説明

キャビテーション発生装置

【課題】キャビテーション噴流の噴射方向に沿った長さを短くすることができ、施工のための空間が狭い部位でもキャビテーションピーニングを行うことができるキャビテーション発生装置を提供する。
【解決手段】低圧水噴射手段11が、供給される低圧水が流入する水流調整槽21と、水流調整槽21に連通し、供給される低圧水を、その供給方向に対してほぼ垂直方向に噴射可能な低圧噴射孔23とを有している。高圧ノズル13が、低圧噴射孔23の中心軸に沿って配置され、低圧噴射孔23から噴射する低圧水により周囲を包囲されるよう、低圧噴射孔23からの低圧水の噴射方向と同じ方向に高圧水を噴射してキャビテーション気泡を発生可能になっている。整流壁12が、低圧噴射孔23の水流調整槽21の内部側の開口の周縁に沿って、水流調整槽21の内部に向かって突出するよう設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビテーション発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のキャビテーション発生装置は、図6に示すように、同心円状ノズルを用いて、大気中に低圧水(低速水)噴流を噴射し、その中心部に高圧水(高速水)噴流を噴射して気中キャビテーション噴流を発生させるようになっている。キャビテーション発生装置は、発生させた気中キャビテーション噴流のキャビテーション気泡の崩壊衝撃力によりピーニング効果が得られるため、キャビテーションピーニング用の装置として好適に使用されている。このキャビテーション発生装置を利用したキャビテーションピーニングにより、ステンレス鋼等の金属材料の疲労強度を向上できることや、応力腐食割れ抑止のための圧縮残留応力を導入できることが実証されている(例えば、特許文献1乃至5、非特許文献1乃至3参照)。
【0003】
発電プラントや化学プラントでは、配管等の応力腐食割れの抑止が喫緊の課題となっている。この応力腐食割れの抑止には、応力腐食割れの原因である引張残留応力を低減するか、または引張残留応力を圧縮残留応力にすることが最善の解決策である。一般的に、圧縮残留応力を導入するためには、ショットピーニング、超音波ピーニング、レーザピーニング、キャビテーションピーニングなどが用いられている。
【0004】
しかし、プラントで使用する場合、レーザピーニングは、プラントの配管外周に水を貯留することができないため、施工することができない。また、ショットピーニングや超音波ピーニングは、ショットの衝突により引火や発火の危険性があるため、プラント稼働中の施工が困難である。プラントの稼働を止めて施工することにより引火や発火を防ぐことはできるが、経済的な損失が大きい。これに対し、キャビテーションピーニングは、水だけで圧縮残留応力を導入できるため、プラント稼働中に使用しても発火や引火の危険性がない。このため、プラントにおいては、キャビテーションピーニングの実用化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−257998号公報
【特許文献2】特許第2894450号公報
【特許文献3】特許第2957976号公報
【特許文献4】特開2000−202326号公報
【特許文献5】特開2003−62492号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Soyama,“Introduction ofCompressive Residual Stress Using a Cavitating Jet in Air”,Trans. ASME, J. Eng.Mater. Technol.,2004年,126,p.123-128
【非特許文献2】H. Soyama,“High-SpeedObservation of a Cavitating Jet in Air”,Trans. ASME, J. Fluids Eng.,2005年,127,p.1095-1101
【非特許文献3】H. Soyama,“Improvement of FatigueStrength by Using Cavitating Jets in Air and Water”,Journal of MaterialsScience,2007年,42,p.6638-6641
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6に示すような従来のキャビテーション発生装置では、気中キャビテーション噴流を発生させるために、低圧水(低速水)噴流を整流する必要があり、ノズル直径の30倍程度のノズルの長さが必要であった。このため、プラントにおいて応力腐食割れが懸念される配管溶接部近傍などの、施工のための空間が狭い部位を処理することができないという課題があった。図6に示す一例では、ノズルの長さが60cm程度であるため、施工のための空間がそれより狭い部位の処理を行うことはできなかった。また、仮にノズルを短くすると、同心円状の低圧水(低速水)噴流が偏って流れるため、流れが少ない部分から空気が吸引されてキャビテーションではなく単なる気泡になってしまい、ピーニング効果が得られなくなる。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、キャビテーション噴流の噴射方向に沿った長さを短くすることができ、施工のための空間が狭い部位でもキャビテーションピーニングを行うことができるキャビテーション発生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るキャビテーション発生装置は、供給される低圧水を、その供給方向に対してほぼ垂直方向に噴射可能な低圧噴射孔を有する低圧水噴射手段と、前記低圧噴射孔の中心軸に沿って配置され、前記低圧噴射孔から噴射する前記低圧水により周囲を包囲されるよう、前記低圧噴射孔からの前記低圧水の噴射方向と同じ方向に高圧水を噴射してキャビテーション気泡を発生可能な高圧ノズルとを有し、前記低圧噴射孔から噴射する前記低圧水が、前記高圧ノズルから噴射する前記高圧水の周囲でほぼ均等に流れるよう構成されていることを、特徴とする。
【0010】
本発明に係るキャビテーション発生装置は、プラント等でのキャビテーションピーニング用の装置として好適に使用される。本発明に係るキャビテーション発生装置では、低圧水噴射手段の低圧噴射孔の中心軸に沿って配置された高圧ノズルから噴射する高圧水が、低圧噴射孔から噴射する低圧水の噴射方向と同じ方向に噴射するとともに、低圧水が高圧水の周囲を包囲してほぼ均等に流れるよう構成されているため、大気中でも高圧水によるキャビテーション気泡を発生させることができる。
【0011】
また、このとき、低圧水噴射手段に供給される低圧水を、その供給方向に対してほぼ垂直方向に低圧噴射孔から噴射するため、キャビテーション噴流の噴射方向に沿った方向の装置の長さを短くすることができる。このため、プラント等において応力腐食割れが懸念される配管溶接部近傍などの、施工のための空間が狭い部位であっても、装置を設置してキャビテーションピーニングを行うことができる。これにより、それらの部位にキャビテーションピーニングによる圧縮残留応力を導入することができ、それらの部位の応力腐食割れを防止することができる。
【0012】
また、本発明に係るキャビテーション発生装置は、キャビテーション気泡の衝突面を低圧水で十分に囲い、低圧水の衝突圧力で被加工面や被洗浄面を加圧するため、キャビテーション気泡の圧潰衝撃力を増大することができ、加工能力が高い。このため、加工処理時間を短縮することができる。また、水だけで処理を行うことができるため、プラント等の稼働中に使用しても発火や引火の危険性がなく、安全性が高い。
【0013】
本発明に係るキャビテーション発生装置で、前記低圧水噴射手段は、供給される前記低圧水が流入する水流調整槽を有し、前記低圧噴出孔が前記水流調整槽に連通していることが好ましい。この場合、低圧水噴射手段に供給された低圧水が水流調整槽に流入して一旦滞留するため、低圧水が流れの方向を変えて低圧噴射孔から噴射しても、噴射した低圧水を、高圧ノズルから噴射する高圧水の周囲でほぼ均等に流れるようにすることができる。
【0014】
さらに、本発明に係るキャビテーション発生装置は、前記低圧噴射孔の前記水流調整槽内部側の開口の周縁に沿って、前記水流調整槽の内部に向かって突出するよう設けられた整流壁を有することが好ましい。この場合、整流壁により、低圧水噴射手段に供給された低圧水を水流調整槽に滞留させる効果を高め、低圧水の供給方向による影響をより小さくすることができる。このため、低圧噴射孔から噴射する低圧水を、高圧水の周囲でより均等に流すようにすることができる。
【0015】
本発明に係るキャビテーション発生装置で、前記水流調整槽は、前記低圧噴射孔からの前記低圧水の噴射方向に沿って所定の高さの内部空間を有し、前記整流壁は、前記水流調整槽の前記所定の高さの1/4〜3/4の高さを有していることが好ましい。この場合、高圧水の周囲に流れる低圧水の均等度を特に高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、キャビテーション噴流の噴射方向に沿った長さを短くすることができ、施工のための空間が狭い部位でもキャビテーションピーニングを行うことができるキャビテーション発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態のキャビテーション発生装置を示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態のキャビテーション発生装置の、整流壁がない場合の変形例を示す縦断面図である。
【図3】本発明の実施の形態のキャビテーション発生装置により導入される残留応力を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態のキャビテーション発生装置により導入される残留応力の深さ分布を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態のキャビテーション発生装置の(a)整流壁の高さHを示す縦断面図、(b)整流壁の高さを変えたときに導入される残留応力を示すグラフである。
【図6】従来のキャビテーション発生装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図5は、本発明の実施の形態のキャビテーション発生装置を示している。
図1に示すように、キャビテーション発生装置10は、低圧水噴射手段11と整流壁12と高圧ノズル13とを有している。
【0019】
図1に示すように、低圧水噴射手段11は、外形が直方体形状を成し、内部に直方体状の空間から成る水流調整槽21を有している。水流調整槽21は、内壁面が低圧水噴射手段11の外側面と平行を成すよう形成されている。低圧水噴射手段11は、一方の端面11aに水流調整槽21に連通する供給口22を有している。また、低圧水噴射手段11は、水流調整槽21の1つの内側壁21aを貫通して一つの側面に開口した低圧噴射孔23を有している。低圧噴射孔23は、断面が円形を成し、中心軸が低圧水噴射手段11の外側面に対して垂直を成すよう形成されている。低圧噴射孔23は、低圧水噴射手段11の外側面から水流調整槽21の内部に向かって徐々に孔径が大きくなるよう形成されている。
【0020】
低圧水噴射手段11は、供給口22から水流調整槽21に低圧水を供給可能になっている。低圧水噴射手段11は、供給口22から水流調整槽21の奥に向かって低圧水が流入して供給されるようになっている。また、低圧水噴射手段11は、水流調整槽21に供給された低圧水を、低圧噴射孔23から噴射可能になっている。低圧水噴射手段11は、低圧噴射孔23から、低圧水の供給方向に対してほぼ垂直方向に噴射するようになっている。なお、水流調整槽21は、低圧噴射孔23からの低圧水の噴射方向に沿って、所定の高さを有する内部空間を成している。
【0021】
低圧水噴射手段11は、低圧噴射孔23とは反対側の水流調整槽21の内側壁21bに、高圧供給孔24を有している。高圧供給孔24は、供給口22が設けられた低圧水噴射手段11の一方の端面11aから、水流調整槽21の内側壁21bの内部を水流調整槽21の奥に向かって低圧噴射孔23の中心軸と交わる位置まで伸び、そこで低圧噴射孔23に向かって垂直に折れ曲がって水流調整槽21に貫通している。
【0022】
図1に示すように、整流壁12は、低圧噴射孔23の水流調整槽21の内部側の開口の周縁に沿って設けられている。整流壁12は、水流調整槽21の内部に向かって突出するよう設けられている。整流壁12は、低圧噴射孔23の形状を延長した形状の内壁面を有し、水流調整槽21の内部に向かって徐々に内径が大きくなるよう形成されている。また、整流壁12は、低圧噴射孔23からの低圧水の噴射方向に沿った水流調整槽21の高さの、1/2の高さを有している。
【0023】
図1に示すように、高圧ノズル13は、細長く、中心に高圧導水孔25を有している。高圧ノズル13は、高圧導水孔25が低圧噴射孔23と同軸になるよう、低圧噴射孔23の中心軸に沿って配置されている。高圧ノズル13は、先端部13aが低圧噴射孔23の内部に配置され、低圧噴射孔23からの低圧水の噴射方向に沿って水流調整槽21の内部を縦断するよう設けられている。高圧ノズル13は、高圧導水孔25が低圧水噴射手段11の高圧供給孔24と連通するよう設けられている。
【0024】
高圧ノズル13は、先端部13aの外側面が、先端面13bから末端側に向かって徐々に径が大きくなるよう形成されている。高圧ノズル13は、先端部13aの外側面が、低圧噴射孔23の壁面とほぼ平行を成すよう形成されている。高圧ノズル13は、高圧導水孔25の内部の、先端面13bからやや引っ込んだ位置に、高圧導水孔25より内径が小さく形成された高圧噴射口26を有している。
【0025】
高圧ノズル13は、高圧供給孔24から供給された高圧水を、高圧噴射口26から噴射可能になっている。また、高圧ノズル13は、低圧噴射孔23からの低圧水の噴射方向と同じ方向に高圧水を噴射して、高圧水の周囲が低圧水により包囲されるようになっている。これにより、高圧ノズル13は、キャビテーション気泡を発生可能になっている。
【0026】
なお、図1に示す具体的な一例では、低圧噴射孔23は、低圧水噴射手段11の外側面側の開口の径が20〜30mmである。高圧ノズル13は、先端面13bの外径が12〜16mmである。水流調整槽21は、低圧噴射孔23からの低圧水の噴射方向に沿った高さが、約30mmである。
【0027】
次に、作用について説明する。
キャビテーション発生装置10は、プラント等でのキャビテーションピーニング用の装置として好適に使用される。キャビテーション発生装置10では、高圧ノズル13から噴射する高圧水が、低圧噴射孔23から噴射する低圧水により周囲を包囲されて、低圧水と同じ方向に噴射する。このとき、低圧水噴射手段11に供給された低圧水が水流調整槽21に流入して一旦滞留するため、低圧水が流れの方向を変えて低圧噴射孔23から噴射しても、噴射した低圧水を、高圧ノズル13から噴射する高圧水の周囲でほぼ均等に流れるようにすることができる。また、さらに整流壁12により、低圧水の水流調整槽21での滞留効果を高めて、低圧水の供給方向による影響をより小さくすることができるため、低圧噴射孔23から噴射する低圧水を、高圧水の周囲でより均等に流すようにすることができる。これにより、キャビテーション発生装置10では、大気中でも高圧水によるキャビテーション気泡を効果的に発生させることができる。
【0028】
キャビテーション発生装置10は、低圧水噴射手段11に供給される低圧水を、その供給方向に対してほぼ垂直方向に低圧噴射孔23から噴射するため、キャビテーション噴流の噴射方向に沿った方向の装置の長さを短くすることができる。このため、プラント等において応力腐食割れが懸念される配管溶接部近傍などの、施工のための空間が狭い部位であっても、装置を設置してキャビテーションピーニングを行うことができる。これにより、それらの部位にキャビテーションピーニングによる圧縮残留応力を導入することができ、それらの部位の応力腐食割れを防止することができる。
【0029】
図1に示す具体的な一例では、キャビテーション噴流の噴射方向に沿った方向の装置の長さを、ノズル直径の3倍程度(約6〜9cm)まで短くすることができる。これは、図6に示す従来のものに比べて、1/6〜1/10の長さである。これにより、プラント等の配管溶接部近傍であっても、施工のための空間が6cm程度あれば、キャビテーションピーニングを行うことができる。
【0030】
また、キャビテーション発生装置10は、キャビテーション気泡の衝突面を低圧水で十分に囲い、低圧水の衝突圧力で被加工面や被洗浄面を加圧するため、キャビテーション気泡の圧潰衝撃力を増大することができ、加工能力が高い。このため、加工処理時間を短縮することができる。また、水だけで処理を行うことができるため、プラント等の稼働中に使用しても発火や引火の危険性がなく、安全性が高い。
【0031】
なお、図2に示すように、キャビテーション発生装置10は、整流壁12を有していなくてもよい。この場合であっても、水流調整槽21により低圧水の滞留効果が得られるため、低圧噴射孔23から噴射した低圧水を、高圧ノズル13から噴射する高圧水の周囲で、ある程度均等に流れるようにすることができ、大気中でも高圧水によるキャビテーション気泡を発生させることができる。
【0032】
[キャビテーションピーニングの効果]
キャビテーション発生装置10によるキャビテーションピーニングの効果を調べる実験を行った。実験には、図1に示すキャビテーション発生装置(整流壁あり)と、図2に示すキャビテーション発生装置(整流壁なし)を使用した。実験では、高圧ノズル13から噴射する高圧水の圧力を20MPa、低圧噴射孔23から噴射する低圧水の圧力を0.08MPaとし、ピーニングを行う試験片と高圧ノズル13の先端面13bとの距離(スタンドオフ距離)を25mmとした。
【0033】
試験片としてステンレス鋼(JIS SUS316L)を用い、単位長さ当たりの処理時間を変えたときの、試験片表面での残留応力をX線回折装置により測定した。その測定結果を図3に示す。実験の結果、図3に示すように、図1および図2に示すキャビテーション発生装置のキャビテーションピーニングにより、圧縮残留応力を導入することができることが確認された。また、整流壁12がある場合の方が、整流壁12がない場合に比べて、導入される圧縮残留応力が大きく、ピーニング効果が高いことが確認された。特に整流壁12がある場合には、単位長さ当たりの処理時間が約2s/mm以上のときに、300MPa以上もの圧縮残留応力を導入できることが確認された。
【0034】
次に、試験片としてステンレス鋼(JIS SUS316L)を用い、単位長さ当たりの処理時間を1s/mmとしたときの、試験片の表面からの深さに対する残留応力を測定した。その測定結果を図4に示す。なお、図4では、試験片を電解研磨しながら、X線回折装置により各深さでの残留応力の測定を行った。また、比較データとして、キャビテーションピーニングを行っていない場合(未処理)についても応力を測定し、図4中に示している。
【0035】
実験の結果、図4に示すように、整流壁12がない場合には、試験片の表面から70μm程度の深さまで圧縮残留応力を導入することができ、整流壁12がある場合には、試験片の表面から250μm以上の深さまで圧縮残留応力を導入することができることが確認された。また、整流壁12がある場合の方が、整流壁12がない場合に比べて、より深くまで圧縮残留応力を導入することができ、ピーニング効果が高いことが確認された。
【0036】
次に、試験片としてアルミニウム板を用い、同じ位置に10分間キャビテーションピーニングを行ったときの壊食量を測定した。その測定結果を表1に示す。実験の結果、表1に示すように、図1および図2に示すキャビテーション発生装置により、試験片が壊食され、キャビテーションピーニング効果が得られることが確認された。また、整流壁12がある場合の方が、整流壁12がない場合に比べて、壊食量が多く、ピーニング効果が高いことが確認された。
【0037】
【表1】

【0038】
[整流壁12の高さ]
キャビテーション発生装置10の整流壁12の高さに対する、キャビテーションピーニングの効果を調べる実験を行った。実験には、図1に示すキャビテーション発生装置を使用した。図5(a)に示すように、低圧噴射孔23からの低圧水の噴射方向に沿った水流調整槽21の高さの1/2をHとして、整流壁12の高さを表す。実験では、高圧ノズル13から噴射する高圧水の圧力を20MPa、低圧噴射孔23から噴射する低圧水の圧力を0.08MPaとし、ピーニングを行う試験片と高圧ノズル13の先端面13bとの距離(スタンドオフ距離)を25mmとした。
【0039】
試験片としてステンレス鋼(JIS SUS316L)を用い、単位長さ当たりの処理時間を変えたときの、試験片表面での残留応力をX線回折装置により測定した。測定は、整流壁12の高さが、0.5H、1.0H、1.5Hの3つの場合について行った。その測定結果を図5(b)に示す。実験の結果、図5(b)に示すように、整流壁12がいずれの高さであっても、キャビテーションピーニングにより、圧縮残留応力を導入することができることが確認された。図3の整流壁12がない場合と比べると、整流壁12がいずれの高さであっても、導入される圧縮残留応力が高く、ピーニング効果が高いことが確認された。また特に、整流壁12の高さが1.0Hの場合が、整流壁12の高さが0.5Hおよび1.5Hの場合に比べて、導入される圧縮残留応力が大きく、ピーニング効果が高いことが確認された。
【符号の説明】
【0040】
10 キャビテーション発生装置
11 低圧水噴射手段
12 整流壁
13 高圧ノズル
21 水流調整槽
22 供給口
23 低圧噴射孔
24 高圧供給孔
25 高圧導水孔
26 高圧噴射口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される低圧水を、その供給方向に対してほぼ垂直方向に噴射可能な低圧噴射孔を有する低圧水噴射手段と、
前記低圧噴射孔の中心軸に沿って配置され、前記低圧噴射孔から噴射する前記低圧水により周囲を包囲されるよう、前記低圧噴射孔からの前記低圧水の噴射方向と同じ方向に高圧水を噴射してキャビテーション気泡を発生可能な高圧ノズルとを有し、
前記低圧噴射孔から噴射する前記低圧水が、前記高圧ノズルから噴射する前記高圧水の周囲でほぼ均等に流れるよう構成されていることを、
特徴とするキャビテーション発生装置。
【請求項2】
前記低圧水噴射手段は、供給される前記低圧水が流入する水流調整槽を有し、前記低圧噴出孔が前記水流調整槽に連通していることを、特徴とする請求項1記載のキャビテーション発生装置。
【請求項3】
前記低圧噴射孔の前記水流調整槽内部側の開口の周縁に沿って、前記水流調整槽の内部に向かって突出するよう設けられた整流壁を有することを、特徴とする請求項2記載のキャビテーション発生装置。
【請求項4】
前記水流調整槽は、前記低圧噴射孔からの前記低圧水の噴射方向に沿って所定の高さの内部空間を有し、
前記整流壁は、前記水流調整槽の前記所定の高さの1/4〜3/4の高さを有していることを、
特徴とする請求項3記載のキャビテーション発生装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−245582(P2011−245582A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120057(P2010−120057)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(500466108)新興プランテック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】