説明

ガス発生器およびその製造方法

【課題】作業性よく簡便に製造することが可能で、かつ所望の出力特性が得られるとともに粒状のガス発生剤の破砕を効果的に防止することができるガス発生器を提供する。
【解決手段】シリンダ型ガス発生器1は、長尺円筒状のハウジングと、ハウジングの内部に設けられた作動ガス生成室およびフィルタ室と、点火器30とを備えている。作動ガス生成室には、区画部材50、破砕防止部材としてのコイルバネ65および粒状のガス発生剤62が内部に収容された第1密閉容器80が配置されている。粒状のガス発生剤62は、区画部材50の中空部55を除く部分に充填されており、コイルバネ65は、区画部材50の円筒状部52の外側に挿入されることで第1密閉容器80のフィルタ室側の端部に配置されている。コイルバネ65は、軸方向に弾性圧縮が可能であり、粒状のガス発生剤65を点火器30側に向けて付勢している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載される乗員保護装置としてのエアバッグ装置に組み込まれるガス発生器およびその製造方法に関し、より特定的には、長尺円柱状の外形を有するガス発生器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の乗員の保護の観点から、乗員保護装置であるエアバッグ装置が普及している。エアバッグ装置は、車両等衝突時に生じる衝撃から乗員を保護する目的で車両等に装備されるものであり、車両等衝突時に瞬時にエアバッグを膨張・展開させることにより、展開されたエアバッグで乗員の体を受け止めるものである。ガス発生器は、このエアバッグ装置に組み込まれ、車両等衝突時に瞬時にガスを発生させてエアバッグを膨張・展開させる機器である。
【0003】
ガス発生器には、車両等に対する設置位置や出力等の仕様に基づき、種々の構成のものが存在している。その一つに、「シリンダ型」と呼ばれる構造のガス発生器が存在する。シリンダ型ガス発生器は、その外形が長尺円柱状であり、サイドエアバッグ装置や助手席用のエアバッグ装置、カーテンエアバッグ装置、ニーエアバッグ装置等に好適に組み込まれる。なお、長尺円柱状の外形を有するガス発生器としては、このシリンダ型ガス発生器の他にも、いわゆるT字型ガス発生器と呼ばれるもの等が存在している。
【0004】
上述したシリンダ型ガス発生器は、外殻部材を構成する圧力容器としての長尺円筒状のハウジングと、ハウジングの軸方向の一端部に組付けられた点火器と、点火器に隣接する部分のハウジングの内部に設けられた作動ガス生成室と、作動ガス生成室に隣接する部分のハウジングの内部に設けられたフィルタ室とを備えている。このうち、作動ガス生成室には、燃焼することで作動ガスを生成するガス発生剤が収容されており、フィルタ室には、作動ガスが内部を通過することで当該作動ガスを冷却するとともに当該作動ガス中に含まれる燃焼残渣(スラグ)を除去するフィルタが収容されている。また、フィルタ室を規定する部分のハウジングには、作動ガスを外部に噴出するためのガス噴出口が設けられている。
【0005】
当該シリンダ型ガス発生器においては、点火器が作動することによって生じた火炎によってガス発生剤が燃焼し、これにより高温高圧の作動ガスが作動ガス生成室において発生する。生成した高温高圧の作動ガスは、作動ガス生成室からフィルタ室へと流入し、フィルタを通過することで冷却されるとともにスラグが除去され、その後ガス噴出口を介してハウジングの外部へと噴出される。ガス噴出口から噴出された作動ガスは、エアバッグの膨張・展開に利用される。
【0006】
この種のシリンダ型ガス発生器の構成が具体的に開示された文献として、たとえば特表2000−510792号公報(特許文献1)や、特開2008−114683号公報(特許文献2)、特開2002−166818号公報(特許文献3)、特開2005−313812号公報(特許文献4)、特開2007−314102号公報(特許文献5)等がある。このうち、上記特許文献1および2に開示のシリンダ型ガス発生器においては、上述した作動ガス生成室とフィルタ室とが特に仕切り部材等の隔壁にて仕切られることなく、ハウジングの内周面に沿うように円筒状のフィルタが配置され、当該円筒状のフィルタの中空部を充填するようにガス発生剤が収容されている。一方、上記特許文献3ないし5に開示のシリンダ型ガス発生器においては、ハウジングの軸方向に仕切り部材が介装されることでハウジングの内部の空間が軸方向に作動ガス生成室とフィルタ室とに仕切られ、これら作動ガス生成室およびフィルタ室にそれぞれガス発生剤およびフィルタが収容されている。
【0007】
ここで、作動ガス生成室に収容されるガス発生剤としては、上記特許文献2に開示される如く、ハウジングの軸方向に沿って一列に整列配置が可能となるように大型の成形体としてディスク状に形成されたものと、上記特許文献1、3ないし5に開示される如く、小型の成形体として粒状に形成されたものとがある。
【0008】
従来においては、ガス発生剤としてアジ化化合物やテトラゾール系化合物を含むものが利用されていたため、上述した大型のディスク状ペレットとした場合にも十分にこれを燃焼させることができた。しかしながら、アジ化化合物を含むガス発生剤とした場合には、その毒性の点で問題があり、またテトラゾール系化合物を含むガス発生剤とした場合には、その燃焼温度がスラグの融点よりも高くなってしまい、フィルタにてスラグを効果的に捕捉することができないという点で問題があった。
【0009】
そのため、近年においては、燃料としてグアニジン系化合物を含み、酸化剤として塩基性硝酸銅を含むガス発生剤を利用したシリンダ型ガス発生器が普及している。このグアニジン系化合物と塩基性硝酸銅とを含むガス発生剤とした場合には、アジ化化合物のような毒性の問題もなく、また燃焼温度がスラグの融点よりも低くなってスラグを固形物として効果的にフィルタにて捕捉することができるメリットも得られる。しかしながら、当該ガス発生剤を利用するためには、燃焼を開始させるためにガス発生剤の表面積を大きくすることが不可欠であり、またその燃焼を維持するために作動ガス生成室の内圧を相当程度に高く維持することが不可欠である。そのため、近年においては、上記特許文献3ないし5に開示される如く、ガス発生剤を粒状の小型のペレットとすることでガス発生剤の表面積を大きく確保しつつ、作動ガス生成室とフィルタ室とを仕切り部材を用いて仕切ることで内圧の上昇を相当程度に高く維持することが一般化しつつある。
【0010】
また、上記特許文献3には、作動ガス生成室に有底円筒状の区画部材が配置されてなるシリンダ型ガス発生器が開示されている(特に特許文献3の図3参照)。当該作動ガス生成室に区画部材が配置されてなるシリンダ型ガス発生器にあっては、区画部材の中空部を除く部分の作動ガス生成室に粒状のガス発生剤が収容されており、点火器によって点火された粒状のガス発生剤が順次点火器側から燃焼して作動ガスが生成されるとともに、生成された作動ガスが速やかに区画部材に設けられた連通孔を介して区画部材の中空部に流入してフィルタ室へと移動することになる。したがって、当該構成を採用することにより、未燃焼のガス発生剤が作動ガスの流動抵抗になることが未然に防止されるとともに、当該区画部材によってガス発生剤が収容された部分の作動ガス生成室の内圧が相当程度に高く維持されることになり、出力特性に優れたシリンダ型ガス発生器とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2000−510792号公報
【特許文献2】特開2008−114683号公報
【特許文献3】特開2002−166818号公報
【特許文献4】特開2005−313812号公報
【特許文献5】特開2007−314102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上述したシリンダ型ガス発生器においては、作動ガス生成室に収容されたガス発生剤が振動や衝撃等によって破砕されることを防止する必要がある。これは、ガス発生剤が振動や衝撃等によって破砕されることで粉状化した場合には、ガス発生剤の燃焼時においてその燃焼特性(たとえば燃焼速度や燃焼温度等)が本来意図したものとは異なるものとなってしまい、結果として作動ガスの出力特性にばらつきが生じてしまうためである。そのため、シリンダ型ガス発生器においては、振動や衝撃等を吸収する破砕防止部材を作動ガス生成室に配置し、当該破砕防止部材によってガス発生剤が作動ガス生成室を規定する壁面に向けて押圧付勢された状態となるように構成されることが一般的である。
【0013】
上述した破砕防止部材としては、上記特許文献1、2および5に開示される如く、線材を巻き回すことで構成されたコイルスプリングを利用したものと、上記特許文献4に開示される如く、円盤状に形成されたセラミックスファイバの成形体や発泡シリコン等で構成されたクッション材を利用したものとが知られている。なお、上記特許文献3には、破砕防止部材を作動ガス生成室に設けることについて特に記載がない。
【0014】
ここで、粒状の小型のペレットからなるガス発生剤を破砕防止部材にて押圧しようとする場合には、これら粒状の小型のペレットを均一に押圧付勢することができるように破砕防止部材の押圧面が平面状に構成されていることが好ましく、当該観点からは、上記特許文献4に開示される如くの円盤状のクッション材を利用することが好ましいと言える。しかしながら、上記特許文献4に開示の如くの構成を採用した場合には、クッション材が点火器の火炎をガス発生剤に伝達する際の阻害物となるため、ガス発生剤の着火のタイミングが遅延してしまう問題が生じる。また、当該クッション材を組付けるに際しても、クッション材が弾性圧縮されることでガス発生剤が適度に押圧付勢された状態となるように、クッション材を弾性圧縮しつつガス発生剤を作動ガス生成室に所定量だけ充填する作業が必要になり、その作業は相当の困難を伴うものとなってしまう。
【0015】
一方、粒状の小型のペレットからなるガス発生剤をコイルバネからなる破砕防止部材を用いて押圧しようとする場合には、粒状の小型のペレットを均一に押圧付勢するために、上記特許文献2に開示される如くの板状の押圧ディスクをコイルバネとガス発生剤との間に介装するか、あるいは上記特許文献5に開示される如く、コイルバネのガス発生剤側の端部において線材を密に巻き回すことで蓋状部を形成する必要がある。しかしながら、上記特許文献3ないし5に開示される如く、仕切り部材を用いてハウジングの軸方向に沿って作動ガス生成室とフィルタ室とに仕切ってなるシリンダ型ガス発生器においてこのような構成を採用した場合には、これら押圧ディスクやコイルバネの蓋状部がフィルタ室へと流入しようとする作動ガスの流動抵抗となってしまい、所望の作動ガスの出力特性が得られないばかりか、急激に作動ガス生成室の内圧が上昇してしまい、当該内圧上昇に耐え得るようにハウジングの厚みを増加させる必要が生じてしまう問題が生じる。また、上述したクッション材を利用する場合と同様に、コイルバネを組付けるに際しても、コイルバネが弾性圧縮されることでガス発生剤が適度に押圧付勢された状態となるように、コイルバネを弾性圧縮しつつガス発生剤を作動ガス生成室に所定量だけ充填する作業が必要になり、その作業は相当の困難を伴うものとなってしまう。
【0016】
したがって、本発明は、上述の問題点を解決すべくなされたものであり、作業性よく簡便に製造することが可能で、かつ所望の出力特性が得られるとともに粒状のガス発生剤の破砕を効果的に防止することができるガス発生器およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に基づくガス発生器は、ハウジングと、点火手段と、仕切り部材と、区画部材と、破砕防止部材とを備えている。上記ハウジングは、軸方向の両端が閉塞されてなる長尺円筒状の部材からなり、粒状のガス発生剤が燃焼することで作動ガスが生成される作動ガス生成室と、上記作動ガス生成室で生成された作動ガスが通過するフィルタが収容されたフィルタ室とを内部に含んでいる。上記点火手段は、上記粒状のガス発生剤を燃焼させるための火炎を発生させるものであり、上記ハウジングの軸方向の一端部に配置されている。上記仕切り部材は、上記ハウジングの内部に位置しており、上記ハウジングの内部の空間を軸方向に上記作動ガス生成室と上記フィルタ室とに仕切っている。上記区画部材は、上記作動ガス生成室を区画しており、上記破砕防止部材は、上記粒状のガス発生剤の破砕を防止するためのものである。上記フィルタ室は、上記作動ガス生成室よりも上記ハウジングの他端部側に位置しており、上記ハウジングの上記フィルタ室を規定する部分には、上記フィルタを通過した作動ガスを外部に噴出するための複数のガス噴出口が設けられている。上記作動ガス生成室には、密閉された収容空間を有する第1密閉容器が配置されており、上記第1密閉容器の上記収容空間には、上記粒状のガス発生剤と、上記区画部材と、上記破砕防止部材とが配置されている。上記区画部材は、上記ハウジングと同軸上に配置された内部に中空部を有する有底円筒状の部材にて構成されており、上記第1密閉容器の上記仕切り部材側の端部から上記ハウジングの軸方向に沿って延びる円筒状部と、上記円筒状部の上記点火手段側の端部を閉塞する底部とを含んでいる。このうち、上記底部は、上記第1密閉容器の上記点火手段側の端部よりも上記仕切り部材側に位置している。上記粒状のガス発生剤は、上記区画部材の上記中空部を除く部分の上記第1密閉容器の上記収容空間に収容されている。上記円筒状部には、上記粒状のガス発生剤が収容された空間と上記中空部とを連通する複数の第1連通孔が設けられており、上記仕切り部材の中央部には、上記中空部と上記フィルタ室とを連通するための第2連通孔が設けられている。上記破砕防止部材は、軸方向に弾性圧縮が可能なコイルバネにて構成されており、上記区画部材の上記円筒状部の外側に挿入されることで上記第1密閉容器の上記フィルタ室側の端部に位置している。ここで、コイルバネからなる上記破砕防止部材は、上記粒状のガス発生剤を上記点火手段側に向けて付勢している。
【0018】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記破砕防止部材としてのコイルバネが、磁場が印加されることで軸方向に弾性圧縮が可能なものであることが好ましい。
【0019】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記破砕防止部材としてのコイルバネが、円錐コイルバネであることが好ましい。また、その場合には、上記円錐コイルバネが、軸方向に弾性圧縮した場合に当該円錐コイルバネを構成する線材の厚みにまでその弾性圧縮が可能であることが好ましい。
【0020】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記区画部材が、上記円筒状部の上記フィルタ室側の端部から外側に向かって延設されたフランジ部をさらに含んでいることが好ましく、その場合には、上記破砕防止部材としてのコイルバネが、上記フランジ部の上記点火手段側の主面に当接するとともに、上記フランジ部の上記フィルタ室側の主面が、上記第1密閉容器の上記フィルタ室側の端部に当接していることが好ましい。
【0021】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記ハウジングが、上記点火手段が配置された点火室をさらに内部に含んでいてもよく、上記点火手段が、燃焼することによって火炎を生じさせる点火薬を含む点火器と、上記点火器にて生じた火炎を上記粒状のガス発生剤に伝達するための伝火薬とを含んでいてもよい。その場合には、密閉された収容空間を有する第2密閉容器が上記点火室に配置されていることが好ましく、上記第2密閉容器の上記収容空間に上記伝火薬が配置されていることが好ましい。
【0022】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記ハウジングが、上記ハウジングの軸方向の他端部および周壁部を構成する長尺有底円筒状の第1ハウジング部材と、上記第1ハウジング部材の開口端を閉塞することで上記ハウジングの上記一端部を構成する第2ハウジング部材とを含んでいてもよく、その場合には、上記第1ハウジング部材が、圧延鋼板をプレス成形してなるプレス成形品にて構成されていることが好ましい。そのように構成した場合には、上記第1ハウジング部材の外径R1が、15mm≦R1≦20mmの条件を充足し、上記第1連通孔のうちで最も上記底部寄りに設けられた第1連通孔の上記底部側の端部から上記底部までの距離L1が、L1≦5mmの条件を充足し、上記底部から上記作動ガス生成室の上記点火手段側の端部までの距離L2と上記作動ガス生成室の径R2とが、0.026≦L2/R2≦0.71の条件を充足し、かつ、上記中空部の径R3と上記作動ガス生成室の径R2とが、0.28≦R3/R2≦0.54の条件を充足していることが好ましい。
【0023】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記粒状のガス発生剤が、燃料としてのグアニジン系化合物と、酸化剤としての塩基性硝酸銅とを含んでいることが好ましい。
【0024】
本発明に基づくガス発生器の製造方法は、上述したガス発生器を製造するための方法であって、以下の工程を備えている。
(a)上記第1密閉容器の一部となる有底筒状のカップ部の内部に上記区画部材および上記破砕防止部材としてのコイルバネを配置する工程。
(b)上記カップ部の外部から磁場を印加することで上記破砕防止部材としてのコイルバネを弾性圧縮する工程。
(c)上記破砕防止部材としてのコイルバネを弾性圧縮した状態を維持しつつ、上記粒状のガス発生剤を上記カップ部の内部に所定量だけ充填する工程。
(d)上記破砕防止部材としてのコイルバネを弾性圧縮した状態を維持しつつ、上記粒状のガス発生剤が収容された上記カップ部に上記第1密閉容器の一部となるキャップ部を組付けることでこれらカップ部とキャップ部とによって構成される上記収容空間を外部から気密に封止する工程。
(e)上記磁場の印加を解除することにより、上記粒状のガス発生剤に上記破砕防止部材としてのコイルバネによる付勢力を付与する工程。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、所望の出力特性が得られるとともに粒状のガス発生剤の破砕を効果的に防止することができるガス発生器を作業性よく簡便に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器の正面図および側面図である。
【図2】図1に示すシリンダ型ガス発生器の模式断面図である。
【図3】図2に示す第1密閉容器の内部の構造を示す概略斜視図である。
【図4】図2および図3に示す破砕防止部材としてのコイルバネの形状を示す平面図および側面図である。
【図5】本発明の一実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器の製造方法を説明するための模式断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器の製造方法を説明するための模式断面図である。
【図7】第1変形例に係る破砕防止部材としてのコイルバネの形状を示す平面図および側面図である。
【図8】第2変形例に係る破砕防止部材としてのコイルバネを第1密閉容器に収容した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す一実施の形態は、サイドエアバッグ装置等に好適に組み込まれるいわゆるシリンダ型ガス発生器に本発明を適用した場合を例示するものである。
【0028】
図1は、本発明の一実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器の外観構造を示す図であり、図1(A)は正面図、図1(B)は右側面図である。図2は、図1に示すシリンダ型ガス発生器の内部構造を示す図であり、図1(A)および図1(B)に示すII−II線に沿った模式断面図である。図3は、図2に示す第1密閉容器の内部の構造を示す概略斜視図である。また、図4は、図2および図3に示す破砕防止部材としてのコイルバネの形状を示す図であり、図4(A)は平面図、図4(B)は側面図である。以下においては、これら図1ないし図4を参照して、本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器の外観構造および内部構造について説明する。
【0029】
図1(A)、図1(B)および図2に示すように、本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1は、長尺円柱状の外形を有しており、軸方向の両端が閉塞されてなる外殻部材としてのハウジングを有している。外殻部材としてのハウジングは、周壁部11および底壁部12を有する軸方向の片側が閉塞された有底円筒状の第1ハウジング部材10と、第1ハウジング部材10の軸方向と同方向に沿って延びる貫通部23を有する筒状の第2ハウジング部材20とを含んでいる。第2ハウジング部材20は、その外周面の所定位置に後述するかしめ固定のための溝21を有しており、当該溝21は、第2ハウジング部材20の外周面に周方向に沿って延びるように環状に形成されている。
【0030】
第2ハウジング部材20は、第1ハウジング部材10の開口端を閉塞するように第1ハウジング部材10に固定されている。具体的には、第1ハウジング部材10の開口端に第2ハウジング部材20の一部が内挿された状態で、当該第2ハウジング部材20の外周面に設けられた溝21に対応する部分の第1ハウジング部材10の周壁部11を径方向内側に向けて縮径させて当該溝21に係合させることにより、第2ハウジング部材20が第1ハウジング部材10に対してかしめ固定されている。これにより、ハウジングの軸方向の一端部が、第2ハウジング部材20によって構成されることになり、ハウジングの軸方向の他端部が、第1ハウジング部材10の底壁部12によって構成されることになる。
【0031】
当該かしめ固定は、第1ハウジング部材10の周壁部11を径方向内側に向けて均等に縮径される八方かしめと呼ばれるかしめ固定である。この八方かしめを行なうことにより、第1ハウジング部材10の周壁部11には、かしめ部14が設けられることになる。上記八方かしめを利用すれば、かしめ固定する第1ハウジング部材10および第2ハウジング部材20の間に特にシール部材を介装させずとも、ハウジングの内部の気密性を相当程度に確保することができる。
【0032】
第1ハウジング部材10は、ステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の部材にて構成されていてもよいし、SPCEに代表される圧延鋼板をプレス加工することで有底円筒状に成形された金属製のプレス成形品にて構成されていてもよい。特に、第1ハウジング部材10を圧延鋼板のプレス成形品で構成した場合には、ステンレス鋼や鉄鋼等の金属製の部材を用いた場合に比べて安価にかつ容易に第1ハウジング部材10を形成することができるとともに、大幅な軽量化が可能になる。一方、第2ハウジング部材20は、ステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の部材にて構成されている。
【0033】
第1ハウジング部材10および第2ハウジング部材20によって構成されるハウジングの内部の空間には、仕切り部材40が配置されている。この仕切り部材40は、ハウジングの内部の空間を軸方向に作動ガス生成室とフィルタ室とに仕切るものである。作動ガス生成室は、ハウジングの軸方向の略中央部に位置しており、内部に後述する第1密閉容器80が収容されている。フィルタ室は、ハウジングの軸方向の他端部側(すなわち、第1ハウジング部材10の底壁部12側)に位置しており、内部に後述するフィルタ70が収容されている。
【0034】
図2に示すように、ハウジングの軸方向の一端部(すなわち、第2ハウジング部材20寄りの部分)には、点火手段としての点火器(スクイブ)30および伝火薬(エンハンサ)61が配置されている。点火手段としての点火器30および伝火薬61は、後述する粒状のガス発生剤62を燃焼させるための火炎を発生させるためのものであり、このうちの伝火薬61は、第2密閉容器90に収容されている。当該点火器30および第2密閉容器90が収容された部分のハウジングの内部の空間は、点火室に相当する。すなわち、点火室は、ハウジングの軸方向の一端部寄りの部分に位置しており、第1ハウジング部材10の周壁部11と、第2ハウジング部材20と、後述する第1密閉容器80とによって規定されている。
【0035】
点火器30は、第2ハウジング部材20の貫通部23に内挿されてかしめ固定されている。より詳細には、第2ハウジング部材20は、ハウジングの内部の空間に面する側の端部にかしめ部24を有しており、点火器30が貫通部23に内挿されて第2ハウジング部材20に当て留めされた状態で当該かしめ部24をかしめることにより、点火器30が第2ハウジング部材20に挟持されて点火器30が第2ハウジング部材20に固定されている。
【0036】
点火器30は、火炎を発生させるための点火装置であり、基部31と、点火部32と、端子ピン33とを含んでいる。基部31は、一対の端子ピン33を挿通・保持するための部位であり、点火部32に隣接して設けられている。点火部32は、その内部に作動時において着火する点火薬と、この点火薬を燃焼させるための抵抗体とを含んでいる。端子ピン33は、点火薬を着火させるために点火部32に接続されている。
【0037】
より詳細には、点火器30においては、基部31によって保持された一対の端子ピン33が点火部32内に挿入され、その先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられ、この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に接するように点火部32内に点火薬が充填されている。抵抗体としては、一般にニクロム線やプラチナおよびタングステンを含む合金製の抵抗線等が利用され、点火薬としては、一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。また、点火部32を囲うスクイブカップは、一般に金属製またはプラスチック製である。
【0038】
衝突を検知した際には、端子ピン33を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、この熱を受けて点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器30が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には3ミリ秒以下である。
【0039】
上述したように、伝火薬61は、第2密閉容器90に収容されている。第2密閉容器90は、有底筒状のカップ部91と、当該カップ部91の開口を閉塞するキャップ部92とを含んでおり、ハウジングの軸方向の一端部寄りの位置に点火器30に連接するように内挿されている。第2密閉容器90においては、カップ部91とキャップ部92とが組み合わされて接合されており、これにより第2密閉容器90の内部に形成される収容空間93が当該第2密閉容器90の外部から気密に封止されている。カップ部91およびキャップ部92としては、銅やアルミニウム、銅合金、アルミニウム合金等の金属薄板(箔)をプレス加工等することで成形された金属部材や、射出成形やシート成形等を行なうことで形成された樹脂部材等が利用される。また、カップ部91とキャップ部92との接合には、ろう付けや接着、巻き締め等が好適に用いられる。
【0040】
伝火薬61は、点火器30が作動することによって生じた火炎によって点火され、燃焼することによって熱粒子を発生する。伝火薬61としては、後述するガス発生剤62を確実に燃焼開始させることができるものであることが必要であり、一般的には、B/KNO3等に代表される金属粉/酸化剤からなる組成物など、後述するガス発生剤62よりも燃焼速度が速くかつ高発熱性の組成物が用いられる。伝火薬61は、粉状のものや、バインダによって所定の形状に成形されたもの等が利用される。バインダによって成形された伝火薬の形状としては、たとえば顆粒状、円柱状、シート状、球状、単孔円筒状、多孔円筒状、タブレット状など種々の形状がある。
【0041】
なお、第2密閉容器90と第2ハウジング部材20との間でかつ点火器30の点火部32を取り巻く部分の点火室には、クッション材63が配置されている。当該クッション材63は、後述する各種の内部構成部品をハウジングの内部において軸方向に固定するための部材であり、同時に上述した内部構成部品の軸方向長さのばらつきを吸収するための部材でもある。したがって、クッション材63は、上述した第2密閉容器90と第2ハウジング部材20とによってハウジングの軸方向に挟み込まれて固定されている。クッション材63としては、たとえばセラミックスファイバの成形体や発泡シリコン等が利用可能である。
【0042】
図2に示すように、作動ガス生成室は、第1ハウジング部材10の周壁部11、第2密閉容器90および仕切り部材40によって規定され、当該作動ガス生成室には、上述したように第1密閉容器80が配置されている。第1密閉容器80は、有底筒状のカップ部81と、当該カップ部81の開口を閉塞するキャップ部82とを含んでおり、ハウジングの内部の空間に内挿されている。第1密閉容器80においては、カップ部81とキャップ部82とが組み合わされて接合されることにより、第1密閉容器80の内部に形成される収容空間83が当該第1密閉容器80の外部から気密に封止されている。カップ部81およびキャップ部82としては、銅やアルミニウム、銅合金、アルミニウム合金等の金属薄板(箔)をプレス加工等することで成形された金属部材や、射出成形やシート成形等を行なうことで形成された樹脂部材等が利用される。また、カップ部81とキャップ部82との接合には、ろう付けや接着、巻き締め等が好適に用いられる。
【0043】
図2および図3に示すように、第1密閉容器80の収容空間83には、区画部材50と、粒状のガス発生剤62と、破砕防止部材としてのコイルバネ65とが収容されている。なお、図3においては、粒状のガス発生剤62の図示は省略している。
【0044】
区画部材50は、内部に中空部55を有する一端が閉塞された有底円筒状の部材にて構成されており、フランジ部51と、円筒状部52と、底部53とを有している。フランジ部51は、第1密閉容器80の仕切り部材40側の端部に配置されており、フランジ部51の仕切り部材40側の主面は、第1密閉容器80の仕切り部材40側の軸方向端部81aに当接している。円筒状部52は、フランジ部51の内周縁から連続して延び、第1密閉容器80の仕切り部材40側の端部から収容空間83の内部に向けて突出して位置している。底部53は、円筒状部52から連続して延び、円筒状部52の点火器30側の端部を閉塞している。なお、底部53は、第1密閉容器80の点火器30側の端部から所定の距離をもって離間して配置されている。
【0045】
ここで、作動ガス生成室のうち、区画部材50の中空部55を除く部分には、上述した粒状のガス発生剤62および破砕防止部材としてのコイルバネ65が収容されている。より詳細には、破砕防止部材としてのコイルバネ65は、区画部材50の円筒状部52を取り巻く空間のうちの前記仕切り部材40側の端部に収容されており、粒状のガス発生剤62は、区画部材50の円筒状部52を取り巻く空間のうちの上記コイルバネ65が配置された部分を除く空間と、当該空間および区画部材50と第1密閉容器80の点火器30側の軸方向端部との間に位置する空間とにそれぞれ収容されている。
【0046】
粒状のガス発生剤62は、点火器30によって点火された伝火薬61が燃焼することによって生じた熱粒子によって着火され、燃焼することによってガスを発生させるものである。粒状のガス発生剤62の各々は、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成形体として形成される。燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等またはこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジンや硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5−アミノテトラゾール等が好適に利用される。また、酸化剤としては、たとえば塩基性硝酸銅等の塩基性硝酸塩や、過塩素酸アンモニウムや過塩素酸カリウム等の過塩素酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が好適に利用される。また、添加剤としては、バインダやスラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばヒドロキシプロピレンメチルセルロース等のセルロース誘導体や、カルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダや、合成ヒドロキシタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。スラグ形成剤としては窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。また、燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
【0047】
粒状に形成された個々のガス発生剤62の成形体の形状としては、顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状など様々な形状のものが挙げられる。また、成形体内部に孔を有する有孔状(たとえば単孔筒形状や多孔筒形状等)の成形体も利用可能である。これらの形状は、シリンダ型ガス発生器1が組み込まれるエアバッグ装置の仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤62の燃焼時において作動ガスの生成速度が時間的に変化する形状を選択するなど、仕様に応じた最適な形状を選択することが好ましい。また、ガス発生剤62の形状の他にもガス発生剤62の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成形体のサイズや充填量を適宜選択することが好ましい。
【0048】
なお、粒状のガス発生剤62としては、燃料としてグアニジン系化合物を含み、酸化剤として塩基性硝酸銅を含むものを利用することが特に好適である。このグアニジン系化合物と塩基性硝酸銅とを含むガス発生剤を利用することとすれば、アジ化化合物のような毒性の問題が生じることもなく、また燃焼温度がスラグの融点よりも低くなってスラグを固形物として効果的にフィルタにて捕捉することができることになる。
【0049】
コイルバネ65は、上述した粒状のガス発生剤62が振動や衝撃等によって破砕することを防止するための部材であり、たとえばばね鋼に代表される鉄鋼等の磁性材料からなる金属線材を巻き回すことによって軸方向に弾性圧縮可能に形成されている。図3、図4(A)および図4(B)に示すように、コイルバネ65は、側面視した場合に円錐台状の形状を有する円錐コイルバネにて構成されており、区画部材50の円筒状部52の外側に挿入されることで第1密閉容器80の軸方向端部81aに隣接して配置されている。図2に示すように、コイルバネ65の軸方向の一端に位置する大径部65aは、区画部材50のフランジ部51の点火器30側の主面に当接しており、コイルバネ65の軸方向の他端に位置する小径部65bは、粒状のガス発生剤62に当接している。
【0050】
ここで、コイルバネ65は、所定量だけ軸方向に弾性圧縮した状態で第1密閉容器80の収容空間83に収容されており、粒状のガス発生剤62を軸方向に沿って点火器30側に向けて付勢している。これにより、粒状のガス発生剤62は、その全体が第1密閉容器80のキャップ部82に向けて押圧付勢された状態とされている。なお、コイルバネ65の小径部65bは、区画部材50の円筒状部52を取り巻く空間の径方向における略中央部に位置しており、粒状のガス発生剤62は、コイルバネ65によってほぼ均等に点火器30側に向けて付勢された状態に維持されている。
【0051】
図2および図3に示すように、区画部材50の円筒状部52には、第1連通孔54が周方向および軸方向に沿って複数個設けられている。第1連通孔54は、粒状のガス発生剤62が収容された空間と区画部材50の中空部55とを連通させるための孔であり、粒状のガス発生剤62よりも小径の孔にて構成されている。なお、第1連通孔54は、区画部材50の底部53には設けられていない。
【0052】
区画部材50は、作動時において上述した中空部55と粒状のガス発生剤62が収容された空間との間に圧力差を生じさせるための圧力隔壁として機能するものであり、所定の強度をもった部材にて構成されている。具体的には、区画部材50は、たとえばステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の部材にて構成されている。
【0053】
図2に示すように、仕切り部材40は、ハウジングの内部の空間を軸方向に作動ガス生成室とフィルタ室とに仕切っている。仕切り部材40は、ハウジングの内部の空間において上述した第1密閉容器80に接するように配置されており、環状板部41と、筒状突出部42と、第2連通孔43とを有している。環状板部41は、第1密閉容器80に接してハウジングの軸と直交するように配置されている。筒状突出部42は、環状板部41の内周縁から連続して延び、上述した第1密閉容器80から遠ざかる方向に向けて突出して位置している。第2連通孔43は、筒状突出部42によって規定され、区画部材50の中空部55とフィルタ室とを連通するための孔である。
【0054】
仕切り部材40は、ハウジングに対して嵌合または遊嵌されており、ハウジングには、当該仕切り部材40を固定するためのかしめ加工は施されていない。ここで、嵌合とは、いわゆる圧入固定を含むものであり、仕切り部材40の環状板部41の外周端がハウジングの内周面に接触した状態で取付けられた状態を言う。また、遊嵌とは、仕切り部材40の環状板部41の外周端とハウジングの内周面とが全周にわたって必ずしも接触しておらず、多少の隙間(あそび)をもって内挿された状態を言う。
【0055】
仕切り部材40は、後述するフィルタ70の作動ガス生成室側の端部に取付けられており、フィルタ70と上述した粒状のガス発生剤62を収容する第1密閉容器80とによって挟み込まれることでハウジングの内部において支持されている。なお、仕切り部材40は、たとえばステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等の金属製の板状部材をプレス加工等することによって形成される。
【0056】
図2に示すように、第1ハウジング部材10の周壁部11および底壁部12と、仕切り部材40とによって規定されるフィルタ室には、フィルタ70が配置されている。フィルタ70が収容されたフィルタ室は、仕切り部材40を介して作動ガス生成室に隣接して設けられ、作動ガス生成室よりもハウジングの他端部側(すなわち、第1ハウジング部材10の底壁部12側)に位置している。
【0057】
フィルタ70は、ハウジングの軸方向と同方向に沿って延び、その軸方向端面に達する中空連通部71を有する円筒状の部材からなり、その軸方向の作動ガス生成室側の端面が仕切り部材40に当接しており、他方の端面が第1ハウジング部材10の底壁部12に当接している。また、フィルタ70の外周面は、第1ハウジング部材10の周壁部11の内周面に当接している。このような円筒状の部材からなるフィルタ70を利用すれば、作動時においてフィルタ室を流動する作動ガスの流動抵抗が低く抑えられ、効率的な作動ガスの流動が実現可能となる。
【0058】
フィルタ70は、たとえばステンレス鋼や鉄鋼等の金属線材あるいは金属線材を編み込んだ網材を巻き回したものやプレス加工することによって押し固めたもの等が利用される。網材としては、具体的にはメリヤス編みの金網や平織りの金網、クリンプ織りの金属線材の集合体等が利用される。このように金属線材を円筒状に巻き回したり押し固めたりすることで形成されたフィルタ70は、その内部に空隙が含まれることになり、上述した作動ガスの流動を可能にする。フィルタ70は、作動ガス生成室にて生成された作動ガスがこのフィルタ70中を通過する際に、当該作動ガスが有する高温の熱を奪い取ることによってこれを冷却する冷却手段として機能するとともに、作動ガス中に含まれる残渣(スラグ)等を除去する除去手段としても機能する。
【0059】
図2に示すように、フィルタ室を規定する部分の第1ハウジング部材10の周壁部11には、ガス噴出口13が設けられている。このガス噴出口13は、シリンダ型ガス発生器1の内部において生成された作動ガスを外部に放出するための孔であり、第1ハウジング部材10の周壁部11の周方向および軸方向に沿って複数個設けられている。
【0060】
なお、シリンダ型ガス発生器1の第2ハウジング部材20が配置された側の端部には、雌型コネクタ(不図示)が取付けられる。より詳細には、第2ハウジング部材20に設けられた凹部22にシリンダ型ガス発生器1とは別途設けられる衝突検知センサからの信号を伝達するハーネスの雄型コネクタが接続される雌型コネクタが取付けられる。雌型コネクタには、必要に応じてショーティングクリップ(不図示)が取付けられる。このショーティングクリップは、シリンダ型ガス発生器1の搬送時等において静電放電等によってシリンダ型ガス発生器1が誤動作することを防止するために取付けられるものであり、エアバッグ装置への組付け段階においてハーネスの雄型コネクタが雌型コネクタに挿し込まれることによってその端子ピン33への接触が解除されるものである。
【0061】
次に、以上において説明したシリンダ型ガス発生器1の作動時における動作について図2を参照して説明する。本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1が組み込まれたエアバッグ装置が搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて点火器30が作動する。点火器30が作動すると、点火薬の燃焼によって点火部32内の圧力が上昇し、これによって点火部32が破裂し、火炎が点火部32の外部へと流出する。
【0062】
点火部32の破裂後において、点火部32を取り巻く空間の温度と圧力は上昇し、第2密閉容器90が溶融または破裂する。これにより、第2密閉容器90内に収容された伝火薬61は、点火器30が作動することによって生じた火炎によって点火されて燃焼し、多量の熱粒子を発生させる。発生した多量の熱粒子は、第1密閉容器80のキャップ部82を溶融または破裂させて作動ガス生成室へと流入する。
【0063】
作動ガス生成室へと流入した熱粒子は、点火器30が位置する側から順次粒状のガス発生剤62を着火して燃焼させ、多量の作動ガスを生成させる。このようにして生成された作動ガスは、区画部材50に設けられた第1連通孔54を通過して区画部材50の中空部55に流入し、その先に位置する第1密閉容器80のカップ部81の軸方向端部81aを破裂させ、仕切り部材40に設けられた第2連通孔43を経由してフィルタ室へと流入する。
【0064】
フィルタ室に流れ込んだ作動ガスは、フィルタ70の中空連通部71内を経由してフィルタ70へと進入し、当該フィルタ70中を通過することで所定の温度にまで冷却されてガス噴出口13からシリンダ型ガス発生器1の外部へと噴出される。ガス噴出口13から噴出された作動ガスは、エアバッグの内部に導かれてエアバッグを膨張・展開させる。
【0065】
本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1にあっては、粒状のガス発生剤62の燃焼の初期段階においては、区画部材50の底部53と第1密閉容器80の点火器30側の軸方向端部との間に位置する部分のガス発生剤62が第2密閉容器90が位置する側から順次燃焼し、作動ガス生成室の中空部55を除く部分の内圧が急速に上昇してガス発生剤62が燃焼するのに適した相当程度の高い圧力に達し、これによりガス発生剤62の燃焼が促進され、未燃焼のガス発生剤62によって作動ガスの流動が阻害されることなく作動ガスが区画部材50の円筒状部52に設けられた第1連通孔54を経由して中空部55へと流入する。
【0066】
そして、粒状のガス発生剤62の燃焼の初期段階が完了した後は、区画部材50の円筒状部52を取り巻く空間に位置する部分のガス発生剤62が第2密閉容器90が位置する側から順次燃焼し、作動ガス生成室の中空部55を除く部分の内圧を維持しつつ安定的に作動ガスが生成され、未燃焼のガス発生剤62によって、生成された作動ガスの流動が阻害されることなく作動ガスが区画部材50の円筒状部52に設けられた第1連通孔54を経由して中空部55へと流入する。
【0067】
したがって、本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1の如くの構成を採用することにより、区画部材50の機能によって未燃焼のガス発生剤が作動ガスの流動抵抗になることが未然に防止されることになり、出力特性に優れたシリンダ型ガス発生器とできる。
【0068】
ここで、上述した如くの出力特性に優れたシリンダ型ガス発生器にするためには、区画部材50の底部53と第1密閉容器80の点火器30側の軸方向端部との間に位置する部分のガス発生剤62の充填量が所定の量となるように精度よく調整することが極めて重要になる。これは、当該部分におけるガス発生剤62の充填量が不足した場合には、燃焼の初期段階において作動ガス生成室の中空部55を除く部分の内圧上昇が十分ではなくなり、その結果その後のガス発生剤62の燃焼状態に大きな影響が生じ、結果として所望の出力特性が得られなくなってしまうためである。
【0069】
したがって、当該第1密閉容器80の点火器30側の軸方向端部に破砕防止部材を配置することとした場合には、区画部材50の底部53と第1密閉容器80の点火器30側の軸方向端部との間に位置する部分のガス発生剤62の充填量を精度よく調整することが困難になるため、本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1においては、破砕防止部材としてのコイルバネ65を、第1密閉容器80の他方の軸方向端部81a寄りの部分に配置することとしている。そして、当該コイルバネ65によって粒状のガス発生剤62を点火器30側に向けて付勢することにより、区画部材50の底部53と第1密閉容器80の点火器30側の軸方向端部との間に位置する部分のガス発生剤62の充填量が確実に所定の量となるように調整することを可能にしている。
【0070】
また、上記構成を採用することにより、区画部材50の底部53と第1密閉容器80の点火器30側の軸方向端部との間にガス発生剤62の燃焼を阻害するおそれのある破砕防止部材が配置されることもなくなるため、より迅速にガス発生剤62が着火することになり、点火器30の作動後において遅滞なくガス出力が得られるようにもなる。
【0071】
加えて、上記構成を採用することにより、作動ガス生成室のフィルタ室側の端部における空間が区画部材50の円筒状部52によって径方向に区画されることになり、粒状のガス発生剤62が充填される空間が環状の形態を有することとなるため、破砕防止部材として筒状のコイルバネ65を用いることにより、より均一に粒状のガス発生剤62を点火器30側に向けて付勢することも可能になる。したがって、コイルバネ65の点火器30側の端部に蓋状部を設けたり、当該コイルバネ65と粒状のガス発生剤62との間に板状の押圧ディスクを配置したりする必要もなく、装置構成を簡素化することができる。
【0072】
また、以上において説明した本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1においては、粒状のガス発生剤62を押圧付勢することでその破砕を防止する破砕防止部材を磁性材料からなるコイルバネ65にて構成し、これを第1密閉容器80の内部でかつ区画部材50の円筒状部52の外側に挿入することで第1密閉容器80のフィルタ室側の端部に配設することとしている。このような構成を採用することにより、本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1においては、以下に説明する如くの本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器の製造方法を実現可能にしている。
【0073】
図5および図6は、本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器の製造方法を説明するための模式断面図である。次に、これら図5および図6を参照して、本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器の製造方法について説明する。
【0074】
本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1を製造するに際しては、まず図5(A)に示すように、第1密閉容器80の一部となる有底筒状のカップ部81を準備し、当該カップ部81の内部に区画部材50およびコイルバネ65を配置する。より具体的には、カップ部81の開口を介して区画部材50をカップ部81の内部に挿入し、区画部材50のフランジ部51をカップ部81の底壁である軸方向端部81aに当接させる。そして、その後、区画部材50の円筒状部52の外側にコイルバネ65が位置するように、カップ部81の開口を介してコイルバネ65をカップ部81の内部に挿入し、コイルバネ65の大径部65aを区画部材50のフランジ部51に当接させる。ここで、コイルバネ65の大径部65aの外径をカップ部81の内径と同じかもしくは僅かに小さく構成しておくことにより、コイルバネ65をカップ部81の内部において位置決めして組付けることが可能になる。なお、上記に代えて、予め区画部材50にコイルバネ65を外挿し、これをカップ部81の内部に挿入することとしてもよい。
【0075】
次に、図5(B)に示すように、カップ部81の軸方向端部81aにカップ部81の外部から永久磁石100を近づけることにより、カップ部81の内部の空間に向けて磁場を印加する。これにより、カップ部81の内部に収容されたコイルバネ65は、磁化されることで図中矢印A1方向に向けて弾性圧縮し、その軸方向の外形が縮小することになる。
【0076】
次に、図5(C)に示すように、コイルバネ65が弾性圧縮した状態を維持しつつ(すなわち、永久磁石100をカップ部81の軸方向端部81aに近づけた状態を維持しつつ)、粒状のガス発生剤62を所定量だけカップ部81の内部の空間へと充填する。このとき、より好ましくはカップ部81を軽く振動させることにより、粒状のガス発生剤62がカップ部81の内部の空間でかつ区画部材50を取り巻く空間に、より隙間なく密に充填されるようにする。ただし、カップ部81に振動を加える場合には、粒状のガス発生剤62が破砕しない程度に十分に弱い振動とすることが必要である。
【0077】
次に、図6(A)に示すように、コイルバネ65が弾性圧縮した状態を維持しつつ(すなわち、永久磁石100をカップ部81の軸方向端部81aに近づけた状態を維持しつつ)、カップ部81の開口を閉塞するようにキャップ部82を組付け、カップ部81の内部の空間を外部から気密に封止する。このカップ部81に対するキャップ部82の組付けには、上述したように、ろう付けや接着、巻き締め等が好適に用いられる。
【0078】
つづいて、図6(B)に示すように、永久磁石100をカップ部81の軸方向端部81aから遠ざけ、カップ部81の内部の空間に向けて印加していた磁場を取り去ることでコイルバネ65の磁化を解除する。これにより、コイルバネ65が図中矢印A2方向に向けて復元し、その軸方向の外形が拡大することになる。その際、粒状のガス発生剤62は、コイルバネ65の復元力によって第1密閉容器80のキャップ部82側に向けて押し上げられ、全体として当該キャップ部82側に向けて付勢されることになる。
【0079】
以上により、粒状のガス発生剤62が破砕防止部材としてのコイルバネ65によって適度な付勢力をもって押圧付勢された状態を実現しつつ、所望の量の粒状のガス発生剤62を第1密閉容器80の収容空間83に容易に充填することが可能になる。すなわち、コイルバネ65に磁場を印加して圧縮させた状態としつつ粒状のガス発生剤62を充填することにより、作業性よくかつ簡便に作動ガス生成室に収容される第1密閉容器80、区画部材50、粒状のガス発生剤62およびコイルバネ65を含むサブアセンブリを製造することが可能になる。なお、上記においては、磁場を印加する手段として永久磁石100を使用した場合を例示したが、当然にこれに代えて電磁石等を利用することも可能である。
【0080】
その後、図示して説明することは省略するが、フィルタ70、仕切り部材40、第1密閉容器80、第2密閉容器90およびクッション材63を順次この順で第1ハウジング部材10の内部に挿入し、さらに第1ハウジング部材10の開口端を点火器30が組付けられた第2ハウジング部材20によって閉塞し、第1ハウジング部材10を第2ハウジング部材20にかしめ固定することにより、図1および図2に示す如くの本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1の製造が完了することになる。
【0081】
以上において説明したように、本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器およびその製造方法を採用することにより、所望の出力特性が得られるとともに粒状のガス発生剤の破砕を効果的に防止することができるシリンダ型ガス発生器を作業性よく簡便に製造することが可能になる。
【0082】
また、本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1においては、第1密閉容器80および第2密閉容器90にガス発生剤62および伝火薬61をそれぞれ封入した構成であるため、予めこれら薬剤を密閉容器に封入しておくことにより、シリンダ型ガス発生器1の組立作業が容易化するのみならず、ハウジングに別途気密処理を施すことも不要になり、部品点数の削減と構成の簡素化が可能になる。加えて、本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1においては、ガス発生剤62に加え、区画部材50およびコイルバネ65を第1密閉容器80に予め封入した構成であるため、シリンダ型ガス発生器1の組立作業がさらに容易化する効果も得られる。
【0083】
また、本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1においては、上述したようにガス発生剤62や伝火薬61を気密に封止するためのシール処理をハウジングに対して施す必要がなくなるため、その分だけハウジングの外形を小型化(すなわち小径化や短尺化)することができたり、その分だけハウジングの肉厚を増して耐圧性を向上させることができたりすることになり、結果として小型化や高耐圧化に有利な構造のシリンダ型ガス発生器とすることができる。
【0084】
また、本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1とすることにより、作動ガス生成室にて生成された作動ガスがハウジングの軸方向に流動せずにもっぱらハウジングの径方向に流動して第1連通孔54を経由して区画部材50の中空部55に流入し、さらにその後第2連通孔43を経由してフィルタ室に流入することとなるため、燃焼中のガス発生剤や未燃焼のガス発生剤が作動ガスの流動によって破壊されることで生じる固形残渣の発生量が大幅に抑制されることになり、またその固形残渣が作動ガスの流動によってさらに破壊されて微小な残渣となることが抑制されることになり、結果としてフィルタ70に対する負荷が大幅に軽減されることになる。したがって、フィルタ70を小型化することが可能になり、小型かつ軽量のシリンダ型ガス発生器とすることができる。
【0085】
なお、上述した本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1においては、図2を参照して、第1ハウジング部材10の外径をR1とした場合に、当該R1が、15mm≦R1≦20mmの条件を充足していることが好ましい。
【0086】
また、上述した本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1においては、図2を参照して、区画部材50の底部53から第1密閉容器80の点火器30側の端部までの距離(当該距離は、区画部材50が位置していない部分の作動ガス生成室の軸方向長さに相当し、ガス発生剤62が作動ガス生成室の径方向に沿って全体にわたって充填されている部分の軸方向長さである)をL2とし、作動ガス生成室の径(より詳細には作動ガス生成室のうちのガス発生剤62が充填されている部分の径、すなわち第1密閉容器80の内径)をR2とした場合に、これらL2およびR2が、0.026≦L2/R2≦0.71の条件を充足していることが好ましい。
【0087】
また、上述した本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1においては、図2を参照して、区画部材50の中空部55の径、すなわち区画部材50の円筒状部52の内径をR3とした場合に、上述したR2およびR3が、0.28≦R3/R2≦0.54の条件を充足していることが好ましい。
【0088】
加えて、上述した本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1においては、図2を参照して、第1連通孔54のうちで最も底部53寄りに設けられた第1連通孔の底部53側の端部から底部53までの距離をL1とした場合に、当該L1が、L1≦5mmの条件を充足していることが好ましい。
【0089】
これら条件を充足していることにより、圧延鋼板のプレス成形品を用いて第1ハウジング部材10を構成した場合にも、ガス発生剤62の燃焼を促進しつつハウジングの破損を防止することができる。具体的には、上記条件を充足していることにより、上述したガス発生剤62の燃焼の初期段階や当該初期段階の完了後において、作動ガス生成室の内圧を適正に維持することが可能になるとともに、圧延鋼板のプレス成形品からなる第1ハウジング部材10の意図しない変形を抑止することができる。したがって、圧延鋼板のプレス成形品を利用して第1ハウジング部材10を構成した場合にも、上記条件を充足することで所望の出力特性が得られる小型軽量化が図られたシリンダ型ガス発生器とすることができる。
【0090】
ここで、上述したL2およびR2が、L2/R2<0.026となった場合には、作動ガス生成室の最大内圧が35MPa未満となることが実験的に確認されており、その場合には、所望のガス出力が得られずにエアバッグの膨張・展開が不充分となるおそれがある。一方、上述したL2およびR2が、0.71<L2/R2となった場合には、作動ガス生成室の最大内圧が90MPaを超えることが実験的に確認されており、その場合には、圧延鋼板のプレス成形品からなる第1ハウジング部材10に意図しない変形が生じるおそれがある。なお、より確実にかつ安定的な動作を保証するためには、上述したL2およびR2が、0.053≦L2/R2≦0.57の条件を充足していることがさらに好適である。
【0091】
また、上述したR3およびR2が、R3/R2<0.28となった場合には、作動ガス生成室の最大内圧が90MPaを超えることが実験的に確認されており、その場合には、圧延鋼板のプレス成形品からなる第1ハウジング部材10に意図しない変形が生じるおそれがある。一方、上述したR3およびR2が、0.54<R3/R2となった場合には、作動ガス生成室の最大内圧が35MPa未満となることが実験的に確認されており、その場合には、所望のガス出力が得られずにエアバッグの膨張・展開が不充分となるおそれがある。なお、より確実にかつ安定的な動作を保証するためには、上述したR3およびR2が、0.32≦R3/R2≦0.43の条件を充足していることがさらに好適である。
【0092】
上述した本実施の形態におけるシリンダ型ガス発生器1においては、図4に示す如くの形状の円錐コイルバネを破砕防止部材として利用した場合を例示したが、他の形状の円錐コイルバネを利用することも可能である。図7は、第1変形例に係る破砕防止部材としてのコイルバネの形状を示す図であり、図7(A)は平面図、図7(B)は側面図である。また、図8は、第2変形例に係る破砕防止部材としてのコイルバネの形状を示す図であり、当該コイルバネを第1密閉容器に収容した状態の斜視図である。
【0093】
図7(A)および図7(B)に示すように、第1変形例に係る破砕防止部材としてのコイルバネ65Aは、上面視した場合にコイルバネ65Aを構成する線材が互いに重なり合うことがないように形成されている。このように形成されたコイルバネ65Aを用いれば、磁場を印加してコイルバネ65Aを軸方向に弾性圧縮した場合に、当該コイルバネ65Aを構成する線材の厚みにまでその軸方向の大きさを小さくすることができる。したがって、粒状のガス発生剤62を充填する際のカップ部81の内部の空間をより大きく確保することが可能となり、組付け時の作業性がさらに向上することになる。
【0094】
また、図8に示すように、第2変形例に係る破砕防止部材としてのコイルバネ65Bは、上述した図4に示すコイルバネ65と異なり、大径部65aと小径部65bの位置が軸方向に逆転している。すなわち、コイルバネ65Bの小径部65bが区画部材50のフランジ部51に当接しており、コイルバネ65Bの大径部65aが粒状のガス発生剤62(図8において不図示)に当接している。この場合にも、上述した図4に示すコイルバネ65を使用した場合と同様の効果を得ることができる。なお、その場合には、コイルバネ65Bの小径部65bが円筒状部52の根元部分(すなわち、円筒状部52のフランジ部51側の端部)に組付けられることで当該コイルバネ65Bの位置決めが行われるように構成されていることが好ましく、またコイルバネ65Bの大径部65aが区画部材50の円筒状部52を取り巻く空間の径方向における略中央部に位置することとなるように構成されていることが好ましい。
【0095】
また、この他にも、図示して詳細に説明することは省略するが、破砕防止部材としてのコイルバネとしては、円筒状のコイルバネや樽型のコイルバネ、鼓型のコイルバネなど、種々の形状のコイルバネを利用することができる。また、コイルバネとしていわゆる不等ピッチバネを使用すれば、車輌等に生じる周期的な振動にコイルバネが共振することが抑制でき、騒音の発生や粒状のガス発生剤の破砕をより確実に防止することができる。
【0096】
以上において説明した一実施の形態においては、第1ハウジング部材として圧延鋼板をプレス成形してなるプレス成形品にて構成した場合が特に好適であるとの説明を行なったが、これに代えて、第1ハウジング部材を引き抜き成形してなるシームレス管や電縫管の軸方向端部の一方をクロージング処理してなる成形品にて構成してもよい。
【0097】
また、以上において説明した一実施の形態においては、点火器として、抵抗体としてのニクロム線等を熱源として利用するものを例示して説明を行なったが、いわゆる半導体ブリッジ(Semiconductor Bridge)を熱源として利用する点火器を使用することも可能である。当該半導体ブリッジを熱源として利用する点火器を利用した場合には、作動時においてより迅速にガス出力の得られるシリンダ型ガス発生器とすることができる。
【0098】
また、以上において説明した一実施の形態においては、ガス発生剤の燃焼を促進させるために伝火薬が装填されてなるシリンダ型ガス発生器を例示して説明を行なったが、当該伝火薬は必ずしも必須の構成ではなく、燃焼開始のためのガス発生剤の感度を向上させること等によって伝火薬の装填を不要とすることも可能である。また、伝火薬をシリンダ型ガス発生器に装填する構成を採用する場合にも、当該伝火薬を点火器に一体化させて組付けることも可能である。
【0099】
また、以上において説明した一実施の形態においては、第1ハウジング部材と第2ハウジング部材とをかしめ固定することで連結してなるシリンダ型ガス発生器を例示して説明を行なったが、第1ハウジング部材と第2ハウジング部材との固定に溶接を利用することも当然に可能である。
【0100】
また、以上において説明した一実施の形態においては、本発明をサイドエアバッグ装置に組み込まれるシリンダ型ガス発生器に適用した場合を例示して説明を行なったが、本発明の適用対象はこれに限られるものではなく、助手席用エアバッグ装置やカーテンエアバッグ装置、ニーエアバッグ装置等に組み込まれるシリンダ型ガス発生器や、シリンダ型ガス発生器と同様に長尺状のガス出力部を有するいわゆるT字型のガス発生器にもその適用が可能である。
【0101】
このように、今回開示した上記一実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0102】
1 シリンダ型ガス発生器、10 第1ハウジング部材、11 周壁部、12 底壁部、13 ガス噴出口、14 かしめ部、20 第2ハウジング部材、21 溝、22 凹部、23 貫通部、24 かしめ部、30 点火器、31 基部、32 点火部、33 端子ピン、40 仕切り部材、41 環状板部、42 筒状突出部、43 第2連通孔、50 区画部材、51 フランジ部、52 円筒状部、53 底部、54 第1連通孔、55 中空部、61 伝火薬、62 ガス発生剤、63 クッション材、65,65A,65B コイルバネ、65a 大径部、65b 小径部、70 フィルタ、71 中空連通部、80 第1密閉容器、81 カップ部、81a 軸方向端部、82 キャップ部、83 収容空間、90 第2密閉容器、91 カップ部、92 キャップ部、93 収容空間、100 永久磁石。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状のガス発生剤が燃焼することで作動ガスが生成される作動ガス生成室と、前記作動ガス生成室で生成された作動ガスが通過するフィルタが収容されたフィルタ室とを内部に含み、軸方向の両端が閉塞されてなる長尺円筒状のハウジングと、
前記ハウジングの軸方向の一端部に配置され、前記粒状のガス発生剤を燃焼させるための火炎を発生させる点火手段と、
前記ハウジングの内部に位置し、前記ハウジングの内部の空間を軸方向に前記作動ガス生成室と前記フィルタ室とに仕切る仕切り部材と、
前記作動ガス生成室を区画する区画部材と、
前記粒状のガス発生剤の破砕を防止するための破砕防止部材とを備え、
前記フィルタ室は、前記作動ガス生成室よりも前記ハウジングの他端部側に位置し、
前記ハウジングの前記フィルタ室を規定する部分には、前記フィルタを通過した作動ガスを外部に噴出するための複数のガス噴出口が設けられ、
前記作動ガス生成室には、密閉された収容空間を有する第1密閉容器が配置され、
前記第1密閉容器の前記収容空間には、前記粒状のガス発生剤と、前記区画部材と、前記破砕防止部材とが配置され、
前記区画部材は、前記ハウジングと同軸上に配置された内部に中空部を有する有底円筒状の部材にて構成され、前記第1密閉容器の前記仕切り部材側の端部から前記ハウジングの軸方向に沿って延びる円筒状部と、前記円筒状部の前記点火手段側の端部を閉塞する底部とを含み、
前記底部は、前記第1密閉容器の前記点火手段側の端部よりも前記仕切り部材側に位置し、
前記粒状のガス発生剤は、前記区画部材の前記中空部を除く部分の前記第1密閉容器の前記収容空間に収容され、
前記円筒状部には、前記粒状のガス発生剤が収容された空間と前記中空部とを連通する複数の第1連通孔が設けられ、
前記仕切り部材の中央部には、前記中空部と前記フィルタ室とを連通するための第2連通孔が設けられ、
前記破砕防止部材は、軸方向に弾性圧縮が可能なコイルバネにて構成され、前記区画部材の前記円筒状部の外側に挿入されることで前記第1密閉容器の前記フィルタ室側の端部に位置し、前記粒状のガス発生剤を前記点火手段側に向けて付勢している、ガス発生器。
【請求項2】
前記破砕防止部材としてのコイルバネは、磁場が印加されることで軸方向に弾性圧縮が可能なものである、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記破砕防止部材としてのコイルバネは、円錐コイルバネである、請求項1または2に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記円錐コイルバネは、軸方向に弾性圧縮した場合に当該円錐コイルバネを構成する線材の厚みにまでその弾性圧縮が可能である、請求項3に記載のガス発生器。
【請求項5】
前記区画部材は、前記円筒状部の前記フィルタ室側の端部から外側に向かって延設されたフランジ部をさらに含み、
前記破砕防止部材としてのコイルバネが、前記フランジ部の前記点火手段側の主面に当接するとともに、前記フランジ部の前記フィルタ室側の主面が、前記第1密閉容器の前記フィルタ室側の端部に当接している、請求項1から4のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項6】
前記ハウジングは、前記点火手段が配置された点火室をさらに内部に含み、
前記点火手段は、燃焼することによって火炎を生じさせる点火薬を含む点火器と、前記点火器にて生じた火炎を前記粒状のガス発生剤に伝達するための伝火薬とを含み、
前記点火室には、密閉された収容空間を有する第2密閉容器が配置され、
前記第2密閉容器の前記収容空間には、前記伝火薬が配置されている、請求項1から5のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項7】
前記ハウジングは、前記ハウジングの軸方向の他端部および周壁部を構成する長尺有底円筒状の第1ハウジング部材と、前記第1ハウジング部材の開口端を閉塞することで前記ハウジングの前記一端部を構成する第2ハウジング部材とを含み、
前記第1ハウジング部材は、圧延鋼板をプレス成形してなるプレス成形品にて構成され、
前記第1ハウジング部材の外径R1が、15mm≦R1≦20mmの条件を充足し、
前記第1連通孔のうちで最も前記底部寄りに設けられた第1連通孔の前記底部側の端部から前記底部までの距離L1が、L1≦5mmの条件を充足し、
前記底部から前記作動ガス生成室の前記点火手段側の端部までの距離L2と、前記作動ガス生成室の径R2とが、0.026≦L2/R2≦0.71の条件を充足し、
前記中空部の径R3と、前記作動ガス生成室の径R2とが、0.28≦R3/R2≦0.54の条件を充足している、請求項1から6のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項8】
前記粒状のガス発生剤が、燃料としてのグアニジン系化合物と、酸化剤としての塩基性硝酸銅とを含む、請求項1から7のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項9】
請求項2に記載のガス発生器の製造方法であって、
前記第1密閉容器の一部となる有底筒状のカップ部の内部に前記区画部材および前記破砕防止部材としてのコイルバネを配置する工程と、
前記カップ部の外部から磁場を印加することで前記破砕防止部材としてのコイルバネを弾性圧縮する工程と、
前記破砕防止部材としてのコイルバネを弾性圧縮した状態を維持しつつ、前記粒状のガス発生剤を前記カップ部の内部に所定量だけ充填する工程と、
前記破砕防止部材としてのコイルバネを弾性圧縮した状態を維持しつつ、前記粒状のガス発生剤が収容された前記カップ部に前記第1密閉容器の一部となるキャップ部を組付けることでこれらカップ部とキャップ部とによって構成される前記収容空間を外部から気密に封止する工程と、
前記磁場の印加を解除することにより、前記粒状のガス発生剤に前記破砕防止部材としてのコイルバネによる付勢力を付与する工程とを備えた、ガス発生器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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