説明

ガス漏れ警報器

【課題】ガス漏れ警報器のガスセンサ1′への通電加熱時に生じるエアーベースの変動による誤報を防止するとともに、ガス漏れ警報器の設置時の時間短縮を図る。
【解決手段】ガスセンサ1′の通電開始からエアーベースが定常状態になるまでのセンサ出力と、定常状態でのエアーベースに対して決められた定常警報判定値(Vo)との極性が同じとなるようなガスセンサ1′を使用する。ガスセンサ1′の定常状態でのエアーベースに対して決められた定常警報判定値(Vo)、警報判定値の増加分である増加値(ΔV)、ガスセンサ1のエアーベースが定常状態になるまでの初期時間Tiを記憶部4に記憶しておく。電源回路2によりガスセンサ1への通電加熱を開始する。通電加熱の開始直後のセンサ出力1のセンサ出力のピーク値に増加値(ΔV)を加算した値を警報判定値として設定する。初期時間Tiの時間内で警報判定値を定常警報判定値(Vo)まで変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子へ通電して加熱し、該ガスセンサ素子のセンサ出力が警報判定値に達したときにガス漏れ警報を行うガス漏れ警報器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LPガス等のガス漏れを検出するガス漏れ警報器では、接触燃焼式ガスセンサ素子や半導体式ガスセンサ素子が用いられている。図8は、従来の接触燃焼式ガスセンサ素子を用いたガス漏れ警報器の要部回路図である。このガス漏れ警報器100のガス漏れ検知の対象ガスはLPG、ブタンガスであり、ガスセンサ1は接触燃焼式ガスセンサ素子1aと比較素子1bとを有している。
【0003】
接触燃焼式センサ素子1aは、白金線の周囲に酸化触媒であるパラジウム、白金、ロジウム等を担持してなるアルミニウムや珪素の酸化物からなる担体層を有している。この白金線は担体層の接触反応に適した温度に保つヒータ線として機能するが、担体層で接触反応が生じた際にはその熱によってこの白金線の電気抵抗が変化する。通常、このような接触燃焼式センサ素子1aは酸化触媒を有しない他は接触燃焼式センサ素子1aと同等の構造を有する比較素子1b及び抵抗器r1,r2とともにブリッジ回路を構成している。
【0004】
そして、CPU10の制御により電源回路2からブリッジ回路に通電され、このブリッジこのブリッジ回路により上記白金線の電気抵抗の変化をセンサ信号Vとして検出する。そして、CPU10はセンサ信号Vを予め設定された警報判定値Vthと比較し、電圧信号Vが警報判定値Vthを越えると警報発生回路3により警報ブザーの鳴動等を行う。
【0005】
ここで、ガスセンサ1は、接触燃焼式センサ素子1a及び比較素子1bへの通電により300〜500℃付近まで加熱して使用されるが、この通電加熱開始時の温度変化によりエアーベース抵抗値(検知対象ガスも存在しないときの接触燃焼式センサ素子1a及び比較素子1bの抵抗値)が変動する。
【0006】
図7は接触燃焼式のガスセンサの通電初期の応答特性の一例を示す図であり、図7(A) はガスセンサを直流駆動した場合を示す。センサA、センサB及びセンサCは通電直後にエアーベース抵抗値が変化し、センサ出力(mV)が正の方向に変動している。そして、10秒程度でセンサ出力が0mVとなって安定する。センサDは正方向に僅かに変動し、次第に0mVとなって安定する。また、センサEは通電直後にセンサ出力(mV)が負の方向に変動し、10秒程度でセンサ出力が0mVとなって安定する。これに対して、警報判定値Vthは例えば30mVに設定されており、センサA、センサB及びセンサCの場合には通電直後にセンサ出力が警報判定値Vthを越えて誤報を発生する。なお、これらのセンサを交流駆動した場合には、センサA〜センサDは図7(A) と同様な特性となるが、センサEの場合は図7(B) のように、直流駆動したときの負の方向の特性が判定して正の方向に変動する。
【0007】
このように、接触燃焼式のガスセンサ1は、直流駆動、交流駆動を問わず、通電加熱開始時にエアーベース抵抗値が変動し、誤報を発生することがある。そこで、例えば特開2004−102652号公報(その段落[0028]等)のように、電源投入直後に初期鳴動阻止時間を設けたり、通電初期鳴動防止回路等を設けることで誤報に対処していた。
【特許文献1】特開2004−102652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のガス漏れ警報器のように、初期鳴動素子時間を設けたり、l通電初期鳴動防止回路を設けると、例えば点検ガスを吹き付けて動作確認を行うのに時間が掛かるため、警報器の設置時等に時間がかかるという問題がある。
【0009】
本発明は、ガスセンサ素子を用いたガス漏れ警報器において、通電直後の誤報を防止するとともに、警報器の設置時の時間を短縮することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1のガス漏れ警報器は、ガスセンサ素子へ通電して加熱し、該ガスセンサ素子のセンサ出力が警報判定値に達したときにガス漏れ警報を行うガス漏れ警報器において、前記ガスセンサ素子として、該ガスセンサ素子への通電開始後の前記センサ出力が、定常状態のエアーベースに対して予め決められた定常警報判定値と同じ極性となるガスセンサ素子を用い、前記ガスセンサ素子への通電開始直後に、前記警報判定値を、該通電開直後の前記センサ出力のピーク値より絶対値が大きな値に設定するとともに、前記通電開始からエアーベースが定常状態となるまでの所定時間の間、該設定した警報判定値を前記定常警報判定値まで変化させることを特徴とする。
【0011】
請求項1のガス漏れ警報器において、ガスセンサ素子への通電開始直後のセンサ出力のピーク値は、その通電開始直後に検出してもよいし、予め設定された既知のピーク値でもよい。そして、警報判定基準となる警報判定値を上記ピーク値より絶対値が大きな値に設定する。また、この設定された警報判定値は、通電開始からエアーベースが定常状態となるまでの所定時間(例えば10秒)の間に、前記定常警報判定値まで変化される。したがって、エアーベースが定常状態となる所定時間経過後は通常のガス漏れ警報の判定が可能であり、また、所定時間内では、警報判定値はセンサ出力より絶対値が大きくなるように設定されているので、通電開始直後の初期段階での誤報を抑制できる。なお、警報判定値は時間と共になだらかに変化させてもよいし、段階的に変化させてもよい。
【発明の効果】
【0012】
請求項1のガス漏れ警報器によれば、通電開始後の初期段階での警報判定値は、通電直後のピーク値より絶対値が大きな値に設定されるので、ガスセンサ素子のエアーベースの変動によるセンサ出力は警報判定値に達することがなく誤報を抑制することができる。また、初期段階での誤報を制御するだけであり、所定時間後に点検ガスによる動作確認も可能であり、誤報を回避しながら、警報器の設置時の時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明のガス漏れ警報器の要部回路ブロック図であり、このガス漏警報器はLPガスを検知対象ガスとするものである。ガスセンサ1′の構成は前掲の図8のものと同様であり、その構造についての詳細な説明は省略するが、このガスセンサ1′は、当該ガス漏れ警報器の製造にあたって後述のようにガスセンサ1′の特性を計測することにより選択されたものである。
【0014】
制御部11は、たとえば、CPU11a(中央処理装置)、ROM11b(読み出し専用メモリー)、及びRAM11c(随時書き込み読み出しメモリー)を含むマイクロコンピュータから構成される。CPU11aは、ROM11bに記憶されている制御プログラムにしたがって本実施形態に係る制御を含む各種の処理を実行する。RAM11cは、CPU11aが各種の処理を実行するためのワーキングエリアとして使用されるとともにプログラム等が適宜記憶される。
【0015】
警報出力回路2は、制御部11から出力される警報信号に応答して、ガス漏れ警報を出力するための警報音や警報音声メッセージを発する音声出力回路やブザー等を備えている。
【0016】
記憶部4は、たとえば、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)等で構成されており、予め設定された定常警報判定値Voを記憶している。この定常警報判定値Voは、当該ガス漏れ警報器の製造時にガスセンサ1′の特性を計測することにより設定された値であり、検知対象ガスが存在しない状態でガスセンサ1′が所定温度になり、そのエアーベース抵抗が安定した定常状態でのセンサ出力(0mV)に対して所定電圧だけ高く設定された値である。また、この記憶部14には、警報判定値を増加させるための増分値ΔV(例えば15mV)、通電開始からの所定時間である初期時間Ti(例えば10秒)の各データが記憶されている。
【0017】
ここで、ガスセンサ1′は通電開始直後のセンサ出力の変動特性に応じて選択されたものであり、そのセンサ出力の極性がこのガスセンサ1′の前記定常警報判定値と同じ極性となるものである。
【0018】
上述の構成によりガス漏れ警報器は次のように動作する。制御部11は、電源の投入により電源回路2を駆動してガスセンサ1′への通電加熱を開始する。なお、この実施形態ではガスセンサ1′は直流駆動する。また、ガスセンサ1′の出力電圧をセンサ信号(V)として取り込む。また、このセンサ信号(V)を図示しない回路でA/D変換してセンサ出力(Vn)として内部処理を行う。そして、通電加熱直後にセンサ出力のピーク値により警報判定値を設定し、初期時間Ti内で時間の経過に伴って警報判定値を定常警報判定値Voまで変化させる。また、制御部11は所定間隔(例えば2秒)の割込処理によりセンサ出力(Vn)と警報判定値とによりガス漏れ判定の監視動作を行う。
【0019】
次に、図5及び図6のフローチャートに基づいて実施形態のガス漏れ警報器の要部動作を説明する。図5は当該ガス漏れ警報器の電源オンの直後に起動される初期処理のフローチャート、図6は監視動作を行うための所定間隔で起動される割込処理のフローチャートである。先ず、初期処理では、ステップS1で電源回路2を制御してガスセンサ1′に通電を開始し、ステップS2で記憶部4の初期時間Tiのデータに基づいて10秒タイマをスタートさせる。
【0020】
次に、ステップS3でセンサ出力の初期のピーク(Vp)を検出する。このピークの検出は、所定サンプル数のセンサ出力の最大値を求める。次に、ステップS4でピーク(Vp)に増分値ΔV(15mV)を加算してその演算結果を警報判定値のレジスタVthに設定する。次に、ステップS5で、レジスタVthの値と定常警報判定値Voとの差を初期時間Ti(10秒)で除算し、その演算結果を減少値のレジスタδvに設定する。なお、この減少値δvは警報判定値を減少させるためのデータであり、この例では1秒毎に警報判定値を更新する。
【0021】
次に、ステップS6で警報判定値の更新時間かを判定し、判定がNOでればステップS8に進み、判定がYESであれば、ステップS7で、現在の警報判定値(Vth)から減少値δvを減算してその演算結果を警報判定値のレジスタVthに設定し、ステップS8に進む。ステップS8では通電開始から10秒経過するのを監視し、10秒経過したら、、ステップS9で現在の警報判定値(Vth)を定常警報判定値Voに設定し、メインルーチンに復帰する。
【0022】
図6の割込処理では、ステップS11でセンサ出力(Vn)を取得し、ステップS12でセンサ出力(Vn)が警報判定値(Vth)以上であるかを判定する。センサ出力(Vn)が警報判定値(Vth)以上であれば、ステップS13で警報を出力し元のルーチンに復帰する。センサ出力(Vn)が警報判定値(Vth)以上でなければ、ステップS14で、現在警報の出力中であるかを判定し、警報出力中でなければそのまま元のルーチンに復帰し、警報出力中であればステップS15で警報を解除して元のルーチンに復帰する。
【0023】
図2は実施形態のガス漏れ警報器におけるセンサ出力と警報判定値の設定状態の実施例1を示す図である。この実施例1のガスセンサ1′はエアーベースが通電直後に正側に大きく変動しており、前記ステップS3で検出された初期のピーク(Vp)が+110mVである。そして、このピーク(Vp)に前記増分値ΔV(この例では15mV)が加算され、破線で示す警報判定値(Vth)の初期の値が設定されている。そして通電開始から10秒経過するまで、警報判定値(Vth)は次第に減少し、10秒経過時に定常警報判定値Voに設定されている。したがって、前記割込処理の監視処理で、この10秒間で誤報することがない。なお、10秒経過後はエアーベースが定常状態になる。
【0024】
図3は実施例1において、点検ガスを吹き付けた場合の例を示す図である。点検ガスに対するセンサ出力は初期の9秒程度は、警報判定値(Vth)によりマスクされている。しかし、10秒経過後にも点検ガスが残留しており、この点検ガスに対するセンサ出力が定常警報判定値Voより高くなり、警報が発せられる。これにより、点検を行うことができる。
【0025】
図4は実施形態のガス漏れ警報器におけるセンサ出力と警報判定値の設定状態の実施例2を示す図である。この実施例2ではガスセンサ1′は実施例1と同じであるが、通電開始から10秒経過するまでの警報判定値を段階的に(例えば2秒毎に)減少させた例である。この場合も、点検ガスに対するセンサ出力は初期の9秒程度は警報判定値(Vth)によりマスクされているが、残留する点検ガスによりセンサ出力が定常警報判定値Voより高くなり、警報が発せられる。これにより、点検を行うことができる。
【0026】
以上の実施形態ではガスセンサ1′を直流駆動した場合について説明したが、ガスセンサ1′を交流駆動する場合も同様である。すなわち、実施例1及び2は交流駆動でも同様である。これに対して、交流駆動により前掲の図7(B) のようになるガスセンサの場合でも適用できる。
【0027】
また、実施形態ではガスセンサの特性からガスセンサ1′を選択するようにしているが、この実施形態におけるガスセンサ1′のような特性は、ガスセンサの白金コイル抵抗値の調整や、素子サイズ、材料等により調整することが可能であり、このように調整したものを用いてもよい。
【0028】
以上の実施形態では接触燃焼式ガスセンサの例を説明したが、半導体式ガスセンサ、熱線半導体式ガスセンサでも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のガス漏れ警報器の要部回路ブロック図である。
【図2】実施形態のガス漏れ警報器におけるセンサ出力と警報判定値の設定状態の実施例1を示す図である。
【図3】実施例1における点検ガスにたいするセンサ出力の例を示す図である。
【図4】実施形態のガス漏れ警報器におけるセンサ出力と警報判定値の設定状態の実施例2を示す図である。
【図5】実施形態におけるガス漏れ警報器の電源オンの直後に起動される初期処理のフローチャートである。
【図6】実施形態におけるガス漏れ警報器の監視動作を行うための割込処理のフローチャートである。
【図7】接触燃焼式のガスセンサの通電初期の応答特性の一例を示す図である。
【図8】従来の接触燃焼式ガスセンサ素子を用いたガス漏れ警報器の要部回路図である。
【符号の説明】
【0030】
1′ ガスセンサ
2 電源回路
3 警報発生回路
4 記憶部
11 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセンサ素子へ通電して加熱し、該ガスセンサ素子のセンサ出力が警報判定値に達したときにガス漏れ警報を行うガス漏れ警報器において、
前記ガスセンサ素子として、該ガスセンサ素子への通電開始後の前記センサ出力が、定常状態のエアーベースに対して予め決められた定常警報判定値と同じ極性となるガスセンサ素子を用い、
前記ガスセンサ素子への通電開始直後に、前記警報判定値を、該通電開直後の前記センサ出力のピーク値より絶対値が大きな値に設定するとともに、前記通電開始からエアーベースが定常状態となるまでの所定時間の間、該設定した警報判定値を前記定常警報判定値まで変化させることを特徴とするガス漏れ警報器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−295093(P2009−295093A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150580(P2008−150580)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】