説明

キナーゼ活性及びホスファターゼ活性の測定方法

抗体又は放射能標識を使用しない、サンプルにおけるキナーゼ活性又はホスファターゼ活性のレベルの決定方法を開示する。前記方法は、リン酸化されていない状態にあるときだけプロテアーゼによって切断されることができ、蛍光標識されていて、リン酸化可能なレポーターペプチドを使用する。蛍光特性における変化が、前記ペプチドが切断されており、従ってリン酸化されていない状態にあるということの指標である。従って、蛍光変化によって測定されるプロテアーゼ切断のレベルは、キナーゼ活性のレベルがプロテアーゼ切断のレベルに対して間接的な比例であるのに反して、ホスファターゼ活性の直接的測定を提供する。この方法は、ハイスループットスクリーニング、例えば、キナーゼ又はホスファターゼ活性をモジュレートする化合物のスクリーニングに特に適している。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、抗体又は放射性標識を必要としない、生物学的サンプル中におけるキナーゼ活性のレベル又はホスファターゼ活性のレベルの決定方法に関し、更に、キナーゼ又はホスファターゼ活性をモジュレートする医薬の同定方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
タンパク質リン酸化は、細胞の外側から核へと調節シグナルを伝えるタンパク質を選択的に修飾する細胞によって使用される一般的調節メカニズムである。これらの生化学的修飾を実施するタンパク質は、タンパク質キナーゼとして知られている一群の酵素である。キナーゼは、酵素の大きなファミリーであり、ヒトゲノム中に約1000の異なる形態が存在するものと推定されている。キナーゼは、細胞シグナル経路中の多様なタンパク質にホスフェート基を付加することによって、シグナル伝達の調節において重要な役割を果たす。タンパク質を受容するホスフェートに応じて、ホスフェート基の付加は、前記シグナルをアップレギュレート又はダウンレギュレートすることができる。前記タンパク質キナーゼは、リン酸化される特定のアミノ酸によって規定される二つの概括的なクラスを含む。前記クラスは、チロシンキナーゼ及びセリン/トレオニンキナーゼである。
【0003】
脱リン酸化の相補的な活性は、タンパク質ホスファターゼとして知られる別の酵素群の機能である。タンパク質ホスファターゼは、タンパク質セリン/トレオニン(ser/thr)ホスファターゼ(PP)及びタンパク質チロシン(tyr)ホスファターゼ(PTPase)の二つのファミリーに大きく分類することができる。チロシンホスファターゼは、一般的に、チロシン残基の脱リン酸化を触媒するが、その中には、ホスホセリン/トレオニン及びホスホチロシンの両方に対する二重の特異性を有するものがある。セリン/トレオニンホスファターゼは、タンパク質及びペプチドにおけるホスホセリン及びホスホトレオニン残基の脱リン酸化を触媒し、そしてPP1、PP2A、及びPP2Bの3タイプへとさらに分けられてきた。PTP/PPaseは、ホスホアミノ酸の脱リン酸化を介する可逆的タンパク質リン酸化、並びに細胞の増殖、分化、及びその他の細胞の作用の制御における機能を提供する。これらのホスファターゼは、可溶性タンパク質又は膜貫通型タンパク質に分類することができる。
【0004】
ヒトの病気が細胞シグナル経路の調節障害と高い頻度で結びついているため、キナーゼ及びホスファターゼは、しばしば医薬の標的として有効性が確認されている。チロシンキナーゼ及びセリンキナーゼによって媒介され、深い意味を有する細胞効果、例えば、脈管形成において推定されるそれらの役割〔Giroux,S.ら,Curr.Biol.9:369(1999)〕、リンパ系の発達〔Nosaka,T.,ら,Science270:800,(1995)〕、及び変異又は欠損チロシンキナーゼ変異体が腫瘍形成に関与することがある〔Jeffers,M.ら,PNAS94:11445,(1997)〕という関連性と結びついたインシュリン抵抗性〔Yuan,M.ら,Science293:1673,(2001)〕により、それらは、新しい治療分子を開発するための魅力的なターゲットとなっている。
【0005】
細胞タンパク質のリン酸化状態を測定する方法は、従来は、放射性の手段、例えば、32P若しくは33P―ガンマホスフェートの取込み又は標識抗体を用いたアッセイによるものであった。リン酸化されたチロシン残基は、例えば、放射性同位体で標識された抗ホスホチロシン抗体を使用するか又は放射性同位体で標識された生成物を捕捉するフィルターバインディングを使用するブロッティング、あるいは免疫沈降のいずれかによって検出することができる。しかしながら、放射線アイソトープを検出する手法(すなわち、ブロッティング、免疫沈降、ゲル電気泳動)が非常に時間がかかるという事実は、ハイスループットスクリーニングに対するこれらの方法の魅力を最小化している。
【0006】
より最近の方法は、キナーゼ又はホスファターゼ活性の測定に、標準的な酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)型式を用いる。これらの方法は、マイクロタイタープレートに固定された精製された異種の基質タンパク質又は合成基質ペプチドを用いる。適切なキナーゼ又はホスファターゼを含むサンプルに基質分子を露出した後に、抗ホスホチロシン抗体を用いてリン酸化のレベルを評価して、前記プレートに結合しているリン酸化されたタンパク質の量を定量する。この方法では、結合されていない任意の抗体を前記プレートから除去した後に、キナーゼ又はホスファターゼ活性を決定する。
【0007】
例えば、「Hirthら,USP5,763,198」には、細胞ライセート調製物からタンパク質基質を単離し、そして前記タンパク質基質を固相支持体上に固定するためのアンカー分子として、基質特異的抗体を使用する、ELISAタイプのアッセイが記載されている。次いで、Hirthの方法は、前記固相に結合しているタンパク質基質のチロシンリン酸化状態を評価することによって、キナーゼ活性又はホスファターゼ活性のレベルを決定する。Hirthの方法は、抗ホスホチロシン抗体を検出分子として使用し、そして抗ホスホチロシンの結合していない部分をプレートの洗浄工程によって除去する。
【0008】
蛍光標識ペプチド及びリン酸化された生成物に特異的な抗体の使用を含む、チロシンキナーゼに対する同質のアッセイが記載されている。この方法は、抗体/標識ペプチド複合体が遊離標識ペプチドよりも大きな偏光シグナルを有する場所を検出するのに、蛍光偏光を利用する。チロシンキナーゼ活性、特にチロシンキナーゼレセプタ活性を測定するためのその他の方法が、WO95/04136、EP0730740B1、及びUSP5,599,681に記載されている。
【0009】
キナーゼ活性又はホスファターゼ活性の効率的でハイスループットなアッセイ、特に、放射能標識又は抗体に依存せず、しかも分離工程を全く必要としないアッセイを利用可能にすることは、サンプル中のキナーゼ又はホスファターゼ活性のレベルを決定するだけではなく、放射線アイソトープ及び抗体の使用に関連する制限なしで前記レベルを決定する手段が提供されるので、おおいに望まれている。
【発明の要約】
【0010】
或る観点では、本発明は、サンプルにおけるタンパク質キナーゼ活性の測定方法に関する。前記方法は、リン酸化可能なプロテアーゼ切断部位を含む蛍光標識されたレポーターペプチドを用いる。前記方法は、サンプルを、前記レポーターペプチド(ここで、前記レポーターペプチドは、蛍光標識されたリン酸化可能なペプチドであり、リン酸化されていないときにプロテアーゼ切断可能である)と、前記レポーターペプチドのリン酸化が起こるのに充分な時間接触させ;前記レポーターペプチド(この時点では、一部がリン酸化されている)を、リン酸化されていないペプチドを切断可能なプロテアーゼと、タンパク質加水分解が起こるのに充分な時間接触させ;そして前記レポーターペプチドの蛍光特性における変化を検出する(それにより、前記変化が、前記サンプル中におけるキナーゼ活性を示す)、各工程を含む。変化に関して監視すべき蛍光特性の例としては、蛍光消光(FQ)、蛍光偏光(FP)、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)、化学発光共鳴エネルギー転移(CRET)、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)、及び時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(TR−FRET)を挙げることができる。
【0011】
関連する観点において、本発明は、蛍光顕微鏡検査、フローサイトメトリー、蛍光定量法、及び吸収スペクトル測定法からなる群から選択される方法によって蛍光特性における変化を検出する、キナーゼ活性の測定方法に関する。また、蛍光マイクロプレートリーダーも、レポーターペプチドの蛍光特性における変化を測定するのに適している。
【0012】
更に別の観点においては、本発明は、キナーゼ活性をモジュレートする能力に関して物質をスクリーニングする方法であって、
前記物質にキナーゼ調製物の第1の部分を露出し;
(1)前記第1の部分を、ペプチド(ここで、前記ペプチドは、蛍光標識されたリン酸化可能なペプチドであり、リン酸化されていないときにプロテアーゼ切断可能である)と、前記ペプチドのリン酸化が起こるのに充分な時間接触させ;(2)前記第1の部分を、リン酸化されていないペプチドを切断可能なプロテアーゼと、最大のタンパク質加水分解が起こるのに充分な時間接触させ;そして(3)前記標識されたペプチドの蛍光特性における変化を検出する(これにより、前記蛍光特性における前記変化は、前記第1の部分におけるキナーゼ活性を示す)
ことによって、前記第1の部分におけるキナーゼ活性のレベルを決定し;
次いで、前記キナーゼ調製物の第2の部分(これは、前記物質に対して露出されていない)に対して工程(1)〜(3)を繰り返し、そして前記第1の部分及び第2の部分に対する蛍光特性における変化を比較する
工程を含む、前記スクリーニング方法に関する。
【0013】
関連する観点において、本発明は、サンプルにおけるキナーゼ活性のレベルを決定し、そしてそのレベルと、既知レベルのキナーゼ活性を有する標準とを比較する工程を含む、キナーゼ活性をモジュレートする能力に関して物質をスクリーニングする方法に関する。
【0014】
更に別の観点においては、本発明は、レポーターペプチドを用いてサンプルにおけるキナーゼ活性のレベルを決定する方法であって、前記レポーターペプチドが、DESEEEDK(配列番号1)、QKRPSQR(配列番号2)、RRRRSIIFI(配列番号3)、X−SP−X(配列番号4)、EEEYEE(配列番号5)、KSPXXXK(配列番号6)、EAVTSPRFI(配列番号7)、HHHRSPRKR(配列番号8)、HHHKSPRRR(配列番号9)、KKRQQSFDMK(配列番号10)、X−HSR−X(配列番号11)、RFRRSRRMI(配列番号12)〔ここで、Xは、アミノ酸であり、nは、0以上の任意の数である〕からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、
前記方法に関する。
【0015】
関連する観点において、本発明は、レポーターペプチドを用いてサンプルにおけるキナーゼ活性のレベルを決定する方法であって、前記レポーターペプチドが、(F)−X−DESEEEDK−X−(F)(配列番号1)、(F)−X−QKRPSQR−X−(F)(配列番号2)、(F)−X−RRRRSIIFI−X−(F)(配列番号3)、(F)−X−EEEYEE−X−(F)(配列番号5)、X−SP−X(配列番号4)、(F)−X−KSPXXXK−X−(F)(配列番号6)、(F)−X−EAVTSPRFI−X−(F)(配列番号7)、(F)−X−HHHRSPRKR−X−(F)(配列番号8)、(F)−X−HHHKSPRRR−X−(F)(配列番号9)、(F)−X−KKRQQSFDMK−X−(F)(配列番号10)、(F)−X−HSR−X−(F)(配列番号11)、(F)−X−RFRRSRRMI−X−(F)(配列番号12)〔ここで、Fは、第1蛍光標識であり、Fは、第2蛍光標識であってFと同じであるか若しくは異なり、Xは、アミノ酸であり、nは、0以上の任意の数である〕からなる群から選択される、前記方法に関する。
【0016】
更に別の観点においては、本発明は、サンプルにおけるタンパク質ホスファターゼ活性の測定方法に関する。前記方法は、ホスホアミノ酸を含むプロテアーゼ切断部位を含む蛍光標識されたレポーターペプチドを使用する。前記方法は、前記レポーターペプチド(ここで、前記レポーターペプチドは、蛍光標識されたホスホ−ペプチドであり、リン酸化されていないときにプロテアーゼ切断可能である)と、前記レポーターペプチドの脱リン酸化が起こるのに充分な時間接触させ;前記レポーターペプチド(この時点では、一部が脱リン酸化されている)を、リン酸化されていないペプチドを切断可能なプロテアーゼと、タンパク質加水分解が起こるのに充分な時間接触させ;そして前記レポーターペプチドの蛍光特性における変化を検出する(それにより、前記変化が、前記サンプル中におけるキナーゼ活性を示す)、各工程を含む。変化に関して監視すべき蛍光特性の例としては、蛍光消光(FQ)、蛍光偏光(FP)、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)、化学発光共鳴エネルギー転移(CRET)、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)、及び時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(TR−FRET)を挙げることができる。
【0017】
関連する観点において、本発明は、蛍光顕微鏡検査、フローサイトメトリー、蛍光定量法、及び吸収スペクトル測定法からなる群から選択される方法によって蛍光特性における変化を検出する、ホスファターゼ活性の測定方法に関する。また、蛍光マイクロプレートリーダーも、レポーターペプチドの蛍光特性における変化を測定するのに適している。
【0018】
更に別の観点においては、本発明は、ホスファターゼ活性をモジュレートする能力に関して物質をスクリーニングする方法であって、
前記物質にホスファターゼ調製物の第1の部分を露出し;
(1)前記第1の部分を、ペプチド(ここで、前記ペプチドは、蛍光標識されたリン酸化されたペプチドであり、リン酸化されていないときにプロテアーゼ切断可能である)と、前記ペプチドの脱リン酸化が起こるのに充分な時間接触させ;(2)前記第1の部分を、リン酸化されていないペプチドを切断可能なプロテアーゼと、最大のタンパク質加水分解が起こるのに充分な時間接触させ;そして(3)前記標識されたペプチドの蛍光特性における変化を検出する(これにより、前記蛍光特性における前記変化は、前記第1の部分におけるホスファターゼ活性を示す)
ことによって、前記第1の部分におけるホスファターゼ活性のレベルを決定し;
次いで、前記ホスファターゼ調製物の第2の部分(これは、前記物質に対して露出されていない)に対して工程(1)〜(3)を繰り返し、そして前記第1の部分及び第2の部分に対する蛍光特性における変化を比較する
工程を含む、前記スクリーニング方法に関する。
【0019】
関連する観点において、本発明は、サンプルにおけるホスファターゼ活性のレベルを決定し、そしてそのレベルと、既知レベルのホスファターゼ活性を有する標準とを比較する工程を含む、ホスファターゼ活性をモジュレートする能力に関して物質をスクリーニングする方法に関する。
【0020】
更に別の観点においては、本発明は、レポーターペプチドを用いてサンプルにおけるホスファターゼ活性のレベルを決定する方法であって、前記レポーターペプチドが、DESEEEDK(配列番号1)、QKRPSQR(配列番号2)、RRRRSIIFI(配列番号3)、XSP−X(配列番号4)、EEEYEE(配列番号5)、KSPXXXK(配列番号6)、EAVTSPRFI(配列番号7)、HHHRSPRKR(配列番号8)、HHHKSPRRR(配列番号9)、KKRQQSFDMK(配列番号10)、X−HSR−X−(配列番号11)、RFRRSRRMI(配列番号12)、XY−X(配列番号13)、X−KDDEYNPA−X(配列番号14)、X−RFDRRZSV−X−(配列番号15)、X−RRREEEETEEE−X(配列番号16)、X−MHRQETVDX(配列番号17)〔ここで、Z=V、I、L、又はFであり、Sは、ホスホセリンであり、Yは、ホスホチロシンであり、Xは、アミノ酸であり、nは、0以上の任意の数である〕からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、
前記方法に関する。
【0021】
関連する観点において、本発明は、レポーターペプチドを用いてサンプルにおけるホスファターゼ活性のレベルを測定する方法であって、前記レポーターペプチドが、(F)−X−DESEEEDK−X−(F)(配列番号1)、(F)−X−QKRPSQR−X−(F)(配列番号2)、(F)−X−RRRRSIIFI−X−(F)(配列番号3)、(F)−X−EEEYEE−X−(F)(配列番号)、XSP−X(配列番号4)、(F)−X−KSPXXXK−X−(F)(配列番号6)、(F)−X−EAVTSPRFI−X−(F)(配列番号7)、(F)−X−HHHRSPRKR−X−(F)(配列番号8)、(F)−X−HHHKSPRRR−X−(F)(配列番号9)、(F)−X−KKRQQSFDMK−X−(F)(配列番号10)、(F)−X−HSR−X−(F)(配列番号11)、(F)−X−RFRRSRRMI−X−(F)(配列番号12)、(F)−XY−X−(F)(配列番号13)、(F)−X−KDDEYNPA−X−(F)(配列番号14)、(F)−X−RFDRRZSV−X−(F)(配列番号15)、(F)−X−RRREEEETEEE−X−(F)(配列番号16)、(F)−X−MHRQETVDX−(F)(配列番号17)〔ここで、Z=V、I、L、又はFであり、Sは、ホスホセリンであり、Yは、ホスホチロシンであり、Fは、第1蛍光標識であり、Fは、第2蛍光標識であり、Xは、アミノ酸であり、nは、0以上の任意の数である〕からなる群から選択される、前記方法に関する。
【0022】
更に別の態様では、本発明は、式:
(F)−X−Z−X−(F
[式中、Fは、第1蛍光標識であり、Fは、第2蛍光標識であり、Xは、アミノ酸であり、Zは、ペプチドであり、そしてnは、0以上の任意の数である]で表されるコンポジションに関する。前記ペプチドは、DESEEEDK(配列番号1)、QKRPSQR(配列番号2)、RRRRSIIFI(配列番号3)、XSP−X(配列番号4)、EEEYEE(配列番号5)、KSPXXXK(配列番号6)、EAVTSPRFI(配列番号7)、HHHRSPRKR(配列番号8)、HHHKSPRRR(配列番号9)、KKRQQSFDMK(配列番号10)、X−HSR−X−(配列番号11)、RFRRSRRMI(配列番号12)、XY−X(配列番号13)、X−KDDEYNPA−X(配列番号14)、X−RFDRRBSV−X−(配列番号15)、X−RRREEEETEEE−X(配列番号16)、X−MHRQETVDX(配列番号17)〔ここで、Bは、V、I、L、又はFであり、Sは、ホスホセリンであり、Yは、ホスホチロシンであり、Xは、アミノ酸であり、nは、0以上の任意の数である〕からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0023】
前記コンポジションは、(F)−X−DESEEEDK−X−(F)(配列番号1)、(F)−X−QKRPSQR−X−(F)(配列番号2)、(F)−X−RRRRSIIFI−X−(F)(配列番号3)、(F)−X−EEEYEE−X−(F)(配列番号)、XSP−X(配列番号4)、(F)−X−KSPXXXK−X−(F)(配列番号6)、(F)−X−EAVTSPRFI−X−(F)(配列番号7)、(F)−X−HHHRSPRKR−X−(F)(配列番号8)、(F)−X−HHHKSPRRR−X−(F)(配列番号9)、(F)−X−KKRQQSFDMK−X−(F)(配列番号10)、(F)−X−HSR−X−(F)(配列番号11)、(F)−X−RFRRSRRMI−X−(F)(配列番号12)、(F)−XY−X−(F)(配列番号13)、(F)−X−KDDEYNPA−X−(F)(配列番号14)、(F)−X−RFDRRBSV−X−(F)(配列番号15)、(F)−X−RRREEEETEEE−X−(F)(配列番号16)、(F)−X−MHRQETVDX−(F)(配列番号17)〔ここで、Bは、V、I、L、又はFであり、Sは、ホスホセリンであり、Yは、ホスホチロシンであり、Fは、第1蛍光標識であり、Fは、第2蛍光標識であり、Xは、アミノ酸であり、nは、0以上の任意の数である〕から選択されることができる。
【0024】
《図面の簡単な説明》
図1は、時間におけるV8プロテアーゼによるカゼインキナーゼII(CKII)基質ペプチドの切断を示すグラフである。
【0025】
図2は、時間におけるカゼインキナーゼIIによるペプチドのリン酸化%を示すグラフである。
【0026】
図3は、カゼインキナーゼIIが媒介するペプチドのリン酸化による、V8消化に対する保護を示すグラフである。ATPの存在下(●)及び不在下(○)で、ペプチドと一緒にCKIIをインキュベーションした。
【0027】
図4は、ヘパリン濃度vs.フルオレセイン及びローダミンレベルに対する共鳴エネルギー転移値を示すグラフである。
【0028】
図5は、阻害アッセイにおけるヘパリン濃度vs.フルオレセインシグナルを示すグラフである。
【0029】
図6は、試験ウェル(○)がATPを受領し及び対象ウェル(●)がATPを受領しない96ウェルマイクロタイタープレートアッセイの結果を示す散布図である。
【0030】
図7は、蛍光偏光検出法を用いて決定された、ヘパリンによるカゼインキナーゼII活性の阻害を示すグラフである。
【発明の詳細な説明】
【0031】
本明細書に記載されている全ての特許、出願、公報、又はその他参考文献は、参照することにより本明細書に組み込まれる。以下の説明において、専門用語の使用については、一定の慣行が従うであろう。
【0032】
当業界において通常理解されている用語「ペプチド」は、−アミノ酸のポリアミドである約10キロダルトン(kDa)以下の分子について言及したものである。本発明を実施する目的で、ペプチドは、目的のタンパク質のタンパク質分解消化によって得ることができるか、化学的に合成することができるか、又は組み換え技術によって製造することができる。
【0033】
ペプチドに関連する用語「リン酸化可能」は、適切な条件下、つまり、キナーゼ及び高エネルギーホスフェート源の存在下でリン酸化可能な、チロシン残基、セリン残基、トレオニン残基、又はヒスシジン残基少なくとも1つを含むペプチドを示す。
【0034】
用語「サンプル」又は「生物学的サンプル」は、任意のキナーゼ活性源について言及するものであり、精製化されたキナーゼ調製物、細胞(完全な細胞及び断片化された細胞)、細胞及び組織抽出物、並びに体液、例えば、尿、血清、血漿などを含むものとする。
【0035】
本明細書において、用語「プロテアーゼ結合部位」は、プロテアーゼによって特徴的に認識され、そして切断されるアミノ酸配列について言及する。
【0036】
「蛍光体」は、特有の波長で光を吸収し、次いで、最も一般的には特有の異なった波長で、光を再放射する分子である。蛍光体は、当業者に周知であり、以下に限定されるものではないが、ローダミン及びローダミン誘導体、フルオレセイン及びフルオレセイン誘導体、クマリン、並びにランタニドイオン系列のキレート化剤を挙げることができる。蛍光体[fluorophore]は、光を吸収するが特徴的に光を再放射することのない発色団[chromophore]とは区別される。
【0037】
本明細書において、用語「残基」又は「アミノ酸残基」は、ペプチドに組み込まれたアミノ酸を言及する。アミノ酸は、自然発生のアミノ酸であることができ、特に断らない限り、自然発生のアミノ酸と同様な様態で機能することができる公知の天然アミノ酸のアナログを含むことができる。
【0038】
用語「プロテアーゼ活性」又は「プロテアーゼの活性」は、プロテアーゼによるペプチドの切断について言及したものである。プロテアーゼ活性には、ペプチド1つ又はそれ以上を、より小さなペプチド断片へ加水分解することが含まれる。特定のプロテアーゼのプロテアーゼ活性は、結果として、前記特定のプロテアーゼによって特徴的に認識される特定のペプチド結合部位での加水分解を生じる。前記特定のプロテアーゼは、特定の末端アミノ酸残基を有するペプチド断片の生成によって特徴づけられることがある。
【0039】
用語「蛍光特性」は、蛍光分子の蛍光が特徴づけられるパラメータ1つ又はそれ以上について言及するものである。最も頻繁に測定されるパラメータは、蛍光強度である。しかしながら、他の蛍光のパラメータの測定、例えば、以下に限定するものではないが、蛍光消光、蛍光偏光、蛍光吸収なども、本発明の方法に包まれるものとする。「Lakowicz,J.R.,Principles of Fluorescence Spectroscopy,Plenum Press,New York,1983」及び「Slavik,J.,Fluorescent Probes in cellular and Molecular Biology,CRC Press,Boca Raton,1993」を参照されたい、これらは、参照により本明細書に含まれる。
【0040】
本発明の方法によると、サンプルを、リン酸化可能なレポーターペプチド、例えば、本明細書に記載のリン酸化可能なレポーターペプチドと接触させることによって、サンプル中のキナーゼ活性レベルを決定することができる。同様のレポーターペプチドが、プロテアーゼ活性のレベル測定における使用について記載されている(USP5,981,200及び6,037,137、これらの内容は参照することにより本明細書に含まれる)。リン酸化可能なアミノ酸残基を含むレポーターペプチドの一部は、前記レポーターペプチドが露出するサンプルに存在するキナーゼ活性の結果として、リン酸化される。続いて、前記レポーターペプチドを、そのペプチドがリン酸化されていない状態のときに前記ペプチドを切断することができるプロテアーゼと接触させる。ペプチドの切断が生じた程度は、前記ペプチドの切断によって生じる蛍光特性における変化によって示される。こうして、キナーゼ活性のレベルを、ペプチドのタンパク質分解の程度から推定することができる。
【0041】
逆に、レポーターペプチド内においてリン酸化可能なアミノ酸残基がリン酸化された状態であるレポーターペプチド(すなわち、前記レポーターペプチドは、ホスホセリン、ホスホチロシンなどを含む)を使用して、サンプル中のホスファターゼ活性のレベルを決定することができる。このアッセイでは、ホスファターゼによるホスフェートの除去が、同種のプロテアーゼによる前記レポーターの切断を可能にする。結果として、レポーターペプチドの蛍光特性、例えば蛍光強度における変化は、サンプル中のホスファターゼ活性のレベルに直接比例する。
【0042】
本発明は、リン酸化されていない状態でプロテアーゼ切断可能であるがリン酸化されると切断不可能になる蛍光標識レポーターペプチドを使用する、サンプル中のキナーゼ又はホスファターゼ活性のレベルの決定を提供する。本明細書に記載されている蛍光源レポーターペプチドは、一般的に、(a)リン酸化可能で及び(b)ペプチドがリン酸化されていないときに特定のプロテアーゼによって認識及び切断されるアミノ酸配列を含む前記ペプチドによって、第2の蛍光標識に結合される第1の蛍光標識(例えば、ドナー蛍光体)を含む。
【0043】
従って、本発明の方法の実施に有用なレポーター分子は、一般式:
(F)−X−Z−X−(F
[式中、Zは、アミノ酸2〜約12、好ましくは2〜約10、より好ましくは2〜約8、最も好ましくは2〜約6、又は2〜約4つからなるプロテアーゼ結合部位を含むリン酸化可能なペプチドであり;F及びFは、同一の又は異なる蛍光体であり;Xは、長さ1〜約4アミノ酸のペプチドスペーサーである]で表される。レポーター分子の設計は、
(1)ホスフェートの受容に必要な最低配列の同定;
(2)ペプチドを切断することができるプロテアーゼの同定;
(3)前記ペプチドに対する適切な検出用の標識の付加
の3つの構成要素を含む。
【0044】
本発明によるレポーター分子のペプチド部分のアミノ酸配列は、リン酸化可能なアミノ酸残基、すなわち、ホスフェート部分を受容することが可能なアミノ酸残基(例えば、セリン、トレオニン、チロシン、又はヒスチジン)、目的のキナーゼ又はホスファターゼに対する適切な認識要素、プロテアーゼに対する適切な認識要素、及び蛍光体による前記ペプチドの標識を可能とする部位を含む。
【0045】
前記ペプチドは、当業者に公知の任意の標準的な方法によって、例えば、目的のキナーゼに対するタンパク質基質のタンパク質分解的消化によるか、化学的合成によるか、又は組み換え技術の生成物として、製造することができる。
【0046】
《キナーゼ基質配列の同定》
キナーゼ基質特異性の決定は、全てのキナーゼアッセイ形式に共通であるため、本明細書に記載されている技術に特有のものではない。多くのキナーゼに対して、このような最小限の配列が明らかになってきて、そして塩基性、酸性、又は中性の残基を含むクラスに分類されてきた〔「Sonyang,Z.ら(1996)Molecular and Cellular Biology16:6486−6493」.「Songyang,Z.ら(1994)Current Biology4:973−982」〕。当業者であれば、任意のキナーゼに対して、一度その認識配列が一度明らかになれば、別のペプチド配列も設計することができるということが認められよう。機能的に同等のペプチドとしては、以下に限定されるものではないが、キナーゼ認識配列内の同様のアミノ酸残基の付加、欠失、又は置換を含むペプチドを挙げることができる。アミノ酸の置換は、関係する残基の、極性、電荷、可溶性、大きさ、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性の性質における類似に基づいて、実施されていることができる。例えば、非極性(疎水性)中性アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプとファン、及びメチオニンを挙げることができ;極性中性アミノ酸としては、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンを挙げることができ;正電荷を持つ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リシン、及びヒスチジンを挙げることができ;そして負電荷を持つ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸を挙げることができる。
【0047】
目的の特定のキナーゼに対する同種の基質についての情報が得られない場合、公知のキナーゼに対するキナーゼの相同性によって基質のクラスを決定することができる。あるいは、既知のキナーゼのパネルに対してキナーゼを試験して、そのクラス特異性を決定することができる。キナーゼのクラス特異性を知ることによって、次いで適切な基質ペプチドを同定することができる。
【0048】
いくつかの事例では、特定のキナーゼのクラスにわたって活性を提供する包括的な配列を使用することができ、例えば、チロシンキナーゼに対する基質としてのポリグルタメート/チロシンの使用を挙げることができる。
【0049】
《プロテアーゼの同定》
プロテアーゼ結合部位は、一般的に、特定のプロテアーゼによって認識及び切断されるアミノ酸である。多種のプロテアーゼが、特定のアミノ酸に隣接するペプチド結合を切断することは周知である。すなわち、例えば、塩基性アミノ酸、例えば、アルギニン及びリシンに続くペプチド結合を切断するトリプシン、並びに大きな疎水性アミノ酸残基、例えば、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、及びロイシンに続くペプチド結合を切断するキモトリプシンを挙げることができる。プロリルエンドプロテアーゼ(PEP)は、プロリンの次のペプチド結合を切断する。
【0050】
好都合なことに、プロテアーゼ認識配列は、酸性、塩基性、及び中性含有残基へと分けられるため、或る残基は、目的のキナーゼの認識配列及びプロテアーゼ認識配列の両方に共通であろう。例えば、Ser/ThrのN末端をプロリン残基(例えば、p42MAPK及びp44MAPK)へとリン酸化するキナーゼのクラス、並びにプロテアーゼ認識配列、例えば、Ser/Thr−Pro及びPro−Ser/ThrのPEPクラスがある。更に、キナーゼ/プロテアーゼペアを用いてその系を調節する或る細胞系が知られており、また、この情報は、適切なペプチドの設計にも使用することができる。例えば、細胞基質のビメンチンは、セリンキナーゼPKCに対する認識部位を含む。また、この部位は、HIVタイプ1プロテイナーゼに対する切断部位でもあり、そしてこの切断は、ウィルスのライフサイクルにとって重要なものである。従って、レトロウィルスライフサイクルは、リン酸化により軽減されるタンパク質分解処理によって調節することができる。キナーゼ/プロテアーゼ検出パートナーの多数の例を、表1に示す。
【表1】

【0051】
表2は、目的の特定のキナーゼに関して、サンプルにおけるキナーゼ活性のレベルの決定に有用な典型的なレポーターペプチド及びプロテアーゼの例を提供する。
【表2】

【0052】
《標識》
本発明の方法の実施に有用なレポーター分子の調製に対して、適切な蛍光標識としては、ローダミン及びローダミン誘導体、例えば、ローダミンXアセトアミド、5−及び/又は6−カーボキシテトラメチルローダミン;フルオレセイン及びフルオレセイン誘導体、クマリン、BODIPY、Alexa蛍光体(分子プローブ)、テキサスレッド[Texas Red]及びシアニン染料、青色、緑色、又は赤色の蛍光体とペアになったQSY7又はDabcyl/Edansペア、及びランタニドイオン系列のキレート化剤を挙げることができる。更に、カルシウムの存在下における緑色−蛍光/エクオリン、又は緑色−蛍光タンパク質/ルシフェラーゼのペアの組込みによって、生体発光又は化学発光を達成することができる。特定の適用に対する適合性が当業者に周知であるこれらの蛍光体及びその他の蛍光体は、多くの製造者、例えば、Molecular Probes(Eugene,OR)又はPerkin Elmer(Wellesly,MA)から市販されている。
【0053】
本発明の蛍光源レポーターペプチドは、所望のペプチドを最初に合成するか又は市販のものを得ることによって調製することが好ましい。次に、蛍光体を、直接的に又はリンカーを介して、ペプチドと化学的に結合させる。
【0054】
ペプチドを新たに合成すべきであれば、前記配列のC末端アミノ酸を不溶性支持体に結合させ、次いで前記配列の残りのアミノ酸を逐次付加する固相ペプチド合成が、本発明の化合物のペプチドバックボーンの調製に対する好ましい方法である。固相合成の手法は、当業者に周知であり、以下の参考文献中に詳細に記載されている:「Bodanszky and Bodanszky,Reactivity and Structure Concepts in Organic Chemistry」;「Principles of Peptide Synthesis.Vol.21」;「Bodanszky and Bodanszky,The Practice of Peptide Synthesis」;「Principles of Peptide Synthesis.Vol.16,Springer Verlag,N.Y.(1984)」;「Barany and Merrifield,Solid−Phase Peptide Synthesis;pp.3−284 in The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology.Vol.2:Special Methods in Peptide Synthesis,Part A.,Merrifieldら,J.Am.Chem.Soc.85,2149−2156(1963)」、及び「Gross and Meienhofer,eds.Academic Press,N.Y.,1980」及び「Stewartら,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd ed.Pierce Chem.Co.,Rockford,Ill.(1984)」これらは、参照により本明細書に含まれるものとする。固相合成は、FMOC又はTBOC化学を用いる市販のペプチドシンセサイザーによって、最も簡単に達成される。この方法を使用して、ホスホペプチドを簡単に調製することができる。
【0055】
あるいは組み換えDNA技術を活用して、本発明の蛍光源レポーターペプチドのペプチドコンポーネントを合成することができる。レポーターペプチドがホスファターゼ活性の測定に使用されるべき場合には、組み換え技術によって調製されたペプチドは、蛍光標識の付加の前又は後のどちらかに、従来の方法によってリン酸化されなければならない。
【0056】
簡単に言うと、組み換え技術によってペプチドを調製するには、当業者に公知の種々の方法、例えば、Beaucage及びCarruthersによって報告された固相ホスホラミダイト法〔Beaucage and Carruthers,Tetra.Letts.22:1859−1862(1981)〕、Matteucciらによるトリエステル法〔Matteucciら,J.Am.Chem.Soc.,103:3185(1981)〕(これら両方は、参照することにより本明細書に含まれる)によるか、あるいは当業者に公知の別の方法によって、所望のアミノ酸配列をコードするDNA分子を合成する。
【0057】
必要に応じて、当業者に周知の手法によって前記オリゴヌクレオチドを精製することができる。典型的な精製方法としては、以下に限定されるものではないが、ゲル電気泳動、アニオン交換クロマドグラフィー(例えば、Mono−Qカラム、Pharmacia−LKB、Pisdataway,N.J.,USA)、又は逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を挙げることができる。タンパク質及びペプチド精製の方法は、当業者に周知である。標準的な手法の報告については、「Methods in Enzymology Volume182:Guide to Protein Purification,M.Deutscher,ed.(1990),pages619−626」を参照されたい。
【0058】
前記オリゴヌクレオチドは、相補的なオリゴヌクレオチドを用いるアニーリングによるか又はDNAポリメラーゼを用いる重合によって、二本鎖DNAに変換することができる。前記DNAは、次いで、プロモーターの制御下でベクターに組み込み、そして宿主細胞の形質転換に使用して、コードされるペプチド配列を前記細胞に発現させることができる。クローニング及びペプチドの発現の方法は、当業者に周知である。例えば、「Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd ED.,Vols.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory(1989))」、「Methods in Enzymology,Vol.152:Guide to Molecular Cloning Techniques(Berger and Kimmel(eds.),San Diego:Academic Press,Inc.(1987))」、又は「Current Protocols in Molecular Biology,(Ausubelら(eds.),Greene Publishing and Wiley−Interscience,New York(1987))」(これらは、参照することにより本明細書に含まれる)を参照されたい。
【0059】
《ペプチドバックボーンに対する蛍光体の結合》
当業者に周知の多くの手段の任意の手段によって、蛍光体をペプチドバックボーンに結合する。或る態様では、蛍光体を、その蛍光体上の反応部位から直接的に、ペプチドの反応基、例えば、末端のアミノ基若しくはカルボキシル基、又はアミノ酸側鎖上の反応基、例えば、イオウ部分、アミノ部分、ヒドロキシル部分、又はカルボキシル部分に結合させる。多くの蛍光体が、適切な反応部位を正常に含む。チオールへの結合には、イドアセトアミド、マレイミド、又はメチルブロマイド蛍光体誘導体を用いることができる。アミンへの結合には、スクシンイミジルエステル、スルホニルクロライド、又はアルデヒド誘導体を用いることができる。カルボン酸に対しては、ヒドラジン及びカルボジイミド誘導体が利用可能である。同様に、種々のアミン及びチオール反応性ビオチニル化試薬が市販されている。あるいは、別の分子に結合するための反応部位を得るように、蛍光体を誘導することができる。第2の分子に対して結合する官能基を有するように誘導された蛍光体は、種々の製造者から市販されている。前記誘導は、蛍光体自体の上の基の単純な置換によることができ、又はリンカーに結合することによることができる。種々のリンカーが、当業者に周知である。
【0060】
《検出方法》
蛍光検出は、しばしば、均一なアッセイフォーマットを使用する有利さがある。プロテアーゼによるペプチドの切断によってシグナルが変化する任意の蛍光体を、本発明の方法の実施において使用することができる。最も頻繁に使用される測定される蛍光パラメーターは、蛍光強度である。しかしながら、別の蛍光特性、例えば、蛍光消光(FQ)、蛍光偏光(FP)、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)及びその変形、例えば、化学発光共鳴エネルギー転移(CRET)、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)、及び時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(TR−FRET)における変化も、本発明の方法に含まれる。これらの蛍光現象及びそれらを検出するのに用いられる方法は、一般的に、複雑な生物学的構造、例えば、タンパク質、及び他の高分子アッセンブリー、例えば、リボソーム及びヌクレオソームの構造地図を得るために使用され、また、当業者に周知である。
【0061】
本発明の方法において使用するのに適する蛍光検出法としては、通常の蛍光定量法、蛍光顕微鏡検査(例えば、共焦点顕微鏡検査)、フローサイトメトリー、及び吸収スペクトル測定法を挙げることができる。ハイスループットスクリーニングに対しては、レーザースキャニングイメージング及びマイクロプレート蛍光リーダーも適している。
【0062】
本発明の方法の実施に用いられるレポーターペプチド分子は、蛍光体1つ又は2つを含む。典型的には、ドナー蛍光体が、特定の波長における入射放射によって励起し、次いで前記ドナー蛍光体が、アクセプター蛍光体(前記アクセプター蛍光体は、更に異なる波長で次々に再放射することができる)を励起させることができる別の波長で再放射する。本発明の方法は、蛍光体の物理的近接とそれらの蛍光特性との間の関連性を利用する。本明細書に記載のレポーター分子のプロテアーゼ結合部位は、そのレポーター分子が非リン酸化状態にあるときにだけ切断可能である。従って、サンプルがキナーゼ活性を含有するならば、プロテアーゼ切断の量が減少することになろう;逆に、プロテアーゼ活性の量は、サンプルにおけるキナーゼ活性の量に比例し、及び蛍光における変化によって測定することができる。
【0063】
或る態様では、ドナー蛍光体がアクセプター分子に対してかなり近位に保持される際に、前記アクセプターは、前記ドナー蛍光体により再放射された光を吸収し、それにより、エネルギー転移により前記アクセプター分子の蛍光を増加させる一方で、前記ドナー分子の蛍光シグナルを消光する。従って、アクセプターが光を放射する波長で観察することにより、前記蛍光体2つと結合しているペプチドがプロテアーゼにより切断される際に、蛍光の減少が観察される。あるいは、ドナー波長を観察するのであれば、前記蛍光体2つと結合しているペプチドがプロテアーゼにより切断される際に、蛍光の増加が観察される。次いで、ドナー波長又はアクセプター波長のいずれかを使用して、キナーゼ活性のレベルを測定することができる。
【0064】
別の態様では、蛍光体及び消光分子をかなり近位で含むように、レポーターペプチドを製造することができよう。この場合、蛍光体から再放射された光は、ペプチドが無傷のときに消光される。プロテアーゼによる切断によって、蛍光の増加が観察される。このため、ペプチドの切断、及び従って、増加した蛍光が、キナーゼ活性の不在下で最適である。従って、得られた蛍光レベルは、サンプル中に存在するキナーゼ活性レベルの逆指標[inverse indication]を提供する。
【0065】
別の態様では、蛍光体及びビオチンを含むように、レポーターペプチドを製造することができよう。この場合、キナーゼ反応及びプロテアーゼ反応が完了した後のストレプトアビジンの添加によって前記ペプチドの蛍光偏光が測定される。ストレプトアビジンとビオチンとの相互作用は、生物学的系において知られている最も強い相互作用の1つである。蛍光偏光は分子量に比例するので、蛍光体を含んでいるビオチン化されたペプチドがストレプトアビジンに結合するときに、偏光シグナルの増加が観察されるであろう。しかしながら、プロテアーゼによるペプチドの切断によって蛍光体とビオチンとが分離されるならば、ストレプトアビジンの添加によって蛍光偏光が増加することはない。従って、前記蛍光偏光シグナルは、サンプルにおけるキナーゼ活性のレベルに直接的に比例する。
【0066】
別の態様では、蛍光体及びビオチンを含むように、レポーターペプチドを製造することができよう。この場合、前記蛍光体は、シアニン染料であり、そしてレーザースキャニング共焦点顕微鏡検査を用いて、シアニン標識されたビオチン化ペプチドでコートされたストレプトアビジンマイクロビーズをイメージングする。次いで、マイクロビーズ各々の蛍光シグナルを定量する。前記ペプチドのプロテアーゼ切断によりマイクロビーズからシアニンが分離しているならば、ビーズ各々の蛍光シグナルが減少する。従って、前記蛍光偏光シグナルは、サンプルにおけるキナーゼ活性のレベルに直接的に比例する。
【0067】
別の態様では、ランタニドを含むように、レポーターペプチドを製造することができよう。この場合、前記ペプチドの一方の末端にランタニドを包含させ、そしてもう一方にビオチンを包含させることにより、前記レポーターペプチドを構成する。ビオチン化された前記ペプチドがランタニドを含むのであれば、アロフィコシアニンで標識されたストレプトアビジンを加えることにより、TR−FRETシグナルを得ることができる。プロテアーゼ切断によってランタニドとビオチンとが分離されているならば、TR−FRETシグナルが減少する。従って、前記TR−FRETシグナルは、サンプルにおけるキナーゼ活性のレベルに直接的に比例する。
【0068】
別の態様では、組み換え技術により発現した生物発光を放射することのできるタンパク質を用いて、レポーターペプチドを製造することができる。この実施例では、適当なキナーゼ部位及び特異的なプロテアーゼ部位を含むペプチドを用いて、緑蛍光タンパク質とルシフェラーゼタンパク質とを、非常に近位で連結する。あるいは、緑蛍光タンパク質及びエクオリンを用いることができる。前記タンパク質2つが、プロテアーゼ切断により分離されている場合には、生物発光が減少する。従って、前記生物発光シグナルは、サンプルにおけるキナーゼ活性のレベルに直接的に比例する。
【0069】
《キナーゼアッセイ》
ヒトカゼインキナーゼII(CKII)は、セリン/トレオニンキナーゼであり、ヒトカゼインキナーゼIIに対しては、放射能SPAアッセイだけがこれまでに報告されている。或る態様では、本発明の方法は、CKIIにより認識される蛍光標識ペプチド、及びV8プロテアーゼ(エンド−プロテアーゼGlu−C)[これは、非放射性の低体積アッセイフォーマット(例えば、<5μl:これは、抗体によって変化する)でCKIIを測定することを可能にする]を使用する。
【0070】
本発明の方法の実施に対して、カゼインキナーゼIIに対する以下の基質ペプチド:Asp−Glu−Ser−Glu−Glu−Glu−Asp−Lys(配列番号1)を、当業者に公知の方法でテトラメチルローダミン(TMR)及びフルオレセイン(Flsn)に結合させた。得られるレポーターペプチドは、以下のように設計されていた:TMR−Asp−Glu−Ser−Glu−Glu−Glu−Asp−Lys(N□−Flsn)−COOH(配列番号1)。全てのペプチドは、HPLCにより90%を超える純度を示し、及び質量分析による測定で予想どおりの分子量を示した。エンドプロテアーゼGlu−C(V8プロテアーゼ)を、CalBiochem.(San Diego,カリフォルニア州)から購入した。カゼインキナーゼIIを、New England BioLabs(Beverly,マサチューセッツ州)から購入した。ブタのヘパリン(おおよそ分子量6000)を、Sigma(St.Louis,ミズーリ州)から得た。ATPを、GibcoBRL(Rockville,メリーランド州)から得た。他の試薬は、全て、分析用のグレードであった。
【0071】
逆相カラム(VyDac cat#218TP54;固定相C−18)上におけるHPLC分析を用いて、CKII基質ペプチドを切断するV8プロテアーゼの能力を、最初に確認した。20mM・Tris−HCl、50mM・KCl、10mM・MgClを含むpH7.5の緩衝液(CKII緩衝液)中で、前記ペプチド(30μM)を、V8プロテアーゼ(0.1単位)と一緒に、室温でインキュベーションし、そして種々の時点でアリコートを取り、そしてドライアイス/メタノール浴中でフラッシュ−冷凍した。次いで、プロテアーゼ消化の生成物を、0.1%TFAの存在下で0%〜50%アセトニトリル/水勾配を用い、HPLCカラム上で分離した。250nmにおける両方の吸光度を用いて、並びに530nmの励起及び590nmエミッションフィルターを用い、ローダミンラベルの蛍光によって、ペプチドを検出した。結果を図1に示す。
【0072】
CKIIによる前記ペプチドのリン酸化を、前記緩衝液を用いて、キナーゼと一緒に前記ペプチドをインキュベーションすることによって実施した。一般的に、30μMペプチド及びCKII40単位を、30℃でインキュベーションした。種々の時点でアリコートを取り、そしてドライアイス/メタノール浴中でフラッシュ−冷凍し;続いて、前記条件下におけるHPLCによってサンプルを分析した。結果を図2に示す。
【0073】
ATP(200μM)の存在下及び不在下で30μMペプチドをCKII40単位と一緒に30℃で18時間最初にインキュベーションすることによって、前記ペプチドのリン酸化がV8プロテアーゼ消化を予防する確証が、示された。続いて、各サンプルにV8プロテアーゼ1単位を加え、そして前記サンプルを室温でインキュベーションした。種々の時点でアリコートを取り、そして前記HPLC分析用にドライアイス/メタノール浴中でフラッシュ−冷凍した。リン酸化されたペプチドは、V8プロテアーゼに対する長期露出後に、V8プロテアーゼによって切断されず、一方、リン酸化されていないペプチドは、3時間未満で80%消化されることが、HPLC分析によって明らかにされた(図3)。
【0074】
低体積マイクロタイタープレートアッセイ[low−volume microtiter plate assay]を、以下のとおりに実施した。CKII緩衝液中で濃度15μMの本発明によるペプチド1μLを、グレイナーホワイトウォールド[Greiner white walled]1536ウェルプレート中にピペットで入れた。種々の濃度のヘパリンを含む600μM−ATP1μLを、前記プレートに加えた。CKII6.5単位を含むCKII緩衝液1μLを各ウェルに加えることによって、反応を開始させた。従って、3μL中に含まれる最終濃度は、5μMペプチド、CKII6.5単位、及びATP200μMであった。30℃で30分間〜45分間インキュベーションした後に、250mM−EDTA1μLの添加によりキナーゼ反応を停止し、次いでV8プロテアーゼ1μL(0.1〜0.01単位/ウェル)を添加した。室温で5〜18時間放置して、消化を進行させた。次いで、蛍光プレートリーダー、例えば、Wallac Victor V又はWallac ViewLux(E.G.&G.Wallac,Inc.,Turku,FI)上でプレートを読むことによって、キナーゼ活性を、検出した。ヘパリン濃度に関する、蛍光シグナルの変化を、図4に示す。「Litwinら(1996)J.Virology70:6437−6441」に記載のとおりに共鳴エネルギー転移値(RET)を計算し、そしてこれもヘパリン濃度と相関させた。結果を図5に示す。
【0075】
別の態様において、以下のとおり、1536ホワイトコーニングコスタープレート[white Corning Costar plate]中で2μLアッセイを実施した。CKII緩衝液中のペプチド及びATP(0.5μL)を、各ウェル中にピペットで入れ、続いて同じ緩衝液中のCKII0.5μLを加え、そして30℃で1時間放置して反応を進行させた。最終濃度は、2.5μMペプチド、200μM−ATP、及びCKII3.25単位/ウェルであった。次いで、V8プロテアーゼ1μLを加えて、ウェル当たりプロテアーゼ0.01単位とした。室温で18時間インキュベーションさせておいて、反応を完了させた。この生成物は、RETシグナル中のZファクター0.55であり、これは、化学ライブラリーのハイスループットスクリーニングに適している〔Zhang,Ji−Huら(1999)J.Biol.Screening,4:67−73〕。
【0076】
更に別の態様において、検出方法として蛍光偏光(FP)を使用した。この実験では、カゼインキナーゼIIに対する以下の基質ペプチド:
[アセチル]−Gly−Asp−Glu−Ser−Glu−Glu−Glu−Asp−Lys(配列番号2)
10μMを、そのN末端においてビオチンで標識し、一方、そのC末端リシンのε−アミノ基にフルオレセイン標識を加えて、以下のレポーターペプチド:
[ビオチン]−Gly−Asp−Glu−Ser−Glu−Glu−Glu−Asp−Lys(Nε−FlSn)(配列番号2)
を得た。
【0077】
96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに、CKII緩衝液30μL中のカゼインキナーゼII20単位を加え、それに、CKII緩衝液中に30μMカゼインキナーゼII基質ペプチド(配列番号2)及び60nM前記レポーターペプチドを含む混合物30μLも加えて、カゼインキナーゼII活性を検出した。次いで、CKII緩衝液中300μM−ATP30μLを加えることによって反応を開始し、そして30℃で2時間インキュベーションした。従って、最終濃度は、10μMカゼインキナーゼII基質ペプチド、20nMレポーターペプチド、100μM−ATP、及びCKII20単位/ウェルであった。完全キナーゼ阻害を試験するために、いくつかのウェルにはATPを受領させず、代わりにCKII緩衝液のみを30μL受領させた。次いで、V8プロテアーゼ1単位を含む50mMTris−ClpH8.0緩衝液5μLを、各ウェルに加えた。室温で18時間放置して、プロテアーゼの消化を進行させた。最後に、800nMニュートラアビジン(Pierce Rockford,イリノイ州)5μLを各ウェルに加えて、最終濃度40nMとし、そして蛍光偏光シグナルが測定可能な蛍光プレートリーダーでプレートを読んだ。このマイクロタイタープレート実験の結果から得られた撒布図を、図6に示す。これらのウェルに対して計算されたZファクターは0.7である。
【0078】
ヘパリン濃度に関する蛍光偏光シグナルの変化を、図7に示す。蛍光偏光読み取りを用いてヘパリンによるカゼインキナーゼIIの阻害を決定した。前記阻害を、mP(ミリ偏光単位[millipolarization unit])で示す〔mPの計算については、「Bolger,R.and Checovich,W.,BioTechniques17:585−9(1994)」;「Wu,P.ら,Anal.Biochem.249:29−36(1997)」を参照されたい〕。この曲線に基づくIC50値は50nMであり、これは、CKIIのヘパリン阻害の決定に用いられる放射能アッセイから得られた値と一致する。
【0079】
《ホスファターゼアッセイ》
別の態様において、本発明の方法は、サンプルにおけるホスファターゼ活性の測定を提供する。ホスファターゼアッセイにおける使用のために、プロテアーゼ認識部位内のホスホアミノ酸を用いて、レポーターペプチドを合成する。プロテアーゼ認識部位内のホスホアミノ酸の存在は、前記プロテアーゼによるレポーターペプチドの切断を予防する。ホスファターゼを有するサンプルに対する露出によりホスフェートを除去することによって、前記プロテアーゼがレポーターペプチドを切断することができるようにし、それによって、蛍光における変化をもたらす。従って、プロテアーゼ活性のレベルは、ホスファターゼ活性の量に直接比例し、及び蛍光における変化によって測定することができる。
【0080】
従って、例えば、ホスホアミノ酸を有するレポーターペプチドを調製し、及びドナー蛍光体及びアクセプター分子で標識する。ドナー蛍光体を前記アクセプター分子に対してかなり近位に保持するときには、前記ドナー蛍光体によって再放射される光を前記アクセプターが吸収し、それにより、エネルギー転移により前記アクセプター分子の蛍光を増加させる一方で、前記ドナー分子の蛍光シグナルを消光する。従って、アクセプターが光を放射する波長で観察することにより、前記蛍光体2つと結合しているペプチドがプロテアーゼにより切断される際に、蛍光の減少が観察される。あるいは、ドナー波長を観察するのであれば、前記蛍光体2つと結合しているペプチドがプロテアーゼにより切断される際に、蛍光の増加が観察される。次いで、ドナー波長又はアクセプター波長のいずれかを使用して、ホスファターゼ活性のレベルを測定することができる。
【0081】
前記方法の別の態様では、ホスファターゼアッセイとして使用するときに、蛍光体及び消光分子をかなり近位で含むようにリン酸化されたレポーターペプチドを製造することができる。この場合、蛍光体から再放射された光は、ペプチドが無傷のときに消光される。プロテアーゼによる切断によって、蛍光の増加が観察される。このため、ペプチドの切断、及び従って、増加した蛍光が、ホスファターゼ活性の存在下で最適である。従って、得られた蛍光レベルは、サンプル中に存在するホスファターゼ活性レベルの直接的な指標を提供する。
【0082】
ホスファターゼアッセイとしての前記方法の別の態様では、蛍光体及びビオチンを含むように、ホスホ−レポーターペプチドを製造することができる。この場合、ホスファターゼ反応及びプロテアーゼ反応が完了した後のストレプトアビジンの添加によって、前記ペプチドの蛍光偏光が測定される。ストレプトアビジンとビオチンとの相互作用は、生物学的系において知られている最も強い相互作用の1つである。蛍光偏光は分子量に比例するので、蛍光体を含んでいるビオチン化されたペプチドがストレプトアビジンに結合するときに、偏光シグナルの増加が観察されるであろう。しかしながら、プロテアーゼによるペプチドの切断によって蛍光体とビオチンとが分離されるならば、ストレプトアビジンの添加によって蛍光偏光が増加することはない。従って、前記蛍光偏光シグナルは、サンプルにおけるホスファターゼ活性のレベルに逆比例する。
【0083】
ホスファターゼアッセイに関する別の態様では、前記ホスホレポーターが、ランタニドを含む。この態様では、ビオチン化されたホスホペプチドの一方の末端にランタニドラベルを包含させることにより、前記レポーターペプチドを構成する。ビオチン化された前記ペプチドがランタニドを含むのであれば、アロフィコシアニンで標識されたストレプトアビジンを加えることにより、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(TR−FRET)シグナルが得られる。プロテアーゼ切断によってランタニドとビオチンとが分離されているならば、TR−FRETシグナルが減少する。従って、前記TR−FRETシグナルは、サンプルにおけるホスファターゼ活性のレベルに間接的に比例する。
【0084】
本発明のホスファターゼアッセイの別の態様では、前記ホスホ−レポーターペプチドが、蛍光体及びビオチンを含む。この態様では、蛍光体がシアニン染料であり、そしてレーザースキャニング共焦点顕微鏡検査を用いて、シアニンで標識されたビオチン化されたペプチドでコートされたストレプトアビジンマイクロビーズをイメージングする。次いで、マイクロビーズ各々の蛍光シグナルを定量する。前記レポーターペプチドのプロテアーゼ切断によりマイクロビーズからシアニンが分離しているならば、ビーズ各々の蛍光シグナルが減少する。従って、前記蛍光偏光シグナルは、サンプルにおけるホスファターゼ活性のレベルに間接的に比例する。
【表3】

【0085】
《スクリーニング試験化合物》
本発明の方法は、キナーゼ活性をモジュレートする化合物に対する試験に用いることができる。このようなモジュレーターとしては、化学的化合物、例えば、小分子、化学的化合物の混合物、生物学的高分子、又は生体材料(例えば、細菌、植物、真菌、又は動物の細胞又は組織)から得られる抽出物を挙げることができる。試験化合物を、本明細書に記載のキナーゼアッセイへ包含させることにより、キナーゼのアゴニスト又はアンタゴニストとしての能力について評価する。
【0086】
例えば、キナーゼ活性をモジュレートする能力について物質をスクリーニングする或る方法は、以下の工程を含む。キナーゼ調製物の一部を、試験物質に露出させる。次いで、前記調製物におけるキナーゼ活性のレベルを、本明細書に記載の方法によって決定する。手短に言えば、試験物質に露出した前記キナーゼ調製物を、レポーターペプチドと一緒に、前記ペプチドのリン酸化が生じるのに充分な時間インキュベーションし;前記レポーターペプチドが非リン酸化状態のときに前記レポーターペプチドを切断することのできるプロテアーゼを加え、そして前記レポーターペプチドのタンパク質加水分解が生じるのに充分な時間インキュベーションする。最後に、前記レポーターペプチドの蛍光特性における変化の検出(これにより、前記変化が、前記調製物におけるキナーゼ活性の指標であり、及び露出していない対象と比較される)によって、露出されたキナーゼ調製物におけるキナーゼ活性のレベルを測定する。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】時間におけるV8プロテアーゼによるカゼインキナーゼII(CKII)基質ペプチドの切断を示すグラフ。
【図2】時間におけるカゼインキナーゼIIによるペプチドのリン酸化%を示すグラフ。
【図3】カゼインキナーゼIIが媒介するペプチドのリン酸化による、V8消化に対する保護を示すグラフ。ATPの存在下(●)及び不在下(○)で、ペプチドと一緒にCKIIをインキュベーションした。
【図4】ヘパリン濃度vs.フルオレセイン及びローダミンレベルに対する共鳴エネルギー転移値を示すグラフ。
【図5】阻害アッセイにおけるヘパリン濃度vs.フルオレセインシグナルを示すグラフ。
【図6】試験ウェル(○)がATPを受領し及び対象ウェル(●)がATPを受領しない96ウェルマイクロタイタープレートアッセイの結果を示す散布図。
【図7】蛍光偏光検出法を用いて決定された、ヘパリンによるカゼインキナーゼII活性の阻害を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中のタンパク質キナーゼ活性の測定方法であって、前記方法が、
(a)前記サンプルを、レポーターペプチド(ここで、前記レポーターペプチドは、蛍光標識されたリン酸化可能なペプチドであり、リン酸化されていないときにプロテアーゼ切断可能である)と、前記レポーターペプチドのリン酸化が起こるのに充分な時間接触させ;
(b)前記レポーターペプチドを、リン酸化されていないレポーターペプチドを切断可能なプロテアーゼと、タンパク質加水分解が起こるのに充分な時間接触させ;そして
(c)前記レポーターペプチドの蛍光特性における変化(ここで、前記変化は、前記サンプル中におけるキナーゼ活性の存在を示す)を検出する
工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記蛍光特性における前記変化が、蛍光強度、蛍光消光(FQ)、蛍光偏光(FP)、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)、化学発光共鳴エネルギー転移(CRET)、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)、及び時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(TR−FRET)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蛍光特性における前記変化を、蛍光顕微鏡検査、フローサイトメトリー、蛍光定量法、及び吸収スペクトル測定法からなる群から選択される方法により検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記蛍光特性における前記変化を、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
キナーゼ活性をモジュレートする能力に関して物質をスクリーニングする方法であって、
(a)前記物質にキナーゼ調製物の第1の部分を露出し;
(b)(1)前記第1の部分を、レポーターペプチド(ここで、前記レポーターペプチドは、蛍光標識されたリン酸化可能なペプチドであり、リン酸化されていないときにプロテアーゼ切断可能である)と、前記レポーターペプチドのリン酸化が起こるのに充分な時間接触させ;
(2)前記第1の部分を、リン酸化されていないレポーターペプチドを切断可能なプロテアーゼと、最大のタンパク質加水分解が起こるのに充分な時間接触させ;そして
(3)前記標識されたレポーターペプチドの蛍光特性における変化(ここで、前記変化は、前記第1の部分におけるキナーゼ活性を示す)を検出する
ことによって、前記第1の部分におけるキナーゼ活性のレベルを決定し;
(c)前記キナーゼ調製物の第2の部分(これは、前記物質に対して露出されていない)に対して工程(1)〜(3)を繰り返し、そして前記第1の部分及び第2の部分に対する蛍光における変化を比較する
工程を含む、前記方法。
【請求項6】
前記サンプルにおけるキナーゼ活性のレベルと、既知レベルのキナーゼ活性を有する標準とを比較する工程を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
DESEEEDK(配列番号1)、QKRPSQR(配列番号2)、RRRRSIIFI(配列番号3)、X−SP−X(配列番号4)、EEEYEE(配列番号5)、KSPXXXK(配列番号6)、EAVTSPRFI(配列番号7)、HHHRSPRKR(配列番号8)、HHHKSPRRR(配列番号9)、KKRQQSFDMK(配列番号10)、X−HSR−X(配列番号11)、RFRRSRRMI(配列番号12)〔ここで、Xは、アミノ酸であり、nは、0以上の任意の数である〕からなる群から選択されるアミノ酸配列を、前記ペプチドが含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記蛍光標識されたレポーターペプチドが、(F)−X−DESEEEDK−X−(F)(配列番号1)、(F)−X−QKRPSQR−X−(F)(配列番号2)、(F)−X−RRRRSIIFI−X−(F)(配列番号3)、X−SP−X(配列番号4)、(F)−X−EEEYEE−X−(F)(配列番号5)、(F)−X−KSPXXXK−X−(F)(配列番号6)、(F)−X−EAVTSPRFI−X−(F)(配列番号7)、(F)−X−HHHRSPRKR−X−(F)(配列番号8)、(F)−X−HHHKSPRRR−X−(F)(配列番号9)、(F)−X−KKRQQSFDMK−X−(F)(配列番号10)、(F)−X−HSR−X−(F)(配列番号11)、(F)−X−RFRRSRRMI−X−(F)(配列番号12)〔ここで、Fは、第1蛍光標識であり、Fは、第2蛍光標識であり、Xは、アミノ酸であり、nは、0以上の任意の数である〕から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
サンプル中のタンパク質ホスファターゼ活性の測定方法であって、前記方法が、
(a)前記サンプルを、レポーターペプチド(ここで、前記レポーターペプチドは、蛍光標識されたリン酸化されたレポーターペプチドであり、リン酸化されていないときにプロテアーゼ切断可能である)と、前記レポーターペプチドの脱リン酸化が起こるのに充分な時間接触させ;
(b)前記サンプルを、リン酸化されていないレポーターペプチドを切断可能なプロテアーゼと、タンパク質加水分解が起こるのに充分な時間接触させ;そして
(c)蛍光特性における変化を検出する(それにより、前記変化が、前記サンプル中におけるホスファターゼ活性の存在を示す)
工程を含む、前記方法。
【請求項10】
前記蛍光特性における前記変化が、蛍光強度、蛍光消光(FQ)、蛍光偏光(FP)、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)、化学発光共鳴エネルギー転移(CRET)、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)、及び時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(TR−FRET)からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記蛍光特性における前記変化を、蛍光顕微鏡検査、フローサイトメトリー、蛍光定量法、及び吸収スペクトル測定法からなる群から選択される方法により検出する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記蛍光特性における前記変化を、蛍光マイクロプレートリーダーを用いて検出する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
ホスファターゼ活性をモジュレートする能力に関して物質をスクリーニングする方法であって、
(a)前記物質にホスファターゼ調製物の第1の部分を露出し;
(b)(1)前記第1の部分を、レポーターペプチド(ここで、前記レポーターペプチドは、蛍光標識されたリン酸化されたレポーターペプチドであり、リン酸化されていないときにプロテアーゼ切断可能である)と、前記レポーターペプチドの脱リン酸化が起こるのに充分な時間接触させ;
(2)前記第1の部分を、リン酸化されていないレポーターペプチドを切断可能なプロテアーゼと、タンパク質加水分解が起こるのに充分な時間接触させ;そして
(3)前記標識されたレポーターペプチドの蛍光特性における変化(ここで、前記レポーターペプチドの蛍光における前記変化は、前記第1の部分におけるホスファターゼ活性を示す)を検出する
ことによって、前記第1の部分におけるホスファターゼ活性のレベルを決定し;
(c)前記ホスファターゼ調製物の第2の部分(これは、前記物質に対して露出されていない)に対して工程(1)〜(3)を繰り返し、そして前記第1の部分及び第2の部分に対する前記蛍光特性における前記変化を比較する
工程を含む、前記方法。
【請求項14】
前記サンプルにおけるホスファターゼ活性のレベルと、既知レベルのホスファターゼ活性を有する標準とを比較する工程を更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
DESEEEDK(配列番号1)、QKRPSQR(配列番号2)、RRRRSIIFI(配列番号3)、XSP−X(配列番号4)、EEEYEE(配列番号5)、KSPXXXK(配列番号6)、EAVTSPRFI(配列番号7)、HHHRSPRKR(配列番号8)、HHHKSPRRR(配列番号9)、KKRQQSFDMK(配列番号10)、X−HSR−X−(配列番号11)、RFRRSRRMI(配列番号12)、XY−X(配列番号13)、X−KDDEYNPA−X(配列番号14)、X−RFDRRBSV−X−(配列番号15)、X−RRREEEETEEE−X(配列番号16)、X−MHRQETVDX(配列番号17)〔ここで、Bは、V、I、L、又はFであり、Sは、ホスホセリンであり、Yは、ホスホチロシンであり、Xは、アミノ酸であり、nは、0以上の任意の数である〕からなる群から選択されるアミノ酸配列を、前記ペプチドが含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記蛍光標識されたレポーターペプチドが、(F)−X−DESEEEDK−X−(F)(配列番号1)、(F)−X−QKRPSQR−X−(F)(配列番号2)、(F)−X−RRRRSIIFI−X−(F)(配列番号3)、(F)−X−EEEYEE−X−(F)(配列番号)、XSP−X(配列番号4)、(F)−X−KSPXXXK−X−(F)(配列番号6)、(F)−X−EAVTSPRFI−X−(F)(配列番号7)、(F)−X−HHHRSPRKR−X−(F)(配列番号8)、(F)−X−HHHKSPRRR−X−(F)(配列番号9)、(F)−X−KKRQQSFDMK−X−(F)(配列番号10)、(F)−X−HSR−X−(F)(配列番号11)、(F)−X−RFRRSRRMI−X−(F)(配列番号12)、(F)−XY−X−(F)(配列番号13)、(F)−X−KDDEYNPA−X−(F)(配列番号14)、(F)−X−RFDRRX’SV−X−(F)(配列番号15)、(F)−X−RRREEEETEEE−X−(F)(配列番号16)、(F)−X−MHRQETVDX−(F)(配列番号17)〔ここで、X’は、V、I、L、又はFであり、Sは、ホスホセリンであり、Yは、ホスホチロシンであり、Fは、第1蛍光標識であり、Fは、第2蛍光標識であり、Xは、アミノ酸であり、nは、0以上の任意の数である〕から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
式:
(F)−X−Z−X−(F
[式中、Fは、第1蛍光標識であり、Fは、第2蛍光標識であり、Xは、アミノ酸であり、Zは、ペプチドであり、そしてnは、0以上の任意の数である]で表されるコンポジション。
【請求項18】
前記ペプチドが、DESEEEDK(配列番号1)、QKRPSQR(配列番号2)、RRRRSIIFI(配列番号3)、XSP−X(配列番号4)、EEEYEE(配列番号5)、KSPXXXK(配列番号6)、EAVTSPRFI(配列番号7)、HHHRSPRKR(配列番号8)、HHHKSPRRR(配列番号9)、KKRQQSFDMK(配列番号10)、X−HSR−X−(配列番号11)、RFRRSRRMI(配列番号12)、XY−X(配列番号13)、X−KDDEYNPA−X(配列番号14)、X−RFDRRX’SV−X−(配列番号15)、X−RRREEEETEEE−X(配列番号16)、X−MHRQETVDX(配列番号17)〔ここで、X’は、V、I、L、又はFであり、Sは、ホスホセリンであり、Yは、ホスホチロシンであり、Xは、アミノ酸であり、nは、0以上の任意の数である〕からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項17に記載のコンポジション。
【請求項19】
前記コンポジションが、(F)−X−DESEEEDK−X−(F)(配列番号1)、(F)−X−QKRPSQR−X−(F)(配列番号2)、(F)−X−RRRRSIIFI−X−(F)(配列番号3)、(F)−X−EEEYEE−X−(F)(配列番号5)、XSP−X(配列番号4)、(F)−X−KSPXXXK−X−(F)(配列番号6)、(F)−X−EAVTSPRFI−X−(F)(配列番号7)、(F)−X−HHHRSPRKR−X−(F)(配列番号8)、(F)−X−HHHKSPRRR−X−(F)(配列番号9)、(F)−X−KKRQQSFDMK−X−(F)(配列番号10)、(F)−X−HSR−X−(F)(配列番号11)、(F)−X−RFRRSRRMI−X−(F)(配列番号12)、(F)−XY−X−(F)(配列番号13)、(F)−X−KDDEYNPA−X−(F)(配列番号14)、(F)−X−RFDRRBSV−X−(F)(配列番号15)、(F)−X−RRREEEETEEE−X−(F)(配列番号16)、(F)−X−MHRQETVDX−(F)(配列番号17)〔ここで、Bは、V、I、L、又はFであり、Sは、ホスホセリンであり、Yは、ホスホチロシンであり、Fは、第1蛍光標識であり、Fは、第2蛍光標識であり、Xは、アミノ酸であり、nは、0以上の任意の数である〕から選択される、請求項17に記載のコンポジション。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2006−503552(P2006−503552A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−506341(P2004−506341)
【出願日】平成15年5月14日(2003.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2003/014988
【国際公開番号】WO2003/097667
【国際公開日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【出願人】(504023936)ファーマコピーア ドラッグ ディスカバリー,インコーポレーティッド (6)
【Fターム(参考)】