説明

ガラス繊維マットの製造方法及び製造装置、並びにバインダの再生方法

【課題】水分を含んだバインダを効率良く再生することができ、さらには、散布性の良好な再生バインダを得る。
【解決手段】ガラスチョップドストランド9の堆積物を水で湿潤させたストランド堆積物に10、バインダ12を散布し、加熱固化させてマット状にして、ガラス繊維マットを製造する。ストランド堆積物10に散布したバインダ12のうち、ストランド堆積物10に付着せず、かつ水分を含んだバインダ12aを回収し、回収したバインダ12aを減圧乾燥手段15により乾燥させて、再生バインダ12cを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維マットの製造方法及び製造装置、並びにバインダの再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラスチョップドストランドや、ガラスコンティニュアスストランドを有機樹脂剤からなるバインダ(結合剤または2次バインダとも呼ばれる)で結合したガラス繊維マットは、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂やフェノール樹脂のような熱硬化性樹脂、またはスーパーエンプラのような熱可塑性樹脂などを母材とする構造材を補強強化する強化材として広く利用されている。
【0003】
このようなガラス繊維マットは、ガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランドを搬送ネットの上に堆積させた後、このストランド堆積物に上からバインダを散布し、次いで加熱炉内を通過する際に加熱し、その後冷却して固化させることにより製造される(例えば、下記の特許文献1〜2)。
【0004】
この際、ストランド堆積物に散布されるバインダは乾燥した粉末状であるため、バインダがストランド堆積物の空隙部、および搬送ネットの隙間を通じて落下してしまい、ストランド堆積物に十分にバインダを付着させることができないという問題が生じていた。
【0005】
そこで、バインダを散布する前にストランド堆積物を予め水で湿潤させておき、バインダがストランド堆積物に付着し易くなるようにする手法がとられる場合がある。すなわち、搬送ネット上にシート状に堆積したストランド堆積物に予め水を均等に散布し、次いで濡れたストランド堆積物上にバインダを散布することにより、散布されたバインダがストランド表面に付着した水を介してストランド表面に付着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−138861号公報
【特許文献2】特開平7−310268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のように水で湿潤させたストランド堆積物にバインダを散布しても、散布したバインダの一部は、ストランド堆積物を構成するストランドの表面に付着せずに、ストランド間の空隙や搬送ネットのネット間隙を通り抜けてしまう。そして、ストランド表面に付着しなかったバインダの多くは、このまま廃棄すると、大量の産業廃棄物を発生させることとなり、また、付着しなかったバインダの破棄により、ガラス繊維マットの製造工程に新たなバインダを大量に投入する必要が生じる。このため製造コストの低廉化及び環境の観点から、ストランド表面に付着しなかったバインダは回収して再利用するのが好ましい。
【0008】
その一方で、ストランド表面に付着しなかったバインダは、水で湿潤したストランド堆積物中を通過するため、水分を含んだ状態となっている(多くの場合、水分はバインダ粒子の表面に付着した状態で残存するが、水分の一部がバインダ粒子に吸収された状態で残存する場合もある)。そのため、再利用に際しては、バインダに含まれる水分を十分に除去して乾燥した状態に戻す必要がある。これは、再利用するバインダに水分が残存していると、バインダ粒子同士が塊状(フロック状ともいう)に凝集してしまい、ストランド堆積物に均等に散布することができず、ストランド間の結合状態が不均一になるためである。
【0009】
また、この種のバインダは水の沸点に近い温度で軟化するため、水分を含んだ状態のバインダを加熱乾燥すると、バインダ粒子が軟化して塊状に凝集し、均一な散布が困難になってしまうおそれがある。そのため、バインダ粒子が乾燥中に軟化しないように、天日干しや室内の恒温恒湿室などを使用して、回収したバインダを低温状態で長時間掛けてゆっくり乾燥しているのが実情であり、バインダを効率よく再生できないという問題があった。
【0010】
また、この種のバインダは比較的微粒の粉末であるため、搬送や貯蔵などの取り扱い時に帯電を起こし易い。バインダ粒子が帯電すると、ストランド堆積物上に散布する際に、凝集物を形成して散布すべき箇所に偏りなく散布することができなくなる不具合が生じ易いという問題もあった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、水分を含んだバインダを効率良く再生することができ、さらには、散布性の良好な再生バインダを得ることができるようにすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、ガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランドの堆積物を水で湿潤させたストランド堆積物に、バインダを散布し、加熱固化させてマット状にするガラス繊維マットの製造方法において、ストランド堆積物に散布したバインダのうち、ストランド堆積物に付着せず、かつ水分を含んだバインダを回収し、この回収したバインダを減圧乾燥処理により乾燥させて、ストランド堆積物に散布するバインダとして再利用することに特徴づけられる。本発明において、「水分を含んだバインダ」には、バインダ粒子の表面に水分が付着した状態のバインダ、バインダ粒子に水分が吸収された状態のバインダ、これら双方の状態が混在したバインダが含まれる。
【0013】
このような方法によれば、回収したバインダ(水分を含んだバインダ)は減圧乾燥処理により乾燥されることから、乾燥処理時にバインダ粒子が軟化して塊状に凝集するという事態を防止しつつ、比較的短時間で乾燥させることが可能となる。したがって、天日干しや恒温恒湿室等により乾燥させる従来方法に比べて、バインダの再生効率を大きく向上させることが可能となる。
【0014】
上記の方法において、バインダが、平均粒子径1nm以上200μm以下の帯電防止剤を含有してなるものであることが、バインダの十分な流動性を確保するという点から好ましい。
【0015】
すなわち、このようにすれば、バインダ粒子同士の凝集などを防いで、均等な散布を行うことが容易になるからである。帯電防止剤の平均粒子径が1nm未満であると、粒度が細かすぎてバインダ粒子と均一に混合(分散)されず、帯電防止剤がバインダ中で偏在し易くなり、その結果、帯電防止効果が十分に発揮されない場合がある。一方、帯電防止剤の平均粒子径が200μmを越えると、粒度が粗くなりすぎるため、十分な帯電防止性を発揮させるには大量の帯電防止剤を使用する必要性が生じ、経済的に好ましくない。また、ストランド堆積物のストランド表面に付着するバインダの存在比率が低下することにもなるので、バインダによるストランド同士の結合が十分に得難くなり、マットの強度低下にも繋がる。このようなバインダの流動特性(散布性)を向上させるという点から、帯電防止剤の平均粒子径は5nm以上50μm以下とすることが更に好ましい。
【0016】
また、上述に加えて、バインダが含有する帯電防止剤は、質量換算でバインダ(バインダと帯電防止剤の質量合計:水分の質量は含まない:以下同じ)に対して0.025質量%以上0.5質量%以下の含有量とすることが好ましい。
【0017】
このような含有量とするならば、バインダの梱包袋、例えばフレキシブルコンテナ(フレコンとも称する)へのバインダの搬送時における取り扱いを容易なものとし、帯電による流動特性の悪化などによって、バインダ散布時に不均等な散布が行われることに起因するガラス繊維マットの品質低下を防ぐことができ、ガラス繊維強化樹脂材等のガラス繊維マット使用品の品質を向上させる点で有利となる。すなわち、経済的かつ効率的にバインダの流動性(散布性)を確保することが可能になる。
【0018】
帯電防止剤のバインダ中の含有量は、0.025質量%より少ないと十分な帯電防止効果が得られず、また0.5質量%より多くなると含有量の割にそれ以上の流動性が得られることもなく経済的ではない。このような観点から帯電防止剤のバインダ中の含有量は、より好ましくは0.1質量%以上0.3質量%以下とすることである。
【0019】
本発明に係る帯電防止剤としては、上述した粒状(又は粉状)であって帯電防止効果を発揮できるものであれば特に限定するものではない。本発明に適用できるものとしては、無機塩、無機有機ハイブリッド体、あるいはセラミックス系、セラミックスハイブリッド系あるいはカーボン系の帯電防止剤が好ましく、具体的には酸化アルミニウム(Al)、非晶質アルミナ(a−Al)、二酸化ケイ素(SiO)、非晶質シリカ(a−SiO)、カーボン(C)、含水性樹脂材(例えばポリアクリラマイド)等が好ましい。また界面活性剤等のように、一分子中に正電荷と負電荷とを合わせもつ分子を含有するものについても、本発明に関わるバインダの機能を阻害することなく、ガラス繊維マットになった後の各種性能に悪影響を及ぼさないものであれば使用してよい。
【0020】
また、上記の方法において、減圧乾燥処理は、回収したバインダ(水分を含んだバインダ)を撹拌しながら行うものであることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、水分を含んだバインダの効率的な乾燥が促され、バインダの乾燥をより短時間で行うことが可能となるため、バインダの再生効率を向上させる点で非常に有利となる。
【0022】
上記の方法において、バインダは、ポリエステル系樹脂であることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、ガラスチョップドストランド同士、又はガラスコンティニュアスストランド同士をバインダによって強固に結合させることが可能となるため、様々な構造材を補強することのできるガラス繊維マットを製造することが可能となる。
【0024】
また、上記の方法において、バインダを構成するポリエステル系樹脂が、ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂であるならば、バインダによって強固に結合されたマットに適度な柔軟性を付与することが可能であるため好ましい。
【0025】
さらに、上記の方法において、回収したバインダ(水分を含んだバインダ)の減圧乾燥処理に関し、減圧乾燥処理の前、最中、及び後の中から選択される少なくとも一の段階で該バインダに帯電防止剤を混合するようにしても良い。ストランド堆積物に付着せずに回収されたバインダは、散布する段階では帯電防止剤を含んでいたとしても、水で湿潤されたストランド堆積物中を通過する間及び/又は通過した後に帯電防止剤が分離されて帯電防止機能が消失し又は低下してしまうことがある。回収したバインダに対して、減圧乾燥処理の前、最中、及び後の中から選択される少なくとも一の段階で帯電防止剤を混合(添加)することにより、帯電防止機能を再生することができる。
【0026】
減圧乾燥処理中に帯電防止剤を混合する場合、減圧乾燥装置を稼動させながら徐々に帯電防止剤を添加したり、ある所定時間まで乾燥した後に一度に添加したりしてもよい。ただ製造効率からすると、減圧乾燥装置を止めたりすることなく処理できることが好ましく、さらに減圧乾燥装置を複雑な構成とする必要がないという観点から、減圧乾燥処理の前及び/又は後の段階で帯電防止剤を混合することがより好ましい。
【0027】
また、上記問題を解決するための本発明のバインダの再生方法は、水分を含んだバインダ中の水分を分離して、バインダを再生するバインダの再生方法であって、水分を含んだバインダを減圧乾燥処理により乾燥させて、該バインダ中の水分を1質量%以下にまで低下させることを特徴とする。
【0028】
このような再生方法であれば、水分に起因するバインダ粒子同士の凝集を抑制することができ、バインダとしての安定した結合性能を発揮させることが容易になる。水分量が1質量%を超えると散布や貯蔵などの各種工程で分散性に支障が生じる場合があるので好ましくない。ここで、「水分を含んだバインダ」としては、例えば次のようなものがある。すなわち、上述したように水で濡れたストンド堆積物上に散布された後に、ストランド間の空隙や搬送ネットのネット間隙を通り抜け搬送ネットの下方へと落下してしまうことによって発生したバインダ、ネット間隙を通り抜けて装置周辺に付着したバインダ、ストランド堆積物に一旦付着したものの振動等によって周囲に飛散したバインダ、ストランド堆積物に一旦散布したが製造工程に何らかの問題が生じたために加熱固化前に回収を余儀なくされたバインダ等、様々な理由で発生した余剰となってしまったバインダである。
【0029】
また、この発明におけるバインダは、主にガラス繊維としてのストランド同士を結合するためのものであるが、ホットメルトタイプの接着剤など、他の用途に適用するものであってもよい。
【0030】
また、本発明のバインダの再生方法は、上述に加え、減圧乾燥処理が、撹拌操作を伴う処理であるならば、乾燥効率を高めて、バインダを効率良く再生することができる。
【0031】
上記の撹拌操作は、一定速度の撹拌操作であっても、プログラムなどによって変則的に撹拌速度を変更する撹拌操作、正転と逆転とを繰り返すような撹拌操作であってもよい。
【0032】
本発明のバインダの再生方法は、ガラスチョップドストランドマット又はガラスコンティニュアスストランドマットの堆積物を水で湿潤させたストランド堆積物に散布されるバインダに好適である。
【0033】
また、本発明のバインダの再生方法は、上述に加え、水分を含んだバインダの減圧乾燥処理に関し、減圧乾燥処理の前、最中、及び後の中から選択される少なくとも一の段階で該バインダに帯電防止剤を混合するようにしてもよい。これにより、帯電防止機能を再生して、減圧乾燥処理後に行われる各種操作、例え梱包作業などの際にバインダ粒子に帯電が発生するのを確実に抑制することができる。
【0034】
上記課題を解決するために創案された本発明に係る装置は、ガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランドの堆積物を水で湿潤させたストランド堆積物に、バインダを散布し、加熱固化させてマット状にするガラス繊維マットの製造装置において、ストランド堆積物に散布したバインダのうち、ストランド堆積物に付着せず、かつ水分を含んだバインダを回収する回収手段と、該回収手段で回収したバインダを減圧乾燥処理により乾燥させる減圧乾燥手段とを備えていることに特徴づけられる。
【0035】
このような構成によれば、前述同様の作用効果を享受することができる。
【0036】
上記の装置において、減圧乾燥手段が、水分を含んだバインダを撹拌する撹拌手段を備えたものであると、バインダの乾燥効率を高めることができる。また、バインダの種類や量等に応じて撹拌手段を適宜変更して最適な効率を実現できる。例えば、撹拌手段として、回転する撹拌子を用いることができる。この撹拌子は、翼の本数や形状等を必要に応じて適宜変更することができ、また、2基以上配設することもできる。あるいは、撹拌子以外の撹拌機構、例えば水分を含んだバインダを収容した器体を転動させる構造のものや、撹拌子の回転方向と逆回転する別の翼を設けたものでもよい。また、撹拌以外の振動や揺動などの機械的な動作を伴わせる構造として、撹拌機構と併用させるものであってもよい。
【0037】
また、本発明に係るガラス繊維マットの製造方法や製造装置では、必要に応じてバインダの散布量や散布状態等を調整する装置を付加した構成としてもよい。例えば、散布速度を調整するため、散布装置のバインダ散布口に絞り構造を取り付ける、散布装置のバインダ散布口の配置位置を任意に調整できる構造とする、バインダを一層均一に散布できるように搬送ネット近傍の気流状態を調整する装置を組み込む等の構成を付加してもよい。
【0038】
また、本発明に係るガラス繊維マットの製造方法や製造装置では、必要に応じてストランド堆積物を湿潤させる水に、ストランド堆積物のストランドに対する付着性を向上させ、しかも製造物であるガラス繊維マットの品位に影響を及ぼさない添加物を配合してもよい。例えば、pH調整剤、気泡剤等を上記の水に添加してもよい。ただ、このような添加剤の配合が、加熱によるバインダの軟化、溶融や固化に大きな影響を及ぼさないものであることが重要である。
【0039】
また、本発明に係るガラス繊維マットの製造方法では、上述した帯電防止剤の他にも必要に応じてバインダに重合禁止剤、重合促進剤、酸化防止剤、あるいは着色剤等の添加剤を所定量配合してもよい。
【発明の効果】
【0040】
以上のように、本発明によれば、水分を含んだバインダを効率良く再生することができ、さらには、散布性の良好な再生バインダを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係るガラス繊維マットの製造装置の基本構成を概念的に示す図である。
【図2】図1に示す製造装置の減圧乾燥手段を示す概念図である。
【図3】図2に示す減圧乾燥手段の撹拌子の先端部を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0043】
図1に示すように、この実施形態のガラス繊維マットの製造装置1は、基本的な構成として、ガラスストランド回巻体2と、切断刃3と、搬送ネット4と、散水手段5と、バインダ散布手段6と、加熱炉7とを備える。
【0044】
切断刃3は、ガラスストランド回巻体2から引き出されたガラスストランド8を所定長さに切断してガラスチョップドストランド9とし、これらガラスチョップドストランド9は搬送ネット4上に堆積してストランド堆積物10を形成するようになっている。搬送ネット4は、ストランド堆積物10を下流側に順次搬送するようになっている。散水手段5は、搬送ネット4によって搬送されてくるストランド堆積物10に対して上方から水11を噴霧するように配設された噴霧器である。バインダ供給手段6は、散水手段5によって噴霧された水11により湿潤したストランド堆積物10(以下、「含水ストランド堆積物10」という。)に対して上方からバインダ12を散布するようになっている。加熱炉7は、バインダ12が散布された含水ストランド堆積物10を加熱するもので、この加熱によりチョップドストランド9同士がバインダ12を介して結合してガラスチョップドストランドマット13が製造されるようになっている。
【0045】
そして、かかる製造装置1は、特徴的な構成として、回収手段としての回収槽14と、図2に示す減圧乾燥手段15とを備える。
【0046】
回収槽14は、バインダ供給手段6から散布されるバインダ12のうち、含水ストランド堆積物10に付着せずに搬送ネット4の下方へ落下したバインダ12を回収するために、搬送ネット4の下方に配置されている。すなわち、バインダ散布手段6から散布されたバインダ12の一部は、含水ストランド堆積物10の空隙部及び搬送ネット4の隙間を通じて落下し、回収槽14内に回収されるようなっている。なお、図示しないが、搬送ネット4の周囲に飛散したバインダ12を回収槽14へと導くガイド手段を設けておき、バインダ12の回収率を向上させるようにしてもよい。
【0047】
この回収槽14で回収されるバインダ12は、その多くが含水ストランド堆積物10を通じて落下したものであるので、水分を含んだ状態となる(以下、このバインダを「含水バインダ12a」という。)。そのため、回収された含水バインダ12aを含水ストランド堆積物10に散布するバインダ12として再利用するためには、含水バインダ12aを乾燥させる必要がある。一方、バインダ散布手段6から散布されるバインダ12としては、例えばビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂を主成分とするものが使用されるが、一般に軟化点が水の沸点(100℃)と近い温度(ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂では、軟化点は約115℃)であるものが多く、水の蒸発が促進される温度まで加熱して乾燥処理すると、バインダが軟化する可能性がある。
【0048】
そこで、この回収槽14に所定量の含水バインダ12aが回収された段階で、回収槽14内の含水バインダ12aを、次のような手順で減圧乾燥手段15に投入して減圧乾燥処理を行うことにしている。
【0049】
この減圧乾燥手段15の概念図を図2に示す。減圧乾燥手段15は耐圧性容器16を有し、耐圧性容器16の上部に投入口16a、下部に取出口16bがそれぞれ設けられている。回収槽14で回収された含水バインダ12aは、予め帯電防止剤が混合され、含水バインダ12b(帯電防止剤添加品)とされた状態で、投入口16aから耐圧性容器16の内部に投入される。帯電防止剤は、例えば平均粒子径が1μm〜20μmのシリカ粒子である。この帯電防止剤は、バインダの散布の際にバインダ粒子同士の凝集によって引き起こされる偏析(セグリゲーション)を抑制し、また、乾燥後のバインダをフレキシブルコンテナ等の容器内に貯蔵したり搬送したりする際に、各工程で容器等の表面に静電気によってバインダが付着して作業性の低下をきたすような事態を防止するために有益である。ここで平均粒子径が1μm〜20μmのシリカ粒子は、バインダ全量に対して0.2質量%となるように添加すれば、減圧乾燥中に均等に混合され、事前に混合作業を行う必要はない。
【0050】
耐圧性容器16は、脱気口16cから減圧ポンプ17によって内部の気体を脱気することにより、耐圧性容器16内の気圧が減圧されるようになっている。具体的には、耐圧性容器16は、減圧ポンプ17により、例えば、大気圧1013hPaに対して20〜500hPa程度まで減圧され、内部に投入された含水バインダ12bが減圧乾燥されるようになっている。
【0051】
また、耐圧性容器16の内部には、撹拌翼等の撹拌子18が配設されており、この撹拌子18が耐圧性容器16の外部に設けられた図示しないモータによって、例えば60回転/分の回転速度で回転し、投入された含水バインダ12bを撹拌するようになっている。
【0052】
また、含水バインダ12bからは水分が水蒸気になって耐圧性容器16の脱気口16cから吸引されていくが、この際に、水蒸気と共にバインダ粒子も極僅かに吸引される。そのため、吸引されたバインダ粒子によって減圧ポンプ17が損耗・損傷することがないように、本実施形態では、減圧ポンプ17が、多孔質材からなる1次トラップ19、水フィルタからなる2次トラップ20、及びコンデンサ21を介して耐圧性容器16の脱気口16cに接続されている。これにより、吸引される水蒸気に含まれる非常に微細な数μmから数百μmのバインダ粒子のうち特に粗い粒子については1次トラップ19で捕捉するようにしている。また更に細かい粒子については、その下流側に設けられた2次トラップ20で捕捉するようにしている。そして、1次トラップ19と2次トラップ20を通過した水蒸気がコンデンサ21で冷却されて、水として回収されるようになっている。
【0053】
さらに、図示しないが、含水バインダ12bが固結しない程度の温度の温水(例えば40℃程度)が耐圧性容器16を構成する壁内に循環されている。これにより、含水バインダ12bを温めて水分の気化を促進するようにしている。
【0054】
このような操作により含水バインダ12bから水分を十分に除去した後、減圧乾燥処理を終了し、耐圧性容器16の下方に設けられた取出口16bから乾燥した再生バインダ12cを取り出す。
【0055】
次に、以上のように構成されたガラス繊維マットの製造装置1の動作を説明する。
【0056】
まず、ガラスストランド回巻体2から引き出されたガラスストランド8が、切断刃3によって所定長さ(例えば50mm程度)に切断され、ガラスチョップドストランド9として搬送ネット4上に堆積され、ストランド堆積物10が形成される。次いで、このストランド堆積物10を搬送ネット4によって下流側に搬送しながら、水供給手段5によりストランド堆積物10に対して上方から水11を噴霧して湿潤させた後、バインダ供給手段6により湿潤した含水ストランド堆積物10に対して上方からバインダ12が散布される。その後、このバインダ12が散布された含水ストランド堆積物10は、搬送ネットに載せられた状態で加熱炉7内を通過して加熱されることにより、ガラスチョップドストランド9に付着したバインダ12が軟化又は溶融し、その後、冷却固化することにより、ガラス繊維マット13が製造される。
【0057】
このような一連の製造工程の中で、含水ストランド堆積物10に付着せずに搬送ネットの下方へと落下した含水バインダ12aは、搬送ネット4の下方に配置された回収槽14によって回収される。含水バインダ12aの含水率(水分率、水分量とも呼ぶ)は、例えば7質量%から10質量%の範囲となっている。この回収槽14には所定量の含水バインダ12aが回収される。この回収した含水バインダ12aには、上述のように、平均粒子径が1μm〜20μmのシリカ粒子が帯電防止剤として添加される。
【0058】
以上のように調整された含水バインダ12b(帯電防止剤添加品)は、減圧乾燥手段15の耐圧性容器16内に投入される。
【0059】
耐圧性容器16内に投入された含水バインダ12bは、減圧ポンプ17により減圧乾燥される。この際、含水バインダ12bは、耐圧性容器16内に配設された撹拌子18により撹拌される。これにより、水分によって相互に密着した含水バインダ12bを細かく解砕することができると共に、帯電防止剤を均等に混合することができ、含水バインダ12bの減圧乾燥処理を一層効率良く行うことが可能となる。したがって、含水バインダ12bに含まれる水分を短時間で分離・乾燥することが可能となると共に、局所的に水分が残存するという事態が生じ難くなることから、高い散布性を有する再生バインダ12cを短時間で得ることが可能となる。
【0060】
具体的には、このようにして得られた再生バインダ12cの水分量は、例えば、質量百分率表示で0.5質量%未満とすることができ、またその平均粒径も200μm程度とすることができる。したがって、再生バインダ12cには、粒子がフロック状(塊状)となって存在せず、高い散布性を確保することが可能となる。よって、かかる再生バインダ12cを上述したバインダ供給手段6に投入して散布すれば、効率的なバインダ12の再利用を実現することができる。
【0061】
また、再生バインダ12cは、1回当たりの乾燥処理量の増加に伴い、上記の含水率よりも多い水分を含んだものであってもよく、例えば0.5質量%以上0.8質量%未満の水分を含んだものであってもよい。あるいは、乾燥処理量や平均粒径の変動に伴い、上記の含水率よりも少ない水分を含んだものであってもよく、例えば0.3質量%以上0.4質量%未満の水分を含んだものであってもよい。さらに、再生バインダ12cは、平均粒径が200μmよりも小さい、例えば100μm以上190μm以下の平均粒径を有するものであっても何ら支障はない。
【0062】
また、減圧乾燥した後に再生バインダ12cに分級処理を施すようにしてもよい。このようにすれば、再生バインダ12cは適正な粒度に調整することができ、また再生バインダ12cに含まれる異物を取り除くことも可能となる。
【0063】
なお、本発明の製造方法に従って製造されるガラスチョップドストランドマット13では、含水ストランド堆積物10に対する再生バインダ12cの付着量が、マットの総質量に対して2〜20質量%の範囲内となる。ここで、マットの総質量は、バインダ込みの質量である。このようにすれば、再生バインダ12cに加熱処理を施すことによって強靭で、高い補強性を有するガラス繊維マット13を製造することができる。また、本発明の製造方法で含水ストランド堆積物10に散布するバインダは、その全量が再生バインダ12cであってもよく、あるいは、その一部が再生バインダ12cであってもよい。いずれにしてもマットへの付着量は同じ量となる。
【0064】
さらに、上記の実施形態では、ガラスチョップドストランド9を使用した場合を例示して説明したが、勿論、本発明はガラスコンティニュアスストランドを使用した場合についても同様に適用することができる。
【0065】
また、本発明に係る装置に使用する撹拌子18は、様々な形態のものをバインダの種類や量に応じて使い分けてよい。図3は、撹拌子18の形状例を示している。図3(A)に示す撹拌子18は、翼軸18aの先端に平板状の翼18bを配設したものである。図13(B)に示す撹拌子18は、バインダ量を増やす場合に有効なものであり、翼18bを平板状ではなく、屈曲した形状にし、撹拌時にバインダの一部を逃げやすくすることによって過剰な負荷を軽減させるように配慮したものである。図13(C)に示す撹拌子18は、翼18bの屈曲角度を図3(B)よりも大きくして、翼軸18aに配設したものである。翼18bの形状は、これらの例に限られず、適宜改良した形状の翼を採用することが可能である。
【実施例1】
【0066】
本発明者らは、バインダに関して以下に示す試験を実施し、バインダの再生結果を評価した。
【0067】
バインダの再生条件と再生結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
まず、実施例である評価No.1では、帯電防止剤として水澤化学工業製の球状合成シリカ(平均粒径7μm)をバインダ全量に対して0.2質量%となるように添加した含水バインダ12b(水分量は10質量%)を、上述した製造装置1の減圧乾燥手段15{撹拌子18は図3(B)に示すものを使用}により減圧処理を行いながら3時間に亘り乾燥処理を行った。このような減圧乾燥処理によって得られた再生バインダの水分率を、カールフィッシャー水分計(平沼産業株式会社製)を使用して計測したところ、0.5質量%と十分に低く、乾燥に伴って発生が懸念される凝集物は認められずフロック性も良好であった。また、この再生バインダを使用してガラス繊維マットを製造し、得られたガラス繊維マットについて引張強度の計測や目視観察を行って、再生バインダの散布性を総合的に評価したところ、良好な結果が得られた。
【0070】
実施例である評価No.2では、帯電防止剤としてシリカ粒子に代えて一次粒子の平均粒子径13nmのAEROXIDER(登録商標) ALuC(高温加水分解法により得られた酸化アルミニウム)を使用し、この帯電防止剤をバインダ全量に対して0.3質量%となるように添加した含水バインダ12b(水分量は10質量%)を評価No.1と同様の条件で減圧乾燥処理した。また、評価No.1と同様に評価したところ、再生バインダの水分率は0.6質量%と十分に低く、バインダの凝集などは生じておらずフロック性は良好であり、散布性についても支障のないものであった。
【0071】
実施例である評価No.3では、帯電防止剤としてシリカ粒子に代えてアニオン系界面活性剤を使用し、含水バインダ12b(水分量は7質量%)を評価No.1、2と同様の条件で減圧乾燥処理した{撹拌子18は図3(C)に示すものを使用}。また、評価No.1、2と同様の評価を行ったところ、再生バインダの水分率は0.8質量%と低く、バインダの凝集などは生じておらずフロック性は良好であり、散布性についても問題のないものであった。
【0072】
実施例である評価No.4では、帯電防止剤として評価No.1とは異なる結晶性シリカ粒子粒度調整品(平均粒径6μm)を使用した。また、減圧乾燥処理も上述した減圧乾燥手段15とは異なる装置を用いて行った。すなわち、図示は省略するが、この評価で用いた減圧乾燥装置は、バッチ式の縦型円筒形状の被加熱物質保持容器を配設した乾燥機に振動モータによって発生させた振動を付与するもので、この振動を受けて、含水バインダ12b(水分量は9質量%)は上記容器内で円周方向の旋回運動と上下運動を伴いながら乾燥させる。この減圧乾燥装置を使用して、大気圧よりも低い減圧下で3時間の減圧乾燥処理を行った。上記と同様に評価したところ、再生バインダの水分率は0.5質量%と十分に低く、バインダの凝集などは生じておらずフロック性も良好で、散布性についても支障のないものであった。
【0073】
次に、比較例として、評価No.5を行った。
【0074】
試料No.5は、評価No.1と同じ帯電防止剤を使用し、同様の条件で評価を行ったものであるが、乾燥の際に減圧処理を行わなかった点において評価No.1と異なる。得られた再生バインダは、水分率、フロック性、散布性の3点について問題のないものであったが、この再生バインダを得るのに必要な乾燥処理時間は実に10時間にも達し、再生効率の点で問題があった。
【0075】
実施例の評価No.1〜評価No.4と、比較例の評価No.5とから、本発明によれば、水分を含んだバインダを効率良く再生することができ、かつ、散布性や帯電防止性に優れた再生バインダを得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0076】
1 ガラス繊維マットの製造装置
2 ガラスストランド回巻体
3 切断刃
4 搬送ネット
5 散水手段
6 バインダ散布手段(バインダ散布装置)
7 加熱炉
8 ガラスストランド
9 ガラスチョップドストランド
10 ストランド堆積物,含水ストランド堆積物
11 水
12 バインダ
12a 含水バインダ
12b 含水バインダ(帯電防止剤添加品)
12c 再生バインダ
13 ガラスチョップドストランドマット
14 回収槽
15 減圧乾燥手段
16 耐圧性容器
17 減圧ポンプ
18 撹拌子
18a 撹拌子の翼軸
18b 拡張子の翼
19 1次トラップ
20 2次トラップ
21 コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランドの堆積物を水で湿潤させたストランド堆積物に、バインダを散布し、加熱固化させてマット状にするガラス繊維マットの製造方法において、
前記ストランド堆積物に散布した前記バインダのうち、前記ストランド堆積物に付着せず、かつ水分を含んだバインダを回収し、該回収したバインダを減圧乾燥処理により乾燥させて、前記ストランド堆積物に散布するバインダとして再利用することを特徴とするガラス繊維マットの製造方法。
【請求項2】
前記バインダが、平均粒子径1nm以上200μm以下の帯電防止剤を含有してなることを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維マットの製造方法。
【請求項3】
前記減圧乾燥処理が、前記回収したバインダを撹拌しながら行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガラス繊維マットの製造方法。
【請求項4】
前記バインダが、ポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガラス繊維マットの製造方法。
【請求項5】
前記ポリエステル系樹脂が、ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項4に記載のガラス繊維マットの製造方法。
【請求項6】
前記回収したバインダの前記減圧乾燥処理に関し、該減圧乾燥処理の前、最中、及び後の中から選択される少なくとも一の段階で該バインダに帯電防止剤を混合することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のガラス繊維マットの製造方法。
【請求項7】
水分を含んだバインダ中の水分を分離して、該バインダを再生するバインダの再生方法であって、
前記水分を含んだバインダを減圧乾燥処理により乾燥させて、該バインダ中の水分を1質量%以下にまで低下させることを特徴とするバインダの再生方法。
【請求項8】
前記減圧乾燥処理が、撹拌操作を伴う処理であることを特徴とする請求項7に記載のバインダの再生方法。
【請求項9】
前記バインダが、ガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランドの堆積物を水で湿潤させたストランド堆積物に散布されるものであることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のバインダの再生方法。
【請求項10】
前記水分を含んだバインダの前記減圧乾燥処理に関し、該減圧乾燥処理の前、最中、及び後の中から選択される少なくとも一の段階で該バインダに帯電防止剤を混合することを特徴とする請求項7から請求項9の何れかに記載のバインダの再生方法。
【請求項11】
ガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランドの堆積物を水で湿潤させたストランド堆積物に、バインダを散布し、加熱固化させてマット状にするガラス繊維マットの製造装置において、
前記ストランド堆積物に散布した前記バインダのうち、前記ストランド堆積物に付着せず、かつ水分を含んだバインダを回収する回収手段と、該回収手段で回収した前記バインダを減圧乾燥処理により乾燥させる減圧乾燥手段とを備えていることを特徴とするガラス繊維マットの製造装置。
【請求項12】
前記減圧乾燥手段が、前記回収したバインダを撹拌する撹拌手段を備えていることを特徴とする請求項11に記載のガラス繊維マットの製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−256866(P2009−256866A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76441(P2009−76441)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(507420732)電気硝子ファイバー加工株式会社 (7)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】