説明

ガラス溶着方法

【課題】 レーザ光の照射開始位置及び照射終了位置を含む部分に残留応力が生じるのを防止することができるガラス溶着方法を提供する。
【解決手段】 溶着予定領域Rに沿ってガラス層3にレーザ光L2を照射することにより、ガラス部材4とガラス部材5とを溶着するに際し、ガラス層3に形成された結晶化部8を照射開始位置及び照射終了位置とする。このとき、結晶化部8におけるレーザ光の吸収率がガラス層3におけるレーザ光の吸収率よりも低いため、溶着予定領域Rに沿って照射開始位置からレーザ光L2を移動させた際にはガラス層3が徐々に加熱され、一方、溶着予定領域Rに沿って照射終了位置までレーザ光L2を移動させた際にはガラス層3が徐々に冷却されることになる。これにより、レーザ光L2の照射開始位置及び照射終了位置を含む部分に残留応力が生じるのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着してガラス溶着体を製造するガラス溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野における従来のガラス溶着方法として、第1のガラス部材と第2のガラス部材との間に、ガラスフリットを含むガラスフリット層を環状の溶着予定領域に沿って形成した後、その溶着予定領域に沿ってガラスフリット層にレーザ光を照射することにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2006−524419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したようなガラス溶着方法にあっては、環状の溶着予定領域に沿ってレーザ光の照射位置を移動させた際に、レーザ光の照射位置が照射開始位置に近付くと、照射位置におけるガラスフリット層の溶融・膨張によって、照射開始位置において溶着されていた第1のガラス部材と第2のガラス部材とが剥離するおそれがある。そこで、剥離速度よりも速い速度で照射開始位置を越えてレーザ光の照射位置を更に移動させれば、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを再溶着することが可能となる。ところが、このような場合には、照射開始位置や照射終了位置を含む部分に残留応力が生じ、衝撃等を受けた際にその部分が剥離の起点となるおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、レーザ光の照射開始位置及び照射終了位置を含む部分に残留応力が生じるのを防止することができるガラス溶着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係るガラス溶着方法は、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着してガラス溶着体を製造するガラス溶着方法であって、第1のガラス部材と第2のガラス部材との間に、環状の溶着予定領域に沿ってガラス層を形成する工程と、ガラス層の一部に第1のレーザ光を照射することにより、ガラス層に結晶化部を形成する工程と、結晶化部を照射開始位置及び照射終了位置として溶着予定領域に沿ってガラス層に第2のレーザ光を照射することにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着する工程と、を含むことを特徴とする。
【0006】
このガラス溶着方法では、ガラス層に形成された結晶化部を照射開始位置及び照射終了位置として、溶着予定領域に沿ってガラス層に第2のレーザ光を照射することにより、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着する。このとき、結晶化部におけるレーザ光の吸収率がガラス層におけるレーザ光の吸収率よりも低いため、溶着予定領域に沿って照射開始位置から第2のレーザ光を移動させた際にはガラス層が徐々に加熱され、一方、溶着予定領域に沿って照射終了位置まで第2のレーザ光を移動させた際にはガラス層が徐々に冷却されることになる。しかも、結晶化部の線膨張係数がガラス層の線膨張係数よりも低く、照射開始位置において第1のガラス部材と第2のガラス部材とが強固に溶着されるため、第2のレーザ光の照射位置が照射開始位置に近付いても、照射開始位置において溶着されていた第1のガラス部材と第2のガラス部材との剥離が抑制される。従って、このガラス溶着方法によれば、第2のレーザ光の照射開始位置及び照射終了位置を含む部分に残留応力が生じるのを防止することができる。
【0007】
本発明に係るガラス溶着方法においては、第2のレーザ光の吸収率が中心部に向かって漸次的に低下するように結晶化部を形成することが好ましい。この場合、溶着予定領域に沿って照射開始位置から第2のレーザ光を移動させた際には、より一層緩やかにガラス層を加熱することができ、一方、溶着予定領域に沿って照射終了位置まで第2のレーザ光を移動させた際には、より一層緩やかにガラス層を冷却することができる。
【0008】
本発明に係るガラス溶着方法においては、第1のレーザ光をパルス発振させ、第2のレーザ光を連続発振させることが好ましい。この場合、第1のガラス部材や第2のガラス部材を破損させ得る入熱過多の状態となるのを回避しつつ、ガラス層の一部に結晶化部を確実に形成することができ、また、第1のガラス部材と第2のガラス部材とを確実に溶着することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レーザ光の照射開始位置及び照射終了位置を含む部分に残留応力が生じるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明に係るガラス溶着方法の一実施形態によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。図1に示されるように、ガラス溶着体1は、溶着予定領域Rに沿って形成されたガラス層3を介して、ガラス部材(第1のガラス部材)4とガラス部材(第2のガラス部材)5とが溶着されたものである。ガラス部材4,5は、例えば、無アルカリガラスからなる厚さ0.7mmの矩形板状の部材であり、溶着予定領域Rは、ガラス部材4,5の外縁に沿って矩形環状に設定されている。ガラス層3は、例えば、非晶質の低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなり、溶着予定領域Rに沿って矩形環状に形成されている。ガラス層3の1つの曲部には、ガラス層3の一部が結晶化されてなる結晶化部8が形成されている。
【0012】
次に、上述したガラス溶着体1を製造するためのガラス溶着方法について説明する。
【0013】
まず、図2に示されるように、例えば、低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなる粉末状のガラスフリット2をガラス部材4の表面に固着させ、矩形環状の溶着予定領域Rに沿ってガラス層3を形成する。具体的には、ディスペンサやスクリーン印刷等によって溶着予定領域Rに沿ってフリットペースト(ガラスフリット2、有機溶剤及びバインダを混練したもの)をガラス部材4の表面に塗布した後、フリットペーストが塗布されたガラス部材4を乾燥機内で乾燥させて有機溶剤を除去する。そして、ガラス部材4を加熱炉内で加熱し、バインダを除去した後、更に高温で焼成(仮焼成)してガラスフリット2を溶融・再固化させて、ガラス部材4にガラス層3を形成する。
【0014】
なお、図6に示されるように、ガラスフリット2の固着層においては、粉末状のガラスフリット2によって、レーザ光吸収性顔料の吸収特性を上回る光散乱が起こるため、レーザ光の吸収率が低い(可視光では白色に見える)。それに対し、ガラス層3においては、溶融・再固化によって空隙が埋まると共に透明化し、レーザ光吸収性顔料の吸収特性が顕著に現れるため、レーザ光の吸収率が急激に高くなる(可視光では黒色に見える)。
【0015】
続いて、図3に示されるように、ガラス層3を介してガラス部材4上にガラス部材5を配置し、ガラス部材4に対してガラス部材5が押圧されるように、ガラス部材4とガラス部材5とを固定する。これにより、ガラス部材4とガラス部材5との間に、矩形環状の溶着予定領域Rに沿ってガラス層3が形成される。
【0016】
続いて、図4に示されるように、ガラス層3に集光スポットを合わせて、ガラス層3の1つの曲部にレーザ光(第1のレーザ光)L1を照射することにより、ガラス層3の1つの曲部に結晶化部8を形成する。レーザ光L1は、発振波長940nmの半導体レーザからパルス発振させられ、スポット径1.6mm、レーザパワー40W、照射時間300msecの条件でガラス層3の1つの曲部に照射される。これにより、レーザ光の吸収率が高いガラス層3にレーザ光L1が吸収されて、その結果、レーザ光の吸収率が中心部に向かって漸次的に低下する球状の結晶化部8が形成される。
【0017】
なお、図6に示されるように、結晶化部8においては、各結晶質の界面や結晶質と非晶質との界面で、レーザ光吸収性顔料の吸収特性を上回る光散乱が起こるため、レーザ光の吸収率が低くなる(可視光では白色に見える)。そして、この結晶化部8においては、レーザ光の吸収率が中心部に向かって漸次的に低下している(可視光では中心部ほど白みを増しているように見える)。
【0018】
続いて、図5に示されるように、ガラス層3に集光スポットを合わせて、結晶化部8を照射開始位置及び照射終了位置として溶着予定領域Rに沿ってガラス層3にレーザ光(第2のレーザ光)L2を照射することにより、ガラス部材4とガラス部材5とを溶着して、ガラス溶着体1を得る。レーザ光L2は、発振波長940nmの半導体レーザから連続発振させられ、スポット径1.6mm、レーザパワー40W、スキャン速度(溶着予定領域Rに沿ったレーザ光L2の集光スポットの相対移動速度)10mm/secの条件でガラス層3に照射される。これにより、レーザ光の吸収率が高いガラス層3にレーザ光L2が吸収されて、ガラス層3及びその周辺部分(ガラス部材4,5の表面部分)が溶融・再固化することで、ガラス部材4とガラス部材5とが溶着される。
【0019】
以上のガラス溶着方法においては、溶着予定領域Rに沿ってガラス層3にレーザ光L2を照射することにより、ガラス部材4とガラス部材5とを溶着するに際し、ガラス層3に形成された結晶化部8を照射開始位置及び照射終了位置とする。
【0020】
このとき、結晶化部8におけるレーザ光の吸収率がガラス層3におけるレーザ光の吸収率よりも低いため(図6参照)、溶着予定領域Rに沿って照射開始位置からレーザ光L2の集光スポットを移動させた際にはガラス層3が徐々に加熱され、一方、溶着予定領域Rに沿って照射終了位置までレーザ光L2の集光スポットを移動させた際にはガラス層3が徐々に冷却されることになる。ここでは、レーザ光の吸収率が中心部に向かって漸次的に低下するように結晶化部8が形成されているため、溶着予定領域Rに沿って照射開始位置からレーザ光L2の集光スポットを移動させた際におけるガラス層3の加熱をより一層緩やかに行うことができる。溶着予定領域Rに沿って照射終了位置までレーザ光L2の集光スポットを移動させた際におけるガラス層3の冷却も同様である。
【0021】
しかも、結晶化部8の線膨張係数がガラス層3の線膨張係数よりも低く、照射開始位置においてはガラス部材4とガラス部材5とが強固に溶着されている。そのため、ガラス層3が溶融・膨張している位置であるレーザ光L2の照射位置が照射開始位置に近付いても、照射開始位置において溶着されていたガラス部材4とガラス部材5との剥離が抑制される。
【0022】
従って、上述したガラス溶着方法によれば、レーザ光L2の照射開始位置及び照射終了位置を含む部分に残留応力が生じるのを防止することができる。なお、結晶化部8を溶着予定領域Rに沿って連続的に形成すると、結晶化部8が形成される際の収縮が急激であるため、ガラス部材4,5を破損させるおそれがある。
【0023】
更に、結晶化部8を形成するためのレーザ光L1をパルス発振させ、ガラス部材4とガラス部材5とを溶着するためのレーザ光L2を連続発振させるため、ガラス部材4,5を破損させ得る入熱過多の状態となるのを回避しつつ、ガラス層3の一部に結晶化部8を確実に形成することができ、また、ガラス部材4とガラス部材5とを確実に溶着することができる。
【0024】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0025】
例えば、結晶化部8が形成される位置(すなわち、レーザ光L2の照射開始位置及び照射終了位置)は、溶着予定領域Rの曲部に限定されず、溶着予定領域Rの直線部であってもよい。更に、溶着予定領域Rは、矩形環状に限定されず、環状であれば、円形環状等であってもよい。
【0026】
また、ガラス部材4にガラスフリット2を固着させず、ガラス部材4とガラス部材5との間にガラスフリット2を介在させることで、溶着予定領域Rに沿ってガラス層3を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るガラス溶着方法の一実施形態によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。
【図2】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図3】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図4】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図5】図1のガラス溶着体を製造するためのガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図6】ガラスの加熱温度とレーザ光の吸収率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1…ガラス溶着体、3…ガラス層、4…ガラス部材(第1のガラス部材)、5…ガラス部材(第2のガラス部材)、8…結晶化部、R…溶着予定領域、L1…レーザ光(第1のレーザ光)、L2…レーザ光(第2のレーザ光)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着してガラス溶着体を製造するガラス溶着方法であって、
前記第1のガラス部材と前記第2のガラス部材との間に、環状の溶着予定領域に沿ってガラス層を形成する工程と、
前記ガラス層の一部に第1のレーザ光を照射することにより、前記ガラス層に結晶化部を形成する工程と、
前記結晶化部を照射開始位置及び照射終了位置として前記溶着予定領域に沿って前記ガラス層に第2のレーザ光を照射することにより、前記第1のガラス部材と前記第2のガラス部材とを溶着する工程と、を含むことを特徴とするガラス溶着方法。
【請求項2】
前記第2のレーザ光の吸収率が中心部に向かって漸次的に低下するように前記結晶化部を形成することを特徴とする請求項1記載のガラス溶着方法。
【請求項3】
前記第1のレーザ光をパルス発振させ、前記第2のレーザ光を連続発振させることを特徴とする請求項1又は2記載のガラス溶着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−263173(P2009−263173A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115583(P2008−115583)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】