説明

キャップトレッド用ゴム組成物およびそれを用いたキャップトレッドを有するスタッドレスタイヤ

【課題】経時による氷上性能の劣化を抑制し、さらに、氷上性能および耐摩耗性を向上させることができるキャップトレッド用ゴム組成物ならびにそれを用いたキャップトレッドを有するスタッドレスタイヤを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対して、粘着付与樹脂および/または液状ゴムを2〜25重量部、ならびに短繊維を1〜25重量部含有し、JIS−A硬度が40〜70であるキャップトレッド用ゴム組成物、ならびにそれを用いたキャップトレッドを有するスタッドレスタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャップトレッド用ゴム組成物およびそれを用いたキャップトレッドを有するスタッドレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、氷雪路面走行用タイヤとして、スパイクタイヤの使用や、タイヤへのチェーンの装着などが行われてきた。しかし、粉塵問題などの環境問題が発生するため、これにかわる氷雪路面走行用タイヤとして、スタッドレスタイヤが開発されている。一般路面に比較し、氷雪路面では、著しく摩擦係数が低下し、滑りやすくなるので、スタッドレスタイヤには氷雪上性能が求められており、材料面および設計面での工夫がされている。
【0003】
タイヤの氷雪上性能には、とくに、地面に直接接触するタイヤのキャップトレッド部の硬度が関係しており、氷雪上性能を向上させるために、たとえば、アロマオイルや、ミネラルオイルなどの含有量を調節し、適切な硬度になるように調節する手法(たとえば、特許文献1参照)が知られている。しかし、この場合、経時により、オイルがゴム組成物中から揮発し、結果的にオイルの含有量が不足するため、硬度が増大してしまい、氷雪上グリップ性能、とくに氷上グリップ性能(制動性能)が悪化するという問題があった。
【0004】
また、氷雪上性能を向上させる手法としては、カーボンブラックやシリカなどの補強用充填剤を減量する手法も知られている。しかし、この場合、硬度は適度に保てるが、補強性が低下してしまい、耐摩耗性に劣るという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−39104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、経時による氷上性能の劣化を抑制し、さらに、氷上性能および耐摩耗性を向上させることができるキャップトレッド用ゴム組成物ならびにそれを用いたキャップトレッドを有するスタッドレスタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ジエン系ゴム100重量部に対して、粘着付与樹脂および/または液状ゴムを2〜25重量部、ならびに短繊維を1〜25重量部含有し、JIS−A硬度が40〜70であるキャップトレッド用ゴム組成物に関する。
【0008】
前記粘着付与樹脂は、クマロン樹脂または石油系樹脂であることが好ましい。
【0009】
前記粘着付与樹脂の数平均分子量は、200〜1000であることが好ましい。
【0010】
前記液状ゴムは、液状ブタジエンゴムまたは液状スチレンブタジエンゴムであることが好ましい。
【0011】
前記液状ゴムの数平均分子量は、1000〜10000であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記キャップトレッド用ゴム組成物を用いたキャップトレッドを有するスタッドレスタイヤに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ジエン系ゴム、粘着付与樹脂および/または液状ゴム、ならびに短繊維を所定量含有し、JIS−A硬度を所定の範囲内にすることで、経時による氷上性能の劣化を抑制し、さらに、氷上性能および耐摩耗性を向上させることができるキャップトレッド用ゴム組成物ならびにそれを用いたキャップトレッドを有するスタッドレスタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のキャップトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム、粘着付与樹脂および/または液状ゴム、ならびに短繊維を含有する。
【0015】
ジエン系ゴムとしては、とくに制限はなく、たとえば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、イソモノオレフィンとパラアルキルスチレンとの共重合体のハロゲン化物などがあげられ、これらのジエン系ゴムは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、スタッドレスタイヤは低温特性が重要であり、低温時のゴム硬度の上昇を抑制できるという理由から、NRおよびBRが好ましい。
【0016】
粘着付与樹脂としては、たとえば、クマロン樹脂、石油系樹脂、フェノール系樹脂、テルペン系樹脂、ロジン誘導体などがあげられ、これらの粘着付与樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
具体的には、クマロン樹脂としては、クマロン樹脂(神戸油化学工業(株)製のクマロン樹脂、新日鐵化学(株)製のエスクロンなど)などが、石油系樹脂としては、新日本石油化学(株)製のネオポリマーなどが好適に用いられる。
【0018】
粘着付与樹脂の数平均分子量(Mn)は200以上が好ましく、300以上がより好ましい。粘着付与樹脂のMnが200未満では、アロマオイルとの置換で使用しても、効果が小さい傾向がある。また、粘着付与樹脂のMnは1000以下が好ましく、900以下がより好ましい。粘着付与樹脂のMnが1000をこえると、初期硬度が高くなるため、硬度調製のためにオイルを配合すると、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0019】
液状ゴムとしては、たとえば、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレンブタジエンゴム(SBR)、液状イソプレンゴム(IR)などがあげられ、これらの液状ゴムは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、より少ない配合量で操縦安定性(グリップ性能)を向上させることができるという理由から、液状BRおよび液状SBRが好ましい。
【0020】
具体的には、液状BRとしては、サートマー社(Sertomer Company Inc.)製のライコンシリーズなどが、液状SBRとしては、サートマー社(Sertomer Company Inc.)製のライコンシリーズなどが好適に用いられる。
【0021】
液状ゴムのMnは1000以上が好ましく、1500以上がより好ましい。液状ゴムのMnが1000未満では、少ない配合量で操縦安定性(グリップ性能)を向上させることができない傾向がある。また、液状ゴムのMnは10000以下が好ましく、9000以下がより好ましい。液状ゴムのMnが10000をこえると、初期硬度が高くなるため、硬度調製のためにオイルを配合すると、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0022】
粘着付与樹脂および/または液状ゴムの含有量は、ジエン系ゴム100重量部に対して2重量部以上、好ましくは3重量部以上である。粘着付与樹脂および/または液状ゴムの含有量が2重量部未満では、少ない配合量で操縦安定性(グリップ性能)を向上させることができない。また、粘着付与樹脂および/または液状ゴムの含有量は25重量部以下、好ましくは20重量部以下である。粘着付与樹脂および/または液状ゴムの含有量が25重量部をこえると、硬度調製のためにオイルを配合すると、耐摩耗性が低下する。
【0023】
短繊維としては、たとえば、グラスファイバー、カーボンファイバーなどの非金属無機短繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ウレタン繊維、アラミド繊維などの非金属有機短繊維などがあげられ、これらの短繊維は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、環境に配慮することができ、耐摩耗性も向上するという理由から、非金属無機短繊維が好ましく、グラスファイバーがより好ましい。
【0024】
短繊維の平均繊維径は5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。短繊維の平均繊維径が5μm未満では、操縦安定性(グリップ性能)の充分な改善効果が得られない傾向がある。また、短繊維の平均繊維径は300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。短繊維の平均繊維径が300μmをこえると、比重も重く、配合量に対する繊維の本数が減少し、性能の向上効果が小さくなる傾向がある。
【0025】
短繊維の含有量は、ジエン系ゴム100重量部に対して1重量部以上、好ましくは2重量部以上である。短繊維の含有量が1重量部未満では、操縦安定性の向上効果が小さい。また、短繊維の含有量は25重量部以下、好ましくは20重量部以下である。短繊維の含有量が25重量部をこえると、加工工程での不具合が発生するだけでなく、硬度調製のためにオイルを配合すると、耐摩耗性が低下する。
【0026】
本発明のキャップトレッド用ゴム組成物には、前記ジエン系ゴム、粘着付与樹脂および/または液状ゴム、ならびに短繊維以外にも、従来タイヤ工業で配合される配合剤、たとえば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどの補強用充填剤、シリコーンゴム、オイル、各種老化防止剤、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄などの加硫剤、各種加硫促進剤などを必要に応じて適宜配合することができる。
【0027】
本発明のキャップトレッド用ゴム組成物は、粘着付与樹脂および/または液状ゴムを配合することによりグリップ性能が向上する。また、短繊維も配合することでさらにグリップ性能が向上するという理由から、とくにキャップトレッドとして好適に用いられる。
【0028】
本発明のタイヤは、本発明のキャップトレッド用ゴム組成物を用いて通常の方法で製造できる。すなわち、必要に応じて前記配合剤を配合した本発明のキャップトレッド用ゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのキャップトレッドの形状にあわせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧して本発明のタイヤを得る。
【0029】
本発明のタイヤは、短繊維を配合することにより氷上におけるひっかき効果が向上するという理由から、スタッドレスタイヤとすることが好ましい。
【実施例】
【0030】
実施例にもとづいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0031】
以下、実施例および比較例で使用した各種薬品をまとめて説明する。
天然ゴム(NR):RSS♯3
ブタジエンゴム(BR):宇部興産(株)製のウベポール150B
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(ISAF、N220)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスP−200
粘着付与樹脂(1):神戸油化学工業(株)製のクマロン樹脂125℃(クマロン樹脂、Mn:400)
粘着付与樹脂(2):新日本石油化学(株)製の日石ネオポリマー120(石油系樹脂、Mn:900)
液状ゴム(1):サートマー社(Sertomer Company Inc.)製のライコン150(液状BR、Mn:5200)
液状ゴム(2):サートマー社(Sertomer Company Inc.)製のライコン181(液状SBR、Mn:3200)
グラスファイバー:日本板硝子(株)製の硝子繊維(平均繊維径:15μm)
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックS
ステアリン酸:日本油脂(株)製
亜鉛華:三井金属鉱業(株)製
硫黄:鶴見化学工業(株)製
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0032】
(キャップトレッド用ゴム組成物1〜9およびベーストレッド用ゴム組成物1の作製)
表1に示す配合処方にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を160℃以下の条件下で4分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に、硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、100℃以下の条件下で2分間混練りし、未加硫ゴム組成物を得た。さらに、得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で15分間プレス加硫し、キャップトレッド用ゴム組成物1〜9およびベーストレッド用ゴム組成物1を得た。
【0033】
(硬度測定)
JIS K 6253「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に準じて、スプリング式タイプAにて硬度を測定した。
【0034】
硬度測定の結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例1〜6および比較例1〜3
未加硫状態のベーストレッド用ゴム組成物とキャップトレッド用ゴム組成物とを、表2記載の組み合わせで2層のトレッドに押し出し、他の部材とともに貼り合わせ、170℃の条件下で15分間プレス加硫することで、実施例1〜6および比較例1〜3の試験用スタッドレスタイヤDS2(タイヤサイズ:195/65R15)を製造した。
【0037】
(氷上制動性能)
製造した新品タイヤを試験車(トヨタマークII)に装着させ、氷上において、時速30km/hでロックブレーキを踏み、停止するまでに要した停止距離を測定し、比較例1の氷上制動性能指数を100とし、下記計算式により、各配合の停止距離を指数表示した。
(氷上制動性能指数)=(比較例1の停止距離)/(各配合の停止距離)×100
【0038】
また、製造したタイヤを80℃の条件下で2週間乾熱老化させた。そして、上記新品タイヤと同様に試験を行い、乾熱老化後の比較例1の停止距離を100とし、各配合の停止距離を指数表示した。なお、新品時、乾熱老化後ともに、氷上制動性能指数が大きいほど氷上制動性能に優れることを示す。
【0039】
(氷上操縦安定性)
製造した新品タイヤを前記試験車に装着させ、氷上のテストコースを走行させ、そのときの氷上グリップ性能、ハンドリングを、テストドライバーが、比較例1の氷上操縦安定性を6点とし、8点満点で官能評価した。
【0040】
また、製造したタイヤを80℃の条件下で2週間乾熱老化させた。そして、上記新品タイヤと同様に試験を行い、乾熱老化後の氷上操縦安定性を、乾熱老化後の比較例1の氷上操縦安定性を6点とし、8点満点で官能評価した。なお、新品時、乾熱老化後ともに、氷上操縦安定性が大きいほど優れることを示す。
【0041】
(摩耗外観)
製造した新品タイヤを前記試験車に装着させ、乾燥路面のテストコースを8000km走行させた。その後、タイヤの摩耗外観を、テストドライバーが目視にて評価した(◎:非常に良好、○:良好、△:摩耗外観が悪く、見た目に悪い)。
【0042】
前記評価結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
比較例1は、粘着付与樹脂および/または液状ゴムを含まない従来の配合のキャップトレッドを有するスタッドレスタイヤである。
【0045】
実施例1〜6では、粘着付与樹脂および/または液状ゴムを所定量含有し、さらに、グラスファイバーを所定量含有するため、経時による氷上性能の劣化を抑制し、さらに、氷上性能および耐摩耗性を向上させることができた。
【0046】
比較例2および3では、粘着付与樹脂および/または液状ゴムの含有量が少ないため、粘着付与樹脂および/または液状ゴムを含有することによる経時による氷上性能の劣化を抑制し、さらに、氷上性能および耐摩耗性を向上する効果が見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対して、
粘着付与樹脂および/または液状ゴムを2〜25重量部、ならびに
短繊維を1〜25重量部含有し、
JIS−A硬度が40〜70であるキャップトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
粘着付与樹脂が、クマロン樹脂または石油系樹脂である請求項1記載のキャップトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
粘着付与樹脂の数平均分子量が200〜1000である請求項1または2記載のキャップトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
液状ゴムが、液状ブタジエンゴムまたは液状スチレンブタジエンゴムである請求項1、2または3記載のキャップトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
液状ゴムの数平均分子量が1000〜10000である請求項1、2、3または4記載のキャップトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載のキャップトレッド用ゴム組成物を用いたキャップトレッドを有するスタッドレスタイヤ。

【公開番号】特開2008−50432(P2008−50432A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226509(P2006−226509)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】