純水から大部分の溶存ガスを除くための脱気工程が必ず必要であり、適当な真空ポンプなどの減圧機構が必要となっていた。また、溶存ガスとして相当量の水素を排出する必要があり、安全確保上問題となっていた。
【0006】
本発明者らは、真空ポンプなどの減圧機構を使用することなく、安全に所望のガス濃度のガス溶解洗浄水を製造することができ、使用済みのガス溶解洗浄水の水と特定ガスを再利用することができ、半導体用のシリコンウェハ、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板などの高度な清浄度を必要とする電子部品などの洗浄に好適に使用することができるガス溶解洗浄水の製造装置として、特定ガスを大気圧を超える加圧下に水に溶解するガス溶解装置と、ガス溶解装置からのガス溶解水を、ガス溶解時の圧力より低い圧力に減圧し、溶存ガスの一部を除去するガス部分除去装置とを有するガス溶解洗浄水の製造装置が有用であることを見いだした。このガス溶解洗浄水の製造装置についても有用性が広く認識され、回収循環システムにも適用されて、ウェット洗浄向けの新技術として普及してきた。
【0007】
このガス溶解洗浄水の製造装置によって、特定ガスの濃度が高く、かつ過飽和でないガス溶解洗浄水を安定して製造し、循環再利用することが可能となった。しかし、この装置では、供給される特定ガスの圧力が低圧の場合などにおいては、より高濃度の特定ガス溶解水を得ようとしたとき、特定ガスの加圧溶解と、過飽和分の除去の組み合せを直列多段に組む必要があり、供給ガス量が多くなるという問題があった。
【特許文献1】特開平11−77021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、半導体用のシリコンウェハ、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板などの高度な清浄度を必要とする電子部品などの洗浄に用いる特定ガスを所定濃度に溶解したガス溶解洗浄水を、使用するガスの量を節減し、効率よく、安定かつ安全に供給することができるガス溶解洗浄水の製造装置及び製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定ガスを加圧溶解し、その後過飽和分を除去する装置の一次側に、予備溶解部として気体透過膜モジュールを配し、その気相室に特定ガスを通気させることにより効率よく高濃度の特定ガス溶解水が得られ、また、過飽和分を除去する過飽和分除去部に気体透過膜モジュールを用いた場合、その気相室から排出される特定ガスを多く含む排気ガスを予備溶解部の気体透過膜モジュールに導入することにより、さらなる高濃度化と供給ガス量の節約を図ることができ、さらに、加圧溶解部若しくは予備溶解部の一次側又は過飽和分除去部の二次側の溶存ガス濃度に応じて加圧溶解部、予備溶解部又は過飽和分除去部へ給気するガス圧又はガス量を調整することにより、所定濃度の特定ガス溶解水を給気ガスの無駄なく製造することができることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)特定ガスを大気圧に対して加圧条件下で水に過飽和に溶解させる加圧溶解部と、特定ガスの過飽和分を除去する過飽和分除去部を有するガス溶解洗浄水の製造装置において、加圧溶解部の一次側に気体透過膜モジュールを備えた予備溶解部を有し、その気相室に特定ガスを給気することを特徴とするガス溶解洗浄水の製造装置、
(2)過飽和分除去部が、気体透過膜モジュールを有し、その気相室に大気圧を超えることなく特定ガスを給気する特定ガス給気配管を接続してなる(1)記載のガス溶解洗浄水の製造装置、
(3)予備溶解部の気体透過膜モジュールに給気する特定ガスの一部又は全部に、過飽和分除去部にて除去された排気ガスを用いる(1)記載のガス溶解洗浄水の製造装置、
(4)過飽和分除去部にて除去された排気ガスが、過飽和分除去部の気体透過膜モジュールの気相室に、その気相室の圧力を大気圧を超えることなく特定ガスを給気した後に過飽和分除去部から排気される排気ガスである(3)記載のガス溶解洗浄水の製造装置、
(5)特定ガスを溶解させたガス溶解洗浄水で被洗浄物を洗浄した後の排水を貯留する貯留槽、該貯留槽の水を圧送するポンプ、水中に存在する洗浄に実質的に影響を与える異物を除去する浄化手段、特定ガスを加圧溶解させる加圧溶解部、特定ガスの過飽和分を除去する過飽和分除去部を有する洗浄水の循環機構を有するガス溶解洗浄水の製造装置を用いるガス溶解洗浄水の製造方法において、加圧溶解部の一次側又は過飽和分除去部の二次側の溶存ガス濃度を測定し、その測定値に応じて、加圧溶解部に給気する特定ガスの流量又は圧力を調整し、所定濃度の特定ガス溶解水を発生させることを特徴とするガス溶解洗浄水の製造方法、
(6)加圧溶解部の一次側に気体透過膜モジュールを備えた予備溶解部を有し、その気相室に特定ガスを給気する(5)記載のガス溶解洗浄水の製造方法、
(7)過飽和分除去部が気体透過膜モジュールを有しており、この気体透過膜モジュールの気相室に、その気相室の圧力を大気圧を超えることなく特定ガスを給気する(5)記載のガス溶解洗浄水の製造方法、
(8)予備溶解部の気体透過膜モジュールに給気する特定ガスの一部又は全部に、過飽和分除去部にて除去された排気ガスを用いる(6)記載のガス溶解洗浄水の製造方法、
(9)過飽和分除去部にて除去された排気ガスが、過飽和分除去部の気体透過膜モジュールの気相室に、その気相室の圧力を大気圧を超えることなく特定ガスを給気した後に過飽和分除去部から排気される排気ガスである(8)記載のガス溶解洗浄水の製造方法、及び、
(10)予備溶解部の一次側又は過飽和分除去部の二次側の溶存ガス濃度を測定し、その測定値に応じて予備溶解部又は過飽和分除去部に給気する特定ガスの流量を調整し、所定濃度の特定ガス溶解水を発生させる(6)記載のガス溶解洗浄水の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガス溶解洗浄水の製造装置及び製造方法を用いることにより、高濃度の特定ガス溶解洗浄水を効率よく得ることが可能となり、加圧溶解部若しくは予備溶解部の一次側又は過飽和分除去部の二次側の溶存ガス濃度に応じて供給する特定ガスのガス量又はガス圧を調整することにより、所定濃度の特定ガス溶解洗浄水を給気ガスの無駄なく製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のガス溶解洗浄水の製造装置は、特定ガスを大気圧に対して加圧条件下で水に過飽和に溶解させる加圧溶解部と、特定ガスの過飽和分を除去する過飽和分除去部を有するガス溶解洗浄水の製造装置において、加圧溶解部の一次側に気体透過膜モジュールを備えた予備溶解部を有し、その気相室に特定ガスを給気する装置である。本発明装置においては、予備溶解部の気体透過膜モジュールに給気する特定ガスの一部又は全部に、過飽和分除去部にて除去された排気ガスを用いることが好ましい。
【0013】
図1は、本発明のガス溶解洗浄水の製造装置の一態様の工程系統図である。貯留槽1に、洗浄排水返送管2を経由して、洗浄処理槽3において被洗浄物を洗浄した後の排水及び洗浄に使用されなかったガス溶解洗浄水が返送される。貯留槽には、補給水配管4から、補給水が供給される。補給水は超純水であることが好ましいが、別装置で製造された特定ガス溶解水を用いることもできる。貯留槽に窒素配管5を設け、貯留槽上部の空間の特定ガスを窒素によりパージすることができる。特定ガスが水素などの場合、貯留槽の上部空間は高濃度の水素が充満し、安全管理上好ましくない。そこで、窒素配管から窒素を送り、上部空間の水素濃度を4体積%以下に下げることが好ましい。貯留槽は圧力調整機構6を有し、貯留槽内部を陽圧に保つことが好ましい。貯留槽内を陽圧に保つ圧力調整機構を設けることにより、貯留槽での急激な水位低下により貯留槽内が負圧になって破損することを防止することができる。貯留槽1と洗浄処理槽3を、同一の槽で兼用することもできる。この場合、貯留槽兼洗浄処理槽に補給水配管が接続される。ここでも槽の上部空間の水素濃度を4体積%以下にするために、窒素によりパージするか、あるいは十分な排気をとることが好ましい。
【0014】
貯留槽より、圧送ポンプ7により水を送り出し、熱交換器8により水温を調節したのち、純化手段9に通水し、水中に存在する異物を除去する。熱交換器は、主として循環中の昇温分を冷却するために用いられるが、熱交換器を設置して冷却することなく、なりゆきで温まった水を洗浄に用いることもでき、逆に加温することもできる。熱交換器の設置位置に特に制限はないが、純化手段の一次側であることが好ましい。本発明装置に用いる純化手段としては、例えば、限外ろ過膜(UF)装置などを挙げることができる。純化手段に通水することにより、水中に存在する洗浄に実質的に影響を与える異物を一部の水とともに除去することができる。補給水の補給位置は、貯留槽1から純化手段9の二次側の間の任意の位置とすることができるが、異物を効率的に除去する観点からは、純化手段の二次側が好適である。しかし、装置運転上複雑な制御を伴うので、通常は補給水の供給の制御が容易な貯留槽に補給することが好ましい。例えば、貯留槽の水位を一定に保つように補給水量を調整することにより、実質的に系外へ排出される水量と釣り合わせることができ、制御も容易となる。
【0015】
純化手段により異物を除去し、純化手段より流出する水は、溶存ガスモニター10により溶存する特定ガス濃度を測定し、加圧溶解の前で補助的に特定ガスを溶解させる予備溶解部11、特定ガスを大気圧よりも高い圧力で溶解させる加圧溶解部16、大気圧を超えない圧力下で過飽和に溶解したガスを特定ガスも含めて除去する過飽和分除去部20の順に送る。予備溶解部11の気体透過膜モジュールの気相室には特定ガスを給気し、加圧溶解の前に予備的に特定ガスを溶解する。ここで給気する特定ガスは、特定ガス供給源から単独で給気することもでき、あるいは、過飽和分除去部から排出される特定ガスを多く含んだ排気ガスの一部又は全部を用いることもできる。また、過飽和分除去部からの排気ガスを給気する場合でも、必要に応じて特定ガス供給源からも給気することができる。予備溶解部への給気流量は、流量制御弁12、13により制御され、流量計14で指示される。前段の溶存ガスモニター10、又は、過飽和分除去部の二次側の溶存ガスモニター21の測定値に応じて流量制御弁を制御することにより、所定濃度の特定ガス溶解水を、給気ガスの無駄なく供給することが可能となる。予備溶解部より排出される排気ガスは、ガス燃焼触媒塔15を通して無害化し、系外に排出する。
【0016】
予備溶解部から流出する水は、加圧溶解部16の気体透過膜モジュールに供給する。加圧溶解部の気体透過膜モジュールの気相室は、特定ガス供給源17から送られる特定ガスによって、大気圧よりも高い圧力で、かつ、その場所の水圧よりも低い圧力に保ち、特定ガスが大気圧における飽和濃度以上に、気泡化することなく溶解する。加圧溶解部の気体透過膜モジュールの気相室の圧力は、圧力調整弁18により制御され、圧力計19で指示される。前段の溶存ガスモニター10又は溶存ガスモニター21の測定値に応じて圧力調整弁18を制御することにより、所定濃度の特定ガス溶解水を、給気ガスの無駄なく供給することが可能となる。
【0017】
貯留槽に返送される洗浄排水の溶存ガス濃度は、超音波照射時間、被洗浄物とそれを保持する治具の揺動挙動などの洗浄条件により変動する。例えば、高濃度のまま返送されれば、給気ガス量は少なくても、所定濃度の特定ガス溶解洗浄水を得ることができる。そこで、特定ガスを溶解させる一次側で溶存する特定ガス濃度を測定し、その測定値に応じて給気ガス量を増減させることにより、給気ガスの無駄がなく、所定濃度の特定ガス溶解洗浄水を供給することが可能となる。また、洗浄処理槽へ供給する特定ガス溶解水の溶存ガス濃度が最も重要であることから、過飽和分を除去した後の溶存ガス濃度を測定し、その測定値に応じて、それぞれの部位への供給ガス量を増減させることも有効である。
【0018】
給気ガス量の制御には、予備溶解部又は過飽和分除去部への給気ガスの流量を制御する方法と、加圧溶解部への給気ガスの圧力又は給気ガスの流量を制御する方法がある。予備溶解部又は過飽和分除去部で制御する場合は制御の安定性がよく、加圧溶解部で制御する場合は応答性がよい。給気ガス量の制御は、予備溶解部のみで行うことができ、加圧溶解部のみで行うこともでき、あるいは、予備溶解部と加圧溶解部の両方で制御することもでき、状況に応じて適宜選択することができる。
【0019】
加圧溶解部から流出する特定ガス溶解水は、過飽和分除去部20の気体透過膜モジュールに供給する。過飽和分除去部の気体透過膜モジュールの気相室を大気圧又は大気圧より微減圧に保つことにより、大気圧下で飽和溶解度以上に溶解している溶存ガスを気体透過膜を通じて気相室に移動し、水中から除去することができる。気相室を微減圧に保つ手段に特に制限はないが、気流アスピレータなどが容易に適用することができ好適である。微減圧に保つ手段の適用位置は、過飽和分除去部の気相室出口直後がその目的からふさわしいが、排気ガスを再利用することを考えると、ガス燃焼触媒塔15の一次側又は二次側が好適である。過飽和分除去部から流出する特定ガス溶解洗浄水は、溶存ガスモニター21により溶存する特定ガス濃度を測定し、所望の溶存ガス濃度が得られていることを確認して洗浄処理槽3に送る。ここで、前段の溶存ガスモニター10と後段の溶存ガスモニター21は、例えば、一定時間ごとに流路が切り替わるようにして、1台の溶存ガスモニターにより、予備溶解部11の一次側の水と過飽和分除去部20の二次側の水の両方の溶存する特定ガス濃度を測定し得るように兼用することもできる。
【0020】
本発明の特定ガス溶解洗浄水の製造装置は、過飽和分除去部が、気体透過膜モジュールを有し、その気相室に大気圧を超えることなく特定ガスを給気する特定ガス給気配管を接続してなることが好ましい。本発明装置においては、過飽和分除去部にて除去された排気ガスが、過飽和分除去部の気体透過膜モジュールの気相室に、その気相室の圧力を大気圧を超えることなく特定ガスを給気した後に過飽和分除去部から排気される排気ガスであることが好ましい。
【0021】
図2は、本発明の特定ガス溶解洗浄水の製造装置の他の態様の工程系統図である。本態様の装置は、図1に示す装置の過飽和分除去部に、流量制御弁22と流量計23を設置し、気体透過膜モジュールの気相室に、特定ガス供給源から大気圧を超えることのない圧力で特定ガスを給気する。このとき、特定ガス溶解水の特定ガス濃度に応じて、この給気ガス流量を制御することにより、無駄のない給気ガスの制御が可能となる。
【0022】
本発明のガス溶解洗浄水の製造方法においては、特定ガスを溶解させたガス溶解洗浄水で被洗浄物を洗浄した後の排水を貯留する貯留槽、該貯留槽の水を圧送するポンプ、水中に存在する洗浄に実質的に影響を与える異物を除去する浄化手段、特定ガスを加圧溶解させる加圧溶解部、特定ガスの過飽和分を除去する過飽和分除去部を有する洗浄水の循環機構を有する特定ガス溶解洗浄水の製造装置を用いる特定ガス溶解洗浄水の製造方法において、加圧溶解部の一次側又は過飽和分除去部の二次側の溶存ガス濃度を測定し、その測定値に応じて、加圧溶解部に給気する特定ガスの流量若しくは圧力又は過飽和分除去部に給気する特定ガスの流量を調整し、所定濃度の特定ガス溶解水を発生させる。本発明方法においては、図1又は図2に工程系統図を示した本発明のガス溶解洗浄水の製造装置を用いる。
【0023】
本発明方法においては、加圧溶解部の一次側に気体透過膜モジュールを備えた予備溶解部を有し、その気相室に特定ガスを給気することが好ましい。加圧溶解部の一次側に予備溶解部を設けて、加圧溶解の前に予備的に特定ガスを溶解することにより、効率よく高濃度の特定ガスを溶解したガス溶解洗浄水を製造することができる。
【0024】
本発明方法においては、過飽和分除去部の気体透過膜モジュールの気相室に、その気相室の圧力を大気圧を超えることなく特定ガスを給気することができる。過飽和分除去部より流出する特定ガス溶解水の濃度に応じて、気相室に給気する特定ガスの流量を制御することにより、給気する特定ガスの流量を無駄なく制御することができる。
【0025】
本発明方法においては、予備溶解部の気体透過膜モジュールに給気する特定ガスの一部又は全部に、過飽和分除去部にて除去された排気ガスを用いることが好ましい。過飽和分除去部にて除去された排気ガスは、過飽和分除去部の気体透過膜モジュールの気相室に、その気相室の圧力を大気圧を超えることなく特定ガスを給気した後に過飽和分除去部から排気される排気ガスとすることができる。過飽和分除去部にて除去された特定ガスを含む排気ガスを、予備溶解部の気体透過膜モジュールに給気することにより、特定ガスを無駄に排出することなく、効率よく利用することができる。
【0026】
本発明方法においては、予備溶解部の一次側又は過飽和分除去部の二次側の溶存ガス濃度を測定し、その測定値に応じて予備溶解部又は過飽和分除去部に給気する特定ガスの流量を調整し、所定濃度の特定ガス溶解水を発生させることが好ましい。予備溶解部の一次側又は過飽和分除去部の二次側の溶存ガス濃度の測定値に応じて、予備溶解部又は過飽和分除去部に給気する特定ガスの流量を調整することにより、特定ガスの無駄な給気を避けて、効率よく利用することができる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
図2に工程を示す装置を用いて、水素溶解洗浄水を製造した。
貯留槽1に、洗浄排水返送管2を経由して、洗浄処理槽3において被洗浄物を洗浄した後の排水及び洗浄に使用されなかった水素溶解洗浄水が返送される。貯留槽には、補給水配管4から、補給水が供給される。貯留槽には窒素配管5が設けられ、貯留槽上部の空間の水素が窒素によりパージされる。貯留槽は圧力調整機構6を有し、貯留槽内部が陽圧に保たれる。
貯留槽より、圧送ポンプ7により、送水量80L/min、送水圧力0.2MPaで水を送り出した。熱交換器8により冷却して水温を25℃に調節したのち、フィルター[栗田工業(株)、UFモジュール、KU−1510HUT]9に通して、水中に存在する異物を除去した。溶存水素モニター10により溶存水素濃度を測定し、気体透過膜モジュールを備えた予備溶解部11に通水した。予備溶解部の気体透過膜モジュールの気相室には、過飽和分除去部20において除去された水素を含む排気ガスを給気した。水素を含む排気ガスの流量は、流量制御弁12を全開、13を全閉とし、過飽和分除去部の排気ガスを全量供給するように制御した。予備溶解部より排出される排気ガスは、水素燃焼触媒塔15を通して無害化し、大気中に排出した。
予備溶解部から流出する水は、加圧溶解部16の気体透過膜モジュールに供給した。加圧溶解部の気体透過膜モジュールの気相室には、水素発生器17で発生する水素を、圧力調整弁18と圧力計19を用いて、圧力0.1MPaで供給した。
加圧溶解部から流出する水素溶解水は、過飽和分除去部20の気体透過膜モジュールに供給した。過飽和分除去部の気体透過膜モジュールの気相室には、水素発生器17で発生する水素を、流量制御弁22と流量計23を用いて、洗浄処理槽の運転中は0.720L(標準状態)/min(通水流量に対して0.5飽和分の水素に相当)供給し、洗浄処理槽の停止中は、水素の供給を停止(通水流量に対して0飽和分の水素に相当)した。
過飽和分除去部から流出する水素溶解洗浄水は、溶存水素モニター21により溶存水素濃度を測定し、洗浄処理槽3に送った。
上記の条件による運転により、洗浄処理槽に供給される水素溶解洗浄水の溶存水素濃度は、目標とする1.25mg/Lを保つことができた。予備溶解部の一次側の水の溶存水素濃度は、洗浄処理中は0.2mg/Lであり、洗浄を実施していない待機中は0.8mg/Lであった。これは、洗浄中は洗浄処理槽で洗浄水に超音波が印加されたり、被洗浄物とそれを保持する治具が揺動したりすることにより、溶存している水素が洗浄処理槽から気相へ移動し溶存濃度が低下することに起因すると考えられる。供給した水素量をまとめると、洗浄処理中は1.5飽和分(2.15L(標準状態)/min)、待機中は1.0飽和分(1.43L(標準状態)/min)で、溶存水素濃度1.25mg/Lの水素溶解洗浄水を供給することができた。
【0028】
比較例1
図3に示す加圧溶解部24、26と、過飽和分除去部25、27の組み合わせ2組を有する水素溶解洗浄水の製造装置を用いて、水素溶解洗浄水を製造した。図2に示す装置の予備溶解部から過飽和分除去部までを、図3に示す加圧溶解部と過飽和分除去部の組み合わせ2組で置き換えた以外、その他の装置は同一である。
図3に示す加圧溶解部と過飽和分除去部を有する装置を用いて、溶存水素濃度1.25mg/L以上で送水することとした。水素の圧力が0.1MPaであり、また、洗浄処理中の返送濃度が0.2mg/Lまで落ちていたため、溶存水素濃度1.25mg/Lの水素溶解洗浄水を得るためには、加圧溶解部と過飽和分除去部の組み合わせを直列2段に配置する必要があった。給気する水素量は、加圧溶解部が2か所あるので、全部で2.0飽和分が必要であった。このとき送水する水素溶解洗浄水の溶存水素濃度は、洗浄処理中は1.25mg/Lとなり、洗浄を実施していない待機中は1.40mg/Lとなった。
実施例1及び比較例1の結果を、第1表に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
第1表に見られるように、本発明のガス溶解洗浄水の製造装置を用いることにより、洗浄処理中で25%、洗浄を実施しない待機中で50%の水素供給量を削減することが可能となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の特定ガス溶解洗浄水の製造装置及び製造方法を用いることにより、特定ガスを所定濃度に調整して、高濃度の特定ガス溶解洗浄水を効率よく、安定かつ安全に供給することができる。とりわけ、大流量の洗浄水を循環再利用するような場合に本発明装置及び本発明方法は好適であり、実用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のガス溶解洗浄水の製造装置の一態様の工程系統図である。
【図2】本発明のガス溶解洗浄水の製造装置の他の態様の工程系統図である。
【図3】比較例で用いた装置の部分工程系統図である。
【符号の説明】
【0033】
1 貯留槽
2 洗浄排水返送管
3 洗浄処理槽
4 補給水配管
5 窒素配管
6 圧力調整機構
7 圧送ポンプ
8 熱交換器
9 純化手段
10 溶存ガスモニター
11 予備溶解部
12 流量制御弁
13 流量制御弁
14 流量計
15 ガス燃焼触媒塔
16 加圧溶解部
17 特定ガス供給源
18 圧力調整弁
19 圧力計
20 過飽和分除去部
21 溶存ガスモニター
22 流量制御弁
23 流量計
24 加圧溶解部
25 過飽和分除去部
26 加圧溶解部
27 過飽和分除去部
(なお、実施例の説明においては、特定ガス又はガスを水素と読み替え、純化手段をフィルターと読み替えるものとする。)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定ガスを大気圧に対して加圧条件下で水に過飽和に溶解させる加圧溶解部と、特定ガスの過飽和分を除去する過飽和分除去部を有するガス溶解洗浄水の製造装置において、加圧溶解部の一次側に気体透過膜モジュールを備えた予備溶解部を有し、その気相室に特定ガスを給気することを特徴とするガス溶解洗浄水の製造装置。
【請求項2】
過飽和分除去部が、気体透過膜モジュールを有し、その気相室に大気圧を超えることなく特定ガスを給気する特定ガス給気配管を接続してなる請求項1記載のガス溶解洗浄水の製造装置。
【請求項3】
予備溶解部の気体透過膜モジュールに給気する特定ガスの一部又は全部に、過飽和分除去部にて除去された排気ガスを用いる請求項1記載のガス溶解洗浄水の製造装置。
【請求項4】
過飽和分除去部にて除去された排気ガスが、過飽和分除去部の気体透過膜モジュールの気相室に、その気相室の圧力を大気圧を超えることなく特定ガスを給気した後に過飽和分除去部から排気される排気ガスである請求項3記載のガス溶解洗浄水の製造装置。
【請求項5】
特定ガスを溶解させたガス溶解洗浄水で被洗浄物を洗浄した後の排水を貯留する貯留槽、該貯留槽の水を圧送するポンプ、水中に存在する洗浄に実質的に影響を与える異物を除去する浄化手段、特定ガスを加圧溶解させる加圧溶解部、特定ガスの過飽和分を除去する過飽和分除去部を有する洗浄水の循環機構を有するガス溶解洗浄水の製造装置を用いるガス溶解洗浄水の製造方法において、加圧溶解部の一次側又は過飽和分除去部の二次側の溶存ガス濃度を測定し、その測定値に応じて、加圧溶解部に給気する特定ガスの流量又は圧力を調整し、所定濃度の特定ガス溶解水を発生させることを特徴とするガス溶解洗浄水の製造方法。
【請求項6】
加圧溶解部の一次側に気体透過膜モジュールを備えた予備溶解部を有し、その気相室に特定ガスを給気する請求項5記載のガス溶解洗浄水の製造方法。
【請求項7】
過飽和分除去部が気体透過膜モジュールを有しており、この気体透過膜モジュールの気相室に、その気相室の圧力を大気圧を超えることなく特定ガスを給気する請求項5記載のガス溶解洗浄水の製造方法。
【請求項8】
予備溶解部の気体透過膜モジュールに給気する特定ガスの一部又は全部に、過飽和分除去部にて除去された排気ガスを用いる請求項6記載のガス溶解洗浄水の製造方法。
【請求項9】
過飽和分除去部にて除去された排気ガスが、過飽和分除去部の気体透過膜モジュールの気相室に、その気相室の圧力を大気圧を超えることなく特定ガスを給気した後に過飽和分除去部から排気される排気ガスである請求項8記載のガス溶解洗浄水の製造方法。
【請求項10】
予備溶解部の一次側又は過飽和分除去部の二次側の溶存ガス濃度を測定し、その測定値に応じて予備溶解部又は過飽和分除去部に給気する特定ガスの流量を調整し、所定濃度の特定ガス溶解水を発生させる請求項6記載のガス溶解洗浄水の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−119611(P2008−119611A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306843(P2006−306843)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】