説明

ガルバノスキャナ及びレーザ加工装置

【課題】冷媒通過による潤滑不良やグリース漏れを生じることなく永久磁石の温度上昇を抑制することができるようにする。
【解決手段】永久磁石12を保持する回転軸11の一方にミラー100が、他方にエンコーダ板17がそれぞれ取り付けられた回転子20と、自身の内部空間に前記回転子を回転可能に収納した固定子30と、を備え、回転子20が所定の角度範囲内で微小回転するガルバノスキャナ1において、回転軸11の軸方向に設けられた中空部2と、中空部2に配置され、エンコーダ板17側の端部から供給される回収不要の冷媒を中空部2内に噴射するノズル60と、噴射された冷媒が回転子20内を通過し、回転子20の端部側から排出される冷却経路40,41,42と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は永久磁石を冷却する機能を有するガルバノスキャナ、及びガルバノスキャナを備えたレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板は多層化し、素子等の実装穴や層間接続穴が高密度になり、プリント配線板1枚当たりの穴数は増加傾向にある。そのため、プリント配線板向け穴明け機の1つであるレーザ加工装置には穴数増加に伴う穴明け速度の高速化が求められている。一般的なレーザ加工装置にはガルバノスキャナが搭載され、このガルバノスキャナによって加工位置の位置決めが行われる。そのため、ガルバノスキャナの応答速度を高速化することは穴明け速度の高速化につながる。なお、前記実装穴あるいは前記層間接続穴には、有底の穴と無底の孔があるが、本明細書では、これらを含めて全て「穴」と表記している。
【0003】
図21は、前記一般的なレーザ加工装置の概略構成を示す図である。図21に示すように、レーザ加工装置は主にレーザ光源110、偏向方向の異なる2つのガルバノスキャナ1、Fθレンズ112、プリント配線板113から構成されている。このように構成されたレーザ加工装置では、レーザ光源110から照射されたレーザ光111はガルバノスキャナ1に取り付けられたミラー100により偏向される。偏向されたレーザ光111がFθレンズ112によりプリント配線板113に集光されることで、加工穴が形成される。一般的なレーザ加工機では搭載されたガルバノスキャナ1を用いて加工位置の位置決めを行う。そのため、ガルバノスキャナ1の応答速度を高速化することは穴明け速度の高速化につながる。
【0004】
ガルバノスキャナの一例としてムービングマグネット方式のガルバノスキャナがある。このムービングマグネット方式のガルバノスキャナ1は、図22に示すように内側から軸11、永久磁石12、コイル14、ヨーク15、アウターケース16から構成され、永久磁石12とコイル14の間に空隙13が形成されている。軸11と永久磁石12が回転子、コイル14、ヨーク15、アウターケース16が固定子であり、固定子内の空間に回転子が配置され、両者間の径方向に空隙13が存在するように組み上げられている。
【0005】
永久磁石12にはフェライト、サマリウムコバルト、ネオジム系等の金属系永久磁石が用いられる。このうちネオジム磁石は磁束密度が高く、非常に強い磁力を持つが、磁力の温度変化に伴う変化が大きく、加熱すると熱減磁が生じやすい。
【0006】
回転子は回転軸周りに自由度があり、軸11の一端にはミラー100が取り付けられ、他端にはミラー100の回転角度を検出するエンコーダのスケールであるエンコーダ板17が取り付けられている。軸11はベアリング18によりアウターケース16の上下の端部で保持され、回転子の回転軸周りの自由度、すなわち、回転の自由度を確保している。
【0007】
この方式のガルバノスキャナ1では、コイル14に電流を流すことによって生じる磁場と永久磁石12の磁極の関係によりトルクが生じ、このトルクにより軸11が微小回転する。コイル14は理想インダクタと抵抗の直列で表現することができ、コイル14に電流が流れることで抵抗成分によるジュール発熱が生じる。ジュール発熱により生じる熱は空隙13を介して永久磁石12に伝熱するため永久磁石12の温度は上昇する。
【0008】
コイル14に交流電流が流れると、永久磁石12近傍の磁束は交流電流の周波数に応じて方向と大きさが変化する。そのため、磁束変化を打ち消すように永久磁石12の表面近傍に渦電流が流れる。このとき、渦電流は永久磁石12の外周中央部を流れ、回転軸方向における永久磁石12の一端で外周中央部から周方向の端面に向かって流れる。その後、端面に沿って渦電流が流れ、回転軸方向における永久磁石12の他端で周方向の端面から永久磁石12の外周中央部に向かって流れる。このように渦電流が発生すると、渦電流と永久磁石12の抵抗によりジュール発熱(渦電流損失)が生じるため、永久磁石12の温度は上昇する。
【0009】
単位消費電力当たりの温度上昇に関して、渦電流損失による発熱は直接永久磁石12に影響するため、コイル14からの伝熱よりも十分に大きい。また、周波数が高くなるにつれて渦電流損失は増加するため、ガルバノスキャナ1を高速駆動化するときはさらに永久磁石12の温度上昇は大きくなる。そして、これらの温度上昇により永久磁石12が減磁し、トルクが減少する。
【0010】
このように、応答周波数の高速化に伴い、駆動時において永久磁石12の温度が上昇するが、温度上昇がトルク減少につながることから、応答特性が劣化し、応答特性の劣化は加工精度の劣化につながる。
【0011】
そこで、永久磁石12の温度上昇を防止し、加工精度の劣化を防ぐようにした技術として、例えば特許文献1及び2に記載された発明が公知である。このうち特許文献1記載の技術は、外筒の外部と内部を接続するガス流入口と流出口を有する電磁アクチュエータにおいて、固定子側から冷媒のガスを供給して、固定子から外部にガスを排出するように冷却経路が形成され、この冷却経路によってコイル及び磁石を冷却するようにしたことを特徴としている。
【0012】
また、特許文献2記載の技術は、動力伝達装置用の潤滑油でロータを冷却する電動モータに関するもので、この技術では、動力伝達装置のケーシング内の潤滑油を吸い上げるオイルポンプを設け、オイルポンプからの潤滑油を給油路を介してヨーク内の冷却用油路に供給し、冷却用油路を通過した潤滑油をケーシング内に戻すことによってロータを冷却することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−245464号公報
【特許文献2】特開2001−190047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述のように特許文献1に記載の技術では、冷却経路によってコイル及び磁石を冷却している。しかし、回転子を保持するベアリングを冷媒が通過することによる潤滑不良やグリース漏れについては特に検討されていない。また、ミラー側にガスが排出されることによる、加工時の位置決め精度についても検討されていない。
【0015】
また、特許文献2記載の技術では、冷却用油路を通過した潤滑油をケーシング内に戻すことによってロータを冷却しているが、気体冷媒の場合について検討されておらず、特許文献1記載の技術と同様に冷却経路に含まれるベアリングを冷媒が通過することによる潤滑不良やグリース漏れについては特に検討されていない。
【0016】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、冷媒通過による潤滑不良やグリース漏れを生じることなく永久磁石の温度上昇を抑制することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するため、第1の手段は、永久磁石を保持する回転軸の一方にミラーが、他方にエンコーダ板がそれぞれ取り付けられた回転子と、自身の内部空間に前記回転子を回転可能に収納した固定子と、を備え、前記回転子が所定の角度範囲内で微小回転するガルバノスキャナにおいて、前記回転軸の軸方向に設けられた中空部と、前記中空部に配置され、エンコーダ板側の端部から供給される回収不要の冷媒を前記中空部内に噴射するノズルと、前記噴射された冷媒が前記回転子内を通過し、当該回転子の前記端部側から排出される冷却経路と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
第2の手段は、第1の手段において、前記冷却経路が、前記ノズルの外周面と前記中空部の内周面との間に形成されていることを特徴とする。
【0019】
第3の手段は、第1の手段において、前記冷却経路が、前記永久磁石の前記回転軸の軸線方向に形成された貫通穴と、前記中空部で前記貫通穴と前記中空部とを連通する接続経路と、を備えていることを特徴とする。
【0020】
第4の手段は、第3の手段において、前記接続経路は、前記回転子を前記固定子に対して回転可能に支持する軸受けと前記永久磁石の軸線方向の端部との間に設けられ、前記軸受けと前記永久磁石間を密封状態にすることを特徴とする。
【0021】
第5の手段は、第3又は第4の手段において、前記貫通穴は隣り合う永久磁石の境界部分に設けられていることを特徴とする。
【0022】
第6の手段は、第3ないし第5のいずれかの手段において、前記回転軸の前記エンコーダ板側は部分的に拡径した大径部となっていることを特徴とする。
【0023】
第7の手段は、第6の手段において、前記大径部に、前記貫通穴に連通し、当該回転軸の端部側に開口する冷却経路が設けられていることを特徴とする。
【0024】
第8の手段は、第1ないし第7の手段に係るガルバノスキャナをレーザ加工装置が備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、永久磁石の回転中心にある軸を中空にして圧縮空気を供給し、冷媒がベアリングを通過しないようにして冷媒を排出するので、冷媒通過による潤滑不良やグリース漏れを生じることなく永久磁石の温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態における実施例1に係るガルバノスキャナの縦断面図である。
【図2】図1における回転子の斜視図である。
【図3】図1における固定子の斜視図である。
【図4】図1におけるノズルの要部拡大縦断面図である。
【図5】実施例1における軸の軸中空部の表面温度と外周中央部分における永久磁石の最高温度上昇の関係を示す図である。
【図6】図4に示したノズルとは異なるノズルの例を示す要部拡大縦断面図である。
【図7】図1におけるガルバノスキャナの横断面図である。
【図8】永久磁石の形状の変形例を示す断面図である。
【図9】永久磁石の形状の他の変形例を示す断面図である。
【図10】永久磁石の形状のさらに他の変形例を示す断面図である。
【図11】本発明の実施形態における実施例2に係るガルバノスキャナの縦断面図で
【図12】図11におけるガルバノスキャナの横断面図である。
【図13】実施例2における軸の軸中空部の表面温度と外周中央部分における永久磁石の最高温度上昇の関係を示す図である。
【図14】図12に示したガルバノスキャナの貫通穴の他の例を示す横断面図である。
【図15】実施例2の変形例を示すガルバノスキャナの縦断面図である。
【図16】実施例2における永久磁石の変形例を示す横断面図である。
【図17】実施例2における永久磁石の他の変形例を示す横断面図である。
【図18】実施例2における永久磁石のさらに他の変形例を示す横断面図である。
【図19】図14に示したガルバノスキャナの貫通穴の他の例を示す横断面図である。
【図20】ガルバノスキャナにおける永久磁石の磁束線を表す説明図である。
【図21】一般的なレーザ加工装置の概略構成を示す図である。
【図22】従来から使用されているムービングマグネット方式のガルバノスキャナの内部構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、永久磁石の回転中心にある軸を中空にして冷却媒体、例えば圧縮空気を供給し、間接的又は直接的に永久磁石を冷却し、永久磁石の温度上昇を抑制するようにしたものである。
【0028】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について実施例を挙げて説明する。なお、以下の説明において、前述の背景技術を含め、同一若しくは同一と見なせる構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【実施例1】
【0029】
実施例1は、永久磁石を間接的に冷却する例である。この実施例1は、図22に示したガルバノスキャナ1の軸11を中空にし、この中空部分に冷却媒体である圧縮空気を供給し、排気するようにしたものである。
【0030】
図1は、実施例1に係るガルバノスキャナ1の縦断面図である。図1において、ガルバノスキャナ1は図22に示した従来から実施されているムービングマグネット方式のガルバノスキャナ1と同様に、ガルバノスキャナ1の内側から軸11、永久磁石12、空隙13、コイル14、ヨーク15、アウターケース16の順で配置されており、軸11と永久磁石12が回転子20、コイル14からアウターケース16までが固定子30である。ただし、図1から分かるように、実施例1では、軸11が有底の筒体となるように、軸11の中心に断面円形の中空部が設けられ(以下、軸中空部2と称す)、この軸中空部2に同軸に円筒形状のノズル60が配置されている。ノズル60は軸11の下端の開口部から挿入され、軸中空部2内で保持される。この軸中空部2の構成を除く各部は図22に示した従来からのガルバノスキャナ1と同一である。なお、図2は回転子20の斜視図であり、図3は固定子30の斜視図である。
【0031】
図4は図1におけるノズル60の要部拡大縦断面図である。ノズル60は図示しない支持部を介して軸中空部2内に保持され、図4にも示すように上端中央部に圧縮空気を噴出させる噴出口61が形成され、下端外周部に噴出口61から噴出された圧縮空気の排出口60bが形成されている。この例では、ノズル60下端の圧縮空気供給口60aから供給され、噴出口61から軸中空部2内の空間に噴出する。噴出した圧縮空気は、膨張しながら軸中空部2の底部(図では軸中空部2の上部の内面)に当たって第1の冷却経路40を中央部から外周の半径方向に広がり、永久磁石12と接する第2の冷却経路41に沿って下方に向かって流れる。そして、ベアリング18及びエンコーダ板と接する第3の冷却経路42を経て、空気供給口60aの外周に設定された排出口60bから排出される。なお、排出口60bはノズル60の外周面とこのノズル60を収納した軸中空部2の内周面との間に形成される円筒状の隙間の外気と接する側の端部である。
【0032】
噴射口61はノズル60の絞りとなっており、ノズル60に供給された圧縮空気はノズル60の内部空間から噴出口61を出る際に断熱膨張する。すなわち、ノズル60内における圧縮空気の圧力と噴射口61の外部における圧力の差によって圧縮空気供給口60aから供給される圧縮空気が噴射口61から軸中空部2への出口側にあたる第1の冷却経路40内に噴射される際に膨張し、断熱膨張により温度が下がる。これにより圧縮空気が冷媒として機能できる。そして、温度が下がった空気が、第2の搬送経路41に沿って流れる過程で、永久磁石12と接する軸11との間で熱交換し、排出口60bから外気へと放出される。冷媒が圧縮空気であるため、回収機構をガルバノスキャナ1に特に設ける必要はない。
【0033】
図5は、軸11の軸中空部2の表面温度と外周中央部分における永久磁石12の最高温度上昇の関係を示す図である。図において横軸が軸中空部2の表面温度である。また、縦軸が永久磁石12の温度上昇であり、冷却しない場合の温度上昇で規格化している。図5から、軸11の軸中空部2内に図1に示す第1ないし第3の冷却経路40,41,42を設け、ノズル60から圧縮空気を冷媒として噴射させることによって温度上昇を抑制することができることが分かる。なお、ノズル60から噴射される圧縮空気の圧力を制御することより、断熱膨張する圧縮空気の温度を調整することが可能であり、これにより軸中空部2の表面温度を調整することができる。
【0034】
図6は、図4とは異なる噴射口61の例を示すノズル60の要部拡大縦断面図である。図4では、噴射口61はノズル60の上端中央部に1個設けられ、圧縮空気は軸中空部2の底部(第1の冷却経路40)に向かって噴出してたが、図6の例では、径方向に複数の噴射口61を設けている。このように径方向に複数の噴射口61を設けると、噴射口61から噴出する低温となった圧縮空気(冷媒)が直接第2の冷却経路41内に噴出され、複数箇所で軸11の内面に当たる。これにより、軸11の内面と熱交換し、永久磁石12を間接的に冷却することができる。
【0035】
なお、図4に示したようなノズル形状とするか、図6に示したようなノズル形状とするか、さらに、図6に示したようなノズル形状とした場合、噴射口61の数と位置をどのように設定するかは、設計的事項であり、冷却対象となる永久磁石12の大きさや発熱量に応じて適宜設定され、選択される。
【0036】
図7はガルバノスキャナ1の横断面図である。永久磁石12の外周表面の磁極は図に示すようにN極とS極の配置となっており、隣り合う永久磁石表面12の磁極は互いに異なっている。本実施例では4極の場合を扱うため、コイル14は永久磁石12の磁極の数に対応し、周方向に90度間隔で4箇所に配置されており、図3に示したようにコイル14が巻かれ、電流6が流れる。すなわち、図7においてコイル14は紙面に向かって垂直な方向に巻かれ、当該コイル14には電流6が流れており、その方向は周方向に±90度離れたコイル14と互いに逆になる。なお、図7における符号40は断面位置ではないが、軸中空部2奥側の第1の冷却経路を、符号42は軸中空部2手前側の第3の冷却経路をそれぞれ示す。
【0037】
図8、図9及び図10は永久磁石12の形状の変形例を示す断面図である。断面の位置は図7と同一である。図8に示すガルバノスキャナ1は、図4に示した例に対して隣り合う永久磁石12にまたがって永久磁石12の外周側に溝80を形成した例である。溝80はガルバノスキャナ1の微小な回転角度の範囲内で常にコイル中空部70と対面している。その他の構成は図7に示したガルバノスキャナ1と同一である。
【0038】
このように溝(切れ込み)80を設けると、渦電流損失を低減させることができるとともに、トルク定数と慣性モーメントの比(トルクイナーシャ比)を向上させることができる。また、溝80を設け、あるいは永久磁石12を径方向に分割すると、渦電流損失を低減させることができることから、永久磁石12に生じる発熱量を少なくすることが可能となり、冷却性能の向上に寄与することができる。
【0039】
図9に示すガルバノスキャナ1は、図8に示したガルバノスキャナ1の1極当たりの永久磁石12を回転軸方向に分割した例である。断面図においては分割を表す分割線90は直線であり、径方向に2分割されている。その他の構成は図7に示したガルバノスキャナ1と同一である。
【0040】
図10に示すガルバノスキャナ1は、図9に示したガルバノスキャナ1の分割線を折れ線としたもので、分割線91は内側に凸の∨字型となっている。その他の構成は図7に示したガルバノスキャナ1と同一である。
【0041】
なお、図8ないし図10に示したガルバノスキャナ1は永久磁石12の変形例を示したものであり、ノズル60を使用した冷却構造は同一である。
【0042】
このように永久磁石12を分割すると、永久磁石12に生じる渦電流損失を低減させることができる。
【0043】
以上のように、本実施例によれば、圧縮空気によって軸11が内部から冷却されるため軸11を介して間接的に永久磁石12を冷却することができる。その結果として、永久磁石12の温度上昇を抑制することが可能となり、永久磁石12の減磁によるトルク減少を防止することができる。このようにして冷却すると、冷却対象が軸11と永久磁石12のみであるため冷却効率が高くなる。
【0044】
冷媒として圧縮空気を使用しているのは、潤滑油などの液状の冷媒では、冷媒の回収の必要があること、回収するための冷媒の循環機構が必要であることなどにより、冷媒の管理及び保守が複雑であり、機構も複雑になるからである。これに対し、冷媒として空気を使用した場合には、回収が不要であるため、循環機構も不要で管理も簡単になる。
【0045】
なお、本実施例では、冷媒として圧縮空気を使用しているが、例えばヘリウムや水素なども使用することができる。また、圧縮空気の供給圧力及び流量は、ガルバノスキャナ1の大きさ、冷却対象の質量などに応じて適宜設定、選択される。
【0046】
また、本実施例1では4極の場合を例にとって説明しているが、2極、6極及び8極の場合でも同様の冷却構成とすることによって同様の効果を得ることができる。
【実施例2】
【0047】
実施例2は、永久磁石を直接的に冷却する例である。この実施例2は、図22に示したガルバノスキャナ1の軸11を中空にするとともに、この中空部分に連通する冷却経路を永久磁石の軸方向に直接形成し、この中空部分に冷却媒体である圧縮空気を供給し、永久磁石内に設けた冷却経路を通して排気するようにしたものである。
【0048】
図11は、実施例2に係るガルバノスキャナ1の縦断面図である。本実施例は実施例1に対して永久磁石12の所定位置に軸11の軸線方向に貫通穴3を貫通させ、永久磁石12の回転軸方向の両端に端部冷却機構19を設けたものである。これにより、第4ないし第8の冷却経路43、44,45,46,47が形成されている。すなわち、実施例1では冷却経路は軸11の中空部分2のみであったが、本実施例では、軸11部分に設けられた軸中空部2に配置されたノズル60によって形成され、エンコーダ板17側に開口する冷却経路に加えて、永久磁石12に設けられた貫通穴3からなる冷却経路がさらに設けられている。なお、軸線は軸11の中心を長手方向に通る仮想の線であり、この軸線を中心に軸11を含む回転子20が回転する。
【0049】
また、端部冷却機構19は、永久磁石12の軸方向両端に配置され、軸11側の第4の冷却経路43と貫通穴3とを接続する機構(接続経路)である。端部冷却機構19は、その内部に設けられた第5の冷却経路44と軸11の軸中空部2にある第4の冷却経路43とを接続し、第7の冷却経路46と軸11の永久磁石12に形成された第6の冷却経路45及びエンコーダ板17側への排気経路として機能する第8の冷却経路47とを接続している。端部冷却機構19は、第4ないし第8の冷却経路43〜47内を通る圧縮空気が外部あるいはベアリング18側に漏れないように、冷却経路を密閉(シール)している。これは、冷媒である圧縮空気がベアリング18の内部を通るとベアリング18内のグリース漏れ、あるいは潤滑不良といった問題を生じるからである。このように第5の冷却経路44及び第7の冷却経路46にこのようなシール機構を設けることにより、ベアリング18内のグリース漏れ、あるいは潤滑不良を防止することができる。
【0050】
すなわち、端部冷却機構19は永久磁石12とベアリング18との間に設けられ、第5及び第7の冷却経路44,46、あるいは第8の冷却経路47を通る圧縮空気のベアリング18側への漏れを防いでいる。そのため、端部冷却機構19は、例えば円筒形状で円筒形状の内側に冷媒が通過する空隙が径方向に存在するよう構成し、ベアリング18内に冷媒が通過しないように軸11内の第1の冷却経路43と永久磁石12の貫通穴3を接続している。この端部冷却機構19は回転子20の一部を構成するので、例えば、軽くて硬いセラミックなどの材料によって製作することが望ましい。
【0051】
その他の各部は実施例1と同一であり、各部は実施例1と同様に動作するので、重複する説明は省略する。
【0052】
本実施例2に係るガルバノスキャナ1では、まず、軸11の軸中空部2に挿入されたノズル60から圧縮空気が軸11内に噴射される。すなわち、ノズル60内に供給された圧縮空気はノズル60先端の噴出口61から第4の冷却経路43に噴出され、実施例1の場合と同様に断熱膨張して,第5の冷却経路44を介して永久磁石12の上端面側に到達する。その後、永久磁石12内の第6の冷却経路45(貫通穴3)を通過し、エンコーダ板17側の第7の冷却経路46を介して永久磁石12の下端面側に達し、軸11内の第8の冷却経路47を経て、エンコーダ板17側の排出口から外部に排出される。このようにして第4ないし第8の冷却経路43〜47を冷媒である圧縮空気が通過することによって永久磁石12が直接的に冷却される。
【0053】
図12は図11に示したガルバノスキャナ1の横断面図である。同図から分かるように貫通穴3は隣り合う永久磁石12の境界部分12aに形成されており、その貫通穴3の中心は周方向に永久磁石12を分割している境界線上にある。また、図12においてαは貫通穴の中心と軸11の外周表面との距離、Dは貫通穴3の直径を表している。
【0054】
図13は永久磁石12の厚みτに対する距離αの割合(α/τ)が0.68、永久磁石12の厚みτに対する直径Dの割合(D/τ)が0.21と0.42の場合における軸中空部2の表面温度と外周中央部分における最高温度上昇の関係を表す特性図である。なお、横軸及び縦軸は実施例1における図5と同一である。図13から実施例1のように軸11のみを冷却する場合と比較して永久磁石12の温度上昇を抑制できることが分かる。また、温度上昇の低減に向けて貫通穴3の直径を大きくすることが望ましいことも分かる。
【0055】
図12に示した例では永久磁石12の境界部分12aにそれぞれ1個ずつ(計4個)の貫通穴3を形成したが、図14に示すように2個の貫通穴3を対角状(回転中心を軸にして対称)に配置しても同様の効果を期待することができる。
【0056】
図15は実施例2の変形例を示すガルバノスキャナ1の縦断面図である。この変形例は、図11に示した実施例2のガルバノスキャナ1に対してエンコーダ板17側の軸11が径方向に部分的に大きい大径部11aとなっており、その大径部11aに冷却経路として永久磁石12部分から続く貫通穴4が形成されている。すなわち、エンコーダ板17側の軸11の端面では3箇所で開口しており、排出口60cと供給ロ60aが独立に存在する。
【0057】
冷却経路としては、軸中空部2に挿入されたノズル60から噴射された圧縮空気が第4の冷却経路43と端部冷却機構19内の第5の冷却経路44を通り、永久磁石12に到達する。次いで、回転軸方向の貫通穴3内の第6冷却経路45を通り永久磁石12を冷却した後、第6の冷却経路45と直線的に連通し、大径部11a内に設けられた貫通穴4を通る。その後、貫通穴4を通過した圧縮空気は、第9の冷却経路48を経て第9の冷却経路48に続く排出口60cから排出される。なお、図15に示した例では、貫通穴3,4は第6の冷却経路45及び第9の冷却経路48を構成する。
【0058】
この変形例では、排出口60cが軸11側に設けられている供給口60aとは別の位置に設けられているので、暖められた圧縮空気が軸11内を通ることがない。そのため、排出前に軸11を通ることによって軸11内部が温められることを防ぐことができる。
【0059】
図16、図17及び図18は実施例2における永久磁石12の変形例を示す横断面図である。図16、図17及び図18に示した例は、実施例1において図8、図9及び図10に示した例に対して隣り合う永久磁石12の境界部分12aに軸線方向の貫通穴3を形成した例である。
【0060】
図20はガルバノスキャナ1における永久磁石12の磁束線を表す説明図である。ガルバノスキャナ1には、永久磁石12とコイル14により磁束7が生じており、コイル14に鎖交する磁束線は主にコイル14に対面する永久磁石部分の磁束である。一方、コイル14が巻かれていない部分(コイル中空部70)に対面する永久磁石部分の磁束はコイル14に鎖交しないため、トルクへの寄与が比較的小さい。したがって、コイル中空部70に対面する永久磁石12の境界部分12aに貫通穴を形成することでトルクイナーシャ比を向上させることができる。
【0061】
したがって、図16ないし図18に示すように永久磁石12の境界部分12aに貫通穴3を形成することが望ましい。そこで、前記実施例及び変形例では、冷却経路である貫通穴3を永久磁石12の境界部分(境界線上)12aに設けているが、境界線上でなくその近傍に設けてもよい。さらに、図14に示したように対角状に貫通穴3を配置する場合には、図19に示すように永久磁石12の中央部分に設けることもできる。このように永久磁石12の境界部分12a以外に貫通穴3を設けても冷却効果は同等である。
【0062】
ただし、本実施例では、永久磁石12を直接的に冷却するために冷却経路を設けて回転子20を冷却している。その際、コイル14のジュール発熱は空隙13を介して永久磁石12に伝熱し、永久磁石12の外周中央部分で主に発熱する。また、永久磁石12に生じる渦電流は表面近傍に流れるため、貫通穴3(及び4)は永久磁石12の表面近傍に形成することが望ましい。
【0063】
また、本実施例2でも4極の場合について説明しているが、実施例1と同じく2極、6極及び8極の場合でも同様の冷却構成とすることによって同様の効果を得ることができる。
【0064】
なお、特許請求の範囲における永久磁石は本実施形態では符号12に、回転軸は軸11に、ミラーは符号100に、エンコーダ板は符号17に、回転子は符号20に、固定子は符号30に、ガルバノスキャナは符号1に、中空部は符号2に、ノズルは符号60に、冷却経路は符号40〜48に、ノズルの外周面と前記中空部の内周面との間の冷却経路は第2の冷却経路41に、貫通穴は符号3及び4に、接続経路は端部冷却機構19に、軸受けはベアリング18に、境界部分は符号12aに、大径部は符号11aに、大径部で貫通穴に連通する冷却経路は第9の冷却経路48に、それぞれ対応する。
【0065】
さらに、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施例は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1 ガルバノスキャナ
2 軸中空部
3,4 貫通穴
11 軸
12 永久磁石
17 エンコーダ板
18 ベアリング
20 回転子
30 固定子
40〜48 冷却経路
60 ノズル
61 噴射口
100 ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を保持する回転軸の一方にミラーが、他方にエンコーダ板がそれぞれ取り付けられた回転子と、自身の内部空間に前記回転子を回転可能に収納した固定子と、を備え、前記回転子が所定の角度範囲内で微小回転するガルバノスキャナにおいて、
前記回転軸の軸方向に設けられた中空部と、
前記中空部に配置され、エンコーダ板側の端部から供給される回収不要の冷媒を前記中空部内に噴射するノズルと、
前記噴射された冷媒が前記回転子内を通過し、当該回転子の前記端部側から排出される冷却経路と、
を備えていることを特徴とするガルバノスキャナ。
【請求項2】
請求項1記載のガルバノスキャナにおいて、
前記冷却経路が、前記ノズルの外周面と前記中空部の内周面との間に形成されていること
を特徴とするガルバノスキャナ。
【請求項3】
請求項1記載のガルバノスキャナにおいて、
前記冷却経路が、
前記永久磁石の前記回転軸の軸線方向に形成された貫通穴と、
前記中空部で前記貫通穴と前記中空部とを連通する接続経路と、
を備えていること
を特徴とするガルバノスキャナ。
【請求項4】
請求項3記載のガルバノスキャナにおいて、
前記接続経路は、前記回転子を前記固定子に対して回転可能に支持する軸受けと前記永久磁石の軸線方向の端部との間に設けられ、前記軸受けと前記永久磁石間を密封状態にすること
を特徴とするガルバノスキャナ。
【請求項5】
請求項3又は4記載のガルバノスキャナにおいて、
前記貫通穴は隣り合う永久磁石の境界部分に設けられていること
を特徴とするガルバノスキャナ。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれか1項に記載のガルバノスキャナにおいて、
前記回転軸の前記エンコーダ板側は部分的に拡径した大径部となっていること
を特徴とするガルバノスキャナ。
【請求項7】
請求項6記載のガルバノスキャナにおいて、
前記大径部に、前記貫通穴に連通し、当該回転軸の端部側に開口する冷却経路が設けられていること
を特徴とするガルバノスキャナ。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載のガルバノスキャナを備えていることを特徴とするレーザ加工装置。

【図5】
image rotate

【図13】
image rotate

【図21】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2013−72952(P2013−72952A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211023(P2011−211023)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000233332)日立ビアメカニクス株式会社 (237)
【Fターム(参考)】