説明

ガラス表面微細構造の作成方法

【課題】ガラス表面そのものを容易に微細構造制御し、ガラス表面に微細構造を作成するガラス表面微細構造の作成方法を提供する。
【解決手段】
ガラス組成が、100%二酸化珪素(SiO)ではないガラス基板を、pH7以上のアルカリ水溶液に浸漬し、60〜250℃の温度で、0.5〜48時間保持し、その後ガラス基板を取り出して洗浄乾燥させることを特徴とするガラス表面微細構造の作成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス表面微細構造の作成方法に関し、より詳しくは、ガラス表面の溶解再析出による表面微細構造の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノ構造を有する材料はあらゆる分野での応用に富み、多くの研究開発がなされている。しかしながら、アモルファスであるガラスを用いて、微細構造をナノメートルスケールで制御し、ナノシートやナノワイヤーといった二次元、一次元でする技術はいまだ無い。安価な材料で、簡易かつ安価な方法でガラスのナノ構造制御を行うためには、ガラス表面そのものを容易に微細構造制御することが最も必要な技術であると考えられる。
現状では、トップダウンプロセスや、プラズマ処理(非特許文献1)によって凹凸構造を作製しているが、高額な装置、装置の製造の際の工程が多い、量産が困難という問題があるうえ、当然、ナノシートやナノワイヤーといった二次元、一次元ナノ構造ではない。
高分子の自己集合を利用してガラス上に微細構造を形勢させる方法もあるが、安定な無機材料による微細構造の制御が望ましい。安価な材料で、簡易かつ安価な方法で、短時間で作製するには、ガラス表面そのものを容易に微細構造制御することが最も必要な技術であると考えられる。本発明者は、微細構造を作成したガラス表面を用いて、当該ガラス表面に、シラン化合物をコーティングすることにより、超撥水性のガラス表面を作り出すことに成功し、すでに、特許出願をしている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特願2006-289386
【非特許文献1】DEVELOPMENT OF A TRANSPARENT AND ULTRAHYDROPHOBIC GLASS PLATE OGAWA K,SOGA M, TAKADA Y, NAKAYAMA I JAPANESE JOURNAL OF APPLIEDPHYSICS PART 2-LETTERS 32 (4B): L614-L615 (1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ガラス表面そのものを容易に微細構造制御し、ガラス表面に微細構造を作成するガラス表面微細構造の作成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は、ガラスに塩基性水溶液を用いることによって、表面をエッチングし、溶解再析出によってガラス表面にナノメートルスケールの凹凸や、ナノシート、ナノワイヤーなどを作製するガラスのナノ微細加工技術を開発した。
すなわち、本発明は、ガラス組成が、100%二酸化珪素(SiO)ではないガラス基板を、pH8以上のアルカリ水溶液に浸漬し、90〜250℃の温度で、0.5〜48時間保持し、その後ガラス基板を取り出して洗浄乾燥させることを特徴とするガラス表面微細構造の作成方法である。
また、本発明は、ガラス基板が、ホウケイ酸ガラス、クラウンガラス(白板)、ソーダ石灰ガラス、アルミノシリケートガラスから選ばれるガラスとすることができる。
さらに、本発明は、アルカリ水溶液に用いられるアルカリ剤が、アルカリとしてLiOH,NaOH,KOH、MnOOH、NH4OH、尿素からなる群れより選ばれる1種或いは数種を用いることができる。
また、本発明は、アルカリ水溶液がpH9〜11のNaOHであり、アルカリ水溶液の温度が95〜200℃であり、浸漬時間が1〜24時間とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明のガラス表面微細構造の作成方法は、簡単にガラス表面に適用することが出来、本発明の作成方法で得られたガラス表面微細構造は、ラウリン酸のような本来の接触角が75度のような親水性に分類されるものをコートした場合も超撥水特性を示し、優れたナノ構造制御であることも実証され、また、シラン化合物をコーティングすることにより、撥水よりも困難な撥油膜も達成した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で用いるガラス基板の材質としては、石英ガラス、溶融石英ガラス、シリカガラス、など100%二酸化珪素(SiO)であるガラス以外であれば、どのようなガラスでも良い。石英ガラス、溶融石英ガラス、シリカガラス、など100%二酸化珪素(SiO)であるガラスの場合は塩基性溶液中で溶解するのみで再析出は起こらないため、異種金属と混合されているガラスを用いることが重要である。
好適には市販の各種組成を有するガラス(ホウケイ酸ガラス(パイレックスガラスおよびテンパックスガラス)、クラウンガラス(白板)、ソーダ石灰ガラス(青板)、アルミノシリケートガラス(コーニング1737)を用いることが出来る。
本件発明において用いた各種ガラスの成分の概要を表1に示した。
【0007】
【表1】

Caを含まないテンパックス、パイレックスでも微細構造制御は可能であるが、クラウンガラス(白板)、ソーダ石灰ガラス(青板)、アルミノシリケートガラスのようにCaを含むガラスが、ナノシート、ナノワイヤー構造を作製するのに望ましい。
【0008】
さらに、本発明においては、アルカリ溶液をpH8以上とすることができる。
また、本発明は、ガラス基板を、pH8以上のアルカリ水溶液に浸漬し、90〜250℃の温度で、0.5〜48時間保持し、その後取り出して洗浄乾燥させ、フッ素を含まないヘキシルトリメトキシシラン若しくはフッ素を含むヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランを塗布し、硬化させてなる超撥水ガラス基板の製造方法である。
本発明の製造方法においては、アルカリとしてLiOH,NaOH,KOH、MnOOH、NH4OH、尿素からなる群れより選ばれる1種或いは数種を用いることができる。
さらに、本発明の製造方法においては、アルカリ水溶液がpH9〜11のNaOHであり、アルカリ水溶液の温度が95〜200℃であり、浸漬時間が1〜24時間とすることが望ましい。
【0009】
本発明の作成方法で得られたガラス表面微細構造体の用途の例として超撥水、撥油現象がある。ガラスの撥水は、自動車、建物などの窓ガラス、メガネ等、様々な応用が期待されている。多くは、低分極率化合物をガラス表面上にコーティングする方法であるが、150度以上の超撥水と呼ばれるような高い撥水性は得られていない。低分極率化合物を用いた化学的な手法では、理論上、実験上において超撥水の実現は不可能であり、Cassieの式を用いた空気を利用する技術が必要である。このため、表面の微細な構造を制御し、超撥水を得る技術が必要とされている。
【0010】
また、本発明の作成方法で得られたガラス表面微細構造体を超撥水性にする撥水剤としては、フッ素を含まないヘキシルトリメトキシシランの縮合物、若しくはフッ素を含むヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランやトリデカフルオロオクチルメトキシシシラン、2-(パーフルオロオクチル)エチル]トリクロロシランなどのシランカップリング剤やパーフルオロラウリン酸、ポリ(パーフルオロデシルエチルアクリレート)などの長鎖パーフルオロアルキル基を有する高分子やビニル末端ポリジメチルシロキサン、さらにはラウリン酸のように本来の接触角が75度の親水性(90度以下)に分類される分子等からなる群れより選ばれる1種を用いることができる。
【実施例1】
【0011】
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(ガラス表面微細構造の作成方法)
各種ガラス基板をpH8以上の塩基性水溶液に浸し、80-230℃で数分から数時間保持し、その後取り出して洗浄し、乾燥させることにより、ガラス表面微細構造(ナノ構造)の作成を行った。
実施例1では、アルミノシリケートガラスを1MのNaOH水溶液にて200℃、2時間の処理を行った。その後取り出して洗浄し、乾燥させることにより、ガラス表面微細構造(ナノ構造)の作成を行った。
(ガラス表面微細構造の確認)
図1にアルミノシリケートガラスを1MのNaOH水溶液にて200℃、2時間の処理を行った膜のSEM像を示す。
ナノシートおよびナノピン構造であることが分かる。XRDおよびTEMによる電子線回折から、ナノシートの部分は結晶性のカルシウムシリケートハイドライトであり、先端付近はカルシウムシリケートハイドライトのアモルファス構造であることが確認された。
【実施例2】
【0012】
(ガラス表面微細構造の作成方法)
クラウンガラスをpH9.14に調整したNaOH水溶液にて200℃、24時間の処理を行った。その後取り出して洗浄し、乾燥させることにより、ガラス表面微細構造(ナノ構造)の作成を行った。
(ガラス表面微細構造の確認)
図2にクラウンガラスをpH9.14に調整したNaOH水溶液にて200℃、24時間の処理を行った膜のSEM像を示す。ナノシートおよびナノワイヤーによって構成された膜であることが分かる。XPS,TEMの電子線回折からカルシウムシリケートハイドライトであると考えられる。
【実施例3】
【0013】
(ガラス表面微細構造の作成方法)
ソーダ石灰ガラスをpH9.14に調整したNaOH水溶液にて200℃、24時間の処理を行った。その後取り出して洗浄し、乾燥させることにより、ガラス表面微細構造(ナノ構造)の作成を行った。
(ガラス表面微細構造の確認)
図3にソーダ石灰ガラスをpH9.14に調整したNaOH水溶液にて200℃、24時間の処理を行った膜のSEM像を示す。
ナノシートおよびナノワイヤーによって構成された膜であることが分かる。
【実施例4】
【0014】
(ガラス表面微細構造の作成方法)
パイレックスガラスを1MのNaOH水溶液にて200℃、5時間の処理を行った。
その後取り出して洗浄し、乾燥させることにより、ガラス表面微細構造(ナノ構造)の作成を行った。
(ガラス表面微細構造の確認)
図4にパイレックスガラスを1MのNaOH水溶液にて200℃、5時間の処理を行った膜のSEM像を示す。ポーラスな構造になっていることが分かる。
【実施例5】
【0015】
(ガラス表面微細構造の作成方法)
テンパックスガラスを1MのNaOH水溶液にて200℃、5時間の処理を行った。
その後取り出して洗浄し、乾燥させることにより、ガラス表面微細構造(ナノ構造)の作成を行った。
(ガラス表面微細構造の確認)
図5にテンパックスガラスを1MのNaOH水溶液にて200℃、5時間の処理を行った膜のSEM像を示す。凹凸構造を有していることが分かる。
【実施例6】
【0016】
(ガラス表面微細構造の作成方法)
クラウンガラス基板を、NaOHを用いてpHを9.14に制御した水溶液中、200℃ 24hの処理を行った。その後取り出して洗浄し、乾燥させることにより、ガラス表面微細構造(ナノ構造)の作成を行った。
(ガラス表面微細構造の有用性の確認)
図6は、NaOHを用いてpHを9.14に制御した水溶液中、200℃ 24hの処理をしたクラウンガラス基板に、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランをコーティングした超撥水の写真である。160°以上の超撥水を示していることが分かる。
【実施例7】
【0017】
(ガラス表面微細構造の作成方法)
クラウンガラス基板を、NaOHを用いてpHを9.14に制御した水溶液中、200℃ 24hの処理を行った。その後取り出して洗浄し、乾燥させることにより、ガラス表面微細構造(ナノ構造)の作成を行った。
(ガラス表面微細構造の有用性の確認)
図7は、NaOHを用いてpHを9.14に制御した水溶液中、200℃ 24hの処理をしたクラウンガラス基板に、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランをコーティングした撥油の写真である。油にはヘキサデカンを用いた。145°の高い撥油特性を示していることが分かる。
【実施例8】
【0018】
(ガラス表面微細構造の作成方法)
アルミノシリケートガラスを1MのNaOH水溶液にて200℃、2時間の処理を行った。その後取り出して洗浄し、乾燥させることにより、ガラス表面微細構造(ナノ構造)の作成を行った。
(ガラス表面微細構造の有用性の確認)
図8にアルミノシリケートガラスを1MのNaOH水溶液にて200℃、2時間の処理を行った膜にラウリン酸をコートした超撥水の写真である。ラウリン酸というフラットな状態での接触角が75度程度の親水性に分類されるものをコートした場合でも160°以上の超撥水を示していることが分かり、Cassieの式から、超撥水に理想的なナノ構造制御が行われたことが分かる。
【実施例9】
【0019】
(ガラス表面微細構造の作成方法)
クラウンガラスを、NaOHを用いてpHを9.14に制御した水溶液中、200℃、2時間の処理をした。その後取り出して洗浄し、乾燥させることにより、ガラス表面微細構造(ナノ構造)の作成を行った。
(ガラス表面微細構造の確認及び有用性の確認)
図9にNaOHを用いてpHを9.14に制御した水溶液中、200℃、2時間の処理をしたクラウンガラスのSEM像および光学写真を示す。pH、温度、時間の制御により透明な膜を作製することができると確認でき、この膜にヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランをコーティングした撥水の写真では、145度の高い撥水特性を示している。
【産業上の利用可能性】
【0020】
また、本発明のガラス表面微細構造の作成方法により作製されたガラス表面微細構造(ナノ構造体)は、撥水技術の応用のみではなくて、高表面積でもあることから各種センサーへの応用や、フィルターとしても、また、高表面積である基板材料として、このナノ構造体に各種デバイス用の材料を作製することなど応用範囲が広く、産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1のアルミノシリケートガラス基板表面のSEM像。
【図2】実施例2のクラウンガラス基板表面のSEM像。
【図3】実施例3のソーダ石灰ガラス基板表面のSEM像。
【図4】実施例4のパイレックスガラス基板表面のSEM像。
【図5】実施例5のテンパックスガラス基板表面のSEM像。
【図6】実施例6のクラウンガラス基板表面に、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランをコーティングした超撥水の写真。
【図7】実施例7のクラウンガラス基板表面に、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランをコーティングした撥油の写真。
【図8】実施例8のアルミノシリケートガラス基板表面にラウリン酸をコートした超撥水の写真。
【図9】実施例9のクラウンガラス基板表面のSEM像、光学写真及びヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランをコーティングした撥水の写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成が、100%二酸化珪素(SiO)ではないガラス基板を、pH7以上のアルカリ水溶液に浸漬し、60〜250℃の温度で、0.5〜48時間保持し、その後ガラス基板を取り出して洗浄乾燥させることを特徴とするガラス表面微細構造の作成方法。
【請求項2】
ガラス基板が、ホウケイ酸ガラス、クラウンガラス(白板)、ソーダ石灰ガラス、アルミノシリケートガラスから選ばれるガラスである請求項1に記載したガラス表面微細構造の作成方法。
【請求項3】
スパッタ−、或いはゾル・ゲル方法を用いて、基板の表面に塗布或いはコーディングしたガラス薄膜である請求項1に記載したガラス表面微細構造の作成方法。
【請求項4】
アルカリ水溶液に用いられるアルカリ剤が、アルカリとしてLiOH,NaOH,KOH、MnOOH、NH4OH、尿素からなる群れより選ばれる1種を用いる請求項1又は請求項2に記載したガラス表面微細構造の作成方法。
【請求項5】
アルカリ水溶液がpH9〜11のNaOHであり、アルカリ水溶液の温度が95〜200℃であり、浸漬時間が1〜24時間とする請求項1又は請求項2に記載したガラス表面微細構造の作成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−239429(P2008−239429A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84244(P2007−84244)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】