説明

ガス遮断器

【課題】大型化することなく、電極間の絶縁回復能力を高め、遮断性能を向上させることができるガス遮断器を提供する。
【解決手段】ガス遮断器は、電極棒15と可動電極17との間のアークを電磁力により回転駆動させるコイル21と、電流遮断動作に連動して消弧性ガスを蓄圧し、この蓄圧した消弧性ガスをアークに吹付けるパッファ圧縮装置18とを備えている。また、ガス遮断器にはアークの回転駆動範囲を制限する絶縁ノズル部材31を備えている。アークは絶縁ノズル部材31のテーパ面31bに沿って回転駆動することにより、アークの外周方向への拡がりが抑制される。アークはテーパ面31bに沿って回転することにより消弧性ガスの直撃を受けやすい状態となり、このアークに対して消弧性ガスがアーク空間の広範囲に渡って放射状に吹付けられる。このため、回転しているアークに対する消弧性ガスの吹き付け精度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性ガスを消弧媒体として電極間に発生したアークを消弧するガス遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パッファ方式及び回転アーク式の両消弧方式を組み合わせたパッファ併用回転アーク式が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。パッファ方式は、開路動作時に発生したアークによりパッファシリンダ内の消弧性ガスを圧縮し、この圧縮された消弧性ガスを固定接触子と可動接触子との間に発生したアークに吹き付けると共に、消弧性ガスの冷却効果により遮断する消弧方式である。一方、回転アーク式は、次のような消弧方式である。即ち、開路動作時に固定接触子と可動接触子との間に発生したアークを当該可動接触子の移動に伴ってアークランナに移行させる。この際、アークランナの周囲に巻回されたコイルにアーク電流が流れることにより電磁力が発生する。この電磁力によりアークをアークランナ上で高速回転させることによって、当該アークを引き延ばすと共に、消弧性ガスの冷却効果により遮断する。
【0003】
次に、従来のパッファ併用回転アーク式の消弧装置の構成について説明する。このパッファ併用回転アーク式の消弧装置は、固定接触子側に設けられた昇圧室を備えており、当該昇圧室内には磁気駆動部材(コイル)が収容されている。電流遮断時において、昇圧室内において可動接触子と固定接触子との間に発生したアークは、磁気駆動部材により回転駆動される。この磁気駆動部材による磁気駆動作用によりアークは引き延ばされアーク電圧が高くなり、消弧される。さらに、昇圧室内で発生したアークにより当該昇圧室内の消弧性ガスは加熱されて膨張し、当該昇圧室内において蓄圧される。この蓄圧された消弧性ガスは、可動接触子が昇圧室内から抜け出るときに、当該昇圧室から放出されて両接触子間のアークに吹き付けられる。このパッファ効果によりアークが消弧される。このように、回転駆動効果とパッファ効果との相乗効果により遮断性能の向上が図られる。
【特許文献1】登録実用新案第2570590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来のパッファ併用回転アーク式の消弧装置には次のような問題があった。即ち、大電流域遮断時に比べてアークエネルギが小さい小電流域遮断時においては、昇圧室内部の温度上昇が不十分であるため消弧性ガスの蓄圧が不十分となり、その結果、消弧性ガスの吹付けが弱くなるおそれがあった。また、前記磁気駆動部材に流れるアーク電流が小さいため発生する磁界も弱く、アークの回転駆動による消弧も不十分となるおそれがあった。即ち、小電流域遮断時には十分な遮断性能を確保できないおそれがあった。
【0005】
さらに、前記従来のパッファ併用回転アーク式の消弧装置の遮断性能は、消弧性ガスの絶縁消弧性によるところが大きい。この消弧性ガスとしては、その絶縁消弧性の高さからSFガス(六フッ化硫黄ガス)が多く使用されている。ところが、近年、世界的に地球環境保護への意識が高まっており、1997年に開催された地球温暖化防止に関する国際京都会議(COP3)において、SFガスが地球温室化の要因になるとして規制対象に指定された。これは、SFガスのいわゆる地球温暖化係数(GWP;Global Warming Potentials)が高いことに着目されたものである。
【0006】
こうした状況のもと、SFガスに替わる消弧性ガスが検討されており、例えばCOガス(炭酸ガス)を消弧性ガスとして使用することが考えられている。このCOガスは、その地球温暖化係数を1とした場合、SFガスの地球温暖化係数が23900であり、地球環境保護の点においてはSFガスよりも環境負荷が低いため好ましいものである。しかし、COガスの絶縁消弧性、即ち遮断能力はSFガスのそれよりも劣る。また、ガス遮断器及びその消弧装置は、絶縁消弧性に優れたSFガスを消弧性ガスとして使用することを前提として構成されていた。このため、COガスを消弧性ガスとして採用した場合、従来のガス遮断器では十分な遮断性能が得られなかった。
【0007】
通常、電極解離時に発生するアークは、電離作用により電極間で電子の移動が行われる。SFガス中においては、電子がSFガスの分子や原子に吸着されて負イオンを生成する傾向が強く、負イオンと正イオンとが結合して中性となり、電子の移動は極端に抑制される。これにより、電極間におけるアークが発生する空間、いわゆるアーク空間のコンダクタンスが急速に低下するために、アーク空間の絶縁回復能力が向上し、消弧に至る。
【0008】
これに対し、COガスはSFガスよりも絶縁消弧性が劣っているために、電流零点時であってもアーク空間の絶縁回復能力が低い。このため、完全消弧に至らず再点弧する可能性がある。このように、地球温暖化係数は高いものの、絶縁消弧性の点では現在のところSFガスに替わる消弧性ガスが見当たらない。従って、SFガスよりも絶縁消弧性の劣る例えばCOガスを消弧性ガスとして使用した場合、十分な遮断性能を得るためには、電極間の絶縁距離を十分にとる必要があり、遮断器を大きくしなければならなかった。
【0009】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、大型化することなく、電極間の絶縁回復能力を高め、遮断性能を向上させることができるガス遮断器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、密閉ケースに消弧性ガスが封入されたガス遮断器において、電流遮断動作時に固定接触子と可動接触子との間に発生したアークを電磁力により回転駆動させる磁気駆動手段と、電流遮断動作に連動して消弧性ガスを蓄圧し当該蓄圧した消弧性ガスを前記磁気駆動手段により回転駆動するアークに吹き付ける吹付け手段と、前記磁気駆動手段によるアークの回転駆動範囲を制限するアーク制限手段とを備えたことを要旨とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のガス遮断器の消弧装置において、前記磁気駆動手段は、アーク電流により回転磁界を発生させるコイルと、当該コイルの先端に固定されると共に前記吹付け手段により蓄圧された消弧性ガスの噴出孔が形成されたアークランナとを備え、前記アーク制限手段は、前記アークランナの先端に取り付けられると共に前記アークランナの噴出孔に連通するノズルスロート部を有する絶縁ノズル部材を備え、当該ノズルスロート部の内周面を当該ノズル部材の先端に向うにつれて拡開するように形成したことを要旨とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のガス遮断器の消弧装置において、前記絶縁ノズル部材には、前記アークランナの先端を覆う被覆部を設けるようにしたことを要旨とする。
【0013】
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、電流遮断動作時に固定接触子と可動接触子との間に発生したアークは、磁気駆動手段により発生した電磁力より回転駆動する。これにより、アークは引き延ばされ且つ急速に冷却され、電流零点で消弧される。また、電流遮断動作に連動して消弧性ガスは吹付け手段により蓄圧され、当該蓄圧された消弧性ガスは前記磁気駆動手段により回転駆動するアークに吹付けられる。これにより、アークは消弧される。このように、アークを磁気により回転駆動させる消弧方式と、圧縮した消弧性ガスをアークに吹付ける消弧方式とを併用することにより、遮断性能の向上が図られる。
【0014】
さらに、前述の2つの消弧方式を兼ね備えたことに加えて、アーク制限手段によりアークの回転駆動範囲は制限される。即ち、アークの拡がりが抑制される。この回転駆動範囲内において回転駆動することによりアークは消弧性ガスの直撃を受けやすくなり、このアークに対して消弧性ガスが吹付けられる。このため、回転しているアークに対する消弧性ガスの吹き付け性能(吹き付け精度)が向上する。従って、消弧性ガスは確実にアークに吹付けられ、遮断性能が向上する。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用に加えて、アークがアークランナに転流し、アークランナを介してコイルに電流が流れることにより当該コイルにはフレミング左手の法則に従った外周方向且つ電流による回転方向の電磁力が発生する。この電磁力によりアークランナに転流したアークは、アークランナの噴出孔付近において回転駆動する。このアークにはアークランナの噴出孔及び絶縁ノズル部材のノズルスロート部を介して消弧性ガスが吹付けられる。この際、ノズルフロート部の内周面はノズル部材の先端に向うにつれて拡開するように形成されているので、アークランナの噴出孔から噴き出した消弧性ガスがアークランナと固定接触子との間のアーク空間の広範囲に渡って吹付けられる。このため、消弧性ガスをアーク全体に均等に当てることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明の作用に加えて、アークランナの先端は絶縁ノズル部材の被覆部により覆われる。このため、消弧性ガスにより吹き飛ばされたアークが絶縁ノズル部材の先端側から回り込んでアークランナに移行することが防止される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、大型化することなく、電極間の絶縁回復能力を高め、遮断性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を、ガス遮断器の消弧装置に具体化した一実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。
図1に示すように、ガス遮断器11の密閉ケース12には電源側のブッシング13及び負荷側のブッシング14が互いに対向するように貫通支持されている。図2に示すように、ブッシング14の内端には電極棒15が突設されている。ブッシング13の内端には電極棒16が突設されており、当該電極棒16には可動電極17が軸方向に摺動可能に挿通されている。可動電極17は電極棒16に挿通された第1可動接触子17a、電極棒15に挿通可能とされた第2可動接触子17b並びに第1可動接触子17a及び第2可動接触子17bを連結する連結部材17cとを備え、これらは全体として両端が開口した円筒状をなしている。第1可動接触子17a、第2可動接触子17b及び連結部材17cはそれぞれ導電性を有する金属材料により形成されている。
【0019】
また、ブッシング13の内端には消弧装置Sが設けられている。この消弧装置Sは、ブッシング13の内端において電極棒16を覆うように装着されたパッファ圧縮装置18を備えている。このパッファ圧縮装置18は蛇腹状に形成されており、電極棒16の軸方向において伸縮可能とされている。このパッファ圧縮装置18の先端には支持部材19が固定されており、当該支持部材19は絶縁性を有する合成樹脂材料により両端が開口した円筒状に形成されている。
【0020】
この支持部材19の内部には可動電極17が収容されている。支持部材19の側壁外方からボルト20が挿通され前記可動電極17の連結部材17cに締め付けられることにより、当該支持部材19と連結部材17cとが一体的に固定されている。ボルト20は導電性を有する金属材料により形成されている。支持部材19の内部において、可動電極17の第1可動接触子17a及び第2可動接触子17bは、それぞれ複数の部材により筒状に(図示略)形成されている。
【0021】
支持部材19の先端外周面にはコイル21が装着されている。当該コイル21の一端は前記ボルト20により支持部材19の外周面に共締め固定されており、同じく他端側は支持部材19の先端面よりも先端側に延出している。また、支持部材19の先端開口部には絶縁性を有する合成樹脂材料により形成された固定部材22が内嵌されており、当該固定部材22の中央には前記電極棒15を挿通可能とした挿通孔22aが形成されている。挿通孔22aの内面には先端に向かうにつれて拡開するテーパ面22bが形成されている。
【0022】
固定部材22の先端面にはアークランナ23が密着固定されている。アークランナ23は導電性を有する金属材料により一端が開口した有底筒状に形成されており、その開口部が先端側を向くように配置されている。アークランナ23の底壁中央には前記電極棒15を挿通可能とした噴出孔23aが形成されており、当該噴出孔23aの内周縁には円環状の案内部23bが露出して基端側に折り曲げ形成されている。この噴出孔23aが前記固定部材22の挿通孔22aと同軸上に位置するように、且つ案内部23bがテーパ面22bに密接した状態で沿うように、アークランナ23はその底面において固定部材22に対して密着固定されている。アークランナ23の開口端縁には鍔状のフランジ23cが形成されており、当該フランジ23cは前記支持部材19よりも径方向に張り出している。フランジ23cの基端側側面には、前記コイル21の先端側の端縁が接続されている。
【0023】
アークランナ23(正確には、その先端側)には絶縁ノズル部材31が密着固定されている。即ち、アークランナ23は固定部材22及び絶縁ノズル部材31にそれぞれ密接した状態で挟持されている。絶縁ノズル部材31は絶縁性を有する合成樹脂材料により形成されており、その中央には前記電極棒15を挿通可能とした挿通孔31aが形成されている。この挿通孔31aは、その内径が前記挿通孔22aの内径及び前記噴出孔23aの内径とそれぞれ略同径となるように形成されている。また、挿通孔31aが前記挿通孔22a及び前記噴出孔23aに対してそれぞれ同軸上に位置するように、絶縁ノズル部材31は設けられている。
【0024】
挿通孔31aの内面には先端に向かうにつれて拡開するテーパ面31bが形成されている。このテーパ面31bは絶縁ノズル部材31の基端側側面近傍から先端側側面にわたって形成されており、アーク駆動面として機能する。また、絶縁ノズル部材31の基端側側面には円環状の凹部31cが形成されている。この凹部31c内には前記アークランナ23の先端面(正確には、フランジ23c)及び側壁がそれぞれ収容されている。即ち、絶縁ノズル部材31はアークランナ23の先端を覆っている。
【0025】
ところで、図1に示すように、前記密閉ケース12内の下部には、複数のリンク等からなるリンク機構(図示略)を介して駆動手段(図示略)及び密閉ケース12外部の操作ハンドル(図示略)に作動連結された回動軸Jが設けられている。この回動軸にはレバーLの基端部が固定されており、当該レバーLの先端は前記支持部材19の側面に回動可能に連結されている。従って、前記駆動手段が駆動されるか前記操作ハンドルが操作されると(即ち、機械的動作されると)、リンク機構、回動軸及びレバーを介して前記支持部材19はその軸方向へ往復移動する。また、密閉ケース12には消弧性ガスが封入されており、本実施形態では、消弧性ガスとしてCOガスが採用されている。従って、パッファ圧縮装置18がその軸方向において収縮したときには、消弧性ガスがアークに吹付けられる。
【0026】
尚、電極棒15は固定接触子を構成し、可動電極17は可動接触子を構成する。パッファ圧縮装置18は吹付け手段を構成し、コイル21及びアークランナ23は磁気駆動手段を構成する。アークランナ23の噴出孔23aはアークランナの噴出孔を構成する。絶縁ノズル部材31はアーク制限手段を構成し、挿通孔31aはノズルスロート部を構成する。また、絶縁ノズル部材31のテーパ面31bはノズルフロート部の内面を構成する。凹部31cは被覆部を構成する。
【0027】
<実施形態の作用>
次に、前述のように構成したガス遮断器の開放時の動作を説明する。
<投入状態>
図2に示すように、投入状態においては、電極棒16は可動電極17を介して電極棒15に接続されている。このため、電流は電極棒16→可動電極17(正確には、第1可動接触子17a→連結部材17c→第2可動接触子17b)→電極棒15の順に流れる。
【0028】
<開放開始;アーク発生>
図3に示すように、前記投入状態において、前記駆動手段の開放指令に基づく駆動又は操作ハンドルの開放操作により(即ち、機械的動作により)、支持部材19は開路方向(図3における左方向)へ駆動される。この支持部材19の開路方向への移動はパッファ圧縮装置18が縮むことにより許容される。この支持部材19の開路方向への移動に伴って、可動電極17、固定部材22、アークランナ23及び絶縁ノズル部材31もそれぞれ開路方向へ一体的に移動する。可動電極17の第1可動接触子17aは電極棒16に対して接触摺動するので、電極棒16と可動電極17との電気的接続状態は確保される。
【0029】
そして、可動電極17の第2可動接触子17bが電極棒15から離間すると、当該第2可動接触子17bと電極棒15との間にはアークが発生する。また、パッファ圧縮装置18の収縮に伴って、当該パッファ圧縮装置18内の消弧性ガスは支持部材19の内周面と可動電極17の外周面との間を通ってアークに吹き付けられる。
【0030】
<開放中;アーク転流>
図4に示すように、支持部材19が開路方向(図3における左方向)へさらに駆動されると、パッファ圧縮装置18はさらに収縮し、これによりアークに吹き付けられる消弧性ガスの流速が加速される。また、可動電極17(正確には、第2可動接触子17b)と電極棒15との離間距離は増大するものの、これに伴って可動電極17と同電位のアークランナ23が電極棒15に近づくので、可動電極17(正確には、第2可動接触子17b)と電極棒15との間に発生しているアークがアークランナ23に転流する。即ち、電流は、電極棒16→可動電極17→ボルト20→コイル21→アークランナ23→電極棒15の順に流れる。コイル21に電流が流れることにより当該コイル21にはフレミング左手の法則に従った外周方向(即ち、フランジ23c側)且つ電流による回転方向の電磁力が発生し、この電磁力によりアークランナ23に転流したアークは当該アークランナ23の噴出孔23a付近において回転駆動される。このため、アークは消弧性ガスの直撃を受けやすい状態にある。
【0031】
<開放中;回転アーク吹付け>
図5及び図6に示すように、パッファ圧縮装置18がさらに収縮することにより、アークランナ23の噴出孔23aから噴出する消弧性ガスの噴き出しはさらに加速される。この噴出する消弧性ガス及びコイル21による外周方向への電磁力により、アークランナ23の噴出孔23a付近で回転しているアークは、絶縁ノズル部材31の挿通孔31aの内面及びテーパ面31bに沿って回転しながら外方へ押し出される。その結果、アークはさらに引き延ばされてアーク電圧が高まると共に、消弧性ガスによる冷却効果を受けやすくなる。このように、アークランナ23の噴出孔23a、挿通孔31a及びテーパ面31bに沿って放射状に噴出される消弧性ガスにより、噴出孔23a付近で回転しているアークは、テーパ面31bに沿って当該テーパ面31bの外周方向へ引き延ばされる。これにより、アークの全体に消弧性ガスを均等に当てることが可能となる。
【0032】
ちなみに、絶縁ノズル部材31を省略するようにした場合、アークはアークランナ23の噴出孔23aから外周方向(即ちフランジ23c側)へ移動して高速回転する。従って、アーク全体に消弧性ガスが均等に吹付けられなくなる。その結果、アークランナ23と電極棒15との間のアーク空間の絶縁回復ができず、遮断不能となる(即ち、電流零点においても再点弧する)おそれがある。
【0033】
また、絶縁ノズル部材31の拡開するテーパ面31bを省略して挿通孔31aのみの構成とした場合、アークはアークランナ23の噴出孔23aと電極棒15の間で高速回転する。従って、電極棒15の先端周囲のアークにのみに消弧性ガスが吹付けられ、アークに対する消弧性ガスの吹付け範囲は狭範囲となる。その結果、絶縁ノズル部材31を省略するようにした場合と同様にアークランナ23と電極棒15との間のアーク空間の絶縁回復ができず、遮断不能となる(即ち、電流零点においても再点弧する)おそれがある。
【0034】
これに対して、本実施形態によれば、アークを絶縁ノズル部材31の挿通孔31a及びテーパ面31bに沿って回転させておき、その挿通孔31a及びテーパ面31bの範囲内で回転するアーク全体に対して消弧性ガスを広範囲に均等に吹付けるようにしたことにより、消弧性ガスはアークに確実に(効果的に)吹付けられる。従って、アークを磁気により回転駆動させる消弧方式と、圧縮した消弧性ガスをアークに吹付ける消弧方式とを単に併用するようにした場合と比べて、遮断性能のいっそうの向上が図られる。
【0035】
<開放完了;アーク消滅>
図7に示すように、絶縁ノズル部材31の挿通孔31aから噴出する消弧性ガスはテーパ面31bに沿って放射状に噴出する。このため、消弧性ガスがアーク空間の広範囲に渡って効果的に放出される。また、引き延ばされているアークはアーク電圧が高く、絶縁ノズル部材31の絶縁性能と合わせて、アークランナ23と電極棒15との間のアーク空間におけるアークコンダクタンスが低下し、絶縁回復が早くなる。このため、電流零点において遮断されやすくなると共に、電流零点における再点弧のおそれも低減する。従って、ガス遮断器11の遮断性能が向上する。
【0036】
<実施形態の効果>
従って、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ガス遮断器11は、電流遮断動作時に電極棒15と可動電極17との間に発生したアークを電磁力により回転駆動させるコイル21と、電流遮断動作に連動して消弧性ガスを蓄圧し当該蓄圧した消弧性ガスを回転駆動するアークに吹き付けるパッファ圧縮装置18とを備えている。そして、このガス遮断器11には、コイル21によるアークの回転駆動範囲を狭めるように制限する絶縁ノズル部材31をさらに備えた。アークは絶縁ノズル部材31のテーパ面31bに沿って回転駆動することにより、アークの外周方向への拡がりが抑制される。このテーパ面31bの範囲内において回転駆動することによりアークは消弧性ガスの直撃を受けやすい状態となり、このアークに対して消弧性ガスが吹き付けられる。このため、回転しているアークに対する消弧性ガスの吹き付け性能(吹き付け精度)が向上する。従って、消弧性ガスは確実にアークに吹付けられ、遮断性能が向上する。
【0037】
(2)絶縁ノズル部材31にはアークランナ23の噴出孔23aに連通する挿通孔31a(ノズルスロート部)を形成し、当該挿通孔31aの内周面には絶縁ノズル部材31の先端に向うにつれて拡開するテーパ面31bを形成するようにした。アークにはアークランナ23の噴出孔23a及び絶縁ノズル部材31の挿通孔31aを介して消弧性ガスがアーク空間の広範囲に渡って吹付けられる。このため、消弧性ガスをアーク全体に均等に当てることができる。
【0038】
また、消弧性ガスがアーク空間の広範囲に渡って吹付けられることにより、アーク発生中の電流零点時における絶縁回復特性が向上し、ひいてはガス遮断器11の遮断性能も向上する。従って、SFガスに替えて当該SFガスよりも絶縁消弧性の劣るCOガスを消弧性ガスとしても、これに起因するガス遮断器11の遮断性能の低下は、消弧装置の消弧性能の向上により補われる。即ち、SFガスよりも絶縁消弧性の劣る例えばCOガスをガス遮断器11の消弧性ガスとしても、遮断器を大型化することなく、その遮断性能を確保することができる。ひいては、SFガスの使用量を低減して地球環境保護へ貢献する。
【0039】
(3)また、電流遮断動作完了時、電極棒15と可動電極17(正確には、アークランナ23)との間に絶縁ノズル部材31が介在することにより、電極棒15と可動電極17との間の絶縁耐力が向上する。
【0040】
(4)絶縁ノズル部材31には、アークランナ23の先端(正確には、フランジ23c)を収容する凹部31cを形成し、当該凹部31c内にアークランナ23の先端を収容するようにした。即ち、アークランナ23の先端は絶縁ノズル部材31の一部により覆うようにした。このため、アークが、当該絶縁ノズル部材31の先端側から回り込んでアークランナ23に移行することが防止される。
【0041】
(5)アークランナ23は、固定部材22及び絶縁ノズル部材31により密着固定され、且つ挟持されるようにした。また、アークランナ23の前記噴出孔23a、固定部材22の挿通孔22a、及び絶縁ノズル部材31の挿通孔31aは、それぞれ同軸上に位置するように、且つ略同径で形成するようにした。このため、アークランナ23のアークによる損傷を防止することができる。ちなみに絶縁ノズル部材31を省略するようにした場合、若しくは絶縁ノズル部材31をアークランナ23に隙間を開けて固定するようにした場合、アークはアークランナ23の噴出孔23aから外周方向へ移動してアークランナ23の先端側の面を高速回転する。従って、アークランナ23の先端側の面が損傷することとなる。また、固定部材22の挿通孔22aがアークランナ23の噴出孔23a及び絶縁ノズル部材31の挿通孔31aと同径でなく、当該噴出孔23a及び挿通孔31aよりも大きくした場合、アークは転流時、アークランナ23の基端側の面に転流する。従って、アークランナ23の基端側の面が損傷することとなる。本実施形態によればこのようなことがない。
【0042】
(6)噴出孔23aの内周縁に円環状の案内部23bを露出して基端側に折り曲げ形成するようにした。これにより、アークのアークランナ23への転流を容易に行うことができる。
【0043】
(7)前記駆動手段の開放指令に基づく駆動又は操作ハンドルの開放操作、即ち機械的動作により、パッファ圧縮装置18を軸方向において収縮させ、パッファ圧縮装置18内の消弧性ガスをアークに吹付けるようにした。このため、消弧性ガスの温度上昇の如何にかかわらず圧縮不足となることなく、確実且つ安定して消弧性ガスをアークに吹付けることができる。
【0044】
(8)絶縁ノズル部材31のテーパ面31bは、挿通孔31a内周面において当該挿通孔31aの軸線方向におけるほぼ全長に亘って、且つアークランナ23の側壁に近接するように形成した。このため、アークがテーパ面31bの外周方向へ移行した場合、挿通孔31aからの消弧性ガスもテーパ面31bに案内されてアークに吹き付けられる。このため、消弧性ガスは確実に且つ効果的にアークに吹き付けられる。
【0045】
<別の実施形態>
尚、前記実施形態は、次のように変更して実施してもよい。
・本実施形態では、消弧性ガスとしてCOを使用したが、地球温暖化係数がSFガスよりも低いガス、例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、二酸化炭素及び水素ガスのうち、少なくとも一種類以上のガスを単体で又は混合して消弧性ガスとして使用するようにしてもよい。また、これらの代替ガスとSFガスとを混合したガスを消弧性ガスとして使用するようにしてもよい。このようにしても、SFガスの使用量を低減し、環境への負荷を低減させることができる。
【0046】
・絶縁ノズル部材31の凹部31cによりアークランナ23の先端を覆うようにしたが、電極棒15とアークランナ23若しくはコイル21との間の絶縁距離を十分にとれば、他の方式でもよい。例えば、凹部31cをアークランナ23と反対方向に開口形成してもよい。また、絶縁ノズル部材31の厚みを厚くして、テーパ面31bを長く形成してもよい。
【0047】
・本実施形態では、ブッシング13に電源側を、ブッシング14に負荷側を接続するようにしたが、ブッシング13に負荷側を、ブッシング14に電源側を接続してもよい。
<別の技術的思想>
(イ)前記消弧性ガスは、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス及び水素ガスのうち少なくとも一種類を含む請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載のガス遮断器。
【0048】
(ロ)前記絶縁ノズル部材の内周面はノズルスロート部のほぼ全長に亘って、且つアークランナの側壁に近接するように形成した請求項2又は請求項3に記載のガス遮断器。
(ハ)前記吹付け手段は、パッファ圧縮装置にて構成し、当該パッファ圧縮装置を前記密閉ケース内に支持する支持部材と、当該支持部材に前記絶縁ノズル部材を固定するために前記支持部材に固定された固定部材とを備え、前記アークランナを前記固定部材及び前記絶縁ノズル部材により密着固定且つ挟持されるように設けた請求項2又は請求項3に記載のガス遮断器。
【0049】
(ニ)前記固定部材及び絶縁ノズル部材にはそれぞれ前記アークランナの噴出孔に連通する挿通孔を形成し、当該両挿通孔及び前記噴出孔をそれぞれ同軸上に位置するように、且つ略同径で形成するようにした前記(ハ)項に記載のガス遮断器。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施形態におけるガス遮断器の正断面図。
【図2】本実施形態における投入状態の消弧装置の正断面図。
【図3】本実施形態における開放開始時の消弧装置の正断面図。
【図4】本実施形態における開放途中(アーク転流)の消弧装置の正断面図。
【図5】本実施形態における開放途中(回転アーク吹付け)の消弧装置の正断面図。
【図6】図5における1−1線矢視図。
【図7】本実施形態における開放完了状態の消弧装置の正断面図。
【符号の説明】
【0051】
11…ガス遮断器、12…密閉ケース、15…電極棒(固定接触子)、
17…可動電極(可動接触子)、21…磁気駆動手段を構成するコイル、
22…固定部材、22a…挿通孔、18…パッファ圧縮装置(吹付け手段)、
19…支持部材、23…磁気駆動手段を構成するアークランナ、23a…噴出孔、
31…絶縁ノズル部材(アーク制限手段)、31a…挿通孔(ノズルスロート部)、31b…テーパ面(ノズルフロート部の内周面)、31c…凹部(被覆部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉ケースに消弧性ガスが封入されたガス遮断器において、
電流遮断動作時に固定接触子と可動接触子との間に発生したアークを電磁力により回転駆動させる磁気駆動手段と、
電流遮断動作に連動して消弧性ガスを蓄圧し当該蓄圧した消弧性ガスを前記磁気駆動手段により回転駆動するアークに吹き付ける吹付け手段と、
前記磁気駆動手段によるアークの回転駆動範囲を制限するアーク制限手段と、を備えたガス遮断器。
【請求項2】
前記磁気駆動手段は、アーク電流により回転磁界を発生させるコイルと、当該コイルの先端に固定されると共に前記吹付け手段により蓄圧された消弧性ガスの噴出孔が形成されたアークランナとを備え、
前記アーク制限手段は、前記アークランナの先端に取り付けられると共に前記アークランナの噴出孔に連通するノズルスロート部を有する絶縁ノズル部材を備え、当該ノズルスロート部の内周面を当該ノズル部材の先端に向うにつれて拡開するように形成した請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項3】
前記絶縁ノズル部材には、前記アークランナの先端を覆う被覆部を設けるようにした請求項2に記載のガス遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−185718(P2006−185718A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377303(P2004−377303)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000102636)エナジーサポート株式会社 (51)
【Fターム(参考)】