説明

ガラス製アンプルのストッパ位置の光学的決定方法

本発明は、とりわけ、光源および感光性センサ面によって医療器具の薬剤アンプルにおけるストッパの位置を決定する方法およびこの方法を実施するための装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源および感光性センサ面によって、医療器具の薬剤カートリッジのストッパ位置を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤の多くは身体に注射しなければならない。これは、特に、経口投与すると不活性であるか、または活性が決定的に低い薬剤に当てはまる。これらの薬剤としては、特に、タンパク質(たとえば、インスリン、成長ホルモン、インターフェロン)、糖質(たとえば、ヘパリン)、抗体またはたいていのワクチンがある。身体に注射するためには、主として、注射器、薬剤ペンまたは薬剤ポンプが用いられる。
【0003】
在来のインスリン注射器具はインスリン注射器である。これは、インスリン療法の開始以来使われてきたが、近年になって、インスリン・ペンの導入により特にドイツ国では、段々とインスリン・ペンに取って代わられている。それにもかかわらず、たとえばインスリン・ペンを紛失したり、またはそれに欠陥がある場合には、注射器は現在でもかけがえのないものであり、多くの糖尿病患者がインスリン・ペンと組み合わせて用いている。メンテナンスの必要がなく、どこでも入手可能であるということは、特に旅行中には有利である。
【0004】
インスリン注射器は、使用しようとしているインスリンの濃度(U40またはU100)に従って記号表示、目盛りが異なっている。インスリンは、バイアルまたはインスリン・ペン用のプレフィルドカートリッジからでも採取できる。これにより、異なったタイプのインスリンを混合することが可能となり、必要な注射回数を減らすことができる。インスリンを注射器に吸引するときには気泡なしにすることについて特に注意が必要である。吸引したインスリン投与量を直接目に見えるようにすることにより、使用者が注射するインスリン量を容易に点検することが可能となる。それにもかかわらず、インスリン注射器でエラーなしに投与するためには熟練と恒常的な使用が必要である。
【0005】
現在、世界中、特にヨーロッパでかなり広く使われている更なる注射器具はインスリン・ペンである。
【0006】
マーカー・ペンの寸法と同じであるこの医療器具は、1980年代中ごろに開発され、主としてより強化のインスリン療法(more intensive insulin therapy)に使用されている。インスリン注射器に比べてかなり革新的なのは、交換可能な薬剤容器を使用していることである。この容器(カルプルまたはカートリッジとも呼ばれている)は、製造業者によって供給されるときにインスリンが充填され、使用前にインスリン・ペンに挿入される。ペンを操作すると、注射針によりカートリッジのシーリング・ディスクに孔があけられ、インスリン投与の予め選択された投与量の非経口注射が達成される。注射時に、注射・放出機構が、カートリッジのプランジャまたはストッパを前進させる注射ストロークを生じさせ、予め選択された投与量を標的組織内に送達する。この機構は、通常、カートリッジ・ストッパ・ストロークに相当する全長を有する剛性のプランジャ軸からなる。
【0007】
インスリン・ペンは、使い捨て用と再使用可能なものに分けられる。使い捨てインスリン・ペンでは、カートリッジと計量機構は製造業者によって予め製作された1つのユニットを形成し、カートリッジが空になった後一緒に廃棄される。計量機構の再使用は意図されていない。予め製作されたペンとは対照的に、再使用可能なペンは、使用者に増大した要求をつきつける。つまり、カートリッジを変えたときには、プランジャ軸を開始位置に後退させなければならない。これは、モデルによるが計量機構の特殊な機能を同時に作動させながらプランジャ軸をねじったり摺動させたりすることにより行う。日常使用および高い機械的な応力のために不調(たとえば、プランジャ軸のスティッキング(sticking))が時に発生する場合があるので、使用者はこれをかなり慎重に行わなければならない。
【0008】
再使用可能なインスリン・ペンは、さらに、手動式ペンと半自動ペンとに分けられる。手動式ペンの場合、使用者は指で力を加えて注射ボタンを作動させ、注射の持続時間と進行を決める。それと対照的に、半自動インスリン・ペンでは、使用に先立って注射に必要なエネルギを溜めるように手動でばねに張力を付与する。実際の注射段階で、使用者がばねを解放する。注射速度は、ばねの力を利用するため一定であり、個人的ニーズに合わせることはできない。
【0009】
特許文献1には、薬剤投与システムに使用するための、透明または反射式のマークに基づいてプランジャ軸部の変位を行うことができる光学センサが開示されている。ここで使用される光源はLEDのアレイであるが、線形または2次元のCCD要素が画像化要素として使用される。
【0010】
特許文献2には、光源と光学式検出器を使用して1回投与量を光学的に測定し、電子記録する装置が開示されている。検出器は、注射器から反射される総光量を検出するように配置されている。この場合、反射光量は、注射器における液体量に関連している。
【0011】
特許文献3には、認識要素または容器の作動状態(たとえばプランジャが押し込まれた距離)またはこれら両方を認識できるセンサ要素を含む薬剤投与器具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2004/009163
【特許文献2】EP858349 B1
【特許文献3】WO2001/56635
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、a)光源と、b)医療器具における構成部品を移動距離に沿って移動可能に固定するホルダと、c)感光性センサ面とによって、移動距離に沿ってその構成部品の位置を決定する方法であって、まず、a)からの光で構成部品を照射することによってセンサ面上で構成部品のシルエットを生成させること、次に、センサ面上のシルエットに関するデータをデータ処理ユニットによって移動距離に対する構成部品の位置に変換する方法に関する。
【0014】
データ処理ユニットは、まず、ハードウェア構成部品、たとえば特に中央演算装置、1つまたはそれ以上のメモリ、出力装置、制御装置およびこれらの部分間の技術的接続部からなり、次に、ソフトウェア構成部品、たとえば特にオペレーティング・システム、位置決定の実行を制御、評価するためのプログラムからなる。
【0015】
本方法は、一実施形態において、薬剤用カートリッジのストッパの位置の決定、特にインスリン・カートリッジのストッパの位置の決定に関する。医療器具(たとえばインスリン・ペン、インスリン・ポンプ)内のインスリンのような薬剤のためのカートリッジのストッパの移動量は医薬の送達量に対応する。したがって、医療器具を作動させたときのカートリッジのストッパ位置の決定は、薬剤(たとえば、インスリン)の送達量を制御、モニタする機能を有する。
【0016】
本方法は、さらなる実施形態において、送出しようとしている薬剤の量を予め設定する調整装置の一部をなす構成要素の位置決定に関する。この構成要素(調整装置の一部をなす)は、調整装置に固定して連結してあり、調整プロセス中調整装置と共に移動する幾何学的形状(円形、楕円形、正方形、矩形、星形、これら形状の組み合わせなど)の突出部からなり、これにより、センサ面に沿ってシルエットの対応する移動がデータ処理ユニットによって送出しようとしている薬剤(たとえば、インスリン)の量に変換されるものであってもよい。それ故、調整装置が、移動距離に沿って構成部品を移動可能に固定するホルダとなる。本方法は、さらなる実施形態において、カートリッジから薬剤を取り出すための送りユニットの位置決定に関する。送りユニットは、送出しようとしている薬剤の予め設定した量を薬剤を送出する別の構成部品の移動に変換する。送りユニットは、まず、薬剤カートリッジのストッパに直接的または間接的に連結され、次いで、供与機構および放出機構の両方に直接的または間接的に連結されて薬剤を送出する。本発明による方法における送りユニットの位置決定は、送りユニットに固定して連結した要素(たとえば、幾何学的形状の3次元の物体または平たいプレート)を介しておこなうことができ、それによって、対応するシルエットをセンサ面に生成させる。この場合、送り装置が、構成部品を移動距離に沿って移動可能に固定するホルダである。
【0017】
本方法を行うために、さらなる実施形態では、医療器具に一体化したデータ処理ユニット、すなわち医療器具の一構成要素であるデータ処理ユニットを使用する。本方法のさらなる実施形態においては、データ処理ユニットは単独で作動する。このような単独で作動するデータ処理ユニットとして、たとえば本発明の方法を実施するのに適したプログラムをインストールしたPCを使用することが可能である。それ故、医療器具、データ処理ユニット間のデータおよび制御信号の交換は、適切な接続経路、たとえば特にケーブル接続部、無線リンクまたはデータ・キャリアを経て行わなければならない。
【0018】
本方法のさらなる実施形態においては、光源と移動距離に沿って移動可能に構成部品を固定するホルダとの間、または移動距離に沿って構成部品を移動可能に固定するホルダと感光性センサ面との間、またはこれら両方の間に、開口またはレンズ(合焦または散乱用の)またはこれら両方を取付ける。
【0019】
光源は、本方法の好ましい実施形態においては、LED列からなる。この場合、LED列は拡散ビームを与えてもよい。LED列の個々のLEDは小さな開口角を有していてもよい。さらなる実施形態においては、LED列と、位置を決定しようとする構成部品、または構成部品を移動距離に沿って移動可能に固定するホルダとの間に収束レンズ(特に円筒レンズ)を取り付けてもよい。
【0020】
本方法のさらなる実施形態においては、赤色光を光源で発生させる。本方法の別の実施形態においては、並べて整列させた少なくとも2つの光源によってレーザ光を発生させる。このレーザ光線は特に赤色でもよい。
【0021】
本方法の別の実施形態においては、センサ面は、一列に配置したセンサ要素(たとえば、CCD線走査カメラ)からなる。この配置は、たとえば、行程に沿って、または正方形もしくは矩形領域の形態で行う。これらのセンサ要素は、特に赤色光で最大となる波長依存感度を有していてもよい。
【0022】
本発明は、さらに、上述した実施形態の1つまたはそれ以上における本発明による方法を行うための装置に関する。この装置は、少なくとも
a)光源(たとえば、通常ビームもしくは拡散ビームを与えるLED列、または通常の開口角、大きい開口角もしくは小さな開口角を有する個別のLED、または白色光、青色光もしくは赤色光を発生する光源、とりわけ白色、青色もしくは赤色のレーザ光を発生する光源)と、
b)構成要素(たとえば、薬剤カートリッジのストッパ、または医療器具、特にインスリン・ペンの計量装置の一部、または医療器具、とりわけインスリン・ペンの送りユニットの一部)を移動距離に沿って移動可能に固定するホルダと、
c)感光性センサ面(たとえば、一列にもしくは領域で長く配置したセンサ要素(たとえば、CCD線走査カメラ)、または波長依存感度もしくは白色、青色もしくは赤色の光で最大となる感度を有するセンサ要素)と、
d)データ処理ユニット(たとえば、これは、データを受け取る入力ユニット、中央演算装置、1つまたはそれ以上のメモリ要素、制御信号を送出する出力ユニットおよび個々の部分のための要素を一緒に作動プログラムと接続する要素、ならびにシルエットの発生および対応する構成部品の位置確立、センサ面に沿ったシルエットにおける時間依存変化に関する評価および対応する構成部品の移動位置を確立することに関する評価に関してセンサ面を評価するプログラムとからなる)と
を含む。
【0023】
データ処理ユニットは、医療器具と一体の構成要素でもよいし、医療器具から独立して作動する構成要素であってもよい。これに関連して、一体型のデータ処理ユニットは、オペレーティング・システムと、本発明による位置決定を実施するためのプログラムとを含む。データ処理ユニットが医療器具と別々に作動する場合には、医療器具とデータ処理ユニットの間でのデータおよび制御信号の交換は、特にケーブル接続、無線リンクのような適切な接続を介して、またはデータ・キャリアの移動により行われる。特に適した単独作動式のデータ処理システムは、オペレーティング・システムをインストールしてあり、本発明による位置決定方法を行うためのプログラムを有するPCである。
【0024】
上述したような実施形態の1つまたはそれ以上においては、本発明による装置は、消化管を回避して薬剤(たとえば、とりわけインスリン、ヘパリン、成長ホルモン、インターフェロン、ワクチン、抗体)をヒトまたは動物の身体内に投与するのに適した医療器具を組み立てるのに使用できる。
【0025】
本発明は、さらに、人体に薬剤(たとば、インスリン)を注射する医療器具であって、とりわけ、
a)少なくとも1つの技術的構成部品を実装するための基部要素と、
b)薬剤の受け器(receptacle)(たとえば、カートリッジ)の形態の技術的構成部品であり、ここで受け器が一方でプランジャ軸に機能的に連結されたストッパによって、流体漏れのないように密閉された上方オリフィスと、他方でカニューレに連結された下方オリフィスとを有し、プランジャ軸でストッパを移動させることによってこの下方オリフィスを通して物質をリザーバから押し出すことができる技術的構成部品と、
c)送り機構の形態の技術構成部品であり、一方でストッパに直接的または間接的に連結されたプランジャ軸と、他方で放出作動後に、薬剤の計量すべき量を計量装置によって予設定している(たとえば、回転角を固定することによって)量をプランジャ軸およびストッパの適切な移動で移送する送りユニットと、
d)薬剤の計量すべき量を予設定するための計量装置の形態の技術的構成部品と、
e)計量ユニットによって予設定されており、医療器具によって投与しようとしている、注射すべき物質の量を表示するディスプレイ(機械的または液晶ディスプレイ)の形態の技術的構成部品と、
f)注射を開始し、行うための放出機構の形態(この場合注射を行う前のカートリッジからの気泡の除去を含む)の技術的構成部品であり、これは上述したような実施形態のうち1つまたはそれ以上における本発明の装置をさらに含む技術的構成部品と
を含む医療器具に関する。
【0026】
このタイプの医療器具は、一実施形態においては、特にインスリン・ペン、または別の薬剤(たとえば、とりわけ、ヘパリン、成長ホルモン、インターフェロン、ワクチン、抗体)の注射に適したペンの形態で、その機能を有する。
【0027】
さらに別の実施形態においては、このタイプの医療器具は、データまたは信号またはこれら両方を記憶または処理またはこれら両方を行うための少なくとも1つの手段と、データまたは信号またはこれら両方の記憶または処理またはこれら両方を行うようになっている外部技術ユニットにまたはこれからデータまたは信号またはこれら両方を伝送するための少なくとも1つのインタフェースとを含む。
【0028】
このような手段およびインタフェースは、特に、医療器具のキャップに設けるとよい。
【0029】
前記外部技術ユニットは、データまたは信号またはこれら両方を記憶または処理するまたはこれら両方を行うためのプログラムをインストールしたPCからなるものであってもよい。
【0030】
上記実施形態のうちの1つまたはそれ以上における医療器具は、インスリン(標準作用型、長時間作用型、短時間作用型)またはGLP−1またはロベノックス(Lovenox)または別の物質を注射するのに使用できる。
【0031】
本発明は、さらに、上記実施形態のうち1つまたはそれ以上における、ヒトまたは動物の身体内に薬剤を注射するための医療器具の製造法であって、
a)少なくとも1つの技術構成部品を実装するための基部要素を備え、
b)受け器(たとえば、薬剤、特にインスリン、ヘパリン、GLP−1、ペプチド・ホルモン、成長ホルモン、Lovenox、ワクチン、抗体などのためのカートリッジ)を備え、
c)プランジャ軸を備え、
d)送り機構を備え、
e)計量装置を備えけ、
f)ディスプレイを備え、
g)放出機構を備え、
h)場合により、電子構成要素(たとえば、データまたは信号またはこれら両方を記憶または処理するまたはこれら両方を行うようになっている技術ユニット(たとえば、PC)への、またはそこからのデータまたは信号またはこれら両方を記憶または処理するまたはこれら両方を行うための手段)を備え、
i)上述したような実施形態の1つまたはそれ以上における本発明による技術的装置を備え、
j)a)〜i)の個々の構成要素を組み立てて機能ユニットを得る製造法に関する。
【0032】
本発明による医療器具は、特に、薬理学的活性が消化管内で損なわれるかまたは失なう薬剤によって身体の疾患または機能不全またはこれら両方を予防または治療するまたはこれら両方を行う、たとえばインスリンによる糖尿病の治療を行うのに使用できる。
【0033】
装置は、1つまたはそれ以上の構成部品からなり、特定の医療目的、特にヒトまたは動物の身体への物質の注射に役立つ。1つの構成部品は、1つまたはそれ以上の要素からなり、1つの技術的または非技術的な機能に応ずるように作用する。機能が、力、仕事、エネルギ、材料(物質)、データまたは信号、またはこれらの組み合わせの伝達、構造または形態またはこれら両方の保守、または物質の保管、または情報の記憶に関係する場合には、機能は技術的である。機能が、装置の使用者によるもしくは使用者に対する情報の入力または出力、または装置の使用者によるもしくは使用者に対する物質の入力もしくは出力に関係する場合には、機能は非技術的である。
【0034】
構成部品は、たとえば全体的な機能に関連する部分的な機能を与える技術的器具の一部であってもよい。構成部品は、たとえばリザーバである。リザーバは、物質(特に、たとえばインスリンのような薬剤)を含む交換可能なカートリッジであってもよい。交換可能なカートリッジは、特にインスリン・ペン、またはヒトもしくは動物の身体内に薬剤を注射するための別の装置において使用するのに適している可能性がある。技術的構成部品の別の例としては、ポンピング装置またはポンプがある。技術構成部品のさらなる例としては、特に注射器、注射針、プランジャ軸、計量ユニット、機械的ディスプレイ、チュービング、シール、バッテリ、モータ、トランスミッション、電子ディスプレイ、電子メモリまたは電子制御器がある。この技術装置と関連する目的の意味は、特に液体を或る場所から別の場所に移動させることにある。1つの目的は、たとえば、液体体積のリザーバから流出管路への移動で定められる。この目的は、ヒトまたは動物の身体内への薬剤の注射であってもよい。
【0035】
構成部品を一緒に目的に適合させるために技術的な方法で1つまたはそれ以上の他の構成部品に接続してもよい。技術的な接続とは、たとえば力、仕事、エネルギ、材料(物質)、データまたは信号の伝達、またはこれらの組み合わせの伝達に適する構成部品の接続である。これらの構成部品は、たとえば機械式カップリング、固定した機械的接続(張合せ、ねじ留め、リベット締め、リンク仕掛など)、歯車、ラッチ、インターロック手段、金属ワイヤ、光導波路、無線リンク、電磁場、光ビームなどを経て接続できる。
【0036】
注射とは、注射器または特にペンのような機能的に類似した装置と共にカニューレによるヒトまたは動物の身体内への物質、特に液体の導入をいう。とりわけ、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、皮内注射および関節内注射が知られている。皮下注射は、皮膚の下に行うものであり、比較的実施し易く、あまり苦痛がなく、患者自身が行える。筋肉内注射は筋肉内に行う。この場合、リスク、たとえば疼痛性の骨膜損傷が起きるリスクがより大きいので、通常この注射は、医療スタッフが行う。静脈内注射は、静脈に穿刺して直接静脈を通して行う。皮内注射においては、薬剤は、真皮の直ぐ下に送られる。関節内注射においては、液体が間接内に注射される。ヒトまたは動物の身体内への物質の注射は、特に、薬剤ポンプを通しての物質の導入、輸液または或る期間にわたって行われる別のタイプの連続供給とは区別すべきである。
【0037】
カニューレとは、通常、金属(たとえば、鋼、ステンレス鋼、金、銀、プラチナ)で作られている本質的に中空針である。カニューレの端部は或る角度で研削することによって尖らせることが多い。カニューレは、一方の端部を尖らせおよび/または鋭くし、反対の端部を鈍端としてもよいが、両方の端部を尖らせおよび/または鋭くしてもよい。カニューレは、通常2つの端部の1つに、たとえばプラスチックで作った円錐形のアタッチメントを有し、それにより医療器具、たとえば注射器、薬剤ペン(特にインスリン・ペン)、薬剤容器または薬剤ポンプにたとえば押し付けたり、螺合させたりすることによって中空針を配置できる。カニューレは、注射器、ペン、ポンプまたはこの目的に適した別の医療器具との機能的な相互作用を果たし、ヒトまたは動物の身体内から液体を取り出したり、ヒトまたは動物の身体内に液体を供給する。
【0038】
カニューレの直径(外径)は、通常、mmまたはゲージで指定される(18ゲージ=1.2mm、20ゲージ=0.9mm、21ゲージ=0.8mm、22ゲージ=0.7mm、23ゲージ=0.6mm、25ゲージ=0.5mm、27ゲージ=0.4mm)。カニューレを特徴づける別のパラメータはその長さである。カニューレの典型的な長さは、40mm、30mm、25mm、8mm、6mmおよびその他長さである。
【0039】
医療器具は、特に、ヒトまたは動物の身体内に物質を注射するための器具である。注射器の他に、注射用の器具としては、薬剤ペン、たとえばインスリン・ペンがある。薬剤ペンは、種々の形態、そして種々の目的に適しており、種々の製造業者(たとえば、Optiklick、Optipen、Optiset)から市場で入手可能である。
【0040】
あらゆるインスリン・ペンが、安全で失敗のない使用を可能にすべく操作のし易さに関する多数の要件を満たさなければならない。基本的な要件は、予め選択された投与量およびカートリッジに残っている量の表示のためにある。さらに、投与量の設定および注射プロセスの完了が耳で聞きとれたり、触って認知可能であったり、または目に見えなければならない。この安全要件は、特に高齢の2型糖尿病患者の限られた認識能力から起っている。
【0041】
注射針を有するインスリン・ペンの他に、インスリン療法では、無針注射システムも使用される。無針注射システムの現今の使用例としては、Roesch AGのInjex注射システムがある。この注射器の場合、極めて高い圧力を使用して皮膚の脂肪層内にマイクロニードルを通してインスリンを発射する。このため、注射前に手動で弾性ばねに張力を付与して必要な注射エネルギを蓄える。この場合、注射された物質は、脂肪組織内で均一かつ円錐状に分布される。
【0042】
この器具の無視できない利点は、薬剤の無針注射であり、これにより、一部の患者では、インスリン投与についての心理的抑制閾値(psychological inhibition threshold)が低下する。さらに、無針注射では穿刺部位の感染を排除する。在来のインスリン・ペンと比較した場合の欠点は、インスリンを特殊なカートリッジ内に移すこと、比較的大きな質量の器具、およびばねに張力を付与するためのさらなる付属品の包含にあることがわかっている。
【0043】
インスリン・ポンプは、インスリンの連続皮下注射のための完全自動注入システムであることでインスリン注射器と異なる。インスリン・ポンプは、ほぼたばこの箱の寸法であり、身体に恒久的に装着される。短時間作用型インスリンを、患者により予め設定されたプログラムに従って、カテーテルと皮膚に設置した針とを通して皮膚組織内に注射する。インスリン・ポンプの役目は、膵臓によるインスリンの連続的な放出を模倣して血中グルコースレベルを減らすことにあるが、閉ループ式制御で血中グルコースレベルを調整することはできない。インスリンの連続的な順応性の高い供給のため、これらのインスリン・ポンプは、スポーツ活動に携わっていて、日課が大きく変化するひとには特に有利である。インスリン・ポンプ療法では、たとえば、顕著な暁現象(DAWN現象)を持つ糖尿病患者における血糖値の大きな変動を補償することが可能である。この暁現象は、在来の方法では、かなり努力しなければ制御することができない。1つの短所は、インスリン供給が人体内のインスリン・リザーバの枯渇により中断したときに、重篤な代謝障害が発生する場合があるということである。インスリン・ポンプは、種々の技術的な形状で利用することができ、注射器様容器を備えた器具が技術開発中に確立されるようになった。注射針を有するインスリン・ペンと同様に、インスリンは、可動ストッパを備えたリザーバ内に存在する。この可動ストッパは、モータ駆動プランジャ軸によって動かされる。
【0044】
完全に自動的で連続的なインスリン送達のために、インスリン・ポンプは、深刻な結果を伴う不調から使用者を保護するために多数の安全確保システムを備えている。しかしながら、これが器具の責任ある先を見越した使用が不安であることを意味しているわけではない。
【0045】
現在の注射器具ならびに医療およびマイクロシステム技術におけるさらなる技術的な発展に基づいて、完全自動式の小型薬剤計量システムに対する明らかな傾向が存在する。さらなる開発で移植型の、体外型の薬剤計量システムの方向に向かう可能性がある。移植可能なインスリン・ポンプの目的は、人体に外部器具を装着する必要なしに、糖尿病患者を日常的なインスリン注射から解放するということにある。
【0046】
インスリン・ペンは、EN ISO規格11608において本質的に人間工学的な安全機能に集中している。これも同様に、インスリン・カートリッジおよびペン注射針の幾何学的/物質的特性を含む。したがって、ペンの取り扱いおよび操作は、ほぼ一様であり、かつ使用者のモデルとは依存性がない。
【0047】
EN ISO規格11608の内容(これはインスリン・ペン、インスリン・カートリッジおよび注射針に関係する)は、これによって参照により本開示に明らかに組み込まれる。
【0048】
ペンの設計においては、種々の製造業者のペン毎にいくつかのかなりの差異があることが見出される。それは、たとえば異なった標的群(小児、高齢者)についての指定を理由とする。EN ISO規格11608の要件のために、特に注射機構および放出機構に差異は限定される。投与量セレクタおよび投与量ディスプレイは、主として人間工学的な要件が課せられ、それぞれのモデルの一般的な設計条件に由来する。
【0049】
インスリン・ペンの本質的な機能要素は注射機構である。注射機構により、ペンのタイプおよび寸法ならびに放出機構および投与量セレクタの設計が決まる。機構は、投与量セレクタで予め設定された投与量を、放出機構から得られる注射エネルギでカートリッジのストッパの注射ストロークに変換する。このエネルギは、注射機構に直接的に伝達されるか、または、運動変更トランスミッションを介して伝達される。
【0050】
プランジャ軸の形状の注射機構の形態を変えることは技術的に可能である。
【0051】
現在市販されているインスリン・ペンでは、剛性設計(たとえば、ねじ付きスピンドル、歯付きラック)または可撓性設計(たとえば、湾曲歯付きラック、湾曲圧縮ばね)による解(solution)が確立されてきた。伸縮自在のプランジャ軸のような他の可能性のある形状(たとえば、ネジ機構、ベルト・チェーン駆動装置、液圧トランスミッション、結合トランスミッション)は、現在市販されているインスリン・ペンでは使用されていない。
【0052】
剛性、可撓性タイプの設計解は、広範囲に変化し、ペンの種類(すなわち、再使用可能なペンまたは使い捨てペン)に依存する。使用されるプランジャ軸は、ねじ付きスピンドルまたは歯付きラックまたはこれらの組み合わせである。投与量セレクタにおいては、投与量に相当する回転角度が戻り止め装置を用いて予め設定され、次いでネジ機構および歯車によって注射機構に伝動され、注射ストロークに変換される。
【0053】
薬剤の送出は、注射ストロークおよびその結果のストッパの変位量を特定することによって行われる。送出される液体の量は、注射ストロークおよびカートリッジの内径に依存する。投与エラーを回避するためには、製造業者の仕様書およびEN ISO規格11608に従って気泡を完全に取り除かなければならない。さらに、液体の送出後、充分に長い時間をとって、定常状態、すなわちカートリッジ中の液体の常圧およびストッパの弛緩を確実にしなければならない。
【0054】
薬剤用のリザーバ(カートリッジとも呼ぶ)は、薬剤ペンの構築および機能的構造に影響する。これに関連して区別できる部分的な機能は、まず、薬剤の保護機能であり、次に搬送機能であり、最後に薬剤ペンの注射システムに対する連結機能である。保護機能は、全体としてカートリッジによって、すなわちストッパ、ガラス体およびシーリング・ディスクによって達成される。薬剤の搬送機能は、注射機構を用いて変位させられ、カートリッジ内の体積変化をもたらすストッパによって与えられる。注射システムへの連結機能は、最終的にシーリング手段(たとえば、シーリング・ディスク)によってもたらされる。
【0055】
自動薬剤ペン(たとえば、自動インスリン・ペン)では、注射エネルギは後続のトランスミッションで駆動することによって適用される。エネルギ供給・制御ユニットがさらに必要である。
【0056】
本発明による注射機構においては、薬剤(たとえば、インスリンを通じて)は、注射機構でストッパを変位させることによっては搬送されず、ポンプ装置を導入して搬送される。ポンプ装置は、カートリッジと注射システムの間に挿入され、適切なインタフェースを備えていなければならない。
【0057】
ポンプ装置は、流量センサを備えていてもよい。流量センサは、薬剤(たとえば、インスリン)と直接接触するので、特に、微生物数低減、無菌性、生体適合性(biscompatibility)のような付加的な要件を生じさせる。この機能原理の適用すると、在来の注射用薬剤ペン(たとえば、インスリン・ペン)と比べれば、多数の変数(たとえば、薬剤容器の液体圧力)が変更される。これは、薬剤を吸い出したときに大気圧より低い圧が生じるからである。
【0058】
インスリン・カートリッジは、薬剤の一次包装としての機能を果たし、高度の基準を満たさなければならない。これは、投与の正確さ(accuracy)および他の構成要素との適合性に関連するカートリッジの寸法正確さに関係する。EN OISO規格11608−3が、これらの要件に関係しており、カートリッジの形状を不必要に制限することなく、基本的な側面および幾何学的/材料的構築を記載している。カートリッジの薬剤不浸透性も確保しなければならない。
【0059】
カートリッジは、複数の副構成部品からなる。主要なものは、インスリンに対する高い中性、耐薬品性を備えた薬剤ガラスのシリンダである。充填前に、シリンダの表面性状をシリコン処理によって改善する。この表面処理は、ストッパの滑りおよび最大静止摩擦力(breakaway force)を減らし、投与の正確さを向上させ、長い貯積時間中のガラス成分の溶出を減らす。シリコン処理の程度は、これに関連して、ストッパの摩擦力のレベルと相関し、限界をシリコーンに対するインスリンの感受性によって設定する。
【0060】
カートリッジは、両端のところで、エラストマクロージュア部品、ストッパおよびシーリング・ディスクによって密閉される。これに関連して重要な点は、種々の圧力状況で証明された機械的な不浸透性および長期試験で有機体に対する微生物学的な不浸透性である。さらなる重要な点は、最大許容ストッパ力およびカニューレでのシーリング・ディスクの穿刺回数である。
【0061】
ペン注射針は、インスリンをカートリッジから標的組織内に案内するのに使用される滅菌した使い捨て製品である。ペン注射針は、まったくカートリッジと同様に、厳しい要件が課せられる。これは、インスリン・ペンの実際の機能がこの2つの構成要素の協働を通してのみ達成されるからである。注射針は、両端部が研削され、カートリッジ取り付け部片にセットされたカニューレからなる。カニューレの最適な研削により、標的組織内への挿入を、患者に実質的に痛みを与えず、引き抜くときにわずかな組織損傷しか引き起こさずに可能にする。同様に、カートリッジのシーリング・ディスクは大きな断片化なしに刺通される。これは、注射針を定期的に交換する場合もカートリッジの不浸透性を確保しなければならないので、義務的な要件である。カートリッジ取り付け部片は、インスリン・ペンへのしっかりした嵌合を保証する。
【0062】
ペン注射針は、たとえ2回またはそれを越える回数使用した後にはじめてほとんど目に見えない摩耗の徴候を示すものであるとしても、無菌性を理由に注射毎に交換しなければならない。さらに、結晶化したインスリンは注射針を塞ぐ可能性がある。さらに、温度変化がある場合に空気がカートリッジ内に入り、これは同様に投与エラーの原因になる。したがって、わずか15Kの温度変化でも、最高15μlの空気がカートリッジに入る原因となる。
【0063】
マイクロ流体工学とはマイクロシステム技術のサブセクションであり、これは、1μm〜1mmの寸法を有する流路横断面内の流体の量を取り扱い、処理するマイクロシステムの設計、製作、使用、調査を含む。マイクロ流体システムは、医療技術、生化学、化学工学および化学分析ならびにマイクロ反応技術で使用される。これらのマイクロシステムは、実際の使用にとって重要なのはミクロ流体システムの寸法でなく、流体の量であるために、ミリメートル、センチメートルの範囲の寸法を有していてもよい。さらに、このようなシステムは、扱うのが少量の流体であり、システム寸法もしばしば小さいので、在来の流体システムとはかなりの差異を示す。小型化は、表面連結効果および静電学的、動電学的な力が支配的なので、流体流れの挙動における変化を伴なう。したがって、マイクロ流体構成部品(たとえばマイクロポンプおよびセンサ)の設計、製作および特性化にとって新しいアプローチが必要である。アクチュエータの一定エネルギ密度がそれらの出力低下を生じさせ、その結果マクロ・セクタの在来の構成部品と同等ではない。この理由のために、外部アクチュエータが、しばしば使用されるが、これは、時に、システム全体の寸法をかなり大きくする。さらに、輸送しようとしている粒子および分子の物理学および化学がマイクロ流体構成部品の小型化を制限する。
【0064】
糖尿病は、身体そのものがまったくまたは充分な量のインスリンを産生できず、適切にそれを使用できない疾患である。インスリンは血液から身体の細胞内へグルコースを輸送するのに必要である。血中グルコースレベルは、狭い限界(60〜100mg%または3.33〜5.55mmol/l)内で絶えず一定に保たれる。これは、2つのホルモンのインスリンおよびグルカゴンの相互作用を介して起こる。
【0065】
糖尿病は、適切な検査室器具によって採血した後に診断される。高い血中グルコースレベルは、その診断を確認するために異なった機会に少なくとも2回検出しなければならない。
【0066】
糖尿病とは、血漿中の測定したグルコースレベルが以下に示すケースの少なくとも1つのケースに述べた値を超えた場合に使用される用語である。
a)空腹時血糖、7.0mmol/lまたは126mg/dl
b)75mgのブドウ糖投与後2時間の血糖(経口ブドウ糖負荷試験)、11.1mmol/lまたは200mg/dl
c)重篤な口渇(煩渇多飲)、頻尿(多尿)または体重減少と関連した血糖、11.1mmol/lまたは200mg/dl。
【0067】
糖尿病の未治療の場合、高血糖レベルに至り、種々の症状および予後(たとえば、多発神経障害、微小血管障害、大血管障害、網膜症、腎症など)を引き起こす場合がある。糖尿病に由来する晩期障害のリスクは、赤血球の非酵素学的な糖化(HbAlcレベル)がより低いときにはより少なくなる。
【0068】
糖尿病性昏睡は、糖尿病の命にかかわる深刻な合併症である。このような症例では、血液の過剰酸性(代謝性アシドーシス)と関連して血中グルコースレベルは1000mg/dlを超えることがある。糖尿病性昏睡は、とりわけ感染症、多過ぎる炭水化物の摂取、アルコール中毒または誤ったインスリン投与によって誘発される可能性がある。
【0069】
1型糖尿病と2型糖尿病には差異がある。1型糖尿病では、最初から絶対的インスリン欠乏があり、インスリン投与でしか治療できない。
【0070】
2型糖尿病は、低下したインスリン感受性、および相対的インスリン欠乏を特徴とする。2型糖尿病は、通常、まず最初に、食事療法と錠剤で治療する。インスリン置換が疾患の経過中に必要になることが多い。
【0071】
2型糖尿病は、主として先進工業国において広範囲に及ぶ疾病になってきた。過食、運動不足および肥満が主な原因と考えられている。2型糖尿病は、特に体重減量を目的とする運動トレーニングおよび糖尿病対策によって効果的に対抗することができる。また、2型糖尿病の症例では、経口抗糖尿病薬(たとえば、アカルボース、ビグアニド、スルホニル尿素、グリタゾンを使用することができる。血中グルコースレベルがもはや前記対策によっても充分な永続性をもって正常範囲内にまたはその付近に保てなくなったときにはインスリンを使用する療法が必要である。
【0072】
インスリン療法のために種々のインスリンが利用できる。通常、持続時間または化学構造に従って区別される。インスリン・アナログは、ヒトのインスリンと比較して個々の位置で異なったアミノ酸を有する。それによって、その特性は変化する可能性がある。
【0073】
速効型インスリンとしては、ヒトインスリン、ならびに種々の速効型−、および短時間作用型−インスリン・アナログ、たとえばグルリシン(glulisin)(商標名:Apidra)、リスプロ(lispro)(商標名:Humalog)およびアスパルト(aspart)(商標名:Novo Rapid)がある。
【0074】
遅効型または長時間作用型インスリンとしては、NPHインスリン[プロタミン含有中間型インスリン(ハーゲドルン)によって持続化された作用を有するヒト・インスリン]、亜鉛インスリンおよび種々のインスリン・アナログ、たとえばグラルギン(glargine)(商標名:Lantus)およびデテミール(detemir)(商標名:Levemir)がある。
【0075】
また、インスリン療法においては、混合型インスリンおよび最近の吸入型インスリンが使われる。
【0076】
混合型インスリンは、種々の混合比の速効型インスリンおよび長時間作用型インスリンからなる。10/90%、25/75%、30/70%、50/50%の混合物が普通である。インスリン療法は、常に血糖レベルの規則正しい測定を伴なうものでなければならない。
【0077】
在来のインスリン療法においては、定まった量の混合型インスリンを一定の時間で注射する。より強化された在来のインスリン療法が主として1型糖尿病患者の治療に使用されている。この症例では、基礎的な供給を長時間作用型インスリン(基礎)で確保し、食事時間に付加的に速効型インスリン(ボーラス)を与える。
【0078】
ポンプによるインスリンの持続皮下注入は、すなわち1型糖尿病患者に適している。インスリンは、人体に注射されるのではなく、小型のポンプによって送り込まれる。ポンプは身体に常設する。インスリンは、カニューレを備えたカテーテルを通して供給される。インスリン・ポンプは、通常、長期にわたって短く等しい間隔で速効型インスリンを送達する。
【0079】
グルカゴン様ペプチド1(GLP1)は、グルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチド(GIP)と並んで、インクレチンの最も重要な代表の1つである。インクレチンは、腸内でホルモン類として産生され、とりわけ、膵臓でインスリン放出を刺激することによって血中グルコースレベルを調節する。
【0080】
産生される腸管ホルモンの量は、経口摂取した炭水化物の量に依存する。GLP1レベルは、グルコースの静脈内投与後よりも経口グルコース摂取の後にもっと高くなる。2型糖尿病患者におけるGLP1の静脈内注入および皮下注射が、多くの症例で、血中グルコースレベルを完全な正常化をもたらすことを研究によって示すことができた。問題は、GLP1がジペプチジル・ペプチダーゼIV(DPP−IV)によって非常に短い時間で阻害されるということである。GLP1の皮下注射は、約1〜2時間しか有効な血漿中濃度を維持することができない。GLP1の持続的な効果に向けた解決策は、もっと長時間作用するGLPアナログの開発あるいは薬剤によるDPP−IVの阻害で発見できるかもしれない。
【0081】
成長ホルモンは、ヒト、動物、および植物の成長を刺激する物質である。公知の例としては、ソマトトロピン(ヒト)、ウシソマトトロピン(ウシ)およびオーキシンやジベレリン酸(植物)がある。
【0082】
ソマトトロピン(STH)は、ヒト成長ホルモン(HGH)、成長ホルモン(GH)の名称でも知られている。STHは、191個のアミノ酸を有するペプチド・ホルモンである。産生は、下垂体前葉において、視床下部からのソマトトロピン放出因子(SRF、GHRH、GRF)の制御の下に行われる。STHは、正常な直線的成長(linear growth)にとって不可欠である。STHの産生量が減るか、STHに対する細胞の反応が低下した場合には、低身長になる。過剰産生の場合には、巨人症となるか、先端巨大症となる。
【0083】
成長ホルモン欠乏によって生じる低身長は、数年間STHを投与することによって治療されている。1985年に遺伝子操作によって、STHを生産することが可能になる前には、最初、死体の下垂体から得ていた。
【0084】
インターフェロンは、ヒトまたは動物の白血球、線維芽細胞またはTリンパ球によって組織ホルモンとして産生される。インターフェロンは、免疫賦活作用(たとえば、抗ウイルス作用)または抗ホルモン作用を有するタンパク質またはグリコプロテインである。インターフェロンは、α−インターフェロン、β−インターフェロンおよびγ−インターフェロンに分けられる。インターフェロン類は、ウイルス疾患(たとえば、SARS)、がん、多発性硬化症、B/C型肝炎、C型肝炎を適応症用に種々の製造業者から得ることができる。
【0085】
ワクチンは、生物学的にまたは遺伝子操作により生産される組成物であり、とりわけ個別のタンパク質、またはRNAもしくはDNA断片、または死滅病原体もしくは弱毒化病原体(たとえば、インフルエンザ、SARS、牛痘ウイルス、はしか、耳下腺炎、風疹、灰白髄炎の病原体、百日咳の病原体)、またはこれらの混合物を含む。
【0086】
公知のタイプとしては、生ワクチン(たとえば、牛痘)、弱毒ウイルスまたは細菌の弱毒生ワクチン(たとえば、MMR、黄熱、灰白髄炎のワクチン)、不活化または死滅ウイルスまたは細菌またはその成分を有する不活化ワクチン(たとえば、インフルエンザ、コレラ、腺ペスト、A型肝炎のワクチン)がある。
【0087】
ヘパリンは、血液凝固を抑制するために治療で使用される物質である。ヘパリンは、D−グルコサミンと、D−グルクロン酸またはL−イズロン酸との各場合の交互配列からなる。5ユニットからなる鎖長は、抗凝固にとって充分であるかも知れない。
【0088】
多糖の鎖は、ほとんどの場合、4000〜40000の分子量を有する。未分画ヘパリンの他に、約5000の分子量を有する低分子量分画ヘパリンも使用される。ヘパリンは、消化管からは吸収されないが、非経口投与しなければならない。ヘパリンは、アンチトロンビンIIIに結合し、活性化凝固因子の不活化を促進させることによって作用する。
【0089】
ロベノックス(Lovenox)(別名:clexane)は、薬理学的に活性のある成分、エノキサパリン(enoxaprin)ナトリウムを有する市販の医薬製剤である。この活性成分は、直線的な用量反応関係および常に高い生物学的利用能を有する低分子量ヘパリンの1つである。
【0090】
ロベノックスの適応症の領域は、深部静脈血栓の一次予防、肺塞栓症の有無にかかわらず深部静脈血栓の治療、不安定狭心症およびいわゆる非Q波心筋梗塞の治療、ならびに血液透析中の血栓症予防および抗凝固である。
【0091】
実施例
カートリッジを透光して、そのシルエットを受光し、測定値をPCおよびそれに続く画像分析に移送するための測定装置の構築
この測定アセンブリは、光源、スリット、固定装置を備えたカートリッジ、線走査センサからなる。
【0092】
光源は、いずれの場合にも、拡散光線を与えるLED列を交互に含み、LED列は、小さな開口角を備えたLEDまたは収束レンズを備えた点源で構成される。使われる線走査センサは、波長依存感度(赤色スペクトル範囲で最大)を有する、レンズなしのCCD線走査カメラである。
【0093】
迷走光を減らすために、カートリッジの前後にスリットが存在する。
【0094】
カートリッジは中間位置の平面において透光される。そのシルエットは、ストッパの部分的な陰影と完全な陰影とからなる。個々のセンサ要素の光の強度の測定値をデジタル化してからPCに転送した後、一定の輝度よりも低い輝度を持つピクセルを決定する(閾値比較)ことによって適切なソフトウェアでストッパ位置を確認する。
【0095】
認識システムは、特に注射ペンにおいては、投与量を測定、決定する手段として適している。
【0096】
測定装置は、光源、スリット付きの線走査センサ、および評価電子機器(図1)の3つの主要な構成部品からなる。一列に配置した、約6度の開口野角を有する発光ダイオードを光源として用いる。したがって、適切な配置の場合、エッジ識別に必要なカートリッジの均一な照明を達成することが可能である。光源とカートリッジとの間にはスリットがあり、コントラスト、測定の正確さを改善する。これは、カートリッジが充填、空のときに光の屈折の違いによる、センサのところでの輝度のゆらぎを補償するために、また、ガラスシリンダでの全反射による迷光を回避するために必要である。
【0097】
線走査センサは、全部で1280個のピクセルを有し、ピクセル距離が63.5μmであり、カートリッジのシルエットを完全に検出する。センサの感光性ピクセルは、入射光を電気信号に変換する。この電気信号の値は光の強さと積分時間に依存する。センサ電子機器は、8ビットのグラデーションを有するセンサ値を評価電子機器に通じるインタフェースに転送する。暗領域、たとえばストッパ背後の完全な陰影における暗領域はこの場合、ゼロに近い値を有する。周囲光で操作した場合、センサは、約2ms後に過負荷になり、もはやシルエットの評価を不可能である。したがって、検査室モデルの場合、遮光ハウジング内に存在させることでセンサ・システムを覆う。センサ・データは、測定用コンピュータおよびLabViewソフトウェアで評価する。適合したプログラムは、センサ・データを処理し、エッジ識別アルゴリズムでストッパ位置を算出する。ストッパ位置を算出するための時間間隔は、測定用コンピュータの計算能力、センサ、PC間のデータ伝送およびシルエットの強度の結果として約20msである。測定プロセスおよび搬送装置は、ストッパ位置を体積測定量に変換することによってソフトウェアで制御される。ストッパ位置と相関する典型的な光学的効果を有する特性シルエットが図1に示してある。ガラス製シリンダが満杯のときと空のときには、輝度の分布が先に述べたように異なっているのは明らかである。さらに、カートリッジの上部、端部のところでの、カートリッジ形状による乱れは容易に認識可能である。これが、エッジ識別で必要な差別化およびカートリッジの複数の領域への分割を行う。これに関連して、測定の最大の正確さは、同質のガラス構造が存在するため、カートリッジの中間領域において、達成される。
【0098】
図1は平行な入射光でのガラス製カートリッジ上の特徴的な強度分布の乱れを示している。
【0099】
ガラスの湾曲、異質性によりカートリッジの肩部および端部のところで反射が生じ、閾値識別を妨げる。ストッパ位置は、3段階、すなわち時間間隔偏差の補償、エッジ識別および光学的効果補正を伴うストッパ位置の計算の3段階で識別される。第1段階において、時間間隔偏差による強度の値における誤差がコンピュータにより補償される。通常操作においては、測定用コンピュータを使用することにより、時間間隔における偏差および最高2msの積分時間における偏差が生じる。その結果、同じ照明によってさえそれぞれのピクセルで輝度値が異なるが、これらの輝度値は実際の積分時間を測定することによって補償できる。さらなる可能性は、平均化することによってピクセル・ノイズの影響を減らすことである。第2段階で、閾値識別によってエッジを決定する。図1の輝度分布は、ストッパの陰影領域と明るい、直接照明された領域とが明確に分離していることを示している。この場合、輝度が最初に先に定めた閾値より低いピクセルの位置で第1のエッジが生じる。第2の位置は、閾値よりも高い輝度値を有するピクセル位置によって決まる。閾値が2つのピクセルの間にある場合、位置を補間法によって決め、同時にエッジ位置の解像度を向上させる。第3段階では、ストッパ位置をストッパ・エッジに基づいて算出する。これは、ストッパ位置に依存して差別化を行うのに必要である。
【0100】
1)開始位置での領域1においては、ストッパ位置は、前部エッジの位置に基づいて算出する。最大の測定誤差は、64μmの単一ピクセル距離に相当する。
2)カートリッジ領域2においては、ストッパ位置は、前部エッジおよび後部エッジの位置から与えられる。この領域における最大測定誤差は、ピクセルの幅の半分に相当する約32μmである。
3)カートリッジ領域3においては、ストッパの後部エッジの位置を使用する。その結果、約64μmの単一ピクセル幅の測定誤差となる。ストッパ位置を誤差なしに伝送するためには、同様にストッパの幅を使用してもよい。
【0101】
個々の領域間での切り換え時、ストッパの測定幅を用いてストッパ位置を飛ばすのを避ける助けとする。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】ストッパ位置を識別する(評価電子機器なし)センサ・システムを示す図である。
【図2】平行な入射光の場合のガラス製カートリッジ上での特徴的な強度分布を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)光源と、
b)医療器具における構成部品を移動距離に沿って移動可能に固定するホルダと、
c)感光性センサ面と
によって、移動距離に沿ってその構成部品の位置を決定する方法であって、まず、a)からの光で構成部品を照射することによってセンサ面上で構成部品のシルエットを生成させること、次に、シルエットに関するデータをデータ処理ユニットによって移動距離に沿って構成部品の位置に変換することを含む方法。
【請求項2】
位置を決定する構成部品が薬剤カートリッジのストッパである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つのインスリン・カートリッジの位置を決定する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
位置を決定しようとする構成部品を調整装置に関連させ、この調整装置により送出しようとする薬剤の量を予め設定する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
位置が決定される構成部品を、カートリッジから薬剤を取り出すための送りユニットに関連させる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
データ処理ユニットが医療器具に一体化されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
別体のデータ処理ユニットが医療器具と共に作動する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
開口がa)とb)の間またはb)とc)の間、またはこれら両方の間に設けてある、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
光源がLED列からなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
LED列が拡散光線を与える、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
LED列の個々のLEDが小さな開口角を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
収束レンズがLED列と構成部品の間に挿入してある、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
収束レンズが円筒レンズである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
光源が赤色光を発生する、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
並べて整列された少なくとも2つの光源によってレーザ光が生成される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
赤色レーザ光が生成される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
センサ面が一列に配置したセンサ要素からなる、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
センサ要素がCCD線走査カメラからなる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
赤色光で感度が最大となる、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法を行うための装置であって、少なくとも、
a)光源と、
b)構成部品を移動距離に沿って可動状態で固定するホルダと、
c)感光性センサ面と、
d)データ処理ユニット
とを含む、装置。
【請求項21】
消化管を回避してヒトまたは動物の身体に薬剤を投与するのに適した医療器具を組み立てるための、請求項20に記載の装置の使用。
【請求項22】
薬剤がインスリンである、請求項21に記載の技術的装置の使用。
【請求項23】
ヒトまたは動物の身体に薬剤を注射するための医療器具であって、とりわけ、
a)少なくとも1つの技術的構成要素を実装するための基部要素と、
b)薬剤用の受け器の形態の技術的構成部品と、
c)送り機構の形態の技術的構成部品と、
d)計量装置の形態の技術的構成部品と、
e)ディスプレイの形態の技術的構成部品と、
f)注射を開始し、行なうための放出機構の形態の技術的構成部品とを含み、
さらに、少なくとも1つの請求項20に記載の装置を含む医療器具。
【請求項24】
インスリン・ペンの形態および機能である、請求項23に記載の医療器具。
【請求項25】
データまたは信号またはこれら両方を、記憶または処理するまたはこれら両方を行うための少なくとも1つの手段と、データまたは信号またはこれら両方の記憶または処理またはこれら両方を行うように構成される外部技術ユニットへまたはこれからデータまたは信号またはこれら両方を伝送するための少なくとも1つのインタフェースとを含む、請求項23または24に記載の医療器具。
【請求項26】
外部技術ユニットが、データまたは信号またはこれら両方を記憶または処理またはこれら両方を行うためのプログラムをインストールしたPCからなる、請求項25に記載の医療器具。
【請求項27】
インスリンを注射するための、請求項23〜26のいずれか一項に記載の医療器具。
【請求項28】
インスリンが、長時間作用型または短時間作用型またはこれら両方のインスリンである、請求項27に記載の医療器具。
【請求項29】
GLP−1を注射するための、請求項23〜26のいずれか一項に記載の医療器具。
【請求項30】
ロベノックスを注射するための、請求項23〜26のいずれか一項に記載の医療器具。
【請求項31】
請求項23〜30のいずれか一項に記載の、ヒトまたは動物の身体に薬剤を注射するための医療器具の製造法であって、
a)少なくとも1つの技術構成部品を実装するための基部要素を備え、
b)受け器を備え、
c)プランジャ軸を備え、
d)送り機構を備え、
e)計量装置を備え、
f)ディスプレイを備え、
g)放出機構を備え、
h)場合により、電子構成要素を備え、
i)請求項20に記載の技術装置を備え、
j)a)〜i)の個々の構成要素を組み立てて機能ユニットを得る、製造法。
【請求項32】
消化管において、薬理的活性を減弱されるかまたは喪失する薬剤による身体の疾患または機能不全またはこれら両方の予防または治療またはこれら両方を行うための、請求項23〜26のいずれか一項に記載の医療器具の使用。
【請求項33】
糖尿病を治療するための、請求項23〜26のいずれか一項に記載の医療器具の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−505475(P2010−505475A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530778(P2009−530778)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008363
【国際公開番号】WO2008/040479
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】