説明

ガス発生剤組成物

【課題】 燃焼温度を低下させることで、クーラントフィルタを減量化でき、酸化リンの発生も抑制できるガス発生剤組成物の提供。
【解決手段】 (A)燃料、(B)ストロンチウム化合物を含む酸化剤、(C)バインダ、(D)リン化合物、(E)酸化剤として機能しないストロンチウム化合物を含有し、前記(B)成分及び/又は(E)成分以外のストロンチウム化合物を含有していないガス発生剤組成物であり、前記組成物中のストロンチウム原子(Sr)数とリン原子(P)数の比が、次式:Sr数/P数≧1.67で示される関係を満たしている、ガス発生剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置用インフレータに使用できるガス発生剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエアバッグ装置用のインフレータの内、ガス発生源としてガス発生剤を使用するものは、燃焼ガスを冷却・濾過するためのクーラントフィルタを備えている。クーラントフィルタは、インフレータ中で最大の質量を占める部品であることから、インフレータの質量増加の最大要因となっており、軽量化の観点からクーラントフィルタの減量化が求められている。
【0003】
クーラントフィルタを減量化する方法としては、ガス発生剤の燃焼温度を低下させることが知られている。
【0004】
特許文献1には、ガラス粉末を添加することで、ガス発生剤の燃焼温度を低下させる発明が記載されている。しかし、ガラス粉末は高価であること、それ自体からはガスを発生しないため、結果としてガス発生剤の質量を増加させることになる。
【0005】
特許文献2には、燃料、酸化剤と共に水酸化アルミニウム等とリン酸塩を配合したガス発生剤が記載されている。前記発明は、燃焼温度の低下により、クーラントフィルタの質量の減量化に有用な発明であるが、リン酸塩の燃焼により発生する酸化リンの除去の点で改善の余地がある。
【特許文献1】特表平10−502610号公報
【特許文献2】特開2006−76824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、燃焼温度を低下させることで、クーラントフィルタを減量化でき、酸化リンの発生も抑制できるガス発生剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、(A)燃料、(B)酸化剤、(C)バインダ、(D)リン化合物及び(E)酸化剤として機能しないストロンチウム化合物を含有し、前記(E)成分以外のストロンチウム化合物を含有していないガス発生剤組成物であり、
前記組成物中のストロンチウム原子(Sr)数とリン原子(P)数の比が、次式:Sr数/P数≧1.67で示される関係を満たしている、ガス発生剤組成物を提供する。
【0008】
請求項2の発明は、(A)燃料、(B)ストロンチウム化合物を含む酸化剤、(C)バインダ及び(D)リン化合物を含有し、前記(B)成分以外のストロンチウム化合物を含有していないガス発生剤組成物であり、
前記組成物中のストロンチウム原子(Sr)数とリン原子(P)数の比が、次式:Sr数/P数≧1.67で示される関係を満たしている、ガス発生剤組成物を提供する。
【0009】
請求項3の発明は、(A)燃料、(B)ストロンチウム化合物を含む酸化剤、(C)バインダ、(D)リン化合物及び(E)酸化剤として機能しないストロンチウム化合物を含有し、前記(B)成分及び(E)成分以外のストロンチウム化合物を含有していないガス発生剤組成物であり、
前記組成物中のストロンチウム原子(Sr)数とリン原子(P)数の比が、次式:Sr数/P数≧1.67で示される関係を満たしている、ガス発生剤組成物を提供する。
【0010】
請求項4の発明は、前記(B)成分の酸化剤としてのストロンチウム化合物が、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、塩素酸ストロンチウムから選ばれるものである、請求項1〜3のいずれか1項記載のガス発生剤組成物を提供する。
【0011】
請求項5の発明は、前記(D)成分のリン化合物が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸アンモニウムマグネシウム、ポリリン酸アンモニウムから選ばれるものである、請求項1〜4のいずれか1項記載のガス発生剤組成物を提供する。
【0012】
請求項6の発明は、前記(E)成分のストロンチウム化合物が、酸化ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、クロム酸ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化モリブデン酸ストロンチウム、酸化ニオブ酸ストロンチウム、酸化タングステン酸ストロンチウム、十二鉄十九酸化ストロンチウム、ジルコン酸ストロンチウム、スズ酸ストロンチウム、シュウ酸ストロンチウム、ステアリン酸ストロンチウムから選ばれるものである、請求項1〜5のいずれか1項記載のガス発生剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガス発生剤組成物は、リン酸塩の作用により、燃焼温度を低下させることができ、ストロンチウム化合物の作用により、酸化リンの発生量を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本願発明は、
(I)(A)燃料、(B)酸化剤、(C)バインダ、(D)リン化合物及び(E)酸化剤として機能しないストロンチウム化合物を含有し、前記(E)成分以外のストロンチウム化合物を含有していないガス発生剤組成物;
(II)(A)燃料、(B)ストロンチウム化合物を含む酸化剤、(C)バインダ及び(D)リン化合物を含有し、前記(B)成分以外のストロンチウム化合物を含有していないガス発生剤組成物;
(III)(A)燃料、(B)ストロンチウム化合物を含む酸化剤、(C)バインダ、(D)リン化合物及び(E)酸化剤として機能しないストロンチウム化合物を含有し、前記(B)成分及び(E)成分以外のストロンチウム化合物を含有していないガス発生剤組成物
の3つの実施形態にすることができる。以下、各成分について説明する。
【0015】
<(A)燃料>
(A)成分の燃料としては、テトラゾール化合物、グアニジン化合物、トリアジン化合物、ニトロアミン化合物から選ばれる含窒素有機化合物を挙げることができる。
【0016】
テトラゾール化合物は、5−アミノテトラゾール、ビテトラゾールアンモニウム塩等が好ましい。グアニジン化合物は、グアニジン硝酸塩(硝酸グアニジン)、アミノグアニジン硝酸塩、ニトログアニジン、トリアミノグアニジン硝酸塩等が好ましい。トリアジン化合物は、メラミン、シアヌル酸、メラミンシアヌレート、アンメリン、アンメリド、アンメランド等が好ましい。ニトロアミン化合物は、シクロ−1,3,5−トリメチレン−2,4,6−トリニトラミン等が好ましい。
【0017】
組成物中の(A)成分の含有量は、10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。
【0018】
<(B)酸化剤>
(B)成分の酸化剤は、(B−1)ストロンチウムを含まない酸化剤と(B−2)ストロンチウム化合物を含む酸化剤のいずれかである。
【0019】
(B−1)成分のストロンチウムを含まない酸化剤は、塩基性金属硝酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、塩素酸塩から選ばれるものを挙げることができる。
【0020】
塩基性金属硝酸塩としては、塩基性硝酸銅、塩基性硝酸コバルト、塩基性硝酸亜鉛、塩基性硝酸マンガン、塩基性硝酸鉄、塩基性硝酸モリブデン、塩基性硝酸ビスマス、塩基性硝酸アルミニウム、塩基性硝酸マグネシウム、塩基性硝酸セシウムを挙げることができる。
【0021】
硝酸塩としては、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等のアルカリ金属硝酸塩、硝酸アンモニウムを挙げることができる。
【0022】
過塩素酸塩としては、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸バリウムを挙げることができる。
【0023】
塩素酸塩としては、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸バリウムを挙げることができる。
【0024】
(B−2)成分のストロンチウム化合物を含む酸化剤は、酸化作用と共に、燃焼時に(D)成分のリン化合物に由来して発生する酸化リンと反応生成物を形成し、燃焼ガス中の酸化リンの生成量を減少させるようにも作用する成分である。(B−2)成分の酸化剤としては、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、塩素酸ストロンチウムから選ばれるものを挙げることができる。
【0025】
組成物中の(B−1)成分の含有量は、10〜60質量%が好ましく、15〜50質量%がより好ましく、20〜45質量%が更に好ましい。
【0026】
組成物中の(B−2)成分の含有量は、10〜60質量%が好ましく、15〜50質量%がより好ましく、20〜45質量%が更に好ましい。
【0027】
<(C)バインダ>
(C)成分のバインダとしては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースカリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩、酢酸セルロース、セルロースアセテートブチレート、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、微結晶セルロース、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミドのアミノ化物、ポリアクリルヒドラジド、アクリルアミド・アクリル酸金属塩共重合体、ポリアクリルアミド・ポリアクリル酸エステル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アクリルゴム、グアガム、デンプン、シリコーンを挙げることができる。
【0028】
組成物中の(C)成分の含有量は、0.1〜15質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
【0029】
<(D)リン化合物>
(D)成分のリン化合物は、燃焼温度を低下させるように作用する成分であり、リン酸二水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸アンモニウムマグネシウム、ポリリン酸アンモニウムから選ばれるものが好ましい。
【0030】
組成物中の(D)成分の含有量は、1〜12質量%が好ましく、3〜11質量%がより好ましく、5〜10質量%が更に好ましい。
【0031】
<(E)酸化剤として機能しないストロンチウム化合物>
(E)成分の酸化剤として機能しないストロンチウム化合物は、燃焼時に(D)成分のリン化合物に由来して発生する酸化リンと反応生成物を形成し、燃焼ガス中の酸化リンの生成量を減少させるように作用する成分である。
【0032】
(E)成分のストロンチウム化合物としては、酸化ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、クロム酸ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化モリブデン酸ストロンチウム、酸化ニオブ酸ストロンチウム、酸化タングステン酸ストロンチウム、十二鉄十九酸化ストロンチウム、ジルコン酸ストロンチウム、スズ酸ストロンチウム、シュウ酸ストロンチウム、ステアリン酸ストロンチウムから選ばれるものを挙げることができる。
【0033】
(E)成分の含有量は、
(B−2)成分のストロンチウム化合物を含む酸化剤を含有していないときは、1〜45質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、10〜30質量%が更に好ましく、
(B−2)成分のストロンチウム化合物を含む酸化剤を含有しているときは、0.5〜35質量%が好ましく、1〜25質量%がより好ましく、5〜20質量%が更に好ましい。
【0034】
<その他の成分>
本発明の組成物は、必要に応じて、ガス発生剤に配合される公知の各種添加剤を含有することができるが、前記添加物にはストロンチウム化合物は含まれない。この添加剤としては、酸化銅、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化ビスマス、シリカ、アルミナ等の金属酸化物;炭酸コバルト、炭酸カルシウム、塩基性炭酸亜鉛、塩基性炭酸銅等の金属炭酸塩又は塩基性金属炭酸塩;酸性白土、カオリン、タルク、ベントナイト、ケイソウ土、ヒドロタルサイト等の金属酸化物又は水酸化物の複合化合物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム;ケイ酸ナトリウム、マイカモリブデン酸塩、モリブデン酸コバルト等の金属酸塩、二硫化モリブデン、ステアリン酸カルシウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0035】
本発明の組成物は、組成物中のストロンチウム原子(Sr)数とリン原子(P)数の比が、次式:Sr数/P数≧1.67で示される関係を満たしている。前記比率は、含有成分の理論比から計算される。
前記関係を満たしていることにより、組成物中に(B)成分及び/又は(E)成分として含有されているストロンチウム化合物と(D)成分のリン化合物が反応して、高融点のストロンチウムアパタイトが生成されることから、酸化リンの発生が抑制される。
【0036】
本発明の組成物は、所望の形状に成型することができ、単孔円柱状、多孔円柱状又はペレット状の成型体にすることができる。
【0037】
これらの成型体は、組成物に水又は有機溶媒を添加混合し、押出成型する方法(単孔円柱状、多孔円柱状の成型体)又は打錠機等を用いて圧縮成型する方法(ペレット状の成型体)により製造することができる。単孔円柱状、多孔円柱状のものは、孔が長さ方向に貫通しているもの、孔が貫通せずに窪みを形成しているもののいずれでもよい。
【0038】
本発明の組成物又はそれから得られる成型体は、例えば、各種乗り物の運転席のエアバック用インフレータ、助手席のエアバック用インフレータ、サイドエアバック用インフレータ、インフレータブルカーテン用インフレータ、ニーボルスター用インフレータ、インフレータブルシートベルト用インフレータ、チューブラーシステム用インフレータ、プリテンショナー用ガス発生器に適用できる。
【0039】
また本発明の組成物又はそれから得られる成型体を使用するインフレータは、ガスの供給が、ガス発生剤からだけのパイロタイプと、アルゴン等の圧縮ガスとガス発生剤の両方であるハイブリッドタイプのいずれでもよい。
【0040】
更に本発明の組成物又はそれから得られる成型体は、雷管やスクイブのエネルギーをガス発生剤に伝えるためのエンハンサ剤(又はブースター)等と呼ばれる着火剤として用いることもできる。
【実施例】
【0041】
実施例及び比較例
表1に示す各成分の合計100質量部に対して16質量部のイオン交換水を添加し、捏和機を用いて混合した。次に、得られた塊状の混合物を用い、圧伸機にて約8000kPaの圧力で押出成形し、裁断、乾燥を経て、外径5mm、長さ50mmの円柱状のガス発生剤組成物を得た。
【0042】
(1)燃焼温度(K)
熱化学平衡計算プログラムに基づくシュミレーション値である。
(2)ストロンチウムアパタイトの生成の有無
得られた円柱状のガス発生剤組成物の端面に通電可能なニクロム線を取り付け、内容積1Lのステンレス製耐圧密閉容器内の中にセットした。その後、ニクロム線に通電することにより、円柱状のガス発生剤組成物を着火燃焼させた。燃焼後の燃焼残渣について、X線回折装置による分析を行い、ストロンチウムアパタイトの有無を調べた。
【0043】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)燃料、(B)酸化剤、(C)バインダ、(D)リン化合物及び(E)酸化剤として機能しないストロンチウム化合物を含有し、前記(E)成分以外のストロンチウム化合物を含有していないガス発生剤組成物であり、
前記組成物中のストロンチウム原子(Sr)数とリン原子(P)数の比が、次式:Sr数/P数≧1.67で示される関係を満たしている、ガス発生剤組成物。
【請求項2】
(A)燃料、(B)ストロンチウム化合物を含む酸化剤、(C)バインダ及び(D)リン化合物を含有し、前記(B)成分以外のストロンチウム化合物を含有していないガス発生剤組成物であり、
前記組成物中のストロンチウム原子(Sr)数とリン原子(P)数の比が、次式:Sr数/P数≧1.67で示される関係を満たしている、ガス発生剤組成物。
【請求項3】
(A)燃料、(B)ストロンチウム化合物を含む酸化剤、(C)バインダ、(D)リン化合物及び(E)酸化剤として機能しないストロンチウム化合物を含有し、前記(B)成分及び(E)成分以外のストロンチウム化合物を含有していないガス発生剤組成物であり、
前記組成物中のストロンチウム原子(Sr)数とリン原子(P)数の比が、次式:Sr数/P数≧1.67で示される関係を満たしている、ガス発生剤組成物。
【請求項4】
前記(B)成分の酸化剤としてのストロンチウム化合物が、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、塩素酸ストロンチウムから選ばれるものである、請求項1〜3のいずれか1項記載のガス発生剤組成物。
【請求項5】
前記(D)成分のリン化合物が、リン酸二水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸アンモニウムマグネシウム、ポリリン酸アンモニウムから選ばれるものである、請求項1〜4のいずれか1項記載のガス発生剤組成物。
【請求項6】
前記(E)成分のストロンチウム化合物が、酸化ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、クロム酸ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化モリブデン酸ストロンチウム、酸化ニオブ酸ストロンチウム、酸化タングステン酸ストロンチウム、十二鉄十九酸化ストロンチウム、ジルコン酸ストロンチウム、スズ酸ストロンチウム、シュウ酸ストロンチウム、ステアリン酸ストロンチウムから選ばれるものである、請求項1〜5のいずれか1項記載のガス発生剤組成物。

【公開番号】特開2009−137821(P2009−137821A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319126(P2007−319126)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】