説明

ガス絶縁母線

【課題】異なる径の接地タンクを低コストで構成でき、内部欠陥に強く、小型・軽量で高性能なガス絶縁母線を提供する。
【解決手段】ガス絶縁母線1は、接地タンク3内に金属製の高電圧導体2を同軸円筒構造で収納すると共に、絶縁スペーサ4または絶縁スペーサ5によって絶縁支持し、さらに絶縁性ガス6を封入している。接地タンク3は、接地電位の金属メッシュ7の両側に、機械的強度強化用としてガラス繊維で織られたガラス繊維織物8で挟むようにして配置し、これらを例えばエポキシ系やポリエステル系の絶縁樹脂9を含浸させて固化し、一体注形することにより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接地タンク内に高電圧導体を収納してなるガス絶縁母線に係り、特に、接地タンクの構造に改良を加えたガス絶縁母線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高電圧機器では、実系統運転中の機器内部にて、絶縁物内部の欠陥や、機器内部に存在する導電性異物が発端となって絶縁破壊事故を招く可能性がある。一度このような事故が起きると、電力系統の動揺や停止など、きわめて重大な影響を及ぼす結果となる。したがって、実系統運転中の高電圧機器においては、機器内部に導電性異物混入などの欠陥を発生させない構造や、仮に欠陥が発生した場合でも部分放電を検出して機器の絶縁破壊事故を未然に防止する対策を施す必要がある。
【0003】
例えば、高電圧機器としてガス絶縁母線が知られているが、このガス絶縁母線における絶縁破壊防止対策としては、接地タンク内面にシールド電極を設けたり、高電圧導体や接地タンク内面に絶縁コーティングを施したりして、絶縁性能を向上させたガス絶縁母線が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0004】
また、電力需要の増大する近年、旧型の機器から新しい機器への更新、あるいは旧型の機器に新しい機器を増設する傾向が進んでいる。技術の進歩は著しく、新しい機器は旧型のものに比べて小型化が進んでいることが多い。そのため、新旧のガス絶縁母線では、接地タンクの径が異なる場合が殆どである。
【0005】
接地タンクは通常、ほぼ円筒形状の部材から構成されており、接地タンクとほぼ同軸状に高電圧導体が絶縁スペ−サなどによって絶縁保持されている。これらの部材から1つのユニットが構成され、このユニットが工場にて組立てられている。そして、ガス絶縁母線は前記ユニット単位で現地に搬入され、現地にて接地タンク同士および高電圧導体同士が接続されることによって、長尺のガス絶縁母線が形成されている。
【0006】
以上のようなガス絶縁母線において、径の異なる接地タンク同士を接続する場合には、両端部に異なる径を持つ変換アダプタを、2つの接地タンクの間に配置して、両者を接続するようになっている。
【特許文献1】特開2002−171650号公報
【特許文献2】特開平6−98448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来技術には次のような問題点があった。すなわち、上述したガス絶縁母線においては、機器の更新または増設に伴って、径の異なる接地タンク同士を接続する場合、変換アダプタが不可欠となっていた。したがって、複数の異径タンクを接続するためには、複数の変換アダプタが必要となり、コストの増大を招いていた。また、機器が小型化すれば、絶縁距離に比例して接地タンク内の電界は高くなるので、導電性異物に対して著しく絶縁性能が低下することになった。このため、優れた絶縁性能を確保しつつ、接地タンクの小型化を実現することが迫られていた。
【0008】
本発明は上記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、異なる径の接地タンクを低コストで構成でき、内部欠陥に強く、小型・軽量で高性能なガス絶縁母線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するために、接地タンク内に、絶縁スペーサで絶縁支持した高電圧導体を収納すると共に絶縁性ガスを封入したガス絶縁母線において、前記接地タンクを、金属メッシュまたは導電性繊維あるいはその両方からなる導電性部材と、ガラス繊維で織られたガラス繊維織物と、これら導電性部材およびガラス繊維織物を一体化する絶縁樹脂とから構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接地タンクを、金属メッシュまたは導電性繊維あるいはその両方からなる接地電位の導電性部材と、ガラス繊維織物と、絶縁樹脂とから構成することにより、異なる径の接地タンクを安価に得ることができ、且つガラス繊維織物および絶縁樹脂が固体絶縁物として作用することで内部欠陥に強くなり、小型・軽量で高性能なガス絶縁母線を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る代表的な実施形態として、第1〜第4の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。なお、各実施形態に共通の構成については同一の符号を付しており、第2の実施形態以降では重複する説明は省略する。
【0012】
(1)第1の実施形態
[構成]
本発明の第1の実施形態を図1から図5を参照して説明する。図1に示すように、ガス絶縁母線1は、円筒状の接地タンク3を備え、この接地タンク3内に、金属製管状または中実状の高電圧導体2を同軸円筒構造で収納すると共に、絶縁スペーサ4または絶縁スペーサ5によって絶縁支持し、さらに絶縁性ガス6を封入して構成されている。
【0013】
第1の実施形態は接地タンク3の構成に特徴がある。すなわち、図2に示すように、接地電位の金属メッシュ7の両側に、機械的強度強化用としてガラス繊維で織られたガラス繊維織物8で挟むように配置し、これらを例えばエポキシ系やポリエステル系の絶縁樹脂9を含浸させて固化し、一体注形することにより、接地タンク3を構成している。ここで、金属メッシュ7は、シート状の部材から円筒形状に容易に変形可能な柔軟性を持つ導電性部材からなる。
【0014】
また、図3〜図5は第1の実施形態の変形例を示している。図3に示す接地タンク3では、導電性部材である金属メッシュ7に代えて、例えば導電性のカーボンファイバで織られた導電繊維織物10を用いたものである。さらに、図4に示す接地タンク3では、導電性部材として、金属メッシュ7と導電繊維織物10の両方を混在させたものを用いた例である。また、図5に示すように金属メッシュ7あるいは導電繊維織物10を接着する樹脂に導電性物質を混入させた導電樹脂11にて、前記導電性部材を構成することもできる。
【0015】
[作用効果]
このように構成された第1の実施形態において、金属メッシュ7または導電繊維織物10あるいはその両方からなる導電性部材は、材質的に適度な柔軟性を持つため、シート状の部材から円筒形状に簡単に丸めることができる。したがって、同軸円筒構造を採用する接地タンク3の基材として好適であり、同一部材を用いて、径の異なる接地タンクを安価且つ容易に製造可能である。
【0016】
また、一体注形されたガラス繊維織物8および絶縁樹脂9は、接地電位の金属メッシュ7または導電繊維織物10の全体を覆うことで固体絶縁物として作用する。これにより、内部欠陥に強くなって高い絶縁耐力を確保することができる。さらに、接地電位用の導電性部材として金属メッシュ7を用いた場合、金属メッシュ7と絶縁樹脂9とは互いに異種物質であるが、金属メッシュ7が網目構造であるため、両者を強固に接着することができ、接地タンク3は高い機械的強度を得ることができる。なお、金属メッシュ7の代わりに導電繊維織物10を用いた場合には、薄形化・軽量化が可能であり、しかも接地タンク3の機械的強度を更に高めることができるといったメリットがある。
【0017】
以上のような第1の実施形態によれば、接地タンク3の径を任意にかつ安価に得ることができ、経済的に有利である。また、接地タンク3の内面を固体絶縁物となるガラス繊維織物8および絶縁樹脂9で覆うため、内部欠陥に強く、導電性異物に対する絶縁性能が向上する。また、導電繊維織物10を用いることで接地タンク3を薄く且つ軽くすることが可能となり、小型軽量で高性能なガス絶縁母線1を提供することができる。
【0018】
(2)第2の実施形態
[構成]
続いて、本発明の第2の実施形態を図6から図8を用いて説明する。図6に示すように、第2の実施形態では、接地タンク3の金属メッシュ7または導電繊維織物10の一部分を分離して構成した部分放電検出用のアンテナ12が配置されている点に特徴がある。
【0019】
また、図7および図8では、第2の実施形態の変形例を示している。すなわち、接地タンク3の金属メッシュ7の内面側(図7)または導電繊維織物10の内面側(図8)に、これらとは電気的に絶縁された状態で部分放電検出用のアンテナ13が配置されている。この部分放電検出用のアンテナ13は、金属メッシュ7または導電繊維織物10と同等の導電材料で構成されている。
【0020】
[作用効果]
第2の実施形態においては、上記の第1の実施形態の持つ作用効果に加えて、次のような独自の作用効果がある。すなわち、アンテナ12あるいは13によって、ガス絶縁母線1内に存在する欠陥部位から発生する部分放電を検出することができる。しかも、アンテナ12あるいは13を接地タンク3内部に配置したので、アンテナ12、13は部分放電を確実に検出することが可能である。したがって、高感度で信頼性の高い絶縁診断を行うことができ、高性能なガス絶縁母線1を提供することができる。
【0021】
(3)第3の実施形態
[構成]
次に、本発明に係る第3の実施形態について、図9を参照して説明する。本実施形態は、図9に示すように、前述した第1、第2の実施形態における金属製の高電圧導体2に替えて、絶縁高電圧導体14を配置したことを特徴とするものであり、その他の構成は前述した実施形態と同じである。
【0022】
絶縁高電圧導体14は、管状に形成された絶縁導体15と、この管状の絶縁導体15の内部に同心状に配置された棒状の通電用の導体16とから構成されている。管状の絶縁導体15は、金属メッシュ等からなる管状の導電性部材151のない周部および外周部にそれぞれ密着して機械的強度強化用のガラス繊維織物152を配置し、これら管状の導電性部材151およびガラス繊維織物152に絶縁樹脂153を注形して固化し、これらを一体化したものである。このように構成された絶縁高電圧導体14は、絶縁スペーサ4および5を介して接地タンク3に支持されるようになっている。
【0023】
なお、管状の導電性部材151は例えば導電性のカーボンファイバで織られた導電繊維織物で構成することもできる。さらに、管状の導電性部材151と導電繊維織物の両方を混在させて絶縁高電圧導体14を構成することもできる。
【0024】
[作用効果]
このように構成された第3の実施形態においては、一体注形されたガラス繊維織物152および絶縁樹脂153は、管状の導電性部材151または導電繊維織物全体を覆うため、絶縁高電圧導体14の外表面が固体絶縁物として作用し、内部欠陥に強くなり、高い絶縁耐力を確保できる。
【0025】
また、絶縁高電圧導体14に金属メッシュ等からなる管状の導電性部材151を用いた場合、導電性部材151と絶縁樹脂153は互いに異種物質であるが、導電性部材151が金属メッシュ等の網目構造のため、両者を強固に接着することができ、絶縁高電圧導体14は優れた機械的強度を得ることができる。なお、金属メッシュ等の導電性部材151の代わりに導電繊維織物を用いれば絶縁高電圧導体14を軽量化でき、さらにその機械的強度を高めることができる。
【0026】
上記のような第3の実施形態によれば、絶縁高電圧導体14外表面を固体絶縁物となるガラス繊維織物152および絶縁樹脂153で覆うため、導電性異物に対する絶縁性能が向上する。また、導電繊維織物を用いる場合は、絶縁高電圧導体14の厚さを薄くすることができ、小型軽量で高性能なガス絶縁母線1を提供することができる。
【0027】
(4)第4の実施形態
[構成]
本発明に係る第4の実施形態について、図10を用いて説明する。図10に示すように、ガス絶縁母線1は、金属高電圧導体2または絶縁高電圧導体14を接地金属タンク17内に収納してなる。接地金属タンク17は、図10に示すように接地電位の金属構造材18をベースに構成されており、金属構造材18の内面側には絶縁性ガス6の圧力に十分耐える構造、例えばフィルム状の高分子材料で構成された密封フィルム19が貼られている。
【0028】
[作用効果]
このように構成された第4の実施形態においては、高分子材料からなる密封フィルム19が、接地金属タンク17の内面に対して固体絶縁物として作用することになる。したがって、接地金属タンク17は内部欠陥に強く、高い絶縁耐力を確保することができる。また、接地金属タンク17は、金属構造材18と、超軽量な密封フィルム19で構成されているため、ガス絶縁母線1の小型軽量化をいっそう進めることができる。
【0029】
(5)他の実施形態
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、各実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の側面断面図。
【図2】第1の実施形態の構造図。
【図3】第1の実施形態の変形例の構造図。
【図4】第1の実施形態の変形例の構造図。
【図5】第1の実施形態の変形例の構造図。
【図6】本発明に係る第2の実施形態の構造図。
【図7】第2の実施形態の変形例の構造図。
【図8】第2の実施形態の変形例の拡大断面図。
【図9】本発明に係る第3の実施形態の構造図。
【図10】本発明に係る第4の実施形態の構造図。
【符号の説明】
【0031】
1…ガス絶縁母線
2…金属高電圧導体
3…接地タンク
4、5…絶縁スペーサ
6…絶縁性ガス
7…金属メッシュ
8、152…ガラス繊維織物
9、153…絶縁樹脂
10…導電繊維織物
11…導電樹脂
12、13…アンテナ
14…絶縁高電圧導体
15…絶縁導体
151…管状の導電性部材
16…通電用金属導体
17…接地金属タンク
18…金属構造材
19…密封フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地タンク内に、絶縁スペーサで絶縁支持した高電圧導体を収納すると共に絶縁性ガスを封入したガス絶縁母線において、
前記接地タンクを、金属メッシュまたは導電性繊維あるいはその両方からなる導電性部材と、ガラス繊維で織られたガラス繊維織物と、これら導電性部材およびガラス繊維織物を一体化する絶縁樹脂とから構成したことを特徴とするガス絶縁母線。
【請求項2】
前記導電性部材の一部をくり抜き、くり抜いた部分に部分放電検出用のアンテナを配設したことを特徴とする請求項1に記載のガス絶縁母線。
【請求項3】
前記導電性部材の内面側に該導電性部材と絶縁して部分放電検出用のアンテナを配設したことを特徴とする請求項1または2に記載のガス絶縁母線。
【請求項4】
接地タンク内に、絶縁スペーサで絶縁支持した高電圧導体を収納すると共に絶縁性ガスを封入したガス絶縁母線において、
前記高電圧導体を、通電用の金属導体と、この通電用の金属導体と同心状に配置され、金属メッシュまたは導電性繊維あるいはその両方からなる管状の導電性部材と、ガラス繊維で織られたガラス繊維織物と、これら導電性部材およびガラス繊維織物を一体化する絶縁樹脂とから構成したことを特徴とするガス絶縁母線。
【請求項5】
接地タンク内に、絶縁スペーサで絶縁支持した高電圧導体を収納すると共に絶縁性ガスを封入したガス絶縁母線において、
前記接地タンクを、金属構造材と、気密保持用の高分子材料フィルムとから構成したことを特徴とするガス絶縁母線。

【図1】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−181294(P2007−181294A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375804(P2005−375804)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】