説明

ガラス状炭素製炉心管の製造方法

【課題】円筒と半円筒で成る接合体であっても寸法の狂いが生じることなくガラス状炭素製の炉心管を製造することができるガラス状炭素製炉心管の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】熱硬化性樹脂で形成された円筒体の外表面に、その円筒体と略同一長であって且つ小径の熱硬化性樹脂で形成された円筒を略二分割した形状の半円筒体の平行な両端縁を、前記円筒体と前記半円筒体の軸方向が平行になるように接合して接合体とする工程と、その接合体を炭素化処理する工程と、前記円筒体のうち前記半円筒体の両端縁で囲まれた除去部を除去加工する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェハを熱処理したり、化学気相成長によりシリコンウェハ表面に膜形成したりするためのウェハ熱処理装置において、気密を保持するための反応容器(石英製のアウターチューブ)の中に収納して使用されるガラス状炭素製炉心管(インナーチューブ)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から円形断面の炉心管(インナーチューブ)の材料としては、石英、炭化珪素、或いはガラス状炭素が使用されていた。しかし、最近、ウェハ処理の均一性や、反応ガスや冷却ガスを流通させる使用勝手を重視した結果、断面が円形でない炉心管が製品化されてきている。但し、この種の非円形断面の炉心管は石英製や炭化珪素製に限られているのが現状であって、化学的に安定で汚染物質を発生し難い等のメリットを有するガラス状炭素でも非円形断面の炉心管を製造できる技術が開発されることが待ち望まれていた。
【0003】
ガラス状炭素製の炉心管は、特許文献1に示すように、従来専ら断面が円形であって、非円形断面のガラス状炭素製炉心管は、実現していない。これは、ガラス状炭素の製造方法に起因していると考えられる。すなわち、ガラス状炭素は、一般にフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂で成る成形体を、1000℃以上の高温の不活性雰囲気中で炭素化することにより得られるものであるが、炭素化の工程で、成形体の寸法が20%程度収縮し寸法歪みが生じやすいためである。断面が円形であれば、特許文献1に示すように、寸法精度を改善するための種々の工夫を施すことは可能であるが、断面が非円形の場合、寸法の狂いが生じることを避けるための手立てがないのが実情であった。
【特許文献1】特開2000−313666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の実情に鑑みて発明したものであって、円筒と半円筒で成る接合体であっても寸法の狂いが生じることなくガラス状炭素製の炉心管を製造することができ、化学的に安定で汚染物質を発生し難い非円形断面のガラス状炭素製炉心管を製造することができるガラス状炭素製炉心管の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、熱硬化性樹脂で形成された円筒体の外表面に、その円筒体と略同一長であって且つ小径の熱硬化性樹脂で形成された円筒を略二分割した形状の半円筒体の平行な両端縁を、前記円筒体と前記半円筒体の軸方向が平行になるように接合して接合体とする工程と、その接合体を炭素化処理する工程と、前記円筒体のうち前記半円筒体の両端縁で囲まれた除去部を除去加工する工程を含むことを特徴とするガラス状炭素製炉心管の製造方法である。
【0006】
請求項2記載の発明は、前記円筒体と前記半円筒体を形成する熱硬化性樹脂が液状フェノール樹脂であって、前記円筒体と前記半円筒体を接合する工程で、前記と同じ液状フェノール樹脂を接着剤として接合することを特徴とする請求項1記載のガラス状炭素製炉心管の製造方法である。
【0007】
請求項3記載の発明は、前記円筒体の前記半円筒体の両端縁で囲まれた除去部のうち、少なくとも前記両端縁間を連結した複数箇所の連結部分を残して事前除去部とし、炭素化処理する工程の前に事前除去部を事前除去することを特徴とする請求項1または2記載のガラス状炭素製炉心管の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガラス状炭素製炉心管の製造方法によると、円筒と半円筒で成る接合体であっても寸法の狂いが生じることなくガラス状炭素製の炉心管を製造することができ、化学的に安定で汚染物質を発生し難い非円形断面のガラス状炭素製炉心管を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいてさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明で示すガラス状炭素は、一般に熱硬化性樹脂の硬化物を炭素化処理して得ることができる。熱硬化性樹脂の例示として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、アルキット樹脂、キシレン樹脂等や、これらの混合物をあげることができるが、その中でも特性の良好なガラス状炭素が得られるフェノール樹脂を用いることが望ましい。さらには、液状フェノール樹脂を用いることが望ましい。なぜなら、液状であるために実施例で示す遠心成形法により大口径の円筒体1を比較的容易に製造することが出来るからである。
【0011】
図1は、本発明のガラス状炭素製の炉心管の製造方法を製造の工程順に示した図面である。1は前記した液状フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂で形成された円筒体、2は同じ熱硬化性樹脂で形成された半円筒体である。円筒体1と半円筒体2は略同一の長さであり、半円筒体2の半径は、円筒体1の半径より小さい。図1に示す実施形態では、半径は10分の1以下である。
【0012】
まず、円筒体1と半円筒体2を接合する前に、半円筒体2が、熱硬化性樹脂で形成された円筒4を略半分に切断分割して形成される。出来上がった半円筒体2は、円筒体1の外表面上にお互いの軸方向が平行になるように配置され、その平行な両端縁2a,2aを円筒体1の外表面に接着剤を介して圧接することにより円筒体1と接合される。
【0013】
次に、接合された円筒体1と半円筒体2で成る接合体3は、炭素化処理されてガラス状炭素と成る。(詳細の炭素化処理法は、実施例に示す。)
【0014】
最後に、円筒体1の、半円筒体2の両端縁2a,2aで囲まれた部位、すなわち除去部1aを切断して除去加工することによりガラス状炭素製の炉心管Aは完成する。なお、この半円筒体2で囲まれた空間は、特殊な形状のボード、インジェクターノズル等が収納される空間として利用される。
【0015】
なお、円筒体1と半円筒体2は、高温熱処理により接合して一体化しても構わないが、前記したように接着剤を介して接合することが、接合強度などの点から望ましい。また、接着剤の種類は特には限定しないが、円筒体1や半円筒体2と同じ液状フェノール樹脂を用いるのが最適である。なぜなら、接着剤が、円筒体1や半円筒体2と同じ樹脂であれば、炭素化工程で同じ寸法収縮率を示すため、接合部分の寸法歪みが小さくなるからである。
【0016】
図2は本発明の別の実施形態を示す図面である。この実施形態では、炭素化処理する工程の前に、円筒体1の半円筒体2の両端縁で囲まれた除去部1aのうち一部を事前除去部1bとし、炭素化処理する工程の前に除去する。すなわち、ガラス状炭素は加工性が良い材料ではないから、事前除去部1bを先に除去しておくことで、炭素化工程での接合部分の寸法歪みをできるだけ小さくし、且つ、炭素化処理後の機械加工の生産性を向上させることができる。なお、除去部1aを全て炭素化工程の前に除去してしまうと円筒体1と半円筒体2の両方に比較的大きな歪みができてしまうので好ましくない。
【0017】
図2には、両端が丸みを帯びた矩形孔で成る複数の事前除去部1bを一定間隔を開け等ピッチに配列したものを示したが、少なくとも半円筒体2の両端縁2a,2a間を連結した複数箇所の連結部分を残して事前除去部1bを形成したものなら、事前除去部1bはどのような形状のものであっても良い。例えば、円形の孔、事前除去部1b自体が前記両端縁2a,2aにまで達する窓状のもの、複数の孔の形状が全て異なるもの等であっても良い。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
実施例1では、ガラス状炭素製の炉心管の原料として、市販の液状フェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製PL−4804)を使用した。この原料の特性値は、密度(於25℃):1198kg/m、粘度(於25℃):690cP、ゲル化時間(於150℃):7分50秒、不揮発成分:72.5質量%である。この液状フェノール樹脂を100℃で5時間熱処理し、成形原料とした。
【0019】
まず、内径450mm、長さ1500mmの円筒金型(図示せず)に樹脂12kgを装填し、金型内の温度を100℃に保ち、300rpmで回転させながら20時間遠心成形を行い、外径445mm、長さ1460mmの円筒体1を得た。
【0020】
それと並行し、内径35mm、長さ1500mmの円筒金型(図示せず)に樹脂0.9kgを装填し、金型内の温度を100℃に保ち、300rpmで回転させながら20時間遠心成形を行い、外径34mm、長さ1460mmの円筒4を成形した。この円筒4を軸と平行に2分割し、半円筒体2を得た。
【0021】
次に、円筒体1の外表面に、半円筒体2の両端縁2a,2aを、液状フェノール樹脂を接着剤として圧接し、100℃で10時間保持して円筒体1と半円筒体2を接着して接合体3を得た。
【0022】
次に、この接合体3を、空気中200℃で50時間加熱するキュアリング処理を行った後、窒素雰囲気中2℃/hで昇温して1000℃まで加熱処理し、さらに、2000℃まで10℃/hで昇温して炭素化した。以上の製造方法で得た製造途中のガラス状炭素製炉心管Aは、長さ1180mm、円筒体1部分の外径が360mm、半円筒体2部分の外径が30mmであった。
【0023】
最後に、円筒体1の除去部1aを除去した最終形状のガラス状炭素製炉心管Aは、断面の寸法歪が±1mm以内であり、炉心管として好適であった。
【0024】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と同じ市販の液状フェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製PL−4804)を成形原料とした。
【0025】
まず、内径450mm、長さ1500mmの円筒金型(図示せず)に樹脂12kgを装填し、金型内の温度を100℃に保ち、300rpmで回転させながら20時間遠心成形を行い、外径445mm、長さ1460mmの円筒体1を得た。その円筒体1の外表面の軸方向に、幅30mm、長さ100mmの矩形孔で成る事前除去部1bを、20mm毎のピッチを開け等間隔に12個形成した。
【0026】
それとは別に、内径35mm、長さ1500mmの円筒金型(図示せず)に樹脂0.9kgを装填し、金型内の温度を100℃に保ち、300rpmで回転させながら20時間遠心成形を行い、外径34mm、長さ1460mmの円筒4を成形した。この円筒4を軸と平行に2分割し、半円筒体2を得た。
【0027】
次に、前記事前除去部1bの配列をまたぐように、半円筒体2の両端縁2a,2aを、液状フェノール樹脂を接着剤として、円筒体1外表面に圧接し、100℃で10時間保持して円筒体1と半円筒体2を接着して接合体3を得た。
【0028】
次に、この接合体3を、空気中200℃で50時間加熱するキュアリング処理を行った後、窒素雰囲気中2℃/hで昇温して1000℃まで加熱処理し、さらに、2000℃まで10℃/hで昇温して炭素化した。以上の製造方法で得た製造途中のガラス状炭素製炉心管Aは、長さ1180mm、円筒体1部分の外径が360mm、半円筒体2部分の外径が30mmであった。
【0029】
最後に、円筒体1の事前除去部1bを含む除去部1aを除去した最終形状のガラス状炭素製炉心管Aは、断面の寸法歪が±1mm以内であり、炉心管として好適であった。
【0030】
(比較例)
比較例でも、実施例1と同じ市販の液状フェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製PL−4804)を成形原料とした。
【0031】
まず、内径450mm、長さ1500mmの円筒金型(図示せず)に樹脂12kgを装填し、金型内の温度を100℃に保ち、300rpmで回転させながら20時間遠心成形を行い、外径445mm、長さ1460mmの円筒体1を得た。その円筒体1の外表面に軸方向と平行な幅35mmのスリットを切断除去により設け、円筒体1を断面C字形とした。(断面C字形であるが、以下も円筒体1という。)
【0032】
それとは別に、内径35mm、長さ1500mmの円筒金型(図示せず)に樹脂0.9kgを装填し、金型内の温度を100℃に保ち、300rpmで回転させながら20時間遠心成形を行い、外径34mm、長さ1460mmの円筒4を成形した。この円筒4を軸と平行に2分割し、半円筒体2を得た。
【0033】
次に、円筒体1のスリットをまたぐように、半円筒体2の両端縁2a,2aを、液状フェノール樹脂を接着剤として、円筒体1外表面に圧接し、100℃で10時間保持して円筒体1と半円筒体2を接着して接合体3を得た。
【0034】
次に、この接合体3を、空気中200℃で50時間加熱するキュアリング処理を行った後、窒素雰囲気中2℃/hで昇温して1000℃まで加熱処理し、さらに、2000℃まで10℃/hで昇温して炭素化した。以上の製造方法で得たガラス状炭素製炉心管Aは、長さ1180mm、円筒体1部分の外径が360mm、半円筒体2部分の外径が30mmであったが、円筒体1部分の断面の寸法歪みは±5mm以上あり、炉心管としては実用に耐えることができるものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態を製造の工程順に示した縦断面図である。
【図2】本発明の別の実施形態の製造途中段階を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
A…ガラス状炭素製炉心管
1…円筒体
1a…除去部
1b…事前除去部
2…半円筒体
2a…両端縁
3…接合体
4…円筒



【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂で形成された円筒体の外表面に、その円筒体と略同一長であって且つ小径の熱硬化性樹脂で形成された円筒を略二分割した形状の半円筒体の平行な両端縁を、前記円筒体と前記半円筒体の軸方向が平行になるように接合して接合体とする工程と、
その接合体を炭素化処理する工程と、
前記円筒体のうち前記半円筒体の両端縁で囲まれた除去部を除去加工する工程を含む
ことを特徴とするガラス状炭素製炉心管の製造方法。
【請求項2】
前記円筒体と前記半円筒体を形成する熱硬化性樹脂が液状フェノール樹脂であって、前記円筒体と前記半円筒体を接合する工程で、前記と同じ液状フェノール樹脂を接着剤として接合することを特徴とする請求項1記載のガラス状炭素製炉心管の製造方法。
【請求項3】
前記円筒体の前記半円筒体の両端縁で囲まれた除去部のうち、少なくとも前記両端縁間を連結した複数箇所の連結部分を残して事前除去部とし、炭素化処理する工程の前に事前除去部を事前除去することを特徴とする請求項1または2記載のガラス状炭素製炉心管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−37674(P2008−37674A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211126(P2006−211126)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】