説明

ガラス板の曲げ成形難易度判定方法

【課題】
曲げ成形しようとするガラス板の、試作段階での成形不可になることを防ぐと共に、設計段階で成形可能なガラス板の設計形状とするための、成形難易度の判定手段を提供する。
【解決手段】
本発明の板ガラスの曲げ成形難易度判定方法は、ガラス板状体の曲げ成形の難易度をコンピュータを用いて判定する方法であって、湾曲形状入力ステップと、要素分割ステップと、有限要素法によって主ひずみを算定する算定ステップと、算定された主ひずみの合計ステップと、主ひずみの最大値を選定するステップと、合計値、最大値を難易度分類表と対比して、ガラス板の成形の難易度を分類分けする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
車両の窓、特に自動車等の窓に用いられる曲げ成形されるガラス板の成形に関し、特に、曲げ成形されるガラス板の形状の、コンピュータを用いたシミュレーション技術による設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車体設計において、窓ガラスの形状の設計も、車体の設計と同時に行われる。ほとんどの窓ガラスの形状は湾曲形状であり、このようなガラス形状は、自重曲げやプレス曲げ、あるいは自重曲げとプレス曲げの両方の方法を用いて、曲げ成形される。
窓ガラスの湾曲した形状の設計に対応して、設計された形状の窓ガラスが、容易であるか困難かが問われ、従来、さまざまな形状の窓ガラスを製造した経験から、容易かどうかを判断してきた。
【0003】
製造が非常に困難と判定した場合は、設計段階で設計を変更することが可能である。しかし、設計段階で容易と判断したにもかかわらず、試作段階で設計通りの形状が得られないと、部分的な設計変更を行わざるを得なくなり、車体の設計にも大きく影響するなどの問題が生じる。
【0004】
設計段階では、例えば、特許文献1などに開示されているように、CADデータを用いて、製造条件などを決定されるが、製造が容易かどうかは判断されず、試作段階で大きな問題の生じる恐れがある。
【特許文献1】特開2004−145674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
曲げ成形しようとするガラス板の、試作段階での成形不可になることを防ぐと共に、設計段階で成形可能なガラス板の設計形状とするための、成形難易度の判定手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガラス板の曲げ成形難易度判定方法は、ガラス板状体の曲げ成形の難易度をコンピュータを用いて判定する方法であって、
(a)曲げで成形しようとする湾曲形状のデータを入力する、湾曲形状入力ステップと、
(b)ガラス板に発生する主ひずみを数値解析するために、ガラス板を要素に分割する、要素分割ステップと、
(c)湾曲形状入力ステップで入力されたデータを用いて、湾曲形状に成形されたガラス板状体に発生する主ひずみを、数値解析によって、(b)のステップで分割したガラス板の各要素毎に算定する、主ひずみ算定ステップと、
(d)ガラス板の各要素の主ひずみを合計する合計ステップと
(e)ガラス板の各要素の主ひずみの最大値を選定する最大値選定ステップと
(f)合計ステップ(d)と最大値選定ステップ(e)とで得られた値を、難易度分類表と対比して、ガラス板の成形の難易度を分類分けする、分類分けステップと、
を有することを特徴とするガラス板の曲げ成形難易度判定方法である。
【0007】
また、本発明のガラス板の曲げ成形難易度判定方法は、前記ガラス板の曲げ成形難易度判定方法において、主ひずみの合計が、ガラス板全体の要素および周辺部の要素について行われることを特徴とする曲げ成形難易度判定方法である。
【0008】
また、本発明のガラス板の曲げ成形難易度判定方法は、前記ガラス板の曲げ成形難易度判定方法において、主ひずみ算定ステップと分類分けステップとの間に、主ひずみをガラス板の厚みあるいはガラス板の厚みの自乗で除算するステップを有することを特徴とするガラス板の曲げ成形難易度判定方法である。
【発明の効果】
【0009】
設計形状に起因する成形の難易度が、定量的に判定でき、成形困難となる形状 を設計の段階で回避することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の曲げ成形難易度判定方法は、図1あるいは図2の各ステップを、例えば、図3に示す構成の計算機によって実施される。
【0011】
計算機は、演算装置102と記憶装置103とで構成される計算機本体101、計算機本体101にデータを入力するための入力装置104、入力データや計算結果などを表示するための表示装置105で構成され、パーソナルコンピュータで実施することができる。
【0012】
形状データ入力ステップ10では、曲げ成形されるガラス板の設計形状、ガラス板の厚みを入力する。
【0013】
要素分割ステップ20は、数値解析を行うために、ガラス板を要素に分割する。要素の個数は、ガラス板の大きさにもよるが、1千〜1万個程度とすることが好ましい。
【0014】
ガラス板の設計形状(湾曲した形状)を平面形状にしたときに生じる主ひずみを、主ひずみ算定ステップ30で、数値解析し、分割された各要素に生じる主ひずみを、各要素毎に算定する。数値解析には、有限要素法、有限差分法などを用いることが好ましい。
【0015】
合計ステップ40では、ステップ30で算定された主ひずみを合計するもので、合計する範囲の、成形の難易度を判定するのに用いる。合計する範囲は、ガラス全体の成形の難易度を判定するための、ガラス板全体の要素について合計することが望ましく、さらに、ガラス板の周辺部の成形の難易度を判定するため、ガラス板の辺部に算定された主ひずみを辺毎に合計することが望ましい。
【0016】
ガラス全体の主ひずみの合計値からは、ガラス板全体の成形の難易度が判定され、辺部の主ひずみの合計値からは、辺部の成形の難易度の判定がなされる。
【0017】
ガラス板の形状は、ほとんどが、略四角形か略三角形なので、略四角形の場合は、4辺の辺毎に合計を行い、略三角形の場合は、三辺について、辺毎に合計する。
【0018】
最大値選定ステップ50は、ガラス板の辺部に算定された主ひずみの最大値を、辺毎に算定する。最大値からは、ガラス板の局所的な成形の難易度を判定される。
【0019】
合計ステップ40と最大値選定ステップ60とは、実行の順序が逆でもよい。
【0020】
分類分けステップ60では、ステップ40で得られる合計値やステップ50で得られる最大値にもと基づいて、設計された形状のガラス板の、成形の難易度を分類分けする。
【0021】
分類分けは、表1に示すような対比表を作成しておき、ステップ40で得られる合計値やステップ50で得られる最大値を、該対比表の値と対比して、表の左の欄のどの難易度に相当するかを決定し、分類分けをするのが好ましい。
【0022】
【表1】

【0023】
分類は、成形不可、難、やや難および容易の4分類程度が好ましいが、成形不可、難および容易の3分類でもかまわない。
【0024】
成形不可は、設計形状のガラス板に曲げ成形することがほとんど不可能なものである。難は、設計形状のガラス板に曲げ成形することがかなり困難で、例えば、試作途中で設計変更を予定する必要のあるものである。やや難および容易は、試作段階で試行錯誤の努力によって目的の設計形状が得られるもので、試行錯誤を多く要するものがやや難、あまり要しないものが容易である。
【0025】
表1の中で、分類分けに用いられる値a1、b1およびc1はガラス全体の主ひずみの合計値、a2、b2およびc2は辺の主ひずみの合計値、a3、b3およびc3は辺に生じる主ひずみの最大値であり、これらの値は、代表的な形状を仮定して、計算して求めた主ひずみと実際の曲げ成形の難易度とを比較して決めることができる。
【0026】
あるいは、試作あるいは生産で曲げ成形したガラス板の難易度の実績と、それらの設計形状に対して図1に示すステップで主ひずみを求め、表1を作成することができる。
【0027】
成形難易度の判定は、図2に示すフローチャートに従っても、判定することができる。
【0028】
図2のフローチャートは、図1に示す判定が主ひずみを用いて行うのに対して、主ひずみをガラス板の厚みあるいは厚みの自乗で除算した値を用いて判定するものである。図2のステップ50までのフローは、図1のステップ50までのフローとまったく同じである。
【0029】
図1の判定では、数値解析で得られる主ひずみが、厚みに依存しない傾向があるので、厚みによる成形の難易度の差異が出にい。
【0030】
このため、座屈の考え方を加味して、厚いものの方が成形しやすいということを加味するため、主ひずみを厚みあるいは厚みの自乗で除した値を用いて判定することが望ましい。
【0031】
さらに、曲げ変形や座屈の考え方から、厚みの考慮は、厚みの自乗を用いることが好ましい。
【0032】
図2の除算ステップ70は、ガラス板の各要素に生じる主ひずみをガラス板の厚みで除算するステップである。ガラス板の厚みで主ひずみを除算することより、湾曲形状に形成することの難易度を、ガラス板の厚いものの方が、同じ主ひずみでも成形が容易となるように判断される。
【0033】
除算ステップ70は、主ひずみ算定ステップ30の次に実行してもよいが、計算回数をすくなくするために、分類分けステップ60の直前に実行することが好ましい。
【0034】
図2の分類分けステップ80は、、対比する値が全てガラス板の厚みの自乗で除算されている点が、図1の分類分けステップ60と異なる点で、対比する表は表2のようになり、主ひずみを厚みの自乗で除算した値を用いて、分類分けを行う。その他については、分類分けステップ80は図1の分類分けステップ60と同じである。
【0035】
なお、表2の分類分けに用いられる値a1´、b1´およびc1´はガラス全体の主ひずみの合計値を厚みの自乗で除算した値、a2´、b2´およびc2´は辺の主ひずみの合計値を厚みの自乗で除算した値、a3´、b3´およびc3´は辺に生じる主ひずみの最大値厚みの自乗で除算した値であり、これらの値は、代表的な形状を仮定して、計算して求めた主ひずみを厚みの自乗で除算した値と実際の曲げ成形の難易度とを比較して決めることができる。
【0036】
あるいは、試作あるいは生産で曲げ成形したガラス板の難易度の実績と、それらの設計形状に対して図2に示すステップで、主ひずみを厚みの自乗で除算した値を求め、表2を作成することができる。
【0037】
成形難易度の判定は、図2に示すフローチャートに従っても、判定することができる。
【0038】
【表2】

【実施例1】
【0039】
4車種のフロントガラスについて、図2のフローに従って、主ひずみを厚みの自乗で除算した値について評価した。評価の結果を表3に示す。表3の値は、図2のフローチャートで求めた値を1000倍した値である
表の3により車種A、Cは、成形不可として、曲げ形状の変更を行った。
【0040】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による曲げ成形難易度判定方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明による曲げ成形難易度判定方法の図1とは異なる手順を示すフローチャートである。
【図3】図1および図2に示すフローチャートを実施するための装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
101 計算機本体
102 演算装置
103 記憶装置
104 入力装置
105 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板状体の曲げ成形の難易度をコンピュータを用いて判定する方法であって、
(a)曲げ成形しようとする湾曲形状のデータを入力する、湾曲形状入力ステップと、
(b)ガラス板に発生する主ひずみを数値解析するために、ガラス板を要素に分割する、要素分割ステップと、
(c)湾曲形状入力ステップで入力されたデータを用いて、湾曲形状に成形されたガラス板状体に発生する主ひずみを、数値解析によって、(b)のステップで分割したガラス板の各要素毎に算定する、主ひずみ算定ステップと、
(d)ガラス板の各要素の主ひずみを合計する合計ステップと
(e)ガラス板の各要素の主ひずみの最大値を選定する最大値選定ステップと
(f)合計ステップ(d)と最大値選定ステップ(e)とで得られた値を、難易度分類表と対比して、ガラス板の成形の難易度を分類分けする、分類分けステップと、
を有することを特徴とする板ガラスの曲げ成形難易度判定方法。
【請求項2】
主ひずみの合計が、ガラス板全体の要素および周辺部の要素について行われることを特徴とする請求項1に記載の曲げ成形難易度判定方法。
【請求項3】
主ひずみ算定ステップと分類分けステップとの間に、主ひずみをガラス板の厚みあるいはガラス板の厚みの自乗で除算するステップを有することを特徴とする請求項1に記載の板ガラスの曲げ成形難易度判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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