説明

ガラスセラミックス、その製造方法、及び誘電体ガラスセラミックス成形体

【課題】高周波電子部品の回路基板材料等の用途に利用可能な、誘電率εが高く、温度特性τεの絶対値が小さい誘電体材料を提供する。
【解決手段】ガラスセラミックスは、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%でTiOを5〜50%、SrOを3〜50%、及び、SiOを15〜85%を含有し、SrTiO結晶及び/又はその固溶体を含有する。ガラスセラミックスは、好ましくは誘電率εが20以上であり、Q値が1000より大きく、誘電率εの温度特性τεの絶対値が300未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックス、その製造方法、及び誘電体ガラスセラミックス成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波帯域で使用される小型の通信機器や電子機器に搭載される回路基板用途の誘電体材料は、Q値が大きく、高周波伝送特性に優れた低損失材料であることが求められる。また、回路基板やコンデンサー等の電子部品の高性能化や小型化を図るためには、使用周波数帯域において高い誘電率εを有することが必要とされる。しかし、一般に誘電体材料の誘電率εが高いものほど、誘電率εの温度特性τεが悪くなる傾向がある。そのため、誘電率εが高く、その温度特性τεの絶対値が小さい(つまり、ゼロに近い)誘電体材料の開発が求められている。
【0003】
回路基板や電子部品に使用される誘電体材料として、ガラスセラミックスを使用する提案がなされている(例えば、特許文献1〜4)。これら特許文献1〜4の提案は、いずれもガラス粉末と無機フィラーとを混合し、成形、焼成するものであるため、緻密性が低く、ポアやボイドが発生したりし、均一な材料になり難く、無機フィラーがガラスと反応して所望の誘電率εや温度特性τεが得られないという問題があった。
【0004】
一方、ガラスに熱処理を加えることによってBaTiO結晶を析出させたコンデンサー用の誘電体材料が提案されている(例えば、特許文献5)。しかし、ガラスは正の温度特性τεを持つのに対し、BaTiOも正の温度特性τεを持つことから、特許文献5に記載のガラスセラミックスでは、温度特性τεの絶対値を小さい値に制御することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−339049号公報
【特許文献2】特開2007−217274号公報
【特許文献3】特開2003−192430号公報
【特許文献4】特許第3805173号公報
【特許文献5】特開平5−50453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高周波電子部品の回路基板材料等の用途に利用可能な、誘電率εが高く、温度特性τεの絶対値が小さい誘電体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の(1)〜(14)の観点を提供する。
(1)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
TiO 5〜50%
SrO 3〜50%、及び、
SiO 15〜85%
を含有し、SrTiO結晶及び/又はその固溶体を含有するガラスセラミックス。
【0008】
(2)酸化物換算組成の全物質量に対して、さらに、モル%で35%以下のアルカリ金属酸化物の一種又は二種以上の組み合わせを含有する上記(1)に記載のガラスセラミックス。
【0009】
(3)酸化物換算組成で、さらにCaO及び/又はBaOを含有する上記(1)又は(2)に記載のガラスセラミックス。
【0010】
(4)前記SrTiO結晶のSrの一部がCa及び/又はBaにより置換されている上記(3)に記載のガラスセラミックス。
【0011】
(5)酸化物換算組成で、さらに、Al成分、ZrO成分、ZnO成分、Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Sc、Y、Ce、Eu、Nd、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上とする)、Nb及びTaからなる群より選択される1種以上の成分を含有する上記(1)から(4)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0012】
(6)SrTiO結晶のTiの一部が、Al、Zr、Nb及びTaからなる群より選ばれる1種以上により置換されている上記(5)に記載のガラスセラミックス。
【0013】
(7)酸化物換算組成の全物質量に対して、さらに、モル%でAs成分及び/又はSb成分を5%以下含有する上記(1)から(6)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0014】
(8)酸化物換算組成のモル比で、SrO含有量に対するTiOの含有量の比(TiO/SrO)が0.5以上である上記(1)から(7)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0015】
(9)1MHzにおける誘電率εが20以上であり、Q値が1000より大きく、0℃〜100℃の温度範囲において前記誘電率εの温度特性τεの絶対値が300未満である誘電特性を有する上記(1)から(8)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0016】
(10)SrTiO結晶及び/又はその固溶体が、ガラスを熱処理することによってガラス中から析出したものである上記(1)から(9)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0017】
(11)上記(1)から(10)のいずれかに記載のガラスセラミックスからなる誘電体ガラスセラミックス成形体。
【0018】
上記(1)から(10)のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液の温度を結晶化温度領域まで低下させる第一冷却工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて結晶が分散したガラスセラミックスを得る第二冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【0019】
(13)上記(1)から(10)のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、
前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて結晶が分散したガラスセラミックスを得る再冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【0020】
(14)前記結晶化温度領域は、500℃以上1100℃以下である上記(12)又は(13)に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のガラスセラミックスは、誘電率εの温度特性τεが正である母材のガラス中に、負の温度特性τεを有するSrTiO結晶及び/又はその固溶体を含有するため、温度特性τεの絶対値を小さく(ゼロに近づけるように)制御することができる。従って、本発明のガラスセラミックスは、誘電率εとQ値を高い値に維持しながら、温度特性τεの絶対値が小さい誘電体材料として回路基板などの電子部品に利用することができる。
【0022】
また、本発明のガラスセラミックスは、SrTiO結晶及び/又はその固溶体が、ガラスを熱処理することによってガラス中から析出したものであるため、ガラス粉末に金属酸化物を混合して焼成する方法に比べ、工程数の削減を図りながら、ポアやボイドが発生しにくく、均一かつ緻密で、耐久性に優れた誘電体材料を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例10で得られたガラスセラミックスのXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のガラスセラミックスは、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%でTiOを5〜50%、SrOを3〜50%、及び、SiOを15〜85%、それぞれを含有し、さらに、SrTiO結晶及び/又はその固溶体を含有する。なお、本明細書中において、ガラスセラミックスを構成する各成分の含有量は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成の全物質量に対するモル%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラスセラミックスの構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0025】
TiO成分は、ガラスの膨張を低くする成分であり、またガラスを熱処理することにより、SrTiO結晶及び/又はその固溶体としてガラスから析出し、ガラスセラミックスの誘電率εとQ値を高くする。また、SrTiO結晶は、負の温度特性τεを有しているため、正の温度特性τεを有する母材のガラス中にSrTiO結晶を析出させることで、ガラスセラミックスの誘電率εの温度特性τεの絶対値を小さく(ゼロに近づけるように)制御することができる。しかし、TiO成分の含有量が5%未満であるとSrTiO結晶を十分な量で析出させることが困難になる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するTiO成分の含有量の下限は、5%、好ましくは8%、より好ましくは10%とすることができる。一方、TiO成分の含有量が多すぎるとガラス化が困難になるので、その上限は、50%、好ましくは45%、より好ましくは40%とすることができる。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0026】
SrO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、かつ、ガラスを熱処理することにより、SrTiO結晶及び/又はその固溶体としてガラスから析出し、ガラスセラミックスの誘電率εとQ値を高くする。SrTiO結晶は、負の温度特性τεを有しているため、正の温度特性τεを有する母材のガラス中にSrTiO結晶を析出させることで、ガラスセラミックスの誘電率εの温度特性τεの絶対値を小さく(ゼロに近づけるように)制御することができる。しかし、SrO成分の含有量が3%未満であるとSrTiO結晶を十分な量で析出させることが困難になる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するSrO成分の含有量の下限は、3%、好ましくは5%、より好ましくは7%とすることができる。一方、SrO成分の含有量が多すぎるとガラス化が困難になるので、その上限は、50%、好ましくは45%、より好ましくは40%とすることができる。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0027】
本発明のガラスセラミックスは、誘電率εを高く維持しつつ、温度特性τεを低く抑える観点から、SrTiO結晶及び/又はその固溶体の結晶化を促進するためにSrOに対するTiOのモル比(TiO/SrO比)が0.50以上であることが好ましく、0.75以上であることがより好ましく、0.90以上であることが望ましい。TiO/SrO比が0.5未満では、SrTiO結晶及び/又はその固溶体の結晶化が困難となることがある。
【0028】
SiO成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性と化学的耐久性を高める成分である。しかし、SiO成分の含有量が多すぎると、目的とするSrTiO結晶以外の結晶が析出し、誘電体としての性能が不安定になる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するSiO成分の含有量は、85%、好ましくは60%、より好ましくは50%を上限とすることができる。また、SiO成分の含有量が少なすぎると、失透が生じやすくなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するSiO成分の含有量は、15%、好ましくは20%、より好ましくは25%を下限とすることができる。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0029】
本発明のガラスセラミックスは、酸化物換算組成の全物質量に対して、さらにモル%で35%以下のアルカリ金属酸化物の一種又は二種以上の組み合わせを含有することが好ましい。ここで、アルカリ金属としては、例えばLi、Na、K、Rb、Cs等を挙げることができる。従って、アルカリ金属酸化物としては、例えばLiO、NaO、KO、RbO、CsO等を挙げることができる。本発明のガラスセラミックスでは、特に、アルカリ金属酸化物の合計量を35%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、SrTiO結晶が析出し易くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、アルカリ金属酸化物の合計量は、好ましくは35%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。
【0030】
LiO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であり、任意に添加できる成分である。また、LiO成分は、ガラス転移温度を下げてSrTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。さらに、LiはSrTiO結晶に入り込み、固溶体を形成する。しかし、LiO成分の含有量が35%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、SrTiO結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは35%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0031】
NaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であり、任意に添加できる成分である。また、NaO成分は、ガラス転移温度を下げてSrTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。さらに、NaはSrTiO結晶のSrの一部と置換してSrサイトに入り込み、固溶体を形成する。しかし、NaO成分の含有量が35%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、SrTiO結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは35%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaO、NaCO、NaNO、NaF、NaS、NaSiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0032】
O成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であり、任意に添加できる成分である。また、KO成分は、ガラス転移温度を下げてSrTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。さらに、KはSrTiO結晶のSrの一部と置換してSrサイトに入り込み、固溶体を形成する。しかし、KO成分の含有量が35%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、SrTiO結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは35%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0033】
RbO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてSrTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。さらに、RbはSrTiO結晶のSrの一部と置換してSrサイトに入り込み、固溶体を形成する。しかし、RbO成分の含有量が35%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、SrTiO結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するRbO成分の含有量は、好ましくは35%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。RbO成分は、原料として例えばRbCO、RbNO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0034】
CsO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてSrTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、CsO成分の含有量が35%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、SrTiO結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するCsO成分の含有量は、好ましくは35%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。CsO成分は、原料として例えばCsCO、CsNO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0035】
本発明のガラスセラミックスは、酸化物換算組成で、さらにCaO及び/又はBaOを含有することが好ましい。
【0036】
CaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる効果があり、任意に添加できる成分である。また、CaO成分は、ガラス転移温度を下げてSrTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。さらに、CaはSrTiO結晶のSrの一部と置換してSrサイトに入り込み、固溶体を形成する。しかし、CaO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が悪くなり、SrTiO結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは35%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いガラスセラミックス内に導入することができる。
【0037】
BaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる効果があり、任意に添加できる成分である。また、BaO成分は、ガラス転移温度を下げてSrTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。さらに、BaはSrTiO結晶のSrの一部と置換してSrサイトに入り込み、固溶体を形成し、誘電率εを大きくする効果がある。しかし、BaO成分の含有量が47%を超えると、SrTiO結晶の析出が困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは47%、より好ましくは45%、最も好ましくは40%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO、BaF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0038】
また、本発明のガラスセラミックスは、酸化物換算組成で、さらに、Al成分、ZrO成分、ZnO成分、Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Sc、Y、Ce、Eu、Nd、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上とする)、Nb及びTaからなる群より選択される1種以上の成分を含有することが好ましい。さらに、本発明のガラスセラミックスでは、SrTiO結晶のTiの一部が、Al、Zr、Nb及びTaからなる群より選ばれる1種以上の元素により置換されていることが好ましい。
【0039】
Al成分は、ガラスの安定性及びガラスセラミックスの耐候性を高め、ガラスからのSrTiO結晶の析出を促進し、且つAlがSrTiO結晶のTiサイトに入りこみ固溶体を形成して誘電率εの向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が多すぎると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、Al成分を添加する場合、酸化物換算組成の全物質量に対するAl成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0040】
ZrO成分は、ガラスセラミックスの耐候性を高めるとともに、ZrイオンがSrTiO結晶に固溶して誘電率εの向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。また、しかし、ZrO成分の含有量が多すぎると、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは7%、最も好ましくは5%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0041】
ZnO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、ガラスセラミックスの耐候性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。また、ZnO成分は、ガラス転移温度を下げてSrTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。さらに、ZnはSrTiO結晶のTiの一部と置換してTiサイトに入り込み、固溶体を形成する。しかし、ZnO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が悪くなり、SrTiO結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは35%、最も好ましくは30%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0042】
Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Sc、Y、Ce、Eu、Nd、Dy、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上を意味する)は、主にガラスセラミックスの耐候性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。特に、La、Ce、EuはSrTiO結晶のSrの一部と置換してSrサイトに、ScはTiの一部と置換してTiサイトに入り込み、固溶体を形成する。しかし、Ln成分の含有量の合計が多すぎると、ガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、Ln成分の合計量は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは15%を上限とする。Ln成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Y、YF、Sc、CeO、CeF、Eu、Nd、Dy、Yb、Lu等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0043】
Nb成分は、ガラスの溶融性と安定性を高めるとともに、ガラスセラミックスの誘電率εを高める成分であり、且つTiに替えてSrTiO結晶のTiサイトにNbが入りこむことにより固溶体を形成する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Nb成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは35%、より好ましくは25%、最も好ましくは20%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0044】
Ta成分は、ガラスの溶融性と安定性を高めるとともに、ガラスセラミックスの誘電率εを高め、且つTiに替えてSrTiO結晶のTiサイトにTaが入りこむことにより固溶体を形成する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Ta成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0045】
また、本発明のガラスセラミックスは、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%でAs成分及び/又はSb成分を5%以下で含有することが好ましい。
【0046】
As成分及び/又はSb成分は、ガラスを清澄させ、脱泡させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で5%を超えると、ガラスの安定性が悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するAs成分及び/又はSb成分の含有量の合計は、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限とする。As成分及びSb成分は、原料として例えばAs、As、Sb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0047】
また、本発明のガラスセラミックスは、さらに、SrTiO固溶体結晶をなす成分としてGa成分、HfO成分、M成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuからなる群より選択される1種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:(Mの価数)を満たす最小の自然数とする)からなる群より選択される1種以上の成分を含有してもよく、ガラス安定性あるいは耐候性を向上させる成分としてGeO、TeO、B、SnO、WO、Biからなる群より選択される1種以上の成分を含有してもよい。
【0048】
本発明のガラスセラミックスには、上記成分以外の成分として、例えばF成分、Cl成分、Br成分等の非金属元素成分や、Cu成分、Ag成分、Au成分、Pd成分、Pt成分等の金属元素成分、さらにその他の成分をガラスセラミックスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。但し、PbO等の鉛化合物、Th、Cd、Tl、Os、Se、Hgの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスセラミックスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、ガラスセラミックスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、このガラスセラミックスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0049】
本発明のガラスセラミックスは、その組成が酸化物換算組成の全物質量に対するモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではない。しかし、本発明において要求される諸特性を満たす組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
TiO成分5〜50質量%
SrO成分4〜70質量%及び/又は
SiO成分15〜70質量%
LiO成分0〜20質量%及び/又は
NaO成分0〜25質量%及び/又は
O成分0〜35質量%及び/又は
RbO成分0〜40質量%及び/又は
CsO成分0〜45質量%及び/又は
CaO成分0〜30質量%及び/又は
BaO成分0〜50質量%及び/又は
Al成分0〜20質量%及び/又は
ZrO成分0〜14質量%及び/又は
ZnO成分0〜25質量%及び/又は
Ln成分 合計で0〜50質量%及び/又は
Nb成分0〜40質量%及び/又は
Ta成分0〜40質量%及び/又は
As成分及びSb成分 合計で0〜3質量%
【0050】
以上の原料ガラス組成を有する本発明のガラスセラミックスは、結晶相に、ペロブスカイト構造のSrTiO結晶及び/又はその固溶体である(Sr1−xCa)TiO結晶、(Sr1−xBa)TiO結晶、Sr(Ti1−yAl)O結晶、Sr(Ti1−yZr)O結晶、Sr(Ti1−yNb)O結晶、Sr(Ti1−yTa)O結晶等を含有することができる(ただし、0<x<1、0<y<1である。)。これらの結晶は、負の温度特性τεを有しているため、ガラスセラミックスの誘電率εの温度特性τεの絶対値を小さく(ゼロに近づけるように)制御することができる。
【0051】
また、本発明のガラスセラミックスの結晶化率は、体積比で好ましくは1%、より好ましくは2%、最も好ましくは3%を下限とし、好ましくは85%、より好ましくは83%、最も好ましくは80%を上限とする。結晶化率が1%以上であることにより、ガラスセラミックスの誘電率εが向上し、かつその温度特性τεをゼロに近づけることが可能であり、良好な誘電特性を有するものとなる。一方で、結晶化率が85%以下であることにより、ガラスセラミックスが良好な機械的な強度を有するものとなる。
【0052】
前記結晶の大きさは、良好な誘電特性を得るために、球近似したときの平均径が、10〜100nmであることが好ましい。熱処理条件をコントロールすることにより、析出した結晶のサイズを制御することが可能である。結晶粒径及びその平均値はXRDの回折ピークの半値幅より、シェラーの式より見積もることができる。回折ピークが弱かったり、重なったりする場合は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した結晶粒子面積から、これを円と仮定してその直径を求めて測定できる。顕微鏡を用いて平均値を算出する際には、無作為に100個以上の結晶直径を測定することが好ましい。
【0053】
また、本発明のガラスセラミックスは、1MHzにおける誘電率(比誘電率)εが20〜35の範囲内であることが好ましい。誘電率εが20未満では、回路基板や電子部品の小型化、高性能化が困難である。また、誘電率εが20以上(好ましくは20〜35)であれば、ガラスセラミックスをコンデンサーとして利用できるため、回路基板材料として本発明のガラスセラミックスを用いた場合に、コンデンサーとしても機能させることができる。
【0054】
また、本発明のガラスセラミックスは、1MHzにおけるQ値(1/tanδ;ここで、tanδは誘電正接)が1000より大きく、好ましくは1250より大きい範囲内である。Q値が1000以下では、誘電損失が大きくなって高周波伝送特性が低下し、電子機器の小型化への対応が図れなくなる。
【0055】
また、本発明のガラスセラミックスは、0℃〜100℃の温度範囲において、誘電率εの温度特性(温度依存性;ppm/℃)τεの絶対値が300未満であり、好ましくは、0〜250の範囲内である。温度特性τεの絶対値が300を超えると、例えば回路基板材料として本発明のガラスセラミックスを用いた場合に、温度変化によって基板の静電容量が変化してしまうことがある。
【0056】
本発明のガラスセラミックスは、任意の形状に加工することにより、誘電体ガラスセラミックス成形体として利用できる。このような誘電体ガラスセラミックス成形体は、例えば、回路基板や、コンデンサー、抵抗体等の高周波電子部品に好ましく利用できる。例えば、回路基板として誘電体ガラスセラミックス成形体を用い、この上に配線パターンを形成し、必要な部品を実装することで、高周波用回路基板を作製できる。また、誘電体ガラスセラミックス成形体からなる基板は、複数層積層して多層基板とすることも可能である。
【0057】
[ガラスセラミックスの製造方法]
次に、本発明のガラスセラミックスの製造方法について、第1の方法および第2の方法を例示することにより説明する。ただし、本発明のガラスセラミックスの製造方法は、以下の第1の方法および第2の方法に限定されるものではない。
【0058】
<第1の方法>
第1の方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、融液の温度を結晶化温度領域まで低下させる第一冷却工程と、融液の温度を結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、融液の温度を結晶化温度領域外まで低下させて結晶が分散したガラスセラミックスを得る第二冷却工程と、を有することができる。
【0059】
(溶融工程)
溶融工程は、上述の組成を有する原料を混合し、その融液を得る工程である。より具体的には、ガラスセラミックスの各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を調合し、均一に混合して、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して電気炉又は燃焼炉で1200〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶融し、攪拌均質化して融液を作製する。なお、原料の溶融の条件は上記温度範囲に限定されず、原料組成物の組成及び配合量等に応じて、適宜設定することができる。
【0060】
(第一冷却工程)
第一冷却工程では、融液の温度を結晶化温度領域まで低下させてガラス化させる。ここで、ガラス化の条件は特に限定されるものではなく、原料の組成及び量等に応じて適宜設定されてよい。また、本工程で得られるガラス体の形状は特に限定されず、冷却は金型に流し込むなどして行ってもよく、必要に応じて板引きなどを行うこともできる。
【0061】
(結晶化工程)
結晶化工程では、ガラス体の温度を結晶化温度領域内に保持することにより、ナノからミクロン単位までの所望のサイズを有するSrTiO結晶等の結晶をガラス体の内部に均一に分散させて形成できる。結晶化温度領域は、例えばガラス転移温度を超える温度領域であり、ガラス転移温度はガラス組成ごとに異なるため、ガラス転移温度に応じて結晶化温度を設定することが好ましい。結晶化温度領域の下限は500℃が好ましく、より好ましくは550℃であり、最も好ましくは580℃である。他方、結晶化温度が高くなり過ぎると、ガラス相が変形し、目的以外の未知相が析出する傾向が強くなり、所望の誘電特性が得られなくなるので、結晶化温度領域の上限は1100℃が好ましく、1050℃がより好ましく、1000℃が最も好ましい。従って、ガラス組成によって異なるが、結晶化温度領域は、例えば、500℃以上1100℃以下とすることが好ましく、550℃以上1050℃以下とすることがより好ましく、580℃以上1000℃以下とすることが最も好ましい。結晶化温度領域での保持時間は、例えば1〜48時間とすることができる。
【0062】
(第2冷却工程)
第二冷却工程では、融液の温度を結晶化温度領域外(例えば室温)まで低下させて結晶が分散したガラスセラミックスを得る。冷却速度が大きすぎると、析出結晶相とガラスマトリックス相の熱膨張の差によりガラスセラミックスが破損することがあるため、冷却速度は1200K/hr以下が好ましく、600K/hr以下がより好ましく、300K/hr以下が最も好ましい。特にガラス体が大径サイズの場合は必要に応じてゆっくりと徐冷する。
【0063】
<第2の方法>
第2の方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、ガラスの温度を結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、ガラスの温度を結晶化温度領域外まで低下させて結晶が分散したガラスセラミックスを得る再冷却工程と、を有することができる。なお、第1の方法と同様の工程については適宜説明を省略する。
【0064】
溶融工程は、第1の方法と同様に実施できる。
【0065】
(冷却工程)
冷却工程は、溶融工程で得られた融液を冷却してガラス化することで、ガラスを作製する工程である。具体的には、融液を流出して適宜冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。ここで、ガラス化の条件は特に限定されるものではなく、原料の組成及び量等に応じて適宜設定されてよい。また、本工程で得られるガラス体の形状は特に限定されず、板状、粒状等であってよいが、ガラス体を迅速且つ大量に作製できる点では、板状であることが好ましい。冷却速度が小さいと失透が生じるため、溶融温度から屈伏点までの冷却速度は100K/min以上が望ましい。また、除歪が必要であれば、屈伏点とガラス転移点の間の温度で1分以上保持することで除歪してもよい。
【0066】
(再加熱工程)
再加熱工程は、冷却工程で得られたガラス体の温度を結晶化温度領域まで上昇させる工程である。結晶化温度領域の温度は、第1の方法と同様である。この工程では、昇温速度及び温度が結晶の形成や結晶サイズに大きな影響を及ぼすので、これらを精密に制御することが重要である。核生成及び核成長それぞれが活性化する温度域が異なり、各々での保持時間によって結晶の種類、サイズ、数、量などを制御可能であり、昇温速度は所望の物性に合わせて適宜変更することができる。また、再加熱工程中で昇温速度を変更してもよい。
【0067】
(結晶化工程)
結晶化工程は、ガラス体の温度を結晶化温度領域内に所定の時間保持することによりSrTiO結晶等の結晶を生成させる工程である。この結晶化工程で結晶化温度領域に所定時間保持することにより、ナノからミクロン単位までの所望のサイズを有するSrTiO結晶等の結晶をガラス体の内部に均一に分散させて形成できる。この工程では、昇温速度及び温度が結晶のサイズに大きな影響を及ぼすので、組成や熱処理温度に応じて適切に制御することが重要である。また、結晶化のための熱処理時間は、ガラスの組成や熱処理温度などに応じて結晶をある程度まで成長させ、かつ十分な量の結晶を析出させ得る条件で設定する必要がある。熱処理時間は、結晶化温度によって様々な範囲で設定できる。昇温速度を遅くすれば、熱処理温度まで加熱するだけでいい場合もあるが、目安としては高い温度の場合は熱処理時間を短く、低い温度の場合は熱処理時間を長く設定することが好ましい。結晶化工程は、1段階の熱処理でもよいし、2段階以上の熱処理過程を経てもよい。
【0068】
(再冷却工程)
再冷却工程は、結晶化が完了した後、温度を結晶化温度領域外まで低下させてSrTiO結晶等を有する結晶分散ガラスを得る工程である。冷却速度が大きすぎるとガラスセラミックスが破損することがあるため、冷却速度は1200K/hr以下が好ましく、600K/hr以下がより好ましく、300K/hr以下が最も好ましい。
【0069】
上記第1の方法および第2の方法では、必要に応じて成形工程を設けてガラスもしくはガラスセラミックスを任意の形状に加工することができる。成形工程は、ガラス体の段階で設けてもよいし、結晶化後のガラスセラミックスの段階で設けてもよい。
【実施例】
【0070】
次に、実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら制約を受けるものではない。
実施例1〜14、比較例1〜5
表1〜3に、本発明の実施例1〜14、比較例1〜5の原料のガラス組成、熱処理(結晶化)条件、およびこれらのガラスに析出した主結晶相の種類を示した。実施例1〜14、比較例1〜5のガラスセラミックス(又はガラス)は、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定して用いた。これらの原料を、表1〜3に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1200℃〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った。その後、1500℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。得られたガラスについて、表1〜3の各実施例、比較例に記載された結晶化温度に加熱し、記載された時間にわたり保持して結晶化を行った(ただし、比較例1〜3は結晶化処理を実施しなかった)。その後、結晶化温度から冷却して目的の結晶相を有するガラスセラミックスを得た。ここで、各実施例、比較例のガラスセラミックスの析出結晶相の種類は、X線回折装置(フィリップス社製、商品名:X’Pert−MPD)で同定した。
【0071】
得られたガラスセラミックス又はガラスの1MHzにおける誘電率ε、Q値及び誘電率εの温度特性τεを表1〜3に示した。また、代表的に実施例10のガラスセラミックスのXRDパターンを図1に示した。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
実施例1〜14のガラスセラミックスは、高い誘電率εとQ値を維持しながら、誘電率εの温度特性τεの絶対値を小さく抑えることができるので、回路基板や電子部品向けの誘電体材料として利用できることが確認された。また、図1に例示したように、実施例のガラスセラミックスは、ガラス中から析出したSrTiO結晶を含有していた。以上のことから、実施例1〜14のガラスセラミックスは、ガラスを原料として大気雰囲気での熱処理によって製造が可能な均質で緻密な誘電体材料であり、ガラス粉末に金属酸化物を混合してから還元雰囲気や圧力調整条件(加圧又は真空)で焼結する従来方法に比べ、簡易な設備と工程で製造できることも確認できた。
【0076】
一方、比較例1〜3は、結晶化していないガラスであり、比較例4はSrOを含有せずParanatisite(NaTiSiO)結晶が析出し、いずれも誘電率εとQ値が低いことが確認された。さらに、比較例5はBelcovite(Ba(Nb4.8,Ti1.2)Si25.4)結晶が表面に析出したが、内部はガラスであり、誘電体材料として適さないことが判明した。
【0077】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
TiO 5〜50%
SrO 3〜50%、及び、
SiO 15〜85%
を含有し、SrTiO結晶及び/又はその固溶体を含有するガラスセラミックス。
【請求項2】
酸化物換算組成の全物質量に対して、さらに、モル%で35%以下のアルカリ金属酸化物の一種又は二種以上の組み合わせを含有する請求項1に記載のガラスセラミックス。
【請求項3】
酸化物換算組成で、さらにCaO及び/又はBaOを含有する請求項1又は2に記載のガラスセラミックス。
【請求項4】
前記SrTiO結晶のSrの一部がCa及び/又はBaにより置換されている請求項3に記載のガラスセラミックス。
【請求項5】
酸化物換算組成で、さらに、Al成分、ZrO成分、ZnO成分、Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Sc、Y、Ce、Eu、Nd、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上とする)、Nb及びTaからなる群より選択される1種以上の成分を含有する請求項1から4のいずれか1項に記載のガラスセラミックス。
【請求項6】
SrTiO結晶のTiの一部が、Al、Zr、Nb及びTaからなる群より選ばれる1種以上により置換されている請求項5に記載のガラスセラミックス。
【請求項7】
酸化物換算組成の全物質量に対して、さらに、モル%でAs成分及び/又はSb成分を5%以下含有する請求項1から6のいずれか1項に記載のガラスセラミックス。
【請求項8】
酸化物換算組成のモル比で、SrO含有量に対するTiOの含有量の比(TiO/SrO)が0.5以上である請求項1から7のいずれか1項に記載のガラスセラミックス。
【請求項9】
1MHzにおける誘電率εが20以上であり、Q値が1000より大きく、0℃〜100℃の温度範囲において前記誘電率εの温度特性τεの絶対値が300未満である誘電特性を有する請求項1から8のいずれか1項に記載のガラスセラミックス。
【請求項10】
SrTiO結晶及び/又はその固溶体が、ガラスを熱処理することによってガラス中から析出したものである請求項1から9のいずれか1項に記載のガラスセラミックス。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載のガラスセラミックスからなる誘電体ガラスセラミックス成形体。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液の温度を結晶化温度領域まで低下させる第一冷却工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて結晶が分散したガラスセラミックスを得る第二冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか1項に記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、
前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて結晶が分散したガラスセラミックスを得る再冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【請求項14】
前記結晶化温度領域は、500℃以上1100℃以下である請求項12又は13に記載のガラスセラミックスの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2011−230960(P2011−230960A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103044(P2010−103044)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】