説明

ガス遮断器

【課題】熱パッファ室の構造を見直して機械的強度を向上させることにより、遮断性能の向上および安定化を図る。
【解決手段】固定接触子4と可動接触子11(チューリップ接触子)が開離したときに発生するアークのエネルギーにより加熱昇圧された消弧ガスを受け入れてアークに吹き付ける熱パッファ室19を備えたガス遮断器であって、熱パッファ室19を構成する壁面は、可動接触子11を取り囲む円筒状の熱パッファシリンダ14と、一端側が熱パッファシリンダ14に一体的に接続され、他端側が内側に折り返されて可動接触子11の先端側に向けて突出し、内面が湾曲面16bに形成された絶縁ノズル16と、絶縁ノズル16よりも機械的強度に優れた絶縁材料により、絶縁ノズル16の外面を覆うように設けられた補強部材17と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力系統、電力機器の正常時の負荷電流を開閉するとともに、事故時の短絡電流を遮断することにより負荷側の設備を保護することを目的として使用されるガス遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SFガス等の消弧ガスを使用した遮断器では、シリンダ内の消弧ガスを機械的に圧縮しアークへ消弧ガスを吹き付ける機械パッファに併設して、遮断時に接触子間に生じるアークを囲むように熱パッファ室を設け、アークの熱エネルギーによって熱パッファ室を高圧力にし、内部の消弧ガスをアークへ吹き付ける熱パッファを備えたものが知られている。電流遮断時には機械パッファと熱パッファから吹き付けられる消弧ガスによってアークを構成するイオン化されたガスを除去するので、電流零点後にはアークは発生せず、電流遮断が完了する。パッファ式遮断器の遮断性能はアークへ消弧ガスを吹き付ける圧力に大きく影響されるため、機械パッファ室や熱パッファ室の圧力を高め、より高いアークへの消弧ガスの吹付圧力を得ることが遮断性能向上には不可欠となる。
【0003】
従来の、熱パッファ形ガス遮断器として、例えば、図4のような構造のものが開示されている。図4の断面図に示すように、固定コンタクト31と可動コンタクト32を囲むように、上記の熱パッファ室に相当する昇圧室33が形成されている。昇圧室33を形成するノズル34は、耐熱性に優れた絶縁材料からなり、円筒部34aと、その先端側で固定コンタクト31側に向けて折り返されて中心孔を有する先端部34bとで構成されている。ノズル34の中心孔から可動コンタクト32が昇圧室33に出入りし、固定コンタクト31と接触、開離する。
投入時は可動コンタクト32によりノズル34が塞がれている。電流遮断時は固定コンタクト31から開離して両コンタクト間にアークが発生し、昇圧室33内の消弧ガスが加熱されて内部のガス圧が上昇する。可動コンタクト32が、更に図で下方へ移動してその先端がノズル34から外れると、昇圧室33内の高圧となった消弧ガスは、ノズル34と可動コンタクト32との隙間を通って外部へ放出されるが、このときの消弧ガス流により、アークが吹き消される。
昇圧室33の内部が高温となったときに昇圧室33が変形しないように、円筒部34aの内部に、機械的強度に優れた絶縁材料からなる補強部材35が芯材として設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、機械パッファ室を有するものとしては、例えば、絶縁操作ロッドを介して連結されたシャフトに機械パッファシリンダが一体に形成され、機械パッファシリンダと摺動可能な固定ピストンと組み合わされて機械パッファ室が構成されると共に、シャフトの先端側には可動接触子が取り付けられ、可動接触子を包囲して内部が機械パッファ室と連通した絶縁ノズルが設けられ、可動接触子の中心軸線上に可動接触子と接離する固定接触子が対向設置されたパッファ式ガス遮断器が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−69326号公報(第3頁、図2)
【特許文献2】特開平9−180602号公報(第2頁、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱パッファ室を構成する部材には、耐熱性能,消弧性能,アーク暴露時の性能に優れた絶縁材料が用いられる。一般的に、耐熱性能,消弧性能,アーク暴露時の絶縁性能(特に沿面での絶縁性能)に優れた絶縁材料は機械的強度が弱いので、遮断時に生じるアークの高熱によって上昇する熱パッファ室の圧力によって変形しやすい。
特許文献1に示されたガス遮断器では、熱パッファ室(昇圧室33)を構成する円筒部34aを機械的強度に優れた補強部材35で補強することで、熱パッファ室の強度を増し、変形を防止するようにしている。しかしながら、図4から分かるように、熱パッファ室33の内面は、断面形状が全て直線で構成されている。すなわち、熱パッファ室33の側壁の円筒部34aと可動コンタクト32が出入りする先端部34bとは内面がエッジで繋がっている。このため、遮断時に生じるアークの熱によって熱パッファ室の圧力が一定値以上に上昇すると、熱パッファ室内の壁面同士の継ぎ目である角部に応力が集中するので、その角部からノズルが破損する虞があるという問題点があった。
【0007】
また、特許文献2に示されたパッファ式ガス遮断器では、絶縁ノズル部の内面は曲面に形成されているが、絶縁ノズルで囲まれた室は、遮断動作時に機械パッファ室で圧縮された消弧性ガスをアークに吹き付ける流路を形成するのが主目的であり、このため、機械的強度については特に配慮されていない。この形状の絶縁ノズルで囲まれた空間を積極的に熱パッファ室として利用して、より高い遮断性能を実現しようとすると、絶縁ノズル部を大きくしなければならず、相似形状で単に大型化するだけでは、絶縁ノズル部の機械的強度が不足して変形し、アークへの消弧ガスの吹き付け圧力が不安定となり、ひいては遮断性能が不安定になる虞があるという問題点があった。
【0008】
この発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、熱パッファ室の構造を見直して機械的強度を向上させ、熱パッファ室の能力を高めて、遮断性能の向上および安定化図ったガス遮断器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るガス遮断器は、消弧ガスが充填された密閉タンク内に、固定接触子と可動接触子が接離可能に対向配置され、両接触子が開離したときに発生するアークのエネルギーにより加熱昇圧された消弧ガスを受け入れて電流零点でアークに吹き付ける熱パッファ室が、可動接触子側に設けられたガス遮断器において、熱パッファ室を構成する壁面は、可動接触子を取り囲む円筒状の熱パッファシリンダと、一端側が熱パッファシリンダに一体的に接続され、他端側が内側に折り返されて可動接触子の先端側に向けて突出し、内面が湾曲面に形成され、他端側の中心に固定接触子が出入りする貫通穴を有する絶縁ノズルと、絶縁ノズルよりも機械的強度に優れた絶縁材料により、絶縁ノズルの外面を覆うように設けられた補強部材と、を備えているものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明のガス遮断器によれば、熱パッファ室を構成する壁面は、可動接触子を取り囲む円筒状の熱パッファシリンダと、一端側が熱パッファシリンダに一体的に接続され、他端側が内側に折り返されて可動接触子の先端側に向けて突出し、内面が湾曲面に形成され、他端側の中心に固定接触子が出入りする貫通穴を有する絶縁ノズルと、絶縁ノズルよりも機械的強度に優れた絶縁材料により、絶縁ノズルの外面を覆うように設けられた補強部材とを備えているので、遮断動作時に発生するアークにより、熱パッファ室に流入する消弧ガスが高圧化しても、熱パッファ室の壁面を構成する絶縁ノズルが変形したり破損したりするのを抑制でき、熱パッファ室の圧力を高めることができるため、熱パッファ室によるアークへの消弧ガスの吹きつけ圧力が増大し、安定化することにより、遮断性能の優れたガス遮断器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1によるガス遮断器を示す部分断面図である。
【図2】図1の要部を示す部分断面図である。
【図3】この発明の実施の形態2によるガス遮断器の要部を示す部分断面図である。
【図4】従来の熱パッファ形ガス遮断器の要部を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるガス遮断器を示す部分断面図であり、開極時の状態を示している。
図において、ガス遮断器は、消弧ガス(絶縁ガス)が封入された円筒状のタンク1の長手方向の両側から第1及び第2の枝管1a、1bが上方に分岐し、第1の枝管1aに第1のブッシング2aが、第2の枝管1bには第2のブッシング2bが立設されている。
タンク1内には、可動電極ユニット3と固定接触子4とが、同一軸線上に対向配置されている。可動電極ユニット3はタンク1の一端側に絶縁支持部材5で支持され、第1のブッシング2aの中心導体に電気的に接続されている。固定接触子4側は図示しない絶縁支持部材でタンク1に支持され、第2のブッシング2bの中心導体に電気的に接続されている。
【0013】
可動電極ユニット3の可動部は、絶縁操作ロッド6に接続され、絶縁操作ロッド6はリンク7を介して、バネ機構や油圧機構によって動作する操作装置8に連結されている。タンク1側は消弧ガスが封入されているので、タンク1から絶縁操作ロッド6が引き出される部分には、気密を保ったまま摺動できるように、例えばOリングなどのシール部品を有する摺動部材9が設けられている。
なお、消弧ガスとしては、SF,CO,CFI,N,H,CF,Oあるいはそれらを混合したガス(Airを含む)が用いられる。
【0014】
次に、可動電極ユニット3の詳細について説明する。
図2は、可動電極ユニット3部の詳細を示す部分断面図である。図において、一点鎖線で示す中心線より上側は、閉極状態を示し、中心線より下側は、開極途中の状態を示している。
図2に示す固定接触子4は、前述のように図示しない絶縁部材でタンク1側に支持固定されている。また、後述する機械パッファピストン21も絶縁支持部材5側に支持されて固定されている。それ以外の構成部品は、開極動作時に絶縁操作ロッド6を介して駆動されて、固定接触子4から離れる方向に一体になって移動する。すなわち、この部分が可動電極ユニット3である。図2では、中心線より下側の開極動作時を示す部分図で、固定接触子4及び機械パッファピストン21が右方向に移動するように表示されているが、実際は、固定接触子4と機械パッファピストン21が中心線の上側と同じ位置に固定されており、可動電極ユニット3側が、図の左方向に相対的に移動するものである。
【0015】
可動電極ユニット3は、その中心部に、可動接触子であるチューリップ接触子11が、隔壁12に取り付けられている。チューリップ接触子11は、例えば、弾性を有する複数の接触フィンガーを備えて構成されており、可動電極ユニット3の駆動軸線を中心にして略45°〜60°の角度(頂角)で固定接触子4側に突出した円錐台の側面に沿って放射形状に配置され、スリットによって分離されている。チューリップ接触子11の上記接触フィンガー間のスリットから消弧ガスが流通するのを防止するために、チューリップ接触子11の接触フィンガーの内側の面に、絶縁材料で構成された漏斗状のガイド13が取り付けられている。
【0016】
隔壁12の固定接触子4と対向する側には、円筒状の金属部材からなる熱パッファシリンダ14が、チューリップ接触子11を取り囲むように設けられ、それに連続して一体的にノズル15が形成されている。熱パッファシリンダ14とノズル15とで囲まれた内側に、後述の熱パッファ室19が形成されている。
ノズル15は、絶縁ノズル16と、補強部材17と、絶縁カバー18とで構成されているので、次に、ノズル15の各構成部品の詳細について説明する。
【0017】
絶縁ノズル16は、一端側が、熱パッファシリンダ14に一体的に接続される円筒部16aとなっており、その他端側(先端側)が内側に折り返されてチューリップ接触子11の先端側に向けて突出し、内面が熱パッファシリンダ14の内面と連続して、図2の方向から見て半円状の断面形状をした湾曲面16bとなっている。他端側の中心には、固定接触子4が出入りするための、固定接触子4の外径より僅かに大きな内径の貫通穴16cが設けられている。
補強部材17は、絶縁ノズル16よりも機械的強度に優れた絶縁材料により、絶縁ノズル16の円筒部16aと湾曲面16b部分の外面を覆うように設けられている。湾曲面16bの外面を覆う側は、少なくとも湾曲面16bの一番深くなった底部近傍までをカバーする長さとしている。
絶縁カバー18は、補強部材17と異なる絶縁材料によって、補強部材17の外面を覆うように形成されている。各絶縁材料の詳細は、後述する。
【0018】
隔壁12,チューリップ接触子11(及びガイド13),熱パッファシリンダ14,及びノズル15によって囲まれた空間が、熱パッファ室19となる。チューリップ接触子11の先端部と絶縁ノズル16の内側に湾曲した先端部とで形成される開口部19aが、駆動軸線に対して垂直方向に開口している。
熱パッファ室19は、遮断時に生じるアークAの熱エネルギーを、開口部19aから内部に取り込んで熱パッファ室19内部のガス圧を高めるとともに、高圧化した消弧ガスを開口部19aからアークAに吹き付ける役目をする。
【0019】
開口部19aの絶縁ノズル16側の先端面は、その先端面を駆動軸線に垂直方向に延長した面(図2中に示す二点鎖線を含む面)が、図のように、熱パッファシリンダ14の先端よりも隔壁12側に位置するような形状としている。これは、アークAによって高熱化した消弧ガスが熱パッファ室19に入ったとき、熱パッファ室19内面の熱パッファシリンダ14と絶縁ノズル16の結合部に高熱化した消弧ガスが直接当たることを防止し、熱パッファ室19の破損を防止するためである。
【0020】
隔壁12の、熱パッファ室19とは反対側には、2重円筒状の機械パッファシリンダ20a,20bが固着されており、内側の機械パッファシリンダ20aが絶縁操作ロッド6に連結されて駆動力が伝達され、それにより可動電極ユニット3が駆動されるようになっている。2重の機械パッファシリンダ20a,20bに挟まれた内側に、機械パッファピストン21が摺動自在に設けられている。機械パッファピストン21と機械パッファシリンダ20a,20b及び隔壁12によって囲まれた空間が、機械パッファ室22である。機械パッファピストン21は絶縁支持部材5側に固定されているので、機械パッファシリンダ20a,20bが駆動軸線方向に駆動されることにより、機械パッファ室22の容積が変化する。隔壁12には熱パッファ室19と機械パッファ室22とを連通する連通口12aが設けられており、その連通口12aには逆止弁23が備えられている。逆止弁23は、機械パッファ室22から熱パッファ室19へのみガス流通が可能となっている。
【0021】
本願発明のガス遮断器は、従来多く見られたような、機械パッファをメインとして熱パッファでアシストする方式ではなく、熱パッファをメインとするものである。
機械パッファがメインであると、ガス遮断器の遮断容量が大きくなった場合、駆動操作部が大形化してガス遮断器の大形化に繋がる。そこで、熱パッファをメインとして、熱パッファの機能を向上させるように工夫した点が、本願発明の特徴点である。
このため、熱パッファ室19の容積を機械パッファ室22の容積以上としている。
【0022】
チューリップ接触子11の内側に設けたガイド13と隔壁12とに囲まれた空間は、開極時に発生するアークAよって高圧となる圧力室24である。
機械パッファシリンダ20aの中心軸側の空間は、隔壁12の中心に設けた連通穴により圧力室24に繋がり、圧力室24で発生する高圧のガスを排気する排気路25となっており、絶縁操作ロッド6に連結される側に設けられた排気孔20cによって外部と繋がっている。一方、この圧力室24と排気路25は、チューリップ接触子11の先端側の開口部によって、アークAが発生する空間とも繋がっている。
【0023】
圧力室24の体積をある一定以上確保することにより、アーク発生空間からの熱せられた消弧ガスの排出効率が高まる。前述のように、円錐状をしたチューリップ接触子11の接触フィンガーの角度を45°以上にすることにより、圧力室の体積を大きく確保することができる。一方、接触フィンガーの角度が60°を超えると、投入動作時に固定接触子4と接触したときに軸方向の力の作用により折れや破損を生じやすくなるため、上記角度は60°以下にするのが望ましい。
【0024】
次に、遮断時の動作について説明する。
遮断器が投入されているときは、図2の軸線の上半分に示すように、固定接触子4にチューリップ接触子11が嵌合し所定の接触圧で接触している。操作装置8に遮断指令が出されると、可動電極ユニット3が、軸線に沿って図2中で左方へ駆動される。
機械パッファピストン21はタンク1側に固定されているので、機械パッファシリンダ20a,20bが左方に移動することにより、機械パッファ室22内部の消弧ガスが圧縮される。連通口12aに設けられた逆止弁23は熱パッファ室19の圧力が機械パッファ室22の圧力より高くなったときに閉鎖し、機械パッファ室22への過剰な圧力がかからなくすることで操作装置8への過度の負担を低減するようになっている。
【0025】
図2の軸線の下半分に示すように、チューリップ接触子11が固定接触子4から離れると、両接触子間にアークAが発生する。アークAの熱エネルギーによって熱パッファ室19の圧力は急激に上昇する。遮断動作の初期段階では熱パッファ室19の圧力は機械パッファ室22の圧力よりも高いので逆止弁23は閉じている。高圧となった熱パッファ室19の圧力によって、消弧ガスがアークAに吹き付けられる。
瞬時電流の低下とともに熱パッファ室19の圧力は低下し、熱パッファ室19の圧力よりも機械パッファ室22の圧力が高くなった時点で逆止弁23が開き、機械パッファ室22内部の圧縮された消孤ガスは、連通口12aを通って熱パッファ室19に導かれ、更に、熱パッファ室19の開口部19aを通ってアークAに吹き付けられる。
この機械パッファ22による消弧ガスの吹き付けは、電流零点前のみならず、その後も継続するので、アークを消弧した後、チューリップ接触子11と固定接触子4との間の絶縁を急速に回復させる。これにより、消弧と同時にチューリップ接触子11と固定接触子4との間で発生する再起電圧による再点弧が発生せず、遮断動作が完了する。
【0026】
次に、本実施の形態のノズル15の作用について説明する。
遮断動作時には、機械パッファ室22から送り込まれる圧縮された消弧ガスと、アークAの熱により上昇するガス圧力とによって、熱パッファ室19は急速に高圧力となる。この高圧力は、熱パッファ室19を外側に膨らませる方向に応力を生じさせる。
前述のように、本願のガス遮断器は熱パッファをメインとしているので、熱パッファ室19の容積を大きくしているため、上記応力もそれに比例して大きくなるが、熱パッファ室19の壁面を構成するノズル15は、内面を湾曲面で構成した絶縁ノズル16によって、特定の箇所に応力集中を起さなくなるため、絶縁ノズル16の強度が維持されて破損することがない。
【0027】
熱パッファ室19の内面形状が本実施の形態のような湾曲面構造の場合、図2に示す熱パッファ室19の軸方向長さBと半径方向長さCの比が、略同一から最大3:2程度とすれば、熱パッファ室19内の消弧ガスの温度が均一化され、充分な遮断性能を得るために適した熱パッファ室の形状になることを検証した。
【0028】
また、絶縁ノズル16の外面を覆うように、絶縁ノズルよりも機械的強度が優れた絶縁材料、例えばFRPのような材料よって形成される補強部材17を設けているので、絶縁ノズル16が外側に膨らむことを防止できる。
また、熱パッファシリンダ14によっても、外壁が外側に膨らむのを防止できる。
これらによって、熱パッファ室19の構造が強固になって機械的強度が向上するため、熱パッファ室19の圧力上昇を大きくでき、熱パッファ室19の開口部19aから、アークAへ吹き付けられる消弧ガスの吹きつけ圧力を増大させ、安定化させることができる。
【0029】
更に、図2の断面図に破線で示すように、熱パッファ室19内部で高圧化された消弧ガスは、チューリップ接触子11の傾斜部および絶縁ノズル16内面先端の傾斜部を通り、開口部19aからアークAへ向けて垂直方向に吹き付けられるが、両傾斜部の作用により、開口部19aを出た消弧ガスは、チューリップ接触子11の方向と固定接触子4の方向とに別れることで、アークAを分断する効果をもたらすとともに、アークAによって熱せられて高温になったガスが左右2つの経路から排出されるので、効率よく熱ガスを排出することができる。
【0030】
次に、圧力室24の作用について説明する。本実施の形態では、前述のように、チューリップ接触子11のフィンガー部を傾斜させて圧力室24を大きく形成している。チューリップ接触子11側に流れ出た熱ガスは、チューリップ接触子11の開口部から圧力室24に放出される。圧力室24は、チューリップ接触子11の固定接触子4側の開口部から排気路25に向かって円錐状に広がる比較的広い空間であるため、チューリップ接触子11側に流れる熱ガスは流れを妨げられることなく、速やかに排気路に排出される。
【0031】
圧力室24に流入した熱ガスは、少なくともその一部は一旦圧力室24内に貯留される。遮断する電流が比較的小さい場合には、アークAが点弧した場合でもアークAの発熱量が少ないために熱パッファ室19内にアークAの熱が充分に流入せず、消弧するのに充分な吹き付け圧力が得られない場合がある。この場合、圧力室24側に流出した熱ガスによる熱エネルギーを圧力室24内で一時的に貯留するため、熱パッファ室19よりも高い圧力上昇を得られ、この圧力室24の圧力上昇がパッファの役割を果たすので、小電流遮断時には圧力室24が消弧ガスを吹きつけて消弧を行うという効果がある。
【0032】
次に、消弧ガスの材料とノズル15を構成する材料との関係、および、補強部材17の外面に設けた絶縁カバー18の作用について説明する。
遮断器の消弧ガスにSF、CFI、CFのようなフッ素を含むガスを使用する場合は、アークによる消弧ガスの分解によってSFが生成される。
ここで、絶縁ノズルの材料を、例えば、ポリアセタール(POM)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)等の有機高分子材料とすれば、その中に含まれる水素と反応して腐食性の高いHFが生じる。
【0033】
補強部材17をFRP等のようなSiOを含む絶縁材料で形成した場合、SiOと上記HFが反応を起こして補強部材は腐食され、また反応と同時に生じる水分が遮断器内の絶縁材料沿面に付着することにより沿面抵抗の低下を引き起こす要因となる。
この対策として、本実施の形態では、補強部材17の外面を、補強部材17と異なる絶縁材料からなる絶縁カバー18で覆ったものである。これにより、消弧ガスとの接触が断たれ、上記のような補強部材17の腐食や、沿面抵抗の低下を防ぐことができる。
【0034】
また、遮断器の消弧ガスにCO、CFI、CFのような炭素を含むガスを用いる場合は、アークによる消弧ガスの分解によって炭素が析出される。更に、OやOを含む混合ガスを消弧ガスとして使うときにおいても、絶縁材料が還元されて炭素が発生する。
補強部材17をFRP等のようなSiOを含む絶縁材料で形成した場合、アークの熱エネルギーによりSiOが溶け、その溶融箇所に炭素が取り込まれる。更に、アークの発生に伴い、金属電極である固定接触子4およびチューリップ接触子11から、金属蒸気が発生し、上述の炭素と同様に、SiOの溶融箇所に取り込まれる。その結果、補強部材17の沿面抵抗が低下し、遮断後に遮断器間に印加される高電圧によって補強部材17の沿面で絶縁破壊が起こる懸念がある。
この場合も、補強部材17と異なる絶縁材料で形成される絶縁カバー18で補強部材17を覆っているので、補強部材17が直接アークによって高熱化したガスにさらされず、上記のような補強部材17の沿面への炭素の付着が防止され、絶縁破壊を防ぐことができる。
【0035】
なお、絶縁カバー18を形成する材料は、アークAによって熱せられて高温になったガスにより、表面が劣化して沿面抵抗が低下し難い材料、例えば、上述の絶縁ノズルに用いられる材料などが好ましい。
【0036】
これまでの説明では、熱パッファ室19と機械パッファ室22を備えたガス遮断器について説明してきた。本実施の形態のガス遮断器では、前述のように熱パッファをメインにしたものであり、熱パッファ室19の容積を十分大きくできるので、ガス遮断器の容量や仕様によっては、機械パッファ22を省略することも可能である。熱パッファ室19のみの圧力によって消弧ガスをアークに吹き付ける構成としても、アークの熱エネルギーによって熱パッファ室19の圧力は充分に上昇させることができ、十分な消孤ガスの吹き付けが得られる。
【0037】
以上のように、実施の形態1のガス遮断器によれば、消弧ガスが充填された密閉タンク内に、固定接触子と可動接触子が接離可能に対向配置され、両接触子が開離したときに発生するアークのエネルギーにより加熱昇圧された消弧ガスを受け入れて電流零点でアークに吹き付ける熱パッファ室が、可動接触子側に設けられたガス遮断器において、熱パッファ室を構成する壁面は、可動接触子を取り囲む円筒状の熱パッファシリンダと、一端側が熱パッファシリンダに一体的に接続され、他端側が内側に折り返されて可動接触子の先端側に向けて突出し、内面が湾曲面に形成され、他端側の中心に固定接触子が出入りする貫通穴を有する絶縁ノズルと、絶縁ノズルよりも機械的強度に優れた絶縁材料により、絶縁ノズルの外面を覆うように設けられた補強部材と、を備えているので、熱パッファ室の消弧ガスが高圧化してもノズルが変形、破損せず、従来と比べて熱パッファ室の圧力を高めることができるため、熱パッファによるアークへの消弧ガスの吹きつけ圧力を増大させ、安定化させることが可能となり、遮断性能の優れたガス遮断器を得ることができる。
【0038】
また、補強部材の外面が、補強部材と異なる絶縁材料で形成された絶縁カバーにより覆われているので、遮断時に発生するアークによって、アーク周辺の消弧ガス,絶縁物,接触子の分解性生物(HF、炭素、金属蒸気等)が補強部材に付着して、機械的強度の劣化や沿面抵抗の低下を引き起こすことを防止することができる。
【0039】
また、熱パッファ室の固定接触子が出入りする側とは反対側に、機械パッファシリンダと機械パッファピストンにより構成され、両接触子の開極動作により内部の消弧ガスが圧縮される機械パッファ室が設けられており、機械パッファ室と熱パッファ室との隔壁に形成された連通口に、機械パッファ室から熱パッファ室へのみ消弧ガスの流通が可能な逆止弁が備えられているので、上記の効果に加えて、遮断動作中の瞬時電流の低下とともに熱パッファ室の圧力が低下しても、機械パッファ室による消弧ガスの吹きつけは、電流零点後も継続するので、アークを消弧した後も両接触子間の絶縁を急速に回復させることができ、消弧と同時に両接触子間に発生する再起電圧による再点弧の発生を抑制した、遮断性能の優れたガス遮断器を得ることができる。
【0040】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2によるガス遮断器の可動電極ユニット部の詳細を示す部分断面図である。ガス遮断器の全体構成は実施の形態1の図1と同様である。図3は、実施の形態1の図2に相当する部分なので、同等部分は同一符号で示し、説明は省略して、相違点を中心に説明する。相違点は、熱パッファを構成する壁面の外面の形状である。
【0041】
図3に示すように、熱パッファ室19を構成する壁面であるノズル26の先端側(隔壁12から一番遠い側)の外周端部は、絶縁ノズル27の内面の湾曲面に対応させて曲面に形成されている。絶縁ノズル27,補強部材28,絶縁カバー29の各構成部材の外周端部となる側を曲面に形成したものである。ノズル26の肉厚は、ほぼ同じ厚さになるような形状としている。
上記以外の、絶縁ノズル27の内面の湾曲面27bの形状や、補強部材28が絶縁ノズル27の外面を覆う範囲や、絶縁カバー29が補強部材28と異なる材料からなっている点などは、全て実施の形態1と同様である。
【0042】
このような構成により、実施の形態1と同様に、遮断時にノズル26が外側に膨れる方向に働く応力に対して、絶縁ノズル27の内面が湾曲面に形成されているために応力集中が抑制され、補強部材28によって変形が防止さされ、絶縁カバー29によって補強部材28の劣化を防止できる効果が得られることに加え、パッファ室19を構成するノズル26の先端側の外周端部を湾曲させて曲面に形成したことで、ノズルの外壁面上に電界が集中することを防止できる。
【0043】
以上のように、実施の形態2によるガス遮断器によれば、熱パッファ室を構成する壁面の先端側の外周端部は、絶縁ノズルの内面の湾曲面に対応させて曲面に形成されているので、実施の形態1の効果に加えて、熱パッファ室を構成するノズルの外壁面上に電界が集中するのを防止できるため、遮断時に固定接触子と可動側導体との間に生じる高電界によって、ノズルの外壁面で沿面放電が生じることを防止することができる。
【0044】
なお、実施の形態1及び実施の形態2において、絶縁カバー18又は29は、前述のように、補強部材の性能維持に効果を発揮するが、補強部材の機能のみからすれば、必ずしも必要でなく、省略することも可能である。
また、絶縁ノズル16又は27は、熱パッファシリンダ14を介して隔壁12に固定されているものとしたが、熱パッファシリンダ14を絶縁材料として、絶縁ノズル16、又は27と一体に形成しても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 タンク 1a 第1の枝管
1b 第2の枝管 2a 第1のブッシング
2b 第2のブッシング 3 可動電極ユニット
4 固定接触子 5 絶縁支持部材
6 絶縁操作ロッド 7 リンク
8 操作装置 9 摺動部材
11 チューリップ接触子(可動接触子) 12 隔壁
12a 連通口 13 ガイド
14 熱パッファシリンダ 15,26 ノズル
16,27 絶縁ノズル 16a,27a 円筒部
16b、27b 湾曲面 16c,27c 貫通穴
17,28 補強部材 18,29 絶縁カバー
19 熱パッファ室 19a 開口部
20a,20b 機械パッファシリンダ 20c 排気孔
21 機械パッファピストン 22 機械パッファ室
23 逆止弁 24 圧力室
25 排気路 A アーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消弧ガスが充填された密閉タンク内に、固定接触子と可動接触子が接離可能に対向配置され、前記両接触子が開離したときに発生するアークのエネルギーにより加熱昇圧された前記消弧ガスを受け入れて電流零点で前記アークに吹き付ける熱パッファ室が、前記可動接触子側に設けられたガス遮断器において、
前記熱パッファ室を構成する壁面は、
前記可動接触子を取り囲む円筒状の熱パッファシリンダと、
一端側が前記熱パッファシリンダに一体的に接続され、他端側が内側に折り返されて前記可動接触子の先端側に向けて突出し、内面が湾曲面に形成され、前記他端側の中心に前記固定接触子が出入りする貫通穴を有する絶縁ノズルと、
前記絶縁ノズルよりも機械的強度に優れた絶縁材料により、前記絶縁ノズルの外面を覆うように設けられた補強部材と、を備えていることを特徴とするガス遮断器。
【請求項2】
請求項1記載のガス遮断器において、
前記補強部材の外面が、前記補強部材とは異なる絶縁材料で形成された絶縁カバーにより覆われていることを特徴とするガス遮断器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガス遮断器において、
前記熱パッファ室を構成する壁面の先端側の外周端部は、前記絶縁ノズルの内面の前記湾曲面に対応させて曲面に形成されていることを特徴とするガス遮断器。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のガス遮断器において、
前記熱パッファ室の前記固定接触子が出入りする側とは反対側に、機械パッファシリンダと機械パッファピストンにより構成され、前記両接触子の開極動作により内部の消弧ガスが圧縮される機械パッファ室が設けられており、
前記機械パッファ室と前記熱パッファ室との隔壁に形成された連通口に、前記機械パッファ室から前記熱パッファ室へのみ前記消弧ガスの流通が可能な逆止弁が備えられていることを特徴とするガス遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−54097(P2012−54097A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195728(P2010−195728)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】