説明

ガードル

【課題】膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使える骨盤底筋の強化手段を提供する。
【解決手段】胴部及び脚部を形成する本体部10と、引張り弾性を有した左右一対の伸長性帯状構造30とを備え、一対の伸長性帯状構造の各々は、股底部15に隣り合う部分を作用領域35とし、前身ごろ側へ上昇しつつ周回する前面引き上げ構造40と、作用領域35において前面引き上げ構造と隣接し後身ごろ側へ上昇しつつ周回する後面引き上げ構造50とを備え、伸長性帯状構造30は、一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士、または前面引き上げ構造40と後面引き上げ構造50とが、弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように結合されているガードル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガードル、特に、身体に装着することにより骨盤底筋をトレーニングするための骨盤底筋トレーニング用ガードルとして用いるのに有利なガードルに関する。
【背景技術】
【0002】
骨盤底筋は図10に示すように、腹腔内臓器(膀胱、直腸、子宮など)を支えながら、尿道、肛門、膣を閉める筋の総称であり、骨盤底筋群と呼ばれることもある。加齢や出産で機能が低下すると尿失禁、便失禁、子宮脱などを生じることがある。これを治療するために試みられるのが骨盤底筋体操(訓練)である。しかし、骨盤底筋体操は正しく、長期間継続して実行しないと効果が得られない。また、骨盤底筋体操の習得には口頭説明のみでは不十分で、指導者が膣内診を行いながら骨盤底筋の位置を認識させ、正しい収縮法を伝えることが必要となることもあり、侵襲性と心理的抵抗の面から実施に困難性が伴う。
【0003】
正しい骨盤底筋の収縮法の習得や、運動継続を動機付ける方法として、バイオフィードバック療法や膣内コーンなどがあるが、いずれも器具の膣挿入が必要であり、侵襲性と心理的抵抗感を否めない。
【0004】
骨盤底筋(肛門挙筋、尿道括約筋、肛門括約筋)は随意収縮できる筋肉であるが、誰もが容易に収縮できる訳ではない。腹圧性尿失禁女性の約30%は骨盤底筋の随意収縮ができないと言われている。
【0005】
既存の骨盤底筋や周辺の筋力強化運動具は、膣への機器挿入が必要で侵襲性が高い(例えば、特許文献1,2)。膣への機器挿入が不要の骨盤底筋力強化具もあるが、これらは、足に装着したり、股間に挟んだり、用具の上に座るなどの構造となっており、使用しながら自由に日常生活を送ることはできない(特許文献3,4,5,6)。また、肛門付近から大腿部にかけて挟み、落下させないように肛門部の筋肉を締め、その状態で短時間保持又は歩行することで骨盤底筋が徐々に鍛えられ、尿失禁等の改善を期待できるとする発明があるが、日常生活の中で負担なく使えるものではない(特許文献7)。
【0006】
したがって、膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使える骨盤底筋の強化手段が求められている。
【0007】
一方、スパッツ、トレーニングパンツ等の衣類の構成面に帯状の弾性片を結合することにより、身体に装着するだけで弾性片の伸縮によるトレーニング効果を意図した提案が種々行なわれている。
【0008】
例えば、特許文献8に示された衣類は、トレーニングによる筋力アップが困難な大腿部内転筋群(図11参照)または臀部外転筋の筋力強化を目的とし、衣類には強伸度の帯状部材をこれらの筋該当箇所に設けた構造となっている。そして、この強伸度の帯状部材により、目的とする筋の強化ないし維持を補助しようとするものである。
【0009】
特許文献9に示されたガードルは、腰の歪み、腰痛、O脚の治療を目的とし、内転筋に沿って延びる前面の弾性帯と、大殿筋を持ち上げるように設けた背面の弾性帯とを設けた構造となっている。そして、弾性帯の伸縮性により、筋肉を鍛える効果を発揮するとしている。
【0010】
特許文献10に示された衣類(スパッツ)は、下肢部の筋肉や関節の動作をサポートし、疲労の蓄積やO脚の原因となる体軸に対する重心ブレに関し、そのブレを抑制することを目的とし、大殿筋及び中殿筋を通る帯状部材に強い緊締力を持たせた構造となっている。左右各2本の帯状部材は大転子で交差することにより、大転子が強い緊締力をもって加圧されて内外への回転を抑制され、重心のブレが防止されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−281662号公報
【特許文献2】特許第3472551号公報
【特許文献3】特開2008−297号公報
【特許文献4】特開2001−104515号公報
【特許文献5】実用新案登録第3139627号公報
【特許文献6】実用新案登録第3117998号公報
【特許文献7】特許第4372225号公報
【特許文献8】特開2005−36353号公報
【特許文献9】特許第4493047号公報
【特許文献10】特開2006−322121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、骨盤底筋の強化を目的とするものとしては、膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使えるものが求められるにも拘わらず、適切な手段が存在しない。また、トレーニング効果を意図した衣類は、強化を目的とする筋に対して設けられた帯状弾性片を用いる構造となっており、帯状弾性片による引張り作用を中心に目的の筋の強化を図るものであり、骨盤底筋の強化及びそのための手段については何ら示していない。
【0013】
本発明は、これら従来技術の問題を解決し、膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使える骨盤底筋の強化手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討をした結果、ガードルに引張り弾性を有した伸長性帯状構造を設けることにより、ガードルの装着者に対し、内転筋群(特に内転筋上部、恥骨筋等)に負荷を掛ければ、これによって骨盤底筋を収縮させることができることを見出し、本発明を完成させた。この知見に基づくガードルによれば、ガードルを装着するだけで、日常的活動程度の動作によって骨盤底筋を強化することができる。
【0015】
すなわち、本発明は、着衣者の腰部を覆う胴部、及び着衣者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部を形成する本体部と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造とを備え、上記一対の伸長性帯状構造の各々は、一対の脚部の内側部分における股底部に隣り合う部分を作用領域とし、該作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部の側部まで周回する前面引き上げ構造と、上記作用領域において上記前面引き上げ構造と隣接し該作用領域から後身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部の側部まで周回する後面引き上げ構造とを備え、上記伸長性帯状構造は、上記一対の前面引き上げ構造の周回端部同士、上記一対の後面引き上げ構造の周回端部同士、または上記前面引き上げ構造と後面引き上げ構造とが、当該構造の弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように結合されていることを特徴とするガードルを提供するものである。
【0016】
上記一対の前面引き上げ構造は、上記胴部の後身ごろまで延び、後身ごろにおいて当該構造の弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように結合されているものとすることができる。
【0017】
上記一対の後面引き上げ構造は、上記胴部の前身ごろまで延び、前身ごろにおいて当該構造の弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように結合されているものとすることができる。
【0018】
上記一対の前面引き上げ構造及び一対の後面引き上げ構造は、各々上記胴部の側部まで延び、該側部において、一対の内の一方の前面引き上げ構造と後面引き上げ構造、並びに一対の内の他方の前面引き上げ構造と後面引き上げ構造が、当該構造の弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように結合されているものとすることができる。
【0019】
上記脚部における作用領域とその近傍部分には、引張り力に対して弾性変形し難い難伸長性構造を形成することができる。
【0020】
上記難伸長性構造は、上記前面引き上げ構造における上記作用領域の近傍部分に形成されたものとすることができる。
【0021】
上記伸長性帯状構造は、上記作用領域から前身ごろ側へ延びて下降しつつガードルの左右半部分を周回する太もも部螺旋構造をさらに備えているものとすることができる。
【0022】
上記難伸長性構造は、上記作用領域の近傍における上記前面引き上げ構造と太もも部螺旋構造との重なり部分により形成されたものとすることができる。
【0023】
上記前面引き上げ構造は、上記作用領域から上昇しつつ延びる上昇角度が、上記後面引き上げ構造より大きいものとすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、膣挿入を伴うことなく正しく骨盤底筋を収縮させることができ、日常生活の中で負担なく使える骨盤底筋の強化手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係るガードルの表(おもて)面を示し、(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図2】図1に示したガードルの裏面を示し、(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図3】図1に示したガードルの身体装着状態を示し、(a) は正面図、(b) は側面図、(c) は背面図である。
【図4】図1に示したガードルの斜視図であり、作用領域を説明するための図である。
【図5】本発明の性能評価の実験に検体として用いたガードルの仕様をガードルの裏返状態で示し、各仕様(1) ,(2) の(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図6】図5に続く図であり、各仕様(3) ,(4) の(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るガードルの2種類の仕様の裏面を示し、各仕様(5) ,(6) の(a) は正面図、(b) は背面図である。
【図8】本発明の性能評価の実験において、筋電位測定の際に装着者がとる動作を示す図である。
【図9】本発明に関する性能評価実験の結果を示すグラフである。
【図10】骨盤底筋を中心に示す人体(女性)の縦断側面図である。
【図11】内転筋を中心に人体の骨格及び筋肉を示す縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を一部省略する。
【0027】
[基本構成の例]
図1は、本発明の一実施形態に係るガードル、特に骨盤底筋トレーニング用として有利に用いられるガードルを示しており、(a) は正面図、(b) は背面図である。図2は、図1のガードルの裏面を示し、(a) は正面図、(b) は背面図、図3は、図1のガードルを身体に装着した状態を示し、(a) は正面図、(b) は側面図、(c) 背面図である。
【0028】
このガードル1は、着衣者の腰部を覆う胴部11、及び着衣者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部12を備えた本体部10と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造30(帯状緊締構造)とを備えている。
【0029】
伸長性帯状構造30は、ガードル1の裏面に縫着されており、表面にはそのステッチ31のみが表れている。この実施形態では、ガードル1の面全体を構成する本体部10は、ナイロン83%及びポリウレタン17%からなる伸縮性のあるメッシュ生地(いわゆるパワーネット)でできており、伸長性帯状構造30は、ナイロン75.4%及びポリウレタン24.6%からなる2ウェイストレッチテープとして形成されたゴム帯状緊締材でできている。これらの素材は、ガードルの寸法、用途、品質、トレーニング効果の程度等に応じて、他の種々のものを選択することができる。本体部10の素材の伸縮性は、身体に対するフィット機能、引き締め機能を奏するように決められる。伸長性帯状構造30の伸縮性は、本体部10より強い弾性を示すように決められ、以下に説明する内転筋への適切な負荷が与えられるように決められる。
【0030】
伸長性帯状構造30の各々は、一対の脚部12の内側部分における股底部15に隣り合う部分を作用領域35とし、該作用領域35から前身ごろ1a側へ延びて上昇しつつガードルの左右半部分を周回する前面引き上げ構造40と、作用領域35において前面引き上げ構造40と隣接し該作用領域から後身ごろ1b側へ延びて上昇しつつガードルの左右半部分を周回する後面引き上げ構造50とを備えている。
【0031】
前面引き上げ構造40は、図2(b) に示すように、後身ごろ1bにおいて弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されている。また、後面引き上げ構造50は、図2(a) に示すように、前身ごろ1aにおいて弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されている。前身ごろ1aには胴部11中央に中間領域13が形成されている。中間領域13は、装着者への圧迫力が高くならないように柔軟性のある素材または構造で形成されたものであり、前身ごろ1aにおいては装着者の腹部の膨らみを圧迫しないようになっている。一対の後面引き上げ構造50は、この中間領域13を介して、弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されている。
【0032】
前面引き上げ構造及び後面引き上げ構造について、一対の引き上げ構造が「弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように結合されている」というのは、一対の引き上げ構造が直接結合されている場合の他、間に上記中間領域13等の領域が介在している場合も含み、後者の場合は、結合された領域を介して弾性に基づく引張り力を伝達できればよい。また、中間領域がなく、本体部の素材または構造を経て引張り力を伝達し得る場合も含む。
【0033】
股底部15は、図4に示すように、一対の脚部の内側の湾曲線Linにおける最奥部(最も胴部寄りの部分)を言い、作用領域F(F1,F2)は、一対の脚部の内側部分における股底部15に隣り合う部分を言う。股底部は、近似的には、前身ごろと後身ごろとを重ねるようにしてガードルを平らに置いたときに、一対の脚部の内側湾曲線における最奥部に位置する部分とすることができる。作用領域の範囲は、本発明に係るガードルの機能上必要とされる伸長性帯状構造の幅を受け入れる範囲である。また、「股底部に隣り合う部分」というのは、股底部15に接する領域F1の他、股底部15から脚部延在方向及び/またはこれを横切る方向に間隔をおいた近傍領域F2も含む。この実施形態では、前面引き上げ構造40と後面引き上げ構造50とは、前身ごろ1aと後身ごろ1bとを縫着するステッチライン14上に位置する作用領域F3おいて相互に隣接している。
【0034】
図1及び図2に示した実施形態では、伸長性帯状構造30はさらに太もも部螺旋構造70を一対の脚部の各々に備えている。各太もも部螺旋構造70は、作用領域35から前身ごろ1a側へ延びて下降しつつガードルの左右半部分を周回するように設けられている。
【0035】
この実施形態に係るガードル1は、以下のように使用されて効果を発揮する。
【0036】
ガードル1は、図3に示すように通常通りに身体に装着する。この装着状態において、前面引き上げ構造40は、作用領域35から前身ごろ1a側へ延びて上昇しつつガードルの左右半部分を周回した状態となる。これにより、前面引き上げ構造は、内転筋群に負荷を掛ける。発明者の知見によれば、以下の実験例から明らかなように、この負荷を通じて骨盤底筋を収縮させることができる。その結果、ガードル1を装着すれば、日常的活動程度の動作によって骨盤底筋を強化することができる。
【0037】
また、後面引き上げ構造50は、作用領域35から後身ごろ1b側へ延びて上昇しつつガードルの左右半部分を周回する。これにより、後面引き上げ構造は、臀部を引き上げるように作用し、肛門括約筋に負荷を掛け、これを通じて骨盤底筋を収縮させることができる。この点においても、ガードル1を装着すれば、日常的活動程度の動作によって骨盤底筋を強化することができる。
【0038】
さらに、前面引き上げ構造40と後面引き上げ構造50とは、作用領域35において、相互に隣接している。この隣接により、内転筋群への負荷作用、及び臀部の引き上げ作用が、作用領域35に集中し、負荷に基づく筋の強化が効果的となっている。
【0039】
こうして作用領域35に作用する弾性力は、後述する実験例から明らかなように、作用領域35において、かかとを支点に足の指先側が他方の足から離間しつつ回旋する方向に作用する(以下、外旋という)。装着者はこれに対し、多くの場合無意識的に戻そうとする、つまり、かかとを支点に足の指先側が他方の足に近接しつつ回旋することになる(以下、内旋という)。この内旋運動に伴って内転筋群に負荷がかかる。内転筋群(特に、上部に位置する短内転筋や恥骨筋等)は骨盤底筋に近接し、内旋運動にて内転筋群に負荷をかけることにより、骨盤底筋を間接的に収縮させることができると考えられる。従って、本発明のガードルを使用することにより骨盤底筋を収縮させることができて、日常的活動程度の動作によって骨盤底筋を強化することができる。しかも、本発明のガードルは、骨盤底筋に間接的に負荷を作用させるものであるため、骨盤底筋に過大な負担をかけることはない。これにより、骨盤底筋の疲労を防止することができるため、装着者の使用負担が緩和されて長時間使用しやすいものとなる。
【0040】
特に、伸長性帯状構造30は、一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士、または記前面引き上げ構造40と後面引き上げ構造50とが、弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されているので、伸長性帯状構造30は、作用領域35から前面引き上げ構造40または後面引き上げ構造50を経て上記結合箇所に至る範囲においてほぼ閉じた螺旋環を描くように延びる。その結果、前面引き上げ構造40及び後面引き上げ構造50の引張り力、及びこれに伴う股下部への着圧が開放されることなく確保され、内転筋への負荷が効果的に作用し、骨盤底筋の収縮による強化作用が確実に得られるのである。
【0041】
このようにして、本実施形態に係るガードルによれば、身体に装着して日常生活を負担なく過ごしながら、正しく骨盤底筋を強化することができる。
【0042】
さらに、この実施形態では、伸長性帯状構造30が、作用領域35から前身ごろ1a側へ延びて下降しつつガードルの左右半部分を周回する太もも部螺旋構造70を備えている。太もも部螺旋構造70は、後述する実験例から明らかなように、脚部の外転動作時に骨盤底筋の収縮を促すように作用すると共に、脚部に対する外旋の作用を前面引き上げ構造40及び後面引き上げ構造50によるものに対してさらに強化する。
【0043】
[実験例]
次に、発明者が内転筋への負荷と骨盤底筋の収縮との関係を見出すに至った実験例について説明する。以下に、実験に用いたガードルの仕様及びその性能評価について記載する。
【0044】
(1) ガードルの仕様
実験に用いた検体の概略図を図5及び図6に示し、各検体の仕様(構造要素)を表1に示し、その詳細を説明する。表中の項目は、以下の仕様を示している。
「前面引き上げ構造+後面引き上げ構造」:長手方向に引張り弾性を有する伸長性帯状構造の内、前面引き上げ構造と後面引き上げ構造と組み合わせ
「難伸長性構造」:引張り力に対して弾性変形し難い構造であり、作用領域に隣接して股下部に設けられる。
「背部中央縫合」:前面引き上げ構造の背部での結合。
「太もも部螺旋構造」:作用領域から前身ごろ側へ延びて下降しつつガードルの左右半部分を螺旋状に周回する構造。
「本体部素材」:ガードルの胴部及び脚部を形成する本体部の素材。
「メッシュ」:ナイロン83%、ポリウレタン17%からなる素材(東洋紡エスパ パワーネットT7381)
「光沢」:ナイロン80%、ポリウレタン20%からなる素材(ナイロン2WAY T6008)
「混合綿」:ポリエステル65%、綿35%からなる素材

【表1】

【0045】
表1の検体1〜6及びブランクは以下の形態となっている。
(i) 検体1:図5(1)
・一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士が後身ごろ1bで結合され、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を介して結合されている。これらの結合は、前面引き上げ構造及び後面引き上げ構造が、当該構造の弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように行なわれている。中間領域13は、装着者への圧迫力が高くならないように、本体部10と同等またはより低い引張り弾性係数を有するものとなっている(以下の検体においても同様)。
・太もも部螺旋構造70は、前身ごろ1aから後身ごろ1bへ周回し、周回端部が前面引き上げ構造40の下部部分41の近傍に結合されている。
・前面引き上げ構造40及び太もも部螺旋構造70は、作用領域35に隣接する部分において重なり合っている。両構造40,70の重なり部は、相互に重なり合うこと、及び引張り弾性方向が異なることにより、引張り力に対して変形し難い難伸長性構造60を形成している。
・検体1−1と検体1−2は本体部素材のみが異なり、検体の仕様(構造要素)は同じである。
【0046】
(ii) 検体2:図5(2)
・前面引き上げ構造40の周回端部と、後面引き上げ構造50の周回端部とが、胴部10の側部で、当該構造の弾性に基づく引張り力を相互に伝達し得るように結合されている。前面引き上げ構造40は胴部10の側部で終端する結果、検体2では「背部中央縫合」が無い。一対の後面引き上げ構造50は、周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を介して結合されている。
・太もも部螺旋構造70は、前身ごろ1aから後身ごろ1bへ周回し、周回端部が前面引き上げ構造40の下部部分41の近傍に結合されている。
・前面引き上げ構造40及び太もも部螺旋構造70は、作用領域35に隣接する部分において重なり合い、難い難伸長性構造60を形成している。
【0047】
(iii) 検体3:図6(3)
・一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を介して結合され、前面引き上げ構造40の上端縁が前身ごろ1aにおいて後面引き上げ構造50の側縁に接する形で結合されている。
・太もも部螺旋構造70は、前身ごろ1aから後身ごろ1bへ周回し、周回端部が前面引き上げ構造40の下部部分41の近傍に結合されている。
・前面引き上げ構造40及び太もも部螺旋構造70は、作用領域35に隣接する部分において重なり合い、難伸長性構造60を形成している。
【0048】
(iv) 検体4:図6(4)
・一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士が後身ごろ1bで結合され、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士が前身ごろ1aで中間領域13を解して結合されている。
・太もも部螺旋構造は、設けられていない。
・前面引き上げ構造40は、作用領域35に隣接する部分において、該前面引き上げ構造と同様の素材からなる伸長性構造と重なり合うことにより、難伸長性構造60を形成している。この難伸長性構造60は、これらの構造が相互に重なり合うこと、及び引張り弾性方向が異なることにより、引張り力に対して変形し難い構造を形成している。
【0049】
(v) 検体5:図7(5)
・前面引き上げ構造40の周回端部と、後面引き上げ構造50の周回端部とが、胴部10の側部(前身ごろ1a側)で結合されている。
・太もも部螺旋構造70は、前身ごろ1aから後身ごろ1bへ周回し、周回端部が前面引き上げ構造40の下部部分41の近傍に結合されている。
・前面引き上げ構造40及び太もも部螺旋構造70は、作用領域35に隣接する部分において重なり合い、難い難伸長性構造60を形成している。
【0050】
(vi) 検体6:図7(6)
・前面引き上げ構造40の周回端部と、後面引き上げ構造50の周回端部とが、胴部10の側部(前身ごろ1a側)で結合されている。
・太もも部螺旋構造70は設けられていない。
・前面引き上げ構造40は、作用領域35に隣接する部分において、同様の素材からなる伸長性構造と重なり合い、その重なり部は、相互に重なり合うこと、及び引張り弾性方向が異なることにより、引張り力に対して変形し難い難伸長性構造60を形成している。
【0051】
(vii) 比較検体
・検体1−1と同じ素材からなる本体部で構成されたガードルであり、前面引き上げ構造40、後面引き上げ構造50、難伸長性構造60、背部中央縫合、太もも部螺旋構造を備えない。
【0052】
(viii) ブランク
・ガードルを装着せず、下着のパンツを装着しただけの状態。
【0053】
(2) 性能評価
上記検体について、以下の性能評価を行なった。
(2-1) 官能評価
官能評価: 女性7名に全ての検体をはかせ、着用感を5段階評価した数値の平均値を求めた。
(2-2) 着圧
マネキンに着圧測定プローブを固定した後に、検体をはかせ、各部位における着圧を測定した
使用機器:ハンディ接触圧計 株式会社エイエムアイ・テクノ製
測定部位:股下、腹部、おしり、大転子部分等、図3のP1〜P8に示す部位。但し、以下の評価結果には、実験の進行に伴って骨盤底筋の収縮との関係性が予測されるに至った腹部着圧P1及び股下着圧P4のみを記載する。
(2-3) 筋電位
筋電計を装着し、その上から検体のガードルをはいて各種運動をした時の筋電位を測定した。筋電計は膣内に装着しているので、その測定値は骨盤底筋力の強弱を明確に反映している。
使用機器:フェミスキャン クリニックシステム仕様(販売元 株式会社メディカル・タスクフォース)
測定条件:次の動作における筋収縮力:安静位、通常歩行時、がに股歩行時、通常の立位、内股にした立位、外転、外寄り旋回運動、内寄り旋回運動。
これらの内、(a) 通常歩行、(b) がに股歩行、(c) 外転、(d) 外寄り旋回運動、(e) 内寄り旋回運動の状態を図8に示す。なお、これらの動作は、以下の観点から測定条件として採用した。すなわち、上記動作の内、通常歩行時、がに股歩行時、通常の立位、内股にした立位、外転、外寄り旋回運動、内寄り旋回運動は、ガードルを装着した状態で、日常生活程度の動作を繰り返し行なうことにより、トレーニング効果を奏し、失禁防止等の効果を獲得乃至向上させることができる動作として採用した。また、上記動作の内、安静位は、装着することによってガードルの作用により、直ちに失禁防止等の効果を獲得乃至向上させることができる動作として採用した。
【0054】
(3) 評価結果
官能評価及び着圧の評価結果を表2、筋電位の評価結果を表3に示す。

【表2】

【表3】

【0055】
検体1〜4の仕様(構造要素)が評価項目(官能評価、着圧、筋電位)に与える影響の強さを比較するために、回帰分析を行ない、重相関R、係数、P−値を求めた。その結果を表4及び表5に示す。

【表4】

【表5】

【0056】
表5から、以下の関係を導き出すことができる。
(a) 安静位での骨盤底筋の随意収縮力を強化するには、「前面引き上げ構造+後面引き上げ構造」、「難伸長性構造」及び「股下着圧」が有効である。
(b) 歩行による骨盤底筋の非随意収縮を促進するには、「前面引き上げ構造+後面引き上げ構造」、「難伸長性構造」及び「股下着圧」が有効である。
(c) 立位及び外転による骨盤底筋の非随意収縮を促進するには、「前面引き上げ構造+後面引き上げ構造」、「難伸長性構造」、「太もも部螺旋構造」及び「股下着圧」が有効である。
【0057】
上記の関係に関し、表4の官能評価の結果は、骨盤底筋の収縮に対応する官能評価項目として「股下締め感」、「外股効果」、「膣締まり感」を挙げている。これらの項目と高い相関を有する仕様(構造要素)は、「前面引き上げ構造+後面引き上げ構造」、「難伸長性構造」、「太もも部螺旋構造」であり、上記関係が官能評価とよく対応することが確かめられた。
【0058】
図9は、この実験において測定した筋電位(膣内挿入による測定)及び股下着圧(難伸長性構造での圧力)を示すグラフである。このグラフから、検体1〜4は、比較検体1及びブランクに対して筋電位及び股下着圧の双方において、明らかに高い数値を示している。また、筋電位と股下着圧とは高い相関関係を示している。そして、筋電位は骨盤底筋の収縮度に対応し、股下着圧は内転筋への負荷に対応している。したがって、上記相関は、内転筋に負荷を掛ければ、骨盤底筋を収縮させることができることを示していると言えるのであり、これが本発明を完成させるに至った知見となった。
【0059】
ガードル1は、この筋電位と股下着圧との相関に基づいて、次のように作用すると推測される。股下着圧(難伸長性構造での圧力)は、作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ周回する前面引き上げ構造と、作用領域において前面引き上げ構造と隣接し該作用領域から後身ごろ側へ延びて上昇しつつ周回する後面引き上げ構造とによって、付与される。したがって、股下着圧は、作用領域35において装着者の太ももを外側に引張るように作用することとなる。装着者はこれに対して、多くの場合無意識的に、太ももを内側に閉じようとする。これに伴って装着者の内転筋群に負荷が掛かり、これを通じて骨盤底筋が強化される。
【0060】
特に、検体1〜4が示すように、伸長性帯状構造30は、一対の前面引き上げ構造40の周回端部同士、一対の後面引き上げ構造50の周回端部同士、または記前面引き上げ構造40の周回端部と後面引き上げ構造50の周回端部とが、弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合されている。したがって、伸長性帯状構造30は、作用領域35から前面引き上げ構造40または後面引き上げ構造50を経て上記結合箇所に至る範囲においてほぼ閉じた螺旋環を描くように延びる。その結果、前面引き上げ構造40及び後面引き上げ構造50の引張り力、及びこれに伴う股下部への着圧が開放されることなく確保される。これにより、内転筋への負荷が効果的に作用し、骨盤底筋の収縮による強化作用が確実に得られるのである。このようにして、本実施形態に係るガードル1によれば、身体に装着して日常生活を負担なく過ごしながら、正しく骨盤底筋を強化することができる。
【0061】
さらに、作用領域35とその近傍部分に、引張り力に対して弾性変形し難い難伸長性構造60が形成されていることにより、前面引き上げ構造40または後面引き上げ構造50の引張り力は、難伸長性構造60において股下部を押圧する圧力として効果的に作用することとなる。
【0062】
この難伸長性構造60が作用領域35から前身ごろ1a側に形成される場合は、前面引き上げ構造40が作用領域35から上昇して延びる傾斜角が、後面引き上げ構造50の傾斜角より大きいのが望ましいと考えられる。これは、作用領域35及びその前身ごろ1a側の近傍において装着者の太ももを外側に引張るように作用する力が、前面引き上げ構造40によって、より有効に発揮されるからである。
【0063】
以上、本発明の実施形態及び実験例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、難伸長性構造は、上記の例のように前面引き上げ構造と太もも部螺旋構造との重なり部によって形成する他、太もも部螺旋構造の有無に拘わらず引張り力に対して弾性変形し難い他の部材によって形成することもできる。例えば、難伸長性構造は、引張り力に対して弾性変形し難い部材を、本体部の該当部分に重ねて若しくは代えて、結合することによって形成することができ、或いは、本体部の該当部部分をミシン掛け等の縫い糸で拘束することにより形成することができる。
【0064】
また、伸長性帯状構造が、弾性に基づく引張り力を伝達し得るように相互に結合する構造については、一対の前面引き上げ構造の周回端部同士、または一対の後面引き上げ構造の周回端部同士が結合する他、前面引き上げ構造と後面引き上げ構造とが結合する構造としてもよく、この場合は、前面引き上げ構造の周回端部と後面引き上げ構造の周回端部とが結合する形態(例えば図7(5), (6)の形態)、前面引き上げ構造及び後面引き上げ構造の一方の周回端部が他方の中間部に結合する形態、或いは、前面引き上げ構造及び後面引き上げ構造の各中間部が相互に結合する形態をとることができる。
【0065】
伸長性帯状構造は、実施形態に示したようにガードルの裏面に設けるのに代えて、ガードルの表面に設けることもでき、或いは、ガードルの裏面及び表面に混在するように設けることもできる。また、本発明の対象は、ガードルの他、スパッツ、タイツ、パンティストッキング、ボディスーツ、ズボン等の下衣とすることもできる。
【符号の説明】
【0066】
1: ガードル
10:本体部
11:胴部
12:脚部
15:股底部
30:伸長性帯状構造
35:作用領域
40:前面引き上げ構造
50:後面引き上げ構造
60:難伸長性構造
70:太もも部螺旋構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着衣者の腰部を覆う胴部、及び着衣者の太もも部を覆うように股底部から分岐した一対の脚部を形成する本体部と、長手方向に引張り弾性を有し上記胴部及び脚部の少なくとも一部に亘って延びる左右一対の伸長性帯状構造とを備え、
上記一対の伸長性帯状構造の各々は、一対の脚部の内側部分における股底部に隣り合う部分を作用領域とし、該作用領域から前身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部の側部まで周回する前面引き上げ構造と、上記作用領域において上記前面引き上げ構造と隣接し該作用領域から後身ごろ側へ延びて上昇しつつ少なくとも上記胴部の側部まで周回する後面引き上げ構造とを備え、
上記伸長性帯状構造は、上記一対の前面引き上げ構造の周回端部同士、上記一対の後面引き上げ構造の周回端部同士、または上記前面引き上げ構造と後面引き上げ構造とが、当該構造の弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように結合されている
ことを特徴とするガードル。
【請求項2】
上記一対の前面引き上げ構造が、上記胴部の後身ごろまで延び、後身ごろにおいて当該構造の弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように結合されていることを特徴とする請求項1に記載のガードル。
【請求項3】
上記一対の後面引き上げ構造が、上記胴部の前身ごろまで延び、前身ごろにおいて当該構造の弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように結合されていることを特徴とする請求項1に記載のガードル。
【請求項4】
上記一対の前面引き上げ構造及び一対の後面引き上げ構造が、各々上記胴部の側部まで延び、該側部において、一対の内の一方の前面引き上げ構造と後面引き上げ構造、並びに一対の内の他方の前面引き上げ構造と後面引き上げ構造が、当該構造の弾性に基づく引張り力を相互間で伝達し得るように結合されていることを特徴とする請求項1に記載のガードル。
【請求項5】
上記脚部における作用領域とその近傍部分に、引張り力に対して弾性変形し難い難伸長性構造が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のガードル。
【請求項6】
上記難伸長性構造が、上記前面引き上げ構造における上記作用領域の近傍部分に形成されていることを特徴とする請求項5に記載のガードル。
【請求項7】
上記伸長性帯状構造が、上記作用領域から前身ごろ側へ延びて下降しつつガードルの左右半部分を周回する太もも部螺旋構造をさらに備えていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のガードル。
【請求項8】
上記難伸長性構造が、上記作用領域の近傍における上記前面引き上げ構造と太もも部螺旋構造との重なり部分により形成されていることを特徴とする請求項7に記載のガードル。
【請求項9】
上記前面引き上げ構造は、上記作用領域から上昇しつつ延びる上昇角度が、上記後面引き上げ構造より大きいことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のガードル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−77407(P2012−77407A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223156(P2010−223156)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】