説明

ガラス強化方法およびこの方法によって強化されたガラス

【課題】薄いコーティング膜でもガラスを強化できるようにする。
【解決手段】
板状のガラスを強化するガラス強化方法が、表面乾式処理によってガラスの表面を親水化処理する工程と、一般式:RM(OR’)4−m(式中、RとR’はアルキル基、Mは金属、mは0、1、2)で示される金属アルコキシ化合物を含むガラス強化用溶液をガラスに含浸もしくは接触させる工程、又は、一般式:RM(OR’)4−m−n(OH)(式中、RとR’はアルキル基、Mは金属、mとnは整数、n≧2)で示される金属水酸化物を含むガラス強化用溶液をガラスに含浸もしくは接触させる工程とを有する。この方法で強化されたガラスは、ガラスの表面が表面乾式処理によって親水化処理されてから、ガラスの表面に存在するマイクロクラック内にガラス強化膜成分が入り込んで、マイクロクラックが減らされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状のガラスを強化するガラス強化方法と、その方法によって強化されたガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ガラスが割れやすい原因としては、ガラス表面に存在するマイクロクラックが考えられている。ガラスに応力が加わると、このマイクロクラックが大きく発達して割れることとなる。
【0003】
この問題を解決する方法として、特許文献1では、1μm以上の厚さをもつ特定のコーティング膜をガラス表面に形成させる方法が提案されている。これは、コーティング膜に十分な厚みをもたせることによって、たとえ加傷しても、その傷がコーティング膜内にとどまるようにし、これによってガラス表面に存在するマイクロクラックに応力を加えないようにした方法である。
【0004】
ところで、ガラスは、携帯電話やPDA(Personal Digital Assistant)などの携帯端末装置やデジタルスチルカメラのディスプレイカバーやボディカバーとして用いられているが、近年では、これら装置の薄型化や軽量化のために薄くて強度の高いガラスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−302340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような薄いガラスが求められている状況下では、特許文献1に記載のようなコーティング膜を厚くしてガラスを強化する方法は適していない。
【0007】
したがって、本発明は、薄いコーティング膜でもガラスを強化することのできるガラス強化方法と、その方法によって強化されたガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決手段を例示すると、次のとおりである。
【0009】
(1)板状のガラスを強化するガラス強化方法であって、
表面乾式処理によってガラスの表面を親水化処理する工程と、
一般式:RM(OR’)4−m
(式中、RとR’はアルキル基、Mは金属、mは0、1、2)
で示される金属アルコキシ化合物を含むガラス強化用溶液をガラスに含浸または接触させる工程とを有することを特徴とするガラス強化方法。
【0010】
(2)前記ガラス強化用溶液は、前記金属アルコキシ化合物を有機溶媒に溶解したものであって、かつ、金属水酸化物が生成されるものであることを特徴とする前述のガラス強化方法。
【0011】
(3)板状のガラスを強化するガラス強化方法であって、
表面乾式処理によってガラスの表面を親水化処理する工程と、
一般式:RM(OR’)4−m−n(OH)
(式中、RとR’はアルキル基、Mは金属、mとnは整数、n≧2)
で示される金属水酸化物を含むガラス強化用溶液をガラスに含浸または接触させる工程とを有することを特徴とするガラス強化方法。
【0012】
(4)前記金属水酸化物は単分子であることを特徴とする前述のガラス強化方法。
【0013】
(5)前記金属MはSiであることを特徴とする前述のガラス強化方法。
【0014】
(6)前記表面乾式処理はエキシマランプによる紫外光照射であることを特徴とする前述のガラス強化方法。
【0015】
(7)前記表面乾式処理は大気圧プラズマによるプラズマ処理であることを特徴とする前述のガラス強化方法。
【0016】
(8)Kイオンと、前記ガラス表面のNaイオンとを交換する工程をさらに有することを特徴とする前述のガラス強化方法。
【0017】
(9)板状のガラスの表面にコーティング膜を設けたガラスであって、
ガラスの表面が、表面乾式処理によって親水化処理されてから、ガラスの表面に存在するマイクロクラック内にガラス強化膜成分が入り込んで、マイクロクラックが減らされていることを特徴とするガラス。
【0018】
(10)前記表面乾式処理はエキシマランプによる紫外光照射であることを特徴とする前述のガラス。
【0019】
(11)前記表面乾式処理は大気圧プラズマによるプラズマ処理であることを特徴とする前述のガラス。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、薄いコーティング膜でも板状のガラスを強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は、鋼球落下試験の状況を上から見た図、(b)は横から見た図である。
【図2】本発明方法の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、板状のガラスを強化するガラス強化方法を改良したものであり、本発明の1つの実施形態は、表面乾式処理によってガラスの表面を親水化処理する工程と、一般式:RM(OR’)4−m(式中、RとR’はアルキル基、Mは金属、mは0、1、2)で示される金属アルコキシ化合物を含むガラス強化用溶液をガラスに含浸または接触させる工程とを有する手法であり、本発明の他の実施形態は、表面乾式処理によってガラスの表面を親水化処理する工程と、一般式:RM(OR’)4−m−n(OH)(式中、RとR’はアルキル基、Mは金属、mとnは整数、n≧2)で示される金属水酸化物を含むガラス強化用溶液をガラスに含浸または接触させる工程とを有する手法である。
【0023】
本発明の方法によれば、表面乾式処理によってガラスの表面が親水化されるので、ガラスの表面に存在するマイクロクラック内にガラス強化膜成分としてガラス強化用溶液が入り込みやすくなり、大幅にマイクロクラックの数を減らすことができる。よって、コーティング膜が薄くてもガラスを効果的に強化することができる。
【0024】
以下、(1)ガラス板の表面乾式処理、(2)ガラス強化用溶液調整、(3)ガラスへの金属水酸化物の含浸または接触、(4)乾燥、と順を追って本発明における実施形態について詳細に説明する。
【0025】
(1)ガラス板の表面乾式処理
ガラス板を用意し、そのガラス板の両面を表面乾式処理によって親水化させる。
【0026】
表面乾式処理としては、エキシマランプ、低圧水銀ランプ、重水素ランプなどを用いた紫外光照射や、大気圧プラズマを用いたプラズマ処理などがあげられる。
【0027】
例えば、波長172nmのエキシマランプを用いる際は、ガラス板の表面と裏面とをそれぞれ20秒〜1分程度照射すると良い。172nmよりも長い波長を用いる際は、より長時間照射を行うと良い。
【0028】
上記のような紫外光照射やプラズマ処理を行うと、ガラス板の存在する雰囲気中にある酸素が活性酸素(オゾンや原子状の酸素など)となり、この活性酸素がガラス表面上に存在する汚染物を酸化分解して除去したり、ガラス表面に水酸基を付与したりする。もともとガラス表面には水酸基が存在するが、この作業によってより多くの水酸基をガラス表面に出現させ、親水性を高めることができる。よって、ガラス表面に存在するマイクロクラック内へガラス強化用溶液が入り込みやすくなる。
【0029】
(2)ガラス強化用溶液調製
ガラス強化用溶液の調製は、まず、RM(OR’)4−m(式中のRとR’はアルキル基、Mは金属、mは0、1、2)で示される金属アルコキシ化合物を有機溶媒に溶解し、その後、水と反応させる。この水との反応は、水酸基が2以上(n≧2)となるように水を加えて進行させても良いし、有機溶媒中に含まれる水と反応させることによって進行させても良い。この反応によって金属アルコキシ化合物は加水分解し、RM(OR’)4−m−n(OH)で示される金属水酸化物となる。水酸基OHが多いほど硬い膜が形成され、水酸基OHが少ないほどフレキシブルな膜が形成されるが、随時状況にあわせて水酸基の数を決定すると良い。ただし、膜としてある程度の強度を得るために、水酸基は2つ以上存在させた方が良い。そして、この金属水酸化物は、脱水反応がおきないようにして、単分子の状態を保つと、ガラス表面に存在するマイクロクラック内に入り込みやすくなり、好ましい。
【0030】
金属Mとしては、Si,Ti,Zr,Al等があげられるが、特にSiが好適に用いられる。これは、ガラスの屈折率に近い膜を形成させるためである。ガラスの屈折率と異なる膜を形成させるためにはSi以外の金属を用いると良い。
【0031】
アルキル基RやR’としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基など、さまざまなものを採用することができる。
【0032】
そして、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールのような一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールのような多価アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルのようなエーテル類、酢酸、プロピオン酸のような脂肪酸などを挙げることができるが、これらの中で一価アルコール、多価アルコール及びエーテル類が好適である。
【0033】
このガラス強化用溶液調製の工程は、あらかじめRM(OR’)4−m−n(OH)の状態となっている物質(例えばSi(OH)など)を使用する場合は省略することができる。
【0034】
(3)ガラスへの金属水酸化物の含浸または接触
ガラス強化用溶液に含まれる金属水酸化物をガラス(特にガラス表面に存在するマイクロクラック内)に含浸または接触させる方法としては、浸漬法、スプレー法、スピンナー法、はけ塗り法などが挙げられるが、浸漬法が特に好適に用いられる。
【0035】
浸漬法を用いる場合は、ガラス強化用溶液にガラスを1〜10分程度浸すことによってガラスへの金属水酸化物の含浸を行う。含浸作業を優位に進めるために、加圧しながら含浸を行ったり、超音波をかけて含浸を行ったりしても良い。
【0036】
この作業によって、ガラス表面に存在する水酸基と金属水酸化物の水酸基とが脱水反応を起こしてガラス表面に膜を形成することとなる。
【0037】
(4)乾燥
ガラス(特にマイクロクラック内)への金属水酸化物の含浸または接触が終わったら、適宜ガラスを乾燥させると良い。乾燥後、ガラス表面には数Åから数十nmの薄い膜(コーティング膜)が形成されている。
【0038】
以上(1)〜(4)の工程によって、ガラス表面のマイクロクラック内にもガラス強化用溶液成分を含浸させることができ、それによってマイクロクラックを減らすことができる。よって薄いコーティング膜でもガラスを効果的に強化することができる。
【0039】
次に実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0040】
ガラス板を準備し、そのガラス板の裏面および表面をそれぞれエキシマランプによる波長172nmの光で30秒間ずつ照射して親水化処理を行う。そのあと、Si(OCHをメタノール溶媒に溶解させて、濃度1重量%のガラス強化用溶液を調製する。そして、このガラス強化用溶液に、親水化処理されたガラス板を5分間浸漬させ、その後、引き上げて乾燥させる。
【0041】
このように処理したガラスの強度を、鋼球落下試験により確認した。
【0042】
鋼球落下試験について説明する。
【0043】
図1の(a)は、鋼球落下試験の状況を上から見た図、(b)は横から見た図である。
【0044】
図1に示すように、鋼板1を準備し、その鋼板1の上に縦100mm×横50mm×高さ60mmの寸法を有する2個のブロック2を所定の間隔で配置して固定する。それらのブロック2の上に、厚さ2mmのクロロプレンゴム3で横端面を挟んだ、縦53.45mm×横112mm×厚さ0.5mmのガラス4を置き、さらにそのガラス4の上に縦80mm×横11mm×厚さ5mmの木材5を置き、ねじ6を用いてガラス4を固定する。
【0045】
そのように固定されたガラス4の中心に、重量約43.4gの鋼球7を様々な高度から落下させ、ガラス4が割れる高度を測ることでそのガラス4の強度を測定した。
【0046】
鋼球落下試験の結果を表1に示す。○はガラスが割れなかったことを示し、×はガラスが割れたことを示す。
【0047】
強化前のガラス試験片は、落下高度30cmでも割れてしまったが、強化後のガラス試験片は、落下強度60cmでも割れなかった。
【0048】
よって、本発明のガラス強化方法を用いて強化したガラスは、強化前のガラスと比較して2倍以上の高さからの落下衝撃に耐えうる強度を持っていることが確認できた。
【表1】

【実施例2】
【0049】
実施例1では、ガラス強化用溶液を調整したが、実施例2においては、この調整の工程を省略し、Si(OH)のような既に金属水酸化物の状態となっているものをガラス強化用溶液として用いる。実施例2においても、ガラス強化用溶液調製以外の工程は実施例1と同様なので、ここでは説明を省略する。
【実施例3】
【0050】
実施例3においては、ガラス板の表面乾式処理を行う工程の前に、既に知られているガラス強化方法を行う。ガラス強化方法としては、イオン交換処理が知られているが、公知の技術によって、Kイオンとガラス表面に存在するNaイオンとを交換し、その後、本願発明のガラス強化方法を施すと、より一層強度の高いガラスを得ることができる。
【0051】
図2に示すように、本発明においては、ガラス板の表面乾式処理を行ってから、ガラス強化用溶液をそのガラス板に含浸または接触させることによって、ガラスの表面に存在するマイクロクラック内にガラス強化膜成分(ガラス強化用溶液)が入り込みやすいようにしている。その結果、マクロクラックが減り、それによってガラス板が強化されるのである。
【符号の説明】
【0052】
1 鋼板
2 ブロック
3 クロロプレンゴム
4 ガラス
5 木材
6 ねじ
7 鋼球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のガラスを強化するガラス強化方法であって、
表面乾式処理によってガラスの表面を親水化処理する工程と、
一般式:RM(OR’)4−m
(式中、RとR’はアルキル基、Mは金属、mは0、1、2)
で示される金属アルコキシ化合物を含むガラス強化用溶液をガラスに含浸または接触させる工程とを有することを特徴とするガラス強化方法。
【請求項2】
前記ガラス強化用溶液は、前記金属アルコキシ化合物を有機溶媒に溶解したものであって、かつ、金属水酸化物が生成されるものであることを特徴とする請求項1記載のガラス強化方法。
【請求項3】
板状のガラスを強化するガラス強化方法であって、
表面乾式処理によってガラスの表面を親水化処理する工程と、
一般式:RM(OR’)4−m−n(OH)
(式中、RとR’はアルキル基、Mは金属、mとnは整数、n≧2)
で示される金属水酸化物を含むガラス強化用溶液をガラスに含浸または接触させる工程とを有することを特徴とするガラス強化方法。
【請求項4】
前記金属水酸化物は単分子であることを特徴とする請求項2または3に記載のガラス強化方法。
【請求項5】
前記金属MはSiであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガラス強化方法。
【請求項6】
前記表面乾式処理はエキシマランプによる紫外光照射であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のガラス強化方法。
【請求項7】
前記表面乾式処理は大気圧プラズマによるプラズマ処理であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のガラス強化方法。
【請求項8】
Kイオンと、前記ガラス表面のNaイオンとを交換する工程をさらに有することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のガラス強化方法。
【請求項9】
板状のガラスの表面にコーティング膜を設けたガラスであって、
ガラスの表面が表面乾式処理によって親水化処理されてから、ガラスの表面に存在するマイクロクラック内にガラス強化膜成分が入り込んで、マイクロクラックが減らされていることを特徴とするガラス。
【請求項10】
前記表面乾式処理はエキシマランプによる紫外光照射であることを特徴とする請求項9に記載のガラス。
【請求項11】
前記表面乾式処理は大気圧プラズマによるプラズマ処理であることを特徴とする請求項9に記載のガラス。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−76935(P2012−76935A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220906(P2010−220906)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】