説明

ガランタミンを含有する口腔内崩壊錠剤

【課題】ガランタミンの溶出性を改善した口腔内崩壊錠剤を提供する。
【解決手段】ガランタミン又はその塩およびカルボキシメチルスターチナトリウムを含有する錠剤であれば、ガランタミンの溶出性を改善することができ、良好な崩壊性および硬度を示す。特にカルボキシメチルスターチナトリウムの含有量を5〜10重量%とした場合、それらの効果は顕著である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病の治療剤であるガランタミンの口腔内崩壊錠剤に関する。詳しくは、ガランタミン又はその塩、およびカルボキシメチルスターチナトリウムを含有することを特徴とする口腔内崩壊錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、認知機能低下、人格の変化を主な症状とする認知症の一種であり、徐々に進行する認知障害(記憶障害、見当識障害、学習障害、注意障害、空間認知機能や問題解決能力の障害など)である。
アルツハイマー病の進行を抑制する薬物として、ガランタミンが注目されている。ガランタミンは、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用を有し、その臭化水素酸塩は、下式
【化1】


で示される。ガランタミンの化学名は[4aS−(4aα,6β,8aR*)]−4a,5,9,10,11,12−ヘキサヒドロ−3−メトキシ−11−メチル−6H−ベンゾフロ[3−a,3,2−ef][2]ベンゾアゼピン−6−オールである。ガランタミン臭化水素酸塩の水溶解度は20℃で約33mg/mLである。このような水溶解度の高い薬物の場合、溶出率のばらつきが大きくなる恐れがある。
【0003】
アルツハイマー病の認知症患者の多くは、高齢者であり、嚥下能力が低いため、錠剤の服用が困難である。このような高齢者でも容易に錠剤を服用でき、かつ十分な薬効が得られるようにするため、口腔内で速やかに崩壊し、かつ溶出性の改善された口腔内崩壊錠剤の開発が望まれている。ガランタミンに関する製剤としては、ラクトース−水和物と微結晶性セルロースとの噴霧乾燥混合物(75:25)並びに崩壊剤を含有する錠剤が公知であるが(特許文献1)、その文献中には口腔内崩壊錠剤について記載されていない。
【0004】
口腔内崩壊錠剤に関し、以下の文献が挙げられる。
特許文献2には、活性成分、結晶セルロース、無機賦形剤及びカルメロースを含有する口腔内崩壊錠剤が記載されている。
特許文献3には、抗精神病薬であるリスペリドン、結晶セルロース、無機賦形剤及びカルメロースを含有する口腔内崩壊錠剤が記載されている。
特許文献4には、メチルプレドニゾロンおよび10重量%以上のカルボキシメチルスターチナトリウムを含有する口腔内崩壊錠剤が記載されている。
非特許文献1には、結晶セルロース、無水リン酸水素カルシウム、カルメロース及び滑沢剤であるステアリン酸マグネシウムを含有する口腔内崩壊錠剤が記載されている。
しかし、崩壊性が良好な錠剤であっても、薬物によっては、溶出性が改善されず、また、複数回の溶出試験を行うと溶出率のばらつきが大きくなる場合があるが、上記文献には薬物の溶出率や溶出率のばらつきの改善については、記載されていない。
【0005】
一方、溶出率を改善した製剤に関し、以下の文献が挙げられる。
特許文献5には、ネフィラセタムの粒子径を大きくすることによって、ネフィラセタムの溶出率を改善したことが記載されている。
特許文献6には、主薬(N−ヒドロキシ−4−5−[4−(5−イソプロピル−2−メチル−1,3−チアゾール−4−イル)フェノキシ]ベントキシ−ベンズアミジン)、カルボキシメチルスターチナトリウムおよびリン酸水素カルシウムを含有する経口用製剤が記載されており、主薬の溶出性を改善したことが記載されている。
しかし、上記文献には錠剤が口腔内で崩壊することは、記載されていない。
【0006】
【特許文献1】特表2000−511918
【特許文献2】WO2007/018192
【特許文献3】WO2008/081774
【特許文献4】特表平1−501934
【特許文献5】特開2002−104966
【特許文献6】特表2008−520655
【非特許文献1】協和化学工業株式会社のパンフレット(直打用賦形剤 無水リン酸水素カルシウムGS)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、ガランタミンについて、溶出率が高く、溶出率のばらつきが小さい口腔内崩壊錠剤の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討し、ガランタミンの溶出性を改善した口腔内崩壊錠剤を形成する添加剤としてカルボキシメチルスターチナトリウムが有用であることを見出した。特に、カルボキシメチルスターチナトリウムの含量が、錠剤全重量に対し、1〜30重量%、好ましくは3〜15重量%、より好ましくは5〜10重量%であれば、その効果は顕著である。以下、ガランタミンや添加物の含量は、錠剤全重量に対する含量で表す。本明細書中の添加剤としては、例えば、医薬品添加物事典2007(2007年、株式会社薬事日報社発行)、日本薬局方に記載されたものや通常医薬に用いられるものであればよい。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ガランタミン又はその塩、およびカルボキシメチルスターチナトリウムを含有する
ことを特徴とする口腔内崩壊錠剤、
(2)1〜30重量%のカルボキシメチルスターチナトリウムを含有する上記(1)記載の口腔内崩壊錠剤、
(3)5〜10重量%のカルボキシメチルスターチナトリウムを含有する上記(1)記載の口腔内崩壊錠剤、
(4)無機賦形剤を含有する上記(1)から(3)のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤、
(5)無機賦形剤が無水リン酸水素カルシウムである上記(4)記載の口腔内崩壊錠剤、
(6)セルロース類を含有する上記(1)から(5)のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤、
(7)セルロース類が結晶セルロースおよび/またはカルメロースである上記(6)記載の口腔内崩壊錠剤、
(8)5〜10重量%のカルボキシメチルスターチナトリウムおよび1〜5重量%のカルメロースを含有する上記(7)記載の口腔内崩壊錠剤、
(9)滑沢剤を含有する上記(1)から(8)のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤、
(10)滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである上記(9)記載の口腔内崩壊錠剤、
(11)0.001〜0.8重量%の滑沢剤を含有する上記(9)または(10)記載の口腔内崩壊錠剤、
(12)滑沢剤の添加方法が外部滑沢法である上記(9)から(11)のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤、
(13)甘味剤を含有する上記(1)から(12)のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤、
(14)甘味剤がアスパルテームである上記(13)記載の口腔内崩壊錠剤、
(15)ガランタミン又はその塩、カルボキシメチルスターチナトリウム、無水リン酸水素カルシウム、結晶セルロース、アスパルテームおよびステアリン酸マグネシウムを含有する上記(1)から(14)のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤、
(16)ガランタミン又はその塩、カルボキシメチルスターチナトリウム、無水リン酸水素カルシウム、結晶セルロース、カルメロース、アスパルテームおよびステアリン酸マグネシウムを含有する上記(15)記載の口腔内崩壊錠剤、
(17)1〜20重量%のガランタミン又はその塩、1〜30重量%のカルボキシメチルスターチナトリウム、10〜60重量%の無水リン酸水素カルシウム、10〜50重量%の結晶セルロース、0.1〜10重量のカルメロースおよび0.001〜0.8重量のステアリン酸マグネシウムを含有する上記(16)記載の口腔内崩壊錠剤、
(18)3〜10重量%のガランタミン又はその塩、5〜10重量%のカルボキシメチルスターチナトリウム、30〜50重量%の無水リン酸水素カルシウム、20〜40重量%の結晶セルロース、1〜5重量%のカルメロース、0.5〜7.5重量%のアスパルテームおよび0.1〜0.5重量%のステアリン酸マグネシウムを含有する上記(16)記載の口腔内崩壊錠剤、
(19)日本薬局方の溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率が85%以上である上記(1)から(18)のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤、
(20)日本薬局方の溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率のばらつきが8.5%以内である上記(1)から(19)のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤、
(21)ガランタミン又はその塩、およびカルボキシメチルスターチナトリウムを含有し、日本薬局方の溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率が85%以上である上記(19)記載の口腔内崩壊錠剤、
(22)ガランタミン又はその塩、およびカルボキシメチルスターチナトリウムを含有し、日本薬局方の溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率のばらつきが8.5%以内である上記(20)記載の口腔内崩壊錠剤、
(23)日本薬局方の崩壊試験法において、崩壊時間が1〜60秒である上記(1)から(22)のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤、
(24)硬度が10〜200Nである上記(1)から(23)のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤、
(25)ガランタミンの塩がガランタミン臭化水素酸塩である上記(1)から(24)のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤、
(26)口腔内崩壊錠剤においてガランタミンの溶出率を制御する方法であって、カルボキシメチルスターチナトリウムを含有させることを特徴とする方法、
(27)日本薬局方の溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率を85%以上に制御する上記(26)記載の方法、
(28)日本薬局方の溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率のばらつきを8.5%以内に制御する上記(26)記載の方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガランタミン含有口腔内崩壊錠剤(以下、「本製剤」という。)は、良好な溶出性及び崩壊性を示す。また、錠剤の硬度も実用性に耐えられるレベルである。本製剤は、好ましくは、日本薬局方の溶出試験法において、溶出試験開始15分後の溶出率が85%以上であり、溶出率のばらつきが8.5%以内である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】崩壊剤を変更した場合のガランタミンの溶出挙動
【図2】カルボキシメチルスターチナトリウムの含有量を変更した場合のガランタミンの溶出挙動
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ガランタミンの塩としては、好ましくは製薬上許容される塩が用いられる。「製薬上許容される塩」としては、例えば臭化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸等の無機酸の塩、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸またはクエン酸等の有機酸の塩、アンモニウム、トリメチルアンモニウムまたはトリエチルアンモニウム等の有機塩基の塩、ナトリウムまたはカリウム等のアルカリ金属の塩、およびカルシウムまたはマグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等を挙げることができる。より好ましくはガランタミン臭化水素酸塩である。ガランタミン又はその塩の含量は、1〜20重量%、好ましくは2〜15重量%、より好ましくは3〜10重量%である。これらの含量よりも少なければ、相対的に錠剤の崩壊時間が短くなる可能性があり、多ければ、錠剤の崩壊時間が遅くなる恐れがある。
【0013】
カルボキシメチルスターチナトリウムとは、デンプンのカルボキシメチルエーテルのナトリウム塩であり、別名デンプングリコール酸ナトリウムともいう。具体的には、パピールNo.50(日澱化学工業)、エキスプロタブ(木村産業)、プリモジェル(松谷化学工業)およびボンタブ(日澱化学工業)等である。本製剤において、カルボキシメチルスターチナトリウムは、主に崩壊性改善の目的で用いられるが、溶出性改善の目的で用いられる場合もある。
【0014】
カルボキシメチルスターチナトリウムの含量は、1〜30重量%、好ましくは3〜15重量%、より好ましくは5〜10重量%である。これらの含量よりも少なければ、崩壊時間を短縮することができず、溶出率が低くなったり、また、溶出のばらつきが大きくなったりする可能性があり、多ければ、錠剤の硬度が低下する恐れがある。
【0015】
本製剤は、無機賦形剤を含有してもよい。具体的には、無水リン酸水素カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、沈降炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムであり、特に好ましくは無水リン酸水素カルシウム(嵩密度:0.71〜1.0g/mL)である。無水リン酸水素カルシウムとして、具体的には、無水リン酸水素カルシウムGS(協和化学工業株式会社製)、フジカリン(富士化学工業株式会社)、無水リン酸水素カルシウム軽質(協和化学工業株式会社製)、無水リン酸水素カルシウム重質(協和化学工業株式会社製)等が挙げられる。これらの無機賦形剤は、単独でもよいが、二種以上併用することもできる。
【0016】
無機賦形剤の含量は、10〜60重量%、好ましくは20〜55重量%、より好ましくは30〜50重量%である。これらの含量よりも少なければ、錠剤の硬度が低下する可能性があり、多ければ、溶出性を改善することができない恐れがある。
【0017】
無機賦形剤の嵩密度は、通常0.30〜1.0g/mL、好ましくは0.5〜1.0g/mL、より好ましくは0.6〜1.0g/mLである。この嵩密度の範囲外であれば、錠剤の硬度が低下し、崩壊時間が遅延する可能性がある。
【0018】
本製剤は、セルロース類を含有してもよい。具体的には、結晶セルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、カルボキシメチルエチルセルロース等が挙げられる。好ましくは、結晶セルロースおよびカルメロースが挙げられる。これらのセルロース類は、錠剤の崩壊を促進し、また単独でもよいが、二種以上併用することができる。
【0019】
セルロース類の含量は、0.1〜50重量%、好ましくは0.5〜45重量%、より好ましくは1〜40重量%である。これらの含量よりも少なければ、錠剤の硬度が低下したり、または崩壊時間が長くなったりする可能性があり、多ければ、錠剤が大きくなり、服用性が悪くなる恐れがある。
【0020】
結晶セルロースとして、具体的には、セオラスPH−101、セオラスPH−102、セオラスPH−200、セオラスPH−301、セオラスPH−302、アビセルPH−F20JP、セオラスKG−802、セオラスKG−1000、セオラスUF−702、セオラスUF−711(旭化成工業(株)製)、VIVAPUR(グレード105、101、103、301、102、112)、ARBOCEL(グレードM80、P290、A300)、プロソルブSMCC50、プロソルブSMCC90(JRS PHARMA社製)等が挙げられる。結晶セルロースの平均粒子径は、10〜200μm、好ましくは30〜130μm、より好ましくは40〜120μmである。具体的には、セオラスPH102(旭化成工業(株)製、平均粒子径約100μm)である。この平均粒子径の範囲外であれば、錠剤の硬度が低下し、崩壊時間が遅延する可能性がある。
【0021】
結晶セルロースの含量は、10〜50重量%、好ましくは15〜45重量%、より好ましくは20〜40重量%である。これらの含量よりも少なければ、錠剤の硬度が低下したり、または崩壊時間が長くなったりする可能性があり、多ければ、錠剤が大きくなり、服用性が悪くなる恐れがある。
【0022】
本製剤の無機賦形剤、特に無水リン酸水素カルシウムとセルロース類、特に結晶セルロースの配合比は、適宜決めることができるが、8:2〜2:8、好ましくは3:7〜5:5、より好ましくは、約6:4の割合である。セルロース類の配合比がこれよりも高いとセルロース類のざらつきにより食感が低下する可能性がある。またセルロース類の配合比がこれより低いと錠剤硬度が低下する恐れがある。
【0023】
カルメロースは、別名カルボキシメチルセルロースであり、具体的には、NS−300(五徳薬品株式会社)等が挙げられる。錠剤中にカルメロースを含有すれば、経時保存した場合でも、錠剤の崩壊性遅延を抑制することができる。
【0024】
カルメロースの含量は、0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜7.5重量%、より好ましくは1〜5重量%ある。これらの含量よりも少なければ、錠剤の崩壊時間が長くなる可能性があり、多ければ、錠剤の硬度が低下し、または溶出率がばらつく恐れがある。
【0025】
本製剤は、滑沢剤を含有してもよい。具体的にはステアリン酸金属塩、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、含水二酸化ケイ素等が挙げられるが、好ましくはステアリン酸金属塩である。ステアリン酸金属塩としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等が挙げられるが、好ましくは、ステアリン酸マグネシウムである。
【0026】
滑沢剤の含量は、0.001〜0.8重量%、好ましくは0.01〜0.65重量%、より好ましくは0.1〜0.5重量%である。これらの含量よりも少なければ、打錠することができない可能性があり、多ければ、錠剤の崩壊時間が遅延する恐れがある。
【0027】
本製剤は、甘味剤を含有してもよい。甘味剤とは、糖類、糖アルコールと比較し少量で強い甘味を感じる物が好ましく、非糖質の天然甘味料や合成甘味料が好ましい。具体的には、白糖の甘味度を1とした場合、50倍以上の甘味度を有する甘味剤である。例えばアスパルテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン又はその塩、グリチルリチン酸又はその塩、ステビア又はその塩、スクラロース、ソーマチン等が挙げられる。
【0028】
甘味剤の含量は、0.1〜10重量%、好ましくは0.25〜9重量%、より好ましくは0.5〜8重量%である。これらの含量よりも少なければ、甘味を生じることができない可能性があり、多ければ、錠剤の硬度が低下する恐れがある。
【0029】
本製剤は、より好ましくは賦形剤として糖類を実質的に含まないことを特徴とする。該糖類としては、具体的には、ショ糖、ブドウ糖、果糖、水飴、乳糖、白糖等が挙げられる。これらの糖類を用いた場合、錠剤の崩壊時間が長くなり、錠剤の硬度が低下する可能性がある。なお、ここでいう「糖類」とは、厚生労働省の栄養表示基準の通り、単糖類および二糖類を意味する。また、「糖類を実質的に含まない」とは、糖類の含量が0.5重量%未満、好ましくは0.25重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満となる場合である。
また、本製剤は、より好ましくは賦形剤として糖アルコールを実質的に含まないことを特徴とする。該糖アルコール類としては、具体的には、エリスリトール、D−ソルビトール、キシリトール、D−マンニトール、マルチトール等が挙げられる。これらの糖アルコールを用いた場合、錠剤の崩壊時間が長くなり、錠剤の硬度が低下する可能性がある。ここで、「糖アルコール」とは、糖類分子のカルボニル基を還元して得られる多価アルコールを指す。また、「糖アルコールを実質的に含まない」とは、糖アルコールの含量が0.5重量%未満、好ましくは0.25重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満となる場合である。
【0030】
本製剤は、流動化剤を含有してもよい。流動化剤とは、打錠前の粉末の流動性を高めるためのものである。具体的には軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、重質無水ケイ酸、酸化チタンなどが挙げられるが、好ましくは軽質無水ケイ酸である。
【0031】
流動化剤の含量は、0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%、より好ましくは0.1〜2.5重量%である。これらの含量よりも少なければ、打錠前の混合粉体の流動性が低下する可能性があり、多ければ、錠剤の崩壊時間が遅延する恐れがある。
【0032】
本製剤は、さらに必要であれば、錠剤の製造に用いられる上述以外の添加剤を含んでいてもよい。またこれらの添加剤は、単独または任意の割合で混合して使用してもよい。上述以外の添加剤としては、例えば、崩壊剤、着色剤、矯味剤、香料、結合剤、コーティング剤等が挙げられる。
崩壊剤として、具体的には、カルメロースカルシウム、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、コーンスターチ等が挙げられる。
着色剤として、具体的には、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用赤色3号、食用黄色5号、食用青色1号などの食用色素、褐色酸化鉄、黒酸化鉄、銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウム、リボフラビン、抹茶末等が挙げられる。
矯味剤として、具体的には、アスコルビン酸およびその塩、グリシン、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩酸、希塩酸、クエン酸およびその塩、無水クエン酸、L−グルタミン酸およびその塩、コハク酸およびその塩、酢酸、酒石酸およびその塩、炭酸水素ナトリウム、フマル酸およびその塩、リンゴ酸およびその塩、氷酢酸、イノシン酸二ナトリウム、ハチミツ等が挙げられる。
香料とは、着香剤といわれるものを含み、具体的にはオレンジエッセンス、オレンジ油、カラメル、カンフル、ケイヒ油、スペアミント油、ストロベリーエッセンス、チョコレートエッセンス、チェリーフレーバー、トウヒ油、パインオイル、ハッカ油、バニラフレーバー、ビターエッセンス、フルーツフレーバー、ペパーミントエッセンス、ミックスフレーバー、ミントフレーバー、メントール、レモンパウダー、レモン油、ローズ油等が挙げられる。
結合剤として、具体的には、アラビアゴム、アラビアゴム末、部分アルファー化デンプン、ゼラチン、カンテン、デキストリン、プルラン、ポビドン、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
コーティング剤として、具体的には、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルメロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、PVAコポリマー、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、オパドライ、カルナバロウ、カルボキシビニルポリマー、乾燥メタクリル酸コポリマー、ジメチルアミノエチルメタアクリレート・メチルメタアクリレートコポリマー、ステアリルアルコール、セラック、セタノール、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、フマル酸・ステアリン酸・ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート・ヒドロキシプロピルメチルセルロース混合物、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、メタクリル酸コポリマー、2−メチル−5−ビニルピリジンメチルアクリレート・メタクリル酸コポリマー等が挙げられる。
【0033】
これらの添加剤は、本製剤における溶出性、崩壊性、成形性を損なわない範囲であれば、通常、任意の量を単独あるいは混合して使用することができる。好ましい薬物および添加剤の組合せは、1)ガランタミン又はその塩/カルボキシメチルスターチナトリウム/無水リン酸水素カルシウム/結晶セルロース/ステアリン酸マグネシウム、2)ガランタミン又はその塩/カルボキシメチルスターチナトリウム/無水リン酸水素カルシウム/結晶セルロース/アスパルテーム/ステアリン酸マグネシウム、3)ガランタミン又はその塩/カルボキシメチルスターチナトリウム/無水リン酸水素カルシウム/結晶セルロース/アスパルテーム/軽質無水ケイ酸/ステアリン酸マグネシウム、4)ガランタミン又はその塩/カルボキシメチルスターチナトリウム/無水リン酸水素カルシウム/結晶セルロース/カルメロース/ステアリン酸マグネシウム、5)ガランタミン又はその塩/カルボキシメチルスターチナトリウム/無水リン酸水素カルシウム/結晶セルロース/カルメロース/アスパルテーム/ステアリン酸マグネシウム、および6)ガランタミン又はその塩/カルボキシメチルスターチナトリウム/無水リン酸水素カルシウム/結晶セルロース/カルメロース/アスパルテーム/軽質無水ケイ酸/ステアリン酸マグネシウムである。
【0034】
ガランタミン又はその塩/カルボキシメチルスターチナトリウム/無水リン酸水素カルシウム/結晶セルロース/ステアリン酸マグネシウムの組み合わせにおいて、それぞれの含有量は、ガランタミン又はその塩が1〜20重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが1〜30重量%、無水リン酸水素カルシウムが10〜60重量%、結晶セルロースが10〜50重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.001〜0.8重量%である。好ましくは、ガランタミン又はその塩が2〜15重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが3〜15重量%、無水リン酸水素カルシウムが20〜55重量%、結晶セルロースが15〜45重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.01〜0.65重量%である。より好ましくは、ガランタミン又はその塩が3〜10重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが5〜10重量%、無水リン酸水素カルシウムが30〜50重量%、結晶セルロースが20〜40重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.1〜0.5重量%である。
【0035】
ガランタミン又はその塩/カルボキシメチルスターチナトリウム/無水リン酸水素カルシウム/結晶セルロース/アスパルテーム/ステアリン酸マグネシウムの組み合わせにおいて、それぞれの含有量は、ガランタミン又はその塩が1〜20重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが1〜30重量%、無水リン酸水素カルシウムが10〜60重量%、結晶セルロースが10〜50重量%、アスパルテームが0.1〜10重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.001〜0.8重量%である。好ましくは、ガランタミン又はその塩が2〜15重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが3〜15重量%、無水リン酸水素カルシウムが20〜55重量%、結晶セルロースが15〜45重量%、アスパルテームが0.25〜9重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.01〜0.65重量%である。より好ましくは、ガランタミン又はその塩が3〜10重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが5〜10重量%、無水リン酸水素カルシウムが30〜50重量%、結晶セルロースが20〜40重量%、アスパルテームが0.5〜8重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.1〜0.5重量%である。
【0036】
ガランタミン又はその塩/カルボキシメチルスターチナトリウム/無水リン酸水素カルシウム/結晶セルロース/アスパルテーム/軽質無水ケイ酸/ステアリン酸マグネシウムの組み合わせにおいて、それぞれの含有量は、ガランタミン又はその塩が1〜20重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが1〜30重量%、無水リン酸水素カルシウムが10〜60重量%、結晶セルロースが10〜50重量%、アスパルテームが0.1〜10重量%、軽質無水ケイ酸が0.01〜10重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.001〜0.8重量%である。好ましくは、ガランタミン又はその塩が2〜15重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが3〜15重量%、無水リン酸水素カルシウムが20〜55重量%、結晶セルロースが15〜45重量%、アスパルテームが0.25〜9重量%、軽質無水ケイ酸が0.05〜5重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.01〜0.65重量%である。より好ましくは、ガランタミン又はその塩が3〜10重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが5〜10重量%、無水リン酸水素カルシウムが30〜50重量%、結晶セルロースが20〜40重量%、アスパルテームが0.5〜8重量%、軽質無水ケイ酸が0.1〜2.5重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.1〜0.5重量%である。
【0037】
ガランタミン又はその塩/カルボキシメチルスターチナトリウム/無水リン酸水素カルシウム/結晶セルロース/カルメロース/ステアリン酸マグネシウムの組み合わせにおいて、それぞれの含有量は、ガランタミン又はその塩が1〜20重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが1〜30重量%、無水リン酸水素カルシウムが10〜60重量%、結晶セルロースが10〜50重量%、カルメロースが0.1〜10重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.001〜0.8重量%である。好ましくは、ガランタミン又はその塩が2〜15重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが3〜15重量%、無水リン酸水素カルシウムが20〜55重量%、結晶セルロースが15〜45重量%、カルメロースが0.5〜7.5重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.01〜0.65重量%である。より好ましくは、ガランタミン又はその塩が3〜10重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが5〜10重量%、無水リン酸水素カルシウムが30〜50重量%、結晶セルロースが20〜40重量%、カルメロースが1〜5重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.1〜0.5重量%である。
【0038】
ガランタミン又はその塩/カルボキシメチルスターチナトリウム/無水リン酸水素カルシウム/結晶セルロース/カルメロース/アスパルテーム/ステアリン酸マグネシウムの組み合わせにおいて、それぞれの含有量は、ガランタミン又はその塩が1〜20重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが1〜30重量%、無水リン酸水素カルシウムが10〜60重量%、結晶セルロースが10〜50重量%、カルメロースが0.1〜10重量%、アスパルテームが0.1〜10重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.001〜0.8重量%である。好ましくは、ガランタミン又はその塩が2〜15重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが3〜15重量%、無水リン酸水素カルシウムが20〜55重量%、結晶セルロースが15〜45重量%、カルメロースが0.5〜7.5重量%、アスパルテームが0.25〜9重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.01〜0.65重量%である。より好ましくは、ガランタミン又はその塩が3〜10重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが5〜10重量%、無水リン酸水素カルシウムが30〜50重量%、結晶セルロースが20〜40重量%、カルメロースが1〜5重量%、アスパルテームが0.5〜8重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.1〜0.5重量%である。
【0039】
ガランタミン又はその塩/カルボキシメチルスターチナトリウム/無水リン酸水素カルシウム/結晶セルロース/カルメロース/アスパルテーム/軽質無水ケイ酸/ステアリン酸マグネシウムの組み合わせにおいて、それぞれの含有量は、ガランタミン又はその塩が1〜20重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが1〜30重量%、無水リン酸水素カルシウムが10〜60重量%、結晶セルロースが10〜50重量%、アスパルテームが0.1〜10重量%、軽質無水ケイ酸が0.01〜10重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.001〜0.8重量%である。好ましくは、ガランタミン又はその塩が2〜15重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが3〜15重量%、無水リン酸水素カルシウムが20〜55重量%、結晶セルロースが15〜45重量%、アスパルテームが0.25〜9重量%、軽質無水ケイ酸が0.05〜5重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.01〜0.65重量%である。より好ましくは、ガランタミン又はその塩が3〜10重量%、カルボキシメチルスターチナトリウムが5〜10重量%、無水リン酸水素カルシウムが30〜50重量%、結晶セルロースが20〜40重量%、アスパルテームが0.5〜8重量%、軽質無水ケイ酸が0.1〜2.5重量%およびステアリン酸マグネシウムが0.1〜0.5重量%である。
【0040】
本製剤は、唾液により、口腔内で速やかに崩壊する錠剤である。本製剤の崩壊時間は、日本薬局方による崩壊試験法において、1〜60秒、好ましくは1〜40秒、より好ましくは1〜30秒、口腔内での口溶け時間は、1〜60秒、好ましくは1〜40秒、より好ましくは1〜30秒である。本製剤は、錠剤の口腔内での崩壊後もざらつきを残さずに滑らかに服用可能である。
【0041】
また、本製剤は、良好な溶出性を示し、日本薬局方による溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは87.5%以上、特に好ましくは90%以上である。溶出試験を複数回行う場合、溶出率はその平均値とする。
【0042】
本製剤において、日本薬局方による溶出試験法における溶出率のばらつき、すなわち溶出試験を複数回行った場合、試験開始15分後のガランタミンの溶出率の最高値と最低値の差は、9.0%以内、好ましくは8.5%以内、より好ましくは5.0%以内、さらに好ましくは2.5%以内、特に好ましくは1.0%以内である。
【0043】
本製剤の硬度は、錠剤硬度計で測定した場合、10〜200N、好ましくは20〜150N、より好ましくは30〜100N程度である。この硬度より低ければ、保存中やPTP包装から錠剤を取り出す際に錠剤が破損する恐れがあり、高ければ錠剤の崩壊時間が遅延する可能性がある。
【0044】
本製剤の投与量は、患者の重篤度、年令にもよるが、成人1日当りの投与量は、活性成分として約8〜24mgである。なお、本製剤は口腔内で崩壊させることなく服用することや水と一緒に服用することもできる。
【0045】
本製剤の製造は、従来行われている錠剤の製造方法を用いることができる。すなわち粉末を混合し、直接圧縮して打錠する直接粉末圧縮法(直接打錠法、直打法とも言う)、または粉末を顆粒とし、その顆粒を打錠する顆粒圧縮法によって、本製剤を製造することができる。以下、本製剤の製造方法を具体的に説明する。
例えば、ガランタミン又はその塩と添加剤をV型混合機などの適当な混合機で混合して得られる錠剤用混合末を、後述する打錠機を用いて直接圧縮打錠して製造する。錠剤用混合末は、撹拌造粒機により強力に混合する方法や粉砕機により混合粉砕する方法、乾式造粒機により圧縮造粒する方法や、必要により結合剤を分散または溶解させた水、アセトン、エチルアルコール、プロピルアルコール又はこれらの混合液を用いて湿式造粒を行う方法等により得られる。錠剤用混合末を製造する際には必要に応じ、結合剤、矯味剤、流動化剤、滑沢剤、香料、甘味剤、着色剤などを混合してもよい。なお、本発明において、ガランタミン又はその塩および添加物の粒子径は特に限定されない。
【0046】
このようにして得られた錠剤用混合末を例えば、単発打錠機、ロータリー式打錠機などを用いて打錠圧2kN〜15kNで圧縮成形し、錠剤を製造することができる。これより圧力が低いと錠剤硬度が不足し取扱上十分な硬度を確保できず、圧力が高いと崩壊が遅延するため好ましくない。
【0047】
また、臼、杵に滑沢剤を付着して打錠する外部滑沢打錠法によって、錠剤を製造することができる。外部滑沢打錠法を行う装置としては、(株)菊水製作所製のELSP1−タイプIIIなどがある。外部滑沢打錠法であれば、少量の滑沢剤でも打錠することができる。少量の滑沢剤であれば、錠剤の崩壊時間が短縮し、しかも薬物の安定性を高めることができる。
【0048】
本製剤の成形に関しては、どのような形状も採用することができ、例えば丸形、楕円形、球形、棒状型、ドーナツ型の形状および積層錠、有核錠などであってもよく、さらにはコーティングによって被覆することもできる。また、識別性向上のためのマーク、文字などの刻印さらには分割用の割線を付けてもよい。
【0049】
本発明において、前もってガランタミンを含有した苦味抑制製剤(例えば、粉・粒体)を製造した後、これら製剤とともに上記添加剤を混合し、錠剤を製造することもできる。この場合、苦味を抑制した口腔内崩壊錠剤を製造することが可能である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例、比較例および参考例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
製造した錠剤は、下記試験法によって、溶出率、錠剤硬度及び崩壊時間を測定した。
(1)溶出試験法
第十五改正日本薬局方一般試験法の溶出試験法 第2法(パドル法)を準用し、毎分50回転で試験した。試験液は日本薬局方規定の精製水を用い、溶出試験開始5、10、15、30分後に溶出液をサンプリングし、第十五改正日本薬局方一般試験法 紫外可視吸光度測定法を準用して、分析波長289nmにおけるガランタミンの吸光度を測定し、溶出率を算出した。同一処方錠剤の溶出率を3回測定し、平均値を算出した。以下、該平均値を溶出率と言うことがある。また、溶出試験開始15分後の溶出率の最高値と最低値の差を溶出率のばらつきとした。
(2)硬度試験法
錠剤硬度計(ERWEKA International AG製)を用いて測定した。試験は3錠で行い、その平均値を示す。(30N以上を実用性の基準とする)
(3)崩壊試験法
第十五改正日本薬局方崩壊試験法を準用し、試験液は日本薬局方規定の精製水を用い、補助盤なしにおける2錠の崩壊時間を測定し、その最大値を示す。(30秒以内を実用性の基準とする)
【0051】
(錠剤製造方法)
ガランタミン臭化水素酸塩、崩壊剤、無水リン酸水素カルシウム、結晶セルロース、アスパルテーム、軽質無水ケイ酸を所定量計量し、ポリ袋内で混合し、混合末を得た。杵・臼に滑沢剤を塗布した後、これらの混合末を1錠あたり約140mgとなるよう秤取し、臼に充填し、圧縮試験機で打錠した。この際の杵の形状は丸型、直径は7mmであった。
【0052】
(崩壊剤の検討)
(実施例1、比較例1〜3)
崩壊剤を検討するために、表1に示す処方の粉末を混合、直接圧縮打錠し、当該錠剤の硬度、崩壊時間および溶出試験開始15分後の溶出率を測定した。なお、ガランタミン臭化水素酸塩は、ヤンセンファーマ社製を、崩壊剤は、カルボキシメチルスターチナトリウムとしてエキスプロタブ(木村産業株式会社製)、カルメロースとしてNS−300(五徳薬品株式会社製)、カルメロースカルシウムとしてECG505(五徳薬品株式会社製)、クロスポビドンとしてポリプラスドンXL−10(ISP Technologies社製)を用いた。また、結晶セルロースとしてセオラスPH−102(旭化成ケミカルズ株式会社製)、無水リン酸水素カルシウムとして無水リン酸水素カルシウムGS(協和化学株式会社製)、アスパルテームとしてPAL SWEET DIET (味の素株式会社製)、軽質無水ケイ酸としてAEROSIL200 (日本アエロジル社製)、ステアリン酸マグネシウムとしてステアリン酸マグネシウム NF (植物性) (Mallinckrodt社製)を使用した。打錠圧は、4kNとした。
(実験結果)
実験結果を表1、溶出挙動を図1に示す。いずれの錠剤においても、錠剤の硬度は、30N以上と実用レベルであり、崩壊時間は10秒以内と非常に速かった。しかし、比較例1、2で示すように、崩壊剤としてカルメロース、カルメロースカルシウムを用いた場合、溶出率は80%以上であったが、そのばらつきは17.3%、9.8%であった。また、比較例3で示すように、クロスポビドンを用いた場合、15分後の溶出率は80%以上に到達せず、そのばらつきも約10%であった。一方、実施例1で示すように、崩壊剤としてカルボキシメチルスターチナトリウムを用いた場合、溶出率は90%以上となり、そのばらつきは1%以内と非常に小さかった。

【表1】

【0053】
(カルボキシメチルスターチナトリウムの含有量の検討)
(実施例1、2、比較例4)
カルボキシメチルスターチナトリウムの最適含有量を検討するために、カルボキシメチルスターチナトリウムの含有量を2重量%、5重量%、10%重量%とし錠剤を製造した。その錠剤の硬度、崩壊時間および溶出試験開始15分後の溶出率を評価した。打錠圧は、約4kNとした。
(実験結果)
実験結果を表2、溶出挙動を図2に示す。いずれの錠剤においても、崩壊時間は10秒以内と非常に速かった。錠剤の硬度は、いずれも30N以上と実用レベルであったが、カルボキシメチルスターチナトリウムの量が増大するに応じて低下する傾向にあった。溶出率は、比較例4で示すように、カルボキシメチルスターチナトリウムの含有量を2重量%とした場合、約80%であり、そのばらつきは、約6%であった。一方、実施例1、2で示すように、カルボキシメチルスターチナトリウムの含有量を5重量%、10重量%とした場合、溶出率は、90%以上であり、そのばらつきは、1%以内であった。
【表2】

【0054】
(カルボキシメチルスターチナトリウムおよびカルメロースを併用した場合の溶出性の検討)
(実施例2、3、参考例1)
カルボキシメチルスターチナトリウム以外の崩壊剤として、カルメロースを併用した場合の溶出率、崩壊性、および錠剤硬度を評価した。カルボキシメチルスターチナトリウムの含有量を5%とし、カルメロースの含有量を5重量%、10重量%とした。なお、実施例2、参考例1の打錠圧は、約4kN、錠剤の質量は、140mg、実施例3の打錠圧は、約5kN、錠剤の質量は、210mgとした。
(実験結果)
実験結果を表3、溶出挙動を図3に示す。いずれの錠剤においても、錠剤の硬度は30N以上と実用レベルであり、崩壊時間は10秒以内と非常に速かった。また、実施例2、3の溶出率は、90%以上であり、そのばらつきは、1%以内であった。
【表3】

【0055】
(ガランタミンの含有量の検討)
(実施例3、4)
ガランタミンの含有量を変化させた場合の溶出率、崩壊性、および錠剤硬度を評価した。ガランタミンの含有量を3.7重量%とし、打錠圧は、約4kNとした。
(実験結果)
実験結果を表4に示す。いずれの錠剤においても、錠剤の硬度は30N以上と実用レベルであり、崩壊時間は10秒以内と非常に速かった。また、実施例4の溶出率は、90%以上であり、そのばらつきは、2.5%以内であり、ガランタミンの含有量を変更しても、溶出率やそのばらつきは、ほとんど変わらなかった。

【表4】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本製剤は、口腔内で速やかに崩壊し、かつ消化管内でガランタミンが速やかに溶出するので、嚥下が困難であるアルツハイマー患者にも有用であり、十分な薬効を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガランタミン又はその塩、およびカルボキシメチルスターチナトリウムを含有することを特徴とする口腔内崩壊錠剤。
【請求項2】
1〜30重量%のカルボキシメチルスターチナトリウムを含有する請求項1記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項3】
5〜10重量%のカルボキシメチルスターチナトリウムを含有する請求項1記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項4】
無機賦形剤を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項5】
無機賦形剤が無水リン酸水素カルシウムである請求項4記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項6】
セルロース類を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項7】
セルロース類が結晶セルロースおよび/またはカルメロースである請求項6記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項8】
5〜10重量%のカルボキシメチルスターチナトリウムおよび1〜5重量%のカルメロースを含有する請求項7記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項9】
滑沢剤を含有する請求項1〜8のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項10】
滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである請求項9記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項11】
0.001〜0.8重量%の滑沢剤を含有する請求項9または10記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項12】
滑沢剤の添加方法が外部滑沢法である請求項9〜11のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項13】
甘味剤を含有する請求項1〜12のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項14】
甘味剤がアスパルテームである請求項13記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項15】
ガランタミン又はその塩、カルボキシメチルスターチナトリウム、無水リン酸水素カルシウム、結晶セルロース、アスパルテームおよびステアリン酸マグネシウムを含有する請求項1〜14のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項16】
ガランタミン又はその塩、カルボキシメチルスターチナトリウム、無水リン酸水素カルシウム、結晶セルロース、カルメロース、アスパルテームおよびステアリン酸マグネシウムを含有する請求項15記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項17】
1〜20重量%のガランタミン又はその塩、1〜30重量%のカルボキシメチルスターチナトリウム、10〜60重量%の無水リン酸水素カルシウム、10〜50重量%の結晶セルロース、0.1〜10重量のカルメロースおよび0.001〜0.8重量のステアリン酸マグネシウムを含有する請求項16記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項18】
3〜10重量%のガランタミン又はその塩、5〜10重量%のカルボキシメチルスターチナトリウム、30〜50重量%の無水リン酸水素カルシウム、20〜40重量%の結晶セルロース、1〜5重量%のカルメロース、0.5〜7.5重量%のアスパルテームおよび0.1〜0.5重量%のステアリン酸マグネシウムを含有する請求項16記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項19】
日本薬局方の溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率が85%以上である請求項1〜18のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項20】
日本薬局方の溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率のばらつきが8.5%以内である請求項1〜19のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項21】
ガランタミン又はその塩、およびカルボキシメチルスターチナトリウムを含有し、日本薬局方の溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率が85%以上である請求項19記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項22】
ガランタミン又はその塩、およびカルボキシメチルスターチナトリウムを含有し、日本薬局方の溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率のばらつきが8.5%以内である請求項20記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項23】
日本薬局方の崩壊試験法において、崩壊時間が1〜60秒である請求項1〜22のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項24】
硬度が10〜200Nである請求項1〜23のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項25】
ガランタミンの塩がガランタミン臭化水素酸塩である請求項1〜24のいずれかに記載の口腔内崩壊錠剤。
【請求項26】
口腔内崩壊錠剤においてガランタミンの溶出率を制御する方法であって、カルボキシメチルスターチナトリウムを含有させることを特徴とする方法。
【請求項27】
日本薬局方の溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率を85%以上に制御する請求項26記載の方法。
【請求項28】
日本薬局方の溶出試験法において、試験開始15分後のガランタミンの溶出率のばらつきを8.5%以内に制御する請求項26記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188364(P2012−188364A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51292(P2011−51292)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】