ガラス切断用カッターホイール
【課題】ガラス基板にスクライブラインを刻設するにあたり、このスクライブラインの塑性変形領域に水平クラックの発生を抑えつつ、垂直クラックを効果的に形成し、このスクライブラインにおいて分断処理を行ったとき、端面に凹凸が生じない高い成形品質のガラス基板が得られるガラス切断用カッターホイールとなるようにする。
【解決手段】円盤形状の外周縁部に沿ってV字形状の刃を有するガラス切断用カッターホイールであり、前記V字形状の刃の稜線部が連続する刃先となるように形成され、且つ、ガラス基板にスクライブラインを刻設するとき、該スクライブラインの深さ方向に臨む切欠凹部を前記刃先の直下に形成することにより先端部分に薄肉部と厚肉部が交互に形成されるようにする。
【解決手段】円盤形状の外周縁部に沿ってV字形状の刃を有するガラス切断用カッターホイールであり、前記V字形状の刃の稜線部が連続する刃先となるように形成され、且つ、ガラス基板にスクライブラインを刻設するとき、該スクライブラインの深さ方向に臨む切欠凹部を前記刃先の直下に形成することにより先端部分に薄肉部と厚肉部が交互に形成されるようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板を所定の大きさに型取りするにあたり、余分となる部分を分断して除去するため、このガラス基板の表面にスクライブラインを刻設するガラス切断用カッターホイールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に脆性のガラス基板にスクライブラインを刻設するには、ガラス基板の表面で転動させるガラス切断用カッターホイールが多く採用されている。このガラス切断用カッターホイールの基本的形状は、円盤の外周縁部に沿って角度120°前後のV字形状の刃が形成され、この刃の稜線となる刃先がガラス基板の表面にスクライブラインを刻設する。
【0003】
このようなガラス切断用カッターホイールによる場合は、刃先に荷重が作用することで、刃先が当接しているガラス基板の表面に弾性変形が生じ、次いで、刃先荷重の増大に伴って当接箇所に塑性変形が発生する。さらに刃先荷重が増大すると、塑性変形の限界点を超えて脆性破壊が発生し、ガラス基板の厚み方向に垂直クラックが成長し始める。
【0004】
このようにして垂直クラックが形成されることから、刃先荷重を大きくすることにより、刃先がガラス基板の表面に食い込む深度が大きくなり、垂直クラックを発生させるためのエネルギーが大きくなるため、垂直クラックの深度も大きくなる。ところが、刃先荷重が一定の大きさを超えると、深い垂直クラックを形成させることができるものの、ガラス基板の表面のスクライブラインに沿う塑性変形領域の内部歪みが飽和状態となり、水平クラックが発生して望ましくない切り屑(カレット)を発生してしまうことになる。
【0005】
このような事情から、深度の大きい垂直クラックを形成しつつ水平クラックの発生は極少となることが理想であり、多くの試行錯誤が繰り返されている。例えば、カッターホイールの外周縁部に形成されたV字形状の刃の稜線部となる刃先を、一定の範囲内の正多角形とするとともに、この正多角形の各辺に対応する刃先を含む刃角度が一定の範囲内となるようにしたものである(特許文献1参照)。
【0006】
これにより、回転するカッターホイールの多角形の刃先の各頂点でガラス基板に打点衝撃を与えるとともに、各頂点以外ではガラス基板への必要以上の食い込みをなくしてガラス基板に水平クラックが発生するのを防止しようとしている。また、多角形の刃先の各頂点間に切り欠きを形成して直線部をなくすことによって各辺とガラス基板との接触を完全になくし、ガラス基板の水平クラックの発生を更に抑制しようとしている。
【0007】
また、本願出願人においては、カッターホイールの円周を複数等分した中心角を交角とする2辺で囲まれた各範囲内に所定の刃角度を有する独立した刃が互いに隣接する刃の角度を異にして形成されるようにし、稜線を一定に保ちながら側面の角度を交互に変えることにより、刃を順次変えながらガラス基板への切り込みを深くして垂直クラックを深く形成できるガラス切断用カッターホイールを提案している(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−121040号公報
【特許文献2】特開2006−104029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に開示された技術は、スクライブラインの形成時にガラス基板に打点衝撃を与えることであることから、ガラス基板の内部に方向性が特定できない微細なクラック(マイクロクラック)を生じさせる可能性を否定することはできない。そして、このようにして完成されたガラス基板を実装した製品は潜在的な不良要因を内在するものとなり、高品質および高信頼性の製品を実現するためには問題を含んだ手法となる。
【0009】
また、カッターホイールに求められるスクライブ特性においては、上述したように垂直クラックを如何に深く形成するかという要件が重要である。ところが、回転するカッターホイールの刃にできるだけ荷重が加わらないようにしてガラス基板に刃先を食い込ませなければならないのであるが、食い込みの乏しい上記特許文献1に開示されたカッターホイールで深い垂直クラックを形成することは過度の刃先荷重が必要となり、残留応力がガラス基板に発生することになり、品質低下を招くことにもなる。
【0010】
さらに、引用文献1のカッターホイールでは、多角形の刃先の各頂点がガラス基板に僅かな接触面積で打点衝撃を与えるようにしていることから、この頂点部分の激しい摩耗は当然予測できるもので、この部分が磨り減った状態になると、打点衝撃も減衰してしまうことから初期の結果を維持することができず、寿命の短いカッターホイールとなる懸念を残すものである。さらに、このカッターホイールによる場合、各頂点による打点が間欠的(ミシン目状)に形成されたスクライブラインとなるため、この部分で分断したガラス基板の端部は凹凸の激しい破断面となることから、破壊強度が低くなることが明らかとなっている。
【0011】
したがって、スクライブラインは特許文献2に開示したカッターホイールによるように連続して形成されることが望ましいことになる。そして、更に本発明ではスクライブラインに沿う塑性変形領域の内部歪みの発生が極力低くなるようにして水平クラックの発生を防ぐとともに、垂直クラックを十分に深くすることができ、しかも耐久性が高く長寿命のガラス切断用カッターホイールの提供が可能となるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明は以下に述べる手段により、上記課題を解決するようにした。即ち、請求項1記載の発明では、円盤形状の外周縁部に沿ってV字形状の刃を有するガラス切断用カッターホイールであり、前記V字形状の刃の稜線部が連続する刃先となるように形成され、且つ、ガラス基板にスクライブラインを刻設するとき、該スクライブラインの深さ方向に臨む切欠凹部を前記刃先の直下に形成することにより先端部分に薄肉部と厚肉部が交互に形成されるようにする。
【0013】
請求項2記載の発明では、上記請求項1記載のガラス切断用カッターホイールにおいて、刃先の直下に形成する切欠凹部が複数であって同一円周上に等間隔または不等間隔であるようにする。
【0014】
請求項3記載の発明では、上記請求項2記載のガラス切断用カッターホイールにおいて、刃先の直下に形成する切欠凹部が同一形状であるようにする。
【0015】
請求項4記載の発明では、上記請求項2記載のガラス切断用カッターホイールにおいて、刃先の直下に形成する切欠凹部の形状が異なるようにする。
【0016】
請求項5記載の発明では、上記請求項1記載のガラス切断用カッターホイールにおいて、刃先の直下に形成する切欠凹部が単一であるようにする。
【0017】
請求項6記載の発明では、上記請求項1乃至請求項5のいずれかに記載されたガラス切断用カッターホイールにおいて、超硬合金または焼結ダイヤモンド、或いは単結晶ダイヤモンド・PCD・CBN、PVD・CVDなどのコーティングを施した素材であるようにする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガラス切断用カッターホイールは、円盤形状の外周縁部に沿ってV字形状の刃の稜線部が連続する刃先となるように形成し、且つ、スクライブラインの深さ方向に臨む切欠凹部を刃先の直下に形成するようにしたので、刃先の先端部分に薄肉部と厚肉部が形成される。
【0019】
この結果、スクライブラインを刻設するとき、薄肉部の刃先の狭い範囲に刃先荷重が集中するため、ガラス基板の表面に深く刃先が食い込み効果的な刻設が可能となる。そして、薄肉部で刻設されたスクライブラインの溝端部に厚肉部の刃先が乗り上げる状態となり、この溝端部に刃先荷重が集中することから薄肉部により形成された垂直クラックが押し広がれ、深い垂直クラックが形成されることになる。
【0020】
そして、薄肉部でスクライブラインが刻設されるときは、ガラス基板の狭い範囲であってスクライブラインに沿う塑性変形領域には刃先が接触しないことから内部歪みの発生を低く抑えることができる。これにより、水平クラックの発生の確立が低くなり、切り屑(カレット)の発生を抑えることができる。そして、この塑性変形領域は刃先の厚肉部で押圧されることから滑面処理の結果が同時に得られることになり、スクライブラインにおいて分断処理された端面に凹凸が生じることのない高い成形品質のガラス基板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施態様の例を図に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明に係るガラス切断用カッターホイールAの側面図、図2はその断面図、図3は正面図を示す。同各図において、円盤形状のカッターホイールAの外周縁部に沿ってV字形状の刃の稜線部となる刃先1が寸断されることなく連続して形成されている。なお、この刃先1の角度は15〜160°の範囲で任意に設定して定める。なお、このカッターホイールAは、超硬合金または焼結ダイヤモンド、或いは単結晶ダイヤモンド・PCD・CBN、PVD・CVDなどのコーティングを施した素材を採用する。
【0023】
そして、カッターホイールAの中央部には貫通孔2が形成されており、この貫通孔2に回転軸が挿通され、この回転軸に軸支されてカッターホイールAが転動することになる。なお、前記構成によらず、回転軸をカッターホイールAとともに一体に形成するようにしてもよく、あるいはカッターホイールAの中央部に凹部を形成し、この部分を軸支して転動可能となるようにしてもよい。
【0024】
つぎに、前記刃先1の直下には、模式的に図4に示すようにカッターホイールAがワークテーブルT上に配置されたガラス基板Wにスクライブラインを刻設するとき、このスクライブラインの深さ方向に臨む複数の切欠凹部3が放電加工などの適宜手段により形成されている。
【0025】
この切欠凹部3は、図5、図6に示すように、ガラス基板Wに刻設されるスクライブラインSの通常の深さ、即ち、ガラス基板Wの表面から刃先1までの深さがt1(約30μ)である場合、刃先1の先端から後退した位置t2からガラス基板Wの表面から後退した位置t3を凹陥する範囲に定めて形成する。
【0026】
このように刃先1の部分に切欠凹部3が形成されることにより、図6に示すように切欠凹部3が形成された部分は薄肉部1aとなり、切欠凹部3が形成されていない部分は厚肉部1bとなり、この薄肉部1aと厚肉部1bが交互に連続して形成された状態となる。なお、切欠凹部3の形状は特定の形状に限定されることなく、図7(A)に示すような正円状、図7(B)に示すような楕円状、図7(C)に示すような角形状であってもよい。
【0027】
また、切欠凹部3は刃先1の直下の原則として同一円周上に形成するが、等間隔または不等間隔であってもよい。さらに、形成される複数の切欠凹部3の形状は原則として同一とするが、異なる形状としてもよい。
【0028】
上記の実施態様は、比較的小さな切欠凹部3が連続して形成されている状態であるが、図8に示すように刃先1の直下の半周に沿う長溝状、あるいは図9に示すように刃先1の直下の1/4周に沿う長溝状としてもよく、この場合においては、薄肉部1aと厚肉部1bがカッターホイールAの1回転において半周毎または1/4周毎で交互にガラス基板Wの表面に接触することになる。
【0029】
なお、本発明を実施するカッターホイールの推奨仕様および加工条件を以下に示す。
材質 : 超硬合金または焼結ダイヤモンド等
ホイールの直径 : 1.0〜10.0mm
ホイールの厚み : 0.3〜2.0mm
刃先の角度 : 15〜160°
スクライブ速度 : 0.5〜700mm/sec
【0030】
つぎに、以上のごとく形成された本発明のカッターホイールAを実際に使用した場合の作用について以下に説明する。まず、図4に示すように図示しないガラススクライバーのカッターヘッドへ本発明のカッターホイールAを回転可能に軸着し、ワークテーブルT上に配置されたガラス基板Wに対してカッターホイールAの刃先1が所定の深さに食い込むように、ガラス基板WとカッターホイールAのうちの何れか一方または両方を調節することによりガラス基板WとカッターホイールAとの距離を設定する。
【0031】
そして、ガラス基板WとカッターホイールAのうち何れか一方または両方を所定の速度で移動させながら、カッターホイールAを転動させてスクライブ処理を行う。なお、このスクライブ処理にはカッターホイールAに所定の刃先荷重が加えられる。
【0032】
このようにしてスクライブ処理が開始されると、カッターホイールAの刃先1がガラス基板Wの表面に対し、ある瞬間に最初に接触するのは、薄肉部1aまたは厚肉部1bの何れか一方である。ところが、薄肉部1aまたは厚肉部1bの何れが最初にガラス基板Wに接触しようとも、カッターホイールAの刃先1がガラス基板Wの厚み方向の最下点に至るまでは、薄肉部1aと厚肉部1bによるスクライブが交互に繰り返され、刃先1の食い込みの深度を徐々に深くしながらスクライブ処理が進行することになる。
【0033】
かかるスクライブ処理において、図10に示すように刃先1の薄肉部1aがスクライブ処理を行っている状態では、同図に示すように切欠凹部3が逃げ凹部となってスクライブラインSの溝の稜線部Saと接触しないことから、刃先1の先端部のみに荷重の全てが集中する状態となる。もし、仮に切欠凹部3が形成されていないと、刃先1のガラス基板Wに対する接触面積が大きくなることから、荷重が分散してしまうことになるが、このように荷重を集中させることにより薄肉部1aによるスクライブが効果的に進行する。
【0034】
このようにして薄肉部1aによるスクライブが行われることにより、スクライブラインSに沿う塑性変形領域に刃先1が接触しないことから、内部歪みの発生を低く抑えることができ、水平クラックの発生を防ぐことができる。そして、薄肉部1aによりスクライブが行われると、スクライブラインSの底部に浅い垂直クラックSbが形成されることになる。
【0035】
刃先1の薄肉部1aにより図10に示すようなスクライブラインSが形成され、薄肉部1aが通過してこのスクライブラインSに刃先1の厚肉部1bが進入した状態を図11に示す。刃先1の厚肉部1bがスクライブラインSに進入する直前においては、このスクライブラインSは図10に示す状態、即ち、稜線部Saが残った状態となっている。かかる状態のスクライブラインSに刃先1の厚肉部1bが進入すると、先ずこの厚肉部1bの先端の両側部がスクライブラインSの稜線部Saに接触し、刃先加重の全てがこの稜線部Saに加わる。
【0036】
そして、更に厚肉部1bが進入するに従い、稜線Saが押圧されて図11に示すように塑性変形して平坦化する。このとき、スクライブラインSは左右に押し広げられる状態となることから、垂直クラックSbが更に大きく形成されることになる。なお、刃先1の薄肉部1aにより形成されたスクライブラインSの厚肉部1bが進入するとき、この厚肉部1bが稜線Saに当接する態様となることから打点衝撃を与える状態となり、垂直クラックSbの形成が助長されることになる。
【0037】
このようにして、刃先1の薄肉部1aと厚肉部1bのスクライブが交互に繰り返されることにより、順次ガラス基板Wへの食い込みが深くなるので、従来と同等あるいはそれ以下の刃先加重で従来よりも深い垂直クラックSbの形成が可能となる。その結果、スクライブ時にガラス基板Wに加わる加重を小さくすることができるので、残留応力がガラス基板Wに発生することが殆どないことから、水平クラックの発生を抑えることができる。
【0038】
以上の説明から明らかなように、本発明のガラス切断用カッターホイールAは、その稜線の刃先が寸断された状態のものではないことから、ガラス基板W上に形成されるスクライブラインSは同幅の連続したものになるとともに、厚肉部1bにより滑面処理が施されることから高い成形品質のガラス基板とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のカッターホイールの側面図である。
【図2】本発明のカッターホイールの断面図である。
【図3】本発明のカッターホイールの正面図である。
【図4】スクライブの状態を説明する図である。
【図5】本発明のカッターホイールの要部を説明する拡大図である。
【図6】本発明のカッターホイールの要部を説明する拡大図である。
【図7】切欠凹部の形態の例を示す図である。
【図8】本発明のカッターホイールの他の構成例を示す図である。
【図9】本発明のカッターホイールの他の構成例を示す図である。
【図10】本発明のカッターホイールの薄肉部の作用を説明する図である。
【図11】本発明のカッターホイールの厚肉部の作用を説明する図である。
【符号の説明】
【0040】
A・・・・・・カッターホイール
1・・・・・・刃先
1a・・・・・薄肉部
1b・・・・・厚肉部
2・・・・・・貫通孔
3・・・・・・切欠凹部
W・・・・・・ガラス基板
S・・・・・・スクライブライン
Sa・・・・・稜線
Sb・・・・・垂直クラック
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板を所定の大きさに型取りするにあたり、余分となる部分を分断して除去するため、このガラス基板の表面にスクライブラインを刻設するガラス切断用カッターホイールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に脆性のガラス基板にスクライブラインを刻設するには、ガラス基板の表面で転動させるガラス切断用カッターホイールが多く採用されている。このガラス切断用カッターホイールの基本的形状は、円盤の外周縁部に沿って角度120°前後のV字形状の刃が形成され、この刃の稜線となる刃先がガラス基板の表面にスクライブラインを刻設する。
【0003】
このようなガラス切断用カッターホイールによる場合は、刃先に荷重が作用することで、刃先が当接しているガラス基板の表面に弾性変形が生じ、次いで、刃先荷重の増大に伴って当接箇所に塑性変形が発生する。さらに刃先荷重が増大すると、塑性変形の限界点を超えて脆性破壊が発生し、ガラス基板の厚み方向に垂直クラックが成長し始める。
【0004】
このようにして垂直クラックが形成されることから、刃先荷重を大きくすることにより、刃先がガラス基板の表面に食い込む深度が大きくなり、垂直クラックを発生させるためのエネルギーが大きくなるため、垂直クラックの深度も大きくなる。ところが、刃先荷重が一定の大きさを超えると、深い垂直クラックを形成させることができるものの、ガラス基板の表面のスクライブラインに沿う塑性変形領域の内部歪みが飽和状態となり、水平クラックが発生して望ましくない切り屑(カレット)を発生してしまうことになる。
【0005】
このような事情から、深度の大きい垂直クラックを形成しつつ水平クラックの発生は極少となることが理想であり、多くの試行錯誤が繰り返されている。例えば、カッターホイールの外周縁部に形成されたV字形状の刃の稜線部となる刃先を、一定の範囲内の正多角形とするとともに、この正多角形の各辺に対応する刃先を含む刃角度が一定の範囲内となるようにしたものである(特許文献1参照)。
【0006】
これにより、回転するカッターホイールの多角形の刃先の各頂点でガラス基板に打点衝撃を与えるとともに、各頂点以外ではガラス基板への必要以上の食い込みをなくしてガラス基板に水平クラックが発生するのを防止しようとしている。また、多角形の刃先の各頂点間に切り欠きを形成して直線部をなくすことによって各辺とガラス基板との接触を完全になくし、ガラス基板の水平クラックの発生を更に抑制しようとしている。
【0007】
また、本願出願人においては、カッターホイールの円周を複数等分した中心角を交角とする2辺で囲まれた各範囲内に所定の刃角度を有する独立した刃が互いに隣接する刃の角度を異にして形成されるようにし、稜線を一定に保ちながら側面の角度を交互に変えることにより、刃を順次変えながらガラス基板への切り込みを深くして垂直クラックを深く形成できるガラス切断用カッターホイールを提案している(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−121040号公報
【特許文献2】特開2006−104029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に開示された技術は、スクライブラインの形成時にガラス基板に打点衝撃を与えることであることから、ガラス基板の内部に方向性が特定できない微細なクラック(マイクロクラック)を生じさせる可能性を否定することはできない。そして、このようにして完成されたガラス基板を実装した製品は潜在的な不良要因を内在するものとなり、高品質および高信頼性の製品を実現するためには問題を含んだ手法となる。
【0009】
また、カッターホイールに求められるスクライブ特性においては、上述したように垂直クラックを如何に深く形成するかという要件が重要である。ところが、回転するカッターホイールの刃にできるだけ荷重が加わらないようにしてガラス基板に刃先を食い込ませなければならないのであるが、食い込みの乏しい上記特許文献1に開示されたカッターホイールで深い垂直クラックを形成することは過度の刃先荷重が必要となり、残留応力がガラス基板に発生することになり、品質低下を招くことにもなる。
【0010】
さらに、引用文献1のカッターホイールでは、多角形の刃先の各頂点がガラス基板に僅かな接触面積で打点衝撃を与えるようにしていることから、この頂点部分の激しい摩耗は当然予測できるもので、この部分が磨り減った状態になると、打点衝撃も減衰してしまうことから初期の結果を維持することができず、寿命の短いカッターホイールとなる懸念を残すものである。さらに、このカッターホイールによる場合、各頂点による打点が間欠的(ミシン目状)に形成されたスクライブラインとなるため、この部分で分断したガラス基板の端部は凹凸の激しい破断面となることから、破壊強度が低くなることが明らかとなっている。
【0011】
したがって、スクライブラインは特許文献2に開示したカッターホイールによるように連続して形成されることが望ましいことになる。そして、更に本発明ではスクライブラインに沿う塑性変形領域の内部歪みの発生が極力低くなるようにして水平クラックの発生を防ぐとともに、垂直クラックを十分に深くすることができ、しかも耐久性が高く長寿命のガラス切断用カッターホイールの提供が可能となるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明は以下に述べる手段により、上記課題を解決するようにした。即ち、請求項1記載の発明では、円盤形状の外周縁部に沿ってV字形状の刃を有するガラス切断用カッターホイールであり、前記V字形状の刃の稜線部が連続する刃先となるように形成され、且つ、ガラス基板にスクライブラインを刻設するとき、該スクライブラインの深さ方向に臨む切欠凹部を前記刃先の直下に形成することにより先端部分に薄肉部と厚肉部が交互に形成されるようにする。
【0013】
請求項2記載の発明では、上記請求項1記載のガラス切断用カッターホイールにおいて、刃先の直下に形成する切欠凹部が複数であって同一円周上に等間隔または不等間隔であるようにする。
【0014】
請求項3記載の発明では、上記請求項2記載のガラス切断用カッターホイールにおいて、刃先の直下に形成する切欠凹部が同一形状であるようにする。
【0015】
請求項4記載の発明では、上記請求項2記載のガラス切断用カッターホイールにおいて、刃先の直下に形成する切欠凹部の形状が異なるようにする。
【0016】
請求項5記載の発明では、上記請求項1記載のガラス切断用カッターホイールにおいて、刃先の直下に形成する切欠凹部が単一であるようにする。
【0017】
請求項6記載の発明では、上記請求項1乃至請求項5のいずれかに記載されたガラス切断用カッターホイールにおいて、超硬合金または焼結ダイヤモンド、或いは単結晶ダイヤモンド・PCD・CBN、PVD・CVDなどのコーティングを施した素材であるようにする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガラス切断用カッターホイールは、円盤形状の外周縁部に沿ってV字形状の刃の稜線部が連続する刃先となるように形成し、且つ、スクライブラインの深さ方向に臨む切欠凹部を刃先の直下に形成するようにしたので、刃先の先端部分に薄肉部と厚肉部が形成される。
【0019】
この結果、スクライブラインを刻設するとき、薄肉部の刃先の狭い範囲に刃先荷重が集中するため、ガラス基板の表面に深く刃先が食い込み効果的な刻設が可能となる。そして、薄肉部で刻設されたスクライブラインの溝端部に厚肉部の刃先が乗り上げる状態となり、この溝端部に刃先荷重が集中することから薄肉部により形成された垂直クラックが押し広がれ、深い垂直クラックが形成されることになる。
【0020】
そして、薄肉部でスクライブラインが刻設されるときは、ガラス基板の狭い範囲であってスクライブラインに沿う塑性変形領域には刃先が接触しないことから内部歪みの発生を低く抑えることができる。これにより、水平クラックの発生の確立が低くなり、切り屑(カレット)の発生を抑えることができる。そして、この塑性変形領域は刃先の厚肉部で押圧されることから滑面処理の結果が同時に得られることになり、スクライブラインにおいて分断処理された端面に凹凸が生じることのない高い成形品質のガラス基板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施態様の例を図に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1は本発明に係るガラス切断用カッターホイールAの側面図、図2はその断面図、図3は正面図を示す。同各図において、円盤形状のカッターホイールAの外周縁部に沿ってV字形状の刃の稜線部となる刃先1が寸断されることなく連続して形成されている。なお、この刃先1の角度は15〜160°の範囲で任意に設定して定める。なお、このカッターホイールAは、超硬合金または焼結ダイヤモンド、或いは単結晶ダイヤモンド・PCD・CBN、PVD・CVDなどのコーティングを施した素材を採用する。
【0023】
そして、カッターホイールAの中央部には貫通孔2が形成されており、この貫通孔2に回転軸が挿通され、この回転軸に軸支されてカッターホイールAが転動することになる。なお、前記構成によらず、回転軸をカッターホイールAとともに一体に形成するようにしてもよく、あるいはカッターホイールAの中央部に凹部を形成し、この部分を軸支して転動可能となるようにしてもよい。
【0024】
つぎに、前記刃先1の直下には、模式的に図4に示すようにカッターホイールAがワークテーブルT上に配置されたガラス基板Wにスクライブラインを刻設するとき、このスクライブラインの深さ方向に臨む複数の切欠凹部3が放電加工などの適宜手段により形成されている。
【0025】
この切欠凹部3は、図5、図6に示すように、ガラス基板Wに刻設されるスクライブラインSの通常の深さ、即ち、ガラス基板Wの表面から刃先1までの深さがt1(約30μ)である場合、刃先1の先端から後退した位置t2からガラス基板Wの表面から後退した位置t3を凹陥する範囲に定めて形成する。
【0026】
このように刃先1の部分に切欠凹部3が形成されることにより、図6に示すように切欠凹部3が形成された部分は薄肉部1aとなり、切欠凹部3が形成されていない部分は厚肉部1bとなり、この薄肉部1aと厚肉部1bが交互に連続して形成された状態となる。なお、切欠凹部3の形状は特定の形状に限定されることなく、図7(A)に示すような正円状、図7(B)に示すような楕円状、図7(C)に示すような角形状であってもよい。
【0027】
また、切欠凹部3は刃先1の直下の原則として同一円周上に形成するが、等間隔または不等間隔であってもよい。さらに、形成される複数の切欠凹部3の形状は原則として同一とするが、異なる形状としてもよい。
【0028】
上記の実施態様は、比較的小さな切欠凹部3が連続して形成されている状態であるが、図8に示すように刃先1の直下の半周に沿う長溝状、あるいは図9に示すように刃先1の直下の1/4周に沿う長溝状としてもよく、この場合においては、薄肉部1aと厚肉部1bがカッターホイールAの1回転において半周毎または1/4周毎で交互にガラス基板Wの表面に接触することになる。
【0029】
なお、本発明を実施するカッターホイールの推奨仕様および加工条件を以下に示す。
材質 : 超硬合金または焼結ダイヤモンド等
ホイールの直径 : 1.0〜10.0mm
ホイールの厚み : 0.3〜2.0mm
刃先の角度 : 15〜160°
スクライブ速度 : 0.5〜700mm/sec
【0030】
つぎに、以上のごとく形成された本発明のカッターホイールAを実際に使用した場合の作用について以下に説明する。まず、図4に示すように図示しないガラススクライバーのカッターヘッドへ本発明のカッターホイールAを回転可能に軸着し、ワークテーブルT上に配置されたガラス基板Wに対してカッターホイールAの刃先1が所定の深さに食い込むように、ガラス基板WとカッターホイールAのうちの何れか一方または両方を調節することによりガラス基板WとカッターホイールAとの距離を設定する。
【0031】
そして、ガラス基板WとカッターホイールAのうち何れか一方または両方を所定の速度で移動させながら、カッターホイールAを転動させてスクライブ処理を行う。なお、このスクライブ処理にはカッターホイールAに所定の刃先荷重が加えられる。
【0032】
このようにしてスクライブ処理が開始されると、カッターホイールAの刃先1がガラス基板Wの表面に対し、ある瞬間に最初に接触するのは、薄肉部1aまたは厚肉部1bの何れか一方である。ところが、薄肉部1aまたは厚肉部1bの何れが最初にガラス基板Wに接触しようとも、カッターホイールAの刃先1がガラス基板Wの厚み方向の最下点に至るまでは、薄肉部1aと厚肉部1bによるスクライブが交互に繰り返され、刃先1の食い込みの深度を徐々に深くしながらスクライブ処理が進行することになる。
【0033】
かかるスクライブ処理において、図10に示すように刃先1の薄肉部1aがスクライブ処理を行っている状態では、同図に示すように切欠凹部3が逃げ凹部となってスクライブラインSの溝の稜線部Saと接触しないことから、刃先1の先端部のみに荷重の全てが集中する状態となる。もし、仮に切欠凹部3が形成されていないと、刃先1のガラス基板Wに対する接触面積が大きくなることから、荷重が分散してしまうことになるが、このように荷重を集中させることにより薄肉部1aによるスクライブが効果的に進行する。
【0034】
このようにして薄肉部1aによるスクライブが行われることにより、スクライブラインSに沿う塑性変形領域に刃先1が接触しないことから、内部歪みの発生を低く抑えることができ、水平クラックの発生を防ぐことができる。そして、薄肉部1aによりスクライブが行われると、スクライブラインSの底部に浅い垂直クラックSbが形成されることになる。
【0035】
刃先1の薄肉部1aにより図10に示すようなスクライブラインSが形成され、薄肉部1aが通過してこのスクライブラインSに刃先1の厚肉部1bが進入した状態を図11に示す。刃先1の厚肉部1bがスクライブラインSに進入する直前においては、このスクライブラインSは図10に示す状態、即ち、稜線部Saが残った状態となっている。かかる状態のスクライブラインSに刃先1の厚肉部1bが進入すると、先ずこの厚肉部1bの先端の両側部がスクライブラインSの稜線部Saに接触し、刃先加重の全てがこの稜線部Saに加わる。
【0036】
そして、更に厚肉部1bが進入するに従い、稜線Saが押圧されて図11に示すように塑性変形して平坦化する。このとき、スクライブラインSは左右に押し広げられる状態となることから、垂直クラックSbが更に大きく形成されることになる。なお、刃先1の薄肉部1aにより形成されたスクライブラインSの厚肉部1bが進入するとき、この厚肉部1bが稜線Saに当接する態様となることから打点衝撃を与える状態となり、垂直クラックSbの形成が助長されることになる。
【0037】
このようにして、刃先1の薄肉部1aと厚肉部1bのスクライブが交互に繰り返されることにより、順次ガラス基板Wへの食い込みが深くなるので、従来と同等あるいはそれ以下の刃先加重で従来よりも深い垂直クラックSbの形成が可能となる。その結果、スクライブ時にガラス基板Wに加わる加重を小さくすることができるので、残留応力がガラス基板Wに発生することが殆どないことから、水平クラックの発生を抑えることができる。
【0038】
以上の説明から明らかなように、本発明のガラス切断用カッターホイールAは、その稜線の刃先が寸断された状態のものではないことから、ガラス基板W上に形成されるスクライブラインSは同幅の連続したものになるとともに、厚肉部1bにより滑面処理が施されることから高い成形品質のガラス基板とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のカッターホイールの側面図である。
【図2】本発明のカッターホイールの断面図である。
【図3】本発明のカッターホイールの正面図である。
【図4】スクライブの状態を説明する図である。
【図5】本発明のカッターホイールの要部を説明する拡大図である。
【図6】本発明のカッターホイールの要部を説明する拡大図である。
【図7】切欠凹部の形態の例を示す図である。
【図8】本発明のカッターホイールの他の構成例を示す図である。
【図9】本発明のカッターホイールの他の構成例を示す図である。
【図10】本発明のカッターホイールの薄肉部の作用を説明する図である。
【図11】本発明のカッターホイールの厚肉部の作用を説明する図である。
【符号の説明】
【0040】
A・・・・・・カッターホイール
1・・・・・・刃先
1a・・・・・薄肉部
1b・・・・・厚肉部
2・・・・・・貫通孔
3・・・・・・切欠凹部
W・・・・・・ガラス基板
S・・・・・・スクライブライン
Sa・・・・・稜線
Sb・・・・・垂直クラック
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤形状の外周縁部に沿ってV字形状の刃を有するガラス切断用カッターホイールであり、前記V字形状の刃の稜線部が連続する刃先となるように形成され、且つ、ガラス基板にスクライブラインを刻設するとき、該スクライブラインの深さ方向に臨む切欠凹部を前記刃先の直下に形成することにより先端部分に薄肉部と厚肉部が交互に形成されるようにしたことを特徴とするガラス切断用カッターホイール。
【請求項2】
前記刃先の直下に形成する切欠凹部が複数であって同一円周上に等間隔または不等間隔であることを特徴とする請求項1記載のガラス切断用カッターホイール。
【請求項3】
前記刃先の直下に形成する切欠凹部の形状が同一であることを特徴とする請求項2記載のガラス切断用カッターホイール。
【請求項4】
前記刃先の直下に形成する切欠凹部の形状が異なることを特徴とする請求項2記載のガラス切断用カッターホイール。
【請求項5】
前記刃先の直下に形成する切欠凹部が単一であることを特徴とする請求項1記載のガラス切断用カッターホイール。
【請求項6】
超硬合金または焼結ダイヤモンド、或いは単結晶ダイヤモンド・PCD・CBN、PVD・CVDなどのコーティングを施した素材としたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載されたガラス切断用カッターホイール。
【請求項1】
円盤形状の外周縁部に沿ってV字形状の刃を有するガラス切断用カッターホイールであり、前記V字形状の刃の稜線部が連続する刃先となるように形成され、且つ、ガラス基板にスクライブラインを刻設するとき、該スクライブラインの深さ方向に臨む切欠凹部を前記刃先の直下に形成することにより先端部分に薄肉部と厚肉部が交互に形成されるようにしたことを特徴とするガラス切断用カッターホイール。
【請求項2】
前記刃先の直下に形成する切欠凹部が複数であって同一円周上に等間隔または不等間隔であることを特徴とする請求項1記載のガラス切断用カッターホイール。
【請求項3】
前記刃先の直下に形成する切欠凹部の形状が同一であることを特徴とする請求項2記載のガラス切断用カッターホイール。
【請求項4】
前記刃先の直下に形成する切欠凹部の形状が異なることを特徴とする請求項2記載のガラス切断用カッターホイール。
【請求項5】
前記刃先の直下に形成する切欠凹部が単一であることを特徴とする請求項1記載のガラス切断用カッターホイール。
【請求項6】
超硬合金または焼結ダイヤモンド、或いは単結晶ダイヤモンド・PCD・CBN、PVD・CVDなどのコーティングを施した素材としたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載されたガラス切断用カッターホイール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−126382(P2010−126382A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301171(P2008−301171)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(399041561)常陽工学株式会社 (36)
【出願人】(506070235)株式会社グラビティ (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(399041561)常陽工学株式会社 (36)
【出願人】(506070235)株式会社グラビティ (3)
【Fターム(参考)】
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