説明

キャパシタ絶縁電源装置

交流電源1から整流回路2を通して供給された直流、又は直流電源から直接供給された直流を導く線路の正側と負側に、スイッチング素子M1,M2,M3を直列に接続し、前記スイッチング素子M1,M2,M3を、高周波信号でオンオフ制御し、接続点aと負荷端子cとの間にイン
ダクタL1、キャパシタC1を挿入し、接続点bと負荷端子dとの間にインダクタL2、キャパシタC2を挿入した。スイッチング素子M1,M3をオンオフする位相が同じであり、スイッチング素子M2をオンオフする位相が、逆相になっている。変圧器を用いないでも、直流に対する絶縁だけでなく、交流に対する絶縁も十分に確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電源と負荷との間を絶縁できるキャパシタ絶縁電源装置に関するものである。
【背景技術】
電源装置には、所望の大きさの電圧を得るために、変圧器が内蔵されているものがある。この変圧器は、一次側と二次側とを絶縁するという役目も果たしている。
一方、変圧器は重くて大きいため、小型化・軽量化の目的のために、変圧器を用いないで済む電源装置が求められることがある。
この、変圧器のない電源装置は、変圧器を用いた電源装置と違って、電源側と負荷側との絶縁を保つことが一般に困難である。
従来では、この絶縁を保つため、電源側と負荷側との間でキャパシタを直列に結合させたタイプの電源装置が提案されている(米国特許第4,635,175号明細書、米国特許第6,144,565号明細書、特開平2003−116268号公報参照)。
しかし、このタイプの電源装置は、直流に対する絶縁はできても、交流、すなわち商用周波数やスイッチング周波数の交流電圧や交流電流に対する十分な絶縁が確保されていないのが実状である。
【発明の開示】
そこで、本発明は、直流に対する絶縁のみならず、交流に対する絶縁も十分に確保することができる電源装置を実現することを目的とする。
本発明の電源装置は、交流電源から整流回路を通して供給された直流、又は直流電源から直接供給された直流を導く線路の正極と負極との間に、直列に接続された第一、第二及び第三のスイッチング素子と、前記第一、第二及び第三のスイッチング素子を所定周波数の信号でオンオフ制御するスイッチ制御回路と、前記第一のスイッチング素子と第二のスイッチング素子との接続点と負荷端子との間に挿入された第一のキャパシタと、前記第二のスイッチング素子と第三のスイッチング素子との接続点と負荷端子との間に挿入された第二のキャパシタとを有し、前記第一のキャパシタと第二のキャパシタとの容量値が等しく、前記スイッチ制御回路は、前記第一及び第三のスイッチング素子をオンオフする位相が同じであり、この第一及び第三のスイッチング素子をオンオフする位相と、前記第二のスイッチをオンオフング素子する位相とが、互いに逆相になっていることを特徴とする。
このブリッジ構成によれば、前記第一のキャパシタと第二のキャパシタとの容量値が等しく、回路の対称性を確保できるので、電源と負荷との間の絶縁が、直流に対しても、交流に対しても達成される。
前記第一のスイッチング素子と第二のスイッチング素子との接続点と負荷端子との間に、さらに第一のインダクタが直列に挿入され、前記第二のスイッチング素子と第三のスイッチング素子との接続点と負荷端子との間に、さらに第二のインダクタが直列に挿入されていることが好ましい。
この場合、前記第一のインダクタと第二のインダクタとの誘導値が等しければ、回路の対称性を確保できるので、交流の絶縁のためにはさらに好ましい。
前記第一及び第三のスイッチング素子をオンしている期間が、前記第二のスイッチをオフしている期間の中に含まれ、前者の期間が後者の期間よりも短ければ、第一から第三のスイッチング素子がすべてオフになる期間が存在するので、ゼロスイッチを実現するという意味で好ましい。
以上のように本発明のキャパシタ絶縁電源装置によれば、電源側と負荷側とが直流的にも交流的にも絶縁される。したがって、変圧器を用いないで、入出力間の絶縁を保つことができる。これにより、コンピュータ、各種通信機器などに最適な電源装置を提供することができる。
また、このキャパシタ絶縁電源装置によれば、簡単にゼロスイッチを実現することができるので、ノイズの少ない電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のキャパシタ絶縁電源装置の回路図である。
図2は、スイッチ制御回路3の制御信号波形図である。
図3は、スイッチ制御回路3の制御信号波形図である。
図4は、本発明の効果を検証するために使用したキャパシタ絶縁電源装置のシミュレーション用の回路図である。
図5は、図4の回路における、入力オン後の、抵抗R7の両端電圧V7の電圧波形変化を示すグラフである。
図6は、第三のスイッチング素子M3を省略した、比較例にかかるキャパシタ絶縁電源装置の回路図である。
図7は、図6の回路における、入力オン後の、抵抗R7の両端電圧V7の電圧波形変化を示すグラフである。
図8は、インダクタL1,L2の値を非対称に設定した場合の入力オン後の、抵抗R7の両端電圧V7の電圧波形変化を示すグラフである。
図9は、キャパシタC1,C2の値を非対称に設定した場合の入力オン後の、抵抗R7の両端電圧V7の電圧波形変化を示すグラフである。
図10は、共振条件を満たさない場合の直流入力オン後の、抵抗R7の両端電圧V7の電圧波形変化を示すグラフである。
図11は、インダクタL1,L2がない場合のキャパシタ絶縁電源装置の回路図である。
図12は、インダクタL1,L2がない場合の入力オン後の、抵抗R7の両端電圧V7の電圧波形変化を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明のキャパシタ絶縁電源装置の回路図である。
商用交流電源1の交流電圧は、整流回路2により直流電圧に変換される。図1では、整流回路2は全波整流回路であるが、半波整流回路を採用してもよい。
直流変換後の正側及び負側には、第一、第二及び第三のスイッチングトランジスタM1,M2,M3が直列に接続されている。
そして、前記第一、第二及び第三のスイッチングトランジスタM1,M2,M3を所定周波数、例えば100kHzの信号でオンオフ制御するスイッチ制御回路3を備えている。スイッチ制御回路3は、スイッチングトランジスタM1,M2,M3のゲート電極に電圧信号を印加してスイッチングトランジスタM1,M2,M3をオンオフする。
前記第一のスイッチングトランジスタM1と第二のスイッチングトランジスタM2との接続点をa、前記第二のスイッチングトランジスタM2と第三のスイッチングトランジスタM3との接続点をbと表示する。また、負荷端子をc,dと表示する。
接続点aと負荷端子cとの間には、第一のインダクタL1と第一のキャパシタC1とが直列に挿入され、接続点bと負荷端子dとの間には、第二のインダクタL2と第二のキャパシタC2とが直列に挿入されて、負荷端子cと負荷端子dには、負荷抵抗Rが接続されている。
図2は、スイッチ制御回路3の制御信号波形図である。図2に示すように、スイッチングトランジスタM1,M3を導通させる電圧信号V1,V3は同位相で、スイッチングトランジスタM2を導通させる電圧信号V2は逆位相である。
以上のキャパシタ絶縁電源装置の動作を説明すると、スイッチングトランジスタM1,M3が導通している時はキャパシタC1,C2が充電される。スイッチングトランジスタM2が導通している時は、前記キャパシタC1,C2に充電された電荷が放電されて負荷Rに電流iが流れる。これにより、負荷Rに直流電流を供給することができる。
なお、スイッチングトランジスタM1,M3の導通状態と、スイッチングトランジスタM2の導通状態とが瞬時に切り替わると、スイッチングトランジスタに過大な負荷をかける。そこで、切り替えの間に双方とも非導通の期間を設けることが好ましい。たとえば、図3に示すように、スイッチングトランジスタM1,M3を導通させる電圧信号V1,V3の導通期間を短くして、電圧信号V1,V2,V3が非導通となる期間を設けるとよい。
図3は、スイッチ制御回路3の制御信号波形図である。電圧V1,V2,V3の波形とともに、スイッチングトランジスタM1,M2,M3のドレイン−ソース間の電圧E1,E2,E3の波形を描いている。図3に示すように、電圧V1,V2,V3が非導通となる期間中に、電圧E1,E2,E3がゼロになってからスイッチングトランジスタがオンするので、スイッチングトランジスタに過大な負荷をかけることがない。
このように本発明のキャパシタ絶縁電源装置では、直流において負荷Rと商用交流電源1とを絶縁することができるのはもちろんであるが、商用交流電源1の周波数、スイッチング周波数などにおいても、負荷Rと商用交流電源1とを絶縁することができる。すなわち、電源と負荷との間で直流絶縁及び交流絶縁が達成される。
このことは、後に実施例に示すように、負荷Rと接地との間に抵抗を接続して、この抵抗に直流電流も交流電流も流れないか、または流れてもそれが人体に影響を与えない微小な電流であることを確認することによって、証明できる。
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではない。例えば、図1において交流電源1、整流回路2がない、直流入力形の電源装置にも本発明は適用可能である。また整流回路2がなく、直接、交流電源1につながった交流入力形の電源装置にも本発明は適用可能である。その他、本発明の範囲内において種々の変更を施すことが可能である。
【実施例1】
図4は、本発明の効果を検証するために使用した回路図である。この回路構成、回路定数をコンピュータに入力し、回路解析ソフトを用いて、各部の電圧・電流波形を算出した。
この回路は、交流入力・直流出力の形になっていて、図1のキャパシタ絶縁電源装置と同じ回路である。整流回路2とスイッチングトランジスタM1との間の抵抗R1,R2が入っているが、無視できるほど小さな値である。また、インダクタL1とキャパシタC1に、それぞれ並列抵抗R3,R4が入っているが、これは回路解析ソフトの設定に必要な定数であり、無視できるほど大きな値である。並列抵抗R5,R6も同様、無視できるほど大きな値である。
交流電源1の電圧は、ピーク値350V、周波数50Hzとした。
負荷抵抗Rは1Ωとした。ただし、負荷抵抗Rと接地との間に流れる電流を測定するために、負荷抵抗Rの両端と接地との間に、それぞれ人体を模擬する10kHzの抵抗R7,R8を接続した。抵抗R7の電圧をV7とする。
インダクタL1,L2は、それぞれ250μHのインダクタを使用し、キャパシタC1,C2は、それぞれ0.01μFのキャパシタを使用した。スイッチ制御回路のオンオフ周波数fは、100kHzである。これらの定数は、条件
f>1/2π√(LC)
を満足している。ただし、この式では、L1=L2=L,C1=C2=Cと表記した。
交流入力オン後の、抵抗R7の両端の電圧V7の電圧波形を時間経過とともにグラフにしたものが、図5である。
図5の縦軸電圧の単位はボルト、横軸時間の単位はmsecである。
図5のグラフによれば、電源立ち上がりから2msec後に、電圧V7は立ち上がっていくが、その電圧V7は高々10V以下である。したがって、人間は感電せす、入出力間の絶縁は確保されているといえる。
このように、インダクタL1,L2、キャパシタC1,C2ともに対称性があり、電源と負荷との間の絶縁がほぼ完全に達成される。なお、この関係を満たさない場合でも、以下の実施例に示すように、電源と負荷との間の絶縁は、実用上十分なレベルで達成される。
<比較例1>
比較例として、図6に示すように、第三のスイッチングトランジスタM3が短絡されている回路を想定した。回路定数は、図4のものと同じである。
図7に、交流入力オン後の、抵抗R7の両端の電圧V7の電圧波形のグラフを示す。色の濃い部分は時間占有率の高い部分、色の薄い部分は時間占有率の低いサージ電圧の部分を示す。
図7のグラフによれば、電源立ち上がり後、電圧V7は急激に立ち上がり、しかも大きな電圧値を示す。入出力間の絶縁は確保されているといえず、負荷Rを触ると感電するおそれがある。
<比較例2>
インダクタL1,L2の値を非対称に設定したキャパシタ絶縁電源装置を想定して、抵抗R7の両端の電圧V7の電圧波形を算出した。
キャパシタC1,C2はそれぞれ0.01μFとし、インダクタL1を350μH,L2を150μHとし,和(L1+L2)を前例と変わらない値とした。
この回路の電圧V7のグラフを図8に示す。このグラフからわかるように、図5の実施例1と比べて、インダクタL1,L2の値を非対称に設定することによって、電圧V7は、150Vを超える大きな電圧値を示すようになる。入出力間の絶縁は確保されているといえず、負荷Rを触ると感電するおそれがある。
<比較例3>
キャパシタC1,C2の値を非対称に設定したキャパシタ絶縁電源装置を想定して、抵抗R7の両端の電圧V7の電圧波形を算出した。
インダクタL1,L2を250μHとし、キャパシタC1,C2を、それぞれ0.013μF,0.008μFとしたとしたときの電圧V7のグラフを図9に示す。なお、キャパシタC1,C2の直列合成容量が、図2のキャパシタC1,C2の直列合成容量に等しくなるようにしてある。
図9のグラフからわかるように、実施例1と比べて、キャパシタC1,C2を非対称に設定することによって、電圧V7は、90V近い大きな電圧値を示すようになる。入出力間の絶縁は確保されているといえず、負荷Rを触ると感電するおそれがある。
【実施例2】
次に、f>>1/2π√(LC)の場合のシミュレーション例を示す(>>は非常に大きいという意味である)。
インダクタL1,L2を、それぞれ50μHとし、キャパシタC1,C2を、それぞれ0.01μFとした。スイッチ制御回路のオンオフ周波数fは、いままでと同じ100kHzである。
この場合の交流入力オン後の、電圧V7の電圧波形を図10に示す。
図10のグラフによれば、電源立ち上がり後、電圧V7は30V以下である。したがって、図5と比べて、電圧値は大きいものの、比較的安全な値である。特に色の濃い部分(時間占有率の高い部分)の電圧値は低く、入出力間の絶縁は確保されているといえる。
【実施例3】
インダクタL1,L2を外して、キャパシタC1,C2のみとした回路を図11に示す。
その場合の計算結果を図12に示す。C1,C2の値は、それぞれ0.01μFとした。
図12は、直流入力オン後の、電圧V7の電圧波形の時間経過を示すグラフである。この図12のグラフによれば、図10と同様の傾向を示し、電源立ち上がり後、電圧V7は50V以下である。したがって、図10と比べて、電圧値は大きいものの、比較的安全な値である。特に色の濃い部分(時間占有率の高い部分)の電圧値は低く、入出力間の絶縁は確保されているといえる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から整流回路を通して供給された直流、又は直流電源から直接供給された直流を導く線路の正極と負極との間に、直列に接続された第一、第二及び第三のスイッチング素子と、
前記第一、第二及び第三のスイッチング素子を所定周波数の信号でオンオフ制御するスイッチ制御回路と、
前記第一のスイッチング素子と第二のスイッチング素子との接続点と負荷端子との間に挿入された第一のキャパシタと、
前記第二のスイッチング素子と第三のスイッチング素子との接続点と負荷端子との間に挿入された第二のキャパシタとを有し、
前記第一のキャパシタと第二のキャパシタとの容量値が等しく、
前記スイッチ制御回路は、前記第一及び第三のスイッチング素子をオンオフする位相が同じであり、
この第一及び第三のスイッチング素子をオンオフする位相と、前記第二のスイッチをオンオフング素子する位相とが、互いに逆相になっていることを特徴とするキャパシタ絶縁電源装置。
【請求項2】
前記第一のスイッチング素子と第二のスイッチング素子との接続点と負荷端子との間に、さらに第一のインダクタが直列に挿入され、前記第二のスイッチング素子と第三のスイッチング素子との接続点と負荷端子との間に、さらに第二のインダクタが直列に挿入されている請求項1記載のキャパシタ絶縁電源装置。
【請求項3】
前記第一のキャパシタと第二のキャパシタとの容量値が等しく、前記第一のインダクタと第二のインダクタとの誘導値が等しい請求項2記載のキャパシタ絶縁電源装置。
【請求項4】
前記第一及び第三のスイッチング素子をオンしている期間が、前記第二のスイッチをオフしている期間の中に含まれ、前者の期間が後者の期間よりも短い請求項1から請求項3のいずれかに記載のキャパシタ絶縁電源装置。

【国際公開番号】WO2005/062452
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512309(P2005−512309)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016214
【国際出願日】平成15年12月18日(2003.12.18)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】