キャピラリーとキャピラリーへの触媒固定化方法、並びにマイクロリアクターとこれを用いた固相−液相−気相反応方法
【課題】キャピラリー及びキャピラリーへの触媒固定化方法とマイクロリアクター、並びにこのマイクロリアクターを用いた固相−液相−気相反応方法を提供する。
【解決手段】マイクロリアクター1は、キャピラリー2と、キャピラリー2へ液相となる基質を溶解した溶液を供給する反応溶液供給部10と、キャピラリー2へ気相となる気体を供給する気体供給部20と、キャピラリー2における反応生成物を回収する回収部30と、を備え、キャピラリー2は管本体3を有し、管本体の内壁3aに被覆された高分子被膜4と高分子被膜4に固相となる金属触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒5が担持され、キャピラリー2の一端を反応溶液供給部10及び気体供給部20へ接続し、他端30を回収部へ接続し、基質6を溶解した溶液7及び基質6と反応する気体22をキャピラリー2へ所定の流量で連続的に流す。
【解決手段】マイクロリアクター1は、キャピラリー2と、キャピラリー2へ液相となる基質を溶解した溶液を供給する反応溶液供給部10と、キャピラリー2へ気相となる気体を供給する気体供給部20と、キャピラリー2における反応生成物を回収する回収部30と、を備え、キャピラリー2は管本体3を有し、管本体の内壁3aに被覆された高分子被膜4と高分子被膜4に固相となる金属触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒5が担持され、キャピラリー2の一端を反応溶液供給部10及び気体供給部20へ接続し、他端30を回収部へ接続し、基質6を溶解した溶液7及び基質6と反応する気体22をキャピラリー2へ所定の流量で連続的に流す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャピラリーとこのキャピラリーへの触媒固定化方法に係り、詳しくは、内壁に高分子被膜が形成されこの高分子被膜に金属触媒が内包された高分子カルセランド担持型触媒を担持したキャピラリーと、このキャピラリーを用いて触媒を固定化する方法に関するものである。
さらに本発明は、上記キャピラリーを用いたマイクロリアクターと、このマイクロリアクターによる固相−液相−気相反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金触媒を用いる酸化反応として、例えばアルコールの酸素酸化反応の例が、非特許文献1に、ミリサイズのフロー型リアクターを用いた1級ベンジルアルコール誘導体の酸化反応が報告されている。これは、アルミナ担持型ルテニウム触媒または酸化チタンナノチューブ担持型ルテニウム触媒を、一辺が2mmから5mmの正方形,長さ10cmのミリリアクターに充填することにより、ベンジルアルコールが高い選択性で対応するアルデヒドに変換され、それぞれの触媒系で、300または450h-1と高い触媒回転数(TOF)を実現している。
しかしながら、この場合、反応収率が75%程度と低いため、満足できる水準とはならない。
【0003】
ここで、気相(酸素ガス),液相(基質溶液)及び固相(触媒)から成る多相系反応において、各相間の接触面積を大きくすることにより収率が改善されるので、例えば激しく撹拌したり、酸素ガスを細かい泡として吹き込む等の工夫が試みられてきた。さらに、通常の反応容器(以下、適宜、フラスコ反応と呼ぶ。)による酸化反応では、系内に水素ガス,溶媒蒸気,高活性な金属触媒が共存するために、発火や爆発が生ずる可能性がある。
【0004】
一方、近年、マイクロリアクターを用いる有機合成が急速に発展しつつある。マイクロリアクターは、ガラス等の不活性材料に、その大きさが数〜数百μmのマイクロ流路(以下、適宜、マイクロチャンネルと呼ぶ。)を有する微小反応器の総称である。マイクロリアクターの反応器は小さいので、厳密な温度コントロールを容易に行うことができる。
従って、マイクロリアクターを用いる合成反応では、単位面積あたりの表面積が大きいので、
(1)温度制御が効率よく行われる、
(2)界面での反応が効率よく発生する、
(3)高速且つ効率的な混合が行われる、
等の利点を有している。
【0005】
発熱の大きい反応では効率的な断熱が可能となり、反応の制御が容易になると共に、燃焼や爆発の危険性がある反応においても、マイクロリアクターを用いることによって安全性が向上する。例えば、非特許文献2によれば、マイクロリアクターを用いる水素ガスと酸素ガスの触媒反応において、フラスコ型リアクターでは爆発が生じる条件下であっても、管径が消炎距離より小さいことから爆発を伴うことなく反応が進行する例が報告されている。
【0006】
このように、マイクロリアクターによる合成反応は、通常の反応容器による合成反応よりも反応時間が速く、取り扱う薬液も微少量で済むためにコストが低く、新規な化合物や薬品のために開発用反応器として注目されている。
【0007】
非特許文献3には、マイクロチャンネル内の微小空間に由来する大きな比界面積を活用した、効率的な気−液−固の三相から成る水素添加反応が報告されている。これにより、マイクロチャンネルの内壁に高分子カルセランド型パラジウム触媒を固定化した触媒担持型リアクターを用い、液相である基質溶液をチャンネル内壁に沿って流し、気相である水素ガスをチャンネル中心部に流すことによって、各相の効率的な接触が実現された結果、アルケンやアルキン類の還元,ベンジル基の脱保護,ニトロ基の還元等の反応が短時間で且つ高収率で進行することが見出された。
【0008】
このような水素添加反応に対して、例えばアルコールの酸素酸化反応は、高い触媒活性を得ることが困難であり、マイクロリアクターを用いた報告例は非常に少ない。例えば、非特許文献4においては、銀をチャンネル内にコーティングしたマイクロリアクターを用いて、図9に示すように、プレノール(3−メチル−ブテン−1−オール)の気相中酸化反応(400℃)を行うことにより、転換率60〜70%で目的のアルデヒド体(3−メチル−2−ブテノール)が得られた。
【0009】
非特許文献5においては、均一系の酸素酸化反応で高い活性を示すTPAPを活性アルミナに担持し、これをマイクロチャンネルリアクターの経路内に充填することで、図10に示すように、ベンジルアルコールの酸化反応を行うことにより、NMOを用いた液−固の二相系反応ではベンズアルデヒドへの100%の転換率が得られたが、酸素を用いた気−液−固の三相系反応では、ベンズアルデヒドへの転換率は30〜40%であった。さらに、反応時間の経過による触媒の失活が観測されており、基質一般性に関してもベンジルアルコール以外の反応性は報告されていない。この場合、触媒をチャンネル内にコーティングまたは充填することによって、三相系の反応が行われているが、気相反応のために使用される基質が限定されてしまい、触媒活性が十分ではなく原料が残存してしまう。従って、基質適用範囲が広くマイクロフロー系に適した高活性な触媒が要求されている。
【0010】
これに対して、非特許文献6においては、平均1nmの金ナノクラスターを形成する高分子カルセランド型金触媒(PIAu)は、室温下で種々のアルコールの酸化反応を触媒で促進し、無溶媒下160℃の条件で、TOFが20000h-1に到達することが確認されている。この場合、反応後のクラスターの凝集はみられず、10回の繰返し再使用実験において触媒活性の低下を伴うことなく反応収率99%以上を維持していることが確認されている。従って、PIAuをマイクロリアクターに担持することにより、効率的な三相系酸素酸化反応が期待されるが、これまでに、金担持型マイクロリアクターを用いたアルコールの酸化反応の報告はない。
【0011】
なお、非特許文献7において、内部に海綿体状多孔質の金触媒が担持されたマイクロリアクターを用いて、図11に示すように、D−グルコースをD−グルコン酸に転化する酸化反応が報告されている。しかしながら、原料の送液方法として電気浸透流方式が採用されているため、適用可能な基質が制限されてしまうおそれがある。
【0012】
【非特許文献1】D. V. Bavykin, A. A. Lapkin, S. T. Kolaczkowski, P. K. Plucinski, Appl. Catal. A, 2005, 288, 175.
【非特許文献2】M. T. Janicke, H. Kestenbaum, U. Hagendorf, F. Schuth, M. Fichtner, K. Schubert, J. Catal., 2000, 191, 282.
【非特許文献3】J. Kobayashi, Y. Mori, K. Okamoto, R. Akiyama, M. Ueno, T. Kitamori, S. Kobayashi, Science, 2004, 304, 1305.
【非特許文献4】E. Cao, A. Gavriilidis, W. B. Motherwell, Chem. Eng. Sci.. 2004, 59, 4803.
【非特許文献5】E. Cao, W. B. Motherwell, A. Gavriilidis, Chem. Eng.Technol., 2006, 29, 1372.
【非特許文献6】H. Miyamura, R. Matsubara, Y. Miyazaki, S. Kobayashi, Amgew. Chem. Int. Ed., 2007, 46, 4151.
【非特許文献7】M. Haruta, T. Kobayashi, H. Sano, N. Yamada, Chem. Lett., 1987, 405.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、このようにして、従来金触媒を用いた三相系の酸化反応をマイクロリアクターにより効果的に実現した例は報告されていない。また、従来の酸化方法では、転換率を向上させるために、助触媒や共酸化剤の使用が不可欠である。
【0014】
非特許文献7の方法を金触媒の固定化に応用する場合、例えば図11に示すように、ポリスチレン基盤の高分子とパラジウム源から調製したミセル溶液(MC Pd)を予めアミノ基によって内壁を修飾しておいたマイクロリアクターに作用させることにより固定化を行うことになる。
【0015】
しかしながら、高分子カルセランド型金触媒を用いる酸素酸化反応は、図12に示すように、塩基性水溶液存在下で行われるため、パラジウム触媒の場合と同様の方法で固定化しようとすると、酸化反応の際にシラノール部位の切断によって触媒が内壁から剥離するおそれがある。実際に図11に示した方法で金触媒を固定化したマイクロリアクターを用いて酸素酸化反応を行ったところ、開始直後は転換率95%以上の高い触媒活性を示すが、5時間程度経過すると高分子担体が剥離してチャンネルが閉塞する結果となった。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑み、助触媒や共酸化剤を使用せずにアルコール等の有機物を高効率で酸化できると共に、繰返し使用しても触媒が剥離しないようにした、高分子カルセランド担持型触媒を担持したキャピラリーを提供することを第1の目的とする。
本発明の第2の目的は、上記キャピラリーへの触媒固定化方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、上記キャピラリーを用いたマイクロリアクターを提供することである。
また、本発明の第4の目的は、このマイクロリアクターを用いた固相−液相−気相反応方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記第1の目的を達成するため、本発明のキャピラリーは、管本体とこの管本体の内壁に被覆された高分子被膜とこの高分子被膜に担持される触媒と、を備え、触媒は、金属触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒からなる。
【0018】
上記構成において、好ましくは、管本体はガラスからなり、高分子被膜がポリシロキサンからなる。金属触媒は、好ましくは、金、パラジウム、白金、ルテニウム、タングステン、コバルト、銅、鉄、ニッケル、マンガン、レニウム、クロム、モリブデン、銀、ロジウムの何れか一つ又はこれらの金属触媒の二つ以上を含む。
高分子カルセランド担持型触媒は、好ましくは、クロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒からなる。
【0019】
上記第2の目的を達成するため、本発明の管本体の内壁に高分子被膜を備えたキャピラリーへの触媒の固定化方法は、高分子被膜の管本体内部側の表面を高分子カルセランド担持型触媒と結合する基で修飾する第1の工程と、マイクロカプセル化した高分子カルセランド型触媒を調製する第2の工程と、マイクロカプセル化した高分子カルセランド型触媒をキャピラリー内に送液して、加熱架橋によりキャピラリー内壁に固定化する第3の工程と、を含む。
【0020】
上記構成において、好ましくは、高分子被膜はポリシロキサンであり、第1工程において、水素化リチウムアルミニウムのエーテル溶液を送液ポンプによりキャピラリー内に送液する。
第2の工程において、好ましくは、エポキシ基と基質鎖を架橋部位として有するポリスチレン基盤のコポリマーと水素化ホウ素ナトリウムのTHF溶液に対してクロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒を添加した後、貧溶媒となるシクロヘキサンを滴下してマイクロカプセル化金触媒を調製する。
【0021】
上記第3の目的を達成するため、本発明のマイクロリアクターは、キャピラリーと、キャピラリーへ液相となる基質を溶解した溶液を供給する反応溶液供給部と、キャピラリーへ気相となる気体を供給する気体供給部と、キャピラリーにおける反応生成物を回収する回収部と、を備え、キャピラリーは管本体を有し、管本体の内壁に被覆された高分子被膜とこの高分子被膜に固相となる金属触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒が担持され、キャピラリーは一端が反応溶液供給部及び気体供給部へ接続され、他端が回収部へ接続され、基質を溶解した溶液及び基質と反応する気体が、キャピラリーへ所定の流量で連続的に流れるように構成されている。
【0022】
上記構成において、好ましくは、さらに制御部を有し、制御部は、反応溶液供給部及び気体供給部を、キャピラリーの流路へ所定の流量で連続的に流すように制御する。
好ましくは、管本体はガラスからなり、高分子被膜はポリシロキサンからなり、高分子カルセランド担持型触媒は、金、パラジウム、白金、ルテニウム、タングステン、コバルト、銅、鉄、ニッケル、マンガン、レニウム、クロム、モリブデン、銀、ロジウムの何れか一つ又はこれらの金属触媒の二つ以上を含む。
【0023】
上記第4の目的を達成するため、本発明のマイクロリアクターを用いて固相−液相−気相の間で被酸化物質を反応させる方法は、キャピラリーの流路の内壁に高分子被膜を形成し、金属触媒を内包した固相のカルセランド担持型触媒を上記高分子被膜に担持し、キャピラリーの流路に液相となる被酸化物質を溶解した溶液及び気相となるガスを流し、溶液とガスとの反応をカルセランド担持型触媒によって促進させることで、固相−液相−気相の間で被酸化物質を酸化させることを特徴とする。
上記気相として、好ましくは酸素ガスを用いる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、助触媒や共酸化剤を使用せずにアルコール等の有機物を高効率で酸化できると共に、繰返し使用しても金属触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒金触媒が剥離しないようにしたキャピラリーと、このキャピラリーへの触媒の固定方法、このキャピラリーを用いたマイクロリアクター、そしてこのマイクロリアクターによる固相−液相−気相反応が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1及び図2は本発明の実施の形態に用いるキャピラリー及びマイクロリアクターの構成を模式的に示す図であり、図2は図1のY−Y線に沿う断面図である。
マイクロリアクター1は、キャピラリー2と、キャピラリー2へ液相となる基質6と溶液7とからなる反応溶液8を供給する反応溶液供給部10と、キャピラリー2へ気相となるガス22を供給する気体供給部20と、キャピラリー2を通過した反応溶液8とガス22と反応生成物とを回収する回収部30と、を備えている。
【0026】
図2に示すように、キャピラリー2は、不活性材料のガラスなどからなる中空の管本体3と、この管本体3の内壁3aに担持される高分子被膜4と、この高分子被膜4に担持される高分子カルセランド担持型触媒5と、を備えて構成されている。
ここで、管本体3は、市販されているガスクロマトグラフ用のフューズドシリカキャピラリーを始め、アルミナキャピラリー、チタニアキャピラリー、ジルコニアキャピラリーや、テフロン(登録商標)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のような高分子を素材としたもの、及びそれらに対して高分子カルセランド担持型触媒5の担持が可能な表面処理を施したものであれば、どのような素材であっても構わない。断面形状も丸、三角、四角、楕円、長四角、星型の何れでも構わない。キャピラリー2に流れるガス22の流れを均一にするためには、キャピラリー2の断面形状は丸が好ましい。
【0027】
管本体3の内径は5μm〜5mmが好ましく、100μm〜800μmが特に好ましいが、長さは特に制限はない。
【0028】
反応溶液供給部10は、基質6と溶液7と、基質6及び溶液7のそれぞれの流量調整部9,9と、この調整部9,9へ配管11,12を介して接続されるコネクタ13と、コネクタ13からキャピラリー2への配管14と、から構成されている。流量調整部9には、シリンジポンプなどの送液ポンプを用いることができる。配管14を流れる液相は、基質6及び溶液7からなる反応溶液8である。
【0029】
気体供給部20は、酸化性物質となるガス22を供給するガスボンベ22aと、ガスボンベ22aを開閉しその流量を調節するガスバルブ23と、配管24と、から構成されている。ガス22の微少流量を制御する場合には、必要に応じてマスフローコントローラーなどを用いたガス流量調整部26を設けてもよい。ガス22としては、酸素ガス等を用いることができる。
【0030】
図示の場合には、キャピラリー2の一端には、コネクタ28を介して送液ポンプ9からの配管14と酸素ガス用の配管24とが接続されている。コネクタ13,28はフッ素樹脂やステンレスからなるT型コネクタを用いることができる。配管11,12,24は、フッ素樹脂やステンレスからなる配管を使用することができる。酸素ガスボンベ22aは、ガスバルブ23とテフロン(登録商標)を用いた配管24などにより接続され、マスフローコントローラーなどを用いたガス流量調整部26によってその供給量が制御される。反応溶液8及び酸素ガス22は、キャピラリーの入力部2aにおいて合流する。回収容器などからなる回収部30は、キャピラリーの出口部2bにテフロン(登録商標)の配管24などにより接続されている。
【0031】
本発明のマイクロリアクター1には、キャピラリー2の内部の流体の形態を測定して、流量調整部9及びガス流量調整部26を制御してもよい。後述する実施例の酸化反応では、パイプフロー状態が好ましい。このパイプフローであるか否かのような流体の形態判定のためには、キャピラリー2の内部の流体の形態を計測するセンサーと、このセンサーからの出力が入力される制御部と、をさらにマイクロリアクター1に備えるようにして、この制御部により、流量調整部9及びガス流量調整部26を制御するようにしてもよい。
【0032】
キャピラリー2は、マイクロチャンネルを使用してもよい。図3は、マイクロチャンネルの一実施例の構成を模式的に示すもので、(a)は平面図、(b)はY−Y線断面図である。
図3に示すように、マイクロチャンネル32は、不活性材料であるガラス等からなる基板33と基板33に蛇行して設けられる流路部32aとから構成することができる。流路部33aは、エンドミル等の工具による研削やマスクを用いたエッチングにより、その断面が矩形や半円形状に刻設される。図3(b)に示すように、マイクロチャンネル32が設けられた基板33は、同じ大きさの流路部32aを刻設しない基板34と対向するようにして基質6と溶液7及び酸素ガス22が漏れないように密着固定されている。これらの基板33,34は、被酸化物質や有機溶媒に侵されない材料であればよく、ガラスの他には樹脂や金属等の材料から構成されていてもよい。流路部32aの内壁には、キャピラリー2と同様に高分子被膜4が被覆され、高分子被膜4には高分子カルセランド担持型触媒5が担持されている。
【0033】
本発明の特徴は、キャピラリー2の管本体3の内壁3aに被覆されたポリシロキサン表面を化学処理により特定の基で修飾、つまり、改質した後で、ポリシロキサン被膜4の表面に高分子カルセランド担持型触媒5を担持することにある。これにより、高分子カルセランド担持型触媒5をキャピラリー2の管本体3の内壁3aに強固に固定することができる。
【0034】
本発明の高分子カルセランド担持型触媒5は、高分子と金属触媒とからなる高分子カルセランド担持型触媒である。金属触媒としては金(Au)、パラジウム、白金、ルテニウム、タングステン、コバルト、銅、鉄、ニッケル、マンガン、レニウム、クロム、モリブデン、銀、ロジウムの何れか又はこれらの金属触媒の二つ以上を含む金属触媒を用いることができる。金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5の一例は、化学式:AuClPPh3で表わされる化合物であり、クロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒である。
【0035】
高分子被膜4の材料として、高分子カルセランド担持型触媒5を強固に担持することが可能な表面で有れば良い。高分子被膜4の表面は、高分子カルセランド担持型触媒5と結合する基を備えていることが好ましく、このような基は、高分子カルセランド担持型触媒5を担持する。例えば、ガラスの表面のシラノール基に結合させた高分子被膜4をキャピラリー2の内部側の表面、つまり、高分子カルセランド担持型触媒5が担持される表面を改質して、高分子カルセランド担持型触媒5と結合する基を修飾してもよい。例えば、高分子被膜4の表面を修飾する基としては、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、イミノ基、アルキニル基、チオール基、ビニル基、アルキル基、パーフルオロアルキル基等が挙げられる。
【0036】
次に、本発明の高分子カルセランド担持型触媒5を管本体の内壁3aに担持する方法について説明する。
下記の第1から第3の工程を含む工程によって、管本体の内壁3aに被覆された高分子被膜の表面を改質して、さらに、この高分子被膜4へ高分子カルセランド担持型触媒5を固定化することができる。高分子被膜としては、ポリシロキサンを用いることができる。
(第1の工程)
管本体の内壁3a上のポリシロキサンなどからなる高分子被膜4の表面を改質する。ポリシロキサン被膜4は、ポリシロキサンのシアノ基を水素化リチウムアルミニウムのエーテル溶液により還元して、ガラス等からなる管本体の内壁3aをポリシロキサン被膜4とすることで形成することができる。
【0037】
第1の工程では、水素化リチウムアルミニウムのエーテル溶液をシリンジポンプ9によりキャピラリー2内に送液する場合には、送液供給量を適宜に調整することができる。
【0038】
(第2の工程)
高分子カルセランド担持型触媒からマイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5を調製する。この工程は、エポキシ基と基質鎖を架橋部位として有するポリスチレン基盤のコポリマー及び還元剤となる水素化ホウ素ナトリウムのTHF溶液に対してクロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒を添加した後、貧溶媒となるシクロヘキサンを滴下してマイクロカプセル化することができ、例えば、1nmの金ナノクラスターを含有させることができる。ここで、還元剤とクロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒等との管本体の内壁3aに送液する順番はどちらが先でもよい。この順番は得られた高分子カルセランド担持型触媒5の基質6の酸化反応性に着目して、酸化反応性の良い方を適宜に選択すればよい。
【0039】
(第3の工程)
マイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5を管本体3内に送液し、加熱して架橋反応により管本体の内壁に被覆されたポリシロキサン被膜4に固定化する。送液をシリンジポンプ9によって行う場合には、高分子カルセランド担持型触媒5を形成する溶液の供給量を適宜に調整することができる。
【0040】
架橋反応は、加熱若しくは電磁波照射等の外部刺激を与えるが、加熱方式が簡便な操作であり好ましい。加熱温度は50℃〜300℃、とくに100〜160℃が好ましい。加熱時間は10分から48時間が好ましく、1時間〜12時間が特に好ましい。例えば、170℃で5時間加熱されることにより行われる。この工程によれば、マイクロカプセル化された金等を含む高分子カルセランド型触媒5を、管本体の内壁3aに被覆されたポリシロキサン被膜4に確実に固定することができる。このため、金等を含む高分子カルセランド型触媒5が簡単に管本体の内壁3aから剥離することを防止することができる。
【0041】
上記の触媒固定化方法によれば、マイクロリアクター1の管本体の内壁3aに備えられたポリシロキサン被膜4が第1の工程で還元されるので、第2の工程で調製されたマイクロカプセル化した高分子カルセランド型触媒5が第3の工程で管本体の内壁3aに強固に担持される。
【0042】
これにより、上記高分子カルセランド型触媒5は、室温下で種々の基質6の酸化反応の触媒とすることができる。その際、例えば酸化反応を160℃の条件で行ったとき、TOFが20000/時間に達すると共に、反応後のクラスターの凝集がなく、例えば10回の繰返し実験でも、触媒活性が低下することなく、反応収率99%以上を維持することができる。このようにして、本発明による方法によれば、助触媒や共酸化剤を使用することなく、基質6の酸素酸化反応を効率的に且つ連続的に行うことができ、効率的な三相系酸素酸化反応を実現することができる。
【0043】
本発明のマイクロリアクター1を用いて固相−液相−気相反応を行うには、送液ポンプ9から反応溶液8を、ガスバルブ23から酸素ガス22をキャピラリー2内の流路3bにパイプフローとなるように注入する。管本体の流路3bを通過中に、その内壁3aに担持した高分子カルセランド担持型触媒5の作用により、管本体の流路3bを通過する反応溶液8及び酸素ガス22を反応させる。反応により生成した反応生成物を含む反応溶液8は、回収容器等からなる回収部30に集められ、必要に応じて外部に取り出される。
【0044】
図4は、本発明のマイクロリアクター1の流路を通過する反応溶液8及び酸素ガス22の状態を示す断面図である。図示するように、キャピラリーを通過する酸素22は、キャピラリー2の中心部を通過する。キャピラリー2を通過する反応溶液8は、通過する酸素ガス22と管本体の内壁3aに担持された高分子カルセランド担持型触媒5との間を通過し、所謂、パイプフロー状態となり、キャピラリーの入力部2aから出力部2bまでを通過する。この際、基質6及び溶液7の流量調整部9及び酸素ガス22のガス流量調整部26により、基質6、溶液7及び酸素ガス22の流量が上記のパイプフロー状態となるように制御される。
【0045】
本発明のマイクロリアクター1を用いた固相−液相−気相反応によれば、酸素ガス22を用いた酸化反応を高効率で進行させることができる。
【0046】
金等の触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒5を用いて連続反応を行ったところ、96時間後においても転換率の低下はなく、金等の触媒漏れ出しも観測されなかった。このマイクロリアクター1は反応後の再使用も可能であり、種々の基質6に適用できることが分かった。
【0047】
本発明のマイクロリアクター1に用いる高分子カルセランド担持型触媒5は、ポリシロキサン被膜4に固定されているので、触媒自体が高活性を維持しつつ、かつ、繰返し使用に耐える。従って、従来の高分子固定化触媒と比べて極めて高効率で還元体を供給でき、担持された金等の触媒の流出も無く、繰返し若しくは長時間連続運転も可能である。
【0048】
本発明のキャピラリー2を用いたマイクロリアクター1によれば、高分子カルセランド担持型触媒5の管本体の内壁3aへの担持方法も簡便であり、反応に用いる溶媒等の反応溶液8の制限を受けないことが特徴である。
【0049】
本発明の3相系接触酸化反応方法によれば、被酸化物質となる基質6を含む反応溶液8を高分子カルセランド担持型触媒5が担持された管本体の内壁3aに接するように流し、酸素ガス22がキャピラリー2の中央部を流れる、所謂パイプフロー状態で3相系接触反応を短時間に行うことができる。この際、管本体の内壁3aに高分子カルセランド担持型触媒5が担持されているので、例えば高価な金を含む触媒の回収再生の手間が不要となり、さらに、マイクロリアクター1による反応であるので、反応に使用する反応溶液8及び酸素ガス22の使用量も激減することから、低コストである。
さらに、多数のキャピラリー2を平行に並べるだけで、マイクロリアクター1のスケールアップは容易である。このため、望ましい生成物を容易に迅速に、且つ必要量だけ得られ、原料消費量、所要時間、空間が少なく、分離精製のような処理を要しないほど純粋な形で生成物を得ることができる。
従って、本発明の3相系接触還元反応方法によれば、医薬の開発とその製造工程の開発に極めて好適な反応方法となる。また、グリーン化学(環境適合化学)にも好適である。
【実施例1】
【0050】
(金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒)
以下、実施例により本発明の実施の形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
図1に示すマイクロリアクター1として、管本体の内壁3aに高分子カルセランド担持型触媒5を担持してマイクロリアクター1を作製した。
マイクロリアクター1として、外径0.25mm、長さ50cmのポリシロキサン修飾型キャピラリー2(ジーエルサイエンス株式会社製、InaetCup225)を使用した。このキャピラリー2の管本体の内壁3aには、膜厚0.25μmのポリシロキサンが被覆されている。
【0051】
図5は、マイクロリアクター1のキャピラリー2に担持する工程を模式的に示す図であり、それぞれ、(a)は管本体の内壁3aの還元反応、(b)はマイクロカプセル化金触媒の生成反応、(c)は金触媒の固定化反応を示す図である。
水素化リチウムアルミニウムのエーテル溶液(Aldrich社製の1.0M溶液)を、室温下でシリンジポンプ9によりキャピラリー2内に流速0.1cm3/時間でゆっくりと48時間送液して、ポリシロキサン中のシアノ基を還元する。
【0052】
その後、水及び0.5N水酸化ナトリウム水溶液及びメタノールを各10cm3づつ順次にマイクロリアクター1のキャピラリー2内に通液し、上述した還元反応の停止及び内部の洗浄を行う。
【0053】
別途合成したコポリマー、即ちエポキシ基とアルコール鎖を架橋部位として有するポリスチレン基盤のコポリマー(P4)400gを、THF(7.5cm3)を30cm3フラスコに溶解し、室温下で水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)のジグリム溶液(2重量%,0.25cm3)を加えて30分間撹拌後に、クロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)のTHF水溶液(1.5cm3)を加えてさらに3時間撹拌する。そして、この溶液2.0cm3に対して、シクロヘキサン0.95cm3をゆっくり加えて、相分離を発生させた後、触媒層をシリンジで抜き取る。これにより、金を触媒としマイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5を調製した。
【0054】
最後に、図5(c)に示すように、このマイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5をシリンジポンプ9により、先に還元,洗浄した管本体3の内部に50℃,0.2cm3/時間の流速で、12.5時間通液する。その後、同様の操作を管本体3の反対側の口から行って、上記マイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5を管本体の内壁3aのガラス壁面に十分担持した。
その後、マイクロリアクター1のキャピラリー2を170℃で5時間焼成して、マイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5の加熱架橋を行った。
これにより、マイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5がポリシロキサン被膜4の表面に修飾されたアミノ基を介して管本体の内壁3aに担持されたマイクロリアクター1が得られる。
【実施例2】
【0055】
次に、上述した金触媒を固定化したキャピラリー2を有するマイクロリアクター1によるアルコールの酸素酸化反応の一例について説明する。
図1に示したマイクロリアクター1を使用して、被酸化物質となる基質6として、アルコール、即ち1−フェニルエタノールの酸素酸化を行った。
図1において、基質6となる1,2−ジクロロエタン溶液(0.1M,流速0.1cm3/時間)と溶液7となる炭酸水溶液K2CO3aq.(0.3M,流速0.03cm3/時間)とからなる反応溶液8をそれぞれシリンジポンプ9により送液してT字型のコネクタ13により合流させて、原料アルコールとする。
【0056】
さらに、合流させた原料アルコールを、別のT字型コネクタ28により酸素ガス22(1.5cm3/分)と合流させて、マイクロリアクター1のキャピラリー2(長さ50cm)内に導入する。酸素ガス22の流量は、例えばマスフローコントローラー26により制御する。
そして、マイクロリアクター1のキャピラリー2の触媒部分のみを加温し、キャピラリーの出力部2bを、チューブを介してヘキサンを満たした回収容器30にバブリングさせて、生成物を回収する。
最後に、酸素酸化反応の進行状況を、一定時間回収した生成物に対して内部標準を添加して、ガスクロマトグラフ分析で定量する。
【0057】
マイクロリアクター1を使用して、96時間連続反応を行って、12時間または24時間毎の触媒活性を確認した。その結果は、表1に示すように、開始直後から12時間までに採取した生成物では、転換率が96%と低い。これは、マイクロリアクター1の安定化に少なくとも数時間要することに起因するものと考えられる。マイクロリアクター1の安定化後は、転換率99%を維持しており、96時間後まで触媒活性の低下は全く見られず、非常に高い活性を維持していることが明らかである。
なお、金の漏出は、ICP分析によれば検出下限(約0.2%)以下であり、反応後にキャピラリー2の金の担持量をICPにより測定したところ、0.1μモルであることが明らかとなった。
【表1】
【0058】
続いて、反応溶液8、その濃度、反応溶液8及び酸素ガス22の流速を変化させて、反応条件の最適化を試みた。
図6は、実施例1における基質、炭酸カリウム水溶液の濃度、流速及び酸素ガスの流量を変化させた場合の転換率を示す図である。
図6に示すように、エントリー1から10まで、アルコール(1−フェニルエタノール)の濃度を0.1,0.3,0.5(M)とし、その流速を0.1,0.06,0.067(cm3/時間)とし、炭酸カリウム水溶液の濃度を0.3,0.6(M)とし、その流速を0.03,0.06(cm3/時間)とし、酸素ガス22の流速を1.5,2.0(cm3/分)に変化させて、転換率を測定した。
【0059】
その結果、エントリー1の条件である、アルコール濃度0.1M,流速0.1cm3/時間、炭酸カリウム水溶液の濃度0.3M,流速0.03cm3/時間、酸素ガス22の流速1.5cm3/分では、原料であるアルコールは完全に消費され、対応するケトンのピークのみがガスクロマトグラフ分析によって確認された。
エントリー2で、基質6の濃度を5倍濃くした場合には、アルコールの転換率は82%に減少する。同条件で基質6の溶液の流速を0.06cm3/時間に落とした場合(エントリー3)にも、原料アルコールが若干量残存する結果となった。この場合、生産性としてはエントリー1の三倍になる。
【0060】
また、基質6の濃度を0.3Mとして種々の反応条件を検討した。基質6を、1,2−ジクロロエタン(エントリー4)からトリフルオロメチルベンゼン(エントリー5)又はテトラヒドロフラン(エントリー6)に替えると、転換率は86%,71%,71%と低下した。
これに対して、溶液7となる炭酸カリウム水溶液の流速を0.06cm3/時間と上げることによって、基質6に対する炭酸カリウム当量を30から60モル%に増加(エントリー7)させ、また酸素ガス22の流量を1.5から2.0cm3/分に増加(エントリー8)させてみたが、転換率は70%,67%と減少した。
【0061】
一方、溶液7となる炭酸カリウム水溶液の濃度を濃くすることによってエントリー9のように基質6に対する炭酸カリウム当量を30から60モル%に増加させた場合には、転換率は84%となり、エントリー4に対して大きな変化は見られなかった。これにより、塩基の当量は重要な因子ではないと考えられる。
【0062】
さらに、エントリー10のように、基質6の溶液の流速を0.1から0.067cm3/時間に下げた場合には、転換率が95%と向上した。従って、キャピラリー2内における滞在時間が反応性に大きな影響を与えることが明らかになった。
【0063】
以上のエントリー1から10における転換率の結果から、エントリー1の条件を標準条件として採用して、以下に図7を参照して種々の実施例について説明する。
図7は、標準条件及び実施例3〜9の酸素酸化反応の転換率及び収率を示す図である。なお、この標準条件では、基質6(濃度0.1M)を流速0.1cm3/時間で、酸素ガス22を1.5cm3/分の流速で、また、溶液7となる炭酸カリウム水溶液(濃度0.3M)及び1,2−ジクロロエタンを、それぞれマイクロリアクター1の金触媒固定化キャピラリー2内に供給する。この場合、図6の最上欄に示すように、基質6(酸化物質)として1−フェニルエタノールを温度60℃にて酸素酸化させたところ、生成物としてアセトフェノンが生成され、転換率は99%以上と、基質6がほぼ完全に酸化された。
【実施例3】
【0064】
実施例3では、基質6(被酸化物質)としてパラメトキシ−1−フェニルエタノールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、温度60℃にて酸化反応を行った。
これにより、生成物パラメトキシアセトフェノンが得られると共に、転換率は99%以上と、基質6であるパラメトキシ−1−フェニルエタノールがほぼ完全に酸化された。
【実施例4】
【0065】
実施例4では、基質6としてパラクロロ−1−フェニルエタノールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、また温度70℃にて酸化反応を行った。この場合、電子求引性基を有する基質6であることから、若干反応性が低下するので、70℃で酸化反応を行った。
これにより、生成物パラクロロアセトフェノンが得られると共に、転換率は99%以上と、基質6であるパラメトキシ−1−フェニルエタノールがほぼ完全に酸化された。
【実施例5】
【0066】
実施例5では、基質6として4−フェニル−3−ブテン−2−オールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、また温度70℃にて酸化反応を行った。
これにより、生成物4−フェニル−2−オキソ−3−ブテンが得られると共に、転換率は99%以上と、基質6である4−フェニル−3−ブテン−2−オールがほぼ完全に酸化された。
【実施例6】
【0067】
実施例6では、基質6として1−チオフェニル−1−エタノールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、また温度60℃にて酸化反応を行った。
これにより、生成物チオフェニルメチルケトンが得られると共に、転換率は99%以上と、基質6である1−チオフェニル−1−エタノールがほぼ完全に酸化された。
【実施例7】
【0068】
実施例7では、基質6として(4−メチルフェニル)−1−エタノールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、また温度70℃にて酸化反応を行った。
これにより、生成物4−メチルフェニルメチルケトンが得られると共に、転換率及び収率が99%以上と、基質6である(4−メチルフェニル)−1−エタノールがほぼ完全に酸化された。
【実施例8】
【0069】
実施例8では、基質6としてインダノールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、また温度60℃にて酸化反応を行った。
これにより、生成物インダノンが得られると共に、転換率及び収率が99%以上と、基質6であるインダノールがほぼ完全に酸化された。
【実施例9】
【0070】
実施例9では、基質6としてベンジルアルコールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、また温度60℃にて酸化反応を行った。
これにより、生成物ベンズアルデヒドが得られると共に、転換率及び収率が99%以上であったが、収率が53%であり、実施例9の生成物を分析したところ、過剰反応が進行し、安息香酸や安息香酸ベンジルエステルが観測され、このような副生成物によりベンズアルデヒドの収率が低下することが分かった。
【0071】
以上の実施例2の標準条件及び実施例3,4によれば、芳香族二級アルコールについては、定量的に反応が進行し、対応するケトンが得られた。実施例5〜8によれば、アリルアルコール誘導体やヘテロ環含有化合物についても、副生物を伴うことなく、定量的に目的のケトンが得られることが明らかである。しかしながら、実施例9の1級アルコールであるベンジルアルコールの酸化反応では、収率が悪く副生物が生成し、目的のアルデヒドの収率が悪いことが判明した。
【実施例10】
【0072】
(金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒の調製1)
次に、金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を調製した。ポリシロキサン修飾型キャピラリー(ジーエルサイエンス株式会社製InaetCap225(登録商標)、外径0.25mm、膜厚さ0.25μm、長さ50cm)に水素化リチウムアルミニウムのエーテル溶液(1.0M溶液、Aldrich社製)を室温下シリンジポンプ9を用いてゆっくり通液(0.1cm3/時間、48時間)した後、水、0.5規定(N)水酸化ナトリウム水溶液、メタノール(各10cm3)を順次通液し反応の停止及び洗浄を行った。
30cm3フラスコ中に別途合成したコポリマー(400mg)のTHF(7.0cm3)溶液を調製し、室温下でクロロトリフェニルフォスフィン金(15.0mg)及び酢酸パラジウム(6.8mg)のTHF溶液(1.0cm3)を加え30分間撹拌後、水素化ホウ素ナトリウムのジグリム溶液(2wt%、0.25cm3)を加え、さらに3時間撹拌を行った。
この溶液2.0cm3を別のフラスコに移し、シクロヘキサン0.5cm3から1.0cm3程度を相分離が起きるまでゆっくり加え、触媒をシリンジで抜き取り、シリンジポンプ9を用いて、先に調製したキャピラリー2に50℃下で通液した(0.2cm3/時間、12.5時間)。ここで、相分離した触媒はゆっくりと凝集してくるので、上記相分離の操作は通液直前に毎回行った。
通液後、同様な操作を、さらに3回キャピラリーの反対側の口から行い、触媒をガラス壁面に充分担持させた後に、170℃で5時間焼成し、管本体の内壁3に被覆されたポリシロキサン被膜4へ金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を担持した。
ここで、THFは脱水操作を施したものを用いると担持操作が充分に行われないため、市販の特級THFをそのまま用いた。
【実施例11】
【0073】
(金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒の調製2)
実施例10の金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5をキャピラリーの内壁に担持するとき、最初に還元剤となる水素化ホウ素ナトリウムのジグリム溶液(2wt%、0.25cm3)を送液し、次にクロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)(15.0mg)及び酢酸パラジウム(6.8mg)のTHF溶液(1.0cm3)を送液した。これ以外の工程は、実施例10と同じ方法で行い、管本体の内壁3に被覆されたポリシロキサン被膜4へ金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を担持した。
【実施例12】
【0074】
実施例10の金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を担持したキャピラリー2を用いた以外は、実施例2と同様のマイクロリアクターによって酸素ガス22を用いた酸化反応を行った。基質6はベンジルアルコールの1,2−ジクロロエタン溶液(0.1M、流速0.10cm3/時間)を用い、溶液7として水(流速0.03cm3/時間)を使用した。酸素ガス22の流量(1.5cm3/分)はマスフローコントローラー26で制御した。金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5は50℃に加温した。キャピラリーの出力部2b部分において、生成物を含む反応溶液8をヘキサンを満たした容器でバブリングさせ、生成物を回収した。反応の進行状況は、一定時間回収した後で内部標準を添加し、ガスクロマトグラフィーで定量した。
図8は、実施例10及び11と後述する実施例13の高分子カルセランド担持型触媒5を用いたマイクロリアクターによってベンジルアルコールの酸素酸化反応の転換率及び収率を示す図である。
これにより、図8に示すように、実施例12では酸素酸化により生成物ベンズアルデヒドが得られると共に、転換率は99%以上で収率が92%であり、基質6であるベンジルアルコールがほぼ完全に酸化された。
【実施例13】
【0075】
実施例11の金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を担持したキャピラリーを用いた以外は、実施例12と同様にベンジルアルコールの酸化を行った。これにより、図8に示すように、実施例13では酸素酸化により生成物であるベンズアルデヒドが得られると共に、転換率は99%以上で収率が88%であり、基質6であるベンジルアルコールがほぼ完全に酸化された。実施例12と比較すると、実施例13のベンズアルデヒドの収率は4%低い。実施例12で用いたキャピラリーは、実施例10で調整した。従って、実施例10のように、管本体の内壁3aに形成されたポリシロキサン被膜4へ高分子カルセランド担持型触媒5を担持させるとき、金属種を還元剤よりも先に加える方が、ベンズアルデヒドの収率が良いことが分かった。
【0076】
実施例9において、金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を用いてベンジルアルコールを酸化したが、過剰反応が進行し、安息香酸や安息香酸ベンジルエステルが観測され、ベンズアルデヒドの収率は53%であった。これに対して、塩基を加えずに、水相だけを用いた実施例12及び13のベンジルアルコールの酸化では収率が、それぞれ、92%、88%となり、何れの場合も実施例9よりも著しく収率を高くできることが判明した。
【実施例14】
【0077】
(金及び白金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒の調製)
実施例10の酢酸パラジウムの代わりにヘキサクロロ白金ナトリウム六水和物(17mg)と、水素化ホウ素ナトリウムのジグリム溶液(2wt%、0.375cm3)と、を用いる以外は実施例10と同様の手法によって、管本体の内壁3aに被覆されたポリシロキサン4へ金及び白金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を担持した。
【実施例15】
【0078】
実施例14の金及び白金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を担持したキャピラリー2を使用して、実施例12と同様に、ベンジルアルコールの酸化を行った。
これにより、図8に示すように、実施例15では酸素酸化により生成物としてベンズアルデヒドが得られると共に、転換率は65%以下であった。実施例12の転換率は、実施例8の金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5及び実施例の金とパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5の実施例の転換率である99%以上と比較すると低いが、ベンジルアルコールの酸化が行えることが分かった。
【0079】
以上の実施例によれば、助触媒や共酸化剤を使用せずにアルコールを高効率で酸化できると共に、繰返し使用しても金触媒が剥離しないようにした、金属触媒を担持したマイクロリアクター1内部への金触媒の固定化方法と、この方法により金属触媒を担持したマイクロリアクター1、そしてこのマイクロリアクター1による酸化反応方法が提供される。
【0080】
本発明によれば、多相系触媒反応において各相間の飛躍的な接触面積の向上が期待されるマイクロリアクター1を使用して、微小空間の特徴を活用したアルコール等の基質6の効率的な酸素酸化反応が可能である。その際、高分子カルセランド担持型触媒5の管本体の内壁3aへの固定化は、より高い疎水性を発現するポリシロキサン被膜4の表面を化学修飾により還元することによって実現した。
【0081】
触媒としては、室温下でのアルコール等の基質6の酸素酸化反応に高い活性を示すと共に、触媒の繰返し再使用が可能な高分子カルセランド型金触媒を選択し、本発明の金触媒固定化方法によりマイクロカプセル化して、より多くの金属触媒を管本体の内壁3aに固定化することができる。
【0082】
本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のマイクロリアクター1は、医薬品中間体などのファインケミカルの製造プロセスに組み込むことが可能であり、標的化合物の探索や絞り込みに用いることができる。例えば、上述した実施形態においては、基質6としてアルコールを使用した場合について説明したが、これに限ることなく、本発明により金触媒を固定化したマイクロリアクター1を使用して、アルコール誘導体やヘテロ環含有化合物等の酸素酸化反応を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施の形態に用いるキャピラリー及びマイクロリアクターの構成を模式的に示す図である。
【図2】図1のY−Y線に沿う断面図である。
【図3】マイクロチャンネルの一実施例の構成を模式的に示し、(a)は平面図、(b)はY−Y線断面図である。
【図4】本発明のマイクロリアクターの流路を通過する反応溶液及び酸素ガスの状態を示す断面図である。
【図5】マイクロリアクターのキャピラリーに担持する工程を模式的に示す図で、それぞれ、(a)は管本体の内壁3aの還元反応、(b)はマイクロカプセル化金触媒の生成反応、(c)は金触媒の固定化反応を示す図である。
【図6】実施例1において、基質、炭酸カリウム水溶液の濃度、流速及び酸素ガスの流量を変化させた場合の転換率を示す図である。
【図7】標準条件及び実施例3〜9の酸素酸化反応の転換率と収率を示す図である。
【図8】実施例10及び11と実施例13の高分子カルセランド担持型触媒を用いたマイクロリアクターによってベンジルアルコールの酸素酸化反応の転換率及び収率を示す図である。
【図9】従来の銀触媒によるプレノールの気相酸化反応を示す図である。
【図10】従来の固定化TPAPによるベンジルアルコールの酸素酸化反応を示す図である。
【図11】金担持キャピラリーを用いたグルコースの酸化反応を示す図である。
【図12】パラジウム触媒固定化キャピラリーの調製を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1:マイクロリアクター
2:キャピラリー
2a:入力部
2b:出力部
3:管本体
3a:内壁
3b:中空部(流路)
4:高分子被膜
5:高分子カルセランド担持型触媒
6:基質
7:溶液
8:反応溶液
9:流量調整部(送液ポンプ)
10:反応溶液供給部
11,12,14,24:配管
13,18:コネクタ
20:気体供給部
22:ガス(酸素ガス)
22a:ガスボンベ
23:ガスバルブ
26:ガス流量調整部(マスフローコントローラー)
30:回収部
32:マイクロチャンネル
32a:流路部
33,34:基板
3
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャピラリーとこのキャピラリーへの触媒固定化方法に係り、詳しくは、内壁に高分子被膜が形成されこの高分子被膜に金属触媒が内包された高分子カルセランド担持型触媒を担持したキャピラリーと、このキャピラリーを用いて触媒を固定化する方法に関するものである。
さらに本発明は、上記キャピラリーを用いたマイクロリアクターと、このマイクロリアクターによる固相−液相−気相反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金触媒を用いる酸化反応として、例えばアルコールの酸素酸化反応の例が、非特許文献1に、ミリサイズのフロー型リアクターを用いた1級ベンジルアルコール誘導体の酸化反応が報告されている。これは、アルミナ担持型ルテニウム触媒または酸化チタンナノチューブ担持型ルテニウム触媒を、一辺が2mmから5mmの正方形,長さ10cmのミリリアクターに充填することにより、ベンジルアルコールが高い選択性で対応するアルデヒドに変換され、それぞれの触媒系で、300または450h-1と高い触媒回転数(TOF)を実現している。
しかしながら、この場合、反応収率が75%程度と低いため、満足できる水準とはならない。
【0003】
ここで、気相(酸素ガス),液相(基質溶液)及び固相(触媒)から成る多相系反応において、各相間の接触面積を大きくすることにより収率が改善されるので、例えば激しく撹拌したり、酸素ガスを細かい泡として吹き込む等の工夫が試みられてきた。さらに、通常の反応容器(以下、適宜、フラスコ反応と呼ぶ。)による酸化反応では、系内に水素ガス,溶媒蒸気,高活性な金属触媒が共存するために、発火や爆発が生ずる可能性がある。
【0004】
一方、近年、マイクロリアクターを用いる有機合成が急速に発展しつつある。マイクロリアクターは、ガラス等の不活性材料に、その大きさが数〜数百μmのマイクロ流路(以下、適宜、マイクロチャンネルと呼ぶ。)を有する微小反応器の総称である。マイクロリアクターの反応器は小さいので、厳密な温度コントロールを容易に行うことができる。
従って、マイクロリアクターを用いる合成反応では、単位面積あたりの表面積が大きいので、
(1)温度制御が効率よく行われる、
(2)界面での反応が効率よく発生する、
(3)高速且つ効率的な混合が行われる、
等の利点を有している。
【0005】
発熱の大きい反応では効率的な断熱が可能となり、反応の制御が容易になると共に、燃焼や爆発の危険性がある反応においても、マイクロリアクターを用いることによって安全性が向上する。例えば、非特許文献2によれば、マイクロリアクターを用いる水素ガスと酸素ガスの触媒反応において、フラスコ型リアクターでは爆発が生じる条件下であっても、管径が消炎距離より小さいことから爆発を伴うことなく反応が進行する例が報告されている。
【0006】
このように、マイクロリアクターによる合成反応は、通常の反応容器による合成反応よりも反応時間が速く、取り扱う薬液も微少量で済むためにコストが低く、新規な化合物や薬品のために開発用反応器として注目されている。
【0007】
非特許文献3には、マイクロチャンネル内の微小空間に由来する大きな比界面積を活用した、効率的な気−液−固の三相から成る水素添加反応が報告されている。これにより、マイクロチャンネルの内壁に高分子カルセランド型パラジウム触媒を固定化した触媒担持型リアクターを用い、液相である基質溶液をチャンネル内壁に沿って流し、気相である水素ガスをチャンネル中心部に流すことによって、各相の効率的な接触が実現された結果、アルケンやアルキン類の還元,ベンジル基の脱保護,ニトロ基の還元等の反応が短時間で且つ高収率で進行することが見出された。
【0008】
このような水素添加反応に対して、例えばアルコールの酸素酸化反応は、高い触媒活性を得ることが困難であり、マイクロリアクターを用いた報告例は非常に少ない。例えば、非特許文献4においては、銀をチャンネル内にコーティングしたマイクロリアクターを用いて、図9に示すように、プレノール(3−メチル−ブテン−1−オール)の気相中酸化反応(400℃)を行うことにより、転換率60〜70%で目的のアルデヒド体(3−メチル−2−ブテノール)が得られた。
【0009】
非特許文献5においては、均一系の酸素酸化反応で高い活性を示すTPAPを活性アルミナに担持し、これをマイクロチャンネルリアクターの経路内に充填することで、図10に示すように、ベンジルアルコールの酸化反応を行うことにより、NMOを用いた液−固の二相系反応ではベンズアルデヒドへの100%の転換率が得られたが、酸素を用いた気−液−固の三相系反応では、ベンズアルデヒドへの転換率は30〜40%であった。さらに、反応時間の経過による触媒の失活が観測されており、基質一般性に関してもベンジルアルコール以外の反応性は報告されていない。この場合、触媒をチャンネル内にコーティングまたは充填することによって、三相系の反応が行われているが、気相反応のために使用される基質が限定されてしまい、触媒活性が十分ではなく原料が残存してしまう。従って、基質適用範囲が広くマイクロフロー系に適した高活性な触媒が要求されている。
【0010】
これに対して、非特許文献6においては、平均1nmの金ナノクラスターを形成する高分子カルセランド型金触媒(PIAu)は、室温下で種々のアルコールの酸化反応を触媒で促進し、無溶媒下160℃の条件で、TOFが20000h-1に到達することが確認されている。この場合、反応後のクラスターの凝集はみられず、10回の繰返し再使用実験において触媒活性の低下を伴うことなく反応収率99%以上を維持していることが確認されている。従って、PIAuをマイクロリアクターに担持することにより、効率的な三相系酸素酸化反応が期待されるが、これまでに、金担持型マイクロリアクターを用いたアルコールの酸化反応の報告はない。
【0011】
なお、非特許文献7において、内部に海綿体状多孔質の金触媒が担持されたマイクロリアクターを用いて、図11に示すように、D−グルコースをD−グルコン酸に転化する酸化反応が報告されている。しかしながら、原料の送液方法として電気浸透流方式が採用されているため、適用可能な基質が制限されてしまうおそれがある。
【0012】
【非特許文献1】D. V. Bavykin, A. A. Lapkin, S. T. Kolaczkowski, P. K. Plucinski, Appl. Catal. A, 2005, 288, 175.
【非特許文献2】M. T. Janicke, H. Kestenbaum, U. Hagendorf, F. Schuth, M. Fichtner, K. Schubert, J. Catal., 2000, 191, 282.
【非特許文献3】J. Kobayashi, Y. Mori, K. Okamoto, R. Akiyama, M. Ueno, T. Kitamori, S. Kobayashi, Science, 2004, 304, 1305.
【非特許文献4】E. Cao, A. Gavriilidis, W. B. Motherwell, Chem. Eng. Sci.. 2004, 59, 4803.
【非特許文献5】E. Cao, W. B. Motherwell, A. Gavriilidis, Chem. Eng.Technol., 2006, 29, 1372.
【非特許文献6】H. Miyamura, R. Matsubara, Y. Miyazaki, S. Kobayashi, Amgew. Chem. Int. Ed., 2007, 46, 4151.
【非特許文献7】M. Haruta, T. Kobayashi, H. Sano, N. Yamada, Chem. Lett., 1987, 405.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、このようにして、従来金触媒を用いた三相系の酸化反応をマイクロリアクターにより効果的に実現した例は報告されていない。また、従来の酸化方法では、転換率を向上させるために、助触媒や共酸化剤の使用が不可欠である。
【0014】
非特許文献7の方法を金触媒の固定化に応用する場合、例えば図11に示すように、ポリスチレン基盤の高分子とパラジウム源から調製したミセル溶液(MC Pd)を予めアミノ基によって内壁を修飾しておいたマイクロリアクターに作用させることにより固定化を行うことになる。
【0015】
しかしながら、高分子カルセランド型金触媒を用いる酸素酸化反応は、図12に示すように、塩基性水溶液存在下で行われるため、パラジウム触媒の場合と同様の方法で固定化しようとすると、酸化反応の際にシラノール部位の切断によって触媒が内壁から剥離するおそれがある。実際に図11に示した方法で金触媒を固定化したマイクロリアクターを用いて酸素酸化反応を行ったところ、開始直後は転換率95%以上の高い触媒活性を示すが、5時間程度経過すると高分子担体が剥離してチャンネルが閉塞する結果となった。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑み、助触媒や共酸化剤を使用せずにアルコール等の有機物を高効率で酸化できると共に、繰返し使用しても触媒が剥離しないようにした、高分子カルセランド担持型触媒を担持したキャピラリーを提供することを第1の目的とする。
本発明の第2の目的は、上記キャピラリーへの触媒固定化方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、上記キャピラリーを用いたマイクロリアクターを提供することである。
また、本発明の第4の目的は、このマイクロリアクターを用いた固相−液相−気相反応方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記第1の目的を達成するため、本発明のキャピラリーは、管本体とこの管本体の内壁に被覆された高分子被膜とこの高分子被膜に担持される触媒と、を備え、触媒は、金属触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒からなる。
【0018】
上記構成において、好ましくは、管本体はガラスからなり、高分子被膜がポリシロキサンからなる。金属触媒は、好ましくは、金、パラジウム、白金、ルテニウム、タングステン、コバルト、銅、鉄、ニッケル、マンガン、レニウム、クロム、モリブデン、銀、ロジウムの何れか一つ又はこれらの金属触媒の二つ以上を含む。
高分子カルセランド担持型触媒は、好ましくは、クロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒からなる。
【0019】
上記第2の目的を達成するため、本発明の管本体の内壁に高分子被膜を備えたキャピラリーへの触媒の固定化方法は、高分子被膜の管本体内部側の表面を高分子カルセランド担持型触媒と結合する基で修飾する第1の工程と、マイクロカプセル化した高分子カルセランド型触媒を調製する第2の工程と、マイクロカプセル化した高分子カルセランド型触媒をキャピラリー内に送液して、加熱架橋によりキャピラリー内壁に固定化する第3の工程と、を含む。
【0020】
上記構成において、好ましくは、高分子被膜はポリシロキサンであり、第1工程において、水素化リチウムアルミニウムのエーテル溶液を送液ポンプによりキャピラリー内に送液する。
第2の工程において、好ましくは、エポキシ基と基質鎖を架橋部位として有するポリスチレン基盤のコポリマーと水素化ホウ素ナトリウムのTHF溶液に対してクロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒を添加した後、貧溶媒となるシクロヘキサンを滴下してマイクロカプセル化金触媒を調製する。
【0021】
上記第3の目的を達成するため、本発明のマイクロリアクターは、キャピラリーと、キャピラリーへ液相となる基質を溶解した溶液を供給する反応溶液供給部と、キャピラリーへ気相となる気体を供給する気体供給部と、キャピラリーにおける反応生成物を回収する回収部と、を備え、キャピラリーは管本体を有し、管本体の内壁に被覆された高分子被膜とこの高分子被膜に固相となる金属触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒が担持され、キャピラリーは一端が反応溶液供給部及び気体供給部へ接続され、他端が回収部へ接続され、基質を溶解した溶液及び基質と反応する気体が、キャピラリーへ所定の流量で連続的に流れるように構成されている。
【0022】
上記構成において、好ましくは、さらに制御部を有し、制御部は、反応溶液供給部及び気体供給部を、キャピラリーの流路へ所定の流量で連続的に流すように制御する。
好ましくは、管本体はガラスからなり、高分子被膜はポリシロキサンからなり、高分子カルセランド担持型触媒は、金、パラジウム、白金、ルテニウム、タングステン、コバルト、銅、鉄、ニッケル、マンガン、レニウム、クロム、モリブデン、銀、ロジウムの何れか一つ又はこれらの金属触媒の二つ以上を含む。
【0023】
上記第4の目的を達成するため、本発明のマイクロリアクターを用いて固相−液相−気相の間で被酸化物質を反応させる方法は、キャピラリーの流路の内壁に高分子被膜を形成し、金属触媒を内包した固相のカルセランド担持型触媒を上記高分子被膜に担持し、キャピラリーの流路に液相となる被酸化物質を溶解した溶液及び気相となるガスを流し、溶液とガスとの反応をカルセランド担持型触媒によって促進させることで、固相−液相−気相の間で被酸化物質を酸化させることを特徴とする。
上記気相として、好ましくは酸素ガスを用いる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、助触媒や共酸化剤を使用せずにアルコール等の有機物を高効率で酸化できると共に、繰返し使用しても金属触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒金触媒が剥離しないようにしたキャピラリーと、このキャピラリーへの触媒の固定方法、このキャピラリーを用いたマイクロリアクター、そしてこのマイクロリアクターによる固相−液相−気相反応が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1及び図2は本発明の実施の形態に用いるキャピラリー及びマイクロリアクターの構成を模式的に示す図であり、図2は図1のY−Y線に沿う断面図である。
マイクロリアクター1は、キャピラリー2と、キャピラリー2へ液相となる基質6と溶液7とからなる反応溶液8を供給する反応溶液供給部10と、キャピラリー2へ気相となるガス22を供給する気体供給部20と、キャピラリー2を通過した反応溶液8とガス22と反応生成物とを回収する回収部30と、を備えている。
【0026】
図2に示すように、キャピラリー2は、不活性材料のガラスなどからなる中空の管本体3と、この管本体3の内壁3aに担持される高分子被膜4と、この高分子被膜4に担持される高分子カルセランド担持型触媒5と、を備えて構成されている。
ここで、管本体3は、市販されているガスクロマトグラフ用のフューズドシリカキャピラリーを始め、アルミナキャピラリー、チタニアキャピラリー、ジルコニアキャピラリーや、テフロン(登録商標)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のような高分子を素材としたもの、及びそれらに対して高分子カルセランド担持型触媒5の担持が可能な表面処理を施したものであれば、どのような素材であっても構わない。断面形状も丸、三角、四角、楕円、長四角、星型の何れでも構わない。キャピラリー2に流れるガス22の流れを均一にするためには、キャピラリー2の断面形状は丸が好ましい。
【0027】
管本体3の内径は5μm〜5mmが好ましく、100μm〜800μmが特に好ましいが、長さは特に制限はない。
【0028】
反応溶液供給部10は、基質6と溶液7と、基質6及び溶液7のそれぞれの流量調整部9,9と、この調整部9,9へ配管11,12を介して接続されるコネクタ13と、コネクタ13からキャピラリー2への配管14と、から構成されている。流量調整部9には、シリンジポンプなどの送液ポンプを用いることができる。配管14を流れる液相は、基質6及び溶液7からなる反応溶液8である。
【0029】
気体供給部20は、酸化性物質となるガス22を供給するガスボンベ22aと、ガスボンベ22aを開閉しその流量を調節するガスバルブ23と、配管24と、から構成されている。ガス22の微少流量を制御する場合には、必要に応じてマスフローコントローラーなどを用いたガス流量調整部26を設けてもよい。ガス22としては、酸素ガス等を用いることができる。
【0030】
図示の場合には、キャピラリー2の一端には、コネクタ28を介して送液ポンプ9からの配管14と酸素ガス用の配管24とが接続されている。コネクタ13,28はフッ素樹脂やステンレスからなるT型コネクタを用いることができる。配管11,12,24は、フッ素樹脂やステンレスからなる配管を使用することができる。酸素ガスボンベ22aは、ガスバルブ23とテフロン(登録商標)を用いた配管24などにより接続され、マスフローコントローラーなどを用いたガス流量調整部26によってその供給量が制御される。反応溶液8及び酸素ガス22は、キャピラリーの入力部2aにおいて合流する。回収容器などからなる回収部30は、キャピラリーの出口部2bにテフロン(登録商標)の配管24などにより接続されている。
【0031】
本発明のマイクロリアクター1には、キャピラリー2の内部の流体の形態を測定して、流量調整部9及びガス流量調整部26を制御してもよい。後述する実施例の酸化反応では、パイプフロー状態が好ましい。このパイプフローであるか否かのような流体の形態判定のためには、キャピラリー2の内部の流体の形態を計測するセンサーと、このセンサーからの出力が入力される制御部と、をさらにマイクロリアクター1に備えるようにして、この制御部により、流量調整部9及びガス流量調整部26を制御するようにしてもよい。
【0032】
キャピラリー2は、マイクロチャンネルを使用してもよい。図3は、マイクロチャンネルの一実施例の構成を模式的に示すもので、(a)は平面図、(b)はY−Y線断面図である。
図3に示すように、マイクロチャンネル32は、不活性材料であるガラス等からなる基板33と基板33に蛇行して設けられる流路部32aとから構成することができる。流路部33aは、エンドミル等の工具による研削やマスクを用いたエッチングにより、その断面が矩形や半円形状に刻設される。図3(b)に示すように、マイクロチャンネル32が設けられた基板33は、同じ大きさの流路部32aを刻設しない基板34と対向するようにして基質6と溶液7及び酸素ガス22が漏れないように密着固定されている。これらの基板33,34は、被酸化物質や有機溶媒に侵されない材料であればよく、ガラスの他には樹脂や金属等の材料から構成されていてもよい。流路部32aの内壁には、キャピラリー2と同様に高分子被膜4が被覆され、高分子被膜4には高分子カルセランド担持型触媒5が担持されている。
【0033】
本発明の特徴は、キャピラリー2の管本体3の内壁3aに被覆されたポリシロキサン表面を化学処理により特定の基で修飾、つまり、改質した後で、ポリシロキサン被膜4の表面に高分子カルセランド担持型触媒5を担持することにある。これにより、高分子カルセランド担持型触媒5をキャピラリー2の管本体3の内壁3aに強固に固定することができる。
【0034】
本発明の高分子カルセランド担持型触媒5は、高分子と金属触媒とからなる高分子カルセランド担持型触媒である。金属触媒としては金(Au)、パラジウム、白金、ルテニウム、タングステン、コバルト、銅、鉄、ニッケル、マンガン、レニウム、クロム、モリブデン、銀、ロジウムの何れか又はこれらの金属触媒の二つ以上を含む金属触媒を用いることができる。金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5の一例は、化学式:AuClPPh3で表わされる化合物であり、クロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒である。
【0035】
高分子被膜4の材料として、高分子カルセランド担持型触媒5を強固に担持することが可能な表面で有れば良い。高分子被膜4の表面は、高分子カルセランド担持型触媒5と結合する基を備えていることが好ましく、このような基は、高分子カルセランド担持型触媒5を担持する。例えば、ガラスの表面のシラノール基に結合させた高分子被膜4をキャピラリー2の内部側の表面、つまり、高分子カルセランド担持型触媒5が担持される表面を改質して、高分子カルセランド担持型触媒5と結合する基を修飾してもよい。例えば、高分子被膜4の表面を修飾する基としては、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、イミノ基、アルキニル基、チオール基、ビニル基、アルキル基、パーフルオロアルキル基等が挙げられる。
【0036】
次に、本発明の高分子カルセランド担持型触媒5を管本体の内壁3aに担持する方法について説明する。
下記の第1から第3の工程を含む工程によって、管本体の内壁3aに被覆された高分子被膜の表面を改質して、さらに、この高分子被膜4へ高分子カルセランド担持型触媒5を固定化することができる。高分子被膜としては、ポリシロキサンを用いることができる。
(第1の工程)
管本体の内壁3a上のポリシロキサンなどからなる高分子被膜4の表面を改質する。ポリシロキサン被膜4は、ポリシロキサンのシアノ基を水素化リチウムアルミニウムのエーテル溶液により還元して、ガラス等からなる管本体の内壁3aをポリシロキサン被膜4とすることで形成することができる。
【0037】
第1の工程では、水素化リチウムアルミニウムのエーテル溶液をシリンジポンプ9によりキャピラリー2内に送液する場合には、送液供給量を適宜に調整することができる。
【0038】
(第2の工程)
高分子カルセランド担持型触媒からマイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5を調製する。この工程は、エポキシ基と基質鎖を架橋部位として有するポリスチレン基盤のコポリマー及び還元剤となる水素化ホウ素ナトリウムのTHF溶液に対してクロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒を添加した後、貧溶媒となるシクロヘキサンを滴下してマイクロカプセル化することができ、例えば、1nmの金ナノクラスターを含有させることができる。ここで、還元剤とクロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒等との管本体の内壁3aに送液する順番はどちらが先でもよい。この順番は得られた高分子カルセランド担持型触媒5の基質6の酸化反応性に着目して、酸化反応性の良い方を適宜に選択すればよい。
【0039】
(第3の工程)
マイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5を管本体3内に送液し、加熱して架橋反応により管本体の内壁に被覆されたポリシロキサン被膜4に固定化する。送液をシリンジポンプ9によって行う場合には、高分子カルセランド担持型触媒5を形成する溶液の供給量を適宜に調整することができる。
【0040】
架橋反応は、加熱若しくは電磁波照射等の外部刺激を与えるが、加熱方式が簡便な操作であり好ましい。加熱温度は50℃〜300℃、とくに100〜160℃が好ましい。加熱時間は10分から48時間が好ましく、1時間〜12時間が特に好ましい。例えば、170℃で5時間加熱されることにより行われる。この工程によれば、マイクロカプセル化された金等を含む高分子カルセランド型触媒5を、管本体の内壁3aに被覆されたポリシロキサン被膜4に確実に固定することができる。このため、金等を含む高分子カルセランド型触媒5が簡単に管本体の内壁3aから剥離することを防止することができる。
【0041】
上記の触媒固定化方法によれば、マイクロリアクター1の管本体の内壁3aに備えられたポリシロキサン被膜4が第1の工程で還元されるので、第2の工程で調製されたマイクロカプセル化した高分子カルセランド型触媒5が第3の工程で管本体の内壁3aに強固に担持される。
【0042】
これにより、上記高分子カルセランド型触媒5は、室温下で種々の基質6の酸化反応の触媒とすることができる。その際、例えば酸化反応を160℃の条件で行ったとき、TOFが20000/時間に達すると共に、反応後のクラスターの凝集がなく、例えば10回の繰返し実験でも、触媒活性が低下することなく、反応収率99%以上を維持することができる。このようにして、本発明による方法によれば、助触媒や共酸化剤を使用することなく、基質6の酸素酸化反応を効率的に且つ連続的に行うことができ、効率的な三相系酸素酸化反応を実現することができる。
【0043】
本発明のマイクロリアクター1を用いて固相−液相−気相反応を行うには、送液ポンプ9から反応溶液8を、ガスバルブ23から酸素ガス22をキャピラリー2内の流路3bにパイプフローとなるように注入する。管本体の流路3bを通過中に、その内壁3aに担持した高分子カルセランド担持型触媒5の作用により、管本体の流路3bを通過する反応溶液8及び酸素ガス22を反応させる。反応により生成した反応生成物を含む反応溶液8は、回収容器等からなる回収部30に集められ、必要に応じて外部に取り出される。
【0044】
図4は、本発明のマイクロリアクター1の流路を通過する反応溶液8及び酸素ガス22の状態を示す断面図である。図示するように、キャピラリーを通過する酸素22は、キャピラリー2の中心部を通過する。キャピラリー2を通過する反応溶液8は、通過する酸素ガス22と管本体の内壁3aに担持された高分子カルセランド担持型触媒5との間を通過し、所謂、パイプフロー状態となり、キャピラリーの入力部2aから出力部2bまでを通過する。この際、基質6及び溶液7の流量調整部9及び酸素ガス22のガス流量調整部26により、基質6、溶液7及び酸素ガス22の流量が上記のパイプフロー状態となるように制御される。
【0045】
本発明のマイクロリアクター1を用いた固相−液相−気相反応によれば、酸素ガス22を用いた酸化反応を高効率で進行させることができる。
【0046】
金等の触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒5を用いて連続反応を行ったところ、96時間後においても転換率の低下はなく、金等の触媒漏れ出しも観測されなかった。このマイクロリアクター1は反応後の再使用も可能であり、種々の基質6に適用できることが分かった。
【0047】
本発明のマイクロリアクター1に用いる高分子カルセランド担持型触媒5は、ポリシロキサン被膜4に固定されているので、触媒自体が高活性を維持しつつ、かつ、繰返し使用に耐える。従って、従来の高分子固定化触媒と比べて極めて高効率で還元体を供給でき、担持された金等の触媒の流出も無く、繰返し若しくは長時間連続運転も可能である。
【0048】
本発明のキャピラリー2を用いたマイクロリアクター1によれば、高分子カルセランド担持型触媒5の管本体の内壁3aへの担持方法も簡便であり、反応に用いる溶媒等の反応溶液8の制限を受けないことが特徴である。
【0049】
本発明の3相系接触酸化反応方法によれば、被酸化物質となる基質6を含む反応溶液8を高分子カルセランド担持型触媒5が担持された管本体の内壁3aに接するように流し、酸素ガス22がキャピラリー2の中央部を流れる、所謂パイプフロー状態で3相系接触反応を短時間に行うことができる。この際、管本体の内壁3aに高分子カルセランド担持型触媒5が担持されているので、例えば高価な金を含む触媒の回収再生の手間が不要となり、さらに、マイクロリアクター1による反応であるので、反応に使用する反応溶液8及び酸素ガス22の使用量も激減することから、低コストである。
さらに、多数のキャピラリー2を平行に並べるだけで、マイクロリアクター1のスケールアップは容易である。このため、望ましい生成物を容易に迅速に、且つ必要量だけ得られ、原料消費量、所要時間、空間が少なく、分離精製のような処理を要しないほど純粋な形で生成物を得ることができる。
従って、本発明の3相系接触還元反応方法によれば、医薬の開発とその製造工程の開発に極めて好適な反応方法となる。また、グリーン化学(環境適合化学)にも好適である。
【実施例1】
【0050】
(金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒)
以下、実施例により本発明の実施の形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
図1に示すマイクロリアクター1として、管本体の内壁3aに高分子カルセランド担持型触媒5を担持してマイクロリアクター1を作製した。
マイクロリアクター1として、外径0.25mm、長さ50cmのポリシロキサン修飾型キャピラリー2(ジーエルサイエンス株式会社製、InaetCup225)を使用した。このキャピラリー2の管本体の内壁3aには、膜厚0.25μmのポリシロキサンが被覆されている。
【0051】
図5は、マイクロリアクター1のキャピラリー2に担持する工程を模式的に示す図であり、それぞれ、(a)は管本体の内壁3aの還元反応、(b)はマイクロカプセル化金触媒の生成反応、(c)は金触媒の固定化反応を示す図である。
水素化リチウムアルミニウムのエーテル溶液(Aldrich社製の1.0M溶液)を、室温下でシリンジポンプ9によりキャピラリー2内に流速0.1cm3/時間でゆっくりと48時間送液して、ポリシロキサン中のシアノ基を還元する。
【0052】
その後、水及び0.5N水酸化ナトリウム水溶液及びメタノールを各10cm3づつ順次にマイクロリアクター1のキャピラリー2内に通液し、上述した還元反応の停止及び内部の洗浄を行う。
【0053】
別途合成したコポリマー、即ちエポキシ基とアルコール鎖を架橋部位として有するポリスチレン基盤のコポリマー(P4)400gを、THF(7.5cm3)を30cm3フラスコに溶解し、室温下で水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)のジグリム溶液(2重量%,0.25cm3)を加えて30分間撹拌後に、クロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)のTHF水溶液(1.5cm3)を加えてさらに3時間撹拌する。そして、この溶液2.0cm3に対して、シクロヘキサン0.95cm3をゆっくり加えて、相分離を発生させた後、触媒層をシリンジで抜き取る。これにより、金を触媒としマイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5を調製した。
【0054】
最後に、図5(c)に示すように、このマイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5をシリンジポンプ9により、先に還元,洗浄した管本体3の内部に50℃,0.2cm3/時間の流速で、12.5時間通液する。その後、同様の操作を管本体3の反対側の口から行って、上記マイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5を管本体の内壁3aのガラス壁面に十分担持した。
その後、マイクロリアクター1のキャピラリー2を170℃で5時間焼成して、マイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5の加熱架橋を行った。
これにより、マイクロカプセル化した高分子カルセランド担持型触媒5がポリシロキサン被膜4の表面に修飾されたアミノ基を介して管本体の内壁3aに担持されたマイクロリアクター1が得られる。
【実施例2】
【0055】
次に、上述した金触媒を固定化したキャピラリー2を有するマイクロリアクター1によるアルコールの酸素酸化反応の一例について説明する。
図1に示したマイクロリアクター1を使用して、被酸化物質となる基質6として、アルコール、即ち1−フェニルエタノールの酸素酸化を行った。
図1において、基質6となる1,2−ジクロロエタン溶液(0.1M,流速0.1cm3/時間)と溶液7となる炭酸水溶液K2CO3aq.(0.3M,流速0.03cm3/時間)とからなる反応溶液8をそれぞれシリンジポンプ9により送液してT字型のコネクタ13により合流させて、原料アルコールとする。
【0056】
さらに、合流させた原料アルコールを、別のT字型コネクタ28により酸素ガス22(1.5cm3/分)と合流させて、マイクロリアクター1のキャピラリー2(長さ50cm)内に導入する。酸素ガス22の流量は、例えばマスフローコントローラー26により制御する。
そして、マイクロリアクター1のキャピラリー2の触媒部分のみを加温し、キャピラリーの出力部2bを、チューブを介してヘキサンを満たした回収容器30にバブリングさせて、生成物を回収する。
最後に、酸素酸化反応の進行状況を、一定時間回収した生成物に対して内部標準を添加して、ガスクロマトグラフ分析で定量する。
【0057】
マイクロリアクター1を使用して、96時間連続反応を行って、12時間または24時間毎の触媒活性を確認した。その結果は、表1に示すように、開始直後から12時間までに採取した生成物では、転換率が96%と低い。これは、マイクロリアクター1の安定化に少なくとも数時間要することに起因するものと考えられる。マイクロリアクター1の安定化後は、転換率99%を維持しており、96時間後まで触媒活性の低下は全く見られず、非常に高い活性を維持していることが明らかである。
なお、金の漏出は、ICP分析によれば検出下限(約0.2%)以下であり、反応後にキャピラリー2の金の担持量をICPにより測定したところ、0.1μモルであることが明らかとなった。
【表1】
【0058】
続いて、反応溶液8、その濃度、反応溶液8及び酸素ガス22の流速を変化させて、反応条件の最適化を試みた。
図6は、実施例1における基質、炭酸カリウム水溶液の濃度、流速及び酸素ガスの流量を変化させた場合の転換率を示す図である。
図6に示すように、エントリー1から10まで、アルコール(1−フェニルエタノール)の濃度を0.1,0.3,0.5(M)とし、その流速を0.1,0.06,0.067(cm3/時間)とし、炭酸カリウム水溶液の濃度を0.3,0.6(M)とし、その流速を0.03,0.06(cm3/時間)とし、酸素ガス22の流速を1.5,2.0(cm3/分)に変化させて、転換率を測定した。
【0059】
その結果、エントリー1の条件である、アルコール濃度0.1M,流速0.1cm3/時間、炭酸カリウム水溶液の濃度0.3M,流速0.03cm3/時間、酸素ガス22の流速1.5cm3/分では、原料であるアルコールは完全に消費され、対応するケトンのピークのみがガスクロマトグラフ分析によって確認された。
エントリー2で、基質6の濃度を5倍濃くした場合には、アルコールの転換率は82%に減少する。同条件で基質6の溶液の流速を0.06cm3/時間に落とした場合(エントリー3)にも、原料アルコールが若干量残存する結果となった。この場合、生産性としてはエントリー1の三倍になる。
【0060】
また、基質6の濃度を0.3Mとして種々の反応条件を検討した。基質6を、1,2−ジクロロエタン(エントリー4)からトリフルオロメチルベンゼン(エントリー5)又はテトラヒドロフラン(エントリー6)に替えると、転換率は86%,71%,71%と低下した。
これに対して、溶液7となる炭酸カリウム水溶液の流速を0.06cm3/時間と上げることによって、基質6に対する炭酸カリウム当量を30から60モル%に増加(エントリー7)させ、また酸素ガス22の流量を1.5から2.0cm3/分に増加(エントリー8)させてみたが、転換率は70%,67%と減少した。
【0061】
一方、溶液7となる炭酸カリウム水溶液の濃度を濃くすることによってエントリー9のように基質6に対する炭酸カリウム当量を30から60モル%に増加させた場合には、転換率は84%となり、エントリー4に対して大きな変化は見られなかった。これにより、塩基の当量は重要な因子ではないと考えられる。
【0062】
さらに、エントリー10のように、基質6の溶液の流速を0.1から0.067cm3/時間に下げた場合には、転換率が95%と向上した。従って、キャピラリー2内における滞在時間が反応性に大きな影響を与えることが明らかになった。
【0063】
以上のエントリー1から10における転換率の結果から、エントリー1の条件を標準条件として採用して、以下に図7を参照して種々の実施例について説明する。
図7は、標準条件及び実施例3〜9の酸素酸化反応の転換率及び収率を示す図である。なお、この標準条件では、基質6(濃度0.1M)を流速0.1cm3/時間で、酸素ガス22を1.5cm3/分の流速で、また、溶液7となる炭酸カリウム水溶液(濃度0.3M)及び1,2−ジクロロエタンを、それぞれマイクロリアクター1の金触媒固定化キャピラリー2内に供給する。この場合、図6の最上欄に示すように、基質6(酸化物質)として1−フェニルエタノールを温度60℃にて酸素酸化させたところ、生成物としてアセトフェノンが生成され、転換率は99%以上と、基質6がほぼ完全に酸化された。
【実施例3】
【0064】
実施例3では、基質6(被酸化物質)としてパラメトキシ−1−フェニルエタノールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、温度60℃にて酸化反応を行った。
これにより、生成物パラメトキシアセトフェノンが得られると共に、転換率は99%以上と、基質6であるパラメトキシ−1−フェニルエタノールがほぼ完全に酸化された。
【実施例4】
【0065】
実施例4では、基質6としてパラクロロ−1−フェニルエタノールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、また温度70℃にて酸化反応を行った。この場合、電子求引性基を有する基質6であることから、若干反応性が低下するので、70℃で酸化反応を行った。
これにより、生成物パラクロロアセトフェノンが得られると共に、転換率は99%以上と、基質6であるパラメトキシ−1−フェニルエタノールがほぼ完全に酸化された。
【実施例5】
【0066】
実施例5では、基質6として4−フェニル−3−ブテン−2−オールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、また温度70℃にて酸化反応を行った。
これにより、生成物4−フェニル−2−オキソ−3−ブテンが得られると共に、転換率は99%以上と、基質6である4−フェニル−3−ブテン−2−オールがほぼ完全に酸化された。
【実施例6】
【0067】
実施例6では、基質6として1−チオフェニル−1−エタノールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、また温度60℃にて酸化反応を行った。
これにより、生成物チオフェニルメチルケトンが得られると共に、転換率は99%以上と、基質6である1−チオフェニル−1−エタノールがほぼ完全に酸化された。
【実施例7】
【0068】
実施例7では、基質6として(4−メチルフェニル)−1−エタノールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、また温度70℃にて酸化反応を行った。
これにより、生成物4−メチルフェニルメチルケトンが得られると共に、転換率及び収率が99%以上と、基質6である(4−メチルフェニル)−1−エタノールがほぼ完全に酸化された。
【実施例8】
【0069】
実施例8では、基質6としてインダノールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、また温度60℃にて酸化反応を行った。
これにより、生成物インダノンが得られると共に、転換率及び収率が99%以上と、基質6であるインダノールがほぼ完全に酸化された。
【実施例9】
【0070】
実施例9では、基質6としてベンジルアルコールを使用し、基質6の濃度及び流速、溶液7となる炭酸カリウムの濃度及び流速、酸素ガス22の流速を標準条件と同じ条件で、また温度60℃にて酸化反応を行った。
これにより、生成物ベンズアルデヒドが得られると共に、転換率及び収率が99%以上であったが、収率が53%であり、実施例9の生成物を分析したところ、過剰反応が進行し、安息香酸や安息香酸ベンジルエステルが観測され、このような副生成物によりベンズアルデヒドの収率が低下することが分かった。
【0071】
以上の実施例2の標準条件及び実施例3,4によれば、芳香族二級アルコールについては、定量的に反応が進行し、対応するケトンが得られた。実施例5〜8によれば、アリルアルコール誘導体やヘテロ環含有化合物についても、副生物を伴うことなく、定量的に目的のケトンが得られることが明らかである。しかしながら、実施例9の1級アルコールであるベンジルアルコールの酸化反応では、収率が悪く副生物が生成し、目的のアルデヒドの収率が悪いことが判明した。
【実施例10】
【0072】
(金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒の調製1)
次に、金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を調製した。ポリシロキサン修飾型キャピラリー(ジーエルサイエンス株式会社製InaetCap225(登録商標)、外径0.25mm、膜厚さ0.25μm、長さ50cm)に水素化リチウムアルミニウムのエーテル溶液(1.0M溶液、Aldrich社製)を室温下シリンジポンプ9を用いてゆっくり通液(0.1cm3/時間、48時間)した後、水、0.5規定(N)水酸化ナトリウム水溶液、メタノール(各10cm3)を順次通液し反応の停止及び洗浄を行った。
30cm3フラスコ中に別途合成したコポリマー(400mg)のTHF(7.0cm3)溶液を調製し、室温下でクロロトリフェニルフォスフィン金(15.0mg)及び酢酸パラジウム(6.8mg)のTHF溶液(1.0cm3)を加え30分間撹拌後、水素化ホウ素ナトリウムのジグリム溶液(2wt%、0.25cm3)を加え、さらに3時間撹拌を行った。
この溶液2.0cm3を別のフラスコに移し、シクロヘキサン0.5cm3から1.0cm3程度を相分離が起きるまでゆっくり加え、触媒をシリンジで抜き取り、シリンジポンプ9を用いて、先に調製したキャピラリー2に50℃下で通液した(0.2cm3/時間、12.5時間)。ここで、相分離した触媒はゆっくりと凝集してくるので、上記相分離の操作は通液直前に毎回行った。
通液後、同様な操作を、さらに3回キャピラリーの反対側の口から行い、触媒をガラス壁面に充分担持させた後に、170℃で5時間焼成し、管本体の内壁3に被覆されたポリシロキサン被膜4へ金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を担持した。
ここで、THFは脱水操作を施したものを用いると担持操作が充分に行われないため、市販の特級THFをそのまま用いた。
【実施例11】
【0073】
(金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒の調製2)
実施例10の金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5をキャピラリーの内壁に担持するとき、最初に還元剤となる水素化ホウ素ナトリウムのジグリム溶液(2wt%、0.25cm3)を送液し、次にクロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)(15.0mg)及び酢酸パラジウム(6.8mg)のTHF溶液(1.0cm3)を送液した。これ以外の工程は、実施例10と同じ方法で行い、管本体の内壁3に被覆されたポリシロキサン被膜4へ金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を担持した。
【実施例12】
【0074】
実施例10の金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を担持したキャピラリー2を用いた以外は、実施例2と同様のマイクロリアクターによって酸素ガス22を用いた酸化反応を行った。基質6はベンジルアルコールの1,2−ジクロロエタン溶液(0.1M、流速0.10cm3/時間)を用い、溶液7として水(流速0.03cm3/時間)を使用した。酸素ガス22の流量(1.5cm3/分)はマスフローコントローラー26で制御した。金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5は50℃に加温した。キャピラリーの出力部2b部分において、生成物を含む反応溶液8をヘキサンを満たした容器でバブリングさせ、生成物を回収した。反応の進行状況は、一定時間回収した後で内部標準を添加し、ガスクロマトグラフィーで定量した。
図8は、実施例10及び11と後述する実施例13の高分子カルセランド担持型触媒5を用いたマイクロリアクターによってベンジルアルコールの酸素酸化反応の転換率及び収率を示す図である。
これにより、図8に示すように、実施例12では酸素酸化により生成物ベンズアルデヒドが得られると共に、転換率は99%以上で収率が92%であり、基質6であるベンジルアルコールがほぼ完全に酸化された。
【実施例13】
【0075】
実施例11の金及びパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を担持したキャピラリーを用いた以外は、実施例12と同様にベンジルアルコールの酸化を行った。これにより、図8に示すように、実施例13では酸素酸化により生成物であるベンズアルデヒドが得られると共に、転換率は99%以上で収率が88%であり、基質6であるベンジルアルコールがほぼ完全に酸化された。実施例12と比較すると、実施例13のベンズアルデヒドの収率は4%低い。実施例12で用いたキャピラリーは、実施例10で調整した。従って、実施例10のように、管本体の内壁3aに形成されたポリシロキサン被膜4へ高分子カルセランド担持型触媒5を担持させるとき、金属種を還元剤よりも先に加える方が、ベンズアルデヒドの収率が良いことが分かった。
【0076】
実施例9において、金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を用いてベンジルアルコールを酸化したが、過剰反応が進行し、安息香酸や安息香酸ベンジルエステルが観測され、ベンズアルデヒドの収率は53%であった。これに対して、塩基を加えずに、水相だけを用いた実施例12及び13のベンジルアルコールの酸化では収率が、それぞれ、92%、88%となり、何れの場合も実施例9よりも著しく収率を高くできることが判明した。
【実施例14】
【0077】
(金及び白金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒の調製)
実施例10の酢酸パラジウムの代わりにヘキサクロロ白金ナトリウム六水和物(17mg)と、水素化ホウ素ナトリウムのジグリム溶液(2wt%、0.375cm3)と、を用いる以外は実施例10と同様の手法によって、管本体の内壁3aに被覆されたポリシロキサン4へ金及び白金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を担持した。
【実施例15】
【0078】
実施例14の金及び白金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5を担持したキャピラリー2を使用して、実施例12と同様に、ベンジルアルコールの酸化を行った。
これにより、図8に示すように、実施例15では酸素酸化により生成物としてベンズアルデヒドが得られると共に、転換率は65%以下であった。実施例12の転換率は、実施例8の金を触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5及び実施例の金とパラジウムを触媒とした高分子カルセランド担持型触媒5の実施例の転換率である99%以上と比較すると低いが、ベンジルアルコールの酸化が行えることが分かった。
【0079】
以上の実施例によれば、助触媒や共酸化剤を使用せずにアルコールを高効率で酸化できると共に、繰返し使用しても金触媒が剥離しないようにした、金属触媒を担持したマイクロリアクター1内部への金触媒の固定化方法と、この方法により金属触媒を担持したマイクロリアクター1、そしてこのマイクロリアクター1による酸化反応方法が提供される。
【0080】
本発明によれば、多相系触媒反応において各相間の飛躍的な接触面積の向上が期待されるマイクロリアクター1を使用して、微小空間の特徴を活用したアルコール等の基質6の効率的な酸素酸化反応が可能である。その際、高分子カルセランド担持型触媒5の管本体の内壁3aへの固定化は、より高い疎水性を発現するポリシロキサン被膜4の表面を化学修飾により還元することによって実現した。
【0081】
触媒としては、室温下でのアルコール等の基質6の酸素酸化反応に高い活性を示すと共に、触媒の繰返し再使用が可能な高分子カルセランド型金触媒を選択し、本発明の金触媒固定化方法によりマイクロカプセル化して、より多くの金属触媒を管本体の内壁3aに固定化することができる。
【0082】
本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のマイクロリアクター1は、医薬品中間体などのファインケミカルの製造プロセスに組み込むことが可能であり、標的化合物の探索や絞り込みに用いることができる。例えば、上述した実施形態においては、基質6としてアルコールを使用した場合について説明したが、これに限ることなく、本発明により金触媒を固定化したマイクロリアクター1を使用して、アルコール誘導体やヘテロ環含有化合物等の酸素酸化反応を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施の形態に用いるキャピラリー及びマイクロリアクターの構成を模式的に示す図である。
【図2】図1のY−Y線に沿う断面図である。
【図3】マイクロチャンネルの一実施例の構成を模式的に示し、(a)は平面図、(b)はY−Y線断面図である。
【図4】本発明のマイクロリアクターの流路を通過する反応溶液及び酸素ガスの状態を示す断面図である。
【図5】マイクロリアクターのキャピラリーに担持する工程を模式的に示す図で、それぞれ、(a)は管本体の内壁3aの還元反応、(b)はマイクロカプセル化金触媒の生成反応、(c)は金触媒の固定化反応を示す図である。
【図6】実施例1において、基質、炭酸カリウム水溶液の濃度、流速及び酸素ガスの流量を変化させた場合の転換率を示す図である。
【図7】標準条件及び実施例3〜9の酸素酸化反応の転換率と収率を示す図である。
【図8】実施例10及び11と実施例13の高分子カルセランド担持型触媒を用いたマイクロリアクターによってベンジルアルコールの酸素酸化反応の転換率及び収率を示す図である。
【図9】従来の銀触媒によるプレノールの気相酸化反応を示す図である。
【図10】従来の固定化TPAPによるベンジルアルコールの酸素酸化反応を示す図である。
【図11】金担持キャピラリーを用いたグルコースの酸化反応を示す図である。
【図12】パラジウム触媒固定化キャピラリーの調製を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1:マイクロリアクター
2:キャピラリー
2a:入力部
2b:出力部
3:管本体
3a:内壁
3b:中空部(流路)
4:高分子被膜
5:高分子カルセランド担持型触媒
6:基質
7:溶液
8:反応溶液
9:流量調整部(送液ポンプ)
10:反応溶液供給部
11,12,14,24:配管
13,18:コネクタ
20:気体供給部
22:ガス(酸素ガス)
22a:ガスボンベ
23:ガスバルブ
26:ガス流量調整部(マスフローコントローラー)
30:回収部
32:マイクロチャンネル
32a:流路部
33,34:基板
3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管本体とこの管本体の内壁に被覆された高分子被膜とこの高分子被膜に担持される触媒と、を備え、
上記触媒は、金属触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒からなる、キャピラリー。
【請求項2】
前記管本体がガラスからなり、前記高分子被膜がポリシロキサンからなる、請求項1に記載のキャピラリー。
【請求項3】
前記金属触媒が、金、パラジウム、白金、ルテニウム、タングステン、コバルト、銅、鉄、ニッケル、マンガン、レニウム、クロム、モリブデン、銀、ロジウムの何れか一つ又はこれらの金属触媒の二つ以上を含む、請求項1に記載のキャピラリー。
【請求項4】
前記高分子カルセランド担持型触媒が、クロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒からなる、請求項1に記載のキャピラリー。
【請求項5】
管本体の内壁に高分子被膜を備えたキャピラリーへの触媒の固定化方法であって、
上記高分子被膜の表面を高分子カルセランド担持型触媒と結合する基で修飾する第1の工程と、
マイクロカプセル化した高分子カルセランド型触媒を調製する第2の工程と、
上記マイクロカプセル化した高分子カルセランド型触媒をキャピラリー内に送液して加熱架橋によりキャピラリー内壁に固定化する第3の工程と、
を含む、キャピラリーへの触媒固定化方法。
【請求項6】
前記高分子被膜がポリシロキサンであり、前記第1工程において、水素化リチウムアルミニウムのエーテル溶液を送液ポンプによりキャピラリー内に送液する、請求項5に記載のキャピラリーの触媒固定化方法。
【請求項7】
前記第2の工程において、エポキシ基と基質鎖を架橋部位として有するポリスチレン基盤のコポリマーと水素化ホウ素ナトリウムのTHF溶液に対してクロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒を添加した後、貧溶媒となるシクロヘキサンを滴下してマイクロカプセル化金触媒を調製する、請求項5又は6に記載のキャピラリーの触媒固定化方法。
【請求項8】
キャピラリーと、
上記キャピラリーへ液相となる基質を溶解した溶液を供給する反応溶液供給部と、
上記キャピラリーへ気相となる気体を供給する気体供給部と、
上記キャピラリーにおける反応生成物を回収する回収部と、を備え、
上記キャピラリーは管本体を有し、該管本体の内壁に被覆された高分子被膜とこの高分子被膜に固相となる金属触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒が担持され、
上記キャピラリーは一端が上記反応溶液供給部及び気体供給部へ接続され、他端が上記回収部へ接続され、
上記基質を溶解した溶液及び基質と反応する気体を、上記キャピラリーへ所定の流量で連続的に流す、マイクロリアクター。
【請求項9】
さらに制御部を有し、該制御部は、前記反応溶液供給部及び前記気体供給部を、前記キャピラリーの流路へ所定の流量で連続的に流すように制御する、請求項8に記載のマイクロリアクター。
【請求項10】
前記管本体がガラスからなり、前記高分子被膜はポリシロキサンからなり、前記高分子カルセランド担持型触媒が、金、パラジウム、白金、ルテニウム、タングステン、コバルト、銅、鉄、ニッケル、マンガン、レニウム、クロム、モリブデン、銀、ロジウムの何れか一つ又はこれらの金属触媒の二つ以上を含む、請求項8に記載のマイクロリアクター。
【請求項11】
マイクロリアクターを用いて固相−液相−気相の間で被酸化物質を反応させる方法であって、
キャピラリーの流路の内壁に高分子被膜を形成し、
金属触媒を内包した固相のカルセランド担持型触媒を上記高分子被膜に担持し、
上記キャピラリーの流路に液相となる被酸化物質を溶解した溶液及び気相となるガスを流し、
上記溶液と上記ガスとの反応を上記カルセランド担持型触媒によって促進させることを特徴とする、マイクロリアクターを用いた固相−液相−気相反応方法。
【請求項12】
前記気相が酸素ガスである、請求項11に記載のマイクロリアクターを用いた固相−液相−気相反応方法。
【請求項1】
管本体とこの管本体の内壁に被覆された高分子被膜とこの高分子被膜に担持される触媒と、を備え、
上記触媒は、金属触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒からなる、キャピラリー。
【請求項2】
前記管本体がガラスからなり、前記高分子被膜がポリシロキサンからなる、請求項1に記載のキャピラリー。
【請求項3】
前記金属触媒が、金、パラジウム、白金、ルテニウム、タングステン、コバルト、銅、鉄、ニッケル、マンガン、レニウム、クロム、モリブデン、銀、ロジウムの何れか一つ又はこれらの金属触媒の二つ以上を含む、請求項1に記載のキャピラリー。
【請求項4】
前記高分子カルセランド担持型触媒が、クロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒からなる、請求項1に記載のキャピラリー。
【請求項5】
管本体の内壁に高分子被膜を備えたキャピラリーへの触媒の固定化方法であって、
上記高分子被膜の表面を高分子カルセランド担持型触媒と結合する基で修飾する第1の工程と、
マイクロカプセル化した高分子カルセランド型触媒を調製する第2の工程と、
上記マイクロカプセル化した高分子カルセランド型触媒をキャピラリー内に送液して加熱架橋によりキャピラリー内壁に固定化する第3の工程と、
を含む、キャピラリーへの触媒固定化方法。
【請求項6】
前記高分子被膜がポリシロキサンであり、前記第1工程において、水素化リチウムアルミニウムのエーテル溶液を送液ポンプによりキャピラリー内に送液する、請求項5に記載のキャピラリーの触媒固定化方法。
【請求項7】
前記第2の工程において、エポキシ基と基質鎖を架橋部位として有するポリスチレン基盤のコポリマーと水素化ホウ素ナトリウムのTHF溶液に対してクロロ(トリフェニルホスフィン)金(I)触媒を添加した後、貧溶媒となるシクロヘキサンを滴下してマイクロカプセル化金触媒を調製する、請求項5又は6に記載のキャピラリーの触媒固定化方法。
【請求項8】
キャピラリーと、
上記キャピラリーへ液相となる基質を溶解した溶液を供給する反応溶液供給部と、
上記キャピラリーへ気相となる気体を供給する気体供給部と、
上記キャピラリーにおける反応生成物を回収する回収部と、を備え、
上記キャピラリーは管本体を有し、該管本体の内壁に被覆された高分子被膜とこの高分子被膜に固相となる金属触媒を内包した高分子カルセランド担持型触媒が担持され、
上記キャピラリーは一端が上記反応溶液供給部及び気体供給部へ接続され、他端が上記回収部へ接続され、
上記基質を溶解した溶液及び基質と反応する気体を、上記キャピラリーへ所定の流量で連続的に流す、マイクロリアクター。
【請求項9】
さらに制御部を有し、該制御部は、前記反応溶液供給部及び前記気体供給部を、前記キャピラリーの流路へ所定の流量で連続的に流すように制御する、請求項8に記載のマイクロリアクター。
【請求項10】
前記管本体がガラスからなり、前記高分子被膜はポリシロキサンからなり、前記高分子カルセランド担持型触媒が、金、パラジウム、白金、ルテニウム、タングステン、コバルト、銅、鉄、ニッケル、マンガン、レニウム、クロム、モリブデン、銀、ロジウムの何れか一つ又はこれらの金属触媒の二つ以上を含む、請求項8に記載のマイクロリアクター。
【請求項11】
マイクロリアクターを用いて固相−液相−気相の間で被酸化物質を反応させる方法であって、
キャピラリーの流路の内壁に高分子被膜を形成し、
金属触媒を内包した固相のカルセランド担持型触媒を上記高分子被膜に担持し、
上記キャピラリーの流路に液相となる被酸化物質を溶解した溶液及び気相となるガスを流し、
上記溶液と上記ガスとの反応を上記カルセランド担持型触媒によって促進させることを特徴とする、マイクロリアクターを用いた固相−液相−気相反応方法。
【請求項12】
前記気相が酸素ガスである、請求項11に記載のマイクロリアクターを用いた固相−液相−気相反応方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−214056(P2009−214056A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61923(P2008−61923)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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