説明

ガス遮断器

【課題】小さな駆動エネルギーで中小電流から大電流に至るまで確実に遮断可能な、コンパクト性及び遮断性能に優れたガス遮断器を提供する。
【解決手段】熱的昇圧室31にはこの室内31を主空間52aと従空間52bに分割する分割部材51が、熱的昇圧室31の中心軸上に配置されている。分割部材51は、熱的昇圧室31内に収納される円筒部材から成り、中心側を主空間52a、外周側を従空間52bとする。主空間52aは、アーク空間側につながるガス流路11と、隔壁35の開口部34bを経て機械的圧縮室32とに空間的に接続されている。この主空間52aは、中小電流遮断時にもアークエネルギーによって昇圧可能な体積を持つ大きさに設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消弧性ガスをアークに吹き付けるパッファ形のガス遮断器に係り、特に、機械的な圧縮作用とアーク熱による加熱昇圧作用を利用したガス遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、パッファ形のガス遮断器とは、機械的操作力により消弧性ガスを圧縮すると共にアーク熱により消弧性ガスを昇圧してアークに吹き付ける遮断器である。このタイプのガス遮断器によれば、遮断時の駆動エネルギーを増大させることがないため、コンパクト化が容易であり、且つ優れた遮断性能を発揮することができる。したがって、従来から様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1の技術は、アーク熱により昇圧させる空間を、可動接触子部側と、固定の対向接触子部側の両方に配置したものである。このガス遮断器では、可動接触子部側の昇圧空間を縮小化することによって可動接触子部の重量を低減させることができ、機器及び駆動系のコンパクト化が可能である。
【0004】
また、特許文献2の技術は、ガス整流部材と逆止弁を組み合わせることでアークに曝されていない消弧性ガスをアークに吹き付けるようにしたものである。このガス遮断器によれば、比較的低温の消弧性ガスをアークに吹き付けることになるので、高い遮断性能を得ることができる。
【0005】
ここで、パッファ形ガス遮断器の従来例について、図6〜図10を用いて具体的に説明する。図6は遮断動作前の投入状態を示す断面図、図7は遮断動作初期の状態を示す断面図、図8は遮断動作が進み開極後の電流ピーク付近の状態を示す断面図、図9及び図10はさらに遮断動作が進み電流零点に至った状態を示す断面図であり、特に図9は大電流遮断時、図10は中小電流遮断時の状態を示している。
【0006】
まず、パッファ形ガス遮断器の構成について説明する。図6に示すように、消弧性ガスが充填された容器(図示せず)内には、可動接触子部1として定義される第1接触子部、固定の対向接触子部2として定義される第2接触子部が、容器の中心軸上に対向して配置されている。なお、可動接触子部1及び対向接触子部2間の空間を、アークの発生するアーク空間とする。また、可動接触子部1の位置関係については、対向接触子部2側の方向を前方、その反対側を後方と定義して説明する。さらに消弧性ガスは任意のガスとする。
【0007】
可動接触子部1には、中空の操作ロッド26が設けられており、この操作ロッド26は、図示していない駆動装置によって、その軸方向に往復運動するように構成されており、その中程に、該操作ロッド26の中空部と、容器内の充填ガスと同圧力である充填ガス雰囲気空間14(単純には容器の内部空間)とを連通するための開口部34cが複数形成されている。また、操作ロッド26において、開口部34cと操作ロッド26前端部との中間付近にはストッパ42が固定されている。
【0008】
操作ロッド26の前端部にはフランジ27が連結されており、フランジ27の後方にはシリンダ28が一体的に設けられている。シリンダ28の中程には開口部34bを有する隔壁35が一体的に固着されている。この隔壁35を介してシリンダ28内の空間は、前後に分割されており、前方側に熱的昇圧室31が、後方側に機械的圧縮室32が、それぞれ設けられている。また、隔壁35には開口部34bが形成されている。この開口部34bの機械的圧縮室31側には浮動の逆止弁41が設けられており、逆止弁41の動作は、操作ロッド26に固定されたストッパ42と隔壁35によって制限される。
【0009】
後述するように遮断動作時にアーク空間にはアーク38が発生するが、前記熱的昇圧室31は、このアーク38から取り込まれる熱ガスによる加熱昇圧作用によって蓄圧される空間である。一方、機械的圧縮室32は遮断動作時に固定ピストン33による機械的圧縮作用によって蓄圧される空間である。
【0010】
また、機械的圧縮室32内には円形平板状の固定ピストン33が挿入されている。固定ピストン33は、その内周面で操作ロッド26の外周面に対して摺動すると共に、その外周面でシリンダ28の内周面に対して摺動するように構成されている。この場合、固定ピストン33は、その後方に一体的に設けられて軸方向に伸びるピストン支持部33bによって、図示していない容器内に固定されている。さらに、固定ピストン33には開口部34eが形成されており、開口部34eにはバネ45で閉方向に蓄勢された放圧弁44が設けられている。
【0011】
フランジ27の前方には、中空かつ指状の可動アーク接触子6が連結されており、可動アーク接触子6の外周基部に開口部34aが形成されている。この開口部34aの外周部分で、且つ前記可動アーク接触子6を包囲するようにして、スロート部9を有する絶縁ノズル8と、可動通電接触子4とが配置されている。可動アーク接触子6と絶縁ノズル8との間には、フランジ27前方の開口部34aを経て、熱的昇圧室31の内部空間とアーク空間とを接続するためのガス流路11が形成されている。
【0012】
対向接触子部2は、開口部34dを設けたフランジ40と、フランジ40に固定された対向アーク接触子7、その周囲に配置され同様にフランジ40に固定された対向通電接触子5から構成されている。
【0013】
以上の構成を有するガス遮断器は、次のようにして遮断動作を実施する。すなわち、遮断動作が開始すると、操作ロッド26が後方に移動し、この操作ロッド26を含む可動接触子部1が一体的に移動する。これにより、固定された固定ピストン33に対し、操作ロッド26とシリンダ28が一体的に移動することになり、シリンダ28と固定ピストン33が相対移動し、シリンダ28内部後方に形成された機械的圧縮室32が圧縮される。
【0014】
図7に示した遮断動作の開始時点では、隔壁35の開口部34bに取り付けられた逆止弁41は、浮動なので、慣性力により、可動接触子部1と一体に動作しない。つまり、逆止弁41は相対的には前方に移動したことになり、ストッパ42に当接して止まる。これにより、隔壁35の開口部34bは開状態となる。さらに、機械的圧縮室32が昇圧し、機械的圧縮室32から開口部34bを経て、ガス流39aは機械的圧縮室32内から熱的昇圧室31に供給される。
【0015】
次に、図8に示すように遮断動作が進行し、対向アーク接触子7と可動アーク接触子6が開離すると、両アーク接触子7、6間のアーク空間には大電流アーク38が発生する。この時、大電流アーク38により、アーク空間は高温高圧の状態にある。例えば大電流アーク38の電流が50kAの場合、その温度は容易に10000K以上に達する。
【0016】
このため、アーク空間は熱的昇圧室31より圧力が上昇し、絶縁ノズル8のスロート部9からガス流路11及びフランジ27の開口部34aを経て熱的昇圧室31に至るガス流39bが生じる。すなわち、大電流アーク38の熱エネルギーの一部が熱的昇圧室31に取り込まれることになる。
【0017】
特に大電流遮断時には、熱的昇圧室31は著しく昇圧し、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32の間に、逆差圧が発生する。このため、逆止弁41には後方への力が作用し、隔壁35の開口部34bは閉状態となる。これに対して中小電流遮断時(例えば20kA以下)には、熱的昇圧室31は急速に昇圧しないため、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32の圧力は比較的均衡した状態にあり、逆止弁41の動作は状態により変化する。
【0018】
さらにストロークが進み、図9及び図10に示すように電流零点に達すると、大電流アーク38は減衰する。そして、残留アークプラズマ状態となり、圧力、密度及び温度が減少する。これにより、絶縁ノズル8のスロート部9は十分に開口し、ガス流39cは、熱的昇圧室31からフランジ27の開口部34aを経てガス流路11に向かって流れる。
【0019】
このガス流39cは、ガス流路11から対向アーク接触子7に向かって流れるガス流39fと、操作ロッド26の中空部から、操作ロッド26に設けられた開口部34cに向かって流れるガス流39gとなる。これらの2方向のガス流39f、39gによって、相乗的に強力に冷却されて消弧され、電流遮断が達成される。
【0020】
ここで、図9に示す大電流遮断時には、熱的昇圧室31は機械的圧縮室32に比べて圧力が高い状態にあり、隔壁35に取り付けられた逆止弁41は閉状態であり、一方、固定ピストン33に設けられた放圧弁44は、機械的圧縮室32の過剰圧力上昇により開状態となって、ガス流39dは、機械的圧縮室32から充填ガス雰囲気空間14へと抜ける。したがって、機械的圧縮室32の過剰圧力が遮断動作を妨害する反力になることを回避できる。
【0021】
また、図10に示す中小電流遮断時には、熱的昇圧室31の圧力は電流零点近傍で次第に低下し、機械的圧縮室32の圧力を下回るため、逆止弁41は開状態となり、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31へのガス流39aが発生する。なお、操作ロッド26の開口部34cを通過したガス流39eは、充填ガス雰囲気空間14へと流れ出る(図9及び図10に図示)。
【0022】
以上のようなガス遮断器においては、熱的昇圧室31と機械的圧縮室32が相補的に作用する。すなわち、中小電流遮断時のようにアークエネルギーが小さい場合、熱的昇圧室31では大きな圧力上昇が期待できないので、機械的圧縮室32からガス流39aを供給し、熱的昇圧室31の圧力上昇を補うことができる。
【0023】
一方、強力な吹付けが必要な大電流遮断時には、アークエネルギーが大きく、強力なガス流39bがアーク空間から熱的昇圧室31へと供給され、熱的昇圧室31の圧力が極めて高くなる。この際、熱的昇圧室31は逆止弁41により、機械的圧縮室32から切り離されるため、熱的昇圧室31は効率的に昇圧することが可能である。そして、残留アークプラズマ状態となり絶縁ノズル8のスロート部9が十分に開口すると、強力なガス流39cが熱的昇圧室31からガス流路11を経てアーク空間へと流れ、確実に電流を遮断することができる。
【0024】
なお、逆止弁41が閉じることにより機械的圧縮室32へのアークエネルギーの流入が抑制されるため、機械圧縮室32の昇圧もある程度抑制されることになり、遮断動作を妨害する反力を抑えることができる。なお、熱的昇圧室31においては、構成部材に作用する圧力は相殺されるため、遮断動作を妨げることはない。
【0025】
【特許文献1】特開2001−67996号公報
【特許文献2】特開2003−317584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
しかしながら、以上のような従来のガス遮断器には次に示す問題点があった。すなわち、中小電流遮断時のように熱的昇圧室31の圧力上昇が充分ではない場合、機械的昇圧室32から熱的昇圧室31へガス流39aを供給しようとするが、この際、熱的昇圧室31を流れるガス流39cは、熱的昇圧室31を通過していくに従って圧力が低下していく。これにより、アーク38に吹付けられるガス流39f、39gの吹付け圧力は弱くなる。
【0027】
つまり、機械的圧縮の視点から見ると、熱的昇圧室31は機械的圧縮室32のデッドボリュームとして作用することになり、全体として吹付け圧力の低下を招いていた。したがって、中小電流遮断時に十分な吹付け圧力を得るためには、機械的圧縮室32の断面積を大きくするか、熱的昇圧室31の体積を小さく構成する必要があった。
【0028】
機械的圧縮室32の断面積を大きくする場合には、駆動エネルギーが大きくなる問題がある。一方、熱的昇圧室31の体積を小さくする場合には、中小電流に対する遮断性能は向上するが、その反面、大電流遮断時には圧力が過度に上昇するので、熱的昇圧室31から流れ出るガス量が多くなる。熱的昇圧室31から短時間でガス量が流れ出てしまうと、アーク38の発生時間が長い場合には熱的昇圧室31のガス密度および圧力が低下することになり、かえって遮断性能が低下する可能性があった。
【0029】
本発明は、以上のような従来技術の課題を解決するために提案されたものであり、小さな駆動エネルギーで中小電流から大電流に至るまで確実に遮断可能な、コンパクト性及び遮断性能に優れたガス遮断器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記目的を達成するために、本発明は、消弧性ガスが充填された密閉容器内に第1接触子部及び第2接触子部が対向して配置され、前記第1接触子部は、連結された駆動装置により遮断動作時及び投入動作時に動作するように構成され、前記第1接触子部には第1通電接触子及び第1アーク接触子が設置され、前記第2接触子部には前記第1通電接触子及び前記第1アーク接触子に対し接離自在な第2通電接触子及び第2アーク接触子が設置され、前記第1アーク接触子及び前記第2アーク接触子は、通常運転時は接触導通状態にあり、遮断動作時は開離すると共に前記第1接触子部及び前記第2接触子部間の空間として定義されるアーク空間にアークを発生するよう構成され、さらに前記第1接触子部には、遮断動作時に機械的圧縮作用により蓄圧される機械的圧縮室と、遮断動作時に前記アーク空間から取り込まれる熱ガスによる加熱昇圧作用により蓄圧される熱的昇圧室が、隔壁を介して配置され、前記隔壁には前記機械的圧縮室及び前記熱的昇圧室を連通させる隔壁開口部が形成され、前記隔壁開口部にはこれを閉塞する逆止弁が取り付けられ、前記アーク空間と前記熱的昇圧室とを接続するガス流路が設けられたガス遮断器において、次のような構成上の特徴を有している。
【0031】
すなわち、前記熱的昇圧室には該室内を主空間と従空間に分割する分割部材が設置され、前記熱的昇圧室の前記主空間は、前記ガス流路と、前記隔壁開口部を経て前記機械的圧縮室とに接続され、前記従空間は、前記分割部材により前記ガス流路及び前記機械的圧縮室から隔てられており、前記分割部材には前記主空間と前記従空間とを連通させる連通部が形成されたことを特徴とするものである。
【0032】
以上の構成を有する本発明においては、分割部材にて熱的昇圧室の内部空間を主空間と従空間に分割し、従空間側はアーク空間側に接続されるガス流路と機械的圧縮室から隔てているので、機械的昇圧室から熱的昇圧室を経てアーク空間へと流れるガス流は、主として主空間側に流れることになる。つまり、機械的圧縮室から見て熱的昇圧室の体積を実質的に小さくすることができ、中小電流遮断時でも高い吹付け圧力を確保することができる。
【0033】
また、圧力上昇が大きい大電流遮断時には、主空間から分割部材の連通部を経て従空間までアークの熱エネルギーが行き渡ることになる。したがって、熱的昇圧室の主空間にてガス密度及び圧力が低下した際、熱的昇圧室の従空間から主空間側に熱エネルギーを供給することができる。したがって、アークの発生が長く続く場合でも、十分に良好な遮断性能を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のガス遮断器によれば、熱的昇圧室を主空間と従空間とに分割し、従空間側は、ガス流路及び機械的圧縮室から隔てるといった極めて簡単な構成により、中小電流から大電流に至るまで、小さな駆動エネルギーで優れた遮断性能を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下には、本発明によるガス遮断器の複数の実施形態について、図1から図5を参照して具体的に説明する。なお、下記の実施形態において図6〜図10に示した従来例と同一の部材に関しては同一部材を付して説明は省略する。また、可動接触子部1及び対向接触子部2の位置関係の定義についても同様であって、対向接触子部2側の方向を前方、その反対側を後方とする。
【0036】
[1.第1の実施形態]
[1−1.構成]
第1の実施形態に関して、図1及び図2を参照して説明する。図1、図2は本発明を適用したガス遮断器の断面図であり、遮断動作が進み電流零点に至った状態を示しており、より詳しくは、図1は大電流遮断時、図2は中小電流遮断時に対応するものである。
【0037】
第1の実施形態の特徴は、次の点にある。すなわち、熱的昇圧室31にはこの室内31を主空間52aと従空間52bに分割する分割部材51が、熱的昇圧室31の中心軸上に配置されている。分割部材51は、熱的昇圧室31内に収納される円筒部材から成り、中心側を主空間52a、外周側を従空間52bとする。
【0038】
主空間52aは、アーク空間側につながるガス流路11と、隔壁35の開口部34bを経て機械的圧縮室32とに空間的に接続されている。この主空間52aは、中小電流遮断時にもアークエネルギーによって昇圧可能な体積を持つ大きさに設定されている。また、従空間52bは、隔壁35及び分割部材51の外周面によって囲まれており、ガス流路11及び機械的圧縮室32に直接的には空間的に接続されていない。
【0039】
分割部材51の一端部は隔壁35に固定されており、他端部はフランジ27に対し所定のクリアランスを持って設けられている。このクリアランス部分が、主空間52aと従空間52bとを連通させる連通部50aとなる。連通部50aはフランジ27の開口部34aに近接して形成されている。なお、連通部50aの断面積は、ガス流路11の開口部分の断面積、並びに主空間52aと機械的圧縮室32とを接続する隔壁35の開口部34bの断面積のいずれよりも小さくなるように設定されている。
【0040】
[1−2.作用]
以上の構成を有する第1の実施形態では、次のような遮断動作を実施する。すなわち、遮断動作が開始すると、操作ロッド26が後方に移動し、この操作ロッド26を含む可動接触子部1が一体的に移動する。これにより、固定された固定ピストン33に対し、操作ロッド26とシリンダ28が一体的に移動することになり、シリンダ28と固定ピストン33が相対移動し、シリンダ28内部後方に形成される機械的圧縮空間32が圧縮される。
【0041】
遮断動作の開始時点では、浮動の逆止弁41は慣性力により、可動接触子部1と一体に動作しないため、開口部34bが開状態となる(図2参照)。さらに、機械的圧縮室32が昇圧し、機械的圧縮空間32から開口部34bを経て、ガス流39aが熱的昇圧室31の主空間52aに供給される。次に、遮断動作が進行し、対向アーク接触子7と可動アーク接触子6が開離すると、両アーク接触子7、6間のアーク空間には大電流アーク38が発生する。
【0042】
このため、アーク空間のガス圧力が熱的昇圧室31の主空間52aのガス圧力よりも上昇し、絶縁ノズル8のスロート部9からガス流路11を通り、フランジ27の開口部34aを経て、熱的昇圧室31の主空間52aに至るガス流39bが生じる。すなわち、大電流アーク38のエネルギーの一部が熱的昇圧室31の主空間52aに取り込まれることになる。
【0043】
大電流遮断時には、熱的昇圧室31の主空間52aは著しく昇圧し、熱的昇圧室31の主空間52aと機械的圧縮室32の間に、逆差圧が発生する。このため、逆止弁41には後方への力が作用し、開口部34bは閉となる。また、熱的昇圧室31の主空間52aの圧力が著しく上昇すると、分割部材51の連通部50aを経て従空間52bにもガス流が流れ込み、従空間52b内の圧力も主空間52aに追随して上昇する。
【0044】
一方、中小電流遮断時(例えば20kA以下)でも、熱的昇圧室31の主空間52aは昇圧し、主空間52aと機械的圧縮室32の間に逆差圧が発生すると、逆止弁41には、後方への力が作用し、開口部34bは閉となる。ただし、中小電流遮断時の主空間52aの圧力上昇は大電流遮断時ほど著しくない。そのため、熱的昇圧室31において主空間52aから従空間52bに至るガス流は比較的弱く、主空間52aと従空間52bには差圧が発生する。
【0045】
さらにストロークが進み、図1及び図2に示すように電流零点に達すると、大電流アーク38は減衰し、残留アークプラズマ状態となって、圧力、密度及び温度が減少する。これにより、絶縁ノズル8のスロート部9は十分に開口し、ガス流39cは、熱的昇圧室31の主空間52aからフランジ27の開口部34aを経てガス流路11に向かって流れる。
【0046】
このガス流39cは、可動アーク接触子6と絶縁ノズル8との間のガス流路11から対向アーク接触子7に向かって流れるガス流39fと、操作ロッド26の中空部から、操作ロッド26に設けられた開口部34cに向かって流れるガス流39gとなる。これらの2方向のガス流39f、39gによって、相乗的に強力に冷却されて消弧され、電流遮断が達成される。
【0047】
ここで、図1に示す大電流遮断時には、熱的昇圧室31の主空間52aは機械的圧縮室32に比べて圧力が高い状態にあり、隔壁35に取り付けられた逆止弁41は閉状態である。一方、固定ピストン33に設けられた放圧弁44は、機械的圧縮室32の過剰圧力上昇により開状態となって、機械的圧縮室32から充填ガス雰囲気空間14へとガス流39dが発生する。したがって、機械的圧縮室32の過剰圧力が遮断動作を妨害する反力になることを回避できる。
【0048】
なお、アーク38の発生が長く続き、熱的昇圧室31の主空間52a内のガス密度及び圧力が低下してくると、主空間52aと同様の圧力を持つ従空間52bから、分割部材51の連通部50aを経て、主空間52aにガス流が供給される。したがって、主空間52aとフランジ27の開口部34aを通って、ガス流路11に至るガス流53a(図1に図示)が発生する。その結果、アーク38が長時間継続していても、これを確実に消弧することが可能である。
【0049】
図2に示す中小電流遮断時には、熱的昇圧室31の主空間52aの圧力は電流零点近傍で次第に低下し、機械的圧縮室32の圧力を下回るため、逆止弁41は開状態となり、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31の主空間52aへ流れるガス流39aが発生する。ガス流39aは分割部材51の内周面に沿って主空間52aを流れていき、主空間52aからフランジ27の連通孔34aを経てガス流路11に向かうガス流39cとなる。
【0050】
[1−3.効果]
以上の第1の実施形態によれば、次のような効果が得られる。すなわち、本実施形態では、熱的昇圧室31の内部を2分割する分割部材51を設け、これに形成した連通部50aの断面積を、ガス流路11の開口部分の断面積、並びに機械的圧縮室32と接続する開口部34bの断面積よりも小さく設定しているので、前記ガス流39cが主空間52aから従空間52bに流れ込む量は極めて少ない。
【0051】
つまり、機械的圧縮室32から見て、熱的昇圧室31側の体積は主空間52aだけとなって、実質的な体積の縮小化を図れる。主空間52aは中小電流遮断時にもアークエネルギーによって昇圧可能な体積で構成したので、アークエネルギーを用いて十分に昇圧することができるため、良好な遮断性能を得ることができる。したがって、中小電流遮断時での高い吹付け圧力を確保することができる。
【0052】
また、大電流遮断時、特に長アーク時間においては、熱的昇圧室31の主空間52aのガス密度および圧力が低下しても、熱的昇圧室31の従空間52bから、ガス流が供給されるため、良好な遮断性能を得ることができる。したがって、小さな駆動エネルギーであっても、小電流から大電流に至るすべての電流領域で、良好な遮断性能を示す大容量ガス遮断器を実現することができる。
【0053】
[2.第2の実施形態]
[2−1.構成]
続いて、本発明によるガス遮断器の第2の実施形態を、図3により説明する。図3は遮断動作が進み開極後の電流ピーク付近の状態を示す断面図である。なお、第2の実施形態における基本構成は、前記第1の実施形態と同様である。
【0054】
第2の実施形態では、分割部材51aにおいて、フランジ27側端部近傍に設けた連通部50aに加えて、隔壁35側端部近傍に連通部50bを設けた点に特徴がある。連通部50a及び50bの断面積の和は、熱的昇圧室31の主空間52aとガス流路11を連通する開口部34aの断面積、並びに主空間52aと機械的圧縮室32を連通する隔壁35の開口部34bの断面積のいずれよりも小さくなるように構成されている。
【0055】
[2−2.作用及び効果]
上記第2の実施形態では、第1の実施の形態の作用効果に加えて、以下のような独自の作用効果が得られる。すなわち、大電流遮断時の開極後、図3に示すようにアーク空間から熱的昇圧室31の主空間52aにはガス流39bが流入するが、このガス流39bは高温であり、非常に流速が速い。
【0056】
そのため、ガス流39bは熱的昇圧室31の主空間52a内部を直進し、隔壁35に衝突し、その後、連通部50bを介して、熱的昇圧室31の従空間52bに流入するガス流53bとなる。さらに時間が経過すると、熱的昇圧室31の従空間52b内を、ガス流39bとは反対方向に流れるガス流53cのごとく進む。
【0057】
以上のような過程で、高温のガス流39bは、もともと熱的昇圧室31の主空間52a及び従空間52b内部に存在した冷たいガスと混合すると共に、冷たいガスを押していくことになる。したがって、ガス流53cは従空間52bを通過したことで低温となる。つまり、大電流遮断時の吹付けガスの温度を低く抑えることができ、遮断性能のさらなる向上が望める。
【0058】
[3.第3の実施形態]
[3−1.構成]
次に本発明に係る第3の実施形態について図4を参照して説明する。図4は、遮断動作が進み、電流零点に至った状態を示す断面図である。なお、第3の実施形態に関しても、その基本構成は前記第1の実施形態と同様である。
【0059】
第3の実施形態では、分割部材51bは、隔壁35側からフランジ27側に向かって外周面が狭まっていく中空の略円錐形部材から構成されている。また、分割部材51bの向かい合う底面部分は開口されており、狭い方の開口部がガス流路11近傍に、広い方の開口部が隔壁35の開口部34b近傍に、それぞれ配置されている。
【0060】
[3−2.作用及び効果]
第3の実施形態においては、中小電流遮断における電流零点近傍で、機械的圧縮室32から熱的昇圧室31の主空間52aへと流入するガス流39aは、分割部材51bの内壁によってガイドされながら、アーク空間に向かって流れるガス流39cとなる。しかも、分割部材51bでは、狭い方の開口部をガス流路11近傍に、広い方の開口部を隔壁35の開口部34b近傍に、それぞれ配置しているので、機械的圧縮室32からガス流路11に至るガス流は、勢いよくスムーズに流れることができる。これにより、アーク空間に効果的に機械圧縮室32内の低温高密度ガスを供給することができ、中小電流遮断性能がさらに向上する。
【0061】
[4.第4の実施形態]
[4−1.構成]
本発明による第4の実施形態に関して、図5を用いて説明する。図5は、遮断動作が進み、電流零点に至った状態を示す断面図である。なお、第4の実施形態に関しても、その基本構成は前記第1の実施形態と同様である。
【0062】
第4の実施形態において、分割部材51cには、連通部50aに隣接して連通部50cが設けられており、連通部50a、50cにはそれぞれ、弾性体にて付勢された逆止弁54a、54bが取り付けられている。これら逆止弁54a、54bは、それぞれ相対する向きに構成されている。
【0063】
[4−2.作用及び効果]
以上のような第4の実施形態においては、熱的昇圧室31の主空間52a及び従空間52bの間に流れるガス流を、主空間52a及び従空間52bの差圧にて制御することが可能となる。
【0064】
例えば、中小電流遮断時の圧力上昇においては、熱的昇圧室31の主空間52aから従空間52bの向きへ連通しないように逆止弁54bの弾性体を設定することにより、熱的昇圧室31の主空間52aの圧力をさらに効果的に昇圧することが可能となる。また、大電流遮断時において、熱的昇圧室31の主空間52aの圧力が急上昇した際には、逆止弁54b側が開となるように設定すれば、高温ガス流が主空間52aから従空間52bに流入するようになる。
【0065】
さらには、電流零点において、主空間52aの圧力が低下した際に、逆止弁54aが開となるように設定すれば、従空間52bから主空間52aにガスを供給することが可能となる。したがって、このような実施形態によれば、中小電流遮断においても大電流遮断においても、さらに遮断性能を向上することができる。
【0066】
[5.他の実施形態]
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、各部材の形状や寸法、配置数等は適宜変更可能であり、各実施形態を自由に組合せても良い。例えば、分割部材の形状は、円筒形状や円錐形状だけでなく、角柱状や板状であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の断面図であり、大電流遮断時に電流零点に至った状態を示す。
【図2】第1の実施の形態の断面図であり、中小電流遮断時に電流零点に至った状態を示す。
【図3】本発明に係る第2の実施形態の断面図であり、開極後の電流ピーク近傍に至った状態を示す。
【図4】本発明に係る第3の実施形態の断面図であり、中小電流遮断時に電流零点に至った状態を示す。
【図5】本発明に係る第5の実施形態の断面図であり、投入状態を示す。
【図6】従来のガス遮断器の断面図であり、遮断動作前の投入状態を示す。
【図7】従来のガス遮断器の断面図であり、遮断動作初期の状態を示す。
【図8】従来のガス遮断器の断面図であり、開極後の大電流期間における状態を示す。
【図9】従来のガス遮断器の断面図であり、大電流遮断において電流零点に至った状態を示す。
【図10】従来のガス遮断器の断面図であり、中小電流遮断において電流零点に至った状態を示す。
【符号の説明】
【0068】
1…可動接触子部
2…対向接触子部
4…可動通電接触子
5…対向通電接触子
6…可動アーク接触子
7…対向アーク接触子
8…絶縁ノズル
9…スロート部
11…ガス流路
14…充填ガス雰囲気空間
26…操作ロッド
27、40…フランジ
28…シリンダ
31…熱的昇圧室
32…機械的圧縮室
33…固定ピストン
34a〜39d…開口部
35…隔壁
38…アーク
39a〜39g、53a〜53c…ガス流
41、54a、54b…逆止弁
42…ストッパ
44…放圧弁
45…バネ
50a〜50c…連通部
51、51a〜51c…分割部材
52a…主空間
52b…従空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消弧性ガスが充填された密閉容器内に第1接触子部及び第2接触子部が対向して配置され、前記第1接触子部は、連結された駆動装置により遮断動作時及び投入動作時に動作するように構成され、前記第1接触子部には第1通電接触子及び第1アーク接触子が設置され、前記第2接触子部には前記第1通電接触子及び前記第1アーク接触子に対し接離自在な第2通電接触子及び第2アーク接触子が設置され、前記第1アーク接触子及び前記第2アーク接触子は、通常運転時は接触導通状態にあり、遮断動作時は開離すると共に前記第1接触子部及び前記第2接触子部間の空間として定義されるアーク空間にアークを発生するよう構成され、さらに前記第1接触子部には、遮断動作時に機械的圧縮作用により蓄圧される機械的圧縮室と、遮断動作時に前記アーク空間から取り込まれる熱ガスによる加熱昇圧作用により蓄圧される熱的昇圧室が、隔壁を介して配置され、前記隔壁には前記機械的圧縮室及び前記熱的昇圧室を連通させる隔壁開口部が形成され、前記隔壁開口部にはこれを閉塞する逆止弁が取り付けられ、前記アーク空間と前記熱的昇圧室とを接続するガス流路が設けられたガス遮断器において、
前記熱的昇圧室には該室内を主空間と従空間に分割する分割部材が設置され、
前記熱的昇圧室の前記主空間は、前記ガス流路と、前記隔壁開口部を経て前記機械的圧縮室とに接続され、
前記従空間は、前記分割部材により前記ガス流路及び前記機械的圧縮室から隔てられており、
前記分割部材には前記主空間と前記従空間とを連通させる連通部が形成されたことを特徴とするガス遮断器。
【請求項2】
前記連通部の断面積は、前記ガス流路の開口部分の断面積、並びに前記隔壁開口部の断面積のいずれよりも小さくなるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項3】
前記連通部は、前記分割部材において少なくとも、前記ガス流路近傍と、前記隔壁開口部近傍に形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のガス遮断器。
【請求項4】
前記分割部材は、前記熱的昇圧室における中心軸に対して回転対称形に構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項5】
前記分割部材は、向かい合う開口部を有する中空部材から構成され、一方の開口部が前記ガス流路近傍に、他方の開口部が前記隔壁開口部近傍に、それぞれ配置されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス遮断器。
【請求項6】
前記分割部材には少なくとも2箇所に前記連通部が形成され、
前記連通部にはそれぞれ、弾性体で閉方向に付勢された逆止弁が取り付けられ、
前記逆止弁のうち少なくとも1組は、相対する向きに構成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−99499(P2009−99499A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272494(P2007−272494)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】