説明

ガス絶縁電力機器の異常検出方法

【課題】内部の異常を高感度に検出する。より確実に検出する。
【解決手段】絶縁ガス1が封入されている接地タンク2内で発生した分解ガスを吸着する吸着材4を接地タンク2とは別の密閉容器5に収容すると共に、密閉容器5内と接地タンク2内とを連通し、分解ガスを密閉容器5内に導いて吸着材4によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンク2から吸着材4に至るまでの間の連通路9に設けた採取口13から吸着材4に接する前のガスを採取し、SOの検出に基づいて接地タンク2内での異常の発生を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSFガスやSFガスを含む混合ガス等を主絶縁媒体あるいはアーク消弧媒体等として用いたガス絶縁電力機器、例えば、ガス絶縁開閉装置(GIS)、ガス遮断器(GCB)、キュービクル形ガス開閉装置(C−GIS)、ガス絶縁変圧器、管路気中ガス絶縁送電線路(GIL)などのガス絶縁電力機器の異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁電力機器は大気圧以上の絶縁ガスを絶縁媒体に使用するため、電気回路となる高電圧中心導体(主回路)を固体支持絶縁物(スペーサ)とともに金属製の接地タンク(機器外被)内に格納し、密閉構造を成している。そのため、外部環境の影響を受けない、機器のコンパクト化を図れる、保守面で安全であるなど種々の利点を有し、わが国では極めて多用されている。反面、機器外部からは内部の状態を監視しにくく、万一、主回路の導通や機器絶縁に異常が発生しても、その異常を検出しにくいとの問題がある。そこで、機器の内部の状態、特に絶縁性能を外部から検出する技術の開発が強く求められている。
【0003】
例えば、ガス絶縁開閉装置内でコロナ放電が発生すると電磁波が放射されることから、この電磁波を受信することでコロナ放電を検出する絶縁異常検出装置がある(特開平01−235865号公報)。この絶縁異常検出装置では、コロナ放電により生じる電磁波に対して受信感度が高い位置にコロナ放電検出用アンテナを配置すると共に、コロナ放電により生じる電磁波に対して受信感度が十分低い位置にノイズ検出用アンテナを配置し、コロナ放電検出用アンテナで受信された信号とノイズ検出用アンテナで受信された信号の差をとることにより、コロナ放電信号のみを取り出し異常を検出している。
【0004】
また、異常に起因した音を検出する部分放電検出装置がある(特開平5−45402号公報)。この部分放電検出装置では、電気機器を収容する密閉容器にAE(アコースティック・エミッション)センサを取り付け、AEセンサの出力をバンドパスフィルタ、プリアンプに入力している。AEセンサは、部分放電により発生するAE波の周波数スペクトルの強度が最大となる周波数に共振する特性を有しており、部分放電発生時に生じる音波を電気信号に変換する。この電気信号のうちAEセンサの共振周波数を中心としてプリアンプの内部雑音が最小となる周波数領域の電気信号だけをバンドパスフィルタで通過させ、外部からのノイズを除去して部分放電を検出するようにしている。
【0005】
さらに、通電異常や絶縁異常に伴う部分放電あるいはアーク放電によってSFガスから分解生成された各種の派生ガス(以下、分解ガスという)を化学的に検出する放電検出装置がある(特開昭50−129938号公報)。この放電検出装置では、SFを充満させたガス絶縁電気装置の密封容器の内部に、分解ガスと反応して抵抗値が低下するガラスエポキシ積層基板からなる検出素子を配置し、検出素子の抵抗値を監視する。放電が発生すると、SFが分解して活性ガスが生成され、検出素子がSF分解生成ガスと反応するため、検出素子の抵抗値の低下を測定することにより放電を検出することができる。
【0006】
しかしながら、上述の異常発生に伴う電磁波をアンテナで受信して異常を検出する手法や、異常発生に伴うAE波をAEセンサによって感知して異常を検出する手法は、ガス絶縁機器が設置されている変電所などの環境下では背景雑音の存在によってその性能を十分に発揮できていない。なぜなら、異常の検出感度を高めるために受信感度・センサ感度を高めても、背景雑音をも検出することになり、異常を示す真の情報と背景雑音の識別(いわゆるS/N比)を高めることは極めて困難だからである。ここで、上述の異常発生に伴う電磁波をアンテナで受信して異常を検出する絶縁異常検出装置では、ノイズ検出用アンテナを設けることで背景雑音のキャンセルを図っているが、コロナ放電検出用アンテナが設けられている場所の背景雑音を計測しているわけではないので、背景雑音の影響を完全に排除することはできないと考えられる。
【0007】
この点、分解ガスを化学的に検出する手法はこのような背景雑音の問題はなく、しかも、部分放電などの異常が極めて軽微であっても、SFガスの分解ガスは通常蓄積されるため、次第に濃度が増えて検出が容易となる利点がある。ところが、SFガスの分解ガスの多くは金属を腐食するなど、機器に有害な影響を与えるものが多いため、通常は機器の内部に分解ガスを吸着・除去するための吸着材が封入され、機器に有害な影響を与えない程度の濃度に抑えるようにしている。
【0008】
【特許文献1】特開平01−235865号
【特許文献2】特開平5−45402号
【特許文献3】特開昭50−129938号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、ガス絶縁電力機器では、機器内部に分解ガスを吸着する吸着材が封入されているため、通電異常あるいは絶縁異常等をSFガスの分解ガスに基づいて検出しようとしても、検出素子等のセンサ類によって分解ガスを検出する前に分解ガスが吸着材に吸着されてしまい、分解ガスを良好に検出することができず、その実用化が難しい。つまり、吸着材に接触した後のガスに基づいてガス中の分解ガスを検出するので、分解ガスの検出感度に劣り、異常発生を良好に検出することが困難である。
【0010】
また、分解ガスの検出に当たり、モニタリングガスとして適切なものを選択してその検出をより確実なものにしたいとの要請がある。
【0011】
本発明は、内部の異常をより確実に検出することができるガス絶縁電力機器の異常検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために請求項1記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、絶縁ガスが封入されている接地タンク内で発生した分解ガスを吸着する吸着材を接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、密閉容器内と接地タンク内とを連通し、分解ガスを密閉容器内に導いて吸着材によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンクから吸着材に至るまでの間の連通路に設けた採取口から吸着材に接する前のガスを採取し、SOの検出に基づいて接地タンク内での異常の発生を検出するものである。
【0013】
接地タンク内で通電異常や絶縁異常等の異常が発生すると、絶縁ガスから分解ガスが発生し、分解ガスの濃度が増加する。接地タンク内と密閉容器内とは連通されており、接地タンク内で発生した分解ガスは密閉容器内で吸着材によって吸着除去される。このため、接地タンク内の分解ガスの濃度は減少する。発生する分解ガスのうち、SOは寿命が長く安定して存在する。このため、異常検出のモニタリングガスとしての使用にSOは適している。また、採取口から吸着材に接する前のガスを採取するので、SOをより多く含むガスを分析に使用することができる。さらに、接地タンク内を開放することはなく、接地タンク内の気密性を維持しながらガスを採取することができる。
【0014】
また、請求項2記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、絶縁ガスが封入されている接地タンク内で発生した分解ガスを吸着する吸着材を接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、密閉容器を接地タンクに切り離し可能に接続して密閉容器内と接地タンク内とを連通し、分解ガスを密閉容器内に導いて吸着材によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンク側連通路を閉じた状態で接地タンクから密閉容器を切り離して吸着材の分析を行ないSOの検出に基づいて接地タンク内での異常の発生を検出するものである。
【0015】
接地タンク内で通電異常や絶縁異常等の異常が発生すると、絶縁ガスから分解ガスが発生し、分解ガスの濃度が増加する。接地タンク内と密閉容器内とは連通されており、接地タンク内で発生した分解ガスは密閉容器内で吸着材によって吸着除去される。このため、接地タンク内の分解ガスの濃度は減少し、吸着材に分解ガスが蓄積される。発生する分解ガスのうち、SOは寿命が長く安定して存在する。このため、異常検出のモニタリングガスとしての使用にSOは適している。密閉容器を接地タンクから切り離し、吸着材を取り出して分析し、SOの検出に基づいて接地タンク内での異常発生を検出する。接地タンク側連通路を閉じた状態で密閉容器を切り離すので、接地タンク内の気密性を維持できる。つまり、接地タンク内の気密性を維持しながら吸着材を取り出し分析にかけることができる。
【0016】
さらに、請求項3記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、SOに加えて、SFとSOFとSOFのうち少なくとも一のガスの検出に基づいて接地タンク内での異常の発生を検出するものである。
【0017】
SOの寿命が長いのに対し、SF、SOF、SOFの寿命は比較的短い。したがって、SOと一緒に少なくともSF、SOF、SOFのうちいずれか一つのガスが検出された場合には異常の発生は最近であることがわかり、SOが検出されたがSF、SOF、SOFのいずれも検出されない場合には異常の発生は最近ではなく、異常の発生からある程度の時間が経過していことがわかる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法では、絶縁ガスが封入されている接地タンク内で発生した分解ガスを吸着する吸着材を接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、密閉容器内と接地タンク内とを連通し、分解ガスを密閉容器内に導いて吸着材によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンクから吸着材に至るまでの間の連通路に設けた採取口から吸着材に接する前のガスを採取し、SOの検出に基づいて接地タンク内での異常の発生を検出するようにしているので、寿命が長いガスに基づいてより確実に異常の発生を検出することができる。また、吸着材に接する前のSOをより多く含む状態のガスを採取して検出を行うことができるので、接地タンク内の異常発生をより高感度に検出することができる。さらに、接地タンク内の気密性を維持しながらガスの採取を行なうことができるので、ガス絶縁電力機器の運転を止めずに接地タンク内で生じた異常を検出することができる。
【0019】
また、請求項2記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法では、絶縁ガスが封入されている接地タンク内で発生した分解ガスを吸着する吸着材を接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、密閉容器を接地タンクに切り離し可能に接続して密閉容器内と接地タンク内とを連通し、分解ガスを密閉容器内に導いて吸着材によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンク側連通路を閉じた状態で接地タンクから密閉容器を切り離して吸着材の分析を行ないSOの検出に基づいて接地タンク内での異常の発生を検出するようにしているので、寿命が長いガスに基づいてより確実に異常の発生を検出することができる。また、たとえSOの濃度がわずかであっても、吸着材にはSOが蓄積されるので、SOの検出は可能であり、接地タンク内の異常発生をより高感度に検出することができる。さらに、接地タンク内の気密性を維持しながら吸着材を回収することができるので、ガス絶縁電力機器の運転を止めずに、接地タンク内で生じた異常を検出することができる。
【0020】
さらに、請求項3記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法では、SOに加えて、SFとSOFとSOFのうち少なくとも一のガスの検出に基づいて接地タンク内での異常の発生を検出するので、ガスの寿命の違いに基づいて異常の発生時期の推定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1に、本発明のガス絶縁電力機器の異常検出方法の一例を実施するガス絶縁電力機器を示す。このガス絶縁電力機器は、絶縁ガス1が封入された接地タンク2内に導体3を電気的に絶縁した状態で収容すると共に、接地タンク2内で発生した絶縁ガス1の分解ガスを吸着材4によって吸着除去するものである。そして、吸着材4を接地タンク2とは別の密閉容器5に収容すると共に、密閉容器5を接地タンク2に切り離し可能に接続して密閉容器5内と接地タンク2内とを連通させ、密閉容器5を切り離す場合に接地タンク側連通路28を閉じる第1の開閉弁を備えている。
【0023】
接地タンク2には、内部の真空引き及び絶縁ガス1の封入に使用する給排気管(ガス配管)6と、この給排気管6を開閉する開閉弁7が設けられている。本実施形態では、接地タンク側連通路28は接地タンク2の給排気管6であり、第1の開閉弁は給排気管6に設けられた開閉弁7である。つまり、接地タンク2に通常設けられている既存の給排気管6と開閉弁7を利用している。このため、密閉容器5の取り付けが容易である。また、既存の接地タンク2の設計変更を行わずにそのまま密閉容器5を取り付けることができ、特に、既に設置され運転されているガス絶縁電力機器に対しても後付けすることができる。さらに、後付けした密閉容器5を取り外すことでガス絶縁電力機器を元の状態に戻すことができる。なお、既に設置され運転されているガス絶縁電力機器に適用する場合には、接地タンク2内に設けられている吸着材を撤去しておく。
【0024】
密閉容器5には、密閉容器側連通路10と、密閉容器5を切り離す場合に密閉容器側連通路10を閉じる第2の開閉弁11が設けられている。密閉容器側連通路10は接地タンク側連通路28に接続されている。密閉容器側連通路10と接地タンク側連通路28とは、互いのフランジ10a,6aを突き合わせてボルトによって固定することで切り離し可能に接続されている。
【0025】
また、接地タンク2から吸着材4に至るまでの間の連通路9には吸着材4に接する前のガスを採取する採取口13が設けられている。本実施形態では、密閉容器5に採取口13が設けられている。ただし、採取口13を設ける位置は密閉容器5に限るものではなく、吸着材4に接する前のガスを採取できる位置であれば良い。採取口13を密閉容器5に設けることで、採取口13の設置が容易であると共に、一体化したユニットとして取り扱うことができるので、その扱いが容易である。採取口13には開閉弁14が設けられており、ガスを採取する時以外の時には採取口13を閉じておき、接地タンク2内及び密閉容器5内の気密性を確保している。
【0026】
導体(主回路)3は、例えば高電圧中心導体で、例えば円筒形状を成している。導体3は、例えば円筒形状を成す接地タンク(機器外被)2の中心位置に配置され、支持絶縁物(スペーサ)8によって支持されている。絶縁ガス1は、例えばSFガス、SFガスを含む混合ガス等である。ただし、これらのガスに限るものではなく、例えばNガス,COガス,Cガス,c−Cガス,CFIガス,CFガスおよびこれらの混合ガス等でも良い。
【0027】
ガス絶縁電力機器の運転時には、第1及び第2の開閉弁7,11を開き、接地タンク2内と密閉容器5内とを連通させておく。また、開閉弁14を閉じておく。接地タンク2内で通電異常や絶縁異常等の異常が発生すると、絶縁ガス1から分解ガスが発生し、分解ガスの濃度が増加する。接地タンク2内と密閉容器5内とは連通されており、分解ガスは自然に拡散して密閉容器5内に到達し、吸着材4によって吸着除去される。このため、接地タンク2内の分解ガスの濃度を減少させることができる。分解ガスの多くは金属を腐食させる腐食性ガスである。吸着材4によって分解ガスを吸着除去するので、接地タンク2や導体3等を腐食させる程には分解ガスの濃度は高くならず、これらの腐食を防止することができる。
【0028】
密閉容器5を接地タンク2から切り離す場合、第1の開閉弁7によって接地タンク側連通路28を閉じることで接地タンク2内の気密性を維持できる。このため、ガス絶縁電力機器の運転を止めずに密閉容器5を切り離すことができ、吸着材4を取り出して交換や修理・再生を行うことができる。また、第2の開閉弁11によって密閉容器側連通路10を閉じることで密閉容器5内の気密性を維持することができ、後述するように吸着材4に吸着されているガスに基づいて異常の検出を行なう場合には、切り離した密閉容器5内の吸着材4を外気に接触させることなく分析にかけることができる。
【0029】
接地タンク2内での異常は、以下のようにして検出できる。即ち、本発明のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、絶縁ガス1が封入されている接地タンク2内で発生した分解ガスを吸着する吸着材4を接地タンク2とは別の密閉容器5に収容すると共に、密閉容器5内と接地タンク2内とを連通し、分解ガスを密閉容器5内に導いて吸着材4によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンク2から吸着材4に至るまでの間の連通路9に設けた採取口13から吸着材4に接する前のガスを採取し、SOの検出に基づいて接地タンク2内での異常の発生を検出するものである。
【0030】
接地タンク2内で通電異常や絶縁異常等の異常が発生すると、絶縁ガス1から分解ガスとしてSO、SF、SOF、SOF等が発生する。本発明の異常検出方法は、外から見ることができない接地タンク2内での異常発生をSOの検出に基づいて検出するものである。
【0031】
本発明者らは、接地タンク2内で発生する分解ガスについての新規の研究において、分解ガスの中でもSOの寿命が長く安定して存在していることを知見するに至った。実験では、例えば図16(c)示すように、8時間の連続課電により分解ガスを発生させた場合、部分放電を発生させる電圧の印加停止後279時間(11.6日)経過しても、SOが安定して存在していた。特に、FTIRの波数が1503cm−1のSOは高い濃度で安定して存在していた。
【0032】
本発明はかかる知見に基づいてなされたもので、SOが長期に亘り安定して存在していることからモニタリングガスとしてSOを利用し、外部から見ることのできない接地タンク2内での異常発生を検出するものである。モニタリングガスとして寿命が長いSOを使用することで、その検出がより確実なものとなる。また、部分放電が発生するたびに新たにSOが生成されるので、寿命が長いSOが蓄積されてその濃度が高くなる。このことからも、SOの検出がより確実なものとなる。これらのように、SOは異常検出のモニタリングガスとしての使用に適している。
【0033】
この異常検出方法では、開閉弁14を開けて採取口13よりガスを採取することで、吸着材4に接する前のガスを採取することができる。このため、分解ガスをより多く含む状態のガスを使用して分解ガスの一種であるSOの検出を行うことができ、接地タンク2内での異常発生をより高感度に検出することができる。また、接地タンク2内を密閉したままガスを採取することができるので、ガス絶縁電力機器の運転を止めずに異常検出を行うことができる。SOを検出するためのガスの採取は、例えば定期的に又は不定期に行なわれる。
【0034】
また、ガス絶縁電力機器の運転時には常時第1及び第2の開閉弁7,11を開いておき、吸着材4による分解ガスの吸着除去を行い続けるようにしても良いが、例えばガスの採取を行なう所定時間前に第1及び第2の開閉弁7,11を閉じておき、吸着材4による分解ガスの吸着除去をできないようにしておき、分解ガスの濃度を増加させておくようにしても良い。この場合には、モニタリングガスであるSOの検出をより高感度に行なうことができる。
【0035】
また、接地タンク2内での異常を以下のようにして検出することもできる。即ち、本発明のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、絶縁ガス1が封入されている接地タンク2内で発生した分解ガスを吸着する吸着材4を接地タンク2とは別の密閉容器5に収容すると共に、密閉容器5を接地タンク2に切り離し可能に接続して密閉容器5内と接地タンク2内とを連通し、分解ガスを密閉容器5内に導いて吸着材4によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンク側連通路28を閉じた状態で接地タンク2から密閉容器5を切り離して吸着材4の分析を行ないSOの検出に基づいて接地タンク2内での異常の発生を検出するものである。
【0036】
吸着材4によって分解ガスを吸着除去することで、吸着材4には分解ガスが蓄積される。第1及び第2の開閉弁7,11を閉じて密閉容器5を接地タンク2から切り離し、外気を遮断した状態で吸着材4を取り出して分析する。吸着材4の分析によってSOを検出し、これによって接地タンク2内での異常発生を検出する。吸着材4には分解ガスが蓄積されているので、たとえ接地タンク2内の分解ガス濃度が低くても、分解ガスの検出は容易であり、接地タンク2内での異常発生をより高感度に検出することができる。
【0037】
ここで、ガスを分析するためには吸着材4に吸着されている分解ガスを放出させる必要があるが、吸着材4に吸着されているガスの放出は、例えば吸着材4を加熱することで行なわれる。吸着材4から放出されたガスを、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)、ガスクロマトグラフ等によって分析し、SO、場合によってはSOに加えて、SFとSOFとSOFのうち少なくとも一のガスの有無を調べる。ただし、ガスを分析する装置としては、これらに限るものではなく、その他の装置を使用しても良い。
【0038】
なお、本実施形態では、上記2つの方法、即ち、吸着材4に接触する前のガスを採取して分析する方法と、吸着材4に吸着されたガスを分析する方法とを併用しているが、これら2つの方法のうち、いずれか一方のみを使用しても良い。
【0039】
また、吸着材4に接触する前のガスを分析対象とする方法を使用しない場合等には採取口13を省略しても良い。
【0040】
また、接地タンク2から密閉容器5を切り離した場合に、吸着材4が外気に触れても良い場合等には、第2の開閉弁11を省略しても良い。
【0041】
また、異常検出のモニタリングガスとして、SOに加えて、SFとSOFとSOFのうち少なくとも一のガスの検出に基づいて接地タンク2内での異常の発生を検出することもできる。
【0042】
本発明者らは、接地タンク2内で発生する分解ガスについての新規の研究において、分解ガスの中でもSF、SOF、SOFの寿命が短いことを知見するに至った。実験では、例えば図16(a)(b)に示すように、部分放電を発生させる電圧の印加を停止すると、SF、SOF、SOFの濃度がすぐに減少することが観察され、寿命が比較的短いことが確認された。このため、SOと一緒に少なくともSF、SOF、SOFのうちいずれか一つのガスが検出された場合には異常の発生が最近であることがわかり、SOが検出されたが、SF、SOF、SOFのいずれも検出されない場合には異常の発生は最近ではなく、異常の発生からある程度の時間が経過していことがわかる。
【0043】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0044】
例えば、図2に示すガス絶縁電力機器に適用しても良い。なお、上述のガス絶縁電力機器の部材と同一の部材には同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0045】
このガス絶縁電力機器は、接地タンク2内と密閉容器5内とを連通する連通路9を往路15と復路16とを有する循環路にすると共に、接地タンク2内のガスを往路15から密閉容器5に導いて吸着材4に接触させた後、復路16から接地タンク2へと循環させる循環装置22を備えている。本実施形態では、往路15と復路16を二重管状に配置された内管17と外管18とによって構成している。
【0046】
二重管状の連通路9は、接地タンク2に既存の給排気管6を利用して形成されている。即ち、給排気管6内に内管27を挿入することで二重の管路を設けて接地タンク側連通路28とし、密閉容器側連通路10を内管19と外管29より構成される二重管によって構成し、給排気管6と外管29、内管27と内管19を切り離し可能に接続している。つまり、内管27と内管19とによって内管17を構成し、給排気管6と外管29とによって外管18を構成している。
【0047】
二重管の外管29は密閉容器5内の空間20に開口し、内管19は密閉容器5内の吸着材収容室21に開口している。また、吸着材収容室21の入口には、空間20内のガスを吸着材収容室21内に送り込む循環装置22が設置されている。循環装置22は、例えば図示しないモータによって駆動される電動ファンである。採取口13は、二重管の外管29の途中に設けられている。
【0048】
循環装置22を始動させると、密閉容器5内の空間20が負圧、吸着材収容室21内が正圧となり、強制的なガスの流れが形成される。接地タンク2内のガスは給排気管6と内管27の間の空間(以下、給排気管外側通路という)に吸い込まれ、二重管の外管29と内管19の間の空間(以下、二重管外側通路という)を通って密閉容器5内の空間20に吸引される。そして、循環装置22によって吸着材収容室21内に送り込まれ、吸着材4に接触した後、二重管の内管19内の空間(以下、二重管内側通路という)→給排気管6内の内管27の内側の空間(以下、給排気管内側通路という)→接地タンク2内へと強制的に循環される。接地タンク2内で発生した分解ガスは、この流れに乗って吸着材4に到達し、吸着除去される。
【0049】
このように、連通路を循環路とし、循環装置22を設けて強制的にガスを循環させるので、分解ガスが自然拡散により吸着材4に到達するのを待つ場合に比べ、素早く分解ガスを吸着除去することができると共に、接地タンク2内への分解ガスの残留防止を図ることができる。
【0050】
また、二重管外側通路には吸着材4に接触する前のガスが流れているので、採取口13より吸着材4に接触する前の状態のガスを採取することができる。
【0051】
なお、上述の説明では、給排気管外側通路と二重管外側通路を往路15とし、二重管内側通路と給排気管内側通路を復路16としているが、必ずしもこの構成にする必要はなく、二重管内側通路と給排気管内側通路を往路15とし、給排気管外側通路と二重管外側通路を復路16としても良い。
【0052】
また、上述の説明では、循環装置22を吸着材収容室21の入口に設けていたが、ガスの強制的な循環流を発生させることが可能な位置であれば循環装置22を他の位置に設けても良い。
【0053】
ここで、連通路9の二重管構造について説明する。連通路9の二重管構造としては、例えばガス絶縁電力機器の運転時等には二重管となっているが、接地タンク2から密閉容器5を切り離す場合には一重管となる構造の採用が考えられる。その一例を図3に示す。連通路9の内管17は、例えば可撓性のあるチューブで構成されている。密閉容器5内には、チューブ巻取装置23が設けられている。チューブ巻取装置23によって内管17を巻き取ることで、外管18内から内管17を引き抜くことができる。また、巻き取った内管17をチューブ巻取装置23によって外管18内に送り出すことができる。内管17が送り出されることで、連通路9は二重管構造となる。つまり、内管27と二重管の内管19を1本のチューブで構成している。
【0054】
第1の開閉弁7と第2の開閉弁11は、例えばバルブとして開路の状態で給排気管6又は外管29の断面と直線性が確保できるフルボアタイプのボールバルブである。第1及び第2の開閉弁7,11を開くことで外管29と給排気管6とで構成される外管18の中に内管17を送り出すことが可能になる。また、内管17を巻き取ることで、第1及び第2の開閉弁7,11を閉じることが可能になる。ただし、第1及び第2の開閉弁7,11として、フルボアタイプのボールバルブ以外のバルブを使用しても良い。
【0055】
ガス絶縁電力機器の運転時には、第1及び第2の開閉弁7,11を開き、内管17を外管18の中に送り出しておくことで、連通路9を往路15と復路16とからなる循環路にすることができる。そして、接地タンク2から密閉容器5を切り離す場合には、チューブ巻取装置23によって内管17を巻き取った後、第1及び第2の開閉弁7,11を閉じ、給排気管6から外管29を取り外せば良い。また、切り離した密閉容器5を接地タンク2に取り付ける場合には、絶縁ガス1雰囲気で給排気管6に外管29を接続した後、第1及び第2の開閉弁7,11を開き、チューブ巻取装置23によって内管17を外管18の中に送り出せばよい。
【0056】
なお、電動のチューブ巻取装置23は密閉容器5の外から遠隔操作される。ただし、電動のチューブ巻取装置23に代えて、手動のチューブ巻取装置23を使用しても良く、この場合には、ガスシールが施されたハンドルを操作してチューブ巻取装置23を駆動させる。
【0057】
また、内管17として可撓性のチューブの使用に代えて、蛇腹構造の内管17を使用し、伸縮させることで外管18の中に挿入したり引き抜いたりするようにしても良い。蛇腹構造の内管17を伸縮させる手段としては、例えば内管17内にロッドを挿入して先端同士を接続しておき、ロッド操作によって蛇腹構造の内管17を伸縮させることが考えられる。あるいは、内管17をテレスコープ形シリンダ構造、即ち直径が少しずつ異なる複数のパイプによって内管17を構成し、各パイプを順次隣のパイプ内に収納したり引き出したりすることで全体として伸縮できる構造にし、伸縮させることで外管18の中に挿入したり引き抜いたりするようにしても良い。この構造の内管17を伸縮させる手段としては、例えば内管17内にロッドを挿入して先端同士を接続しておき、ロッド操作によって内管17を伸縮させることが考えられる。
【0058】
また、伸縮可能な内管17に代えて、例えば金属製のパイプ等の伸縮しない内管17を使用してもよい。即ち、長尺の内管17をそのまま軸方向に引き抜くようにしても良い。この場合には、構造を簡単にすることができる。ただし、図3の矢印A方向に内管17を軸方向に引き抜くことができる空間を必要とするので、かかる空間が確保できる場合に有効である。
【0059】
また、連通路9の二重管構造としては、上述の接地タンク2から密閉容器5を切り離す場合に一重管にする構造の他に、一重管にすることができずに常時二重管となっている構造の採用も考えられる。この場合、第1及び第2の開閉弁7,11として、例えば図4に示すように、フルボアタイプのボールバルブのボール7a,11a内の貫通孔を連通路9の二重管と同一径で接続される二重構造として、往路15と復路16の両方を同時に開閉できる構造とすることが考えられる。
【0060】
また、上述の説明では、接地タンク2に既存の給排気管6を利用して連通路9を構成していたが、給排気管6とは別に連通路9を設けても良い。この例を図5に示す。この例では、接地タンク2に既設のハンドホールフランジ(開口フランジ)蓋24に孔を設けて接地タンク側連通路28となる二重管30を固着し、これに密閉容器側連通路10となる二重管31を連結している。この場合には、各二重管30,31の直径をある程度自由に選択できるため、連通路9の設計の自由度が向上し、連通路9の形成が容易である。ただし、二重管30の固着位置としては、ハンドホールフランジ蓋24に限るものではない。
【0061】
また、例えば、図6に示すガス絶縁電力機器に適用しても良い。なお、上述のガス絶縁電力機器の部材と同一の部材には同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0062】
このガス絶縁電力機器は、往路15と復路16を別々に設けた配管25,26,32,33によって構成している。配管25,26は、例えばハンドホールフランジ蓋24に孔を設けて固着している。また、配管32,33は密閉容器5に固着している。配管32は配管25に、配管33は配管26にそれぞれ切り離し可能に接続されている。
【0063】
ハンドホールフランジ蓋24は給排気管6よりも大径であり、連通路9を二重管構造とした場合に比べて、往路15と復路16との間を離して設置することができる。このため、接地タンク2内でガスをより効率よく循環させることができ、接地タンク2内の分解ガスの残留をより一層防止することができる。また、ハンドホールフランジ蓋24への配管25,26の固着は容易であり、ガス絶縁電力機器の製造は簡単である。なお、配管25,26をハンドホールフランジ蓋24以外の部分に固着させても良い。また、各配管25,26のいずれか一方を給排気管6を利用して構成しても良い。また、ガス絶縁電力機器の同一ガス区画に2ヵ所以上のハンドホールフランジ蓋24が設けられている場合には、別々のハンドホールフランジ蓋24に往路15となる配管25と復路16となる配管26を固着するようにしても良い。この場合には、往路15と復路16をさらに離すことができるため、接地タンク2内でガスをより一層効率よく循環させることができ、接地タンク2内の分解ガスの残留をさらに防止することができる。
【実施例1】
【0064】
分解ガスの経時変化を調べる実験を行なった。
(1)まず最初に、分解ガスの生成メカニズムについて説明する。
【0065】
加熱や再結合により,化学式1に示すように、SFガスはイオウ原子とフッ素原子に解離し,多くの基やイオン,中性分子を形成する。
【0066】
【化1】

【0067】
ここで、エネルギーΔEの入力がなくなれば,イオウ原子やフッ素原子のほとんどは再結合によりもとのSFに戻るが,一部は酸素や水分,装置の構成材料と結合して分解ガスとなる。化学式1において主に発生するガスはX=4のSFである。コロナ放電やスパークオーバに伴う分解ガスは,SFが酸素原子や水分と反応して酸素を含んだフッ化イオウを形成しやすい。これらの分解ガスの発生メカニズムを図7に示す。破線はSFガスが分解されている期間中でのみ生じる反応である。特に再結合時,機器内に酸素原子などが存在すると,化学式2〜化学式5のように酸素を含んだフッ化物であるSOF,SOF,SOなどが発生する。ここでは,これらの分解ガスの中から本発明に適する分解ガス種を,検出感度,経時変化等の観点から実験的に検討した。
【0068】
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【0069】
(2)次に、実験方法について説明する。
部分放電によるSF分解ガス生成実験は,小型でハンドリングの容易な基礎実験タンクと大型で実機を模擬できる実規模タンクを用いて行った。基礎実験タンクは,容積が15.5リットルと小さいために,比較的容易に高濃度の分解ガスを生成することができる。このため,分解ガスの種類の同定や性状の分析,部分放電電荷量と分解ガス濃度との関係の定量的評価,前述した吸着剤ユニットの評価などに適する。実規模タンクは,容積が900リットルと大きく,実機と同程度の圧力も達成できるために,実機を想定した実験を行うことができる。いずれの実験の場合も極力不純物の混入を避けるため,1時間以上の真空引きを行い,さらにSFガスによる置換を数回行った後に規定圧力のSFガスを充填した。また,実験は室温(25℃)にて行った。以下に,それぞれの実験系と使用機器を説明する。
【0070】
(2.1)基礎実験タンク実験系
まず、実験配置について説明する。基礎実験タンクにおける電極配置図を図8に示す。タンクはエポキシ樹脂製の絶縁筒と金属フランジで構成され,上部フランジに高電圧を印加する。内径は240mm,高さは360mmである。内部に電極や部分放電検出回路などを設置した状態でのガス容積は15.5リットル(実測値)である。SFガス圧力は0.1MPa(abs.)とした。また,実験は電磁波に対して40dBの遮蔽性能を有するシールドルーム内で実施した。
【0071】
電極は,高電圧側は平坦部直径130mmの平板電極,接地側は直径0.5mm,長さ35mmの針電極であり,ギャップ長は15mmとした。図9に同電極系の電界を示す。この針電極は,下部の接地側平板電極から絶縁スペーサで絶縁されており,針で発生する部分放電に伴う電流は高周波シャント(50Ω)を介して接地へ流れる。このときの高周波シャント抵抗の電位差をオシロスコープ(Tektronix社製TDS7254B,アナログ帯域2.5GHz,20GS/s)で測定する。オシロスコープの入力インピーダンスは50Ω,サンプリングは800ps/pt,レコード長25×106ワード,計測時間は20ms(商用周波数50Hzの1サイクル)とした。このとき各部分放電パルスの電荷量Qは,数式1で表される。
【0072】
【数1】

但し,Q:部分放電パルスの電荷量、V:オシロスコープの観測電圧、Rs:シャント抵抗(50Ω)である。
【0073】
さらに商用周波数50Hzの1サイクル中の総電荷量Qtotalは数式2で表される。
【数2】

但し,t1−t0=20msである。
【0074】
部分放電は針先の状態により大きく変化する。本試験では安定した部分放電を発生させるために,ギャップの最低破壊電圧(V50−3σ)の80%程度の電圧を8時間程度印加してエージングを行った針電極を使用した。
【0075】
試験電圧は交流(商用周波数50Hz)であり,東京変圧器製のコロナフリー型の試験用変圧器(100kV,10kVA)より印加した。
【0076】
次に、分析装置配置について説明する。
基礎実験タンクにおけるガス流路および分析装置配置を図10に示す。なお、図中、V.Pは真空ポンプ、D.Pはドライポンプ、P.Gは真空ゲージである。ガス循環システムを有する閉ループ構成とし,ループ内に吸着剤ユニット,ガス循環用ドライポンプ,分析用ガス採取ボンベ,および2種類の分析装置を配置し,ガス検知管用の汎用ポートを設けた。分析装置の詳細は後述するが,FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)は分解ガス種の同定および定量化が可能であり,DILO社製ガス分析装置は,主に水分を計測する目的で設置した。今回,対象ガス(SO)の定量化,およびFTIRの絶対値校正を行うために,別途対象ガスを図10中の分析用ガス採取ボンベに採取し,ガスクロマトグラフを用いた分析を実施した。それぞれの装置のガス入出力口にはバイパスを設けておき,必要に応じて装置を系から切り離す(系に入れる)ことが可能である。強制循環させるガスの流量は3リットル/min程度とした。
【0077】
(2.2)実規模タンク実験系
まず、実験配置について説明する。実規模タンクの電極配置を図11に示す。実規模タンクは内径1000mm,高さ1000mmである。ガス容積は約900リットルである。SFガス圧力は0.5MPa(abs.)とした。実験はすべてシールドルーム内で行った。
【0078】
電極は,高電圧側は平坦部直径360mmの平板電極,接地側は直径0.5mm,長さ28mmの針電極でありギャップ長は15mmとした。基礎実験タンクの場合と若干針長が異なるが,ギャップ長は等しく,結果的にギャップ間の電位分布は基礎実験タンクの場合(図9)とほぼ等しい配置とした。基礎実験タンクの場合と同様,この針電極は,下部の接地側平板電極から絶縁スペーサで絶縁されており,針で発生する部分放電に伴う電流は高周波シャントを介して接地へ流れる。このときの高周波シャント抵抗の電位差をオシロスコープ(Tektronix社製TDS7254B,アナログ帯域2.5GHz,20GS/s)で測定する。
【0079】
試験電圧は交流(商用周波数50Hz)であり,Haefely製のコロナフリー型の試験変圧器(200kV,25kVA)より印加した。
【0080】
次に、分析装置配置について説明する。
実規模タンクにおける分析装置配置(ガス配管)は,図10に示す基礎実験タンクの配置とほぼ等しい。ガスの循環はタンクの側面に対向して設置されたガスポートより行う(図11参照)。
【0081】
(2.3)ガス分析装置および分析手法
(a) FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)
赤外線を気体分子に照射すると,分子を形成している原子間の振動エネルギーに相当する赤外線を吸収する。この吸収度合いを調べることによって化合物の構造推定や定量を行う(赤外分光法)ことが可能である。赤外分光法を行う装置として,現在では,レーザ光による波数モニタ・移動鏡を有する干渉計・コンピュータによる電算処理部を有するフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)が主流となっている。SFおよびそれに成分が近い分解ガスは地球温暖化ガスであり,大気の窓と呼ばれる赤外線を吸収する特徴を有しており,FTIRによる検出が可能である。使用した装置の概要は以下の通りである。
【0082】
・名称:MATTSON Infinity Gold
・内部構成:マイケルソン干渉計,コーナーキューブミラー使用,レーザークワドラチュア方式
・赤外光源:高輝度空冷セラミック中赤外光源
・ビームスプリッタ:Ge/KBr
・スペクトル範囲:7000〜700 cm−1 (分解能:0.5〜32cm−1
・ガスセル:超低容量・ロングパス型ガスセル(パス長さ:2.0m)
【0083】
(b) DILO社製ガス分析装置
イオン・モビリティー・スペクトル法による分解生成物の発生,水分量,SFガス純度の計測ができるが,今回の実験では主に水分量の計測を行った。使用した装置の概要は以下の通りである。
【0084】
・ 分解生成物測定機能
測定範囲:0〜5000ppm Vol.
精度 :2%(100/5000ppm Vol.)
・ 水分測定機能
計測範囲:露点−50〜+10℃
精度 :±2% 露点+10〜40℃の範囲
±4% 露点−40℃以下
・ 体積百分比%(純度)測定機能
計測範囲:0〜100 Vol.%SF
精度 :±1% SF−N−混合基準
【0085】
(c) ガスクロマトグラフによるガス分析
ガスクロマトグラフによるガス分析は株式会社東レリサーチセンターにおいて実施した。分析手法の詳細は特許第3318473号において公開されているので,ここでは本手法の概要を述べる。本手法の優れた点は,SFガス中に微量に存在するSF分解ガスの分離が可能である点(通常は,元のSFガスに構成が類似しているために分離が困難),今回のように標準ガスの入手の困難なガスの定量化が可能な点,および分解能に優れる点である。すなわち,別途標準ガスを必要とせず,試験で生成した分析対象ガスから標準ガスを生成し,ガスの定量分析を行うことができる。一連の分析手順は以下の通りである。SFガス中の分解ガス(今回はSOガス)は,専用のキャピラリーカラムと手法により分離され,原子発光検出器(GC/AED)により定量化される。このガスを希釈して標準ガスとして用い,高分解能分析装置である電子捕獲型ガスクロマトグラフ(GC/ECD)のキャリブレーションカーブを取得する。以降,試験において生成された分解ガスはキャリブレーションの実施されているGC/ECDにより定量分析することが可能となる。分解能は0.5ppb Vol.で誤差0.5%以内である(ppbはppmの1/1000)。
【0086】
(d) ガス検知管
ガス検知管は,ガスと指示薬が反応し変色することで,対象ガスの濃度を示す。電力の現場においても容易にガス分析を行うことができるために,機器の定期点検時などに用いられている。今回は光明理化学工業製の北川式ガス検知器と専用の検知管を使用した。ガス検知管は対象ガスだけでなく,その他各種のガス(妨害ガス)にも反応するため,今回のように様々な分解ガスの発生が予想される場合,指示値は対象ガスの絶対量を示すものではない。ただし,清浄なSFガスに対しては反応することがないため,分解ガスの有無(部分放電の有無)を判断することが可能である。今回は表1に示すガス検知管を使用した。
【0087】
【表1】

【0088】
(3)次に、実験結果および考察について説明する。
基礎実験タンクでは,分解ガスの蓄積効果の検証,分解ガス種の同定,分解ガスの経時変化特性の取得,部分放電と分解ガスの定量的評価および外部吸着剤ユニットの効果の検証を目的とした実験を行った。SFガス圧力は0.1MPa(abs.)とし,電圧印加時間は連続8時間とした。実規模タンクでは実機を想定し,比較的小規模な部分放電を発生させ,長時間にわたる分解ガスの蓄積を行い,分解ガス検出の検証を行った。SFガス圧力は0.5MPaとし,電圧印加時間は連続72時間とした。各実験における部分放電の詳細は後述するが,それぞれ概要を表2に示し,一例として観測された部分放電電流波形を図12に示す。また,同表には実験後のSFガスの含有水分量を併記する。基礎実験タンクの実験において,比較的含有水分量が多いが,これは実験タンク(エポキシ製)の器壁に吸着している水分がガス中に放出されたためと考えられる。今回の実験では後述するとおり,含有水分量58ppm以下(実規模実験タンク)の場合でも分析に十分な分解ガスが生成されている。また,印加電圧に交流(商用周波数50Hz)を使用し,部分放電について1時間に10回のサンプリングを行った。表2の値は,最大電荷量については実験中の最大値,平均電荷量は1パルスあたりの平均値,他については取得したデータの平均値(商用周波数(50Hz)1サイクルあたり)を示した。
【0089】
【表2】

【0090】
(3.1) FTIRによる分解ガス種の同定と蓄積効果の検証
FTIRを用いる場合,分析結果は波数(wave number[cm−1])に対する吸光度(Absorbance)のスペクトルとして表される。したがって,このスペクトルからガス種の同定を行う必要があるが,今回は発生する分解ガスがある程度判明していることから,これらのガスのライブラリデータおよび文献データより実測データとの照合を行った。
【0091】
図13にライブラリ(lib)および文献(Ref)による分解ガスを実線,参考として実測(mes)したSFのスペクトルを破線で示す。横軸は波数,縦軸は吸光度である。図13中の縦軸に平行な実線はガス種の同定に使用した波数を示し,図13の上部に対応するガス種を示す(波数の決定理由は後述する)。
【0092】
吸光度は,FTIR本体,使用するガスセルおよびガス種(波数)によって異なり,同一ガス種(波数)の場合,濃度に対して相対的な値となる(すなわち,同じ波数(同一ガス種)の場合,吸光度が大きいほど濃度が高いが,波数が異なる(異種ガス)場合,吸光度が大きい方が濃度が高いとは限らない)。したがって,ガスの定量化を行う場合は,別途標準ガスを用いて校正する等の手法が必要である。今回の実験では,標準ガスの入手が困難であることから,実験で生成した分解ガス(濃度3種類)をガスクロマトグラフにおいて定量分析し,吸光度の定量値校正を行った。校正を行ったガス種は経時安定性に優れるSOとした。本来,ある種類のガスが分解や再結合により,別のガスに変換することでガスの割合が変化すると,先に述べたとおりFTIRにおいて元のガスの吸光度は減少する。しかし,今回の実験では,部分放電により発生する分解ガスは極微量であり,分解後においてもなおSFガスが大半を占めるために,SFガスに対応するスペクトルに変化はない。したがって,FTIRにおける測定では,通常バックグラウンドの測定をした後,サンプルの測定を実施し,その差分からガスの評価を行うが,今回はバックグラウンドにSFガス(ボンベからの新ガス)を用い,分解ガスのスペクトルのみが出力されるようにした。図14に0.1MPaのSFをバックグラウンドにした場合に実測した放射率(Emissivity)を示す。放射率はFTIR計測において「窓」と呼ばれるもので,放射率がゼロの部分は感度がない(「窓」が閉じている)。図14より,SFガスの濃度が高いために図13の波線で示すSFの吸光度の大きなピークに対応する波数部分は感度がないことがわかる。したがって,分解ガスの測定には,分解ガスのスペクトルが既知であるもののうち,「窓」の開いている部分から選択した。表3に分解ガスの種類と対応する波数を示し,図13および図14に実線で示す。分解ガスの生成過程より(図7参照),HFの発生が予想されるが,HFはFTIRの波数3500〜4000に感度を有しており,この付近は水分(HO)に感度があるために計測が困難である。
【0093】
【表3】

【0094】
図15に電圧印加前,4時間後,6時間後,8時間後に測定した分解ガスのスペクトルの一例を示す。いずれの波数においても,ライブラリおよび文献データとほぼ一致するピークが認められ,良好にガス種を同定することができる。また,時間の経過とともに分解ガスの濃度が高くなっている(分解ガスが蓄積されている)ことがわかる。FTIRにおける計測では,分析対象となるガスの圧力を高くすることにより計測が高感度になる(より大きな吸光度を示す)場合がある。ただし,ベースとなるガス(今回の場合SF)の圧力も高くなるので,結果的に「窓」も狭くなるが,今回の対象ガスでは,ガス圧力0.5MPaにおいてSOFおよびSOの感度に向上が認められた。これに対しSOFの波数は感度がなくなった。参考として,後述の(4)に分析ガス圧力0.5MPa(abs.)として計測した場合の結果を示す。
【0095】
(3.2)分解ガスの経時変化特性
前節において,分解ガスは蓄積する(濃度が高くなる)ことが判明した。ガスを直接分析する手法として,現地においてガス検知管などを用いて簡易に・直ちに分析することもできるが,詳細分析を行う場合はガスを持ち帰り,後日分析を行うことになる。この場合は,寿命の長い(安定して存在する)ガス種について分析を行う必要がある。いずれの手法においても,ガスを直接分析する場合,外部吸着剤ユニットを一時的に休止させ,分解ガスの蓄積を図る必要があるが,外部吸着剤ユニットの休止期間はできるだけ短い方が好ましい。したがって,容易に異常を検出するためには,部分放電により効率的に生成され,かつ寿命の長いものが分析対象ガスに適するものと考えられる(高感度な異常検出が可能となるガス)。これは吸着剤からの分解ガスを分析する場合も同様である。ただし,寿命の短いガスが検出された場合には,至近に部分放電が発生していることを示唆している。このように,検出された分解ガス種と検出量などを総合的に考慮することにより,部分放電の規模,発生期間および発生箇所など,機器の内部状況を推定できる。また,併せてトレンド管理を行うことで,より詳細な状態管理が可能となる。
【0096】
ここでは分解ガスの経時変化を評価するために,8時間の連続課電により分解ガスを生成させ,電圧印加停止後279時間(11.6日)までの各分解ガスの経時変化をFTIRにより取得した。計測を容易にするために,比較的高濃度の分解ガスを生成させることとし,部分放電量は平均して交流1サイクルに2000以上の部分放電パルスが発生する程度とした(今回の実験ではもっとも激しい放電量となる。詳細は,前出の表2参照)。
【0097】
図16に各分解ガスの経時変化結果を示す。同図より各種の分解ガスは電圧の印加とともに着実に蓄積されて(増加して)いることがわかる。また,SF,SOFおよびSOF(図16(a)および図16(b))は電圧印加停止直後から減少していることから,寿命が比較的短いことがわかる。これに対しSOは電圧印加停止後も増加し続け,約30時間経過時点から平衡し,計測を終了した279時間経過時点まで安定して存在している。これは図7に示すとおり,SOは部分放電により直接生成されるわけではなく,SF,SOFおよびSOFが転換して生成されるためであると考えられる。特に,波数1503cm−1のSOは,今回選択したガス種・波数のうち,もっとも吸光度が高く(感度が良く)FTIRによる分析においては有望であるといえるが,前述の通りSF,SOFおよびSOFの有無も機器の状態診断の重要な要素となり得る。また,後述の(5)に本試験で発生させた部分放電の詳細を示す。
【0098】
(3.3)部分放電と分解ガスの定量的評価
一般的な電気信号による部分放電の検出手法では,検出された信号から部分放電のパラメータを推定する。この場合,検出される電気信号は個々(単パルス)の部分放電の電荷量(C/pulse)に対応している。これに対し,本手法においては分解ガスの時間的な蓄積が重要な要素となるために,対応する部分放電のパラメータは蓄積期間中の総電荷量と考えられる。ここでは分解ガスと部分放電量相互の関係を明確にするために,表4に示す3レベルの部分放電量を設定して分解ガスの特性を取得した。分解ガスの生成時間(電圧印加時間)は8時間である。
【0099】
【表4】

【0100】
図17に商用周波数(50Hz)1サイクル(20ms)あたりのパルス数,総電荷量,平均電荷量,および最大電荷量の時間的推移を示し,表4には部分放電量に関するパラメータと定量化したSO濃度,およびガス検知管により得られた電圧印加直後の各種ガス濃度を示す。今回の実験では,部分放電について1時間に10回のサンプリングを行っており,図17および表4中の値は,最大電荷量,平均電荷量は1パルスあたりの最大値および平均値,部分放電パルス数および総電荷量については商用周波数(50Hz)1サイクルあたりの平均値として示した。今回実験で得られたSOの発生割合は,1300〜4800μmol/C程度であった。
【0101】
図17および表4より,「レベル1〜3」までの部分放電量を比較すると,平均電荷量においてはほぼ等しく,最大電荷量においても,最も高い数値を示す「レベル3」の場合でも「レベル1」のたかだか2倍程度しかない。しかし,パルス数は「レベル1」の20倍程度あり,結果的に総電荷量は25倍程度となる。(5)に各実験における部分放電の極性,1パルスあたりの部分放電電荷量のヒストグラムなどを示す。
【0102】
ガス検知管による分析については,すべての場合で電圧印加停止後,時間の経過とともに感度が低下し,HF用検知管は停止後40時間程度では検出不能となり,SO用検知管は停止後70時間程度で初期値の1/3以下となった。
【0103】
図18に総電荷量とFTIR吸光度の関係を示す。同図において縦軸の吸光度は,計測における最大値である。すなわち,(a)SF,SOF,および(b)SOFは電圧印加停止直後の値,(c)のSOについては,電圧印加停止後も徐々に濃度が上昇するために(図16(c)参照),濃度が安定している電圧印加停止70時間後の値とした。いずれの分解ガスも,部分放電の総電荷量と吸光度(分解ガス濃度)に顕著な相関が認められ,総電荷量が多いほど分解ガス濃度が高いことがわかる。
【0104】
また,SOについては,濃度が安定している電圧印加停止70時間後にガスクロマトグラフによる定量分析を行った。図19に,総電荷量と定量分析により得られたSO濃度を示す。両者の関係は以下の実験式(数式3)で表すことができる。
【0105】
【数3】

但し,C'SO2F2:SO濃度[ppm]、Qtotal:AC1サイクル中の総電荷量[pC]、電圧印加時間:8時間、ガス体積:15.5リットルである。
【0106】
SOについては定量分析により濃度が判明しているため,FTIRのSOに関する吸光度のうち,最も感度のある波数(1503[cm−1]:図18(c)参照)についてキャリブレーションカーブを求め,濃度の時間的推移を定量的に示したものを図20に示す。同図よりSOの生成量は,電圧印加直後よりも,数時間を経過したあたりから急速に増加し,電圧印加停止後60〜70時間程度で電圧印加停止時のおよそ2倍程度の値に収束することがわかる。電圧印加直後のSOの生成量が伸びないのは,SF,SOFおよびSOFがSOに変換する(図7参照)までにある程度の時間を必要とするため,時間遅れが生じているものと考えられる。これは電圧印加停止後もSOの量が徐々に増加していることからも類推することができる。したがって,SF,SOFおよびSOFの生成量が一定で,SOへの変換割合が一定であれば,前述した時間遅れ経過後,SOは一定に増加するものと考えられる。ここでは前述の仮定に基づくものとすると,数式3について印加時間およびガス体積を考慮した一般式は数式4で与えられる。
【0107】
【数4】

但し,CSO2F2:SO濃度[ppm]、Qtotal:AC1サイクル中の総電荷量[pC]、t:印加時間[時間]、Vg:0.1MPa換算時のガス体積[リットル]である。
【0108】
数式4は先に述べたとおり,いくつかの仮定の上に成り立っており,各パラメータの精度向上が必要であるが分解ガスの濃度推定の基本式となる。
【0109】
各分解ガスについて,電圧印加開始から約80時間までのFTIR吸光度の推移をまとめたものを後述の(6)に示す。
【0110】
(3.4)外部吸着剤ユニットの検証
本節では,外部吸着剤ユニット(吸着材4を接地タンク2とは別の密閉容器5に収容してユニット化したもので、接地タンク2に接続して密閉容器5内と接地タンク2内とを連通させたもの)による分解ガスの清浄化を検証するために,分解ガス濃度が既知である高濃度分解ガス(前節におけるレベル3のガス,SO濃度560ppm)に対して吸着剤ユニットを適用した場合と,部分放電の発生と吸着剤ユニットの運転を同時に行った場合の2つの実験を行った。先の試験においては,吸着後のガスについてSOの定量分析を行い,吸着ユニットの効果を定量的に評価した。吸着剤は,東ソー株式会社製の合成ゼオライト系吸着剤「ゼオラム」,種類:F−9,球状品,サイズ4〜8#を使用した。吸着剤は,いずれの場合も50gとし(約100cc),吸着剤ユニットへのガスの送量は毎分3リットル程度とした。
【0111】
図21に前節におけるレベル3のガス(SO濃度560ppm)に対して吸着剤ユニットを適用した場合(1時間程度運転),図22に部分放電と吸着剤ユニットの運転を同時に行った場合のFTIRによる分析結果を示す。また,表5にそれぞれの結果をまとめる。
【0112】
【表5】

【0113】
図21より吸着剤ユニットを運転することにより,分解ガスがほとんど吸着されていることがわかる。また表5に示すとおり,運転前後のSOガス検知管の指示値は100ppmから0(変化無し)ppmとなり,SOの定量分析結果は560ppmから0.011ppmと約1/50000にまで減少していた。SF中の含有水分量も定量下限値未満(<56ppm)となった。また,部分放電と吸着剤ユニットの運転を同時に行った場合(図22)の部分放電量は表2に示すとおりであり,部分放電に関する各パラメータから前節のレベル3(SO濃度560ppm)と同程度の分解ガスが発生しているものと推定される。しかし,図22より,FTIRにおいては感度がないほど清浄化されていることがわかる。実験終了時にガス検知管による検査を行った結果,SOについては感度がなく,HFについては定量下限値(0.17ppm)未満であった(ガス吸気口付近の試薬が極わずか変色する程度であり,色もHFによる指定色とは異なる)。以上より,吸着剤ユニットを外部に設け,強制的にガスを循環させることにより,十分に機器内のガスを清浄に保つことができることが判明した。(5)に本試験で発生させた部分放電の詳細を示す。
【0114】
【表6】

【0115】
(3.5)実規模実験系における分解ガスの検出
本実験では実機を想定し,大型の実規模タンク(ガス容量900リットル)に0.5MPa(abs.)のSFガスを封入して実験を行った。したがって,使用したガスの量は,基礎実験タンクの場合の約290倍である。発生させた部分放電は,総電荷量ベースで前述基礎実験タンクの場合の約1/2000の27pC程度とし,電圧の印加時間は連続72時間とした。実験で発生させた部分放電について,商用周波数(50Hz)1サイクル(20ms)あたりのパルス数,総電荷量,平均電荷量,および最大電荷量の時間的推移を図23に示す。また,表6には部分放電の概要とガス分析結果をまとめて示す。いずれも1時間あたり10回の計測を行ったが,最大電荷量,平均電荷量は1パルスあたりの最大値および平均値,部分放電パルス数および総電荷量については商用周波数(50Hz)1サイクルあたりの平均値として示した。表6より,最大電荷量が比較的大きい印象をうけるが,これは72時間の実験中において極めて稀に発生するものであり,平均電荷量は4.6pCと極小さい。図24に本試験において計測された全部分放電パルスの電荷量をヒストグラムで整理したものを示す。同図の縦軸はもっとも多かったもの(3.8pC以下)で規格化されており,20pCを超える部分放電は殆ど無いことがわかる。
【0116】
本試験においても,ガス検知管による分析と電圧印加停止後70時間程度のガスについてSOの定量分析を行った。FTIRでは分解ガスを検出することができなかった。ガス検知管では電圧印加停止直後にHFにおいて,定量下限値(0.17ppm)未満ではあるが,指示薬がわずかに変色し分解ガスの存在を示した。ただし,24時間後に再度ガス検知管による検査を行った際には,いずれの検知管にも変化はなかった。また,ガスクロマトグラフによるSOの定量分析の結果,0.029[ppm]が確認された。以上より,今回の実験条件(ガス体積,部分放電レベル)であれば,72時間程度の蓄積により十分に部分放電を検出することができることが判明した。
【0117】
また,この実験条件におけるSOの濃度は,数式5より求めると以下の通りである。
【0118】
【数5】

【0119】
計算結果と実測値には若干の差があるが,数式4は現時点における限られた実験データから提案しており,ここで取り扱っているオーダーがppb(ppmの1/1000)である点を考慮すれば,今後実験を重ねることにより,さらに精度の高い実験式を得ることは十分可能であると考えられる。
【0120】
(3.6)吸着剤ユニットからの分解ガスの検出
上述の(3.4)節において,吸着剤ユニットの効果を検証するために,高濃度分解ガスを吸着剤に吸着させたが(表5における実験1),この吸着剤からの分解ガスの検出を行った。今回使用した吸着剤(合成ゼオライト系吸着剤)は物理吸着タイプであるので,吸着剤に吸着したガスの追い出しには「加熱追い出し法」を用いた。これは吸着剤を300℃に加熱して分解ガスを追い出す手法であり,追い出したガス中のSOについて定量分析を行った。追い出しに用いた吸着剤の量は20[g]であり,追い出しに用いた加熱容器の容量は0.028リットルである。この結果,気相部の成分濃度は1.5ppmであった。したがって,加熱容器中のSOの体積(VSO2F2)は,数式6となる。
【0121】
[数6]
SO2F2=1.5×10−6×0.028=4.2×10−8[リットル]
【0122】
これを質量(MSO2F2)に変換すると,数式7となる。
[数7]
SO2F2=4.2×10−8/24.46×102.07
=0.18×10−6[g]
=0.18[μg]
但し,24.46:25℃における理想気体1molの体積[リットル],102.07:SOの分子量である。
【0123】
追い出しに使用した吸着剤の量は20gであるので,単位質量あたりの吸着剤からのSOの分離量は約0.01[μg/g]となる。また,吸着剤の総量は50gであったので,吸着剤全体からは0.5μgの分離が可能となる。一方,吸着剤通過前のSOは560ppm,総ガス量は15.5リットルであることから,同様にSOの質量を求めると36.2[mg]となる。したがって,吸着剤から分離されたSOは全体のわずか0.0014[%]に過ぎず,ほとんどのSOが吸着剤に吸着されたままであるものと思われる。この原因としては,加熱追い出し法における加熱温度が不足していることが考えられる。但し,現時点においても吸着剤から追い出しされたSOは1.5ppm(1500ppb)の濃度を有しており,ガスクロマトグラフの分解能(0.5ppb)を考慮した場合,十分な感度を有していると言える。
【0124】
(4)次に、FTIR分析においてガス圧力を0.5MPaとした場合のスペクトルについて説明する。
図25にFTIR分析においてガス圧力を0.5MPaとした場合のスペクトルを示す。同図(a)よりSOFについて感度がないことがわかる。但し,ガス圧力0.1MPaの場合に比べ,SOFおよびSOの感度に向上が認められた。
【0125】
(5)次に、基礎実験タンクにおいて発生させた部分放電に関する詳細について説明する。
図26に基礎実験タンクを使用して行った試験((3.2)節:分解ガス経時変化特性評価,(3.4)節:外部吸着剤ユニットの検証)において発生させた部分放電に関する詳細を示す(ガス圧力0.1MPa,連続印加時間8時間)。同図は商用周波数50Hzの1サイクル(20ms)中のパルス数,総電荷量,平均電荷量および最大電荷量について時間的推移を示したものである。いずれも1時間あたり10回の計測を行ったが,最大電荷量については計測中の最大値,他については平均値とした。同図中には,参考としてSOの生成量が定量化できている部分放電量のうちもっとも大きいもの((3.3)節におけるレベル3)を併せて示す。同図からわかるとおり,「分解ガス経時変化特性評価」および「吸着剤ユニットの検証」については,「レベル3」と同等程度の部分放電量が発生しており,分解ガスも同等程度生成されているものと考えられる。
【0126】
図27にそれぞれの実験における部分放電の極性および,1パルスあたりの電荷量の分布を表すヒストグラムを表す。ヒストグラムは計測したすべての計測値を累積しており,分解ガス(SO)の定量化ができているレベル3のうちもっとも多いもので規格化した値である(すなわち,レベル3において最大値が1となる)。いずれの場合も負極性の部分放電が支配的であることがわかる(針電極は接地側に設置されている点に注意)。
【0127】
(6)次に、分解ガスの経時変化(FTIRによる分析結果)について説明する。
図28〜図30に,部分放電レベルを変化させた場合の各分解ガスに対するFTIR吸光度の時間的推移を示す。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明の異常検出方法を実施するガス絶縁電力機器の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の異常検出方法を実施するガス絶縁電力機器の第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図3】連通路の内管を伸縮させる構造の例を示す概略構成図である。
【図4】第1及び第2の開閉弁を示し、(A)は開路状態の断面図、(B)は閉鎖状態の断面図である。
【図5】図2のガス絶縁電力機器の変形例を示す概略構成図である。
【図6】本発明の異常検出方法を実施するガス絶縁電力機器の第3の実施形態を示す概略構成図である。
【図7】分解ガスの発生メカニズムを示す図である。
【図8】電極配置を示す図である。
【図9】針先の等電位面と電位分布(r=0で回転対称)を示す図である。
【図10】ガス配管と各装置の配置を示す図である。
【図11】電極配置を示す図である。
【図12】観測された部分放電電流の一例を示す図である。
【図13】各種SF分解ガスのFTIRスペクトル(ライブラリ及び文献値)を示す図である。
【図14】SF(0.1MPa(abs.))をバックグラウンドにした場合の放射率を示す図である。
【図15】分解ガスのスペクトルの一例を示し、(a)は波数700〜950についての図、(b)は波数1200〜1400についての図、(c)は波数1400〜1600についての図である。
【図16】各分解ガスの経時変化を示し、(a)はSFとSOFについての図、(b)はSOFについての図、(c)はSOについての図である。
【図17】部分放電量の時間的推移を示し、(a)は部分放電パルス数についての図、(b)は総電荷量についての図、(c)は平均電荷量についての図、(d)は最大電荷量についての図である。
【図18】総電荷量とFTIR吸光度との関係を示し、(a)はSFとSOF(電圧印加停止直後の吸光度)についての図、(b)はSOF(電圧印加停止直後の吸光度)についての図、(c)はSO(電圧印加停止約70時間後の吸光度)についての図である。
【図19】総電荷量とSO濃度の関係を示す図である。
【図20】SOの生成量の時間的推移を示し、(a)はレベル1についての図、(b)はレベル2についての図、(c)はレベル3についての図である。
【図21】高濃度分解ガスに対する吸着材ユニットの検証結果を示し、(a)はSFとSOFについての図、(b)はSOFについての図、(c)はSOについての図である。
【図22】部分放電の発生と吸着材ユニットの同期運転の結果を示し、(a)はSFとSOFについての図、(b)はSOFについての図、(c)はSOについての図である。
【図23】部分放電の時間的推移(実規模タンクによる基礎実験)を示し、(a)は部分放電パルス数についての図、(b)は総電荷量についての図、(c)は平均電荷量についての図、(d)は最大電荷量についての図である。
【図24】部分放電電荷量のヒストムグラムである。
【図25】FTIR分析においてガス圧力を0.5MPaとした場合のスペクトルを示し、(a)はSFとSOFについての図、(b)はSOFについての図、(c)はSOについての図である。
【図26】部分放電量の時間的推移を示し、(a)は部分放電数についての図、(b)は総電荷量についての図、(c)は平均電荷量についての図、(d)は最大電荷量についての図である。
【図27】各部分放電の電荷量のヒストムグラムを示し、(a)はレベル1についてのヒストムグラム、(b)はレベル2についてのヒストムグラム、(c)はレベル3についてのヒストムグラム、(d)は分解ガス経時変化特性評価についてのヒストムグラム、(e)は吸着材ユニットの検証についてのヒストムグラムである。
【図28】FTIRによる分析結果(部分放電量:レベル1、SO濃度:5.7ppm)を示し、(a)はSFとSOFについての図、(b)はSOFについての図、(c)はSOについての図である。
【図29】FTIRによる分析結果(部分放電量:レベル2、SO濃度:33ppm)を示し、(a)はSFとSOFについての図、(b)はSOFについての図、(c)はSOについての図である。
【図30】FTIRによる分析結果(部分放電量:レベル3、SO濃度:560ppm)を示し、(a)はSFとSOFについての図、(b)はSOFについての図、(c)はSOについての図である。
【符号の説明】
【0129】
1 絶縁ガス
2 接地タンク
4 吸着材
5 密閉容器
9 連通路
13 採取口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスが封入されている接地タンク内で発生した分解ガスを吸着する吸着材を前記接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、前記密閉容器内と前記接地タンク内とを連通し、前記分解ガスを前記密閉容器内に導いて前記吸着材によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、前記接地タンクから前記吸着材に至るまでの間の連通路に設けた採取口から前記吸着材に接する前のガスを採取し、SOの検出に基づいて前記接地タンク内での異常の発生を検出することを特徴とするガス絶縁電力機器の異常検出方法。
【請求項2】
絶縁ガスが封入されている接地タンク内で発生した分解ガスを吸着する吸着材を前記接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、前記密閉容器を前記接地タンクに切り離し可能に接続して前記密閉容器内と前記接地タンク内とを連通し、前記分解ガスを前記密閉容器内に導いて前記吸着材によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンク側連通路を閉じた状態で前記接地タンクから前記密閉容器を切り離して前記吸着材の分析を行ないSOの検出に基づいて前記接地タンク内での異常の発生を検出することを特徴とするガス絶縁電力機器の異常検出方法。
【請求項3】
前記SOに加えて、SFとSOFとSOFのうち少なくとも一のガスの検出に基づいて前記接地タンク内での異常の発生を検出することを特徴とする請求項1又は2記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図25】
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【図26】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図24】
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【図27】
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【公開番号】特開2008−67535(P2008−67535A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243946(P2006−243946)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月15日 社団法人 電気学会発行の「平成18年電気学会全国大会 講演論文集[6]」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年6月 財団法人 電力中央研究所発行の「電力中央研究所報告」に発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】