説明

ガラスヤーン回巻体、その製造方法及びガラスクロス

【課題】経糸成経後の二次サイズと製織後のガラスクロスの加熱脱油と表面処理の工程を必要としないガラスヤーンを巻き取ったガラスヤーン回巻体とその製造方法、及びガラスヤーン回巻体によるガラスクロスを提供する。
【解決手段】本発明のガラスヤーン回巻体は、そのガラスヤーンの表面がエポキシ樹脂、エチレンオキサイド付加ビスフェノールA及びシランカップリング剤よりなるガラスヤーン用一次集束剤で被覆され、0.01〜1.5回/インチの撚られた0.5〜44texのガラスヤーンよりなるものである。また本発明の製造方法は、白金製ブッシングから引き出したEガラス製フィラメントにガラスヤーン用一次集束剤を塗布して巻き取り、前記のガラスヤーン回巻体を連続成形するものである。さらに本発明のガラスクロスは、上記のガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを用いて製織してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板を構成するガラスクロスを製織するため使用されるガラスヤーンをボビンに巻き取った形態を呈するガラスヤーン回巻体とその製造方法、及びそのガラスヤーン回巻体より解舒されたガラスヤーンにより製織されたガラスクロスに関する。
【0002】
ガラス繊維に撚りを付与したガラスヤーンは、プリント配線基板や各種のFRP成形体を構成するため、製織されてガラスクロスの形態として利用されている。このようなガラスヤーンは一般に以下のような工程で製造されている。
【0003】
予め所定組成となるように各種の無機原料やガラスカレットを所定比率で混合して作製したガラス原料バッチをガラス溶融炉内に投入し、加熱を行って溶融ガラスとし、均質化操作により均質な溶融状態とした後に複数の白金製ノズルを有するブッシングより引き出してガラスフィラメントを作製する。そしてこのガラスフィラメントに常法により表面を被覆する各種薬剤からなる集束剤を塗布して、数十から数千本のガラスフィラメントを束ねてガラスストランドとし、ターレット型ワインダーを有する巻き取り装置に装着された紙管や木管などに巻き取り、ケーキあるいはチーズなどと称される半製品とする。以上の工程は一般に紡糸工程と呼ばれ、ガラス長繊維を製造する際の基本的な工程の1つである。
【0004】
次いでこのケーキの外層から巻き取られたガラスストランドを解舒しつつ加撚しながらスピンドルに固定されたボビンやビーム等に巻き取り、ガラスヤーン回巻体のパッケージとする。この加燃を行ってガラスヤーン回巻体を形成する工程は、一般に撚糸工程と呼ばれ、ケーキとして巻き取られたストランドは解舒しやすいこと、すなわちケーキの解舒性が良好であることが求められる。
【0005】
そしてガラスヤーン回巻体のパッケージから、例えばプリント配線基板用の積層板のような特定の複合成形体を製作するには、以下のような工程が必要となる。まずガラスヤーン回巻体のパッケージから解舒されたガラスヤーンをワーパーで整経し、糊付け機で二次サイズしてビームからルームビームに巻き取りこれを経糸とする。ガラスヤーン回巻体のパッケージを解舒して、これを緯糸に使用し、エアージェットルームを用いてガラスクロスを製織する。製織されたガラスクロスに付着している有機成分を加熱焼却することにより取り除き(加熱脱油)、シランカップリング剤を含む処理液に浸漬して乾燥した(表面処理)後、樹脂を含侵させ、積層して樹脂を硬化させることによってプリント配線基板用の積層板が製造される。
【0006】
近年、電子部品工業の飛躍的な発展に支えられ、プリント配線基板はより軽量で薄型であって、しかも高密度実装が可能となるような種々の改善が行われてきた。このような取り組みの中で、プリント配線基板を構成する基本的な材料であるガラス繊維に対しても、種々の要求がなされ、その要求に見合う種々の改善が行われてきた。例えば、特許文献1には、プリント配線基板を成形する際に問題となるボイドの発生を防ぐための方法としてシランカップリング剤と塩化アンモニウムで処理することが開示されている。また特許文献2ではプリント配線基板が薄型化すると発生するソリ、ネジレ等を改善するためには一次サイジング剤としてエポキシ樹脂を使用し、水流加工で脱脂、開繊処理することで対応できるとする発明が行われている。さらに特許文献3では、絶縁抵抗の経時的変化の改善を目指すものとして水溶性ウレタン樹脂及び/または水溶性エポキシ樹脂を所定量ガラス表面に付着させるという発明も行われている。
【特許文献1】特開平6−112608号公報
【特許文献2】特開平9−67757号公報
【特許文献3】特開平9−209233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまで行われたものだけでは、ガラスヤーンの使用されたプリント配線基板をより安定した品位とするには不充分である。プリント配線基板の配線の高密度化、プリント配線基板の薄型化を実現のため、44tex以下の細番手ヤーンについては、織機上での毛羽立ち糸切れを緩和するために経糸整経後に二次サイズが行われているが、この二次サイズ工程中における毛羽や糸切れが起こり、ガラスクロスの品質が悪くなるという問題がある。また、さらに薄い寸法のガラスクロスは加熱脱油工程で引張強度が低下するため、裂けや破れが起こりやすく取り扱いが難しい。また加熱脱油工程や表面処理工程等、多くの工程を経るため生産に長期間を要するという問題もある。
【0008】
本発明は、経糸整経後の二次サイズと製織後のガラスクロスの加熱脱油工程と表面処理工程を経なくとも高い表面性能を実現することのできるガラスヤーンを巻き取ったガラスヤーン回巻体と、このガラスヤーン回巻体を製造することができる製造方法、及びガラスヤーン回巻体を使用することにより製織することができるガラスクロスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明のガラスヤーン回巻体は、ガラス長繊維のストランドを撚糸したガラスヤーンがボビンに巻き取られているガラスヤーン回巻体であって、前記ガラスヤーンを構成するストランドは、表面がエポキシ樹脂、エチレンオキサイド付加ビスフェノールA及びシランカップリング剤とを含むガラスヤーン用一次集束剤で被覆されてなり、かつ、0.01〜1.5回/インチの撚りが付与された0.5〜44texのガラスヤーンよりなることを特徴とする。
【0010】
ここで、ガラスヤーン回巻体は、ガラス長繊維のストランドを撚糸したガラスヤーンがボビンに巻き取られているガラスヤーン回巻体であって、前記ガラスヤーンを構成するストランドは、表面がエポキシ樹脂、エチレンオキサイド付加ビスフェノールA及びシランカップリング剤とを含むガラスヤーン用一次集束剤で被覆されてなり、かつ、0.01〜1.5回/インチの撚りが付与された0.5〜44texのガラスヤーンよりなるとは、巻き取り用のボビン周囲に連続的に巻き取られたガラス長繊維ストランドよりなるガラスヤーンの表面にエポキシ樹脂、エチレンオキサイド付加ビスフェノール、シランカップリング剤を含有するガラスヤーン用一次集束剤が被覆しており、ガラスヤーンの撚りが0.01回/インチから1.5回/インチの範囲であって、糸長1000m当たりの質量が0.5gから44gの範囲内にあるガラスヤーンより構成されているものであることを表している。
【0011】
ここでエポキシ樹脂は水溶性でも乳化されたエマルジョンでもよく、エポキシの構造はビスフェノールA型であってもノボラック型であっても差し支えないがエポキシ基を保持した構造となっている必要がある。エポキシ樹脂は、ストランドの結束性を高め、樹脂含浸性を向上させる効果を有するため好ましい。
【0012】
またエチレンオキサイド付加ビスフェノールAについては、エチレンオキサイドが40〜95質量%の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは60質量%から90質量%の範囲とすることである。エチレンオキサイドが40質量%よりも少ないと水溶性が悪くなる。95質量%よりも大きいとストランドの結束性が弱くなり好ましくない。エチレンオキサイド付加ビスフェノールAを添加することで、繊維束はストランドの結束性を保ちつつストランドの滑性が向上し、ガラスヤーン回巻体の解舒性が良好となるので好ましい。その添加量はエポキシ樹脂1質量部に対し0.1〜10質量部であることが好ましく、更に好ましくは0.5質量部から5質量部の範囲内とすることである。
【0013】
さらにシランカップリング剤は、エポキシシラン、アミノシランでもかまわない。シランカップリング剤は、樹脂と接着させる効果を有するため添加される。
【0014】
ガラスヤーンの番手については0.5texよりも細いと現実的に生産が難しく、一方44texよりも太くなるとガラスクロスの引張強度がもともと強いため加熱脱油後の引張強度の低下において問題となることが少なくなる。
【0015】
一次集束剤が塗布されたガラスヤーンの回巻体は、そのガラスヤーンを構成するガラス長繊維のストランドが0.01〜1.5回/インチの範囲内となるように加撚されていることが、結束性を高めてヤーンに毛羽立ちや糸切れを生じさせないために好ましいが、本発明のガラスヤーン回巻体を構成するガラス長繊維ストランドが加撚されたガラスヤーンの撚り数は、例えばJIS R3420(ガラス繊維一般試験方法)に記載された方法により計測できる。具体的には、検撚機を使用して、ボビンの側面からガラスヤーンの撚り数が変化することのないようにボビン等を回転させながら取り出したガラスヤーンの撚り数を計測することによって確認することができる。ガラスヤーンに撚りを付与することによってケーキの余分な水分を飛ばし、ストランドの結束性をより強くする効果を有するため行われる。
【0016】
また本発明のガラスヤーン回巻体は、その形状がボビンと呼ばれる円柱状の軸体の周囲に無機ガラス長繊維のストランドに撚りを加えつつヤーンとして巻き取ったものであって、その外観形態は円錐型形状(ダブルテーパー形状ともいう)、牛乳瓶型形状(片テーパー形状ともいう)あるいはフランジ型形状(ダブルスクエア形状ともいう)のいずれであってもよく、ストランドの撚りの方向についてもS撚り(撚り方向が左ねじの方向の撚り)であってもZ撚り(撚り方向が右ねじの方向の撚り)であってもよい。またガラスヤーンは、単糸を加撚した片撚糸であっても、2本以上を撚り合わせた撚り糸であってもよい。
【0017】
本発明のガラスヤーン回巻体では、そのガラスヤーン回巻体の全体の寸法、すなわち軸方向長さや直径については、特に限定するものではない。またボビンの形状についても円柱状の軸体が一般的ではあるが、必要に応じて他の形態であってもよく、特に限定されるものではない。
【0018】
さらに本発明のガラスヤーン回巻体に巻き取られたガラスヤーンを構成するガラス長繊維の材質については、ガラスヤーン回巻体の仕様用途に応じてどのような材質のものであっても使用することができる。例えば、材質として無アルカリのEガラスと呼ばれる材質、低誘電率を実現するDガラスと呼ばれる材質、耐酸性を実現するCガラスと呼ばれる材質、耐アルカリ性能を実現するARガラスと呼ばれる材質、高弾性率を実現するMガラスと呼ばれる材質、高強度、高弾性率を実現するSガラスと呼ばれる材質、またSガラスと同様の機能を有するTガラスと呼ばれる材質、さらに高誘電率を有するHガラスと呼ばれる材質といった各種ガラス材質を採用することが可能で、さらに最適な機能を有するように設計された他の材質であっても支障ない。
【0019】
また本発明のガラスヤーン回巻体は、上述に加えpHが3から5.5の範囲内のガラスヤーン用一次集束剤がガラスヤーン表面に塗布されて構成されたものであるならば、適正なガラス強度が経時的に維持できるので好ましい。
【0020】
ここで、pHが3から5.5の範囲内のガラスヤーン用一次集束剤がガラスヤーン表面に塗布されて構成されたものであるとは、ガラスヤーン用一次集束剤として調整された薬剤についての水素イオン濃度指数の値が、3から5.5の範囲内にあり、それをガラスヤーン表面に塗布された上で構成されたことを意味している。
【0021】
ガラスヤーン用一次集束剤のpHの値は、酸の種類により3から5.5の範囲内に調整することができ、この調整に使用する酸の種類としては、酢酸、塩酸、あるいは硫酸等の公知の無機酸を適宜使用すればよい。pHの値が3より小さいと酸の反応性が強くなりすぎるため、ガラス表面が劣化しやすく、ガラス表面の強度が弱くなる場合があるので好ましくない。一方pHの値が5.5より大きい値になると集束剤の化学的な安定性が悪くなる場合があるので好ましくない。
【0022】
また本発明のガラスヤーン回巻体は、上述に加えガラスヤーン表面のガラスヤーン用一次集束剤の付着率が0.3%から3%の範囲内にあるならば、ガラスヤーン表面に適度な表面張力が付与された状態とすることができ、ガラスヤーン同士の摩擦力を適正なものとできる。
【0023】
ここで、ガラスヤーン表面のガラスヤーン用一次集束剤の付着率が0.3%から3%の範囲内にあるとは、ガラス繊維の質量に対し、その表面に付着したガラスヤーン用一次集束剤の付着量を質量%で表示した場合に、0.3%から3%の範囲内となることを意味している。
【0024】
ガラスヤーン表面への一次集束剤の付着率は、0.3%から3%の範囲内であることが好ましく、一次集束剤のガラス表面への付着率が0.3%よりも小さいとガラスヤーンの飛走性や滑性が悪くなり、一方3%よりも大きいとケーキからのガラスヤーンの解舒性が悪くなる。
【0025】
また本発明のガラスヤーン回巻体は、上述に加え所定の性能を実現するため、他の薬剤をガラス繊維表面に付着させるのを妨げるものではない。必要に応じてガラスヤーン表面に耐電防止剤、酸化防止剤などを複数種の薬剤を必要量だけ添加した表面処理剤として被覆させることができる。
【0026】
本発明のガラスヤーン回巻体の製造方法は、白金製ブッシングから引き出したEガラス製フィラメントにガラスヤーン用一次集束剤を塗布し、ボビンに巻き取り、連続成形することにより、上記の何れかのガラスヤーン回巻体を製造することを特徴とする。
【0027】
ここで、白金製ブッシングから引き出したEガラス製フィラメントにガラスヤーン用一次集束剤を塗布し、ボビンに巻き取り、連続成形することにより、上記の何れかのガラスヤーン回巻体を製造するとは、複数のノズルを有する白金よりなるブッシングよりEガラス組成の溶融ガラスを引き出してフィラメントにし、その表面にガラスヤーン用一次集束剤を塗布してボビンに巻き取ることによって連続的にガラスヤーン回巻体を成形するということを表している。
【0028】
集束剤の被覆方法については、どのような方法であってもガラスモノフィラメントの表面を均一に被覆することができる方法であれば採用することができる。例えば噴霧法や浸漬法、塗布法などを適宜選択して使用することができる。またガラス繊維の集束方法についても特段の限定は不要である。
【0029】
また巻き取り方法やそれに使用するための巻き取り装置についても、所定速度で安定した巻き取り動作ができるものであれば、特に限定するものではない。
【0030】
本発明のガラスクロスは、上記の何れかに記載のガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを用いて製織されてなることを特徴とする。
【0031】
ここで、上記の何れかに記載のガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを用いて製織されてなるとは、ストランド表面がエポキシ樹脂、エチレンオキサイド付加ビスフェノールA及びシランカップリング剤とを含むガラスヤーン用一次集束剤で被覆されてなり、かつ、0.01〜1.5回/インチの撚りが付与された0.5〜44texのガラスヤーンを巻き取ったガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを使用して織物とされたガラスクロスであることを表している。
【0032】
製織の方法については、公知の種々の方法を採用することができ、必要に応じて他材料と併用することもできる。また織形態についても特に限定されるものではない。平織り他の種々の織り形態を適宜採用することができる。
【発明の効果】
【0033】
(1)以上のように、本発明のガラスヤーン回巻体は、ガラス長繊維のストランドを撚糸したガラスヤーンがボビンに巻き取られているガラスヤーン回巻体であって、前記ガラスヤーンを構成するストランドは、表面がエポキシ樹脂、エチレンオキサイド付加ビスフェノールA及びシランカップリング剤とを含むガラスヤーン用一次集束剤で被覆されてなり、かつ、0.01〜1.5回/インチの撚りが付与された0.5〜44texのガラスヤーンであるため、ガラスクロスを製織する場合に経糸成形後の二次サイズと製織後のガラスクロスの加熱脱油工程と表面処理工程とを省略することができ、安価なガラスクロスを製造することができる。
【0034】
(2)また本発明のガラスヤーン回巻体は、pHが3から5.5の範囲内のガラスヤーン用一次集束剤がガラスヤーン表面に塗布されて構成されたものであるならば、ガラスヤーン表面に塗布されて被覆したガラスヤーン用一次集束剤の皮膜が、経時的に劣化等することなく長期間に亘り安定した表面性能を発揮することができる。
【0035】
(3)さらに本発明のガラスヤーン回巻体は、ガラスヤーン表面のガラスヤーン用一次集束剤の付着率が0.3%から3%の範囲内にあるならば、ガラスヤーン表面の性状を所定範囲とすることで、巻き取り操作や織繊操作等で各種条件設定を変更することなく安定した操作が可能となるものである。
【0036】
(4)本発明のガラスヤーン回巻体の製造方法は、白金製ブッシングから引き出したEガラス製フィラメントにガラスヤーン用一次集束剤を塗布し、ボビンに巻き取り、連続成形することにより、上記の何れかのガラスヤーン回巻体を製造するものであるため、効率的な製造方式によって製造時に発生する不良等を最小限に抑制することができ、高い品位のガラスヤーン回巻体を得ることができるものである。
【0037】
(5)本発明のガラスクロスは、上記の何れかのガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを用いて製織されてなるものであるため、欠陥などの少ない均質なガラスクロスであって、プリント配線基板等の高密度実装を必要とする用途においても安定した性能を発揮することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に本発明のガラスヤーン回巻体とその製造方法、及びガラスヤーン回巻体を利用するガラスクロスに関して、実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0039】
[実施例1]まず、Eガラス組成となるように調整したガラス原料を加熱溶融して均質化した後に、直径4.5μmのガラス製フィラメントとなるように白金製ノズルを有するブッシングより引き出す。そしてその表面に予め調整したガラスヤーン用一次集束剤を塗布する。
【0040】
このガラスヤーン用一次集束剤は、固形分換算で、水溶性エポキシ変性物(シキボウ(株)製 エポリカR−105)を1質量%、ビスフェノールAが付加したエチレンオキサイド(吉村油化学(株)製 GF−690)を5質量%、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩(商品名:SZ6032、東レシリコン(株)製)を0.6質量%、ポリアルキレンポリアミン誘導体(三洋化成工業(株)製 NGF−2)を0.1質量%、酢酸を0.05質量%含み、残りが水よりなる集束剤となるように調製したものである。この集束剤のpHを計測すると、その値は4.5であった。
【0041】
次いで、ガラスヤーン用一次集束剤の塗布された直径4.5μmのEガラスのガラスフィラメント100本(4.1tex)を集束したストランドを紙管に巻き取りケーキとした後、ケーキからストランドを解舒して、Z方向に1回/インチの撚り(以後1Zと表記する。)を付与しつつ撚糸を行い、ガラスヤーンを作製しガラスヤーンボビンに巻き取ってガラスヤーン回巻体を形成した。ガラス繊維に対する集束剤の付着量は0.35%であった。
【0042】
さらに、このガラスヤーンを用いてワーパーで整経して、2次サイズを行わず経糸とし、同ガラスヤーンを緯糸として高速エアージェット織機で平織りしてガラスクロスを製織した。
【0043】
【表1】

【0044】
以上のような工程で得られたガラスヤーン回巻体に巻き取られたガラスヤーンの性能と得られたガラスクロスの性能について、表1にまとめる。この表で、ガラスヤーン回巻体の解舒性については、ガラスヤーン回巻体からガラスヤーンを解舒させて糸切れ等の問題が発生することなく撚糸できたものを「良」、解舒中における糸切れ等により撚糸できなかったものを「悪」と表示している。
【0045】
また飛走性については、津田駒工業(株)製造のエアージェットルーム(ZA)を用いてショートなど織り欠点の発生しなかったものを「○」、織り工程でショートやループ等の織り欠点の発生したものを「×」と表示した。
【0046】
毛羽特性については、ストランドを100m/minの速度で解舒してテンションバーを通した後に、糸切れや毛羽が発生しなかったものを「GOOD」、毛羽の発生や糸切れ等により使用上問題のあるものを「BAD」とした。以上の結果をヤーンの性能として表1にまとめた。
【0047】
【表2】

【0048】
さらに、表2にはこのガラスヤーンをガラスクロスに製繊した後のガラスクロスの性能についてまとめる。この表中で引張強度については、ヤーンを平織りに製織することによって得られたガラスクロスの引張強度については、JISに準拠する計測方法によって計測し、その値を従来技術により作成された以下の比較例1に示す試料No.3のガラスクロスについての引張強度を100としたときの相対値として表している。
【0049】
また、このガラスクロスを加熱脱油工程と表面処理工程を施すことなくJIS規格によるFR−4タイプのエポキシ樹脂ワニスを含浸させて、プレス硬化してプリプレグ試験片を作製した。このプリプレグ試験片について、プレッシャークッカー試験装置を使用して、高温高圧環境で、すなわち133℃、2気圧の条件下に保持して72時間後の吸水率の測定、および白化現象の目視観察によって、外観上問題ないものを「吸水及び白化」の欄に「OK」、吸水率が高く白化したものを「白化」と表示した。この結果についても表2に示す。
【0050】
またこの表中の工程処理時間については、従来技術すなわち比較例1に示す試料No.3についてのガラスストランドからガラスクロスが仕上がるまでに要した時間、つまり工程処理時間を100とした場合の相対的な時間を表している。
【0051】
表1からも判るように、実施例1については、ガラスヤーン回巻体の解除性については糸切れが認められず良好であり、またその飛走性についてもエアージェットルームで何ら問題が認められず、さらにテンションバーを通した後でも糸切れや毛羽が発生しないものであり、良好な品位を有するものであった。
【0052】
さらにこのガラスヤーンをガラスクロスとした後の性能についても、本発明のガラスクロスである実施例1については、上述した評価の結果、表2に表されるように「吸水及び白化」の項目については問題のないものであり、工程処理時間も従来に対して7割に短縮することができた。
【0053】
[実施例2]次に実施例2として、実施例1と同様のEガラス製フィラメントを使用し、その表面にガラスヤーン用一次集束剤を塗布した。ガラスヤーン用一次集束剤は、固形分換算で、水溶性エポキシ変性物(シキボウ(株)製 エポリカR−105)を3質量%、ビスフェノールAが付加したエチレンオキサイド(吉村油化学(株)製 GF−690)を1.5質量%、パラフィンワックス(吉村油化学(株)製 SW40)を3.5質量%、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩(商品名:SZ6032、東レシリコン(株)製)を0.6質量%、ポリアルキレンポリアミン誘導体(三洋化成工業(株)製 NGF−2)を0.1質量%、酢酸を0.05質量%含み、残りが水よりなる集束剤となるように調製したものである。この集束剤について、そのpHの計測値は4.5であった。
【0054】
得られたガラスヤーンを用い、ワーパーで整経して2次サイズを行わず経糸とし、同ガラスヤーンを緯糸として高速エアージェット織機で平織りしてガラスクロスを得た。ガラスヤーン回巻体の解舒性と製織時のヤーンの飛走性と毛羽特性については、実施例1と同様に表1にまとめる。
【0055】
ガラスクロスの引張強度については実施例1と同様の評価結果を表2に示す。またこのガラスクロスを加熱脱油工程と表面処理工程を施すことなくJIS規格によるFR−4タイプのエポキシ樹脂ワニスを含浸させ、プレス硬化させプリプレグ試験片とした。このプリプレグ試験片を実施例1同様の条件下での吸水率と白化現象を確認した結果についても表2の「吸水及び白化」の欄に示す。工程処理時間についても実施例1と同様の相対値を表2に示す。
【0056】
表1及び表2の結果からも明らかなように実施例2に相当する試料No.2に関してもガラスヤーン回巻体の解除性は糸切れが認められず良好なものであり、またその飛走性もエアージェットルームで何ら問題となることはなく、テンションバーを通した後でも糸切れや毛羽が発生せず、良好な品位を有するものであることが確認できた。
【0057】
[比較例1]次いで本発明の比較例として、実施例1と同様のEガラス製フィラメントを使用して、その表面にガラスヤーン用一次集束剤を塗布した。このガラスヤーン用一次集束剤は、固形分換算で、ヒドロキシプロピル化ハイアミロースコーンスターチ(日澱化学(株)製 パイオスターチK−5)を4.00wt%、ヒドロキシプロピル化ノーマルコーンスターチ(シキボウ(株)製 ハズビンディーS−210D)を1.00質量%、植物性油のエマルジョン((有)春日井製油製 落花生油)を0.8質量%、テトラエチレンペンタミンとステアリン酸の縮合物の酢酸活性化物(東邦化学工業(株)製 ソフノンHG−180)を0.80質量%、パラフィンワックスを0.8質量%含み、残りが温水よりなる集束剤となるように調製したものである。
【0058】
調製された集束剤は前記したように、直径4.5μmのEガラスのガラスフィラメント100本(4.1tex)に塗布して集束したストランドを紙管に巻き取りケーキとした後、ケーキからストランドを解舒し、前記したように1Zの条件で撚糸を行い、ガラスヤーンを作製しガラスヤーンボビンに巻き取った。ガラス繊維に対する集束剤の付着量は1.8%であった。次に、紡糸されたケーキを撚糸機で1Zの撚りをかけながら巻返し、ガラスヤーンを作製した。pHの計測値は、4.8であった。
【0059】
このガラスヤーンをワーパーで整経し、糊付け機で糊付けし、経糸とした。同ガラスヤーンを緯糸として高速エアージェット織機で平織りして生機ガラスクロスを得た。ガラスヤーン回巻体の解舒性と製織時のヤーンの飛走性と毛羽特性については、実施例と同様に評価を行い、その結果を表1に示す。得られた生機ガラスクロスを加熱脱油、表面処理を行った後のガラスクロスの引張強度を100として表2に示す。次いでこのガラスクロスをJIS規格によるFR−4タイプのエポキシ樹脂ワニスを含浸させ、プレス硬化させプリプレグとした。このガラスクロスから作製したプリプレグ試験片の吸水率と白化現象を確認した結果についても表2に示す。さらに工程処理時間についても表2に表す。
【0060】
表1及び表2から明らかなように、比較例1に相当する試料No.3は、それなりの性能を実現できるものではあるが、加熱脱油、表面処理といった工程を経る必要性があるため、工程処理時間として実施例に比較すると長時間を要する工程とならねばならず、そのため効率的な製造を行い難いものであって、製造原価の上昇を伴うものであった。
【0061】
[比較例2]さらに他の比較例として、ガラスヤーン用一次集束剤として水溶性エポキシ変性物(シキボウ(株)製 エポリカR−105)を添加しない以外は実施例1と同じ集束剤を調合した。この集束剤のpHは、計測すると4.7であった。このようにして調製された集束剤を直径4.5μmのEガラスのガラスフィラメント100本(4.1tex)に塗布して集束したストランドを紙管に巻き取りケーキとした後、ケーキからストランドを解舒し、1Zの条件で撚糸を行い、ガラスヤーンを作製しガラスヤーンボビンに巻き取り回巻体とした。このガラスヤーンのガラス繊維に対する集束剤の付着率は0.35%であった。次いでこのガラスヤーンを用いてワーパーで整経し、2次サイズを行わず経糸とし、同ガラスヤーンを緯糸として高速エアージェット織機で平織りしてガラスクロスを得た。ガラスヤーン回巻体の解舒性と製織時のヤーンの飛走性と毛羽特性とについては、表1にあらわす。
【0062】
表1及び表2の結果から明らかなように、比較例2に相当する試料No.4については、ガラスヤーン回巻体の解除性と飛走性については問題のないものであったが、テンションバーを通した後に毛羽や糸切れが多発し、実使用時には製品の品質が低下するものであることが判明した。
【0063】
[比較例3]さらに比較例3としてガラスヤーン用一次集束剤について、ビスフェノールAが付加したエチレンオキサイド(吉村油化学(株)製 GF−690)を添加しない以外は実施例1と同じ集束剤を調合、準備した。この集束剤のpHを計測したところ、その値は4であった。そして実施例と同様の手順で集束剤を直径4.5μmのEガラスのガラスフィラメント100本(4.1tex)に塗布して集束したストランドを紙管に巻き取りケーキとした。こうして得られたガラス繊維に対する集束剤の付着量は0.35%であった。この試料No.5の評価結果について、先と同様に表1及び表2にまとめた。
【0064】
表1及び表2の結果から明らかなように、比較例3に相当する試料No.5については、ガラスヤーン回巻体の解除性が悪く、実使用で使用するには問題のあるもので製品の品質が低下するものであることが判明した。
【0065】
[比較例4]次いで、ガラス繊維に対する集束剤の付着率が0.2%と低い値となったこと以外については、実施例1と同様の条件で製造されたガラスヤーンについて、上述と同様の評価を行った。そして、このガラスヤーンを使用し、ワーパーで整経し、2次サイズを行わず経糸とし、同ガラスヤーンを緯糸として高速エアージェット織機で平織りしてガラスクロスを得た。ガラスヤーン回巻体の解舒性と製織時のヤーンの飛走性、及び毛羽特性について、表1に示す。
【0066】
比較例4に相当する試料No.6は、ガラスヤーン回巻体の解除性は良好であったが、飛走性については、ショートなどの欠点が認められるものであった。またテンションバーを通した後に、糸切れや毛羽が多発するもので、ガラスストランドの品位は良いものではなかった。
【0067】
[比較例5]また比較例5として、試料No.7については、その集束剤としてN−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩(商品名:SZ6032、東レシリコン(株)製)を添加しない以外は実施例1と同じ集束剤を調合した。この集束剤のpHは4.7であった。
【0068】
調製された集束剤は、実施例同様にEガラスのガラスフィラメント100本(4.1tex)に塗布した。そして集束されたストランドは紙管に巻き取りケーキとした後、ケーキからストランドを解舒し、1Zの条件で撚糸を行い、ガラスヤーンを作製しガラスヤーンボビンに巻き取った。このガラスヤーンについては、ガラス繊維に対する集束剤の付着量は0.45%であった。
【0069】
このガラスヤーンについても前記と同様にワーパーで整経し、2次サイズを行わず経糸とし、同ガラスヤーンを緯糸として高速エアージェット織機で平織りしてガラスクロスを得た。ガラスヤーン回巻体の解舒性と製織時のヤーンの飛走性と毛羽特性の評価結果については、表1に示す。また、得られたガラスクロスの引張強度の相対値を表2に示す。
【0070】
このガラスクロスは、加熱脱油工程と表面処理工程を施すことなくJIS規格によるFR−4タイプのエポキシ樹脂ワニスを含浸させ、プリプレグ試験片とした。このプリプレグ試験片を前記同様の条件、すなわち133℃で2気圧のプレッシャークッカー試験装置で72時間保持後に、その吸水率と白化現象を確認した結果を表2に示す。工程処理時間は前記同様に相対値として表2に表す。
【0071】
表1及び表2からも判明するように、この試験No.7については、ガラスヤーン回巻体の解除性、飛走性、さらに毛羽特性は良好なものであった。そして引張強度も低いものではあるが従来と同等の数値を示した。しかしながらプリプレグ試験片によるプレッシャークッカー試験を行ったところ、吸水率が高く、その結果白化現象が顕著に認められ性能の低い状態にあることが判明した。
【0072】
以上に示したように、本発明のガラスヤーン回巻体は、そのガラスヤーンを使用した経糸整経後の二次サイズと製織後のガラスクロスの加熱脱油工程と表面処理工程を省略することができ、加熱脱油工程でおこるガラスクロスの強度低下を防止することができるものであって高い表面性能を有するものである。また加熱脱油工程と表面処理工程を省略することにより工程処理時間の短縮化が可能となることが明瞭となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス長繊維のストランドを撚糸したガラスヤーンがボビンに巻き取られているガラスヤーン回巻体であって、
前記ガラスヤーンを構成するストランドは、表面がエポキシ樹脂、エチレンオキサイド付加ビスフェノールA及びシランカップリング剤とを含むガラスヤーン用一次集束剤で被覆されてなり、かつ、0.01〜1.5回/インチの撚りが付与された0.5〜44texのガラスヤーンよりなることを特徴とするガラスヤーン回巻体。
【請求項2】
pHが3から5.5の範囲内のガラスヤーン用一次集束剤がガラスヤーン表面に塗布されて構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のガラスヤーン回巻体。
【請求項3】
ガラスヤーン表面のガラスヤーン用一次集束剤の付着率が0.3%から3%の範囲内にあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガラスヤーン回巻体。
【請求項4】
白金製ブッシングから引き出したEガラス製フィラメントにガラスヤーン用一次集束剤を塗布し、ボビンに巻き取り、連続成形することにより、請求項1から請求項3の何れかに記載のガラスヤーン回巻体を製造することを特徴とするガラスヤーン回巻体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3の何れかに記載のガラスヤーン回巻体から解舒したガラスヤーンを用いて製織されてなることを特徴とするガラスクロス。

【公開番号】特開2007−162171(P2007−162171A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361144(P2005−361144)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】