説明

ガス発生器及びそれを用いた人員拘束装置

【課題】 作動時の環境温度に拘わらず作動出力差の小さいガス発生器の提供。
【解決手段】 ハウジング13には、最大径ガス排出口群21と最小径ガス排出口群22が形成され、最小径ガス排出口群22は外側から冷却用フィルタ31で覆われている。常温環境時は最大径ガス排出口群21のみが開口し、高温環境時は最小径ガス排出口群22も開口し、排出するガスはフィルタ31で冷却される。このような動作により、環境温度に拘わらず、ガス発生器の出力が安定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生器及びそれを用いた人員拘束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたガス発生器が作動するときに、その環境温度によって出力が変化することは知られており(例えば、気温が高いときはガス発生器の出力がやや高めになり、気温が低いときはガス発生器の出力が低めになる)、それを抑制するため、ガス発生器ハウジング内部の燃焼内圧をコントロールする方法が採用られている。
【0003】
特許文献1には、ハウジングに2つの異なる径を有するガス排出口126a、126bを形成し、シールテープ27で閉塞されたガス発生器が開示されている。開口面積の大きい126aを覆うシールテープのほうが低い圧力で破れ、明細書中には、「〔0034〕またハウジング内に設けられる燃焼室が1つの場合であっても、ガス発生器の作動時に於ける外部環境温度がより低温の場合には開口面積の大きいガス排出口のみが開口し、当該外部環境温度が常温又は高温の場合には開口面積の大きいガス排出口の他、開口面積の小さいガス排出口も開口するようにすることで、より一定した燃焼内圧を得ることができる。」と記載されており、高温時などの燃焼の際にハウジング内部の圧力が上がることで、ガス発生剤の燃焼速度が増加し、常温燃焼時あるいは低温燃焼時よりも出力が増加することを抑制している。
【0004】
しかしながら、排出される燃焼ガスの温度は、常温および低温のときに比べると高くなっているため、出力差を抑制するという観点からは改善の余地がある。
【0005】
特許文献2には、ガス排出口の周囲を覆うフィルタの量を無段階に変更することで、出力を変化させる機構が開示されている。例えば、乗員の着座状態、乗員の体重などを検出するセンサからの信号でガス排出口を塞ぐフィルタの量を変更させて、排出されるガスの温度を調整することで、出力をコントロールするものである。
【0006】
ただし、上記の発明では、それ単体では機能せず、必ずセンサー(乗員着座状態や体重などを検知する)やそれを司るコントロールシステムと組み合わせる必要があり、装置全体をより簡略化する観点から改善の余地がある。
【特許文献1】特開2003−34219号公報
【特許文献2】特開2004−82995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、作動時の環境温度の違いによる出力の差を低減させることのできるガス発生器と、それを用いた人員拘束装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔請求項1〕
本発明は、課題の解決手段として、
内側から閉塞部材で閉塞されたガス排出口を有するハウジングと、前記ハウジング内に収容された点火手段と、前記点火手段の作動により着火燃焼して作動ガスを生じさせるガス発生剤を有するガス発生器であり、
前記ガス排出口が複数のガス排出口群又は複数のガス排出口からなり、前記複数のガス排出口群又は複数のガス排出口ごとに異なる圧力で開口するものであり、
前記複数のガス排出口群又は複数のガス排出口の内、少なくとも最も大きな圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口が外側から冷却部材で覆われている、ガス発生器を提供する。
【0009】
ガス発生器は、車両のエアバッグ装置等の人員拘束装置に搭載されるものである。また、作動時の環境温度は、締め切った低緯度地域の夏季の車内と高緯度地域の厳冬期では大きな違いが生じる。そして、作動時の環境温度によって、ガス発生器作動時の燃焼室内の圧力(内圧)が変化すると、ガス発生器の出力のばらつきとなるため、環境温度差により生じる内圧差を抑える検討がなされている。しかし、ガス温度自体が環境温度によって変化するため、作動時の内圧差を抑制するだけでは、ガス発生器の出力のばらつきを小さくすることは難しい。
【0010】
よって、本発明では、環境温度差が発生したときの内圧差だけでなく、発生ガスの温度差も小さくすることで課題を解決するものである。
【0011】
本発明のガス発生器は、ハウジングに形成された多数のガス排出口が複数のガス排出口群又は複数のガス排出口からなっており、ハウジング内部の圧力(内圧)の上昇に応じて、ガス排出口群又はガス排出口ごとに多段に開口する(即ち、ガス排出口を内側から閉塞する閉塞部材が開裂して開口する)ものであり、内圧の状態によっては、開口しないガス排出口が存在する形態も含むものである。
【0012】
複数のガス排出口群とは、複数のガス排出口がひとかたまりに配置された1つの群が複数存在していることを意味し、複数のガス排出口とは、複数のガス排出口が1つずつ分離配置されていることを意味する。
【0013】
ガス排出口群又はガス排出口ごとに多段に開口させるための手段は特に制限されず、ガス排出口の径を変える方法、閉塞部材の強度を変える方法等を適用することができる。
【0014】
ハウジング内部で発生した燃焼ガスが、ガス排出口を通過して外部(エアバッグ等)に排出されるとき、高温環境では内圧が高くなるため、低い圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口だけでなく、高い圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口も開口し、一方、低温環境では内圧が低くなるため、開口しないガス排出口群又はガス排出口も存在することになる。
【0015】
よって、高温燃焼時には、ガス排出口の総開口面積が大きくなって内圧の上昇が抑制され、低温燃焼時には、ガス排出口の総開口面積が小さくなって内圧が上昇されることで、出力差が抑制される。
【0016】
そして本発明では、複数のガス排出口群又は複数のガス排出口の内、少なくとも最も大きな圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口が外側から冷却部材で覆われている。
【0017】
上記のとおり、作動時が高温環境では内圧が高くなるため、高い圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口も開口するが、そのとき高い圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口を通過した燃焼ガスを冷却部材で冷却することで、高温環境で作動したときに排出されるガスの温度を低温或いは常温環境時に作動したときの排出ガス温度により近づけることができ、作動環境によるガス発生器の出力差をより小さくすることができる。
【0018】
冷却部材は、燃焼ガスと接触して温度を低下できるものであればよく、例えば、燃焼ガスを通過させることで冷却するもの、燃焼ガスを衝突させることで冷却するものを挙げることができ、公知のエアバッグ用ガス発生器で使用されているクーラントフィルタ、熱伝導度の高い金属板等を使用することができる。
【0019】
本発明のガス発生器は、固形ガス発生剤を燃焼させてガスを発生させるパイロ式ガス発生器や、加圧ガスを併用するハイブリッド式ガス発生器に適用とすることができる。また、ガス発生器が1つの点火器を備えたもの(シングル)であっても、複数の点火器を備えたもの(デュアルなど)であってもよい。ガス発生器の用途は、車両の運転席や助手席のエアバッグを膨張させるガス発生器のほか、歩行者保護用のための拘束装置に使用されるガス発生器でもよい。
【0020】
〔請求項2〕
本発明は、課題の他の解決手段として、前記複数のガス排出口群又は複数のガス排出口の内、最も大きな圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口が外側から冷却部材で覆われており、最も小さな圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口が外側から冷却部材で覆われていない、請求項1記載のガス発生器を提供する。
【0021】
このようにすることで、作動環境によるガス発生器の出力差が抑制される。なお、外側から冷却部材で覆われていないガス排出口群又はガス排出口がある場合、ハウジングの内側に公知のクーラントフィルタを配置することが望ましい。
【0022】
〔請求項3〕
本発明は、課題の他の解決手段として、前記複数のガス排出口群又は複数のガス排出口の全てが外側から冷却部材で覆われており、最も大きな圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口を覆う冷却部材の冷却効果が最大であり、最も小さな圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口を覆う冷却部材の冷却効果が最小である、請求項1記載のガス発生器
を提供する。
【0023】
このようにすることで、作動環境によるガス発生器の出力差が抑制される。この発明の場合は、ハウジングの内側に配置するクーラントフィルタは不要にしてもよい。
【0024】
冷却部材の冷却効果の調整は、冷却部材の嵩密度や面積、体積、圧力損失等を増減させて、ガスとの接触面積を増減させる方法を適用することができる。
【0025】
〔請求項4〕
本発明は、課題の他の解決手段として、
前記ガス排出口群又はガス排出口が、ガス排出口群又はガス排出口ごとに径が異なり、前記径の異なるガス排出口群又はガス排出口ごとに異なる領域に分離配置されており、
前記ガス排出口群又はガス排出口の全てが同一の閉塞部材で内側から閉塞されており、
前記ガス排出口群又はガス排出口の内、径が最大のガス排出口群又はガス排出口の開口圧力が最小で、径が最小のガス排出口群又はガス排出口の開口圧力が最大である、請求項1〜3のいずれかに記載のガス発生器を提供する。
【0026】
この発明では、ガス排出口群又はガス排出口ごとに多段に開口させるための手段として、ガス排出口の径を変える方法を適用している。
【0027】
複数のガス排出口群は、例えば、最小径の最小ガス排出口群、中間径の中間ガス排出口群、最大径の最大ガス排出口群に分けることができ、各群ごとにまとまって異なる領域に分離配置されている。複数のガス排出口群は、ハウジングの周面に均等間隔で配置されていることが好ましい。
【0028】
領域の形成状態は特に制限されるものはないが、例えば、最小ガス排出口群、中間ガス排出口群、最大ガス排出口群のそれぞれが、別々の正方形(又は長方形、円形等でもよい)の領域内に位置するようにすることができる。
【0029】
複数のガス排出口は、例えば、最小径のガス排出口、中間径の中間ガス排出口、最大径の最大ガス排出口に分けることができ、それぞれが分離配置されている。複数のガス排出口は、ハウジングの周面に均等間隔で配置されていることが好ましい。
【0030】
〔請求項5〕
本発明は、課題の他の解決手段として、
前記ガス排出口群又はガス排出口が、全て同一径のガス排出口からなり、複数の異なる領域に分離配置されており、
前記ガス排出口群又はガス排出口ごとに異なる強度を有する閉塞部材で閉塞されており、
前記ガス排出口群又はガス排出口の内、強度が最小の閉塞部材で閉塞されたガス排出口群又はガス排出口の開口圧力が最小で、強度が最大の閉塞部材で閉塞されたガス排出口群又はガス排出口の開口圧力が最大である、請求項1〜3のいずれかに記載のガス発生器を提供する。
【0031】
この発明では、ガス排出口群又はガス排出口ごとに多段に開口させるための手段として、ガス排出口を閉塞する閉塞部材の強度を変える方法を適用している。閉塞部材の強度は、部材の厚みを変える方法、材質を変える方法、傷等を付けて脆弱部を形成する方法等を適用することができる。
【0032】
領域の形成状態は特に制限されるものはないが、例えば、同一径の複数のガス排出口群のそれぞれが、別々の正方形(又は長方形、円形等でもよい)の領域内に位置するようにすることができる。
【0033】
〔請求項6〕
本発明は、課題の他の解決手段として、前記ガス排出口群又はガス排出口と前記冷却部材との間に間隔が設けられている、請求項1〜5のいずれかに記載のガス発生器を提供する。
【0034】
このようにすることで、冷却部材全体にガスを通過させることができるため、冷却効率が向上され、冷却部材の損傷も防止される。
【0035】
〔請求項7〕
本発明は、課題の他の解決手段として、前記冷却部材が金属板である、請求項6記載のガス発生器を提供する。
【0036】
ガス排出口群と冷却部材との間に間隔を設けた場合、アルミニウム、鉄等からなる金属板を用いることができ、軽量化、コストの抑制、組立作業性の点で有利である。
【0037】
〔請求項8〕
本発明は、課題の他の解決手段として、前記冷却部材が、前記ガス排出口群又はガス排出口に対向する面に凹凸を有する金属板である、請求項6記載のガス発生器を提供する。
【0038】
例えば、金属板の表面に波形状の凹凸を設けることで、金属板とガスとの接触面積が向上されるため、冷却効果が高められる。
【0039】
〔請求項9〕
本発明は、他の課題の解決手段として、請求項1〜8記載のガス発生器がモジュールケース内に収容された人員拘束装置であり、前記モジュールケースに冷却部材が取り付けられている、人員拘束装置を提供する。
【0040】
モジュールケースに冷却部材を取り付ける方が、ガス発生器に冷却部材を取り付ける場合に比べて作業が容易であり、ガス発生器のモジュールケースへの取付作業も容易になる。
【0041】
〔請求項10〕
本発明は、他の課題の解決手段として、前記モジュールケースに対してガス発生器を固定する取付手段に冷却部材が取り付けられている、請求項9記載の人員拘束装置を提供する。
【0042】
元々ある取付手段に冷却部材を取り付けるものであるため、全体の構造がより簡単になり、小型軽量化の観点からも有利である。
【発明の効果】
【0043】
本発明のガス発生器を車両のエアバッグ装置に使用したとき、車両の使用環境による環境温度が変わったときでも、作動時におけるガス発生器の内圧のばらつきが抑制され、更に発生ガスの温度差も小さくすることで、ガス発生器の出力のばらつきが小さくなり、より安定化される。このため、環境温度変化により、エアバッグ装置による乗員拘束性能の差をより小さくできるとともに、ガス発生器からガスが排出される時のエアバッグに対する負荷を低減でき、バッグに要求される強度も低減できるようになり、コストダウンにつながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
(1)図1、2のガス発生器
図1は、本発明のガス発生器の外観を示す斜視図であり、図2は、図1の縦断面図である。なお、図2では、複数のガス排出口からなるガス排出口群は、簡略化して全体を1つの開口として表示している。図1、2のガス発生器は、助手席用のガス発生器として適している。
【0045】
ガス発生器10は、ディフューザシェル11とクロージャシェル12とが接合一体化されたハウジング13により、外殻が形成されている。
【0046】
ディフューザシェル11の周面には、最も径の大きな複数(図1では9個)のガス排出口21aからなる最大径ガス排出口群21と、最も径の小さな複数(図1では12個)のガス排出口22aからなる最小径ガス排出口群22とを有している。最大径ガス排出口群21と最小径ガス排出口群22は、いずれも内側からアルミニウム製の厚さ約50μmのシールテープ23、24(図2参照)で閉塞されている。シールテープ23、24は、別々のものでもよいし、一体になった1つのものでもよい。
【0047】
なお、図示していないが、最大径ガス排出口群21と最小径ガス排出口群22は、それぞれ更に1つ又は2つずつが形成されていてもよい。最大径ガス排出口群21を2つ形成する場合には、それらが互いに反対側に位置するように形成し、3つ形成する場合には、それらが均等間隔になるように形成する。最小径ガス排出口群22を2つ又は3つ形成する場合も同様である。
【0048】
最大径ガス排出口群21は、作動時において、最小径ガス排出口群22よりも小さな圧力で開口するものであり、最小径ガス排出口群22は、最大径ガス排出口群21よりも大きな圧力で開口するものである。
【0049】
最大径ガス排出口群21と最小径ガス排出口群22は、いずれも長方形で囲まれた領域内に複数のガス排出口21a、22aが配置されており、それぞれの領域は分離されている。
【0050】
最小径ガス排出口群22には、全てのガス排出口22aが完全に覆われるようにして、外側から冷却用フィルタ31が被せられている。最大径ガス排出口群21は、外側から冷却用フィルタで覆われていない。なお、図1では、最小径ガス排出口群22の位置を確認するため、実際には冷却用フィルタ31により見えない最小径ガス排出口群22を見える状態で図示している。
【0051】
冷却用フィルタ31は、ステンレス鋼製金網を波型に変形させ、型に押し込んで圧縮成型したものを用いている。線材の線径は0.3〜0.5mmであり、嵩密度は3〜5g/cmである。冷却用フィルタ31は、ディフューザシェル11の外表面に対して溶接固定されている。
【0052】
上記した冷却用フィルタ31に代えて、熱伝導率の高い金属板(例えば、アルミニウム板)を冷却用部材として用いることもできる。この場合には、金属板からなる冷却用部材とガス排出口群との間には、燃焼ガスが移動できる程度の間隔が設けられている。更に、金属板の表面(ガス排出口群に対向する表面)には、燃焼ガスとの接触面積が増大できるように、波形のような凹凸を設けることもできる。
【0053】
ガス発生器10の内部構造は公知のものであり、図2に示すもののほか、特開2001−97175号公報の図15、図19、特開2001−225711号公報の図32のような構造を有するものでもよい。
【0054】
図2に示すように、ハウジング13内には、内筒部材40が配置されており、内筒部材40の内側は点火手段収容室41となり、外側は燃焼室50となっている。
【0055】
点火手段収容室41内には、作動信号を受領して作動する電気式点火器42と、点火器42の作動によって着火・燃焼する伝火薬43が配置されている。燃焼室50内には、ガス発生剤51が充填されている。内筒部材40の周面には、複数の伝火孔44が形成されている。伝火孔44は、外側からシールテープ45で閉塞されている。
【0056】
燃焼室50の半径方向外側には、ガス発生剤51の燃焼によって生じた燃焼ガスを冷却及び浄化するクーラント・フィルター52が配置されている。クーラント・フィルター52の外周面には多孔円筒状の外層53が嵌めこまれいる。
【0057】
次に、図1、図2で示すガス発生器を車両のエアバッグ装置に組み込んだときの動作を説明する。
【0058】
車両が衝突したとき、衝撃センサやコントロールユニットからの指令を受け、点火器42が作動して、伝火薬43が着火する。その火炎、高温ガスによって、燃焼室50内のガス発生剤51が燃焼を開始し、高温ガスを発生させる。高温ガスは、クーラント・フィルタ52を通過して、ガス排出口群21、22に至る。
【0059】
車両がおかれた環境温度が常温(20℃程度)である場合、ガス発生剤51が燃焼したときの内圧(燃焼室50内の圧力)はそれほど高くないため、最大径ガス排出口群21を内側から閉塞するシールテープ23のみが破裂する。そして、燃焼ガスは最大径ガス排出口群21のみから排出され、エアバッグを膨張させる。このとき、最小径ガス排出口群22を内側から覆うシールテープ24は破裂しないので、最小径ガス排出口群22は開口されない。よって、総開口面積が小さいことから、内圧の低下が抑制され、ガス発生剤51の燃焼速度の低下が防止される。
【0060】
車両がおかれた環境温度が高温の場合〔例えば、夏季の締め切った夏場の車内(80℃程度)で、長時間駐車後に出発して直ぐに事故にあった場合〕、車内の温度は依然として高く、ガス発生器10の作動時の内圧は、常温時よりも高くなるため、シールテープ23、24ともに破裂して、最大径ガス排出口群21と最小径ガス排出口群22が開口する。
【0061】
このとき、最大径ガス排出口群21と最小径ガス排出口群22が開口するため、ハウジング内圧の上昇が抑制され、ガス発生剤51の燃焼速度の増大も抑制される。発生した燃焼ガス自体の温度は常温時よりも高くなっている。しかし、最小径ガス排出口群22を通過する燃焼ガスは、冷却用フィルタ31を通過することで冷却された後、エアバッグ内に流入するため、燃焼ガス全体の温度上昇は抑制され、出力差のばらつきが抑制される。
【0062】
(2)図3に示すガス発生器
図3は、本発明の別形態のガス発生器の外観を示す斜視図であり、内部構造は、図2に示すものや公知のものと同一である。図3のガス発生器は、助手席用のガス発生器として適している。
【0063】
ディフューザシェル11の周面には、最も径の大きな複数(図1では3個)のガス排出口121aからなる最大径ガス排出口群121と、中間径の複数(図3では6個)のガス排出口122aからなる中間径ガス排出口群122と、最も径の小さな複数(図3では12個)のガス排出口123aからなる最小径ガス排出口群123とを有している。なお、図示していない裏面にも、同様に最大径ガス排出口群121、中間径ガス排出口群122、最小径ガス排出口群123が、それぞれ1つ又は2つずつ形成されていてもよい。
【0064】
最大径ガス排出口群121、中間径ガス排出口群122、最小径ガス排出口群123は、いずれも内側から、同じアルミニウム製の厚さ約50μmのシールテープで閉塞されている。
【0065】
最大径ガス排出口群121は、作動時において、中間径ガス排出口群122よりも小さな圧力で開口するものである。中間径ガス排出口群122は、作動時において、最小径ガス排出口群123よりも小さな圧力で開口するものである。
【0066】
最大径ガス排出口群121、中間径ガス排出口群122、最小径ガス排出口群123は、いずれも長方形で囲まれた領域内に複数のガス排出口121a、122a、123aが配置されており、それぞれの領域は分離されている。
【0067】
中間径ガス排出口群122には、全てのガス排出口122aが完全に覆われるようにして、外側から第1冷却用フィルタ131が被せられている。最小径ガス排出口群123には、全てのガス排出口123aが完全に覆われるようにして、外側から第2冷却用フィルタ132が被せられている。最大径ガス排出口群121は、外側から冷却用フィルタで覆われていない。
【0068】
第1冷却用フィルタ131と第2冷却用フィルタ132は、図1に示す冷却用フィルタ31と同様のものであるが、第2冷却用フィルタ132の嵩密度は、第1冷却用フィルタ131の嵩密度よりも大きくなっているため、第2冷却用フィルタ132の冷却効果は第1冷却用フィルタ131の冷却効果よりも高い。
【0069】
次に、図3で示すガス発生器を車両のエアバッグ装置に組み込んだときの動作を説明する。
【0070】
車両がおかれた環境温度が低温〔例えば、高緯度地域の冬季(−20℃程度)〕である場合、ガス発生剤が燃焼したときの内圧は低いため、最大径ガス排出口群121を内側から閉塞するシールテープのみが破裂する。そして、燃焼ガスは、最大径ガス排出口群121のみから排出され、エアバッグを膨張させる。このとき、中間径ガス排出口群122、最小径ガス排出口群123を内側から閉塞するシールテープは破裂しないので、それらのガス排出口群は開口されない。よって、総開口面積が小さいことから、内圧の低下が抑制され、ガス発生剤の燃焼速度の低下が防止される。
【0071】
車両がおかれた環境温度が常温(20℃程度)である場合、ハウジング内圧がより高くなり、最大径ガス排出口群121と中間径ガス排出口群122を内側から閉塞するシールテープが破裂する。そして、中間径ガス排出口群122を通過するガスのみが、第1冷却用フィルタ131によって冷却されるため、総開口面積の増加に伴う内圧の減少とともに、排出ガスの一部が冷却されることで、低温時との作動出力の差が抑えられる。
【0072】
車両がおかれた環境温度が高温の場合〔例えば、夏季の締め切った夏場の車内(80℃程度)で、長時間駐車後に出発して直ぐに事故にあった場合〕は、最大径ガス排出口群121、中間径ガス排出口群122、最小径ガス排出口群123を閉塞する全てのシールテープが破裂して、全てのガス排出口群が開口される。このとき、中間径ガス排出口群122を通過するガスは第1冷却用フィルタ131で冷却され、最小径ガス排出口群123を通過するガスは第2冷却用フィルタ132で冷却されるため、常温時と比べると、総開口面積もより広くなり、燃焼ガスの冷却程度も高くなるため、常温時との作動出力の差が抑えられる。
【0073】
(3)図4の人員拘束装置
図4は、図1及び図2に示すガス発生器10(但し、冷却用フィルタ31は備えていない)を用いた、人員拘束装置(エアバッグ装置)の組立説明図であり、図5は組立後の人員拘束装置100の斜視図である。なお、ケース内にてガス発生器と組み合わせて収容されるエアバッグの表示は省略している。モジュールケース、エアバッグ、ガス発生器の組み合わせ自体は公知であり、例えば、特開平10−95302号公報の図6に記載されている。
【0074】
ガス発生器の固定部材80は、ベース81(上面81aと下面81b)と周壁部82からなるものであり、ベース81は中央穴83を有している。ベース81は、四隅に計4つの穴81cを有している。
【0075】
ベース81の中央穴83にはガス発生器10が嵌め込まれ、ハウジング13のフランジ部に設けられた計4つの穴14が、ベース81の4つの穴81cにおいて、4つのボルト95により固定することで、固定部材80に取り付けられている。
【0076】
冷却部材90は、固定部材80の穴を利用して、ガス発生器10と共に固定部材80に取り付けられている。冷却部材90は、厚さ1mmの鉄製である。
【0077】
冷却用部材90は、ベース81に接した2箇所の取付部91と、2箇所の取付部91から垂設された2箇所の冷却板92と、2箇所の冷却板92に架け渡された支持板93とを有している。
【0078】
2箇所の冷却板92は、ガス発生器10の2つの領域の最小径ガス排出口群22に正対されている。図5では、冷却板92で正面側の最小径ガス排出口群22が隠された状態になっている。2箇所の冷却板92の内側面は、最小径ガス排出口群22と間隔をおいて正対しており、前記内側面には、燃焼ガスとの接触面積が増大されるように波形の凹凸94が形成されている。
【0079】
最小径ガス排出口群22から燃焼ガスが排出されたとき、燃焼ガスは冷却板92に衝突して冷却された後でエアバッグ内に流入する。冷却板92は、図1で示す冷却用フィルタ31と同じ作用をする。これによって、図1、図2と同じ動作がなされ、環境温度差によるガス発生器の出力差を抑制することができ、エアバッグに過度の負荷が加えられることが防止される。
【0080】
(4)図6の人員拘束装置
図6は、図1及び図2に示すガス発生器10(但し、冷却用フィルタ31は備えていない)を用いた、人員拘束装置(エアバッグ装置)の200の斜視図である。なお、ケース内にガス発生器と組み合わせて収容されるエアバッグの表示は省略している。
【0081】
2つの冷却部材150は、取付部152と、取付部152から垂設された支持部153(支持部153a、153bに分かれている)とを有する固定部材151に対して、冷却用フィルタ155が取り付けられ、更に冷却用フィルタ155が、その両面から、固定のための補助部材となる金網部材156、157で挟み付けられたものである。冷却用フィルタ155は、図1に示す冷却用フィルタ31と同じものである。
【0082】
取付部152は穴152aを有しており、この穴152aを用いて、固定部材80に対して、ガス発生器10と共に一体に固定されている。
【0083】
2つの冷却部材150は、ガス発生器10の2つの領域の最小径ガス排出口群22に正対配置されているが、全ての最小径ガス排出口群22に正対配置されていてもよい。図6では、冷却部材150で正面側の最小径ガス排出口群22が隠された状態になっている。なお、固定部材151の取付位置を調整することで、最小径ガス排出口群22と冷却用フィルタ155の間に間隔が形成されるようにしてもよい。
【0084】
最小径ガス排出口群22から燃焼ガスが排出されたとき、燃焼ガスは冷却部材150に衝突して冷却された後でエアバッグ内に流入する。冷却部材150は、図1で示す冷却用フィルタ31と同じ作用をする。これによって、図1、図2と同じ動作がなされ、環境温度差によるガス発生器の出力差を抑制することができ、エアバッグに過度の負荷が加えられることが防止される。
【0085】
本発明のガス発生器は、口径の異なるガス排出口群を有するもののほか、ガス排出口群のガス排出口径を全て同一にして、シールテープの厚さや材質等を変化させることによって、異なる圧力でガス排出口群が開口されるようにしてもよい。
【0086】
(5)図7に示すガス発生器
図7は、本発明の別実施形態であるガス発生器の外観を示す斜視図である。図7のガス発生器は、運転席用のガス発生器として適しているものであるため、図1〜図3で示すものよりも高さが低くなっているが、構造は図2で示すものと同じである。
【0087】
ディフューザシェル11の周面には、複数の大きな径のガス排出口221と、複数のより小さな径のガス排出口222を有している。これらは、ディフューザシェル11の周面において、交互にかつ均等間隔で配置されている。
【0088】
大きな径のガス排出口221と小さな径のガス排出口222は、いずれも同じアルミニウム製の厚さ約50μmのシールテープで閉塞されている。
【0089】
大きな径のガス排出口221は、作動時において、小さな径のガス排出口222よりも小さな圧力で開口するものである。小さな径のガス排出口222は、作動時において、大きな径のガス排出口221よりも大きな圧力で開口するものである。
【0090】
小さな径のガス排出口222には、外側から第1冷却用フィルタ231が被せられている。大きな径のガス排出口221は、外側から冷却用フィルタで覆われていない。
【0091】
次に、図7で示すガス発生器を車両のエアバッグ装置に組み込んだときの動作を説明する。
【0092】
車両がおかれた環境温度が常温(20℃程度)である場合、ガス発生剤51が燃焼したときの内圧(燃焼室50内の圧力)はそれほど高くないため、大きな径のガス排出口221を内側から閉塞するシールテープのみが破裂する。そして、燃焼ガスは大きな径のガス排出口221のみから排出され、エアバッグを膨張させる。このとき、小さな径のガス排出口222を内側から覆うシールテープは破裂しないので、小さな径のガス排出口222は開口されない。よって、総開口面積が小さいことから、内圧の低下が抑制され、ガス発生剤51の燃焼速度の低下が防止される。
【0093】
車両がおかれた環境温度が高温の場合〔例えば、夏季の締め切った夏場の車内(80℃程度)で、長時間駐車後に出発して直ぐに事故にあった場合〕、車内の温度は依然として高く、ガス発生器10の作動時の内圧は、常温時よりも高くなるため、全てのシールテープが破裂して、大きな径のガス排出口221と小さな径のガス排出口222が開口する。
【0094】
このように、大きな径のガス排出口221と小さな径のガス排出口222が開口するため、ハウジング内圧の上昇が抑制され、ガス発生剤51の燃焼速度の増大も抑制される。発生した燃焼ガス自体の温度は常温時よりも高くなっている。しかし、小さな径のガス排出口222を通過する燃焼ガスは、冷却用フィルタ231を通過することで冷却された後、エアバッグ内に流入するため、燃焼ガス全体の温度上昇は抑制され、出力差のばらつきが抑制される。
【0095】
本発明のガス発生器は、口径の異なるガス排出口を有するもののほか、ガス排出口径を全て同一にして、シールテープの厚さや材質等を変化させることによって、異なる圧力でガス排出口が開口されるようにしてもよい。
【0096】
(6)図8に示す人員拘束装置
図8は、図7に示すガス発生器10(但し、冷却用フィルタ231は備えていない)を用いた、人員拘束装置(エアバッグ装置)300の斜視図である。なお、ケース内にてガス発生器と組み合わせて収容されるエアバッグの表示は省略している。
【0097】
固定部材80に対して、第1冷却部材250と第2冷却部材260が取り付けられている。第1冷却部材250と第2冷却部材260は、いずれも厚さ1mmの鉄製である。
【0098】
第1冷却部材250は、ベース81に接した2箇所の取付部251と、2箇所の取付部251から垂設された2箇所の冷却板252と、2箇所の冷却板252に架け渡された支持板253とを有している。
【0099】
第2冷却部材260は、ベース81に接した2箇所の取付部261と、2箇所の取付部261から垂設された2箇所の冷却板262と、2箇所の冷却板262に架け渡された支持板263とを有している。
【0100】
第1冷却部材250と第2冷却部材260は、それぞれの支持板263が互いに直交するようにして取り付けられている。
【0101】
第1冷却部材250の2箇所の冷却板252と、第2冷却部材260の2箇所の冷却板262は、ガス発生器10の4つの小さな径のガス排出口222に正対されている。小さな径のガス排出口222に正対している冷却板252及び冷却板262の表面には、図4で示したような波形の凹凸94を形成してもよい。
【0102】
小さな径のガス排出口222から燃焼ガスが排出されたとき、燃焼ガスは冷却板252及び冷却板262に衝突して冷却された後でエアバッグ内に流入する。冷却板252及び冷却板262は、図1で示す冷却用フィルタ31と同じ作用をする。これによって、図1、図2と同じ動作がなされ、環境温度差によるガス発生器の出力差を抑制することができ、エアバッグに過度の負荷が加えられることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明のガス発生器の斜視図である。
【図2】図1のガス発生器の縦断面図である。
【図3】本発明の別実施形態のガス発生器の斜視図である。
【図4】本発明の人員拘束装置の組立説明図である。
【図5】本発明の人員拘束装置の斜視図である。
【図6】(a)は本発明の他実施形態の人員拘束装置の斜視図、(b)は(a)の部分図である。
【図7】本発明の別実施形態のガス発生器の斜視図である。
【図8】本発明の別実施形態の人員拘束装置の斜視図である。
【符号の説明】
【0104】
10 ガス発生器
11 ディフューザシェル
12 クロージャシェル
13 ハウジング
21 最大ガス排出口群
21a ガス排出口
22 最小ガス排出口群
22a ガス排出口
31 冷却用フィルタ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側から閉塞部材で閉塞されたガス排出口を有するハウジングと、前記ハウジング内に収容された点火手段と、前記点火手段の作動により着火燃焼して作動ガスを生じさせるガス発生剤を有するガス発生器であり、
前記ガス排出口が複数のガス排出口群又は複数のガス排出口からなり、前記複数のガス排出口群又は複数のガス排出口ごとに異なる圧力で開口するものであり、
前記複数のガス排出口群又は複数のガス排出口の内、少なくとも最も大きな圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口が外側から冷却部材で覆われている、ガス発生器。
【請求項2】
前記複数のガス排出口群又は複数のガス排出口の内、最も大きな圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口が外側から冷却部材で覆われており、最も小さな圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口が外側から冷却部材で覆われていない、請求項1記載のガス発生器。
【請求項3】
前記複数のガス排出口群又は複数のガス排出口の全てが外側から冷却部材で覆われており、最も大きな圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口を覆う冷却部材の冷却効果が最大であり、最も小さな圧力で開口するガス排出口群又はガス排出口を覆う冷却部材の冷却効果が最小である、請求項1記載のガス発生器。
【請求項4】
前記ガス排出口群又はガス排出口が、ガス排出口群又はガス排出口ごとに径が異なり、前記径の異なるガス排出口群又はガス排出口ごとに異なる領域に分離配置されており、
前記ガス排出口群又はガス排出口の全てが同一の閉塞部材で内側から閉塞されており、
前記ガス排出口群又はガス排出口の内、径が最大のガス排出口群又はガス排出口の開口圧力が最小で、径が最小のガス排出口群又はガス排出口の開口圧力が最大である、請求項1〜3のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項5】
前記ガス排出口群又はガス排出口が、全て同一径のガス排出口からなり、複数の異なる領域に分離配置されており、
前記ガス排出口群又はガス排出口ごとに異なる強度を有する閉塞部材で閉塞されており、
前記ガス排出口群又はガス排出口の内、強度が最小の閉塞部材で閉塞されたガス排出口群又はガス排出口の開口圧力が最小で、強度が最大の閉塞部材で閉塞されたガス排出口群又はガス排出口の開口圧力が最大である、請求項1〜3のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項6】
前記ガス排出口群又はガス排出口と前記冷却部材との間に間隔が設けられている、請求項1〜5のいずれかに記載のガス発生器。
【請求項7】
前記冷却部材が金属板である、請求項6記載のガス発生器。
【請求項8】
前記冷却部材が、前記ガス排出口群又はガス排出口に対向する面に凹凸を有する金属板である、請求項6記載のガス発生器。
【請求項9】
請求項1〜8記載のガス発生器がモジュールケース内に収容された人員拘束装置であり、前記モジュールケースに冷却部材が取り付けられている、人員拘束装置。
【請求項10】
前記モジュールケースに対してガス発生器を固定する取付手段に冷却部材が取り付けられている、請求項9記載の人員拘束装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−149873(P2008−149873A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339528(P2006−339528)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】