説明

ガラス母材の焼結装置および焼結方法

【課題】ガラス母材への不純物の付着をしにくくすることで光ファイバの伝送損失を抑制することができるガラス母材の焼結装置および焼結方法を提供する。
【解決手段】焼結装置10は、ガラス微粒子堆積体14の上部に、内径D0の炉心管11の仮想断面積S0の50%以上90%以下の大きさの整流板20を配置している。また、整流板20の外周縁27と炉心管11の内壁28との間の隙間を下方から上方へ流れる不活性ガスGの平均流速Vを55mm/秒以上になるように、炉心管11下部のガス供給部17から所定量の不活性ガスGを導入して、炉心管11上部のガス排出部18から不要なガスを排出している。また、整流板20下面とガラス微粒子堆積体14の上端部との距離Hを400mm以下にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス微粒子堆積体を加熱炉内で加熱焼結させるガラス母材の焼結装置および焼結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス母材を製造する焼結装置としては、例えば、特許文献1に記載されているようなものが知られている。図3に示すように、焼結炉である焼結装置100は、上蓋102を有する炉心管104と、炉心管104の周囲に配置された加熱ヒータ106とを備えている。
【0003】
焼結装置100は、支持棒108にガラス微粒子を堆積させた多孔質ガラス母材110を炉心管104内に挿入して、多孔質ガラス母材110を回転させながら降下させて、加熱ヒータ106により焼結させる。焼結装置100は、炉心管104の下端にHeガス等を供給する不活性ガス導入管112を備え、炉心管104の上方に排気管114を備えている。
【0004】
また、別の特許文献2には、多孔質ガラス母材の上方及び下方に熱遮蔽具を配置し、輻射熱の逃散を制御して炉心管の温度ムラや自然対流を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−212559号公報
【特許文献2】特開2000−219519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記焼結装置100は、炉心管104上部の上蓋102と支持棒108との隙間から外気を巻き込み、多孔質ガラス母材110の上部が不純物で汚染されることがある。多孔質ガラス母材110が不純物で汚染されると、多孔質ガラス母材110から製造される光ファイバの伝送損失が悪化することになる。
【0007】
なお、特許文献2に記載の焼結装置では、多孔質ガラス母材の上方に上部熱遮蔽具を設置しているが、この熱遮蔽具は遮熱を目的とするものであり、特に外気の巻き込みを考慮したものではない。
【0008】
本発明の目的は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、ガラス母材への不純物の付着をしにくくすることで光ファイバの伝送損失を抑制することができるガラス母材の焼結装置および焼結方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することができる本発明に係るガラス母材の焼結装置は、炉心管の下部から不活性ガスを導入するガス供給部と、前記炉心管の上部から不要なガスを排出するガス排出部と、ヒートゾーンを形成するヒータと、を備え、前記炉心管内に配置したガラス微粒子堆積体を、ヒートゾーンの熱により加熱焼結させるガラス母材の焼結装置であって、前記ガラス微粒子堆積体の上部に前記炉心管の断面積の50%以上90%以下の大きさの整流板を配置して該整流板と前記炉心管の内壁との間を流れる前記不活性ガスの平均流速を55mm/秒以上とし、且つ前記整流板下面と前記ガラス微粒子堆積体の上端部との距離を400mm以下としたことを特徴としている。
【0010】
このように構成されたガラス母材の焼結装置によれば、炉心管の断面積の50%以上90%以下の大きさの整流板をガラス微粒子堆積体の上部に配置して、炉心管との隙間に流れる不活性ガスの平均流速を55mm/秒以上とすることで、整流板と不活性ガスにより炉心管の上部から浸入した外気が整流板の下に回り込むのを遮断し、外気中に混入している不純物のガラス微粒子堆積体への付着をしにくくすることができる。また、整流板下面とガラス微粒子堆積体の上端部との距離を400mm以下にすることで、整流板の下方の空間で不活性ガスの乱流が発生するのを防止し、下方から上方への不活性ガスの層流の流れを保つことができる。
【0011】
上記課題を解決することができる本発明に係るガラス母材の焼結方法は、炉心管内に配置したガラス微粒子堆積体を、ヒートゾーンからの熱により加熱焼結させるガラス母材の焼結方法であって、前記炉心管の下部から不活性ガスを導入して前記炉心管の上部から不要なガスを排出するとともに、前記炉心管の断面積の50%以上90%以下の大きさの整流板を前記ガラス微粒子堆積体の上部に配置し、前記炉心管の内壁と前記整流板との間を流れる前記不活性ガスの平均流速を55mm/秒以上にして、前記ガラス微粒子堆積体を加熱焼結させることを特徴としている。
【0012】
このように構成されたガラス母材の焼結方法によれば、ガラス微粒子堆積体の上部に配置した整流板と炉心管下部から上部に流す不活性ガスにより炉心管の上部から浸入した外気を遮断して、整流板の下方に外気が回り込むのを阻止するので、外気中に混入している不純物のガラス微粒子堆積体への付着をしにくくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るガラス母材の焼結装置および焼結方法によれば、ガラス微粒子堆積体の上部に配置した整流板の大きさを炉心管の断面積の50%以上90%以下とするとともに、整流板と炉心管の内壁との間を流れる不活性ガスの平均流速を55mm/秒以上とすることで、外気中に混入している不純物のガラス母材への付着をしにくくすることができる。また、整流板下面とガラス微粒子堆積体の上端部との距離を400mm以下にすることで、整流板の下方の空間で不活性ガスの乱流が発生するのを防止し、不活性ガスの層流の流れを保つことができる。これにより、前記ガラス母材から光ファイバを製造した場合、伝送損失の良好な光ファイバを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るガラス母材を製造する焼結装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】炉心管内の不活性ガスの平均流速と光ファイバの伝送損失不良率との関係を示すグラフである。
【図3】従来のガラス母材の焼結装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るガラス母材の焼結装置および焼結方法の一実施形態について、図1に基づいて説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態のガラス母材を製造する焼結装置10は、上部を蓋部12により閉塞され、出発種棒15にガラス微粒子を堆積させたガラス微粒子堆積体14を収容する炉心管11と、炉心管11の外周側にガラス微粒子堆積体14を加熱焼結させる熱源であるヒータ13とを備えている。焼結装置10は、ヒータ13により炉心管11内の所定位置にヒートゾーンを形成し、ヒートゾーン内に配置したガラス微粒子堆積体14を加熱焼結させる。
【0017】
炉心管11は、下部にHeガス等の不活性ガスを供給するガス供給部17と、上部に不要なガスを排出するガス排出部18とを備えている。ガラス微粒子堆積体14は、出発種棒15を介して連結部材16によって炉心管11内に吊り下げられている。
【0018】
焼結装置10は、ガラス微粒子堆積体14の上部近傍に、該ガラス微粒子堆積体14の長手方向に沿って位置調整可能な大型の整流板20を備えている。整流板20は、例えば出発種棒15に付けられた段部に固定されるようにしても良いし、別の固定治具などを用いて固定するようにしても良い。
【0019】
本実施形態の整流板20は、外径D1の円形であり、石英、不透明石英またはセラミックスからなる。整流板20の平面積S1は、内径D0の炉心管11の仮想断面積S0の50%〜90%の範囲内に設定されている。なお、仮想断面積とは、炉心管11の内径D0から算出される炉心管11内の空間断面積を意味する。
【0020】
さらに、整流板20の平面積S1は、ガラス微粒子堆積体14の外径D2から算出できるガラス微粒子堆積体14の断面積S2の90%以上に設定するのが好ましい。このような条件を満たすように、整流板20の外径D1を決定する。
【0021】
なお、整流板20が炉心管11の仮想断面積S0の90%以上になると、不活性ガスGが整流板20の下部で滞留してしまい、炉心管11の上部から排気できなくなる。また、整流板20が炉心管11の仮想断面積S0の50%以下となると、不活性ガスGの流速を上げることができず、外気F0を整流板20の下方へ巻き込んでしまい整流効果が得られない。
【0022】
加えて、本実施形態の整流板20は、整流板20の外周縁27と炉心管11の内壁28との隙間を流れる不活性ガスGの平均流速Vが55mm/秒以上に設定されている。具体的には、上記隙間の断面積の値と不活性ガスGの流量から、平均流速が55mm/秒以上になるように、不活性ガス流量を調整する。整流板20近傍の炉心管11に、速度センサを取り付け、不活性ガスGの流速Vをモニターしながら、ガス供給部17からの不活性ガスGの供給量を調整することとしても良い。なお、不活性ガスGの平均流速Vが55mm/秒未満になると、整流板20の隙間を流れる不活性ガスGが、うまく層流として上方に流れなくなり、外気F0の流れが、整流板20の下部に回り込むのを遮ることができなくなる。また、不活性ガスGの平均流速Vが250mm/秒を超えると、流量が多くなり過ぎるため、整流板20などが振動する、などの不具合が生じる。
【0023】
さらに好ましくは、整流板20の下面とガラス微粒子堆積体14の上端部との距離Hを、400mm以下に設定する。これにより、整流板20の下方で不活性ガスGの乱流が発生するのを防止することができる。整流板20とガラス微粒子堆積体14との距離Hが400mmより大きくなると、整流板20の下方の空間に不活性ガスGが回り込むように流れ込んでしまうため、上記同様に整流板20の隙間を流れる不活性ガスGが、うまく層流として上方に流れにくくなり、外気F0の流れが、整流板20の下部に回り込むのを遮ることができなくなる。なお、上記ガラス微粒子堆積体14の上端部とは、ススが付着している最上部の位置とし、具体的には、出発種棒15の径からの増大が目視で確認できる位置とする。
【0024】
上述したように本実施形態の焼結装置10は、ガラス微粒子堆積体14の上部に炉心管11の仮想断面積S0の50%以上90%以下の大きさの整流板20を配置して、この整流板20の外周縁27と炉心管11の内壁28との間の隙間を下方から上方へ流れる不活性ガスGの平均流速Vを55mm/秒以上とし、且つ整流板20下面とガラス微粒子堆積体14の上端部との距離を400mm以下とした。これにより、焼結装置10は、炉心管11上部の蓋部12から浸入した外気F0が整流板の下に回り込むのを遮断し、外気F0中に混入している不純物F1を整流板20下方のガラス微粒子堆積体14に付着しにくくできる。また、整流板20の下面とガラス微粒子堆積体14の上端部との距離を400mm以下にすることで、整流板20の下方の空間で不活性ガスGの乱流が発生するのを防止し、下方から上方への不活性ガスGの層流の流れを保つことができる。
【0025】
次に、整流板20のガラス微粒子堆積体14への取り付け手順を説明する。
【0026】
(整流板の取り付け)
整流板20は、出発種棒15を挿通し、例えば出発種棒15に設けられた段部などで上下方向の位置を固定する。
【0027】
(ガラス微粒子堆積体の取り付け)
整流板20を取り付けたガラス微粒子堆積体14は、炉心管11内の上部に配置された連結部材16に連結することで、炉心管11内の所定位置に吊り下げられる。
【0028】
次に、ガラス微粒子堆積体の焼結工程について説明する。
(ガラス微粒子堆積体の焼結工程)
ヒータ13により炉心管11内を約1600℃に加熱することで、ガラス微粒子堆積体14を焼結して透明化する。このとき、ガラス微粒子堆積体14の上端部近傍に、内径D0の炉心管11の仮想断面積S0の50%〜90%の範囲の平面積S1を有する整流板20を配置しているので、ヒータ13及び透明化されたガラス微粒子堆積体14などから出発種棒15へ伝わる熱を遮熱しながら、ガラス微粒子堆積体14を焼結する。
【0029】
また、整流板20の外周縁27と炉心管11の内壁28との間の隙間を流れる不活性ガスGの平均流速Vを55mm/秒以上になるように、炉心管11下部のガス供給部17から所定量の不活性ガスGを導入して、炉心管11上部のガス排出部18から不要なガスを排出している。また、整流板20下面とガラス微粒子堆積体14上端との距離Hが400mm以下に調整されている。
【0030】
焼結装置10は、上記平面積S1の整流板20と平均流速Vの不活性ガスGによって、炉心管11の上部から浸入した外気F0を遮断して、整流板20の下方への外気F0の浸入を阻止する。これにより、焼結装置10は、外気F0中に混入している不純物F1のガラス微粒子堆積体14への付着を抑制することができる。したがって、このガラス微粒子堆積体14から光ファイバを製造した場合、伝送損失の良好な光ファイバを得ることができる。
【0031】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0032】
例えば、上記実施形態では焼結工程について説明したが、線引工程での線引装置にも適用することができる。また、整流板の取付位置は、出発種棒以外に、連結部材や炉心管や蓋部であっても良い。
【実施例】
【0033】
次に、本発明に係るガラス母材の焼結装置および焼結方法の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
【0034】
炉心管の内径D0:250mm
ガラス微粒子堆積体の外径D2:200mm
焼結温度:1500℃
【0035】
整流板の外径D1を固定(210mm)して、ガス供給流量を変化させる、若しくはガス供給流量を一定にして整流板の外径D1を炉心管内の仮想断面積S0の50%〜90%の範囲内で変化させる、などしてガス平均流量を変更し、各ガス平均流量において各々数本づつのガラス微粒子堆積体の焼結を行った。このガラス微粒子堆積体から光ファイバを製造して、各光ファイバの伝送損失を測定した。測定した伝送損失の内、基準値より高くなったものを不良ファイバとし、その不良ファイバの発生率を各ガス平均流量において算出した結果を図2に示す。
【0036】
図2に示すように、ガス平均流速Vが55mm/秒以上であると、伝送損失の不良率が0%であることが判る。これは、ガス平均流速Vが55mm/秒以上になると、整流板の隙間を流れる不活性ガスが層流として上方に流れるため、整流板の下方への外気の浸入が阻止され、外気中の不純物がガラス微粒子堆積体に殆んど付着していないものと考えられる。
【0037】
これに対して、ガス平均流速Vが54mm/秒になると、伝送損失の不良率が12%に悪化する。また、ガス平均流速Vが45mm/秒前後になると、不良率が70〜80%前後にまで悪化することが判る。これは、ガス平均流速Vが55mm/秒未満であると、整流板の隙間を流れる不活性ガスが層流としてうまく上方に流れず、整流板の下方へ外気が浸入して、外気中に混入している不純物がガラス微粒子堆積体に付着しているためと考えられる。
【符号の説明】
【0038】
10…焼結装置、11…炉心管、13…ヒータ、14…ガラス微粒子堆積体、15…出発種棒、17…ガス供給部、18…ガス排出部、20…整流板、D0…炉心管の内径、D1…整流板の外径、D2…ガラス微粒子堆積体の外径、F0…外気、F1…不純物、G…不活性ガス、H…整流板下面とガラス微粒子堆積体上端との距離、V…不活性ガスの平均流速、S0…炉心管の仮想断面積、S1…整流板の平面積、S2…ガラス微粒子堆積体の断面積


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心管の下部から不活性ガスを導入するガス供給部と、前記炉心管の上部から不要なガスを排出するガス排出部と、ヒートゾーンを形成するヒータと、を備え、
前記炉心管内に配置したガラス微粒子堆積体を、ヒートゾーンの熱により加熱焼結させるガラス母材の焼結装置であって、
前記ガラス微粒子堆積体の上部に前記炉心管の断面積の50%以上90%以下の大きさの整流板を配置して該整流板と前記炉心管の内壁との間を流れる前記不活性ガスの平均流速を55mm/秒以上とし、且つ前記整流板下面と前記ガラス微粒子堆積体の上端部との距離を400mm以下としたことを特徴とするガラス母材の焼結装置。
【請求項2】
炉心管内に配置したガラス微粒子堆積体を、ヒートゾーンからの熱により加熱焼結させるガラス母材の焼結方法であって、
前記炉心管の下部から不活性ガスを導入して前記炉心管の上部から不要なガスを排出するとともに、前記炉心管の断面積の50%以上90%以下の大きさの整流板を前記ガラス微粒子堆積体の上部に配置し、前記炉心管の内壁と前記整流板との間を流れる前記不活性ガスの平均流速を55mm/秒以上にして、前記ガラス微粒子堆積体を加熱焼結させることを特徴とするガラス母材の焼結方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−14468(P2013−14468A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148150(P2011−148150)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】