説明

ガス発生器の製造方法

【課題】固形ガス発生剤の成形と充填をガス発生器の組立と並行させることができ、所望形状及び寸法の固形ガス発生剤の成形及び充填が容易である、ガス発生器の製造方法を提供すること。
【解決手段】ディフューザシェル3を、天板14が下になり、開口部が上になるようにして固定した後、低融点(T1)の熱可塑性樹脂固形ガス発生剤の成形型を入れて固定する工程、成形型内にスラリー状のガス発生剤(熱分解温度T2)を充填した後、融点(T1)よりも低い温度で乾燥する工程(T2>T1)、融点(T1)よりも高く、かつ熱分解温度(T2)よりも低い温度にて、ガス発生剤を熱分解させることなく、成形型を溶融させ、溶融した樹脂を溜めて保持する工程、前記保持された樹脂が固化した後、ディフューザシェルに点火手段が取り付けられたクロージャシェルを組み合わせる工程を具備しているガス発生器の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置など、車輌の人員拘束装置等に使用されるガス発生器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両衝突の際にエアバッグ等を作動させる装置に使用されるガス発生器は、固形ガス発生剤を使用したパイロ式、加圧ガスのみを使用したストアード式、およびその両方を使用したハイブリッド式が知られている。そして軽量化の点ではパイロ式が好ましく、ガス発生剤の形状としては、ディスク型、ペレット型、単孔円柱型、多孔円柱型などさまざまな形状が使用されている。
【0003】
このうち塊状のガス発生剤、即ちワングレイン型のガス発生剤を使用するものとして、特許文献1が知られている。特許文献1では、ハウジング3内に配置されたカップ8に対して、膠質状のガス発生剤組成物(含水物)充填したあと乾燥させ、カップ8内に所望形状のガス発生剤成形体6が充填されたものを得る。形状としては、略円柱状のほかに任意の多角柱状、多角筒状の塊に成形する。
【0004】
しかし、使用するガス発生剤の組成によっては、所望時間に燃焼完了するような燃焼速度を有していないため、ガス発生剤の形状を多孔に形成して、燃焼表面積を増大せる必要があるが、特許文献1ではカップ8に注入してそのような多孔に形成するのは煩雑である。さらにガス発生器の組立とは別工程でガス発生剤の製造を行う必要があり、この点においても改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−196775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、固形ガス発生剤の成形と充填をガス発生器の組立と並行させることができ、所望形状及び寸法の固形ガス発生剤の成形及び充填が容易である、ガス発生器の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、課題の解決手段として、
ガス排出口を有するディフューザシェルとクロージャシェルを組み合わせてなるハウジング内に、点火手段と固形ガス発生剤が収容されたガス発生器の製造方法であって、
(A)樹脂溜まり部を有するディフューザシェルを、天板が下になり、開口部が上になるようにして固定した後、低融点(T1)の非ハロゲン系の熱可塑性樹脂又はワックスからなる、固形ガス発生剤用の成形型を入れて天板上に固定する工程、
(B)前記成形型内にスラリー状のガス発生剤(熱分解温度T2)を充填した後、融点(T1)よりも低い温度でガス発生剤を乾燥する工程(但し、T2>T1である)、
(C)融点(T1)よりも高く、かつ熱分解温度(T2)よりも低い温度にて、前記ガス発生剤を熱分解させることなく、前記成形型を溶融させ、溶融した樹脂を樹脂溜まり部に溜めて保持する工程、
(D)前記ディフューザシェルに点火手段が取り付けられたクロージャシェルを組み合わせる工程、
を具備しているガス発生器の製造方法を提供する。
【0008】
本発明は、課題の他の解決手段として、
ガス排出口を有するディフューザシェルとクロージャシェルを組み合わせてなるハウジング内に、点火手段と固形のガス発生剤が収容されたガス発生器の製造方法であって、
(A)ディフューザシェルを天板が下になり、開口部が上になるようにして固定した後、低融点(T1)の非ハロゲン系の熱可塑性樹脂又はワックスからなる、固形のガス発生剤用の成形型を入れて天板上に固定する工程、
(B)前記成形型内にスラリー状のガス発生剤(熱分解温度T2)を充填した後、融点(T1)よりも低い温度でガス発生剤を乾燥する工程(但し、T2>T1である)、
(C’)前記ディフューザシェルに、点火手段が取り付けられた、樹脂溜まり部を有するクロージャシェルを組み合わせる工程、
(D’)前記クロージャシェルを下にした状態にて、融点(T1)よりも高く、かつ熱分解温度(T2)よりも低い温度にて、前記ガス発生剤を熱分解させることなく、前記成形型を溶融させ、溶融した樹脂を樹脂溜まり部に溜めて保持する工程、
を具備しているガス発生器の製造方法を提供する。
【0009】
本発明は、課題の他の解決手段として、
ガス排出口を有するディフューザシェルとクロージャシェルを組み合わせてなるハウジング内に、点火手段と固形ガス発生剤が収容されたガス発生器の製造方法であって、
(A’)点火手段が取り付けられた、樹脂溜まり部を有するクロージャシェルを、底板が下になり、開口部が上になるようにして固定した後、低融点(T1)の非ハロゲン系の熱可塑性樹脂又はワックスからなる、固形ガス発生剤用の成形型を入れて底板上に固定する工程、
(B)前記成形型内にスラリー状のガス発生剤(熱分解温度T2)を充填した後、融点(T1)よりも低い温度でガス発生剤を乾燥する工程(但し、T2>T1である)、
(C)融点(T1)よりも高く、かつ熱分解温度(T2)よりも低い温度にて、前記ガス発生剤を熱分解させることなく、前記成形型を溶融させ、溶融した樹脂を樹脂溜まり部に溜めて保持する工程、
を具備しているガス発生器の製造方法を提供する。
【0010】
本発明において低融点(T1)は、使用するガス発生剤の熱分解温度(T2)との関係で決まる温度であり、使用するガス発生剤の熱分解温度(T2)よりも充分に低い温度であれば、特定の温度又は温度範囲に限定されるものではない。
【0011】
また本発明においてガス発生剤の熱分解温度(T2)は、ガス発生剤が熱により変質又は分解して、その燃焼性能に影響が出る(ガス発生器用のガス発生剤として正常な燃焼性能が維持できなくなる)温度を意味する。よって、ガス発生剤の熱分解温度(T2)は、ガス発生剤の着火温度よりも低い温度となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガス発生器の製造方法は、ガス発生器の組立の過程において、ハウジング内にて、固形ガス発生剤の所望形状への成形と充填を行うことができる。さらに、別に成形した同じ形状及び寸法の固形ガス発生剤をハウジング内に充填する方法と比べると、組立が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は、ガス発生器の軸方向断面図、(b)は、(a)のガス発生器内の固形ガス発生剤の一部断面図を含む斜視図。
【図2】図1(a)のガス発生器の製造方法を説明するための断面図。
【図3】(a)は、他実施形態のガス発生器の軸方向断面図、(b)は、(a)のガス発生器内の固形ガス発生剤の一部断面図を含む斜視図。
【図4】図3(a)のガス発生器の製造方法を説明するための断面図。
【図5】他実施形態であるガス発生器の製造方法を説明するための断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)図1(a)に示すガス発生器の製造方法
図2により、図1(a)に示すガス発生器1の製造方法を説明する。図1(a)に示すガス発生器1は、本発明の製造方法を適用したことから、従来技術とは、固形ガス発生剤12の成形方法と充填方法が異なっているが、ガス発生器の構造や各部品自体は公知のものと同じである。
【0015】
<(A)工程:図2(a)>
図2(a)に示すように、ディフューザシェル3を、天板14が下になり、開口部が上になるようにして固定する。
【0016】
ディフューザシェル3は、天板14と、その外周部に形成された周壁部16と、周壁部16の先端部に半径方向外側に形成されたフランジ18を有している。周壁部16には、ガス排出口20が周方向に等間隔に複数個形成されている。
【0017】
天板14は、その中央部に突出した突出14aが形成されており、内側には凹部(樹脂溜まり部)36が形成されている。樹脂溜まり部36は、溶融させた樹脂を溜めることができる空間であればよいため、図2(a)に示すような凹部が形成されていなくてもよい。
【0018】
樹脂溜まり部36の内周面には、複数の突起36aが形成されている。突起36aは、後工程において、樹脂溜まり部36に溜まった溶融樹脂が固化したとき、固化した樹脂が脱落することを防止するものであるため、同様の作用をなすものであれば突起36aの形成位置は制限されないし、突起36aに代えて、段差、溝等を形成してもよい。
【0019】
次に、図2(a)に示すように、筒状のフィルタ8を所定位置に置く。ディフューザシェル3には、予めフィルタ8の位置決めができるような段差や凹部を形成していてもよいし、フィルタ8の位置決め用の部材を使用してもよい。なお、軽量化の観点から、燃焼残渣の少ないガス発生剤を使用することでフィルタを使用しないガス発生器の場合には、フィルタに代わる位置決め手段(前記の段差や凹部等)を使用することができる。
【0020】
次に、フィルタ8の内側に、成形型40を配置する。このとき、フィルタ8の内周面と成形型40の外壁42の内周面を当接させる。このようにフィルタ8と組み合わせることで、成形型40の位置決めと固定ができる。フィルタ8を使用しない場合には、フィルタ8と同様の位置決め部材を用いる方法、ディフューザシェル3に予め成形型40の位置決めや固定ができるような段差や凹部を形成する方法を適用できる。
【0021】
成形型40は、閉塞底面41と外壁42を有しており、閉塞底面41から開口部に向かって形成された複数の柱部43を有するものである。
【0022】
柱部43は、閉塞底面41側から他端(先端部)まで均一径のものでもよいし、図2(a)に示すように、先端部44が円錐状に拡大されたものにすることもできる。閉塞底面41からの柱部43の高さは、外壁42を超えない高さである。
【0023】
柱部43の本数(形成密度)、形状、寸法、配置状態は、目的とする固形ガス発生剤12の構造、表面積等を考慮して、決定することができる。
【0024】
閉塞底面41と外壁42の形状は、目的とする固形ガス発生剤12の形状に応じて設定することができる。さらに外壁42は、複数の貫通孔を形成してもよいし、部分的に肉厚を変化させる(部分的に薄肉部を形成する)こともできる。
【0025】
成形型40は、低融点(T1)の非ハロゲン系の熱可塑性樹脂又はワックスからなるものを用いる。
低融点(T1)の非ハロゲン系の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(分岐構造の低密度ポリエチレン:融点107-115℃)、ポリエチレン(線状構造の低密度ポリエチレン:融点122−124℃)、ポリプロピレン(結晶:融点168℃)、アクリル樹脂(無定形:融点85-105℃)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(結晶:融点103-108℃)ポリスチレン(無定形:融点100-105℃)を挙げることができるが、ポリエチレンが好ましい。非ハロゲン系の熱可塑性樹脂であるから、燃焼時に塩素系ガス等を発生するポリ塩化ビニル等は使用しない。なお、以上の融点は、「化学便覧応用化学編 II 材料編 表15.49(平成3年7月10日第4刷発行,発行所 丸善株式会社)」による。
低融点(T1)のワックスとしては、モンタンロウ、カルナウバロウ等を用いることができる。
成形型40は、熱可塑性樹脂を用いた場合には射出成形により、容易に得ることができ、ワックスを用いた場合には、溶融させたワックスを型に流し込んで成形することができる。
【0026】
<(B)工程:図2(b)>
次に、図2(b)に示すように、成形型40内にスラリー状のガス発生剤70(熱分解温度T2)を充填した後、スラリー状のガス発生剤70を乾燥する。
【0027】
充填量は、柱部43の先端部44がスラリー状のガス発生剤と面一になるくらいの量で、外壁42から溢れ出ない程度の量である。成形型40の外壁42に複数の貫通孔を形成した場合には、貫通孔にもスラリー状のガス発生剤が入り込む。
【0028】
スラリー状のガス発生剤は、例えば、50gのイオン交換水に3gのカルボキシルメチルセルロース(ダイセル化学工業製「CMCダイセル#2260」)を添加しながら、液温を40℃に調温した状態で撹拌溶解させ、その後、RDX(日本工機製粉砕品)40g、過塩素酸カリウム(日本カーリット製「KPD2」)57gを投入して、十分撹拌して、均一混合させた後、冷却放置して得ることができる(特開2007−196775号公報)。
【0029】
充填後のガス発生剤の乾燥は、成形型40の融点(T1)よりも低い温度で乾燥する。例えば、成形型40がポリエチレン(分岐構造の低密度ポリエチレン:融点107-115℃)からなるものである場合には、80〜90℃程度の温度雰囲気に放置した状態で送風する方法、常温で放置した状態で、温風吹き付ける方法を適用することができる。
【0030】
スラリー状のガス発生剤の乾燥は、ガス発生器に充填したとき、作動性能を損なわない程度まで乾燥すればよい。
【0031】
<(C)工程:図2(c)>
【0032】
(C)工程では、融点(T1)よりも高く、かつ熱分解温度(T2)よりも低い温度にて、ガス発生剤を熱分解させることなく、成形型40を溶融させる。このとき、熱分解温度(T2)よりも低い温度は、T2×0.8以下の温度であることが好ましい。
なお、汎用されているガス発生剤の熱分解温度(T2)は、130〜250℃程度である。
【0033】
(C)工程にて溶融された成形型40は、滴下して樹脂溜まり部36に溜まり、成形型40が消失した部分が空洞の貫通孔34となる(図1(b)、図2(c)参照)。
【0034】
<(D)工程:図2(d)>
次に、図2(d)に示すように、樹脂溜まり部36に保持された樹脂が固化した後、ディフューザシェル3のフランジ18と、クロージャシェル4のフランジ28を組み合わせ、溶接して一体化する(ハウジング2を形成する)。
【0035】
クロージャシェル4には、点火器10と、予め点火器10と一体化されたリテーナ32が取り付けられており、ディフューザシェル3と一体化したとき、リテーナ32が固形ガス発生剤12の底面12aに当接されるように調整されている。なお、図1(a)の状態において、樹脂溜まり部36にて固化した樹脂は、突起36aにより、脱落が防止されている。
【0036】
以上の(A)〜(D)工程を経て、図1(b)で示す固形ガス発生剤12の成形と充填が行われ、図1(a)に示すガス発生器1が得られる。
なお、(C)工程と(D)工程の順序は逆にしてもよく、その方法では、(B)工程の後で、(D)工程と同様にしてクロージャシェル4を取り付けた後、(C)工程と同様にして、成形型40を溶融させる。
【0037】
図1(a)、(b)に示すとおり、固形ガス発生剤12は、軸方向に複数の貫通孔34を有しており、クロージャシェル4の底板24側には、成形型40の円錐状に拡大された先端部44に由来する拡大部34aが形成されている。この拡大部34aは点火器10と対向しているため、点火器10による着火性が向上される。
【0038】
図1(a)、(b)に示すとおり、固形ガス発生剤12は、底面12aがリテーナ32で支持されており、上面12bが天板14(樹脂溜まり部36を除いた部分)に当接・支持されることで、固定されている。
【0039】
固形ガス発生剤12の周面12cと筒状フィルタ8の内周面8aとの間には、成形型40の外壁42に由来する間隔の狭い筒状間隙50が形成されている。
【0040】
成形型40の外壁42に複数の貫通孔を形成した場合には、固形ガス発生剤の周面12cには、前記貫通孔に由来する複数の突起が形成されており、前記複数の突起が筒状フィルタ8の内周面8aに当接された状態になる。このため、前記突起が、固形ガス発生剤12が半径方向に移動し難くなるように作用する。
【0041】
また、成形型40の外壁42に部分的に厚みの薄い部分(薄肉部分)を形成した場合には、前記薄肉部分において、筒状間隙50の間隔はより短くされることになる。このため、前記間隔の短い箇所が、固形ガス発生剤12が半径方向に移動し難くなるように作用する。
【0042】
固形ガス発生剤12は、図1(b)に示す形状及び構造のほか、成形型40を調整することにより、特開2004−083304号公報の図1(a)〜(f)に示された形状及び構造のものにすることもできる。
【0043】
本発明の製造方法では、ガス発生器1の組立過程において、固形ガス発生剤12の成形と充填を行うことができるものであり、固形ガス発生剤12の形状及び構造の選択の自由度が増すため、形状及び構造によるガス発生器の出力性能の調整が容易になる。
【0044】
(2)図3に示すガス発生器の製造方法
図4により、図3に示すガス発生器100の製造方法を説明する。図4(a)に示すガス発生器100は、本発明の製造方法を適用したことから、従来技術とは、固形ガス発生剤120の成形方法と充填方法が異なっているが、ガス発生器の構造や各部品自体は公知のものと同じである。
【0045】
<(A)工程及び(B)工程>
(A)工程及び(B)工程は、使用する成形型140の形状及び構造が図2の成形型40と異なるほかは、同様である。
【0046】
図3(a)に示すとおり、ガス発生器100は、ハウジング2の中心部に内筒60が配置された構造のものであり、内部には点火器10が固定され、伝火薬11が収容されている。内筒60の周壁部には貫通孔(伝火孔)61が形成されている。貫通孔(伝火孔)61の大きさは、固形ガス発生剤120の形状に対応させて、やや大きめに形成されている。
【0047】
図4に示す成形型140は、ガス発生器100が内筒60を有するものであるため、中心部に貫通孔を有する、平面形状がドーナツ状のものを用いる。
【0048】
成形型140は、閉塞傾斜面141と外壁142を有しており、閉塞傾斜面141から開口部に向かって形成された複数の柱部143を有するものである。閉塞傾斜面141は、外壁142から中心方向に上昇する傾斜面となっている。
【0049】
柱部143は、閉塞傾斜面141側から他端(先端部)まで均一径のものでもよいし、図2(a)に示すように先端部が円錐状に拡大されたものでもよい。閉塞傾斜面141からの柱部143の高さは、外壁142を超えない高さである。
【0050】
柱部143の本数(形成密度)、形状、寸法、配置状態は、目的とする固形ガス発生剤120の構造、表面積等を考慮して、決定することができる。
【0051】
閉塞傾斜面141と外壁142の形状は、目的とする固形ガス発生剤120の形状に応じて設定することができる。さらに外壁142は、複数の貫通孔を形成してもよいし、部分的に肉厚を変化させる(部分的に薄肉部を形成する)こともできる。
【0052】
<(C’)工程>
次に、図2(b)と同様の状態にて、図2(d)のようにして、ディフューザシェル3のフランジ18と、クロージャシェル4のフランジ28を組み合わせ、溶接して一体化する。このとき成形型140は、そのまま残った状態である。
【0053】
<(D’)工程>
次に、図3(a)に示すように、クロージャシェル4を下にした状態にて、図2(c)で示す(C)工程と同様にして、成形型140を溶融させ、クロージャシェル4の底板24側に滴下させる。
【0054】
溶融された成形型140は、ハウジング2の中央部に固定された内筒60と筒状フィルタ8との間のクロージャシェル4の底板24に溜まる。この実施形態では、前記の底板24が樹脂溜まり部となる。成形型140が消失した部分が空洞の貫通孔134となる(図3(a)、(b))。
【0055】
リテーナ32は、中心部に穴を有するもので、その中心穴において内筒60に嵌め込まれている。その一端部32aは、底板24に当接されており、樹脂溜まり部136に位置している。このため、一端部32aは、固化した樹脂内部に埋設された状態になっている。さらにリテーナ32は、固形ガス発生剤120の底面120aを支持できるのであれば、一端部32a以外の部分も固化した樹脂内部に埋設された状態になっていてもよい。
【0056】
図3(a)、(b)に示すとおり、固形ガス発生剤120は、底面120aがリテーナ32で支持されており、上面120bが天板14に当接・支持されることで、固定されている。
【0057】
固形ガス発生剤120は、成形型140の形状に由来して、中心部に貫通孔135を有しており、上面120bは、周縁部から貫通孔135に向かって下りの傾斜面となっている。図3(a)に示すとおり、貫通孔135内に内筒60が位置している。
【0058】
固形ガス発生剤120の周面120cと筒状フィルタ8の内周面8aとの間には、成形型140の外壁142に由来する間隔の狭い筒状間隙50が形成されている。
【0059】
成形型140の外壁142に複数の貫通孔を形成した場合には、固形ガス発生剤の周面120cには、前記貫通孔に由来する複数の突起が形成されており、前記複数の突起が筒状フィルタ8の内周面8aに当接された状態になる。このため、前記突起が、固形ガス発生剤120が半径方向に移動し難くなるように作用する。
【0060】
また、成形型140の外壁142に部分的に厚みの薄い部分(薄肉部分)を形成した場合には、前記薄肉部分において、筒状間隙50の間隔はより短くされることになる。このため、前記間隔の短い箇所が、固形ガス発生剤12が半径方向に移動し難くなるように作用する。
【0061】
本発明の製造方法では、ガス発生器100の組立過程において、固形ガス発生剤120の成形と充填を行うことができるものであり、固形ガス発生剤120の形状及び構造の選択の自由度が増すため、形状及び構造によるガス発生器の出力性能の調整が容易になる。
【0062】
(3)図5に示すガス発生器の製造方法
図5(a)〜(c)により、ガス発生器200の製造方法を説明する。図5(a)〜(c)に示すガス発生器200は、本発明の製造方法を適用したことから、従来技術とは、固形ガス発生剤220の成形方法と充填方法が異なっているが、ガス発生器の構造や各部品自体は公知のものと同じである。
【0063】
<(A’)工程>
図5(a)に示すように、クロージャシェル4を、底板24が下になり、開口部が上になるようにして固定する。底板24には、環状の凹部からなる樹脂溜まり部236が形成されている。
【0064】
その後、筒状のフィルタ8を所定位置に置き、フィルタ8の内側に、成形型40を配置する。このとき、フィルタ8の内周面と成形型40の外壁42の内周面を当接させる。
【0065】
<(B)工程>
次に、図5(b)に示すように、成形型40内にスラリー状のガス発生剤70(熱分解温度T2)を充填した後、スラリー状のガス発生剤70を乾燥する。充填量は、柱部43の先端部がスラリー状のガス発生剤70と面一になるくらいの量で、外壁42から溢れ出ない程度の量である。
【0066】
その後、クロージャシェル4のフランジ28とディフューザシェル3のフランジ18を組み合わせ、溶接して一体化する(ハウジング2を形成する)。
【0067】
<(C)工程>
次に、図5(c)に示すように、成形型40を溶融させる。溶融した成形型40は滴下して樹脂溜まり部236に溜まり、成形型40が消失した部分が空洞の貫通孔34となる。
【0068】
本発明による製造方法は、エアバッグ用ガス発生器だけでなく、シートベルとリトラクタ用のガス発生器にも使用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 ガス発生器
2 ハウジング
3 ディフューザシェル
4 クロージャシェル
8 筒状フィルタ
10 点火器
12 固形ガス発生剤
34 貫通孔
36 樹脂溜まり部
40 成形型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス排出口を有するディフューザシェルとクロージャシェルを組み合わせてなるハウジング内に、点火手段と固形ガス発生剤が収容されたガス発生器の製造方法であって、
(A)樹脂溜まり部を有するディフューザシェルを、天板が下になり、開口部が上になるようにして固定した後、低融点(T1)の非ハロゲン系の熱可塑性樹脂又はワックスからなる、固形ガス発生剤用の成形型を入れて天板上に固定する工程、
(B)前記成形型内にスラリー状のガス発生剤(熱分解温度T2)を充填した後、融点(T1)よりも低い温度でガス発生剤を乾燥する工程(但し、T2>T1である)、
(C)融点(T1)よりも高く、かつ熱分解温度(T2)よりも低い温度にて、前記ガス発生剤を熱分解させることなく、前記成形型を溶融させ、溶融した樹脂を樹脂溜まり部に溜めて保持する工程、
(D)前記ディフューザシェルに点火手段が取り付けられたクロージャシェルを組み合わせる工程、
を具備しているガス発生器の製造方法。
【請求項2】
ガス排出口を有するディフューザシェルとクロージャシェルを組み合わせてなるハウジング内に、点火手段と固形のガス発生剤が収容されたガス発生器の製造方法であって、
(A)ディフューザシェルを天板が下になり、開口部が上になるようにして固定した後、低融点(T1)の非ハロゲン系の熱可塑性樹脂又はワックスからなる、固形のガス発生剤用の成形型を入れて天板上に固定する工程、
(B)前記成形型内にスラリー状のガス発生剤(熱分解温度T2)を充填した後、融点(T1)よりも低い温度でガス発生剤を乾燥する工程(但し、T2>T1である)、
(C’)前記ディフューザシェルに、点火手段が取り付けられた、樹脂溜まり部を有するクロージャシェルを組み合わせる工程、
(D’)前記クロージャシェルを下にした状態にて、融点(T1)よりも高く、かつ熱分解温度(T2)よりも低い温度にて、前記ガス発生剤を熱分解させることなく、前記成形型を溶融させ、溶融した樹脂を樹脂溜まり部に溜めて保持する工程、
を具備しているガス発生器の製造方法。
【請求項3】
ガス排出口を有するディフューザシェルとクロージャシェルを組み合わせてなるハウジング内に、点火手段と固形ガス発生剤が収容されたガス発生器の製造方法であって、
(A’)点火手段が取り付けられた、樹脂溜まり部を有するクロージャシェルを、底板が下になり、開口部が上になるようにして固定した後、低融点(T1)の非ハロゲン系の熱可塑性樹脂又はワックスからなる、固形ガス発生剤用の成形型を入れて底板上に固定する工程、
(B)前記成形型内にスラリー状のガス発生剤(熱分解温度T2)を充填した後、融点(T1)よりも低い温度でガス発生剤を乾燥する工程(但し、T2>T1である)、
(C)融点(T1)よりも高く、かつ熱分解温度(T2)よりも低い温度にて、前記ガス発生剤を熱分解させることなく、前記成形型を溶融させ、溶融した樹脂を樹脂溜まり部に溜めて保持する工程、
を具備しているガス発生器の製造方法。
【請求項4】
前記固形のガス発生剤の成形型が、一端側が閉塞底面であり、他端側が開口された筒状の型であり、閉塞底面から開口部に向かって形成された複数の柱部を有するものである、請求項1〜3のいずれか1項記載のガス発生器の製造方法。
【請求項5】
前記固形のガス発生剤の成形型が、一端側が閉塞底面であり、他端側が開口された筒状の型であり、閉塞底面から開口部に向かって形成された複数の柱部を有するものであり、
前記柱部が、開口部側の先端部及びその近傍の外径が円錐状に拡大されたものである、請求項1〜3のいずれか1項記載のガス発生器の製造方法。
【請求項6】
ディフューザシェルの天板に形成された凹部又はクロージャシェルの底板に形成された凹部が樹脂溜まり部となる、請求項1〜3のいずれか1項記載のガス発生器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−225096(P2011−225096A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96740(P2010−96740)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】