説明

ガラス状カーボン基材の微細加工方法及び微細加工物

【課題】ガラス状カーボンをドライエッチング法にて加工した場合、ガラス状カーボン表面に存在する応力や不純物によって、局所的なエッチング速度の増加が生じ、エッチング斑や面粗度悪化が発生してしまう。
【解決手段】本ガラス状カーボン基材の微細加工方法は、ガラス状カーボン基材を用意し、ハロゲンガス雰囲気、2000℃以上2500℃以下の温度で1〜10時間の熱処理を行う工程と、この工程後にドライエッチング加工を行う工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス状カーボン基材の微細加工方法及び微細加工されたガラス状カーボン基材を用いて成型された微細加工物に係り、特に塩素雰囲気で熱処理を行なった後、ドライエッチング加工を行うガラス状カーボン基材の微細加工方法及び微細加工されたガラス状カーボン基材を用いて成型された微細加工物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ガラス状カーボンの微細加工には機械加工、放電加工、エキシマレーザー加工、ドライエッチング加工などが用いられている。
【0003】
特にドライエッチング加工はフォトリソグラフィなどの半導体製造手法を用いることで微細化が容易であり、大面積に対して一度に加工を施せる点が他の加工方法と比較して優位である。
【0004】
しかしながら、ドライエッチング加工の場合、ガラス状カーボン基板の製造時に生じる加工ダメージや加工汚染が原因で、局所的なエッチング反応速度の増加が生じ、加工面の面粗度増加や加工傷の顕在化、曇りの発生などが生じることが問題となっている。特に微細なパターンを形成する加工においては、それらの傷がパターン形状を破壊し、深刻な不良の原因となる。
【0005】
なお、特許文献1には、ガラス状カーボン型を用いて微細なパターンや転写ができるシリカガラスの製造方法が、また、特許文献2(段落[0010])にはガラス状カーボン型をドライエッチング加工により行うことが開示されている。
【特許文献1】特開2004−284893号公報
【特許文献2】特開2004−338999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した事情を考慮してなされたもので、ドライエッチング加工を用いてもガラス状カーボン基板に対して、より均一に面内の微細加工を行うことができるガラス状カーボン基材の微細加工方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、微細加工がなされたガラス状カーボン基材(型)により精密な微細加工が施された微細加工物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ガラス状カーボンのドライエッチング加工後に生じる表面形状を詳細に観察、検討し、その発生原因を推測し、対策することを試み、本発明を完成させるに至った。すなわち、エッチング前に加工対象物表面、表層に存在する加工ダメージや加工汚染がエッチング速度の増加をもたらしており、それらを除去することによってエッチング速度の均一化を実現し、問題となる曇りや傷の顕在化を抑制できることが判明した。
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明に係るガラス状カーボン基材の微細加工方法は、ガラス状カーボン基材を用意し、1800℃以上2500℃以下の温度で1〜10時間の熱処理を行う工程と、この工程後にドライエッチング加工を行う工程を有することを特徴とする。
【0010】
好適には、前記熱処理雰囲気はハロゲンガス雰囲気である。
また、好適には、前記ハロゲンガス雰囲気は、塩素雰囲気である。
また、好適には、前記塩素雰囲気は、塩素濃度10〜100%であり、かつ塩素以外の雰囲気は不活性ガスである。
また、好適には、前記雰囲気圧力は大気圧〜10kPaである。
【0011】
また、本微細加工物は、請求項1乃至5に記載のガラス状カーボン基材の微細加工方法を用いて加工されたガラス状カーボン基材(型)により、被加工物に精密な微細加工が施される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るガラス状カーボン基材の微細加工方法によれば、ドライエッチング加工を用いてもガラス状カーボン基板に対して、より均一に面内の微細加工を行うことができるガラス状カーボン基材の微細加工方法を提供することができる。
【0013】
また、本発明に係る微細加工物によれば、微細加工がなされたガラス状カーボン基材(型)により精密な微細加工が施された微細加工物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るガラス状カーボン基材の微細加工方法の一実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0015】
図1は本発明に係るガラス状カーボン基材の微細加工方法による微細加工時の基材に生じる現象の説明図である。
【0016】
本発明に係るガラス状カーボン基材の微細加工方法は、ガラス状カーボン基材を用意し、塩素雰囲気、1800℃以上2500℃以下の温度で1〜10時間の熱処理を行う工程と、この工程後にドライエッチング加工を行う工程を有する。
【0017】
ガラス状カーボンは、製造方法にもよるが基本的に結晶性の無いアモルファス構造を持ち、化学的にも物理的にも等方的な素材である。
【0018】
図1(a)に示すように、ガラス状カーボンをエッチングする際に、エッチング速度の不均一性が生じる理由としては、(1)ガラス状カーボン基材100の表面への汚れ200の付着、(2)金属不純物201による汚染、(3)局所的な歪202の存在などがある。
【0019】
それぞれ、(1)に関してはマスキング効果によるエッチング不良、(2)に関しては金属不純物による反応速度促進効果(触媒的効果)、(3)に関しては応力による化学的反応の促進効果、が理由となってエッチング速度に不均一性が発生し(図1(b))、(1)の場合は凸状のエッチング斑300を、(2)と(3)の場合には凹状のエッチング斑301、302を生じると考えられる(図1(c))。ここで、エッチングとは化学的腐食加工法のことであり、湿式と乾式がある。ガラス状カーボンの場合には乾式が用いられ、その種類としてはa)粒子の化学的性質を利用するもの(無電極プラズマエッチング、ラジカルエッチング)、b)粒子の化学的性質と物理的エネルギーを利用するもの(反応性イオンエッチング)、そしてc)粒子の物理的エネルギーを利用するもの(スパッタエッチング、イオンビームエッチング)がある。
【0020】
これらのうち、本発明で対象となるのは、粒子の化学的性質を利用するa)とb)の手法である。それぞれ前者はエッチング方向に等方性が高く、後者は異方性が高いという特徴がある。
【0021】
ガラス状カーボン基材100のエッチングを行う際には、反応ガスとして、アシストガスで100〜1%に希釈した酸素ガスO101を用いる。酸素ガス101はプラズマ化してガラス状カーボン基材100の組成元素であるCと反応し、COあるいはCOとなり、エッチングが進行する。
【0022】
この反応を微細加工に利用する場合には、エッチングを行う前に非加工表面ヘマスクパターンを形成してからエッチングを行う。ここでマスク材には有機物や金属を用いるが、ガラス状カーボンとの密着性や価格、選択比などからCr或いはAlを用いることが好適である。プラズマ化したOガスとCとの反応が進行する際に、上記(1)〜(3)の不均一性がガラス状カーボン基材にある場合、反応速度の差異に伴いエッチング斑が生じる。そこで、ガラス状カーボン基材に存在するこれらの不均一性を取り除く処理が必要となる。
【0023】
まず(1)を取り除くには、マスタパターンを作製する前後に十分な洗浄を施す必要がある。
【0024】
洗浄の種類としては有機溶剤を用いた洗浄や界面活性剤による洗浄、超音波洗浄、アルカリや酸を用いた洗浄があるが、好適にはそれらの併用が好ましく、さらに好適にはマスタパターン形成前の洗浄としては有機洗浄と超音波を併用した洗浄+界面活性剤と超音波を併用した洗浄+(硫酸+過酸化水素)洗浄を行い、マスタパターン形成後は使用したマスク材に好適な洗浄剤を用いるのが望ましい。
【0025】
次に(2)を取り除くにはその原因を把握する必要がある。金属による汚染を生じる原因となるのはガラス状カーボンを製造する際の原料や熱処理であるが、通常、半導体装置向けの高純度ガラス状カーボンを用いることによりそれらは回避できる。次に問題となるのは形状加工時に表層に導入される加工汚染である。この場合、表面部分は洗浄によってある程度除去できる。例えば、有機溶剤洗浄 → 界面活性剤による洗浄 → (硫酸+過酸化水素) 洗浄 → (塩酸+過酸化水素)洗浄、といった洗浄を加工後に行うことで良化する。また、加工の際に使用する加工ツールや砥粒、治具といったものを金属を含まないものにすることも重要である。例えば、加工用ツールや砥粒をダイヤモンド製に限定することが有効である。
【0026】
さらに洗浄でも除去できない加工変質層の金属汚染は、塩素雰囲気にて1800℃以上2500℃以下の温度にて1〜10時間の熱処理を行うことで、汚染金属を気化温度の低い金属塩化物とすることで除去する。
【0027】
最後に(3)に関しての対策としては、加工時のダメージをできるだけ抑えるために、仕上げ加工時の砥粒の粒度をできるだけ細かなもので行うなどの対策を施す。しかしながら、ガラス状カーボンの加工はメカニカルな加工しか行えないため、どうしてもダメージを減少させるのに限界が存在する。
【0028】
そこで、上記塩素雰囲気中の高温熱処理を行うことによって加工時に導入されたダメージ(歪)を緩和して取り除き(焼鈍)、その後のエッチングに影響を及ぼさないようにすることが有効である。ただし、この熱処理を行う際に十分な洗浄を行わないと、熱処理中にも表面近傍で軽微なエッチングが生じ、斑や加工痕が現れることがあるので十分に注意する必要がある。
【0029】
上記実施形態のガラス状カーボン基材の微細加工方法によれば、表層近傍に存在する金属不純物の除去と加工ダメージの緩和を行い、エッチング時の曇りや面粗度悪化を抑制する。ドライエッチング加工を用いてもガラス状カーボン基板に対して、より均一に面内の微細加工を行うことができるガラス状カーボン基材の微細加工方法が実現される。
【0030】
また、本発明に係る微細加工物は、上述した本発明に係るガラス状カーボン基材の微細加工方法により加工されたガラス状カーボン型を用い、図2に示し、「特許文献1」に詳細に開示される加工方法により、被加工物に精密な微細加工が施して製造される。
【0031】
例えば、成形装置1の下型2は分割型であり、凸状嵌合部2aが台座2aが台座3の凹状嵌合部3aに一体的に保持されており、下型2及び上型4は、予め加熱されている。この予熱された下型2の凹状成形面2bに軟化状態のシリカガラスMを収納し、移動軸5を降下させて、上型4を降下させ、シリカガラスMを押圧する。これにより、シリカガラスMは下型2及び上型4の形状に沿って成形され、微細加工がなされたガラス状カーボン基材(型)により精密な微細加工が施された微細加工物が得られる。
【実施例】
【0032】
厚さ2.7mmで20mm角のガラス状カーボン基材の両面を最終工程でのダイヤモンド砥粒の粒度が#100000のものを用いて加工した後、有機溶剤洗浄 → 界面活性剤による洗浄 → (硫酸+過酸化水素)洗浄 → (塩酸+過酸化水素)洗浄を行い、さらに100%塩素雰囲気中で2000℃×10時間の熱処理を行った後、プラズマイオンエッチングにて1.33Pa、100%O雰囲気中で処理したところ、Ra≦100nmの平滑面を得ることができた。図3は、本実施例の通り熱処理を実施したものと、熱処理のみ実施しなかったものの表面性状を示す顕微鏡写真である。熱処理をすると加工傷がきれいに取り除けることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るガラス状カーボン基材の微細加工方法による微細加工時の基材に生じる現象の説明図。
【図2】本発明に係る微細加工物の加工方法の概念図。
【図3】熱処理の有無による表面状態の違いを示す顕微鏡写真図。
【符号の説明】
【0034】
100 ガラス状カーボン基材
200 汚れ
201 金属不純物
202 局所的な歪
300 凸状のエッチング斑
301、302凹状のエッチング斑

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス状カーボン基材を用意し、1800℃以上2500℃以下の温度で1〜10時間の熱処理を行う工程と、この工程後にドライエッチング加工を行う工程を有することを特徴とするガラス状カーボン基材の微細加工方法。
【請求項2】
前記熱処理の雰囲気が、ハロゲンガス雰囲気であることを特徴とする請求項1に記載のガラス状カーボン基材の微細加工方法。
【請求項3】
前記ハロゲンガス雰囲気は、塩素雰囲気であることを特徴とする請求項2に記載のガラス状カーボン基材の微細加工方法。
【請求項4】
前記塩素雰囲気は、塩素濃度10〜100%であり、かつ塩素以外の雰囲気は不活性ガスであることを特徴とする請求項3に記載のガラス状カーボン基材の微細加工方法。
【請求項5】
前記雰囲気圧力は大気圧〜10kPaであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のガラス状カーボン基材の微細加工方法。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載のガラス状カーボン基材の微細加工方法を用いて加工されたガラス状カーボン基材により、被加工物に精密な微細加工が施されたことを特徴とする微細加工物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−282466(P2006−282466A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105848(P2005−105848)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000221122)東芝セラミックス株式会社 (294)
【Fターム(参考)】