説明

ガス濃縮セルおよびガス濃縮方法

【課題】従来技術の微量ガス検出を行なうフローセルを用いた測定装置では、濃縮セル内の吸着剤の体積を大きくしても捕集効率が向上しない問題があった。流路内に充填される吸着剤によって大気サンプルの流速が低下する。捕集に長時間を要し、補償時間中に水分などが吸着されてしまうため、吸着剤の吸着能が飽和してしまうからである。吸着剤の体積を増加させても被測定ガスの捕集効率が十分に向上しない問題の解決を目的とする。
【解決手段】前段に配置される高速流セルおよび後段に配置される低速流セルから構成される。前段セルはで、第1の吸着剤により分析対象ガスの吸着動作と脱着動作とを交互に複数回繰り返す。前段セルの各脱着動作毎に対象分析ガスを後段セルの第2の吸着剤に累積的に吸着した後に、第2の吸着剤から分析対象ガスを脱着し、後段セルから測定セルへ導く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体中に存在する微量ガスを捕集し濃縮する濃縮セルならびにガス濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゼン、トルエンおよびキシレンをはじめとする有害大気汚染物質は、健康に対するリスクが高いとされている。大気中におけるこれらの物質の高感度な測定およびフィールドにおける連続測定が、重要な課題となっている。従来、このような測定のために、試料の採取および測定を、微量フローセルを用いて行う測定装置が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【0003】
図1は、従来の微量フローセルを用いた測定装置の概要を示す構成図である。本測定装置は、大別して、濃縮セル1および測定セル2から構成される。濃縮セル1は、被測定ガスを流通させるためのガス流路11と、ガス流路11内に充填された吸着剤12と、吸着剤12に吸着固定された物質を加熱して脱着させるための薄膜ヒータ13を備えている。吸着剤12には、例えば、多孔質シリカ材料が含まれる。一方、測定セル2は、ガス流路11からの被測定ガスを流通させ、かつ測定用の紫外線を通過させる紫外線光路兼ガス流路21を備えている。
【0004】
測定装置は、さらに濃縮セル1のガス流路11へ被測定ガスを流入させるガス導入流路14、濃縮セル1のガス流路11および測定セル2の紫外線光路兼ガス流路21を接続して連通する接続流路3、ならびに測定し終わったガスを測定セル2から排出するガス排出流路22を備えている。
【0005】
測定装置は、ガス導入流路14に大気中からガスを導入するポンプ4、薄膜ヒータ13を加熱する電源15、紫外線光路兼ガス流路21に入射させる紫外線を発生する紫外光源5、紫外線を集光するレンズ8a、8bならびに紫外線光路兼ガス流路21から出射した紫外線を検出する紫外検出器6を備える。レンズ8bにより集光され、グレーティング9で分光された紫外線は、紫外検出器6により検出される。検出された信号は、パソコン7などによりデータ処理等される。測定結果は、パソコン7に出力または表示される。
【0006】
上述のような構成の測定装置においては、例えばベンゼンを含んだ空気は、ポンプ4により吸引されて濃縮セル1へ流入し、ベンゼンは吸着剤12に吸着固定される。一定時間が経過した後で、電源15により薄膜ヒータ13を駆動し、吸着剤12を加熱することによって吸着剤12に吸着固定されたベンゼンが脱着分離される。脱着分離されたベンゼンは、接続流路3を介して測定セル2に導かれて、測定セル2において吸収分光によるベンゼンの検出が行われる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−021595号 公報
【特許文献2】特開2004−261672号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図2は、従来技術における濃縮セル1の構成を説明する図である。図2Aは、濃縮セルの構造を示す上面図、断面図および底面図である。図2Bは、濃縮セルの動作を説明する図である。濃縮セル1には、ガラスなどの基板の中に導入流路31および導出流路32を含むガス流路11が形成される。ガス流路11は、吸着剤12を設置するための流路部分11a、11bを含む。図2Aにおいて、流路部分11aに吸着剤12が充填されている。流路部分11aの直下の濃縮セル1の底面には、吸着剤12に吸着固定された物質を加熱するための薄膜ヒータ13が設置されている。
【0009】
ガス流路11の流路部分11a、11bの上面図から見た形状はどのようなものでも良いが、通常は、吸着剤12の充填が簡単にできるように拡幅された三角形の形状が採用されている。濃縮セル1によって捕集されるガスの量は、大気中のガス濃度、吸着剤12を通過する大気の流量ならびに吸着剤12の体積によって決定される。濃縮セル1内に大気が所定量だけ流された後は、ヒータ13の加熱によって、吸着剤12に吸着していたガスを脱着する。
【0010】
図2Bは、濃縮セル1の一連の動作における濃縮セル内のガス濃度時間変化を示した図である。濃縮セル1内のガス濃度は、大気の流入とともに吸着剤12へ吸着され、吸着量はおおよそ線形的に増加する。その後、図2Bに示すようにヒータをONとして加熱脱着することによって、ガス濃度は急激に低下しゼロとなる。一般に、濃縮セル内のガス濃度すなわち吸着剤12への吸着量が線形的に増加する領域においては、ガス濃度は吸着剤12の体積に依存し、時間経過とともに一定値で飽和する。従って、濃縮セル1内に濃縮されるガス濃度をより増加させるためには、濃縮セル1内の吸着剤12の体積を充分に確保し、十分な捕集時間を経ることが好ましい条件とされていた。
【0011】
しかしながら、発明者らの検討によれば、上述の条件のように濃縮セル1内の吸着剤の体積を増加させても、濃縮セル1内のガス濃度の時間変化は異なる挙動を示し、期待した程はガス濃度を増加させることはできないことが判った。ガス濃度の時間変化のこの異なる挙動が、測定装置におけるガス濃度の検出感度を向上させるにあたって、阻害要因となっていた。次に、この阻害要因についてさらに詳細に説明する。
【0012】
図3は、ベンゼンの場合を例に、吸着剤の体積をパラメータとして濃縮セル1内のベンゼン濃度の時間変化を示した図である。曲線(a)は、吸着剤の体積が相対的に多い場合を、曲線(b)は吸着剤の体積が相対的に少ない場合のベンゼン濃度時間変化を示している。図3から明らかなように、吸着剤の体積が多い曲線(a)の場合には、吸着剤の体積が少ない曲線(b)と比べ、ベンゼン濃度の時間的増加率(曲線の傾き)が小さい。約1時間経過後には、ベンゼン濃度は飽和する傾向があり、ベンゼン濃度の飽和値は、曲線(b)の場合より低かった。これに対し、吸着剤の体積が相対的に少ない曲線(b)の場合にはベンゼン濃度の時間的増加率がより大い。十数分程度の短時間で飽和に達するものの、ベンゼン濃度の飽和値は曲線(a)の場合より高かった。
【0013】
上述のように、吸着剤の体積が大きい(a)の場合に捕集効率が向上しないのは、大気サンプルの流速の低下が原因と考えられている。流路内に充填される吸着剤によって大気サンプルの流速が低下するため、ベンゼンの捕集に長時間を要する。この補償時間中に、ベンゼン以外の水分などが吸着されてしまい、吸着剤の吸着能が飽和してしまうからである。
【0014】
本発明は、上記のように吸着剤の体積を増加させても被測定ガスの捕集効率が十分に向上しない問題を解決することを目的とする。従来技術の濃縮セルによる捕集効率をさらに改善して、検出装置におけるガス濃度の検出感度を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に記載のガス濃縮セルの発明は、大気サンプルから分析対象ガスを捕集するガス濃縮セルにおいて、前記大気サンプルが流れるガス流路と、前記ガス流路の一部に設けられ前記分析対象ガスを吸着または脱着する第1の吸着剤と、前記第1の吸着剤から前記対象ガスを脱着する第1の制御手段とを含む少なくとも1つの前段セルであって、前記前段セルは、前記分析対象ガスの吸着動作と前記分析対象ガスの脱着動作を交互に複数回繰り返すことと、前記前段セルにおいて前記繰り返される各脱着動作時に、前記前段セルで脱着された分析対象ガスが流れるガス流路と、前記ガス流路の一部に設けられ前記分析対象ガスを吸着または脱着する第2の吸着剤と、前記第2の吸着剤から前記分析対象ガスを脱着する第2の制御手段とを含む後段セルであって、前記前段セルの前記各脱着動作毎に前記対象分析ガスを前記第2の吸着剤へ累積的に吸着した後に、前記第2の吸着剤から前記分析対象ガスを脱着し、前記後段セルの外部へ排出されることと、前記前段セルおよび前記後段セルの間に接続された流路切り替え手段であって、流路切り替え手段は、前記前段セルを流れる前記大気サンプルをガス濃縮セル外部へ排出する流路ならびに前記前段セルを前記後段セルへ接続する流路のいずれかに切り替えることとを備え、前記前段セルの流路のガス流速は、前記後段セルの流路のガス流速よりも大きいことを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のガス濃縮セルであって、前記前段セル内の前記第1の吸着剤の体積は、前記後段セル内の前記第2の吸着剤の体積よりも小さいことを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のガス濃縮セルであって、前記少なくとも1つの前段セルは、並列に配置された複数の前段セルから構成され、前記複数の前段セルのそれぞれにおける前記吸着動作および前記脱着動作が同期して行なわれ、前記脱着動作時に脱着した前記複数の前段セルからの前記分析対象ガスが合流されて前記後段セルへ流入することを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のガス濃縮セルであって、前記大気サンプルから、前記分析対象ガスとそれ以外の成分ガスとを分離するために、前記前段セルにおいて前記分析対象ガスとそれ以外の成分ガスとの脱着温度の相違を利用して前記流路切り替え手段により流路を切替え、前記分析対象ガスのみを前記後段セルへ移送するようにしたことを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明は、大気サンプルから分析対象ガスを捕集し分析するガス検出装置において、前記大気サンプルが流れるガス流路と、前記ガス流路の一部に設けられ前記分析対象ガスを吸着または脱着する第1の吸着剤と、前記第1の吸着剤から前記対象ガスを脱着する第1の制御手段とを含む少なくとも1つの前段セルであって、前記分析対象ガスの吸着動作と前記分析対象ガスの脱着動作を交互に複数回繰り返すことと、前記前段セルにおいて前記繰り返された各脱着動作時に、前記前段セルで脱着した分析対象ガスが流れるガス流路と、前記ガス流路の一部に設けられ前記分析対象ガスを吸着または脱着する第2の吸着剤と、前記第2の吸着剤から前記分析対象ガスを脱着する第2の制御手段とを含む後段セルであって、前記前段セルの前記各脱着動作毎に前記対象分析ガスを前記第2の吸着剤へ累積的に吸着した後に、前記第2の吸着剤から前記分析対象ガスが脱着され、前記後段セルの外部へ排出されることと、前記前段セルおよび前記後段セルの間に配置され、前記脱着動作毎に前記前段セルから脱着した前記分析対象ガスの濃度測定を行い、または、前記後段セルから脱着された前記分析対象ガスの濃度測定を行なう検出セルと、前記前段セルおよび前記検出セルの間に配置された第1の流路切り替え手段であって、前記前段セルからの前記分析対象ガスを前記検出セルに流す流路ならびに前記後段セルからの前記分析対象ガスを前記検出セルに流す流路のいずれかに切り替えることと、前記検出セルおよび前記後段セルの間に配置された第2の流路切り替え手段であって、前記検出セルを経由して流れる前記前段セルからの前記分析対象ガスを前記後段セルに流す流路ならびに前記後段セルからの前記分析対象ガスを外部に排出する流路のいずれかに切り替えることと、前記後段セルの排出側に配置された第3の流路切り替え手段であって、前記第1の流路切り替え手段を介して前記前段セルからの前記分析対象ガスを排出する流路と、前記後段セルからの前記分析対象ガスを排出する流路、前記後段セルからの分析対象ガスを排出する流路ならびに前記後段セルから脱着された前記分析対象ガスを前記第1の流路切り替え手段を介して前記検出セルへ流す流路のいずれかに切り替えることとを備えたことを特徴とするガス検出装置である。
【0020】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載のガス濃縮セルまたはガス検出装置であって、前記分析対象ガスは、ベンゼン、トルエンおよびキシレンの中のいずれか1つであることを特徴とする。
【0021】
請求項7に記載の発明は、高速のガス流路を持つ少なくとも1つの前段セルと低速のガス流路を持つ後段セルから構成され、大気サンプルから分析対象ガスを捕集するガス濃縮セルにおいて分析対象ガスを濃縮する方法において、前記前段セル内の流路に配置された第1の吸着剤に前記分析対象ガスを吸着する第1のステップと、前記吸着する第1のステップに続いて、前記第1の吸着剤により捕集した前記分析対象ガスを脱着する第2のステップと、前記脱着する第2のステップにおいて脱着した前記分析対象ガスを、前記後段セル内の流路に配置された第2の吸着剤に吸着する第3のステップと、前記第1のステップから前記第3のステップまでを、所定の繰り返し回数だけ繰り返し、前記第2の吸着剤に累積的に前記分析対象ガスを濃縮する第4のステップとを備えることを特徴とするガスを濃縮する方法の発明である。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載のガスを濃縮する方法であって、前記前段セル内の前記第1の吸着剤の体積は、前記後段セル内の前記第2の吸着剤の体積よりも小さいことを特徴とする。
【0023】
請求項9に記載の発明は、高速のガス流路を持つ少なくとも1つの前段セルと、低速のガス流路を持つ後段セルと、前記前段セルおよび前記後段セルの間に配置され測定対象ガスの濃度を測定する検出セルとから構成され、大気サンプルから分析対象ガスを捕集するガス濃縮装置において、分析対象ガスの濃度を測定する方法において、前記前段セル内の流路に配置された第1の吸着剤に前記分析対象ガスを吸着する第1のステップと、前記吸着する第1のステップに続いて、前記第1の吸着剤により捕集した前記分析対象ガスを脱着する第2のステップと、前記脱着する第2のステップにおいて脱着した前記分析対象ガスを、前記検出セルに流しながら前記分析対象ガスの濃度測定を実施する第3のステップと、前記検出セルを経由して流れた前記分析対象ガスを前記後段セル内の流路に配置された第2の吸着剤に吸着する第4のステップと、前記第1のステップから前記第4のステップまでを、所定の繰り返し回数だけ繰り返し、前記第2の吸着剤に累積的に前記分析対象ガスを濃縮する第5のステップと、前記濃縮する第5のステップの後で、前記第2の吸着剤に累積的に濃縮された前記分析対象ガスを脱着する第6のステップと、前記脱着した分析対象ガスを前記検出セルにおいて濃度測定を実施する第7のステップとをを備えることを特徴とするガス濃度を測定する方法の発明である。
【0024】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載のガス濃度を測定する方法であって、前記濃度測定を実施する第3のステップにおいて測定された前記分析対象ガスの濃度が、所定の値を超えていた場合は、前記測定値を最終測定値として濃度測定を終了することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来濃縮セル捕集効率を改善し、被測定ガス濃度の検出感度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0027】
図4は、本発明の第1の実施形態に係るガス濃縮セルの構成を示す図である。本実施形態のガス濃縮セルは、前段に配置された高速流セル1aならびに後段に配置された低速流セル1bにより構成される。大気サンプルは、図には示されないポンプを介して前段の高速流セル1aの一端31aへ導入される。高速流セル1aの他端32aは三方弁30を介して後段の低速流セル1bへ接続されている。
【0028】
三方弁30は、2つの出口ポート33、34を持っている。三方弁30の出口ポート33は外部にもつながっている。従って、前段の高速流セル1a内の大気サンプルの排出経路は、三方弁30の位置の設定状態(POS.IまたはPOS.II)によって、大気サンプルが外部へ排出される経路(POS.I)および後段の低速流セル1bへ排出される経路(POS.II)の2つの経路のいずれかに設定される。
【0029】
一方、三方弁30の出口ポート34は、後段の低速流セル1bの一端31bへ接続され、低速流セル1bの他端32bは図に示されない測定セルへ接続される。高速流セル1aは、被測定ガスを流通させるためのガス流路部分11a、11bを備える。同様に、低速流セル1bは、被測定ガスを流通させるためのガス流路部分11c、11dを備える。高速流セル1aおよび低速流セル1bは、それぞれガス流路部分11a、11cに充填された吸着剤12a、12bと、吸着剤に吸着固定された物質を加熱する薄膜ヒータとを備え、ほぼ同一の構造を持つ。高速流セル1aは、ガス流路部分11aに充填される吸着剤12aの体積を少なくすることにより、大気サンプルの流速を確保し、大気サンプルの高速流入を可能としている。尚、吸着剤12には、例えば、多孔質シリカ材料が含まれる。
【0030】
本発明のガス濃縮セルにおいては、以後、流路全体の前段側に配置される高速流セル1aを、前段セルと呼ぶ。一方、流路全体の後段側に配置される低速流セル1bは、後段セルと呼ぶ。
【0031】
本発明のガス濃縮セルにおいては、前段セル1aは目的ガスの吸着および脱着を一定時間間隔で繰り返して、後段セル1bに向けて移送する。後段セル1bは、前段セル1aから移送された目的ガスを累積的に吸着した後、引き続き脱着することにより測定セルへ排出するように動作する。
【0032】
図5は、本実施形態のガス濃縮セルの動作を説明する図である。大気中のベンゼン濃度を測定する場合を一例として説明する。図5は、(A)三方弁の設定位置、(B)前段セルのベンゼン濃度、(C)前段セルの温度、(D)後段セルのベンゼン濃度ならびに(E)後段セルの温度について、各々の時間的な遷移を同期して示したものである。先ず期間(1)で、三方弁30はPOS.Iの状態に設定され大気サンプルがポンプによって前段セル1aに取り込まれる。この時、三方弁30から外部へ排出する経路が形成されており、時間の経過と共に大気サンプル中のベンゼンガスが吸着剤12aに吸着されてその濃度が増加する。
【0033】
次に期間(2)で、三方弁30はPOS.IIの状態に設定され、前段セル1aを後段セル1bと接続する経路を形成する。同時に、前段セル1aのヒータをONにして前段セル1a内の温度を上昇させる。セル内温度がベンゼンガスの脱着温度以上となると、ベンゼンガスが吸着剤から脱着され、後段セル1bへ移送される。移送されたベンゼンガスは、後段セル1b内の吸着剤12bによって吸着される。この期間(2)の状態で、前段セル1aにおいて脱着が完了し、ベンゼン濃度はほぼゼロとなり吸着剤は初期のフレッシュな状態に戻る。一方、期間(2)の状態で、後段セル12bにおいては、ベンゼン濃度が増加する。
【0034】
本実施形態のガス濃縮セルの動作は、さらに期間(3)に移行し、三方弁30は再びPOS.Iの位置に設定され、前段セル1aのヒータをOFFにする。これ以降、期間(3)〜期間(8)では、上述の期間(1)から期間(2)で構成されるサイクル1と同様の動作を、サイクル2、サイクル3、サイクル4として繰り返される。前段セル1aでは、ベンゼンガスの吸着および脱着が繰り返されて、各サイクル毎に吸着剤は初期のフレッシュな状態に戻ることに留意されたい。後段セル1bでは、ベンゼンガスが累積的に吸着される。所定のサイクルの繰り返しを経た後、期間(9)において、三方弁30はPOS.IIの状態に設定され、後段セル1bのヒータをONとすると、後段セル1bにおいて累積して吸着された分析対象のベンゼンガスが脱着されて、測定セルに向けて排出される。
【0035】
図1で示した従来技術の濃縮セル1を本実施形態の二段構成の濃縮セル1a、1bに置き換えて、本実施形態のガス濃縮セルによる効果を確認した。図5で説明した手順によってベンゼンを含むサンプル空気を濃縮し、一定回数の濃縮サイクルを繰り返した後に、測定セルに導入して吸光分析を行なった。以下、詳細に説明する。
【0036】
図6は、第1の実施形態のガス濃縮セルによる濃縮時間と吸光度との関係を示す図である。図6の縦軸は、測定セルに導入された濃縮ガスに対して、ベンゼンの吸収ピークである波長253nmにおいて測定した吸光度を示す。横軸は、測定セルに導入するまでに実行された濃縮時間(分)を示す。プロット群(A)は、本発明の第1の実施形態に係る2段構成のガス濃縮セルを用いた場合を、プロット群(B)は従来技術の1段構成のガス濃縮セルを用いた場合をそれぞれ示している。なお、本発明の2段構成のガス濃縮セルの吸着剤の体積は、前段セルでは少なく、後段セルでは多いものとなっている。比較のための従来技術の1段構成のガス濃縮セルは、前述の2段構成のガス濃縮セルにおける前段濃縮セルと同様のものであり、吸着剤の体積も前段濃縮セルとおおよそ等しい。
【0037】
図6から明らかなように、本発明のガス濃縮セルによるプロット群(A)の場合には、濃縮時間の増加に伴って吸光度はほぼ線形に増加している。すなわち、濃縮時間の経過とともに、本発明のガス濃縮セルにおいて連続的にガスの濃縮が進んでいることがわかる。
【0038】
一方、プロット群(B)の場合には、最初の10分程度の濃縮時間を過ぎると、吸光度は飽和する。しかも、飽和した吸光度の値は、プロット群(A)の場合より小さかった。すなわち、従来技術のガス濃縮セルの場合には、10分程度の短時間で吸光度は飽和状態に達し、それ以上はガスの濃縮が進まないことを表している。
【0039】
尚、プロット群(B)の場合に吸着剤の体積を増やしても、吸光度の飽和到達時間が増加する事はなく、むしろその飽和値レベルは低下した。したがって、従来の1段構成の濃縮セルの吸着剤の増減によっては、ガス濃縮性能を向上させることはできなかった。本発明の2段構成濃縮セルを用いることにより、飽和することなくベンゼンの濃縮を線形的に継続して増大させ、濃縮採取の効率を向上させることができる。本発明の2段構成濃縮セルを使用することにより、検出セルにおけるガス濃度の検出感度を大きく向上させることができるのを確認した。
【0040】
尚、本発明の前段セルにおけるガス流速はおおよそ100sccm、後段セルのガス流速はおおよそ20sccmである。また、前段セル内の吸着剤の体積(容量)は0.5〜3μl、後段セル内の吸着剤の容量は6〜10μlである。
【0041】
(第2の実施形態)
前述の実施形態の構成によるガス濃縮セルを用いてさらに三方弁の動作に工夫を加えることにより、加熱脱着温度の異なる複数の汚染物質を含む混合ガスから、1種類のガスを選択して濃縮することもできる。以下、第2の実施形態について、詳細に説明する。
【0042】
図7は、混合ガスから1つのガスのみを分離して濃縮する原理を説明する図である。より具体的には、ベンゼン、トルエンおよびキシレンから成る混合ガス(以下、この混合ガスをBTXと省略する)から、ベンゼンのみを分離して濃縮する場合を例として説明する。図7の(A)の部分は、三方弁によって切替えられた流路の状態図を、図7の(B)の部分は、前段セルにおける昇温プロファイルを、それぞれ示したものである。(B)の部分を参照すれば、温度の上昇とともに、ベンゼン、トルエンおよびキシレンの順で脱着することを表している。このベンゼン、トルエンおよびキシレンの脱着温度は、例えばある種の吸着剤を用いる場合、それぞれ約100度、約160度および約180度である。以下の説明では、図4も参照されたい。
【0043】
本実施形態においては、先ず期間(1)で、三方弁30をPOS.Iの状態に設定して、BTXを含む混合ガスをポンプで前段セル1aに取り込む。三方弁30は、出口ポート33を経由して、外部に排出する経路を形成される。時間の経過と共に、前段セル1aには大気サンプル中のBTXが吸着剤12aに吸着されてその濃度が増加する。ここまで図5に示した期間(1)と同様に動作する。
【0044】
次に期間(2)−1で、三方弁30をPOS.IIの状態に設定し、前段セル1aと後段セル1bと接続する経路を形成する。同時に、前段セル1aのヒータをONにして前段セル1a内の温度を上昇させる。前段セル1a内の温度がベンゼンの脱着温度TempBを超えると、先ずベンゼンが吸着剤から脱着されて後段セル1bに移送される。ベンゼンの脱着は、脱着温度TempBを超えた後、分オーダの短時間で終了する。
【0045】
さらにヒータにより昇温を続け、トルエン脱着温度TempTに達する期間(2)−2の始点において、三方弁30をPOS.Iの状態に設定する。このとき、トルエン、キシレンがこの順に脱着を開始し、トルエン、キシレンは出口ポート33を介して外部に排出される。したがって、前段セル1aからBYXの混合ガスのベンゼンのみが分離されて、後段セル1bへ移送される。期間(2)−2において、トルエン、キシレンが排出された後は、前段セル1a内の吸着剤12aは初期のフレッシュな状態に戻る。
【0046】
図7に示したように、ベンゼンのみを後段セル1bに移送する期間(1)から期間(2)−2までの1サイクルを繰り返すことによって、ベンゼンが後段セル1bに繰り返し蓄積される。一定回数のサイクルを繰り返し実施した後に、後段セル1bのヒータをONとすると後段セル1bにおいて累積したベンゼンが脱着されて、測定セルに向けて排出される。したがって、第1の実施形態を説明した図5の期間(2)を、図7の期間(2)−1および期間(2)−2に置き換えれば良い。また、期間(2)−1および期間(2)−2における昇温プロファイルは、ベンゼンの脱着が確実に完了してからトルエンの脱着が開始できる程度に、緩やかでかつ直線的なものとするのが好ましい。
【0047】
上述のベンゼンの分離する場合に、BTXからトルエンのみを分離することも可能である。この場合は、先ず三方弁30をPOS.Iの状態に設定して、ベンゼンを脱着させ外部に排出する。次に、三方弁30をPOS.Iの状態に設定して、トルエンを脱着させて後段セル1bに移送する。最後に、再び三方弁30をPOS.Iの状態に設定してキシレンを脱着させて外部に排出すれば良い。同様にして、キシレンのみを分離するには、三方弁30をPOS.Iの状態に設定してベンゼン、トルエンをこの順に脱着させて外部に排出する。トルエンの脱着が完了した時点で、三方弁30をPOS.Iの状態に設定を切替えれば、トルエンのみを後段セル1bに移送することができる。
【0048】
(第3の実施形態)
本発明の2段構成のガス濃縮セルにおいて、前段セルを水分子フィルタとして機能させることもできる。水分は、メソポーラスシリカやカーボンパックXなどの吸着剤に対して強い親和性を持っており、目的ガスの分離濃縮に悪影響を与える。一般に、水分はベンゼン、トルエン、キシレンなどの有害揮発性物質より加熱脱着温度が高い。したがって、第2の実施形態と同様の方法により水分を外部に排出し、目的ガスのみを後段セルに蓄積することができる。即ち、本発明の2段構成のガス濃縮セルにおいて、前段セルを水分子フィルタとして機能させる場合、前段セルを水分子が脱着する温度に達するように上昇させる。
【0049】
第2の実施形態に示したように昇温過程において、ベンゼン、トルエン、キシレンのいずれか1つもしくは複数を加熱脱着して後段セルに移送させる。その後、さらに昇温して水分子が脱着する時に外部に排出する。この動作により、後段セルには、水分が排除された状態で、ベンゼン、トルエン、キシレンのいずれか1つもしくは複数を捕集することができる。
【0050】
(第4の実施形態)
本実施形態では、目的ガスの収集効率をさらに高めるために、複数個の前段セルを並列に配置するところを特徴としている。
【0051】
図8は、前段セル2個を並列に配置したガス濃縮セルの構成を示す図である。本実施形態では、第1の前段セル41aおよび第2の前段セル41bが並列に配置され、それぞれ、第1の三方弁42aおよび第2の三方弁42bに接続される。2つの三方弁のそれぞれ一方の出口ポートは合流管43によって1つの共通の流路とされ、後段セル41cの導入口に接続される。2つの三方弁42a、42bの他方の出口ポートは、外部にもつなっている。第1の前段セル41aおよび第2の前段セル41bの排出経路は、それぞれ、三方弁42a、42bの状態の設定によって、外部に排出される経路(POS.I)または後段セル41cに排出される経路(POS.II)のいずれかに設定される。上述の流路の切り替えは、第1の実施形態の場合と同様である。
【0052】
図9は、本実施形態のガス濃縮セルの動作を説明する図である。本実施形態でも、大気中のベンゼン濃度を測定する場合を一例として説明する。第1の前段セル41aおよび第2の前段セル41bは、それぞれのセルによって収集された目的ガスを、異なるタイミングで後段セル41cへ移送する。以下、この異なるタイミングによる移送動作について説明する。図9においては、第1の前段セルに対して、(A)三方弁の設定位置、(B)ベンゼン濃度および(C)セルの温度を、第2の前段セルに対して、(D)三方弁の設定位置、(E)ベンゼン濃度および(F)セルの温度を、ならびに後段セルに対して、(G)ベンゼン濃度および(H)セルの温度を、各々の時間的な遷移を同期させて示した。
【0053】
先ず期間(1)では、第1の三方弁42aがPOS.Iの状態に設定され、大気サンプル中のベンゼンガスが第1の前段セル41aに収集される。所定時間tdだけ遅れて、第2の三方弁42bがPOS.Iの状態に設定され、大気サンプル中のベンゼンガスが第2の前段セル41bに収集される。
【0054】
次に、期間(2)に移行すると、第1の三方弁42aはPOS.IIの状態に設定され、同時に第1の前段セル41aのヒータをONとして、第1の前段セルのセル内部温度を上昇させる。セル内温度がベンゼンガスの脱着温度以上となると、ベンゼンガスは吸着剤から脱着され、後段セル41cへ移送される。移送されたベンゼンガスは、後段セル41c内の吸着剤によって吸着される。
【0055】
期間(2)においては、第2の前段セル41bはまだベンゼンガスの収集を継続しているが、期間(2)の終了後の期間(3)において、第2の前段セル41bのヒータをがONとして、第2の前段セル41bのセル内部温度を上昇させる。セル内温度がベンゼンガスの脱着温度以上となると、ベンゼンガスは吸着剤から脱着され、後段セル41cへ移送される。移送されたベンゼンガスは、後段セル41c内の吸着剤によって吸着される。上述のように、第1の前段セル41aおよび第2の前段セル41bは、独立してそれぞれ異なる時間に、ベンゼンガスの収集および後段セル41cへの移送を行なう。2つの前段セルは、並列動作をしながら、上述の収集および移送のサイクルを、それぞれ交互に繰り返す。
【0056】
上述の前段セル2個を並列に配置したガス濃縮セルによるガス濃縮動作によれば、後段セル41c内の目的ガスの濃度が目標値に到達するのに必要な時間は、前段セルが1つの場合と比べて1/2に短縮される。ここで、並列に配置する前段セルの数は2に限定されず、可能な範囲で3以上の複数とすることができる。さらに、n個の前段セルを並列に配置することで、前段セルが1個の場合と比べて、検出セルにおいてガス濃度の同じ検出感度を得るのに必要な測定時間を、概ね1/nとすることができる。また、ガス濃縮時間が同じ場合、前段セルが1個の場合と比べて、ガス濃度の検出感度をn倍とすることができる。
【0057】
(第5の実施形態)
これまで述べた各実施形態のガス濃縮セルは、測定セルにおける検出感度を上げるため高濃度にガスを濃縮するのに適した構成である。ガス濃縮のためには、前段セルおよび後段セルが、共働して一定の濃縮サイクルを繰り返すことが必要である。しかしながら、測定が必要とされるガス濃度は、測定対象ガスや対象となる測定環境によって異なる。上述の各実施形態のガス濃縮セルを用いる場合、例えば測定対象ガスが十分に高濃度な場合であっても、濃縮サイクルを繰り返すことになるため、測定効率が悪い。本実施形態の濃縮セルによれば、ガス濃縮サイクルの中間段階でも目的ガスの測定が可能となり、測定効率をより改善することができる。
【0058】
図10は、本発明の第5の実施形態に係るガス濃縮セルの構成および動作を説明する図である。図10Aは、ガス濃縮セルの構成を示す。本実施形態のガス濃縮セルは、前段セル66aから後段セル66bへの移送経路に、第1の三方弁61および第2の三方弁62を介して検出セル67が挿入されている。さらに後段セル66bの出口を第3の三方弁63を介して検出セル67の導入側へと接続している。次に、本実施形態のガス濃縮セルの動作について説明する。図10B、図10Cおよび図10Dは、時間経過と共にこの順で切り替わる各流路状態I、IIおよびIIIをそれぞれ示した図である。
【0059】
図10Bに示す流路状態Iでは、第1の三方弁61および第3の三方弁63によって、流路L2は出口1に接続される。この流路状態Iの場合、大気サンプルが入り口からポンプ65で前段セル66aに取り込まれ、出口1から外部へ排出される経路が形成される。時間の経過と共に大気サンプル中の目的ガスが前段セル66aの吸着剤に吸着される。流路状態Iでは、検出セル67は動作しておらず、第2の三方弁62の状態位置は任意である。
【0060】
引き続き、図10Cに示す流路状態IIでは、第1の三方弁61および第2の三方弁62の状態が切り替えられる。流路L1、流路L4を介して、前段セル66aおよび後段セル66bの間に検出セル67が挿入された経路が形成されている点に注目されたい。第3の三方弁63は、出口1に接続される。
【0061】
流路状態IIへ移行すると、前段セル66aのヒータをONとして、前段セル内温度を上昇させる。セル内温度が目的ガスの脱着温度以上となると、目的ガスが前段セル66aの吸着剤から脱着され、検出セル67を経由しながら、後段セル66bに移送される。移送された目的ガスは、後段セル66b内の吸着剤に吸着される。この際、検出セル67を動作させて、検出セル67内を通過するガスの濃度測定が実行される。
【0062】
上述の流路状態Iおよび流路状態IIの1つのサイクルは、何サイクルか繰り返される。ここで、後段セル66bへ移送が繰り返される間、目的ガスが検出セル67を通過する度にそのガス濃度が測定されていることに留意されたい。上述の1つのサイクル(流路状態I+流路状態II)において検出セル67を通過する目的ガスの濃度が所定の条件を満たしていれば、その時点で、測定環境の濃度が把握できたとして測定を終了することができる。例えば、許容値以上の高濃度のガスが検出されれば、その測定環境の濃度が把握できたとして測定を終了する。
【0063】
検出セル67によって各サイクルごとに測定されるガス濃度が低濃度の場合には、所定の回数だけサイクル(流路状態I+流路状態II)を繰り返した後、図10Dに示す流路状態IIIへ移行する。流路状態IIIでは、第1の三方弁61、第2の三方弁62および第3の三方弁63の状態がそれぞれ切り替えられる。流路L3および流路L2を介して、後段セル66bが検出セル67へ接続される経路が形成されている。第2の三方弁62は、出口2へ接続される。
【0064】
流路状態IIIへ移行すると、後段セル66bのヒータがONされ、後段セル66bのに内部温度を上昇させる。それまで繰り返された複数のサイクル期間に、後段セル66bに累積された分析対象の目的ガスが脱着され、測定セル67に移送される。移送された目的ガスは、測定セル67においてその濃度が測定される。
【0065】
本実施形態では、前段セル66aから後段セル66bへ目的ガスを移送する度に、検出セル67においてガス濃度測定が行なわれる点に特徴があることを理解されたい。先に述べた各実施形態では、所定の回数の移送サイクルを実施して、後段セルへの濃縮が完了した後で、ガス濃度測定を行なっていたことを思い出されたい。
【0066】
上述のように、本実施形態の構成によるガス濃縮セルでは、ガス濃縮サイクルの中間段階でも検出セルにおいて逐次目的ガスの濃度を測定している。後段セルから目的ガスを脱着する前の途中段階でも、測定結果判定が可能となる。対象サンプルが低濃度および高濃度のいずれの場合でも、各三方弁の状態を変更するだけで、1種類のガス濃縮セル構成によって測定することができる。測定装置全体のガス検出濃度のダイナミックレンジを、広くとることができる。さらには、共通の1つの検出セルを用いることができるので、測定装置コストを抑えることができる。ガス濃度測定装置を小型化できるなどの利点を持つ。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、大気中における有害物質の高感度測定、フィールドにおける連続測定を行なう測定装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】従来技術の微量フローセルを用いた測定装置の概要を示す構成図である。
【図2】(A)は従来技術の濃縮セルの構成図、(B)は一連の動作における濃縮セル内のガス濃度時間変化を示す図である。
【図3】吸着剤の体積をパラメータとして濃縮セルのベンゼン濃度の時間変化を示した図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るガス濃縮セルの構成を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るガス濃縮セルの動作を説明する図である。
【図6】本発明のガス濃縮セルによる濃縮時間と吸光度との関係を示す図である。
【図7】混合ガスから1つのガスのみを分離して濃縮する原理を説明する図である。
【図8】前段セル2個を並列配置したガス濃縮セルの構成を示す図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係るガス濃縮セルの動作を説明する図である。
【図10】(A)は第5の実施形態に係る濃縮セルの構成を示す図、(B)は流路状態Iを示す図、(C)は流路状態IIを示す図、(D)は流路状態IIIを示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 濃縮セル
1a、41a、41b、66a 前段セル
1b、41c、66b 後段セル
2 測定セル
4、65 ポンプ
5 紫外線光源
6 紫外線検出器
11 ガス流路
11a、11b、11c、11d 流路部分
12、12a、12b 吸着剤
13 ヒータ
21 紫外線光路兼ガス流路
30、42a、42b、61、62、63 三方弁
67 検出セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気サンプルから分析対象ガスを捕集するガス濃縮セルにおいて、
前記大気サンプルが流れるガス流路と、前記ガス流路の一部に設けられ前記分析対象ガスを吸着または脱着する第1の吸着剤と、前記第1の吸着剤から前記対象ガスを脱着する第1の制御手段とを含む少なくとも1つの前段セルであって、前記前段セルは、前記分析対象ガスの吸着動作と前記分析対象ガスの脱着動作を交互に複数回繰り返すことと、
前記前段セルにおいて前記繰り返される各脱着動作時に、前記前段セルで脱着された分析対象ガスが流れるガス流路と、前記ガス流路の一部に設けられ前記分析対象ガスを吸着または脱着する第2の吸着剤と、前記第2の吸着剤から前記分析対象ガスを脱着する第2の制御手段とを含む後段セルであって、前記前段セルの前記各脱着動作毎に前記対象分析ガスを前記第2の吸着剤へ累積的に吸着した後に、前記第2の吸着剤から前記分析対象ガスを脱着し、前記後段セルの外部へ排出されることと、
前記前段セルおよび前記後段セルの間に接続された流路切り替え手段であって、流路切り替え手段は、前記前段セルを流れる前記大気サンプルをガス濃縮セル外部へ排出する流路ならびに前記前段セルを前記後段セルへ接続する流路のいずれかに切り替えることとを備え、
前記前段セルの流路のガス流速は、前記後段セルの流路のガス流速よりも大きいことを特徴とするガス濃縮セル。
【請求項2】
前記前段セル内の前記第1の吸着剤の体積は、前記後段セル内の前記第2の吸着剤の体積よりも小さいことを特徴とする請求項1記載のガス濃縮セル。
【請求項3】
前記少なくとも1つの前段セルは、並列に配置された複数の前段セルから構成され、前記複数の前段セルのそれぞれにおける前記吸着動作および前記脱着動作が同期して行なわれ、前記脱着動作時に脱着した前記複数の前段セルからの前記分析対象ガスが合流されて前記後段セルへ流入することを特徴とする請求項1または2に記載のガス濃縮セル。
【請求項4】
前記大気サンプルから、前記分析対象ガスとそれ以外の成分ガスとを分離するために、前記前段セルにおいて前記分析対象ガスとそれ以外の成分ガスとの脱着温度の相違を利用して前記流路切り替え手段により流路を切替え、前記分析対象ガスのみを前記後段セルへ移送するようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のガス濃縮セル。
【請求項5】
大気サンプルから分析対象ガスを捕集し分析するガス検出装置において、
前記大気サンプルが流れるガス流路と、前記ガス流路の一部に設けられ前記分析対象ガスを吸着または脱着する第1の吸着剤と、前記第1の吸着剤から前記対象ガスを脱着する第1の制御手段とを含む少なくとも1つの前段セルであって、前記分析対象ガスの吸着動作と前記分析対象ガスの脱着動作を交互に複数回繰り返すことと、
前記前段セルにおいて前記繰り返された各脱着動作時に、前記前段セルで脱着した分析対象ガスが流れるガス流路と、前記ガス流路の一部に設けられ前記分析対象ガスを吸着または脱着する第2の吸着剤と、前記第2の吸着剤から前記分析対象ガスを脱着する第2の制御手段とを含む後段セルであって、前記前段セルの前記各脱着動作毎に前記対象分析ガスを前記第2の吸着剤へ累積的に吸着した後に、前記第2の吸着剤から前記分析対象ガスが脱着され、前記後段セルの外部へ排出されることと、
前記前段セルおよび前記後段セルの間に配置され、前記脱着動作毎に前記前段セルから脱着した前記分析対象ガスの濃度測定を行い、または、前記後段セルから脱着された前記分析対象ガスの濃度測定を行なう検出セルと、
前記前段セルおよび前記検出セルの間に配置された第1の流路切り替え手段であって、前記前段セルからの前記分析対象ガスを前記検出セルに流す流路ならびに前記後段セルからの前記分析対象ガスを前記検出セルに流す流路のいずれかに切り替えることと、
前記検出セルおよび前記後段セルの間に配置された第2の流路切り替え手段であって、前記検出セルを経由して流れる前記前段セルからの前記分析対象ガスを前記後段セルに流す流路ならびに前記後段セルからの前記分析対象ガスを外部に排出する流路のいずれかに切り替えることと、
前記後段セルの排出側に配置された第3の流路切り替え手段であって、前記第1の流路切り替え手段を介して前記前段セルからの前記分析対象ガスを排出する流路と、前記後段セルからの前記分析対象ガスを排出する流路、前記後段セルからの分析対象ガスを排出する流路ならびに前記後段セルから脱着された前記分析対象ガスを前記第1の流路切り替え手段を介して前記検出セルへ流す流路のいずれかに切り替えることと
を備えたことを特徴とするガス検出装置。
【請求項6】
前記分析対象ガスは、ベンゼン、トルエンもしくはキシレンの中のいずれか1つであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のガス濃縮セルまたはガス検出装置。
【請求項7】
高速のガス流路を持つ少なくとも1つの前段セルと低速のガス流路を持つ後段セルから構成され、大気サンプルから分析対象ガスを捕集するガス濃縮セルにおいて分析対象ガスを濃縮する方法において、
前記前段セル内の流路に配置された第1の吸着剤に前記分析対象ガスを吸着する第1のステップと、
前記吸着する第1のステップに続いて、前記第1の吸着剤により捕集した前記分析対象ガスを脱着する第2のステップと、
前記脱着する第2のステップにおいて脱着した前記分析対象ガスを、前記後段セル内の流路に配置された第2の吸着剤に吸着する第3のステップと、
前記第1のステップから前記第3のステップまでを、所定の繰り返し回数だけ繰り返し、前記第2の吸着剤に累積的に前記分析対象ガスを濃縮する第4のステップと
を備えることを特徴とするガスを濃縮する方法。
【請求項8】
前記前段セル内の前記第1の吸着剤の体積は、前記後段セル内の前記第2の吸着剤の体積よりも小さいことを特徴とする請求項7に記載のガスを濃縮する方法。
【請求項9】
高速のガス流路を持つ少なくとも1つの前段セルと、低速のガス流路を持つ後段セルと、前記前段セルおよび前記後段セルの間に配置され測定対象ガスの濃度を測定する検出セルとから構成され、大気サンプルから分析対象ガスを捕集するガス濃縮装置において、分析対象ガスの濃度を測定する方法において、
前記前段セル内の流路に配置された第1の吸着剤に前記分析対象ガスを吸着する第1のステップと、
前記吸着する第1のステップに続いて、前記第1の吸着剤により捕集した前記分析対象ガスを脱着する第2のステップと、
前記脱着する第2のステップにおいて脱着した前記分析対象ガスを、前記検出セルに流しながら前記分析対象ガスの濃度測定を実施する第3のステップと、
前記検出セルを経由して流れた前記分析対象ガスを前記後段セル内の流路に配置された第2の吸着剤に吸着する第4のステップと、
前記第1のステップから前記第4のステップまでを、所定の繰り返し回数だけ繰り返し、前記第2の吸着剤に累積的に前記分析対象ガスを濃縮する第5のステップと、
前記濃縮する第5のステップの後で、前記第2の吸着剤に累積的に濃縮された前記分析対象ガスを脱着する第6のステップと、
前記脱着した分析対象ガスを前記検出セルにおいて濃度測定を実施する第7のステップとを
を備えることを特徴とするガスの濃度を測定する方法。
【請求項10】
前記濃度測定を実施する第3のステップにおいて測定された前記分析対象ガスの濃度が、所定の値を超えていた場合は、前記測定値を最終測定値として濃度測定を終了することを特徴とする請求項9に記載のガスの濃度を測定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−150652(P2009−150652A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326251(P2007−326251)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】