説明

ガラスヤーンの製造装置及びガラスヤーンの製造方法

【課題】細番手のガラスヤーンであっても毛羽、糸切れ、ループなどの品位欠陥が発生しにくく、高い品位のガラスヤーンを製造することができる製造装置を提供する。
【解決手段】トラベラ40は、上脚部41と、上脚部41に連続して設けられた頭部42と、頭部42に連続して設けられた糸通過部43と、糸通過部43に連続して設けられた胴部44と、胴部44に連続して設けられた底部45、底部45に連続して設けられた下脚部46とを備えている。糸通過部43は湾曲状に形成され、その湾曲側の内面にガラスストランド(ガラスヤーン)と接触する糸接触面43aを有している。糸通過部43の肉厚Tは他の部位の肉厚Bよりも相対的に大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスヤーンの製造装置、特に細番手のガラスヤーンの製造に適した製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスヤーンは、軽量で、高い強度を有し、十分な誘電性能を有するため、電子部品などを搭載する基板を構成する材料として利用されている。このようなガラスヤーンは、熔融された無機ガラスを繊維状に引き出して紙管等の円筒体上に巻き取って、ケーキと呼ばれる回巻体を作製し、この回巻体から解舒されたガラスストランドを撚糸することによって製造されている。ガラスヤーンの撚糸には、ガイドリングトラベラ式撚糸機と呼ばれる製造装置(撚糸装置)が用いられている。ガイドリングトラベラ式撚糸機は、ガラスストランドをボビンに誘導するために、トラベラと呼ばれる、人間の耳に類似した外観形状(略C字形状、トラベラサークル形状ともいう。)の誘導治具を備えている。このトラベラは、ガイドリングと呼ばれる走行レール部材に沿って旋回し、この旋回動作の中心に据えられたボビンの外周にガラスストランドを誘導し、撚りを付与しながら巻き取るために用いられる。
【0003】
ガイドリングトラベラ式撚糸機を使用するガラス繊維の撚糸では、トラベラでガラス繊維が一時的に屈曲された後、ボビン上に巻き取られるが、屈曲される箇所でガラス繊維の毛羽が発生し易くい。このため、ガラスヤーンの毛羽品位等の品位を確保する観点から、トラベラに関して、これまで多くの提案がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1では、トラベラの糸通過部及び紡機用ガイドリングとの接触部の耐摩耗性を向上させ、トラベラの摩耗飛散を減少させるために、トラベラを、半芳香族系非晶質ポリアミド樹脂を素材とし、射出成型により所定のトラベラサークル形状に成形している。
【0005】
特許文献2では、トラベラ重量(Mtv)とガラス繊維番手(TEX)をMtv≦1.5×(TEX/1000)の関係を満足するように設定し、かつ、ガラス繊維の通過部の厚み(d)と内径高さ(h)をd/h≧0.25の関係を満足するように設定することにより、毛羽品位を向上させ、撚糸スピードを早くしながら、所望の強度を確保すると共に、撚糸中の走行姿勢を安定させ、ガラス繊維の通過部での曲折度合いを小さくできるようにしている。
【0006】
特許文献3では、ナイロン樹脂中に平均粒径2μm〜10μmのセラミック粒子を10重量%〜30重量%の割合で配合した樹脂材料を射出成形してトラベラを形成している。
【0007】
特許文献4では、ガイドリングの形状(ガイドリング全高H、糸逃げ部の傾斜角α及び高さH1、トラベラ走行面の傾斜角β)とトラベラの形状(頭部と底部の内側の最大高さh、ガイドリング接触面の高さh1)を所定範囲に規定すると共に、ガイドリング接触面の上端をトラベラ走行面の上端より下方に位置させ、トラベラ前傾時の最大傾斜角を10°〜22°に規制することにより、撚糸機の高速化に対応し、かつ抵テンションでの撚糸を可能にしている。ガイドリングのガイドリング全高Hは4.2mm〜5.4mm、糸逃げ部の傾斜角αは25°〜35°、高さH1はガイドリング全高Hの18%〜25%、トラベラ走行面の傾斜角βは2°〜4°に設定されている。トラベラの頭部と底部の内側の最大高さhはガイドリング全高Hの1.05倍〜1.13倍、ガイドリング接触面の高さh1はトラベラ走行面の高さH2の67%〜80%に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−33228号公報
【特許文献2】特開2000−64131号公報
【特許文献3】特開2004−244735号公報
【特許文献4】特開2000−212841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高い性能を発揮する電子機器に搭載される各種電子部品は、軽薄短小化が一層進んでおり、それに伴って電子部品が搭載される基板には、より精密な配線が必要となっている。このような状況下で、安定した品位の電子部品搭載用基板を製造するために、従来よりも細番手のガラス繊維が求められる傾向が強くなってきている。細番手のガラス繊維を配合した基板は、電子部品を該基板に搭載するために施されるスルーホールの穿孔位置を高精度に定めることを容易にし、小さな電子部品を高精度に配置して集約化を図るために不可欠だからである。このため、従来よりも細番手のガラス繊維を安定した品位で製造することが求められるようになってきた。この点、特許文献1〜4に開示された技術は、番手が8tex以上のガラス繊維については、安定した品位のものを製造することができるものの、これより細い番手のガラス繊維については、毛羽や糸切れ、あるいは巻き取り後のループなどが発生し、製造効率が低下することが問題となっていた。
【0010】
本発明は上述した問題に鑑みなされたものであり、細番手のガラスヤーンであっても毛羽、糸切れ、ループなどの品位欠陥が発生しにくく、高い品位のガラスヤーンを製造することができる製造装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明は、ボビンと、ボビンの周囲に昇降自在に設けられたガイドリングと、ガイドリングに旋回自在に係合されたトラベラとを備え、ボビンの回転とガイドリングの昇降動作及びトラベラの旋回動作によって、集束剤が塗布されたガラスストランドに撚りをかけながらガラスヤーンとしてボビンに巻き取るガラスヤーンの製造装置において、トラベラは、巻き取り動作時にガラスヤーンが通過しかつ接触する糸通過部を有し、糸通過部の肉厚が他の部位の肉厚よりも相対的に大きい構成を提供する。
【0012】
ガラスストランド(ガラスヤーン)は、トラベラの糸通過部と接触しながら該部位を通過する際に屈曲するが、糸通過部の肉厚Tが小さいと、糸通過部を通過する際のガラスストランド(ガラスヤーン)の屈曲度合いが大きくなり、ガラスストランド(ガラスヤーン)に加わる負担が増大して、毛羽、糸切れ等の品位欠陥が発生し易くなる。そのため、品位欠陥の発生を抑制する観点からは、糸通過部の肉厚Tは所要程度に大きい方が好ましい。一方、トラベラの全部位を糸通過部の肉厚Tと同じ肉厚で形成すると、トラベラの全体質量が重くなり、その結果、旋回性が低下して、製造効率が低下する原因となる。そこで、品位欠陥の発生を抑制して品位向上を図るために、糸通過部の肉厚Tを所要程度に確保する一方、トラベラの全体質量を軽減して旋回性を高める観点から、糸通過部を除く他の部位の肉厚Bを糸通過部の肉厚Tに対して相対的に小さくしている。トラベラの質量は、好ましくは6.0mg以上、10.0mg以下である。
【0013】
トラベラの糸通過部の肉厚Tと、他の部位の肉厚Bとは、0.35≦B/T<1の関係を満足するように設定するのが好ましい。上述のように、本発明では、品位欠陥の発生を抑制して品位向上を図る観点から、糸通過部の肉厚Tを所要程度に確保する一方、トラベラの全体質量を軽減して旋回性を高める観点から、糸通過部を除く他の部位の肉厚Bを相対的に小さくしているが、他の部位、特にガイドリングの内周の走行ガイド面と接触する胴部の肉厚Bが過小であると、旋回時の姿勢が安定せず、却って旋回性が低下する結果となる。従って、ガラスヤーンの品位向上とトラベラの旋回性向上の両面から、比率(B/T)は0.35〜1の範囲内に設定するのが好ましい。
【0014】
上記構成に加え、トラベラの旋回性をより高めるため、トラベラとガイドリングの寸法を下記のように設定するのが好ましい。
【0015】
トラベラは、上脚部と、上脚部に連続して設けられた頭部と、頭部に連続して設けられた糸通過部と、糸通過部に連続して設けられ、その内面に走行接触面が設けられた胴部と、胴部に連続して設けられた底部と、底部に連続して設けられた下脚部とを備え、ガイドリングは、上係合部と下係合部を有する主部を備え、主部の内周には走行ガイド面が設けられる。トラベラの旋回時、上脚部の内面はガイドリングの上係合部の外周面と係合し、下脚部の内面はガイドリングの下係合部の外周面と係合し、胴部の走行接触面はガイドリングの走行ガイド面と接触する。このような構成において、トラベラの糸通過部の肉厚Tと、頭部及び糸通過部の内面と底部の内面との間の最大離間寸法Dとを、0.10≦T/D≦0.25の関係を満足するように設定することにより、トラベラとガイドリングとの接触面積、それによる摩擦力を適正化すると共に、トラベラの質量を適正化して、トラベラの旋回性を高めることができる。また、トラベラの最大離間寸法Dと、ガイドリングの主部の最大高さHとを、1.1≦D/H≦1.3の関係を満足するように設定し、トラベラの下脚部の内面と胴部の内面との間の最小離間寸法Pと、ガイドリングの下係合部の最大肉厚Jとを、1.5≦P/J≦1.7の関係を満足するように設定することにより、トラベラとガイドリングとの間のクリアランスを適正化して、トラベラの旋回性をより一層高めることができる。
【0016】
本発明において、ガラスストランドに塗布される集束剤は、ハイアミロース型トウモロコシ澱粉を主成分とするものであることが好ましい。
【0017】
ハイアミロース型トウモロコシ澱粉は、ハイアミロースコーンスターチとも呼ばれ、アミロースとアミロペクチンを含有し、アミロースの含有率が質量百分率表示で60%から70%のトウモロコシ澱粉である。トウモロコシ澱粉は、アミロースの含有率によって名称が異なり、単にコーンスターチと呼ばれるものはアミロースの含有量が25質量%程度と少なく、またワキシーコーンスターチと呼ばれるものはアミロースをほとんど含有しない。ハイアミロースコーンスターチはこれら3種の内では最もアミロース含有量が多い。ハイアミロース型トウモロコシ澱粉を集束剤としてガラスストランドの表面に塗布することにより、ガラスストランドの表面にハイアミロース型トウモロコシ澱粉の微粒子が溶けずに残留し、粒子として付着した状態となる。そのため、ガラスヤーンの安定した走行性を実現でき、走行中のトラベラとの摩擦を低減して、毛羽等の品位欠陥の発生を抑制することができる。
【0018】
また、ハイアミロース型トウモロコシ澱粉をガラスストランドの集束剤として用いることにより、上述の効果に加え、次のような効果が得られる。ガラスストランドの表面を被覆する集束剤は、ガラスストランドの糸質に大きく影響する。ハイアミロース型トウモロコシ澱粉をガラスストランドの集束剤として用いると、このガラスストランドに撚りを施して作製したガラスヤーンをガラスクロスとする際の、織機による織り性能が改善される。例えば、ガラスヤーンを用いる一般的なガラスクロスの製造方法として、エアジェットルーム(エアジェット織機ともいう。)を用いる場合がある。エアジェットルームによるガラスクロスの製造では、ガラスストランドをメインノズルから圧縮空気によって緯糸として緯入れする。この緯糸は、複数のサブノズルから噴出される圧縮空気によって経糸に織り込まれていく。ガラスストランドの表面を被覆する集束剤の種類は、この緯入れ時の緯糸の飛走性に影響を及ぼす。ハイアミロース型トウモロコシ澱粉は、緯糸の圧縮空気による飛走性を安定化し、圧縮空気により搬送され易くする働きがある。すなわち、ハイアミロース型トウモロコシ澱粉をガラスストランドの集束剤として用いることにより、他の種類の集束剤を用いる場合に比べて、緯糸の飛走にばらつきがなくなり、しかも緯入れ時の始点で射出されてから終点に到達するまでの到達タイミングが早くなる。すなわち、ハイアミロース型トウモロコシ澱粉は、ガラスストランドの飛走性を良好にする働きがある。このように、ハイアミロース型トウモロコシ澱粉をガラスストランドの集束剤として用いることにより、安定した品位のガラスクロスを効率よく製造することが可能となる。
【0019】
ハイアミロース型トウモロコシ澱粉は、他の種類の澱粉、例えば馬鈴薯、米、タピオカなどから精製された澱粉よりも水への熔解性が少ないため、乾燥し易い。また、ハイアミロース型トウモロコシ澱粉は、適度な粘性を有するので、撚糸乾燥時に適正な膜厚の被膜を形成し、撚糸乾燥が行い易い。ハイアミロース型トウモロコシ澱粉は、必要に応じて、加水分解処理、エーテル化、エステル化、グラフト化、及び架橋処理などの各種変性処理を施して、その性状を適宜調整してもよい。
【0020】
本発明の製造装置は、番手が6.0tex以下のガラスヤーンの製造に好適である。ここで、tex(テックス)は、ガラスヤーン1000m(1km)当たりのg数である。また、本発明の製造層によって製造されたガラスヤーンは、プリント配線板の構造材として好適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造装置によれば、細番手のガラスヤーンであっても毛羽、糸切れ、ループなどの品位欠陥が発生しにくく、高い品位のガラスヤーンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係るガラスヤーンの製造装置の主要構成を概念的に示す図{図1(A)}、トラベラの斜視拡大図{図1(B)}である。
【図2】トラベラと旋回ガイド用ガイドリングとの係合状態を示す断面図である。
【図3】毛羽発生量の調査に係る概念説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0024】
図1(A)は、この実施形態に係るガラスヤーンの製造装置10の主要構成を概念的に示している。この実施形態では、Eガラス組成(質量百分率表記でSiO58%、NaO0.3%、KO0.1%、CaO24.2%、TiO0.2%、MgO1.3%、SrO0.1%、Al8.6%、B7.1%)の熔融ガラスを耐熱ノズル(図示省略)から引き出して、集束剤塗布装置(図示省略)でハイアミロース型コーンスターチを主成分とする集束剤を塗布し、ワインダー(図示省略)にセットされた紙管上に巻き取り、ガラスストランドSのケーキ20を得る。次いで、このようにして作製したケーキ20から連続的にYで表される方向にガラスストランドSを引き出す。
【0025】
ケーキ20から引き出されたガラスストランドSは、スネールワイヤ30を通過させて撚りを施し、製造装置10によってガラスヤーン61として巻き取られる。製造装置10は、図示されていない駆動手段によって回転駆動されるスピンドル11と、スピンドル11に着脱可能に装着されたボビン12と、ボビン12の周囲に上下方向{図1(A)のX方向}に昇降自在に設けられたガイドリング50と、ガイドリング50に円周方向{図1(A)のZ方向}に旋回自在に係合されたトラベラ40とを備えている。スピンドル11及びボビン12を一定の速度で回転すると、これに伴いガイドリング50が一定の速度で反復昇降動作を行うと共に、トラベラ40がガイドリング50に沿って円周方向に旋回し、これによりトラベラ40に係合されたガラスストランドS(ガラスヤーン61)がボビン12への巻き付け位置を上下方向に変化させながら、ボビン12に巻き取られてゆく。尚、ガラスヤーン61のボビン12への巻き取り速度(ケーキ20からのガラスストランドSの送り出し速度に相当)は、細番手のガラスヤーン61に過負荷を与えず、高い巻き取り効率を維持するに120m/分以上、170m/分以下の速度とするのが良い。
【0026】
上記のようにして、ガラスストランドSがガラスヤーン61としてボビン12の外周に片テーパー形状に巻き取られて回巻体(パーンとも呼ぶ)60が形成される。その際、スネールワイヤ30からトラベラ40に至るまでの間を走行するガラスストランドSは、その途中で所定形状のバルーニング(膨らみ)をもった状態になる。そして、ガラスストランドSがこのような膨らんだ形状となり、余分な走行距離を保つことによって、ガラスストランドSの表面に塗布された集束剤、この実施形態ではハイアミロース型コーンスターチを主成分とする集束剤が適正に乾燥され、その状態でガラスストランドSがガラスヤーン61としてボビン12に巻き取られて回巻体60となる。この実施形態で製造されるガラスヤーン61は、その番手が6texであり、従来よりも細番手であるが、毛羽や切断等の表面欠陥が認められず、均一なテンションが掛かった状態でボビン12に巻き取られている。
【0027】
図1(B)及び図2に示すように、トラベラ40は、略C形の側面形状を有し、上脚部41と、上脚部41に連続して設けられた頭部42と、頭部42に連続して設けられた糸通過部43と、糸通過部43に連続して設けられた胴部44と、胴部44に連続して設けられた底部45、底部45に連続して設けられた下脚部46とを備えている。旋回時、上脚部41の内面は、下記で説明するガイドリング50(図2参照)の上係合部51aの外周面と係合し、下脚部46の内面は、ガイドリング50の下係合部51bの外周面と係合する。糸通過部43は湾曲状に形成され、その湾曲側の内面にガラスストランドS(ガラスヤーン61)と接触する糸接触面43aを有している。胴部44は、旋回時にガイドリング50の走行ガイド面51dと接触する走行接触面44aを内面側に有している。この実施形態のトラベラ40は、樹脂材、例えば6ナイロン、66ナイロン、46ナイロン、特に66ナイロンで形成(例えば射出成形)され、トラベラとして要求される所要の弾性、強度等の特性を有すると共に、その質量が8.5mgであり、従来の樹脂製トラベラと比べても軽量である。
【0028】
図2に示すように、ガイドリング50は、上係合部51aと下係合部51bを有する主部51と、主部51の外周側中央部分から外径方向に連続して延びた鍔部52とを備えている。主部51の内周には、トラベラ40の糸接触面43aと対向して、ガラスストランドS(ガラスヤーン61)が通過する空間を形成する糸逃げ面51cと、トラベラ40の旋回時にトラベラ40の走行接触面44aと接触する走行ガイド面51dが設けられている。糸逃げ面51cは、主部51の内周上部に設けられ、上方に向かって外径側に傾斜した傾斜面に形成されている。走行ガイド面51dは、主部51の内周中央部に設けられ、この実施形態では、上方に向かって内周側に傾斜した傾斜面に形成されている。鍔部52は、図示されていないリングホルダに保持される。ガイドリング50は、例えば固相反応により焼結された合金材で形成され、その直径は100mm以上、170mm以下である。
【0029】
この実施形態のトラベラ40は、細番手のガラスヤーン61を製造するに際し、毛羽や切断等の欠陥の発生を抑制しつつ、ガイドガイドリング50に沿って旋回する動作が円滑になるように、樹脂材で形成することに加え、その形状及び寸法を下記のように設定している。
【0030】
まず、糸通過部43の肉厚Tを他の部位の肉厚Bよりも相対的に大きくしている。スネールワイヤ30を通って撚りを与えられたガラスストランドS(ガラスヤーン61)は、トラベラ40の糸通過部43の糸接触面43aと接触しながら糸通過部43を通過してボビン12に巻き取られる。その際、糸通過部43の肉厚Tが小さいと、糸通過部43を通過する際のガラスストランドS(ガラスヤーン61)の屈曲度合いが大きくなり、毛羽品位が悪化することになる。そのため、毛羽品位を向上する観点からは、糸通過部43の肉厚Tは所要程度に大きい方が好ましい。一方、糸通過部43の肉厚Tを所要程度に確保するために、トラベラ40の全部位を肉厚Tと同じ肉厚で形成すると、トラベラ40の全体質量が重くなり、その結果、旋回性が低下して、製造効率が低下する原因となる。そこで、毛羽品位の向上を図るために、糸通過部43の肉厚Tを所要程度に確保する一方、トラベラ40の全体質量を軽減するために、糸通過部43を除く他の部位の肉厚Bを糸通過部43の肉厚Tに対して相対的に小さくしている。
【0031】
さらに、この実施形態では、糸通過部43の肉厚Tと、他の部位(上脚部41、頭部42、胴部44、底部45、下脚部43)の肉厚Bとを、0.35≦B/T<1、好ましくは0.35≦B/T<0.7の関係を満足するように設定している。上述のように、この実施形態では、毛羽品位の向上を図る観点から、糸通過部43の肉厚Tを所要程度に確保する一方、トラベラ40の全体質量を軽減して旋回性を高める観点から、糸通過部43を除く他の部位の肉厚Bを相対的に小さくしているが、他の部位、特に胴部44の肉厚Bが過小であると、旋回時の姿勢が安定せず、却って旋回性が低下する結果となる。このようが事情を考慮して、比率(B/T)を0.35〜1の範囲内に設定している。
【0032】
また、細番手のガラスヤーン61を安定した品位で効率よく製造するために、トラベラ40とガイドリング50の寸法を下記のように設定して、トラベラ40の旋回性をさらに高めている。
【0033】
すなわち、トラベラ40の糸通過部43の肉厚Tと、頭部42及び糸通過部43の内面と底部45の内面との間の最大離間寸法Dとを、0.10≦T/D≦0.25の関係を満足するように設定している。また、トラベラ40の上記最大離間寸法Dと、ガイドリング50の主部51の最大高さHとを、1.1≦D/H≦1.3の関係を満足するように設定している。さらに、トラベラ40の下脚部46の内面と胴部44の内面との間の最小離間寸法Pと、ガイドリング50の下係合部51bの最大肉厚Jとを、1.5≦P/J≦1.7の関係を満足するように設定している。
【実施例】
【0034】
上述した製造装置10を用いてガラスヤーン61の回巻体60を製造し、得られたガラスヤーン61の毛羽発生本数と到達タイミングの標準偏差を調査した。その結果を、表1にまとめて示す。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例であるNo.1〜No.6の各試料は、Eガラス組成の溶融ガラスから引き出したガラスフィラメントに、集束剤塗布装置としてアプリケータを用いて、予め調製したガラス繊維収束剤を塗布した。ガラス繊維収束剤は、アミロース成分を60〜70質量%含有するハイアミロース型コーンスターチ澱粉を不揮発性の成分(集束剤の固形分)の全質量の60〜80質量%となるように、各々の試料について調整した。さらに、このガラス集束剤には、他の成分として、高級不飽和脂肪酸と高級飽和アルコールの縮合物等の合成油に代表される、オイル、ワックス、カチオン柔軟剤のうち、一以上の成分を配合している。
【0037】
ガラスストランドSのストランド番手は、無作為にストランド50本を抜き取り、その平均長さL(mm)を測定した後、感量が0.1mg以下の秤を用いて50本の総質量W(g)を測定し、下記の[数1]に示した式により算出した。この数式は、ストランド長1000m当たりの重量を表すため、単位を(mm)から(m)に換算している。
【0038】
【数1】

【0039】
ガラスストランドSの強熱減量は、ガラスストランドSの表面に塗布されたガラス繊維収束剤の塗布量を評価するために計測したものであるが、その計測はJIS R3420(2006)「ガラス繊維一般試験方法」に従った。
【0040】
ガラスヤーン61の「毛羽発生本数」は、図3に概念図を示すような過酷な条件でガラスヤーン61を走行させて、発生する毛羽の本数を調査したものである。同図に示すように、パーン(図示省略)から解舒されたガラスヤーン61を12gの錘を載せたワッシャーコンペン70に通し、50mmの距離E2を隔てて配置した2つのコーム80a、80bによって走行方向を変更する。すなわち、ガラスヤーン61を1つ目のコーム80aにより約45度の方向に屈曲させて50mm(距離E2)だけ走行させ、2本目のコーム80bで、元の走行方向から50mmの距離E1だけずらした位置で、再び45度屈曲させて走行させる。その後、3mmの間隔F1、F2で平行配置した直径12mmの真鍮棒81aの上、真鍮棒81bの下、真鍮棒81cの上を通過させてしごきを与え、最後に巻き取り機90で巻き取った。ガラスヤーン61の走行速度を200m/分にして、全長が2000m分のガラスヤーン61を巻き取った。このような走行条件において、ガラスヤーン61に毛羽が発生する箇所は、コーム80a、80b及び3本の真鍮棒81a、81b、81cを通過する部位であり、2000m分のガラスヤーン61を巻き取った後、発生した毛羽の本数をカウントした。
【0041】
「到達タイミングの標準偏差」の評価は、津田駒工業社製の高速エアジェット織機(air jet loom)ZA103を用いて行った。この織機において、メインノズルのエア圧を1.0kgf/cm、サブノズルのエア圧を2.0kgf/cmに調整し、この条件で作成した各試料のパーンから解舒されたガラスストランドを緯糸として500rpmの速度(1分間に500回の速度)で開口部へと打ち込んだ際に、光学式感知装置(フィラー)により感知された到達タイミングを500ピック(500回)測定した。そして、500回の測定結果から標準偏差を算出した。到達タイミングの測定値は、緯糸の打ち込みの一連の動作がギヤの360°の回転に伴って行われるため、経糸が開いて開口部を形成し、緯糸がメインノズルからのエア圧で飛走して到達点に到達するまでのギヤの回転角度によって表した。到達タイミングの標準偏差は、大きい程、到達タイミングのバラツキが大きく、不安定であり、小さい程、到達タイミングのバラツキが小さく、安定した到達タイミングになっていることを示す。
【0042】
No.1〜No.6の各試料は、ガラスヤーン61の番手が2.0〜5.4texの範囲であり、強熱減量は1.4〜2.0%の範囲である。また、これらの試料に関して、トラベラの質量を6.5〜9.8mg、T/Dの値を0.13〜0.24、B/Tの値を0.38〜0.89、D/Hの値を1.11〜1.25、P/Jの値を1.52〜1.65の範囲内で変えた。
【0043】
表1の結果から分かるように、実施例のNo.1〜No.6の各試料は、過酷な評価条件にもかかわらず、毛羽発生本数は1〜3本と少ない品位であり、実際の製造条件では、充分に良好な毛羽品位を達成できることが確認された。また、到達タイミング標準偏差についても3.9〜4.5°の範囲であり、安定した製繊品位となっていることも確認された。一方、本発明を用いない場合には、毛羽発生本数がはるかに多く、到達タイミング標準偏差のバラツキも大きく、安定性に欠ける状態であった。
【符号の説明】
【0044】
10 ガラスヤーンの製造装置
11 スピンドル
12 ボビン
20 ケーキ
30 スネールワイヤ
40 トラベラ
41 上脚部
42 頭部
43 糸通過部
43a 糸接触面
44 胴部
44a 走行接触面
45 底部
46 下脚部
50 ガイドリング
51 主部
51a 上係合部
51b 下係合部
51d 走行ガイド面
60 ガラスヤーン回巻体(パーン)
61 ガラスヤーン
S ガラスストランド
T トラベラの糸通過部の肉厚
B トラベラの胴部等の肉厚
D トラベラの最大離間寸法
H ガイドリングの主部の最大高さ
P トラベラの内周の最小離間寸法
J ガイドリングの下係合部の最大肉厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンと、該ボビンの周囲に昇降自在に設けられたガイドリングと、該ガイドリングに旋回自在に係合されたトラベラとを備え、前記ボビンの回転と前記ガイドリングの昇降動作及び前記トラベラの旋回動作によって、集束剤が塗布されたガラスストランドに撚りをかけながらガラスヤーンとして前記ボビンに巻き取るガラスヤーンの製造装置において、
前記トラベラは、巻き取り動作時にガラスヤーンが通過しかつ接触する糸通過部を有し、該糸通過部の肉厚が他の部位の肉厚よりも相対的に大きいことを特徴とするガラスヤーンの製造装置。
【請求項2】
前記糸通過部の肉厚Tと前記他の部位の肉厚Bとが、0.35≦B/T<1の関係を満足するように設定されていることを特徴とする請求項1に記載のガラスヤーンの製造装置。
【請求項3】
前記トラベラは、上脚部と、該上脚部に連続して設けられた頭部と、該頭部に連続して設けられた前記糸通過部と、該糸通過部に連続して設けられ、その内面に走行接触面が設けられた胴部と、該胴部に連続して設けられた底部と、該底部に連続して設けられた下脚部とを備え、
前記ガイドリングは、上係合部と下係合部を有する主部を備え、該主部の内周には走行ガイド面が設けられ、
前記トラベラの旋回時、前記上脚部の内面は前記ガイドリングの上係合部の外周面と係合し、前記下脚部の内面は前記ガイドリングの下係合部の外周面と係合し、前記胴部の走行接触面は前記ガイドリングの走行ガイド面と接触し、
前記トラベラの前記糸通過部の肉厚Tと、前記頭部及び前記糸通過部の内面と前記底部の内面との間の最大離間寸法Dとが、0.10≦T/D≦0.25の関係を満足するように設定され、
前記トラベラの前記最大離間寸法Dと、前記ガイドリングの前記主部の最大高さHとが、1.1≦D/H≦1.3の関係を満足するように設定され、
前記トラベラの前記下脚部の内面と前記胴部の内面との間の最小離間寸法Pと、前記ガイドリングの前記下係合部の最大肉厚Jとが、1.5≦P/J≦1.7の関係を満足するように設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラスヤーンの製造装置。
【請求項4】
前記集束剤が、ハイアミロース型トウモロコシ澱粉を主成分とするものであることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のガラスヤーンの製造装置。
【請求項5】
前記ガラスヤーンの番手が6.0tex以下であることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のガラスヤーンの製造装置。
【請求項6】
前記ガラスヤーンがプリント配線板に用いられることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載のガラスヤーンの製造装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れかに記載のガラスヤーンの製造装置を用い、ガラス繊維の番手が6.0tex以下であり、プリント配線板に用いられるガラスヤーンを製造することを特徴とするガラスヤーンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−140721(P2011−140721A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−551(P2010−551)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【出願人】(507420732)電気硝子ファイバー加工株式会社 (7)
【Fターム(参考)】