説明

ガラス板製造方法、及びガラス板製造装置

【課題】製造後に予定されているガラス板の加熱を伴うデバイス製造関連処理によって発生し得る熱収縮量のバラツキを少なくし、フラットパネルディスプレイや太陽電池パネル等の電子デバイスに好適に適用可能なガラス板を製造する技術を確立する。
【解決手段】溶融ガラスから成形されたガラスリボンが導入される温度制御可能な連続徐冷炉を使用し、ガラスリボンが連続徐冷炉を通過中に徐冷されてガラス板を形成するガラス板製造方法であって、連続徐冷炉を通過するガラスリボンの温度を計測する計測工程と、ガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量を、当該処理前後の仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係に基づいて、ガラスリボンの徐冷中に計測した当該ガラスリボンの温度分布から継続的に演算し予測する演算工程と、を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロート法によるガラス板製造方法、及びガラス板製造装置に関し、特に、溶融ガラスから成形されたガラスリボンを連続的に徐冷してガラス板を形成するガラス板製造方法、及びガラス板製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板の成形方法として、フロートバスと称される製造ラインを使用して行うフロート法が広く知られている。フロート法によって製造されたガラス板は、例えば、フラットパネルディスプレイ(液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ等)や太陽電池パネル等の電子デバイスに使用することができる。
【0003】
フロート法によって製造されたガラス板を、例えば、フラットパネルディスプレイに加工する場合、ガラス板の表面に電極や隔壁等を形成し、その上に別のガラス板を積層して両者を貼り合わせる。このとき、両ガラス板に対して所定の加熱処理が施される。この加熱処理は、加熱を伴うデバイス製造関連処理の一つである。フロート法により製造したガラス板に対して加熱処理を行うと、「熱収縮」と呼ばれる微小な寸法変化が発生する。熱収縮の発生メカニズムは、次のように説明される。
【0004】
ガラス板は、一般に無秩序な原子配列構造を有する非晶質体から構成され、温度固有の原子配列構造をとる性質がある。このため、製造直後のガラス板は、ガラスリボンを徐冷する工程において経験する熱履歴に応じた温度固有の原子配列構造を有している。このことから、凍結したガラスリボンの原子配列構造は概念上の温度で表すことができ、この概念上の温度は「仮想温度」と呼ばれる。
【0005】
ここで、製造後のガラス板に対して、別工程として上述したような加熱処理を行うと、当該ガラス板中の原子配列構造は、徐冷工程で経験した熱履歴による原子配列構造から加熱処理温度に固有の原子配列構造、すなわち、その加熱処理温度においてより安定する原子配列構造へと変化しようとする。この変化は「ガラスの構造緩和」と呼ばれ、体積収縮を伴って発生する。なお、ガラス板が有する原子配列構造によっては、加熱処理によりガラス板に体積膨張が発生する場合も有り得るが、フラットパネルディスプレイの製造時におけるガラス板の寸法変化は通常は収縮方向への変化である。
【0006】
このような熱収縮に起因する寸法変化が、二枚のガラス板を貼り合わせたフラットパネルディスプレイにおいて発生すると、各ガラス板の表面に形成された電極や隔壁等に位置ずれが発生する場合がある。また、フラットパネルディスプレイ自身に反りが発生することもある。近年、フラットパネルディスプレイの高精細化に伴い、加熱処理によって発生する熱収縮量の大きさやバラツキ幅が重要視されており、特に、熱収縮量のバラツキが少ないガラス板が要求されている。
【0007】
熱収縮自体を抑制するための簡単な方法の一つは、ガラス板として加熱処理温度よりも高い歪点を有するガラスを使用することである。溶融ガラスは冷却されるにつれ指数関数的に粘度を増し、いずれはその構造が凍結する。歪点とは、一般にガラス構造が凍結したとみなされる温度であり、徐冷工程におけるスケジュールを決定するための目安の一つである。高い歪点を有するガラスとして、代表的には石英ガラスが挙げられる。石英ガラスなどでは、ガラス板製造後の加熱処理温度におけるガラス粘度が高く、ガラスの原子配列構造が変化するためにより長い時間が必要となる。このため、結果として加熱処理工程における熱収縮が小さくなる。ところが、石英ガラスのような高歪点ガラスは、一般にコストが高価であり、フラットパネルディスプレイ用ガラスとして工業的に大量に使用することは困難である。
【0008】
一方、熱収縮量のバラツキを抑制する方法として、貼り合わせる二枚のガラス板の熱収縮量を所定範囲に抑えることにより、両ガラス板の熱収縮量の相対的な差を相殺し、実質的な悪影響を排除する方法が知られている。二枚のガラス板の熱収縮量が所定範囲に収まれば、フラットパネルディスプレイにおける電極等の位置ずれや反りが実質的に無くなるため、製品の歩留まりが向上する。また、製造にかかる時間やエネルギーコストも節約することができる。
【0009】
熱収縮量のバラツキを抑制するためには、加熱処理によって発生するガラス板の熱収縮量を事前に知っておく必要がある。そこで、ガラス板の熱収縮量を測定する方法として、ガラス板から切り出したサンプルの熱収縮量を直接的に測定する方法があった(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、ガラス板の両端にダイヤモンドペンを用いて平行な基準線をケガキ、次いで、ガラス板を半分に切断して測定用サンプルとする。一方のサンプルには熱処理をし、他方のサンプルには熱処理をしない。二つのサンプルを突き合わせ、ケガキ線のずれを計測することにより、ガラス板の熱収縮量を求める。熱収縮量は、図5に示すように、熱処理前のガラス板にケガいた2本の基準線の離間幅長(ΔL)に対するガラス板の収縮量の合計(ΔL+ΔL)の割合として単位(ppm)で表される。
【0010】
また、ガラス板における熱収縮の発生そのものはある程度許容することとし、熱収縮量を制御しようとする技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、連続徐冷炉を通過するガラスリボンを所定温度よりも低温に維持することにより、ガラスリボンが経験する熱履歴を調整し、最終的にガラス板の熱収縮量の制御を試みている。特許文献1には、熱収縮量制御のため連続徐冷炉の雰囲気温度を制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−24775号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】山根正之、他6名編、「ガラス工学ハンドブック」、初版、朝倉書店、1999年7月5日、p.384
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記の従来技術には幾つかの問題が存在する。非特許文献1に記載されている方法は、最終的に製品となったガラス板、又は当該ガラス板から作製した試験サンプルを使用して測定を行うものである。このため、測定対象であるガラス板の熱収縮量は、一定の測定時間が経過した後に初めて判明することになる。そうすると、例えば、熱収縮量を実測する時間間隔が長い場合には、測定結果が判明するまではガラス板の熱収縮量が規定範囲を外れることになり、その結果、測定期間中は規格外のガラス板を製造し続けることになってしまう。このため、非特許文献1の方法では、製品の歩留まりが悪化するという問題がある。特に、品種の異なるガラス板の製造開始時や、ガラス板の熱収縮特性を変更する場合においては、ガラスの熱収縮特性を考慮して連続徐冷炉内の雰囲気温度を変更することになるが、目的とする熱収縮量が達成されたかどうかは、製造されたガラス板の熱収縮量を非特許文献1の方法によって測定し、結果が判明するまで知ることができない。このため、徐冷工程における温度条件変更後等において、大量の製品ロスが発生する場合がある。
【0014】
特許文献1に記載されている方法は、連続徐冷炉内に設置された温度測定点付近の雰囲気温度を制御している。ところが、温度測定点から離れた場所の雰囲気温度までを完全に制御することは困難である。また、連続徐冷炉に搬入される直前のガラスリボンは、外気温や気流などの影響によりその温度が変動し易い。ガラスリボンの温度が変動すると、連続徐冷炉内においてガラスリボンが経験する熱履歴が変わることになる。そうすると、特許文献1の方法では、ガラスリボンから製造されるガラス板の熱収縮量を所定範囲内に保ち続けることは困難であると言わざるを得ない。
【0015】
このように、現状においては、製造後のガラス板に発生し得る熱収縮を確実に制御し得る技術は未だ開発されていない。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、フロート法により成形したガラスリボンを徐冷して得られるガラス板を製造するにあたり、製造後に予定されているガラス板の加熱を伴うデバイス製造関連処理によって発生し得る熱収縮量のバラツキを少なくし、フラットパネルディスプレイや太陽電池パネル等の電子デバイスに好適に適用可能なガラス板を製造する技術を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明に係るガラス板製造方法の特徴構成は、
溶融ガラスから成形されたガラスリボンが導入される温度制御可能な連続徐冷炉を使用し、前記ガラスリボンが前記連続徐冷炉を通過中に徐冷されてガラス板を形成するガラス板製造方法であって、
前記連続徐冷炉を通過する前記ガラスリボンの温度を計測する計測工程と、
前記ガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量を、当該処理前後の仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係に基づいて、前記ガラスリボンの徐冷中に計測した当該ガラスリボンの温度分布から継続的に演算し予測する演算工程と、
を実行することにある。
【0017】
上記課題で述べたように、従来技術においては、徐冷工程中のガラスリボンに発生し得る熱収縮を確実に制御することは非常に困難であった。このため、ガラス板の製造後に加熱を伴うデバイス製造関連処理(例えば、加熱処理)を施すと、熱収縮量のバラツキが発生し、フラットパネルディスプレイや太陽電池パネル等の電子デバイス用ガラスとして好適に利用可能な高品質なガラス板を得ることは困難であった。
そこで、本発明者らは、ガラス板の仮想温度の変化量と熱収縮量とが略比例関係を示すことに着目し、鋭意研究を行った結果、製造後のガラス板に施される加熱を伴うデバイス製造関連処理の前後において、ガラス板の仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係を利用することが熱収縮を予測する上で大変有効であることを見出した。
上記知見から、本構成のガラス板製造方法では、ガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量を、当該処理前後の仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係に基づいて、ガラスリボンの徐冷中に計測した当該ガラスリボンの温度分布から継続的に演算し予測する。特に、継続的な演算を行うことは本発明に独特の特徴であり、正確な予測を行う上で大変有効である。このような工程を実行することにより、製造後のガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を施した場合に発生し得る熱収縮量のバラツキを確実に所定範囲に収めることができる。その結果、2枚のガラス板を貼り合わせる場合において、両者間に位置ずれや反りは実質的に発生しない。よって、本発明の方法によって製造したガラス板は、フラットパネルディスプレイや太陽電池パネル等の電子デバイスに好適に利用することができる。
【0018】
本発明に係るガラス板製造方法において、
前記演算工程において予測された熱収縮量の予測値が規定範囲に入るように、前記計測工程で計測された前記ガラスリボンの温度に基づいて、前記連続徐冷炉の内部温度を制御する制御工程を実行することが好ましい。
【0019】
本構成のガラス板製造方法によれば、製造後のガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量が規定範囲を外れると予測されると、連続徐冷炉の内部温度を制御することにより熱収縮量が規定範囲に入るように戻される。従って、熱収縮量のバラツキを確実に所定範囲に収めることができ、その結果、高品質な電子デバイス用ガラスを効率よく製造することができる。
【0020】
本発明に係るガラス板製造方法において、
前記加熱を伴うデバイス製造関連処理前後の仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係は、以下の熱収縮量を表す式(1)、仮想温度の時間変動を表す式(2)、及び緩和時間を表す式(3):
【数1】

に基づいて求められることが好ましい。
【0021】
本構成のガラス板製造方法によれば、加熱を伴うデバイス製造関連処理前後の仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係を、上記の式(1)〜(3)に基づいて求めることにより、熱収縮量のバラツキを確実に所定範囲に収めることができる。これにより、高品質な電子デバイス用ガラスを効率よく製造することができる。なお、式(2)の微分方程式は、適切な手法で離散化すればよい。
【0022】
本発明に係るガラス板製造方法において、
前記演算工程において、前記式(2)を離散化した際に導入されるタイムステップを緩和時間τの1/10〜1/1000に設定することが好ましい。
【0023】
本構成のガラス板製造方法によれば、演算工程において、式(2)を離散化した際に導入されるタイムステップを緩和時間τの1/10〜1/1000に設定することが有効である。この範囲であれば、原料ガラスの組成、製造条件、製造スケール等が変化しても、ガラスリボンが徐冷工程において経験する熱履歴による仮想温度の変化を正確に把握することができる。その結果、製造後のガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮の予測精度を向上させることができる。
【0024】
本発明に係るガラス板製造方法において、
前記制御工程において、前記ガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量が設計値±20ppmの規定範囲に収まるように、前記連続徐冷炉の内部温度を制御することが好ましい。
【0025】
本構成のガラス板製造方法によれば、熱収縮量を設計値±20ppmの規定範囲に収めることにより、フラットパネルディスプレイや太陽電池パネル等の電子デバイスにより好適なガラス板を効率よく製造することができる。
【0026】
本発明に係るガラス板製造方法において、
前記計測工程において、少なくとも前記ガラスリボンの流軸上における複数の箇所であって、前記連続徐冷炉の入口から少なくとも前記ガラスリボンの徐冷点−50℃を示す地点までの箇所における温度を計測することが好ましい。
【0027】
本構成のガラス板製造方法によれば、ガラスリボンの原子配列構造が大きく緩和すると考えられる温度領域を考慮、包括し、予測計算の計算領域とした状態で、製造後のガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量を予測する。従って、より高品質な電子デバイス用ガラスを効率よく製造することができる。
【0028】
本発明に係るガラス板製造方法において、
前記連続徐冷炉は、少なくとも、前記計測工程において温度計測を実行する地点を含む領域に亘って温度制御可能に構成されていることが好ましい。
【0029】
本構成のガラス板製造方法によれば、熱収縮量の予測値が規定範囲から逸脱した場合には、連続徐冷炉の温度制御を実行することにより規定範囲に入るよう戻すことができる。従って、熱収縮量のバラツキを確実に所定範囲に収めることができ、結果として、高品質な電子デバイス用ガラスを効率よく製造することができる。
【0030】
上記課題を解決するための本発明に係るガラス板製造装置の特徴構成は、
溶融ガラスから成形されたガラスリボンが導入される温度制御可能な連続徐冷炉を備え、前記ガラスリボンが前記連続徐冷炉を通過中に徐冷されてガラス板を形成するガラス板製造装置であって、
前記連続徐冷炉を通過する前記ガラスリボンの温度を計測する計測手段と、
前記ガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量を、当該処理前後の仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係に基づいて、前記ガラスリボンの徐冷中に計測した当該ガラスリボンの温度分布から継続的に演算し予測する演算手段と、
を備えたことにある。
【0031】
本構成のガラス板製造装置によれば、上述したガラス板製造方法と実質的に同じ作用効果を奏することができる。すなわち、本構成のガラス板製造装置では、ガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量を、当該処理前後の仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係に基づいて、ガラスリボンの徐冷中に計測した当該ガラスリボンの温度分布から継続的に演算し予測する。特に、継続的な演算を行うことは本発明に独特の特徴であり、正確な予測を行う上で大変有効である。演算手段がこのような処理を実行することにより、製造後のガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を施した場合に発生し得る熱収縮量のバラツキを確実に所定範囲に収めることができる。その結果、2枚のガラス板を貼り合わせる場合において、両者間に位置ずれや反りは実質的に発生しない。よって、本発明の装置によって製造したガラス板は、フラットパネルディスプレイや太陽電池パネル等の電子デバイスに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明のガラス板製造方法を実施するために使用するガラス板製造装置の概略図である。
【図2】図2は、本発明のガラス板製造方法を説明するフローチャートである。
【図3】図3は、熱処理温度及び熱収縮量の測定値を元に繰り返し調整した結果得られた両者の関係を近似したグラフである。
【図4】図4は、熱量調整の一例を示すグラフである。
【図5】図5は、従来技術によるガラス板の熱収縮量測定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明のガラス板製造方法、及びガラス板製造装置に関する実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図せず、それらと均等な構成も含む。
【0034】
〔ガラス板製造装置〕
図1は、本発明のガラス板製造方法を実施するために使用するガラス板製造装置100の概略図である。本発明のガラス板製造装置100は、フロート法によって種々のガラス板を製造する設備の一部として構成される。ガラス板製造装置100は、内部の温度を制御可能な連続徐冷炉10を備えている。図1では、内部構造の説明のため、連続徐冷炉10は点線で示してある。連続徐冷炉10には、溶融ガラスから成形されたガラスリボンAが導入される導入口11と、ガラスリボンAが徐冷されて形成したガラス板A´が搬出される搬出口12とが設けられている。連続徐冷炉10の内部には、ガラスリボンAを搬送するためのローラ13が複数個所に配設されている。また、連続徐冷炉10の内部全域に亘って、温度制御用のヒータ14が複数設置されている。なお、本明細書では、説明の便宜上、ガラスリボンAとガラス板A´とを分けているが、両者を合わせて一般に「ガラス板」とする場合もあり、本願をそのように取り扱うことも勿論可能である。
【0035】
ここで、ガラス板製造装置100は、主要な構成要素として、ガラスリボンAの温度を計測する複数の熱電対20と、各種の計算を行うためのコンピュータ30とを備えている。さらに、コンピュータ30による計算結果を表示するモニター40と、当該計算結果に基づき必要に応じて警報を発報する警報機50とを備えている。
【0036】
熱電対20は、本発明における計測手段である。熱電対20は、ガラスリボンAの流軸(中心軸)上の温度と、当該流軸を挟む左右直線上の温度とを計測するように、ガラスリボンAの搬送方向に沿った3ラインの複数箇所に配置されている。このとき、熱電対20をガラスリボンAの表面から50mm以内に配置することが好ましい。これにより、ガラスリボンAが連続徐冷炉10を通過中に、ガラスリボンAの各部の温度を正確に計測することができる。熱電対20の設置数は特に限定されず、ガラスリボンAの幅方向に6ライン程度まで増設してもよい。1つのライン上には、熱電対20を連続徐冷炉10の全長の1/10毎の間隔に設けることが好ましく、より好ましくは1/30毎の間隔に設ける。これにより、ガラスリボンAの温度分布をより高精度に計測することが可能となる。また、熱電対20は、少なくともガラスリボンAの流軸上における複数の箇所であって、連続徐冷炉10の導入口11から少なくともガラスリボンAの徐冷点−50℃を示す地点までの箇所における温度を計測するように配置される。この配置であれば、ガラスリボンAの原子配列構造が大きく緩和すると考えられる領域を最低限の計算領域として包括することができる。なお、ガラスリボンAの温度計測にあたり、熱電対20による直接計測が困難な場合は、ガラスリボンAに近い箇所の雰囲気温度を測定し、これを代用しても構わない。また、熱電対20の代わりに放射温度計を使用し、ガラスリボンAの温度を計測しても構わない。
【0037】
コンピュータ30は、演算手段としての演算ユニット31と、演算結果に基づいて制御命令を生成する制御手段としての制御ユニット32とを備えている。演算ユニット31、及び制御ユニット32は、例えば、プログラムが組み込まれたコンピュータ30のハードウェアとして実現可能である。演算ユニット31は、後述する「ガラス板製造方法」において実行する演算処理を行うことにより、ガラスリボンAを徐冷して形成したガラス板A´に対して加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量を予測する。本実施形態において、「加熱を伴うデバイス製造関連処理」とは、二枚に積層したガラス板に電極や隔壁等の構造物を形成するために実行する加熱処理である。制御ユニット32は、演算ユニット31が予測したガラス板A´における熱収縮の予測値が規定範囲に入るように、熱電対20で計測されたガラスリボンAの温度に基づいて、連続徐冷炉10の内部温度を制御する。これは、連続徐冷炉10の内部に複数設けたヒータ14の出力制御を行うことにより実行される。連続徐冷炉10の内部温度の制御は、少なくとも、熱電対20が温度計測を行う地点を含む領域に亘って実行される。
【0038】
〔ガラス板製造方法〕
図2は、本発明のガラス板製造方法(以下、「本製造方法」と称する)を説明するフローチャートである。本製造方法は、ステップ0〜ステップ15により実行される。フローチャートでは、各工程におけるステップを記号「S」として示してある。本製造方法は、計測工程及び演算工程を含み、さらに制御工程を含む。以下、各工程について詳しく説明する。
【0039】
<計測工程>
本製造方法を開始すると(S0)、熱電対20により連続徐冷炉10を通過中のガラスリボンAの温度(ガラス温度)の収集が行われる(S1)。ここで、オペレータは、コンピュータ30にガラス温度の計測時間を設定しておく。計測時間に達している場合(S2;YES)、熱収縮に関する演算を開始する。計測時間にまだ達していない場合(S2;NO)は、ガラスリボンAの状況を表示し(S14)、ガラス温度の収集(S1)を継続する。
【0040】
<演算工程>
演算工程では、ガラスリボンAを徐冷して形成したガラス板A´に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量を、後述する式(1)、式(2)、及び式(3)を用いて予測する(S3)。この予測は、図2の左上部に別に示した予測サブルーチン(S21〜S23)により実行される。予測サブルーチンでは、先ず、現在のガラス板A´の仮想温度を、式(2)、及び式(3)を用いて予測する(S21)。次に、あらかじめ入力された製造後のガラス板A´に予定されている加熱を伴うデバイス製造関連処理条件から、加熱を伴うデバイス製造関連処理後の仮想温度を、式(2)、及び式(3)を用いて求める(S22)。最後に、ステップ21とステップ22との仮想温度差から、加熱を伴うデバイス製造関連処理後のガラス板A´に発生し得る熱収縮量を、式(1)を用いて予測する。この予測は、加熱を伴うデバイス製造関連処理前後のガラス板A´における仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係に基づいて、ガラスリボンAの徐冷中に計測した当該ガラスリボンAの温度分布から行われる。これらの予測サブルーチンは、継続的に実行される。
【0041】
予測サブルーチンにおける具体的な演算の内容を以下に説明する。加熱を伴うデバイス製造関連処理前後の仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係は、以下の熱収縮量を表す式(1)、仮想温度の時間変動を表す式(2)、及び緩和時間を表す式(3)に基づいて求められる。
【0042】
【数2】

【0043】
ここで、基準温度Trefは計算上の基準となる温度であり、任意の温度を設定する。緩和時間τは、ガラスの構造緩和が発生する過程において、変化中の原子配列構造の状態が変化前の原子配列構造の状態に対して1/e(e:自然対数の底)となる時間である。分配率xは、現在の仮想温度Tとガラス温度Tが緩和時間に対して与える影響を按分する割合である。x=0の場合、仮想温度Tの影響だけが演算に反映され、x=1の場合、ガラス温度Tの影響だけが演算に反映されることになる。
【0044】
式(1)及び(3)におけるk、k、及びxはガラス固有の定数である。例えば、加熱温度と加熱時間とを任意に組み合わせた予備試験を実施し、このときの熱収縮の測定値(実測値)に式(3)が近似するまでk、k、及びxを繰り返し調整することで求められる。なお、式(2)の微分方程式は、適切な手法で離散化すればよい。一例として、差分法による離散化を以下に示す。
【0045】
以下の数式では、時刻tにおける変数に添字(t)を付ける。また、時刻tよりΔtだけ前の時刻t−Δtにおける変数に添字(t−Δt)を付ける。ここで、Δtは、微小な時間刻み(タイムステップ)である。
【0046】
式(2)に時間の添字を付けて表記すると、式(4)となる。
【0047】
【数3】

【0048】
式(4)の左辺の一階微分に差分を適用すると、式(5)となる。
【0049】
【数4】

【0050】
式(5)を式(4)へ代入すると、式(6)となる。
【0051】
【数5】

【0052】
これをT(t)について整理すると、式(2)の離散化式である式(7)を得ることができる。
【0053】
【数6】

【0054】
また、ガラスの原子配列構造が緩和する形態は複数あると仮定し、式(2)の代わりに、以下の式(8)及び(9)を用いることもできる。
【0055】
【数7】

【0056】
式(9)中のτはガラスの原子配列構造が有する複数の緩和形態毎の緩和時間であり、式(8)中のCは各緩和時間の比率である。C及びτはガラス固有の値であり、前述のk、k、及びxと同様に測定値に近似するように繰り返し調整することで求められる。図3に、熱処理温度及び熱収縮量の測定値を元に繰り返し調整した結果得られた両者の関係を近似したグラフを示す。なお、式(9)の微分方程式は、上記と同様の手法で離散化すればよい。
【0057】
また、式(8)及び(9)を用いる場合、式(3)の代わりに、以下の式(10)を用いることができる。
【0058】
【数8】

【0059】
予測サブルーチンの実行後、式(1)〜(3)に基づいて予測した熱収縮量が、規定範囲にあるか否かを判定する(S4)。規定範囲は、例えば、ガラス板A´に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量が設計値±20ppmとなるように設定される。ここで、設計値は、予定の加熱を伴うデバイス製造関連処理により得られる理論上の熱収縮量とする。熱収縮量が規定範囲にあると判定した場合(S4;YES)、ガラスリボンAの状況を表示し(S14)、ガラス温度の収集(S1)を継続する。熱収縮量が規定範囲にないと判定した場合(S4;NO)、予測値のずれの方向(予測値が基準値に満たないのか超えているのか)を判定する(S5)。ここで、予測された熱収縮量が規定範囲より大きい(すなわち、たくさん収縮する)と判定した場合は、ガラスリボンAに付与する熱量を増加させる(S6)。一方、予測された熱収縮量が規定範囲より小さい(すなわち、あまり収縮しない)と判定した場合は、ガラスリボンAに付与する熱量を減少させる(S7)。これらの熱量を調節するステップ6及びステップ7を合わせて制御工程とする。制御工程は、コンピュータ30が自動で実行することができるが、オペレータが手動で実行しても構わない。制御工程の実行中に、例えば、過度の温度上昇や温度低下等の異常が発生すると、コンピュータ30は警報機50から警報を発報し、オペレータに異常であることを報知する。
【0060】
上記制御工程における熱量調整は、例えば、以下の操作により実行することができる。図4は、熱量調整の一例を示すグラフである。グラフ中の実線(a)が通常の操業時におけるガラスリボンAの温度である。ここで、加熱を伴うデバイス製造関連処理後のガラス板A´が規定範囲よりも収縮する方向に変化すると予測される場合、連続徐冷炉10のヒータ14の出力を上げる。そして、実線(a)のプロフィールを維持したまま、破線(b)に示すように高温側にシフトさせる。これにより、加熱を伴うデバイス製造関連処理前後における仮想温度の変化量が小さくなり、加熱を伴うデバイス製造関連処理後のガラス板A´に発生し得る熱収縮量を低減することができる。一方、加熱を伴うデバイス製造関連処理後のガラス板A´が規定範囲よりも収縮しない方向に変化すると予測される場合、連続徐冷炉10のヒータ14の出力を下げる。そして、実線(a)のプロフィールを維持したまま、一点鎖線(c)に示すように低温側にシフトさせる。これにより、加熱を伴うデバイス製造関連処理前後における仮想温度の変化量が大きくなり、加熱を伴うデバイス製造関連処理後のガラス板A´に発生し得る熱収縮量を増加することができる。
【0061】
その他の熱量調整の方法として、図4に示した温度プロフィールにおいて、一部の勾配を変化させても構わない。本発明において、ガラス板の温度は経時的に計測されているため、温度測定区間毎の温度勾配を得ることは容易である。そこで、これを利用して、現在の温度勾配と事前に設定した温度勾配とを比較し、温度勾配が大きく変化している区間に対してヒータ14の出力を調整することにより制御工程を行い得る。例えば、ガラス板A´に対する加熱を伴うデバイス製造関連処理によって予測される熱収縮量よりも収縮する方向へ予測値が外れた場合、該当する区間の温度勾配を小さくする。一方、ガラス板A´に対する加熱を伴うデバイス製造関連処理によって予測される熱収縮量よりも収縮しない方向へ予測値が外れた場合、該当する区間の温度勾配を大きくする。
【0062】
上記制御工程を実施した後、再びステップ3と同様の予測を再試行する(S8)。ステップ8におけるサブルーチンは、上述した予測サブルーチン(S21〜S23)と同様である。再試行による予測の結果、ステップ4と同様に規定範囲にあるか否かを判定する(S9)。規定範囲にあると判定した場合(S9;YES)、連続徐冷炉10の内部温度であるレアー温度の設定(S13)を行った後、ガラスリボンAの状況を表示し(S14)、ガラス温度の収集(S1)を継続する。規定範囲にないと判定した場合(S9;NO)、設定した試行回数が残っているか否かを判定する(S10)。試行回数が残っている場合(S10;あり)、ステップ5に戻り、熱収縮量の大きさを予測する。試行回数が残っていない場合(S10;なし)、コンピュータ30がオペレータに判断を要求する(S11)。オペレータがコンピュータ30を操作してガラス温度の指示をした場合(S12;あり)、レアー温度設定(S13)を行った後、ガラスリボンAの状況を表示し(S14)、ガラス温度の収集(S1)を継続する。オペレータがコンピュータ30を操作しない場合(S12;なし)、本製造方法を終了する(S15)。
【0063】
ところで、上記演算工程では、式(1)〜(3)に基づいて予測サブルーチンが実行されることを説明したが、実際の演算では、離散化された式(2)をコンピュータ30が繰り返し演算している。このときの式(2)の演算精度は、式(2)を離散化した際に導入した時間刻み(タイムステップ)に依存する。タイムステップが粗すぎると、式(2)で計算される仮想温度Tの計算精度が悪化する。その結果、式(1)での熱収縮量の予測精度も悪化する。従って、熱収縮量を正確に予測するためには、演算工程を適切なタイムステップで継続的に実行する必要がある。本発明においては、演算のタイムステップを緩和時間τの1/10〜1/1000に設定することが有効である。好ましくは、演算のタイムステップを緩和時間τの1/100〜1/1000に設定する。演算のタイムステップを、少なくとも緩和時間τの1/10〜1/1000に設定すれば、原料ガラスの組成、製造条件、製造スケール等が変化しても、ガラスリボンAが徐冷工程において経験する熱履歴による仮想温度の変化を正確に把握することができる。その結果、製造後のガラス板A´に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮の予測精度を向上させることができる。演算のタイムステップを緩和時間τの1/10より大きくすると、ガラスの原子配列構造の緩和現象を十分に解像できずに計算誤差が増加し、予測結果の信頼性が低下する。一方、緩和時間τの1/1000より小さくしても演算精度は殆ど向上しないが、演算量が増加するため、予測に時間が掛かることになる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例として、ガラス板製造装置100に相当する装置を実際に使用し、ガラス板に発生し得る熱収縮量を予測した。初めに、演算のタイムステップによる予測精度の確認を行った。緩和時間τを基準にタイムステップを変更し、ガラスリボンAの仮想温度を求めた。緩和時間τを10秒、熱処理温度を650℃(一定)、仮想温度の初期値を680℃に設定した条件下で、3通りのタイムステップ:1秒(緩和時間τの1/10)、0.1秒(緩和時間τの1/100)、0.01秒(緩和時間τの1/1000)について夫々演算を行った。その結果、10秒経過後のガラスリボンAにおける仮想温度は、タイムステップ1秒では661.6℃、タイムステップ0.1秒では661.1℃、タイムステップ0.01秒では661.0℃となった。これら3条件における仮想温度の値は略一致していることから、上記条件下での演算結果の信頼性は高いと考えられる。
【0065】
比較のため、上記と同条件で、タイムステップを10秒(緩和時間τの1/1)、及び0.001秒(緩和時間τの1/10000)について夫々演算を行った。その結果、10秒経過後のガラスリボンAにおける仮想温度は、タイムステップ10秒では665.0℃となった。これは、緩和時間τの1/10〜1/1000の演算で求められた仮想温度(661.0℃〜661.6℃)から大きく乖離していた。一方、タイムステップ0.001秒では661.0℃となり、緩和時間τの1/10〜1/1000の演算結果と殆ど変わらなかったが、タイムステップの短縮により、演算負荷が増大した。
【0066】
次に、以下の実施例1及び実施例2を実施した。これらの実施例では、連続徐冷炉の内部において搬送されるガラスリボンの幅方向に5ラインを設定し、各ラインについて搬送方向に連続徐冷炉の全長の1/12毎の間隔で放射温度計を設けた。そして、ガラスリボンの温度を経時的に計測した。
【0067】
<実施例1>
上述の式(1)〜(3)に基づいて、製造後に予定されている加熱を伴うデバイス製造関連処理によりガラス板に発生し得る熱収縮量を予測した。ここで、熱収縮量の許容範囲を−440±10ppmに設定した。実施例1の実施期間(計測時間)中におけるガラス板の熱収縮量の予測値、及び製造後に実測したガラス板の熱収縮量を表1に示す。なお、表1に示した値は、前述のガラスリボンの幅方向に設置した5ラインのうち、中央のラインにおける結果である。
【0068】
【表1】

【0069】
熱収縮量の予測値が許容範囲から逸脱した場合には、オペレータが連続徐冷炉の内部雰囲気温度を調整し、ガラスリボンの温度を修正する予定であったが、表1に示すように、実施例1の実施期間中において予測値は安定していたため、結果的に温度調整は不要であった。
【0070】
<実施例2>
本発明のようにガラス板を連続的に製造する装置では、一般にガラス板の厚さをガラスリボンの搬送速度によって制御する。ガラス板の厚さを変更する場合、搬送速度の変化に伴い、ガラスリボンが経験する熱履歴も変化する。このため、連続徐冷炉内の温度分布を同時に変更し、ガラス板に発生し得る熱収縮量を規定範囲内に収める操作が行われる。実施例2は、ガラス板の厚さ変更時に本発明を適用した例である。
【0071】
初めに、式(1)〜(3)に基づいて、搬送速度変更後の熱収縮量が規定値となる連続徐冷炉の温度分布を決定した。これには、連続徐冷炉内の温度分布を複数パターン仮定し、夫々の仮定の温度分布を式(1)〜(3)に適宜代入し、繰り返し計算を行うことにより、熱収縮量が規定値に近くなる温度分布を少なくとも1パターン選定した。
【0072】
次に、決定した温度分布が連続徐冷炉内において実現可能か否かを判断した。これは、連続徐冷炉の内部に複数設置される加熱設備の能力、及び冷却設備の能力を勘案して判断した。そして、実現可能な温度分布のパターンを設定した。
【0073】
本発明の製造方法に基づき、ガラス板の製造中において、製造後のガラス板に発生し得る熱収縮量を連続的に演算予測し、予測値が変動した場合には連続徐冷炉の内部温度制御を実施した。ここで、熱収縮量の規定範囲を−435±10ppmに設定した。実施例2の実施期間(計測時間)中におけるガラス板の熱収縮量の予測値、及び製造後に実測したガラス板の熱収縮量、並びにガラス板の厚さ変更前における熱収縮量の実測値を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例2においても、実施期間中において予測値は安定していたため、結果的に温度調整は不要であった。
【0076】
<考察>
実施例1及び実施例2の結果より、ガラス板の製造に本発明を適用すれば、本来なら製造後に実施される加熱を伴うデバイス製造関連処理の後に初めて判明するガラス板の熱収縮量をガラス板の製造中に把握することができる。また、ガラス板の熱収縮量が許容範囲を逸脱しそうな場合には、温度制御を実施することにより、許容範囲に収めることができる。よって、製品のロスが少なくなり、歩留まりが向上する。また、製造にかかる時間やエネルギーコストも節約することができる。さらに、ガラス板の品種変更時においても、変更後のガラス板の熱収縮量を新たな許容範囲内に迅速に収めることができるので、ガラス板の生産効率が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のガラス板製造方法、及びガラス板製造装置は、例えば、フラットパネルディスプレイ(液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ等)や太陽電池パネル等の電子デバイスに用いられるガラス板を製造するために利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 連続徐冷炉
11 導入口
12 搬出口
13 ローラ
14 ヒータ
20 熱電対(計測手段)
30 コンピュータ
31 演算ユニット(演算手段)
32 制御ユニット(制御手段)
40 モニター
50 警報機
100 ガラス板製造装置
A ガラスリボン
A´ ガラス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスから成形されたガラスリボンが導入される温度制御可能な連続徐冷炉を使用し、前記ガラスリボンが前記連続徐冷炉を通過中に徐冷されてガラス板を形成するガラス板製造方法であって、
前記連続徐冷炉を通過する前記ガラスリボンの温度を計測する計測工程と、
前記ガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量を、当該処理前後の仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係に基づいて、前記ガラスリボンの徐冷中に計測した当該ガラスリボンの温度分布から継続的に演算し予測する演算工程と、
を実行するガラス板製造方法。
【請求項2】
前記演算工程において予測された熱収縮量の予測値が規定範囲に入るように、前記計測工程で計測された前記ガラスリボンの温度に基づいて、前記連続徐冷炉の内部温度を制御する制御工程を実行する請求項1に記載のガラス板製造方法。
【請求項3】
前記加熱を伴うデバイス製造関連処理前後の仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係は、以下の熱収縮量を表す式(1)、仮想温度の時間変動を表す式(2)、及び緩和時間を表す式(3):
【数1】

に基づいて求められる請求項1又は2に記載のガラス板製造方法。
【請求項4】
前記演算工程において、前記式(2)を離散化した際に導入されるタイムステップを緩和時間τの1/10〜1/1000に設定する請求項3に記載のガラス板製造方法。
【請求項5】
前記制御工程において、前記ガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量が設計値±20ppmの規定範囲に収まるように、前記連続徐冷炉の内部温度を制御する請求項2〜4の何れか一項に記載のガラス板製造方法。
【請求項6】
前記計測工程において、少なくとも前記ガラスリボンの流軸上における複数の箇所であって、前記連続徐冷炉の入口から少なくとも前記ガラスリボンの徐冷点−50℃を示す地点までの箇所における温度を計測する請求項1〜5の何れか一項に記載のガラス板製造方法。
【請求項7】
前記連続徐冷炉は、少なくとも、前記計測工程において温度計測を実行する地点を含む領域に亘って温度制御可能に構成されている請求項6に記載のガラス板製造方法。
【請求項8】
溶融ガラスから成形されたガラスリボンが導入される温度制御可能な連続徐冷炉を備え、前記ガラスリボンが前記連続徐冷炉を通過中に徐冷されてガラス板を形成するガラス板製造装置であって、
前記連続徐冷炉を通過する前記ガラスリボンの温度を計測する計測手段と、
前記ガラス板に加熱を伴うデバイス製造関連処理を行う場合に発生し得る熱収縮量を、当該処理前後の仮想温度の変化量と熱収縮量との相関関係に基づいて、前記ガラスリボンの徐冷中に計測した当該ガラスリボンの温度分布から継続的に演算し予測する演算手段と、
を備えたガラス板製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−76974(P2012−76974A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226167(P2010−226167)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】