キメラヘテロ多量体の生成のための組成物及び方法
【課題】安定な抗原結合ユニット及びそれらのレパートリーを生成して治療的抗原結合ユニットの同定をおこなうための改善された組成物及び方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、ヘテロ多量体を形成するための単量体ポリペプチドの特異的集合に用いられる方法が提供される。この方法は、抗原結合ユニット等のヘテロ多量体の遺伝学的に多様なレパートリーを生成するのに特に有用である。また、本発明によれば、本明細書に記載の方法によりアセンブルされる、非一本鎖抗原結合ユニットと一本鎖抗原結合ユニットの両方も提供される。
【解決手段】本発明によれば、ヘテロ多量体を形成するための単量体ポリペプチドの特異的集合に用いられる方法が提供される。この方法は、抗原結合ユニット等のヘテロ多量体の遺伝学的に多様なレパートリーを生成するのに特に有用である。また、本発明によれば、本明細書に記載の方法によりアセンブルされる、非一本鎖抗原結合ユニットと一本鎖抗原結合ユニットの両方も提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学の分野に属する。具体的には、本発明は、独特のヘテロ二量体化配列を用いた非一本鎖抗原結合ユニット等のキメラヘテロ多量体の生成に関する。また、本発明は、対象のヘテロ二量体化配列により安定化された一本鎖抗原結合ユニットの生成に関する。本発明による組成物及び方法は、主に診断及び/又は治療に使用される可能性のある抗原結合ユニットを同定するのに特に有用である。
【背景技術】
【0002】
抗体又は免疫グロブリンは、特異的同族抗原を認識し且つそれに結合する分子である。それらが排他的特異性を有するため、抗体、特にモノクローナル抗体は、種々のヒトの疾病の診断及び治療に広く使用されてきた。
【0003】
脊椎動物系における塩基性免疫グロブリン(Ig)は、2つの同一の軽(「L」)鎖ポリペプチド(約23kDa)と2つの同一の重(「H」)鎖ポリペプチド(約53〜70kDa)からなる。4つの鎖は、「Y」配置においてジスルフィド結合により連結されている。Yの塩基で、2つのH鎖は、共有ジスルフィド結合されている。L鎖とH鎖は、一連のドメインで組織化されている。L鎖は、C領域に相当する2つのドメイン(「CL」)を有し、他はV領域(「VL」)に相当する。H鎖は、4つのドメインを有し、一つがV領域(「VH」)に相当し、3つのドメイン(CH1、CH2及びCH3)はC領域にある。抗体は、2つのアーム(各アームはFabフラグメントである)を含む。各アームは、互いに関連したVL領域とVH領域を有する。このV領域対(VL及びVH)は、一つの抗体ごとに異なり(アミノ酸配列の変化により)、且つ一緒に抗原の認識及び抗原結合部位の付与に関与している。より詳細には、各V領域は、4つのフレームワーク領域(FR)により分離されている3つの相補性決定領域(CDR)から構成されている。CDRは、可変領域の最も変えられる部分であり、決定的な抗原結合機能を果たす。CDR領域は、組み換え、突然変異及び選択を含む複雑なプロセスを介して数多くの可能性のある生殖細胞系配列に由来している。
【0004】
最近の研究により、結合抗原の機能が、全抗体のフラグメントにより果たされることができることが、明らかとなった。典型的な抗原結合フラグメントは、(i)VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン及びCH1ドメインからなるFabフラグメント;(ii)VHドメインとCH1ドメインとからなるFdフラグメント;(iii)VHドメインからなるdAbフラグメント(非特許文献1);(iv)分離されたCDR領域;及び(v)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメントであるF(ab’)2フラグメント;及び(vi)抗体の単一アームのVLドメイン及びVHドメインからなるFvフラグメントである。Fvフラグメントは、抗原の高アフィニティー結合に必要とされる最小の機能性ユニットである。
【0005】
抗体の分野における一つの主要な挑戦は、ヒト免疫系における免疫グロブリンプールを再現する、免疫グロブリンの非常に多種多様なレパートリーを再構成することであった。このようなレパートリーは、一般的に108〜1013個の範囲の別個の免疫グロブリンの複雑性を有する。このようなレパートリーが生成すると、治療標的と特異的に相互作用できる免疫グロブリンの同定及び産生が非常に容易になる。しかしながら、このようなレパートリーの設計及び産生は、従来では最小機能性ユニット、すなわち、Fvフラグメントのアセンブリのための安定化手段を欠いているために妨害されていた。当該技術分野においては、VH領域及びVL領域は単独で発現されると、極めて低い相互作用エネルギーを示すことは、周知な問題である(非特許文献2)。2つの成分は、低タンパク質濃度で解離し、生理学的体温では数多くの用途で非常に不安定である。また、全抗体等の大タンパク質は(極めて安定であるにもかかわらず)、宿主細胞では明らかなレベルでは発現しないので、非常に種々の抗体レパートリーを構成するのが極めて困難となることも、長年にわたって認識されている技術的な障害である。
【0006】
より最近では、安定なVLとVHの複合体を生成するのに、3つの方法が開発された。しかしながら、これらの方法の各々は、多数の固有の限界があり、これらの方法のどれもが、上記した技術的な障害を完全に回避していない。第一の方法では、ペプチドリンカーを使用してVLとVHを一本鎖(「scFv」)として接続している(非特許文献3)。得られたscFvは実質的な抗原結合活性を示すが、全ての抗体が一本鎖として製造できるわけではなく、まだ高い結合親和性を保持している(非特許文献3、非特許文献4)。部分的に、このことは、抗原結合部位によるリンカー配列の妨害によるものである。第二の方法では、VL領域とVH領域における1対のシステイン残基を挿入してジスルフィド結合安定化Fv(「dsFv」)を生成することが含まれる(非特許文献5)。しかしながら、組み込まれたジスルフィド結合は、数多くの宿主細胞における還元条件下では不安定である。例えば、大腸菌(E.Coli)のサイトゾルでは、分子間ジスルフィド結合は、しばしばVLとVHの複合体を安定化するのには不十分である。さらに、この方法では、典型的には結合活性を破壊することなくシステイン対を適切な場所に確実に挿入するために、V領域の3次元構造情報が必要である。大部分の既存の抗体の3次元情報は知られていないので、この方法はほとんど実用性がなく、特に抗体ライブラリーの構築、とりわけB細胞由来の抗体レパートリーを構成するのには適していない。VL領域及びVH領域を安定化するための第三の方法では、CH1ドメイン及びCLドメインに由来するジスルフィド結合を利用する。この方法は続けて、CH1ドメインとCLドメインを連結するジスルフィド結合をVL領域及びVH領域のC末端にグラフトしてFabフラグメントを再構成する。得られたFabフラグメントは、一般的により安定であり、しばしばscFvよりも大きな結合親和性を示すが、Fabは、その大きなサイズのために、高レベル発現及び抗体レパートリー構築には最適ではない。
【0007】
コイルドコイル構造を形成する一定の二量体化配列も、多価抗体を構築するために用いられてきた。具体的には、特許文献1は、Fos及びJunロイシンジッパーにより連結された二重特異性F(ab’)2ヘテロ二量体を記載している。Fos及びJunロイシンジッパーは、優先的にヘテロ二量体を形成することが知られている十分に特徴付けられた配列である。しかしながら、Fos及びJunロイシンジッパーは、まだ生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を形成する顕著な傾向を示す(非特許文献6、非特許文献7)。実際に、Jun/Junホモ二量体は、非常に安定であるので、生体外でFos/Junヘテロ二量体の形成には、まず加熱によるか、又は2−メルカプトエタニルアミンで還元することによりJun/Junホモ二量体を解離させる必要がある(特許文献2第7欄第35〜37行目、特許文献1第16欄第15〜30行目参照)。生体内で試験すると、Fos及びJunの両方が、検出可能な量のホモ二量体を生成する(例えば、特許文献1第15欄第41〜43行目;及び非特許文献7参照)。ホモ二量体化の傾向が多少あることは、単一の抗体種の生成にとっては実質的に重要ではないが、このような傾向は、VL領域とVH領域との間の効率の高いヘテロ二量体化が必要である抗体レパートリーの構築には問題である。
【0008】
Houston等による特許文献3では、Fos及びJunロイシンジッパーの他に、コイルドコイル二量体化ペプチドの組み合わせライブラリーの構築が記載されている。Houston等は、このライブラリーは、抗体等の選択された高分子リガンドと特異的に相互作用できるポリペプチドを同定するのに有用であることを提案している(第8頁と第9頁にかけての最終パラグラフを参照)。明らかに、特許文献3は、標的抗体の構築及び選択よりむしろ、標的抗体に結合する「抗原ペプチド」の選択に関する。特許文献3は、全くことなる目的に焦点をあてており、コイルドコイル配列を使用して安定な抗原結合ユニットを生成することを記載又は示唆さえもしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,932,448号
【特許文献2】米国特許第5,910,573号
【特許文献3】米国特許第5,824,483号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ward,E.S.等、Nature 341,544−546(1989)
【非特許文献2】Glockshuber等(1990)Biochemistry 29(6):1362−1367
【非特許文献3】Huston等(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A85:5879−5883
【非特許文献4】Stemmer等(1993)Biotechniques14(2):256−265
【非特許文献5】Brinkmann等(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90(16):7538−7542
【非特許文献6】O’Shea等(1992)Cell68:699−708
【非特許文献7】Vidal等(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、安定な抗原結合ユニット及びそれらのレパートリーを生成して治療的抗原結合ユニットの同定をおこなうための改善された組成物及び方法について、かなりの必要性がある。理想的な抗原結合ユニットは、Fvフラグメントよりも安定であるが、Fabフラグメントよりも小さくて大規模製造及び効率的なディスプレイを可能にするものが好ましい。また、このような抗原結合ユニットは、多価抗体及び/又は多重特異性抗体を構築するためのビルディングブロックとしての役割も果たす。本発明は、これらの必要性を満足し、関連した利点も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の主要な態様は、安定なヘテロ多量体を形成するための単量体ポリペプチドの特異的集合の方法の設計にある。このヘテロ多量体産生法により、機能性ヘテロ多量体を高生産性で産生することが容易であり、望ましくないホモ二量体の集合が回避される。この方法は、特に抗原結合ユニット等のヘテロ多量体の遺伝学的に多種多様なレパートリーを生成するのに有用である。この方法は、所望の結合特異性を有する抗原結合ユニットの選択を容易にする種々の「遺伝パッケージディスプレイ」技術に容易に適合できる。このような遺伝パッケージディスプレイ技術の詳細は、米国特許第6248516号、第5969108号、第5885793号、第5837500号、第5571698号、第5223409号、第5514548号、PCT国際出願公開第WO9005144号、EP0368684、PCT国際出願公開第WO09201047号、同第WO09311236号及び同第WO09708320号に記載されている。
【0013】
対象とする抗原結合ユニットが、ヘテロ二量体化配列の異なる対による親和性により、集合させられ、且つ安定化される。これらの配列は、ヘテロ二量体化対の少なくとも一つのメンバーが、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない点で異なる。ある実施態様では、安定化抗原結合ユニットは、Fabフラグメントよりも小さい分子サイズを有するだけでなく、必要とする結合特異性及び親和性を示す。さらに、本発明のある種の非一本鎖抗原結合ユニットは、対応する慣用の一本鎖抗体(scFv)よりも結合親和性が大きい。抗原結合ユニットは、抗体ライブラリーの構築及び表示に特に適している。対象の抗原結合ユニットの一定の配置は、多価及び多重特異的免疫グロブリンのための都合のよいビルディングユニットとしての役割を果たす。
【0014】
すなわち、本発明によれば、以下の:(a)第一ヘテロ二量体化配列に融合した軽(L)鎖可変領域を含んでいる軽(L)鎖ポリペプチド;(b)第二ヘテロ二量体化配列に融合した重(H)鎖可変領域を含んでいる重(H)鎖ポリペプチド;を含み、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し;且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、非一本鎖抗原結合ユニットが提供される。好ましくは、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、生理学的緩衝条件下及び生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない。
【0015】
本発明の別の態様によれば、以下の:(a)第一ヘテロ二量体化配列に融合した軽(L)鎖可変領域を含んでいる軽(L)鎖ポリペプチド;(b)第二ヘテロ二量体化配列に融合した重(H)鎖可変領域を含んでいる重(H)鎖ポリペプチド;を含み、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、ヘテロ二量体性受容体由来の前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化する、非一本鎖抗原結合ユニットが提供される。一の態様によれば、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列が、前記受容体のヘテロ二量体化を仲介するヘテロ二量体化受容体配列を含む。さらに別の態様によれば、対象とするヘテロ二量体化配列は、コイルドコイル二量体を形成する。さらに別の態様によれば、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、前記2つのヘテロ二量体化配列の非共有結合性の対による親和性を介して二量体化する。好ましくは、前記L鎖又はH鎖ポリペプチドが、前記可変領域及び前記ヘテロ二量体化配列により両側を挟まれているフレクソンをさらに含んでいる。Lポリペプチド配列とHポリペプチド配列の両方が、ヒトL鎖及びヒトH鎖由来のものでよい。ヘテロ二量体性抗原結合ユニットをさらに安定化するために、システイン残基を導入して、第一ヘテロ二量体化配列と第二ヘテロ二量体化配列との間のジスルフィド結合を形成することができる。非一本鎖抗原結合ユニットは、一価でも、多価でもよい。これらは、単一特異的でも、多重特異的でもよい。好ましい多重特異性Abusは、二重特異性分子、三重特異性分子及び四重特異性分子である。
【0016】
本発明の別の実施態様によれば、軽(L)鎖可変領域と重(H)鎖可変領域とを含み、前記軽(L)鎖可変領域と前記重(H)鎖可変領域が、前記領域の一方のC末端と前記他の領域のN末端の間の距離をまたがった第一ヘテロ二量体化配列と第二ヘテロ二量体化配列により接続されており、前記2つの領域が、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成し;且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、一本鎖抗原結合ユニットが提供される。好ましくは、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、生理学的緩衝条件下及び生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない。
【0017】
本発明の別の態様によれば、一本鎖抗原結合ユニットであって、VL領域及びVH領域が、ヘテロ二量体性受容体に由来する前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成する、一本鎖抗原結合ユニットが提供される。一の態様によれば、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列が、前記受容体のヘテロ二量体化を仲介するヘテロ二量体化受容体配列を含む。
【0018】
さらに別の態様によれば、第一ヘテロ二量体化配列及び第二ヘテロ二量体化配列が、コイルドコイル二量体を形成する。別の態様によれば、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、非共有結合性の対による親和性を介して二量体化している。VL領域とVH領域の両方が、それぞれヒトL鎖及びヒトH鎖における対応の配列に由来するものでよい。
【0019】
非一本鎖抗原結合ユニットと一本鎖抗原結合ユニットの両方は、化学的機能性部分に結合できる。典型的な機能性部分には、シグナルペプチド、免疫学的反応性を高める物質、固体支持体へのカップリングを容易にする物質、ワクチンキャリア、生物反応修飾物質、トキシン、検出可能な標識、常磁性標識及び薬物などが含まれるが、これらには限定されない。
【0020】
対象とする抗原結合ユニットに含まれている好ましいヘテロ二量体化配列は、それぞれGABAB受容体1及びGABAB受容体2のC末端配列に由来するものである。より好ましくは、第一ヘテロ二量体化配列は、システイン残基に連結されており、前記第一ヘテロ二量体化配列が、配列番号2に示されているものに匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチドを含み;且つ前記第二ヘテロ二量体化配列が、システイン残基に連結されており、前記第二ヘテロ二量体化が、配列番号4に示されているものに匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体2ポリペプチドを含む。別法として、前記第一ヘテロ二量体化配列が、システイン残基に連結されており、前記第一ヘテロ二量体化配列が、配列番号4に示されているものに匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体2ポリペプチドを含み;且つ前記第二ヘテロ二量体化配列が、システイン残基に連結されており、前記第二ヘテロ二量体化配列が、配列番号2に示されているものに匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチドを含む。
【0021】
本発明は、非一本鎖抗原結合ユニットのLポリペプチド及び/又はHポリペプチドをコードしているコード配列を含む組み換えポリヌクレオチドを提供する。また、本発明は、一本鎖抗原結合ユニットのVL領域又はVH領域をコードするコード配列を含む組み換えポリヌクレオチドも提供する。また、本明細書に記載の組み換えポリヌクレオチドのいずれか一つを含むベクターも、提供される。ベクターは、発現ベクター、例えば、ファージディスプレイベクターであることができる。さらに、本発明によれば、1以上の対象ベクターを含む、抗原結合ユニットのレパートリーをコードしている発現ベクターの選択可能なライブラリーが提供される。好ましくは、前記選択可能なライブラリーは、複数のファージディスプレイベクターを含む。
【0022】
また、本発明によれば、対象の組み換えポリヌクレオチドを含む宿主細胞も提供される。前記L鎖ポリペプチドをコードする前記組み換えポリヌクレオチド及び前記H鎖ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドが、単一のベクターに存在しても、別個のベクターに存在してもよい。宿主細胞は、真核細胞であっても、原核細胞であってもよい。
【0023】
本発明のさらに別の態様によれば、非一本鎖抗原結合ユニットの製造方法が提供される。この方法は、以下のステップ:(a)第一ヘテロ二量体化配列に融合して軽(L)鎖可変領域を含んでいる、軽(L)鎖ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチドと、第二ヘテロ二量体化配列に融合して重(H)鎖可変領域を含んでいる、重(H)鎖ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチドとを、宿主細胞で発現するステップであって、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記ステップと;そして、場合により(b)前記宿主細胞において発現された抗原結合ユニットを分離するステップを含む。
【0024】
また、産生した抗原結合ユニットは、ヘテロ二量体性受容体由来であるヘテロ二量体化配列を含んでいてもよい。さらに、ステップ(a)で発現される非一本鎖抗原結合ユニットは、宿主細胞の表面上にディスプレイされることができる。好ましくは、ステップ(a)で発現される非一本鎖抗原結合ユニットは、ファージ粒子上に表示される。
【0025】
本発明のさらに別の実施態様によれば、非一本鎖抗原結合ユニットの製造方法が提供される。この方法には、以下のステップ:(a)第一ヘテロ二量体化配列に融合して軽(L)鎖可変領域を含んでいる、軽(L)鎖ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチドと、第二ヘテロ二量体化配列に融合して重(H)鎖可変領域を含んでいる、重(H)鎖ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチドとを調製するステップであって、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記ステップと;そして、(b)前記第一ポリペプチド及び前記第二ポリペプチドを、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化させるステップ、を含む。二量体化のステップは、生体外でおこなってもよいし、生体内でおこなってもよい。
【0026】
また、本発明は、一本鎖抗原結合ユニットの製造方法を含む。この方法は、以下のステップ:(a)対象の一本鎖抗原結合ユニットをコードしているコード配列を含むポリヌクレオチドを宿主細胞において発現するステップ;そして、場合により(b)前記宿主細胞において発現された前記一本鎖抗原結合ユニットを分離するステップを含む。
【0027】
さらに、本発明は、宿主細胞の表面上に少なくとも2つのポリペプチドを含むキメラヘテロ多量体をディスプレイする方法を含む。この方法は、以下のステップ:前記宿主細胞において、(i)第一ヘテロ二量体化配列及び表面提示配列に融合した第一ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチドと;そして、(ii)第二ヘテロ二量体化配列に融合した第二ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチド、を発現させるステップであって、前記第一ポリペプチドと前記第二ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を形成できない、前記ステップを含む。一つの側面によれば、前記第一ポリヌクレオチド及び前記第二ポリヌクレオチドが、単一のファージディスプレイベクターにより発現される。別の態様によれば、前記第一ポリヌクレオチド及び前記第二ポリヌクレオチドが、別々のファージディスプレイベクターにより発現される。キメラヘテロ多量体は、好ましくは本発明の非一本鎖抗原結合ユニットである。
【0028】
また、本発明には、所望の抗原と免疫反応性である非一本鎖抗原結合ユニットを同定する方法が含まれる。この方法は、以下のステップ:(a)抗原結合ユニットの遺伝学的に種々のレパートリーを調製するステップであって、前記レパートリーが対象の1以上の抗原結合ユニットを含む、前記ステップと;(b)前記抗原結合ユニットのレパートリーを前記所望の抗原と接触させるステップと;そして、(c)抗原結合ユニットと前記抗原との間の特異的結合を検出することにより、前記所望の抗原と免疫反応性である前記抗原結合ユニットを同定するステップを含む。この実施態様の一つの側面によれば、抗原結合ユニットのレパートリーは、複数の抗原結合ユニットをコードしているベクターのライブラリーを発現させることにより調製される。好ましくは、ベクターのライブラリーは、複数のファージベクターを含む。
【0029】
最後に、本発明によれば、本発明のベクターを好適なパッケージに入れて含むキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】種々の抗原結合ユニットを示す概略図である。
【図2】対象Abusを構築するのに使用したGABAB受容体1及びGABAB受容体2のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す;コイルドコイル配列は、ヒトGABAB−R1受容体及びGABAB−R2受容体由来のものである;GABAB受容体1からのコードアミノ酸配列は、図2の上のパネルに示すように、EEKSから始まり、QLQSで終わる;GABAB受容体2からのコードアミノ酸配列は、図2の下のパネルに示すように、TSRLから始まり、QLQDで終わる;フレキシブルSerArgGlyGlyGlyGlyスペーサーを、R1とR2のヘテロ二量体化配列のアミノ末端に付加して機能的Fvヘテロ二量体が形成するようにした;このヘテロ二量体をさらに安定化させるために、本発明者等は、ValGlyGlyCysスペーサーを導入して、ヘテロ二量体性コイルドコイル対をシステイン残基の間のジスルフィド結合を介してロックした(配列番号2及び配列番号4);GGGGスペーサーのN末端でのSerArgコード配列により、GR1(GABAB1受容体由来のヘテロ二量体化配列)ドメイン及び GR2(GABAB2由来のヘテロ二量体化配列)ドメインのそれぞれVHフラグメント及びVLフラグメントのカルボキシル末端への融合のためのXbaI部位又はXhoI部位が得られる。
【図3A】2つの発現ベクターpABMX1及びpABMX2の概略図である;pABMX1とpABMX2の両方は、抗生物質選択用アンピシリン耐性遺伝子(Amp)、複製のプラスミドオリジン(colE1 ori)、複製のf1ファージオリジン(f1 ori)及びlacプロモーター/lacO1推進タンパク質発現カセット(pABMX1について、plac−RBS−p8リーダー−DHタグ、pABMX2について、plac−RBS−pelB リーダー−DHタグ)を含むpbluescript SK(+)由来のものであった;異種配列を、DH−タグ(HA及び6xHis tag)融合タンパク質として発現させ、シグナルペプチド(p8リーダー又はpelBリーダー)により、リーダー配列が切断されるペリプラスミドスペースに方向づける。
【図3B】pABMX1及びpABMX2のAgeI部位とBglII部位との間のlacプロモーターの後の配列(配列番号5〜8)を示す;HindIII/XbaI部位又はHindIII/NotI部位又はXbaI/NotI部位を使用して、pABMX1ベクターで発現される異種配列を挿入することができる;pABMX2ベクターに含まれるさらなるクローニング部位は、NcoI、PstI、XbaI及びNotIである。
【図4A】抗原結合ユニットをディスプレイするのに有用であるファージミドベクターpABMD1及びpABMD2の概略図であ る;pABMD1及びpABMD2は、それぞれpABMX1及びpABMX2に由来するものであった;これらは、pABMX1ベクター及びpABMX2ベクターの機能的要素の全て並びに繊維状ファージのpIII遺伝子を含む;pIII遺伝子を、DH−タグの3’端にすぐに隣接している位置に挿入し た;lacプロモーターは、pIIIキャプシド融合タンパク質としての異種配列の発現を推進し、次にKO7(Amersham Pharmacia Biotech社)又はR408ヘルパーファージ(Stratagene社)等のヘルパーファージの重複感染によりファージ粒子上にディスプレイする;また、このベクターを非サプレッサー細菌の菌株における可溶性タンパク質の発現に使用できる。
【図4B】pABMD1及びpABMD2のAgeI部位とSalI部位との間のlacプロモーターの後の配列(配列番号9〜12)を示す。
【図5A】ベクターpABMX5及びベクターpABMX6の概略図である;pABMX5及びpABMX6は、それぞれpABMX1及びpABMX2に由来するものであった;異なるリーダー配列を、pABMX5及びpABMX6に組み込んだ;異種配列の挿入用サブクローニング部位(例えば、VH遺伝子)も、これらの2つのベクターにおいて異なる;pABMX5は、p8リーダーを含み、pABMX6は、pelBリーダーを含む;lacプロモーターを用いる2つのタンパク質発現カセットを、これらの2つのベクターに組み込んだ;第一のカセットを使用してVH−GR1(GABAB受容体1のVH−ヘテロ二量体化配列)を発現し、第二のカセットを使用してVL−GR2(GABAB受容体2のVL−ヘテロ二量体化配列)を発現する;DH−タグをGR2ドメインに融合して、得られたヘテロ二量体の精製を容易にした。
【図5B】pABMX5ベクター及びpABMX6ベクターにおけるリーダー配列とDH−タグとの間の配列(配列番号13〜16)を示す;さらに、リボソーム結合部位、DH−タグ、VH、VL、GR1及びGR2の挿入のためのサブクローニング部位も示す。
【図6A】ファージ粒子上にccFvを発現及びディスプレイするのに有用であるファージミドベクター、pABMD5及びpABMD6の概略図である;pABMD5及びpABMD6は、それぞれpABMX5及びpABMX6に由来するものであった。繊維状ファージに由来するpIII遺伝子を、DH− タグのすぐ後に挿入した;VL−GR2タンパク質を、pIIIキャプシドタンパク質に連結してccFvヘテロ二量体のディスプレイを容易にした。
【図6B】pABMD5ベクター及びpABMD6ベクターについての、リーダー配列とpIIIとの間の配列(配列番号17〜20)を示す;さらに、リボソーム結合部位、DH−タグ、部分的pIII、VH、VL、GR1及びGR2の挿入のためのサブクローニング部位も示す。
【図7】酵母においてccFvフラグメントを発現するのに有用なベクターpAMEX7を示す。
【図8】pABMX1ベクターにより発現されたAM2−scFvフラグメントを用いたELISAアッセイの結果を示す;これらの結果は、用量依存的なAM2−scFvのその抗原AM2への結合を示す。
【図9】ファージ粒子上にディスプレイされたAM2−scFvフラグメントを用いたELISAアッセイの結果を示す;これらの結果は、ファージミドベクターpABMD1を用いてファージ粒子上に機能的scFvフラグメントが集合したことを示す。
【図10A】還元条件下及び非還元条件下で大腸菌(E.coli)中で発現されたAM1−ccFvのSDS−PAGE解析の結果を示す;得られた結果は、大腸菌(E.coli)中でヘテロ二量体性ccFvがうまく発現し且つ集合したことを示す。
【図10B】大腸菌(E.coli)中で発現された可溶性AM1−ccFvを用いたELISAアッセイの結果を示す;これらの結果は、対応の抗原に対する予想される結合特異性を有する機能性ccFvがうまく集合したことを示す。
【図11A】AM1−ccFv発現ファージの抗原結合能とAM1−scFv発現ファージの抗原結合能の比較を示す;得られた結果は、AM1−ccFvフラグメ ントを表示するファージ粒子は、慣用のscFvフラグメントをディスプレイするファージよりも、結合能がわずかに高いことを示す。
【図11B】AM2−ccFv発現ファージの抗原結合能とAM2−scFv発現ファージの抗原結合能の比較を示す;得られた結果は、AM2−ccFvフラグメントを ディスプレイするファージ粒子の結合能は、AM2−scFv発現ファージの結合能よりもほぼ一桁大きいことを示す。
【図12】各々が一つ以上の塩基性ccFvユニットを含む3つの多価Abu配置を示す。
【図13】各々が塩基性ccFvユニットとscFvフラグメント又はdsFvフラグメントとを含む、4つの2価Abu配置を示す。
【図14】各々が一つ以上の塩基性ccFvユニットと、一つ以上のscFvフラグメント又はdsFvフラグメントとを含む、3つの3価Abu配置を示す。
【図15】各々が別個の結合特異性を有する一つ以上の塩基性ccFvユニット及び/又はscFvフラグメント又はdsFvフラグメントを含む、4つの二重特異性Abu配置を示す。
【図16】3つのさらなる二重特異性Abu配置を示す。
【図17】各々が少なくとも一つの塩基性ccFvユニットと、少なくとも一つのscFvフラグメント又はdsFvフラグメントとを含む、3つの三重特異性Abu配置を示す。
【図18】ヘテロ二量体化配列を平行配置又は逆平行配置に配置した、2つの典型的な単一Abusを示す。
【図19】原核細胞又は真核細胞の表面上にディスプレイされるccFvの概略図である;一番上のパネルは、宿主細胞の表面に付着したファージ粒子によりディスプレイされたccFvを示す。
【図20】「モデルライブラリー」のパンニングからのAM2についての固定化タンパク質抗原を含むELISAを用いた「モデルファージライブラリー」のパンニングの結果を示す;「モデルライブラリー」は、AM2−ccFvファージと、関連のないファージであるAM1−ccFvとのそれぞれ1:106及び1:107の比の混合物を含有していた;AM2−ccFv反応性のみを検出したので、ELISAの読み取り値は、混合物におけるAM2−ccFvの集団を表す;第一ラウンドのパンニングの後、ELISAシグナルは検出されなかった;このことは、混合物に存在するAM2−ccFv画分がまだ低いことを示している;しかしながら、2ラウンドのパンニング後、測定されたAM2−ccFv画分が、ELISAシグナルが劇的に増加したことから明らかなように優勢になった。
【図21】図12に示すモデルライブラリーのパンニングを用いたAM2−ccFvの濃縮をPCR解析により確認した結果を示す;パンニングの前に、一つのAM2−ccFvファージが、107個の関係のないファージごとに検出された(0.00001%);第一ラウンドのパンニング後、AM2−ccFvの発生は4.4%に達し、そして第二ラウンドのパンニング後には100%に達した。
【図22】AM2−ccFvのVH(重鎖)のCDR3の設計を示す;変性DNAオリゴを、2つのサブクローニング制限部位に隣接した2つのPCRプライマーにより増幅した;オリゴを、まずPCRで増幅し、続いてサブクローニングしてAM2-ccFvのVHの野生型CDR3を置き換える前に制限消化した。
【図23】第5(上パネル)パンニング及び第7(下パネル)パンニングからランダムに選んだ個々のクローンからのAM2−ccFvファージELISAの結果を示す;各バーは、特定のAM2−ccFv変異体のOD405での読み取り値を示す。
【図24】AM2−ccFvCDR3VHライブラリーパンニングから選択された変異体の配列を示す;一番上には、ライブラリーのアミノ酸配列(但し、Xは図22に 示した変性DNAオリゴ由来の残基の複数の選択可能物を示す)が示されている;その下には、パンニングからの各「X」位置において選択された残基及びヒットレート(特定の残基の発生率)が示されている;ライブラリー設計により変更されなかった位置を、ブランクで示す;パンニング由来のコンセンサスを、一番下に示す。
【図25】AM2−ccFv変異体と野生型AM2−ccFvのKoff速度の比較を示す;曲線の勾配は、試験抗体が抗原から解離する速度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書で使用される略語の説明
1.Nsc:非一本鎖
2.Sc:一本鎖
3.Abu:抗原結合ユニット
4.Abus:抗原結合ユニット(複数)
4.L鎖:軽鎖
5.H鎖:重鎖
6.VL:軽鎖可変領域
7.VH:重鎖可変領域
【0032】
この開示全体を通じて、種々の刊行物、特許及び公表された特許明細書が、引用により言及される。これらの刊行物、特許及び公表された特許明細書は、参考文献として本開示中に援用されている。
【0033】
一般的方法:
本発明の実施では、特記のない限りは、当業者には明らかである免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクス及び組み換えDNAの慣用の方法が用いられる。例えば、Matthews,PLANT VIROLOGY、第3版(1991);Sambrook,Fritsch及びManiatis、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL(分子クローニング:実験マニュアル)、第2版(1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(分子生物学の現在のプロトコール)(編者F.M.Ausubel等(1987));METHODS IN ENZYMOLOGY(酵素学の方法)シリーズ(Academic Press社):PCR2:A PRACTICAL APPROACH(実用的手法)(M.J.MacPherson,B.D.Hames及びG.R.Taylor編(1995))、編者Harlow及び Lane(1988)ANTIBODIES,A LABORATORY MANUAL and ANIMAL CELL CULTURE(抗体、実験マニュアル及び動物細胞培養)(編者R.I.Freshney(1987))参照。
【0034】
本明細書及び特許請求の範囲では、用語は、特記のない限りは複数をも含む。例えば、用語「細胞」は、複数の細胞(混合物を含む)をも含む。
【0035】
定義:
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書では、いずれかの長さのアミノ酸のポリマーに言及するのに相互に交換可能に(同じ意味で)使用される。ポリマーは、線状でも、環状でも、分岐状でもよく、修飾アミノ酸を含んでいてもよく、また、非アミノ酸により中断されていてもよい。また、これらの用語は、例えば、硫酸化、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、ヨウ素化、メチル化、酸化、タンパク質分解処理、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、アミノ酸のタンパク質へのトランスファー−RNA媒介付加、例えば、アルギニル化、ユビキチン化、又は標識成分との結合等の他の操作により修飾されたアミノ酸ポリマーを包含する。本明細書で使用される用語「アミノ酸」は、天然及び/又は非天然又は合成のアミノ酸、例えば、グリシン及びD又はL光学異性体の両方、並びにアミノ酸類似体及びペプチド模倣体を意味する。
【0036】
指定されたタンパク質「由来」のポリペプチド又はアミノ酸配列は、ポリペプチドの起源を意味する。好ましくは、ポリペプチドは、配列中にコードされているポリペプチド又はその一部分と基本的に同一であるアミノ酸配列を有する。ここで、上記部分は、少なくとも10〜20アミノ酸、好ましくは少なくとも20〜30アミノ酸、より好ましくは少なくとも30〜50アミノ酸からなるか、又は配列中にコードされているポリペプチドで免疫学的に同定可能なものである。また、この用語には、指定された核酸配列から発現されたポリペプチドも含まれる。
【0037】
「キメラ」タンパク質は、天然で生じる配列とは異なる位置に領域を含む少なくとも一つの融合ポリペプチドを含む。これらの領域は、通常別個のタンパク質に存在し、融合ポリペプチドに一緒に入れられてもよいし;又はこれらは、通常同じタンパク質に存在するが、融合ポリペプチドにおける新しい配置に入れられたものでもよい。キメラタンパク質は、例えば、化学合成によるか、又はペプチド領域が所望の関係においてコードされているポリヌクレオチドを生成及び翻訳することにより生成できる。
【0038】
本明細書で使用される用語「多量体タンパク質」は、互いに関連して1以上の別個のポリペプチド又はタンパク質鎖を含んで、生体外又は生体内で単一の球状タンパク質を形成する、球状タンパク質を意味する。多量体タンパク質は、同じ種類の1以上のポリペプチドから成り、「ホモ多量体」を形成することができる。別法として、多量体タンパク質は、別個の配列の1以上のポリペプチドから構成されて「ヘテロ多量体」を形成してもよい。したがって、「ヘテロ多量体」は、少なくとも第一ポリペプチドと第二ポリペプチドを含む分子であって、第二ポリペプチドが、第一ポリペプチドとは、アミノ酸配列において、少なくとも一つのアミノ酸残基で異なる、分子である。ヘテロ多量体は、第一ポリペプチド及び第二ポリペプチドにより形成された「ヘテロ二量体」を含んでいてもよいし、又は2つを超えるポリペプチドが存在する高度三次構造を形成することができる。ヘテロ多量体のための典型的な構造には、ヘテロ二量体(例えば、Fvフラグメント及びFabフラグメント、二重特異性抗体(diabodies)、GABAB受容体1及び2複合体)、三量体Gタンパク質、ヘテロ四量体(例えば、F(ab’)2フラグメント)及びさらなるオリゴマー構造体などがある。
【0039】
キメラヘテロ多量体の「第一組み換えポリペプチド」は、それぞれ第一ポリペプチド及び第二ポリペプチドに連結した2つの二量体化配列の対による親和性を介して「第二組み換えポリペプチド」と関連しているか、関連していたいずれかのポリペプチドを意味する。好ましくは、第一ポリペプチド及び第二ポリペプチドは、免疫グロブリンの軽鎖又は重鎖由来の配列を含む。より好ましくは、第一ポリペプチド及び第二ポリペプチドは、所望の抗原に対する結合特異性を付与するNsc Abuを形成する。
【0040】
「第一ヘテロ二量体化配列」は、「第二ヘテロ二量体化配列」と関連しているか、又は関連していた いずれかの二量体化配列を意味する。ここで、第二ヘテロ二量体化配列は、アミノ酸配列において、少なくとも一つのアミノ酸残基だけ異なる。「ヘテロ二量体 化対」は、ヘテロ二量体を形成することができる2つのヘテロ二量体化配列を意味する。
【0041】
本明細書で使用される用語「抗体」は、免疫グロブリン分子、及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、抗原と特異的に結合する(「と免疫反応する」)抗原結合部位を含む分子を意味する。構造的には、最も単純な天然の抗体(例えば、IgG)は、ジスルフィド結合により相互接続された、4つのポリペプチド鎖(2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖)を含む。免疫グロブリンは、数種の分子、例えば、IgD、IgG、IgA、IgM及びIgEを含む大きな分子群を表す。用語「免疫グロブリン分子」には、例えば、ハイブリッド抗体又は変更抗体、それらの断片などが含まれる。抗体の抗原結合機能は、天然の抗体のフラグメントにより果たされることができることが判明した。これらのフラグメントは、まとめて「抗原結合ユニット(複数)」(「Abus」)と称される。Abusは、それらの分子構造に基づいて、おおざっぱに「一本鎖」(「Sc」)型及び「非一本鎖」(「Nsc」)型に分けられる。
【0042】
用語「抗体」及び「Abus」には、無脊椎動物及び脊椎動物などの多種多様な種に由来するの免疫グロブリン分子も包含される。抗体又はAbuに適用したときの用語「ヒト」は、ヒト遺伝子又はそのフラグメントにより発現される免疫グロブリン分子を意味する。非ヒト(例えば、齧歯類又は霊長類)抗体に適用したときの用語「ヒト化」は、ハイブリッド免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はそのフラグメント(非ヒト免疫グロブリン由来の最小の配列を含む)を意味する。大部分において、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ又は霊長類等の非ヒト種(ドナー抗体)のCDRから残基により置き換えられた、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基により置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも移入CDR配列又はフレームワーク配列にもみられない残基を含んでいてもよい。抗体性能を改善し且つ最適化するとともに、ヒトの体に導入したときに、免疫原性を最小限とするために、修飾がなされる。一般的に、ヒト化抗体は、少なくとも一つ及び典型的に2つの可変領域の実質的に全てを含む。ここで、CDR領域の全て又は実質的に全てが、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR領域の全て又は実質的に全てが、ヒト免疫グロブリン配列のものである。また、ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含んでいてもよい。
【0043】
「非一本鎖抗原結合ユニット」(「Nsc Abus」)は、軽鎖ポリペプチドと重鎖ポリペプチドとを含むヘテロ多量体である。Nsc Abusとしては、例えば、(i)本明細書で開示されているヘテロ二量体化配列により安定化されたccFvフラグメント(図1);(ii)本明細書で記載されている少なくとも一つのccFvフラグメントを含むいずれか他の一価分子及び多価分子;(iii)VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン及びCH1ドメインからなるFabフラグメント;(iv)VHドメイン及びCH1ドメインからなるFdフラグメント;(v)抗体の単一アームのVLドメイン及びVHドメインからなるFvフラグメント;(vi)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメントであるF(ab’)2フラグメント;(vii)二重特異性抗体(diabody);及び(viii)Little等(2000)Immunology Todayに記載されているいずれか他のNsc Abusがあるが、これらには限定されない。
【0044】
上記したように、NscAbusは、「一価」でも、「多価」でもよい。前者は、一抗原結合ユニットあたり一つの結合部位を有しているのに対して、後者は、同じ又は異なる種類の1以上の抗原に結合することができる複数の結合部位を含んでいる。結合部位の数に応じて、NscAbusは、二価(2つの抗原結合部位を有する)、三価(3つの抗原結合部位を有する)、四価(4つの抗原結合部位を有する)等であることができる。
【0045】
多価NscAbusは、さらにそれらの結合の特異性に基づいて分類できる。「単一特異性」NscAbuは、同じ種類の一つ以上の抗原に結合できる分子である。「多重特異性」NscAbuは、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する分子である。このような分子は、通常2つの別個の抗原にしか結合しない(すなわち、二重特異性Abus)が、三重特異性抗体等のさらなる特異性を有する抗体は、本明細書中で使用するときにこの表現に包含される(例えば、図15〜図17参照)。二重特異性抗原結合ユニットとしては、例えば、一つのアームが腫瘍細胞抗原に指向し、他のアームが細胞障害トリガー分子に指向しているもの、例えば、抗FcγRI/抗CD15、抗p185HER2/FcγRIII(CD16)、抗CD3/抗悪性B細胞(1D10)、抗CD3/抗p185HER2、抗CD3/抗p97、抗CD3/抗腎細胞癌、抗CD3/抗OVCAR−3、抗CD3/L−D1(抗大腸癌)、抗CD3/抗メラニン細胞刺激ホルモン類似体、抗EGF受容体/抗CD3、抗CD3/抗CAMA1、抗CD3/抗CD19、抗CD3/MoV18、抗神経細胞接着分子(NCAM)/抗CD3、抗葉酸結合タンパク質(FBP)/抗CD3、抗パンカルシノーマ(pancarcinoma)関連抗原(AMOC−31)/抗CD3;一つのアームが腫瘍抗原に特異的に結合し、一つのアームがトキシンに結合する二重特異性Abus、例えば、抗サポリン/抗Id−1、抗CD22/抗サポリン、抗CD7/抗サポリン、抗CD38/抗サポリン、抗CEA/抗リシンA鎖、抗インターフェロン−α(IFN−α)/抗ハイブリドーマイディオタイプ、抗CEA/抗ビンカアルカロイド;酵素活性化プロドラッグを転化するためのBsAbs、例えば、抗CD30/抗アルカリホスファターゼ(マイトマイシンホスフェートプロドラッグのマイトマイシンアルコールへの転化を触媒する);線維素溶解薬として使用できる二重特異性Abus、例えば、抗フィブリン/抗組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、抗フィブリン/抗ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA);免疫複合体を細胞表面受容体に対して標的とするための二重特異性抗原結合ユニット、例えば、抗低密度リポタンパク質(LDL)/抗Fc受容体(例えば、FcγRI、FcγRII又はFcγRIII);感染症の治療に使用される二重特異性Abus、例えば、抗CD3/抗単純ヘルペスウイルス(HSV)、抗T細胞受容体:CD3複合体/抗インフルエンザ、抗FcγR/抗HIV;生体外又は生体内における腫瘍検出のための二重特異性Abus、例えば、抗CEA/抗EOTUBE、抗CEA/抗DPTA、抗p185HER2/抗ハプテン;ワクチン補助剤としてのBsAbs(上記したFanger等参照);並びに診断ツールとしての二重特異性Abus、例えば、抗ウサギIgG/抗フェリチン、抗ホースラディシュペルオキシダーゼ(HRP)/抗ホルモン、抗ソマトスタチン/抗物質P、抗HRP/抗FITC、抗CEA/抗ベータ−ガラクトシダーゼ(上記したNolan等参照)などがある。三重特異性抗体としては、例えば、抗CD3/抗CD4/抗CD37、抗CD3/抗CD5/抗CD37及び抗CD3/抗CD8/抗CD37などを含む。
【0046】
「一本鎖抗原結合ユニット」(「Sc Abu」)は、単量体Abuを意味する。Fvフラグメントの2つのドメインは別個の遺伝子によりコードされているが、組み換え法により、Bird等(1988)Science 242:423−426及びHuston等(1988)PNAS 85:5879−5883)に記載されているような単一タンパク質鎖(すなわち、一本鎖Fv(「scFv」)として製造できる合成リンカーを製造できる。他のSc Abusには、対象のヘテロ二量体化配列により安定化された抗原結合分子(例えば、図18参照)、及びVHドメインと分離された相補性決定領域(CDR)からなるdAbフラグメント(Ward等(1989)Nature341:544−546)などがある。連結ペプチドの一例として、一つのV領域のカルボキシル末端と別のV領域のアミノ末端との間の約3.5nmを架橋する(GGGGS)3がある。他のリンカー配列を使用することもでき、さらなる機能、例えば、薬剤又は固体支持体を結合させるための手段を提供できる。好ましい一本鎖抗原結合ユニットは、1対の対象ヘテロ二量体化配列により一緒に連結及び安定化されたVL領域及びVH領域を含む。scFvは、いずれの順序で構築してもよく、例えば、VH−(第一ヘテロ二量体化配列)−(第二ヘテロ二量体化配列)−VL又はVL−(第一ヘテロ二量体化配列)−(第二ヘテロ二量体化配列)−VHの順序でよい。
【0047】
「抗原結合ユニットのレパートリー」は、複数の抗原結合ユニットであって、そのうちの少なくとも2つが別個の結合特異性を示す、抗原結合ユニットを意味する。抗原結合ユニットの遺伝学的に多様なレパートリーは、複数の抗原結合ユニットを意味し、抗原結合ユニットの大部分及びさもなければ抗原結合ユニットの全てが、互いに独特の結合特異性を示す。遺伝学的に多様なレパートリーは、典型的には少なくとも106〜1013、好ましくは107〜109、より好ましくは108〜1010、さらにより好ましくは108〜1011の別個の抗原結合ユニットの複雑性を有する。
【0048】
抗体又はAbuは、ポリペプチド又は他の物質を含む他の標準抗原に結合するよりも大きな親和性又はアビディティで結合する場合には、抗原「に特異的に結合する」か、又は「と免疫反応する」。
【0049】
Abuが宿主細胞の外表面で提示されるときには、Abuは、「宿主細胞の表面上」でディスプレイされる。ディスプレイされたAbuは、宿主細胞の外表面に直接結合してもよいし、ファージ粒子等の宿主細胞結合遺伝子パッケージを介して宿主細胞に間接的に結合してもよい。
【0050】
「表面提示配列」は、異種配列のディスプレイを容易にする配列を意味する。典型的には、表面提示配列は、遺伝子パッケージ、例えば、ファージ又は細菌の外表面に存在する。ファージの好ましい表面提示配列は、M13繊維状ファージのpIIIである。
【0051】
本明細書で使用される用語「抗原」は、抗体により特異的に認識され且つ結合される物質を意味する。抗原としては、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、多糖類及び脂質;それらの一部分及びそれらの組み合わせを含むことができる。
【0052】
本明細書で使用される用語「表面抗原」は、細胞の形質膜成分を意味する。表面抗原は、形質膜を構成する内在性及び表在性膜タンパク質、糖タンパク質、多糖類及び脂質を包含する。「内在性膜タンパク質」は、細胞の形質膜の脂質二分子層にわたって延びている膜貫通型タンパク質である。典型的な内在性膜タンパク質は、一般的に疎水性アミノ酸残基を含む少なくとも一つの「膜スパンニングセグメント」からなる。表在性膜タンパク質は、脂質二分子層の疎水性内部に延びておらず、且つ他の膜タンパク質との非共有結合性相互作用によって膜表面に結合される。
【0053】
細胞タンパク質に適用したときの用語「膜」、「細胞質」、「核」及び「分泌された」は、細胞タンパク質がほとんど、大部分又は優先的に局在化している細胞外及び/又は亜細胞の位置を規定する。
【0054】
「細胞表面受容体」は、それぞれのリガンドに結合できる膜タンパク質の一部分を表す。細胞表面受容体は、細胞形質膜に固定又は挿入された分子である。これらは、形質膜の構造成分としての役割を果たすだけでなく、種々の生物学的機能を支配する調節要素としての役割を果たす、タンパク質、糖タンパク質、多糖類及び脂質の大きな群を構成する。
【0055】
「ヘテロ二量体性受容体」は、リガンドに対して結合親和性を示す二つのタンパク性サブユニットからなる細胞タンパク質を包含する。これらの2つのタンパク性サブユニットは、アミノ酸配列において、少なくとも一つのアミノ酸残基だけ異なる別個の分子である。ヘテロ二量体性受容体として、増殖因子(例えば、ヘレグリン)、神経伝達物質(例えば、γ−アミノ酪酸)及び他の有機又は無機小分子(例えば、ミネラルコルチコイド、グルココルチコイド)に結合するものが挙げられるが、これらには限定されない。好ましいヘテロ二量体性受容体には、核ホルモン受容体である(Belshaw等(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 93(10):4604−4607)、erbB3及びerbB2受容体複合体並びにGタンパク質結合型受容体、例えば、オピオイド(Gomes等(2000)J.Neuroscience 20(22):RC110);Jordan等(1999)Nature 399:697−700)、ムスカリン性、ドーパミン、セロトニン、アデノシン/ドーパミン及びGABAB群の受容体などがあるが、これらには限定されない。
【0056】
「ドメイン」は、タンパク質又はペプチドの他の部分から物理的又は機能的に区別されるタンパク質の一部分を意味する。物理的に定義されるドメインには、極めて疎水性又は親水性であるアミノ酸配列、例えば、膜関連又は細胞質関連の配列なとが含まれる。また、ドメインは、例えば、遺伝子重複から生じる内部相同性により定義することもできる。機能的に定義されるドメインは、別個の生物学的機能(単一又は複数)を有する。例えば、受容体のリガンド結合ドメインは、リガンドに結合するドメインである。抗原結合ドメインは、抗原に結合する抗原結合ユニットの部分又は抗原に結合する抗体を意味する。機能的に定義されるドメインは、近接するアミノ酸配列によりコードされる必要がない。機能的に定義されるドメインは、一つ以上の物理的に定義されるドメインを含んでいてもよい。例えば、受容体は、一般的に細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通型ドメイン及び細胞内エフェクタードメインに分けられる。「膜固定ドメイン」は、膜会合を媒介するタンパク質の部分を意味する。一般的に、膜固定ドメインは、疎水性アミノ酸残基からなる。また、膜固定ドメインは、修飾アミノ酸、例えば、脂肪酸鎖に結合し、次にタンパク質を膜に固定するアミノ酸を含むことができる。
【0057】
「宿主細胞」には、対象ベクターについてレシピエントであることができるか、レシピエントであった個々の細胞又は細胞培養が含まれる。宿主細胞には、単一の宿主細胞の子孫が含まれる。子孫は、最初の親細胞とは、自然、偶然又は意図的な突然変異のために、完全に同一(形態学的に又は総DNAのゲノムにおいて)である必要はない。宿主細胞には、本発明のベクターを生体内トランスフェクションした細胞などが含まれる。
【0058】
「細胞株」又は「細胞培養」は、生体外で成長又は維持される細菌、植物、昆虫又は高等真核細胞を意味する。細胞の子孫は、親細胞に完全に同一(形態学、遺伝子型又は表現型の面で)でなくてもよい。
【0059】
「定義された培地」は、培地の成分が公知であるような培養における細胞の生存及び/又は成長に必要な栄養上及びホルモン上の要求を含む培地を意味する。従来、定義された培地は、成長及び/又は生存のために必要な栄養因子及び成長因子を付加することにより処方されてきた。典型的には、定義された培地により、以下のカテゴリーの一つ以上からの少なくとも一つの成分が供給される:a)全ての必須アミノ酸、及び通常20アミノ酸+システインからなる基本的な組;b)通常グルコース等の炭水化物の形態のエネルギー源;c)低濃度で必要とされるビタミン類及び/又は他の有機化合物;d)遊離脂肪酸;及びe)典型的に極めて低濃度(通常マイクロモル範囲)で必要とされる、無機化合物又は天然元素として定義される微量元素。また、定義された培地には、以下のカテゴリーのいずれかからの一つ以上の成分を必要に応じて補充することができる:a)一種以上の分裂促進剤;b)例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩及びホスフェートとしての塩及び緩衝剤;c)例えば、アデノシン及びチミジン、ヒポキサンチン等のヌクレオシド及び塩基;並びにd)タンパク質及び組織加水分解物。
【0060】
本明細書で使用される用語「単離された」とは、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はそれらのフラグメントが自然状態では通常関連している、成分、細胞等から分離されたことを意味する。当業者には明らかなように、非天然のポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はそれらのフラグメントは、その天然の対応物から区別するのに、「単離」を必要としない。さらに、「濃縮された」、「分離された」又は「希釈された」ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はそれらのフラグメントは、その天然の対応物とは、容積あたりの分子の濃度又は数が、その天然の対応物の「濃縮された」ものよりも大きいか、「分離された」ものよりも小さい点で区別できる。
【0061】
濃縮は、溶液の容積あたり重量等の絶対基準で測定してもよいし、又はソース混合物に存在する第二の干渉する可能性のある物質との関連で測定できる。本発明の実施態様では、濃縮度を増加すればするほど好ましい。したがって、例えば、2倍濃縮が好ましく、10倍濃縮がより好ましく、100倍濃縮がさらに好ましく、1000倍濃縮がさらにもっと好ましい。また、物質を、化学合成又は組み換え発現による等の人工的アセンブリプロセスにより単離された状態で提供することができる。
【0062】
「連 結した」及び「融合した」又は「融合」は、ここでは可換性に使用される。これらの用語は、化学的共役又は組み換え手段を含むどのような手段であろうとも、2つ以上の化学元素又は成分を一緒に連結することを意味する。「フレーム内での融合」とは、2つ以上のオープンリーディングフレーム(OFR)を、最初のOFRの正しいリーディングフレームを維持するように連結して、連続したより長いOFRを形成することを意味する。したがって、得られる組み換え融合タンパク質は、最初のOFRによりコードされているポリペプチドに相当する2つ以上のセグメントを含む単一のタンパク質である(セグメントが自然の状態では通 常そのように連結されていない)。したがって、リーディングフレームは、融合されたセグメント全体を通して連続に形成されるが、セグメントは、以下で記載する、例えば、フレーム内リンカー配列(例えば、「フレクソン」)により、物理的又は空間的に分離できる。
【0063】
ポリペプチドとの関連で、「直鎖状配列」又は「配列」は、配列において互いに隣り合う残基がポリペプチドの一次構造において連続している、アミノ末端からカルボキシル末端方向におけるポリペプチドでのアミノ酸の順序である。「部分配列」は、一方向又は両方向においてさらなる残基を含むことが知られているポリペプチドの一部分の直鎖状配列である。
【0064】
「異種」とは、比較される残りの存在物とは遺伝子型で区別可能な存在物に由来することを意味する。例えば、天然コード配列から取り出され且つ天然配列以外のコード配列に作動可能に連結されているプロモーターは、異種のプロモーターである。ポリヌクレオチド、ポリペプチドに適用される用語「異種」とは、ポリヌクレオチド又はポリペプチドが、比較されている残りの存在物とは遺伝子型として別個の存在物に由来していることを意味する。例えば、異種のポリヌクレオチド又は抗原は、異なる種の起源、異なる細胞型、及び別個の個体の同じ種類の細胞に由来するものでよい。
【0065】
用語「ポリヌクレオチド」、「核酸」、「ヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」は、可換性に使用される。これらは、デオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチド又はそれらの類似体であるいずれかの長さのポリマー型ヌクレオチドを意味する。ポリヌクレオチドは、3次元構造を有していてもよく、且つ公知又は未知の機能を果たすものでよい。以下に、ポリヌクレオチドの例を示すが、これらには限定されない:遺伝子又は遺伝子フラグメントのコード領域又は非コード領域、結合解析から定義される座、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、いずれかの配列の単離DNA、いずれかの配列の単離RNA、核酸プローブ及びプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体等の修飾ヌクレオチドを含んでいてもよい。もし存在する場合には、ヌクレオチド構造に対する修飾を、ポリマーの集合の前又は後に加えることができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分により中断されていてよい。ポリヌクレオチドは、例えば、標識成分との結合により、重合後にさらに修飾してもよい。
【0066】
ポリヌクレオチドに適用される「組み換え」は、ポリヌクレオチドは、クローニングステップ、制限ステップ及び/又はライゲーションステップ、並びに自然の状態でみられるポリヌクレオチドとは別個である構築物を生じる他の手順の種々の組み合わせの産物であることを意味する。
【0067】
用語「遺伝子」又は「遺伝子フラグメント」は、本明細書では可換性に使用される。これらは、転写及び翻訳された後、特定のタンパク質をコードすることができる少なくとも一つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを意味する。遺伝子又は遺伝子フラグメントは、ポリヌクレオチドが全体のコード領域又はそのセグメントをカバーすることができる少なくとも一つのオープンリーディングフレームを含む限り、ゲノム又はcDNAであることができる。
【0068】
「作動可能に連結された」とは、そのように記載された構成要素が、それらの意図する方法で機能することができる関係にある並置を意味する。例えば、プロモーター配列がコード配列の転写を促進する場合には、プロモーター配列は、コード配列に作動可能に連結される。
【0069】
「融合遺伝子」は、互いに連結された少なくとも2つの異種のポリヌクレオチドからなる遺伝子である。
【0070】
遺伝子「データベース」は、生物学的標準物質の集合を表すヌクレオチド及びペプチド配列を含む配列の集合を表す一連の保存データを意味する。
【0071】
本明細書で使用される用語「発現」は、ポリヌクレオチドがmRNAに転写されるプロセス及び/又は転写されたmRNA(「転写物」とも称される)が続いてペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に翻訳されるプロセスを意味する。転写物及びコードされているポリペプチドは、まとめて遺伝子産物と称される。ポリヌクレオチドがゲノムDNA由来である場合には、発現は、真核細胞におけるmRNAのスプライシングを含んでいてよい。
【0072】
本明細書で使用される用語「対象」とは、発現された遺伝子物質を含む生物学的存在物を意味する。生物学的存在物は、好ましくは植物、動物又はバクテリア、ウィルス、菌類及び原生動物を含む微生物である。生体内で得られたか、又は生体外で培養された生物学的存在物の組織、細胞及びそれらの子孫も、含まれる。
【0073】
「ベクター」は、挿入された核酸分子を、宿主細胞中及び/又は間でトランスファーする核酸分子、好ましくは自己複製核酸分子である。この用語は、主として細胞へのDNA又はRNAの挿入について機能するベクター、主としてDNA又はRNAの複製について機能するベクターの複製、及びDNA又はRNAの転写及び/又は翻訳について機能する発現ベクターなどを含む。また、上記機能の複数を提供するベクターも含まれる。
【0074】
「発現ベクター」は、適切な宿主細胞に導入されたときに、ポリペプチド(単一又は複数)に転写及び翻訳されることができるポリヌクレオチドである。「発現系」は、通常所望の発現産物が得られるように機能することができる発現ベクターを含む好適な宿主細胞をも意味する。
【0075】
「レプリコン」は、適切な宿主細胞においてポリヌクレオチドの複製を可能にする複製源(一般的にori配列と称される)を含むポリヌクレオチドを意味する。レプリコンには、例えば、エピソーム(プラスミド等)、並びに染色体(例えば、核又はミトコンドリア染色体)などが含まれる。
【0076】
本発明のキメラヘテロ多量体
上記したように、多量体タンパク質の生物学的機能を確保するには、安定な複合体を形成するためのポリペプチドサブユニットの適切な会合が必要である。したがって、本発明の中心的態様は、選択された単量体ポリペプチドの特異的会合がヘテロ多量体を効率的に産生できる方法の設計にある。実験計画法が、結合の特異性が特定の方法での特異的サブユニットの会合に依存するAbus等のヘテロ多量体の生成及びスクリーニングに特に有用である。以前に報告したキメラAbusとは区別される対象Abusは、以下の独特な特徴の一つ以上を有している。第一に、Abusは2つのヘテロ二量体化配列の対による親和性により再構成される。この際、2つのヘテロ二量体化配列の少なくとも一つ、好ましくは両方が、ホモ二量体を検出可能な程度に形成する傾向を欠いている。生物学的緩衝条件と生物学的体温の両方の下でホモ二量体を形成することが知られているFos及びJunロイシンジッパー等の以前に報告した二量体化配列(O’Shea等(1992)Cell 68:699−708;Vidal等(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A)とは異なり、対象のヘテロ二量体化配列は、規定の緩衝条件下及び/又は規定の体温ではホモ二量体を基本的に形成できない。また、対象のヘテロ二量体化配列は、以下で詳細に述べるように以前に用いられた配列とは構造レベルで区別することができる。
【0077】
本発明の一実施態様によれば、宿主細胞の表面上に表示されるキメラヘテロ多量体が提供される。ここで、ヘテロ多量体は、以下の:(i)第一ヘテロ二量体化配列及び表面提示配列に融合した第一ポリペプチド;(ii)第二ヘテロ二量体化配列に融合した第二ポリペプチドを含み;ここで、前記第一ポリペプチドと前記第二ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し;且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない。
【0078】
本発明の別の実施態様によれば、以下の:(a)第一ヘテロ二量体化配列に連結した軽鎖可変領域を含んでいる軽鎖ポリペプチド;(b)第二ヘテロ二量体化配列に連結した重鎖可変領域を含んでいる重鎖ポリペプチドとを含んでなり、ここで、前記軽鎖ポリペプチドと前記重鎖ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ポリペプチドの少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、NscAbuが提供される。本発明の別の側面によれば、ヘテロ二量体性受容体に由来する第一ヘテロ二量体化配列と第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して、軽鎖ポリペプチドと重鎖ポリペプチドが二量体化するNscAbuが提供される。一の側面によれば、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列が、前記受容体のヘテロ二量体化を仲介するヘテロ二量体化受容体配列を含む。
【0079】
本発明の別の実施態様によれば、軽鎖可変領域と重鎖可変領域とを含み、前記軽鎖可変領域と前記重鎖可変領域が、前記領域の一方のC末端と前記他の領域のN末端の間の距離をまたがった第一ヘテロ二量体化配列と第二ヘテロ二量体化配列により接続されており、ここで、前記2つの領域が、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、ScAbuが提供される。この実施態様の別の側面によれば、本発明により、軽鎖可変領域と重鎖可変領域が、ヘテロ二量体性受容体に由来する2つのヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成する、ScAbuが提供される。一の側面によれば、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列が前記受容体のヘテロ二量体化を仲介するヘテロ二量体化受容体配列を含む。
【0080】
ヘテロ二量体化配列の選択:
いくつかの因子が、上記した特性の一つ以上を有するAbusの設計に適用される。最初に、ヘテロ二量体化配列は、対による親和性を示して安定な複合体を形成しなければならない。「安定な」とは、複合体又は二量体が、複合体又は二量体の形成と、それに続いての検出及び/又は精製との間の期間に存続する程度に十分に長期間存続することを意味する。複合体又は二量体は、どのような条件が存在し、また、形成時と検出時との間に導入されたとしてもそれらに耐えることができなければならない。これらの条件は、おこなわれるアッセイ又は反応と相関している。好ましくは、複合体又は二量体の形成は、生理学的緩衝条件下及びほぼ室温〜ほぼ37℃の範囲の生理学的体温で実施される。場合により存在することができ、且つ複合体又は二量体を除去することができる介在条件には、洗浄、加熱、さらなる溶質又は溶媒の反応混合物(例えば、変性物)への添加、さらなる反応種との競合などがある。安定な複合体又は二量体は、不可逆性であっても、可逆性であってもよいが、この定義の他の要件を満足しなければならない。したがって、過渡的複合体又は二量体が反応混合物中で形成することがあるが、これは、生理学的緩衝条件下で自然に解離するか、新たに課せられた条件又は検出前に導入された操作の結果として解離する場合には、安定な複合体を構成しない。
【0081】
第二に、選択されたヘテロ二量体化配列は、対による親和性を示して、優越的にヘテロ二量体を形成してホモ二量体を実質的に排除しなければならない。好ましくは、優越した形成により、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温で形成されることができる、ヘテロ二量体を少なくとも60%、より好ましくはヘテロ二量体を少なくとも80%、より好ましくはヘテロ二量体を85〜90%、より好ましくはヘテロ二量体を90〜95%、さらにより好ましくはヘテロ二量体を96〜99%含有するヘテロ多量体プールが得られる。本発明のある実施態様によれば、Abuを再構成するのに用いられるヘテロ二量体化配列の少なくとも一つは、生理学的緩衝液及び/又は生理学的体温ではホモ二量体を基本的に形成できない。「基本的に形成できない」とは、単独で試験したときに、選択されたヘテロ二量体化配列が、Kammerer等(1999)Biochemistry 38:13263−13269)に詳細に記載されている生体外沈降実験、又は生体内酵母ツーハイブリッド解析(例えば、White等、Nature(1998)396:679−682参照)においては、検出できる量のホモ二量体を形成しないことを意味する。具体的には、Kammerer等は、沈降実験により、GABABの受容体1及び2のヘテロ二量体化配列は、単独で試験したときに、生理学的条件下及び生理学的体温(例えば、37℃)で、単量体の分子質量で沈降することを明らかにした。等モル量で混合すると、GABABの受容体1及び2のヘテロ二量体化配列は、2つの配列のヘテロ二量体に対応する分子質量で沈降する(Kammerer等の表1参照)。さらに、個々のヘテロ 二量体化配列は、宿主細胞において発現でき、宿主細胞にホモ二量体が存在しないことは、SDS−PAGE、ウェスタンブロット及び免疫沈降を含むがこれらには限定されない種々のタンパク質分析により明らかにすることができる。生体外アッセイは、生理学的緩衝条件下及び/又は好ましくは生理学的体温でおこなわなければならない。一般的に、生理学的緩衝液は、生理学的濃度の塩を含有し、pHを約6.5〜約7.8の中性pH範囲、好ましくは約7.0〜約7.5のpHに調整してある。種々の生理学的緩衝液が、上記したSambrook等(1989)に挙げられており、したがって、ここでは詳細には説明しない。好ましい生理学的条件が、上記したKammerer等に記載されている。
【0082】
ヘテロ二量体化配列の特異的関連には、典型的には非共有結合性相互作用が含まれる。このような相互作用には、共有結合を生じない全ての存在する安定な結合が含まれる。非共有結合性相互作用としては、静電結合、水素結合、ファンデルワールス力、両親媒性ペプチドの立体的嵌合などが含まれるが、これらには限定されない。
【0083】
対象Abuを設計する際にさらに考慮することは、ヘテロ二量体化配列と、得られたヘテロ多量体の抗原結合部位との間の構造的干渉を最小限とすることである。内部構造の干渉を最小限としたキメラヘテロ多量体を設計するには、当該技術分野における種々の方法が使用できる。例えば、一つの方法として、ヘテロ二量体化に必要とされるアミノ酸残基のみを含む最小ヘテロ二量体化配列を使用することがある。第二の方法は、ヘテロ二量体化配列を、得られたヘテロ多量体のN末端又はC末端に連結することである。どちらの末端を選択するかは、ヘテロ多量体の生物学的活性ドメインの位置に依存する。抗原結合部位が軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のN末端側半分にあるキメラAbuを構築するためには、軽鎖又は重鎖のC末端にヘテロ二量体化配列を連結することが好ましい。別の代替設計では、「フレクソン」を、ヘテロ多量体の抗原結合部位とヘテロ二量体化配列との間に組み込んで用いる。本明細書で使用される用語「フレクソン」は、典型的に小側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びセリン)を含むフレキシブルポリペプチドリンカー(又はこのようなポリペプチドをコードしている核酸配列)を意味する。対象Abuの一つ以上の部位の間にフレクソンを組み込むことは、それらが相対的に互いに独立している立体構造をとることにより、機能性を促進すると思われる。このような構成により、一般的に抗原結合ドメインにさらなるフレキシビリティが付与される。好適なフレクソンは、好ましくはアミノ酸を、約4〜約100、より好ましくは約4〜50、さらにより好ましくは約4〜15含む。
【0084】
対象のAbusを構築するのに適用できるヘテロ二量体化配列は、種々のソースから得ることができる。一般的に、安定なヘテロ多量体の形成に関与しているタンパク質配列は、ヘテロ二量体化配列の候補である。そのようなものとして、これらの配列を、ヘテロ多量体タンパク質複合体から得ることができる。代表的な候補配列には、アデノ関連ウイルスのキャプシドタンパク質等のウイルスタンパク質、SH2ドメイン含有タンパク質と相互作用するタンパク質キナーゼリン酸化部位である(Cantely等(1993)Cell 72:767−778;Cantely等(1995)J.Biol.Chem.270(44):26029−26032)、ヘテロマーの形成を仲介する転写因子及びヘテロ二量体性受容体のドメインがある。
【0085】
好ましいヘテロ多量体転写因子には、a−Pal/Max複合体及びHox/Pbx複合体がある。Hoxは、胚形成中に前−後軸のパターンニングに関与する大きな転写因子群を表す。Hoxタンパク質は、保存された3つのアルファらせんホメオドメインを有するDNAと結合する。特異的にDNA配列に結合するためには、Hoxタンパク質には、Pbxホメオドメイン等のヘテロパートナーが存在する必要がある。Wolberger等は、Hox−Pbx複合体の形成がどのようにして生じるか、及びこの複合体がどのようにしてDNAに結合するかを理解するために、HoxB1−Pbx1−DNA三元複合体の2.35A結晶構造を解明した。この構造から、各タンパク質のホメオドメインが、DNAの反対側の隣接する認識配列に結合することが分かる。ヘテロ二量体化は、6アミノ酸ヘキサペプチドN末端とHoxB1のホメオドメインとの間で形成される接点、及びらせん3とらせん1及び2との間で形成されるPbx1におけるポケットを介して生じる。Pbx1ホメオドメインのC末端延長により、らせん1に対して充填するアルファらせんが形成されてより大きな4らせんホメオドメインを形成する(Wolberger等(1999)Cell 96:587−597;Wolberger等 J Mol Biol.291:521−530)。
【0086】
また、おびただしい数のヘテロ二量体性受容体も、同定された。これらには、成長因子(例えば、ヘレグリン)、神経伝達物質(例えば、γ−アミノ酪酸)及び他の有機又は無機小分子(例えば、ミネラルコルチコイド、グルココルチコイド)に結合するものがあるが、これらには限定されない。好ましいヘテロ二量体性受容体には、核ホルモン受容体(Belshaw等(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 93(10):4604−4607)、erbB3及びerbB2受容体複合体並びにGタンパク質結合型受容体、例えば、オピオイド(Gomes等(2000)J.Neuroscience 20(22):RC110);Jordan等(1999)Nature 399:697−700)、ムスカリン性、ドーパミン、セロトニン、アデノシン/ドーパミン及びGABAB群の受容体などがあるが、これらには限定されない。公知のヘテロ二量体性受容体の大部分については、それらのC末端配列は、ヘテロ二量体形成を仲介する。
【0087】
所望により、新規なヘテロ二量体性受容体からの配列を、対象のAbusを構築するのに用いることができる。このような状況では、一定の受容体対における候補のヘテロ二量体化配列の同定は、過度の実験をおこなうことなく、遺伝アッセイ又は生化学アッセイによりおこなうことができる。さらに、コンピュータによるモデリング及びサーチ技術により、関連遺伝子及び非関連遺伝子において現れる共通ドメインの配列ホモロジーに基づくヘテロ二量体化配列の検出が、さらに容易となる。ホモロジーサーチが可能であるプログラムには、Blast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)、 Fasta(ウィスコンシン州MadisonにあるGenetics Computing Groupのパッケージ)、DNA Star、Clustlaw、TOFFEE、COBLATH、Genthreader及びMegAlignがあるが、これらには限定されない。標的受容体 に対応するDNA配列又はそれらのセグメントを含む配列データベースを使用して、配列の解析をおこなうことができる。一般的に用いられるデータベースに は、GenBank、EMBL、DDBJ、PDB、SWISS−PROT、EST、STS、GSS及びHTGSなどがあるが、これらには限定されない。
【0088】
別の好ましい種類のヘテロ二量体化配列は、コイルドコイルらせん構造を採用する両親媒性ペプチドからなる。らせんコイルドコイルは、タンパク質における主要なサブユニットオリゴマー化配列の一つである。一次配列解析から、全てのタンパク質残基の約2〜3%がコイルドコイルを形成することが分かった(Wolf等(1997)Protein Sci.6:1179−1189)。十分に特徴付けされたコイルドコイル含有タンパク質は、細胞骨格ファミリー(例えば、α−ケラチン、ビメンチン)、細胞骨格モーターファミリー(例えば、ミオシン、キネシン及びダイニン)、ウイルス膜タンパク質(例えば、Ebola又はHIVの膜タンパク質)、DNA結合タンパク質及び細胞表面受容体(例えば、GABABの受容体1及び受容体2)のメンバーなどを含む。本発明のコイルドコイルヘテロ二量体化配列は、大ざっぱに2つのグループ、すなわち、左巻きコイルドコイル及び右巻きコイルドコイルに分類できる。左巻きコイルドコイルは、無極性残基が第一(a)位置及び第四(d)位置に優先的に位置する「abcdefg」で示されるヘプタッド反復(heptadrepeat)により特徴付けられる。これらの2つの位置での残基は、典型的には他のスタンドのものとインターロックしてきっちりとした疎水性コアを形成する「ノブズアンドホールズ」のジグザグパターンを構成する。これに対して、コイルドコイルの周辺をカバーする第二(b)位置、第三(c)位置及び第六(f)位置は、好ましくは帯電残基である。帯電アミノ酸としては、例えば、塩基性残基、例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、及び酸性残基、例えば、アスルパテート、グルタメート、アスパラギン及びグルタミンなどがある。ヘテロ二量体性コイルドコイルの設計に好適な非帯電又は無極アミノ酸には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン及びスレオニンなどがあるが、これらには限定されない。非帯電残基は、典型的には疎水性コアを形成するが、たとえコア位置であっても帯電残基を含むらせん間塩架橋及びらせん内塩架橋を用いて、全体的ならせんコイルドコイル構造を安定化させることができる(Burkhard等(2000)J.Biol.Chem.275:11672−11677)。種々の長さのコイルドコイルを用いることができるが、対象のヘテロ二量体化配列は、好ましくは2〜10のヘプタッド反復を含む。より好ましくは、ヘテロ二量体化配列は、3〜8のヘプタッド反復、さらにより好ましくは4〜5のヘプタッド反復を含む。
【0089】
最適なコイルドコイルヘテロ二量体化配列を設計する際に、ペプチドの二 次構造を予測する種々の既存のコンピュータソフトウエアプログラムを使用できる。一例としてのコンピュータ解析では、アミノ酸配列を公知の二本鎖コイルド コイルのデータベースにおける配列と比較するCOILSアルゴリズムを使用し、高い確率でコイルドコイル延伸を予測する(Kammerer等(1999)Biochemistry 38:13263−13269)。
【0090】
ヘテロオリゴマー化に関与する多種多様なコイルドコイルを本発明に用いることができるが、好ましいコイルドコイルは、ヘテロ二量体性受容体由来のものである。したがって、本発明は、GABAB受容体1及びGABAB受容体2に由来するコイルドコイル二量体性配列を含む。一の側面によれば、対象コイルドコイルは、GABAB受容体1及びGABAB受容体2のC末端配列を含む。別の側面では、対象のコイルドコイルが、さらにシステイン残基に連結される。コイルドコイルは、少なくとも30アミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチド及びGABAB受容体2ポリペプチドである。こられのうちの一方が、配列番号2に示されているものに匹敵する長さの線状配列と基本的に同一であり、他方は、配列番号4に示されているものに匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である。
【0091】
ペプチドの線状配列は、両方の配列が実質的にアミノ酸配列ホモロジーを示す場合には、別の線状配列に「基本的に同一」である。一般的に、基本的に同一の配列は、相同領域を整列すると、互いに少なくとも約60%が同一である。好ましくは、配列は、少なくとも約70%が同一であり、より好ましくは少なくとも約80%が同一であり、より好ましくは少なくとも約90%が同一であり、より好ましくは少なくとも約95%が同一であり、さらにより好ましくは100%が同一である。
【0092】
ポリペプチド配列が基本的に同一であるかどうかを決定するには、比較されているポリペプチドの機能性を保存する配列が、特に好ましい。機能性は、異なる基準、例えば、対形成コイルドコイル配列とヘテロ二量体を形成する能力、及び生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を形成できない能力により確定できる。
【0093】
本発明には、本明細書で例示されている配列と機能的に同等である修飾GABABヘテロ二量体化配列が含まれる。得られたAbusに対して改善された安定性を付与する修飾ポリペプチドが、好ましい。修飾ポリペプチドとしては、例えば、アミノ酸残基の保存的置換、及びヘテロ二量体化特異性に顕著な害を及ぼさないアミノ酸の一つ以上の欠失又は付加を受けたものなどがある。置換の範囲は、対による親和性が維持される限り、一つ以上のアミノ酸残基の変更又は修飾から領域の完全な再設計にわたることができる。アミノ酸の置換(存在する場合には)は、ペプチドの折りたたみ又は機能特性に悪影響を及ぼさない保存的置換が好ましい。保存的置換をなすことができる機能的に関連したアミノ酸群には、グリシン/アラニン;バリン/イソロイシン/ロイシン;アスパラギン/グルタミン;アスパラギン酸/グルタミン酸;セリン/スレオニン/メチオニン;リジン/アルギニン;及びフェニルアラニン/チロシン/トリプトファンがある。本発明のポリペプチドは、グリコシル化された形態でも、非グリコシル化形態でもよいし、翻訳後に修飾されてもよいし(例えば、アセチル化及びリン酸化)、又は合成的に修飾してもよい(例えば、標識基の結合)。
【0094】
抗原結合ユニット(Abus)の配置及び修飾:
本発明のAbusは、種々の配置をとることができる。最小の非一本鎖Abuは、1価のccFvフラグメントである。ccFvフラグメントは、それぞれVL領域及びVH領域とフレーム内で融合した第一ヘテロ二量体化配列及び第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化した、VL領域とVH領域とからなる二量体タンパク質である。好ましくは、ccFvは、VL領域及びVH領域にさらなるフレキシビリティを付与する短フレクソン配列を含む(図1に例示したccFv参照)。より複雑なNscAbuは、同種の1以上の抗原に結合できる(すなわち、多価であるが、単一特異性)又は異種の1以上の抗原に結合できる(すなわち、多価であり且つ多重特異性Abus)多価分子である。典型的には、多価Abuは、Lポリペプチド若しくはHポリペプチド又はこれらの両方が一以上のV領域を含んでいる、1以上のL鎖及びH鎖ポリペプチドからなるヘテロ多量体である。例えば、例示的な2価Abusは、図12に示すような(ccFv)2の配置をとる。この例示の2価AbusにおけるH鎖ポリペプチドは、2つのVH領域を含む。これら2つのVH領域の各々は、VL領域と二量体化して2つの抗原結合部位を構成する。あるいは、L鎖ポリペプチドは、2つのVL領域を提供し、これらの2つのVL領域の各々は、VH領域と二量体化して2つの結合部位を再構成してもよい。図12に示すように、多価Abuは、VL領域及びVH領域に連結された2つのヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して安定化される。ヘテロ二量体化配列の少なくとも一つ及び好ましくはこれらの両方が、ホモ二量体を形成することができないので、分子内二量体化して非機能性VH/VH二量体又はVL/VL二量体を形成するのが最小限となることから、Abuは効率的に構築される。この一般的な抗体エンジニアリングスキームを適用して、3価Abus及び4価Abusを構築できる(例えば、図12参照)。
【0095】
多価Abusを構築するための変法では、図13に示したようなscFvフラグメント又はdsFvフラグメントが用いられる。一つの抗原結合部位を提供するビルディングユニットccFvの他に、この配置のAbusは、ccFvに連結した一つ以上のscFvフラグメント又はdsFvフラグメントを含む。連結したscFv又はdsFvにより、追加の結合部位が形成される。例えば、2価Abusは、ccFv−scFv配置又はccFv−dsFv配置をとることができる(図13)。抗原結合部位の一つは、VL領域及びVH領域に連結したヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して構築される(ccFvと同様に)のに対して、他のものは、フレーム内でVL領域と融合したscFvフラグメント又はdsFvフラグメントにより形成される。あるいは、scFvフラグメント又はdsFvフラグメントは、VH領域に連結してもよい。
【0096】
同様な手法を用いて、図14に示すような3価のccFv−scFvAbus又はccFv−dsFvAbusを生成することができる。一の側面によれば、3価のAbusは、ccFv−(scFv)2の配置をとる。ここでは、2つのポリペプチド「VH−第一ヘテロ二量体化配列−scFv」及び「VL−第二ヘテロ二量体化配列−scFv」は、2つのヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化して3つの結合部位を構成する。結合部位の一つは、ccFvビルディングユニットのVL領域及びVH領域からなり、残りの2つは、それぞれVLポリペプチド及びVHポリペプチドに連結したscFvフラグメントにより提供される。あるいは、多価Abusは、ccFv−scFv−dsFvとして構成できる。この配置では、抗原結合部位の一つは、dsFvフラグメントのVH領域及びVL領域内に位置する1対のシステイン残基の間の分子間ジスルフィド結合により構築され且つ安定化される。この配置のさらなる変形例は、3価のccFv−(dsFv)2である。この場合、結合部位のうちの2つは、dsFvフォーマットをとる(例えば、図14参照)。単一特異性であるか多重特異性であるかとは無関係に、塩基性ccFvビルディングユニットを用いたいずれかの他の多価Abus変形例も、本発明に含まれる。
【0097】
したがって、本発明によれば、さらに多重特異性Abusが提供される。これらは、少なくとも2つの別個の抗原に結合することができる多価分子である。好ましい多重特異性Abusは、それぞれ2個及び3個の別個の抗原に対して結合特異性を示す二重特異性分子及び三重特異性分子である。以前に特徴付けられた多重特異的抗体(例えば、米国特許第5,932,448号参照)とは区別される対象の多重特異的Abusは、別個の結合特異性を有する一つ以上のccFvビルディングユニットを含む。また、対象の多重特異的Abusは、上記で詳細に説明した一つ以上のscFvフラグメント又はdsFvフラグメントを組み込むことができる。好ましい二重特異性Abus及び三重特異性Abusは、図15〜17に示す一般的な構造にしたがって配置される。
【0098】
非一本鎖Abusとは別に、本発明では、対象のヘテロ二量体化配列により安定化される一本鎖Abusが含まれる。典型的には、ScAbusは、VL領域とVH領域を含み、これらの領域は、これらの2つの領域に接続したヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成している。ヘテロ二量体化配列は、平行又は逆平行で配置できる(例えば、図18参照)。平行配置では、2つのヘテロ二量体化配列は、これらが同じ配向(アミノ末端〜カルボキシル末端)を有するように整列される。逆平行配置では、一つの配列のアミノ末端が他の配列のカルボキシル末端と整列するように、又はこの逆に、ヘテロ二量体化配列が配列される。一般的には、ヘテロ二量体化配列は、フレクソン配列を介して一緒に連結される。ここで、フレクソンは、典型的に小側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びセリン)を含むフレキシブルポリペプチドリンカー(又はこのようなポリペプチドをコードする核酸配列)である。2つのヘテロ二量体化配列の間にフレクソンを組み込むことにより、一般的にそれらが分子内二量体を形成するための空間的フレキシビリティが提供される。逆平行配置に好適なフレクソンは、好ましくはアミノ酸を、約4〜約100、より好ましくは約4〜50、さらにより好ましくは約4〜15を含む。平行配置のためのフレクソンは、一般的にもっと長く、アミノ酸残基を、好ましくは約10〜約100、より好ましくは約50〜約30を含む。
【0099】
所望により、一つ以上のシステイン残基の対を、ヘテロ二量体化配列のN末端又はC末端に組み込んで本発明のAbusをさらに安定化することができる。
【0100】
本発明のAbusは、L鎖又はH鎖の定常領域由来の配列を含むことができる。定常領域に由来するこのような配列は、一般的に軽鎖又は重鎖可変領域と、連結されるヘテロ二量体化配列の間に配置される。さらに、軽鎖及び重鎖は、ヒト配列を部分的又は全体的に含んでいてもよい。
【0101】
非ヒト抗体をヒト化するための方法は、当該技術分野において周知である。「ヒト化」抗体は、配列の少なくとも一部分が、その最初の形態から変更され、よりヒト免疫グロブリンに類似した抗体である。一つの方法として、H鎖及びL鎖のC領域を、ヒト配列と置き換えることが考えられる。これは、V領域及び異種の免疫グロブリンC領域を含む融合ポリペプチドである。別の方法として、CDR領域が非ヒト抗体配列を含むとともに、Vフレームワーク領域も、転化されたヒト配列とすることが考えられる。例えば、EP0329400を参照のこと。第3の方法として、ヒトV領域及びマウスV領域のコンセンサス配列を設計し、コンセンサス配列の間で異なるCDRの外の残基を転化することにより、V領域がヒト化されることが考えられる。
【0102】
ヒト化抗体の調製では、フレームワーク残基の選択は、高結合親和性を保持するのに極めて重要である。原則として、いずれかのHuAbからのフレームワーク配列は、CDRグラフト化のためのテンプレートとしての役割を果たすことができる。しかしながら、このようなフレームワークへのストレートCDR置き換えにより、抗原への結合親和性の顕著な損失が生じることがあることが明らかとなった(Glaser等(1992)J.Immunol.149:2606;Tempest等(1992)Biotechnology 9:266;及びShalaby等(1992)J.Exp.Med.17:217。 HuAbが最初のmuAbにより相同であるほど、ヒトフレームワークが歪みをマウスCDRに導入して親和性を減少させることが少なくなる。抗体配列データ ベースに対しての配列ホモロジーサーチに基づいて、HuAb IC4により、muM4TS.22に対する良好なフレームワークホモロジーが得られる。但し、他の高度に相同性のHuAbs、とりわけヒトサブグループIIIからのヒトサブグループI又はH鎖からのカッパL鎖も、好適であろう(Kabat等(1987))。ENCAD(Levitt等(1983)J.Mol.Biol.168:595) 等の種々のコンピュータプログラムが、V領域に理想的な配列を予測するのに有効である。したがって、本発明は、異なるV領域を有するHuAbsを含む。当業者には、好適なV領域配列を決定し且つこれらの配列を最適化することは明らかである。免疫原性が減少した抗体を得るための方法が、米国特許第5,270,202号及びEP699,755にも記載されている。
【0103】
抗原及び他の好ましい生物学的特性に対して高い親和性を保持しながら、抗体をヒト化することが重要である。この目標を達成するために、好ましい方法によれば、ヒト化抗体は、親配列及び種々の概念上のヒト化産物を親配列及びヒト化配列の三次元モデルを用いて解析するプロセスにより調製される。三次元免疫グロブリンモデルは、当業者においてよく知られている。選択された免疫グロブリン配列候補の可能性のある三次元立体構造を説明し且つ表示するコンピュータプログラムは、入手できる。これらのディスプレイを調べることにより、免疫グロブリン配列候補の機能における残基の可能性のある役割の分析、すなわち、免疫グロブリン候補がその抗原に結合する能力に影響する残基の分析が可能である。このように、FR残基は、コンセンサス及びインポート配列から選択され、組み合わせられて、所望の抗体特性、例えば、標的抗原(単一又は複数)に対する親和性の増加が達成できるようにできる。
【0104】
また、本発明は、化学的に機能的な部分に結合したAbusを含む。典型的には、この部分は、検出できるシグナルを生成できる標識である。これらの結合Abusは、例えば、全身腫瘍組織量の定量化及び転移性病巣のイメージング及び腫瘍のイメージング等の検出系において有用である。このような標識は、当該技術分野において公知であり、放射性同位元素、酵素、蛍光化合物、化学発光化合物、生物発光化合物基質共同因子及びインヒビターなどを含むが、これらには限定されない。このような標識の使用を教示している特許、例えば、米国特許第3,817,837号、第3,850,752号、第3,939,350号、第3,996,345号、第4,277,437号、第4,275,149号及び第4,366,241号を参照のこと。この部分は、Abusに共有結合するか、組み換え連結するか、又はAbusに、二次試薬、例えば、第二抗体、プロテインA又はビオチン−アビジン複合体を用いて結合することができる。
【0105】
他の機能的部分は、シグナルペプチド、免疫学的反応性を高める物質、固体支持体へのカップリングを容易にする物質、ワクチンキャリア、生物反応修飾物質、常磁性標識及び薬物などを含む。シグナルペプチドは、新たに合成されたタンパク質を、細胞膜、通常真核細胞における小胞体及び細菌の内膜又は内膜と外膜の両方を介して導く、短いアミノ酸配列である。シグナルペプチドは、典型的にはポリペプチドのN末端部分にあり、典型的には生合成と、細胞からのポリペプチドの分泌との間で酵素的に除去される。このようなペプチドを、対象Abusに組み込むことにより、合成した分子を分泌できる。
【0106】
免疫反応性を高める物質には、細菌性超抗原などがあるが、これらには限定されない。固体支持体へのカップリングを容易にする物質には、ビオチン又はアビジンがあるが、これらには限定されない。免疫原キャリアには、生理学的に許容される緩衝液などがあるが、これらには限定されない。生物反応修飾物質は、サイトカイン、特に腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン−2、インターロイキン−4、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子及びγ−インターフェロンなどを含む。
【0107】
好適な薬物部分には、抗腫瘍薬などがある。これらとしては、例えば、放射性同位体、ビンカアルカロイド類、例えば、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩及びビンデシン硫酸塩、アドリアマイシン、ブレオマイシン硫酸塩、カルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、デュアノルビシン塩酸塩、ドキソルビシン塩酸塩、エトポシド、フルオロウラシル、ロムスチン、メクロロレタミン塩酸塩、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトーテン、ペントスタチン、ピポブロマン、プロカルバゼ塩酸塩、ストレプトゾトシン、タキソール、チオグアニン及びウラシルマスタードなどがあるが、これらには限定されない。
【0108】
一本鎖分子を含む免疫毒素は、組み換え手段により産生できる。種々の免疫毒素の産生は、当該技術分野において周知であり、このための方法は、例えば、「Monoclonal Antibody−toxin Conjugates: Aiming the Magic Bullet(モノクローナル抗体−トキシン結合体:特効薬を目指して)」Thorpe等(1982)Monoclonal Antibodies in Clinical Medicine,Academic Press社、第168〜190頁;Vitatta(1987)Science 238:1098−1104;並びにWinter及びMilstein(1991)Nature 349:293−299に記載されている。好適なトキシンには、リシン、放射性核種、アメリカヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、シュードモナスエクソトキシンA、ジフテリア毒素、リシンA鎖、真菌毒素、例えば、レストリクトシン及びホスホリパーゼ酵素などがあるが、これらには限定されない。一般的には、「Chimeric Toxins(キメラトキシン)」、Olsnes及びPihl、Pharmac.Ther.15:355−381(1981); 並びに「Monoclonal Antibodies for Cancer Detection and Therapy(癌の検出及び治療のためのモノクローナル抗体)」、編者Baldwin及びByers、第159〜179頁、第224〜266頁、Academic Press社(1985)を参照されたい。
【0109】
化学的に機能的な部分は、組み換えで、例えば、Abu部分及び機能的部分をコードしている融合遺伝子を生成することにより調製できる。あるいは、Abuは、種々の十分に確立された化学的方法のいずれかにより部分に化学的に結合できる。例えば、部分がタンパク質であるときには、結合は、ヘテロ二機能性クロスリンカー、例えば、SPDP、カルボジイミドグルタルアルデヒド等によるものでよい。これらの部分は、共有結合してもよいし、二次試薬、例えば、二次抗体、プロテインA又はビオチン−アビジン複合体を介して結合してもよい。常磁性部分及び抗体へのその結合は、当該技術分野において周知である。例えば、Miltenyi等(1990)Cytometry 11:231−238を参照のこと。
【0110】
抗原結合ユニット(Abus)の調製:
対象Abusは、組み換えDNA技術、合成化学法又はそれらの組み合わせにより調製できる。例えば、VL、VH及びヘテロ二量体化配列を含むAbusの所望の成分をコードしている配列は、典型的に構築され、フラグメントを発現ベクターにライゲーションする。これらの配列は、所望のタンパク質配列をコードしている他のベクターからか、それぞれのテンプレート核酸を用いたPCR生成フラグメントからか、又は所望の配列をコードしている合成オリゴヌクレオチドの集合により構築されることができる。しかしながら、Abusをコードしている全ての核酸配列は、好ましくはコード配列のフレーム内融合により構築される。上記したフレクソンは、種々の成分及びドメインとの間に含ませて、個々の成分が相対的に互いに独立している配置をとる能力を高めることができる。NscAbusを産生するために、L鎖とH鎖を、別個に形成した後、集合させる、すなわち、両鎖のための発現系による生体内集合をすることができる。このような発現系は、好適な細胞を、L鎖及びH鎖用の別個の転写可能領域を含むベクターでトランスフェクションするか、同じ細胞を各鎖用のベクターで同時形質移入することにより生成できる。
【0111】
集合させられたAbusは、当該技術分野において公知の種々のタンパク質精製法を用いて単離できる。一般的に、Abuは、培地から分泌されたポリペプチドとして単離される。但し、これらは、シグナルペプチドなしで直接に産生されるときに、宿主細胞ライゼート又は細菌ペリプラスムから回収できる。Abusが膜結合している場合、当業者により一般的に用いられる好適な洗浄剤溶液により可溶化される。回収されたAbusは、塩析沈殿(例えば、硫酸アンモニウムで)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、カチオン又はアニオン交換カラム上、中性pHでイオン強度を増加させる段階的勾配で溶離)、ゲル濾過クロマトグラフィー(ゲル濾過HPLC等)、並びにタグアフィニティーカラム、又はアフィニティー樹脂、例えば、プロテインA、プロテインG、ヒドロキシアパタイト及び抗免疫グロブリン、によるクロマトグラフィーにより、さらに精製できる。
【0112】
本発明のポリヌクレオチド及びベクター
本発明によれば、本発明のAbusをコードする種々のポリヌクレオチドが提供される。本発明のポリヌクレオチドは、部分的に、上記で詳細に説明したように、その中に含まれる独特のヘテロ二量体化配列により特徴付けられる。このようなヘテロ二量体化配列により、所望の抗原に特異的に結合するもの等のAbusの効率的な構築及びスクリーニングができる。また、このような配列により、ファージ、細菌、他の原核細胞又は真核細胞等の生体生理学的存在物上へのヘテロ二量体のディスプレイが容易となる。好ましいヘテロ二量体化配列を、配列番号2及び4に示す。
【0113】
本発明の一実施態様によれば、対象NscAbusをコードする単離されたポリヌクレオチドが提供される。この実施態様の一の側面によれば、組み換えポリヌクレオチドは、対象NscAbuの軽鎖ポリペプチドをコードするコード配列を含む。別の側面によれば、組み換えポリヌクレオチドは、NscAbuの重鎖ポリペプチドをコードするコード配列を含む。さらに別の側面によれば、組み換えポリヌクレオチドは、2つの別個のコード配列を含む。これらのコード配列のうちの一つは軽鎖ポリペプチドをコードし、他の配列は重鎖をコードしている。
【0114】
既存の抗体のL鎖又はH鎖の種々の領域に対応するヌクレオチド配列は、ハイブリダイゼーション、PCR及びDNA配列決定を含むがこれらには限定されない通常の方法を用いて容易に得られ且つ配列決定できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、抗体ヌクレオチド配列の好ましいソースとしての役割を果たす。一連のモノクローナル抗体を産生する数多くのハイブリドーマ細胞を、公共又は私的な寄託機関から得ることができる。最大の寄託機関は、American Type Culture Collection(http://www.atcc.org)である。ここでは、十分に特徴付けされたハイブリドーマ細胞系の多様なコレクションが提 供されている。あるいは、抗体ヌクレオチドを、免疫化又は非免疫化齧歯類又はヒトから得ることができ、且つ脾臓及び末梢血リンパ球等の器官から得ることが できる。抗体ヌクレオチドを抽出及び合成するのに適用できる具体的な方法が、Orlandi等(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 86:3833−3837;Larrick等(1989)Biochem.Biophys.Res.Commun.160:1250−1255;Sastry等(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.86:5728−5732;及び米国特許第5,969,108号に記載されている。
【0115】
また、抗体ヌクレオチド配列は、例えば、相同性非ヒト配列の代わりにヒト重鎖及び軽鎖定常領域についてのコード配列を用いることによっても修飾できる。この方法で、最初の抗体の結合特異性を保持するキメラ抗体が調製される。
【0116】
また、本発明によるポリヌクレオチドには、例示されたポリペプチドの機能的等価物及びそれらのフラグメントをコードしているものなどが含まれることも分かる。機能的に等価のポリペプチドには、それらによりコードされているポリペプチドの特性を高めるか、減少させるか、又は顕著な影響を及ぼさないものが含まれる。機能的等価物は、保存的アミノ酸の置換を有するポリペプチド、融合を含む類似体及び突然変異体であることができる。
【0117】
遺伝コードの縮重のため、L配列及びH配列だけでなく、本発明のポリヌクレオチド及びベクターの構築に好適なヘテロ二量体化配列のヌクレオチドがかなりの変化をすることがある。配列変異体は、一つ以上の置換、欠失又は付加(これらの本質的な効果は、所望の抗原結合活性を保持することである)の行われた修飾されたDNA又はアミノ酸配列を有することができる。例えば、コードされているアミノ酸の変更や、保存的変化を生じない、コード領域における種々の置換をおこなうことができる。これらの置換は、本発明に含まれる。保存的アミノ酸の置換には、以下の群の範囲内の置換が含まれる:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;及びフェニルアラニン、チロシン。保存的置換は、産生されるポリペプチドに含まれる一つ以上のアミノ酸残基を効果的に変化させるが、これらの置換は、得られた産生されるAbusの抗原結合活性を妨害するとは思われない。コードされるアミノ酸残基を変更しないヌクレオチドの置換は、種々の系における遺伝子発現を最適化するのに有用である。好適な置換は、当業者には公知であり、例えば、発現系において好ましいコドンの使用を反映するようにおこなわれる。
【0118】
所望により、組み換えポリヌクレオチドは、遺伝子産物の発現及び精製の検出を容易にする異種の配列を含むことができる。このような配列の例は、当該技術分野において公知であり、β−ガラクトシダーゼ、β−ラクタマーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)及びそれらの誘導体等のレポータータンパク質をコードするものなどが含まれる。精製を容易にする他の異種配列は、エピトープ、例えば、Myc、HA(インフルエンザウイルス血球凝集素由来)、His−6、FLAG、又は免疫グロブリンのFc部分、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)及びマルトース結合タンパク質(MBP)をコードすることができる。
【0119】
ポリヌクレオチドは、上記した種々の化学的機能性部分に結合できる。一般的に用いられる部分には、検出可能なシグナルを産生できる標識、シグナルペプチド、免疫学的反応性を高める物質、固体支持体へのカップリングを容易にする物質、ワクチンキャリア、生物反応修飾物質、常磁性標識及び薬物などが含まれる。これらの部分は、ポリヌクレオチドに、共有結合か、組み換えか、又は当該技術分野において公知の他の手段により連結できる。
【0120】
本発明のポリヌクレオチドは、追加の配列、例えば、同じ転写ユニット内の追加のコード配列、制御要素、例えば、プロモーター、リボソーム結合部位及びポリアデニル化部位、同一又は異なるプロモーターの制御下での追加の転写ユニット、宿主細胞のクローニング、発現及び形質転換を可能にする配列、並びに本発明の実施態様に望ましいことがある構築物を含むことができる。
【0121】
本発明で提供されるポリヌクレオチドは、化学合成、組み換えクローニング法、PCR又はそれらの組み合わせを用いて得ることができる。化学的なポリヌクレオチド合成法は、当該技術分野において周知であり、ここで詳細に説明する必要はない。当業者は、ここに記載の配列データを使用して、DNA合成装置又は商業サービスからのオーダリングを用いることにより所望のポリヌクレオチドを得ることができる。
【0122】
所望の配列を含むポリヌクレオチドを、好適なベクターに挿入し、それを次に好適な宿主細胞に導入して複製及び増幅することができる。したがって、本発明には、本発明のポリヌクレオチドの一つ以上を含む種々のベクターが含まれる。また、対象Abusをコードしている少なくとも一つのベクターを含む発現ベクターの選択可能なライブラリーも、提供される。
【0123】
本発明のベクターは、一般的にクローニングベクター及び発現ベクターのカテゴリーに入る。クローニングベクターは、それらが含有するポリヌクレオチドの複製コピーを得たり、又は今後の回収のために寄託機関にポリヌクレオチドを保管する手段として有用である。発現ベクター(及びこれらの発現ベクターを含む宿主細胞)を使用して、ポリペプチドを、それらに含まれるポリヌクレオチドから産生することができる。好適なクローニングベクター及び発現ベクターには、当該技術分野において公知のもの、例えば、細菌、哺乳動物、酵母、昆虫及びファージディスプレイ発現系に使用されるものなどが含まれる。
【0124】
好適なクローニングベクターは、標準的な方法により構築してもよいし、当該技術分野において入手できる多数のクローニングベクターから選択してもよい。選択されるクローニングベクターは、使用しようとする宿主細胞に応じて異なることができるが、有用なクローニングベクターは、一般的に自己複製能を有し、特定の制限エンドヌクレアーゼについての単一の標的を有していてもよく、又はマーカー遺伝子を担持していてもよい。好適な例として、プラスミド及び細菌ウイルス、例えば、pBR322、pMB9、ColE1、pCR1、RP4、pUC18、mp18、mp19、ファージDNA(繊維状ファージDNA及び非繊維状ファージDNA等)並びにシャトルベクター、例えば、pSA3及びpAT28などがある。これら及び他のクローニングベクターは、Clontech、BioRad、Stratagene及び Invitrogen等の商業的ベンダーから入手できる。
【0125】
これらの核酸を含む発現ベクターは、タンパク質及びポリペプチドを産生する宿主ベクター系を得るのに有用である。これらの発現ベクターは、エピソーマーとして又は、染色体DNAの一体部分として宿主生物において複製可能でなければならないことを意味している。好適な発現ベクターには、プラスミド、ウイルスベクター、例えば、ファージミド、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、レトロウイルス、コスミッド等が含まれる。酵母、鳥類及び哺乳動物の細胞などの真核細胞における発現に好適な多数の発現ベクターが、当該技術分野において公知である。発現ベクターの一例として、転写がサイトメガロウイルス(CMV)初期プロモーター/エンハンサーにより推進されるpcDNA3(カリフォルニア州サンディエゴにあるInvitrogen社)があげられる。対象Abusを発現するのに特に有用な発現ベクターとして、ファージディスプレイベクター及び細菌ディスプレイベクターの2種類がある。
【0126】
ファージディスプレイベクターを構築するための方法は、当該技術分野において十分に確立されている(Winter G.等(1994)Ann.Rev.Immunol.12:433−55 の総論参照)。繊維状ファージ配列と非繊維状ファージ配列の両方が、ディスプレイベクターを構築するのに適用できる。この種の数多くの代表的なファージの ゲノムが配列決定され、それらのゲノムは非繊維状ファージよりもはるかに小さいことがわかっているので、繊維状ファージベクターが好ましい。この種の代表的なファージには、M13、fl、fd、Ifl、Ike、Xf、Pf1及びPf3などがある。ファージベクターは、典型的にはヘテロマルチマー、例えば、抗体ペプチドを発現するように、ファージコートタンパク質の一部分又は全てに融合することにより構築される。好適なコートタンパク質には、M13の pIII、VIII、VI、VII及びIXなとが含まれる。ヘテロ多量体配列は、発現ファージコートの一体性が損なわれないようにファージベクターに挿入しなければならない。ヘテロ多量体は、好ましくは生物学的に機能性である。
【0127】
pIII融合ベクターを構築するために、一般的に用いられる融合部位を、アミノ末端、pIIIの2つのドメインの間のフレキシブルスペーサーの間(Smith等、Science 288:1315−17)又は米国特許第5,969,108号、第5,837,500号に記載されている他の代替融合部位に位置する。ファージのpIII融合及び他のタンパク質は、同じファージレプリコン内又は異なるレプリコン上に全体的にコードされることができる。少なくとも2つのレプリコンを使用する とき、pIII融合は、一般的にファージミド、複製のファージオリジンを含むプラスミド上にコードされる。ファージミドは、pIIIを含む全てのファージ タンパク質を提供するが、欠陥オリジンのため、ファージミドとの競合でそれ自体よくはパッケージされないM13KO7等のヘルパーファージを用いた「レスキュー」によりファージ粒子にパッケージされることができる。パッケージ効率を高めるために変更pIIIを欠くか、それを含む他の多価ヘルパーファージ(例えば、M13ΔgIII)を、用いることもできる(Rondot等、Nature Biotechnology 19:75−78)。
【0128】
他の繊維状ファージを用いて、同様の構築をおこなうことができる。Pf3は、IncP−1プラスミドを含む緑膿菌(Pseudomonas aerugenosa)細胞に感染する周知の繊維状ファージである。ゲノム全体の配列決定がなされており、複製及び集合に関与する遺伝シグナルは、特徴付けされている。PF3の主要なコートタンパク質は、その分泌を導くためのシグナルペプチドを有しない点で通常とは異なる。配列は、露出されるアミノ末端と一致している帯電残基ASP7、ARG37、LYS40及びPHE44−COO-を 有している。ディスプレイPf3ベクターを構築するためには、異種のポリペプチドをコードしている遺伝子フラグメントにフレーム内で融合され、次に成熟 Pf3コートタンパク質をコードしているDNAとフレーム内で融合している緑膿菌(Pseudomonas aerugenosa)において分泌を生じることが知られているシグナル配列を構成することが、一般的に望ましい。
【0129】
同じ一般的な構築スキームは、バクテリオファージX174、λ、T4及びT7ファージを含む非繊維状ファージから得た配列を含む提示ベクターの構成に適用される。これらの非繊維状ファージの構造についての豊富な情報が、当該技術分野において公知である。当業者は、必要以上の実験をおこなうことなく独特のヘテロ二量体化配列を用いて対象のヘテロ多量体を発現する対応のディスプレイベクターを容易に生成できる。
【0130】
ファージ提示ベクターの他に、別の種類の好ましいベクターとして、細菌ディスプレイベクターがあげられる。上記で概略示した一般的なスキームは、このようなベクターを構築するのに等しく適用できる。簡単に述べると、ベクターは、ヘテロ多量体、特にAbusの発現を、細菌表面タンパク質との融合体の形態で容易にする。事前のサーチから、このような融合体を発現するのに適用できる非常に数多くの細菌表面タンパク質が明らかとなった。細菌表面タンパク質として、例えば、LamB(Bremer等、Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A.(1984)81:3830−34;Gene(1987)52:165−73);OmpA(Prog Biophys Molec Biol(1987)49:89−115);OmpC;OmpF(Pages等、Biochemimie(1990)72:169−76);PhoE(van der Ley等、J.Biol.Chem.261:12222−5);pilin(So等、Curr Top in Microbiol&Immunol(1985)118:13−28);pldA(de Geus等、EMBO J.(1984)3(8):1799−1802)及びそれらの同族体があげられるが、これらには限定されない。これら及び他の表面タンパク質の特徴付け並びにこれらのタンパク質を異種ポリペプチドのディスプレイに用いる方法が、米国特許第5,837,500号及びそれに引用されている文献に詳細に記載されている。
【0131】
本発明のベクターは、一般的にAbusを発現するために必要とする転写又は翻訳制御配列を含む。好適な転写又は翻訳制御配列には、複製オリジン、プロモーター、エンハンサー、リプレッサー結合領域、転写開始部位、リボソーム結合部位、翻訳開始部位並びに転写及び翻訳のための末端部位などがあるが、これらには限定されない。
【0132】
本明細書で使用される用語「プロモーター」は、一定の条件下で、RNAポリメラーゼに結合でき且つプロモーターよりも下流(3’方向)に位置するコード領域の転写を開始できるDNA領域である。プロモーターは、構成してもよいし、誘導してもよい。一般的に、プロモーター配列は、その3’端末で、転写開始部位に結合され、上流(5’方向)に延びてバックグランドより上の検出可能なレベルで転写を開始するのに必要とする、最小数の塩基又は要素を含むようにする。転写開始部位だけでなく、RNAポリメラーゼの結合に関与しているタンパク質結合ドメインも、プロモーター配列内にある。真核生物のプロモーターは、常にではないが、「TATA」ボックス及び「CAT」ボックスを含むことがしばしばある。
【0133】
選択されるプロモーターは、ベクターを導入する宿主細胞に大きく依存する。動物細胞については、種々の強固なプロモーター(ウイルスプロモーター及び非ウイルスプロモーターの両方)が当該技術分野において公知である。代表的なウイルスプロモーターとしては、例えば、CMV、SV40ウィルスの初期及び後期プロモーター、種々の種類のアデノウイルス(例えば、アデノウィルス2)及びアデノ関連ウイルスのプロモーターが挙げられるが、これらには限定されない。また、通常所望の軽鎖遺伝子又は重鎖遺伝子と関連したプロモーターを利用することが、このような制御配列が宿主細胞系と適合する限りは、可能であり且つしばしば望ましい。
【0134】
他の真核細胞に好適なプロモーター配列には、3−ホスホグリセレートキナーゼ、又は他の解糖系酵素、例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ及びグルコキナーゼのためのプロモーターなどがある。転写が成長条件により制御されるというさらなる利点を有する他のプロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロムC、酸ホスファターゼ、窒素代謝と関連した分解系酵素、上記したグリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ並びにマルトース及びガラクトース利用に関与する酵素のためのプロモーター領域である。
【0135】
ある好ましい実施態様によれば、本発明のベクターでは、強力なエンハンサー及びプロモーター発現カセットを使用する。このような発現カセットとしては、例えば、ヒトサイトメガロウイルス直初期(HCMV−IE)プロモーター(Boshart等、Cell 41:521(1985))、β−アクチンプロモーター(Gunning等(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)84:5831)、ヒストンH4プロモーター(Guild等(1988)、J.Viral.62:3795)、マウスメタロチオネインプロモーター(McIvor等(1987)、Mol,Cell.Biol.7:838)、ラット成長ホルモンプロモーター(Millet等(1985)、Mol.Cell Biol.5:431)、ヒトアデノシンデアミナーゼプロモーター(Hantzapoulos等(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:3519)、HSV tkプロモーター25(Tabin等(1982)Mol.Cell.Biol.2:426)、α−1アンチトリプシンエンハンサー(Peng等(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:8146)及び免疫グロブリンエンハンサー/プロモーター(Blankenstein等(1988)Nucleic Acid Res.16:10939)、 SV40初期又は後期プロモーター、Adenovirus 2主要後期プロモーター、又はポリオーマウイルス、ウシパピローマウイルス又は他のレトロウイルス若しくはアデノウイルスなど由来の他のウイルスプロモー ターがある。免疫グロブリン(Ig)遺伝子のプロモーター及びエンハンサー要素は、Bリンパ球(Banerji等(1983)Cell 33:729;Gillies等(1983)Cell 33:717;Mason等(1985)Cell 41:479)に対する著しい特異性を付与し、一方Bグロビン遺伝子の転写を制御する要素は、赤血球系細胞でのみ機能する(van Assendelft等(1989)Cell 56:969)。
【0136】
細胞特異的又は組織特異的プロモーターを、使用することもできる。極めて多様な組織特異的プロモーターが、当業者により記載され且つ用いられてきた。選択動物細胞において作動可能な代表的なプロモーターには、肝細胞特異的プロモーター及び心筋特異的プロモーターなどがある。選択されるレシピエント細胞型に応じて、当業者は、本発明の発現ベクターの構築に適用できる他の好適な細胞特異的又は組織特異的プロモーターについて知るであろう。
【0137】
周知の制限及びライゲーション法を使用して、適切な転写制御配列を、種々のDNAソースから切除し、本発明により発現される無傷選択可能融合遺伝子との作動的関係において一体化することができる。
【0138】
対象ベクターを構築する際、外生的配列と関連した終止配列も、転写される所望の配列の3’端に挿入してmRNAのポリアデニレーション及び/又は転写終止シグナルを得る。ターミネーター配列は、好ましくは一つ以上の転写終止配列(ポリアデニル化配列等)を含み、またさらなる転写読み過ごしを中断させるようにさらなるDNA配列を含ませることにより長くすることができる。本発明の好ましいターミネーター配列(又は終止部位)は遺伝子を有し、その遺伝子の後に転写終止配列(それ自身の終止配列又は異種の終止配列)が存在する。このような終止配列としては、例えば、当該技術分野において公知であり、広く入手可能であり、以下で例示する、種々のポリアデニル化配列にカップリングした停止コドンがあげられる。ターミネーターが遺伝子を含む場合、検出可能又は選択可能なマーカーをコードする遺伝子を使用するのが有利であり、それによりターミネーター配列(及びしたがって、転写ユニットの対応する失活及び/又は活性化)の存在及び/又は不存在を、検出及び/又は選択できる手段が提供される。
【0139】
上記要素の他に、ベクターは、選択可能なマーカー(例えば、ベクターで形質転換した宿主細胞の生存又は成長に必要なタンパク質をコードする遺伝子)を含んでいてよいが、このようなマーカー遺伝子は、宿主細胞に共導入した別のポリヌクレオチド配列に担持されることができる。選択可能な遺伝子が導入されたこのような宿主細胞のみが、選択的条件下で生存及び/又は成長する。典型的な選択的遺伝子は、(a)抗生物質又は他のトキシン、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、G418、メトトレキサート等に対する耐性を付与するタンパク質、(b)栄養素要求性欠乏を補完するタンパク質、又は(c)天然培地からは得られない必須の栄養物を供給するタンパク質をコードする。どのマーカー遺伝子を選択するのが適切かは、宿主細胞に依存し、種々の宿主について適切な遺伝子は、当該技術分野において公知である。
【0140】
好ましい実施態様によれば、ベクターは、少なくとも2つの非関連発現系で複製できるシャトルベクターである。このような複製を容易にするために、ベクターは、一般的に少なくとも2つの複製オリジンを含み、一つは各発現系において有効である。典型的には、シャトルベクターは、真核生物発現系及び原核生物発現系において複製できる。これにより、真核宿主(発現細胞の種類)のタンパク質発現及び原核宿主(増幅細胞の種類)におけるベクターの増幅を検出できる。好ましくは、複製の一つのオリジンはSV40に由来し、一つはpBR322に由来する。但し、ベクターの複製を導く限りは、当該技術分野において公知のいずれかの好適なオリジンを、使用することができる。ベクターがシャトルベクターである場合、ベクターは、好ましくは少なくとも2つの選択可能なマーカーを含み、一つは発現細胞の種類のためのものであり、一つは増幅細胞の種類のためのものである。利用される発現系において機能する限り、当該技術分野において公知の選択可能なマーカー又は本明細書に記載の選択可能なマーカーのいずれも用いることができる。
【0141】
本発明によるベクターは、組み換えクローニング法の使用及び/又は化学合成により得ることができる。極めて多数の組み換えクローニング法、例えば、PCR、制限エンドヌクレアーゼ消化及びライゲーションが、当該技術分野において周知であり、ここで詳細には説明する必要がない。また、当業者は、ここに記載の配列データ又は公共又は企業のデータベースにおける配列データを使用して、当該技術分野において入手できるいずれかの合成手段により所望のベクターを得ることができる。
【0142】
本発明の宿主細胞:
本発明によれば、ベクターで形質転換した宿主細胞又は上記した発現ベクターのライブラリーが提供される。発現ベクターは、多数の好適な手段、例えば、エレクトロポレーション、マイクロプロジェクタイルボンバードメント;リポフェクション、感染(ベクターを感染物質にカップリングする)、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン又は他の物質を用いたトランスフェクションのいずれかにより、好適な原核細胞又は真核細胞に導入できる。ベクターを導入するのにどの手段を選択するかは、宿主細胞の特徴によって決まることがしばしばある。
【0143】
ほとんどの動物細胞の場合、上記した方法のいずれも、ベクターのデリバリーに好適である。好ましい動物細胞は、例えば、ミリグラムのレベルで、外生的に導入される遺伝子産物を多量に発現できる、脊椎動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞である。好ましい細胞としては、NIH3T3細胞、COS、HeLa及びCHO細胞があるが、これらには限定されない。
【0144】
動物細胞は、種々の培地で培養できる。市販の培地、例えば、Ham’s F10(Sigma社)、Minimal Essential Medium(MEM、Sigma社)、RPMI−1640(Sigma社)及びDulbecco‘s Modified Eagle’s Medium(DMEM、Sigma社)が、宿主細胞を培養するのに好適である。さらに、動物細胞を、血清を欠くが、ホルモン、増殖因子又は特定の細胞型の生存及び/又は成長に必要な他の因子を補充した定義された培地で増殖できる。細胞の生存を支持する定義された培地は、生存能、モルホロジー、代謝能及びもしかしたら細胞の分化能を維持するのに対して、細胞成長を促進する定義された培地は、細胞の繁殖又は増殖に必要な全ての化学物質が提供される。生体外での哺乳動物の細胞の生存及び成長を支配する一般的なパラメータは、当該技術分野において十分に確定している。異なる細胞培養系で制御できる物理化学的パラメータは、例えば、pH、pO2、温度及び浸透圧である。細胞の栄養上の必要物は、通常最適な環境を提供するために開発された標準培地配合物で供給される。栄養物は、以下のいくつかのカテゴリー:アミノ酸及びその誘導体、炭水化物、糖類、脂肪酸、複合脂質、核酸誘導体及びビタミン類、に分けることができる。細胞の代謝を維持するための栄養物とは別に、ほとんどの細胞は、無血清培地での増殖のために、以下の群:ステロイド類、プロスタグランジン類、増殖因子、下垂体ホルモン及びペプチドホルモン(Sato,G.H.等、「Growth of Cells in Hormonally Defined Media(ホルモン的に定義された培地における細胞の成長)」、Cold Spring Harbor Press社,N.Y.,1982)、の少なくとも一つから選択される一種以上のホルモンも必要とする。ホルモンの他に、細胞は、生体外での生存及び成長のために、輸送タンパク質、例えば、トランスフェリン(血漿鉄輸送タンパク質)、セルロプラスミン(銅輸送タンパク質)及び高密度リポタンパク質(脂質キャリア)を必要とすることがある。最適なホルモン又は輸送タンパク質の組は、各細胞型ごとに異なる。これらのホルモン又は輸送タンパク質のほとんどは、外生的に添加されるか、又はめったにないことではあるが、特定の因子を必要としない突然変異細胞系が発見された。当業者には、必要以上の実験をおこなうことなく、細胞培養を維持するには他にどのような因子が必要かは、分かるであろう。
【0145】
植物細胞については、種々のベクターデリバリー法が、当該技術分野において公知である。宿主細胞は、全植物、単離細胞又はプロトプラストの形態であることができる。ベクターを植物細胞に導入するための具体的な手順には、アグロバクテリウムを用いた植物形質転換、プロトプラスト形質転換、花粉への遺伝子トランスファー、生殖器官への注射及び未成熟胚への注射などがある。当業者には明らかなように、これらの方法の各々は、異なる利点及び欠点がある。したがって、特定の植物種へベクターを導入する一つの特定の方法は、別の植物種にとっては最も有効ではないことがある。
【0146】
Agrobacterium tumefaciens(アグロバクテリウムツメファシエンス)を用いたトランスファーは、ベクターを全植物組織に導入でき、プロトプラストからの完全な植物の再分化の必要性を回避できるので、植物細胞にベクターを導入するために広く適用できる系である。アグロバクテリウムを用いた発現ベクターを使用して植物細胞にベクターを導入することは、当該技術分野において周知である。この方法では、それらのDNAの一部分(T−DNA)を宿主細胞にトランスファーして核DNAに一体化することにより、植物をコロニー化するアグロバクテリウムの共通の特徴を利用する。T−DNAは、長さが25塩基対であるボーダー配列により定義され、且つこれらのボーダー配列の間のDNAを、植物細胞にトランスファーすることもできる。T−DNAボーダー配列の間の組み換え植物ウイルス核酸の挿入により、組み換え植物ウイルス核酸の植物細胞へのトランスファーが生じ、そこで組み換え植物ウイルス核酸が複製された後、植物全体に組織的に広がる。
【0147】
全ての植物がアグロバクテリウムについての天然の宿主というわけではないので、プロトプラストの形質転換等の代替法を用いて対象ベクターを宿主細胞に導入してもよい。一定の単子葉植物について、植物プロトプラストの形質転換は、リン酸カルシウム共沈法、ポリエチレングリコール処理、エレクトロポレーション及びこれらの処理の組み合わせに基づく方法を用いて達成できる。
【0148】
プロトプラスト形質転換の他に、パーティクル・ボンバードメントは、本発明によるベクターを植物宿主細胞へ放出するための別の都合のよい方法である。具体的には、植物細胞は、複数の対象ベクターでコーティングした微小粒子を打ち込まれることができる。DNA被覆微小入射粒子を打ち込むことにより、植物及び動物の両方において安定な形質転換体をうまく産生した(例えば、Sanford等(1993)Methods in Enzymology,217:483−509 参照)。ベクターを植物細胞に導入するのに好適である微小粒子は、典型的には金属、好ましくはタングステン又は金で作製される。これらの微小粒子は、例えば、BioRad(例えば、Bio−Rad PDS−1000/He)から入手できる。当業者には、パーティクル・ボンバードメントプロトコールが、パラメータ、例えば、He圧、被覆粒子量、マクロ キャリアと停止スクリーンとの間の距離、及び停止スクリーンから標的までの飛行距離を変化させることにより、植物について最適化できることを、当業者は分 かるであろう。
【0149】
また、ベクターを、Zhou等、Methods in Enzymology,101:433(1983);D.Hess,Intern Rev.Cytol.,107:367(1987);Luo等、Plant Mol.Biol.Reporter,6:165(1988)により記載されているように、花粉に直接DNAトランスファーすることにより植物に導入することもできる。別法として、ベクターを、Pena等、Nature,325:274(1987)により記載されているように植物の生殖器官に注入できる。
【0150】
核酸を植物細胞に導入するための他の方法には、以下のものがある:
(a)ハンド接種。ハンド接種を、セライト又はカーボランダム(通常約1%)を添加した、中性pH、低モル濃度リン酸緩衝液を用いておこなう。試料の1〜4滴を、葉の上表面に置き、穏やかに擦る。
(b)植物床の機械的接種。植物床接種は、葉を切断しながらベクター溶液をトラクター駆動の草刈り機に噴霧(ガス推進)することによりおこなわれる。別法として、植物床を刈り、ベクター溶液を、切断葉上に直ちに噴霧する。
(c)単葉の高圧噴霧。また、単一植物接種を、緩衝化ベクター溶液にカーボランダム約1%を含有する狭い定方向噴霧(50psi、葉から6〜12インチ)で葉に噴霧することによりおこなうこともできる。
(d)真空侵入。宿主生物を実質的に真空圧環境において感染を容易にすることにより、接種をおこなうことができる。
【0151】
対象ベクターをクローニング及び発現するのに好適な他の宿主細胞は、原核微生物及び真核微生物、例えば、菌類又は酵母細胞である。これに好適な原核細胞には、グラム陰性生物及びグラム陽性生物を含む細菌が含まれる。この種類の微生物の代表的なメンバーには、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)(例えば、大腸菌)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルビニア属(Erwinia)、クレ ブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)(例えば、ねずみチフス菌 (Salmonella typhimurium))、セラチア属(Serratia)(例えば、霊菌(Serratia marcescans))、赤痢菌属(Shigella)、ナイセリア属(Neisseria)(例えば、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis))だけでなく、バチルス綱(Bacilli)(例えば、バチルススブチリス(Bacilli subtilis)及びバチルスリキニホルムス(Bacilli licheniformis))がある。好ましくは、宿主細胞は、発現Abusのタンパク質分解フラグメントの最小量を分泌する。一般的に用いられる菌類 (酵母を含む)宿主細胞は、S.セレビジアエ(S.cerevisiae)、クリュイベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis(K.lactis))、カンジダ属(Candida)に属する種、例えば、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)、カンジダ・グ ラブラータ(C.glabrata)、カンジダ・マルトーサ(C.maltosa)、カンジダ・アティリス(C.utilis)、カンジダ・ステラトイデ ア(C.stellatoidea)、カンジダ・パラプシローシス(C.parapsilosis)、カンジダ・トロピカルス (C.tropicalus)、アカパンカビ(Neurospora crassas)、アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe(S.pombe))、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)及びヤロウィア・リポリティカ(Yarowia lipolytica)などがある。
【0152】
好適な宿主細胞に導入したら、Abusの発現を、当該技術分野において公知の核酸又はタンパク質アッセイを用いて測定できる。例えば、L鎖又はH鎖(ScAbu)の転写mRNAの存在は、Abuポリヌクレオチドのいずれかの領域に相補的なプローブを用いて、慣用のハイブリダイゼーションアッセイ(例えば、ノーザンブロット分析)、増幅法(例えば、RT−PCR)、SAGE(米国特許第5,695,397号)及びアレイ系法(例えば、米国特許第5,405,783号、第5,412,087号及び第5,445,934号参照)により検出及び/又は定量化できる。
【0153】
また、ベクターの発現は、発現されたAbuを試験することにより測定することもできる。タンパク質分析について当該技術分野において公知の種々の方法が、可能である。これらには、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫放射測定法)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、イムノラジオメトリックアッセイ、インサイツイムノアッセイ(例えば、コロイド金、酵素又は放射性同位元素標識を用いて)、ウエスタンブロッティング分析、免疫沈降アッセイ、免疫蛍光アッセイ及びPAGE−SDSなどがあるが、これらには限定されない。
【0154】
本発明のポリヌクレオチド、ベクター及び宿主細胞の使用:
本発明のポリヌクレオチド及びベクターには、いくつかの特定の用途がある。これらは、例えば、ScとNscAbusの両方の産生の発現系に有用である。また、ポリヌクレオチドは、所望のポリヌクレオチドの増幅をおこなうためのプライマーとしても有用である。さらに、本発明のポリヌクレオチドは、ワクチン、診断薬及び薬物等の医薬組成物にも有用である。
【0155】
本発明の宿主細胞は、とりわけ対象のポリヌクレオチドのリポジトリー、ベクター、又はそれらの抗原結合特異性に基づく所望のAbusを産生及びスクリーニングするためのビヒクルとして使用できる。
【0156】
したがって、本発明によれば、所望の抗原と免疫反応性であるNscAbuを同定する方法が提供される。この方法は、以下のステップ:(a)遺伝学的に種々のレパートリーのAbusを準備するステップであって、前記レパートリーが少なくとも一つの対象Abuを含む、前記ステップと、(b)前記抗原結合ユニットのレパートリーを前記所望の抗原と接触させるステップ と、(c)Abusと前記抗原との間の特異的結合を検出することにより、前記所望の抗原と免疫反応性である前記Abuを同定するステップを含む。
【0157】
Abuが所望の抗原に特異的に結合する能力は、当該技術分野において十分に確立された種々の方法により試験できる。Harlow及び Lane(1988)Antibodies: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York;Gherardi等(1990)J.Immunol.Meth.126:61−68 を参照のこと。典型的には、所望の結合特異性を示すAbusは、免疫アッセイ、例えば、標識されたAbusを、固体支持体又は基質上に固定化した抗原と反 応させることにより直接検出できる。一般的に、抗原が接着した基質は、免疫アッセイ中に低レベルの非特異的結合を示す物質を用いて調製される。好ましい固 体支持体は、以下の種類の物質:プラスチックポリマー、ガラス、セルロース、ニトロセルロース、半導電性物質及び金属、の一つ以上から調製される。好まし くは、基質は、ペトリ皿、クロマトグラフィービーズ、磁性ビーズ等である。
【0158】
このような固相アッセイについて、未反応Abusは、洗浄により除去される。しかしながら、液相アッセイでは、未反応Abusは、濾過又はクロマトグラフィー等のなんからの他の分離法により除去される。抗原を標識Abusに結合した後、結合した標識の量を測定する。この方法の変法に、競合アッセイがある。この方法では、抗原は、最初の結合分子と飽和まで結合させられる。対象Abuの集団を複合体に導入するとき、より高い結合親和性を示すもののみが競合でき、したがって、抗原に結合したままである。
【0159】
別法として、一定の抗原への特異的結合を、セルソーティングにより評価できる。セルソーティングには、所望の抗原を、ソーティングされる細胞上に提示した後、標的細胞を、検出可能な物質にカップリングするAbusで標識し、その後標識した細胞を、セルソーターにおいて未標識のものから分離することが含まれる。最新の細胞分離法は、蛍光標示式セルソーティング(FACS)である。微細流における単一ファイルを移動する細胞は、レーザービームを通過し、蛍光標識Abuにより結合された各細胞の蛍光を、次に測定する。
【0160】
溶離されたAbusの続いての分析では、L鎖及びH鎖のアミノ酸配列を描写するためのタンパク質の配列決定が含まれていてよい。推定されたアミノ酸配列に基づいて、抗体ポリペプチドをコードしているcDNAは、次にPCR、ライブラリースクリーニング、既存の核酸データベースにおけるホモロジーサーチ、又はそれらの組み合わせを含む組み換えクローニング方法により得られることができる。一般的に用いられるデータベースには、GenBank、EMBL、DDBJ、PDB、SWISS−PROT、EST、STS、GSS及びHTGSとがあるが、これらには限定されない。
【0161】
Abuのレパートリーを、ファージ又は細菌粒子上にディスプレイするとき、好ましくは、アフィニティークロマトグラフィーを用いて選択がおこなわれる。この方法は、典型的には抗原被覆プレート、カラムマトリックス、細胞へのファージAbusのレパートリーの結合、又は溶液中のビオチニル化抗原に結合した後に捕獲することにより進行する。固相に結合したファージ又は細菌を、洗浄した後、可溶性ハプテン、酸又はアルカリにより溶離する。別法として、抗原の濃度を増加することにより、Abusをアフィニティーマトリックスから解離できる。抗原への極めて高い親和性又は結合活性を有する一定のAbusについては、効率的に溶離するには、PCT国際出願公開第WO92/01047号に記載のような高pH又は温和な還元溶液を必要とすることがある。
【0162】
所望の結合特異性を有する結合Abusを回収する際の困難を回避するために、プロテアーゼ切断部位を、Abusをディスプレイするために用いられる、ヘテロ二量体化配列とファージ被覆タンパク質との間に導入することができる。この目的のための適用できる切断部位には、因子X、トリプシン及びトロンビン認識部位などがあるが、これらには限定されない。ファージレパートリーをアフィニティーマトリックスに結合し且つ非特異的ファージを洗浄した後、所望の親和性を有するAbusをディスプレイする残存ファージを、切断部位での消化に好適な条件下でプロテアーゼで抗原アフィニティーマトリックスを洗浄することにより、採集することができる。このような消化により、ファージ粒子からAbusが放出される。
【0163】
上記の方法の別法では、強力に結合したファージ又は細菌粒子を保持したアフィニティーマトリックスを採取し、それらの核酸を、例えば、SDS溶液における沸騰により抽出する。抽出した核酸を使用してE.coli宿主細胞を直接形質転換してもよいし、又は抗体コード配列を、好適なプライマーを用いたPCRにより増幅できる。
【0164】
選択の効率は、いくつかの因子の組み合わせ、例えば、洗浄中の解離の動力学、及び単一ファージ又は細菌上の複数のAbusが固体支持体上の抗原に同時に結合することができるかどうかに依存しやすい。例えば、速い解離速度(及び弱い結合親和性)を有する抗体は、短い洗浄、多価のディスプレイ、及び固体支持体での抗原の高コーティング密度を使用することにより保持しなければならない。逆に、低解離速度(及び良好な結合親和性)を有するAbusを選択するには、長時間洗浄、一価ファージ及び抗原の低コーティング密度を使用することが好ましい。
【0165】
必要に応じて、Abusのレパートリーを、無関係抗原に対して予備選択して望ましくないAbusを対向選択することができる。また、レパートリーを、関係のある抗原に対して予備選択して、例えば、抗イディオタイプAbusを単離することができる。
【0166】
対象Abuレパートリーにより、所望の特異性を有するAbusを迅速に単離できる。単離されたAbusの数多くのものは、慣用のハイブリドーマ又は遺伝子組み換え動物技術により得ることは困難又は不可能であると思われる。
【0167】
本発明のベクターを含むキット
本発明には、本発明のベクターを好適なパッケージング中に含むキットも含まれる。本発明によるキットには、本明細書に記載の独特のヘテロ二量体化配列対の対による親和性により再構成されたAbusの生成が可能であるものが含まれる。
【0168】
各キットは、必ずベクターの宿主細胞へのデリバリーを可能にする試薬を含む。ベクターのデリバリーを容易するのに選択される試薬は、使用される特定のトランスフェクション法又は感染法によって異なることがある。また、キットは、Abusの検出のための標識ポリヌクレオチドプローブ又はタンパク性プローブを生成するのに有用な試薬も含有できる。各試薬は、固体の形態で供給してもよいし、又は在庫貯蔵に好適であり、且つあとで実験をおこなうときに交換したり、反応培地に添加したりするのに好適である緩衝液に溶解/懸濁して供給できる。好適なパッケージングが提供される。キットは、必要に応じて手順に有用であるさらなる成分を提供できる。これらの任意成分には、緩衝剤、捕獲剤、展開試薬、標識、反応表面、検出手段、対照試料、説明書及び説明用情報などがあるが、これらには限定されない。
【0169】
本発明によるAbus、ポリヌクレオチド、ベクター及び宿主細胞の開発及び使用について、以下の実施例セクションにおいてさらに説明する。これらの実施例は、当業者が実施するための指針として提供されるものであり、いかなる方法によっても本発明を限定しない。
【実施例】
【0170】
非一本鎖抗原結合ユニットの構築:コイルドコイルFv(ccFv)
上記したように、Fvフラグメントは、全抗原結合部位を含む最小の抗体フラグメントである。重鎖及び軽鎖(VH及びVL)の2つの可変領域からなるFvは、Y字状免疫グロブリン分子の「上」先端に位置している。Fvフラグメントは、これら2つのVHフラグメント及びVLフラグメントの間の相互作用エネルギーが極めて低く、生理学的条件では、数多くの用途にとってはしばしば不安定すぎる。天然の免疫グロブリン(例えば、Ig)では、定常ドメインCH1及びCLに位置している鎖間ジスルフィド結合を使用して、VH及びVLを連結する。この結合により、分子量50kDaの安定化抗原結合フラグメントFabが形成される。VHフラグメント及びVLフラグメントは、一つのフラグメントのカルボキシル末端と、別のフラグメントのアミノ末端との間に、短ペプチドリンカーにより一緒に人工的に保持されて、一本鎖Fv抗体フラグメント(scFv)を形成することもできることが判明した。scFv抗原結合ユニットは、Fabのサイズの半分しかない。しかしながら、ある種のscFvタンパク質も、不安定である。scFvにおけるポリペプチドリンカーは、ある場合において結合を妨害することがある。また、鎖間ジスルフィド結合は、VH及びVLにおけるフレームワーク領域に導入されてジスルフィド安定化Fv(dsFv)が形成された。dsFv配置も、著しい制限がある。2つのCys残基を抗原結合可変領域へ導入することにより、VH又はVLにおける鎖内ジスルフィド結合を変化させることがあり、したがって、抗原結合が妨害されることがある。
【0171】
本発明者等は、VHとVLのヘテロ二量体を安定化させる新規な方法を考え出した。本発明者等は、独特のヘテロ二量体化配列対を設計し、使用してFab様機能性人工Fvフラグメント、すなわち、コイルドコイルFvフラグメント(ccFv)を生成した。ヘテロ二量体化対は、ヘテロ二量体性受容体GABAB受容体1及び2に由来する。配列の対は、コイルドコイル構造を形成し、GABAB−R1受容体及びGABAB−R2受容体の機能的ヘテロ二量体化を仲介する。
【0172】
Fosタンパク質及びJunタンパク質からの先に特徴付けされたコイルドコイルロイシンジッパーとは区別される、GABAB−R1受容体及びGABAB−R2受容体のC末端コイルドコイルは、生理学的条件下(例えば、生体内)では検出可能なホモ二量体を形成しないだけでなく、生理学的体温でホモ二量体を形成しない。Kuner等及びWhite等(Science(1999)283:74−77);Nature(1998)396:679−682))による研究から、生体内におけるGABAB−R1及びGABAB−R2のヘテロ二量体化特異性が明らかとなった。実際に、White等は、このヘテロ二量体性受容体対の排他的特異性に基づいて酵母細胞からGABAB−R2をクローニングすることができた。上記Kammerer等による生体外での研究から、GABAB−R1C末端配列もGABAB−R2C末端配列も、生理学的体温でアッセイしたときに生理学的緩衝条件においてホモ二量体を形成できないことがわかった(Kammererの表1参照)。しかしながら、GABAB−R2遺伝子の最初の分離及びコイルドコイル配列の特徴付けに関与したこれらの研究者のだれも、抗原結合ユニット等のヘテロ多量体の構築にこの独特のヘテロ二量体化配列を使用することは、記載していないし、示唆もしていない。
【0173】
本発明者等は、フレクソン「SerArgGlyGlyGlyGly」をGR1ドメイン及びGR2ドメインのアミノ末端に付加することにより、GR1ドメイン及びGR2ドメインのカルボキシル末端を修飾してV領域にさらなるフレキシビリティを付与した。さらにccFVを安定化するために、ccFvをさらに安定化するために本発明者等は、コイルドコイルのC末端に「ValGlyGlyCys」スペーサーを付加することにより、1対のシステイン残基を導入した。GR1ドメイン及びGR2ドメインは、それぞれVHフラグメント及びVLフラグメントのカルボキシル末端に融合する。VH−GR1融合及びVL−GR2融合を、大腸菌(E.coli)で発現させ、ファージによりディスプレイした。図10及び図11に示すように、平行コイルドコイルらせんにより安定化された機能性ヘテロ二量体性ccFvAbusを、生成した。コイルドコイルヘテロ二量体化配列はCH1ドメイン及びCLドメインのサイズのほぼ半分であるので、ccFv(約35kDa)は、慣用のFabフラグメント(約50kDa)よりも小さい。サイズが小さいので、ccFvとその誘導体は、腫瘍及び組織侵入等の臨床用途においてより有用である可能性がある。ccFvのより効率的な発現及び表示が、予想される。さらに、独特のヘテロ二量体化配列の対による親和性によるVH領域及びVL領域の特異的集合により、強固な多種多様なAbsのレパートリーの構築がより実現可能となる。
【0174】
材料及び方法:
細菌及びファージの株:大腸菌(Escherichia coli)TG1(supEΔ(hsdM−mcrB)5(rk-mk-McrB-)thiΔ(lac−proAB/F’traD36,LaclqΔ(lacZ)M15]を、プラスミドDNA及びファージの産生に使用した;Phamersham Pharmacia Biotech社製KO7ヘルパーファージ及びHRP結合抗M13抗体;Stratagene社製pbluescript SK(+);Santa Cruz Biotechnology社製抗HA抗体。
【0175】
実施例1:ベクターの構築
pABMX1ベクター及びpABMX2ベクター:
ファージミドディスプレイベクターpABMX1及びpABMX2を、pbluescript SK(+)から得た。独特のAgeI制限部位を、一組のプライマーを用いたPCR系部位指定突然変異誘発により、lacプロモーターのすぐあとに導入し(pBS−SKa:5’GGAATTGTGAGCGGATAACAATTTACCGGTCACACAGGAAACAGCTATGACCATG−3’及びpBS−SKb 5’CATGGTCATAGCTGTTTCCTGTGTGACCGGTAAATTGTTATCCGCTCACAATTCC−3’)、そしてXhoI部位及 びKpnI部位を、切断及び平滑末端ライゲーションにより欠失させた。その後、5’にAgeI部位及び3’にBglII/EcoRI部位と隣接し、T7 ファージ遺伝子10からの翻訳エンハンス配列EP(TTAACTTTA)、リボソーム結合配列S/D(TAAGGAGG)、HindIII部位を有するfdファージ遺伝子8リーダー配列(pABMX1について、ATGAAAAAGTCTTTAGTCCTCAAAGCCTCCGTAGCCGTTGCTCCCTCGTTCCGATGCTAAGCTTCGCT)又は pelBリーダー配列(pABMX2について、 ATGAAATACCTATTGCCTACGGCAGCCGCTGGATTGTTATTACTCGCGGCCCAGCCGGCCATGGCG)及び HA−(His)6−タグ(DHタグ)(TATCCATACGACGTACCAGACTACGCAGGAGGTCATCACCATCATCACCATTAG)を含む合成DNAフラグメントを、修飾pbluescript SK(+)にクローニングした。得られたベクターを、pABMX1及びpABMX2と命名する(制限マップ及び配列については、図3A〜3B参照)。Nsc Abus等のヘテロ多量体をコードしている異種配列を、さらにこれらのベクターにサブクローニングして、ペリプラスム発現させた。
【0176】
pABMD1ベクター及びpABMD2ベクター:
BglII部位とSalI部位を両側に有するPCR増幅fd遺伝子III(又は遺伝子3)フラグメントを、pABMX1ベクター及びpABMX2ベクターに挿入した (図4参照)。ディスプレイされるべき異種配列を、リーダー配列の後に挿入できる。lacプロモーターは、pIIIキャプシド融合の発現を推進し、これを次に、KO7等のヘルパーファージによる重複感染後にファージ表面にディスプレイできる。
【0177】
PABMX5ベクター及びpABMX6ベクター:
これらの2つのベクターを、pABMX1及びpABMX2から得た。5’でXbaI/AscI部位、3’でMluI/XhoI/NotI部位と隣接し、リボ ソーム結合配列S/D(TAAGGAGG)及び遺伝子3リーダー配列(ATGAAAAAATTATTATTCGCAATTCCTTTAGTTGTTCCTTTCTATTCTCACTCCGCT)を含む合成DNAフラグメン トを、XbaI/NotI部位によりpABMX1及びpABMX2に挿入した。その後、GR1ドメインコード配列(図2)をXba/AscI部位にサブクローニングし、GR2ドメインコード配列(図2)をXhoI/NotI部位に挿入した。その後、VHドメインとVLドメインを、それぞれGR1配列及びGR2配列の前に挿入した。ベクターpABMX5及びベクターpABMX6の概略を、図5Aとして示す。これらのベクターは、一つのlacプロモーターの下に2種のタンパク質VH−GR1及びVL−GR2を発現する。
【0178】
pABMD5ベクター及びpABMD6ベクター:
ベクターpABMX5及びベクターpABMX6からのccFvDNAフラグメントを、pABMD1及びpABMD2にサブクローニングしてベクターpABMD5及びベクターpABMD6を得た(制限マップ及 び配列については、図6A及び図6B参照)。これらのベクターは、2種のタンパク質であるVH−GR1融合タンパク質とVL−GR2−pIII融合タンパク質を発現する。発現されたVH−GR1融合タンパク質及びVL−GR2−pIII融合タンパク質を、ペリプラスムスペースに分泌し、ここで二量体化がコ イルドコイルドメインヘテロ二量体化を介しておこる。次に、集合したAbuを、KO7等のヘルパーファージの重複感染によりファージ表面にディスプレイす る。
【0179】
実施例2:機能性ccFvの発現
抗体AM1からの抗体可変ドメインを、ccFvフラグメントを発 現させるためにpABMX6ベクターにサブクローニングした。次に、このベクターを、TG1細胞又はBL21細胞に導入した。単一コロニーからの約100υg/mlカルベニシリン及び0.1%グルコースを含有する500ml 2xYTにおいて、形質転換したバクテリアを、37℃でOD600=0.7(ほぼ)まで増殖させた。1mM IPTGを、30℃における4時間の誘導のために添加した。細菌ペレットを、ペリプラスム及び浸透圧ショック調製物のために集めた。ペレットを、 Sigma社製の1.25mlのタンパク質分解酵素抑制剤混合物を含有する12.5mlのPPB緩衝液(200mg/mlスクロース、1mM EDTA、30mM Tris−HCl、pH8.0)に再懸濁し、20分間氷上に置いた。上清を、回転により集めた。得られたペレットを、5mM MgSO4に再懸濁し、氷上で20分間インキュベーションした。MgSO4及びPPB上清を混ぜ、PBSに 対して透析した。Ni−NTAカラム1mlに加えた後、His−タグタンパク質を、350mMイミドゾールによる溶離により精製した。図10Aは、精製したccFvが非還元ゲル上で35kDaの電気泳動移動度を有することを示す。還元条件下で分析したとき、VL及びVHに相当する2つのサブユニットを観察 した。上のバンドは、ウエスタンブロッティング解析によりVL−His−タグ融合として確認した。
【0180】
可溶性AM1−ccFvの結合特異性を測定するために、ELISAアッセイを実施した。AM1抗原(0.2〜1ug/ウェル)で、ELISAプレート上をコーティングして、4℃で一晩おいた。5%ミルク/PBSブロッキング後、5%ミルク/PBS中の抗体溶液をELISAプレートに添加し、室温で1〜2時間インキュベーションした。未結合Abusを、洗浄除去した。図10Bは、AM1−ccFvのその抗原への特異的結合を示す。対照は、PBSにミルクを5%添加したものを含有する。この結果から、コイルドコイルGABABR1/R2ヘテロ二量体化配列による、機能的ccFvの集合が確認される。
【0181】
実施例3:機能的ccFvのディスプレイ
遺伝学的パッケージによる抗体のディスプレイは、大きなライブラリーから特異的Abuを濃縮し且つ分離するための強力なツールである。ccFvがファージディスプレイシステムにおいて利用できるかどうかを解析するために、本発明者等は、AM1抗体のccFv遺伝子をpABMD6ベクターにサブクローニング することにより、ファージミドベクターを構築した。ファージミドベクターを担持するTG1細胞を、KO7ヘルパーファージにより重複感染した。感染したTG1細胞を、2xYT/Amp/Kan中、30℃で一晩成長させた。ファージミド粒子を、PEG/NaClにより、培養上清から2回沈殿させ、PBSに再懸濁させた。ファージ上にディスプレイさせた抗体を、ファージELISAアッセイを用いて抗原結合活性により検出した。すなわち、抗原で、まず ELISAプレート上をコーティングした。5%ミルク/PBSブロッキング後、ファージ溶液を、ELISAプレートに添加した。抗原に結合したファージ を、HRP結合抗M13抗体とともにインキュベーションすることにより、検出した。基質ABTS[2,2’−アジノ−ビス(3-エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を使用して、HRP活性を測定した。また、抗HAタグ抗体を使用して、ファージ粒子上に表示したタンパク質を検出した。抗HA抗体 で、96ウエルプレート上をコーティングした(各ウエルあたり2ug)。ELISAプレートをコーティングした抗HA抗体に結合したファージを、HRP結 合抗M13抗体により検出した。
【0182】
また、ccFv及びscFvのファージディスプレイを比較するために、一本鎖抗体ファージも調製した。図11A及び図11Bに示すように、ccFvファージの結合能は、慣用のscFvファージに匹敵する。一定のccFv発現ファージについては、それらの結合能は、慣用のscFvを発現するファージよりもほとんど一桁大きい(図11B)。したがって、ccFvは、ファージ粒子上にディスプレイされた場合であっても機能性Abuである。
【0183】
一本鎖抗原結合ユニットの発現:
実施例4:慣用のscFvの発現
AM2−scFvを、可溶性発現ベクターpABMX1のHindIII/NotI部位にサブクローニングした。ペリプラスム調製物を、上記で概説したようにして実施した。 NI−NTAカラムから精製した30kDaの抗体タンパク質を、SDS−PAGE分析により確認し、ELISAを用いてその抗原結合特異性について試験し た。AM2抗原を、最初にELISAプレートを、0.2ug/ウエルの濃度でコーティングした。種々の量のAM2−scFvフラグメントを、抗原とともに インキュベーションした。結合AM2−svFvフラグメントを、抗HA−タグ抗体により検出した。実験により、AM2−scFvのそのAM2抗原への用量 依存的結合が明らかとなった(図8)。
【0184】
実施例5:ファージ上での慣用のscFvのディスプレイ
AM2−scFvフラグメントを、まずファージミドベクターpABMD1のHindIII/NotI部位にサブクローニングした。このファージミドベクターを担持している TG1細胞を、ヘルパーファージKO7により感染させた。ファージを、上清から精製した。続いて、ファージELISAアッセイをおこなって、ファージ粒子上にディスプレイされたAM2−scFvを検出した。コートpIII遺伝子はHA−タグで標識されているので、融合は、抗HA抗体で検出できる。AM2抗原及び抗HA抗体を用いたELISAアッセイにより、ディスプレイされたscFvが対応の抗原に特異的に結合できることが確認された(図9)。対照は、HA標識されていない無関係抗体を表示するファージが含む。
【0185】
真核細胞における対象抗原結合ユニットの発現:
実施例6:酵母におけるccFvの発現
対象ヘテロ二量体化配列に連結したVL配列とVH配列の両方を担持している酵母ベクターpAMEX7を、構築する。コンピテント酵母細胞、例えば、AH109細胞、を調製し、当該技術分野において公知の方法でpAMEX7ベクターで形質転換する。形質転換された酵母細胞を、タンパク質の発現に好適な 条件下で培養する。このような条件は、当業者には周知であり、したがって、ここでは詳細には説明しない。発現されたccFv Abusを、当該技術分野において公知の慣用の方法及び/又は本明細書に記載の方法を用いて採取する。収穫したccFvの抗原結合能を、上記したプロト コールにしたがってELISAにより測定する。
【0186】
所望の結合特異性を示すccFvファージの濃縮及び同定:
実施例7:モデルライブラリーからのAM2−ccFvファージの濃縮
所望の結合特異性を有するccFv表示ファージをバックグランドファージから選択し且つ最終的に濃縮できることを示すために、モデルライブラリーからのAM2−ccFvファージのパンニングをおこなった。AM2−ccFvファージを関係のないAM1−ccFvディスプレイファージと1:106又は1:107の比で混合することにより、モデルライブラリーを調製した。Nunc Maxisorb96ウエルプレートをコーティングした特異的タンパク質抗原に対してライブラリーのパンニングを、2ラウンドおこなった。PBSにミルクを5%添加したものでブロッキングした後、2%ミルク/PBSに1X1012ライブラリーファージを添加したものを、ウエルに添加 し、室温で2時間インキュベーションした。次に、ファージ溶液を捨て、ウエルをPBST(PBSにTween−20を0.05%添加)で5回洗浄し、PBSで5回洗浄した。結合ファージを、100mMトリエチルアミンで溶離し、TG1培養に添加して感染させた。感染TG1細胞から調製したファージを、次のラウンドのパンニング、及びAM2−ccFvの固定化タンパク質抗原に対するELISAに使用した。各ラウンドのパンニングの後、AM1−ccFvで はなく(PCR産物ではない)、AM2−ccFvのみについて特異的に設計(約1kbPCR産物のバンドは、1%アガロースゲル上で可視化できた)した1対のプライマーを介して、ランダムに選んだクローンのPCR解析を行ない、AM2−ccFvファージのバックグランドファージAM1−ccFvファージに 対する比も測定した。図20に示すように、AM2−ccFvの固定化タンパク質抗原に対するELISAを実施した。第二ラウンドのパンニングからのファージでは、第一ラウンドに比較し てはるかに高いOD405読み取り値が得られた。このことは、AM2−ccFvファージがうまく選択され、パンニング中に濃縮されたことを示唆している。図21に示すPCR分析は、ランダムに選んだクローンのPCR産物からの1%アガロースゲルイメージを示す。得られた結果から、AM2−ccFvファージの発生率が、第一ラウンドのパンニング後の1:107ライブラリーから4.4%であるのに対して、第二ラウンドのパンニング後では、発生率が100%に達したことが分かった。
【0187】
実施例8:機能的ccFvをディスプレイするファージライブラリーを用いたライブラリースクリーニング
多数のAbusを有するファージライブラリー(これらの全ては、所望の抗原に結合できるが、各Abuは、臨界的結合ドメインの一定領域において異なる)をスクリーニングすることにより、さらに高い親和性を有する抗体を同定し且つさらに設計することができる。ccFvを抗体ライブラリースクリーニング用のビヒクルとして効率的に使用できることを示すために、本発明者等は、ccFvのフォーマットでAM2のライブラリーを構築した。AM2のフレームワーク構造は、VH領域とVL領域とから構成されていた。各々を、上記したようなベクターpABMD6の対応する位置にサブクローニングした。すなわち、VHをGR1のN末端に、VLをGR2のN末端にそれぞれ連結した。次に、ccFv抗体フラグメントをファージ粒子の表面にディスプレイするために、GR2をpIIIに融合した(例1、3及び7参照)。ファージを選択するために(ccFvファージライブラリーパンニングを介した高い親和性バインダー)、VHのCDR3を、複数の位置に複数の選択残基を含むライブラリーとして構築した。このライブラリーは、両末端での変性DNAオリゴフランキング制限部位の標準合成により、PCR増幅及び制限消化後のAM2のその位置にサブクローニングされることができるように、調製した。図22は、変性DNAオリゴ、その増幅プライマー及び方向の設計を示す。ライブラリーの多様性については、合計約1x106種であるように設計した。ライゲーション後、ライブラリーを、TG1コンピテント細胞に、エレクトロポレーションした。次に、ライブラリーのファージ粒子を、上記した例で述べたようにして集める前に形質転換体を収穫し、レスキューした(KO7ヘルパーファージにより)。ライブラリーを「パン」するために、組み換え抗原を、4℃で一晩、0.05M NaHCO3 pH9.6緩衝液中でNunc Maxisorb96ウエルプレート上に固定化した。ミルク2%を含有するPBS緩衝液で希釈した1012ファー ジ粒子を含有するライブラリーファージのアリコットを、抗原でコーティングしたウエルに添加した。37℃で2時間インキュベーションした後、ウエルを洗浄 し、ファージを実施例3及び実施例7で記載したようにして溶離した。溶離したファージを使用してTG1細胞を感染させた後、KO7ヘルパーファージにより レスキューした。30℃で一晩成長させた後、ファージを、TG1細胞で増幅し、次のラウンドのパンニングのために収穫できるようにした。事前の実験では、解離速度koffは、その特定の抗体の親和性に最も顕著に寄与するのに対して、Konは比較的一定であることが分かった。したがって、高結合親和性を有するファージを選択するために、生存ファージを選択するために長時間洗浄する方法であるオフレートパンニングを設計して、より低速のKoffを有するファージを特異的に選択した。このライブラリーのために、合計7ラウンドの連続パンニングをおこなった。
【0188】
第 5ラウンドのパンニング及び第7ラウンドのパンニング後に、個々のクローンをランダムに選んで、ファージパンニングにおいて同じタンパク質抗原を用いて、 ELISA用のファージを調製した。ELISAは、上記実施例7に記載の手順に準じて、96ウエルマイクロタイタープレートを用いておこなった。図23に示すように、第5ラウンド及び第7ラウンドで選択された全てのクローンは、抗原との反応が陽性であった。但し、負の対照は、第5ラウンドの位置H10、H11、H12及び第7ラウンドの位置H11、H12に設定した。これらの全ては、0.05OD405未満であった。
【0189】
次に、第7パンニングのELISAにおいて陽性の反応性を示したクローンを、配列決定用にランダムに選び、VHのCDR3上の残基を、図24にマッピングした。次に、ライブラリーにより標的とされた位置上のコンセンサスを、同定した。コンセンサス配列を表すクローン及び野生型(オリジナル AM2)のタンパク質発現をおこない、続いてタンパク質を、BiaCore(表面プラズモン共鳴)を用いて固定化タンパク質抗原との結合におけるそれらの Koffを測定するのに使用した。図25に示すように、ライブラリーから選択されたAM2変異体は、顕著により遅いKoffを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学の分野に属する。具体的には、本発明は、独特のヘテロ二量体化配列を用いた非一本鎖抗原結合ユニット等のキメラヘテロ多量体の生成に関する。また、本発明は、対象のヘテロ二量体化配列により安定化された一本鎖抗原結合ユニットの生成に関する。本発明による組成物及び方法は、主に診断及び/又は治療に使用される可能性のある抗原結合ユニットを同定するのに特に有用である。
【背景技術】
【0002】
抗体又は免疫グロブリンは、特異的同族抗原を認識し且つそれに結合する分子である。それらが排他的特異性を有するため、抗体、特にモノクローナル抗体は、種々のヒトの疾病の診断及び治療に広く使用されてきた。
【0003】
脊椎動物系における塩基性免疫グロブリン(Ig)は、2つの同一の軽(「L」)鎖ポリペプチド(約23kDa)と2つの同一の重(「H」)鎖ポリペプチド(約53〜70kDa)からなる。4つの鎖は、「Y」配置においてジスルフィド結合により連結されている。Yの塩基で、2つのH鎖は、共有ジスルフィド結合されている。L鎖とH鎖は、一連のドメインで組織化されている。L鎖は、C領域に相当する2つのドメイン(「CL」)を有し、他はV領域(「VL」)に相当する。H鎖は、4つのドメインを有し、一つがV領域(「VH」)に相当し、3つのドメイン(CH1、CH2及びCH3)はC領域にある。抗体は、2つのアーム(各アームはFabフラグメントである)を含む。各アームは、互いに関連したVL領域とVH領域を有する。このV領域対(VL及びVH)は、一つの抗体ごとに異なり(アミノ酸配列の変化により)、且つ一緒に抗原の認識及び抗原結合部位の付与に関与している。より詳細には、各V領域は、4つのフレームワーク領域(FR)により分離されている3つの相補性決定領域(CDR)から構成されている。CDRは、可変領域の最も変えられる部分であり、決定的な抗原結合機能を果たす。CDR領域は、組み換え、突然変異及び選択を含む複雑なプロセスを介して数多くの可能性のある生殖細胞系配列に由来している。
【0004】
最近の研究により、結合抗原の機能が、全抗体のフラグメントにより果たされることができることが、明らかとなった。典型的な抗原結合フラグメントは、(i)VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン及びCH1ドメインからなるFabフラグメント;(ii)VHドメインとCH1ドメインとからなるFdフラグメント;(iii)VHドメインからなるdAbフラグメント(非特許文献1);(iv)分離されたCDR領域;及び(v)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメントであるF(ab’)2フラグメント;及び(vi)抗体の単一アームのVLドメイン及びVHドメインからなるFvフラグメントである。Fvフラグメントは、抗原の高アフィニティー結合に必要とされる最小の機能性ユニットである。
【0005】
抗体の分野における一つの主要な挑戦は、ヒト免疫系における免疫グロブリンプールを再現する、免疫グロブリンの非常に多種多様なレパートリーを再構成することであった。このようなレパートリーは、一般的に108〜1013個の範囲の別個の免疫グロブリンの複雑性を有する。このようなレパートリーが生成すると、治療標的と特異的に相互作用できる免疫グロブリンの同定及び産生が非常に容易になる。しかしながら、このようなレパートリーの設計及び産生は、従来では最小機能性ユニット、すなわち、Fvフラグメントのアセンブリのための安定化手段を欠いているために妨害されていた。当該技術分野においては、VH領域及びVL領域は単独で発現されると、極めて低い相互作用エネルギーを示すことは、周知な問題である(非特許文献2)。2つの成分は、低タンパク質濃度で解離し、生理学的体温では数多くの用途で非常に不安定である。また、全抗体等の大タンパク質は(極めて安定であるにもかかわらず)、宿主細胞では明らかなレベルでは発現しないので、非常に種々の抗体レパートリーを構成するのが極めて困難となることも、長年にわたって認識されている技術的な障害である。
【0006】
より最近では、安定なVLとVHの複合体を生成するのに、3つの方法が開発された。しかしながら、これらの方法の各々は、多数の固有の限界があり、これらの方法のどれもが、上記した技術的な障害を完全に回避していない。第一の方法では、ペプチドリンカーを使用してVLとVHを一本鎖(「scFv」)として接続している(非特許文献3)。得られたscFvは実質的な抗原結合活性を示すが、全ての抗体が一本鎖として製造できるわけではなく、まだ高い結合親和性を保持している(非特許文献3、非特許文献4)。部分的に、このことは、抗原結合部位によるリンカー配列の妨害によるものである。第二の方法では、VL領域とVH領域における1対のシステイン残基を挿入してジスルフィド結合安定化Fv(「dsFv」)を生成することが含まれる(非特許文献5)。しかしながら、組み込まれたジスルフィド結合は、数多くの宿主細胞における還元条件下では不安定である。例えば、大腸菌(E.Coli)のサイトゾルでは、分子間ジスルフィド結合は、しばしばVLとVHの複合体を安定化するのには不十分である。さらに、この方法では、典型的には結合活性を破壊することなくシステイン対を適切な場所に確実に挿入するために、V領域の3次元構造情報が必要である。大部分の既存の抗体の3次元情報は知られていないので、この方法はほとんど実用性がなく、特に抗体ライブラリーの構築、とりわけB細胞由来の抗体レパートリーを構成するのには適していない。VL領域及びVH領域を安定化するための第三の方法では、CH1ドメイン及びCLドメインに由来するジスルフィド結合を利用する。この方法は続けて、CH1ドメインとCLドメインを連結するジスルフィド結合をVL領域及びVH領域のC末端にグラフトしてFabフラグメントを再構成する。得られたFabフラグメントは、一般的により安定であり、しばしばscFvよりも大きな結合親和性を示すが、Fabは、その大きなサイズのために、高レベル発現及び抗体レパートリー構築には最適ではない。
【0007】
コイルドコイル構造を形成する一定の二量体化配列も、多価抗体を構築するために用いられてきた。具体的には、特許文献1は、Fos及びJunロイシンジッパーにより連結された二重特異性F(ab’)2ヘテロ二量体を記載している。Fos及びJunロイシンジッパーは、優先的にヘテロ二量体を形成することが知られている十分に特徴付けられた配列である。しかしながら、Fos及びJunロイシンジッパーは、まだ生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を形成する顕著な傾向を示す(非特許文献6、非特許文献7)。実際に、Jun/Junホモ二量体は、非常に安定であるので、生体外でFos/Junヘテロ二量体の形成には、まず加熱によるか、又は2−メルカプトエタニルアミンで還元することによりJun/Junホモ二量体を解離させる必要がある(特許文献2第7欄第35〜37行目、特許文献1第16欄第15〜30行目参照)。生体内で試験すると、Fos及びJunの両方が、検出可能な量のホモ二量体を生成する(例えば、特許文献1第15欄第41〜43行目;及び非特許文献7参照)。ホモ二量体化の傾向が多少あることは、単一の抗体種の生成にとっては実質的に重要ではないが、このような傾向は、VL領域とVH領域との間の効率の高いヘテロ二量体化が必要である抗体レパートリーの構築には問題である。
【0008】
Houston等による特許文献3では、Fos及びJunロイシンジッパーの他に、コイルドコイル二量体化ペプチドの組み合わせライブラリーの構築が記載されている。Houston等は、このライブラリーは、抗体等の選択された高分子リガンドと特異的に相互作用できるポリペプチドを同定するのに有用であることを提案している(第8頁と第9頁にかけての最終パラグラフを参照)。明らかに、特許文献3は、標的抗体の構築及び選択よりむしろ、標的抗体に結合する「抗原ペプチド」の選択に関する。特許文献3は、全くことなる目的に焦点をあてており、コイルドコイル配列を使用して安定な抗原結合ユニットを生成することを記載又は示唆さえもしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,932,448号
【特許文献2】米国特許第5,910,573号
【特許文献3】米国特許第5,824,483号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ward,E.S.等、Nature 341,544−546(1989)
【非特許文献2】Glockshuber等(1990)Biochemistry 29(6):1362−1367
【非特許文献3】Huston等(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A85:5879−5883
【非特許文献4】Stemmer等(1993)Biotechniques14(2):256−265
【非特許文献5】Brinkmann等(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90(16):7538−7542
【非特許文献6】O’Shea等(1992)Cell68:699−708
【非特許文献7】Vidal等(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、安定な抗原結合ユニット及びそれらのレパートリーを生成して治療的抗原結合ユニットの同定をおこなうための改善された組成物及び方法について、かなりの必要性がある。理想的な抗原結合ユニットは、Fvフラグメントよりも安定であるが、Fabフラグメントよりも小さくて大規模製造及び効率的なディスプレイを可能にするものが好ましい。また、このような抗原結合ユニットは、多価抗体及び/又は多重特異性抗体を構築するためのビルディングブロックとしての役割も果たす。本発明は、これらの必要性を満足し、関連した利点も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の主要な態様は、安定なヘテロ多量体を形成するための単量体ポリペプチドの特異的集合の方法の設計にある。このヘテロ多量体産生法により、機能性ヘテロ多量体を高生産性で産生することが容易であり、望ましくないホモ二量体の集合が回避される。この方法は、特に抗原結合ユニット等のヘテロ多量体の遺伝学的に多種多様なレパートリーを生成するのに有用である。この方法は、所望の結合特異性を有する抗原結合ユニットの選択を容易にする種々の「遺伝パッケージディスプレイ」技術に容易に適合できる。このような遺伝パッケージディスプレイ技術の詳細は、米国特許第6248516号、第5969108号、第5885793号、第5837500号、第5571698号、第5223409号、第5514548号、PCT国際出願公開第WO9005144号、EP0368684、PCT国際出願公開第WO09201047号、同第WO09311236号及び同第WO09708320号に記載されている。
【0013】
対象とする抗原結合ユニットが、ヘテロ二量体化配列の異なる対による親和性により、集合させられ、且つ安定化される。これらの配列は、ヘテロ二量体化対の少なくとも一つのメンバーが、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない点で異なる。ある実施態様では、安定化抗原結合ユニットは、Fabフラグメントよりも小さい分子サイズを有するだけでなく、必要とする結合特異性及び親和性を示す。さらに、本発明のある種の非一本鎖抗原結合ユニットは、対応する慣用の一本鎖抗体(scFv)よりも結合親和性が大きい。抗原結合ユニットは、抗体ライブラリーの構築及び表示に特に適している。対象の抗原結合ユニットの一定の配置は、多価及び多重特異的免疫グロブリンのための都合のよいビルディングユニットとしての役割を果たす。
【0014】
すなわち、本発明によれば、以下の:(a)第一ヘテロ二量体化配列に融合した軽(L)鎖可変領域を含んでいる軽(L)鎖ポリペプチド;(b)第二ヘテロ二量体化配列に融合した重(H)鎖可変領域を含んでいる重(H)鎖ポリペプチド;を含み、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し;且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、非一本鎖抗原結合ユニットが提供される。好ましくは、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、生理学的緩衝条件下及び生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない。
【0015】
本発明の別の態様によれば、以下の:(a)第一ヘテロ二量体化配列に融合した軽(L)鎖可変領域を含んでいる軽(L)鎖ポリペプチド;(b)第二ヘテロ二量体化配列に融合した重(H)鎖可変領域を含んでいる重(H)鎖ポリペプチド;を含み、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、ヘテロ二量体性受容体由来の前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化する、非一本鎖抗原結合ユニットが提供される。一の態様によれば、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列が、前記受容体のヘテロ二量体化を仲介するヘテロ二量体化受容体配列を含む。さらに別の態様によれば、対象とするヘテロ二量体化配列は、コイルドコイル二量体を形成する。さらに別の態様によれば、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、前記2つのヘテロ二量体化配列の非共有結合性の対による親和性を介して二量体化する。好ましくは、前記L鎖又はH鎖ポリペプチドが、前記可変領域及び前記ヘテロ二量体化配列により両側を挟まれているフレクソンをさらに含んでいる。Lポリペプチド配列とHポリペプチド配列の両方が、ヒトL鎖及びヒトH鎖由来のものでよい。ヘテロ二量体性抗原結合ユニットをさらに安定化するために、システイン残基を導入して、第一ヘテロ二量体化配列と第二ヘテロ二量体化配列との間のジスルフィド結合を形成することができる。非一本鎖抗原結合ユニットは、一価でも、多価でもよい。これらは、単一特異的でも、多重特異的でもよい。好ましい多重特異性Abusは、二重特異性分子、三重特異性分子及び四重特異性分子である。
【0016】
本発明の別の実施態様によれば、軽(L)鎖可変領域と重(H)鎖可変領域とを含み、前記軽(L)鎖可変領域と前記重(H)鎖可変領域が、前記領域の一方のC末端と前記他の領域のN末端の間の距離をまたがった第一ヘテロ二量体化配列と第二ヘテロ二量体化配列により接続されており、前記2つの領域が、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成し;且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、一本鎖抗原結合ユニットが提供される。好ましくは、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、生理学的緩衝条件下及び生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない。
【0017】
本発明の別の態様によれば、一本鎖抗原結合ユニットであって、VL領域及びVH領域が、ヘテロ二量体性受容体に由来する前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成する、一本鎖抗原結合ユニットが提供される。一の態様によれば、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列が、前記受容体のヘテロ二量体化を仲介するヘテロ二量体化受容体配列を含む。
【0018】
さらに別の態様によれば、第一ヘテロ二量体化配列及び第二ヘテロ二量体化配列が、コイルドコイル二量体を形成する。別の態様によれば、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、非共有結合性の対による親和性を介して二量体化している。VL領域とVH領域の両方が、それぞれヒトL鎖及びヒトH鎖における対応の配列に由来するものでよい。
【0019】
非一本鎖抗原結合ユニットと一本鎖抗原結合ユニットの両方は、化学的機能性部分に結合できる。典型的な機能性部分には、シグナルペプチド、免疫学的反応性を高める物質、固体支持体へのカップリングを容易にする物質、ワクチンキャリア、生物反応修飾物質、トキシン、検出可能な標識、常磁性標識及び薬物などが含まれるが、これらには限定されない。
【0020】
対象とする抗原結合ユニットに含まれている好ましいヘテロ二量体化配列は、それぞれGABAB受容体1及びGABAB受容体2のC末端配列に由来するものである。より好ましくは、第一ヘテロ二量体化配列は、システイン残基に連結されており、前記第一ヘテロ二量体化配列が、配列番号2に示されているものに匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチドを含み;且つ前記第二ヘテロ二量体化配列が、システイン残基に連結されており、前記第二ヘテロ二量体化が、配列番号4に示されているものに匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体2ポリペプチドを含む。別法として、前記第一ヘテロ二量体化配列が、システイン残基に連結されており、前記第一ヘテロ二量体化配列が、配列番号4に示されているものに匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体2ポリペプチドを含み;且つ前記第二ヘテロ二量体化配列が、システイン残基に連結されており、前記第二ヘテロ二量体化配列が、配列番号2に示されているものに匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチドを含む。
【0021】
本発明は、非一本鎖抗原結合ユニットのLポリペプチド及び/又はHポリペプチドをコードしているコード配列を含む組み換えポリヌクレオチドを提供する。また、本発明は、一本鎖抗原結合ユニットのVL領域又はVH領域をコードするコード配列を含む組み換えポリヌクレオチドも提供する。また、本明細書に記載の組み換えポリヌクレオチドのいずれか一つを含むベクターも、提供される。ベクターは、発現ベクター、例えば、ファージディスプレイベクターであることができる。さらに、本発明によれば、1以上の対象ベクターを含む、抗原結合ユニットのレパートリーをコードしている発現ベクターの選択可能なライブラリーが提供される。好ましくは、前記選択可能なライブラリーは、複数のファージディスプレイベクターを含む。
【0022】
また、本発明によれば、対象の組み換えポリヌクレオチドを含む宿主細胞も提供される。前記L鎖ポリペプチドをコードする前記組み換えポリヌクレオチド及び前記H鎖ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドが、単一のベクターに存在しても、別個のベクターに存在してもよい。宿主細胞は、真核細胞であっても、原核細胞であってもよい。
【0023】
本発明のさらに別の態様によれば、非一本鎖抗原結合ユニットの製造方法が提供される。この方法は、以下のステップ:(a)第一ヘテロ二量体化配列に融合して軽(L)鎖可変領域を含んでいる、軽(L)鎖ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチドと、第二ヘテロ二量体化配列に融合して重(H)鎖可変領域を含んでいる、重(H)鎖ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチドとを、宿主細胞で発現するステップであって、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記ステップと;そして、場合により(b)前記宿主細胞において発現された抗原結合ユニットを分離するステップを含む。
【0024】
また、産生した抗原結合ユニットは、ヘテロ二量体性受容体由来であるヘテロ二量体化配列を含んでいてもよい。さらに、ステップ(a)で発現される非一本鎖抗原結合ユニットは、宿主細胞の表面上にディスプレイされることができる。好ましくは、ステップ(a)で発現される非一本鎖抗原結合ユニットは、ファージ粒子上に表示される。
【0025】
本発明のさらに別の実施態様によれば、非一本鎖抗原結合ユニットの製造方法が提供される。この方法には、以下のステップ:(a)第一ヘテロ二量体化配列に融合して軽(L)鎖可変領域を含んでいる、軽(L)鎖ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチドと、第二ヘテロ二量体化配列に融合して重(H)鎖可変領域を含んでいる、重(H)鎖ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチドとを調製するステップであって、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記ステップと;そして、(b)前記第一ポリペプチド及び前記第二ポリペプチドを、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化させるステップ、を含む。二量体化のステップは、生体外でおこなってもよいし、生体内でおこなってもよい。
【0026】
また、本発明は、一本鎖抗原結合ユニットの製造方法を含む。この方法は、以下のステップ:(a)対象の一本鎖抗原結合ユニットをコードしているコード配列を含むポリヌクレオチドを宿主細胞において発現するステップ;そして、場合により(b)前記宿主細胞において発現された前記一本鎖抗原結合ユニットを分離するステップを含む。
【0027】
さらに、本発明は、宿主細胞の表面上に少なくとも2つのポリペプチドを含むキメラヘテロ多量体をディスプレイする方法を含む。この方法は、以下のステップ:前記宿主細胞において、(i)第一ヘテロ二量体化配列及び表面提示配列に融合した第一ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチドと;そして、(ii)第二ヘテロ二量体化配列に融合した第二ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチド、を発現させるステップであって、前記第一ポリペプチドと前記第二ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を形成できない、前記ステップを含む。一つの側面によれば、前記第一ポリヌクレオチド及び前記第二ポリヌクレオチドが、単一のファージディスプレイベクターにより発現される。別の態様によれば、前記第一ポリヌクレオチド及び前記第二ポリヌクレオチドが、別々のファージディスプレイベクターにより発現される。キメラヘテロ多量体は、好ましくは本発明の非一本鎖抗原結合ユニットである。
【0028】
また、本発明には、所望の抗原と免疫反応性である非一本鎖抗原結合ユニットを同定する方法が含まれる。この方法は、以下のステップ:(a)抗原結合ユニットの遺伝学的に種々のレパートリーを調製するステップであって、前記レパートリーが対象の1以上の抗原結合ユニットを含む、前記ステップと;(b)前記抗原結合ユニットのレパートリーを前記所望の抗原と接触させるステップと;そして、(c)抗原結合ユニットと前記抗原との間の特異的結合を検出することにより、前記所望の抗原と免疫反応性である前記抗原結合ユニットを同定するステップを含む。この実施態様の一つの側面によれば、抗原結合ユニットのレパートリーは、複数の抗原結合ユニットをコードしているベクターのライブラリーを発現させることにより調製される。好ましくは、ベクターのライブラリーは、複数のファージベクターを含む。
【0029】
最後に、本発明によれば、本発明のベクターを好適なパッケージに入れて含むキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】種々の抗原結合ユニットを示す概略図である。
【図2】対象Abusを構築するのに使用したGABAB受容体1及びGABAB受容体2のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す;コイルドコイル配列は、ヒトGABAB−R1受容体及びGABAB−R2受容体由来のものである;GABAB受容体1からのコードアミノ酸配列は、図2の上のパネルに示すように、EEKSから始まり、QLQSで終わる;GABAB受容体2からのコードアミノ酸配列は、図2の下のパネルに示すように、TSRLから始まり、QLQDで終わる;フレキシブルSerArgGlyGlyGlyGlyスペーサーを、R1とR2のヘテロ二量体化配列のアミノ末端に付加して機能的Fvヘテロ二量体が形成するようにした;このヘテロ二量体をさらに安定化させるために、本発明者等は、ValGlyGlyCysスペーサーを導入して、ヘテロ二量体性コイルドコイル対をシステイン残基の間のジスルフィド結合を介してロックした(配列番号2及び配列番号4);GGGGスペーサーのN末端でのSerArgコード配列により、GR1(GABAB1受容体由来のヘテロ二量体化配列)ドメイン及び GR2(GABAB2由来のヘテロ二量体化配列)ドメインのそれぞれVHフラグメント及びVLフラグメントのカルボキシル末端への融合のためのXbaI部位又はXhoI部位が得られる。
【図3A】2つの発現ベクターpABMX1及びpABMX2の概略図である;pABMX1とpABMX2の両方は、抗生物質選択用アンピシリン耐性遺伝子(Amp)、複製のプラスミドオリジン(colE1 ori)、複製のf1ファージオリジン(f1 ori)及びlacプロモーター/lacO1推進タンパク質発現カセット(pABMX1について、plac−RBS−p8リーダー−DHタグ、pABMX2について、plac−RBS−pelB リーダー−DHタグ)を含むpbluescript SK(+)由来のものであった;異種配列を、DH−タグ(HA及び6xHis tag)融合タンパク質として発現させ、シグナルペプチド(p8リーダー又はpelBリーダー)により、リーダー配列が切断されるペリプラスミドスペースに方向づける。
【図3B】pABMX1及びpABMX2のAgeI部位とBglII部位との間のlacプロモーターの後の配列(配列番号5〜8)を示す;HindIII/XbaI部位又はHindIII/NotI部位又はXbaI/NotI部位を使用して、pABMX1ベクターで発現される異種配列を挿入することができる;pABMX2ベクターに含まれるさらなるクローニング部位は、NcoI、PstI、XbaI及びNotIである。
【図4A】抗原結合ユニットをディスプレイするのに有用であるファージミドベクターpABMD1及びpABMD2の概略図であ る;pABMD1及びpABMD2は、それぞれpABMX1及びpABMX2に由来するものであった;これらは、pABMX1ベクター及びpABMX2ベクターの機能的要素の全て並びに繊維状ファージのpIII遺伝子を含む;pIII遺伝子を、DH−タグの3’端にすぐに隣接している位置に挿入し た;lacプロモーターは、pIIIキャプシド融合タンパク質としての異種配列の発現を推進し、次にKO7(Amersham Pharmacia Biotech社)又はR408ヘルパーファージ(Stratagene社)等のヘルパーファージの重複感染によりファージ粒子上にディスプレイする;また、このベクターを非サプレッサー細菌の菌株における可溶性タンパク質の発現に使用できる。
【図4B】pABMD1及びpABMD2のAgeI部位とSalI部位との間のlacプロモーターの後の配列(配列番号9〜12)を示す。
【図5A】ベクターpABMX5及びベクターpABMX6の概略図である;pABMX5及びpABMX6は、それぞれpABMX1及びpABMX2に由来するものであった;異なるリーダー配列を、pABMX5及びpABMX6に組み込んだ;異種配列の挿入用サブクローニング部位(例えば、VH遺伝子)も、これらの2つのベクターにおいて異なる;pABMX5は、p8リーダーを含み、pABMX6は、pelBリーダーを含む;lacプロモーターを用いる2つのタンパク質発現カセットを、これらの2つのベクターに組み込んだ;第一のカセットを使用してVH−GR1(GABAB受容体1のVH−ヘテロ二量体化配列)を発現し、第二のカセットを使用してVL−GR2(GABAB受容体2のVL−ヘテロ二量体化配列)を発現する;DH−タグをGR2ドメインに融合して、得られたヘテロ二量体の精製を容易にした。
【図5B】pABMX5ベクター及びpABMX6ベクターにおけるリーダー配列とDH−タグとの間の配列(配列番号13〜16)を示す;さらに、リボソーム結合部位、DH−タグ、VH、VL、GR1及びGR2の挿入のためのサブクローニング部位も示す。
【図6A】ファージ粒子上にccFvを発現及びディスプレイするのに有用であるファージミドベクター、pABMD5及びpABMD6の概略図である;pABMD5及びpABMD6は、それぞれpABMX5及びpABMX6に由来するものであった。繊維状ファージに由来するpIII遺伝子を、DH− タグのすぐ後に挿入した;VL−GR2タンパク質を、pIIIキャプシドタンパク質に連結してccFvヘテロ二量体のディスプレイを容易にした。
【図6B】pABMD5ベクター及びpABMD6ベクターについての、リーダー配列とpIIIとの間の配列(配列番号17〜20)を示す;さらに、リボソーム結合部位、DH−タグ、部分的pIII、VH、VL、GR1及びGR2の挿入のためのサブクローニング部位も示す。
【図7】酵母においてccFvフラグメントを発現するのに有用なベクターpAMEX7を示す。
【図8】pABMX1ベクターにより発現されたAM2−scFvフラグメントを用いたELISAアッセイの結果を示す;これらの結果は、用量依存的なAM2−scFvのその抗原AM2への結合を示す。
【図9】ファージ粒子上にディスプレイされたAM2−scFvフラグメントを用いたELISAアッセイの結果を示す;これらの結果は、ファージミドベクターpABMD1を用いてファージ粒子上に機能的scFvフラグメントが集合したことを示す。
【図10A】還元条件下及び非還元条件下で大腸菌(E.coli)中で発現されたAM1−ccFvのSDS−PAGE解析の結果を示す;得られた結果は、大腸菌(E.coli)中でヘテロ二量体性ccFvがうまく発現し且つ集合したことを示す。
【図10B】大腸菌(E.coli)中で発現された可溶性AM1−ccFvを用いたELISAアッセイの結果を示す;これらの結果は、対応の抗原に対する予想される結合特異性を有する機能性ccFvがうまく集合したことを示す。
【図11A】AM1−ccFv発現ファージの抗原結合能とAM1−scFv発現ファージの抗原結合能の比較を示す;得られた結果は、AM1−ccFvフラグメ ントを表示するファージ粒子は、慣用のscFvフラグメントをディスプレイするファージよりも、結合能がわずかに高いことを示す。
【図11B】AM2−ccFv発現ファージの抗原結合能とAM2−scFv発現ファージの抗原結合能の比較を示す;得られた結果は、AM2−ccFvフラグメントを ディスプレイするファージ粒子の結合能は、AM2−scFv発現ファージの結合能よりもほぼ一桁大きいことを示す。
【図12】各々が一つ以上の塩基性ccFvユニットを含む3つの多価Abu配置を示す。
【図13】各々が塩基性ccFvユニットとscFvフラグメント又はdsFvフラグメントとを含む、4つの2価Abu配置を示す。
【図14】各々が一つ以上の塩基性ccFvユニットと、一つ以上のscFvフラグメント又はdsFvフラグメントとを含む、3つの3価Abu配置を示す。
【図15】各々が別個の結合特異性を有する一つ以上の塩基性ccFvユニット及び/又はscFvフラグメント又はdsFvフラグメントを含む、4つの二重特異性Abu配置を示す。
【図16】3つのさらなる二重特異性Abu配置を示す。
【図17】各々が少なくとも一つの塩基性ccFvユニットと、少なくとも一つのscFvフラグメント又はdsFvフラグメントとを含む、3つの三重特異性Abu配置を示す。
【図18】ヘテロ二量体化配列を平行配置又は逆平行配置に配置した、2つの典型的な単一Abusを示す。
【図19】原核細胞又は真核細胞の表面上にディスプレイされるccFvの概略図である;一番上のパネルは、宿主細胞の表面に付着したファージ粒子によりディスプレイされたccFvを示す。
【図20】「モデルライブラリー」のパンニングからのAM2についての固定化タンパク質抗原を含むELISAを用いた「モデルファージライブラリー」のパンニングの結果を示す;「モデルライブラリー」は、AM2−ccFvファージと、関連のないファージであるAM1−ccFvとのそれぞれ1:106及び1:107の比の混合物を含有していた;AM2−ccFv反応性のみを検出したので、ELISAの読み取り値は、混合物におけるAM2−ccFvの集団を表す;第一ラウンドのパンニングの後、ELISAシグナルは検出されなかった;このことは、混合物に存在するAM2−ccFv画分がまだ低いことを示している;しかしながら、2ラウンドのパンニング後、測定されたAM2−ccFv画分が、ELISAシグナルが劇的に増加したことから明らかなように優勢になった。
【図21】図12に示すモデルライブラリーのパンニングを用いたAM2−ccFvの濃縮をPCR解析により確認した結果を示す;パンニングの前に、一つのAM2−ccFvファージが、107個の関係のないファージごとに検出された(0.00001%);第一ラウンドのパンニング後、AM2−ccFvの発生は4.4%に達し、そして第二ラウンドのパンニング後には100%に達した。
【図22】AM2−ccFvのVH(重鎖)のCDR3の設計を示す;変性DNAオリゴを、2つのサブクローニング制限部位に隣接した2つのPCRプライマーにより増幅した;オリゴを、まずPCRで増幅し、続いてサブクローニングしてAM2-ccFvのVHの野生型CDR3を置き換える前に制限消化した。
【図23】第5(上パネル)パンニング及び第7(下パネル)パンニングからランダムに選んだ個々のクローンからのAM2−ccFvファージELISAの結果を示す;各バーは、特定のAM2−ccFv変異体のOD405での読み取り値を示す。
【図24】AM2−ccFvCDR3VHライブラリーパンニングから選択された変異体の配列を示す;一番上には、ライブラリーのアミノ酸配列(但し、Xは図22に 示した変性DNAオリゴ由来の残基の複数の選択可能物を示す)が示されている;その下には、パンニングからの各「X」位置において選択された残基及びヒットレート(特定の残基の発生率)が示されている;ライブラリー設計により変更されなかった位置を、ブランクで示す;パンニング由来のコンセンサスを、一番下に示す。
【図25】AM2−ccFv変異体と野生型AM2−ccFvのKoff速度の比較を示す;曲線の勾配は、試験抗体が抗原から解離する速度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書で使用される略語の説明
1.Nsc:非一本鎖
2.Sc:一本鎖
3.Abu:抗原結合ユニット
4.Abus:抗原結合ユニット(複数)
4.L鎖:軽鎖
5.H鎖:重鎖
6.VL:軽鎖可変領域
7.VH:重鎖可変領域
【0032】
この開示全体を通じて、種々の刊行物、特許及び公表された特許明細書が、引用により言及される。これらの刊行物、特許及び公表された特許明細書は、参考文献として本開示中に援用されている。
【0033】
一般的方法:
本発明の実施では、特記のない限りは、当業者には明らかである免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクス及び組み換えDNAの慣用の方法が用いられる。例えば、Matthews,PLANT VIROLOGY、第3版(1991);Sambrook,Fritsch及びManiatis、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL(分子クローニング:実験マニュアル)、第2版(1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(分子生物学の現在のプロトコール)(編者F.M.Ausubel等(1987));METHODS IN ENZYMOLOGY(酵素学の方法)シリーズ(Academic Press社):PCR2:A PRACTICAL APPROACH(実用的手法)(M.J.MacPherson,B.D.Hames及びG.R.Taylor編(1995))、編者Harlow及び Lane(1988)ANTIBODIES,A LABORATORY MANUAL and ANIMAL CELL CULTURE(抗体、実験マニュアル及び動物細胞培養)(編者R.I.Freshney(1987))参照。
【0034】
本明細書及び特許請求の範囲では、用語は、特記のない限りは複数をも含む。例えば、用語「細胞」は、複数の細胞(混合物を含む)をも含む。
【0035】
定義:
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書では、いずれかの長さのアミノ酸のポリマーに言及するのに相互に交換可能に(同じ意味で)使用される。ポリマーは、線状でも、環状でも、分岐状でもよく、修飾アミノ酸を含んでいてもよく、また、非アミノ酸により中断されていてもよい。また、これらの用語は、例えば、硫酸化、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、ヨウ素化、メチル化、酸化、タンパク質分解処理、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、アミノ酸のタンパク質へのトランスファー−RNA媒介付加、例えば、アルギニル化、ユビキチン化、又は標識成分との結合等の他の操作により修飾されたアミノ酸ポリマーを包含する。本明細書で使用される用語「アミノ酸」は、天然及び/又は非天然又は合成のアミノ酸、例えば、グリシン及びD又はL光学異性体の両方、並びにアミノ酸類似体及びペプチド模倣体を意味する。
【0036】
指定されたタンパク質「由来」のポリペプチド又はアミノ酸配列は、ポリペプチドの起源を意味する。好ましくは、ポリペプチドは、配列中にコードされているポリペプチド又はその一部分と基本的に同一であるアミノ酸配列を有する。ここで、上記部分は、少なくとも10〜20アミノ酸、好ましくは少なくとも20〜30アミノ酸、より好ましくは少なくとも30〜50アミノ酸からなるか、又は配列中にコードされているポリペプチドで免疫学的に同定可能なものである。また、この用語には、指定された核酸配列から発現されたポリペプチドも含まれる。
【0037】
「キメラ」タンパク質は、天然で生じる配列とは異なる位置に領域を含む少なくとも一つの融合ポリペプチドを含む。これらの領域は、通常別個のタンパク質に存在し、融合ポリペプチドに一緒に入れられてもよいし;又はこれらは、通常同じタンパク質に存在するが、融合ポリペプチドにおける新しい配置に入れられたものでもよい。キメラタンパク質は、例えば、化学合成によるか、又はペプチド領域が所望の関係においてコードされているポリヌクレオチドを生成及び翻訳することにより生成できる。
【0038】
本明細書で使用される用語「多量体タンパク質」は、互いに関連して1以上の別個のポリペプチド又はタンパク質鎖を含んで、生体外又は生体内で単一の球状タンパク質を形成する、球状タンパク質を意味する。多量体タンパク質は、同じ種類の1以上のポリペプチドから成り、「ホモ多量体」を形成することができる。別法として、多量体タンパク質は、別個の配列の1以上のポリペプチドから構成されて「ヘテロ多量体」を形成してもよい。したがって、「ヘテロ多量体」は、少なくとも第一ポリペプチドと第二ポリペプチドを含む分子であって、第二ポリペプチドが、第一ポリペプチドとは、アミノ酸配列において、少なくとも一つのアミノ酸残基で異なる、分子である。ヘテロ多量体は、第一ポリペプチド及び第二ポリペプチドにより形成された「ヘテロ二量体」を含んでいてもよいし、又は2つを超えるポリペプチドが存在する高度三次構造を形成することができる。ヘテロ多量体のための典型的な構造には、ヘテロ二量体(例えば、Fvフラグメント及びFabフラグメント、二重特異性抗体(diabodies)、GABAB受容体1及び2複合体)、三量体Gタンパク質、ヘテロ四量体(例えば、F(ab’)2フラグメント)及びさらなるオリゴマー構造体などがある。
【0039】
キメラヘテロ多量体の「第一組み換えポリペプチド」は、それぞれ第一ポリペプチド及び第二ポリペプチドに連結した2つの二量体化配列の対による親和性を介して「第二組み換えポリペプチド」と関連しているか、関連していたいずれかのポリペプチドを意味する。好ましくは、第一ポリペプチド及び第二ポリペプチドは、免疫グロブリンの軽鎖又は重鎖由来の配列を含む。より好ましくは、第一ポリペプチド及び第二ポリペプチドは、所望の抗原に対する結合特異性を付与するNsc Abuを形成する。
【0040】
「第一ヘテロ二量体化配列」は、「第二ヘテロ二量体化配列」と関連しているか、又は関連していた いずれかの二量体化配列を意味する。ここで、第二ヘテロ二量体化配列は、アミノ酸配列において、少なくとも一つのアミノ酸残基だけ異なる。「ヘテロ二量体 化対」は、ヘテロ二量体を形成することができる2つのヘテロ二量体化配列を意味する。
【0041】
本明細書で使用される用語「抗体」は、免疫グロブリン分子、及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、抗原と特異的に結合する(「と免疫反応する」)抗原結合部位を含む分子を意味する。構造的には、最も単純な天然の抗体(例えば、IgG)は、ジスルフィド結合により相互接続された、4つのポリペプチド鎖(2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖)を含む。免疫グロブリンは、数種の分子、例えば、IgD、IgG、IgA、IgM及びIgEを含む大きな分子群を表す。用語「免疫グロブリン分子」には、例えば、ハイブリッド抗体又は変更抗体、それらの断片などが含まれる。抗体の抗原結合機能は、天然の抗体のフラグメントにより果たされることができることが判明した。これらのフラグメントは、まとめて「抗原結合ユニット(複数)」(「Abus」)と称される。Abusは、それらの分子構造に基づいて、おおざっぱに「一本鎖」(「Sc」)型及び「非一本鎖」(「Nsc」)型に分けられる。
【0042】
用語「抗体」及び「Abus」には、無脊椎動物及び脊椎動物などの多種多様な種に由来するの免疫グロブリン分子も包含される。抗体又はAbuに適用したときの用語「ヒト」は、ヒト遺伝子又はそのフラグメントにより発現される免疫グロブリン分子を意味する。非ヒト(例えば、齧歯類又は霊長類)抗体に適用したときの用語「ヒト化」は、ハイブリッド免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はそのフラグメント(非ヒト免疫グロブリン由来の最小の配列を含む)を意味する。大部分において、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ又は霊長類等の非ヒト種(ドナー抗体)のCDRから残基により置き換えられた、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基により置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも移入CDR配列又はフレームワーク配列にもみられない残基を含んでいてもよい。抗体性能を改善し且つ最適化するとともに、ヒトの体に導入したときに、免疫原性を最小限とするために、修飾がなされる。一般的に、ヒト化抗体は、少なくとも一つ及び典型的に2つの可変領域の実質的に全てを含む。ここで、CDR領域の全て又は実質的に全てが、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR領域の全て又は実質的に全てが、ヒト免疫グロブリン配列のものである。また、ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部を含んでいてもよい。
【0043】
「非一本鎖抗原結合ユニット」(「Nsc Abus」)は、軽鎖ポリペプチドと重鎖ポリペプチドとを含むヘテロ多量体である。Nsc Abusとしては、例えば、(i)本明細書で開示されているヘテロ二量体化配列により安定化されたccFvフラグメント(図1);(ii)本明細書で記載されている少なくとも一つのccFvフラグメントを含むいずれか他の一価分子及び多価分子;(iii)VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン及びCH1ドメインからなるFabフラグメント;(iv)VHドメイン及びCH1ドメインからなるFdフラグメント;(v)抗体の単一アームのVLドメイン及びVHドメインからなるFvフラグメント;(vi)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメントであるF(ab’)2フラグメント;(vii)二重特異性抗体(diabody);及び(viii)Little等(2000)Immunology Todayに記載されているいずれか他のNsc Abusがあるが、これらには限定されない。
【0044】
上記したように、NscAbusは、「一価」でも、「多価」でもよい。前者は、一抗原結合ユニットあたり一つの結合部位を有しているのに対して、後者は、同じ又は異なる種類の1以上の抗原に結合することができる複数の結合部位を含んでいる。結合部位の数に応じて、NscAbusは、二価(2つの抗原結合部位を有する)、三価(3つの抗原結合部位を有する)、四価(4つの抗原結合部位を有する)等であることができる。
【0045】
多価NscAbusは、さらにそれらの結合の特異性に基づいて分類できる。「単一特異性」NscAbuは、同じ種類の一つ以上の抗原に結合できる分子である。「多重特異性」NscAbuは、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する分子である。このような分子は、通常2つの別個の抗原にしか結合しない(すなわち、二重特異性Abus)が、三重特異性抗体等のさらなる特異性を有する抗体は、本明細書中で使用するときにこの表現に包含される(例えば、図15〜図17参照)。二重特異性抗原結合ユニットとしては、例えば、一つのアームが腫瘍細胞抗原に指向し、他のアームが細胞障害トリガー分子に指向しているもの、例えば、抗FcγRI/抗CD15、抗p185HER2/FcγRIII(CD16)、抗CD3/抗悪性B細胞(1D10)、抗CD3/抗p185HER2、抗CD3/抗p97、抗CD3/抗腎細胞癌、抗CD3/抗OVCAR−3、抗CD3/L−D1(抗大腸癌)、抗CD3/抗メラニン細胞刺激ホルモン類似体、抗EGF受容体/抗CD3、抗CD3/抗CAMA1、抗CD3/抗CD19、抗CD3/MoV18、抗神経細胞接着分子(NCAM)/抗CD3、抗葉酸結合タンパク質(FBP)/抗CD3、抗パンカルシノーマ(pancarcinoma)関連抗原(AMOC−31)/抗CD3;一つのアームが腫瘍抗原に特異的に結合し、一つのアームがトキシンに結合する二重特異性Abus、例えば、抗サポリン/抗Id−1、抗CD22/抗サポリン、抗CD7/抗サポリン、抗CD38/抗サポリン、抗CEA/抗リシンA鎖、抗インターフェロン−α(IFN−α)/抗ハイブリドーマイディオタイプ、抗CEA/抗ビンカアルカロイド;酵素活性化プロドラッグを転化するためのBsAbs、例えば、抗CD30/抗アルカリホスファターゼ(マイトマイシンホスフェートプロドラッグのマイトマイシンアルコールへの転化を触媒する);線維素溶解薬として使用できる二重特異性Abus、例えば、抗フィブリン/抗組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、抗フィブリン/抗ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(uPA);免疫複合体を細胞表面受容体に対して標的とするための二重特異性抗原結合ユニット、例えば、抗低密度リポタンパク質(LDL)/抗Fc受容体(例えば、FcγRI、FcγRII又はFcγRIII);感染症の治療に使用される二重特異性Abus、例えば、抗CD3/抗単純ヘルペスウイルス(HSV)、抗T細胞受容体:CD3複合体/抗インフルエンザ、抗FcγR/抗HIV;生体外又は生体内における腫瘍検出のための二重特異性Abus、例えば、抗CEA/抗EOTUBE、抗CEA/抗DPTA、抗p185HER2/抗ハプテン;ワクチン補助剤としてのBsAbs(上記したFanger等参照);並びに診断ツールとしての二重特異性Abus、例えば、抗ウサギIgG/抗フェリチン、抗ホースラディシュペルオキシダーゼ(HRP)/抗ホルモン、抗ソマトスタチン/抗物質P、抗HRP/抗FITC、抗CEA/抗ベータ−ガラクトシダーゼ(上記したNolan等参照)などがある。三重特異性抗体としては、例えば、抗CD3/抗CD4/抗CD37、抗CD3/抗CD5/抗CD37及び抗CD3/抗CD8/抗CD37などを含む。
【0046】
「一本鎖抗原結合ユニット」(「Sc Abu」)は、単量体Abuを意味する。Fvフラグメントの2つのドメインは別個の遺伝子によりコードされているが、組み換え法により、Bird等(1988)Science 242:423−426及びHuston等(1988)PNAS 85:5879−5883)に記載されているような単一タンパク質鎖(すなわち、一本鎖Fv(「scFv」)として製造できる合成リンカーを製造できる。他のSc Abusには、対象のヘテロ二量体化配列により安定化された抗原結合分子(例えば、図18参照)、及びVHドメインと分離された相補性決定領域(CDR)からなるdAbフラグメント(Ward等(1989)Nature341:544−546)などがある。連結ペプチドの一例として、一つのV領域のカルボキシル末端と別のV領域のアミノ末端との間の約3.5nmを架橋する(GGGGS)3がある。他のリンカー配列を使用することもでき、さらなる機能、例えば、薬剤又は固体支持体を結合させるための手段を提供できる。好ましい一本鎖抗原結合ユニットは、1対の対象ヘテロ二量体化配列により一緒に連結及び安定化されたVL領域及びVH領域を含む。scFvは、いずれの順序で構築してもよく、例えば、VH−(第一ヘテロ二量体化配列)−(第二ヘテロ二量体化配列)−VL又はVL−(第一ヘテロ二量体化配列)−(第二ヘテロ二量体化配列)−VHの順序でよい。
【0047】
「抗原結合ユニットのレパートリー」は、複数の抗原結合ユニットであって、そのうちの少なくとも2つが別個の結合特異性を示す、抗原結合ユニットを意味する。抗原結合ユニットの遺伝学的に多様なレパートリーは、複数の抗原結合ユニットを意味し、抗原結合ユニットの大部分及びさもなければ抗原結合ユニットの全てが、互いに独特の結合特異性を示す。遺伝学的に多様なレパートリーは、典型的には少なくとも106〜1013、好ましくは107〜109、より好ましくは108〜1010、さらにより好ましくは108〜1011の別個の抗原結合ユニットの複雑性を有する。
【0048】
抗体又はAbuは、ポリペプチド又は他の物質を含む他の標準抗原に結合するよりも大きな親和性又はアビディティで結合する場合には、抗原「に特異的に結合する」か、又は「と免疫反応する」。
【0049】
Abuが宿主細胞の外表面で提示されるときには、Abuは、「宿主細胞の表面上」でディスプレイされる。ディスプレイされたAbuは、宿主細胞の外表面に直接結合してもよいし、ファージ粒子等の宿主細胞結合遺伝子パッケージを介して宿主細胞に間接的に結合してもよい。
【0050】
「表面提示配列」は、異種配列のディスプレイを容易にする配列を意味する。典型的には、表面提示配列は、遺伝子パッケージ、例えば、ファージ又は細菌の外表面に存在する。ファージの好ましい表面提示配列は、M13繊維状ファージのpIIIである。
【0051】
本明細書で使用される用語「抗原」は、抗体により特異的に認識され且つ結合される物質を意味する。抗原としては、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、多糖類及び脂質;それらの一部分及びそれらの組み合わせを含むことができる。
【0052】
本明細書で使用される用語「表面抗原」は、細胞の形質膜成分を意味する。表面抗原は、形質膜を構成する内在性及び表在性膜タンパク質、糖タンパク質、多糖類及び脂質を包含する。「内在性膜タンパク質」は、細胞の形質膜の脂質二分子層にわたって延びている膜貫通型タンパク質である。典型的な内在性膜タンパク質は、一般的に疎水性アミノ酸残基を含む少なくとも一つの「膜スパンニングセグメント」からなる。表在性膜タンパク質は、脂質二分子層の疎水性内部に延びておらず、且つ他の膜タンパク質との非共有結合性相互作用によって膜表面に結合される。
【0053】
細胞タンパク質に適用したときの用語「膜」、「細胞質」、「核」及び「分泌された」は、細胞タンパク質がほとんど、大部分又は優先的に局在化している細胞外及び/又は亜細胞の位置を規定する。
【0054】
「細胞表面受容体」は、それぞれのリガンドに結合できる膜タンパク質の一部分を表す。細胞表面受容体は、細胞形質膜に固定又は挿入された分子である。これらは、形質膜の構造成分としての役割を果たすだけでなく、種々の生物学的機能を支配する調節要素としての役割を果たす、タンパク質、糖タンパク質、多糖類及び脂質の大きな群を構成する。
【0055】
「ヘテロ二量体性受容体」は、リガンドに対して結合親和性を示す二つのタンパク性サブユニットからなる細胞タンパク質を包含する。これらの2つのタンパク性サブユニットは、アミノ酸配列において、少なくとも一つのアミノ酸残基だけ異なる別個の分子である。ヘテロ二量体性受容体として、増殖因子(例えば、ヘレグリン)、神経伝達物質(例えば、γ−アミノ酪酸)及び他の有機又は無機小分子(例えば、ミネラルコルチコイド、グルココルチコイド)に結合するものが挙げられるが、これらには限定されない。好ましいヘテロ二量体性受容体には、核ホルモン受容体である(Belshaw等(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 93(10):4604−4607)、erbB3及びerbB2受容体複合体並びにGタンパク質結合型受容体、例えば、オピオイド(Gomes等(2000)J.Neuroscience 20(22):RC110);Jordan等(1999)Nature 399:697−700)、ムスカリン性、ドーパミン、セロトニン、アデノシン/ドーパミン及びGABAB群の受容体などがあるが、これらには限定されない。
【0056】
「ドメイン」は、タンパク質又はペプチドの他の部分から物理的又は機能的に区別されるタンパク質の一部分を意味する。物理的に定義されるドメインには、極めて疎水性又は親水性であるアミノ酸配列、例えば、膜関連又は細胞質関連の配列なとが含まれる。また、ドメインは、例えば、遺伝子重複から生じる内部相同性により定義することもできる。機能的に定義されるドメインは、別個の生物学的機能(単一又は複数)を有する。例えば、受容体のリガンド結合ドメインは、リガンドに結合するドメインである。抗原結合ドメインは、抗原に結合する抗原結合ユニットの部分又は抗原に結合する抗体を意味する。機能的に定義されるドメインは、近接するアミノ酸配列によりコードされる必要がない。機能的に定義されるドメインは、一つ以上の物理的に定義されるドメインを含んでいてもよい。例えば、受容体は、一般的に細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通型ドメイン及び細胞内エフェクタードメインに分けられる。「膜固定ドメイン」は、膜会合を媒介するタンパク質の部分を意味する。一般的に、膜固定ドメインは、疎水性アミノ酸残基からなる。また、膜固定ドメインは、修飾アミノ酸、例えば、脂肪酸鎖に結合し、次にタンパク質を膜に固定するアミノ酸を含むことができる。
【0057】
「宿主細胞」には、対象ベクターについてレシピエントであることができるか、レシピエントであった個々の細胞又は細胞培養が含まれる。宿主細胞には、単一の宿主細胞の子孫が含まれる。子孫は、最初の親細胞とは、自然、偶然又は意図的な突然変異のために、完全に同一(形態学的に又は総DNAのゲノムにおいて)である必要はない。宿主細胞には、本発明のベクターを生体内トランスフェクションした細胞などが含まれる。
【0058】
「細胞株」又は「細胞培養」は、生体外で成長又は維持される細菌、植物、昆虫又は高等真核細胞を意味する。細胞の子孫は、親細胞に完全に同一(形態学、遺伝子型又は表現型の面で)でなくてもよい。
【0059】
「定義された培地」は、培地の成分が公知であるような培養における細胞の生存及び/又は成長に必要な栄養上及びホルモン上の要求を含む培地を意味する。従来、定義された培地は、成長及び/又は生存のために必要な栄養因子及び成長因子を付加することにより処方されてきた。典型的には、定義された培地により、以下のカテゴリーの一つ以上からの少なくとも一つの成分が供給される:a)全ての必須アミノ酸、及び通常20アミノ酸+システインからなる基本的な組;b)通常グルコース等の炭水化物の形態のエネルギー源;c)低濃度で必要とされるビタミン類及び/又は他の有機化合物;d)遊離脂肪酸;及びe)典型的に極めて低濃度(通常マイクロモル範囲)で必要とされる、無機化合物又は天然元素として定義される微量元素。また、定義された培地には、以下のカテゴリーのいずれかからの一つ以上の成分を必要に応じて補充することができる:a)一種以上の分裂促進剤;b)例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩及びホスフェートとしての塩及び緩衝剤;c)例えば、アデノシン及びチミジン、ヒポキサンチン等のヌクレオシド及び塩基;並びにd)タンパク質及び組織加水分解物。
【0060】
本明細書で使用される用語「単離された」とは、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はそれらのフラグメントが自然状態では通常関連している、成分、細胞等から分離されたことを意味する。当業者には明らかなように、非天然のポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はそれらのフラグメントは、その天然の対応物から区別するのに、「単離」を必要としない。さらに、「濃縮された」、「分離された」又は「希釈された」ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はそれらのフラグメントは、その天然の対応物とは、容積あたりの分子の濃度又は数が、その天然の対応物の「濃縮された」ものよりも大きいか、「分離された」ものよりも小さい点で区別できる。
【0061】
濃縮は、溶液の容積あたり重量等の絶対基準で測定してもよいし、又はソース混合物に存在する第二の干渉する可能性のある物質との関連で測定できる。本発明の実施態様では、濃縮度を増加すればするほど好ましい。したがって、例えば、2倍濃縮が好ましく、10倍濃縮がより好ましく、100倍濃縮がさらに好ましく、1000倍濃縮がさらにもっと好ましい。また、物質を、化学合成又は組み換え発現による等の人工的アセンブリプロセスにより単離された状態で提供することができる。
【0062】
「連 結した」及び「融合した」又は「融合」は、ここでは可換性に使用される。これらの用語は、化学的共役又は組み換え手段を含むどのような手段であろうとも、2つ以上の化学元素又は成分を一緒に連結することを意味する。「フレーム内での融合」とは、2つ以上のオープンリーディングフレーム(OFR)を、最初のOFRの正しいリーディングフレームを維持するように連結して、連続したより長いOFRを形成することを意味する。したがって、得られる組み換え融合タンパク質は、最初のOFRによりコードされているポリペプチドに相当する2つ以上のセグメントを含む単一のタンパク質である(セグメントが自然の状態では通 常そのように連結されていない)。したがって、リーディングフレームは、融合されたセグメント全体を通して連続に形成されるが、セグメントは、以下で記載する、例えば、フレーム内リンカー配列(例えば、「フレクソン」)により、物理的又は空間的に分離できる。
【0063】
ポリペプチドとの関連で、「直鎖状配列」又は「配列」は、配列において互いに隣り合う残基がポリペプチドの一次構造において連続している、アミノ末端からカルボキシル末端方向におけるポリペプチドでのアミノ酸の順序である。「部分配列」は、一方向又は両方向においてさらなる残基を含むことが知られているポリペプチドの一部分の直鎖状配列である。
【0064】
「異種」とは、比較される残りの存在物とは遺伝子型で区別可能な存在物に由来することを意味する。例えば、天然コード配列から取り出され且つ天然配列以外のコード配列に作動可能に連結されているプロモーターは、異種のプロモーターである。ポリヌクレオチド、ポリペプチドに適用される用語「異種」とは、ポリヌクレオチド又はポリペプチドが、比較されている残りの存在物とは遺伝子型として別個の存在物に由来していることを意味する。例えば、異種のポリヌクレオチド又は抗原は、異なる種の起源、異なる細胞型、及び別個の個体の同じ種類の細胞に由来するものでよい。
【0065】
用語「ポリヌクレオチド」、「核酸」、「ヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」は、可換性に使用される。これらは、デオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチド又はそれらの類似体であるいずれかの長さのポリマー型ヌクレオチドを意味する。ポリヌクレオチドは、3次元構造を有していてもよく、且つ公知又は未知の機能を果たすものでよい。以下に、ポリヌクレオチドの例を示すが、これらには限定されない:遺伝子又は遺伝子フラグメントのコード領域又は非コード領域、結合解析から定義される座、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、いずれかの配列の単離DNA、いずれかの配列の単離RNA、核酸プローブ及びプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体等の修飾ヌクレオチドを含んでいてもよい。もし存在する場合には、ヌクレオチド構造に対する修飾を、ポリマーの集合の前又は後に加えることができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分により中断されていてよい。ポリヌクレオチドは、例えば、標識成分との結合により、重合後にさらに修飾してもよい。
【0066】
ポリヌクレオチドに適用される「組み換え」は、ポリヌクレオチドは、クローニングステップ、制限ステップ及び/又はライゲーションステップ、並びに自然の状態でみられるポリヌクレオチドとは別個である構築物を生じる他の手順の種々の組み合わせの産物であることを意味する。
【0067】
用語「遺伝子」又は「遺伝子フラグメント」は、本明細書では可換性に使用される。これらは、転写及び翻訳された後、特定のタンパク質をコードすることができる少なくとも一つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを意味する。遺伝子又は遺伝子フラグメントは、ポリヌクレオチドが全体のコード領域又はそのセグメントをカバーすることができる少なくとも一つのオープンリーディングフレームを含む限り、ゲノム又はcDNAであることができる。
【0068】
「作動可能に連結された」とは、そのように記載された構成要素が、それらの意図する方法で機能することができる関係にある並置を意味する。例えば、プロモーター配列がコード配列の転写を促進する場合には、プロモーター配列は、コード配列に作動可能に連結される。
【0069】
「融合遺伝子」は、互いに連結された少なくとも2つの異種のポリヌクレオチドからなる遺伝子である。
【0070】
遺伝子「データベース」は、生物学的標準物質の集合を表すヌクレオチド及びペプチド配列を含む配列の集合を表す一連の保存データを意味する。
【0071】
本明細書で使用される用語「発現」は、ポリヌクレオチドがmRNAに転写されるプロセス及び/又は転写されたmRNA(「転写物」とも称される)が続いてペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に翻訳されるプロセスを意味する。転写物及びコードされているポリペプチドは、まとめて遺伝子産物と称される。ポリヌクレオチドがゲノムDNA由来である場合には、発現は、真核細胞におけるmRNAのスプライシングを含んでいてよい。
【0072】
本明細書で使用される用語「対象」とは、発現された遺伝子物質を含む生物学的存在物を意味する。生物学的存在物は、好ましくは植物、動物又はバクテリア、ウィルス、菌類及び原生動物を含む微生物である。生体内で得られたか、又は生体外で培養された生物学的存在物の組織、細胞及びそれらの子孫も、含まれる。
【0073】
「ベクター」は、挿入された核酸分子を、宿主細胞中及び/又は間でトランスファーする核酸分子、好ましくは自己複製核酸分子である。この用語は、主として細胞へのDNA又はRNAの挿入について機能するベクター、主としてDNA又はRNAの複製について機能するベクターの複製、及びDNA又はRNAの転写及び/又は翻訳について機能する発現ベクターなどを含む。また、上記機能の複数を提供するベクターも含まれる。
【0074】
「発現ベクター」は、適切な宿主細胞に導入されたときに、ポリペプチド(単一又は複数)に転写及び翻訳されることができるポリヌクレオチドである。「発現系」は、通常所望の発現産物が得られるように機能することができる発現ベクターを含む好適な宿主細胞をも意味する。
【0075】
「レプリコン」は、適切な宿主細胞においてポリヌクレオチドの複製を可能にする複製源(一般的にori配列と称される)を含むポリヌクレオチドを意味する。レプリコンには、例えば、エピソーム(プラスミド等)、並びに染色体(例えば、核又はミトコンドリア染色体)などが含まれる。
【0076】
本発明のキメラヘテロ多量体
上記したように、多量体タンパク質の生物学的機能を確保するには、安定な複合体を形成するためのポリペプチドサブユニットの適切な会合が必要である。したがって、本発明の中心的態様は、選択された単量体ポリペプチドの特異的会合がヘテロ多量体を効率的に産生できる方法の設計にある。実験計画法が、結合の特異性が特定の方法での特異的サブユニットの会合に依存するAbus等のヘテロ多量体の生成及びスクリーニングに特に有用である。以前に報告したキメラAbusとは区別される対象Abusは、以下の独特な特徴の一つ以上を有している。第一に、Abusは2つのヘテロ二量体化配列の対による親和性により再構成される。この際、2つのヘテロ二量体化配列の少なくとも一つ、好ましくは両方が、ホモ二量体を検出可能な程度に形成する傾向を欠いている。生物学的緩衝条件と生物学的体温の両方の下でホモ二量体を形成することが知られているFos及びJunロイシンジッパー等の以前に報告した二量体化配列(O’Shea等(1992)Cell 68:699−708;Vidal等(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A)とは異なり、対象のヘテロ二量体化配列は、規定の緩衝条件下及び/又は規定の体温ではホモ二量体を基本的に形成できない。また、対象のヘテロ二量体化配列は、以下で詳細に述べるように以前に用いられた配列とは構造レベルで区別することができる。
【0077】
本発明の一実施態様によれば、宿主細胞の表面上に表示されるキメラヘテロ多量体が提供される。ここで、ヘテロ多量体は、以下の:(i)第一ヘテロ二量体化配列及び表面提示配列に融合した第一ポリペプチド;(ii)第二ヘテロ二量体化配列に融合した第二ポリペプチドを含み;ここで、前記第一ポリペプチドと前記第二ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し;且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない。
【0078】
本発明の別の実施態様によれば、以下の:(a)第一ヘテロ二量体化配列に連結した軽鎖可変領域を含んでいる軽鎖ポリペプチド;(b)第二ヘテロ二量体化配列に連結した重鎖可変領域を含んでいる重鎖ポリペプチドとを含んでなり、ここで、前記軽鎖ポリペプチドと前記重鎖ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ポリペプチドの少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、NscAbuが提供される。本発明の別の側面によれば、ヘテロ二量体性受容体に由来する第一ヘテロ二量体化配列と第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して、軽鎖ポリペプチドと重鎖ポリペプチドが二量体化するNscAbuが提供される。一の側面によれば、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列が、前記受容体のヘテロ二量体化を仲介するヘテロ二量体化受容体配列を含む。
【0079】
本発明の別の実施態様によれば、軽鎖可変領域と重鎖可変領域とを含み、前記軽鎖可変領域と前記重鎖可変領域が、前記領域の一方のC末端と前記他の領域のN末端の間の距離をまたがった第一ヘテロ二量体化配列と第二ヘテロ二量体化配列により接続されており、ここで、前記2つの領域が、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、ScAbuが提供される。この実施態様の別の側面によれば、本発明により、軽鎖可変領域と重鎖可変領域が、ヘテロ二量体性受容体に由来する2つのヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成する、ScAbuが提供される。一の側面によれば、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列が前記受容体のヘテロ二量体化を仲介するヘテロ二量体化受容体配列を含む。
【0080】
ヘテロ二量体化配列の選択:
いくつかの因子が、上記した特性の一つ以上を有するAbusの設計に適用される。最初に、ヘテロ二量体化配列は、対による親和性を示して安定な複合体を形成しなければならない。「安定な」とは、複合体又は二量体が、複合体又は二量体の形成と、それに続いての検出及び/又は精製との間の期間に存続する程度に十分に長期間存続することを意味する。複合体又は二量体は、どのような条件が存在し、また、形成時と検出時との間に導入されたとしてもそれらに耐えることができなければならない。これらの条件は、おこなわれるアッセイ又は反応と相関している。好ましくは、複合体又は二量体の形成は、生理学的緩衝条件下及びほぼ室温〜ほぼ37℃の範囲の生理学的体温で実施される。場合により存在することができ、且つ複合体又は二量体を除去することができる介在条件には、洗浄、加熱、さらなる溶質又は溶媒の反応混合物(例えば、変性物)への添加、さらなる反応種との競合などがある。安定な複合体又は二量体は、不可逆性であっても、可逆性であってもよいが、この定義の他の要件を満足しなければならない。したがって、過渡的複合体又は二量体が反応混合物中で形成することがあるが、これは、生理学的緩衝条件下で自然に解離するか、新たに課せられた条件又は検出前に導入された操作の結果として解離する場合には、安定な複合体を構成しない。
【0081】
第二に、選択されたヘテロ二量体化配列は、対による親和性を示して、優越的にヘテロ二量体を形成してホモ二量体を実質的に排除しなければならない。好ましくは、優越した形成により、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温で形成されることができる、ヘテロ二量体を少なくとも60%、より好ましくはヘテロ二量体を少なくとも80%、より好ましくはヘテロ二量体を85〜90%、より好ましくはヘテロ二量体を90〜95%、さらにより好ましくはヘテロ二量体を96〜99%含有するヘテロ多量体プールが得られる。本発明のある実施態様によれば、Abuを再構成するのに用いられるヘテロ二量体化配列の少なくとも一つは、生理学的緩衝液及び/又は生理学的体温ではホモ二量体を基本的に形成できない。「基本的に形成できない」とは、単独で試験したときに、選択されたヘテロ二量体化配列が、Kammerer等(1999)Biochemistry 38:13263−13269)に詳細に記載されている生体外沈降実験、又は生体内酵母ツーハイブリッド解析(例えば、White等、Nature(1998)396:679−682参照)においては、検出できる量のホモ二量体を形成しないことを意味する。具体的には、Kammerer等は、沈降実験により、GABABの受容体1及び2のヘテロ二量体化配列は、単独で試験したときに、生理学的条件下及び生理学的体温(例えば、37℃)で、単量体の分子質量で沈降することを明らかにした。等モル量で混合すると、GABABの受容体1及び2のヘテロ二量体化配列は、2つの配列のヘテロ二量体に対応する分子質量で沈降する(Kammerer等の表1参照)。さらに、個々のヘテロ 二量体化配列は、宿主細胞において発現でき、宿主細胞にホモ二量体が存在しないことは、SDS−PAGE、ウェスタンブロット及び免疫沈降を含むがこれらには限定されない種々のタンパク質分析により明らかにすることができる。生体外アッセイは、生理学的緩衝条件下及び/又は好ましくは生理学的体温でおこなわなければならない。一般的に、生理学的緩衝液は、生理学的濃度の塩を含有し、pHを約6.5〜約7.8の中性pH範囲、好ましくは約7.0〜約7.5のpHに調整してある。種々の生理学的緩衝液が、上記したSambrook等(1989)に挙げられており、したがって、ここでは詳細には説明しない。好ましい生理学的条件が、上記したKammerer等に記載されている。
【0082】
ヘテロ二量体化配列の特異的関連には、典型的には非共有結合性相互作用が含まれる。このような相互作用には、共有結合を生じない全ての存在する安定な結合が含まれる。非共有結合性相互作用としては、静電結合、水素結合、ファンデルワールス力、両親媒性ペプチドの立体的嵌合などが含まれるが、これらには限定されない。
【0083】
対象Abuを設計する際にさらに考慮することは、ヘテロ二量体化配列と、得られたヘテロ多量体の抗原結合部位との間の構造的干渉を最小限とすることである。内部構造の干渉を最小限としたキメラヘテロ多量体を設計するには、当該技術分野における種々の方法が使用できる。例えば、一つの方法として、ヘテロ二量体化に必要とされるアミノ酸残基のみを含む最小ヘテロ二量体化配列を使用することがある。第二の方法は、ヘテロ二量体化配列を、得られたヘテロ多量体のN末端又はC末端に連結することである。どちらの末端を選択するかは、ヘテロ多量体の生物学的活性ドメインの位置に依存する。抗原結合部位が軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のN末端側半分にあるキメラAbuを構築するためには、軽鎖又は重鎖のC末端にヘテロ二量体化配列を連結することが好ましい。別の代替設計では、「フレクソン」を、ヘテロ多量体の抗原結合部位とヘテロ二量体化配列との間に組み込んで用いる。本明細書で使用される用語「フレクソン」は、典型的に小側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びセリン)を含むフレキシブルポリペプチドリンカー(又はこのようなポリペプチドをコードしている核酸配列)を意味する。対象Abuの一つ以上の部位の間にフレクソンを組み込むことは、それらが相対的に互いに独立している立体構造をとることにより、機能性を促進すると思われる。このような構成により、一般的に抗原結合ドメインにさらなるフレキシビリティが付与される。好適なフレクソンは、好ましくはアミノ酸を、約4〜約100、より好ましくは約4〜50、さらにより好ましくは約4〜15含む。
【0084】
対象のAbusを構築するのに適用できるヘテロ二量体化配列は、種々のソースから得ることができる。一般的に、安定なヘテロ多量体の形成に関与しているタンパク質配列は、ヘテロ二量体化配列の候補である。そのようなものとして、これらの配列を、ヘテロ多量体タンパク質複合体から得ることができる。代表的な候補配列には、アデノ関連ウイルスのキャプシドタンパク質等のウイルスタンパク質、SH2ドメイン含有タンパク質と相互作用するタンパク質キナーゼリン酸化部位である(Cantely等(1993)Cell 72:767−778;Cantely等(1995)J.Biol.Chem.270(44):26029−26032)、ヘテロマーの形成を仲介する転写因子及びヘテロ二量体性受容体のドメインがある。
【0085】
好ましいヘテロ多量体転写因子には、a−Pal/Max複合体及びHox/Pbx複合体がある。Hoxは、胚形成中に前−後軸のパターンニングに関与する大きな転写因子群を表す。Hoxタンパク質は、保存された3つのアルファらせんホメオドメインを有するDNAと結合する。特異的にDNA配列に結合するためには、Hoxタンパク質には、Pbxホメオドメイン等のヘテロパートナーが存在する必要がある。Wolberger等は、Hox−Pbx複合体の形成がどのようにして生じるか、及びこの複合体がどのようにしてDNAに結合するかを理解するために、HoxB1−Pbx1−DNA三元複合体の2.35A結晶構造を解明した。この構造から、各タンパク質のホメオドメインが、DNAの反対側の隣接する認識配列に結合することが分かる。ヘテロ二量体化は、6アミノ酸ヘキサペプチドN末端とHoxB1のホメオドメインとの間で形成される接点、及びらせん3とらせん1及び2との間で形成されるPbx1におけるポケットを介して生じる。Pbx1ホメオドメインのC末端延長により、らせん1に対して充填するアルファらせんが形成されてより大きな4らせんホメオドメインを形成する(Wolberger等(1999)Cell 96:587−597;Wolberger等 J Mol Biol.291:521−530)。
【0086】
また、おびただしい数のヘテロ二量体性受容体も、同定された。これらには、成長因子(例えば、ヘレグリン)、神経伝達物質(例えば、γ−アミノ酪酸)及び他の有機又は無機小分子(例えば、ミネラルコルチコイド、グルココルチコイド)に結合するものがあるが、これらには限定されない。好ましいヘテロ二量体性受容体には、核ホルモン受容体(Belshaw等(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 93(10):4604−4607)、erbB3及びerbB2受容体複合体並びにGタンパク質結合型受容体、例えば、オピオイド(Gomes等(2000)J.Neuroscience 20(22):RC110);Jordan等(1999)Nature 399:697−700)、ムスカリン性、ドーパミン、セロトニン、アデノシン/ドーパミン及びGABAB群の受容体などがあるが、これらには限定されない。公知のヘテロ二量体性受容体の大部分については、それらのC末端配列は、ヘテロ二量体形成を仲介する。
【0087】
所望により、新規なヘテロ二量体性受容体からの配列を、対象のAbusを構築するのに用いることができる。このような状況では、一定の受容体対における候補のヘテロ二量体化配列の同定は、過度の実験をおこなうことなく、遺伝アッセイ又は生化学アッセイによりおこなうことができる。さらに、コンピュータによるモデリング及びサーチ技術により、関連遺伝子及び非関連遺伝子において現れる共通ドメインの配列ホモロジーに基づくヘテロ二量体化配列の検出が、さらに容易となる。ホモロジーサーチが可能であるプログラムには、Blast(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)、 Fasta(ウィスコンシン州MadisonにあるGenetics Computing Groupのパッケージ)、DNA Star、Clustlaw、TOFFEE、COBLATH、Genthreader及びMegAlignがあるが、これらには限定されない。標的受容体 に対応するDNA配列又はそれらのセグメントを含む配列データベースを使用して、配列の解析をおこなうことができる。一般的に用いられるデータベースに は、GenBank、EMBL、DDBJ、PDB、SWISS−PROT、EST、STS、GSS及びHTGSなどがあるが、これらには限定されない。
【0088】
別の好ましい種類のヘテロ二量体化配列は、コイルドコイルらせん構造を採用する両親媒性ペプチドからなる。らせんコイルドコイルは、タンパク質における主要なサブユニットオリゴマー化配列の一つである。一次配列解析から、全てのタンパク質残基の約2〜3%がコイルドコイルを形成することが分かった(Wolf等(1997)Protein Sci.6:1179−1189)。十分に特徴付けされたコイルドコイル含有タンパク質は、細胞骨格ファミリー(例えば、α−ケラチン、ビメンチン)、細胞骨格モーターファミリー(例えば、ミオシン、キネシン及びダイニン)、ウイルス膜タンパク質(例えば、Ebola又はHIVの膜タンパク質)、DNA結合タンパク質及び細胞表面受容体(例えば、GABABの受容体1及び受容体2)のメンバーなどを含む。本発明のコイルドコイルヘテロ二量体化配列は、大ざっぱに2つのグループ、すなわち、左巻きコイルドコイル及び右巻きコイルドコイルに分類できる。左巻きコイルドコイルは、無極性残基が第一(a)位置及び第四(d)位置に優先的に位置する「abcdefg」で示されるヘプタッド反復(heptadrepeat)により特徴付けられる。これらの2つの位置での残基は、典型的には他のスタンドのものとインターロックしてきっちりとした疎水性コアを形成する「ノブズアンドホールズ」のジグザグパターンを構成する。これに対して、コイルドコイルの周辺をカバーする第二(b)位置、第三(c)位置及び第六(f)位置は、好ましくは帯電残基である。帯電アミノ酸としては、例えば、塩基性残基、例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、及び酸性残基、例えば、アスルパテート、グルタメート、アスパラギン及びグルタミンなどがある。ヘテロ二量体性コイルドコイルの設計に好適な非帯電又は無極アミノ酸には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン及びスレオニンなどがあるが、これらには限定されない。非帯電残基は、典型的には疎水性コアを形成するが、たとえコア位置であっても帯電残基を含むらせん間塩架橋及びらせん内塩架橋を用いて、全体的ならせんコイルドコイル構造を安定化させることができる(Burkhard等(2000)J.Biol.Chem.275:11672−11677)。種々の長さのコイルドコイルを用いることができるが、対象のヘテロ二量体化配列は、好ましくは2〜10のヘプタッド反復を含む。より好ましくは、ヘテロ二量体化配列は、3〜8のヘプタッド反復、さらにより好ましくは4〜5のヘプタッド反復を含む。
【0089】
最適なコイルドコイルヘテロ二量体化配列を設計する際に、ペプチドの二 次構造を予測する種々の既存のコンピュータソフトウエアプログラムを使用できる。一例としてのコンピュータ解析では、アミノ酸配列を公知の二本鎖コイルド コイルのデータベースにおける配列と比較するCOILSアルゴリズムを使用し、高い確率でコイルドコイル延伸を予測する(Kammerer等(1999)Biochemistry 38:13263−13269)。
【0090】
ヘテロオリゴマー化に関与する多種多様なコイルドコイルを本発明に用いることができるが、好ましいコイルドコイルは、ヘテロ二量体性受容体由来のものである。したがって、本発明は、GABAB受容体1及びGABAB受容体2に由来するコイルドコイル二量体性配列を含む。一の側面によれば、対象コイルドコイルは、GABAB受容体1及びGABAB受容体2のC末端配列を含む。別の側面では、対象のコイルドコイルが、さらにシステイン残基に連結される。コイルドコイルは、少なくとも30アミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチド及びGABAB受容体2ポリペプチドである。こられのうちの一方が、配列番号2に示されているものに匹敵する長さの線状配列と基本的に同一であり、他方は、配列番号4に示されているものに匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である。
【0091】
ペプチドの線状配列は、両方の配列が実質的にアミノ酸配列ホモロジーを示す場合には、別の線状配列に「基本的に同一」である。一般的に、基本的に同一の配列は、相同領域を整列すると、互いに少なくとも約60%が同一である。好ましくは、配列は、少なくとも約70%が同一であり、より好ましくは少なくとも約80%が同一であり、より好ましくは少なくとも約90%が同一であり、より好ましくは少なくとも約95%が同一であり、さらにより好ましくは100%が同一である。
【0092】
ポリペプチド配列が基本的に同一であるかどうかを決定するには、比較されているポリペプチドの機能性を保存する配列が、特に好ましい。機能性は、異なる基準、例えば、対形成コイルドコイル配列とヘテロ二量体を形成する能力、及び生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を形成できない能力により確定できる。
【0093】
本発明には、本明細書で例示されている配列と機能的に同等である修飾GABABヘテロ二量体化配列が含まれる。得られたAbusに対して改善された安定性を付与する修飾ポリペプチドが、好ましい。修飾ポリペプチドとしては、例えば、アミノ酸残基の保存的置換、及びヘテロ二量体化特異性に顕著な害を及ぼさないアミノ酸の一つ以上の欠失又は付加を受けたものなどがある。置換の範囲は、対による親和性が維持される限り、一つ以上のアミノ酸残基の変更又は修飾から領域の完全な再設計にわたることができる。アミノ酸の置換(存在する場合には)は、ペプチドの折りたたみ又は機能特性に悪影響を及ぼさない保存的置換が好ましい。保存的置換をなすことができる機能的に関連したアミノ酸群には、グリシン/アラニン;バリン/イソロイシン/ロイシン;アスパラギン/グルタミン;アスパラギン酸/グルタミン酸;セリン/スレオニン/メチオニン;リジン/アルギニン;及びフェニルアラニン/チロシン/トリプトファンがある。本発明のポリペプチドは、グリコシル化された形態でも、非グリコシル化形態でもよいし、翻訳後に修飾されてもよいし(例えば、アセチル化及びリン酸化)、又は合成的に修飾してもよい(例えば、標識基の結合)。
【0094】
抗原結合ユニット(Abus)の配置及び修飾:
本発明のAbusは、種々の配置をとることができる。最小の非一本鎖Abuは、1価のccFvフラグメントである。ccFvフラグメントは、それぞれVL領域及びVH領域とフレーム内で融合した第一ヘテロ二量体化配列及び第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化した、VL領域とVH領域とからなる二量体タンパク質である。好ましくは、ccFvは、VL領域及びVH領域にさらなるフレキシビリティを付与する短フレクソン配列を含む(図1に例示したccFv参照)。より複雑なNscAbuは、同種の1以上の抗原に結合できる(すなわち、多価であるが、単一特異性)又は異種の1以上の抗原に結合できる(すなわち、多価であり且つ多重特異性Abus)多価分子である。典型的には、多価Abuは、Lポリペプチド若しくはHポリペプチド又はこれらの両方が一以上のV領域を含んでいる、1以上のL鎖及びH鎖ポリペプチドからなるヘテロ多量体である。例えば、例示的な2価Abusは、図12に示すような(ccFv)2の配置をとる。この例示の2価AbusにおけるH鎖ポリペプチドは、2つのVH領域を含む。これら2つのVH領域の各々は、VL領域と二量体化して2つの抗原結合部位を構成する。あるいは、L鎖ポリペプチドは、2つのVL領域を提供し、これらの2つのVL領域の各々は、VH領域と二量体化して2つの結合部位を再構成してもよい。図12に示すように、多価Abuは、VL領域及びVH領域に連結された2つのヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して安定化される。ヘテロ二量体化配列の少なくとも一つ及び好ましくはこれらの両方が、ホモ二量体を形成することができないので、分子内二量体化して非機能性VH/VH二量体又はVL/VL二量体を形成するのが最小限となることから、Abuは効率的に構築される。この一般的な抗体エンジニアリングスキームを適用して、3価Abus及び4価Abusを構築できる(例えば、図12参照)。
【0095】
多価Abusを構築するための変法では、図13に示したようなscFvフラグメント又はdsFvフラグメントが用いられる。一つの抗原結合部位を提供するビルディングユニットccFvの他に、この配置のAbusは、ccFvに連結した一つ以上のscFvフラグメント又はdsFvフラグメントを含む。連結したscFv又はdsFvにより、追加の結合部位が形成される。例えば、2価Abusは、ccFv−scFv配置又はccFv−dsFv配置をとることができる(図13)。抗原結合部位の一つは、VL領域及びVH領域に連結したヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して構築される(ccFvと同様に)のに対して、他のものは、フレーム内でVL領域と融合したscFvフラグメント又はdsFvフラグメントにより形成される。あるいは、scFvフラグメント又はdsFvフラグメントは、VH領域に連結してもよい。
【0096】
同様な手法を用いて、図14に示すような3価のccFv−scFvAbus又はccFv−dsFvAbusを生成することができる。一の側面によれば、3価のAbusは、ccFv−(scFv)2の配置をとる。ここでは、2つのポリペプチド「VH−第一ヘテロ二量体化配列−scFv」及び「VL−第二ヘテロ二量体化配列−scFv」は、2つのヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化して3つの結合部位を構成する。結合部位の一つは、ccFvビルディングユニットのVL領域及びVH領域からなり、残りの2つは、それぞれVLポリペプチド及びVHポリペプチドに連結したscFvフラグメントにより提供される。あるいは、多価Abusは、ccFv−scFv−dsFvとして構成できる。この配置では、抗原結合部位の一つは、dsFvフラグメントのVH領域及びVL領域内に位置する1対のシステイン残基の間の分子間ジスルフィド結合により構築され且つ安定化される。この配置のさらなる変形例は、3価のccFv−(dsFv)2である。この場合、結合部位のうちの2つは、dsFvフォーマットをとる(例えば、図14参照)。単一特異性であるか多重特異性であるかとは無関係に、塩基性ccFvビルディングユニットを用いたいずれかの他の多価Abus変形例も、本発明に含まれる。
【0097】
したがって、本発明によれば、さらに多重特異性Abusが提供される。これらは、少なくとも2つの別個の抗原に結合することができる多価分子である。好ましい多重特異性Abusは、それぞれ2個及び3個の別個の抗原に対して結合特異性を示す二重特異性分子及び三重特異性分子である。以前に特徴付けられた多重特異的抗体(例えば、米国特許第5,932,448号参照)とは区別される対象の多重特異的Abusは、別個の結合特異性を有する一つ以上のccFvビルディングユニットを含む。また、対象の多重特異的Abusは、上記で詳細に説明した一つ以上のscFvフラグメント又はdsFvフラグメントを組み込むことができる。好ましい二重特異性Abus及び三重特異性Abusは、図15〜17に示す一般的な構造にしたがって配置される。
【0098】
非一本鎖Abusとは別に、本発明では、対象のヘテロ二量体化配列により安定化される一本鎖Abusが含まれる。典型的には、ScAbusは、VL領域とVH領域を含み、これらの領域は、これらの2つの領域に接続したヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成している。ヘテロ二量体化配列は、平行又は逆平行で配置できる(例えば、図18参照)。平行配置では、2つのヘテロ二量体化配列は、これらが同じ配向(アミノ末端〜カルボキシル末端)を有するように整列される。逆平行配置では、一つの配列のアミノ末端が他の配列のカルボキシル末端と整列するように、又はこの逆に、ヘテロ二量体化配列が配列される。一般的には、ヘテロ二量体化配列は、フレクソン配列を介して一緒に連結される。ここで、フレクソンは、典型的に小側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びセリン)を含むフレキシブルポリペプチドリンカー(又はこのようなポリペプチドをコードする核酸配列)である。2つのヘテロ二量体化配列の間にフレクソンを組み込むことにより、一般的にそれらが分子内二量体を形成するための空間的フレキシビリティが提供される。逆平行配置に好適なフレクソンは、好ましくはアミノ酸を、約4〜約100、より好ましくは約4〜50、さらにより好ましくは約4〜15を含む。平行配置のためのフレクソンは、一般的にもっと長く、アミノ酸残基を、好ましくは約10〜約100、より好ましくは約50〜約30を含む。
【0099】
所望により、一つ以上のシステイン残基の対を、ヘテロ二量体化配列のN末端又はC末端に組み込んで本発明のAbusをさらに安定化することができる。
【0100】
本発明のAbusは、L鎖又はH鎖の定常領域由来の配列を含むことができる。定常領域に由来するこのような配列は、一般的に軽鎖又は重鎖可変領域と、連結されるヘテロ二量体化配列の間に配置される。さらに、軽鎖及び重鎖は、ヒト配列を部分的又は全体的に含んでいてもよい。
【0101】
非ヒト抗体をヒト化するための方法は、当該技術分野において周知である。「ヒト化」抗体は、配列の少なくとも一部分が、その最初の形態から変更され、よりヒト免疫グロブリンに類似した抗体である。一つの方法として、H鎖及びL鎖のC領域を、ヒト配列と置き換えることが考えられる。これは、V領域及び異種の免疫グロブリンC領域を含む融合ポリペプチドである。別の方法として、CDR領域が非ヒト抗体配列を含むとともに、Vフレームワーク領域も、転化されたヒト配列とすることが考えられる。例えば、EP0329400を参照のこと。第3の方法として、ヒトV領域及びマウスV領域のコンセンサス配列を設計し、コンセンサス配列の間で異なるCDRの外の残基を転化することにより、V領域がヒト化されることが考えられる。
【0102】
ヒト化抗体の調製では、フレームワーク残基の選択は、高結合親和性を保持するのに極めて重要である。原則として、いずれかのHuAbからのフレームワーク配列は、CDRグラフト化のためのテンプレートとしての役割を果たすことができる。しかしながら、このようなフレームワークへのストレートCDR置き換えにより、抗原への結合親和性の顕著な損失が生じることがあることが明らかとなった(Glaser等(1992)J.Immunol.149:2606;Tempest等(1992)Biotechnology 9:266;及びShalaby等(1992)J.Exp.Med.17:217。 HuAbが最初のmuAbにより相同であるほど、ヒトフレームワークが歪みをマウスCDRに導入して親和性を減少させることが少なくなる。抗体配列データ ベースに対しての配列ホモロジーサーチに基づいて、HuAb IC4により、muM4TS.22に対する良好なフレームワークホモロジーが得られる。但し、他の高度に相同性のHuAbs、とりわけヒトサブグループIIIからのヒトサブグループI又はH鎖からのカッパL鎖も、好適であろう(Kabat等(1987))。ENCAD(Levitt等(1983)J.Mol.Biol.168:595) 等の種々のコンピュータプログラムが、V領域に理想的な配列を予測するのに有効である。したがって、本発明は、異なるV領域を有するHuAbsを含む。当業者には、好適なV領域配列を決定し且つこれらの配列を最適化することは明らかである。免疫原性が減少した抗体を得るための方法が、米国特許第5,270,202号及びEP699,755にも記載されている。
【0103】
抗原及び他の好ましい生物学的特性に対して高い親和性を保持しながら、抗体をヒト化することが重要である。この目標を達成するために、好ましい方法によれば、ヒト化抗体は、親配列及び種々の概念上のヒト化産物を親配列及びヒト化配列の三次元モデルを用いて解析するプロセスにより調製される。三次元免疫グロブリンモデルは、当業者においてよく知られている。選択された免疫グロブリン配列候補の可能性のある三次元立体構造を説明し且つ表示するコンピュータプログラムは、入手できる。これらのディスプレイを調べることにより、免疫グロブリン配列候補の機能における残基の可能性のある役割の分析、すなわち、免疫グロブリン候補がその抗原に結合する能力に影響する残基の分析が可能である。このように、FR残基は、コンセンサス及びインポート配列から選択され、組み合わせられて、所望の抗体特性、例えば、標的抗原(単一又は複数)に対する親和性の増加が達成できるようにできる。
【0104】
また、本発明は、化学的に機能的な部分に結合したAbusを含む。典型的には、この部分は、検出できるシグナルを生成できる標識である。これらの結合Abusは、例えば、全身腫瘍組織量の定量化及び転移性病巣のイメージング及び腫瘍のイメージング等の検出系において有用である。このような標識は、当該技術分野において公知であり、放射性同位元素、酵素、蛍光化合物、化学発光化合物、生物発光化合物基質共同因子及びインヒビターなどを含むが、これらには限定されない。このような標識の使用を教示している特許、例えば、米国特許第3,817,837号、第3,850,752号、第3,939,350号、第3,996,345号、第4,277,437号、第4,275,149号及び第4,366,241号を参照のこと。この部分は、Abusに共有結合するか、組み換え連結するか、又はAbusに、二次試薬、例えば、第二抗体、プロテインA又はビオチン−アビジン複合体を用いて結合することができる。
【0105】
他の機能的部分は、シグナルペプチド、免疫学的反応性を高める物質、固体支持体へのカップリングを容易にする物質、ワクチンキャリア、生物反応修飾物質、常磁性標識及び薬物などを含む。シグナルペプチドは、新たに合成されたタンパク質を、細胞膜、通常真核細胞における小胞体及び細菌の内膜又は内膜と外膜の両方を介して導く、短いアミノ酸配列である。シグナルペプチドは、典型的にはポリペプチドのN末端部分にあり、典型的には生合成と、細胞からのポリペプチドの分泌との間で酵素的に除去される。このようなペプチドを、対象Abusに組み込むことにより、合成した分子を分泌できる。
【0106】
免疫反応性を高める物質には、細菌性超抗原などがあるが、これらには限定されない。固体支持体へのカップリングを容易にする物質には、ビオチン又はアビジンがあるが、これらには限定されない。免疫原キャリアには、生理学的に許容される緩衝液などがあるが、これらには限定されない。生物反応修飾物質は、サイトカイン、特に腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン−2、インターロイキン−4、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子及びγ−インターフェロンなどを含む。
【0107】
好適な薬物部分には、抗腫瘍薬などがある。これらとしては、例えば、放射性同位体、ビンカアルカロイド類、例えば、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩及びビンデシン硫酸塩、アドリアマイシン、ブレオマイシン硫酸塩、カルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、デュアノルビシン塩酸塩、ドキソルビシン塩酸塩、エトポシド、フルオロウラシル、ロムスチン、メクロロレタミン塩酸塩、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトーテン、ペントスタチン、ピポブロマン、プロカルバゼ塩酸塩、ストレプトゾトシン、タキソール、チオグアニン及びウラシルマスタードなどがあるが、これらには限定されない。
【0108】
一本鎖分子を含む免疫毒素は、組み換え手段により産生できる。種々の免疫毒素の産生は、当該技術分野において周知であり、このための方法は、例えば、「Monoclonal Antibody−toxin Conjugates: Aiming the Magic Bullet(モノクローナル抗体−トキシン結合体:特効薬を目指して)」Thorpe等(1982)Monoclonal Antibodies in Clinical Medicine,Academic Press社、第168〜190頁;Vitatta(1987)Science 238:1098−1104;並びにWinter及びMilstein(1991)Nature 349:293−299に記載されている。好適なトキシンには、リシン、放射性核種、アメリカヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、シュードモナスエクソトキシンA、ジフテリア毒素、リシンA鎖、真菌毒素、例えば、レストリクトシン及びホスホリパーゼ酵素などがあるが、これらには限定されない。一般的には、「Chimeric Toxins(キメラトキシン)」、Olsnes及びPihl、Pharmac.Ther.15:355−381(1981); 並びに「Monoclonal Antibodies for Cancer Detection and Therapy(癌の検出及び治療のためのモノクローナル抗体)」、編者Baldwin及びByers、第159〜179頁、第224〜266頁、Academic Press社(1985)を参照されたい。
【0109】
化学的に機能的な部分は、組み換えで、例えば、Abu部分及び機能的部分をコードしている融合遺伝子を生成することにより調製できる。あるいは、Abuは、種々の十分に確立された化学的方法のいずれかにより部分に化学的に結合できる。例えば、部分がタンパク質であるときには、結合は、ヘテロ二機能性クロスリンカー、例えば、SPDP、カルボジイミドグルタルアルデヒド等によるものでよい。これらの部分は、共有結合してもよいし、二次試薬、例えば、二次抗体、プロテインA又はビオチン−アビジン複合体を介して結合してもよい。常磁性部分及び抗体へのその結合は、当該技術分野において周知である。例えば、Miltenyi等(1990)Cytometry 11:231−238を参照のこと。
【0110】
抗原結合ユニット(Abus)の調製:
対象Abusは、組み換えDNA技術、合成化学法又はそれらの組み合わせにより調製できる。例えば、VL、VH及びヘテロ二量体化配列を含むAbusの所望の成分をコードしている配列は、典型的に構築され、フラグメントを発現ベクターにライゲーションする。これらの配列は、所望のタンパク質配列をコードしている他のベクターからか、それぞれのテンプレート核酸を用いたPCR生成フラグメントからか、又は所望の配列をコードしている合成オリゴヌクレオチドの集合により構築されることができる。しかしながら、Abusをコードしている全ての核酸配列は、好ましくはコード配列のフレーム内融合により構築される。上記したフレクソンは、種々の成分及びドメインとの間に含ませて、個々の成分が相対的に互いに独立している配置をとる能力を高めることができる。NscAbusを産生するために、L鎖とH鎖を、別個に形成した後、集合させる、すなわち、両鎖のための発現系による生体内集合をすることができる。このような発現系は、好適な細胞を、L鎖及びH鎖用の別個の転写可能領域を含むベクターでトランスフェクションするか、同じ細胞を各鎖用のベクターで同時形質移入することにより生成できる。
【0111】
集合させられたAbusは、当該技術分野において公知の種々のタンパク質精製法を用いて単離できる。一般的に、Abuは、培地から分泌されたポリペプチドとして単離される。但し、これらは、シグナルペプチドなしで直接に産生されるときに、宿主細胞ライゼート又は細菌ペリプラスムから回収できる。Abusが膜結合している場合、当業者により一般的に用いられる好適な洗浄剤溶液により可溶化される。回収されたAbusは、塩析沈殿(例えば、硫酸アンモニウムで)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、カチオン又はアニオン交換カラム上、中性pHでイオン強度を増加させる段階的勾配で溶離)、ゲル濾過クロマトグラフィー(ゲル濾過HPLC等)、並びにタグアフィニティーカラム、又はアフィニティー樹脂、例えば、プロテインA、プロテインG、ヒドロキシアパタイト及び抗免疫グロブリン、によるクロマトグラフィーにより、さらに精製できる。
【0112】
本発明のポリヌクレオチド及びベクター
本発明によれば、本発明のAbusをコードする種々のポリヌクレオチドが提供される。本発明のポリヌクレオチドは、部分的に、上記で詳細に説明したように、その中に含まれる独特のヘテロ二量体化配列により特徴付けられる。このようなヘテロ二量体化配列により、所望の抗原に特異的に結合するもの等のAbusの効率的な構築及びスクリーニングができる。また、このような配列により、ファージ、細菌、他の原核細胞又は真核細胞等の生体生理学的存在物上へのヘテロ二量体のディスプレイが容易となる。好ましいヘテロ二量体化配列を、配列番号2及び4に示す。
【0113】
本発明の一実施態様によれば、対象NscAbusをコードする単離されたポリヌクレオチドが提供される。この実施態様の一の側面によれば、組み換えポリヌクレオチドは、対象NscAbuの軽鎖ポリペプチドをコードするコード配列を含む。別の側面によれば、組み換えポリヌクレオチドは、NscAbuの重鎖ポリペプチドをコードするコード配列を含む。さらに別の側面によれば、組み換えポリヌクレオチドは、2つの別個のコード配列を含む。これらのコード配列のうちの一つは軽鎖ポリペプチドをコードし、他の配列は重鎖をコードしている。
【0114】
既存の抗体のL鎖又はH鎖の種々の領域に対応するヌクレオチド配列は、ハイブリダイゼーション、PCR及びDNA配列決定を含むがこれらには限定されない通常の方法を用いて容易に得られ且つ配列決定できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、抗体ヌクレオチド配列の好ましいソースとしての役割を果たす。一連のモノクローナル抗体を産生する数多くのハイブリドーマ細胞を、公共又は私的な寄託機関から得ることができる。最大の寄託機関は、American Type Culture Collection(http://www.atcc.org)である。ここでは、十分に特徴付けされたハイブリドーマ細胞系の多様なコレクションが提 供されている。あるいは、抗体ヌクレオチドを、免疫化又は非免疫化齧歯類又はヒトから得ることができ、且つ脾臓及び末梢血リンパ球等の器官から得ることが できる。抗体ヌクレオチドを抽出及び合成するのに適用できる具体的な方法が、Orlandi等(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 86:3833−3837;Larrick等(1989)Biochem.Biophys.Res.Commun.160:1250−1255;Sastry等(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.86:5728−5732;及び米国特許第5,969,108号に記載されている。
【0115】
また、抗体ヌクレオチド配列は、例えば、相同性非ヒト配列の代わりにヒト重鎖及び軽鎖定常領域についてのコード配列を用いることによっても修飾できる。この方法で、最初の抗体の結合特異性を保持するキメラ抗体が調製される。
【0116】
また、本発明によるポリヌクレオチドには、例示されたポリペプチドの機能的等価物及びそれらのフラグメントをコードしているものなどが含まれることも分かる。機能的に等価のポリペプチドには、それらによりコードされているポリペプチドの特性を高めるか、減少させるか、又は顕著な影響を及ぼさないものが含まれる。機能的等価物は、保存的アミノ酸の置換を有するポリペプチド、融合を含む類似体及び突然変異体であることができる。
【0117】
遺伝コードの縮重のため、L配列及びH配列だけでなく、本発明のポリヌクレオチド及びベクターの構築に好適なヘテロ二量体化配列のヌクレオチドがかなりの変化をすることがある。配列変異体は、一つ以上の置換、欠失又は付加(これらの本質的な効果は、所望の抗原結合活性を保持することである)の行われた修飾されたDNA又はアミノ酸配列を有することができる。例えば、コードされているアミノ酸の変更や、保存的変化を生じない、コード領域における種々の置換をおこなうことができる。これらの置換は、本発明に含まれる。保存的アミノ酸の置換には、以下の群の範囲内の置換が含まれる:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;及びフェニルアラニン、チロシン。保存的置換は、産生されるポリペプチドに含まれる一つ以上のアミノ酸残基を効果的に変化させるが、これらの置換は、得られた産生されるAbusの抗原結合活性を妨害するとは思われない。コードされるアミノ酸残基を変更しないヌクレオチドの置換は、種々の系における遺伝子発現を最適化するのに有用である。好適な置換は、当業者には公知であり、例えば、発現系において好ましいコドンの使用を反映するようにおこなわれる。
【0118】
所望により、組み換えポリヌクレオチドは、遺伝子産物の発現及び精製の検出を容易にする異種の配列を含むことができる。このような配列の例は、当該技術分野において公知であり、β−ガラクトシダーゼ、β−ラクタマーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)及びそれらの誘導体等のレポータータンパク質をコードするものなどが含まれる。精製を容易にする他の異種配列は、エピトープ、例えば、Myc、HA(インフルエンザウイルス血球凝集素由来)、His−6、FLAG、又は免疫グロブリンのFc部分、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)及びマルトース結合タンパク質(MBP)をコードすることができる。
【0119】
ポリヌクレオチドは、上記した種々の化学的機能性部分に結合できる。一般的に用いられる部分には、検出可能なシグナルを産生できる標識、シグナルペプチド、免疫学的反応性を高める物質、固体支持体へのカップリングを容易にする物質、ワクチンキャリア、生物反応修飾物質、常磁性標識及び薬物などが含まれる。これらの部分は、ポリヌクレオチドに、共有結合か、組み換えか、又は当該技術分野において公知の他の手段により連結できる。
【0120】
本発明のポリヌクレオチドは、追加の配列、例えば、同じ転写ユニット内の追加のコード配列、制御要素、例えば、プロモーター、リボソーム結合部位及びポリアデニル化部位、同一又は異なるプロモーターの制御下での追加の転写ユニット、宿主細胞のクローニング、発現及び形質転換を可能にする配列、並びに本発明の実施態様に望ましいことがある構築物を含むことができる。
【0121】
本発明で提供されるポリヌクレオチドは、化学合成、組み換えクローニング法、PCR又はそれらの組み合わせを用いて得ることができる。化学的なポリヌクレオチド合成法は、当該技術分野において周知であり、ここで詳細に説明する必要はない。当業者は、ここに記載の配列データを使用して、DNA合成装置又は商業サービスからのオーダリングを用いることにより所望のポリヌクレオチドを得ることができる。
【0122】
所望の配列を含むポリヌクレオチドを、好適なベクターに挿入し、それを次に好適な宿主細胞に導入して複製及び増幅することができる。したがって、本発明には、本発明のポリヌクレオチドの一つ以上を含む種々のベクターが含まれる。また、対象Abusをコードしている少なくとも一つのベクターを含む発現ベクターの選択可能なライブラリーも、提供される。
【0123】
本発明のベクターは、一般的にクローニングベクター及び発現ベクターのカテゴリーに入る。クローニングベクターは、それらが含有するポリヌクレオチドの複製コピーを得たり、又は今後の回収のために寄託機関にポリヌクレオチドを保管する手段として有用である。発現ベクター(及びこれらの発現ベクターを含む宿主細胞)を使用して、ポリペプチドを、それらに含まれるポリヌクレオチドから産生することができる。好適なクローニングベクター及び発現ベクターには、当該技術分野において公知のもの、例えば、細菌、哺乳動物、酵母、昆虫及びファージディスプレイ発現系に使用されるものなどが含まれる。
【0124】
好適なクローニングベクターは、標準的な方法により構築してもよいし、当該技術分野において入手できる多数のクローニングベクターから選択してもよい。選択されるクローニングベクターは、使用しようとする宿主細胞に応じて異なることができるが、有用なクローニングベクターは、一般的に自己複製能を有し、特定の制限エンドヌクレアーゼについての単一の標的を有していてもよく、又はマーカー遺伝子を担持していてもよい。好適な例として、プラスミド及び細菌ウイルス、例えば、pBR322、pMB9、ColE1、pCR1、RP4、pUC18、mp18、mp19、ファージDNA(繊維状ファージDNA及び非繊維状ファージDNA等)並びにシャトルベクター、例えば、pSA3及びpAT28などがある。これら及び他のクローニングベクターは、Clontech、BioRad、Stratagene及び Invitrogen等の商業的ベンダーから入手できる。
【0125】
これらの核酸を含む発現ベクターは、タンパク質及びポリペプチドを産生する宿主ベクター系を得るのに有用である。これらの発現ベクターは、エピソーマーとして又は、染色体DNAの一体部分として宿主生物において複製可能でなければならないことを意味している。好適な発現ベクターには、プラスミド、ウイルスベクター、例えば、ファージミド、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、レトロウイルス、コスミッド等が含まれる。酵母、鳥類及び哺乳動物の細胞などの真核細胞における発現に好適な多数の発現ベクターが、当該技術分野において公知である。発現ベクターの一例として、転写がサイトメガロウイルス(CMV)初期プロモーター/エンハンサーにより推進されるpcDNA3(カリフォルニア州サンディエゴにあるInvitrogen社)があげられる。対象Abusを発現するのに特に有用な発現ベクターとして、ファージディスプレイベクター及び細菌ディスプレイベクターの2種類がある。
【0126】
ファージディスプレイベクターを構築するための方法は、当該技術分野において十分に確立されている(Winter G.等(1994)Ann.Rev.Immunol.12:433−55 の総論参照)。繊維状ファージ配列と非繊維状ファージ配列の両方が、ディスプレイベクターを構築するのに適用できる。この種の数多くの代表的なファージの ゲノムが配列決定され、それらのゲノムは非繊維状ファージよりもはるかに小さいことがわかっているので、繊維状ファージベクターが好ましい。この種の代表的なファージには、M13、fl、fd、Ifl、Ike、Xf、Pf1及びPf3などがある。ファージベクターは、典型的にはヘテロマルチマー、例えば、抗体ペプチドを発現するように、ファージコートタンパク質の一部分又は全てに融合することにより構築される。好適なコートタンパク質には、M13の pIII、VIII、VI、VII及びIXなとが含まれる。ヘテロ多量体配列は、発現ファージコートの一体性が損なわれないようにファージベクターに挿入しなければならない。ヘテロ多量体は、好ましくは生物学的に機能性である。
【0127】
pIII融合ベクターを構築するために、一般的に用いられる融合部位を、アミノ末端、pIIIの2つのドメインの間のフレキシブルスペーサーの間(Smith等、Science 288:1315−17)又は米国特許第5,969,108号、第5,837,500号に記載されている他の代替融合部位に位置する。ファージのpIII融合及び他のタンパク質は、同じファージレプリコン内又は異なるレプリコン上に全体的にコードされることができる。少なくとも2つのレプリコンを使用する とき、pIII融合は、一般的にファージミド、複製のファージオリジンを含むプラスミド上にコードされる。ファージミドは、pIIIを含む全てのファージ タンパク質を提供するが、欠陥オリジンのため、ファージミドとの競合でそれ自体よくはパッケージされないM13KO7等のヘルパーファージを用いた「レスキュー」によりファージ粒子にパッケージされることができる。パッケージ効率を高めるために変更pIIIを欠くか、それを含む他の多価ヘルパーファージ(例えば、M13ΔgIII)を、用いることもできる(Rondot等、Nature Biotechnology 19:75−78)。
【0128】
他の繊維状ファージを用いて、同様の構築をおこなうことができる。Pf3は、IncP−1プラスミドを含む緑膿菌(Pseudomonas aerugenosa)細胞に感染する周知の繊維状ファージである。ゲノム全体の配列決定がなされており、複製及び集合に関与する遺伝シグナルは、特徴付けされている。PF3の主要なコートタンパク質は、その分泌を導くためのシグナルペプチドを有しない点で通常とは異なる。配列は、露出されるアミノ末端と一致している帯電残基ASP7、ARG37、LYS40及びPHE44−COO-を 有している。ディスプレイPf3ベクターを構築するためには、異種のポリペプチドをコードしている遺伝子フラグメントにフレーム内で融合され、次に成熟 Pf3コートタンパク質をコードしているDNAとフレーム内で融合している緑膿菌(Pseudomonas aerugenosa)において分泌を生じることが知られているシグナル配列を構成することが、一般的に望ましい。
【0129】
同じ一般的な構築スキームは、バクテリオファージX174、λ、T4及びT7ファージを含む非繊維状ファージから得た配列を含む提示ベクターの構成に適用される。これらの非繊維状ファージの構造についての豊富な情報が、当該技術分野において公知である。当業者は、必要以上の実験をおこなうことなく独特のヘテロ二量体化配列を用いて対象のヘテロ多量体を発現する対応のディスプレイベクターを容易に生成できる。
【0130】
ファージ提示ベクターの他に、別の種類の好ましいベクターとして、細菌ディスプレイベクターがあげられる。上記で概略示した一般的なスキームは、このようなベクターを構築するのに等しく適用できる。簡単に述べると、ベクターは、ヘテロ多量体、特にAbusの発現を、細菌表面タンパク質との融合体の形態で容易にする。事前のサーチから、このような融合体を発現するのに適用できる非常に数多くの細菌表面タンパク質が明らかとなった。細菌表面タンパク質として、例えば、LamB(Bremer等、Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A.(1984)81:3830−34;Gene(1987)52:165−73);OmpA(Prog Biophys Molec Biol(1987)49:89−115);OmpC;OmpF(Pages等、Biochemimie(1990)72:169−76);PhoE(van der Ley等、J.Biol.Chem.261:12222−5);pilin(So等、Curr Top in Microbiol&Immunol(1985)118:13−28);pldA(de Geus等、EMBO J.(1984)3(8):1799−1802)及びそれらの同族体があげられるが、これらには限定されない。これら及び他の表面タンパク質の特徴付け並びにこれらのタンパク質を異種ポリペプチドのディスプレイに用いる方法が、米国特許第5,837,500号及びそれに引用されている文献に詳細に記載されている。
【0131】
本発明のベクターは、一般的にAbusを発現するために必要とする転写又は翻訳制御配列を含む。好適な転写又は翻訳制御配列には、複製オリジン、プロモーター、エンハンサー、リプレッサー結合領域、転写開始部位、リボソーム結合部位、翻訳開始部位並びに転写及び翻訳のための末端部位などがあるが、これらには限定されない。
【0132】
本明細書で使用される用語「プロモーター」は、一定の条件下で、RNAポリメラーゼに結合でき且つプロモーターよりも下流(3’方向)に位置するコード領域の転写を開始できるDNA領域である。プロモーターは、構成してもよいし、誘導してもよい。一般的に、プロモーター配列は、その3’端末で、転写開始部位に結合され、上流(5’方向)に延びてバックグランドより上の検出可能なレベルで転写を開始するのに必要とする、最小数の塩基又は要素を含むようにする。転写開始部位だけでなく、RNAポリメラーゼの結合に関与しているタンパク質結合ドメインも、プロモーター配列内にある。真核生物のプロモーターは、常にではないが、「TATA」ボックス及び「CAT」ボックスを含むことがしばしばある。
【0133】
選択されるプロモーターは、ベクターを導入する宿主細胞に大きく依存する。動物細胞については、種々の強固なプロモーター(ウイルスプロモーター及び非ウイルスプロモーターの両方)が当該技術分野において公知である。代表的なウイルスプロモーターとしては、例えば、CMV、SV40ウィルスの初期及び後期プロモーター、種々の種類のアデノウイルス(例えば、アデノウィルス2)及びアデノ関連ウイルスのプロモーターが挙げられるが、これらには限定されない。また、通常所望の軽鎖遺伝子又は重鎖遺伝子と関連したプロモーターを利用することが、このような制御配列が宿主細胞系と適合する限りは、可能であり且つしばしば望ましい。
【0134】
他の真核細胞に好適なプロモーター配列には、3−ホスホグリセレートキナーゼ、又は他の解糖系酵素、例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ及びグルコキナーゼのためのプロモーターなどがある。転写が成長条件により制御されるというさらなる利点を有する他のプロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロムC、酸ホスファターゼ、窒素代謝と関連した分解系酵素、上記したグリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ並びにマルトース及びガラクトース利用に関与する酵素のためのプロモーター領域である。
【0135】
ある好ましい実施態様によれば、本発明のベクターでは、強力なエンハンサー及びプロモーター発現カセットを使用する。このような発現カセットとしては、例えば、ヒトサイトメガロウイルス直初期(HCMV−IE)プロモーター(Boshart等、Cell 41:521(1985))、β−アクチンプロモーター(Gunning等(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)84:5831)、ヒストンH4プロモーター(Guild等(1988)、J.Viral.62:3795)、マウスメタロチオネインプロモーター(McIvor等(1987)、Mol,Cell.Biol.7:838)、ラット成長ホルモンプロモーター(Millet等(1985)、Mol.Cell Biol.5:431)、ヒトアデノシンデアミナーゼプロモーター(Hantzapoulos等(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:3519)、HSV tkプロモーター25(Tabin等(1982)Mol.Cell.Biol.2:426)、α−1アンチトリプシンエンハンサー(Peng等(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:8146)及び免疫グロブリンエンハンサー/プロモーター(Blankenstein等(1988)Nucleic Acid Res.16:10939)、 SV40初期又は後期プロモーター、Adenovirus 2主要後期プロモーター、又はポリオーマウイルス、ウシパピローマウイルス又は他のレトロウイルス若しくはアデノウイルスなど由来の他のウイルスプロモー ターがある。免疫グロブリン(Ig)遺伝子のプロモーター及びエンハンサー要素は、Bリンパ球(Banerji等(1983)Cell 33:729;Gillies等(1983)Cell 33:717;Mason等(1985)Cell 41:479)に対する著しい特異性を付与し、一方Bグロビン遺伝子の転写を制御する要素は、赤血球系細胞でのみ機能する(van Assendelft等(1989)Cell 56:969)。
【0136】
細胞特異的又は組織特異的プロモーターを、使用することもできる。極めて多様な組織特異的プロモーターが、当業者により記載され且つ用いられてきた。選択動物細胞において作動可能な代表的なプロモーターには、肝細胞特異的プロモーター及び心筋特異的プロモーターなどがある。選択されるレシピエント細胞型に応じて、当業者は、本発明の発現ベクターの構築に適用できる他の好適な細胞特異的又は組織特異的プロモーターについて知るであろう。
【0137】
周知の制限及びライゲーション法を使用して、適切な転写制御配列を、種々のDNAソースから切除し、本発明により発現される無傷選択可能融合遺伝子との作動的関係において一体化することができる。
【0138】
対象ベクターを構築する際、外生的配列と関連した終止配列も、転写される所望の配列の3’端に挿入してmRNAのポリアデニレーション及び/又は転写終止シグナルを得る。ターミネーター配列は、好ましくは一つ以上の転写終止配列(ポリアデニル化配列等)を含み、またさらなる転写読み過ごしを中断させるようにさらなるDNA配列を含ませることにより長くすることができる。本発明の好ましいターミネーター配列(又は終止部位)は遺伝子を有し、その遺伝子の後に転写終止配列(それ自身の終止配列又は異種の終止配列)が存在する。このような終止配列としては、例えば、当該技術分野において公知であり、広く入手可能であり、以下で例示する、種々のポリアデニル化配列にカップリングした停止コドンがあげられる。ターミネーターが遺伝子を含む場合、検出可能又は選択可能なマーカーをコードする遺伝子を使用するのが有利であり、それによりターミネーター配列(及びしたがって、転写ユニットの対応する失活及び/又は活性化)の存在及び/又は不存在を、検出及び/又は選択できる手段が提供される。
【0139】
上記要素の他に、ベクターは、選択可能なマーカー(例えば、ベクターで形質転換した宿主細胞の生存又は成長に必要なタンパク質をコードする遺伝子)を含んでいてよいが、このようなマーカー遺伝子は、宿主細胞に共導入した別のポリヌクレオチド配列に担持されることができる。選択可能な遺伝子が導入されたこのような宿主細胞のみが、選択的条件下で生存及び/又は成長する。典型的な選択的遺伝子は、(a)抗生物質又は他のトキシン、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、G418、メトトレキサート等に対する耐性を付与するタンパク質、(b)栄養素要求性欠乏を補完するタンパク質、又は(c)天然培地からは得られない必須の栄養物を供給するタンパク質をコードする。どのマーカー遺伝子を選択するのが適切かは、宿主細胞に依存し、種々の宿主について適切な遺伝子は、当該技術分野において公知である。
【0140】
好ましい実施態様によれば、ベクターは、少なくとも2つの非関連発現系で複製できるシャトルベクターである。このような複製を容易にするために、ベクターは、一般的に少なくとも2つの複製オリジンを含み、一つは各発現系において有効である。典型的には、シャトルベクターは、真核生物発現系及び原核生物発現系において複製できる。これにより、真核宿主(発現細胞の種類)のタンパク質発現及び原核宿主(増幅細胞の種類)におけるベクターの増幅を検出できる。好ましくは、複製の一つのオリジンはSV40に由来し、一つはpBR322に由来する。但し、ベクターの複製を導く限りは、当該技術分野において公知のいずれかの好適なオリジンを、使用することができる。ベクターがシャトルベクターである場合、ベクターは、好ましくは少なくとも2つの選択可能なマーカーを含み、一つは発現細胞の種類のためのものであり、一つは増幅細胞の種類のためのものである。利用される発現系において機能する限り、当該技術分野において公知の選択可能なマーカー又は本明細書に記載の選択可能なマーカーのいずれも用いることができる。
【0141】
本発明によるベクターは、組み換えクローニング法の使用及び/又は化学合成により得ることができる。極めて多数の組み換えクローニング法、例えば、PCR、制限エンドヌクレアーゼ消化及びライゲーションが、当該技術分野において周知であり、ここで詳細には説明する必要がない。また、当業者は、ここに記載の配列データ又は公共又は企業のデータベースにおける配列データを使用して、当該技術分野において入手できるいずれかの合成手段により所望のベクターを得ることができる。
【0142】
本発明の宿主細胞:
本発明によれば、ベクターで形質転換した宿主細胞又は上記した発現ベクターのライブラリーが提供される。発現ベクターは、多数の好適な手段、例えば、エレクトロポレーション、マイクロプロジェクタイルボンバードメント;リポフェクション、感染(ベクターを感染物質にカップリングする)、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン又は他の物質を用いたトランスフェクションのいずれかにより、好適な原核細胞又は真核細胞に導入できる。ベクターを導入するのにどの手段を選択するかは、宿主細胞の特徴によって決まることがしばしばある。
【0143】
ほとんどの動物細胞の場合、上記した方法のいずれも、ベクターのデリバリーに好適である。好ましい動物細胞は、例えば、ミリグラムのレベルで、外生的に導入される遺伝子産物を多量に発現できる、脊椎動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞である。好ましい細胞としては、NIH3T3細胞、COS、HeLa及びCHO細胞があるが、これらには限定されない。
【0144】
動物細胞は、種々の培地で培養できる。市販の培地、例えば、Ham’s F10(Sigma社)、Minimal Essential Medium(MEM、Sigma社)、RPMI−1640(Sigma社)及びDulbecco‘s Modified Eagle’s Medium(DMEM、Sigma社)が、宿主細胞を培養するのに好適である。さらに、動物細胞を、血清を欠くが、ホルモン、増殖因子又は特定の細胞型の生存及び/又は成長に必要な他の因子を補充した定義された培地で増殖できる。細胞の生存を支持する定義された培地は、生存能、モルホロジー、代謝能及びもしかしたら細胞の分化能を維持するのに対して、細胞成長を促進する定義された培地は、細胞の繁殖又は増殖に必要な全ての化学物質が提供される。生体外での哺乳動物の細胞の生存及び成長を支配する一般的なパラメータは、当該技術分野において十分に確定している。異なる細胞培養系で制御できる物理化学的パラメータは、例えば、pH、pO2、温度及び浸透圧である。細胞の栄養上の必要物は、通常最適な環境を提供するために開発された標準培地配合物で供給される。栄養物は、以下のいくつかのカテゴリー:アミノ酸及びその誘導体、炭水化物、糖類、脂肪酸、複合脂質、核酸誘導体及びビタミン類、に分けることができる。細胞の代謝を維持するための栄養物とは別に、ほとんどの細胞は、無血清培地での増殖のために、以下の群:ステロイド類、プロスタグランジン類、増殖因子、下垂体ホルモン及びペプチドホルモン(Sato,G.H.等、「Growth of Cells in Hormonally Defined Media(ホルモン的に定義された培地における細胞の成長)」、Cold Spring Harbor Press社,N.Y.,1982)、の少なくとも一つから選択される一種以上のホルモンも必要とする。ホルモンの他に、細胞は、生体外での生存及び成長のために、輸送タンパク質、例えば、トランスフェリン(血漿鉄輸送タンパク質)、セルロプラスミン(銅輸送タンパク質)及び高密度リポタンパク質(脂質キャリア)を必要とすることがある。最適なホルモン又は輸送タンパク質の組は、各細胞型ごとに異なる。これらのホルモン又は輸送タンパク質のほとんどは、外生的に添加されるか、又はめったにないことではあるが、特定の因子を必要としない突然変異細胞系が発見された。当業者には、必要以上の実験をおこなうことなく、細胞培養を維持するには他にどのような因子が必要かは、分かるであろう。
【0145】
植物細胞については、種々のベクターデリバリー法が、当該技術分野において公知である。宿主細胞は、全植物、単離細胞又はプロトプラストの形態であることができる。ベクターを植物細胞に導入するための具体的な手順には、アグロバクテリウムを用いた植物形質転換、プロトプラスト形質転換、花粉への遺伝子トランスファー、生殖器官への注射及び未成熟胚への注射などがある。当業者には明らかなように、これらの方法の各々は、異なる利点及び欠点がある。したがって、特定の植物種へベクターを導入する一つの特定の方法は、別の植物種にとっては最も有効ではないことがある。
【0146】
Agrobacterium tumefaciens(アグロバクテリウムツメファシエンス)を用いたトランスファーは、ベクターを全植物組織に導入でき、プロトプラストからの完全な植物の再分化の必要性を回避できるので、植物細胞にベクターを導入するために広く適用できる系である。アグロバクテリウムを用いた発現ベクターを使用して植物細胞にベクターを導入することは、当該技術分野において周知である。この方法では、それらのDNAの一部分(T−DNA)を宿主細胞にトランスファーして核DNAに一体化することにより、植物をコロニー化するアグロバクテリウムの共通の特徴を利用する。T−DNAは、長さが25塩基対であるボーダー配列により定義され、且つこれらのボーダー配列の間のDNAを、植物細胞にトランスファーすることもできる。T−DNAボーダー配列の間の組み換え植物ウイルス核酸の挿入により、組み換え植物ウイルス核酸の植物細胞へのトランスファーが生じ、そこで組み換え植物ウイルス核酸が複製された後、植物全体に組織的に広がる。
【0147】
全ての植物がアグロバクテリウムについての天然の宿主というわけではないので、プロトプラストの形質転換等の代替法を用いて対象ベクターを宿主細胞に導入してもよい。一定の単子葉植物について、植物プロトプラストの形質転換は、リン酸カルシウム共沈法、ポリエチレングリコール処理、エレクトロポレーション及びこれらの処理の組み合わせに基づく方法を用いて達成できる。
【0148】
プロトプラスト形質転換の他に、パーティクル・ボンバードメントは、本発明によるベクターを植物宿主細胞へ放出するための別の都合のよい方法である。具体的には、植物細胞は、複数の対象ベクターでコーティングした微小粒子を打ち込まれることができる。DNA被覆微小入射粒子を打ち込むことにより、植物及び動物の両方において安定な形質転換体をうまく産生した(例えば、Sanford等(1993)Methods in Enzymology,217:483−509 参照)。ベクターを植物細胞に導入するのに好適である微小粒子は、典型的には金属、好ましくはタングステン又は金で作製される。これらの微小粒子は、例えば、BioRad(例えば、Bio−Rad PDS−1000/He)から入手できる。当業者には、パーティクル・ボンバードメントプロトコールが、パラメータ、例えば、He圧、被覆粒子量、マクロ キャリアと停止スクリーンとの間の距離、及び停止スクリーンから標的までの飛行距離を変化させることにより、植物について最適化できることを、当業者は分 かるであろう。
【0149】
また、ベクターを、Zhou等、Methods in Enzymology,101:433(1983);D.Hess,Intern Rev.Cytol.,107:367(1987);Luo等、Plant Mol.Biol.Reporter,6:165(1988)により記載されているように、花粉に直接DNAトランスファーすることにより植物に導入することもできる。別法として、ベクターを、Pena等、Nature,325:274(1987)により記載されているように植物の生殖器官に注入できる。
【0150】
核酸を植物細胞に導入するための他の方法には、以下のものがある:
(a)ハンド接種。ハンド接種を、セライト又はカーボランダム(通常約1%)を添加した、中性pH、低モル濃度リン酸緩衝液を用いておこなう。試料の1〜4滴を、葉の上表面に置き、穏やかに擦る。
(b)植物床の機械的接種。植物床接種は、葉を切断しながらベクター溶液をトラクター駆動の草刈り機に噴霧(ガス推進)することによりおこなわれる。別法として、植物床を刈り、ベクター溶液を、切断葉上に直ちに噴霧する。
(c)単葉の高圧噴霧。また、単一植物接種を、緩衝化ベクター溶液にカーボランダム約1%を含有する狭い定方向噴霧(50psi、葉から6〜12インチ)で葉に噴霧することによりおこなうこともできる。
(d)真空侵入。宿主生物を実質的に真空圧環境において感染を容易にすることにより、接種をおこなうことができる。
【0151】
対象ベクターをクローニング及び発現するのに好適な他の宿主細胞は、原核微生物及び真核微生物、例えば、菌類又は酵母細胞である。これに好適な原核細胞には、グラム陰性生物及びグラム陽性生物を含む細菌が含まれる。この種類の微生物の代表的なメンバーには、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)(例えば、大腸菌)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルビニア属(Erwinia)、クレ ブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)(例えば、ねずみチフス菌 (Salmonella typhimurium))、セラチア属(Serratia)(例えば、霊菌(Serratia marcescans))、赤痢菌属(Shigella)、ナイセリア属(Neisseria)(例えば、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis))だけでなく、バチルス綱(Bacilli)(例えば、バチルススブチリス(Bacilli subtilis)及びバチルスリキニホルムス(Bacilli licheniformis))がある。好ましくは、宿主細胞は、発現Abusのタンパク質分解フラグメントの最小量を分泌する。一般的に用いられる菌類 (酵母を含む)宿主細胞は、S.セレビジアエ(S.cerevisiae)、クリュイベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis(K.lactis))、カンジダ属(Candida)に属する種、例えば、カンジダ・アルビカンス(C.albicans)、カンジダ・グ ラブラータ(C.glabrata)、カンジダ・マルトーサ(C.maltosa)、カンジダ・アティリス(C.utilis)、カンジダ・ステラトイデ ア(C.stellatoidea)、カンジダ・パラプシローシス(C.parapsilosis)、カンジダ・トロピカルス (C.tropicalus)、アカパンカビ(Neurospora crassas)、アスペルギルス・ニダランス(Aspergillus nidulans)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe(S.pombe))、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)及びヤロウィア・リポリティカ(Yarowia lipolytica)などがある。
【0152】
好適な宿主細胞に導入したら、Abusの発現を、当該技術分野において公知の核酸又はタンパク質アッセイを用いて測定できる。例えば、L鎖又はH鎖(ScAbu)の転写mRNAの存在は、Abuポリヌクレオチドのいずれかの領域に相補的なプローブを用いて、慣用のハイブリダイゼーションアッセイ(例えば、ノーザンブロット分析)、増幅法(例えば、RT−PCR)、SAGE(米国特許第5,695,397号)及びアレイ系法(例えば、米国特許第5,405,783号、第5,412,087号及び第5,445,934号参照)により検出及び/又は定量化できる。
【0153】
また、ベクターの発現は、発現されたAbuを試験することにより測定することもできる。タンパク質分析について当該技術分野において公知の種々の方法が、可能である。これらには、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫放射測定法)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、イムノラジオメトリックアッセイ、インサイツイムノアッセイ(例えば、コロイド金、酵素又は放射性同位元素標識を用いて)、ウエスタンブロッティング分析、免疫沈降アッセイ、免疫蛍光アッセイ及びPAGE−SDSなどがあるが、これらには限定されない。
【0154】
本発明のポリヌクレオチド、ベクター及び宿主細胞の使用:
本発明のポリヌクレオチド及びベクターには、いくつかの特定の用途がある。これらは、例えば、ScとNscAbusの両方の産生の発現系に有用である。また、ポリヌクレオチドは、所望のポリヌクレオチドの増幅をおこなうためのプライマーとしても有用である。さらに、本発明のポリヌクレオチドは、ワクチン、診断薬及び薬物等の医薬組成物にも有用である。
【0155】
本発明の宿主細胞は、とりわけ対象のポリヌクレオチドのリポジトリー、ベクター、又はそれらの抗原結合特異性に基づく所望のAbusを産生及びスクリーニングするためのビヒクルとして使用できる。
【0156】
したがって、本発明によれば、所望の抗原と免疫反応性であるNscAbuを同定する方法が提供される。この方法は、以下のステップ:(a)遺伝学的に種々のレパートリーのAbusを準備するステップであって、前記レパートリーが少なくとも一つの対象Abuを含む、前記ステップと、(b)前記抗原結合ユニットのレパートリーを前記所望の抗原と接触させるステップ と、(c)Abusと前記抗原との間の特異的結合を検出することにより、前記所望の抗原と免疫反応性である前記Abuを同定するステップを含む。
【0157】
Abuが所望の抗原に特異的に結合する能力は、当該技術分野において十分に確立された種々の方法により試験できる。Harlow及び Lane(1988)Antibodies: A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York;Gherardi等(1990)J.Immunol.Meth.126:61−68 を参照のこと。典型的には、所望の結合特異性を示すAbusは、免疫アッセイ、例えば、標識されたAbusを、固体支持体又は基質上に固定化した抗原と反 応させることにより直接検出できる。一般的に、抗原が接着した基質は、免疫アッセイ中に低レベルの非特異的結合を示す物質を用いて調製される。好ましい固 体支持体は、以下の種類の物質:プラスチックポリマー、ガラス、セルロース、ニトロセルロース、半導電性物質及び金属、の一つ以上から調製される。好まし くは、基質は、ペトリ皿、クロマトグラフィービーズ、磁性ビーズ等である。
【0158】
このような固相アッセイについて、未反応Abusは、洗浄により除去される。しかしながら、液相アッセイでは、未反応Abusは、濾過又はクロマトグラフィー等のなんからの他の分離法により除去される。抗原を標識Abusに結合した後、結合した標識の量を測定する。この方法の変法に、競合アッセイがある。この方法では、抗原は、最初の結合分子と飽和まで結合させられる。対象Abuの集団を複合体に導入するとき、より高い結合親和性を示すもののみが競合でき、したがって、抗原に結合したままである。
【0159】
別法として、一定の抗原への特異的結合を、セルソーティングにより評価できる。セルソーティングには、所望の抗原を、ソーティングされる細胞上に提示した後、標的細胞を、検出可能な物質にカップリングするAbusで標識し、その後標識した細胞を、セルソーターにおいて未標識のものから分離することが含まれる。最新の細胞分離法は、蛍光標示式セルソーティング(FACS)である。微細流における単一ファイルを移動する細胞は、レーザービームを通過し、蛍光標識Abuにより結合された各細胞の蛍光を、次に測定する。
【0160】
溶離されたAbusの続いての分析では、L鎖及びH鎖のアミノ酸配列を描写するためのタンパク質の配列決定が含まれていてよい。推定されたアミノ酸配列に基づいて、抗体ポリペプチドをコードしているcDNAは、次にPCR、ライブラリースクリーニング、既存の核酸データベースにおけるホモロジーサーチ、又はそれらの組み合わせを含む組み換えクローニング方法により得られることができる。一般的に用いられるデータベースには、GenBank、EMBL、DDBJ、PDB、SWISS−PROT、EST、STS、GSS及びHTGSとがあるが、これらには限定されない。
【0161】
Abuのレパートリーを、ファージ又は細菌粒子上にディスプレイするとき、好ましくは、アフィニティークロマトグラフィーを用いて選択がおこなわれる。この方法は、典型的には抗原被覆プレート、カラムマトリックス、細胞へのファージAbusのレパートリーの結合、又は溶液中のビオチニル化抗原に結合した後に捕獲することにより進行する。固相に結合したファージ又は細菌を、洗浄した後、可溶性ハプテン、酸又はアルカリにより溶離する。別法として、抗原の濃度を増加することにより、Abusをアフィニティーマトリックスから解離できる。抗原への極めて高い親和性又は結合活性を有する一定のAbusについては、効率的に溶離するには、PCT国際出願公開第WO92/01047号に記載のような高pH又は温和な還元溶液を必要とすることがある。
【0162】
所望の結合特異性を有する結合Abusを回収する際の困難を回避するために、プロテアーゼ切断部位を、Abusをディスプレイするために用いられる、ヘテロ二量体化配列とファージ被覆タンパク質との間に導入することができる。この目的のための適用できる切断部位には、因子X、トリプシン及びトロンビン認識部位などがあるが、これらには限定されない。ファージレパートリーをアフィニティーマトリックスに結合し且つ非特異的ファージを洗浄した後、所望の親和性を有するAbusをディスプレイする残存ファージを、切断部位での消化に好適な条件下でプロテアーゼで抗原アフィニティーマトリックスを洗浄することにより、採集することができる。このような消化により、ファージ粒子からAbusが放出される。
【0163】
上記の方法の別法では、強力に結合したファージ又は細菌粒子を保持したアフィニティーマトリックスを採取し、それらの核酸を、例えば、SDS溶液における沸騰により抽出する。抽出した核酸を使用してE.coli宿主細胞を直接形質転換してもよいし、又は抗体コード配列を、好適なプライマーを用いたPCRにより増幅できる。
【0164】
選択の効率は、いくつかの因子の組み合わせ、例えば、洗浄中の解離の動力学、及び単一ファージ又は細菌上の複数のAbusが固体支持体上の抗原に同時に結合することができるかどうかに依存しやすい。例えば、速い解離速度(及び弱い結合親和性)を有する抗体は、短い洗浄、多価のディスプレイ、及び固体支持体での抗原の高コーティング密度を使用することにより保持しなければならない。逆に、低解離速度(及び良好な結合親和性)を有するAbusを選択するには、長時間洗浄、一価ファージ及び抗原の低コーティング密度を使用することが好ましい。
【0165】
必要に応じて、Abusのレパートリーを、無関係抗原に対して予備選択して望ましくないAbusを対向選択することができる。また、レパートリーを、関係のある抗原に対して予備選択して、例えば、抗イディオタイプAbusを単離することができる。
【0166】
対象Abuレパートリーにより、所望の特異性を有するAbusを迅速に単離できる。単離されたAbusの数多くのものは、慣用のハイブリドーマ又は遺伝子組み換え動物技術により得ることは困難又は不可能であると思われる。
【0167】
本発明のベクターを含むキット
本発明には、本発明のベクターを好適なパッケージング中に含むキットも含まれる。本発明によるキットには、本明細書に記載の独特のヘテロ二量体化配列対の対による親和性により再構成されたAbusの生成が可能であるものが含まれる。
【0168】
各キットは、必ずベクターの宿主細胞へのデリバリーを可能にする試薬を含む。ベクターのデリバリーを容易するのに選択される試薬は、使用される特定のトランスフェクション法又は感染法によって異なることがある。また、キットは、Abusの検出のための標識ポリヌクレオチドプローブ又はタンパク性プローブを生成するのに有用な試薬も含有できる。各試薬は、固体の形態で供給してもよいし、又は在庫貯蔵に好適であり、且つあとで実験をおこなうときに交換したり、反応培地に添加したりするのに好適である緩衝液に溶解/懸濁して供給できる。好適なパッケージングが提供される。キットは、必要に応じて手順に有用であるさらなる成分を提供できる。これらの任意成分には、緩衝剤、捕獲剤、展開試薬、標識、反応表面、検出手段、対照試料、説明書及び説明用情報などがあるが、これらには限定されない。
【0169】
本発明によるAbus、ポリヌクレオチド、ベクター及び宿主細胞の開発及び使用について、以下の実施例セクションにおいてさらに説明する。これらの実施例は、当業者が実施するための指針として提供されるものであり、いかなる方法によっても本発明を限定しない。
【実施例】
【0170】
非一本鎖抗原結合ユニットの構築:コイルドコイルFv(ccFv)
上記したように、Fvフラグメントは、全抗原結合部位を含む最小の抗体フラグメントである。重鎖及び軽鎖(VH及びVL)の2つの可変領域からなるFvは、Y字状免疫グロブリン分子の「上」先端に位置している。Fvフラグメントは、これら2つのVHフラグメント及びVLフラグメントの間の相互作用エネルギーが極めて低く、生理学的条件では、数多くの用途にとってはしばしば不安定すぎる。天然の免疫グロブリン(例えば、Ig)では、定常ドメインCH1及びCLに位置している鎖間ジスルフィド結合を使用して、VH及びVLを連結する。この結合により、分子量50kDaの安定化抗原結合フラグメントFabが形成される。VHフラグメント及びVLフラグメントは、一つのフラグメントのカルボキシル末端と、別のフラグメントのアミノ末端との間に、短ペプチドリンカーにより一緒に人工的に保持されて、一本鎖Fv抗体フラグメント(scFv)を形成することもできることが判明した。scFv抗原結合ユニットは、Fabのサイズの半分しかない。しかしながら、ある種のscFvタンパク質も、不安定である。scFvにおけるポリペプチドリンカーは、ある場合において結合を妨害することがある。また、鎖間ジスルフィド結合は、VH及びVLにおけるフレームワーク領域に導入されてジスルフィド安定化Fv(dsFv)が形成された。dsFv配置も、著しい制限がある。2つのCys残基を抗原結合可変領域へ導入することにより、VH又はVLにおける鎖内ジスルフィド結合を変化させることがあり、したがって、抗原結合が妨害されることがある。
【0171】
本発明者等は、VHとVLのヘテロ二量体を安定化させる新規な方法を考え出した。本発明者等は、独特のヘテロ二量体化配列対を設計し、使用してFab様機能性人工Fvフラグメント、すなわち、コイルドコイルFvフラグメント(ccFv)を生成した。ヘテロ二量体化対は、ヘテロ二量体性受容体GABAB受容体1及び2に由来する。配列の対は、コイルドコイル構造を形成し、GABAB−R1受容体及びGABAB−R2受容体の機能的ヘテロ二量体化を仲介する。
【0172】
Fosタンパク質及びJunタンパク質からの先に特徴付けされたコイルドコイルロイシンジッパーとは区別される、GABAB−R1受容体及びGABAB−R2受容体のC末端コイルドコイルは、生理学的条件下(例えば、生体内)では検出可能なホモ二量体を形成しないだけでなく、生理学的体温でホモ二量体を形成しない。Kuner等及びWhite等(Science(1999)283:74−77);Nature(1998)396:679−682))による研究から、生体内におけるGABAB−R1及びGABAB−R2のヘテロ二量体化特異性が明らかとなった。実際に、White等は、このヘテロ二量体性受容体対の排他的特異性に基づいて酵母細胞からGABAB−R2をクローニングすることができた。上記Kammerer等による生体外での研究から、GABAB−R1C末端配列もGABAB−R2C末端配列も、生理学的体温でアッセイしたときに生理学的緩衝条件においてホモ二量体を形成できないことがわかった(Kammererの表1参照)。しかしながら、GABAB−R2遺伝子の最初の分離及びコイルドコイル配列の特徴付けに関与したこれらの研究者のだれも、抗原結合ユニット等のヘテロ多量体の構築にこの独特のヘテロ二量体化配列を使用することは、記載していないし、示唆もしていない。
【0173】
本発明者等は、フレクソン「SerArgGlyGlyGlyGly」をGR1ドメイン及びGR2ドメインのアミノ末端に付加することにより、GR1ドメイン及びGR2ドメインのカルボキシル末端を修飾してV領域にさらなるフレキシビリティを付与した。さらにccFVを安定化するために、ccFvをさらに安定化するために本発明者等は、コイルドコイルのC末端に「ValGlyGlyCys」スペーサーを付加することにより、1対のシステイン残基を導入した。GR1ドメイン及びGR2ドメインは、それぞれVHフラグメント及びVLフラグメントのカルボキシル末端に融合する。VH−GR1融合及びVL−GR2融合を、大腸菌(E.coli)で発現させ、ファージによりディスプレイした。図10及び図11に示すように、平行コイルドコイルらせんにより安定化された機能性ヘテロ二量体性ccFvAbusを、生成した。コイルドコイルヘテロ二量体化配列はCH1ドメイン及びCLドメインのサイズのほぼ半分であるので、ccFv(約35kDa)は、慣用のFabフラグメント(約50kDa)よりも小さい。サイズが小さいので、ccFvとその誘導体は、腫瘍及び組織侵入等の臨床用途においてより有用である可能性がある。ccFvのより効率的な発現及び表示が、予想される。さらに、独特のヘテロ二量体化配列の対による親和性によるVH領域及びVL領域の特異的集合により、強固な多種多様なAbsのレパートリーの構築がより実現可能となる。
【0174】
材料及び方法:
細菌及びファージの株:大腸菌(Escherichia coli)TG1(supEΔ(hsdM−mcrB)5(rk-mk-McrB-)thiΔ(lac−proAB/F’traD36,LaclqΔ(lacZ)M15]を、プラスミドDNA及びファージの産生に使用した;Phamersham Pharmacia Biotech社製KO7ヘルパーファージ及びHRP結合抗M13抗体;Stratagene社製pbluescript SK(+);Santa Cruz Biotechnology社製抗HA抗体。
【0175】
実施例1:ベクターの構築
pABMX1ベクター及びpABMX2ベクター:
ファージミドディスプレイベクターpABMX1及びpABMX2を、pbluescript SK(+)から得た。独特のAgeI制限部位を、一組のプライマーを用いたPCR系部位指定突然変異誘発により、lacプロモーターのすぐあとに導入し(pBS−SKa:5’GGAATTGTGAGCGGATAACAATTTACCGGTCACACAGGAAACAGCTATGACCATG−3’及びpBS−SKb 5’CATGGTCATAGCTGTTTCCTGTGTGACCGGTAAATTGTTATCCGCTCACAATTCC−3’)、そしてXhoI部位及 びKpnI部位を、切断及び平滑末端ライゲーションにより欠失させた。その後、5’にAgeI部位及び3’にBglII/EcoRI部位と隣接し、T7 ファージ遺伝子10からの翻訳エンハンス配列EP(TTAACTTTA)、リボソーム結合配列S/D(TAAGGAGG)、HindIII部位を有するfdファージ遺伝子8リーダー配列(pABMX1について、ATGAAAAAGTCTTTAGTCCTCAAAGCCTCCGTAGCCGTTGCTCCCTCGTTCCGATGCTAAGCTTCGCT)又は pelBリーダー配列(pABMX2について、 ATGAAATACCTATTGCCTACGGCAGCCGCTGGATTGTTATTACTCGCGGCCCAGCCGGCCATGGCG)及び HA−(His)6−タグ(DHタグ)(TATCCATACGACGTACCAGACTACGCAGGAGGTCATCACCATCATCACCATTAG)を含む合成DNAフラグメントを、修飾pbluescript SK(+)にクローニングした。得られたベクターを、pABMX1及びpABMX2と命名する(制限マップ及び配列については、図3A〜3B参照)。Nsc Abus等のヘテロ多量体をコードしている異種配列を、さらにこれらのベクターにサブクローニングして、ペリプラスム発現させた。
【0176】
pABMD1ベクター及びpABMD2ベクター:
BglII部位とSalI部位を両側に有するPCR増幅fd遺伝子III(又は遺伝子3)フラグメントを、pABMX1ベクター及びpABMX2ベクターに挿入した (図4参照)。ディスプレイされるべき異種配列を、リーダー配列の後に挿入できる。lacプロモーターは、pIIIキャプシド融合の発現を推進し、これを次に、KO7等のヘルパーファージによる重複感染後にファージ表面にディスプレイできる。
【0177】
PABMX5ベクター及びpABMX6ベクター:
これらの2つのベクターを、pABMX1及びpABMX2から得た。5’でXbaI/AscI部位、3’でMluI/XhoI/NotI部位と隣接し、リボ ソーム結合配列S/D(TAAGGAGG)及び遺伝子3リーダー配列(ATGAAAAAATTATTATTCGCAATTCCTTTAGTTGTTCCTTTCTATTCTCACTCCGCT)を含む合成DNAフラグメン トを、XbaI/NotI部位によりpABMX1及びpABMX2に挿入した。その後、GR1ドメインコード配列(図2)をXba/AscI部位にサブクローニングし、GR2ドメインコード配列(図2)をXhoI/NotI部位に挿入した。その後、VHドメインとVLドメインを、それぞれGR1配列及びGR2配列の前に挿入した。ベクターpABMX5及びベクターpABMX6の概略を、図5Aとして示す。これらのベクターは、一つのlacプロモーターの下に2種のタンパク質VH−GR1及びVL−GR2を発現する。
【0178】
pABMD5ベクター及びpABMD6ベクター:
ベクターpABMX5及びベクターpABMX6からのccFvDNAフラグメントを、pABMD1及びpABMD2にサブクローニングしてベクターpABMD5及びベクターpABMD6を得た(制限マップ及 び配列については、図6A及び図6B参照)。これらのベクターは、2種のタンパク質であるVH−GR1融合タンパク質とVL−GR2−pIII融合タンパク質を発現する。発現されたVH−GR1融合タンパク質及びVL−GR2−pIII融合タンパク質を、ペリプラスムスペースに分泌し、ここで二量体化がコ イルドコイルドメインヘテロ二量体化を介しておこる。次に、集合したAbuを、KO7等のヘルパーファージの重複感染によりファージ表面にディスプレイす る。
【0179】
実施例2:機能性ccFvの発現
抗体AM1からの抗体可変ドメインを、ccFvフラグメントを発 現させるためにpABMX6ベクターにサブクローニングした。次に、このベクターを、TG1細胞又はBL21細胞に導入した。単一コロニーからの約100υg/mlカルベニシリン及び0.1%グルコースを含有する500ml 2xYTにおいて、形質転換したバクテリアを、37℃でOD600=0.7(ほぼ)まで増殖させた。1mM IPTGを、30℃における4時間の誘導のために添加した。細菌ペレットを、ペリプラスム及び浸透圧ショック調製物のために集めた。ペレットを、 Sigma社製の1.25mlのタンパク質分解酵素抑制剤混合物を含有する12.5mlのPPB緩衝液(200mg/mlスクロース、1mM EDTA、30mM Tris−HCl、pH8.0)に再懸濁し、20分間氷上に置いた。上清を、回転により集めた。得られたペレットを、5mM MgSO4に再懸濁し、氷上で20分間インキュベーションした。MgSO4及びPPB上清を混ぜ、PBSに 対して透析した。Ni−NTAカラム1mlに加えた後、His−タグタンパク質を、350mMイミドゾールによる溶離により精製した。図10Aは、精製したccFvが非還元ゲル上で35kDaの電気泳動移動度を有することを示す。還元条件下で分析したとき、VL及びVHに相当する2つのサブユニットを観察 した。上のバンドは、ウエスタンブロッティング解析によりVL−His−タグ融合として確認した。
【0180】
可溶性AM1−ccFvの結合特異性を測定するために、ELISAアッセイを実施した。AM1抗原(0.2〜1ug/ウェル)で、ELISAプレート上をコーティングして、4℃で一晩おいた。5%ミルク/PBSブロッキング後、5%ミルク/PBS中の抗体溶液をELISAプレートに添加し、室温で1〜2時間インキュベーションした。未結合Abusを、洗浄除去した。図10Bは、AM1−ccFvのその抗原への特異的結合を示す。対照は、PBSにミルクを5%添加したものを含有する。この結果から、コイルドコイルGABABR1/R2ヘテロ二量体化配列による、機能的ccFvの集合が確認される。
【0181】
実施例3:機能的ccFvのディスプレイ
遺伝学的パッケージによる抗体のディスプレイは、大きなライブラリーから特異的Abuを濃縮し且つ分離するための強力なツールである。ccFvがファージディスプレイシステムにおいて利用できるかどうかを解析するために、本発明者等は、AM1抗体のccFv遺伝子をpABMD6ベクターにサブクローニング することにより、ファージミドベクターを構築した。ファージミドベクターを担持するTG1細胞を、KO7ヘルパーファージにより重複感染した。感染したTG1細胞を、2xYT/Amp/Kan中、30℃で一晩成長させた。ファージミド粒子を、PEG/NaClにより、培養上清から2回沈殿させ、PBSに再懸濁させた。ファージ上にディスプレイさせた抗体を、ファージELISAアッセイを用いて抗原結合活性により検出した。すなわち、抗原で、まず ELISAプレート上をコーティングした。5%ミルク/PBSブロッキング後、ファージ溶液を、ELISAプレートに添加した。抗原に結合したファージ を、HRP結合抗M13抗体とともにインキュベーションすることにより、検出した。基質ABTS[2,2’−アジノ−ビス(3-エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)]を使用して、HRP活性を測定した。また、抗HAタグ抗体を使用して、ファージ粒子上に表示したタンパク質を検出した。抗HA抗体 で、96ウエルプレート上をコーティングした(各ウエルあたり2ug)。ELISAプレートをコーティングした抗HA抗体に結合したファージを、HRP結 合抗M13抗体により検出した。
【0182】
また、ccFv及びscFvのファージディスプレイを比較するために、一本鎖抗体ファージも調製した。図11A及び図11Bに示すように、ccFvファージの結合能は、慣用のscFvファージに匹敵する。一定のccFv発現ファージについては、それらの結合能は、慣用のscFvを発現するファージよりもほとんど一桁大きい(図11B)。したがって、ccFvは、ファージ粒子上にディスプレイされた場合であっても機能性Abuである。
【0183】
一本鎖抗原結合ユニットの発現:
実施例4:慣用のscFvの発現
AM2−scFvを、可溶性発現ベクターpABMX1のHindIII/NotI部位にサブクローニングした。ペリプラスム調製物を、上記で概説したようにして実施した。 NI−NTAカラムから精製した30kDaの抗体タンパク質を、SDS−PAGE分析により確認し、ELISAを用いてその抗原結合特異性について試験し た。AM2抗原を、最初にELISAプレートを、0.2ug/ウエルの濃度でコーティングした。種々の量のAM2−scFvフラグメントを、抗原とともに インキュベーションした。結合AM2−svFvフラグメントを、抗HA−タグ抗体により検出した。実験により、AM2−scFvのそのAM2抗原への用量 依存的結合が明らかとなった(図8)。
【0184】
実施例5:ファージ上での慣用のscFvのディスプレイ
AM2−scFvフラグメントを、まずファージミドベクターpABMD1のHindIII/NotI部位にサブクローニングした。このファージミドベクターを担持している TG1細胞を、ヘルパーファージKO7により感染させた。ファージを、上清から精製した。続いて、ファージELISAアッセイをおこなって、ファージ粒子上にディスプレイされたAM2−scFvを検出した。コートpIII遺伝子はHA−タグで標識されているので、融合は、抗HA抗体で検出できる。AM2抗原及び抗HA抗体を用いたELISAアッセイにより、ディスプレイされたscFvが対応の抗原に特異的に結合できることが確認された(図9)。対照は、HA標識されていない無関係抗体を表示するファージが含む。
【0185】
真核細胞における対象抗原結合ユニットの発現:
実施例6:酵母におけるccFvの発現
対象ヘテロ二量体化配列に連結したVL配列とVH配列の両方を担持している酵母ベクターpAMEX7を、構築する。コンピテント酵母細胞、例えば、AH109細胞、を調製し、当該技術分野において公知の方法でpAMEX7ベクターで形質転換する。形質転換された酵母細胞を、タンパク質の発現に好適な 条件下で培養する。このような条件は、当業者には周知であり、したがって、ここでは詳細には説明しない。発現されたccFv Abusを、当該技術分野において公知の慣用の方法及び/又は本明細書に記載の方法を用いて採取する。収穫したccFvの抗原結合能を、上記したプロト コールにしたがってELISAにより測定する。
【0186】
所望の結合特異性を示すccFvファージの濃縮及び同定:
実施例7:モデルライブラリーからのAM2−ccFvファージの濃縮
所望の結合特異性を有するccFv表示ファージをバックグランドファージから選択し且つ最終的に濃縮できることを示すために、モデルライブラリーからのAM2−ccFvファージのパンニングをおこなった。AM2−ccFvファージを関係のないAM1−ccFvディスプレイファージと1:106又は1:107の比で混合することにより、モデルライブラリーを調製した。Nunc Maxisorb96ウエルプレートをコーティングした特異的タンパク質抗原に対してライブラリーのパンニングを、2ラウンドおこなった。PBSにミルクを5%添加したものでブロッキングした後、2%ミルク/PBSに1X1012ライブラリーファージを添加したものを、ウエルに添加 し、室温で2時間インキュベーションした。次に、ファージ溶液を捨て、ウエルをPBST(PBSにTween−20を0.05%添加)で5回洗浄し、PBSで5回洗浄した。結合ファージを、100mMトリエチルアミンで溶離し、TG1培養に添加して感染させた。感染TG1細胞から調製したファージを、次のラウンドのパンニング、及びAM2−ccFvの固定化タンパク質抗原に対するELISAに使用した。各ラウンドのパンニングの後、AM1−ccFvで はなく(PCR産物ではない)、AM2−ccFvのみについて特異的に設計(約1kbPCR産物のバンドは、1%アガロースゲル上で可視化できた)した1対のプライマーを介して、ランダムに選んだクローンのPCR解析を行ない、AM2−ccFvファージのバックグランドファージAM1−ccFvファージに 対する比も測定した。図20に示すように、AM2−ccFvの固定化タンパク質抗原に対するELISAを実施した。第二ラウンドのパンニングからのファージでは、第一ラウンドに比較し てはるかに高いOD405読み取り値が得られた。このことは、AM2−ccFvファージがうまく選択され、パンニング中に濃縮されたことを示唆している。図21に示すPCR分析は、ランダムに選んだクローンのPCR産物からの1%アガロースゲルイメージを示す。得られた結果から、AM2−ccFvファージの発生率が、第一ラウンドのパンニング後の1:107ライブラリーから4.4%であるのに対して、第二ラウンドのパンニング後では、発生率が100%に達したことが分かった。
【0187】
実施例8:機能的ccFvをディスプレイするファージライブラリーを用いたライブラリースクリーニング
多数のAbusを有するファージライブラリー(これらの全ては、所望の抗原に結合できるが、各Abuは、臨界的結合ドメインの一定領域において異なる)をスクリーニングすることにより、さらに高い親和性を有する抗体を同定し且つさらに設計することができる。ccFvを抗体ライブラリースクリーニング用のビヒクルとして効率的に使用できることを示すために、本発明者等は、ccFvのフォーマットでAM2のライブラリーを構築した。AM2のフレームワーク構造は、VH領域とVL領域とから構成されていた。各々を、上記したようなベクターpABMD6の対応する位置にサブクローニングした。すなわち、VHをGR1のN末端に、VLをGR2のN末端にそれぞれ連結した。次に、ccFv抗体フラグメントをファージ粒子の表面にディスプレイするために、GR2をpIIIに融合した(例1、3及び7参照)。ファージを選択するために(ccFvファージライブラリーパンニングを介した高い親和性バインダー)、VHのCDR3を、複数の位置に複数の選択残基を含むライブラリーとして構築した。このライブラリーは、両末端での変性DNAオリゴフランキング制限部位の標準合成により、PCR増幅及び制限消化後のAM2のその位置にサブクローニングされることができるように、調製した。図22は、変性DNAオリゴ、その増幅プライマー及び方向の設計を示す。ライブラリーの多様性については、合計約1x106種であるように設計した。ライゲーション後、ライブラリーを、TG1コンピテント細胞に、エレクトロポレーションした。次に、ライブラリーのファージ粒子を、上記した例で述べたようにして集める前に形質転換体を収穫し、レスキューした(KO7ヘルパーファージにより)。ライブラリーを「パン」するために、組み換え抗原を、4℃で一晩、0.05M NaHCO3 pH9.6緩衝液中でNunc Maxisorb96ウエルプレート上に固定化した。ミルク2%を含有するPBS緩衝液で希釈した1012ファー ジ粒子を含有するライブラリーファージのアリコットを、抗原でコーティングしたウエルに添加した。37℃で2時間インキュベーションした後、ウエルを洗浄 し、ファージを実施例3及び実施例7で記載したようにして溶離した。溶離したファージを使用してTG1細胞を感染させた後、KO7ヘルパーファージにより レスキューした。30℃で一晩成長させた後、ファージを、TG1細胞で増幅し、次のラウンドのパンニングのために収穫できるようにした。事前の実験では、解離速度koffは、その特定の抗体の親和性に最も顕著に寄与するのに対して、Konは比較的一定であることが分かった。したがって、高結合親和性を有するファージを選択するために、生存ファージを選択するために長時間洗浄する方法であるオフレートパンニングを設計して、より低速のKoffを有するファージを特異的に選択した。このライブラリーのために、合計7ラウンドの連続パンニングをおこなった。
【0188】
第 5ラウンドのパンニング及び第7ラウンドのパンニング後に、個々のクローンをランダムに選んで、ファージパンニングにおいて同じタンパク質抗原を用いて、 ELISA用のファージを調製した。ELISAは、上記実施例7に記載の手順に準じて、96ウエルマイクロタイタープレートを用いておこなった。図23に示すように、第5ラウンド及び第7ラウンドで選択された全てのクローンは、抗原との反応が陽性であった。但し、負の対照は、第5ラウンドの位置H10、H11、H12及び第7ラウンドの位置H11、H12に設定した。これらの全ては、0.05OD405未満であった。
【0189】
次に、第7パンニングのELISAにおいて陽性の反応性を示したクローンを、配列決定用にランダムに選び、VHのCDR3上の残基を、図24にマッピングした。次に、ライブラリーにより標的とされた位置上のコンセンサスを、同定した。コンセンサス配列を表すクローン及び野生型(オリジナル AM2)のタンパク質発現をおこない、続いてタンパク質を、BiaCore(表面プラズモン共鳴)を用いて固定化タンパク質抗原との結合におけるそれらの Koffを測定するのに使用した。図25に示すように、ライブラリーから選択されたAM2変異体は、顕著により遅いKoffを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非一本鎖抗原結合ユニットであって、以下の:
(a)フレーム内で第一ヘテロ二量体化配列に融合している軽(L)鎖可変領域を含んでいる軽(L)鎖ポリペプチド;及び、
(b)フレーム内で第二ヘテロ二量体化配列に融合している重(H)鎖可変領域を含んでいる重(H)鎖ポリペプチド
を含んでなり、ここで、
前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項2】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、生理学的緩衝条件下及び生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、請求項1に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項3】
非一本鎖抗原結合ユニットであって、以下の:
(a)フレーム内で第一ヘテロ二量体化配列に融合している軽(L)鎖可変領域を含んでいる軽(L)鎖ポリペプチド;及び、
(b)フレーム内で第二ヘテロ二量体化配列に融合している重(H)鎖可変領域を含んでいる重(H)鎖ポリペプチド
を含んでなり、ここで、
前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列がヘテロ二量体性受容体配列を含み、前記ヘテロ二量体性受容体配列が前記受容体のヘテロ二量体化を仲介する、前記非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項4】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、コイルドコイル二量体を形成する、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項5】
前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドが、前記2つのヘテロ二量体化配列の非共有結合性の対による親和性を介して二量体化する、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項6】
前記L鎖ポリペプチドが、前記L鎖可変領域及び前記第一ヘテロ二量体化配列により両側を挟まれているフレクソンをさらに含む、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項7】
前記H鎖ポリペプチドが、前記H鎖可変領域及び前記第二ヘテロ二量体化配列により両側を挟まれているフレクソン配列をさらに含む、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項8】
前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、少なくとも一つのシステイン残基に連結している、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項9】
多価である、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項10】
多重特異性である、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項11】
二重特異性である、請求項10に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項12】
三重特異性である、請求項10に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項13】
前記L鎖ポリペプチドが、ヒト軽鎖由来の配列を含む、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項14】
前記H鎖ポリペプチドが、ヒト重鎖由来の配列を含む、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項15】
化学的機能性部分に結合している、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項16】
前記部分が、以下の:シグナルペプチド、免疫学的反応性を高める物質、固体支持体へのカップリングを容易にする物質、ワクチンキャリア、生物反応修飾物質、トキシン、検出可能な標識、常磁性標識及び薬物からなる群から選択されたものである、請求項15に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項17】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、それぞれGABAB受容体1及びGABAB受容体2のC末端配列に由来するものである、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項18】
請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニットであって、ここで、前記第一ヘテロ二量体化配列が、配列番号2に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、且つ前記第二ヘテロ二量体化配列が、配列番号4に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体2ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列がシステイン残基に連結されている、前記非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項19】
請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニットであって、ここで、前記第一ヘテロ二量体化配列が、配列番号4に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、且つ前記第二ヘテロ二量体化配列が、配列番号2に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体2ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列がシステイン残基に連結されている、前記非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項20】
一本鎖結合ユニットであって、軽(L)鎖可変領域と重(H)鎖可変領域とを含み、前記軽(L)鎖可変領域と前記重(H)鎖可変領域が、前記領域の一方のC末端と前記他の領域のN末端の間の距離をまたがった第一ヘテロ二量体化配列と第二ヘテロ二量体化配列により接続されており、前記2つの領域が、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項21】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、生理学的緩衝条件下及び生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、請求項20に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項22】
一本鎖抗原結合ユニットであって、軽(L)鎖可変領域と重(H)鎖可変領域とを含み、前記軽(L)鎖可変領域と前記重(H)鎖可変領域が、前記領域の一方のC末端と前記他の領域のN末端の間の距離をまたがった第一ヘテロ二量体化配列と第二ヘテロ二量体化配列により接続されており、前記2つの領域が、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成し、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列が前記受容体のヘテロ二量体化を仲介するヘテロ二量体性受容体配列を含む、前記一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項23】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、コイルドコイル二量体を形成する、請求項20又は22に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項24】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、非共有結合性の対による親和性を介して二量体化している、請求項20又は22に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項25】
化学的機能性部分に結合している、請求項23に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項26】
前記L鎖可変領域が、ヒト軽鎖由来の配列を含む、請求項23に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項27】
前記H鎖可変領域が、ヒト重鎖由来の配列を含む、請求項23に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項28】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、それぞれGABAB受容体1及びGABAB受容体2のC末端配列に由来するものである、請求項23に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項29】
請求項23に記載の一本鎖抗原結合ユニットであって、ここで、前記第一ヘテロ二量体化配列が、配列番号2に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、且つ前記第二ヘテロ二量体化配列が、配列番号4に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体2ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列がシステイン残基に連結されている、前記一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項30】
請求項23に記載の一本鎖抗原結合ユニットであって、ここで、前記第一ヘテロ二量体化配列が、配列番号4に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、且つ前記第二ヘテロ二量体化配列が、配列番号2に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体2ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列がシステイン残基に連結されている、前記一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項31】
請求項1に記載のL鎖ポリペプチドをコードするコード配列を含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項32】
請求項1に記載のH鎖ポリペプチドをコードするコード配列を含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項33】
請求項1に記載のL鎖ポリペプチドをコードする第一コード配列と、請求項1に記載のH鎖ポリペプチドをコードする第二コード配列とを含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項34】
請求項3に記載のL鎖ポリペプチドをコードするコード配列を含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項35】
請求項3に記載のH鎖ポリペプチドをコードするコード配列を含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項36】
請求項3に記載のL鎖ポリペプチドをコードする第一コード配列と、請求項3に記載のH鎖ポリペプチドをコードする第二コード配列とを含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項37】
請求項20に記載の一本鎖抗原結合ユニットをコードするコード配列を含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項38】
請求項22に記載の一本鎖抗原結合ユニットをコードするコード配列を含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項39】
請求項31〜38のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項40】
発現ベクターである、請求項39に記載のベクター。
【請求項41】
ファージディスプレイベクターである、請求項39に記載のベクター。
【請求項42】
請求項39に記載の1以上のベクターを含む、抗原結合ユニットのレパートリーをコードしている、発現ベクターの選択可能なライブラリー。
【請求項43】
前記ベクターが、ファージディスプレイベクターである、請求項39に記載の前記選択可能なライブラリー。
【請求項44】
請求項31〜38のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドを含む、宿主細胞。
【請求項45】
前記L鎖ポリペプチドをコードする前記組み換えポリヌクレオチド及び前記H鎖ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドが、単一のベクターに存在する、請求項44に記載の宿主細胞。
【請求項46】
前記L鎖ポリペプチドをコードする前記組み換えポリヌクレオチド及び前記H鎖ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドが、別々のベクターに存在する、請求項44に記載の宿主細胞。
【請求項47】
真核細胞である、請求項44に記載の宿主細胞。
【請求項48】
原核細胞である、請求項44に記載の宿主細胞。
【請求項49】
非一本鎖抗原結合ユニットの製造方法であって、以下のステップ:
(a)フレーム内で第一ヘテロ二量体化配列に融合して軽(L)鎖可変領域を含んでいる、軽(L)鎖ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチドと、フレーム内で第二ヘテロ二量体化配列に融合して重(H)鎖可変領域を含んでいる、重(H)鎖ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチドとを、宿主細胞内で発現させるステップであって、ここで、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドが、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記ステップ;及び場合により、
(b)前記宿主細胞において発現された前記抗原結合ユニットを分離するステップ
を含む、前記方法。
【請求項50】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、生理学的緩衝条件下及び生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
非一本鎖抗原結合ユニットの製造方法であって、以下のステップ:
(a)第一ヘテロ二量体化配列に融合して軽(L)鎖可変領域を含んでいる、軽(L)鎖ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチドと、第二ヘテロ二量体化配列に融合して重(H)鎖可変領域を含んでいる、重(H)鎖ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチドとを、宿主細胞内で発現させるステップであって、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドが、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列が、前記受容体のヘテロ二量体化を仲介するヘテロ二量体性受容体配列を含む、前記ステップ;及び、場合により、
(b)前記宿主細胞において発現された前記抗原結合ユニットを分離するステップ
を含む、前記方法。
【請求項52】
前記ステップ(a)で発現された前記非一本鎖抗原結合ユニットが、前記宿主細胞の表面上にディスプレイされる、請求項49又は51に記載の方法。
【請求項53】
前記ステップ(a)で発現された前記非一本鎖抗原結合ユニットが、ファージ粒子上にディスプレイされる、請求項49又は51に記載の方法。
【請求項54】
前記宿主細胞が、真核細胞である、請求項49又は51に記載の方法。
【請求項55】
前記宿主細胞が、原核細胞である、請求項49又は51に記載の方法。
【請求項56】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、コイルドコイル二量体を形成する、請求項49又は51に記載の方法。
【請求項57】
前記L鎖ポリペプチド及び前記H鎖ポリペプチドが、非共有結合性の対による親和性を介して二量体化している、請求項49又は51に記載の方法。
【請求項58】
前記L鎖ポリペプチドが、前記L鎖可変領域及び前記第一ヘテロ二量体化配列により両側を挟まれているフレクソンをさらに含む、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記H鎖ポリペプチドが、前記H鎖可変領域及び前記第二ヘテロ二量体化配列により両側を挟まれているフレクソン配列をさらに含む、請求項56に記載の方法。
【請求項60】
前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、少なくとも一つのシステイン残基に連結している、請求項56に記載の方法。
【請求項61】
前記非一本鎖抗原結合ユニットが、多価である、請求項56に記載の方法。
【請求項62】
前記非一本鎖抗原結合ユニットが、多重特異性である、請求項56に記載の方法。
【請求項63】
前記非一本鎖抗原結合ユニットが、二重特異性である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記非一本鎖抗原結合ユニットが、三重特異性である、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
前記L鎖ポリペプチドが、ヒト軽鎖由来の配列を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項66】
前記H鎖ポリペプチドが、ヒト重鎖由来の配列を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項67】
非一本鎖抗原結合ユニットの製造方法であって、以下のステップ:
(a)フレーム内で第一ヘテロ二量体化配列に融合して軽(L)鎖可変領域を含んでいる、軽(L)鎖ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチドと、フレーム内で第二ヘテロ二量体化配列に融合して重(H)鎖可変領域を含んでいる、重(H)鎖ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチドとを調製するステップであって、ここで、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドが、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記ステップ;及び
(b)前記第一ポリペプチド及び前記第二ポリペプチドを、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化させるステップ
を含む、前記方法。
【請求項68】
前記ステップ(b)が、前記第一ポリペプチドと前記第二ポリペプチドとを生体外で二量体化することを含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
一本鎖抗原結合ユニットの製造方法であって、以下のステップ:
(a)請求項20又は22に記載の前記一本鎖抗原結合ユニットをコードしているコード配列を含むポリヌクレオチドを宿主細胞において発現させるステップ;及び場合により、
(b)前記宿主細胞において発現された前記一本鎖抗原結合ユニットを分離するステップ
を含む、前記方法。
【請求項70】
前記ポリヌクレオチドがファージディスプレイベクターに含まれている、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
宿主細胞の表面上に少なくとも2つのポリペプチドを含むキメラヘテロ多量体をディスプレイする方法であって、以下のステップ:
前記宿主細胞において、
(a)フレーム内において第一ヘテロ二量体化配列及び表面提示配列に融合している、第一ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチド;
(b)フレーム内において第二ヘテロ二量体化配列に融合している第二ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチド
を発現させるステップを含み、ここで、
前記第一ポリペプチドと前記第二ポリペプチドが、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記方法。
【請求項72】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、生理学的緩衝条件下及び生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、コイルドコイル二量体を形成する、請求項71に記載の方法。
【請求項74】
前記第一ポリヌクレオチド及び前記第二ポリヌクレオチドが、単一ファージディスプレイベクターにより発現される、請求項71に記載の方法。
【請求項75】
前記第一ポリヌクレオチド及び前記第二ポリヌクレオチドが、別々のファージディスプレイベクターにより発現される、請求項71に記載の方法。
【請求項76】
前記宿主細胞が、原核細胞である、請求項71に記載の方法。
【請求項77】
前記宿主細胞が、真核細胞である、請求項71に記載の方法。
【請求項78】
前記キメラヘテロ多量体が、非一本鎖抗原結合ユニットである、請求項71に記載の方法。
【請求項79】
請求項71に記載の方法により前記宿主細胞の表面上にディスプレイされるキメラヘテロ多量体。
【請求項80】
所望の抗原と免疫反応性である非一本鎖抗原結合ユニットを同定する方法であって、以下のステップ:
(a)抗原結合ユニットの遺伝学的に多様なレパートリーを調製するステップであって、前記レパートリーが請求項1又は3に記載の1以上の抗原結合ユニットを含む、前記ステップ;
(b)抗原結合ユニットの前記レパートリーを前記所望の抗原と接触させるステップ;及び
(c)抗原結合ユニットと前記抗原との間の特異的結合を検出することにより、前記所望の抗原と免疫反応性である前記抗原結合ユニットを同定するステップ
を含む、前記方法。
【請求項81】
抗原結合ユニットの前記レパートリーが、前記抗原結合ユニットの複数をコードしているベクターのライブラリーを発現させることにより調製される、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
ベクターの前記ライブラリーが、複数のファージベクターを含む、請求項80に記載の方法。
【請求項83】
所望の抗原と免疫反応性である一本鎖抗原結合ユニットを同定する方法であって、以下のステップ:
(a)一本鎖抗原結合ユニットの遺伝学的に多様なレパートリーを調製するステップであって、前記レパートリーが請求項20又は22に記載の少なくとも一つの抗原結合ユニットを含む、前記ステップ;及び
(b)抗原結合ユニットの前記レパートリーを前記所望の抗原と接触させるステップ;
抗原結合ユニットと前記抗原との間の特異的結合を検出することにより、前記所望の抗原と免疫反応性である前記一本鎖抗原結合ユニットを同定するステップ
を含む、前記方法。
【請求項84】
抗原結合ユニットの前記レパートリーが、前記抗原結合ユニットの複数をコードしているベクターのライブラリーを発現させることにより調製される、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
ベクターの前記ライブラリーが、複数のファージベクターを含む、請求項83に記載の方法。
【請求項86】
好適なパッケージングに請求項39に記載のベクターを含むキット。
【請求項87】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、増殖因子受容体のヘテロ二量体性受容体配列を含む、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項88】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、Gタンパク質結合受容体のヘテロ二量体性受容体配列を含む、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項89】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、神経伝達物質のヘテロ二量体性受容体配列を含む、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項90】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、核ホルモン受容体のヘテロ二量体性受容体配列を含む、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項91】
ccFvフラグメントである、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項92】
前記生理学的体温が、約37℃である、請求項1に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項93】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、等モル混合したときにホモ二量体を基本的に形成できない、請求項1に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項1】
非一本鎖抗原結合ユニットであって、以下の:
(a)フレーム内で第一ヘテロ二量体化配列に融合している軽(L)鎖可変領域を含んでいる軽(L)鎖ポリペプチド;及び、
(b)フレーム内で第二ヘテロ二量体化配列に融合している重(H)鎖可変領域を含んでいる重(H)鎖ポリペプチド
を含んでなり、ここで、
前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項2】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、生理学的緩衝条件下及び生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、請求項1に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項3】
非一本鎖抗原結合ユニットであって、以下の:
(a)フレーム内で第一ヘテロ二量体化配列に融合している軽(L)鎖可変領域を含んでいる軽(L)鎖ポリペプチド;及び、
(b)フレーム内で第二ヘテロ二量体化配列に融合している重(H)鎖可変領域を含んでいる重(H)鎖ポリペプチド
を含んでなり、ここで、
前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドは、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列がヘテロ二量体性受容体配列を含み、前記ヘテロ二量体性受容体配列が前記受容体のヘテロ二量体化を仲介する、前記非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項4】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、コイルドコイル二量体を形成する、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項5】
前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドが、前記2つのヘテロ二量体化配列の非共有結合性の対による親和性を介して二量体化する、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項6】
前記L鎖ポリペプチドが、前記L鎖可変領域及び前記第一ヘテロ二量体化配列により両側を挟まれているフレクソンをさらに含む、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項7】
前記H鎖ポリペプチドが、前記H鎖可変領域及び前記第二ヘテロ二量体化配列により両側を挟まれているフレクソン配列をさらに含む、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項8】
前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、少なくとも一つのシステイン残基に連結している、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項9】
多価である、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項10】
多重特異性である、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項11】
二重特異性である、請求項10に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項12】
三重特異性である、請求項10に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項13】
前記L鎖ポリペプチドが、ヒト軽鎖由来の配列を含む、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項14】
前記H鎖ポリペプチドが、ヒト重鎖由来の配列を含む、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項15】
化学的機能性部分に結合している、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項16】
前記部分が、以下の:シグナルペプチド、免疫学的反応性を高める物質、固体支持体へのカップリングを容易にする物質、ワクチンキャリア、生物反応修飾物質、トキシン、検出可能な標識、常磁性標識及び薬物からなる群から選択されたものである、請求項15に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項17】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、それぞれGABAB受容体1及びGABAB受容体2のC末端配列に由来するものである、請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項18】
請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニットであって、ここで、前記第一ヘテロ二量体化配列が、配列番号2に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、且つ前記第二ヘテロ二量体化配列が、配列番号4に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体2ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列がシステイン残基に連結されている、前記非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項19】
請求項4に記載の非一本鎖抗原結合ユニットであって、ここで、前記第一ヘテロ二量体化配列が、配列番号4に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、且つ前記第二ヘテロ二量体化配列が、配列番号2に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体2ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列がシステイン残基に連結されている、前記非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項20】
一本鎖結合ユニットであって、軽(L)鎖可変領域と重(H)鎖可変領域とを含み、前記軽(L)鎖可変領域と前記重(H)鎖可変領域が、前記領域の一方のC末端と前記他の領域のN末端の間の距離をまたがった第一ヘテロ二量体化配列と第二ヘテロ二量体化配列により接続されており、前記2つの領域が、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項21】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、生理学的緩衝条件下及び生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、請求項20に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項22】
一本鎖抗原結合ユニットであって、軽(L)鎖可変領域と重(H)鎖可変領域とを含み、前記軽(L)鎖可変領域と前記重(H)鎖可変領域が、前記領域の一方のC末端と前記他の領域のN末端の間の距離をまたがった第一ヘテロ二量体化配列と第二ヘテロ二量体化配列により接続されており、前記2つの領域が、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して分子内二量体を形成し、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列が前記受容体のヘテロ二量体化を仲介するヘテロ二量体性受容体配列を含む、前記一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項23】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、コイルドコイル二量体を形成する、請求項20又は22に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項24】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、非共有結合性の対による親和性を介して二量体化している、請求項20又は22に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項25】
化学的機能性部分に結合している、請求項23に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項26】
前記L鎖可変領域が、ヒト軽鎖由来の配列を含む、請求項23に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項27】
前記H鎖可変領域が、ヒト重鎖由来の配列を含む、請求項23に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項28】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、それぞれGABAB受容体1及びGABAB受容体2のC末端配列に由来するものである、請求項23に記載の一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項29】
請求項23に記載の一本鎖抗原結合ユニットであって、ここで、前記第一ヘテロ二量体化配列が、配列番号2に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、且つ前記第二ヘテロ二量体化配列が、配列番号4に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体2ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列がシステイン残基に連結されている、前記一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項30】
請求項23に記載の一本鎖抗原結合ユニットであって、ここで、前記第一ヘテロ二量体化配列が、配列番号4に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体1ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、且つ前記第二ヘテロ二量体化配列が、配列番号2に示されている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である、少なくとも30のアミノ酸残基のGABAB受容体2ポリペプチドを含むヘテロ二量体化配列であり、前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列がシステイン残基に連結されている、前記一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項31】
請求項1に記載のL鎖ポリペプチドをコードするコード配列を含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項32】
請求項1に記載のH鎖ポリペプチドをコードするコード配列を含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項33】
請求項1に記載のL鎖ポリペプチドをコードする第一コード配列と、請求項1に記載のH鎖ポリペプチドをコードする第二コード配列とを含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項34】
請求項3に記載のL鎖ポリペプチドをコードするコード配列を含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項35】
請求項3に記載のH鎖ポリペプチドをコードするコード配列を含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項36】
請求項3に記載のL鎖ポリペプチドをコードする第一コード配列と、請求項3に記載のH鎖ポリペプチドをコードする第二コード配列とを含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項37】
請求項20に記載の一本鎖抗原結合ユニットをコードするコード配列を含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項38】
請求項22に記載の一本鎖抗原結合ユニットをコードするコード配列を含む、組み換えポリヌクレオチド。
【請求項39】
請求項31〜38のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項40】
発現ベクターである、請求項39に記載のベクター。
【請求項41】
ファージディスプレイベクターである、請求項39に記載のベクター。
【請求項42】
請求項39に記載の1以上のベクターを含む、抗原結合ユニットのレパートリーをコードしている、発現ベクターの選択可能なライブラリー。
【請求項43】
前記ベクターが、ファージディスプレイベクターである、請求項39に記載の前記選択可能なライブラリー。
【請求項44】
請求項31〜38のいずれか1項に記載の組み換えポリヌクレオチドを含む、宿主細胞。
【請求項45】
前記L鎖ポリペプチドをコードする前記組み換えポリヌクレオチド及び前記H鎖ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドが、単一のベクターに存在する、請求項44に記載の宿主細胞。
【請求項46】
前記L鎖ポリペプチドをコードする前記組み換えポリヌクレオチド及び前記H鎖ポリペプチドをコードする前記ポリヌクレオチドが、別々のベクターに存在する、請求項44に記載の宿主細胞。
【請求項47】
真核細胞である、請求項44に記載の宿主細胞。
【請求項48】
原核細胞である、請求項44に記載の宿主細胞。
【請求項49】
非一本鎖抗原結合ユニットの製造方法であって、以下のステップ:
(a)フレーム内で第一ヘテロ二量体化配列に融合して軽(L)鎖可変領域を含んでいる、軽(L)鎖ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチドと、フレーム内で第二ヘテロ二量体化配列に融合して重(H)鎖可変領域を含んでいる、重(H)鎖ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチドとを、宿主細胞内で発現させるステップであって、ここで、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドが、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記ステップ;及び場合により、
(b)前記宿主細胞において発現された前記抗原結合ユニットを分離するステップ
を含む、前記方法。
【請求項50】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、生理学的緩衝条件下及び生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
非一本鎖抗原結合ユニットの製造方法であって、以下のステップ:
(a)第一ヘテロ二量体化配列に融合して軽(L)鎖可変領域を含んでいる、軽(L)鎖ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチドと、第二ヘテロ二量体化配列に融合して重(H)鎖可変領域を含んでいる、重(H)鎖ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチドとを、宿主細胞内で発現させるステップであって、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドが、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列が、前記受容体のヘテロ二量体化を仲介するヘテロ二量体性受容体配列を含む、前記ステップ;及び、場合により、
(b)前記宿主細胞において発現された前記抗原結合ユニットを分離するステップ
を含む、前記方法。
【請求項52】
前記ステップ(a)で発現された前記非一本鎖抗原結合ユニットが、前記宿主細胞の表面上にディスプレイされる、請求項49又は51に記載の方法。
【請求項53】
前記ステップ(a)で発現された前記非一本鎖抗原結合ユニットが、ファージ粒子上にディスプレイされる、請求項49又は51に記載の方法。
【請求項54】
前記宿主細胞が、真核細胞である、請求項49又は51に記載の方法。
【請求項55】
前記宿主細胞が、原核細胞である、請求項49又は51に記載の方法。
【請求項56】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、コイルドコイル二量体を形成する、請求項49又は51に記載の方法。
【請求項57】
前記L鎖ポリペプチド及び前記H鎖ポリペプチドが、非共有結合性の対による親和性を介して二量体化している、請求項49又は51に記載の方法。
【請求項58】
前記L鎖ポリペプチドが、前記L鎖可変領域及び前記第一ヘテロ二量体化配列により両側を挟まれているフレクソンをさらに含む、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記H鎖ポリペプチドが、前記H鎖可変領域及び前記第二ヘテロ二量体化配列により両側を挟まれているフレクソン配列をさらに含む、請求項56に記載の方法。
【請求項60】
前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、少なくとも一つのシステイン残基に連結している、請求項56に記載の方法。
【請求項61】
前記非一本鎖抗原結合ユニットが、多価である、請求項56に記載の方法。
【請求項62】
前記非一本鎖抗原結合ユニットが、多重特異性である、請求項56に記載の方法。
【請求項63】
前記非一本鎖抗原結合ユニットが、二重特異性である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記非一本鎖抗原結合ユニットが、三重特異性である、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
前記L鎖ポリペプチドが、ヒト軽鎖由来の配列を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項66】
前記H鎖ポリペプチドが、ヒト重鎖由来の配列を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項67】
非一本鎖抗原結合ユニットの製造方法であって、以下のステップ:
(a)フレーム内で第一ヘテロ二量体化配列に融合して軽(L)鎖可変領域を含んでいる、軽(L)鎖ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチドと、フレーム内で第二ヘテロ二量体化配列に融合して重(H)鎖可変領域を含んでいる、重(H)鎖ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチドとを調製するステップであって、ここで、前記L鎖ポリペプチドと前記H鎖ポリペプチドが、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記ステップ;及び
(b)前記第一ポリペプチド及び前記第二ポリペプチドを、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化させるステップ
を含む、前記方法。
【請求項68】
前記ステップ(b)が、前記第一ポリペプチドと前記第二ポリペプチドとを生体外で二量体化することを含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
一本鎖抗原結合ユニットの製造方法であって、以下のステップ:
(a)請求項20又は22に記載の前記一本鎖抗原結合ユニットをコードしているコード配列を含むポリヌクレオチドを宿主細胞において発現させるステップ;及び場合により、
(b)前記宿主細胞において発現された前記一本鎖抗原結合ユニットを分離するステップ
を含む、前記方法。
【請求項70】
前記ポリヌクレオチドがファージディスプレイベクターに含まれている、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
宿主細胞の表面上に少なくとも2つのポリペプチドを含むキメラヘテロ多量体をディスプレイする方法であって、以下のステップ:
前記宿主細胞において、
(a)フレーム内において第一ヘテロ二量体化配列及び表面提示配列に融合している、第一ポリペプチドをコードしている第一組み換えポリヌクレオチド;
(b)フレーム内において第二ヘテロ二量体化配列に融合している第二ポリペプチドをコードしている第二組み換えポリヌクレオチド
を発現させるステップを含み、ここで、
前記第一ポリペプチドと前記第二ポリペプチドが、前記第一ヘテロ二量体化配列と前記第二ヘテロ二量体化配列の対による親和性を介して二量体化し、且つ前記ヘテロ二量体化配列の少なくとも一方が、生理学的緩衝条件下及び/又は生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、前記方法。
【請求項72】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列の両方が、生理学的緩衝条件下及び生理学的体温でホモ二量体を基本的に形成できない、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、コイルドコイル二量体を形成する、請求項71に記載の方法。
【請求項74】
前記第一ポリヌクレオチド及び前記第二ポリヌクレオチドが、単一ファージディスプレイベクターにより発現される、請求項71に記載の方法。
【請求項75】
前記第一ポリヌクレオチド及び前記第二ポリヌクレオチドが、別々のファージディスプレイベクターにより発現される、請求項71に記載の方法。
【請求項76】
前記宿主細胞が、原核細胞である、請求項71に記載の方法。
【請求項77】
前記宿主細胞が、真核細胞である、請求項71に記載の方法。
【請求項78】
前記キメラヘテロ多量体が、非一本鎖抗原結合ユニットである、請求項71に記載の方法。
【請求項79】
請求項71に記載の方法により前記宿主細胞の表面上にディスプレイされるキメラヘテロ多量体。
【請求項80】
所望の抗原と免疫反応性である非一本鎖抗原結合ユニットを同定する方法であって、以下のステップ:
(a)抗原結合ユニットの遺伝学的に多様なレパートリーを調製するステップであって、前記レパートリーが請求項1又は3に記載の1以上の抗原結合ユニットを含む、前記ステップ;
(b)抗原結合ユニットの前記レパートリーを前記所望の抗原と接触させるステップ;及び
(c)抗原結合ユニットと前記抗原との間の特異的結合を検出することにより、前記所望の抗原と免疫反応性である前記抗原結合ユニットを同定するステップ
を含む、前記方法。
【請求項81】
抗原結合ユニットの前記レパートリーが、前記抗原結合ユニットの複数をコードしているベクターのライブラリーを発現させることにより調製される、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
ベクターの前記ライブラリーが、複数のファージベクターを含む、請求項80に記載の方法。
【請求項83】
所望の抗原と免疫反応性である一本鎖抗原結合ユニットを同定する方法であって、以下のステップ:
(a)一本鎖抗原結合ユニットの遺伝学的に多様なレパートリーを調製するステップであって、前記レパートリーが請求項20又は22に記載の少なくとも一つの抗原結合ユニットを含む、前記ステップ;及び
(b)抗原結合ユニットの前記レパートリーを前記所望の抗原と接触させるステップ;
抗原結合ユニットと前記抗原との間の特異的結合を検出することにより、前記所望の抗原と免疫反応性である前記一本鎖抗原結合ユニットを同定するステップ
を含む、前記方法。
【請求項84】
抗原結合ユニットの前記レパートリーが、前記抗原結合ユニットの複数をコードしているベクターのライブラリーを発現させることにより調製される、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
ベクターの前記ライブラリーが、複数のファージベクターを含む、請求項83に記載の方法。
【請求項86】
好適なパッケージングに請求項39に記載のベクターを含むキット。
【請求項87】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、増殖因子受容体のヘテロ二量体性受容体配列を含む、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項88】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、Gタンパク質結合受容体のヘテロ二量体性受容体配列を含む、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項89】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、神経伝達物質のヘテロ二量体性受容体配列を含む、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項90】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、核ホルモン受容体のヘテロ二量体性受容体配列を含む、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項91】
ccFvフラグメントである、請求項1又は3に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項92】
前記生理学的体温が、約37℃である、請求項1に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【請求項93】
前記第一ヘテロ二量体化配列及び前記第二ヘテロ二量体化配列が、等モル混合したときにホモ二量体を基本的に形成できない、請求項1に記載の非一本鎖抗原結合ユニット。
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図20】
【図22】
【図24】
【図25】
【図1】
【図10A】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図21】
【図23】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図20】
【図22】
【図24】
【図25】
【図1】
【図10A】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図21】
【図23】
【公開番号】特開2010−53132(P2010−53132A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−211914(P2009−211914)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【分割の表示】特願2003−517247(P2003−517247)の分割
【原出願日】平成14年7月31日(2002.7.31)
【出願人】(504041309)アブマクシス,インコーポレイティド (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211914(P2009−211914)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【分割の表示】特願2003−517247(P2003−517247)の分割
【原出願日】平成14年7月31日(2002.7.31)
【出願人】(504041309)アブマクシス,インコーポレイティド (3)
【Fターム(参考)】
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