説明

キャピラリー電気泳動法によるヘモグロビンの分析方法、キャピラリー電気泳動キット及び該方法における流れ阻害剤の使用

【課題】キャピラリー電気泳動法によりヘモグロビンを分離する方法、前記分離に使用されるバッファ組成物、並びにキャピラリー電気泳動法によりヘモグロビンを分析するためのキットの提供。
【解決手段】分析バッファーを含むキャピラリーに試料を流通させて、ヘモグロビンを含有する試料を分析するためのアルカリpHでの自由溶液キャピラリー電気泳動法であって、分析バッファーの溶液を含むキャピラリー管に試料を導入する少なくとも一の工程を具備する方法において、バッファーが双性イオン性タイプであり、それに少なくとも一の流れ阻害剤が併用されることを特徴とする方法に関する。 本発明は少なくとも一の双性イオン性バッファーとの併用でのEC流れ阻害剤の使用と、キャピラリー電気泳動法によりヘモグロビンを分析するキットにも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、キャピラリー電気泳動法によりヘモグロビンを分離する方法、上記分離に使用されるバッファー組成物、並びにキャピラリー電気泳動法によりヘモグロビンを分析するためのキットに関する。
【0002】
分析目的、特に診断目的で特に血液のような生物学的液体中のヘモグロビンA及びヘモグロビン変異体を分析し、よって電気泳動法によりヘモグロビン分離する場合、キャピラリー電気泳動(CE)技術を用いることが知られている。「ヘモグロビン」という用語は任意の正常な又は異常なヘモグロビンと該ヘモグロビンの変異体を意味する。キャピラリー電気泳動法の一つの利点は、分析する生物学的液体の必要量が非常に僅かで済むことである。更に、分離中に試料を加熱しすぎないで高電圧を使用することができるならば、その方法による分離は非常に迅速なものとできる。
【0003】
選択の技術はキャピラリー等電点電気泳動法(CIEF)による分析である。この方法は様々な形態のヘモグロビン(Hempe)について高分解能を達成できる。しかしながら、自動化することは困難で、電気浸透流を防止するために被覆キャピラリーを使用しなければならないので、連続して実施される分析には適合させることができない。
【0004】
「動的二重コーティング法(dynamic double coating)」として知られている更なる技術は、アナリス(Analis)から「アナリスHbA-CEキット」又は「CEofix HbA-CEキット」として販売されている市販キットを用いて実施することができる。この方法は、4.7のpHのポリカチオンを含む溶液を用いてのキャピラリーの最初のリンスの後に、8.7のpHで、ポリアニオンを含む分析バッファーを用いた第二のリンスを含む。この「二重コーティング」法では、キャピラリーの内壁上に存在する負電荷量は裸のキャピラリーの場合よりも多いので、電気浸透流は更に多い。しかしながら、この動的二重コーティング法では、HbA、HbC及びHbE画分を十分良好に分離することができず、HbC又はHbE変異体の存在下でのHbA画分の定量分析を不可能にする。更に、HbS及びHbD画分は同じ電気泳動位置を有しているので、酸性媒質中での補完的分析が試料中に存在する変異体の型を決定するのに必要である。最後に、二重コーティングは各試料分析間で再度作製しなければならないため、この方法は費用が嵩み大量生産試験に用いることが困難である。
【0005】
更に、自由溶液ヘモグロビン分離法が開示されているが、ECヘモグロビン分析を合理化することができる程、精度、分解能又は迅速性について期待される基準を満たしていない。Ishoka(1)(1992)は、50分のオーダー、つまりヘモグロビンの分析において現在予想される時間とは合わない移動時間で、pH9.98のホウ酸塩バッファー(100mM)を用いたヘモグロビンの分離を記載している。同様のpH及び濃度条件の同じタイプのバッファー(Jenkins)(3)、(4)及び(5)では、HbA、HbF及びHbS画分について達成できる分解能は不十分なものである。Sahin(2)はより酸性のpH条件を記載しているが、低濃度(20mM)のホウ酸塩又はバルビタール(50mM)をpH8.5で用いた場合のHbA、HbF、HbS及びHbA画分間の分解能については極めて印象的でない結果が得られ、pH8.0のトリスバッファー(1M)の場合もHbA、HbS及びHbA画分間の分解能については極めて印象的でない結果が得られている。更に、トリス/アルギニンの組み合わせ(Shihabi)(6)が用いられており、HbA/HbSの分離を可能にしたが、HbC/HbE及びHbA画分は分離されなかった。最後に、米国特許US-A-5202006及びUS-A-5439825は、バルビタール又はエチルバルビタールの使用を記載しているが、主要なヘモグロビン、つまりHbA、HbF、HbS及びHbC間は低分解能を生じるに過ぎない。
【0006】
しかして、二重コーティングを用いない単一工程の分析を可能にし、自動的にかつ連続して実施することができ、特にHbA、HbC、HbD、HbE、HbS、HbF及びHbA形態間の満足できる分解能を保証するヘモグロビン、特にヘモグロビンAを分析する方法に対する必要性が存在している。
【0007】
しかして、本出願人は、特に自由溶液ECにおいて、流れ阻害剤と併用して双性イオン性分析バッファーを使用して、上述の画分の大幅に改善された分離を一工程で達成することができ、よって補完的分離を避け、二重コーティングを行うことなく、その実施を簡略にすることができることを実証した。好ましくは、自由溶液電気泳動法が実施される(FSCE)。
【0008】
よって、本発明は、ヘモグロビンを含有した試料を、分析バッファーを含むキャピラリーに流通させて、キャピラリー電気泳動法によって生物学的試料中のヘモグロビンを分離する方法であって、少なくとも分析バッファーの溶液を含むキャピラリー管に試料を導入される少なくとも一の工程を具備し、バッファーが双性イオン性タイプであり、少なくとも一の流れ阻害剤が併用される方法に関する。上記工程には、一般に、ヘモグロビンの分離、様々な変異体の移動及び検出が続く。
【0009】
本発明において使用される双性イオン性バッファーは、少なくとも一のアミン官能基と少なくとも一の酸官能基と該酸官能基と反対の位置に少なくとも一のヒドロキシル官能基を含む、8と10の間のpHで緩衝する双性イオン性バッファーである。ここで使用する「酸性官能基」という用語はカルボン酸官能基又はスルホン酸官能基を意味する。上記双性イオン性バッファーは一又は二の分子から形成されうる:アミン官能基が酸官能基を持たない第一分子によって担持される場合、上記第一分子は酸基、特にカルボン酸又はスルホン酸官能基又はアミノ酸を担持する第二分子に会合させられる。挙げることができるアミノ酸の例はグリシンである。
【0010】
本発明によれば、流れ阻害剤は脂肪族又は環状ジアミン又はポリアミンタイプである。これらは、例えば、脂肪族ジアミン、脂肪族ポリアミン及び/又は環状ジアミン又はポリアミンから選択される。脂肪族ジアミン又はポリアミンが好ましい。挙げることができる脂肪族ジアミンの例は、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、N,N'-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、N,N,N',N'-テトラメチル-1,4-ブタンジアミン及びそれらの許容可能な誘導体及び塩である。挙げることができる脂肪族ポリアミンの例は、ジエチレントリアミン、スペルミン、テトラエチレンペンタミン及びそれらの許容可能な誘導体及び塩である。流れ阻害剤は混合物として使用することができる。
【0011】
挙げることができる許容可能な塩は塩酸塩等である。挙げることができる誘導体の例は、脂肪族鎖の一又は複数の炭素原子が一又は複数のアルキル基で置換され、及び/又は遊離アミンの水素の一が一又は複数のアルキル基で置換されている上記化合物の誘導体である。
分析バッファー溶液はまた他の添加剤、特に様々なヘモグロビンの分離を改善するための他の添加剤を含有しうる。
更に、本発明は、少なくとも一の双性イオン性バッファーとの併用で、自由溶液ECにおける、その電気泳動流れ阻害活性で知られている化合物の使用に関する。
【0012】
次の実施例から明らかになるように、本発明の組み合わせを用いるとヘモグロビンとヘモグロビン変異体の分解能を大きく改善することができる。よって、それは既知の方法を使用して実施される分析と比較して、変異体の定性的及び定量的分析の精度と正確さを改善することができる。それはまたHbC又はHbEの存在下でさえHbAを定量することを可能にする。
本発明の双性イオン性バッファー−流れ阻害剤の組み合わせは、HbA、HbC、HbD、HbE、HbS、HbF及び/又はHbAタイプの正常な又は変異体ヘモグロビンが存在する試料を分析して、それらを検出し、及び/又は定量する際に特に使用される。
【0013】
最後に、本発明は、双性イオン性タイプの少なくとも一の分析バッファー又は双性イオン性バッファーを含む少なくとも一の分析バッファーと少なくとも一の流れ阻害剤と、場合によってはpH調節剤を含む、ECによって生物学的試料中のヘモグロビンA及びヘモグロビン変異体を分析するためのキットに関する。よって、キットは、少なくとも一の分析バッファーと本発明にかかる流れ阻害剤と、キャピラリーのリンスのための一又は複数の溶液及び/又は希釈セグメント及び/又は一(又は複数)の分析試料希釈剤を含む。キットはまた少なくとも一の溶血化溶液を含みうる。上記キットにおいて、バッファーと阻害剤と希釈剤又は他の添加剤は即時混合のために分離して保存されるか、又は混合物として保存されうる。このキットはまた場合によっては分析を実施するための指示書及び/又はソフトウェア支援情報を含む。
【0014】
本発明の他の利点及び特徴は添付図面を参照しながら次の実施例の説明を読むと明らかになるであろう。
【0015】
キャピラリー電気泳動を実施するための条件は当該分野で既知である。それは通常リンス溶液でキャピラリーをリンス洗浄し、分析バッファー溶液でリンス洗浄し、場合によっては試料を一又は複数回希釈し、試料を注入し、移動し検出することを含む。上記工程は自動化機械を使用して実施することができる。
キャピラリー電気泳動を実施するための試料の条件は自動キャピラリー装置(SEBIA)を使用するのに適した条件である。
【0016】
挙げることができる双性イオン性バッファーの例は、数個のヒドロキシル基を有する「トリス(Tris)」タイプのバッファーであり、その特定の例は次のバッファーである:トリス(2-アミノ-2-[ヒドロキシメチル]-1,3-プロパンジオール)、トリシン(N-トリス[ヒドロキシメチル]メチルグリシン)、TAPS(N-トリス[ヒドロキシメチル]メチル-3-アミノプロパンスルホン酸)、TABS(N-トリス[ヒドロキシメチル]メチル-4-アミノブタンスルホン酸)、又はAMPD(2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール)又はビストリスプロパン(1,3-ビス[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン)で、最後の二つとトリスは場合によってはアミノ酸に結合している。
【0017】
少数のヒドロキシル基を有する他の分子もまた好適な場合があり、例えば、特にAMPSO(3-[(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシメチル)アミノ]-2-ヒドロキシ-プロパンスルホン酸)、ビシン(N,N-ビス[2-ヒドロキシメチル]グリシン)、HEPBS(N-[2-ヒドロキシエチル]ピペラジン-N'-[4-ブタンスルホン]酸)である。
上に挙げたものの好適な双性イオン性バッファーはトリシンである。
これらのバッファーは既知であり商業的に入手できる。これらはまた混合物として使用することもできる。
【0018】
上に挙げたものの中の好適な流れ阻害剤は1,4-ジアミノブタン(DAB)、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、ジエチレントリアミン(DETA)及びN,N,N',N'-テトラメチル-1,4-ブタンジアミンである。阻害剤もまた混合物として使用することもできる。
1,4-ジアミノブタン塩酸塩が好適にトリシンと組み合わせられる。
【0019】
「本発明の試料」という用語は分析する生物学的試料、つまり、健常な又は病気にかかった患者からの赤血球を含む任意の生物学的液体を意味する。ヒトの生物学的液体は、正常又は異常な、洗浄された血液、デカントされた血液、遠心された血液又は全血でありうる。更に、血液は溶血されうる。
ヒトの生物学的試料に加えて、動物由来の試料もまた分析することができる。試料はまた合成由来であり得、ついで本発明の方法は例えば生成をモニターすることを目的としうる。
試料は最初に例えば適当な希釈溶液、溶血化溶液又は分析バッファー溶液で希釈することができる。
【0020】
本発明の双性イオン性バッファー/流れ阻害剤の組み合わせを用いるEC方法はヒトの試料中の血液を分析しヘモグロビン及びその変異体を分離するのに特に使用される。
本発明によれば、分析バッファー溶液のpHは8〜11の範囲、好ましくは8〜10の範囲にある。
本発明の分析バッファー溶液は少なくとも一のpH調節剤を更に含有してもよい。使用することができるpH調節剤の例は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化フランシウム、又はアルキル部分が1〜8の炭素原子を含む水酸化モノ-、ジ-、トリ-又はテトラ-アルキルアンモニウムから選択される化合物である。
【0021】
本発明によれば、バッファーは、通常の条件及び濃度で、つまり20〜500mMのオーダー、好ましくは100〜250mMのオーダーで分析バッファー溶液に使用される。
流れ阻害剤は、約0.01〜50mMの範囲、好ましくは0.10〜20mMの範囲の濃度でバッファー溶液中に使用される。
更に、バッファー溶液はイオン強度を変更できる一又は複数の添加剤を含みうる。
挙げることができるそのような化合物の例は、塩、例えば硫酸塩、塩化物、及びその混合物である。
【0022】
溶血化溶液はヘモグロビンA及びヘモグロビン変異体を含む赤血球の溶血を実施することができる。それはまたEC分析前に試料を希釈するためにも使用される。その組成に応じて、僅かな付加的な機械的移動(ボルテックス、撹拌、...)を用いて赤血球の溶血を完全にすることができる。
溶血化溶液は上述の分析バッファー(双性イオン性バッファー)、通常の細胞溶解添加剤、例えばトリトンX100及び/又はサポニン及びある種の近いヘモグロビン間の分解能に正の効果を生じるための他の任意の添加剤を含む。挙げることができる一例はセビア(Sebia)の「イドラジェル(Hydragel)ヘモグロビン」溶血化溶液である。
溶血化溶液のpHは8〜11の範囲、好ましくは8〜10の範囲にある。
【0023】
本発明のバッファー溶液は分析バッファー組成物の場合に通常の方法で調製される。つまり許容可能な担体に希釈のために液体形態又は固形形態の成分を添加することにより調製される。担体は通常は水であり、これは蒸留又は脱塩されていてもよい。
キャピラリーに用いられる材料はキャピラリー電気泳動法に通常使用されるものである。溶融石英キャピラリーを用いることができる。その内径は5〜2000μmでありうる。好ましくは、200μm、好ましくは100μm未満の内径のキャピラリーが用いられる。好ましくは、未処理の内表面のキャピラリーが使用される。当業者であればキャピラリーの種類とそのサイズを分析の用件に適合させることができる。
【0024】
そのような裸のキャピラリーが本発明の利点を構成する。
ヘモグロビンは、洗浄され、デカントされ又は遠心された血液から得られた溶血血液について約200nmの波長で分析できる。しかし、血漿タンパク質との干渉を避けるために、それらは、洗浄され、デカントされ又は遠心された血液又は全血から得られた溶血血液を使用して、好ましくは約415nmの波長で分析される。
【実施例】
【0025】
材料と方法
A)キャピラリー電気泳動
臨床試料のキャピラリー電気泳動を、25ミクロンの内径の溶融石英キャピラリーを装備したEC装置で実施した。
検出は約415nmの最適化された条件下で実施した。
試料をキャピラリー装置(SEBIA)中に配し、水力学的注入によって自動的に注入した。約550V/cmの電場を印加することによって試料を8分以内で分離した。キャピラリーを各分析前に0.25Mの水酸化ナトリウムと次に分析バッファー溶液を用いてリンス洗浄した。
【0026】
分析バッファー:
使用した化学製品は分析用グレードの製品とした。
・200mMのトリシン−15mMの1,4-ジアミノブタン(A)バッファーを、約900mlの脱塩水に35.84gのトリシンを溶解させた後、2.32gの1,4-ジアミノブタン塩酸塩(DAB)を加えることにより調製した。約38.3mlの5MのNaOHを用いてpHを22℃で9.37に調節し、バッファー溶液の容積を脱塩水で1lに調節した。
・200mMのトリシン−15mMの1,5-ジアミノペンタン(B)バッファーを、約900mlの脱塩水に35.84gのトリシンを溶解させた後、2.62gの1,5-ジアミノペンタン塩酸塩(DAB)を加えることにより調製した。約38.4mlの5MのNaOHを用いてpHを22℃で9.40に調節し、バッファー溶液の容積を脱塩水で1lに調節した。
【0027】
・200mMのトリシン−8mMのジエチレントリアミン(C)バッファーを、約900mlの脱塩水に35.84gのトリシンを溶解させた後、2.06gのジエチレントリアミン(DETA)を加えることにより調製した。約32.4mlの5MのNaOHを用いてpHを22℃で9.40に調節し、バッファー溶液の容積を脱塩水で1lに調節した。
・200mMのトリシン−20mMのN,N,N',N'-テトラメチル-1,4-ブタンジアミン(D)バッファーを、約900mlの脱塩水に35.84gのトリシンを溶解させた後、1.15gのN,N,N',N'-テトラメチル-1,4-ブタンジアミンを加えることにより調製した。約34.7mlの5MのNaOHを用いてpHを22℃で9.19に調節し、バッファー溶液の容積を脱塩水で1lに調節した。
【0028】
B)臨床試料
ECに対して、デカント又は遠心したヒト血液を溶血化溶液で1/6に希釈した。これは、約900mlの脱塩水に1.00gのトリトンX100、2.50gのサポニン、3.63gのトリスを溶解させることによって調製した。pHは22.0℃で8.70に調節し、溶液の容積を脱塩水で1lに調節した。用いた化学製品は分析用グレードのものとした。
【0029】
実施例1〜5
トリシン/DAB.2HCl分析バッファー溶液を上述のようにして調製した。
上記方法を使用して、ヒト血液に対して電気泳動を実施した。
実施例1:主要ピークとしてHbAを、より小さい画分としてHbAを含む正常なヒト血液の分析(図1)。
実施例2:小さいHbA画分、増強HbF画分、強いHbS画分及び正常なHbA画分を示す疾患のあるヒト血液の分析(図1)。ヘテロ接合性HbSは鎌形赤血球サイトーシス(鎌状赤血球性貧血)由来であった(図2)。
実施例3:A/Cヘテロ接合性を提示する疾患のあるヒト血液の分析。HbC画分は、それから良好に分離するHbA画分の丁度前に分離する。この良好な分離はAの定量を保証し、β-サラセミアの症例に、つまり増強されたHbA画分に向けることができることを意味する(図3)。
実施例4:A/Eヘテロ接合性を提示するヒト血液の分析。HbE画分は、それから完全に分離するHbA画分の直ぐ後に分離する。よって、HbEの存在下でHbAを定量するのに問題はない(図4)。
実施例5:A/Sヘテロ接合性を提示する血液とA/Dロサンゼルス接合性を提示する血液の混合物の分析。HbS及びHbD画分は部分的に分離し、これは、それらが補完的分析を必要とすることなく互いに区別できることを意味している(図5)。
実施例6:β-サラセミアのヒト血液、つまり増強した割合のHbA画分と少ないHbF画分を有する血液の分析。
【0030】
4種の分析バッファー溶液A、B、C及びDを上記の様にして調製した。
電気泳動を上述の方法を使用して実施した。
図6aはバッファーA(トリシン/DAB.2HCl)での結果を示す。図6bはバッファーB(トリシン/1,5-ジアミノペンタン.2HCl)での結果を示す。図6cはバッファーC(トリシン/DETA)での結果を示す。図6dはバッファーD(トリシン/N,N,N',N'-テトラメチル-1,4-ブタンジアミン)での結果を示す。
これらの4図を比較すると、全ての場合で、画分の各々の分離は良好であり、少量のHbF及びHbA画分がよく焦点化されている。
【0031】
実施例7:鎌形赤血球(鎌状赤血球細胞)ヘテロ接合性(HbS/HbA)を提示するヒト血液の分析
4種の分析バッファー溶液(A:トリシン/DAB.2HCl;B:トリシン/1,5-ジアミノペンタン.2HCl;C:トリシン/DETA;D:トリシン/N,N,N',N'-テトラメチル-1,4-ブタンジアミン)を上の様にして調製した(図7)。
電気泳動を上述の方法を使用して実施した。
図の順序は上述のバッファーに対応する。ここでもまた、使用されるバッファーにかかわらず、匹敵する特性が観察された。
【0032】
文献
1. Noriaki Ishioka等, Biomedical Chromatography, vol 6, 224-226 (1992)。
2. Ahmet Sahin等, Journal of Chromatography A, 709 (1995) 121-125。
3. Margaret A Jenkins, Michael D Guerin, Journal of Chromatography B, 682 (1996), 23-24。
4. Margaret A Jenkins, Jean Hendy, Ian L Smith, J CAP ELEC. 004: 3 (1997), 137-143。
5. Margaret A Jenkins, Sujiva Ratnaike, Clinica Chimica Acta 289 (1999) 121-132。
6. Zak K Shihabi等, Electrophoresis, 21 (2000), 749-752。
7. James M Hempe, Randall D Craver, Electrophoresis, 21 (2000) 743-748。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析した正常なヒト血液(HbA、HbA)の電気泳動図を示す。
【図2】同じバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析した血液の電気泳動図を示す。血液は次の変異体を含む:図2=HbF及びHbS。
【図3】同じバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析した血液の電気泳動図を示す。血液は次の変異体を含む:図3=HbC。
【図4】同じバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析した血液の電気泳動図を示す。血液は次の変異体を含む:図4=HbE。
【図5】同じバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析した血液の電気泳動図を示す。血液は次の変異体を含む:図5=HbS及びHbD-Los Angels。
【図6A】異なった流れ阻害剤をベースとして異なったバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析したβ-サラセミア血液の電気泳動図を示す。
【図6B】異なった流れ阻害剤をベースとして異なったバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析したβ-サラセミア血液の電気泳動図を示す。
【図6C】異なった流れ阻害剤をベースとして異なったバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析したβ-サラセミア血液の電気泳動図を示す。
【図6D】異なった流れ阻害剤をベースとして異なったバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析したβ-サラセミア血液の電気泳動図を示す。
【図7A】異なった流れ阻害剤をベースとして異なったバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析したHbF及びHbSを含む血液の電気泳動図を示す。
【図7B】異なった流れ阻害剤をベースとして異なったバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析したHbF及びHbSを含む血液の電気泳動図を示す。
【図7C】異なった流れ阻害剤をベースとして異なったバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析したHbF及びHbSを含む血液の電気泳動図を示す。
【図7D】異なった流れ阻害剤をベースとして異なったバッファー溶液を使用してキャピラリー電気泳動によって分析したHbF及びHbSを含む血液の電気泳動図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモグロビンを含有した試料を、分析バッファーを含むキャピラリーに流通させて、キャピラリー電気泳動法によって生物学的試料中のヘモグロビンを分離する方法であって、少なくとも分析バッファーの溶液を含むキャピラリー管に試料を導入する少なくとも一の工程を具備する方法において、バッファーが双性イオン性タイプであり、少なくとも一の流れ阻害剤が併用されることを特徴とする方法。
【請求項2】
ヘモグロビンを移動によって分離し上記ヘモグロビンを検出することを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料が、正常又は異常な、洗浄された血液か、デカントされた血液か、遠心された血液か又は全血である血液試料であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
試料が、溶血された血液試料であることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
ヘモグロビンがヘモグロビンA及びC、D、E、S、F及び/又はAヘモグロビンであることを特徴とする請求項1ないし4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
双性イオン性バッファーが一又は二の分子から形成され、少なくとも一のアミン官能基と少なくとも一の酸官能基と該酸官能基と反対の位置に少なくとも一のヒドロキシル官能基を含むことを特徴とする、請求項1ないし5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
バッファーはトリシン、TAPS、TABS、AMPSO、ビシン又はHEPBS、又はアミノ酸とトリス、AMPD又はビストリスプロパンの組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項1ないし6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
バッファーがトリシンであることを特徴とする請求項1ないし7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
流れ阻害剤が脂肪族又は環状ジアミン又はポリアミンタイプであることを特徴とする、請求項1ないし8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
上記流れ阻害剤が、脂肪族ジアミン、脂肪族ポリアミン及びそれらの許容可能な誘導体及び塩、並びにそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1ないし9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
上記流れ阻害剤が、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、ジエチレントリアミン、スペルミン、N,N'-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、テトラエチレンペンタミン、N,N,N',N'-テトラメチル-1,4-ブタンジアミン及びそれらの許容可能な誘導体及び塩、並びにそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1ないし10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
上記流れ阻害剤が、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、ジエチレントリアミン及びN,N,N',N'-テトラメチル-1,4-ブタンジアミン及びそれらの許容可能な誘導体及び塩、並びにそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1ないし11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
流れ阻害剤が、1,4-ジアミノブタンであることを特徴とする請求項1ないし12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
流れ阻害剤が、塩酸塩形態の1,4-ジアミノブタンであることを特徴とする請求項1ないし13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
バッファー溶液中のバッファー濃度が20mMから500mMの範囲にあることを特徴とする請求項1ないし14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
バッファー溶液中のバッファー濃度が100mMから250mMの範囲にあることを特徴とする請求項1ないし15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
バッファー溶液中の流れ阻害剤濃度が0.01mMから50mMの範囲にあることを特徴とする請求項1ないし16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
バッファー溶液中の流れ阻害剤濃度が0.10mMから20mMの範囲にあることを特徴とする請求項1ないし17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
バッファー溶液がpH調節剤を更に含有することを特徴とする請求項1ないし18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
pH調節剤が、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化フランシウム、及びアルキル部分が1〜8の炭素原子を含む水酸化モノ-、ジ-、トリ-又はテトラ-アルキルアンモニウムから選択されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
キャピラリーが裸であることを特徴とする請求項1ないし20の何れか一項に記載の方法。
【請求項22】
キャピラリーが溶融石英から形成されていることを特徴とする請求項1ないし21の何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
分析バッファー溶液のpHが8〜10の範囲にあることを特徴とする請求項1ないし22の何れか一項に記載の方法。
【請求項24】
電気泳動法が自由溶液キャピラリー電気泳動タイプであることを特徴とする請求項1ないし23の何れか一項に記載の方法。
【請求項25】
バッファー溶液中の少なくとも一の双性イオン性バッファーとの併用で、ヘモグロビンのキャピラリー電気泳動法における、脂肪族及び環状ジアミン及びポリアミンから選択される流れ阻害剤の使用。
【請求項26】
流れ阻害剤が、脂肪族アミン、脂肪族ポリアミン及びそれらの許容可能な誘導体及び塩、並びにそれらの混合物から選択される請求項25に記載の使用。
【請求項27】
双性イオン性バッファーが約20〜500mMの濃度で存在し、阻害剤が約0.01〜50mMの濃度で存在する請求項25又は26に記載の使用。
【請求項28】
自由溶液キャピラリー電気泳動法における請求項25ないし27の何れか一項に記載の使用。
【請求項29】
双性イオン性タイプの少なくとも一の分析バッファー又は双性イオン性バッファーを含む少なくとも一の分析バッファーと少なくとも一の流れ阻害剤と、場合によってはpH調節剤を含むキャピラリー電気泳動ヘモグロビン分析キット。
【請求項30】
溶血化溶液を更に含むことを特徴とする請求項29に記載の分析キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【公開番号】特開2006−145537(P2006−145537A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−334504(P2005−334504)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(504419508)
【Fターム(参考)】