説明

ガス発生剤組成物

【課題】 製造時に着色が生じることがないガス発生剤組成物の提供。
【解決手段】 (A)燃料、(B)金属硝酸塩、(C)バインダ、(D)吸熱剤を含有しており、前記(D)成分の吸熱剤として、水溶解度(25℃、10質量%分散体で試験したときの値)が1質量%以下のポリリン酸アンモニウムを含有する、ガス発生剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置用インフレータに使用できるガス発生剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス発生剤は、作業安全上の観点から、原料粉末を水と共に捏和装置で捏和した後、押出機で押出成形し、その後、乾燥することで製造されている。捏和装置は、捏和槽に投入した原料粉末を捏和翼で混ぜる方式のものであるが、万一、捏和槽と捏和翼の接触が生じた場合でも、火花が発生して原料粉末が着火することを防止するため、捏和翼はリン青銅等の柔らかい銅合金で形成されている。
【0003】
ガス発生剤では、酸化剤として硝酸ストロンチウム等の金属硝酸塩が使用され、添加剤としてリン酸アンモニウム化合物が使用されている場合があるが、これらが水溶性である場合には、捏和翼の銅合金と反応して、銅アンミン硝酸塩錯体を生成することがある。前記錯体が生成すると、捏和中の原料粉末が青く着色してしまい、設計性能どおりのものが得られなくなるという問題がある。また、銅アンミン硝酸塩錯体は、落槌感度が高く、作業安全上の観点からも好ましくない。
【0004】
リン酸アンモニウム化合物を水溶解度の低い金属リン酸塩(例えば、ヒドロキシアパタイト)に代える方法も考えられるが、ガス発生剤のガス発生効率が低下するという問題がある。
【特許文献1】GB656315A
【特許文献2】US2001−54461A
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ガス発生剤の成分として、金属硝酸塩とリン酸アンモニウム化合物を併用した場合でも、製造時における着色の問題が発生することがなく、目的とする設計性能を有するガス発生剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、(A)燃料、(B)金属硝酸塩、(C)バインダ、(D)吸熱剤を含有しており、前記(D)成分の吸熱剤として、水溶解度(25℃、10質量%分散体で試験したときの値)が1質量%以下のポリリン酸アンモニウムを含有する、ガス発生剤組成物を提供する。
【0007】
請求項2の発明は、前記(D)成分のポリリン酸アンモニウムが、平均重合度が1000以上のものである、請求項1記載のガス発生剤組成物を提供する。
【0008】
請求項3の発明は、前記(D)成分のポリリン酸アンモニウムが、平均重合度が1000以上で、かつその表面が、メラミン、メラミンシアヌレート、シラン、シリコーンから選ばれるコーティング剤で被覆されたものである、請求項1記載のガス発生剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガス発生剤組成物は、製造工程において着色されることがなく、エアバッグインフレータ用に適した落槌感度を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<(A)成分>
(A)成分の燃料は、硝酸グアニジン、ニトログアニジン、5−アミノテトラゾール、メラミン等のほか、特開2002−12493号公報等に記載のものを用いることができる。組成物中の(A)成分の含有割合は、10〜70質量%が好ましく、30〜50質量%がより好ましい。
【0011】
<(B)成分>
(B)成分の金属硝酸塩は酸化剤であり、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等を用いることができる。組成物中の(B)成分の含有割合は、25〜85質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。
【0012】
<(C)成分>
(C)成分のバインダは、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースカリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩、酢酸セルロース、セルロースアセテートブチレート、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、微結晶性セルロース、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミドのアミノ化物、ポリアクリルヒドラジド、アクリルアミド・アクリル酸金属塩共重合体、ポリアクリルアミド・ポリアクリル酸エステル化合物の共重合体、ポリビニルアルコール、アクリルゴム、グアガム、デンプン、シリコーン等を挙げることができる。
【0013】
組成物中の(C)成分の含有割合は、0.1〜15質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。
【0014】
<(D)成分>
本発明の組成物では、(D)成分の吸熱剤として、
(D-1)成分:水溶解度(25℃、10質量%分散体で試験したときの値)が1質量%以下で、平均重合度が1000以上のポリリン酸アンモニウムを含有するもの、
(D-2)成分:水溶解度(25℃、10質量%分散体で試験したときの値)が1質量%以下で、かつその表面が、メラミン、メラミンシアヌレート、シラン、シリコーンから選ばれるコーティング剤で被覆されたもの、のいずれか用いることができる。
【0015】
(D)成分は、水溶解度が0.9質量%以下のものが好ましく、平均重合度が1200以上のものが好ましい。
【0016】
(D-2)成分において、ポリリン酸アンモニウムの表面をコーティング剤で被覆する方法としては、特開平9−227110号公報に記載の高速攪拌手段又は衝撃式打撃手段を用いた方法を適用できる。具体的には、粉砕器や混合器内に、アンモニウム化合物100質量部と、それに対して0.1〜40質量部(好ましくは1〜20質量部)のメラミン等のコーティング剤を添加し、内容物を繰り返し接触させながら、撹拌もしくは衝撃によって、コーティング剤をアンモニウム化合物粒子に叩きつけて被覆するする方法(ハイブリダイゼーション)を適用できる。より具体的には、特開平9−227110号公報の実施例1、2、6に記載の方法を適用できる。コーティングをすることによって、さらにポリリン酸アンモニウムの溶出を低減させることができる。
【0017】
(D-2)成分中、コーティング剤の含有割合は1〜20質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましく、アンモニウム化合物の含有割合は99〜80質量%が好ましく、95〜80質量%がより好ましい。
【0018】
組成物中の(D)成分の含有割合は、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0019】
本発明のガス発生剤組成物は、必要に応じて、ガス発生剤組成物に配合される公知の添加剤を含有することができる。公知の添加剤としては、酸化銅、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化ビスマス、シリカ、アルミナを含む金属酸化物;水酸化コバルト、水酸化鉄、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;炭酸コバルト、炭酸カルシウム、塩基性炭酸亜鉛、塩基性炭酸銅を含む金属炭酸塩又は塩基性金属炭酸塩;酸性白土、カオリン、タルク、ベントナイト、ケイソウ土、ヒドロタルサイトを含む金属酸化物又は水酸化物の複合化合物;ケイ酸ナトリウム、マイカモリブデン酸塩、モリブデン酸コバルト、モリブデン酸アンモニウム等の金属酸塩、二硫化モリブデン、ステアリン酸カルシウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ホウ酸、メタホウ酸、無水ホウ酸等を挙げることができる。
【0020】
本発明の組成物は、公知の製造方法にしたがい、原料粉末を水と共に捏和した場合、酸化剤由来の硝酸イオンが捏和水中に存在していても、アンモニウムイオンが捏和水分中に溶け出さないため、捏和翼のリン青銅等の銅合金と反応して、銅アンミン硝酸塩錯体を生成しないので、原料粉末が青く着色することがない。
【0021】
本発明のガス発生剤組成物は、所望の形状に成型することができ、単孔円柱状、多孔円柱状又はペレット状の成型体にすることができる。
【0022】
これらの成型体は、ガス発生剤組成物に水又は有機溶媒を添加混合し、押出成型する方法(単孔円柱状、多孔円柱状の成型体)又は打錠機等を用いて圧縮成型する方法(ペレット状の成型体)により製造することができる。単孔円柱状、多孔円柱状のものは、孔が長さ方向に貫通しているもの、孔が貫通せずに窪みを形成しているもののいずれでもよい。
【0023】
本発明のガス発生剤組成物又はそれから得られる成型体は、例えば、各種乗り物の運転席のエアバック用インフレータ、助手席のエアバック用インフレータ、サイドエアバック用インフレータ、インフレータブルカーテン用インフレータ、ニーボルスター用インフレータ、インフレータブルシートベルト用インフレータ、チューブラーシステム用インフレータ、プリテンショナー用ガス発生器に適用できる。
【0024】
また本発明のガス発生剤組成物又はそれから得られる成型体を使用するインフレータは、ガスの供給が、ガス発生剤からだけのパイロタイプと、アルゴン等の圧縮ガスとガス発生剤の両方であるハイブリッドタイプのいずれでもよい。
【0025】
更に本発明のガス発生剤組成物又はそれから得られる成型体は、雷管やスクイブのエネルギーをガス発生剤に伝えるためのエンハンサ剤(又はブースター)等と呼ばれる着火剤
として用いることもできる。
【実施例】
【0026】
実施例及び比較例
表1に示す各原料成分を秤量し、前記原料の合計量100質量部に対して15質量部のイオン交換水を添加して、捏和機(捏和翼がリン青銅製のもの)で捏和した。その後、圧伸機で混練してストランド状に押し出し、ロータリーカッターで円柱状に切断した。切断したものを約110℃で約72時間乾燥して、目的とするガス発生剤組成物の成形体を得た。
【0027】
(1)着色の有無の確認
乾燥後の成形体を肉眼で観察し、着色の有無を確認した。
【0028】
(2)落槌感度
JIS K4810−1979の火薬類性能試験法に基づいて、落槌感度を試験した。
【0029】
【表1】

【0030】
GN:硝酸グアニジン
SrN:硝酸ストロンチウム
BMC:塩基性炭酸マグネシウム
PAA:ポリアクリルアミド
HP―APP:高重合度ポリリン酸アンモニウム(水溶解度0.5質量%,平均重合度1000)
LP―APP:低重合度ポリリン酸アンモニウム(水溶解度10質量%,平均重合度20)
ME−APP:メラミン被覆ポリリン酸アンモニウム(ポリリン酸アンモニウムの水溶解度0.5質量%,平均重合度1000)
SI−APP:シラン被覆ポリリン酸アンモニウム(ポリリン酸アンモニウムの水溶解度0.5質量%,平均重合度1000)
ADP:リン酸二水素アンモニウム
なお、平均重合度の測定は、公知の末端基滴定法[J.R.Van Wazer ,E.J.Griffithand J.F.McCullough , Anal.Chem. , 26 , 1755 (1954) ]に基づいて実施した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)燃料、(B)金属硝酸塩、(C)バインダ、(D)吸熱剤を含有しており、前記(D)成分の吸熱剤として、水溶解度(25℃、10質量%分散体で試験したときの値)が1質量%以下のポリリン酸アンモニウムを含有する、ガス発生剤組成物。
【請求項2】
前記(D)成分のポリリン酸アンモニウムが、平均重合度が1000以上のものである、請求項1記載のガス発生剤組成物。
【請求項3】
前記(D)成分のポリリン酸アンモニウムが、平均重合度が1000以上で、かつその表面が、メラミン、メラミンシアヌレート、シラン、シリコーンから選ばれるコーティング剤で被覆されたものである、請求項1記載のガス発生剤組成物。

【公開番号】特開2009−149479(P2009−149479A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330294(P2007−330294)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】