説明

キャビコール類縁体化合物、その製造方法、および抗アレルギー剤

【課題】強力な脱顆粒抑制作用を有し、I型アレルギー反応の治療薬として有用な、新規な化合物、この新規な化合物の製造方法、及び、この新規な化合物の脱顆粒抑制作用を利用した抗アレルギー剤を提供する。
【解決手段】下記の構造式(1)で表されるキャビコール類縁体化合物、有機金属反応、アシル化、アルコキシカルボニル化、還元などを用いたこの化合物の製造方法、および、この化合物を含有する抗アレルギー剤。


(R、Rはアシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を表し、Rは水素、アルキル基、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を表し、nは0又は1を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱顆粒抑制作用を有し、アレルギー治療薬として用いられるキャビコール類縁体化合物に関する。本発明は、さらに、この化合物の製造方法、および、この化合物を含有する抗アレルギー剤に関する。
【背景技術】
【0002】
花粉症、食物アレルギー、蕁麻疹、アレルギー性喘息や鼻炎などのアレルギー性疾患はI−IV型の中のI型アレルギー反応に分類され、このI型アレルギー反応の治療薬としてはステロイド剤、抗ヒスタミン剤、脱顆粒抑制剤などが用いられている。
【0003】
このうちステロイド剤は、作用が強力であるが、副作用が非常に強い問題があり、また抗ヒスタミン剤は、急性の炎症症状に有効であるが、予防効果は期待できないとの問題がある。これに対し、脱顆粒抑制剤は、急性症状の直接の原因となるケミカルメディエーターの遊離を抑制する薬物であり、予防効果が高く、ステロイドに比べ副作用も少ないので、その重要性が高まっている。
【0004】
このような脱顆粒抑制剤としては、トラニラスト(tranilast)やフマル酸ケトチフェン(ketotifen fumarate)等が現在臨床で用いられているが、より強力な脱顆粒抑制作用を有する化合物として、下記の構造式(A)で表わされる1'S-1'−アセトキシキャビコール(1'S-1'-acetoxychavicol acetate)が知られている。また、この化合物は、広く東南アジアから中国まで分布しており、その根茎が健胃や駆風、皮膚疾患の治療などに用いられているアルピニアガランガ(Alpinia galanga)の抽出物中に含まれており、アルピニアガランガの抽出物を用いた抗アレルギー剤も提案されている(特許文献1)。
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、Acはアセチル基を表わす。以下の記載においても同様である。)
【特許文献1】特開2004−189669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の1'S-1'−アセトキシキャビコールと同様、強力な脱顆粒抑制作用を有し、I型アレルギー反応の治療薬として有用な新規な化合物を提供することを課題とする。本発明は、又、この新規な化合物の製造方法を提供することも課題とする。本発明は、さらに、この新規な化合物の脱顆粒抑制作用を利用した抗アレルギー剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、1'S-1'−アセトキシキャビコールの脱顆粒抑制機構の解明を行うとともに、種々のキャビコール類縁体についてその脱顆粒抑制作用を検討した結果、特定の種類のキャビコール類縁体が、強力な脱顆粒抑制作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、その第一の態様として、下記の構造式(1)で表されることを特徴とするキャビコール類縁体化合物を提供する(請求項1)。
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R、Rは、それぞれ、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を表し、Rは水素、アルキル基、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を表し、nは0又は1を表す。)
【0012】
これらのキャビコール類縁体化合物は、強力な脱顆粒抑制作用を有し、脱顆粒抑制剤としてI型アレルギー反応の治療に優れた効果を奏するものである。ここで、アルキル基、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基としては、炭素数が、1から10程度のものが好ましく例示される。
【0013】
前記の構造式(1)で表される化合物は、以下に示す方法により製造することができる。本発明は、この製造方法も提供するものである。
【0014】
すなわち、構造式(1)の化合物のうちRが水素のものは、4−ヒドロキシベンズアルデヒドをグリニヤー試薬又は有機リチウム試薬等と反応させた後、アシル化、アルコキシカルボニル化を行う方法により製造することができる。請求項2は、この態様に該当し、4−ヒドロキシベンズアルデヒドを、下記の構造式(2)で表されるグリニヤー試薬又は有機リチウム試薬:
【化3】


(式中Mは、MgX又はLiを表し、nは0又は1を表し、XはCl、Br又はIを表す。)と反応させた後、アシル化又はアルコキシカルボニル化を行うことを特徴とする下記の構造式(1−1):
【化4】


(式中、R、Rは、それぞれ、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を表し、nは0又は1を表す。)で表されるキャビコール類縁体化合物の製造方法を提供するものである。
【0015】
この製造方法においては、先ず、4−ヒドロキシベンズアルデヒドと、構造式(1−1)のハロゲン化アリールマグネシウム又は有機リチウム等を、以下に示す反応をさせて、下記の構造式(3)で表されるジオール化合物を得る。この反応は、通常のグリニヤール反応や有機リチウムとの反応と同様な条件で行うことができ、例えば、金属ナトリウム等で完全に脱水(乾燥)されたエーテル類、例えばエチルエーテルやテトラヒドロフラン中で行われる。
【0016】
【化5】

【0017】
そしてこのようにして得られたジオール化合物を、以下に示す反応でアシル化又はアルコキシカルボニル化することにより、構造式(4)で示されるアルコール化合物を得る。アシル化又はアルコキシカルボニル化は、通常のフェノール性水酸基のアシル化反応又はアルコキシカルボニル化反応と同様の条件で行うことができる。例えば、アシル化反応は無水酢酸や酸ハライド等を使用して行われる。又、アルコキシカルボニル化反応は、アルキル炭酸ハライド等を使用して行うことができる。
【0018】
【化6】

【0019】
そしてこのようにして得られたアルコール化合物を、以下に示す反応でアシル化又はアルコキシカルボニル化することにより、構造式(1)で示され、RがHであるキャビコール類縁体化合物を得る。このアシル化又はアルコキシカルボニル化も、通常のアルコール性水酸基のアシル化反応又はアルコキシカルボニル化反応と同様の条件で行うことができ、例えば、アシル化反応は無水酢酸や酸ハライド等を使用して行われる。又、アルコキシカルボニル化反応は、アルキル炭酸ハライド等を使用して行うことができる。
【0020】
【化7】

【0021】
構造式(1)の化合物のうち、nが0であって、Rが水素、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基のもの、すなわち下記の構造式(1−2):
【化8】


(式中、R、Rは、それぞれ、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を表し、Rは水素、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を表す。)で表されるキャビコール類縁体化合物は、4−ヒドロキシベンゾフェノン又は4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンのフェノール性水酸基を保護基で保護した後、カルボニル基を還元し、その後、前記保護基を取り除いてジオール化合物又はトリオール化合物を得、このジオール化合物又はトリオール化合物に、アシル化又はアルコキシカルボニル化を行う方法により得ることができる。請求項3は、この態様に該当する製造方法を提供するものである。
【0022】
4−ヒドロキシベンゾフェノン又は4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンのフェノール性水酸基を適切な保護基としてはシリル基が例示される。
【0023】
例えば、水酸基の適切な保護基としてtert−ブチルジメチルシリル基を用いた場合は、以下に示すシリル化反応が行われ、4−ヒドロキシベンゾフェノンからは、下記構造式(5)の化合物であってRがHで表されるモノシリル体が、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンからはRがtert−ブチルジメチルシリルオキシ基で表されるジシリル体が得られる。このシリル化反応は、通常の水酸基のシリル化反応と同様の条件で行うことができる。
【0024】
【化9】


(式中、TBSはtert−ブチルジメチルシリル基を表す。以下においても同様である。)
【0025】
水酸基のシリル化後、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)等の還元剤を使用して、4−ヒドロキシベンゾフェノン又は4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンのカルボニル基を還元し、その後TBS等の保護基が取り除かれる(脱保護)。例えば脱TBS反応には、フッ化テトラブチルアンモニウム等が用いられる。保護基がTBSの場合、この還元反応及び脱保護基反応は以下の式で示され、4−ヒドロキシベンゾフェノンからは、下記構造式(6)で表されRがHであるジオール体が、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンからはRがOHであるトリオール体が得られる。この還元反応及び脱保護基反応とも、通常のカルボニル基の還元や脱保護基反応と同様の条件で行うことができる。
【0026】
【化10】

【0027】
そしてこのようにして得られたジオール化合物あるいはトリオール化合物を、以下に示す反応でアシル化、若しくはアルコキシカルボニル化することにより、構造式(7)で示されるアルコール化合物を得る。アシル化若しくはアルコキシカルボニル化も通常のフェノール性水酸基のアシル化反応と同様の条件で行うことができ、例えば、アシル化反応は無水酢酸や酸ハライド等を使用して行われ、又、アルコキシカルボニル化反応は、アルキル炭酸ハライド等を使用して行うことができる。
【0028】
【化11】

【0029】
そしてこのようにして得られたアルコール化合物を、以下に示す反応でアシル化、若しくはアルコキシカルボニル化することにより、構造式(1)で示されるキャビコール類縁体化合物を得る。アシル化若しくはアルコキシカルボニル化も通常のアルコール性水酸基のアシル化反応と同様の条件で行うことができ、例えば、アシル化反応は無水酢酸や酸ハライド等を使用して行われ、又、アルコキシカルボニル化反応は、アルキル炭酸ハライド等を使用して行うことができる。
【0030】
【化12】

【0031】
前記の構造式(1)のキャビコール類縁体化合物は、優れた脱顆粒抑制効果を有し、脱顆粒抑制剤、抗アレルギー剤として、I型アレルギー疾患の治療に好適に用いられる。本発明は、このキャビコール類縁体化合物を含有することを特徴とする抗アレルギー剤も提供するものである(請求項4)。
【発明の効果】
【0032】
本発明のキャビコール類縁体化合物、すなわち前記の構造式(1)で表される化合物は、優れた脱顆粒抑制効果を有する。従って、この化合物を含有することを特徴とする本発明の抗アレルギー剤は、脱顆粒抑制剤、抗アレルギー剤として、I型アレルギー疾患の治療に好適に用いられる。又、この本発明のキャビコール類縁体化合物は、本発明の製造方法により容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に本発明を実施するためのより具体的な形態を、実施例により説明する。なお、実施例は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の趣旨を損なわない限り、他の形態へ変更することができる。
【実施例】
【0034】
合成例1
4−ヒドロキシベンズアルデヒドよりの、4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェノール(4-(hydroxyphenylmethyl)phenol)の合成
【0035】
4−ヒドロキシベンズアルデヒド(6.1g、50mmol)と乾燥テトラヒドロフラン(100mL)の混合物に、アルゴン雰囲気下、フェニルリチウムの約19%ジブチルエーテル溶液(50mL、100mmol)を、−78℃にて30分かけて滴下し10分撹拌する。飽和塩化アンモニア水溶液を加え、酢酸エチル(100mL×3)にて抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、乾燥後、溶媒留去する。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=40:1)にて精製し、4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェノール(15.5g、99%)を得た。
【0036】
得られた化合物は無色結晶であり、融点、赤外スペクトル、NMR測定等の結果は以下に示すとおりであった。この結果より得られた化合物は、4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェノールであると確認された。
【0037】
mp: 163〜165℃
IR(KBr): 3402cm−1
H−NMR(CDOD) δ: 5.69 (1H, s), 6.74 (2H, d, J = 8.6 Hz), 7.16 (2H, d, J = 8.6 Hz), 7.20-7.36 (5H, m)
13C−NMR(CDOD) δ: 76.6 (d), 116.0 (d), 127.5 (d), 128.0 (d), 129.1 (d x 2), 136.8 (s), 146.0 (s), 157.6 (s)
EI−MS m/z:200[M]
【0038】
合成例2
4−ヒドロキシベンゾフェノンよりの、4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェノールの合成
【0039】
(1)4−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)フェニルフェニルメタノン(4-(tert-Butyldimethylsilanyloxy)phenylphenylmethanone)の合成(1段階目の反応)
4−ヒドロキシベンゾフェノン(3960mg、20mmol)と乾燥ジメチルホルムアミド(100mL)の混合物に、イミダゾール(2320mg、40mmol)及び塩化t−ブチルジメチルシリル(5140mg,34mmol)を0℃にて順次加える。室温にて1時間撹拌した後、飽和塩化アンモニア水溶液を加え、酢酸エチル(150mL×3)にて抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、乾燥後、溶媒留去することにより4−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)フェニルフェニルメタノン(5803mg、93%)が得られた。この得られた化合物を精製せずに下記の2段階目の反応に用いた。
【0040】
得られた化合物は無色油状物質であり、赤外スペクトル、NMR測定等の結果は以下に示すとおりであった。この結果より、得られた化合物は4−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)フェニルフェニルメタノンであると確認された。
【0041】
IR(neat): 1732cm−1
H−NMR(CDCl) δ: 0.02 (6H, s), 0.75 (9H, s), 6.65, (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.18-7.30 (3H, m), 7.48-7.53 (4H, m)
13C−NMR(CDCl) δ: -4.4 (q), 18.2 (s), 25.6 (q), 119.7 (d), 128.1 (d), 129.7 (d), 130.7 (d), 131.8 (s), 132.4 (d), 138.2 (s), 159.9 (s)
EI−MS m/z:312[M]
【0042】
(2)4−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)フェニルフェニルメタノール(4-(tert -Butyldimethylsilanyloxy)phenylphenylmethanol)の合成(2段階目の反応)
上記1段階目の反応で得られた4−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)フェニルフェニルメタノン(3120mg、10mmol)とメタノール(20mL)の混合物に、0℃にて、水素化ホウ素ナトリウム(760mg、20mmol)を加える。30分撹拌した後、水を加え、酢酸エチル(70mL×3)にて抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、乾燥後、溶媒留去することにより、4−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)フェニルフェニルメタノール(3109mg、99%)を得た。
【0043】
得られた化合物は無色油状物質であり、赤外スペクトル、NMR測定等の結果は以下に示すとおりであった。この結果より、得られた化合物は4−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)フェニルフェニルメタノールであると確認された。
【0044】
IR(neat): 3356cm−1
H−NMR(CDCl) δ: 0.13 (6H, s), 0.92 (9H, s), 5.65, (1H, d, J = 3.0 Hz), 6.72 (2H, d, J = 8.4 Hz ), 7.10-7.28 (7H, m)
13C−NMR(CDCl) δ: 4.5 (q), 18.1 (s), 25.6 (q), 75.7 (d), 120.0 (d), 126.4 (d), 127.3 (d), 127.8 (d), 128.3 (d), 136.7 (s), 144.0 (s), 155.0 (s)
EI−MS m/z:314[M]+
HR−EI−MS m/z:314.1692(C1924O,理論値:314.1702)
【0045】
(3)4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェノールの合成(3段階目)
上記2段階目の反応で得られた4−(tert−ブチルジメチルシラニルオキシ)フェニルフェニルメタノール(12.6g、40mmol)とテトラヒドロフラン(80mL)の混合物に、フッ化テトラブチルアンモニウム(13.9g、44mmol)を0℃にて加える。室温にて30分撹拌した後、飽和塩化アンモニア水溶液を加え、酢酸エチル(100mL×3)にて抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄し、乾燥後、溶媒留去する。得られた残渣を熱エタノールにて再結晶することにより、4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェノール(7.6g,95%)を得た。
【0046】
得られた化合物は無色結晶であり、融点、赤外スペクトル、NMR測定等の結果は、合成例1で得られた4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェノールと同じであった。この結果より、得られた化合物は4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェノールであると確認された。
【0047】
実施例1
4−(メトキシカルボニルオキシフェニルメチル)フェニルアセテート(4-(methoxy carbonyloxyphenylmethyl)phenyl acetate:構造式(1)において、R=メトキシカルボニルオキシ、R=メチルカルボニルオキシ、R=水素、n=0の化合物)の製造
【0048】
(1)4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェニルアセテート(4-(hydroxyphenylmethyl) phenylacetate)の合成(フェノール性水酸基の選択的アセチル化)
【0049】
合成例1で得られた4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェノール(800mg、4mmol)と乾燥ジクロロメタン(2mL)の混合物に、トリエチルアミン(1.66mL、12mmol)、無水酢酸(0.45mL、4.8mmol)を0℃にて順次加える。30分撹拌し、水を加え、酢酸エチル(30mL×3)にて抽出した。抽出液を飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄し、溶媒留去し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=30:1)で精製し4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェニルアセテート(871mg、90%)を得た。
【0050】
得られた化合物は無色油状物質であり、赤外スペクトル、NMR測定等の結果は以下に示すとおりであった。この結果より、得られた化合物は4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェニルアセテートであると確認された。
【0051】
IR(neat): 3310,1755cm−1
H−NMR(CDCl) δ: 2.22 (1H, d, J = 3.5 Hz), 2.28 (3H, s), 5.84 (1H, d, J = 3.5 Hz), 7.14 (2H, d, J = 8.6 Hz), 7.26-7.40 (7H, m)
13C−NMR(CDCl) δ: 2.09 (q), 75.3 (t), 121.3 (d), 126.4 (d), 127.4 (d), 127.5 (d), 128.3 (d), 141.4 (s), 143.5 (s), 149.7 (s), 169.5 (s)
FAB−MS m/z:242[M]+
HR−FAB−MS m/z:242.0922(C1514,理論値:242.0943)
【0052】
(2)4−(メトキシカルボニルオキシフェニルメチル)フェニルアセテートの合成(アルコール性水酸基のアルコキシカルボニル化)
上記の(1)で得られた4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェニルアセテート(242mg、1mmol)と乾燥ジクロロメタン(2mL)の混合物に、トリエチルアミン(0.42mL、3mmol)、4−N,N−ジメチルアミノピリジン(12.2mg、0.1mmol)、メチル炭酸クロリド(0.09mL、1.2mmol)、を0℃にて順次加える。60分撹拌し、さらにメチル炭酸クロリド(0.09mL、1.2mmol)を0℃にて加える。60分撹拌し、水を加え、酢酸エチル(30mL×3)にて抽出した。抽出液を飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄し、溶媒留去し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=25:1)にて精製し、4−(メトキシカルボニルオキシフェニルメチル)フェニルアセテート(219mg、73%)を得た。
【0053】
得られた化合物は無色油状物質であり、赤外スペクトル、NMR測定等の結果は以下に示すとおりであった。この結果より、得られた化合物は4−(メトキシカルボニルオキシフェニルメチル)フェニルアセテートであると確認された。
【0054】
IR(neat): 1747cm−1
H−NMR(CDCl) δ: 2.25(3H, s), 3.76 (3H, s), 6.70 (1H, s), 7.05 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.23-7.38 (7H, m)
13C−NMR(CDCl) δ: 21.0 (q), 54.8 (q), 80.1 (d), 121.6 (d), 126.8 (d), 128.1 (d), 128.2 (d), 128.5 (d), 137.1 (s), 139.2 (s), 155.0 (s), 155.0 (s), 169.2 (s)
FAB−MS m/z:300[M]+
HR−FAB−MS m/z:300.1017(C1716,理論値:300.0998)
【0055】
実施例2
4−(メトキシカルボニルオキシフェニルメチル)フェニルメチルカーボネート(4-(methoxycarbonyloxyphenylmethyl)phenyl methyl carbonate:構造式(1)において、R=メトキシカルボニルオキシ、R=メトキシカルボニルオキシ、R=水素、n=0の化合物)の製造
実施例1の(1)で用いた無水酢酸をメチル炭酸クロリドとした以外は、実施例1と同様にして、4−(メトキシカルボニルオキシフェニルメチル)フェニルメチルカーボネートを得た。
【0056】
得られた化合物は無色油状物質であり、赤外スペクトル、NMR測定等の結果は以下に示すとおりであった。この結果より、得られた化合物は4−(メトキシカルボニルオキシフェニルメチル)フェニルメチルカーボネートであると確認された。
【0057】
IR(neat): 1732cm−1
H−NMR(CDCl) δ: 3.79 (3H, s), 3.89 (3H, s), 6.70 (1H, s), 7.15 (2H, d, J = 8.9 Hz), 7.28-7.39 (7H, m)
13C−NMR(CDCl) δ: 54.8 (q), 55.2 (q), 79.9 (q), 121.0 (d), 126.8 (d),128.10 (d), 128.14 (d), 128.4 (d), 137.4 (s), 139.2 (s), 150.7 (s), 153.9 (s), 154.9 (s)
FAB−MS m/z:316[M]+
HR−FAB−MS m/z:316.0943(C1716,理論値:316.0947)
【0058】
合成例3
4−ヒドロキシベンゾフェノンの代わりに、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンを用いた以外は、合成例2と同様にして4−[ヒドロキシ(4−ヒドロキシフェニル)メチル]フェノールを得た。
【0059】
実施例3
4−[アセトキシ(4−アセトキシフェニル)メチル]フェニルアセテート(4-[acetoxy(4-acetoxyphenyl)methyl]phenyl acetate:構造式(1)において、R=アセチルオキシ、R=アセチルオキシ、R=アセチルオキシ、n=0の化合物)の製造
4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェノールを4−[ヒドロキシ(4−ヒドロキシフェニル)メチル]フェノールとし、メチル炭酸クロリドを無水酢酸とした以外は、実施例1と同様にして、4−[アセトキシ(4−アセトキシフェニル)メチル]フェニルアセテートを得た。
【0060】
得られた化合物は無色結晶であり、赤外スペクトル、NMR測定等の結果は以下に示すとおりであった。この結果より、得られた化合物は4−[アセトキシ(4−アセトキシフェニル)メチル]フェニルアセテートであると確認された。
【0061】
mp: 74−76℃
IR(KBr): 1763,1740cm−1
H−NMR(CDCl) δ: 2.15 (3H, s), 2.29 (6H, s), 6.88 (1H, s), 7.06 (4H, d, J = 8.4Hz), 7.33 (4H, d, J = 8.4 Hz)
13C−NMR(CDCl) δ: 21.1 (q), 21.2 (q), 75.6 (d), 121.6 (d), 128.3 (d), 137.4 (s), 150.3 (s), 169.3 (s), 170 (s)
FAB−MS m/z:342[M+H]+
HR−FAB−MS m/z:342.1121(C1618,理論値:342.1103)
【0062】
合成例4
フェニルリチウムの約19%ジブチルエーテル溶液の代わりに、ベンジルマグネシウムブロミドの約19%THF溶液を用いた以外は、合成例1と同様にして、4−(1−ヒドロキシ−2−フェニルエチル)フェノールを得た。
【0063】
実施例4
4−(1−アセトキシ−2−フェニルエチル)フェニルアセテート(4-(1-acetoxy-2-phenylethyl)phenyl acetate:構造式(1)において、R=アセチルオキシ、R=アセチルオキシ、R=水素、n=1の化合物)の製造
実施例1で用いた4−(ヒドロキシフェニルメチル)フェノールを4−(1−ヒドロキシ−2−フェニルエチル)フェノールとした以外は、実施例1と同様にして、4−(1−アセトキシ−2−フェニルエチル)フェニルアセテートを得た。
【0064】
得られた化合物は無色油状物質であり、赤外スペクトル、NMR測定等の結果は以下に示すとおりであった。この結果より、得られた化合物は4−(1−アセトキシ−2−フェニルエチル)フェニルアセテートであると確認された。
【0065】
IR(neat): 1736cm−1
H−NMR(CDCl) δ: 1.99 (3H, s), 2.26 (3H, s), 3.02 (1H, dd, J = 5.9, 13.6 Hz ), 3.17 (1H, dd, J = 7.8, 13.6 Hz), 5.54 (1H, dd, J = 5.9, 7.8 Hz), 7.03 (2H, d, J = 8.6 Hz), 7.07-7.23 (5H, m), 7.28 (2H, d, J = 8.6 Hz)
13C−NMR(CDCl) δ: 21.0 (q), 42.8 (q), 75.9 (t), 121.4 (d), 126.5 (d), 127.7 (d), 128.2 (d), 129.4 (d), 136.7 (s), 137.5 (s), 150.2 (s), 169.2 (s), 169.8 (s)
EI−MS m/z:298[M]+
HR−EI−MS m/z:298.1195 (C1818,理論値:298.1205)
【0066】
実施例5 抗アレルギー性の検討
肥満細胞のモデル細胞であるラット好塩基球白血病(RBL−2H3)細胞を用い、脱顆粒の際にヒスタミンなどと共に放出されるβ−ヘキソサミニダーゼ(β-hexosaminidase)の遊離量を判定することで脱顆粒の指標とし、抗アレルギー作用を検討した。
【0067】
ヒューマンサイエンス研究資源バンクより購入したラット好塩基球白血病(RBL−2H3)細胞を培養後(5%CO、37℃)、24ウエルマイクロプレートに2.0×10cell/wellずつ播種し、1時間培養した後、モノクロナール抗DNP−IgE抗体(終濃度:0.45μg/mL)を加え、24時間培養することにより細胞を感作させた。感作後、シラガニアン緩衝液(Siraganian buffer)を加え、10分間予備加温(5%CO,37℃)し、実施例1〜4で得られたそれぞれの化合物のDMSO溶液(終濃度0.1%)を加え、その10分後に、抗原(DNP−BSA、終濃度10μg/mL)を添加した。
【0068】
10分後に水冷して反応を停止させ、その上清に0.1Mクエン酸緩衝液(citrate buffer)に溶解したp−ニトロフェニル−N−アセチル−β−D−グルコサミニド(p-nitrophenyl-N-acetyl-β-D-glucosaminide)を加えて37℃で1時間反応させた。反応液にstop bufferを加えて混和し、吸光度(測定波長405nm、参照波長655nm)を測定した。被験薬物の各濃度でのβ−ヘキソサミニダーゼ遊離量から抑制率(IC50)を求め、その結果を表1に示した。なお、比較のため、実施例1〜4の化合物の代わりに、トラニラスト又はフマル酸ケトチフェンを加えた場合についても同様の実験を行い、遊離率を求め、同様に結果を表1に示した。
【0069】
表1に示す結果より明らかなように、実施例1〜4で得られた化合物、すなわち構造式(1)で表される本発明の化合物を加えた場合は、高い遊離抑制括性が示され、抗アレルギー作用があることが示された。
【0070】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造式(1)で表されることを特徴とするキャビコール類縁体化合物:
【化1】


(式中、R、Rは、それぞれ、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を表し、Rは水素、アルキル基、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を表し、nは0又は1を表す。)。
【請求項2】
4−ヒドロキシベンズアルデヒドを、下記の構造式(2)で表されるグリニヤー試薬又は有機リチウム試薬:
【化2】


(式中Mは、MgX又はLiを表し、nは0又は1を表し、XはCl、Br又はIを表す。)と反応させた後、アシル化又はアルコキシカルボニル化を行うことを特徴とする下記の構造式(1−1):
【化3】


(式中、R、Rは、それぞれ、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を表し、nは0又は1を表す。)で表されるキャビコール類縁体化合物の製造方法。
【請求項3】
4−ヒドロキシベンゾフェノン又は4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンのフェノール性水酸基を保護基で保護した後、カルボニル基を還元し、その後、前記保護基を取り除いてジオール化合物又はトリオール化合物を得、このジオール化合物又はトリオール化合物に、アシル化又はアルコキシカルボニル化を行うことを特徴とする下記の構造式(1−2):
【化4】

(式中、R、Rは、それぞれ、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を表し、Rは水素、アシルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基を表す。)で表されるキャビコール類縁体化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のキャビコール類縁体化合物を含有することを特徴とする抗アレルギー剤。

【公開番号】特開2007−230949(P2007−230949A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56808(P2006−56808)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(304026180)株式会社ダイアベティム (12)
【Fターム(参考)】