説明

ガラス組成物、ガラス組成物からなるプリフォームおよび光学素子

【課題】耐失透性に優れると共に、非球面レンズ等に求められる光学恒数(屈折率、アッベ数等)を有し、かつ、低いガラス転移点を有し、所定の領域に蛍光を生じない精密プレス成形に適したガラス組成物およびそのガラス組成物からなるガラスプリフォームを提供すること。
【解決手段】屈折率が1.55以上、アッベ数が50以上の光学恒数を有するSiO−B−RO−RnO系ガラス組成物であって、(式中、RはMg、Ca、Sr、Baの1種以上、RnはLi、Na、K、Csの1種以上)酸化物基準の質量%でLiOとNaOとKOの合計量が1〜25%、うちLiOを12%以下含有し、Pt成分を10ppm以下含有し、ガラス転移点が550℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低いガラス転移点(Tg)を有する精密プレス成形(モールドプレス成形)に適したガラス組成物およびそのガラス組成物からなるガラスプリフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学機器の小型軽量化が著しく進行している中で、光学機器の光学系を構成するレンズの枚数を減少させる目的でガラス製の非球面レンズが多く用いられるようになってきている。ガラス製の非球面レンズは、加熱軟化したガラスプリフォームを高精度な成形面をもつ金型でプレス成形し、金型の高精度な成形面の形状をガラスプリフォームに転写して得る方法、すなわち、精密プレス成形によって製造されることが主流となっている。
【0003】
この際、使用する金型は高温に曝され、金型成形面が酸化、侵食したり、金型成形面の表面に設けられている離型膜が損傷したりして金型の高精度な成形面が維持できなくなることが多く、また、金型自体も損傷しやすい。このため、金型の交換、メンテナンスの回数が増加して、低コスト、大量生産を実現できなくなることがある。
【0004】
そこで、精密プレス成形に使用するガラスプリフォームは、金型の損傷を抑制し、金型の高精度な成形面を長く維持し、かつ低温での精密プレス成形を可能にするという観点から、できるだけ低いガラス転移点を有することが望まれている。現在の技術水準では、精密プレス成形に使用するガラスプリフォームのガラス転移点が630℃を超えると精密プレス成形が困難となるため、ガラス転移点が630℃以下であることが必要であるが、金型の耐久性を考慮すればガラス転移点はより低いほうが好ましい。
【0005】
また、ガラスプリフォーム中に失透が存在していると、レンズ等の光学素子として使用することができないため、精密プレス成形に使用するガラスプリフォームは、耐失透性に優れたガラスであることも必要とされる。また、小型軽量化に伴い、ガラス組成物の比重はより小さいことも求められている。
【0006】
非球面レンズに用いられる光学ガラスは、種々の光学定数(屈折率(nd)およびアッベ数(νd))を有するものが求められているが、なかでも、光学設計上、屈折率(nd)が1.55以上、アッベ数(νd)が50以上を有する光学ガラスが強く求められている。
【0007】
このような問題を解決するために、例えば、SiO−B−BaO−Y−LiO−RO系の光学ガラス(特許文献1)やSiO−B−La−RO−LiO系の光学ガラス(特許文献2)等が提案されている。
【特許文献1】特開2004−175592号公報
【特許文献2】特開2004−292306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の光学ガラスは、Yを必須成分としているため、ガラス溶融温度が高く、耐失透性も悪いという問題があった。また、特許文献2に記載の光学ガラスは、Laを比較的多量に含有しているため、溶融性が悪く、耐失透性が悪いという問題があった。
【0009】
ところで、一般に、光学ガラスの溶融温度を下げ、屈伏点、ガラス転移点を下げるためにLiOを比較的多量に含有させる手法は公知である。しかし、SiO−Bを主成分とする光学ガラスにおいてLiOを大量に含有させると、ガラス溶解槽として使用するPt槽の一部がガラス組成物に混入しやすくなり、結果として、当該Pt混入物に起因する赤い蛍光を発生し、光学素子として使用できないという問題があった。
【0010】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであり、耐失透性に優れると共に、非球面レンズ等に求められる光学恒数(屈折率、アッベ数等)と低いガラス転移点とを有する精密プレス成形に適したガラス組成物であって、前記不要な蛍光を発することがほとんどないガラス組成物およびそのガラス組成物からなるガラスプリフォームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、SiO−B−RO−RnO系ガラス組成物において、LiO、NaO、KOの総量をおよび個々の成分の含有量のバランスを所定の関係に厳しく制限することにより、所望の光学定数、ガラス転移温度を有するガラス組成物を作製でき、かつそのガラス組成物は前記蛍光を発しないものであることを今般見出した。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0012】
(1) 屈折率が1.55以上、アッベ数が50以上の光学恒数を有するSiO−B−RO−RnO系ガラス組成物であって、(式中、RはMg、Ca、Sr、Baの1種以上、RnはLi、Na、K、Csの1種以上)酸化物基準の質量%でLiOとNaOとKOの合計量が1〜25%、酸化物基準の質量%でLiOとNaOとKOの合計量が1〜25%、うちLiO成分含有量が12%以下であり、ガラス組成物全質量に対するPt成分含有量が10ppm以下で、ガラス転移点が550℃以下であるガラス組成物。
【0013】
(2) 酸化物基準の質量%で
SiO 50%以下
12%以下
RO(RはMg、Ca、Sr、Baの1種以上) 17%以上
を含有する(1)に記載のガラス組成物。
【0014】
(3) 酸化物基準の質量%でROの含有量に対するBaOの含有量の比が0.9以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の光学ガラス。
【0015】
(4) 365nmの励起光による発光スペクトルが500〜700nmにピークを有さないことを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のガラス組成物。
【0016】
(5) 酸化物基準の質量%で
NaO 0〜15%および/または
O 0〜15%
を含有する(1)から(4)のいずれかに記載のガラス組成物。
【0017】
(6) 酸化物基準の質量%で
MgO 0〜5%および/または
CaO 0〜5%および/または
SrO 0〜10%および/または
Al 0〜5%および/または
ZnO 0〜5%および/または
Sb 0〜1%
を含有する(1)から(5)のいずれかのガラス組成物。
【0018】
(7) 酸化物基準の質量%で
SiO 40〜50%および
8〜12%および
BaO 17〜30%および
LiO 1〜12%および
NaO 0〜15%および/または
O 0〜15%および/または
Al 0〜5%および/または
MgO 0〜5%および/または
ZnO 0〜5%および/または
Sb 0〜1%
を含有し、ガラス転移点が530℃以下である(1)から(6)のいずれかに記載のガラス組成物。
【0019】
(8) 酸化物基準の質量%で
La 0〜10%および/または
Gd 0〜10%および/または
0〜10%および/または
ZrO 0〜5%および/または
TiO 0〜10%および/または
Nb 0〜10%および/または
Ta 0〜10%および/または
WO 0〜10%および/または
Yb 0〜10%および/または
GeO 0〜10%および/または
を含有する(7)のガラス組成物。
【0020】
(9) (1)から(8)のいずれかに記載のガラス組成物からなるプリフォーム。
【0021】
(10) (9)に記載のプリフォームを成形してなる光学素子。
【0022】
(11) (1)から(8)のいずれかに記載のガラス組成物からなる光学素子。
【0023】
(9)から(11)の態様によれば、(1)から(8)のいずれかのガラス組成物は、非球面レンズに適した屈折率、アッベ数等の光学恒数を有し、かつ、低いガラス転移点を有することから、(1)から(8)のいずれかに記載のガラス組成物からプリフォーム、このプリフォームを用いた光学素子を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
上記本発明によれば、LiOの含有量を比較的少なくしてもガラス転移点を550℃以下にすることができるようになった。このため、Pt成分がガラス組成物に混入しにくくなり、ガラス組成物の赤い蛍光が低減された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明のガラス組成物、本発明のガラス組成物からなるプリフォームおよび光学素子の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0026】
[ガラス成分]
本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は全て酸化物基準の質量%で記載されるものとする。本明細書中において「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、炭酸塩、硝酸塩等が、溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、生成酸化物の総質量を100質量%とした場合にガラス中に含有される各成分の含有量を表記した組成である。ただし、本明細書中において、ガラス中に混入されるPt成分のみ酸化物基準による表示ではなくガラス組成物の全質量に対するPt成分の質量にて表すものとする。
【0027】
また、本明細書中において「実質的に含まない」とは、原料組成として含有しない、すなわち意識的に含有させるものではないということを意味するものであり、不純物として混入してしまうものを除外するものではない。
【0028】
<必須成分と任意成分>
SiO成分は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの骨格を形成するための必須成分であり、ガラスの粘度(logη)を調整しやすく、耐失透性を向上させるために有効な成分である。SiO成分が少なすぎると耐失透性が悪くなりやすく、屈折率が低くなりやすくなる。一方、その成分が多すぎるとガラス転位点やガラスの粘度が高くなりやすく、未溶解物が発生しやすくなる。したがって、SiO成分の上限は50%であることが好ましく、49%であることがより好ましく、48%であることが最も好ましい。また、下限は、40%であることが好ましく、45%であることがより好ましく、46%であることが最も好ましい。
【0029】
成分は、ガラス形成酸化物成分として必須成分である。しかし、その成分が少なすぎると上記効果が不十分となりやすい。一方、その成分が多すぎると屈折率の低下等を引き起こしやすくなる。したがって、B成分の上限は、12%であることが好ましく、11%であることがより好ましく、10%であることが最も好ましい。また、下限は8%であることが好ましく、8.5%であることがより好ましく、9%であることが最も好ましい。
【0030】
LiO成分は、ガラス転移点を大幅に下げ、かつ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある成分である。また、液相温度を低くする効果もある。しかし、その成分が少なすぎると上記の効果が不十分となりやすい。一方、その成分が多すぎると溶融炉中のPtが溶解しガラス組成物にPtが混入しやすくなる。これらPt混入物は、ガラス組成物が赤い蛍光を発する原因となりやすい。したがって、LiO成分の上限は、12%であることが好ましく、10%であることがより好ましく、8%であることがより好ましい。また、LiO成分の下限は、特に限定しなくともよいが、1%であることが好ましく、3%であることがより好ましく、5%であることが最も好ましい。
【0031】
NaO成分は、ガラス転移点を低くすることおよびガラスの溶融性向上に効果を有する任意成分であるが、その成分が多すぎると耐失透性、化学的耐久性が悪くなりやすい。したがって、NaO成分の上限は、15%であることが好ましく、10%であることがより好ましく、5%であることが最も好ましい。
【0032】
O成分は、ガラス転移点を低くすることおよびガラスの溶融性向上に効果を有する任意成分であるが、その成分が多すぎると耐失透性、化学的耐久性が悪くなりやすい。また、液相温度が上昇してガラス化が困難となりやすい。したがって、KO成分の上限は、15%であることが好ましく、10%であることがより好ましく、5%であることが最も好ましい。
【0033】
CsO成分は、上述したアルカリ金属酸化物と同等の効果が得られ、光学恒数の調整を目的として加えることができる任意成分であるが、高価な原料であるため、低価格なガラスを製造するには、CsO成分の上限が、5%であることが好ましく、3%であることがより好ましく、1%であることが最も好ましい。
【0034】
ガラス転移点を低くするためには、LiO成分とNaO成分とKO成分との合計量の下限値を1%とすることが好ましく、3%とすることがより好ましく、5%とすることが最も好ましい。また、非球面レンズ等に最適な屈折率やアッベ数等の光学恒数を得るためにLiO成分とNaO成分とKO成分との合計量の上限値を25%とすることが好ましく、15%とすることがより好ましく、12%とすることが最も好ましい。なお、NaO成分とKO成分の一部をCsO成分と代替させてもよい。
【0035】
RO成分(RはMg、Ca、Sr、Baの1種以上を示す。)は、ガラスの溶融性と安定性の向上に効果がある成分である。したがって、RO成分の含有量を17%以上とすることが好ましく、20%以上とすることがより好ましく、25%以上とすることが最も好ましい。なお、ガラスの屈折率を高め、かつ、溶融性を向上させるために、RO成分の含有量に対するBaO成分の含有量の比が0.9以上となるように含有させることが好ましく、0.95以上であることがより好ましく、0.98以上であることが最も好ましい。
【0036】
MgO成分は、ガラスの光学恒数の調整のために添加する任意成分であるが、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすく、溶融性も悪くなりやすい。したがって、MgO成分の上限は、5%であることが好ましく、3%であることがより好ましく、含まないことが最も好ましい。
【0037】
CaO成分は、ガラスの光学恒数の調整のために添加する任意成分であるが、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすい。したがって、CaO成分の上限は、5%であることが好ましく、3%であることがより好ましく、含まないことが最も好ましい。
【0038】
SrO成分は、本発明のガラス組成物において、ガラスの屈折率を高め、かつ溶融性を向上させる任意成分であるが、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすい。したがって、SrO成分の上限は、10%であることが好ましく、5%であることがより好ましく、含まないことが最も好ましい。
【0039】
BaO成分は、ガラスの屈折率を高め、かつ、溶融性を向上させる成分である。しかし、その成分が多すぎると耐失透性が悪化しやすい。したがって、BaO成分の上限は、30%とすることが好ましく、29%とすることがより好ましく、28%とすることが最も好ましい。また、BaO成分の下限は、17%とすることが好ましく、25%とすることがより好ましく、26%とすることが最も好ましい。
【0040】
Al成分は、ガラスの耐失透性、化学的耐久性を向上させる任意成分であるが、その成分が多すぎると逆にガラス化が困難となりやすく、また、ガラス転移点の上昇を招きやすい。Al成分の上限は、5%とすることが好ましく、4.5%とすることがより好ましく、4%とすることが最も好ましい。
【0041】
ZnO成分は、ガラス転移点を低下させる任意成分であるが、その成分が多すぎると化学的耐久性を悪化させやすい。したがって、ZnO成分の上限は、5%であることが好ましく、4.5%であることがより好ましく、4%であることが最も好ましい。
【0042】
Sb成分は、ガラス溶融時の脱泡剤として添加しうる任意成分であるが、その成分の上限は1%であることが好ましく、0.7%であることがより好ましく、0.5%であることが最も好ましい。
【0043】
La成分は、ガラスの屈折率を高くする任意成分である。また、アッベ数を大きくすることにも効果がある。その成分が多すぎると耐失透性が悪くなりやすい。したがって、La成分の上限は、10%であることが好ましく、5%であることがより好ましく、3%であることが最も好ましい。
【0044】
Gd成分は、耐失透性に効果がある任意成分であるが、その成分が多すぎると液相温度が高くなりやすくなる。したがって、Gd成分の上限は、10%であることが好ましく、5%であることがより好ましく、3%であることが最も好ましい。
【0045】
成分は、耐失透性に効果がある任意成分であるが、その成分が多すぎると液相温度が高くなりやすくなる。したがって、Y成分の上限は、10%であることが好ましく、5%であることがより好ましく、3%であることが最も好ましい。
【0046】
ZrO成分は、ガラスの液相温度を下げて結晶化を抑制することに効果があり、化学的耐久性も改善する効果がある任意成分であるが、その成分が多すぎるとガラス中に結晶物質が発生しやすくなる。したがってZrO成分の上限は、5%とすることが好ましく、3%とすることがより好ましく、1%とすることが最も好ましい。
【0047】
TiO成分は、屈折率を高め、液相温度を下げることに大きな効果を示す任意成分であるが、その成分が多すぎると耐失透性が悪くなりやすい。したがって、TiO成分の上限は、10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、3%未満とすることが最も好ましい。
【0048】
Nb成分は、屈折率を高め、液相温度を下げることに大きな効果を示す任意成分であるが、その成分が多すぎるとアッベ数を小さくし過ぎてしまいやすくなる。したがって、Nb成分の上限を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、3%とすることが最も好ましい。
【0049】
Ta成分は、屈折率を高め、液相温度を下げることに大きな効果を示す任意成分であるが、その成分が多すぎるとアッベ数を小さくし過ぎてしまいやすくなる。したがって、Ta成分の上限は、10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、含まないことが最も好ましい。
【0050】
WO成分は、屈折率を調整し、液相温度を下げる効果を有する任意成分であるが、その成分が多すぎるとガラスの安定性が低化しやすくなる。したがって、WO成分の上限は、10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、含まないことが最も好ましい。
【0051】
Yb成分は、屈折率を高め、アッベ数を大きくするのに有効な任意成分であるが、その成分が多すぎると耐失透性が悪くなりやすい。したがって、Yb成分の上限は、10%であることが好ましく、5%であることがより好ましく、含まないことが最も好ましい。
【0052】
GeO成分は、屈折率を高め、耐失透性を向上させるのに効果を有する任意成分であるが、原料が高価である為、使用量が制限される。したがって、GeO成分の上限は、10%であることが好ましく、5%であることがより好ましく、含まないことが最も好ましい。
【0053】
<含有させるべきでない成分>
鉛化合物は、精密プレス成形時に金型と融着しやすい成分であるという問題並びにガラスの製造のみならず、研磨等のガラスの冷間加工およびガラスの廃棄に至るまで、環境対策上の措置が必要となり、環境負荷が大きい成分であるという問題があるため、本発明のガラス組成物に含有させるべきではない。
【0054】
As成分、カドミウムおよびトリウムは、共に、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分であるため、本発明のガラス組成物に含有させるべきではない。
【0055】
成分は、本発明のガラス組成物に含有させると、耐失透性を悪化させやすいのでP成分を含有させることは好ましくない。
【0056】
TeO成分は、白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を溶融する際、Teと白金が合金化し、合金となった箇所は耐熱性が悪くなりやすいため、その箇所に穴が開き溶融ガラス流出する事故がおこる危険性が憂慮されるため、本発明のガラス組成物に含有させるべきではない。
【0057】
弗素は、レンズプリフォーム材となるゴブを作製する際に揮発による脈理等を発生するため、ゴブの作製が困難である。したがって、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0058】
前述のように本発明のガラス組成物中に混入されるPtは、紫外線励起により500nm〜700nmにおける不要な発光ピークを有する原因となる。したがって、その含有量は好ましくは10ppm以下、より好ましくは9ppm以下、最も好ましくは含有しない。さらに、本発明のガラス組成物においては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Eu、Nd、Sm、Tb、Dy、Er等の着色成分は、含有しないことが好ましい。
【0059】
[物性]
本発明のガラス組成物はガラス転移点が低いため、精密プレス成形で使用する金型の損傷を抑制し、金型の高精度な成形面を長く維持し、かつ、低い温度での精密プレス成形を可能とする。この目的を容易に達成するためには、ガラス転移点は、550℃以下であることが好ましく、530℃以下であることがより好ましく、520℃以下であることが最も好ましい。
【0060】
本発明のガラス組成物では、非球面レンズ等に求められる光学恒数を有する。本発明のガラス組成物の屈折率は、1.55以上であることが好ましく、1.56以上であることがより好ましく、1.57以上であることが最も好ましい。また、本発明のガラス組成物では、アッベ数が50以上であることが好ましく、55以上であることがより好ましく、58以上であることが最も好ましい。
【0061】
また、光学機器等の小型軽量化に伴い、ガラス組成物の比重は、低比重であることが望まれている。したがって、本発明のガラス組成物の比重は、4.0以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましく、3.2以下であることが最も好ましい。
【0062】
また、本発明のガラス組成物では、LiOの含有量が少ないため、溶融炉中のPt成分が溶解することによりガラス組成物にPt成分が混入することを極力防止、10ppm以下に抑えることができる。このため、Pt成分混入に起因する発光スペクトル(700〜500nm)ピーク(365nm励起)を有さない。すなわち、不要な赤色蛍光を発することはない。
【0063】
[プリフォームおよび光学素子]
本発明のガラス組成物は、主に加熱軟化させて精密プレス成形によってガラス成形品を得るためのプリフォームとして使用される。また、溶融ガラスをダイレクトプレスすることも可能である。プリフォームとして使用する場合、その製造方法および熱間成形方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法および成形方法を使用することができる。プリフォームの製造方法としては、例えば特開平8−319124号公報に記載のガラスゴブの成形方法や特開平8−73229号公報に記載の光学ガラスの製造方法および製造装置のような溶融ガラスから直接プリフォームを製造することもでき、また板状に成形した材料を冷間加工して製造してもよい。
【0064】
なお、プリフォームの熱間成形方法を特に限定するものではないが、例えば特公昭62−41180号公報に記載の光学素子の成形方法のような方法を使用することができる。
【0065】
本発明の光学素子は、例えば、レンズ、プリズム、ミラー等の用途に使用される。また、本発明のガラス組成物により得られる光学素子においては、溶融状態のガラスを白金等の流出パイプの流出口から滴下させて球状のプリフォームを作製する。このプリフォームを精密プレス成形によって所望の形状の光学素子を製造する。
【実施例】
【0066】
以下、本発明の実施例について述べるが、下記実施例はあくまで例示の目的であり、本発明のガラス組成物の製造方法、用途等を限定するものではない。
【0067】
表1において本発明のガラスの実施例(No.1〜No.4)および比較例(No.1〜2)の組成と共に、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、転移温度(Tg)、ガラス中に混入したPt量、並びに365nm励起光による500〜700nm蛍光ピークの有無を示す。
【0068】
表中、各成分の組成は酸化物基準の質量%で表示するものとする。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示した実施例および比較例のガラスは次のように製造した。まず、各出発原料(酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、弗化物塩等)を所定量秤量し、均一に混合した。混合した原料を石英坩堝に投入し、粗溶融の後、白金坩堝に投入し、溶解炉で1100〜1300℃で1〜5時間溶解した。その後、攪拌、均質化した後、適当な温度に下げて金型等に鋳込み、ガラス組成物を製造した。
【0071】
屈折率(nd)および、アッベ数(νd)は徐冷降温速度を−25℃/hにして得られた光学ガラスについて測定した。
【0072】
ガラス転移点(Tg)については、熱膨張測定機で昇温速度を8℃/minにして測定した。
【0073】
ガラス中の白金量については、ガラスを弗化水素酸+硝酸に溶解後、セイコー電子製、ICP質量分析計SPQ9000型で行った。
【0074】
蛍光強度の測定には、日本分光製分光蛍光光度計FP750を用いて蛍光強度を測定した。365nmの波長で励起し、500〜700nmの波長範囲における蛍光スペクトルを測定し、ピーク検出機能を使い、ピーク検出されたものについては「有」をピーク検出されなかったものについては「無」と記載した。
【0075】
表1に見られるとおり、本発明の実施例の光学ガラス(No.1〜No.4)は全て、上記特定範囲内の光学定数(屈折率(nd)およびアッベ数(ν)、)を有し、転移温度(Tg)が550℃以下であり、精密プレス成形に使用するガラスプリフォーム材および精密プレス成形に適していた。さらに紫外線励起(365nm)による500〜700nmの不要な蛍光も見られず、光学素子として好適に使用できるものであった。
【0076】
一方、比較例1および2は、好適な光学定数(屈折率(nd)およびアッベ数(ν))並びに転移温度(Tg)を有するものの、紫外線励起(365nm)による500〜700nmの不要な蛍光があるため、光学素子として好適に使用できるものでなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率が1.55以上、アッベ数が50以上の光学恒数を有するSiO−B−RO−RnO系ガラス組成物であって、(式中、RはMg、Ca、Sr、Baの1種以上、RnはLi、Na、K、Csの1種以上)
酸化物基準の質量%でLiOとNaOとKOの合計量が1〜25%、うちLiO成分含有量が12%以下であり、ガラス組成物全質量に対するPt成分含有量が10ppm以下で、ガラス転移点が550℃以下であるガラス組成物。
【請求項2】
酸化物基準の質量%で
SiO 50%以下
12%以下
RO(RはMg、Ca、Sr、Baの1種以上) 17%以上
を含有する請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
酸化物基準の質量%でROの含有量に対するBaOの含有量の比が0.9以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
365nmの励起光による発光スペクトルが500〜700nmにピークを有さないことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項5】
酸化物基準の質量%で
NaO 0〜15%および/または
O 0〜15%
を含有する請求項1から4のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項6】
酸化物基準の質量%で
MgO 0〜5%および/または
CaO 0〜5%および/または
SrO 0〜10%および/または
Al 0〜5%および/または
ZnO 0〜5%および/または
Sb 0〜1%
を含有する請求項1から5のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項7】
酸化物基準の質量%で
SiO 40〜50%および
8〜12%および
BaO 17〜30%および
LiO 1〜12%および
NaO 0〜15%および/または
O 0〜15%および/または
Al 0〜5%および/または
MgO 0〜5%および/または
ZnO 0〜5%および/または
Sb 0〜1%
を含有し、ガラス転移点が530℃以下である請求項1から6のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項8】
酸化物基準の質量%で
La 0〜10%および/または
Gd 0〜10%および/または
0〜10%および/または
ZrO 0〜5%および/または
TiO 0〜10%および/または
Nb 0〜10%および/または
Ta 0〜10%および/または
WO 0〜10%および/または
Yb 0〜10%および/または
GeO 0〜10%および/または
を含有する請求項7に記載のガラス組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のガラス組成物からなるプリフォーム。
【請求項10】
請求項9に記載のプリフォームを成形してなる光学素子。
【請求項11】
請求項1から8のいずれかに記載のガラス組成物からなる光学素子。

【公開番号】特開2008−254975(P2008−254975A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100331(P2007−100331)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】