説明

キノコ菌糸を用いた臭気成分除去方法

【課題】焼酎粕等の悪臭成分を除去する方法及び廃棄物を利用して品質の劣らないキノコ子実体を生産する方法の提供。
【解決手段】有機廃棄物にキノコ菌を接種し、培養することにより、該有機廃棄物中のアセトイン及びジアセチルの少なくとも一方を含む1種以上の臭気成分を除去又は低減することを特徴とする、有機廃棄物の脱臭方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコ菌糸を用いて焼酎粕、でん粉粕等の発する悪臭を脱臭する方法及びそれに伴うキノコ子実体の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鹿児島県内では焼酎の製造の際に副産物として焼酎粕が年間44万トン程度発生しており、肥料・家畜飼料として利用されている。一方、でん粉を製造する際にも副産物としてでん粉粕が年間2万6千トン程度発生しており、クエン酸原料や飼料、肥料(農地還元)、ボイラーの燃料などに利用されている。しかし、これらの副産物は独特の臭い(悪臭)が強く、その臭いは時間の経過(腐敗の進行につれ)とともにさらに強くなるため、周辺環境へ悪影響を及ぼしている。悪臭は典型7公害の一つであり、早急にこの臭気を除去する方法を開発する必要がある。
【0003】
有機廃棄物の脱臭方法としては、例えば、マイタケやシイタケの廃菌床を粉砕等したものを脱臭剤として生ゴミ等から放出される悪臭成分と接触させることにより、廃菌床中に残存する酵素等の働きでアンモニアや低級脂肪酸等の悪臭成分を除去する方法が知られている(特許文献1)。しかし、これは廃菌床の利用に限定された方法であることに加え、この方法で継続的な脱臭効果を得るためには酵素等の失活を補うために脱臭剤を繰り返し添加することが必要であり、また、効果的な脱臭効果を得るために脱臭剤の添加量を調整する必要もあることから、有機廃棄物を再資源化する際に用いる目的では、この脱臭方法はコスト面や労力面等でなおも課題を残している。さらにアンモニアや低級脂肪酸以外の悪臭成分をも効果的に除去できる方法の開発も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−85591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、焼酎粕、でん粉粕等の悪臭を脱臭する方法を提供することを目的とする。本発明はまた、廃棄物を利用して品質の劣らないキノコ子実体を生産する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、キノコ菌糸を強烈な悪臭を生成する焼酎粕やでん粉粕のような有機廃棄物に接種して培養することにより、そのような悪臭の原因となる臭気成分、とりわけバター様臭を発するアセトインやジアセチルを含む1種以上の臭気成分を効果的に除去又は低減して当該有機廃棄物のその独特の臭気を脱臭することができ、またその脱臭効果が比較的長期にわたって得られること、さらにその脱臭過程において標準培地で生産したものに劣らない香りを有するキノコ子実体の生産をも達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 有機廃棄物にキノコ菌を接種し、培養することにより、該有機廃棄物中のアセトイン及びジアセチルの少なくとも一方を含む1種以上の臭気成分を除去又は低減することを特徴とする、有機廃棄物の脱臭方法。
[2] 有機廃棄物が、焼酎粕、でん粉粕、及びそれらより分離した液体画分からなる群より選択される少なくとも1つを含む、上記[1]に記載の方法。
[3] 有機廃棄物が、焼酎粕とでん粉粕とを含む、上記[2]に記載の方法。
[4] キノコが、ヤマブシタケ、ヒラタケ、及びエリンギからなる群より選択される少なくとも1つである、上記[1]〜[3]に記載の方法。
【0008】
[5] 1種以上の臭気成分が、低級脂肪酸及び脂肪酸エステルの少なくとも一方をさらに含む、上記[1]〜[4]に記載の方法。
[6] 1種以上の臭気成分が、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリン酸、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、リノレン酸エチル、及びアラキジン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つをさらに含む、上記[1]〜[5]に記載の方法。
[7] キノコ菌を含む、臭気成分としてアセトイン及びジアセチルの少なくとも一方を含む有機廃棄物用の脱臭剤。
[8] 有機廃棄物が、焼酎粕、でん粉粕、及びそれらより分離した液体画分からなる群より選択される少なくとも1つを含む、上記[7]に記載の脱臭剤。
【0009】
[9] キノコがヤマブシタケ、ヒラタケ及びエリンギからなる群より選択される少なくとも1つである、上記[7]又は[8]に記載の脱臭剤。
[10] 上記[1]〜[6]に記載の方法において有機廃棄物上でキノコ菌を培養し、キノコ子実体を形成させることを特徴とする、キノコ子実体の生産方法。
[11] 上記[10]に記載の方法により生産される、3-オクタノン及び1-オクテン-3-オールを含むキノコ子実体。
[12] キノコがヤマブシタケ、ヒラタケ、及びエリンギからなる群より選択されるいずれかである、上記[11]に記載のキノコ子実体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機廃棄物中のアセトイン及び/又はジアセチルを始めとする臭気成分を除去又は低減することにより効率的な脱臭効果を得ることができる。また本発明によれば、廃棄物を利用しながらその香りを損なうことなくキノコ子実体を生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、キノコ菌糸(ヤマブシタケ)培養開始直後の培地検体についてヘッドスペース法により得た全イオンクロマトグラムを示す図である。
【図2】図2は、キノコ菌糸(ヤマブシタケ)の菌周り完了後、キノコ発生処理を行った培養25日目の培地検体についてヘッドスペース法により得た全イオンクロマトグラムを示す図である。
【図3】図3は、ヤマブシタケ子実体収穫時の培養45日目の培地検体についてヘッドスペース法により得た全イオンクロマトグラムを示す図である。
【図4】図4は、キノコ菌糸(ヤマブシタケ)培養開始直後の培地検体について溶媒抽出法により得たガスクロマトグラムを示す図である。
【図5】図5は、キノコ菌糸(ヤマブシタケ)の菌周り完了後、キノコ発生処理を行った培養25日目の培地検体について溶媒抽出法により得たガスクロマトグラムを示す図である。
【図6】図6は、ヤマブシタケ子実体収穫時の培養45日目の培地検体について溶媒抽出法により得たガスクロマトグラムを示す図である。
【図7】図7は、ヒラタケ子実体収穫時の培養40日目の培地検体についてヘッドスペース法により得た全イオンクロマトグラムを示す図である。
【図8】図8は、ヒラタケ子実体収穫時の培養40日目の培地検体について溶媒抽出法により得たガスクロマトグラムを示す図である。
【図9】図9は、焼酎粕・でん粉粕培地で培養したヤマブシタケ子実体の検体についてヘッドスペース法により得た全イオンクロマトグラムを示す図である。
【図10】図10は、標準培地で培養したヤマブシタケ子実体の検体についてヘッドスペース法により得た全イオンクロマトグラムを示す図である。
【図11】図11は、焼酎粕・でん粉粕培地で培養したヤマブシタケ子実体の検体について溶媒抽出法により得たガスクロマトグラムを示す図である。
【図12】図12は、標準培地で培養したヤマブシタケ子実体の検体について溶媒抽出法により得たガスクロマトグラムを示す図である。
【図13】図13は、クロマトグラムに示された2つのピーク画分のマススペクトル解析の結果を示す図である。図13Aは、図9の全イオンクロマトグラム中のピーク3の溶出画分のマススペクトルである。図13Bは、図11のガスクロマトグラム中のピーク6の溶出画分のマススペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明では、有機廃棄物にキノコ菌を接種し、培養することにより、その有機廃棄物中の臭気成分、好ましくはアセトイン及びジアセチルの少なくとも一方を含む1種以上の臭気成分(臭気物質)を除去又は低減し、その結果、該有機廃棄物から生じる臭気、好適にはアセトイン及び/又はジアセチルを少なくとも含みそれらを核とする臭気(好ましくは悪臭)を脱臭することができる。
【0014】
アセトインは、アセチルメチルカルビノールとも呼ばれる物質であり、いわゆる「ムレ臭」の主原因となるバター様の強い臭気を有する。一方、ジアセチルは、2,3-ブタンジオンとも呼ばれ、これもアセトインと同様、一定量以上存在すると不快臭となるバター様の強い臭気を発する物質である。アセトインやジアセチルは、乳酸菌、大腸菌等の細菌や酵母等の真菌を始めとするある種の微生物の発酵過程で生産されることが知られている。アセトインやジアセチルは発酵過程等で生じる独特の悪臭の核となりうる。
【0015】
本発明において「有機廃棄物」とは、非ヒト動物、植物、真菌、枯草菌若しくは細菌の生物体又はその一部の加工物に由来する任意の有機物材料である廃棄物をいう。本発明の方法においてキノコ菌の接種対象とする「有機廃棄物」は、少なくともアセトイン及び/又はジアセチルを含む1種以上の臭気成分を含有するか、又はそのような臭気成分を含む臭気を発生しているか若しくは発生することが予測される有機廃棄物でありうる。このような有機廃棄物の好適例としては、限定するものではないが、例えば、アセトイン生成能を有する微生物(乳酸菌、大腸菌等の細菌や酵母等の真菌など)による発酵物若しくは腐敗物、又はそれから分離される液体画分若しくは固形物質(例えば、焼酎蒸留粕(以下、焼酎粕)等の残渣物)を含む有機物材料である廃棄物が挙げられる。本発明の方法における「有機廃棄物」は、限定するものではないが、典型的には食品廃棄物でありうる。食品廃棄物の中でも、焼酎粕及び/若しくはでん粉粕、又はそれら各々から固液分離等により分離した液体画分等を含む廃棄物は、アセトインやジアセチルに他の各種臭気成分が組み合わさることにより強烈な悪臭を生じ、しかも腐敗進行と共により強い臭気を生成するようになることから、本発明の対象とする有機廃棄物としてとりわけ好ましい。本発明の対象とする「有機廃棄物」は、焼酎粕、でん粉粕、及びその焼酎粕(好ましくは焼酎粕原液)若しくはでん粉粕(でん粉粕原液)から固液分離等により分離した液体画分からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。本発明において「有機廃棄物」としては、焼酎粕とでん粉粕との両方を含むものがさらに好ましい。
【0016】
本発明における「焼酎粕」は、焼酎蒸留過程(焼酎製造におけるアルコール蒸留過程)で生じる水分率90〜95%程度の「もろみ」(焼酎粕原液)、その焼酎粕原液を固液分離若しくは脱水して得られる固形画分、又はその固形画分を乾燥して得られる乾燥物(乾燥固形焼酎粕)を包含する。なおその焼酎粕原液を固液分離(脱水)して得られる液体画分も本発明における有機廃棄物又はその構成成分として使用可能である。またでん粉粕とは、でん粉製造過程ででん粉を取り出した後に残る副産物又はその乾燥物若しくは脱水物である。本発明の方法を適用する焼酎粕及びでん粉粕は、任意の植物原料由来であってよいが、米又は芋(例えば、ジャガイモや甘藷)由来のものであることが好ましく、甘藷由来であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の方法では、アセトイン及びジアセチルに加えて有機廃棄物中のその他の臭気成分も除去又は低減することができる。それにより、本発明の方法では、アセトイン及び/又はジアセチルとその他の臭気成分が混ざり合って生じる独特の臭気を効果的に脱臭することができる。アセトインやジアセチルは単独でも強い臭気を有するが、例えば、アセトイン及び/又はジアセチルが、同様に単独でも強い臭気を有する酪酸と組み合わさると、より強烈な臭気が発生する。また、それらと比較すると少し弱いがなお比較的強い臭気を単独で有する酢酸及びプロピオン酸や、その他の低〜中程度の臭気を有する低級脂肪酸や脂肪酸エステル等も組み合わさると、さらに独特の悪臭となりうる。
【0018】
本発明において「脱臭」とは、1種以上の臭気成分を除去又は低減することにより、その臭気成分によって構成されうる臭気(好ましくは、悪臭)を除去又は低減することを意味する。本発明の脱臭方法は、適用対象の有機廃棄物中の所定の臭気成分について存在量の100%を除去することだけでなく、その存在量の好ましくは10%、より好ましくは30%、さらに好ましくは50%、なお好ましくは70%、特に好ましくは95%又はそれ以上を低減することも意味する。なお本発明の「脱臭」は、適用対象の有機廃棄物中の全ての種類の臭気成分を除去又は低減することを必ずしも意味しない。
【0019】
本発明の方法によりアセトイン及び/又はジアセチルと共に除去又は低減されることが意図される有機廃棄物中の臭気成分としては、限定するものではないが、例えば、低級脂肪酸(本明細書では炭素数12以下の脂肪酸をいう;例えば、プロピオン酸、酢酸、ノルマル酪酸やイソ酪酸のような酪酸、ノルマル吉草酸やイソ吉草酸のような吉草酸、ラウリン酸、蟻酸、カプロン酸等)、脂肪酸エステル(例えば、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、リノレン酸エチル、及びアラキジン酸エチル等)などが挙げられる。本発明の方法により、それらの臭気成分をさらに含む臭気を脱臭することができる。
【0020】
本発明の方法においてキノコ菌の接種対象とする「有機廃棄物」は、それらの臭気成分、すなわち、アセトイン及び/又はジアセチル、並びに1種以上の低級脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルを含むものであることが好ましい。特に好適な有機廃棄物は、例えば、アセトイン及びジアセチルに加えて、酪酸、酢酸、プロピオン酸、ラウリン酸、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、リノレン酸エチル、及びアラキジン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つ、好ましくは2つ以上の臭気成分を含む。例えば、当該有機廃棄物は、アセトイン、ジアセチル、酪酸、プロピオン酸、及び酢酸を少なくとも含むことがより好ましい。焼酎粕とでん粉粕との両方を含む有機物材料等の有機廃棄物は、後述の実施例に示す通り、通常、強い臭気を有するアセトイン及びジアセチルを含み、さらに酪酸、プロピオン酸、酢酸に加え、他の各種低級脂肪酸や脂肪酸エステルを含む。
【0021】
本発明において臭気成分とは、臭い(好ましくは、悪臭)の原因となりうる揮発性物質を意味する。これらの臭気成分は、場合(存在量、濃度、混合比率、文化圏等)により、悪臭とは認識されない芳香(例えば、バターの香り、納豆の香り、香水の香りなど)を有する成分ともなりうるものであってもよい。
【0022】
本発明の方法を適用する上記有機廃棄物は、さらに石灰(例えば、貝化石等のアラゴナイト系石灰)等のpH調整剤を含んでもよい。その場合、該有機廃棄物は、pH4.0〜pH7.0、より好ましくはpH5.0〜6.0に調整することがより好ましい。上記有機廃棄物は、好ましくは40%〜95%、好ましくは55〜65%の水分率を示すことが好ましい。
【0023】
上記のような有機廃棄物に接種するキノコ菌は、任意のキノコ菌であってよいが、好ましくは白色腐朽菌、特に、ヤマブシタケ(Hericium erinaceum)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、又はエリンギ(Pleurotus eryngii)由来の1以上のキノコ菌を用いるとより効率的な脱臭効果を得ることができる。これらのキノコ菌は市販品から容易に入手可能である。
【0024】
このようなキノコ菌は、常法により(例えば、後述の実施例に記載のようにして)、上記有機廃棄物に接種すればよい。なお有機廃棄物を、キノコ菌の接種前に滅菌処理してもよい。
【0025】
本発明の方法では、キノコ菌を上記有機廃棄物に接種した後、各キノコ菌に好適な培養条件に従って、キノコ菌を培養する。キノコ菌がヤマブシタケ由来である場合には、例えば、後述の実施例1に記載の具体的手順に基づいて培養することができる。例えば、キノコ菌を接種した当該有機廃棄物を、好ましくは温度15〜25℃、湿度60〜80%の環境下に置いて培養することにより、キノコ菌糸を当該有機廃棄物中で伸長させればよい。キノコ菌の培養の間、80〜150ルクス、好ましくは90〜110ルクス、さらに好ましくはおよそ100ルクスの光を適当な時間(典型的には6〜10時間、好ましくは7〜9時間)、照射することがより好ましい。培養は、好ましくは当該有機廃棄物中にキノコ菌糸がまん延するまで(すなわち、菌周りが完了するまで)行うことが好ましい。菌周りが完了するまで培養することにより、当該有機廃棄物中の臭気成分を十分に除去することができる。菌周り完了後、きのこ発生処理として菌掻きを行い、子実体発生条件下(例えば、温度10〜15℃、湿度85〜100%)に置くことにより、当該有機廃棄物上で悪臭を有しない子実体を形成させることもできる。
【0026】
以上のような本発明の方法によれば、アセトイン及びジアセチルのうち少なくとも一方を始めとする1種以上の臭気成分を含む有機廃棄物から、キノコ菌糸にその臭気成分を栄養物質として吸収させ、分解させることによって、当該有機廃棄物を効果的に脱臭することができる。この方法では、原則としてキノコ菌を繰り返し添加することなく、長期にわたり(例えば、キノコ菌の添加から20日以上、より好ましくは40日以上)脱臭効果を継続的に得ることが可能である。特に白色腐朽菌は、リグニン、セルロース等の難分解性有機物を分解する能力を有しており、易分解性の臭気成分を除去分解した後もこれらの成分を継続的に分解し続けることができるため、長期間持続する脱臭効果をもたらすと考えられる。
【0027】
本発明はまた、上記キノコ菌を含む、臭気成分としてアセトイン及びジアセチルの少なくとも一方を含む有機廃棄物用の、脱臭剤も提供する。本発明に係るこのような脱臭剤は、上記脱臭方法において好適に使用されうる。この脱臭剤に含有させるキノコ菌は、任意のキノコ菌であってよいが、より好ましくは白色腐朽菌、特にヤマブシタケ、ヒラタケ若しくはエリンギ由来の1以上の菌が好ましい。この脱臭剤は、焼酎粕、でん粉粕、及びそれらのそれぞれより固液分離等の方法により分離した液体画分からなる群より選択される少なくとも1つ(好ましくは焼酎粕、より好ましくは焼酎粕とでん粉粕の両方)を含む有機廃棄物の脱臭用として、とりわけ良好な脱臭効果を発揮することができ、また1回の投与で長期間脱臭効果を発揮することができる。
【0028】
さらに本発明では、以上記載した本発明に係る脱臭方法において、有機廃棄物に接種したキノコ菌を培養し、さらにキノコ子実体を形成させることができる。本発明は、本発明に係る脱臭方法におけるこのようなキノコ子実体の形成に基づくキノコ子実体の生産方法も提供する。
【0029】
この方法では、有機廃棄物に接種したキノコ菌を、好ましくは培地における菌周り完了まで培養し、続いて例えば35日以上、例えば40日〜65日程度かけて上記のようにしてキノコ子実体を形成させることにより、有機廃棄物上でキノコ子実体を生産することができる。所望の大きさまで形成された(発生した)キノコ子実体は適時収穫すればよい。
【0030】
このような本発明に係るキノコ子実体生産方法によって得られるキノコ子実体は、驚くべきことに、それを形成させた有機廃棄物中に含まれる、悪臭の原因となりうる臭気成分をほぼ含まない。しかもそのようにして得られるキノコ子実体は、キノコ特有のよい香りの成分として知られる3-オクタノン及び1-オクテン-3-オールを含む。本発明に係るキノコ子実体生産方法によって有機廃棄物上で得られるキノコ子実体は、標準培地(例えば、培地基材として広葉樹材料64%(乾燥重量)、栄養材としてコーンブラン32%(乾燥重量)、貝化石4%(乾燥重量)を含む)上で形成されるキノコ子実体と比較して、増加した量の3-オクタノン及び1-オクテン-3-オールを含むことがさらに好ましい。例えば、標準培地上で形成されるキノコ子実体と比較して、限定するものではないが、例えば1.1倍、好ましくは1.3倍、より好ましくは1.6倍、さらに好ましくは2.0倍、なお好ましくは3倍、さらに好ましくは5倍又はそれ以上の3-オクタノン又は1-オクテン-3-オールを含みうる。本発明に係るキノコ子実体生産方法によって得られるキノコ子実体は、3-オクタノン及び1-オクテン-3-オールに加えて、他のキノコ特有の香り成分をも有していてもよいし、他の臭気成分を悪臭を構成しない程度に極微量に含有していてもよい。本発明に係るキノコ子実体生産方法で得られるキノコ子実体は、キノコ特有の香り(好ましくは、3-オクタノン及び/又は1-オクテン-3-オールによる香り)が特に強化されたものでありうる。この本発明に係るキノコ子実体生産方法で生産するのに適したキノコとしては、限定するものではないが、ヤマブシタケ、ヒラタケ、又はエリンギが特に好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
(1) 供試菌株の準備
本実施例では、培養菌糸体として、ヤマブシタケ(Hericium erinaceum;株式会社キノックスから入手)を用いた。ヤマブシタケは、免疫賦活、抗腫瘍作用及び神経成長因子合成促進作用など、人体に対する機能性を示す成分を含有し、かつ、栽培期間が短いという特徴を有する。
【0033】
(2) 培地の調製
ヤマブシタケ菌糸を接種するため、焼酎粕とでん粉粕を用いて、表1に示す焼酎粕・でん粉粕培地を調製した。焼酎粕としては、甘藷焼酎蒸留粕(以下、甘藷焼酎粕と称する)の乾燥固形物(サザングリーン協同組合から入手)を用い、またでん粉粕としては、甘藷でん粉製造過程で発生する甘藷でん粉粕(九州化工株式会社から入手)を脱水処理したものを用いた。なお、用いた焼酎粕及びでん粉粕の組成を、表2にそれぞれ示す。また対照実験のため、表1に示す標準培地を調製した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
焼酎粕・でん粉粕培地の具体的調製手順としては、まず、上記表1に示す培地材料をミキサーに入れて30分間撹拌した後、水分率が64%程度になるように水道水を加え、さらに攪拌した。こうして得た焼酎粕・でん粉粕培地、及び標準培地を、その後、ポリプロピレン製のビン容器(容量:850mL、口径58mm、ウレタン無し)に、580g充填し(表1参照)、次いで121℃で3時間高圧滅菌処理を行った。なお貝化石は、未凝結の貝砂状のアラゴナイト系石灰であり、培地のpHを5.0〜6.0程度に調製するために添加した。
【0037】
(3) 培地におけるキノコ菌の培養
上記滅菌処理後のビンに、クリーンルーム内で上記供試菌(ヤマブシタケ)をビン当たり約10g接種した。なお、供試ビン数は各培地につき32本ずつとした。
【0038】
菌糸を接種したビンは、温度22±2℃、湿度75±5%に制御した培養室内で培養し、作業時のみ蛍光灯を点灯した。この培養をキノコ菌糸が培地中にまん延するまでの期間実施し、その培養期間終了後(具体的には、培養開始から25日目)に、きのこ発生処理として菌掻き(ビン口周辺に付いている古い種菌を取り除くこと)を行い、そして再びキャップを付け、温度13±2℃、湿度85〜90%に制御した発生室にビンを移して、子実体(きのこ本体)の形成を促した。培養開始から45日目(培養45日目)、形成された子実体を培地から収穫した。なお、本実施例では、各培地におよそ100ルクス(lux)の光を1日8時間照射した。培地におけるキノコ菌の培養期間経過に伴い、培地の臭気は顕著に低減した。
【0039】
[実施例2]
キノコ菌糸の培養による焼酎粕・でん粉粕培地からの臭気除去効果を調べるため、実施例1に従ってヤマブシタケ菌を培養中の焼酎粕・でん粉粕培地及び標準培地について、1)培養開始直後、2)キノコ菌糸が培地にまん延しており(菌周り完了)、発生処理を行った培養25日目、3)子実体(きのこ)を収穫した培養45日目、の各培地を回収した。
【0040】
回収した各培地からは検体1gを20mLのバイアル瓶に採取し、密封した。それをヘッドスペースサンプラー(機種:7694(HEWLETT-PACKARD Company製))を用いて80℃30分間加温後、バイアル瓶内のヘッドスペースガスをガスクロマトグラフ-質量分析計(6890/5973(HEWLETT-PACKARD Company)に導入し、全イオンクロマトグラムを得た(ヘッドスペース法)。得られた全イオンクロマトグラムを、1)培養開始直後、2)培養25日目、3)培養45日目、にそれぞれ回収した培地の検体の順に、図1〜3に示す。
【0041】
一方、回収した各培地から採取した検体7.5gに、精製水20mL、ジエチルエーテル100mLを加え10分間振とうした。この検体を3,000rpm、20分にて遠心分離した後、ジエチルエーテル層を脱水濾過し、5mLまで濃縮後、その濃縮溶液1μLをガスクロマトグラフに注入し、ガスクロマトグラムを得た(溶媒抽出法)。得られたガスクロマトグラムを、1)培養開始直後、2)培養25日目、3)培養45日目、にそれぞれ回収した培地の検体の順に、図4〜6に示す。
【0042】
これらの方法で得られた結果について、1)培養開始直後の検体と2)培養25日目又は3)培養45日目の検体とを比較し、差のあるピークを検出した。
【0043】
その結果、ヘッドスペース法により得られた全イオンクロマトグラムの比較では、検体1)では2つのピーク(図1中、矢印a、b)が認められたが、検体2)及び3)では有意なピークは観察されなかった(図2及び3)。
【0044】
また、溶媒抽出法で得られたガスクロマトグラムの比較では、検体1)について多数のピーク(矢印c〜n)が認められたが(図4)、検体2)及び3)ではそれらのピークはほとんど消失していた(図5、6)。
【0045】
次に、検体1)のピークa〜nの溶出画分について、マススペクトル(機種:6890/5973(HEWLETT-PACKARD Company)及び6890N/5975B inertXL(Agilent Technologies, Inc.)を得て、物質の推定を行った。さらにこれらの物質をガスクロマトグラフ-質量分析法、ガスクロマトグラフ法及び高速液体クロマトグラフ法で定量した。その結果を表3にまとめた。
【0046】
【表3】

【0047】
上記結果に示される通り、検体1)の培養開始直後の焼酎粕・でん粉粕培地中には、ジアセチル(ピークa)、アセトイン(ピークc)、酪酸(ピークf)のように単独でも強烈な臭気を持つ物質や、酢酸(ピークd)、プロピオン酸(ピークe)等の揮発性脂肪酸が含まれていることが明らかになった。またこれらの臭気物質の濃度はジアセチル27ppm、アセトイン580ppm、酪酸0.03%、酢酸0.06%、プロピオン酸0.02%であった(表3)。特にアセトインの濃度は580ppmであり、強い臭気を有するジアセチル、アセトイン、酪酸、酢酸、プロピオン酸の中でも最も高かったことから、このアセトインが悪臭の核になっていると思われるが、そこに臭気の強いジアセチルが組み合わさり、さらに同様に臭気の強い酪酸が加わることによりさらに強烈な臭気が発生すると考えられた。そしてそれらがさらに他の低級脂肪酸や脂肪酸エステルを始めとする多くの臭気成分と混ざり合うことにより、焼酎粕・でん粉粕培地の独特の強烈な悪臭を生じさせると考えられた。なおガスクロマトグラフ(FID検出器)による分析結果から、培養開始直後の焼酎粕・でん粉粕培地には吉草酸、カプロン酸も含まれていることも示された。
【0048】
一方、培養25日目の検体2)及び培養45日目の検体3)の結果から、上記臭気物質は、培地にキノコ菌糸がまん延するにつれて減少し、培地を培養室から発生室に移す段階(菌周り完了後;培養25日目)までに消失していたと考えられた。そのことに加えて、検体1)の焼酎粕・でん粉粕培地について検出された臭気物質の分子量が小さいこと等も考慮すると、キノコ菌糸はこれらの臭気物質を直接基質(栄養物質)として取り込み、栄養生長すると同時に、悪臭を分解したと考えられた。
【0049】
なお、焼酎粕・でん粉粕培地にはキノコ菌糸の伸長を阻害する脂肪酸エステル類が含まれている。これは、米や甘藷原料中に含まれる成分が発酵や蒸留工程でアルコールと結合して生成された脂肪酸エステルと考えられる。この脂肪酸エステル類については検体2)においてパルミチン酸エチルのピークが見られたが、その濃度は0.014%とごく低く、定量限界(0.01%)程度であったこと、検体3)では脂肪酸エステル類は定量限界以下でしか検出されなかったことから、栄養材として焼酎粕を利用したキノコ培地におけるキノコ発生処理後から子実体形成までの日数の短縮は、これらの脂肪酸エステルの分解・消失の影響により達成されたと考えられた。
【0050】
また、本願実施例で用いている焼酎粕・でん粉粕培地に配合した甘藷焼酎粕(実施例1の表2)を調製する際に焼酎粕原液を固液分離(脱水)することにより得られた液体画分に対しても、臭気除去効果を調べた。その液体画分にキノコ菌を接種し、培養したところ、キノコ菌が増殖したことが確認され、その液体画分の臭気が除去されることが示された。さらに、焼酎粕・でん粉粕培地に配合した甘藷でん粉粕(実施例1の表2)を調製する際にでん粉粕原液を脱水処理することにより得られた液体画分(脱水液)に対しても、臭気除去効果を調べた。その液体画分にキノコ菌を接種し、培養したところ、キノコ菌が増殖したことが確認され、その液体画分の臭気が除去されることが示された。
【0051】
以上のことから、ヤマブシタケを始めとするキノコ菌糸は、焼酎粕やでん粉粕由来の臭気成分の培地からの除去に有効であることが明らかになった。
【0052】
[実施例3]
本発明者らは、キノコ菌糸を使用した本発明の方法においては、既往の研究から、ヤマブシタケと同様に菌糸伸長の速いヒラタケについても同様に非常に有効に利用できるであろうと考えた。そこでヤマブシタケの代わりにヒラタケを用いた場合についても、実施例2と同様の手法で、実施例2と同一の焼酎粕・でん粉粕培地及び標準培地を使用して、臭気除去効果を調べた。なお培養開始直後の焼酎粕・でん粉粕培地についての全イオンクロマトグラム(ヘッドスペース法)及びガスクロマトグラム(溶媒抽出法)は、実施例2でヤマブシタケを培養した場合の培養開始直後の結果(それぞれ、図1及び図4)と同一と考えられる。ヘッドスペース法により得られた全イオンクロマトグラムの結果からは、ヒラタケ菌を用いた場合でも、ヤマブシタケと同様に、培養開始時に認められるピークが菌周り完了時及び子実体収穫時にはほぼ消失したことが示された。ヒラタケ菌の培養(栽培)を終了させ、得られた子実体(きのこ)を収穫した培養40日目の培地からの検体についての全イオンクロマトグラムを図7に示した。またその検体について溶媒抽出法で得られたガスクロマトグラムを図8に示した。図8より、ヒラタケ菌を用いた場合にも、子実体収穫時の培地中のジアセチル、アセトイン、酢酸、プロピオン酸、酪酸、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、ラウリン酸、リノール酸エチル、リノレン酸エチル、アラキジン酸エチルについて、ヤマブシタケの場合と同等の大幅な低減が示されたことが確認できた。このように、ヒラタケ菌を用いた本発明の方法は、ヤマブシタケ菌を用いた場合と同等の結果を示した。
【0053】
さらに本発明者らは、本発明の方法においてヤマブシタケの代わりにエリンギを用いた場合についても、実施例2と同様の手法で臭気除去効果を調べた。焼酎粕・でん粉粕培地でエリンギ菌を培養(栽培)し、菌周りが完了した培養33日目、及び栽培終了時(子実体収穫時)の培養59日目にそれぞれの培地から検体を回収して、各物質の定量試験を行った結果、両方の培地中の臭気成分の濃度は、ジアセチル、アセトイン、酢酸、プロピオン酸、酪酸、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、ラウリン酸、リノール酸エチル、リノレン酸エチル、アラキジン酸エチルのいずれにおいても定量限界以下(N.D.)であった。
【0054】
[実施例4]
実施例1で培地から収穫された子実体(ヤマブシタケ)について、実施例2の培地検体と同様にして臭気成分の分析及び定量を行った。焼酎粕・でん粉粕培地で栽培したヤマブシタケ子実体についてヘッドスペース法により得られた全イオンクロマトグラムを図9に、また溶媒抽出法で得られたガスクロマトグラムを図11に示す。一方、標準培地で栽培したヤマブシタケ子実体についてヘッドスペース法により得られた全イオンクロマトグラムを図10に、また溶媒抽出法で得られたガスクロマトグラムを図12に示す。
【0055】
さらに、収穫された子実体の上記クロマトグラムに示された各ピークの溶出画分について、実施例2と同様の手法でマススペクトル解析と各物質の定量試験を行った。その結果、焼酎粕・でん粉粕培地で栽培したきのこ(子実体)における、用いた該培地中で見出された臭気成分の濃度は、酢酸0.07%、酪酸N.D.(N.D.: 定量限界(0.01%)以下;以下同じ)、プロピオン酸N.D.、蟻酸N.D.、アセトインN.D.、ジアセチルN.D.であった。標準培地で栽培したきのこ(子実体)における定量結果は、酢酸0.03%、酪酸N.D.、プロピオン酸N.D.、蟻酸N.D.、アセトインN.D.、ジアセチルN.D.であった。このように、焼酎粕・でん粉粕培地で栽培した子実体では、培地由来の臭気成分の濃度は、定量限界以下であった。また標準培地で栽培した子実体も同様であった。
【0056】
一方、マススペクトル解析結果からは、この子実体が、きのこ特有の香り成分である3-オクタノン、1-オクテン-3-オール(別名:マツタケオール)(「[食べ物]香り百科事典」、朝倉書店、日本香料協会 編)を含んでおり、それらの含有量が、標準培地で栽培した子実体と比較して顕著に多いことが、明白に示された。焼酎粕・でん粉粕培地で栽培した子実体の全イオンクロマトグラムを示す図9のピーク3が3-オクタノンを示し、その子実体のガスクロマトグラムを示す図11のピーク6が1-オクテン-3-オールを示す。これに対し標準培地で栽培したヤマブシタケ子実体の全イオンクロマトグラムを示す図10、ガスクロマトグラムを示す図12には、それら香り成分のピークはほとんど認められない。なおピーク3(3-オクタノン)及びピーク6(1-オクテン-3-オール)のマススペクトルをそれぞれ図13A及び図13Bに示す。
【0057】
このように、焼酎粕・でん粉粕培地での培養で得られる子実体は、悪臭の原因となりうる臭気成分をほとんど含まず、標準培地で培養した子実体と比較してもその点で全く劣っていないばかりか、むしろ、きのこ特有の良い香りの成分含量が顕著に増加したことが明らかになった。
【0058】
さらには、ヤマブシタケ菌の代わりにヒラタケ菌、エリンギ菌を焼酎粕・でん粉粕培地でそれぞれ培養(栽培)して得られたヒラタケ子実体、エリンギ子実体についても、同様にヘッドスペース法により全イオンクロマトグラムを、溶媒抽出法によりガスクロマトグラムを取得し、マススペクトル解析及び各ピーク画分の物質の定量試験を行ったところ、ヤマブシタケと同等の分析結果が得られた。ヒラタケ子実体及びエリンギ子実体中の酢酸、酪酸、プロピオン酸、蟻酸、アセトイン、ジアセチルの各含有濃度もN.D.(定量限界以下)であった。
【0059】
以上のことから、上記キノコ菌は、焼酎粕・でん粉粕等の有機廃棄物由来の臭気成分を、培地だけでなくそこで得られるキノコ子実体からも顕著に低減させることができ、しかも、それら臭気成分を含む培地で栽培(培養)することによりきのこ独特の香りが強化された子実体を形成できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の方法は、有機物由来の悪臭対策、特に、焼酎製造業やでん粉製造業等において問題となっている焼酎粕、でん粉粕等の有機廃棄物に由来する独特の臭い(悪臭)の問題を解決する上で有用な方策を提供するために用いることができる。また本発明のキノコ子実体の生産方法は、悪臭の原因となる臭気成分を含む有機廃棄物を有効活用しつつ、そのような臭気成分を含まないだけでなくきのこ独特の香りが強化された製品価値の高い子実体を生産するために実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機廃棄物にキノコ菌を接種し、培養することにより、該有機廃棄物中のアセトイン及びジアセチルの少なくとも一方を含む1種以上の臭気成分を除去又は低減することを特徴とする、有機廃棄物の脱臭方法。
【請求項2】
有機廃棄物が、焼酎粕、でん粉粕、及びそれらより分離した液体画分からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機廃棄物が、焼酎粕とでん粉粕とを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
キノコが、ヤマブシタケ、ヒラタケ、及びエリンギからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
1種以上の臭気成分が、低級脂肪酸及び脂肪酸エステルの少なくとも一方をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
1種以上の臭気成分が、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリン酸、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、リノレン酸エチル、及びアラキジン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つをさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
キノコ菌を含む、臭気成分としてアセトイン及びジアセチルの少なくとも一方を含む有機廃棄物用の脱臭剤。
【請求項8】
有機廃棄物が、焼酎粕、でん粉粕、及びそれらより分離した液体画分からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項7に記載の脱臭剤。
【請求項9】
キノコがヤマブシタケ、ヒラタケ、及びエリンギからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項7又は8に記載の脱臭剤。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法において有機廃棄物上でキノコ菌を培養し、キノコ子実体を形成させることを特徴とする、キノコ子実体の生産方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法により生産される、3-オクタノン及び1-オクテン-3-オールを含むキノコ子実体。
【請求項12】
キノコがヤマブシタケ、ヒラタケ、及びエリンギからなる群より選択されるいずれかである、請求項11に記載のキノコ子実体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−188290(P2010−188290A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36007(P2009−36007)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載アドレス:http://alic.lin.go.jp/starch/japan/report/200811−01.html 電気通信回線発表日:2008年10月25日
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】