説明

ガス除去フィルタおよびガス除去フィルタユニット

【課題】吸着剤の脱落が少なく、高通気性かつ長寿命のガス除去フィルタが必要とされている。
【解決手段】本発明のガス除去フィルタは、粒状吸着剤1を粉末状ホットメルト樹脂7で連結して得られた成型体11の上流面4、下流面5のうち少なくとも一方の面が、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12で被覆されていることを特徴とするものである。接着強度が他の部分より弱く粒状吸着剤1の脱落の原因となる上流面4、下流面5のうち少なくとも一方の面を粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12が被覆しているため、ガス除去フィルタからの粒状吸着剤1の脱落を少なくするという作用を有するとともに、成型体11を直接触らずにガス除去フィルタを扱うことができるため、取り扱い時にガス除去フィルタを汚染する可能性を低くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを除去する空気清浄用のガス除去フィルタおよびガス除去フィルタユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、空気清浄の分野においては、一般的な生活環境以外にも、半導体製造工場や精密電子製造工場のクリーンルームにおける半導体の製造過程に使用されるケミカルフィルタに代表されるように、極微量のガス状不純物成分(以下ガスと呼ぶ)を除去して高清浄度の空気を保つことができるガス除去フィルタが必要とされている。
【0003】
このようなガス除去フィルタとしては、特許文献1および特許文献2に記載されるような形態のガス除去フィルタが提案されている。特許文献1に記載のガス除去フィルタは、接着剤を用いて三次元網状構造物に粒状吸着剤を担持したものに、表裏貫通孔を設け間隔を空けて積層したものである。また、特許文献2に記載のガス除去フィルタは、粒状吸着剤とプラスチック粉末の混合物をゴムの型を用いてハニカム状に成型したものである。
【特許文献1】特開2005−131506号公報
【特許文献2】特許第2523059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のガス除去フィルタには通気性に優れた基材に吸着剤を担持する形態のものが多く見られる。しかしながら、上流面や下流面といったガス除去フィルタの端面では取り扱い時に手が触れたりして、部分的に圧力がかかることが多く、吸着剤が基材から脱落し易くなる。このような脱落した吸着剤が下流側に流出して下流を汚染したり、フィルタの通気部分に詰まって通気性を低下させたりするといった課題がある。
【0005】
例えば、特許文献1のガス除去フィルタは三次元網状構造物基材に接着剤を塗布し乾燥後に吸着剤を担持するため、吸着剤は強固に基材に接着されている。しかしながら、ガス除去フィルタの端面に存在する吸着剤は前述のように部分的な圧力がかかる可能性が高く、吸着剤自身に直接圧力がかかった場合は吸着剤の脱落の可能性が大きいという課題がある。
【0006】
また、特許文献2のガス除去フィルタは、粒状吸着剤とプラスチック粉末の混合物をハニカム状に成型したものであるが、ガス除去フィルタの端面に存在する吸着剤は、内部に存在する吸着剤に比べて接着点が少ないため脱落し易いという課題がある。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、ガス除去フィルタ自身からの吸着剤の脱落がほとんど無いガス除去フィルタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明のガス除去フィルタは、粒状吸着剤を粉末状ホットメルト樹脂で連結して得られた成型体の上流面、下流面のうち少なくとも一方の面が、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体で被覆されていることを特徴とするものである。なお、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体とは、粉末状ホットメルト樹脂を加熱して溶融状態となった粉末状ホットメルト樹脂同士が連結し、冷却後に得られる固形物のことである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガス除去フィルタは、粒状吸着剤を粉末状ホットメルト樹脂で連結して得られた成型体の上流面、下流面のうち少なくとも一方の面が、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体で被覆されているため、ガス除去性能および通気性を低下させること無く、フィルタ自身からの粒状吸着剤の脱落がほとんど無いガス除去フィルタを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記目的を達成するために本発明のガス除去フィルタは、粒状吸着剤を粉末状ホットメルト樹脂で連結して得られた成型体の上流面、下流面のうち少なくとも一方の面が、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体で被覆されているという特徴を有する。ガス除去フィルタの端面となる上流面および下流面は、周りを吸着剤に取り囲まれている内部の吸着剤と異なり、通気方向に対して垂直な露出面が存在しているため、粒状吸着剤の接着が最も弱く粒状吸着剤の脱落の原因となる部分である。
【0011】
本発明では、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体がその露出面を覆い隠すように存在しているため、内部の粒状吸着剤と同様に強固な接着がなされている。
【0012】
このように接着強度が他の部分より弱く粒状吸着剤の脱落の原因となるガス除去フィルタの端面となる上流面、下流面のうち少なくとも一方の面を粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体が被覆しているため、ガス除去フィルタからの粒状吸着剤の脱落を少なくするという作用を有するとともに、粒状吸着剤を直接触らずにガス除去フィルタを扱うことができるため、取り扱い時にガス除去フィルタを汚染する可能性を低くするという作用を有する。
【0013】
また、被覆が内部の粒状吸着剤にまで及んでしまうと、粒状吸着剤のガス除去性能低下を招くが、本発明では上流面、下流面のうち少なくとも一方の面のみを被覆しているため、内部の粒状吸着剤を被覆してガス除去性能を低下させることが無い。また、通気部分を粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体が塞いでしまわないように、上流面、下流面のうち少なくとも一方の面に存在している粒状吸着剤のみを被覆することにより、通気性を低下させることが無い。これらの結果、ガス除去性能および通気性を低下させること無く、自身からの粒状吸着剤の脱落がほとんど無いガス除去フィルタを得ることができる。
【0014】
また、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体がポリオレフィン系ホットメルト樹脂からなる連結体であるということを特徴とするものである。ポリオレフィン系ホットメルト樹脂は強度に優れており、成型体の上流面、下流面のうち少なくとも一方の面を非常に強固にすることができるとともに、成型体全体の強度を増加させるという作用を有する。
【0015】
また、成型体が、通気方向において上流面から下流面まで達する貫通孔を有することを特徴とするものである。貫通孔が存在することにより、空気が通気方向に対して平行に流れることができるため、通気性に優れ圧力損失が低減するという作用を有する。
【0016】
また、成型体に貫通孔を設けるための複数のピンを有する型に粒状吸着剤と粉末状ホットメルト樹脂の混合物を充填した後、加熱後冷却して粒状吸着剤と粉末状ホットメルト樹脂の成型体を作製し、前記成型体を型から取り外すことで貫通孔を設けることを特徴とするものである。型に入れて加熱・冷却するだけで容易に型の形状を反映した貫通孔が得られ、また型の形状を変化させることにより任意の形状の貫通孔を容易に得ることができるという作用を有する。充填された混合物は型の形状に沿って硬化するため、複数のピンを任意の配列で有する型を用いることにより、成型体に複数の貫通孔を任意の配列で設けることができるという作用を有する。
【0017】
また、粒状吸着剤と粉末状ホットメルト樹脂の混合物を充填する前あるいは充填した後に、粉末状ホットメルト樹脂を充填することを特徴とするものである。成型体を成形した後にガス除去フィルタの端面となる上流面、下流面のうち少なくとも一方の面を被覆しようとすると、貫通孔を粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体が潰してしまい通気性が損なわれる可能性がある。
【0018】
粒状吸着剤と粉末状ホットメルト樹脂の混合物を充填する前あるいは充填した後に粉末状ホットメルト樹脂を型に充填することにより、ピンによって形成される貫通孔を塞ぐことなく上流面、下流面のうち少なくとも一方の面を被覆することができるため、通気性の高いガス除去フィルタを容易に作製できるという作用を有する。
【0019】
また、粒状吸着剤と粉末状ホットメルト樹脂の混合物を充填する前あるいは充填した後に、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体で被覆された粒状吸着剤を充填することを特徴とするものである。上流面、下流面のうち少なくとも一方の面に配置される粒状吸着剤が予め粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体によって被覆されているため、貫通孔を塞いでしまうことなく、上流面、下流面のうち少なくとも一方の面だけを確実に被覆することができ、通気性の高いガス除去フィルタを容易に作製できるという作用を有する。
【0020】
また、型の表面が易剥離性を有することを特徴とするものである。粉末状ホットメルト樹脂を用いた場合、加熱時に型に対しても接着性を有するため、取り外す際に型崩れを起こす可能性があるが、型の表面が易剥離性を有することにより型崩れをすることなく取り外すことができるという作用を有する。
【0021】
また、貫通孔を形成する貫通孔壁の内部に補強材を有することを特徴とするものである。強度に優れる構造体を補強材として用いることにより、ガス除去フィルタの強度を増加させ運搬時や使用時のガス除去フィルタの型崩れを防ぐ作用を有する。
【0022】
また、貫通孔を形成する貫通孔壁の内部に繊維体を有することを特徴とするものである。繊維体は、粒状吸着剤の隙間に絡むように存在し、一本の繊維で多数の粒状吸着剤を同時に連結できるため、貫通孔壁の強度を増加させるとともにガス除去フィルタからの粒状吸着剤の脱落を低減させる作用を有する。また、前記補強材と繊維体を併用することにより、補強材と繊維体が絡み合うことにより、さらにガス除去フィルタの強度を増加させる作用を有する。
【0023】
また、繊維体がガス吸着能を有することを特徴とするものである。補強材として添加してある繊維体がガスを吸着することにより、ガス除去フィルタの強度を増加させるとともに吸着容量を増加させる作用を有する。
【0024】
また、粒状吸着剤が非極性ガスを吸着することを特徴とするものである。非極性ガスの吸着性能に優れる粒状吸着剤のみを選択的に使用することにより、非極性ガスの吸着容量を最大にすることができるため、寿命を特に長くする作用を有する。
【0025】
また、粒状吸着剤が酸性ガスを吸着することを特徴とするものである。酸性ガスの吸着性能に優れる粒状吸着剤のみを選択的に使用することにより、酸性ガスの吸着容量を最大にすることができるため、寿命を特に長くする作用を有する。
【0026】
また、粒状吸着剤がアルカリ性ガスを吸着することを特徴とするものである。アルカリ性ガスの吸着性能に優れる粒状吸着剤のみを選択的に使用することにより、アルカリ性ガスの吸着容量を最大にすることができるため、寿命を特に長くする作用を有する。
【0027】
また、非極性ガス、酸性ガス、アルカリ性ガスをそれぞれ吸着することが可能な各粒状吸着剤のうち、少なくとも2種類以上の粒状吸着剤を用いて形成されることを特徴とするものである。空気中には多種多様なガスが存在しており、またガス除去フィルタ自身からの発ガスも起こりうるため、除去対象となるガスは複数存在することになるが、複数の粒状吸着剤を組み合わせることにより多くの種類のガスに対応できるという作用を有する。
【0028】
また、通気方向における上流面、下流面のうち少なくとも一方の面に、通気性を有し粒状吸着剤の粒径よりも目が小さいシートを設けることを特徴とするものである。
【0029】
通気性を有するが粒状吸着剤の大きさよりも目の細かいシートをガス除去フィルタの上流面もしくは下流面、もしくは両方の面に設けることにより、粒状吸着剤がガス除去フィルタから脱落したり、また、粒状吸着剤がガス除去フィルタの下流側に流出したりすることをなくすことができるという作用を有する。
【0030】
また、通気方向における上流面、下流面のうち少なくとも一方の面に設けられたシートがガス吸着能を有することを特徴とするものである。イオン交換不織布などの吸着能を有する繊維群をシートとして用いることにより、ガス除去フィルタ全体の吸着容量を増加させて寿命を大きくするという作用を有する。
【0031】
また、通気方向における上流面、下流面のうち少なくとも一方の面に設けられたシートが空気中の粉塵を捕集する機能を有することを特徴とするものである。例えばポリプロピレンをメルトブロー法で繊維状に吹き付けてシート化し、帯電処理を行って作成した静電濾材などをガス除去フィルタの上流面もしくは下流面、もしくは両方の面に設けることにより、ガスのみでなく空気中の粉塵をも捕集することが可能なガス除去フィルタを得ることができるという作用を有する。
【0032】
また、本発明のガス除去フィルタユニットは、請求項1から17いずれか1項に記載のガス除去フィルタをプリーツ状に配置してなることを特徴とするものである。複数のガス除去フィルタをプリーツ状、すなわち蛇腹状に配置して、空気をガス除去フィルタのプリーツ面から通過させることによって濾過面積が増大して空気の通過速度が小さくなり、通気性およびガスや粉塵の捕集効率を高める作用を有する。
【0033】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に記述する実施の形態は本発明における一例であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
(実施の形態1)
粒状吸着剤1を粉末状ホットメルト樹脂7で連結して得られた、通気方向2において上流面4から下流面5まで達する貫通孔3を有する成型体11の上流面4および下流面5が、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12で被覆されているガス除去フィルタの正面図を図1に、側面断面図を図2に、粒状吸着剤1と粉末状ホットメルト樹脂7の連結部分の拡大図を図3に示す。なお、図1では粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12を省略してある。
【0035】
図1、図2および図3に示すように、粒状吸着剤1は粉末状ホットメルト樹脂7によって強固に連結され、粒状吸着剤1自身が貫通孔3を形成する貫通孔壁6を形成している。図2に示すように、成型体11の端面となる上流面4および下流面5は粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12によって被覆されている。上流面4および下流面5は、通気方向2に対して垂直な露出面が存在しているため、粒状吸着剤1の接着が最も弱く粒状吸着剤1の脱落の原因となる部分であるが、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12がその露出面を覆い隠すように存在しているため他の部分以上に強固な接着がなされている。
【0036】
そのため、取り扱い時に粒状吸着剤1に触れてしまったり、運搬時に衝撃が加わったりしてもガス除去フィルタからの粒状吸着剤1の脱落がほとんど無いという特徴を有している。また、この粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12の被覆により、貫通孔壁6および貫通孔3の形状を安定させることとなり、ガス除去フィルタ自身の強度を増加させる効果も得られる。
【0037】
なお、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12による被覆は上流面4のみあるいは下流面5のみでもよいが、本実施例のように両面を被覆している方が強度も大きくなり、粒状吸着剤1の脱落の防止効果も高まるので好ましい。
【0038】
また、ガス除去フィルタには通気方向2において上流面4から下流面5まで達する貫通孔3が存在しているため、通気方向2に沿って上流面4から流入したガスは貫通孔3の内部を通り抜け、空気中に含まれるガスは貫通孔壁6を形成している粒状吸着剤1に接触・吸着されて除去される。ガスが粒状吸着剤1に吸着されることにより、粒状吸着剤1近傍のガス濃度が小さくなって貫通孔3内でガスの濃度勾配が生じる。
【0039】
そして、ガス濃度が均一になるように貫通孔3内でガスの拡散が起こる。このガスの濃度勾配の発生と拡散が繰り返し連続して起こることによってガスは捕集され空気中から除去される。貫通孔3を全て均一に孔径が小さくて通気方向2における長さをある程度有するものとすることによって、ガスと粒状吸着剤1の距離を小さく、またガスと粒状吸着剤1とが接触する機会を多くすることができる。
【0040】
このように、貫通孔3内部ではガスの濃度勾配の発生と拡散の繰り返しが迅速かつ無数に繰り返されることになることから全ての貫通孔3において高いガス捕集効率が得られる。
【0041】
ここで、図3に示すように、粒状吸着剤1どうしは粉末状ホットメルト樹脂7により連結しているが、粒状吸着剤1粒子間の隙間を完全には埋めておらず、ガスは粒状吸着剤1の粒子間の隙間を縫って内部まで拡散することができるので、貫通孔壁6の内部にある粒状吸着剤1についても吸着能力を有効に使用することができる。
【0042】
また、ガス除去フィルタの一部分だけにガスの流れが偏ってしまうとその部分だけに多量のガスが流れることになり、その一部分だけガス捕集効率の低下が早くなってガス除去フィルタ全体の寿命の低下を起こしてしまう。本実施例では、ガス除去フィルタ全面に同じ孔径の小さな貫通孔3が無数に空いているので、すべての貫通孔3に均一にガスを含む空気が通過する構造となっている。
【0043】
そのため、貫通孔3の一部だけ早くガス捕集効率が低下して寿命が低下してしまうといったことが無い。また、通気方向2において上流面4から下流面5まで達する貫通孔3が多数存在しているため、空気の流れが通気方向2に対して平行流となるので通気抵抗が小さく、粒状吸着剤1が多いにもかかわらず通気性に優れ、低圧力損失を実現している。
【0044】
また、成型体11の上流面4および下流面5のみが粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12で被覆されているため、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12が貫通孔3を潰して通気性を損なったり、内部の粒状吸着剤1を粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12が被覆してガス除去性能を阻害したりしていない。そのため、通気性を損なうことなく高いガス除去効率を保ち、粒状吸着剤1の脱落をほぼなくすことができる。
【0045】
粒状吸着剤1は球状や破砕状といった粒子状であり、様々な種類のものが挙げられるが主に活性炭やイオン交換樹脂、ゼオライトなどが挙げられ、粒径は0.1mm以上10mm以下程度が望ましい。
【0046】
アンモニアなどのアルカリ性ガスの吸着捕集には燐酸などの酸を添着した酸添着活性炭や陽イオン交換樹脂が用いられる。また、塩酸ガスやSOx、NOxやボロンといった酸性ガスの吸着捕集には炭酸カリウムなどを添着したアルカリ添着活性炭や陰イオン交換樹脂が用いられる。また、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレートやトルエンといった非極性ガスの吸着捕集には化学物質の添着を行わない無添着活性炭や、また、芳香族系やアクリル系樹脂から合成され、メソ孔やマクロ孔を有する多孔質体である合成吸着剤がよく用いられる。
【0047】
また、除去対象となるガスが明確な場合、そのガスのガス捕集効率に特化した粒状吸着剤1を用いることにより寿命を最大限に延ばしたガス除去フィルタを作製することが可能である。例えば、除去対象ガスがアンモニアである場合は陽イオン交換樹脂を、二酸化硫黄である場合は陰イオン交換樹脂を用いることにより、除去対象ガスに対する吸着容量を大きくし最大限に寿命を延ばすことができる。
【0048】
また、除去対象となるガスが複数である場合は、粒状吸着剤1を複数種併用することにより多様なガス除去に対応可能なガス除去フィルタを作製することができる。空気中には複数のガスが含まれているのが普通であり、これらのガスが除去対象となった場合、アルカリ性ガス用吸着剤、酸性ガス用吸着剤および非極性ガス用吸着剤を用いることにより、一枚のガス除去フィルタで多数のガスを除去可能となる。
【0049】
粒状吸着剤1の接着に用いる粉末状ホットメルト樹脂7の材質としては例えばポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ウレタン系樹脂あるいはポリアミド系樹脂等が挙げられる。
【0050】
特に、酢酸ビニルを6重量%以上、好ましくは20%以上配合されたエチレン酢酸ビニル共重合体からなるものを用いるとより低い溶融温度と高い接着性が得られ、低い温度で作製できるとともに接着性が高いため強度の高いガス除去フィルタが得られる。さらにエチレン酢酸ビニル共重合体は柔軟性に優れるため、成型体11に添加した際には粒状吸着剤1を結合させるだけではなく成型体11に弾力を与える作用があり、落下時等の衝撃によるガス除去フィルタの破損を低減させることができる。
【0051】
また、粉末状ホットメルト樹脂7の粒径は好ましくは10μm以上1.0mm以下であるが、粒状吸着剤1の1〜60%程度の粒径であると、粒状吸着剤1の表面を粉末状ホットメルト樹脂7が覆うことなく十分な接着強度を得られるため好ましい。
【0052】
また、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12を作製するために使用する粉末状ホットメルト樹脂7も、同様のものが使用できるが、より高い強度が得られるので、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。
【0053】
粒状吸着剤1と粉末状ホットメルト樹脂7の混合比率としては、粉末状ホットメルト樹脂7の重量が全体の重量の5%以上30%以下程度であると粒状吸着剤1の表面を粉末状ホットメルト樹脂7が覆うことなく十分な接着強度を得られるため好ましい。
【0054】
貫通孔3の断面形状としては、多角形や円形など、規則的に配列しやすい形状が挙げられる。貫通孔3の大きさは、平均半径が0.5mm以上10mm以下程度であると十分な通気性が得られ好ましい。
【0055】
また、粒状吸着剤1により形成される貫通孔壁6の厚みは、薄いとガス除去フィルタの強度が低下し、厚すぎると貫通孔壁6内部に埋もれてガスの吸着に有効活用されない粒状吸着剤1の割合が多くなるため、0.5mm以上10mm以下程度が好ましい。貫通孔3の形状や貫通孔壁6の厚みは、圧力損失、ガス捕集効率、寿命およびガス除去フィルタの強度に大きく影響するため、要求される項目および通気方向2における寸法すなわちガス除去フィルタの厚みを考慮して決定するのが好ましい。
【0056】
製造方法としては、図4に示すような複数のピン8を有し、表面が易剥離性を有する型13に粒状吸着剤1と粉末状ホットメルト樹脂7の混合物を充填した後、加熱後冷却して粒状吸着剤1と粉末状ホットメルト樹脂7の成型体11を作製し、前記成型体11を型13から取り外すことで貫通孔3を設ける方法が挙げられる。
【0057】
この方法では、粒状吸着剤1と粉末状ホットメルト樹脂7の混合物を型13に充填して加熱冷却するだけで、型13の形状を反映した貫通孔3が設けることができ、多様なガス除去フィルタ設計に対しても対応し易いという利点がある。さらに、成型体11作製時、粒状吸着剤1と粉末状ホットメルト樹脂7の混合物を充填した後に加圧する工程を加えることにより、密で強固な成型体11が得られる。
【0058】
また、補強材として針金や金網等の金属製の構造体や、ガラス繊維や炭素繊維、セラミック繊維等の強度に優れた繊維体9を添加することにより、より強度の高い成型体11が得られる。
【0059】
ピン8の断面形状がガス除去フィルタの貫通孔3の断面形状に反映される。そのため、ピン8の断面形状は得ようとする貫通孔3の断面形状と同じにすればよい。また、ピン8の先端が徐々に細くなっていると、成型体11を型13から取り外すのが容易になる。また、ピン8の長さはガス除去フィルタの厚みを考慮して決定することが好ましいが、一般的には5mm以上200mm以下程度である。
【0060】
また、型13およびピン8の材質としては、アルミや鉄、ステンレス等の金属であると強度に優れ、繰り返し使えるため好ましい。
【0061】
成型体11の端面となる上流面4および下流面5を粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12で被覆する方法としては、粒状吸着剤1と粉末状ホットメルト樹脂7の混合物を型13に充填する前あるいは充填した後に、粉末状ホットメルト樹脂7を充填する方法が挙げられる。この方法によると貫通孔3を潰すことなく最小限の被覆面積で効果が得られ、また内部の粒状吸着剤1を被覆することがないため好ましい。
【0062】
また、粒状吸着剤1と粉末状ホットメルト樹脂7の混合物を型13に充填する前あるいは充填した後に、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12で被覆された粒状吸着剤1を充填してもよい。この方法では、端面となる上流面4および下流面5に配置される粒状吸着剤1に予め粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12が被覆してあるため、粉末状ホットメルト樹脂7を用いることなく容易に上流面4および下流面5のみを被覆することができる利点がある。
【0063】
これらのように、成型体11を作製すると同時に上流面4および下流面5を粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12で被覆する方法であると、一度の加熱で成形と被覆が完了するので効率的である。また、通気方向2に対する被覆の厚みは、厚すぎるとガス除去フィルタの体積が大きくなり、また薄すぎると十分な被覆効果が得られない。そのため、1mm以上5mm以下程度の厚みであることが好ましい。
【0064】
易剥離性は、型13と成型体11の接着性を弱め成型体11を型13から外し易くするために重要である。しかしながら、液体の離型剤を用いると粒状吸着剤1の表面が離型剤によって覆われてガス捕集効率に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、型13に易剥離性を付与するには、フッ素樹脂系の離型剤を型13に噴霧し、溶剤を揮発させて型13の表面をフッ素樹脂でコーティングしたり、フッ素樹脂コーティング剤に含浸乾燥してフッ素樹脂の膜を形成して表面を被覆したりして型13の表面に易剥離性をもたせる方法が好ましい。
【0065】
加熱温度は、粉末状ホットメルト樹脂7が溶融する温度で十分であるが、粒状吸着剤1としてイオン交換樹脂等の吸着に寄与する官能基が高温で脱離し易いものを用いる場合、その脱離温度以下で加熱することが好ましい。例えばトリメチルアンモニウム基を有する陰イオン交換樹脂なら60℃以下、スルホ基を有する陽イオン交換樹脂なら120℃以下で溶融する粉末状ホットメルト樹脂7を用いて、官能基の脱離温度以下で加熱することが好ましい。
【0066】
ガス除去フィルタに求められる要求事項として低圧力損失、長寿命、高強度かつ粒状吸着剤1の脱落が少ないことが挙げられるが、これら3つの要求事項全てを満たすことが難しい。しかしながら、本発明に従って試作したガス除去フィルタは粒状吸着剤1の脱落が少なく、強度にも優れる。また、小さな空間により多くの粒状吸着剤1を充填しており、コンパクトで長寿命であるにもかかわらず高い通気性を確保している。
【0067】
体積あたりの粒状吸着剤1の充填量が多いこと、通気性の高い貫通孔3が設けられていること、さらに貫通孔3の通気を妨げないように上流面4、下流面5のうち少なくとも一方の面が粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体12で被覆されているといった理由から要求事項である低圧力損失、長寿命、高強度かつ粒状吸着剤1の脱落が少ないことを高いレベルで実現している。
【0068】
(実施の形態2)
貫通孔壁6内部がガス吸着能を有する繊維体9を有しているガス除去フィルタの拡大図を図5に示す。図5に示すように、長い繊維体9が粒状吸着剤1の隙間を縫うように、また絡み合って存在しているため、繊維体9と粒状吸着剤1間の接着によりさらにガス除去フィルタの強度が増加している。また、繊維体9自身がガス吸着能を有するため、より多くのガスを吸着することが可能となっている。
【0069】
繊維体9としては一般的な有機繊維や無機繊維が使用できるが、特にガラス繊維や炭素繊維、セラミック繊維等の強度に優れた繊維体9を用いるとより強度に優れたガス除去フィルタとなり、またイオン交換繊維や活性炭素繊維等のガス吸着能を有する繊維体9を用いるとより吸着容量に優れたガス除去フィルタとなる。繊維長は短すぎるとガス除去フィルタから脱落し易くなるため2mm以上50mm以下程度であることが好ましい。また、繊維径はより高い強度を得るために、1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0070】
このような繊維体9を成型前の粒状吸着剤1および粉末状ホットメルト樹脂7の混合物に添加することにより、成型後の貫通孔壁6の内部に繊維体9が補強材として存在するガス除去フィルタが得られる。繊維体9の配合量としては、繊維体9の重量が全体の重量の1%以上20%以下程度であると粒状吸着剤1の量を保ちつつガス除去フィルタ強度を増加することができるため好ましい。
【0071】
(実施の形態3)
実施の形態1に記載されたガス除去フィルタの両方の面に、通気性を有し粒状吸着剤1の粒径よりも目が小さいシート10が設けられ、そのシート10が粉塵を捕集する機能を有するガス除去フィルタの斜視図を図6に示す。本来は、成型体11およびシート10は一体化しているが、構造をわかり易くするため少し離して示してある。
【0072】
粒状吸着剤1がガス除去フィルタから絶対に脱落しないとは限らず、使用時に粒状吸着剤1が下流側に流出して空気を汚染したり、取り扱い時に粒状吸着剤1がガス除去フィルタから脱落して使用環境を汚染する可能性が万が一でもありうる。シート10をガス除去フィルタの上流面4および下流面5に設けることにより粒状吸着剤1のガス除去フィルタからの脱落をほぼ確実になくすことができる。
【0073】
シート10としては、スパンボンド法やサーマルボンド法により製造される繊維径1μm以上50μm以下の不織布で、通気口径5μm以上100μm以下のものを、使用する粒状吸着剤1等の粒径に合わせて適時用いると下流側の汚染を漏れなく防止でき好ましい。
【0074】
また、シート10として粉塵を捕集する機能を有する集塵濾材、例えばポリプロピレンをメルトブロー法で繊維状に吹き付けてシート化し帯電処理を行って作成した静電濾材や、ガラス繊維をすきこみバインダーで結合したガラス繊維濾材などを用いることにより、ガスのみでなく空気中の粉塵をも効率よく捕集することができ、家庭や事務所などの室内環境における空気清浄フィルタとして用いることができる。
【0075】
また、シート10作製時にイオン交換繊維や活性炭繊維等を添加して吸着能を持たせたり、グラフト重合等によりシート10に吸着官能基を付加したりすると、ガス除去フィルタの総吸着容量が増加し寿命を延ばすことができる。
【0076】
(実施の形態4)
実施の形態1に記載されたガス除去フィルタをプリーツ状に配置してなるガス除去フィルタユニットの上面図を図7に示す。
【0077】
ガス除去フィルタをプリーツ状に配置すると、プリーツ状に配置していない平面状のものと比較して濾過面積が増大して空気を通過させたときの流速が小さくなり、ガスのガス捕集効率が向上するとともに圧力損失が低減して通気性が向上するという効果が得られる。
【0078】
ガス除去フィルタをプリーツ状に配置する場合、プリーツ深さが20mm以上でプリーツ間隔が10mm以上であるとプリーツの山と山の間に空気が通りやすくなり通気性とガス捕集効率が向上するため好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のガス除去フィルタおよびガス除去フィルタユニットは自身からの吸着剤の脱落が少なく、低圧力損失でありながら長寿命であり、ガス除去フィルタを搭載する空気清浄装置の送風にかかる動力コストを低減しつつガスの除去が長期間にわたって可能なガス除去フィルタおよびガス除去フィルタユニットとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施の形態1に記載のガス除去フィルタの正面図
【図2】実施の形態1に記載のガス除去フィルタの側面断面図
【図3】実施の形態1に記載のガス除去フィルタの拡大図
【図4】実施の形態1に記載の型の斜視図
【図5】実施の形態2に記載のガス除去フィルタの拡大図
【図6】実施の形態3に記載のガス除去フィルタの斜視図
【図7】実施の形態4に記載のガス除去フィルタユニットの上面図
【符号の説明】
【0081】
1 粒状吸着剤
2 通気方向
3 貫通孔
4 上流面
5 下流面
6 貫通孔壁
7 粉末状ホットメルト樹脂
8 ピン
9 繊維体
10 シート
11 成型体
12 粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体
13 型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状吸着剤を粉末状ホットメルト樹脂で連結して得られた成型体の上流面、下流面のうち少なくとも一方の面が、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体で被覆されていることを特徴とするガス除去フィルタ。
【請求項2】
粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体がポリオレフィン系ホットメルト樹脂からなる連結体であることを特徴とする請求項1記載のガス除去フィルタ。
【請求項3】
成型体が、通気方向において上流面から下流面まで達する貫通孔を有することを特徴とする請求項1または2に記載のガス除去フィルタ。
【請求項4】
成型体に貫通孔を設けるための複数のピンを有する型に粒状吸着剤と粉末状ホットメルト樹脂の混合物を充填した後、加熱後冷却して粒状吸着剤と粉末状ホットメルト樹脂の成型体を作製し、前記成型体を型から取り外すことで貫通孔を設けることを特徴とする請求項3記載のガス除去フィルタ。
【請求項5】
粒状吸着剤と粉末状ホットメルト樹脂の混合物を充填する前あるいは充填した後に、粉末状ホットメルト樹脂を充填することを特徴とする請求項4記載のガス除去フィルタ。
【請求項6】
粒状吸着剤と粉末状ホットメルト樹脂の混合物を充填する前あるいは充填した後に、粉末状ホットメルト樹脂からなる連結体で被覆された粒状吸着剤を充填することを特徴とする請求項4記載のガス除去フィルタ。
【請求項7】
型の表面が易剥離性を有することを特徴とする請求項4から6いずれか1項に記載のガス除去フィルタ。
【請求項8】
貫通孔を形成する貫通孔壁の内部に補強材を有することを特徴とする請求項3から7いずれか1項に記載のガス除去フィルタ。
【請求項9】
貫通孔を形成する貫通孔壁の内部に繊維体を有することを特徴とする請求項3から8いずれか1項に記載のガス除去フィルタ。
【請求項10】
繊維体がガス吸着能を有することを特徴とする請求項9記載のガス除去フィルタ。
【請求項11】
粒状吸着剤が非極性ガスを吸着することを特徴とする請求項1から10いずれか1項に記載のガス除去フィルタ。
【請求項12】
粒状吸着剤が酸性ガスを吸着することを特徴とする請求項1から10いずれか1項に記載のガス除去フィルタ。
【請求項13】
粒状吸着剤がアルカリ性ガスを吸着することを特徴とする請求項1から10いずれか1項に記載のガス除去フィルタ。
【請求項14】
非極性ガス、酸性ガス、アルカリ性ガスをそれぞれ吸着することが可能な各粒状吸着剤のうち、少なくとも2種類以上の粒状吸着剤を用いて形成されることを特徴とする請求項1から10いずれか1項に記載のガス除去フィルタ。
【請求項15】
通気方向における上流面、下流面のうち少なくとも一方の面に、通気性を有し粒状吸着剤の粒径よりも目が小さいシートを設けることを特徴とする請求項1から14いずれか1項に記載のガス除去フィルタ。
【請求項16】
通気方向における上流面、下流面のうち少なくとも一方の面に設けられたシートがガス吸着能を有することを特徴とする請求項15記載のガス除去フィルタ。
【請求項17】
通気方向における上流面、下流面のうち少なくとも一方の面に設けられたシートが空気中の粉塵を捕集する機能を有することを特徴とする請求項15記載のガス除去フィルタ。
【請求項18】
請求項1から17いずれか1項に記載のガス除去フィルタをプリーツ状に配置してなることを特徴とするガス除去フィルタユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−125679(P2009−125679A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304075(P2007−304075)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】