説明

キノールペルオキシダーゼ及びその遺伝子

【課題】生物の呼吸鎖において生理的あるいは人工的に電子伝達反応を担うことのできるキノールを基質として用いる新規ペルオキシダーゼや、かかる新規ペルオキシダーゼをコードする遺伝子を提供すること。
【解決手段】真性細菌アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンスATCC29522を培養する事により、新規なキノールペルオキシダーゼ(QPO)を単離・精製する。また、上記菌株から染色体DNAを抽出し、精製QPOのN末端アミノ酸の配列情報と、公知のアクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンスHK5651株の全染色体DNA配列に基づいてプライマーを設計することによりPCRを行い、これによりQPO遺伝子を得る。QPOアミノ酸配列は既存の真性細菌由来のチトクロムcペルオキシダーゼに高い相同性を有する配列と、QPOアミノ酸配列に特異的な配列からなる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、真性細菌アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)ATCC29522由来のキノールペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質、及びタンパク質をコードする遺伝子等に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキシダーゼは、過酸化酵素ともよばれ、過酸化水素の存在下、種々の化合物を酸化する酵素である。また過酸化水素を種々の化合物で還元する酵素であるともいえる。ペルオキシダーゼは動物界、植物界及び微生物界に広く分布する事が知られ、各種酵素抗体標識など各種分析試薬として既に実用化されており、また、各種廃液・排水中の有機塩素化合物、環境ホルモン等の分解・除去、パルプ廃液の脱色、洗濯物の色移り防止、フェノール樹脂の合成、食品の劣化防止などの幅広い用途が期待されている。かかるペルオキシダーゼの中でも、近年、種々の微生物に由来するペルオキシダーゼが探索されてきており、例えば担子菌のコプリヌス・シネリウス(特許文献1)、ヒラタケ(非特許文献1)、ホウロクタケ(特許文献2)、白色腐朽菌のファネロカエテ・クリソスポリウム(非特許文献2)、ファネロカエテ・ソルディダ(特許文献3)、糸状菌のアルスロマイセス・ラモスス(非特許文献3)、子嚢菌ゲオトリカム・キャンディウム(非特許文献4)、コフキサルノコシカケ(非特許文献5)、カワラタケ(非特許文献6)、セリポリオプシス・スベミスポラ(非特許文献7)、ダイコミタス・スクアレンス(非特許文献8)、フレビア・ラヂアタ(非特許文献9)、そして真性細菌のフラボバクテリウム・メニンゴセプチカム(非特許文献10)に由来するペルオキシダーゼを挙げることができる。
【0003】
【特許文献1】特開平3−1949号公報
【特許文献2】特開平8−70862号公報
【特許文献3】特開2000−152786号公報
【非特許文献1】Biochim. Biopys. Acta,1251,205−209,1995
【非特許文献2】Gene,93,119−124,1990
【非特許文献3】Agric.Biol.Chem,50,247,1986
【非特許文献4】Journal of Bioscience and Bioengineering,87,411,1999
【非特許文献5】Biotech.Lett.23,103,2001
【非特許文献6】Biochem.Biophys.Res.Commun,179,428−435,1991
【非特許文献7】Gene,206,185−193,1998
【非特許文献8】Biochim.Biophys.Acta,1434,356−364,1999
【非特許文献9】Gene,85,343−351,1989
【非特許文献10】Biochim.Biophys.Acta,1435,117−126
【0004】
かかるペルオキシダーゼのなかでも、特にチトクロムcペルオキシダーゼは、還元型チトクロムcの存在下、過酸化水素を還元するペルオキシダーゼであり、発芽酵母(非特許文献11)と、真性細菌のシュードモナス・エルジノーサ(非特許文献12)、シュードモナス・ナウティカ(非特許文献13)、ロドバクター・カプスラタス(非特許文献14)、ニトロソモナス・ユウロペア(非特許文献15)、及びメチロコッカス・カプスラタス(非特許文献16)などに由来するチトクロムcペルオキシダーゼが知られている。
【0005】
【非特許文献11】J.Biol.Chem.267,21802−21807,1992
【非特許文献12】Acta Chem.Scand.,26,2535−2537,1972
【非特許文献13】Biochim.Biophys.Acta,1434,248−259,1999
【非特許文献14】Eur.J.Biochem.,258,29−36,1998
【非特許文献15】J.Biol.Chem.,269,11878−11886
【非特許文献16】Arch.Microbiol.,168,362−372,1997
【0004】
かかるチトクロムcペルオキシダーゼの中でも、発芽酵母由来のものと、真性細菌由来のものでは、アミノ酸配列ならびに酵素学的な性質が大きく異なっており、前者は294個のアミノ酸と1つのヘムbをもつタンパク質で、そのアミノ酸配列は他の多くのペルオキシダーゼと相同性をもつのに対し、後者は300から400個のアミノ酸と2つのヘムcを共有結合したタンパク質であり、他のペルオキシダーゼと異なった、特異的なアミノ酸配列からなる。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンスATCC29522に由来する新規なキノールペルオキシダーゼをコードする遺伝子の塩基配列を明らかにして、その有用な機能をより広く活用するための手段を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンスATCC29522から新規なペルオキシダーゼを単離し、その酵素学的性質を決定したところ、従来知られている全てのペルオキシダーゼと異なり、ユビキノール−1を基質としてペルオキシダーゼ活性を有することを見いだした。QPO遺伝子は既存の真性細菌由来のチトクロムcペルオキシダーゼに高い相同性を有する配列と、QPO遺伝子特異的な配列からなる。本発明はこれら知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち本発明は、(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質や、(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキノールペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA(請求項1)や、配列番号1に示される塩基配列若しくはその相補的配列又はこれらの配列の一部若しくは全部を含む配列からなるDNA(請求項2)や、請求項2記載のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA(請求項3)や、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(請求項4)や、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキノールペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質(請求項5)に関する。
【0008】
また本発明は、請求項4又は5記載のタンパク質と、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合タンパク質(請求項6)や、請求項4又は5記載のタンパク質に特異的に結合する抗体(請求項7)や、抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項7記載の抗体(請求項8)や、請求項1〜3のいずれか記載のDNAを含む組換えベクター(請求項9)や、請求項4又は5記載のタンパク質を発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞(請求項10)や、請求項10記載の発現系を含んでなる宿主細胞を培地に培養し、得られる培養物からキノールペルオキシダーゼ活性を有する組換えタンパク質を採取することを特徴とする組換えタンパク質の製造方法(請求項11)に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の対象となるDNAとしては、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAや、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキノールペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAや、配列番号1に示される塩基配列若しくはその相補的配列又はこれらの配列の一部若しくは全部を含む配列からなるDNAであればどのようなものでもよく、ここで、上記キノールペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質とは、生物の呼吸鎖において生理的あるいは人工的に電子伝達反応を担うことのできるキノールを基質として用いることによりペルオキシダーゼ活性を定性的に呈するタンパク質をいう。
【0010】
ここでいう「生物の呼吸鎖において生理的あるいは人工的に電子伝達反応を担うことのできるキノール」とは、ユビキノール−n、ロドキノール−n、プラストキノール−nに代表されるベンゾキノールと、トコキノール−n、メナキノール−n、デメチルメナキノール−n、フィロキノール−nに代表されるナフトキノール、そしてこれらの誘導体を含む。
【0011】
ユビキノール−nとは、次式で表される
【0012】
【化1】

【0013】
式中、nは側鎖のイソプレン単位の数を表し、0から10までが好ましく用いられる。
【0014】
ロドキノール−nとは、次式で表される
【0015】
【化2】

【0016】
式中、nは側鎖のイソプレン単位の数を表し、0から10までが好ましく用いられる。
【0017】
プラストキノール−nとは、次式で表される
【0018】
【化3】

【0019】
式中、nは側鎖のイソプレン単位の数を表し、0から10までが好ましく用いられる。
【0020】
トコキノール−nとは、次式で表される
【0021】
【化4】

【0022】
式中、nは側鎖のイソプレン単位の数を表し、0から10までが好ましく用いられる。
【0023】
メナキノール−nとは、次式で表される
【0024】
【化5】

【0025】
式中、nは側鎖のイソプレン単位の数を表し、0から10までが好ましく用いられる。
【0026】
デメチルメナキノール−nとは、次式で表される
【0027】
【化6】

【0028】
式中、nは側鎖のイソプレン単位の数を表し、0から10までが好ましく用いられる。
【0029】
フィロキノール−nとは、次式で表される
【0030】
【化7】

【0031】
式中、nは側鎖のイソプレン単位の数を表し、3が好ましく用いられる。
【0032】
また、配列番号1に示される塩基配列又はその相補的配列並びにこれらの配列の一部又は全部を含む配列からなるDNAをプローブとして、各種DNAライブラリーに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションを行ない、該プローブにハイブリダイズするDNAを単離することにより、新規なキノールペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを得ることもできる。こうして得られるDNAも本発明に包含される。かかる本発明のDNAを取得するためのハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション、及び1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理を挙げることができ、65℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理をより好ましく挙げることができる。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば、種々の要素を適宜組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0033】
これら本発明のDNAは、本発明に開示されたDNA配列情報等に基づき、例えばアクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンスATCC29522株等のゲノム遺伝子から、PCR又はDNA断片をプローブとするハイブリダイゼーションなど公知の方法により調製することができる。その他、化学合成によっても調製することができる。また、これら本発明のDNAから、キノールペルオキシダーゼ活性を有する人工変異タンパク質をコードする本発明のDNA、すなわち、塩基配列レベルやアミノ酸配列レベルでの本発明の人工変異DNAを得るには、公知の突然変異手段を用いればよく、例えば市販の突然変異誘発キットを用いると変異を容易に導入することができる。さらに、アミノ酸配列に含まれる第1番目のメチオニン(Met)が欠失しているものや、後述する膜貫通領域を欠失しているものなども、アミノ酸配列の変異によるタンパク質に含まれる。
【0034】
本発明のタンパク質としては、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質や、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキノールペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質であれば特に制限されるものではなく、これら本発明のタンパク質はそのDNA配列情報等に基づき公知の方法で調製することができ、その由来は特に制限されるものではない。
【0035】
本発明の融合タンパク質としては、本発明のタンパク質とマーカータンパク質及び/又はペプチドタグとが結合しているものであればどのようなものでもよく、マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、抗体のFc領域、GFPなどを具体的に挙げることができ、また本発明におけるペプチドタグとしては、Mycタグ、Hisタグ、FLAGタグ、GSTタグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合タンパク質は、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用したキノールペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質等の精製や、キノールペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質等に対する抗体の定量用などとして、また当該分野の研究用試薬としても有用である。
【0036】
本発明のタンパク質に特異的に結合する抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等の免疫特異的な抗体を具体的に挙げることができ、これらは上記本発明のタンパク質、融合タンパク質等の全部又は一部を抗原として用いて常法により作製することができるが、その中でもモノクローナル抗体がその特異性の点でより好ましい。かかるモノクローナル抗体等の抗体は、例えば、キノールペルオキシダーゼの特性やその産生機構を明らかにする上で有用である。
【0037】
上記の本発明の抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)に本発明のタンパク質又はエピトープを含むその断片を投与することにより産生され、例えばモノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ法(Nature 256,495−497,1975)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today 4,72,1983)及びEBV−ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY,pp.77−96,Alan R.Liss,Inc.,1985)など任意の方法を用いることができる。
【0038】
また前記モノクローナル抗体等の抗体に、例えば、FITC(フルオレセインイソシアネート)又はテトラメチルローダミンイソシアネート等の蛍光物質や、125I、32P、14C、35S又はH等のラジオアイソトープや、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ又はフィコエリトリン等の酵素で標識したものや、グリーン蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光発光タンパク質などを融合させた融合タンパク質を用いることによって、本発明のタンパク質の機能解析を行うことができる。また本件発明の抗体を用いる免疫学的測定方法としては、RIA法、ELISA法、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、血球凝集反応法、オクタロニー法等の方法を挙げることができる。
【0039】
本発明の組換えベクターとしては、上記本発明のDNAを含むベクターであれば特に制限されないが、本発明のタンパク質を宿主細胞内で発現させることができる発現系を含むものが好ましく、例えば、染色体、エピソーム及びウイルスに由来する発現系、より具体的には、細菌プラスミド由来、酵母プラスミド由来、SV40のようなパポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、レトロウイルス由来のベクター、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来及びこれらの組合せに由来するベクター、例えば、コスミドやファージミドのようなプラスミドとバクテリオファージの遺伝的要素に由来するものを挙げることができる。この発現系は発現を起こさせるだけでなく発現を調節する制御配列を含んでいてもよい。
【0040】
本発明はまた、上記本発明のタンパク質を発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞に関する。かかる本発明のタンパク質をコードするDNAや上記発現系を含む組換えベクターの宿主細胞への導入は、Davisら(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,1986)及びSambrookら(MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載される方法、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング(scrape loading)、弾丸導入(ballisticintroduction)、感染等により行うことができる。そして、宿主細胞としては、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス等の細菌原核細胞や、酵母、アスペルギルス等の真菌細胞や、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞や、L細胞、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、BALB/c3T3細胞(ジヒドロ葉酸レダクターゼやチミジンキナーゼなどを欠損した変異株を含む)、BHK21細胞、HEK293細胞、Bowes悪性黒色腫細胞等の動物細胞や、植物細胞等を挙げることができる。
【0041】
また、本発明の組換えタンパク質の製造方法としては、上記発現系を含んでなる宿主細胞を培地に培養し、得られる培養物からキノールペルオキシダーゼ活性を有する組換えタンパク質を採取する方法であればどのような方法でもよく、かかる本発明のタンパク質を細胞培養物から回収し精製する方法としては、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーを用いる方法を挙げることができる。また、上記アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、本発明のタンパク質に対する抗体を結合させたカラムや、上記本発明のタンパク質に通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、本発明のタンパク質を得ることができる。上記本発明のタンパク質の精製方法は、ペプチド合成の際にも適用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこの実施例により限定されるものではない。実施例1(QPOの調製)[1.アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンスの培養]アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンスATCC29522は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)より購入したものを、3%トッドヒューウィッド(Todd Hewitt)培地(Difco社製)と1.2%イーストエキストラクト(Yeast extract)からなる培地(THBYE培地)により生育させ、保存しておいたものを用いた。前培養は、10mlのTHBYE培地を用いて37℃、5%CO存在下で本菌株を一晩培養することにより行った。前培養で得られた菌体を、YHBYE培地3lを入れた3リットル容フラスコに植菌して本培養を行った。本培養は、37℃、5%CO存在下で18時間静置培養することにより行った。
【0043】
[2.QPOの単離]QPOを単離するため、本培養18時間後の菌体を、遠心分離により培地成分と菌体に分離し、菌体を50mMリン酸緩衝液(pH8.0)に懸濁した後、超音波により破砕した(処理時間:30秒×12回)。菌体破砕後、超遠心分離により膜画分と上清とに分離し、膜画分をさらに、界面活性剤であるスクロースモノラウレート(ナカライ社製)を0.5%含んだ50mMリン酸緩衝液(pH8.0)に懸濁し、さらにホモジナイザーを用いて均一化することにより、膜結合性のペルオキシダーゼを可溶化した。この溶液をさらに超遠心分離することにより固形物を沈殿させ、上清を粗酵素抽出液として精製に用いた。この粗酵素抽出液をあらかじめ5%スクロースモノラウレートを含む10mMリン酸緩衝液(pH8.0)により平衡化したマクロプレップ・セラミックヒドロキシアパタイト・タイプI(Bio−Rad社製)を充填したカラム(1.6cm×3cm)に流し込み、QPOをカラムに結合させた。流し込み終了後、10mMリン酸緩衝液(pH8.0)10mlによりカラムを洗浄した。QPOは0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)から1.0Mリン酸緩衝液(pH8.0)への直線グラジエントによりカラムから溶出させた。活性画分に終濃度1.7Mになるように硫酸アンモニウムを加え、あらかじめ1.7M硫酸アンモニウム、0.25%スクロースモノラウレートを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH8.0)により平衡化したHiTrap Pheny1 HP(Amasham−Pharmasia Biotech社製)に流し込み、QPOをカラムに結合させた。流し込み終了後、本カラムの平衡化に用いた緩衝液10mlによりカラムを洗浄した。QPOは0.0M硫酸アンモニウム、0.25%スクロースモノラウレートを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH8.0)への直線グラジエントによりカラムから溶出させた。活性画分をさらに0.25%スクロースモノラウレートを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH8.0)で平衡化したAF−Red−560Mカラム(東ソー社製)に流し込み、素通りしたQPOを回収した。これをさらに0.25%スクロースモノラウレートと0.3M NaClを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH8.0)で平衡化したHiprep 16/60 Sephacry1 S−200HR(Amasham−Pharmasia Biotech社製)に流し込み、さらに分画を行った。最終的に得られた活性画分をドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析を行ったところ、単一のバンドを与えた。
【0044】
[3.QPOのユビキノール−nに対する親和性]精製したQPO 1ngに、反応液[100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)、80μM過酸化水素、20−400μMユビキノール−1]1mlを加え、分光光度計DU640(Beckman社製)を用いて、ユビキノン−1の生成を278nmにおける吸光度の上昇により追跡することによってキノールペルオキシダーゼ活性の基質量に対する変化を測定した。その結果をHans−Woolfプロットに基づいてプロットすることにより、QPOのユビキノール−1に対するK値を算出した。結果を図1に示す。図1からわかるように、精製QPOはユビキノール−1に対して約107μMのK値を持つことが明らかになった。大腸菌のキノール酸化酵素であるチトクロムbo,bdのユビキノール−1に対するK直はそれぞれ48、110μMであることが知られており、上記したQPOのユビキノール−1に対するK値と類似していることから、キノールを基質とする酵素群が、互いにキノールに対する類似した親和性を持つことによって、呼吸鎖のキノールを共有しているものと考えられた。
【0045】
ユビキノール−n以外の「生物の呼吸鎖において生理的あるいは人工的に電子伝達反応を担うことのできるキノール」に対する親和性については、測定が困難であるため、反応液[100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)、25μg/ml 膜画分、80μM過酸化水素]に、NADHあるいはコハク酸を終濃度0.1mMになるように加え、見かけ上のペルオキシダーゼ活性(過酸化水素濃度の減少)を測定した。過酸化水素濃度の測定にはPeroxoQuantキット(Pierce社製)を用いた。本実験では、NADHとコハク酸はそれぞれ膜画分に存在するNADH:キノン酸化還元酵素、コハク酸:キノン酸化還元酵素によって酸化され、膜画分に存在するキノンが還元されてキノールとなり、それがQPOの基質となる。実験の結果、NADHとコハク酸を基質としてそれぞれ341,811 nmol/mg/minのペルオキシダーゼ活性を測定することができた。アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンスの呼吸鎖において電子伝達反応を担うことのできるキノールはデメチルメナキノール−nのみであるため、図2に示したペルオキシダーゼ活性は、デメチルメナキノール−nを基質としたものであると言えた。以上の実験から、本発明のQPOはユビキノール−nのようなベンゾキノールのみならず、デメチルメナキノール−nのようなナフトキノールをも基質として用いることができることが示された。
【0046】
実施例2(QPO遺伝子の決定と調製)QPOのN末端アミノ酸配列分析を、アプロサイエンス社に受託し、Procise 494 cLC(Applied Biosystems社製)を用いて常法により分析した。その結果、配列番号3のアミノ酸配列が決定された。このN末端アミノ酸配列をもとに、公知のアクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンスの全染色体DNA配列に対しBLASTサーチを行った結果、配列番号3のアミノ酸配列にすべて一致する配列から始まるORF(open reading frame)を見いだし、これをQPO遺伝子とした。
【0047】
QPO遺伝子の取得には、PCR(polymerase chain reaction)法を用いた。染色体DNA配列をもとに、プライマー1:5’−TGAGCGCTCTAAATAGATATTTAATTACT−3’(配列番号4)及びプライマー2:5’−ACAGCGTTTTAAAAACGCTTTG−3’(配列番号5)の2種類のプライマーを作製した。1μlの染色体DNA溶液に、0.3μMのプライマー1、0.3μMのプライマー2、0.2mMのdNTP(deoxyribonucleoside triphosphate)、1mMのMgSO、1UのKOD(TOYOBO社製)、5μlの10×KOD緩衝液を加え、最終液量を50μlとした。PCRは、MJ Research PTC−200(MJ Research社製)を用い、94℃30秒、55℃30秒、72℃3分、35サイクルの条件で行った。
【0048】
この結果得られた該反応液を、アガロース電気泳動により分離し、Perfectprep Gel Cleanup(Eppendorf社製)を用い、約1.5kbpのDNA断片をゲルから回収した。該DNA断片をpZErO−2ベクター(Invitrogen社製)に取扱説明書に従いEcoRVサイトを用いて連結し、このベクターを用いて大腸菌Top10株を形質転換し、形質転換された大腸菌をカナマイシン50mg/lに対する薬剤耐性によってスクリーニングを行った。形質転換株から、プラスミドをFastPlasmid Mini(Eppendorf社製)を用い精製した後、PstIとNotI(共にTakara社製)を用いて消化し、約1.5kbpと3.3kbpのDNA断片を生じるプラスミドを目的のDNA断片を含むクローンと判断して、そのプラスミドに挿入されたDNA断片の配列を決定した。なお、DNA配列の決定はpZErO−2ベクター内のSp6 promoter/primingサイトと、M13(−20)Forward primingサイトに相補的なDNA配列を持つプライマーを用い、島津製作所のシングルパスシーケンスサービスに依頼した。このように得られたDNA配列(配列番号1)の第121番目にあたるアデニンから第1503番目のアデニンにわたる配列がQPOをコードする遺伝子と考えられた。また、配列から推定されるQPOアミノ酸配列(配列番号2)は460個のアミノ酸をコードすることが予測された。上記アミノ酸配列(配列番号2)のN末端側10個のアミノ酸配列は、上記得られたタンパク質N末端アミノ酸配列解析の結果から得られた配列(配列番号3)と完全に一致していた。
【0049】
上記QPO遺伝子配列(配列番号1)から予測されるアミノ酸配列(配列番号2)を、SOSUIシステムを用いてタンパク質二次構造予測を行った結果、第4番目にあたるフェニルアラニン(Phe)から第26番目のチロシン(Tyr)にわたる配列は、細胞質膜中に局在する可能性が高いことが予測された。このことから、QPOは一回膜貫通型の膜蛋白質であることが予測された。細胞膜貫通領域は、キノールペルオキシダーゼ活性には関与しないことが考えられた。
【0050】
また、QPOアミノ酸配列(配列番号2)をモチーフ解析した結果、第56番目のシステイン(Cys)から第60番目のヒスチジン(His)、第203番目のシステイン(Cys)から第207番目のヒスチジン(His)、そして第345番目のシステイン(Cys)から第349番目のヒスチジン(His)、の3カ所にヘムc結合モチーフがあることが明らかになった。
【0051】
上記QPOアミノ酸配列(配列番号2)に対し、相同性検索を行ったところ、有意な相同性を示す遺伝子が存在した。QPOと相同性を持つ遺伝子は大きく二つに大別され、細菌性のチトクロムcペルオキシダーゼ遺伝子と、3カ所のヘムc結合領域を持つ機能不明の遺伝子であった。
【0052】
QPOアミノ酸配列中、第170番目付近から第460番目付近の領域と、全長のチトクロムcペルオキシダーゼ遺伝子には、高い相同性を確認することができた。具体的には、シュードモナス・エルジノーサ(1EB7,42%)、パラコッカス・パントトロファス(2C1V,40%)、シュードモナス・ナウティカ(1MNL,40%)、ロドバクター・カプスラタス(1ZZH,41%)、ニトロソモナス・ユウロペア(1IQC,41%)由来のチトクロムcペルオキシダーゼなどを挙げることができるが、この限りではない。括弧内の英数字は、それぞれの配列のPDB登録番号と相同性(Identities%)を示す。
【0053】
QPOアミノ酸配列の全長と高い相同性を有していた、3カ所のヘムc結合領域を持つ機能不明の遺伝子については、大腸菌(AAC76543.1,46%)、ペスト菌(AAM84433.1,54%)、サルモネラ・エンテリカ(AAO71193.1,46%)、シゲラ・フレクスネリ(AAN45044.2,46%)、バクテロイデス・フラジリス(AAL09840.1,46%)、ヘモフィルス・デュクレイイ(AAF14629.1,63%)などを例として挙げることができた。括弧内の英数字は、それぞれの配列のGenbank登録番号と相同性(Identities%)を示す。これらの遺伝子の機能はいまだ明らかではないが、本発明のQPOアミノ酸配列と高い相同性を有することから、これら遺伝子の遺伝子産物もキノールペルオキシダーゼ活性を有する可能性が高いと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】ユビキノール−1の各種濃度における本発明のQPOの反応速度を示す図である。
【図2】アクチノバシラス・アクチノミセテムコミタンス菌の膜画分がしめす、呼吸鎖基質による見かけ上のペルオキシダーゼ活性を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードするDNA。(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキノールペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項2】
配列番号1に示される塩基配列若しくはその相補的配列又はこれらの配列の一部もしくは全部を含む配列からなるDNA。
【請求項3】
請求項2記載のDNAとストリンジェントの条件下でハイブリダイズし、かつペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項5】
配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキノールペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項6】
請求項4又は5記載のタンパク質と、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグとを結合させた融合タンパク質。
【請求項7】
請求項4又は5記載のタンパク質に特異的に結合する抗体。
【請求項8】
抗体がモノクローナル抗体である事を特徴とする請求項7記載の抗体。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項10】
請求項4又は5記載のタンパク質を発現する事ができる発現系を含んでなる宿主細胞。
【請求項11】
請求項10記載の発現系を含んでなる宿主細胞を培地に培養し、得られる培養物からキノールペルオキシダーゼ活性を有する組換えタンパク質を採取する事を特徴とする組換えタンパク質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−99649(P2008−99649A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309671(P2006−309671)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(506382530)
【出願人】(506382611)
【Fターム(参考)】