説明

キャパシタディスチャージスタッド溶接方法

【課題】母材およびスタッドボルトのうちのいずれか一方にアルミニウムまたはアルミニウム合金を用い、他方に銅または銅合金を用いて溶接するときに、得られる溶接部の接合不良のないキャパシタディスチャージスタッド溶接方法を提供する。
【解決手段】母材およびスタッドボルトのうちのいずれか一方にアルミニウムまたはアルミニウム合金を用い、他方に銅または銅合金を用いて、投入エネルギー40J〜400Jの条件でキャパシタディスチャージスタッド溶接する。直流逆極性溶接であり、溶接に先立ち、スタッドボルトを酸洗いする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタディスチャージスタッド溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属の溶接にはアーク溶接などの溶融溶接法が適用される。最近では、部材の軽量化を図る等の目的のために、異種金属の溶接の必要性が高まり、種々の研究開発が行われている。
例えば、アルミニウム板と鋼板の溶接においては、溶接部にAlとFeとの脆弱な金属間化合物が生成し、健全な溶接部が得られない場合が多い。
同様に、良好な熱伝導性を活かした銅部材に用いられるアルミニウムと銅との溶接においても、CuAl2などの金属間化合物が生成しやすく、接合不良を生じ、溶接部の強度は極めて小さい。
【0003】
アルミニウムと銅との溶接性を改善するために、例えば、アルミ合金をインサート材として挿入する方法が提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、この場合、被溶接部材とは別のインサート材を挿入する必要があり、経済的ではなく、直接溶接する方が望ましい。また、アルミニウムと銅とのスタッド溶接については、インサート材を挿入して溶接することは不可能である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−90093号公報
【特許文献2】特許3626920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、アルミニウムからなる母材に銅からなるスタッドボルト(スタッド)を溶接する方法において、得られる溶接部の金属間化合物の生成が顕著であり、接合不良を生じ、また、溶接部の強度が小さい点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法は、母材およびスタッドボルトのうちのいずれか一方にアルミニウムまたはアルミニウム合金を用い、他方に銅または銅合金を用いて、投入エネルギー40J〜400Jの条件で溶接することを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法は、好ましくは、投入エネルギー90J以上の条件で溶接することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法は、好ましくは、直流逆極性溶接であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法は、好ましくは、溶接に先立ち、スタッドボルトを酸洗いすることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法は、好ましくは、母材とスタッドボルトの先端の間のギャップを0.2mm〜2mmに設定して溶接サイクルを開始することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法は、母材およびスタッドボルトのうちのいずれか一方にアルミニウムまたはアルミニウム合金を用い、他方に銅または銅合金を用いて、投入エネルギー40J〜400Jの条件で溶接するので、得られる溶接部の接合不良が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は実施例の溶接部の断面写真を示す図である。
【図2】図2は投入エネルギーと引張荷重の関係を示すグラフ図である。
【図3】図3は引張破断面のX線回折結果示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態(以下、本実施の形態例という。)について、以下に説明する。
【0014】
本実施の形態に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法は、母材およびスタッドボルトのうちのいずれか一方にアルミニウムまたはアルミニウム合金を用い、他方に銅または銅合金を用いて、投入エネルギー40J〜400Jの条件で溶接する。ここで、投入エネルギー(電力量 E:単位J)は、充電電圧をV(単位:V)、コンデンサ容量をC(単位:F)とするとき、E=(C・V)/2で示される量である。
【0015】
先に説明したように、溶融溶接法等の一般的な溶接法でアルミニウムと銅を溶接しようとすると、CuAl2などの金属間化合物が生成しやすく、得られる溶接部の強度は極めて小さい。
これに対して、スタッド溶接法を適用すると、短時間に溶接ができるため、溶接部において溶融した両金属の混合を抑制することが可能であり、また、熱による組織の変化も抑えられる。さらに、使用エネルギーを抑えることができ、省エネルギー化にも繋がる。特に、キャパシタディスチャージスタッド溶接方法(以下、CDスタッド溶接ということがある。)はコンデンサに蓄えられたエネルギーのみ利用して溶接するので、溶接時間は3〜10m秒と非常に短い。本発明者らは、CDスタッド溶接によりアルミニウムと銅を溶接する方法について鋭意検討した結果、本実施の形態に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法を見出した。
本実施の形態に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法によれば、被溶接面において極めて薄い層の溶融が生じるための必要最小限のエネルギーを局所的に投入することで被溶接面を溶融、密着することができ、このとき、投入エネルギーが少ない為、被溶接面が自ずと急速冷却されることで、金属間化合物の生成が抑制され、接合不良を生じない。
【0016】
投入エネルギーが40Jを下回ると、溶接部にブローホールなどの未接合部が生成して接合不良となり溶接条件として適正ではなくなるおそれがある。一方、投入エネルギーが400Jを超えると金属間化合物の生成抑制効果が頭打ちとなり、投入エネルギーに無駄を生じるおそれがある。
【0017】
投入エネルギーは、90J以上であると、良好な溶接部強度(例えば引張荷重で評価)を得るうえでより好ましい。
【0018】
また、本実施の形態に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法は、直流逆極性溶接であることが好ましい。
溶接電源には、直流正極性、交流および直流逆極性の3種類がある。
直流正極性は、スタッドを負極とし、母材を正極としてアークを発生する。正極性の場合はアークがもっとも安定し、かつ母材の溶込みが深く、例えばTIG溶接では汎用される。
直流逆極性は、スタッドを正極とし、母材を負極としてアークを発生する。逆極性の場合はアークの安定性に欠けるが、母材の酸化皮膜を破壊するクリーニング作用を有する利点がある。
交流は、正極性と逆極性が交互に行われる。交流の場合、直流正極性および直流逆極性の両極性の中間の特性が得られるが、アークが切れ易いという欠点がある。
本発明者らはこれら溶接電源の特性について鋭意検討した結果、直流逆極性を用いることにより、溶接強度のより良好な溶接部が得られることを見出した。
なお、充電電圧およびコンデンサ容量の設定条件にかかわらず、逆極性とすることは正極性にすることに比べて良好な溶接強度を得るうえで好ましい。
【0019】
また、本実施の形態に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法において、溶接に先立ち、スタッドボルトを酸洗いすることが好ましい。これにより、溶接強度のより良好な溶接部が得られる。
上記の作用効果メカニズムについては定かではないが、スタッドボルトを酸洗いすることにより、スタッドと母材との間におけるアークの発生がより均一化され、そして、クリーニング作用が被溶接部の全面に生じることによるものと考えられる。
【0020】
また、本実施の形態に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法において、母材とスタッドボルトの先端の間のギャップを0.2mm〜2mmに設定して溶接サイクルを開始することが好ましい。ギャップが0.2mm〜2mmの範囲を外れると、良好な溶接が得られないおそれがある。
【0021】
以上説明した本実施の形態に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法によれば、得られる溶接部の金属間化合物の生成が抑制され、接合不良がない。
また、本実施の形態に係るキャパシタディスチャージ溶接方法によれば、得られる溶接部の強度が大きく、また、脆弱性の問題がない。
【0022】
本実施の形態に係るキャパシタディスチャージスタッド溶接方法の適用範囲は、特に限定するものではない。例えば、熱伝導性を生かした銅製部材の一部をAl化して軽量化を図る場合や、伝導材料である銅線の一部をAl線へ置き換えて軽量化を図る場合に、好適に適用できる。
【実施例】
【0023】
(溶接可能条件の検討)
キャパシタディスチャージスタッド溶接方法によって溶接するときに、CuAl2などの金属間化合物の生成が見られない溶接可能条件を以下の手順で検討した。
【0024】
基盤材(母材)に工業用純アルミニウム板A1050を用い、スタッドボルトには市販の無酸素銅製のスタッドボルトを使用した。工業用純アルミニウム板は、50mm×50mmの平板を用いた。スタッドボルトは、太さ0.6mmで長さ1mmの突起(スタッド)を有するものを用いた。
溶接にはCDスタッド溶接機(仕様:コンデンサ容量4700μF〜131,900μF、充電電圧DC30
V〜180V、充電及び放電制御はSCRスイッチング制御)を用いた。スタッド溶接はギャップ方式(ギャップ:1mm)で行った。溶接は、それぞれの充電電圧およびコンデンサ容量の組み合わせ条件ごとに、正極性および逆極性の双方の条件で行った。
スタッド溶接後、溶接部断面をエメリー紙#300〜#2000まで研磨し、コロイダルシリカで鏡面に仕上げて溶接部断面を観察した。
【0025】
結果を表1に示す。
表1中、充電電圧が「100−170V」とは、100V、110V、120V、130V、140V、150V、160Vおよび170Vの各条件を一括して簡便に表記したものである。
また、表1中、「○」は溶接部を外観観察した結果、試料全体が接合良好の状態にあるものを示し、「×」は接合不良の状態にあるものを示す。
溶接部の断面写真を図1に示す。図1は、コンデンサ容量28,200μF、充電電圧E=140V、逆極性の場合で、溶接部にはAlとCuが溶融混合して接合され、金属間化合物の形成は見られない。
【0026】
【表1】

【0027】
(強度適正化条件の検討)
上記溶接可能条件の検討と同様の条件、手順で溶接して、得られた溶接部の引張荷重(引張強度)をインストロン型引張試験機(引張速度:1.5 mm/min)で測定した。
【0028】
横軸に投入エネルギー(E:単位J)を縦軸に引張荷重(単位:N)をとって図2に結果をまとめて示す。投入エネルギーが90J以上で引張荷重が顕著に増加し、200J程度で最大値をとった後、投入エネルギーが増大するとともに緩やかに低下することが分かる。
また、A1050、コンデンサ容量18,100μF、充電電圧E=160Vの条件の実施例の引張破断面のX線回折結果を図3に示す。図3中、Al側およびCu側の破断面において、CuAl2などの金属間化合物は見られない。
【0029】
上記引張荷重データを極性で層別した結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
(スタッドボルト酸洗い有無の検討)
予めスタッドボルト先端を酸洗い後、コンデンサ容量を28,200μFとし、および正極性とするとともに、表3に示す条件とした以外は、上記溶接可能条件の検討と同様の条件、手順で溶接して、得られた溶接部の引張荷重を測定した。酸洗いは、常温の希硝酸の浴にスタッドボルト先端を数秒間浸漬して行い、その後、水洗いしたスタッドボルトを溶接に用いた。
【0032】
引張荷重の結果を表3に示す。
【0033】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材およびスタッドボルトのうちのいずれか一方にアルミニウムまたはアルミニウム合金を用い、他方に銅または銅合金を用いて、投入エネルギー40J〜400Jの条件で溶接することを特徴とするキャパシタディスチャージスタッド溶接方法。
【請求項2】
投入エネルギー90J以上の条件で溶接することを特徴とする請求項1記載のキャパシタディスチャージスタッド溶接方法。
【請求項3】
直流逆極性溶接であることを特徴とする請求項1記載のキャパシタディスチャージスタッド溶接方法。
【請求項4】
溶接に先立ち、スタッドボルトを酸洗いすることを特徴とする請求項1記載のキャパシタディスチャージスタッド溶接方法。
【請求項5】
母材とスタッドボルトの先端の間のギャップを0.2mm〜2mmに設定して溶接サイクルを開始することを特徴とする請求項1記載のキャパシタディスチャージスタッド溶接方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−25266(P2011−25266A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171951(P2009−171951)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】