説明

ガラス熔解装置、ガラスの製造方法、及びガラス製品の製造方法

【課題】 地震時の強い揺れに対して脆弱であったガラス熔解装置に耐震性を付与することにより、継続的に安定したガラスの製造を可能にするガラス熔解装置、ガラスの製造方法、ガラス製品の製造方法を提供する。
【解決手段】 保持材3に保持させながら耐火性部材を積み上げて窯1を構築するとともに、剛性に優れた立体構造を有し、地震の際の強い揺れにより大きな外力が加わっても、その立体構造が変形しないように強固に組み立てられた補強構造体2を窯1の周りを取り囲むように配置し、この補強構造体2に、膨張、収縮による窯1の体積変化が許容されるように保持材3を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震性能に優れたガラス熔解装置、そのようなガラス熔解装置を用いたガラスの製造方法、及びガラス製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス熔解装置の一つとして、非特許文献1に記載されているようなタンク窯が知られている。この種のタンク窯は、耐火煉瓦などの耐火性部材を積み上げていくことによって構築され、非特許文献1に記載されているタンク窯は、熔解したガラスを蓄積する槽としてのタンク本体と、その上部に形成されるタンク上部構造とを備えている。そして、タンク本体は、敷瓦と呼ばれるタンク底部や、サイドウォールと呼ばれるタンク側壁などから構成されており、タンク上部構造は、クラウンアーチと呼ばれる天井や、ブレストウォールと呼ばれる上部側壁などから構成されている(非特許文献1の第9・13図参照)。
【0003】
また、このような構造のタンク窯において、タンク本体を構成するサイドウォールは、侵蝕によってしだいに厚みを減じていくので、上部構造の全重量をサイドウォールで長期にわたって支持することができない。
このため、非特許文献1に記載されたタンク窯にあっては、バックステイと呼ばれる支持部材をブレストウォールの外側に対向させて立設し、タイロッドと呼ばれる締め具でバックステイ同士を締め付けるとともに、バックステイにサイドウォールとブレストウォールの間に介在させたタックストーンと呼ばれる耐火性部材を支持させている。このような構造とすることで、上部構造がタンク本体と力学的に無関係となるように構築され、サイドウォールなどのタンク本体を構成する耐火性部材を交換したり、修理したりする場合にも、上部構造を取り除くことなくそのまま宙に保持して作業することが可能となる。
【0004】
なお、非特許文献1に記載されたタンク窯において、サイドウォールの内側には、熔解したガラスが蓄積された状態で静圧がかかるので、サイドウォールの外側をジャックボルトで押して、内側からの静圧と釣合のとれた状態となるように保っている。
【0005】
【非特許文献1】「ガラス工学」、成瀬省著、共立出版株式会社、p.114〜123
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ガラス熔解装置によりガラスを製造するに際しては、装置の運転時と停止時との温度差が極めて大きい。このため、耐火性部材を相互に強固に固定すると、熱による膨張、収縮に対して弱い構造になってしまう。そこで、窯構造に柔軟性をもたせ、膨張、収縮による体積変化に対応可能な構造にすることが望まれるところ、複数の耐火性部材を積み上げて構築される窯構造にあっては、すべての耐火性部材を相互に固定するのではなく、前述したように、タンク本体と上部構造とを力学的に無関係となるようにするとともに、装置を構成する耐火性部材を力学的にバランスさせて自立させている。
【0007】
しかしながら、このような構造は、地震の際の強い揺れに弱く、大規模地震に見舞われると耐火性部材の積み上げ構造が崩壊してしまう。そうすると、ガラス熔解装置が運転不能となり、ガラスの製造を長期にわたって停止せざるを得ない状況に陥ってしまう。現代社会において、ガラス製品は欠くことのできないものであり、その供給が長期にわたって停止してしまうといような状況は回避しなければならない。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、従来、地震時の強い揺れに対して脆弱であったガラス熔解装置に耐震性を付与することにより、継続的に安定したガラスの製造を可能にするガラス熔解装置、ガラスの製造方法、ガラス製品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明に係るガラス熔解装置は、耐火性部材を積み上げることによって構築される窯と、前記窯の窯構造を保持する保持材と、前記保持部材が固定される立体構造を有する補強構造体とを備え、前記補強構造体に前記保持材を固定するにあたり、前記保持材の固定位置を可変とした構成としてある。
【0010】
このような構成とした本発明に係るガラス熔解装置によれば、窯が膨張、収縮するときには、その体積変化を許容する一方で、窯が膨張、収縮するとき以外には、窯構造の剛性を高めて装置全体の耐震性能を向上させることができる。
【0011】
また、このような本発明に係るガラス熔解装置において、前記補強構造体は、前記窯の周りを取り囲むように配置されているのが好ましい。
【0012】
また、本発明に係るガラス熔解装置は、前記窯が、外側に凸のアーチ型とされた天井を有し、前記補強構造体が、前記アーチ型の天井を下方に押圧する手段を備えている構成とすることができる。
このような構成とすれば、垂直方向の震動によるアーチ形状の崩壊を防止することができる。
【0013】
また、本発明に係るガラス熔解装置は、前記窯が、熔解したガラスを蓄積する槽と、前記槽の上部空間を覆う上部構造とを備え、前記槽の側壁の上部と、前記上部構造の側壁の下部とに、互いに係合する係合部が設けられているとともに、前記係合部が互いに密接するように、前記槽の側壁の上部と、前記上部構造の側壁の下部とに、反対方向に向かう力を加える手段を備えている構成とすることができる。
このような構成とすれば、槽と上部構造との係合部が互いに密接し、これによって窯内の気密性を高めることができるとともに、水平方向の震動に対する耐震性能を向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係るガラスの製造方法は、耐火性部材を積み上げて構築された窯内に供給されたガラス原料を、加熱、熔解してガラスを量産するガラスの製造方法であって、上記のようなガラス熔解装置を用いてガラス原料の加熱、熔解を行う方法としてある。
このような方法としたガラスの製造方法によれば、地震による窯構造の崩壊リスクを低減することができ、ガラスの安定した供給を確保することができる。
【0015】
また、本発明に係るガラスの製造方法は、より具体的には、前記窯内に供給された前記ガラス原料を加熱、熔解するために、前記窯内の温度を昇温し、前記窯内の温度が定常状態になった後に、前記窯全体の剛性を高める操作を行ってから、ガラスの量産を開始する方法とすることができる。
【0016】
また、本発明に係るガラス製品の製造方法は、上記のようなガラスの製造方法により製造されたガラスを加工する方法としてある。
このような方法とした本発明に係るガラス製品の製造方法によれば、ガラス製品の安定した供給が可能になる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、地震時の強い揺れに対して脆弱であったガラス熔解装置に高い耐震性能を付与することにより、地震による窯構造の崩壊リスクを低減する。その結果、ガラスの製造を長期にわたって安定して行うことができ、ガラス製品の安定した供給が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係るガラス熔解装置の一例を示す概略正面図であり、図2は、同概略平面図である。これらの図に示したガラス熔解装置は、耐火煉瓦などの耐火性部材を積み上げることによって構築される窯1と、窯1の窯構造を保持する保持材3と、保持部材3を固定して装置全体の耐震性能を向上させる補強構造体2とを備えて構成されている。
なお、図1では、窯1の窯構造を断面で示すとともに(但し、断面を示すハッチングは省略)、保持部材3の一部の図示を省略してある。
【0020】
このような構成とされたガラス熔解装置において、窯1を構築する耐火性部材としては、この種のガラス熔解装置に用いられる熱膨張係数が比較的低い公知のものから適宜選択することができる。
しかし、装置の運転を開始する前(非運転時)の窯1内の温度が室温付近であるのに対し、装置を恒常的に運転してガラスを製造しているときの窯1内の温度は1000℃付近、又はそれ以上になる。したがって、如何に熱膨張係数の低い耐火性部材を用いたとしても、非運転から運転への移行時における温度上昇に伴う膨張や、運転から非運転への移行時における温度低下に伴う収縮による窯1の体積変化は避けられない。このため、窯全体の剛性を常に高い状態にしておくと、体積変化によって生じる応力に耐えられずに、窯1が損傷してしまうおそれがある。
【0021】
そこで、本実施形態では、運転、非運転間の移行時における温度変化に伴う膨張、収縮による体積変化を許容して、窯1の損傷を防止するために、耐火性部材どうしを相互に固定せずに積み上げて窯1を構築するとともに、保持材3によって窯1の窯構造を保持するようにしてある。
【0022】
窯1の窯構造を保持材3で保持するに際しては、保持材3による窯構造の保持を複数箇所で行うことが好ましく、少なくとも二以上の異なる方向から保持することが好ましい。例えば、窯1を挟んで対向する位置に、一対、又は二対以上の支柱3aを立設し、この支柱3aに取り付けられた、後述する各保持具を介して窯構造を構成する耐火性部材を保持するようにすればよい。
【0023】
図示する例では、窯1の正面側と背面側とに対向する二対の支柱3aを立設するとともに、窯1の左側面側と右側面側とに対向する四対の支柱3aを立設している。そして、対をなす支柱3aを相互に支柱連結具5で連結し、これらによって保持材3を構成している。
なお、支柱3aとしては、鉄鋼SS400などの材料で作られたもの、支柱連結具5としては、ステンレス鋼SUS304などの材料で作られたものを用いることができる。
【0024】
また、図示する例において、窯1は、熔解したガラスを蓄積する槽1bと、この槽1bの上部空間を覆う上部構造1cとを備えている。このような窯構造にあっては、槽1bの側壁1b1に対して、槽1bに蓄積されたガラスによる静圧が内側から外側に向かって働く。このため、図示する例では、支柱3aに取り付けた保持具9で側壁1b1を外側から押圧し、内側からの静圧に対する抗力を与えながら側壁1b1を保持するようにしている。
なお、保持具9としては、鉄鋼SS400などの材料で作られたものを用いることができる。
【0025】
ここで、窯1の上部構造1cには、図中鎖線で示すように、ガラス原料供給口1c2が設けられている。そして、このガラス原料供給口1c2から窯1内に供給されたガラス原料は、槽1bへ投入され、加熱、熔解される。ガラス原料、及び熔解中のガラスの加熱は、窯1内の雰囲気加熱や、槽1bに蓄積されたガラスへの通電加熱などにより行われる。
【0026】
雰囲気加熱は、例えば、燃料ガスと酸素を混合したガスを窯1に取り付けたバーナーへ供給し、燃焼させて窯1内へ火焔を噴射したり、ヒータを窯1内に配置して加熱したりするなどの方法がある。通電加熱は、例えば、槽1bの側壁1b1に電極を取り付けるとともに、槽1bに蓄積されたガラスに電極を浸漬して、これら電極間に電圧を印加し、ガラス中に電流を流してジュール熱を発生させるなどの方法がある。雰囲気加熱と通電過熱とは、それぞれ単独で用いてもよいが、組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0027】
また、本実施形態において、窯1は、ガラスを熔解する機能に加えて清澄機能、均質化機能を備えたものでもよい。例えば、熔解したガラスが蓄積される槽に仕切りを設けたり、複数の槽を連結したりして、熔解ゾーン、清澄ゾーン、均質化ゾーンに区分し、熔解されたガラスが各ゾーンを順次移動するように構成することができる。このとき、各ゾーンの容積は、ゾーン毎にガラスが滞在すべき時間、ガラスの熔解能力、ガラスの流出量などをもとに定めればよい。熔解温度、清澄温度、均質化温度も、生産するガラスの種類、量などによって適宜、定めればよい。
【0028】
また、本実施形態において、槽1bの側壁1b1は、侵蝕によってしだいにその厚みを減じていくので、上部構造12の全重量を長期にわたって槽1bの側壁1b1で支えることができない。このため、図示する例では、上部構造1cの側壁1c1の下部を、支柱3aに取り付けた保持具10によって支持している。
このように、図示するような窯構造とする場合には、窯1の上部構造1cは、槽1bと独立して保持材3などの他の部材で保持するか、槽1bと他の部材とで一緒に保持するようにして、その重量が槽1bの側壁1b1に集中しないようにするのが好ましい。
なお、保持具10としては、鉄鋼SS400などの材料で作られたものを用いることができる。
【0029】
また、図示する例において、槽1bの側壁1b1の上部に位置する耐火性部材と、上部構造1cの側壁1c1の下部に位置する耐火性部材とには、互いに係合する係合部1dが設けられている。そして、この係合部1dは、垂直面、又は槽1bの内側に向かって下方に傾斜する傾斜面が形成された段部とすることができ、図示する例では、支柱3aに取り付けられた保持具11により、上部構造1cの側壁1c1の下部に位置する耐火性部材を外側へ引っ張るようにしている。
なお、上部構造1cの側壁1c1の下部に位置する耐火性部材の下面には、保持具10で支持される被支持面が確保されている。また、保持具11としては、鉄鋼SS400などの材料で作られたものを用いることができる。
【0030】
このようにすることで、前述したように、槽1bの側壁1b1は、外側から内側に押圧するように保持具9で保持されているため、槽1bの側壁1b1の上部と、上部構造1cの側壁1c1の下部とには、反対の方向に向かう力が加わることとなる。その結果、槽1bと上部構造1cとの係合部1dが互いに密接し、これによって窯1内の気密性を高めることができるとともに、水平方向の震動に対する耐震性能を向上させることもできる。
【0031】
また、本実施形態では、膨張、収縮による窯1の体積変化を妨げないようにしながら保持材3を補強構造体2に固定することで、装置全体の耐震性能を向上させている。
すなわち、前述したような保持材3による窯構造の保持だけでは、地震の際の強い揺れによる窯構造の崩壊の可能性を低減するのは難しく、耐震性能を向上させるには限界がある。このため、窯1が膨張、収縮するときには、その体積変化を許容する一方で、窯1が膨張、収縮するとき以外(装置を恒常的に運転、又は停止しているとき)には、窯構造の剛性を高めて耐震性能を向上させることができるように、補強構造体2に保持材3を固定している。
【0032】
より具体的には、剛性に優れた立体構造を有し、地震の際の強い揺れにより大きな外力が加わっても、その立体構造が変形しないように強固に組み立てられた補強構造体2を窯1の周りを取り囲むように配置し、この補強構造体2に、膨張、収縮による窯1の体積変化が許容されるように、窯1の窯構造を保持する保持材3を固定すればよい。
【0033】
補強構造体2としては、図示する例のように、複数本の建設用の鉄骨材を組み合わせて六面体構造の枠体とし、これらの鉄骨材どうしを強固に接合することによって形成することができる。特に図示しないが、補強構造体2の剛性をより高くするためには、筋交いなどの補強材を設けることもできる。
【0034】
また、補強構造体2に保持材3を固定するには、図示する例のように、補強構造体2の所定の部位にコの字型の部材12を取り付けておく。そして、この部材12のコの字形状に囲まれる内側に保持材3の支柱3aを挿通した状態で、ボルト4を締め付けることにより、部材12の内側に支柱3aを固定するようにすればよい。これにより、部材12の内側に支柱3aを固定しているボルト4を緩めることで、支柱3aを窯1の体積変化に応じて所定の方向に、所定の距離だけ動かすことが可能となり、窯1の体積変化を許容しつつ、保持部材3により窯構造を保持させることができる。
【0035】
すなわち、装置の運転を開始した初期の段階では、ボルト4を緩めて補強構造体2に対する支柱3aの固定を解除しておき、これとともに、支柱連結具5による支柱3aの締め付けも緩めておく。これによって、補強構造体2に対して支柱3aが相対的に可動な状態(好ましくは、個々の支柱3aが独立して可動な状態)にしておく。そして、窯1の温度が定常状態に達した後には、ボルト4を締め付けて補強構造体2に対して支柱3aを固定するとともに、支柱連結具5の締め付けを行うようにすればよい。
なお、コの字型の部材12としては、鉄鋼SS400などの材料で作られたものを用いることができる。
【0036】
本実施例において、補強構造体2への保持材3の固定は強固に行うことが好ましく、また、膨張、収縮による窯1の体積変化の程度が一定しない場合もあるので、その固定位置が連続的に可変であることが好ましいが、補補強構造体2に保持材3を固定する手段は、保持材3の固定位置を可変とし、その固定位置を移動させることにより窯1の体積変化を許容して、窯1の損傷を防止することができるものであればよく、図示する例には限られない。
【0037】
さらに、本実施形態では、図示する例のように、窯1が、外側に凸のアーチ型とされた天井1aを有する場合には、この天井1aを下方に押圧することによって、耐震性能をより向上させることができる。
すなわち、アーチ型の天井1aにはクラウンと呼ばれるものがあり、このような天井1aは、重力に対してアーチ形状を維持するようになっているところ、垂直方向の震動が加わると天井1aを形成する耐火性部材が浮き上がってしまい、アーチ形状が崩壊するおそれがある。このような崩壊を防止するには、天井1aを下方に押圧することにより、耐火性部材の浮き上がりを抑えてアーチ形状を維持させるようにするのが好ましい。
【0038】
天井1aの押圧は、例えば、補強構造体2と天井1aとの間に押圧具6を介在させて行うことができる。このときの押圧力が、天井1aを構成する特定の耐火性部材に集中しないようにするためには、天井1aの水平方向の両端の一方から他方に向かって帯状の抑え具7を渡しておき、この抑え具7を介して押圧具6で天井1aを押さえるようにするのが好ましい。このとき、押圧具6の上部は、図示するように、補強構造体2に取り付けるようにすることができる。また、押圧具6の構造としてはジャッキ、又はそれに類するものとすればよい。
【0039】
また、天井1aの耐震性能をより向上させるには、天井1aの水平方向の両端を、対をなす支柱3a間に保持させるようにするのが好ましい。天井1aの両端の保持は、図示する例のように、保持具8を支柱3aに取り付け、この保持具8で天井1aの水平方向の両端に位置する耐火性部材の下面と側面とを保持するようにすればよい。
このようにすることで、天井1aの水平方向の両端の保持と、天井1aの押圧による力学的バランスが向上し、天井1aの耐震性能をより向上させることができる。
なお、押圧具6としては、鉄鋼SS400などの材料で作られたもの、抑え具7としては、ステンレス鋼SUS304などの材料で作られたもの、L字型保持具8としては、鉄鋼SS400などの材料で作られたものを用いることができる。
【0040】
このように、本実施形態にあっては、窯1の窯構造を保持する保持材3を、窯1を取り囲むように配置された補強構造体2に固定することで、装置全体の耐震性能を向上させているが、適用される窯構造の具体的な構成は、図示する例には限られない。
すなわち、熔解したガラスが蓄積される槽1bと、上部構造1cとを備える、いわゆるタンク窯と呼ばれる窯構造のほか、例えば、窯内にルツボを配置して、このルツボ内でガラスを熔解する窯構造を備えたガラス熔解装置にも適用することもできる。この場合、窯内に白金製、又は白金合金製のルツボを配置し、このルツボ内に、窯に設けられたガラス原料供給口からガラス原料を投入するようにすることができ、窯内の加熱は雰囲気加熱により行うことができる。
なお、ルツボを内蔵させた窯構造にあっては、図示する例における槽1bとして機能する部分がないが、窯の側壁と天井とが上部構造1cに相当すると考え、これに底部を加えたものを窯と考えればよい。
【0041】
また、本実施形態にあっては、耐震性能のさらなる向上を図るために、ガラス熔解装置を設置するに際して、設置する建物の梁、柱などの構造材に補強構造体2を強固に固定するのが好ましい。
【0042】
図示する例では、狭持部材13を用いて、この狭持部材13と補強構造体2との間に建物の構造材14を挟んで、図示しないボルトで締め付けることによって、補強構造対12を建物の構造材14に固定している。これによって、主に垂直方向の震動に対する耐震性能を向上させることができる。
さらに、図示する例では、補強構造体2の四隅に対向させて、押さえ部材16を建物の構造材14に固定してある。そして、この押さえ部材16に支持されたボルト16aを締め付けることによって補強構造体2の四隅を押さえ込み、主に水平方向の震動に対する耐震性能が向上するようにしている。
【0043】
補強構造体2を建物の構造材14に固定するにあたり、ガラス熔解装置が通電加熱装置を備える場合には、建物への電流のリークを防止するために、絶縁性を高めた状態で補強構造体2を建物の構造材に固定するのが好ましい。このためには、補強構造体2と構造材体14との間や、構造材14と挟持部材13又は押さえ部材16との間に、絶縁材15を挟み込ませるとともに、建物の構造材14に接触しないようにボルトを離間させておけばよい。
電流のリークがおきると、流出するガラス中などに泡が発生したり、槽内のガラスを白金製のパイプや槽を介して流出する装置や、白金の攪拌棒を用いる装置では白金の異物がガラス中に混入したりすることがあるので、絶縁対策はこのようなトラブルを回避する上で効果的である。
【0044】
また、本実施形態において、以上のようなガラス熔解装置により、ガラスを製造するには、まず、十分な耐震強度を備えた建物の柱や梁などの構造材14に、補強構造体2を固定する。その一方で、保持材3に保持させながら耐火性部材を積み上げて窯1を構築する。そして、窯1を構築するに際しては、支柱3aに取り付けた保持具9で槽1bの側壁1b1を外側から押圧するとともに、支柱3aに取り付けた保持具10により、上部構造1cの側壁1c1の下部を構成する耐火性部材を窯1の外側に引っ張ることによって、槽1bの側壁1b1の上部に位置する耐火性部材と、上部構造1cの側壁1c1の下部に位置する耐火性部材との係合部1dを密着させ、窯1内の密閉性を高めておく。
【0045】
次いで、補強構造体2に保持材3を固定しない状態でガラス熔解装置の運転を開始し、窯1内の温度が上昇して装置が定常運転になってから保持材3を補強構造体2に固定する。これとともに、一対、又は二対以上の支柱3aを保持材3に使用する場合には、支柱締め具5の締め付けを行い、これらの操作によって窯全体の剛性を高める。このとき、図示する例のように、窯1がアーチ形状の天井1aを有する場合には、押圧具6を用いて天井1aを下方に押さえつける。
【0046】
窯1へのガラス原料の供給は、ガラス原料供給口1c2からなされ、槽1b(ルツボ内蔵窯にあってはルツボ)に投入されたガラス原料を加熱、熔融する。そして、熔け残りがないように、ガラスを十分に熔解した後、ガラスの温度を上昇させて清澄を行い、次いで、攪拌して均質化する。熔解させたガラスの清澄、均質化は、清澄ゾーン、均質化ゾーンを設け、これらのゾーンにガラスを流しながら行ってもよく、また、ガラス原料の供給を停止し、同一の槽1b(又はルツボ)内で行うようにしてもよい。
【0047】
このように、本実施形態にあっては、耐震性能を向上させたガラス熔解装置を用いてガラスの製造を継続して行うため、地震による窯構造の崩壊リスクを低減することができ、ガラスの安定した供給を確保することができる。そして、このようにして製造されたガラスを加工してガラス製品を製造すれば、ガラス製品の安定した供給を可能にする。
【0048】
また、本実施形態において、ガラス製品を製造するには、十分に清澄、均質化された熔融ガラスを一定流量で流出し、鋳型に鋳込んで急冷してガラス成形体を作ったり、プレス成形型に供給してプレス成形したり、フロートバス上に流しだしてフロート法により成形したりするなど、公知の方法で所望のガラス成形体を得る。そして、アニールした後に、必要に応じて切断、又は割断などの方法で成形体を所望の形状、大きさに分割し、研削、研磨加工してレンズ、プリズム、光学フィルターなどの光学素子を製造するようにしてもよい。
【0049】
また、熔融ガラスをプレス成形して円盤状の板状ガラスに成形し、アニール後に、ラッピング、中心穴あけ加工、外周加工、ポリッシュして情報記録媒体用基板を製造するようにしてもよいし、熔融ガラスをプレス成形してレンズなどの光学素子に近似する形状に成形し、アニール後に研削、研磨加工してレンズ、プリズム、光学フィルターなどの光学素子を製造するようにしてもよい。さらに、熔融ガラスをフロートバス上に流し出して、フロート法によりシートガラスを成形し、所望形状に分割して表面を研磨してプラズマディスプレイ用ガラス基板や、液晶ディスプレイ用ガラス基板などの各種ディスプレイ用ガラス基板を製造してもよいし、シートガラスから円盤状のガラスを切り出して、ラッピング、中心穴あけ加工、外周加工、ポリッシュして情報記録媒体用基板を製造するようにしてもよい。
【0050】
光学素子を製造する場合は、表面に反射防止膜などの光学多層膜を設けたガラス製品としてもよく、情報記録媒体用基板を製図する場合は、表面に情報記録層を含む層を設けたガラス製品としてもよい。また、プラズマディスプレイ用ガラス基板や、液晶ディスプレイ用ガラス基板などの各種ディスプレイ用ガラス基板の場合には、表面に電極パターンを設けたガラス製品とすることもできる。そして、情報記録媒体用基板の場合には、ガラスを化学強化してもよいし、結晶化処理してもよい。
本実施形態によれば、このような各種のガラス製品を安定して供給することができる。
【0051】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、上記した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、地震による装置損壊のリスクを少なくし、安定したガラスの製造を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本実施形態に係るガラス熔解装置の一例を示す概略正面図である。
【図2】本実施形態に係るガラス熔解装置の一例を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 窯
1a 天井
1b 槽
1b1 側壁
1c 上部構造
1c1 側壁
1d 係合部
2 補強構造体
3 保持材
6 押圧具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性部材を積み上げることによって構築される窯と、前記窯の窯構造を保持する保持材と、前記保持部材が固定される補強構造体とを備え、
前記補強構造体に前記保持材を固定するにあたり、前記保持材の固定位置を可変としたことを特徴とするガラス熔解装置。
【請求項2】
前記補強構造体が、前記窯の周りを取り囲むように配置されている請求項1に記載のガラス熔解装置。
【請求項3】
前記窯が、外側に凸のアーチ型とされた天井を有し、
前記補強構造体が、前記アーチ型の天井を下方に押圧する手段を備えている請求項1又は2のいずれか1項に記載のガラス熔解装置。
【請求項4】
前記窯が、熔解したガラスを蓄積する槽と、前記槽の上部空間を覆う上部構造とを備え、
前記槽の側壁の上部と、前記上部構造の側壁の下部とに、互いに係合する係合部が設けられているとともに、
前記係合部が互いに密接するように、前記槽の側壁の上部と、前記上部構造の側壁の下部とに、反対方向に向かう力を加える手段を備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス熔解装置。
【請求項5】
耐火性部材を積み上げて構築された窯内に供給されたガラス原料を、加熱、熔解してガラスを量産するガラスの製造方法であって、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス熔解装置を用いてガラス原料の加熱、熔解を行うことを特徴とするガラスの製造方法。
【請求項6】
前記窯内に供給された前記ガラス原料を加熱、熔解するために、前記窯内の温度を昇温し、前記窯内の温度が定常状態になった後に、前記窯全体の剛性を高める操作を行ってから、ガラスの量産を開始する請求項5に記載のガラスの製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6のいずれか1項に記載のガラスの製造方法により製造されたガラスを加工することを特徴とするガラス製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−1538(P2008−1538A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170967(P2006−170967)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】